説明

濃縮グリセリンの製造方法

【課題】少ないエネルギーでグリセリン水溶液の脱水濃縮を行う。
【解決手段】グリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法は、粘度が25mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮する霧化脱水濃縮工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンの製法の一つとして、油脂をエステル交換、加水分解又はケン化する工程を経る製法が知られている。この方法によって得られるグリセリンは水溶液として得られる為、一般的には水を除去して濃縮が行われる。
【0003】
上記濃縮は、通常、蒸留操作(例えば、特許文献1)やフラッシュ操作(例えば、特許文献2)によって行われる。これらの方法は、一般的に120℃程度の高温条件と40kPa以下の減圧条件との下で行われる。これは、グリセリンを効率的に濃縮することと、品質劣化を抑制することとの双方の観点から用いられる操作条件である。
【0004】
しかし、品質劣化を抑制する観点では、より低い温度での濃縮操作が好ましいことは言うまでもない。また、効率的な濃縮という観点でも、より低い温度やより常圧に近い圧力での濃縮操作が望まれる。
【0005】
ところで、近年、超音波を用いたエタノール等のアルコールの濃縮方法が知られている(例えば、特許文献3、特許文献4)。この方法は、アルコール水溶液を超音波振動させることにより霧化したアルコールを回収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−135735号公報
【特許文献2】特開2001−213827号公報
【特許文献3】特開平7−185203号公報
【特許文献4】特開平8−24501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、少ないエネルギーでグリセリン水溶液の脱水濃縮を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、グリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法であって、粘度が25mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮する霧化脱水濃縮工程を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粘度が25mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより、少ないエネルギーでその脱水濃縮を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る濃縮グリセリンの製造システムを示すブロック図である。
【図2】濃縮グリセリンの製造システムの変形例を示すブロック図である。
【図3】実施例1で用いた濃縮グリセリンの製造システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(濃縮グリセリンの製造方法)
本実施形態に係る濃縮グリセリンの製造方法は、粘度が25mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮する霧化脱水濃縮工程を有する。また、本実施形態に係る濃縮グリセリンの製造方法は、エネルギー効率の観点から、霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン水溶液を加熱することにより水を蒸発させてさらに脱水濃縮する加熱脱水濃縮工程を有してもよい。
【0013】
本実施形態に係る製造方法で製造する濃縮グリセリンのグリセリン濃度は、産業上の利用の観点から好ましくは80〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%、更に好ましくは98〜100質量%である。
【0014】
特許文献3及び4には、アルコール水溶液を超音波振動させて霧化したアルコールを回収することにより濃縮アルコールを得る方法が開示されている。ところが、グリセリン水溶液を超音波振動させても、グリセリンは霧化せず、従って、同様の濃縮方法を採用することはできない。しかしながら、上記の本実施形態に係る濃縮グリセリンの製造方法によれば、超音波振動させて低エネルギーで水を霧化させてグリセリン水溶液を脱水濃縮した後、粘度が高まって超音波振動による脱水濃縮効率が低下した段階では、加熱して水を蒸発させてグリセリン水溶液をさらに脱水濃縮することにより、全体として少ないエネルギーでグリセリン水溶液の脱水濃縮を行うことができる。
【0015】
[霧化脱水濃縮工程]
<原料グリセリン水溶液>
霧化脱水濃縮工程で用いる原料のグリセリン水溶液のグリセリン濃度は、超音波振動による水の霧化ができれば特に限定されないが、霧化効率やエネルギー消費の観点から好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜60質量%である。なお、原料のグリセリン水溶液には、グリセリン及び水以外に、メタノールやプロパンジオール等、超音波振動又は加熱によって除去される成分、或いは、超音波振動又は加熱によって除去されずに残留する成分が含まれていてもよい。
【0016】
<超音波振動による脱水濃縮>
霧化脱水濃縮工程において、グリセリン水溶液を超音波振動させると、液面からグリセリン水溶液の液柱が立ち、その液柱から水が霧化し、その結果、グリセリン水溶液が脱水濃縮される。
【0017】
このとき、グリセリン水溶液に付与する超音波振動の振動数は好ましくは20kHz〜10MHz、より好ましくは1〜5MHzである。なお、グリセリン水溶液への超音波振動の付与は、グリセリン水溶液中に設けた超音波振動子により行うことができる。
【0018】
超音波振動付与時のグリセリン水溶液の温度は、グリセリン水溶液が液体の状態であれば特に制限されるものではないが、超音波振動の付与による霧化効率及びエネルギー消費軽減の観点から好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上である。一方、その温度は、加圧や温調などの設備負荷を低減する観点から好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。より具体的には、その温度は、好ましくは10〜100℃、より好ましくは30〜90℃、更に好ましくは50〜80℃、更に好ましくは60〜80℃である。
【0019】
超音波振動によりグリセリン水溶液から霧化した水はキャリアガスと共に排出する。キャリアガスとしては、特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素ガス、その他の不活性ガス等が用いられる。キャリアガスの温度は超音波振動を付与されているグリセリン水溶液の温度と極端な差がなければ特に制限されないが、常温又はグリセリン水溶液と同じ温度であることが好ましい。
【0020】
超音波振動付与時のグリセリン水溶液には、原料のグリセリン水溶液を投入してもよく、また、メタノールやプロパンジオール等、超音波振動又は加熱によって除去される成分、或いは、超音波振動又は加熱によって除去されずに残留する成分を投入してもよい。
【0021】
超音波振動による脱水濃縮を行うときのグリセリン水溶液の粘度は、低エネルギーで高い脱水濃縮効率を得る観点から25mPa・s以下で行う。このときのグリセリン水溶液の粘度は好ましくは20mPa・s以下である。この粘度は、単一円筒形回転粘度計により測定することができる(JIS Z 8803に基づく)。また、粘度の測定が困難であり、且つグリセリン水溶液中のグリセリン濃度が測定又は算出が可能であれば、例えば「化学便覧基礎編II 改訂3版、社団法人 日本化学会編、p.53」(1984年発行)等に記載のデータを元に算出することもできる。
【0022】
つまり、グリセリン水溶液の粘度が所定の設定値を越えた段階で超音波振動による脱水濃縮を終了することが好ましい。そのときのグリセリン水溶液の粘度は好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下である。従って、実際の操業にあたって、超音波振動による脱水濃縮の後、加熱によるさらなる脱水濃縮を行う場合、グリセリン水溶液をサンプリングして粘度を測定したり、或いは、装置に組み込まれた粘度検出センサによってグリセリン水溶液の粘度を計測することにより、グリセリン水溶液を超音波振動させることによる脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が霧化効率の観点から、好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下で終了し、その後、次の加熱によるさらなる脱水濃縮の工程に切り替えることが好ましい。一方、操作温度にもよるがエネルギー消費軽減の観点から、3mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上、更に好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは15mPa・s以上で終了し、その後、次の加熱によるさらなる脱水濃縮の工程に切り替えることが好ましい。より具体的には、超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が好ましくは3〜25mPa・sの間、より好ましくは5〜20mPa・sの間、更に好ましくは10〜20mPa・sの間、更に好ましくは15〜20mPa・sの間に終了することが好ましい。なお、霧化脱水の効率の観点から、霧化脱水濃縮の後に加熱脱水濃縮を行う場合に限らず、その他の場合でも、グリセリン水溶液の粘度が上記粘度範囲である段階で超音波振動による脱水濃縮を終了することが好ましい。
【0023】
この霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン又はグリセリン水溶液のグリセリン濃度は、原料のグリセリン水溶液濃度より高ければ特に限定されないが、エネルギー消費の観点から好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0024】
[加熱脱水濃縮工程]
加熱脱水濃縮工程において、霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン水溶液を加熱すると、グリセリン水溶液の温度が上昇して水が蒸発し、その結果、グリセリン水溶液がさらに脱水濃縮される。なお、この加熱脱水濃縮工程は、霧化脱水濃縮工程に引き続いて連続式で実施してもよく、また、霧化脱水濃縮工程で脱水濃縮したグリセリン水溶液を一旦回収し、その後に回分式で実施してもよい。
【0025】
ここで、加熱時のグリセリン水溶液の温度は好ましくは70〜180℃、得られるグリセリンの匂い・色相の劣化を抑える観点からより好ましくは70〜140℃である。なお、グリセリン水溶液の加熱手段は、特に限定されるものではなく、例えば電気ヒータ等である。
【0026】
霧化による脱水濃縮と加熱による脱水濃縮を組み合わせることによって得られる濃縮グリセリンは、従来法の加熱による脱水濃縮と比較して小さなエネルギーで濃度100質量%の濃縮グリセリンを得ることができる。
【0027】
製造された濃縮グリセリンは、各種工業材料として使用することができる。
【0028】
(濃縮グリセリンの製造システム)
図1は、本実施形態に係る濃縮グリセリンの製造方法において使用することができる濃縮グリセリンの製造システムSを示す。
【0029】
この濃縮グリセリンの製造システムSは、上記霧化脱水濃縮工程を行うための超音波霧化装置10と上記加熱脱水濃縮工程を行うための残留水蒸発装置20とを備えている。
【0030】
超音波霧化装置10は、槽内に超音波振動子12が設けられた超音波霧化槽11を有する。超音波霧化槽11は、温調機能を付帯していることが好ましい。また、槽内に粘度センサ13aが配置されるように粘度測定器13が付設されている。超音波振動子12としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられる。
【0031】
残留水蒸発装置20は、内部に加熱手段が設けられている。加熱手段としては、例えば、電気ヒータ等が挙げられる。
【0032】
濃縮グリセリンの製造システムSは、攪拌機31aを有する原料貯槽31から原料供給管41が延びて超音波霧化装置10の超音波霧化槽11に接続されている。原料供給管41には送液ポンプ32が介設されている。また、超音波霧化槽11には、図示しないガス供給源から延びるキャリアガス供給管42が接続されている。一方、超音波霧化槽11からは第1水排出管43が延びている。また、超音波霧化槽11からは濃縮水溶液排出管44が延びて三方弁33のAポート33aに接続されている。
【0033】
三方弁33のBポート33bからは戻り配管45が延びて原料貯槽31に接続されている。また、三方弁33のCポート33cからは濃縮水溶液供給管46が延びて残留水蒸発装置20に接続されている。さらに、三方弁33からは配線51が延びて粘度測定器13に接続されている。
【0034】
残留水蒸発装置20からは第2水排出管47及び製品回収管48がそれぞれ延びている。
【0035】
濃縮グリセリンの製造システムSは、超音波霧化装置10の超音波振動子12及び粘度測定器13、残留水蒸発装置20の加熱手段、送液ポンプ32、ガス供給源、並びに三方弁33のそれぞれから配線が延びて図示しない制御部に接続されており、そして、その制御部の制御によって、粘度測定器13の粘度センサ13aが検知するグリセリン水溶液の粘度が所定の設定値以下(例えば3〜25mPa・sの範囲の何れかに設定される値以下)のときには三方弁33のAポート33aとBポート33bとを連通させ、粘度センサ13aが検知するグリセリン水溶液の粘度が所定の設定値を越えたときには三方弁33のAポート33aとCポート33cとを連通させるように構成されている。
【0036】
この濃縮グリセリンの製造システムSを用いた濃縮グリセリンの製造方法では、原料貯槽31に原料のグリセリン水溶液を仕込むと共に各部を稼働させると、グリセリン水溶液が原料貯槽31から送液ポンプによって原料供給管41を介して超音波霧化装置10の超音波霧化槽11に連続的に供給される。また、キャリアガスがガス供給源からキャリアガス供給管42を介して超音波霧化槽11に連続的に供給される。キャリアガスとして、例えば、空気、窒素ガス、その他の不活性ガス等が用いられる。
【0037】
超音波霧化槽11では、グリセリン水溶液に超音波振動子12によって超音波振動が付与される。このとき、グリセリン水溶液の液面からグリセリン水溶液の液柱が立ち、その液柱から水が霧化し、その結果、槽内のグリセリン水溶液は脱水濃縮され、また、霧化した水はキャリアガスと共に第1水排出管43から排出される。
【0038】
超音波霧化槽11では、グリセリン水溶液の粘度がグリセリン水溶液中に配置された粘度測定器13の粘度センサ13aによって検知される。
【0039】
粘度測定器13が検知したグリセリン水溶液の粘度が所定の設定値以下のときには、制御部によって三方弁33のAポート33aとBポート33bとが連通される。従って、超音波霧化槽11から濃縮水溶液排出管44を介して排出される脱水濃縮されたグリセリン水溶液は、戻り配管45を介して原料貯槽31に戻される。つまり、グリセリン水溶液は、原料貯槽31、原料供給管41、超音波霧化槽11、濃縮水溶液排出管44、三方弁33、及び戻り配管45を順に経由して原料貯槽31に戻る循環流路を循環する。循環流路を循環するグリセリン水溶液は、時間の経過に伴って脱水濃縮が進行すると共に粘度が上昇する。
【0040】
そして、粘度測定器13が検知したグリセリン水溶液の粘度が所定の設定値を越えたときには、制御部によって三方弁33のAポート33aとCポート33cとが連通される。従って、超音波霧化槽11から濃縮水溶液排出管44を介して排出される脱水濃縮されたグリセリン水溶液は、必要に応じて、濃縮水溶液供給管46を介して残留水蒸発装置20に供給される。
【0041】
残留水蒸発装置20では、超音波霧化装置10で脱水濃縮されたグリセリン水溶液は加熱される。このとき、グリセリン水溶液は、水が蒸発してさらに脱水濃縮される。また、例えば、図2に示すように、複数台の超音波霧化装置10を連結管49で直列に連結した濃縮グリセリンの製造システムSを構成すれば、さらに効率良く濃縮グリセリンを製造することもできる。
【0042】
また、上記濃縮グリセリンの製造システムSでは、超音波霧化槽11に粘度測定器13を付設した構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、超音波霧化槽11に濃度測定器を付設し、濃度測定器が検知するグリセリン水溶液の濃度が所定の設定値以下のときには三方弁33のAポート33aとBポート33bとを連通させ、濃度測定器が検知するグリセリン水溶液の濃度が所定の設定値を越えたときには三方弁33のAポート33aとCポート33cとを連通させる構成であってもよい。
【0043】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0044】
<1>
グリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法であって、粘度が25mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮する霧化脱水濃縮工程を有する濃縮グリセリンの製造方法。
【0045】
<2>
製造する濃縮グリセリンのグリセリン濃度が好ましくは80〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%、更に好ましくは100質量%である上記<1>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0046】
<3>
上記霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン水溶液を加熱することにより水を蒸発させてさらに脱水濃縮する加熱脱水濃縮工程を有する上記<1>又は<2>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0047】
<4>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下で終了する上記<1>〜<3>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0048】
<5>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上、更に好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは15mPa・s以上で終了する上記<1>〜<4>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0049】
<6>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が好ましくは3〜25mPa・sの間、より好ましくは5〜20mPa・sの間、更に好ましくは10〜20mPa・sの間、更に好ましくは15〜20mPa・sの間に終了する上記<4>又は<5>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0050】
<7>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与時のグリセリン水溶液の温度が好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上である上記<1>〜<6>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0051】
<8>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与時のグリセリン水溶液の温度が好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である上記<1>〜<7>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0052】
<9>
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与時のグリセリン水溶液の温度が好ましくは10〜100℃、より好ましくは30〜90℃、更に好ましくは50〜80℃、更に好ましくは60〜80℃である上記<7>又は<8>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0053】
<10>
上記霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン又はグリセリン水溶液のグリセリン濃度が60質量%以上、より好ましくは80質量%、更に好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である上記<1>〜<9>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0054】
<11>
上記霧化脱水濃縮工程で用いる原料のグリセリン水溶液のグリセリン濃度が0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜60質量%である上記<1>〜<10>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0055】
<12>
上記霧化脱水濃縮工程において、グリセリン水溶液に付与する超音波振動の振動数が好ましくは20kHz〜10MHz、より好ましくは1〜5MHzである上記<1>〜<11>の何れかに記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0056】
<13>
上記加熱脱水濃縮工程において、加熱時のグリセリン水溶液の温度が70〜180℃、より好ましくは70〜140℃である上記<3>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【0057】
<14>
上記霧化脱水濃縮工程を行うための超音波霧化装置と上記加熱脱水濃縮工程を行うための残留水蒸発装置とを備えた濃縮グリセリン製造システムを使用する上記<3>又は<13>に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【実施例】
【0058】
以下の実施例1、2及び3並びに比較例1それぞれの方法でグリセリン水溶液の脱水濃縮を行った。霧化及び蒸発に必要なエネルギー及びそれらを合わせたエネルギーの結果を表1に示す。
【0059】
また、実施例1、2及び3並びに比較例1について、超音波振動付与前、超音波振動付与後及び加熱蒸発後それぞれのグリセリン水溶液のグリセリン濃度を表2に示す。
【0060】
また、実施例1及び2について、それぞれ経時でグリセリン水溶液のサンプリングを行い、そして、各時点の粘度と霧化エネルギーとの関係を求めた。その結果を表3に示す。
【0061】
ここで、(1)グリセリン水溶液の粘度は、「化学便覧基礎編II 改訂3版、社団法人 日本化学会編、p.53」(1984年発行)の表6・39に記載の50℃及び70℃の温度におけるグリセリン水溶液の粘性率の数値に基づき、各濃度での粘度を算出した。具体的には、例えば、51.3質量%グリセリン水溶液の50℃における粘度は、化学便覧より50℃における50質量%グリセリン水溶液の粘性率が2.37mPa・s及び60質量%グリセリン水溶液の粘性率が3.76mPa・sであることに基づき、グリセリン濃度と粘性率が1次の関係を有すると仮定し、
51.3質量%グリセリン水溶液の粘度(50℃時)[mPa・s]
=50質量%グリセリン水溶液の粘度(50℃時)+(60質量%グリセリン水溶液の粘度(50℃時)―50質量%グリセリン水溶液の粘度(50℃時))×(51.3質量%−50質量%)/(60質量%−50質量%)
=2.6[mPa・s]
のように算出した。
【0062】
(2)霧化エネルギーは、各時点において、10分間に超音波霧化槽に投入したエネルギー(電力)[kcal]を10分間に霧化した水分量[kg]で除して求めた。
【0063】
(実施例1)
図3は実施例1で用いた濃縮グリセリンの製造システムSを示す。なお、上記実施形態と同一名称の部分は上記実施形態と同一符号で示す。
【0064】
この製造システムSでは、超音波霧化装置10は、超音波霧化槽11から戻り配管45が延びて原料貯槽31に接続されている。その他の原料貯槽31から超音波霧化装置10への原料供給系、並びに超音波霧化槽11に接続されたキャリアガス供給管42及び第1水排出管43の構成は上記実施形態と同一である。従って、この製造システムSでは、グリセリン水溶液が、原料貯槽31と超音波霧化装置10との間を循環すると共に、超音波霧化装置10において超音波振動により脱水濃縮されるように構成されている。
【0065】
グリセリン濃度が51.3質量%のグリセリン水溶液を780.5g調製し、それを図3に示す原料貯槽31に仕込んだ。
【0066】
送液ポンプ32を作動させて、グリセリン水溶液を超音波霧化装置10と原料貯槽31との間で循環させ、グリセリン水溶液を70℃に加温した。この時のグリセリン水溶液の粘度は1.6mPa・sであった。
【0067】
次いで、超音波霧化槽11の槽内温度を70℃に保ったまま、超音波振動子12の振動数を2.4MHz及び印加電圧を25Vに設定し、グリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮した。超音波振動の付与時間は4時間22分間とした。
【0068】
超音波振動付与後に回収したグリセリン水溶液のグリセリン濃度は90.9質量%、及び粘度は17.4mPa・sであり、霧化量は339.5gであった。また、このとき消費したエネルギーは57.3kcalであった。
【0069】
また、この超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮において、グリセリン濃度は51.3質量%から90.9質量%まで上昇し、粘度は1.6mPa・sから17.4mPa・sまで上昇した。この間、霧化エネルギーは、全体として上昇する傾向が伺われるが、70℃における水の蒸発潜熱を越えることは無かった。
【0070】
その後、回収したグリセリン水溶液を水蒸発装置(不図示)に仕込み、グリセリン水溶液を加熱することにより残留水を蒸発させてさらに脱水濃縮した。
【0071】
回収した濃縮グリセリンのグリセリン濃度は100質量%であった。また、このとき消費したエネルギーは、水の潜熱より計算したところ39.8kcalとなった。
【0072】
以上のことから、超音波振動霧化と加熱蒸発とを組み合わせた場合、グリセリン水溶液を脱水濃縮するために必要なエネルギーは97.1kcalとなった。
【0073】
(実施例2)
グリセリン濃度が51.3質量%のグリセリン水溶液を780.0g調製し、それを図3に示す原料貯槽31に仕込んだ。
【0074】
送液ポンプ32を作動させて、グリセリン水溶液を超音波霧化装置10と原料貯槽31との間で循環させ、グリセリン水溶液を50℃に加温した。この時のグリセリン水溶液の粘度は2.6mPa・sであった。
【0075】
次いで、超音波霧化槽11の槽内温度を50℃に保ったまま、超音波振動子12の振動数を2.4MHz及び印加電圧を25Vに設定し、グリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮した。超音波振動を4時間45分間付与した後に超音波霧化槽11から採取したグリセリン水溶液のグリセリン濃度は84.4質量%、及び粘度は20.3mPa・sであり、その間の霧化量は305.4gであった。また、このとき消費したエネルギーは61.3kcalであった。
【0076】
また、この超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮において、グリセリン濃度は51.3質量%から84.4質量%まで上昇し、粘度は2.6mPa・sから20.3mPa・sまで上昇した。
【0077】
その後、採取したグリセリン水溶液を水蒸発装置に仕込み、グリセリン水溶液を加熱することにより残留水を蒸発させてさらに脱水濃縮した。
【0078】
回収した濃縮グリセリンのグリセリン濃度は100質量%であった。また、このとき消費したエネルギーは、水の潜熱より計算したところ69.3kcalとなった。
【0079】
以上のことから、超音波振動霧化と加熱蒸発とを組み合わせた場合、グリセリン水溶液を脱水濃縮するために必要なエネルギーは130.6kcalとなった。
【0080】
(実施例3)
グリセリン濃度が20.0質量%のグリセリン水溶液を800.5g調製し、それを図3に示す原料貯槽31に仕込んだ。
【0081】
送液ポンプ32を作動させて、グリセリン水溶液を超音波霧化装置10と原料貯槽31との間で循環させ、グリセリン水溶液を50℃に加温した。この時のグリセリン水溶液の粘度は0.9mPa・sであった。
【0082】
次いで、超音波霧化槽11の槽内温度を50℃に保ったまま、超音波振動子12の振動数を2.4MHz及び印加電圧を25Vに設定し、グリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮した。超音波振動を2時間15分間付与した後に回収したグリセリン水溶液のグリセリン濃度は35.5質量%、及び粘度は1.4mPa・sであり、その間の霧化量は434.4gであった。また、このとき消費したエネルギーは28.9kcalであった。
【0083】
また、この超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮において、グリセリン濃度は20.0質量%から35.5質量%まで上昇し、粘度は0.9mPa・sから1.4mPa・sまで上昇した。
【0084】
その後、回収したグリセリン水溶液を水蒸発装置に仕込み、グリセリン水溶液を加熱することにより残留水を蒸発させてさらに脱水濃縮した。
【0085】
回収した濃縮グリセリンのグリセリン濃度は100質量%であった。また、このとき消費したエネルギーは、水の潜熱より計算したところ127.5kcalとなった。
【0086】
以上のことから、超音波振動霧化と加熱蒸発とを組み合わせた場合、グリセリン水溶液を脱水濃縮するために必要なエネルギーは156.4kcalとなった。
【0087】
(比較例1)
グリセリン濃度が51.3質量%のグリセリン水溶液を780.5g調製し、それを水蒸発装置に仕込み、グリセリン水溶液を加熱することにより水を蒸発させて脱水濃縮した。
【0088】
回収した濃縮グリセリンのグリセリン濃度は100質量%であった。また、このとき消費したエネルギーは、水の潜熱より計算したところ212.2kcalとなった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明はグリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法について有用である。
【符号の説明】
【0093】
S 濃縮グリセリン製造システム
10 超音波霧化装置
11 超音波霧化槽
12 超音波振動子
13 粘度測定器
13a 粘度センサ
20 水蒸発装置
31 原料貯槽
31a 攪拌機
32 液送ポンプ
33 三方弁
33a Aポート
33b Bポート
33c Cポート
41 原料供給管
42 キャリアガス供給管
43 第1水排出管
44 濃縮水溶液排出管
45 戻り配管
46 濃縮水溶液供給管
47 第2水排出管
48 製品回収管
49 連結管
51 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン水溶液から濃縮グリセリンを製造する方法であって、
粘度が25mPa・s以下のグリセリン水溶液を超音波振動させることにより水を霧化させて脱水濃縮する霧化脱水濃縮工程を有する濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項2】
製造する濃縮グリセリンのグリセリン濃度が80〜100質量%である請求項1に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項3】
上記霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン水溶液を加熱することにより水を蒸発させてさらに脱水濃縮する加熱脱水濃縮工程を有する請求項1又は2に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項4】
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与によるグリセリン水溶液の脱水濃縮を、グリセリン水溶液の粘度が3〜25mPa・sの間に終了する請求項1〜3の何れか1項に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項5】
上記霧化脱水濃縮工程において、超音波振動付与時のグリセリン水溶液の温度が10〜100℃である請求項1〜4の何れか1項に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項6】
上記霧化脱水濃縮工程で得た脱水濃縮したグリセリン又はグリセリン水溶液のグリセリン濃度が60質量%以上である請求項1〜5の何れか1項に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項7】
上記霧化脱水濃縮工程で用いる原料のグリセリン水溶液のグリセリン濃度が0.1〜80質量%である請求項1〜6の何れか1項に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項8】
上記霧化脱水濃縮工程において、グリセリン水溶液に付与する超音波振動の振動数が20kHz〜10MHzである請求項1〜7の何れか1項に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項9】
上記加熱脱水濃縮工程において、加熱時のグリセリン水溶液の温度が70〜180℃である請求項3に記載の濃縮グリセリンの製造方法。
【請求項10】
上記霧化脱水濃縮工程を行うための超音波霧化装置と上記加熱脱水濃縮工程を行うための残留水蒸発装置とを備えた濃縮グリセリン製造システムを使用する請求項3又は9に記載の濃縮グリセリンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−144530(P2012−144530A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278775(P2011−278775)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】