説明

濃縮赤ワインエキスを有効成分とする中性脂肪吸収阻害剤

【課題】濃縮赤ワインエキスを用いた優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤、並びに該中性脂肪吸収阻害剤を用いて、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する飲食用組成物の提供。
【解決手段】赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤。該中性脂肪吸収阻害剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、赤ワインの濃縮によって、濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであり、また、濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであるように調整されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤ワインを濃縮調製した濃縮赤ワインエキスを有効成分とする中性脂肪吸収阻害剤、及び、該中性脂肪吸収阻害剤を飲食品組成物中に添加し、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として調整することを特徴とする中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は高血圧、高脂血症、高血糖などを併発するメタボリックシンドロームの原因のひとつであり、メタボリックシンドロームは動脈硬化症のリスクを高めることが知られている。日本ではメタボリックシンドロームの罹患者及び予備軍とされる人の増加が以前から認知されており、平成10年度に開始された「健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)」においてその対策の重要性が指摘されている。しかし健康日本21で推進された「運動や適切な食習慣の推奨」にも関わらず、中高年男性を中心にBMI(体格指数)の増加が続いており、脂肪からのエネルギー摂取の割合も40〜50%という高値になっている(厚生労働省 平成16年国民健康・栄養調査結果の概要)。
【0003】
上述のように肥満の予防には適切なエネルギー摂取や運動が重要であるが、医学的に減量治療が必要な「肥満症」の場合には薬物療法が用いられることがある。現在使用されている肥満症の治療薬としては、マジンドールやシブトラミンといった食欲抑制剤や、アカルボースなどの糖質分解酵素阻害剤が知られている。また、脂肪の腸管での吸収を抑える膵リパーゼ阻害剤としてオルリスタットが知られているが、いずれの薬剤にも副作用が報告されており、必ずしも安全とは言えない(肥満・肥満症の指導マニュアル、医歯薬出版、2003年)。肥満を予防するためにはカロリー摂取を制限することが有効な手段であるが、日常生活で実行することは困難な場合が多い。したがって、食事に含まれる栄養成分の体内への吸収を適度に抑制することは、肥満やメタボリックシンドロームの予防に有用な方法であると考えられる。
【0004】
以上の観点から、近年は、糖質や脂質の吸収を抑制することで肥満の予防を行おうとする試みが検討され、該糖質や脂質の吸収を抑制するのに有効と期待される食品に含まれる機能性成分が注目を集めるようになってきた。このための食品に含まれる機能性成分として、各種のものが開示されている。例えば、食後の血中脂質濃度の上昇を抑制する物質として、植物由来の成分が多く報告されている。かかる植物由来の成分としては、カワラケツメイから抽出、精製することにより調製されたタンニン類が(特開平8−259557号公報)、レモングラス、オールスパイス、シナモン又はクローブの植物又はその抽出物が(特開2001−120237号公報)、キチン−キトサンが(Int. J. Obes. Relat Metab Disord. 23: 174-179, 1999)、ピーマン、かぼちゃ、しめじ、まいたけ、ひじき、緑茶、紅茶、ウーロン茶の水抽出物が(特開平3−219872号公報)開示されている。
【0005】
茶は、緑茶、烏龍茶、紅茶などの形態で、世界中で広く飲用に供されているものであるが、緑茶には脂質酸化を亢進するカテキンが含まれ、その飲用により肥満の予防的効果が期待できることが知られている(Int. J. Obes. Relat Metab Disord. 26: 1459-64、2002.;特開2002−326932号公報)。また緑茶中の主要な成分エピガロカテキンガレート及びエピカテキンガレートを配合した脂質吸収抑制食品も知られている(特開平3−228664号公報)。ウーロン茶には製造過程で生成するカテキン類の二量体が含まれており、この化合物は膵リパーゼ阻害活性を持ち、肥満予防に有用であることが報告されている(特開2005−336117号公報)。またウーロン茶に特有の重合ポリフェノールを強化した飲料が食後の血清トリグリセリドの抑制に有効なことも示されている(Jpn. Pharmacol. Ther.(薬理と治療)32(6): 335-342, 2004.)。
【0006】
一方で、近年、赤ワインや赤ブドウ果汁中のポリフエノールとして、アントシアニンやプロアントシアニジンと共に、ワインのポリフェノールの1種であるレスベラトロールが注目されている。該成分は、その研究の中で抗酸化活性、血小板凝集抑制活性、癌細胞に対する細胞毒性、エストロジェニック活性、神経保護作用、COX−2阻害活性などの有効性が確認され、更に、動脈硬化予防効果、痴呆症やアルツハイマー症予防効果を示すことで注目されている。レスベラトロールは、ブドウのほか、ラッカセイやイタドリに含まれていることが知られているが、特開2005−281179号公報には、イタドリの根から高濃度のレスベラトロールを濃縮・回収する方法が開示され、化粧料などの製剤への配合が示されている。
【0007】
また、特開2006−273834号公報には、ブドウ等から抽出したレスベラトロールをAMPK(AMP-activated protein kinase)活性化による脂質代謝促進作用を有する物質として、脂質代謝活性化剤として用いることが開示されている。更に、特開2009−13159号公報には、アントシアニジンや、プロアントシアニジン、及び、レスベラトロールを含有するコケモモ果実からの抽出物を、フケ防止、カロリー摂取に対するダイエット、抗酸化フリーラジカルの除去、心脳血管の疾病の予防、血栓形成の抑制、及び美白を目的とする機能性食品に用いることが開示されている。
【0008】
上記のとおり、ブドウ等から抽出したレスベラトロール等のポリフェノールについては、種々の生理活性や薬理活性が知られ、該生理活性や薬理活性に基く用途が開示されているが、該成分の中性脂肪吸収阻害についての直接的な報告はなされていない。特に、赤ワインエキス自体については、該エキスに含まれるプロアントシアニジンを有効成分とする抗疲労ドリンク剤への用途等が開示されているが(特開平11−318402号公報)、例えば、濃縮ワインエキス等の膵リパーゼ阻害活性、肥満に対する予防作用に関しては、今までに開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−219872号公報
【特許文献2】特開平3−228664号公報
【特許文献3】特開平8−259557号公報
【特許文献4】特開平11−318402号公報
【特許文献5】特開2001−120237号公報
【特許文献6】特開2002−326932号公報
【特許文献7】特開2005−281179号公報
【特許文献8】特開2005−336117号公報
【特許文献9】特開2006−273834号公報
【特許文献10】特開2009−13159号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】肥満・肥満症の指導マニュアル、医歯薬出版、2003年
【非特許文献2】Int. J. Obes. Relat Metab Disord. 23: 174-179, 1999
【非特許文献3】Int. J. Obes. Relat Metab Disord. 26: 1459-64、2002
【非特許文献4】Jpn. Pharmacol. Ther. (薬理と治療)32(6): 335-342, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、赤ワインを濃縮調製した濃縮赤ワインエキスの優れた中性脂肪吸収阻害作用と、摂取のための飲用時の嗜好性とを生かした、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤を提供すること、及び、該中性脂肪吸収阻害剤を飲食品組成物中に添加し、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として調整することによる中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食用組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、濃縮赤ワインエキスの生理活性について鋭意検討する中で、赤ワインを特定濃度以上に濃縮し、含有エキス分を特定濃度以上とした濃縮赤ワインエキスが、顕著な膵リパーゼ阻害活性を示し、優れた中性脂肪吸収阻害作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する中性脂肪吸収阻害剤からなる。本発明の中性脂肪吸収阻害剤は、ワインの嗜好性を保持し、本発明は、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤を提供する。
【0013】
本発明の中性脂肪吸収阻害剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、赤ワインの濃縮によって、濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることが好ましく、10g/L以上、14g/L未満含有するものであることが更に好ましい。また、本発明の中性脂肪吸収阻害剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、赤ワインの濃縮によって、濃縮赤ワインエキスが、濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量0.01〜20g/Lであるように調整されることが好ましい。本発明の中性脂肪吸収阻害剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、含有成分の保持のために、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることが特に好ましい。
【0014】
また、本発明は、本発明の中性脂肪吸収阻害剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することにより、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する飲食用組成物を製造する方法を包含する。
【0015】
すなわち、具体的には本発明は、(1)赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する中性脂肪吸収阻害剤や、(2)濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることを特徴とする上記(1)記載の中性脂肪吸収阻害剤や、(3)濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の中性脂肪吸収阻害剤からなる。
【0016】
また、本発明は、(4)濃縮赤ワインエキスが、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤や、(5)上記(1)〜(4)のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することを特徴とする中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食用組成物の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、濃縮赤ワインエキスの優れた中性脂肪吸収阻害作用と、摂取のための飲用時の嗜好性とを生かした、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤を提供する。更に、本発明は、本発明の中性脂肪吸収阻害剤を飲食品組成物中に添加し、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として調整することにより、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを具備した、中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例の濃縮赤ワインエキスの膵リパーゼ活性阻害作用についての試験例において、濃縮赤ワインエキスの膵リパーゼ阻害活性について、総ポリフェノール終濃度(μg/mL)に対する相対PL活性(%)を測定した結果について示す図である。
【図2】本発明の実施例の濃縮赤ワインエキスの脂質エマルジョン単回投与試験における脂質吸収抑制作用についての試験において、濃縮赤ワインエキスの脂質吸収阻害作用について、ワインエキス13.3mL/kgを用いた場合の時間(hours)経過に対する血漿トリグリセリド(plasma triglyceride: mg/dL)を測定した結果について示す図である。
【図3】本発明の実施例の濃縮赤ワインエキスの脂質エマルジョン単回投与試験における脂質吸収抑制作用についての試験において、濃縮赤ワインエキスの脂質吸収阻害作用について、ワインエキス3.3ml/kgを用いた場合の時間(hours)経過に対する血漿トリグリセリド(plasma triglyceride: mg/dL)を測定した結果について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有し、濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1.2mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであるような、赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する中性脂肪吸収阻害剤からなる。
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、説明する。
【0021】
<濃縮赤ワインエキス>
本発明の濃縮赤ワインエキスの製造に用いられる赤ワインとは、いわゆる果実酒であって、葡萄の果汁を酵母の作用により発酵し、必要に応じて樽または瓶に貯蔵して得られるものである。本発明に用いる赤ワインは、飲用に適したワインであれば良く、葡萄の果汁のみを発酵して醸造されるいわゆる赤ワインの他に、ワインに濃縮果汁、ブランデーを添加したシェリー、ポート、マディラ、マラガ、マルサラ等のいわゆる補強ワインあるいはワインに薬草、香料、色素等を添加して得られる、ベルモットを代表とする混成ワイン等を言う。
【0022】
本発明の濃縮赤ワインエキスを製造するには、醸造された赤ワイン或いは市販の赤ワインを、減圧濃縮により濃縮して製造することができる(特許第2742827号公報)。また、市販の濃縮赤ワインエキスを用いることができる。本発明における濃縮赤ワインエキスは、上述の赤ワインを減圧濃縮にて、8倍以上に濃縮し、エキス分を15%(W/V)以上含有したものをいう。本発明の濃縮赤ワインエキスに於ける濃縮倍率は、8倍以上で目的を達せられるが、好適には10〜20倍濃縮したものが好ましい。
【0023】
本発明に於ける濃縮赤ワインエキスの製造には、ロータリー・エバポレーター、或いは、濃縮缶と呼ばれる減圧濃縮器による濃縮する方法が用いられる。減圧濃縮は濃縮方法としては、汎用される方法である。ここでは、ロータリー・エバポレーターにて赤ワインを濃縮する場合について詳述するが、濃縮缶等他の減圧濃縮装置を用いる場合でも、基本的には同じである。減圧する為には、水封ポンプ、水流ポンプあるいは真空ポンプ等が使用出来る。通常は水流ポンプで充分であるが、高い真空度の得られる真空ポンプの使用が望ましい。
【0024】
サンプルを入れたナスフラスコを加熱する湯浴の温度は、真空度によっても異なるが、40〜80℃に加熱すれば良いが、好適には50±10℃が望ましい。そのとき、品温が10〜45℃となる条件が望ましく、好適には品温は20〜35℃が良い、湯浴の温度を高くすると、一般に濃縮速度は上昇するが、そのとき真空度が低いと品温が高くなり、得られる濃縮ワインエキスの褐変や香の劣化等を生じるので注意を要する。トラップ温度が低く、例えば5℃程度で、高真空で減圧濃縮を行なうと、湯浴温度が60℃でも、品温は30℃以下に保持され、色、風味的に優れた濃縮ワインエキスが得られる。
【0025】
得られた濃縮赤ワインエキスを低温に放置すると、ワインに含まれる酒石酸が酒石として晶析する。従って、晶析した酒石を除去する必要があり、酒石酸除去により、保存安定性の優れた濃縮赤ワインエキスとなる。定温の保持温度は0〜10℃の範囲が良いが、好適には5±3℃が良い。定温の保持時間は保持温度により変化するが、通常5〜48時間放置すれば良く、好適には一晩(約16時間)放置し、酒石を晶析させる。酒石の除去方法としては、通常の沈澱物の除去方法を用いることができ、特に方法は限定されない。一般には、珪藻土を濾過助剤として用いる、加圧濾過、メンブラン・フィルターを用いた膜濾過、減圧濾過、或いは遠心分離等により酒石を除くことができる。
【0026】
赤ワインは通常滓下げを既に行なっているので、赤ワインを濃縮しても蛋白が混濁してくることはあまりないが、必要に応じて滓下げ処理を行なうことができる。滓下げ方法としては、通常ワインの滓下げに用いる方法が適用でき、特に方法は限定されない。本発明の濃縮赤ワインエキスには、赤ワイン由来のポリフェノールが総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有され、レスベラトロール量が0.8〜1000mg/L、アルコール量が0.01〜20g/Lである。
【0027】
<総ポリフェノール量>
本発明の濃縮赤ワインエキスの総ポリフェノール量は下限を下回ると、ワインポリフェノール由来の生理効果が相対的に小さくなる。また上限を超えると満足出来る香味や外観は実現できなくなるので好ましくない。なお、ここでいう総ポリフェノール量は、日本食品分析センター編、「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」、中央法規、2001年7月、p.252に記載の公定法(酒石酸鉄試薬法)に従って求めた値を指す。
【0028】
<レスベラトロール量>
本発明の濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール量は0.8〜1000mg/Lであり、好ましくは0.3〜3.0mg/100mLであり、より好ましくは0.5〜2.5mg/100mLである。レスベラトロールは、赤ワインの原料となるブドウの皮、種などに含まれる天然成分であり、人畜に対する安全性は高い。更に、レスベラトロールはブドウ、ラッカセイ、イタドリなどの原料植物からエタノール、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を用いた抽出法やシリカゲル、吸着樹脂などを用いたクロマトグラフィー等の種々の精製方法を用いて単離することができる。また、有機合成法によっても製造することができる。
【0029】
レスベラトロールの分析は、高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて行った。LC/MSはShimazu Prominence UFLC-XR system + LCMS-2020(島津製作所)を用い、カラムはWaters Atlantis T3 (150 mmL. * 2.1 mmI.D., 3 μm particle size)(Waters)を用いた。高速液体クロマトグラフの諸条件は以下の通りである:移動相A:0.2% ぎ酸水、移動相B: アセトニトリル、Time Program : B conc. 15%(0min) → 40%(30min) → 80%(30.01min) →80%(35min)→15%(35.01min)→STOP(45min)、流速: 0.2mL/min、カラム温度:40℃、サンプル注入量:2μL。質量分析器の諸条件は以下の通りである:Probe Voltage : -3.5 kV (ESI-Negative mode) 、Nebulizing Gas Flow : 1.5L/min、Drying Gas Flow : 15L/min、CDL Temperature : 250℃、CDL, Q-array Voltages : using default values 、Block Heater Temperature : 200℃。レスベラトロールの検出にはm/z 227.2を用いた。
【0030】
<アルコール量>
また、この濃縮赤ワインエキスは飲用のワインとは異なり、アルコール分が0.01〜20g/1Lのものを指す。また、必要に応じて赤ワインの香気成分を含む減圧濃縮時の初留、或いはブランデーを、アルコール度数1%(v/v)以内の範囲で添加することができる。必要に応じて添加して用いる初留は、通常の赤ワインであれば、濃縮に掛けるワイン容量の5%程度が留去された時のものが良い。この時得られる初留のアルコール含有%(v/v)は40〜75%であり、通常45〜70%である。得られた初留のアルコール濃度を勘案し、濃縮赤ワインエキスに終濃度として0.01〜20g/Lになるように添加すると、香成分の強化された濃縮赤ワインエキスが得られる。また、前述の初留の代わりに、ブランデーを香味付けに用いることが出来る。ブランデーの添加量は、得られる濃縮赤ワインエキスのアルコール終濃度が0.01〜20g/Lの範囲である。
【0031】
<中性脂肪吸収阻害>
本明細書で使用する中性脂肪吸収阻害とは、膵リパーゼ阻害活性を有すること、並びに血中への脂質の吸収を阻害することを含む意味である。
【0032】
本発明の中性脂肪吸収阻害剤は、適宜の剤型に製剤化して、経口的に投与することができる。例えば、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤等、適宜な製剤形態において、投与することができる。本発明の中性脂肪吸収阻害用組成物を製剤化するに当たっては、通常、製剤化に用いられている補助剤を用いることができる。該補助剤としては、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝材、保存剤、安定化剤等、適宜の補助剤を挙げることができる。
【0033】
本発明の中性脂肪吸収阻害剤の投与量は、被験者の年齢、体重、性別、肥満の程度など、様々な要因に応じて変化するが、典型的には、本発明の中性脂肪吸収阻害剤を1日あたり、1g以上、2g以上、3g以上、4g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上、10g以上、12g以上、好ましくは14g以上、16g以上、18g以上、20g以上、30g以上摂取・投与する量とすることが望ましく、投与間隔は特に制限されない。
【0034】
<飲食品用組成物>
本発明の中性脂肪吸収阻害剤は飲食品に配合することにより、中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食品用組成物として提供することもできる。食品形態は特に制限されず、天然物及びその加工品を含む飲食物等を挙げることができる。またその配合量は、飲食品の形態に応じて異なるが、100gに対し、本発明の中性脂肪吸収阻害剤を1〜99g、好ましくは1〜20g程度配合することができる。これにより、飲食用組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールは、総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満となる。また1mg/100mL以上、1.4g/100mL未満とするのがより好ましく、5mg/100mL以上、0.8g/100mL未満とするのが更に好ましい。総ポリフェノール量は下限0.5mg/100mLを下回ると、ワインポリフェノール由来の生理効果が相対的に小さくなる。また上限4.0g/100mLを超えると満足出来る香味や外観は実現できなくなる。
【0035】
飲食品用組成物に該当する飲食品の例としては、これに限定されるものではないが、錠剤形、粉末状、顆粒状、カプセル状、ゼリー状等の食品、パン類、菓子類、クッキー、ビスケット等の穀類加工品、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム等の乳製品類、炭酸飲料、清涼飲料、果汁入り飲料、薬系ドリンク等の飲料、惣菜や加工食品等が挙げられる。本発明において「飲食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0036】
本発明による飲食品用組成物としては、中性脂肪吸収阻害の機能性を期待する消費者に適した食品、すなわち、特定保健用食品としても提供することができる。ここでいう「特定保健用食品」とは、抗肥満、メタボリックシンドロームの改善等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。ここで、中性脂肪吸収阻害の機能は、食品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに表示することができる。
【0037】
よって、本発明における中性脂肪吸収阻害剤を含有してなる飲食用組成物とは、例えば「本品は、食後の血清中性脂肪の上昇を抑えるワインポリフェノールを含んでおり、脂肪の多い食事をとりがちな人の食生活改善に役立ちます。」「本品は、食後の中性脂肪の上昇を抑えるワインポリフェノールを含んでおり、脂肪の多い食事をとりがちな人の食生活改善をサポートします。」「本品は中性脂肪を低下させる作用のあるワインポリフェノールを含んでおりますので、中性脂肪が気になる方に適します。」「本品は、脂肪の吸収を抑えるワインポリフェノールの働きにより、食後の血中中性脂肪の上昇を抑えるので、脂肪の多い食事を摂りがちな方、血中中性脂肪が高めの方の食生活改善に役立ちます。」といった表示をする飲食品を含むものとする。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
[濃縮赤ワインエキスの膵リパーゼ活性阻害作用]
膵リパーゼ活性の測定はすでに報告された方法(J. Agric. Food Chem.,53, 4593-4598, (2005))に従い、測定試薬には4-methylumbelliferyloleate(シグマアルドリッチ)を使用して行なった。酵素源としてはブタ膵リパーゼ(シグマアルドリッチ)を、1検体当り10U使用した。濃縮赤ワインエキス(メルシャン製ワインエキス(赤))は10%エタノールに溶解し、試験に供した。活性は10%エタノールのみを添加した場合に得られる酵素活性を100%として表示した。
【0040】
結果を図1に示す。測定の結果、濃縮赤ワインエキスは膵リパーゼ活性を阻害し、終濃度80μg/mLで添加したときに約50%までリパーゼ活性が低下した(図1:濃縮赤ワインエキスの膵リパーゼ阻害活性;平均値±標準誤差)。以上の結果から、濃縮赤ワインエキスが膵リパーゼ活性の阻害作用を持つことが確認された。
【実施例2】
【0041】
[濃縮赤ワインエキスの脂質エマルジョン単回投与試験における脂質吸収抑制作用]
ラットにおける脂質エマルジョン吸収の測定試験は、すでに報告された方法(Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord. 25, 1459-1464 (2001))にしたがって以下の通りに実施した。脂質エマルジョンはコーン油(6mL)、コール酸(80mg)、オレイン酸コレステリル(2g)、蒸留水(2mL)を混合し、超音波処理により調製し、12時間絶食後の8〜9週齢の雄性Wistarラット(日本チャールズリバー)に10mL/kg体重になるように胃ゾンデを用いて経口投与した。濃縮赤ワインエキス(メルシャン製ワインエキス(赤))投与群では投与量が13.3mL/kg体重(ポリフェノール投与量626mg/kg体重)、または3.3mL/kg体重(ポリフェノール投与量157mg/kg体重)になるように、脂質エマルジョン調製時に濃縮赤ワインエキスを混合した。脂質エマルジョン投与前、及び投与後1、2、3、4、5、7、9時間後のそれぞれに尾静脈より採血し、定法に従い血漿を調製し、血漿中の中性脂肪濃度をトリグリセライドGテストワコー(和光純薬)により測定した。
【0042】
結果を、図2(ワインエキス13.3mL/kgに場合)及び図3(ワインエキス3.3mL/kgに場合)に示す。その結果、対照群では投与後2から4時間の間で血漿中中性脂肪濃度の増加が見られたのに対し、濃縮赤ワインエキス投与群では血漿中中性脂肪濃度の増加が用量依存的に抑制され、13.3mL/kg、3.3mL/kg体重投与群いずれにおいても有意差を確認した(図2、図3:濃縮赤ワインエキスの脂質吸収阻害作用;濃縮赤ワインエキスは13.3又は3.3 mL/kg体重で脂質エマルジョンと同時投与。**:P<0.01、*:P<0.05(対照群と比較);投与前後の血中中性脂肪濃度を平均値±標準誤差で表示した。)。以上の結果から、濃縮赤ワインエキスは脂質の吸収を抑制する作用を持つことが確認された。
【実施例3】
【0043】
総ポリフェノール濃度1.63mg/100mL、3.25mg/100mL、65mg/100mL、1.3g/100mLとなるように、濃縮赤ワインエキス(メルシャン製ワインエキス(赤))を市販のミネラルウォーターに配合し飲料を調製した。それぞれの外観と官能評価を実施した結果を以下の表1に示す (n=3人で評価)。以上の結果から、総ポリフェノール量として1.0mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に嗜好性を具備した飲食用組成物を提供することが確認された。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、優れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを有する中性脂肪吸収阻害剤を提
供する。また、本発明は、本発明の中性脂肪吸収阻害剤を飲食品組成物中に添加し、優
れた中性脂肪吸収阻害活性と嗜好性とを具備した、中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食
用組成物を提供する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する中性脂肪吸収阻害剤。
【請求項2】
濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることを特徴とする請求項1記載の中性脂肪吸収阻害剤。
【請求項3】
濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであることを特徴とする請求項1又は2記載の中性脂肪吸収阻害剤。
【請求項4】
濃縮赤ワインエキスが、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することを特徴とする中性脂肪吸収阻害作用を有する飲食用組成物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132147(P2011−132147A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291258(P2009−291258)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】