説明

濃度測定具および濃度測定方法

【課題】 水溶液中の測定対象成分の濃度を簡便かつ迅速に測定することができる測定具および測定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の測定具は、測定対象成分を含む水溶液が注入される容器10と、容器10内に収容され、振動を与えた場合に流動性を示し、その成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化する機能性ゲル材料と、その成分の濃度に対応する色が表された色調表12とを含む。本発明の方法は、上記機能性ゲル材料を収容した容器10に上記水溶液を注入し、容器10を振動させた後、容器10を静置して上澄み液相と容器10底に固化したゲル相とを形成させ、液相を除去した後、ゲル相の色と色調表12とを比較することで濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ゲル材料を用いて水溶液中の所定成分の濃度を目視により簡便に測定する測定具および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料水等に利用される上水には、銅イオン、鉄イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンが微量に含まれている。また、環境水(河川水)には、これらの金属イオンのほか、工場や家庭等における洗浄剤等の使用により、陰イオン界面活性剤や非イオン界面活性剤といった界面活性剤等も含まれている。これら金属イオンや界面活性剤等の濃度を測定するために、定量分析が行われている。定量分析として例えば、これら金属イオンを含む溶液を採取し、指示薬を滴下して反応の終点を確認することにより濃度を求めるキレート滴定や、これら金属イオンや界面活性剤等を含む溶液を採取し、これに所定波長の光を照射し、溶液を透過する光を検出して濃度を求める吸光分析等が採用されている。これらの方法では、試薬や高価な吸光分析装置を必要とし、また、滴定のために時間を要し、簡便かつ迅速に濃度を測定することができないといった問題があった。特に、水質基準値を満足するか否かを確認するのみの場合、簡便かつ迅速に測定することができる方法および装置の提供が望まれている。
【0003】
一般に、化学物質は、可視波長領域に吸収帯を持たない物質が多いため、目視することはできない。有害物質を簡単に視覚的に捕らえることができれば、知りたいときにその場で化学物質の存在を知ることができ、迅速な対応が可能となる。例えば、色によって化学物質の存在が識別できれば、特に知識がなくとも、その化学物質を簡単かつ迅速に確認することができる。
【0004】
発色の程度によって所定成分の濃度を測定する方法として、特定の割合で分散剤とキレートを形成する金属イオンと金属指示薬で滴定し、発色の差により残留分散剤の濃度を判断する方法、インヒビタ成分と化合する金属イオンの過剰量を添加し、その未反応の金属イオンの錯化合物を発色させて、その発色の程度によってインヒビタ濃度を測定する方法、メチレンビスチオネートを有効成分とする防カビ剤の希釈液中に前処理試薬を添加してメチレンビスチオネートを分解させ、ついで発色剤を添加し、分解により生成したチオシアンイオンを発色させ、得られた発色液と標準液とを対比する防カビ剤の濃度測定方法等が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
これらは、いずれも液の発色によって簡便に濃度を測定することができるが、金属イオンによる滴定や、前処理試薬を添加して分解させる工程が必要であり、手間がかかり、迅速に測定することはできない。発色した液を標準液と比較することにより濃度を測定する場合、標準液の作成が必要であり、液の蒸発によって時間とともに濃度が変化するため、高い精度で濃度を測定することはできない。また、これらの方法では、発色液の色により濃度を簡易測定し、さらに別の方法、例えば、吸光分析によりさらに高い精度で濃度を測定したい場合に、その簡易測定に使用した試料をそのまま吸光分析に使用することはできなかった。
【特許文献1】特開2001−153862号公報
【特許文献2】特開平8−94528号公報
【特許文献3】特開平6−230005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、簡便かつ迅速に所定成分の濃度を高い精度で測定することができ、また、別の方法による濃度測定を、その測定後の試料をそのまま使用して行うことを可能にする測定具および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討を加えてきたところ、振動を与えた場合に流動性を示してゾルとなり、静置すると固化してゲルとなる性質を有するチキソトロピーゲルを含み、測定対象成分と結合して色を呈する機能性ゲル材料が収容された容器に、測定対象成分を含む水溶液を注入し、容器を振動させて機能性ゲル材料をゾルにし、測定対象成分を機能性ゲル材料に結合させ、これにより、発色させ、次いで静置して固化させることによりゲル相と水相とを形成させ、水相を分離除去した後、ゲル相の色を、その測定対象成分の濃度に対応した色が表された色調表と比較することにより、簡便かつ迅速に濃度を測定することができ、また、そのゲル相が別の方法にそのまま使用できることを見出すことによりなされたものである。
【0008】
本発明の濃度測定具は、測定対象成分を含む水溶液が注入される容器と、その容器に収容されており、振動を与えた場合に流動性を示し、かつその測定対象成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化する機能性ゲル材料と、測定対象成分の濃度に対応する色が表された色調表とを含むものである。
【0009】
上記容器には、さらに、緩衝液が収容されていることが好ましい。これは、発色の良好なpHにするとともに、そのpHに維持するためである。
【0010】
上記機能性ゲル材料は、アミノ酸誘導体に、そのアミノ酸誘導体によってゲル化される有機溶媒を加えて調製されたものである。アミノ酸誘導体は、N−ラウロイル−−グルタミン酸−α,γ−ジブチルアミド(LGBA)が好ましく、有機溶媒は、LGBAによってゲル化され、水相を分離しやすくするために水より比重が大きい塩素系の有機溶媒が好ましく、環境基準値に制限のないo−ジクロロベンゼンがより好ましい。
【0011】
測定対象成分としては、非イオン界面活性剤を挙げることができ、この場合、機能性ゲル材料は、LGBAに、o−ジクロロベンゼン、緩衝液、陰イオン性色素であるテトラブロモフェノールフタレインエチルエステル溶液(TBPE)を加えて調製されたものとすることができる。
【0012】
また、測定対象成分は、陰イオン界面活性剤とすることもでき、この場合、機能性ゲル材料は、LGBAに、o−ジクロロベンゼン、緩衝液、メチレンブルー溶液(MB)を加えて調製されたものとすることができる。
【0013】
さらに、測定対象成分は、消毒剤とすることができ、この場合には、機能性ゲル材料は、LGBAに、o−ジクロロベンゼン、緩衝液、TBPEを加えて調製されたものとすることができる。
【0014】
また、測定対象成分は、銅イオン、鉄イオン、コバルトイオン、カドミウムイオン、水銀イオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンから選択される金属イオンとすることができ、これらの場合、機能性ゲル材料は、LGBAに、o−ジクロロベンゼン、緩衝液、キレート試薬、還元剤を加えて調製されるものとすることができる。
【0015】
上記色調表は、測定対象成分の水質基準値に対応する色を含むものとすることができる。これにより、水質基準値以上か以下かを簡便かつ迅速に確認することができる。
【0016】
本発明では、ゲル相の色で濃度を測定した後、そのゲル相をそのまま使用して、さらに吸光分析を行うことができ、さらに高い精度で濃度を測定することができる。この場合、本発明の濃度測定具は、所定波長の光を照射する光照射手段と、着色した機能性ゲル材料が収容される光路セルと、光路セルを透過する光を検出する検出手段と、検出した光から吸光度を算出する吸光度算出手段とを含む吸光分析装置をさらに含むことができる。
【0017】
また、水溶液中の測定対象成分の濃度を測定する方法も提供する。本発明の方法は、振動を与えた場合に流動性を示し、かつ測定対象成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化して液を分離可能にする機能性ゲル材料を収容した容器に、水溶液を注入する工程と、容器を振動させ、測定対象成分を機能性ゲル材料に結合させる工程と、容器を静置して、固化した機能性ゲル材料からなる第1の相と上澄み液からなる第2の相とを形成させ、第2の相を除去する工程と、第1の相の色と、測定対象成分の濃度に対応する色が表された色調表とを比較する工程とを含む。このように、マスキング剤等の他の添加剤を使用した複雑な操作が必要なく、発色および抽出のみであるため、形成された第1の相であるゲル相は、吸光分析等の別の測定方法にそのまま使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の濃度測定具および濃度測定方法を提供することにより、簡便かつ迅速に、高い精度で測定対象成分の濃度を測定することができる。また、ゲル相の色による濃度測定後、そのゲル相をそのまま使用して吸光分析等の別の分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の濃度測定具および濃度測定方法では、上記チキソトロピーゲルを含み、測定対象成分と結合して色を呈する機能性ゲル材料を使用する。チキソトロピーゲルは上述したように、振動を与えた場合に流動性を示してゾルとなり、静置した場合に固化してゲルとなる性質を有するものである。
【0020】
アミノ酸誘導体は、非極性溶媒を非常によくゲル化することが知られており、このアミノ酸誘導体として、例えば、LGBAを挙げることができる。LGBAは、有機溶媒中でゲル化する場合、分子鎖中のアミド基同士の水素結合を介して会合体を形成し、三次元の繊維状網目構造となって絡み合い、隙間なく絡み合った形で相互に運動を妨げ合ってゲル化する。また、振動させる等して運動エネルギーが加えられるとその会合体構造が崩壊し、分子鎖の自由度が増加して再び流動性を示す。したがって、チキソトロピーゲルは、このLGBA等のアミノ酸誘導体に、有機溶媒を加えて調製されたものとすることができる。
【0021】
有機溶媒は、アミノ酸誘導体によってゲル化され、水に溶解しないものであればいかなるものであってもよいが、測定対象成分を含む水溶液が注入され、水相とゲル相とが形成され、その水相を上澄み液として容易に分離できるように、疎水性を有し、水より比重が大きいものが好ましい。水より比重が大きい有機溶媒としては、塩素系の有機溶媒を挙げることができ、例えば、トリクロロエチレン、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン等を挙げることができる。トリクロロエチレンや四塩化炭素は、環境基準値により使用が制限されており、したがって、この制限のないo−ジクロロベンゼンが好ましい。
【0022】
機能性ゲル材料は、測定対象成分と結合して色を呈する。したがって、機能性ゲル材料は、測定対象成分に応じた発色剤を含む。例えば、測定対象成分が銅イオン、鉄イオン、コバルトイオン、カドミウムイオン、水銀イオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン等の金属イオンであれば、発色剤としてキレート試薬を含むことができる。キレート試薬は、金属イオンと配位結合して錯体を形成し、色を呈する。鉄イオンであれば、キレート試薬はバソフェナントロリンとすることができ、反応して着色したキレート錯体(Fe2+−バソフェナントロリン錯体)を形成する。これは、赤色を呈する。また、濃度が高くなるにつれてその赤色が濃くなっていく。なお、Fe3+は、バソフェナントロリンとの反応性が低く、他の金属イオンの妨害を受けやすくなるため、還元剤を添加し、還元してFe2+にすることが好ましい。また、銅イオンであれば、1−(2−チアゾリルアゾ)−2−ナフトール(TAN)やバソクプロインとすることができ、コバルトイオンであれば、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)とすることができる。銅イオンの場合には、その濃度が高くなるにつれて、無色から、薄黄色、橙色、赤橙色の順に変化する。一般に、金属イオンは赤色または橙色に発色するものが多い。
【0023】
金属イオンに限らず、陰イオン界面活性剤や非イオン界面活性剤、消毒剤の濃度を測定することもできる。陰イオン界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムを挙げることができ、具体的にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等を挙げることができる。非イオン界面活性剤(NIS)としては、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテルを挙げることができる。また、消毒剤としては、イミン系消毒剤としてグルコン酸クロルヘキシジン液を挙げることができる。これらの発色剤としては、陰イオン界面活性剤に対しては、メチレンブルー溶液(MB)を、非イオン界面活性剤および消毒剤に対しては、テトラブロモフェノールフタレインエチルエステル溶液(TBPE)を使用することができる。これら界面活性剤および消毒剤は、水素結合によって会合体を形成し、発色させる。ちなみに、メチレンブルー溶液によって陰イオン界面活性剤が結合された機能性ゲル材料は青色に発色し、その濃度が高くなるにつれて青色が濃くなる。また、TBPEによって消毒剤が結合された機能性ゲル材料も青色に発色し、その濃度が高くなるにつれて青色が濃くなる。非イオン界面活性剤が結合された機能性ゲル材料は緑色に発色し、その濃度が高くなるにつれて緑色が濃くなる。
【0024】
また、発色が良好なpHに調節し、そのpHに維持するため、緩衝液を添加することが好ましい。緩衝液としては、カルボン酸やホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩や、カルボン酸またはホウ酸と塩化ナトリウムまたは塩化カリウムまたは塩化アンモニウムとを含む溶液等とすることができる。カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等を挙げることができる。具体的には、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液、酢酸アンモニウム水溶液、四ホウ酸ナトリウム水溶液を挙げることができる。
【0025】
測定対象成分が金属イオンであり、鉄イオンや銅イオンのように、Fe3+やCu2+では反応性が低く、他の金属イオンの妨害を受けやすい場合には、還元してFe2+やCuにするべく還元剤を添加することが好ましい。還元剤としてはこれまで知られたいかなるものであってもよいが、塩化ヒドロキシアンモニウム、−アスコルビン酸、−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウムを挙げることができる。これら緩衝液および還元剤は、測定対象成分を含む水溶液に添加することもできるし、機能性ゲル材料とともに容器内に注入しておくこともできる。
【0026】
図1は、本発明の濃度測定具の第1の実施形態を示した図である。図1に示す濃度測定具は、測定対象成分を含む水溶液が注入される容器10と、容器10内に収容されており、振動を与えた場合に流動性を示し、かつその測定対象成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化して液を分離可能にする機能性ゲル材料と、発色した機能性ゲル材料の色と比較するために用いられる、測定対象成分の濃度に対応した色が表された色調表12とを含んで構成される。
【0027】
上述したように、機能性ゲル材料は、アミノ酸誘導体と、有機溶媒と、発色剤と、必要に応じて緩衝液および還元剤とを混合することにより調製され、フラスコや試験管、遠心管等の容器10に収容される。目視により色を確認するため、容器10は透明とされる。容器10は、ガラス製であることが好ましい。その他、透明なアクリル樹脂等の樹脂材料とすることもできる。なお、容器10の大きさ、形状等はいかなる大きさ、形状であってもよい。機能性ゲル材料が収容された容器10に、測定対象成分を含む水溶液が注入される。機能性ゲル材料は、振動等の運動エネルギーが加えられるまでは固化した状態(ゲル状態)である。容器10を振り、機能性ゲル材料に振動を加えると、流動性を示し、水溶液と混合し、水溶液中の測定対象成分と機能性ゲル材料中のキレート試薬、MB、TBPEと結合して、色を呈するようになる。なお、振動を加える際、またはその後、加熱してもよい。容器10を静置すると、測定対象成分が結合した機能性ゲル材料は固化してゲルとなり、水に比較して比重が大きいゲルは沈殿し、上側に水相を形成し、下側にゲル相11を形成する。このため、上側の水相を容易に除去することができ、ゲル相11のみを残留させることができる。残留したゲル相11は色を呈しており、色調表12と比較することで、濃度を測定することができる。
【0028】
色調表12は、測定対象成分が銅イオンであれば、色が無色から、薄黄色、橙色、赤橙色の順に変化するように示された色表示部13と、その色表示部13の上側(下側であってもよい。)に濃度を表す数値14を含んで構成されている。色表示部13の色と、ゲル相11の色とが一致する場合、その色表示部13の上側の数値14を読むことにより、濃度を測定することができる。このようにして、測定対象成分の濃度を簡便かつ迅速に測定することができる。
【0029】
本発明では、色調表12の色表示部13に表される色が、水質基準の濃度に対応して1色のみであってもよく、その色の強度によって、水質基準値を超えているか否かを確認することができる。このように、本発明の濃度測定具は、機能性ゲル材料を収容した容器10と色調表12とから構成されるため、現場において簡易に、かつ少量の試料で測定が可能である。また、分析試薬の量を低減し、ランニングコストを低減することができる。
【0030】
図2は、本発明の濃度測定具の第2の実施形態を示した図である。図2に示す濃度測定具は、目視により濃度を測定した後に、さらに、高い精度で濃度を測定するべく吸光分析装置20を備えている。容器、機能性ゲル材料、色調表については既に説明したので、ここでは、吸光分析装置20について説明する。吸光分析装置20は、所定波長の光を照射する照射手段21と、測定対象成分が結合した機能性ゲル材料が収容され、照射手段21からの光の通路を形成する光路セル22と、光路セル22を透過する光を検出する検出手段23と、検出手段23で検出された光量から、機能性ゲル材料に結合された測定対象成分によって吸収された光量を算出し、吸光度を求める吸光度算出手段24とを含んで構成される。
【0031】
照射手段21は、例えば、レーザ光を照射する半導体レーザとすることができる。半導体レーザは、小型化、軽量化が容易であり、色素レーザや固体レーザと異なり励起用光源が不要で、電流供給により容易に発振するという利点を有する。光路セル22は、内部に複数のミラーを含み、コンパクトにしつつ、光路長を確保することができる多重光路をもつセルとすることができる。
【0032】
検出手段23は、光路セル22を透過したレーザ光を受光し、例えば、電圧信号として検出する検出器とすることができる。この電圧信号は、アナログ信号であり、アナログ−デジタル変換器(A/D変換器)によりデジタル信号に変換して吸光度算出手段24に送ることができる。
【0033】
吸光度算出手段24は、プログラムが記録媒体を備えるコンピュータとすることができ、プログラムを実行して、上記デジタル信号を受け取り、電圧値から吸光度を算出することができる。
【0034】
吸光分析装置20としては、多検体の吸光度を測定することができるプレートリーダを使用することができる。この吸光度の測定の際、ゲル相は、o−ジクロロベンゼン等の有機溶媒を注入して溶解され、プレートリーダの多数の収容溝を備えるプレートの各収容溝内に注入される。各収容溝内に注入された溶液は、プレートリーダによって吸光度が測定される。吸光度と濃度との関係を示した検量線を用い、測定した吸光度から濃度を求めることができる。
【0035】
本発明の濃度測定方法について具体例をもって説明するとともに、NISの濃度を測定した結果を示す。図3に、チキソトロピーゲルを調製するフローを示す。ここではアミノ酸誘導体としてLGBAを用い、有機溶媒としてo−ジクロロベンゼンを用いる場合について説明する。なお、以下で使用する各数値は一つの実施例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
図1に示す容器10として遠沈管を用いる。遠沈管は、先端がテーパ状のガラス管で、蓋を備え、内部を封止できるものである。まず、ステップ300として、遠沈管に0.67mgのLGBAと、0.075mgのo−ジクロロベンゼンとを加える。ステップ310で、80℃で1〜2分間加熱する。ステップ320で、放冷し、純水5cmを加え、ステップ330で、遠沈管を1分間振り、混合する。ステップ340で、再び80℃で1〜2分間加熱し、ステップ350で、3000rpmで回転する遠心分離器に入れ、1分間遠心分離する。その後、ステップ360で、放冷し、上澄み液である水相を、ステップ370で除去する。再び純水5cmを加え、ステップ330〜ステップ370を繰り返すこともできる。これにより、チキソトロピーゲルが調製される(ステップ380)。
【0037】
次に、図4に、濃度を測定する方法のフロー図を示す。遠沈管内に調製されたチキソトロピーゲルに、ステップ400で4M(Mはmol/dmを表す。)の酢酸カリウム溶液1cmと、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテルであるNIS溶液5cmと、1mMのTBPE溶液0.33cmとを加え、ステップ410で遠沈管を振り、混合する。ステップ420で、80℃で1〜2分間加熱し、ステップ430で上記遠心分離器に入れて1分間遠心分離し、ステップ440で放冷し、その後、ステップ450で上澄み液である水相を除去する。遠沈管に残るゲル相は、発色しており、ステップ460で色調表を用いて目視にて濃度を測定する。なお、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテルは、直鎖状分子であるが、遠沈管を振り、加熱し、遠心分離することで、緩衝液中のカリウムイオンを包接し、チキソトロピーゲルと会合体を形成して発色する。
【0038】
本発明ではさらに高い精度の濃度測定を行うこともでき、ステップ470で遠沈管内のゲル相に、o−ジクロロベンゼン0.2cmを加えて溶解し、発色液を作成する。ステップ480でこの発色液をプレートの収容溝に注入し、ステップ490で、プレートリーダで波長614nmの光を照射し、吸光度を測定する。測定された吸光度は、検量線から濃度を求めるのに使用される。
【0039】
図5は、色調表を用い、目視にて得られたNISの濃度と、吸光分析装置で測定した吸光度との関係を示した図である。縦軸は、吸光度であり、横軸は、NISの濃度(μmol/dm)である。図5に示すように、NISの濃度と吸光度との関係は比例関係になり、目視による濃度測定でも比較的高い精度で測定することができることを見出すことができた。検出限界濃度は、吸光光度分析において0.2μMであり、0.2〜4μMの濃度範囲の測定が可能であった。ちなみに、目視によって測定した場合の測定濃度範囲は、0.04〜4μMにおいて可能であり、吸光光度分析に比較して広い範囲で測定することができた。
【0040】
図6は、河川水を用いて、本発明の方法により測定したNISの濃度と、その河川水に所定量のNISを添加して調製し、それを用いて吸光光度分析により測定されたNIS濃度との関係を示した図である。河川水は、相模川のものを使用し、前処理としてメンブレンフィルタ(メッシュサイズ20μm)でろ過し、オートクレーブにより121℃、200kPaで、20分間殺菌処理した。縦軸に本発明の方法により測定したNIS濃度(μM)を、横軸に吸光光度分析により測定したNIS濃度(μM)を示す。図6で表される関係は、次式で表すことができる。
【0041】
【数1】

【0042】
yは本発明の方法により測定したNIS濃度(μM)を示し、xは吸光光度分析により測定したNIS濃度(μM)を示す。式1より、傾きが1.04と1に近い値を示すので、これらの関係は高い相関を示し、高い精度で測定することができることを見出すことができた。また、河川水にはその他の成分も含まれているが、この高い相関により、河川水中の共存物質の影響を大きく受けることなく簡便かつ迅速にNISの測定を行うことができることも見出すことができた。
【0043】
これまでNISについて詳細に説明してきたが、本発明の濃度測定具および方法は、上述した金属イオン、陰イオン活性剤、消毒剤等にも適用することができ、その測定対象成分以外の成分を含んでいても影響を受けることなく、高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の濃度測定具の第1の実施形態を示した図。
【図2】本発明の濃度測定具の第2の実施形態を示した図。
【図3】チキソトロピーゲルを調製するフローを示した図。
【図4】NIS濃度を測定するフローを示した図。
【図5】吸光度とNIS濃度との関係を示した図。
【図6】本発明の方法により測定したNIS濃度と、吸光光度分析により測定したNIS濃度との関係を示した図。
【符号の説明】
【0045】
10…容器、11…ゲル相、12…色調表、13…色表示部、14…数値、20…吸光分析装置、21…照射手段、22…光路セル、23…検出手段、24…吸光度算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中の測定対象成分の濃度を測定するための濃度測定具であって、
前記水溶液が注入される容器と、
前記容器内に収容されており、振動を与えた場合に流動性を示し、かつ前記成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化する機能性ゲル材料と、
前記測定対象成分の濃度に対応する色が表された色調表とを含む、濃度測定具。
【請求項2】
前記容器には、さらに、緩衝液が収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の濃度測定具。
【請求項3】
前記機能性ゲル材料は、アミノ酸誘導体に、前記アミノ酸誘導体によってゲル化される有機溶媒を加えて調製されたものである、請求項1または2に記載の濃度測定具。
【請求項4】
前記アミノ酸誘導体は、N−ラウロイル−−グルタミン酸−α,γ−ジブチルアミド(LGBA)であり、前記有機溶媒は、o−ジクロロベンゼンである、請求項3に記載の濃度測定具。
【請求項5】
前記測定対象成分は、非イオン界面活性剤であり、前記機能性ゲル材料は、前記LGBAに、前記o−ジクロロベンゼン、前記緩衝液、テトラブロモフェノールフタレインエチルエステル溶液(TBPE)を加えて調製されたものである、請求項4に記載の濃度測定具。
【請求項6】
前記測定対象成分は、陰イオン界面活性剤であり、前記機能性ゲル材料は、前記LGBAに、前記o−ジクロロベンゼン、前記緩衝液、メチレンブルー溶液(MB)を加えて調製されたものである、請求項4に記載の濃度測定具。
【請求項7】
前記測定対象成分は、消毒剤であり、前記機能性ゲル材料は、前記LGBAに、前記o−ジクロロベンゼン、前記緩衝液、テトラブロモフェノールフタレインエチルエステル溶液(TBPE)を加えて調製されたものである、請求項4に記載の濃度測定具。
【請求項8】
前記測定対象成分は、銅イオン、鉄イオン、コバルトイオン、カドミウムイオン、水銀イオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンから選択される金属イオンであり、前記機能性ゲル材料は、前記LGBAに、前記o−ジクロロベンゼン、前記緩衝液、キレート試薬、還元剤を加えて調製されるものである、請求項4に記載の濃度測定具。
【請求項9】
前記色調表は、前記測定対象成分の水質基準値に対応する色を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の濃度測定具。
【請求項10】
所定波長の光を照射する光照射手段と、着色した前記機能性ゲル材料が収容される光路セルと、前記光路セルを透過する光を検出する検出手段と、検出した前記光から吸光度を算出する吸光度算出手段とを含む吸光分析装置をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の濃度測定具。
【請求項11】
水溶液中の測定対象成分の濃度を測定する方法であって、
振動を与えた場合に流動性を示し、かつ前記成分と結合して色を呈し、静置した場合に固化する機能性ゲル材料を収容した容器に、前記水溶液を注入する工程と、
前記容器を振動させ、前記成分を前記機能性ゲル材料に結合させる工程と、
前記容器を静置して、固化した前記機能性ゲル材料からなる第1の相と上澄み液からなる第2の相とを形成させ、前記第2の相を除去する工程と、
前記第1の相の色と、前記成分の濃度に対応する色が表された色調表とを比較する工程とを含む、濃度測定方法。
【請求項12】
前記水溶液に緩衝液を添加する工程をさらに含む、請求項11に記載の濃度測定方法。
【請求項13】
前記水溶液に、緩衝液と、還元剤とを添加する工程をさらに含む、請求項11に記載の濃度測定方法。
【請求項14】
前記機能性ゲル材料は、アミノ酸誘導体に、前記アミノ酸誘導体によってゲル化される有機溶媒を添加し、加熱した後、放冷する工程を含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の濃度測定方法。
【請求項15】
前記第1の相を加熱する工程と、加熱した前記第1の相を光路セル内に収容し、前記光路セルに向けて光を照射する工程と、前記光路セルを透過する光を検出し、検出した前記光から吸光度を算出する工程とをさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の濃度測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−108065(P2007−108065A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300364(P2005−300364)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】