説明

濃色モルトエキス、及びその製造方法、並びにモルトエキス由来の、味又は臭いのマスキング剤、及びその製造方法

【課題】安全性の懸念が無く、かつ少量の使用で飲食品を茶系色に着色できる濃色モルトエキスの提供、及び可食性製品の味又は臭いを有効に低減でき、かつ前記可食性製品へのモルトエキス由来の味、香り、及び色の付与が抑制された、モルトエキス由来の味又は臭いのマスキング剤を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び低分子量の固形分を除去する工程による濃色モルトエキスの製造方法。得られた濃色モルトエキスは固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が70以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃色モルトエキス、及びその製造方法、並びにモルトエキス由来の味又は臭いのマスキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の品質においては、味、香り、及び食感のみならず、外観もまた重要な要素である。飲食品の外観を向上させる目的で、様々な色素が用いられている。なかでも、消費者の安全意識の高まりにより、近年では、天然色素が好まれている。このように、天然色素に対して、安全性が求められるのは当然のことであるが、これに加えて、少量の使用で飲食品を着色できることも求められている。
着色しようとする飲食品に求められる色によって、使用される天然色素は異なり、飲食品を茶系色に着色可能な天然色素としては、カラメル色素(カラメルI、カラメルII、カラメルIII、カラメルIV)、コウリャン色素、タマネギ色素、カカオ色素、タマリンド色素などが知られている。
このような従来の茶系色を有する天然色素は、一般に耐酸性が低く、特にpHが4以下といった低pH条件(酸性条件)下では色素成分自体が不溶化する。このため、酸性飲料の底に不溶化した色素が沈澱する等、酸性飲食品を所望の色に着色することができないなどといった問題があった。酸性飲食品を茶系色に着色可能な天然色素としては耐酸性を有するカラメル色素(IV型)が挙げられるが、当該カラメル色素(IV型)は、製造時に亜硫酸化合物及びアンモニウム化合物を加えて製造されるため、安全性の問題から敬遠される傾向にある。
【0003】
一方、モルト(麦芽)エキスを、食品を茶系色に着色可能な天然色素として用いることが提案されている。具体的には、特許文献1には、酸性の飲食品を澄明に着色するために用いられる耐酸性のモルトエキス及びその調製方法が開示されている。このようなモルトエキスは、従来からビール製造において原料として用いられており、安全性の懸念が無い。
【0004】
ところで、従来、各種飲食品の不快臭及び/又は不快味を抑制又は低減する目的で、モルトエキスを用いることが提案されている(例えば、特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/055949号パンフレット
【特許文献2】特開2010−246432号公報
【特許文献3】特開2010−246449号公報
【特許文献4】特開2010−246474号公報
【特許文献5】特開2011−101636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、モルトエキスは、安全性の懸念が無い、優れた天然色素として有用である。しかし、特許文献1に開示された、天然茶系色素として利用可能なモルトエキスは、少量で飲食品を十分に着色するという観点では、改善の余地がある。
また、各種可食性製品の不快臭及び/又は不快味を抑制又は低減する目的で、従来のモルトエキスを用いた場合、前記可食性製品にモルトエキス由来の味、香り、及び色が付与されてしまうという問題があった。この問題に関して、本発明者らのグループは、かかる問題を解決する方法を見いだし、これに基づく新規のマスキング剤を特許出願している(特願2010-244167、未公開)。しかし、このようなマスキング剤の製造効率については、改善の余地があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、少量で、飲食品を十分に茶系色に着色できる濃色モルトエキス、及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の別の目的は、可食性製品の味又は臭いを有効に低減でき、かつ前記可食性製品へのモルトエキス由来の味、香り、及び色の付与が抑制された、モルトエキス由来の味又は臭いのマスキング剤を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく、様々な検討を行った結果、所定の吸光度を有するモルトエキス中の固形分を低分子化し、高分子量の固形分と低分子量の固形分とを分けた場合、高分子量の固形分は濃色モルトエキスであり、一方、低分子量の固形分は味又は臭いの優れたマスキング剤であることを見いだし、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。なお、本明細書中、低分子化処理されていないモルトエキスをモルトエキス原液(untreated liquid malt extract)と称する。
本発明は、以下の態様を有する。
【0009】
項1.
固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が70以上である濃色モルトエキス。
項2.
固形分の全体に対する分子量4000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が80以上である項1に記載の濃色モルトエキス。
項3.
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
低分子量の固形分を除去する工程
を含む、濃色モルトエキスの製造方法。
項4.
前記低分子化が、酸加水分解、及び酵素処理から選択される1種以上の処理によって実施される項3に記載の製造方法。
項5.
前記低分子化が、酵素処理によって実施され、前記酵素がアミラーゼ、及びプロテアーゼから選択される1種以上である項4に記載の製造方法。
項6.
前記低分子量の固形分の除去が、限外濾過、吸着樹脂による処理、及び微生物による処理から選択される1種以上の処理によって実施される項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7.
項3〜6のいずれかに記載の製造方法で製造される濃色モルトエキス。
項8.
項1、2及び7のいずれかに記載の濃色モルトエキスを含有する茶系色素。
項9.
項1、2及び7のいずれかに記載の濃色モルトエキスを含有する着色製品。
項10.
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
高分子量の固形分を除去する工程
を含む味又は臭いのマスキング剤の製造方法。
項11.
前記低分子化が、酸加水分解、及び酵素処理から選択される1種以上の処理によって実施される項10に記載の製造方法。
項12.
前記低分子化が、酸加水分解によって実施される項11に記載の製造方法。
項13.
前記低分子化が、酵素処理によって実施され、前記酵素がアミラーゼ、及びプロテアーゼから選択される1種以上である項11に記載の製造方法。
項14.
前記高分子量の固形分の除去が、限外濾過、及び吸着樹脂による処理から選択される1種以上の処理によって実施される項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
項15.
項10〜13のいずれかに記載の製造方法で製造される味又は臭いのマスキング剤。
項16.
項15に記載の味又は臭いのマスキング剤を含有する可食性製品。
項17.
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
高分子量の固形分と低分子量の固形分とを分離して、高分子量の固形分を含有する濃色モルトエキス及び低分子量の固形分を含有する味又は臭いのマスキング剤を得る工程
を含む、濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性の懸念が無く、かつ少量の使用で飲食品を茶系色に着色できる濃色モルトエキスが提供される。
また、本発明の味又は臭いのマスキング剤の製造方法によれば、モルトエキスを原料として、可食性製品の味又は臭いをマスキングでき、かつ前記可食性製品にモルトエキス由来の味、香り、及び色が付与されてしまうことが抑制されているマスキング剤を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、用語「エキス(extract)」とは、原料である混合物から溶媒によって分離する工程を含む方法によって分離された物質を意味する。用語「エキス(extract)」は、一般に、原料又は溶媒と併記され得る。例えば、前記原料がモルト又はその処理物(例、焙煎モルト)である場合、これから分離された物質は、「モルトエキス」と称される。また、例えば、前記溶媒が水である場合、これによって抽出された抽出物を水抽出物と称される。当業者は、用語「エキス(extract)」に併記される語が原料であるか溶媒であるかを容易に理解するが、本明細書では両者を区別して、例えば、「モルトのエキス」及び「水による抽出物」と記載する場合がある。なお、前述のように、本明細書中、低分子化処理されていないモルトエキスをモルトエキス原液(untreated liquid malt extract)と称する。
【0012】
本明細書中、用語「色素(color)」とは、それ自身が一定の波長の光を吸収する性質を有し、この性質によって対象物の色を変化させる目的で、対象物に添加される物質を意味する。色素は、単体又は混合物であり得る。
【0013】
本明細書中、用語「着色(coloring)」とは、対象物の色を変化させることを意味する。ここで、例えば、「茶系色に着色する」とは、対象物が茶系色へと変化すること意味し、必ずしも、対象物が茶系の色を呈することを要するものではない。
【0014】
本明細書中、用語「着色料(colorant)」は、「着色」を目的として用いられる物質を意味する。「色素」は、それ自体が「着色料」であることができる。
【0015】
本明細書中、用語「味又は臭いのマスキング剤」は、味を低減又は抑制する剤を意味する。「味を低減又は抑制する」とは、味の強度を認識限界以下まで低減又は抑制する場合を含み得る。なお、「味又は臭いのマスキング剤」は、臭いのマスキング剤でもあるものを包含し得る。
【0016】
1.濃色モルトエキス
【0017】
本発明の濃色モルトエキスは、
固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が70以上である。
【0018】
1.1.固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率
【0019】
ここで、「固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率」は、濃色モルトエキス中の「分子量2000以下の固形分の重量」(LW)を濃色モルトエキス中の「固形分全体の重量」(WW)で除した値である。
【0020】
濃色モルトエキス中の「固形分全体の重量」(WW)は、減圧加熱乾燥法(「食品衛生検査指針」厚生労働省監修、社団法人日本食品衛生協会、2005年3月31日発行)に準じた方法で求められる。具体的には、濃色モルトエキスを60℃、30mmHg以下の減圧下で恒量まで乾燥して、減少した重量を、濃色モルトエキスの重量から引くことにより求められる。
恒量とは、引続き更に1時間乾燥するとき、前後の秤量差が前回に量った乾燥物の重量の0.25%以下であることを意味する。
本発明のモルトエキスは、前記の条件で乾燥させた場合、通常、30分間乾燥後の試料と、更に1時間乾燥後の試料との重量の差が、30分間乾燥後の試料の重量の0.25%以下になる。この場合、便宜上、前記の条件で30分間乾燥した固形分全体の重量を「固形分全体の重量」とすることができる。
【0021】
濃色モルトエキス中の「分子量2000以下の固形分の重量」(LW)は、濃色モルトエキスを、分画分子量2000の限外濾過膜で濾過し、その濾液の固形分含量を、前記の濃色モルトエキスの固形分含量と同様の方法で測定することにより、求められる。
【0022】
なお、濃色モルトエキスが粉末等の固体又はペーストであり、そのまま限外ろ過できない場合は、当該濃色モルトエキスを4倍量のイオン交換水に溶解し、得られた溶液を定性濾紙にてろ過し、ろ液を分画分子量2000の限外ろ過膜にて、5倍量のイオン交換水を加水しながら、ろ過する。その濾液の固形分含量を、前記の濃色モルトエキスの固形分含量と同様の方法で求めることにより、「分子量2000以下の固形分の重量」(LW)を求める。
【0023】
1.2.色価(波長:500nm)/固形分含有率
【0024】
本明細書中、「色価(波長:500nm)」は、食品添加物公定書(第8版、日本 厚生労働省)に記載された「色価測定法」に準じて測定される。
当該「食品添加物公定書」の「色価測定法」においては、「通例、色価は、着色料溶液の可視部での極大吸収波長における吸光度を測定し、10w/v%溶液の吸光度に換算した数値(E10%1cm)で表す」と定められている。
しかし、本発明においては、「可視部での極大吸収波長における吸光度」ではなく、500nmにおける吸光度を用いる。この理由から、本発明における色価は、「色価(波長:500nm)」と記載される場合がある。特に記載が無い限り、本明細書中、色価とは「色価(波長:500nm)」を意味する。
500nmの波長は、この波長の吸収はヒトに赤色を知覚させるので、赤系色の低彩度色である茶系の色素の評価に適している。
【0025】
具体的には、吸光度は、波長500nm、光路長10mmで、分光光度計(V−560(日本分光社)、又はその同等品)によって測定される。
【0026】
吸光度の測定の実際の対照は、吸光度が0.3〜0.7の範囲内に入るように調整された検液である。
検液は次のようにして用意する。試料の量を精密に量り、メスフラスコに入れ、イオン交換水約10mlを加えて溶かし(又は希釈し)、更にイオン交換水を加えて正確に100mlとし、必要があれば遠心分離又はろ過し、試料溶液とする。この試料溶液を吸光度測定用の検液(希釈倍率=1)として用いる。但し、試料溶液の吸光度が0.3〜0.7の範囲内に入らない場合は、試料溶液を所定の希釈倍率で正確に希釈することにより得た希釈液を検液として用いる。
【0027】
色価(波長:500nm)は、次式によって算出される。
色価(波長:500nm)=((10×A×F)/試料の採取量(g))
[式中、Aは500nmでの検液の吸光度である。Fは、測定吸光度が0.3〜0.7の範囲に入るように調整するための希釈倍率である。]
【0028】
濃色モルトエキスの「固形分含有率」は、濃色モルトエキス中の「固形分全体の重量」(WW)を当該濃色モルトエキスの重量で除することにより求められる。
【0029】
このように算出される「色価(波長:500nm)/固形分含有率」の値は、濃色モルトエキスの形態によらず、濃色モルトエキスの着色料としての能力を適切に示すことができる。
【0030】
本発明の濃色モルトエキスは、好ましくは、固形分の全体に対する分子量2,500以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が80以上である。本発明の濃色モルトエキスは、より好ましくは、固形分の全体に対する分子量4,000以下(例えば、分子量6,000以下、分子量13,000以下、分子量50,000以下)の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が80以上である。
ここで、所定の分子量以下の固形分の重量百分率は、前述の方法における分画分子量2,000の限外濾過膜に換えて、前記所定の分子量と同じ分画分子量を有する限外濾過膜を用いて測定される。
【0031】
本発明において、「濃色」とは、モルトエキスが前述のような「色価(波長:500nm)/固形分含有率」の値を有することを意味する。
【0032】
2.濃色モルトエキスの製造方法
【0033】
本発明の濃色モルトエキスは、例えば、以下の製造方法によって製造することができる。
【0034】
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程(工程A1)、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程(工程A2)、及び
低分子量の固形分を除去する工程(工程A3)
を含む、濃色モルトエキスの製造方法。
【0035】
2.1.工程A1
【0036】
「色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液」は、例えば、焙煎されたモルトに対して0.5〜100倍量、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、モルトを浸漬し、必要に応じて攪拌しながら、室温〜100℃の温度で、30分間〜15時間攪拌することにより抽出して、製造することができる。
モルトエキス原液の「色価(波長:500nm)/固形分含有率」の値は、濃色モルトエキスについて説明した「色価(波長:500nm)/固形分含有率」の値と同様の方法で決定することができる。
「焙煎されたモルト」は、モルトを、例えば、約90℃〜約230℃の温度で焙煎することによって得ることができる。ここで、焙煎の温度が高いほど、より色価が高いモルトエキス原液が得られる。
このようにして得られるモルトエキス原液は通常シロップ状である。当該シロップ状のモルトエキス原液は、そのまま、又は水で希釈(例、2〜6倍希釈)して、工程A2に付すことができる。
なお、このようなモルトエキス原液は、乾燥した粉末のモルトエキスを水に溶解させたものであってもよい。
このようなモルトエキス原液は、市販品としても入手可能である。
【0037】
2.2.工程A2
【0038】
モルトエキス原液中の固形分の低分子化は、例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、及び酵素処理から選択される1種以上の処理によって実施できる。なかでも、酸加水分解、酵素処理が好ましい。
【0039】
2.2.1.酸加水分解
【0040】
酸加水分解には、例えば、塩酸、及び硫酸等の酸が用いられる。なかでも、硫酸が好ましい。
このような酸の使用量は、用いる酸の種類等に応じて設定すればよいが、通常、硫酸の場合、モルトエキス原液500g(固形分含有率10〜30w/w%)に対して2〜4N硫酸を最終濃度10〜20w/w%で用いることができる。なお、モルトエキス原液の「固形分含有率」は、濃色モルトエキスについて説明した「固形分含有率」の測定方法と同様の方法で測定することができる。
当該処理の温度は、通常、40〜60℃の範囲内である。
当該処理の時間は、通常、3〜8時間の範囲内である。
【0041】
2.2.2.アルカリ加水分解
【0042】
アルカリ加水分解には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化バリウム等の塩基が用いられる。なかでも、水酸化ナトリウムが好ましい。
このような塩基の使用量は、用いる塩基の種類等に応じて設定すればよいが、例えば、水酸化ナトリウムの場合、モルトエキス原液500g(固形分含有率10〜30w/w%)に対して1〜4N水酸化ナトリウムを最終濃度5〜20w/w%で用いることができる。
当該処理の温度は、通常、40〜60℃の範囲内である。
当該処理の時間は、通常、3〜8時間の範囲内である。
【0043】
2.2.3.酵素処理
【0044】
酵素処理には、例えば、α-アミラーゼ、プルラナーゼ、スクラーゼ、セルラーゼ、キシラーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ等の酵素が用いられる。なかでも、α-アミラーゼ、プルラナーゼ、スクラーゼ、マンナナーゼ、プロテアーゼ等が好ましく、α-アミラーゼ、プロテアーゼ等がより好ましい。
このような酵素の使用量は、用いる酵素の種類等に応じて設定すればよいが、例えば、α-アミラーゼ又はプロテアーゼの場合、モルトエキス原液500g(固形分含有率10〜30w/w%)に対して、1,000〜3,000単位の酵素を用いることができる。
このような酵素としては、精製品、粗製品、又はこれらの酵素活性を有する菌体を用いることができる。
当該処理の温度は、通常、「酵素の至適温度−10℃」〜「酵素の至適温度+5℃」の範囲内である。
当該処理におけるpHは、通常、「酵素の至適pH値−1」〜「酵素の至適pH値+1」の範囲内である。
当該処理の時間は、通常、1〜8時間の範囲内である。
当該処理においては、酵素反応に必要な塩類等を添加する場合がある。
【0045】
酵素処理後、好ましくは、酵素処理液を加熱して酵素を失活することが好ましい。
【0046】
これらの低分子化処理を組み合わせる場合は、通常、各処理を順次実施する。
【0047】
2.3.工程A3
【0048】
前記低分子量の固形分の除去は、例えば、限外濾過、吸着樹脂による処理、及び微生物による処理から選択される1種以上の処理によって実施できる。
【0049】
2.3.1.限外濾過
【0050】
限外濾過は、好ましくは、分画分子量2,000〜50,000(例、分子量2,500、分画分子量4,000、分画分子量6,000、分画分子量13,000以下、分画分子量50,000)の限外濾過膜を用いて実施される。
当該分画分子量を選択することにより、濃色モルトエキスの色価(波長:500nm)/固形分含有率の値及び収量を調製することができる。
具体的には、当該分画分子量を大きくすると、本発明の濃色モルトエキスの色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が高くなる傾向があり、一方、当該分画分子量を小さくすると、本発明の濃色モルトエキスの収量が増大する傾向がある。
しかし、分画分子量が2,000より小さいと、本発明の濃色モルトエキスに求められる色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が得られない恐れがある。
【0051】
分画分子量は、通常、市販品である限外濾過膜について明示されているが、これを確認するためには、分子量既知の物質をマーカーとし、これが対象とする膜で分離できるか否かによって測定することもできる。
【0052】
所定の分画分子量の限外濾過膜を用いて、前記低分子量の固形分の除去を行った場合、当該処理後の濃色モルトエキスの固形分の全体に対する前記分画分子量以下の固形分の重量百分率は、20w/w%未満であることが合理的に推定される。
【0053】
限外濾過膜としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素系高分子膜、フッ素化炭化水素系高分子膜、スルホン系高分子膜、ニトリル系高分子膜等の高分子膜;及びメンブラロックス等のセラミック膜が挙げられる。
具体的には、例えば、ポリアクリロニトリル膜(例、ACP-1010、AHP-1010;旭化成ケミカルズ社)、ポリスルフォン膜(例、SAP-1013、SIP-1013;旭化成ケミカルズ社)等が挙げられる。
また、限外濾過膜の形態は、特に限定されず、例えば、平膜(シート状)、スパイラル膜、チューブラー膜、又は中空糸膜であることができる。
【0054】
限外濾過処理においては、所望により、加水を行う。具体的には、例えば、処理される低分子化されたモルト原液と同量程度の水の添加を、3〜10回実施する。
【0055】
限外濾過では、濃縮液(膜非透過画分)として、本発明の、70以上の色価(波長:500nm)/固形分含有率の値を有する濃色モルトエキスが得られ、一方、低分子量の固形物は透過液(膜透過画分)として除去される。
【0056】
2.3.2.吸着樹脂による処理
【0057】
本発明者らの検討によれば、工程A2で低分子化されたモルトエキス原液中の高分子量の固形分は、吸着樹脂に吸着されず、一方、低分子量の固形分は、吸着樹脂に吸着される性質を有する。従って、これを利用して、低分子量の固形物を除去できる。
【0058】
吸着樹脂は、イオン交換基を持たない各種合成吸着樹脂を使用することができる。特に制限されないが、具体的には、スチレン−ジビニルベンゼン系又はアクリル系の合成吸着樹脂を使用することができる。商業的に入手可能なスチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂としては、ダイヤイオンHP10、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP21、ダイヤイオンHP40、及びダイヤイオンHP50;セパビーズSP70、セパビーズSP2MG、セパビーズSP207、セパビーズSP700、セパビーズSP825、セパビーズSP850(以上、商品名、三菱化学社製);アンバーライトXAD−4;デュオライトS874、デュオライトS876(以上、商品名、Rohm&Haas社製)が例示される。アクリル系の合成吸着樹脂としてはアンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−8、アンバーライトXAD−2000;デュオライトS877(以上、商品名、Rohm&Haas社製)を例示することができる。
【0059】
使用される合成吸着樹脂としては、好ましくはスチレン−ジビニルベンゼン系の多孔質重合体を使用した合成吸着樹脂である。吸着樹脂は、制限はされないが、比表面積として650〜700m/gを有していることが好ましい。また、細孔径30〜110×10−10mの樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
工程A2で低分子化されたモルトエキス原液の、合成吸着樹脂への通液速度は、好ましくは空間速度(SV)が1〜2(1/h)の範囲内である。低分子量の固形物は合成吸着樹脂に吸着され、通過液からは効果的に除去されている。
更に、本吸着処理工程を経た通過液は、モルトエキス特有の香り及び味も効果的に除去されているので、当該溶液に含まれる色素成分を茶系天然色素として食品に利用する場合、可食性食品へのモルトエキス由来の味、香りの付与が抑制されている点で優れる。
【0061】
2.3.3.微生物による処理
【0062】
工程A2で低分子化されたモルトエキス原液の低分子量の固形分は、単糖及びオリゴ糖等の炭素源、並びにアミノ酸及びペプチド等の窒素源を含有し得るので、微生物によって資化させることによっても、これを除去することができる。また、資化されない低分子量の固形分の一部もまた、後述する濾過によって、菌体に付着して除去され得る。
このような微生物としては、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母のように食品分野で使用されている酵母(例、サッカロマイセス・セレビシエ)、及び麹菌(例、アスパルギルス・オリザエ)等が安全性の面で好ましい。
微生物培養の定法に従い、このような微生物の菌体を、工程A1で低分子化されたモルトエキス原液を添加し、生育させる。
生育条件(例、温度、酸素濃度、pH)は、使用する微生物にとって好適な条件を、の種類に応じて、選択すればよい。
微生物処理後、加熱殺菌が好ましい。又は、微生物処理液を濾過助剤(例、セライト)でプレコートした濾紙(例、No.2、ADVANTEC社)で濾過することにより、微生物を除去する。
【0063】
これらの低分子量の固形分の除去処理を組み合わせる場合は、通常、各処理を順次実施する。
【0064】
このようにして得られた本発明の濃色モルトエキスは、そのまま、又は所望により、精製、濃縮、乾燥、添加剤の添加、他の色素の添加等によって適当な形態(例、液体、ペースト、粉体)に調製し、茶系天然色素として好適に使用できる。精製方法、濃縮方法、乾燥方法、添加剤、他の色素は、それぞれ、食品製造等の分野において慣用のものを採用すればよい。
特に、本発明の濃色モルトエキスは、対象物の味又は臭いをマスキングする性質が抑制されているので、添加による対象物の味又は臭いへの影響が少ない。
その具体的な用途は、後記に詳細に述べる。
【0065】
3.味又は臭いのマスキング剤の製造方法
【0066】
本発明の味又は臭いのマスキング剤の製造方法は、
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程(工程B1)、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程(工程B2)、及び
高分子量の固形分を除去する工程(工程B3)
を含む。
【0067】
3.1.工程B1
【0068】
当該製造方法の工程B1は、前述の濃色モルトエキスの製造方法における工程A1と同様に実施すればよい。
【0069】
3.2.工程B2
【0070】
当該製造方法の工程B2は、前述の濃色モルトエキスの製造方法における工程A2と同様に実施すればよい。
本発明の製造方法においては、当該工程B2によって、味又は臭いのマスキング作用を有する低分子量の固形分の量が増加するので、効率的にマスキング剤を製造することができる。
【0071】
3.3.工程B3
【0072】
低分子化されたモルトエキス原液中の高分子量の固形分の除去は、例えば、限外濾過、及び吸着樹脂による処理から選択される1種以上の処理によって実施できる。
【0073】
低分子化されたモルトエキス原液中の高分子量の固形分の除去は、実質的には、低分子化されたモルトエキス原液から、低分子量の固形分を分離して、取得することと同じである。
【0074】
従って、当該工程における限外濾過においては、工程A3の限外濾過において、低分子量の固形物を、低分子量の固形物を含む透過液(膜透過画分)として取得すればよい。
【0075】
また、当該工程における吸着樹脂による処理においては、工程A3の吸着樹脂による処理において、低分子量の固形分が吸着した吸着樹脂から、低分子量の固形物を回収することができる。
【0076】
低分子量の固形物の回収は、例えば、低分子量の固形分が吸着した吸着樹脂を、10〜90v/v%、好ましくは30〜70v/v%、更に好ましくは50〜60v/v%のアルコール水溶液に曝して、低分子量の固形分を吸着樹脂から脱離させることによって実施できる。
アルコール水溶液に用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールを例示することができる。なかでも、好ましくは、エタノールである。
アルコール水溶液の使用量は適宜調整することが可能であるが、好ましくは、モルトエキス原液又はその処理液に対して2〜10倍量、更に好ましくは3〜4倍量使用することができる。アルコール濃度が90v/v%より高いアルコール水溶液、若しくは10v/v%未満のアルコール水溶液や水を用いると、目的とするマスキング効果が得られない。
なお、本発明では、吸着樹脂にモルトエキス原液又はその処理液を通液させた後、アルコール水溶液を用いる前に、水で吸着樹脂を洗浄する工程を含むことが好ましい。
【0077】
このようにして得られた低分子量の固形分は、味(特に、酸味、辛み等の刺激味)を低減又は抑制することができるので、そのまま、又は所望により、精製、濃縮、乾燥、添加剤の添加等により、適当な形態(例、液体、ペースト、粉体)に調製し、味又は臭いのマスキング剤として好適に使用できる。
特に、当該味又は臭いのマスキング剤は、色が薄いので、添加による対象物の色への影響が少ない。
なお、このようにして得られた低分子量の固形分は、塩味を呈する食品の塩味を増強させることができるので、そのまま、又は所望により、精製、濃縮、乾燥、添加剤の添加等により、適当な形態(例、液体、ペースト、粉体)に調製し、塩味の増強剤として、或いは、味又は臭いのマスキング及び塩味の増強剤として好適に使用できる。
その具体的な用途は、後記に詳細に述べる。
【0078】
4.濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤の製造方法
【0079】
前述のように、本発明の濃色モルトエキスの製造方法と、本発明の味又は臭いのマスキング剤とは、それらの工程が共通するので、濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤を同時に製造することができる。
すなわち、本発明は、
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程(工程C1)、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程(工程C2)、及び
高分子量の固形分と低分子量の固形分とを分離して、高分子量の固形分を含有する濃色モルトエキス及び低分子量の固形分を含有する味又は臭いのマスキング剤を得る工程(工程C3)
を含む、濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤の製造方法
をも提供するものである。
【0080】
ここで、当該製造方法の工程C1は、前述の濃色モルトエキスの製造方法における工程A1及び前述の味又は臭いのマスキング剤の製造方法における工程B1と同様に実施すればよい。
【0081】
また、当該製造方法の工程C2は、前述の濃色モルトエキスの製造方法における工程A2及び前述の味又は臭いのマスキング剤の製造方法における工程B2と同様に実施すればよい。
【0082】
また、当該製造方法の工程C3は、前述の濃色モルトエキスの製造方法における工程A3(但し、微生物による処理を除く)及び前述の味又は臭いのマスキング剤の製造方法における工程B3と同様に実施すればよい。
【0083】
このように、モルトエキス原液から本発明の濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤を同時に製造することで、製造コストが大幅に削減され、廃棄物が大幅に減量される。
【0084】
5.濃色モルトエキスの使用
【0085】
5.1.茶系色素、及び着色製品
本発明は、前述する本発明の濃色モルトエキスの茶系色素としての用途もまた提供する。本発明の濃色モルトエキスは、茶系色を付与又は増強する必要がある製品に添加することで、当該製品に茶系色を付与、又は当該製品の茶系色を増強することができる。本発明の茶系色素は前述する本発明の濃色モルトエキスを成分として含有する。
【0086】
本発明の茶系色素は、500nmの吸光度が0.4になる濃度で測定した場合に、好ましくは、マンセル表色系における色相が9R〜6Yである。更に好ましくは、マンセル表色系における色相が9R〜10Rの場合の明度が2〜6、彩度が2〜10であり、色相が1YR〜10YRの場合の明度が2〜8、彩度が2〜14であり、色相が1Y〜6Yの場合の明度が3〜8、彩度が2〜12である。
茶系色素の色調(色相)測定は、次のように実施される。まず、検液の500nmにおける吸光度が0.4になるように適量の試料を100mlメスフラスコに精密に量り、イオン交換水で正確に100mlとし、必要があれば遠心分離又はろ過し、試料溶液とする。この試料溶液を積分球付の紫外可視分光光度計V−560(日本分光社製)を利用して分光透過率を測定することによって行って、Hunter Lab表色系のLab値を測定し、色相(Hue)を算出する。
【0087】
本発明の茶系色素は、前記した本発明の濃色モルトエキスそのものであってもよく;本発明の濃色モルトエキスを、水、エタノールやプロピレングリコール等のアルコール、又はその他の極性溶媒に溶解、分散(乳化)、又は希釈すること等によって得られた液状物(当該液状物は、ペーストを包含する)であってもよく;本発明の濃色モルトエキス又は前記液状物を乾燥すること等によって得られた、固形物(粉状、顆粒状、錠剤など)であってもよい。
【0088】
本発明の茶系色素に加えて、色素製剤に用いられる添加剤等を含有してもよいが、本発明の茶系色素の利点の一つは、天然の食品素材である濃色モルトエキスを原料とした安全性の高い天然色素である点であるため、添加物(特に、人工の添加物)を含有しないことが好ましい。
このような茶系色素は、その形態及び組成に応じて、色素、着色料、及び色素製剤の製造における慣用の方法によって、製造することができる。
【0089】
本発明の茶系色素は、飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品及び飼料などの各種製品のための天然の茶系色素として有用であり、これらの着色に好適に使用することができる。本発明の茶系色素は、特に、飲食品の着色に好適に使用することができる。
着色される飲食品としては、制限はされないが、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料等の飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料、紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、朝鮮漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。
【0090】
特に、本発明の茶系色素は、これを酸性飲食品に適用した場合であっても、不溶物の析出が抑制され、澄明で透明性の高い着色飲食品を提供することが可能である点で優れている。本発明の茶系色素は、pHが2以上4.6未満である酸性の飲食品の着色に好適に使用することができる。かかる酸性飲食品としては、例えばシャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料等の飲料類;ゼリー等のデザート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)やドロップ等のキャラメル類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、朝鮮漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、たれなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;チーズ等の酪農製品類を挙げることができる。本発明の茶系色素は、特に、不溶物の析出による濁りや沈殿が商品価値の低下に繋がる飲食品、特に外観が清澄であることを特徴とする清涼飲料、炭酸飲料及びスポーツ飲料等にも好適に使用することができる。本発明の茶系色素は、特に、pHが2以上3.4以下である酸性飲料にも好適に使用することができる。
【0091】
更に、本発明の茶系色素は、医薬品(例、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ剤、うがい薬)、医薬部外品(例、歯磨き剤、口中清涼剤、口臭予防剤)、香粧品(例、口紅等のメークアップ化粧品)、飼料(例、キャットフード及びドッグフードなどのペットフード、観賞魚又は養殖魚用の魚餌)などの着色料として使用することができる。
また、本発明の茶系色素は、石鹸及びシャンプーなどの日用品の着色にも使用することができる。
【0092】
これらの製品に用いられる本発明の茶系色素の量は、製品の種類や目的によって異なるが、例えば、色価(波長:500nm)/固形分含有率が100であり、かつ固形分含有率40%である本発明の濃色モルトエキスに換算して、着色製品中、通常0.1〜5w/w%の範囲内、好ましくは0.01〜0.5w/w%の範囲内である。
【0093】
対象製品の着色は、例えば、本発明の濃色モルトエキスを、着色する対象製品の製造中に添加及び混合することによって実施できる。本発明の濃色モルトエキスは、耐酸性に加えて耐熱性を有するため、対象製品の製造における任意の時点で、従来の天然色素と同様の方法で、又はそれよりも柔軟な方法で、対象製品使用することができる。例えば飲料を着色する場合、果糖ぶどう糖液糖などの糖類や酸類、果汁等といった原料と共に本発明の濃色モルトエキスを添加し、殺菌後容器に充填することにより、飲料を茶系色に着色することができる。
【0094】
本発明の茶系色素を含有する製品は、安定に茶色に着色された、着色製品となることができる。
【0095】
6.味又は臭いのマスキング剤の使用
【0096】
本発明の製造方法で製造された味又は臭いのマスキング剤は、可食性製品の各種の味又は臭い(不快味又は不快臭)に対して顕著なマスキング効果を有する。
【0097】
例えば、当該マスキング剤は、可食品素材が有する不快味及び不快臭(例、ミルク又は大豆等のタンパク質及びその分解物(例、ペプチド)に由来する不快味;畜肉又は魚肉の不快味;ビタミン、ミネラル、及びコラーゲンなどの機能性食品素材が有する不快味;果汁又は野菜汁特有の不快臭など)をマスキングできる。
【0098】
また、当該マスキング剤は、食酢若しくは酸味料を含有する飲料、ドレッシング及びマヨネーズ等の調味料、食酢、酸乳、漬物等の可食性製品の酸味;並びに唐辛子などの香辛料を含有する可食性製品の辛味等の可食性製品の刺激味を低減する(すなわち、マスキングする)効果を奏するので、可食性製品の呈味をまろやかにできる。
【0099】
更に、当該マスキング剤は、可食性製造時の加熱調理または加熱殺菌工程、及び可食性製品の保存によって発生する不快味又は不快臭(例えば、牛乳、脱脂粉乳などの乳製品の加熱調理や加熱殺菌工程によって発生する不快臭及び不快味;レトルト殺菌、例えば121℃で20〜30分間といった過酷な殺菌条件で飲食品を殺菌した際に発生する不快臭(いわゆるレトルト臭);調理後の飲食品の保存時に生じる劣化臭)をマスキングできる。
【0100】
従って、本発明の製造方法で製造された味又は臭いのマスキング剤は、これらの味又は臭いをマスキングするためのマスキング剤として使用することができる。
当該マスキング剤は、モルトエキス由来の味、香り、及び色が可食性製品へ付与されることが抑制されている点で優れている。
【0101】
本発明の製造方法で製造された、味又は臭いのマスキング剤の可食性製品に対する添加量は、対象とする可食性製品の種類等によって適宜調整することが可能である。具体的には、可食性製品に対し、前記製造方法で得られる低分子量の固形分の重量換算で、通常0.001〜0.5w/w%、好ましくは0.005〜0.1w/w%、より好ましくは0.02〜0.05w/w%である。
【0102】
本発明の製造方法で製造された、味又は臭いのマスキング剤が対象とする可食性製品には、飲食品のみならず、経口投与される医薬品、医薬部外品等も含む。本発明の製造方法で製造されたマスキング剤は、これら可食性製品が有する不快味(苦味、エグ味など)のマスキング効果にも優れ、様々な分野への応用も可能である。
【0103】
一方、前述のように、本発明の味又は臭いのマスキング剤の有効成分である低分子量の固形分は、塩味を呈する食品の塩味を増強させることができるので、そのまま、又は所望により、精製、濃縮、乾燥、添加剤の添加等により、適当な形態(例、液体、ペースト、粉体)に調製し、塩味の増強剤として、或いは、味又は臭いのマスキング及び塩味の増強剤として、摂食における食塩の摂取過剰の防止の目的等に、好適に使用できる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例、および試験例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「重量部」、「%」は「重量%」を意味するものとする。文中「*」印を付した製品は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示す。また、各分析、及び測定等は、「発明を実施するための形態」で説明した方法に従って、実施した。
【0105】
焙煎濃色モルトエキスの粉末に4倍重量の水道水を加え、室温(約28℃)で1時間攪拌させて溶解させた後、更に1時間攪拌した。得られた溶液を80℃で30分間加熱することにより殺菌し、40℃以下に冷却した。これを、以下の実施例及び比較例において、モルトエキス原液として用いた。なお、実施例6及び7においては、冷蔵保存したモルトエキス原液を用いた。
【0106】
実施例1(プロテアーゼ処理、及び限外濾過)
モルトエキス原液に、1650単位のプロテアーゼ(プロテアーゼM「アマノ」、アマノエンザイム社)によって、40〜45℃で3時間処理し、80℃、30分間加熱することにより酵素を失活させ、30℃まで冷却し、その後、セライトでプレコートした濾紙(No.2、ADVANTEC社)で濾過した。次いで、分画分子量2500の限外濾過膜(G10、DESAL社)で、限外濾過し、更に、500mlのイオン交換水を5回通液して、濃縮液(膜非透過画分)及び透過液(膜透過画分)を得た。
【0107】
実施例2〜5(プロテアーゼ処理、及び限外濾過)
分画分子量2500の限外濾過膜に換えて、
分画分子量4,000(SAP-1013、旭化成ケミカルズ社)(実施例2)、
分画分子量6,000(SIP-1013、旭化成ケミカルズ社)(実施例3)、
分画分子量13,000(ACP-1050D、旭化成ケミカルズ社)(実施例4)、又は
分画分子量50,000(AHP-1010、旭化成ケミカルズ社)(実施例5)
の限外濾過膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、それぞれ濃縮液(膜非透過画分)及び透過液(膜透過画分)を得た。
【0108】
比較例1(低分子化処理無し)
焙煎モルトエキス原液のプロテアーゼ処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、前記分画分子量6,000(比較例1)の限外濾過膜を用い、それぞれ濃縮液(膜非透過画分)及び透過液(膜透過画分)を得た。
【0109】
実施例6(α−アミラーゼ処理、及び限外濾過)
焙煎モルトエキス原液のプロテアーゼ処理に換えて、1650単位のα−アミラーゼ(ビオザイムA「アマノ」、アマノエンザイム社)によって、50℃で3時間処理したこと以外は、実施例3と同様にして、前記分画分子量6,000の限外濾過膜を用い、濃縮液(膜非透過画分)及び透過液(膜透過画分)を得た。
【0110】
実施例7(酸加水分解、及び限外濾過)
焙煎モルトエキス原液のプロテアーゼ処理に換えて、最終濃度15%の3N硫酸によって、50℃で4時間処理したこと以外は、実施例3と同様にして、前記分画分子量6,000の限外濾過膜を用い、濃縮液(膜非透過画分)及び透過液(膜透過画分)を得た。
【0111】
試験例1
吸光度(波長:500nm、光路長:10mm)の測定に分光光度計(日本分光(株)のV-560を使用)を用いて、色価(波長:500nm)/固形分含有率の値を求めた。
モルトエキス原液(固形分含有率:19.4%)の色価(波長:500nm)/固形分含有率の値は53であった。
表1に濃縮液(膜非透過画分)の、表2に透過液(膜透過画分)の固形分重量、固形分含有率(%)、色価(波長:500nm)、色価(波長:500nm)/固形分含有率の値及びマンセル表色系の色相を記載する。
表1により、本発明の濃色モルトエキスは、高い、色価(波長:500nm)/固形分含有率の値を有することが理解される。
また、実施例1〜5及び比較例1の透過液(膜透過画分)は、味又は臭いのマスキング効果を有する。本発明の製造方法により、得られるマスキング剤の量が著しく増えることが理解される。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
試験例2
実施例6及び7の濃縮液(膜非透過画分)並びにモルトエキス原液について、吸光度(波長:500nm、光路長:10mm)の測定に分光光度計(日本分光(株)のV-560を使用)を用いて、前述した方法により、色価(波長:500nm)/固形分含有率の値を求めた。
その結果、モルトエキス原液の色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が53であったのに対し、実施例6の濃縮液の色価(波長:500nm)/固形分含有率の値は125.4であり、実施例7の濃縮液の色価(波長:500nm)/固形分含有率の値は177.0であった。
これにより、本発明の濃色モルトエキスは、高い、色価(波長:500nm)/固形分含有率の値を有することが理解される。
【0115】
実施例8(炭酸飲料)
実施例1〜5で得られた濃縮液を乾燥して濃色モルトエキスを調製する。これらの各種6濃色モルトエキスを用いて、表3及び4に示す処方に従ってシロップを調製し、得られたシロップ20部に対して炭酸水80部を加え、酸性炭酸飲料(コーラ風飲料)を調製する。当該酸性炭酸飲料は、濃い茶系の色を呈する。
【0116】
【表3】

【0117】
【表4】

【0118】
実施例9(漬物)
表5に示す各調味料を混合した調味液に刻み白菜漬、刻みダイコン漬、刻みネギ漬、刻みニンジン漬を添加し、漬物を調製する。当該漬物は、大根や魚醤に由来する不快味や不快臭が顕著に低減され、まろやかな呈味を有する。
【0119】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の濃色モルトエキスは、飲食品の着色に使用できる。
本発明の製造方法により製造される味又は臭いのマスキング剤は、飲食品の不快味のマスキング等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分の全体に対する分子量2000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が70以上である濃色モルトエキス。
【請求項2】
固形分の全体に対する分子量4000以下の固形分の重量百分率が20w/w%未満であり、かつ色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が80以上である請求項1に記載の濃色モルトエキス。
【請求項3】
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
低分子量の固形分を除去する工程
を含む、濃色モルトエキスの製造方法。
【請求項4】
前記低分子化が、酸加水分解、及び酵素処理から選択される1種以上の処理によって実施される請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記低分子化が、酵素処理によって実施され、前記酵素がアミラーゼ、及びプロテアーゼから選択される1種以上である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記低分子量の固形分の除去が、限外濾過、吸着樹脂による処理、及び微生物による処理から選択される1種以上の処理によって実施される請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法で製造される濃色モルトエキス。
【請求項8】
請求項1、2及び7のいずれかに記載の濃色モルトエキスを含有する茶系色素。
【請求項9】
請求項1、2及び7のいずれかに記載の濃色モルトエキスを含有する着色製品。
【請求項10】
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
高分子量の固形分を除去する工程
を含む味又は臭いのマスキング剤の製造方法。
【請求項11】
前記低分子化が、酸加水分解、及び酵素処理から選択される1種以上の処理によって実施される請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記低分子化が、酸加水分解によって実施される請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記低分子化が、酵素処理によって実施され、前記酵素がアミラーゼ、及びプロテアーゼから選択される1種以上である請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記高分子量の固形分の除去が、限外濾過、及び吸着樹脂による処理から選択される1種以上の処理によって実施される請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法で製造される味又は臭いのマスキング剤。
【請求項16】
請求項15に記載の味又は臭いのマスキング剤を含有する可食性製品。
【請求項17】
色価(波長:500nm)/固形分含有率の値が30以上であるモルトエキス原液を用意する工程、
前記モルトエキス原液中の固形分を低分子化する工程、及び
高分子量の固形分と低分子量の固形分とを分離して、高分子量の固形分を含有する濃色モルトエキス及び低分子量の固形分を含有する味又は臭いのマスキング剤を得る工程
を含む、濃色モルトエキス及び味又は臭いのマスキング剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−99297(P2013−99297A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245738(P2011−245738)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】