説明

濡れた多孔質材料を用いるイオン生成

サンプル調製と前処理とを組み合わせうるシステムおよび方法、ならびにサンプルの分析に圧縮空気の支援も溶媒の連続流も必要としない、サンプルを質量分析するためのイオン化プロセスに対する満たされていないニーズが存在する。本発明は、一般にサンプルの質量分析分析のためのシステムおよび方法に関する。ある実施形態において、本発明は、高電圧源に接続された少なくとも1つの多孔質材料であって、溶媒の流れとは分離している多孔質材料、を含む質量分析プローブを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国仮特許出願第61/174,215号(2009年4月30日出願)、米国仮特許出願第61/246,707号(2009年9月29日出願)、および米国仮特許出願第61/308,332号(2010年2月26日出願)に対する優先権を主張する。これらの仮特許出願の内容はその全体が、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、一般にサンプルの質量分析分析のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析法は、分析化学、特に生命科学の重要な研究および応用に用いられる非常に高感度の分析方法である。エレクトロスプレーイオン化(ESI:electrospray ionization)は、溶液相における分子のイオン化用として最もよくキャラクタライズされ、かつ最も効率的な方法であると一般に見做されている。このプロセスは、便宜上、3つの段階:液滴形成、液滴蒸発およびイオン形成に分けることができる(非特許文献1)。質量分析計のプローブ中を流れる溶液に強い電界を印加したときに、プローブの先端部にテイラーコーンが形成され、結果として小さい液滴のミストがコーンの先端部から放出される。自由な液滴の蒸発とクーロン力とに起因して、サンプル検体のイオンが生成される。このイオンが質量分析計に入り、その後、分析される。
【0004】
多種類のサンプルの分析にESIを使用しうるためには、依然としてサンプル調製が必要なステップであることが、ESIでは問題である。ESI質量分析法によってサンプルを分析する前に、サンプルは、サンプルを精製するため、例えば、塩および洗浄剤を除去するための抽出および濾過プロトコルを受けることになるであろう。かかるプロトコルは、複雑で時間がかかり、費用もかかる。さらにまた、精製プロセス中に使用される試薬が、精製されたサンプルにおける標的検体のその後の分析を阻害することもありうる。加えて、溶液状でないサンプルは、ESI分析前に、精製のみならず溶解もされなければならない。
【0005】
最近になって、大気イオン化の概念が発展し、現在、この大気イオン化ファミリーは、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI:desorption electrospray ionization)およびリアルタイム直接分析(DART:direct analysis in real time)のような、20を超えるメンバーを有する。質量分析法による大気イオン化は、多くの、またはいかなるサンプル調製および/または予備分離もなしに、周囲環境下において、濃縮相サンプルから検体をイオン化することを可能にして、複合混合物および生物学的サンプルのリアルタイムかつin situの分析に解決策を提供する。これらの大気イオン化法は、生命科学、環境モニタリング、法医学的応用および治療用分析における質量分析の革新を先導し、かつ拡大している。しかしながら、上記の大気イオン化技術では、サンプルの分析に圧縮空気の支援、溶媒の連続流、および高圧電源が依然として必要とされる。
【0006】
サンプル調製と前処理とを組み合わせうるシステムおよび方法、ならびにサンプルの分析に圧縮空気の支援も溶媒の連続流も必要としない、サンプルを質量分析するためのイオン化プロセスに対する満たされていないニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gaskell,S.J.Journal of Mass Spectrometry 1997,32,677−688
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般に、質量分析分析のために、流体および固体サンプルからイオンを発生させる新規のシステムおよび方法に関する。液体を保持して移動させるために、濾紙または同様の材料のような、多孔質材料が用いられ、この材料に高電圧が印加されたときに、材料の端部から直接にイオンが生成される。多孔質材料は、溶媒の流れとは分離した(すなわち、とは別の、または切り離された)状態に保たれる。あるいは、多孔質材料上にサンプルがスポットされるか、または多孔質材料が濡らされて、サンプルを含んだ表面を拭き取るために用いられる。スポットされるか、または拭き取られたサンプルを含む多孔質材料は、次に濡らされ、かつ高電圧源に接続されて、サンプルのイオンを生成し、その後、これらのイオンが分析される。サンプルは、別個の溶媒流の必要なしに、多孔質材料中を輸送される。
【0009】
本発明のデバイスおよび方法は、サンプルの質量分析に必要なイオン化プロセスを、サンプル調製および前処理と組み合わせる。本発明のデバイスおよび方法は、生体液および組織などの複合マトリックスにおける、未処理の生物学的サンプル中の化学物質を、サンプル調製なしに、迅速かつ直接に分析することを可能にする。特定の実施形態において、本発明のデバイスおよび方法は、血液または尿の乾燥スポットを分析することを可能にする。
【0010】
本発明の様態は、高電圧源に接続された多孔質材料であって、溶媒の流れとは分離している多孔質材料を含む質量分析プローブを提供する。例となる多孔質材料は、紙、例えば濾紙、またはPVDF膜を含む。多孔質材料は、任意の形状とすることができる。ある実施形態において、多孔質材料は、三角形の小片として提供される。
【0011】
ある実施形態において、プローブは、離散量の溶媒、例えば、多孔質材料に付けられた液滴(単数または複数)をさらに含む。溶媒は、液滴(単数または複数)として、多孔質材料を濡らすのに十分な量が付けられる。多孔質材料に付けられたときに、溶媒は、多孔質材料中を通るサンプルの輸送を支援することができる。溶媒は、内部標準を含むことができる。溶媒/基材の組み合わせによって、異なった化学的特性を持つサンプル成分の差異的な保持が可能になる。ある実施形態において、溶媒は、塩およびマトリックス効果を最小限に抑える。他の実施形態において、溶媒は、選択された検体のオンラインの化学的誘導体化を可能にする化学試薬を含む。
【0012】
本発明の別の様態は、高電圧源に接続された多孔質材料であって、溶媒の流れから隔てられた状態に置かれた多孔質材料を含んだプローブ;および質量分析器を含む、サンプル材料を分析するためのシステムを提供する。質量分析器は、ベンチトップ型質量分析計またはハンドヘルド型質量分析計の質量分析器とすることができる。例となる質量分析器は、四重極イオントラップ、直線状イオントラップ、円筒状イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴トラップおよびオービトラップを含む。
【0013】
本発明の別の様態は、サンプルを多孔質材料に接触させることであって、多孔質材料は、溶媒の流れから隔てられた状態に保たれる、接触させること;多孔質材料から排出されるサンプル中の検体のイオンを発生させるために、多孔質材料に高電圧を印加すること;および、排出されたイオンを分析することを含んだ、サンプルを分析するための方法を含む。本方法は、離散量の溶媒、例えば、液滴(単数または複数)を多孔質材料に付けることをさらに含むことができる。ある実施形態において、分析することは、サンプル中の検体の質量スペクトルを発生させるために、質量分析器を提供することを含む。
【0014】
ある実施形態において、サンプルは液体である。他の実施形態において、サンプルは固体である。サンプルが固体である実施形態において、サンプルを表面から拭き取るために、多孔質材料を用いることができる。固体が拭き取られる前かまたは後に、多孔質材料に溶媒を付けることができる。例となるサンプルは、化学種または生物学的種を含む。
【0015】
本発明の別の様態は、サンプルをイオン化する方法であって、サンプル中の検体のイオンを発生させるために、多孔質材料に高電圧を印加することを含み、多孔質材料は、溶媒流から隔てられたままである方法を提供する。例となる多孔質材料は、紙またはPVDF膜を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1Aは、エレクトロスプレーイオン化のために紙片に供給されるサンプル溶液の図面である。
【図1B】図1Bは、紙上に予めスポットされるサンプル溶液、およびエレクトロスプレーイオン化のために、次に紙に供給される溶媒の液滴の図面である。
【図2A】図2Aは、本発明のプローブを用いた、ヘロイン(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMSスペクトルである。
【図2B】図2Bは、ヘロイン(濃度:1ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMS/MSスペクトルである。
【図3A】図3Aは、本発明のプローブを用いた、カフェイン(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMSスペクトルである。
【図3B】図3Bは、カフェイン(濃度:10ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMS/MSスペクトルである。
【図4A】図4Aは、本発明のプローブを用いた、ベンゾイルエクゴニン(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMSスペクトルである。
【図4B】図4Bは、ベンゾイルエクゴニン(濃度:10ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMS/MSスペクトルである。
【図5A】図5Aは、本発明のプローブを用いた、セリン(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMSスペクトルである。
【図5B】図5Bは、セリン(濃度:100ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMS/MSスペクトルである。
【図6A】図6Aは、本発明のプローブを用いた、ペプチド・ブラジキニン2−9(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMSスペクトルである。
【図6B】図6Bは、ブラジキニン2−9(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v)のMS/MSスペクトルである。
【図7A】図7Aは、「スポット」法によって全血サンプルからヘロインを検出できることを示すMS/MSスペクトルである。
【図7B】図7Bは、ヘロインのない血液スポットのMS/MSスペクトルを示す。
【図8A】図8AのMS/MSスペクトルは、「スポット」法によって、未処理の尿サンプルからヘロインを検出できることを示す。
【図8B】図8Bは、ヘロインのない尿スポットのMS/MSスペクトルを示す。
【図9A】図9Aは、コーラ飲料からサンプル調製なしに検出されたカフェインを示すMSスペクトルである。
【図9B】図9Bは、コーヒー粉末から検出されたカフェインを示すMSスペクトルである。紙の薄片を用いて表面を拭き取ることによって、コーヒーバッグからコーヒー粉末が採集された。
【図10A】図10は、サンプル調製なしの尿分析のMSスペクトルを示し、図10Aは、コーヒーを消費したヒトからの尿にカフェインが検出されたことを示すMSスペクトルである。
【図10B】図10は、サンプル調製なしの尿分析のMSスペクトルを示し、図10Bは、コーヒーを消費しなかったヒトからの尿にカフェインが検出されなかったことを示すMSスペクトルである。
【図11A】図11は、同じパラメータ(約2kV、溶媒:MeOH:HO=1:1)を用いた、(A)三角紙および(B)PVDF膜上でのペプチド分析(10ppmのブラジキニン2−9)間の違いを示すMSスペクトルである。
【図11B】図11は、同じパラメータ(約2kV、溶媒:MeOH:HO=1:1)を用いた、(A)三角紙および(B)PVDF膜上でのペプチド分析(10ppmのブラジキニン2−9)間の違いを示すMSスペクトルである。
【図12A】図12は、4種類の植物のスライス組織を用いた、植物組織の直接的なMSスペクトルを示す。(A)タマネギ、(B)スプリング・オニオン、ならびに2つの異なった葉(C)および(D)。
【図12B】図12は、4種類の植物のスライス組織を用いた、植物組織の直接的なMSスペクトルを示す。(A)タマネギ、(B)スプリング・オニオン、ならびに2つの異なった葉(C)および(D)。
【図12C】図12は、4種類の植物のスライス組織を用いた、植物組織の直接的なMSスペクトルを示す。(A)タマネギ、(B)スプリング・オニオン、ならびに2つの異なった葉(C)および(D)。
【図12D】図12は、4種類の植物のスライス組織を用いた、植物組織の直接的なMSスペクトルを示す。(A)タマネギ、(B)スプリング・オニオン、ならびに2つの異なった葉(C)および(D)。
【図13A】図13は、ビタミンCのMS/MSスペクトルを示し、図13Aは、サンプル調製なしのタマネギの直接分析。
【図13B】図13は、ビタミンCのMS/MSスペクトルを示し、図13Bは、標準液を使用。
【図14A】図14Aは、紙上の乾燥血液スポット分析を示す絵である;0.4μLの全血が、クロマトグラフィ用紙の三角形の切片(典型的に高さ10mm、底辺5mm)に直接に付けられる。銅クリップが、紙の切片をLTQ質量分析計(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA)の注入口前に保持し、10μLのメタノール/水(1:1 v/v)で濡らした紙に直流電圧(4.5kV)が印加される。
【図14B】図14Bは、イマチニブ(GLEEVEC)の分子構造と、4μg/mLのイマチニブを含んだ0.4μLの全血のペーパースプレー・タンデム型質量スペクトルとを示す。イマチニブは、MS/MSトランジション m/z 494□m/z 394(挿入図)によって同定され、かつ定量化される(挿入図)。
【図14C】図14Cは、イマチニブ(62.5〜4μg/mL)およびそのアイソトポマーのイマチニブ−d8(1μg/mL)を加えた全血の定量分析を示す。挿入図のプロットは、低濃度範囲を示す。
【図15】図15は、アンジオテンシンI溶液のペーパースプレー質量スペクトルである。挿入図は、質量範囲630〜700にわたる拡大図を示す。
【図16】図16は、本発明のプローブによる動物組織中のホルモンの直接分析を示す質量スペクトルである。
【図17A】図17Aは、ヒト前立腺腫瘍組織の直接分析を示す質量スペクトラムである。
【図17B】図17Bは、ヒト前立腺正常組織の直接分析を示す質量スペクトラムである。
【図18】図18は、10μg/mLのアテノロールを加えた全血の質量スペクトルである。データは、本発明のシステムおよび方法をハンドヘルド型質量分析計と組み合わせることによって得られた。
【図19A】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図19B】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図19C】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図19D】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図19E】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図19F】図19A〜Fは、6つの異なった種類の紙(異なった細孔サイズを持つワットマン濾紙:(a)3μm)、(b)4〜7μm、(c)8μm、(d)11μm、(e)グラスファイバ紙、(f)クロマトグラフィ紙)からスプレーされたコカインの質量スペクトルを示す。スプレー電圧は、4.5kVであった。
【図20A】図20Aは、ペーパースプレーの空間分布をキャラクタライズするための図式的なセットアップを示す。
【図20B】図20Bは、質量分析計の注入口に対して、プローブがx−y面内で移動したときのm/z 304の相対強度を示す2次元等高線図である。
【図20C】図20Cは、コカイン溶液を異なった濃度または容量で紙上に添着するか、あるいはテフロン(登録商標)膜でシールしたときのm/z 304の信号継続時間を示すグラフである。
【図21A】図21は、純粋な化学溶液のMSスペクトルとそれらに対応するMS/MSスペクトルとの一組である。スペクトルは、(A)セリン、(B)メタドン、(C)ロキシスロマイシン、および(D)ブラジキニン2−9に対して得られた。
【図21B】図21は、純粋な化学溶液のMSスペクトルとそれらに対応するMS/MSスペクトルとの一組である。スペクトルは、(A)セリン、(B)メタドン、(C)ロキシスロマイシン、および(D)ブラジキニン2−9に対して得られた。
【図21C】図21は、純粋な化学溶液のMSスペクトルとそれらに対応するMS/MSスペクトルとの一組である。スペクトルは、(A)セリン、(B)メタドン、(C)ロキシスロマイシン、および(D)ブラジキニン2−9に対して得られた。
【図21D】図21は、純粋な化学溶液のMSスペクトルとそれらに対応するMS/MSスペクトルとの一組である。スペクトルは、(A)セリン、(B)メタドン、(C)ロキシスロマイシン、および(D)ブラジキニン2−9に対して得られた。
【図22−1】図22は、複雑な混合物からの化学物質の分析とサンプル調製なしの表面からの直接分析とを示す一連の質量スペクトルであり、図22Aは、(A)正モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Bは、(B)負モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Cは、カフェインの質量スペクトルである。図22Dは、安息香酸カリウムの質量スペクトルである。図22Eは、アセスルファムカリウムの質量スペクトルである。図22Fは、尿から検出されたカフェインの質量スペクトルである。図22Gは、そのときの発明のプローブによる表面の拭き取り後に、デスクトップ表面から直接に検出されたヘロインの質量スペクトルである。
【図22−2】図22は、複雑な混合物からの化学物質の分析とサンプル調製なしの表面からの直接分析とを示す一連の質量スペクトルであり、図22Aは、(A)正モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Bは、(B)負モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Cは、カフェインの質量スペクトルである。図22Dは、安息香酸カリウムの質量スペクトルである。図22Eは、アセスルファムカリウムの質量スペクトルである。図22Fは、尿から検出されたカフェインの質量スペクトルである。図22Gは、そのときの発明のプローブによる表面の拭き取り後に、デスクトップ表面から直接に検出されたヘロインの質量スペクトルである。
【図22−3】図22は、複雑な混合物からの化学物質の分析とサンプル調製なしの表面からの直接分析とを示す一連の質量スペクトルであり、図22Aは、(A)正モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Bは、(B)負モードにおいて紙上で直接に分析されたコカコーラ(コーラ飲料)の質量スペクトルである。図22Cは、カフェインの質量スペクトルである。図22Dは、安息香酸カリウムの質量スペクトルである。図22Eは、アセスルファムカリウムの質量スペクトルである。図22Fは、尿から検出されたカフェインの質量スペクトルである。図22Gは、そのときの発明のプローブによる表面の拭き取り後に、デスクトップ表面から直接に検出されたヘロインの質量スペクトルである。
【図23A】図23Aは、血液分析に用いられる本発明のプローブの画像を示す。この実施形態において、多孔質材料は紙である。左側のパネルは、全血でスポットする前である。中央のパネルは、全血でスポットして、スポットを乾燥させた後である。右側のパネルは、紙にメタノールを加えて紙の中を進ませた後である。右側のパネルは、メタノールが、血液スポットと相互作用して、イオン化および分析のために、検体を紙の先端部へ進ませたことを示す。
【図23B】図23Bは、全血からのアテノロールの質量スペクトルである。
【図23C】図23Cは、全血からのヘロインの質量スペクトルである。
【図24−1】図24は、TLCによって分離された2つの色素、メチレンブルー(m/z 284)およびメチルバイオレット(m/z 358.5)の分析を示す。色素の混合溶液(0.1μlの1mg/mL溶液)が、TLCおよびペーパースプレーMS分析前に、クロマトグラフィ紙(4cm×0.5cm)に付けられ、乾燥された。
【図24−2】図24は、TLCによって分離された2つの色素、メチレンブルー(m/z 284)およびメチルバイオレット(m/z 358.5)の分析を示す。色素の混合溶液(0.1μlの1mg/mL溶液)が、TLCおよびペーパースプレーMS分析前に、クロマトグラフィ紙(4cm×0.5cm)に付けられ、乾燥された。
【図24−3】図24は、TLCによって分離された2つの色素、メチレンブルー(m/z 284)およびメチルバイオレット(m/z 358.5)の分析を示す。色素の混合溶液(0.1μlの1mg/mL溶液)が、TLCおよびペーパースプレーMS分析前に、クロマトグラフィ紙(4cm×0.5cm)に付けられ、乾燥された。
【図25】図25は、本発明のプローブのための様々な形状、厚さ、および角度を示す。図25Aは、鋭さを示す。図25Bは、先端部の角度を示す。図25Cは、紙の厚さを示す。図25Dは、複数のスプレー先端部を持つデバイスを示す。図25Eは、鋭い針で作製されたマイクロスプレー先端部を持つDBSカードを示す。
【図26】図26は、円錐状C4ジップチップからの直接スプレーを用いた、ヒト血清からのイマチニブの一連の質量スペクトルである。イマチニブを含んだヒト血清サンプル(各1.5μL)が、多孔質のC4抽出材料中を3回通され、その後、スプレーを生成するために4kVの正の直流電圧が印加され、ジップチップ上に3μLのメタノールが加えられた。図26Aは、5μg/mLに対するMSスペクトルを示す。図26Bは、5ng/mLに対するMS/MSスペクトルを示す。
【図27A】図27Aは、本発明のプローブのための様々な先端角度を示す写真である。角度は、左から右へそれぞれ30、45、90、112、126度である。
【図27B】図27Bは、MS信号強度に対する角度の影響を示すグラフである。すべてのMS信号は、90度の先端部を用いたMS信号に規格化された。
【図28A】図28Aは、本発明の高スループットプローブ・デバイスの写真である。
【図28B】図28Bは、デバイスの1つの先端部から質量分析計の注入口中へのスプレーを示す。
【図28C】図28Cは、高スループット・モードにおけるMS信号強度を示す一連の質量スペクトルである。
【図29A】図29Aは、本発明のプローブを用いた、動物組織の直接分析のためのプロトコルを描いた概略図である。
【図29B】図29Bは、組織で検出された様々な化学物質を示す質量スペクトルである。
【図29C】図29Cは、組織で検出された様々な化学物質を示す質量スペクトルである。
【図29D】図29Dは、組織で検出された様々な化学物質を示す質量スペクトルである。
【図30A】図30Aは、普通紙上での乾燥血清スポットの質量スペクトル分析を示す。
【図30B】図30Bは、ベタインアルデヒド(BA:betaine aldehyde)クロリドを予め添着した紙上での乾燥血清スポットの質量スペクトル分析を示す。
【図30C】図30Cは、反応生成物[M+BA](m/z 488.6)のMS/MS分析を示す。
【図31A】図31Aは、修飾された紙基材を用いて記録されたMS/MSスペクトルを示す。
【図31B】図31Bは、修飾されていない紙基材を用いて記録されたMS/MSスペクトルを示す。
【図32】図32は、負のイオン源電位を用いてイオンを発生させることができるが、正に帯電したイオンが質量分析されることを示す質量スペクトルである。
【図33】図33Aは、容量制御バイアルおよびオーバーフロー・バイアルを持つサンプル・カートリッジのデザインを示す概略図である。容量制御バイアルの底部を塞ぐために、内部標準化学物質を含んだ可溶性プラグが用いられる。図33Bは、制御された容量の血液から紙上に乾燥血液スポットを調製するために、血液サンプルをカートリッジに付ける段階的なプロセスを示す。
【図34】図34Aは、食料雑貨店から購入し、紙で拭き取ったレモンの皮上に存在した農薬の質量スペクトルを示す。図34Bは、食料雑貨店から購入し、紙で拭き取ったレモンの皮上に存在した農薬の質量スペクトルを示す。
【図35】図35は、複数の角を持つペーパースプレー用基材のデザインを示す。スプレーに用いられる角の角度は、他の角より小さい。
【図36】図36Aは、SU−8 2010フォトレジストを用いて、クロマトグラフィ紙の小片上に作製されたスプレー先端部を示す。図36Bは、SU−8 2010フォトレジストを用いて、クロマトグラフィ紙の小片上に作製されたスプレー先端部を示す。図36Cは、アスパラギン類の混合物を含んだメタノール/水溶液のMSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
質量分析分析のために、流体および固体からイオンを発生させる新しい方式が記載される。液体および固体を保持して移動させるために、紙(例えば、濾紙もしくはクロマトグラフィ紙)または他の同様の材料などの多孔質材料が用いられ、この材料に高電圧が印加されたときに、材料の端部から直接にイオンが生成される(図1)。多孔質材料は、溶媒の連続流のような溶媒の流れとは分離した(すなわち、から隔てられた、または切り離された)状態に保たれる。あるいは、サンプルが、多孔質材料上にスポットされるか、またはサンプルを含んだ表面から多孔質材料上へ拭き取られる。スポットされるか、または拭き取られたサンプルは、次に高電圧源に接続されて、サンプルのイオンを生成し、続いてこれらのイオンが質量分析される。サンプルは、別個の溶媒流の必要なしに、多孔質材料中を輸送される。検体を輸送するための圧縮空気の支援は必要ではない;むしろ、質量分析計前に保持された多孔質材料に、単に電圧が印加されるだけである。
【0018】
ある実施形態において、多孔質材料は、任意のセルロースに基づく材料である。他の実施形態において、多孔質材料は、綿、リネンウール、合成繊維品、または植物組織のような、非金属の多孔質材料である。さらに他の実施形態において、多孔質材料は、紙である。紙の利点は、以下を含む:コスト(紙は、安価である);紙は、十分に商品化されており、その物理的・化学的特性を調整できる;紙は、液体サンプルから微粒子(細胞およびダスト)を濾過できる;紙は、容易に形作られる(例えば、カットする、裂く、または折り畳むのが容易である);液体が毛細管作用下で紙の中を(例えば、外部ポンピングおよび/または電源なしに)流れる;しかも紙は、ディスポーザブルである。
【0019】
ある実施形態において、多孔質材料は、スプレーのために最適化された巨視的な角度を持つ固体先端部と集積化される。これらの実施形態において、多孔質材料は、固体タイプでスプレーされるための検体を含んだ、溶媒の濾過、予備濃縮、およびウィッキングに用いられる。
【0020】
特定の実施形態において、多孔質材料は、濾紙である。例となる濾紙は、セルロース濾紙、無灰濾紙、ニトロセルロース紙、ガラス・マイクロファイバ濾紙、およびポリエチレン紙を含む。任意の細孔サイズを持つ濾紙を用いることができる。例となる細孔サイズは、等級1(11μm)、等級2(8μm)、等級595(4〜7μm)および等級6(3μm)を含む、細孔サイズは、スプレー材料内での液体の輸送に影響するだけでなく、先端部におけるテイラーコーンの形成にも影響を及ぼすであろう。最適な細孔サイズは、安定したテイラーコーンを発生させて、液体の蒸発を低減することになろう。濾紙の細孔サイズは、濾過における重要なパラメータでもある、すなわち、紙は、オンラインの前処理デバイスとしての機能を果たす。低いnm範囲の細孔サイズを持つ市販の再生セルロース製限外濾過膜は、1000Daと小さい粒子を保持するように設計されている。1000Daから100,000Daに及ぶカットオフ分子量を持つ限外濾過膜を商業的に入手することができる。
【0021】
本発明のプローブは、単に多孔質材料の端部で発生する高電界を利用することだけに基づく、マイクロメートル・スケールの液滴の発生用として良好に機能する。特定の実施形態において、多孔質材料は、イオン発生のために、三角形の先端のような、巨視的に鋭い先端を持つように形作られる。本発明のプローブは、様々な先端幅を有してもよい。ある実施形態において、プローブの先端幅は、少なくとも約5μm以上、少なくとも約10μm以上、少なくとも約50μm以上、少なくとも約150μm以上、少なくとも約250μm以上、少なくとも約350μm以上、少なくとも約400μm以上、少なくとも約450μm以上などである。特定の実施形態において、先端幅は、少なくとも350μm以上である。他の実施形態において、プローブの先端幅は、約400μmである。他の実施形態において、本発明のプローブは、円錐形状のような3次元形状を持つ。
【0022】
上述のように、液滴を輸送するために圧縮空気の支援は必要ではない。検体の大気イオン化は、これらの帯電した液滴に基づいて実現され、溶液相サンプルを質量分析するための簡単で使い易いアプローチを提供する。
【0023】
サンプル溶液は、質量分析計の注入口前に保持された多孔質材料に、前処理なしに直接に付けられる。その後、濡れた多孔質材料に高電位を印加することによって、大気イオン化が行われる。ある実施形態において、多孔質材料は、液体を輸送するための数的な細孔およびマイクロチャンネルを含むタイプの多孔質材料である、紙である。細孔およびマイクロチャンネルは、紙がフィルタ・デバイスとして機能することも可能にし、物理的に汚れた、または汚染したサンプルを分析するのに役立つ。
【0024】
他の実施形態において、多孔質材料は、多孔質材料中にマイクロチャンネルを生成するため、或いは本発明のプローブとして用いる材料の特性を向上させるために処理される。例えば、紙は、マイクロチャンネルまたは構造を紙上に生成するために、シリル化パターン形成プロセスを受けてもよい。かかるプロセスは、紙のシリル化をもたらすために、例えば、紙の表面をトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1−トリクロロシランに曝露することを含む。他の実施形態において、多孔質材料中にマイクロチャンネルを生成するため、あるいは本発明のプローブとして用いる材料の特性を向上させるために、ソフトリソグラフィ・プロセスが用いられる。他の実施形態において、親水性の低い化合物を予め濃縮するために、紙の中に疎水性の捕獲領域が作り出される。
【0025】
フォトリソグラフィ、プリント法またはプラズマ処理を用いて、紙上に疎水性領域のパターンを形成し、200〜1000μmの横方向フィーチャを持つ親水性チャンネルを規定することができる。Martinez et al.(Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,1318−1320);Martinez et al.(Proc.Natl Acad.Sci.USA 2008,105,19606−19611);Abe et al.(Anal.Chem.2008,80,6928−6934);Bruzewicz et al.(Anal.Chem.2008,80,3387−3392);Martinez et al.(Lab Chip 2008,8,2146−2150);およびLi et al.(Anal.Chem.2008,80,9131−9134)を参照。これらそれぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。かかる紙ベースのデバイス上に添着された液体サンプルは、毛細管作用によって駆動され、親水性チャンネルに沿って進むことができる。
【0026】
修飾された表面の別の用途は、表面との、および溶液との親和性の違いに従って、化合物を分離または濃縮することである。いくつかの化合物は、優先的に表面上に吸収され、一方でマトリックス中の他の化学物質は、水相内に留まることを選ぶ。洗浄を通じて、サンプル・マトリックスを除去することができるのに対して、対象化合物は表面上に留まる。この対象化合物は、後の時点で、他の高親和性溶媒によって表面から除去することができる。プロセスの繰り返しは、元のサンプルの脱塩、さらに濃縮も助ける。
【0027】
本発明の方法およびシステムは、質量スペクトル分析用の検体を保持して輸送するために、多孔質材料、例えば、紙を用いる。多孔質材料に高電圧を印加してイオンを発生させるために、多孔質材料中において、サンプル中の検体が、統合された仕方で予備濃縮、富化、および精製される。ある実施形態では、多孔質材料中を通る検体の移動を支援するために、離散量(例えば、1つの液滴または少数の液滴)の輸送溶液が付けられる。ある実施形態では、検体は、多孔質材料に付けられた溶液中にすでに存在する。かかる実施形態では、多孔質材料に追加的な溶媒を加える必要はない。他の実施形態では、検体は、表面を拭き取ることによって容易に採集されうる粉末サンプル中に存在する。本発明のシステムおよび方法は、植物または動物組織、あるいは生体内組織の分析を可能にする。
【0028】
本発明の方法およびシステムは、エピネフリン、セリン、アトラジン、メタドン、ロキシスロマイシン、コカインおよびアンジオテンシンIを含めて、多種多様な小分子の分析に用いることができる。すべてが、様々な多孔質表面からの高品質の質量およびMS/MSプロダクトイオン・スペクトル(以下の実施例を参照)を表示する。本発明の方法およびシステムは、検体濃度がおよそ0.1から10μg/mL(総量検体50pgから5ng)の小容量溶液、典型的に数μLの使用を可能にして、1から数分続くシグナルを与える。
【0029】
本発明の方法およびシステムは、タンパク質およびペプチド類を含めて、多種多様な生体分子の分析にも用いることができる。本発明の方法は、ゲルからのオリゴヌクレオチド類を分析するためにも用いることができる。ゲル中でのオリゴヌクレオチド類の電気泳動分離後に、当分野で知られる方法を用いて、対象バンド(単数または複数)が、多孔質材料にブロットされる。ブロッティングは、ゲル中のバンドにおける少なくともいくらかのオリゴヌクレオチド類の多孔質材料への移動をもたらす。その後、多孔質材料に高電圧源が接続され、オリゴヌクレオチドがイオン化されて、質量スペクトル分析のために質量分析計中にスプレーされる。
【0030】
本発明の方法およびシステムは、全血または尿のような、複合混合物の分析に用いることができる。血液中の薬剤または他の化合物を分析するための典型的な手順は、分析前にできるだけ多くの干渉を取り除くように設計された多段階プロセスである。初めに、血液細胞が、およそ1000×gで15分間の遠心分離によって、血液の液体部分から分離される(Mustard,J.F;Kinlough−Rathbone,R.L.;Packham,M.A.Methods in Enzymology;Academic Press,1989)。次に、結果として生じた血漿中に内部標準が加えられ、できるだけ多くのマトリックス化学物質を除去し、一方では検体のほとんどすべてを回収するという目的で、液液抽出または固相抽出が行われる(Buhrman,D.L.;Price,P.I.;Rudewicz,P.J.Journal of the American Society for Mass Spectrometry 1996,7,1099−1105)。抽出相は、通常は溶媒を蒸発させることによって乾燥され、その後、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:high performance liquid chromatography)の流動相として用いられる溶媒中に再懸濁される(Matuszewski,B.K.;Constanzer,M.L.;Chavez−Eng,C.M.Ithaca,New York,Jul 23−25 1997;882−889)。最終的に、サンプルは、HPLCを行う過程で、およそ5〜10分間にわたって分離されて、溶離液が、エレクトロスプレーイオン化・タンデム型質量分析によって分析される(Hopfgartner,G;Bourgogne,E.Mass Spectrometry Reviews 2003,22,195−214)。
【0031】
本発明の方法およびシステムは、上記のサンプル後処理ステップを回避する。本発明の方法およびシステムは、抽出手順をわずかに修正して、乾燥血液スポットを同様の方法で分析する。初めに、専用デバイスを用いて、それぞれの乾燥血液スポットから同一サイズのディスクがパンチアウトされる。次に、これらのディスク上の材料が、内部標準を含んだ有機溶媒中に抽出される(Chace,D.H.;Kalas,T.A.;Naylor,E.W.Clinical Chemistry 2003,49,1797−1817)。抽出されたサンプルが紙の基材上で乾燥されて、本明細書に記載されるように分析が進む。
【0032】
以下の例は、本発明の方法およびシステムが、尿中のカフェイン、ヒトの指上の50pgのコカイン、デスクトップ表面上の100pgのヘロイン、ならびに未変化の腎臓組織におけるホルモン類およびリン脂質類のような、複合混合物の個別成分を、分析前のサンプル調製の必要なしに、直接に検出できることを示す(以下の実施例を参照)。本発明の方法およびシステムは、紙へ直接に移した針生検組織切片を相次いで検査することによって、簡単な画像化実験を行うことを可能にする。
【0033】
溶液からの検体が、検査のために多孔質材料に付けられ、この溶液の溶媒成分は、エレクトロスプレー溶媒としての役割を果たすことができる。ある実施形態では、検体(例えば、固体または溶液)が、多孔質材料、例えば、紙上に予めスポットされ、検体を溶解して質量スペクトル分析用にスプレー中へ輸送するために、多孔質材料に溶媒が付けられる。
【0034】
ある実施形態において、分離/抽出およびイオン化を支援するために、多孔質材料に溶媒が付けられる。質量分析分析に適合する任意の溶媒を用いることができる。特定の実施形態において、好ましい溶媒は、エレクトロスプレーイオン化にも利用される溶媒であろう。例となる溶媒は、水、メタノール、アセトニトリル、およびTHFの組み合わせを含む。有機含有量(メタノール、アセトニトリルなどの水に対する比率)、pH、および揮発性塩(例えば、酢酸アンモニウム)は、分析すべきサンプルに依存して変化しうる。例えば、薬物イマチニブのような、塩基性分子は、pHが低いほどより効率的に抽出され、かつイオン化される。シロリムスのような、イオン化基はないが多数のカルボニル基を持つ分子は、溶媒がアンモニウム塩を含むと付加体が形成されるために、より良好にイオン化する。
【0035】
ある実施形態においては、多次元のアプローチが試みられる。例えば、サンプルは、1次元に沿って分離され、続いて別の次元でイオン化される。これらの実施形態では、分離とイオン化とを個別に最適化することができ、それぞれの相に対して異なった溶媒を用いることができる。
【0036】
他の実施形態において、紙上での検体の輸送が、溶媒と電界とを組み合わせることによって達成される。高電位を印加したときに、紙上で検体が移動する方向は、溶液中における検体の帯電形態の極性に関連すると思われる。濡れた紙上の一点に電極を置くことによって、スプレー前の検体の予備濃縮も、紙上で達成することができる。紙の先端部付近に接地電極を置くことによって、直流電圧を印加したときに、濡れた多孔質材料を通して強電界が生成され、帯電した検体は、この電界下で前方へ駆動される。スプレーが開始される前に、特定の検体を紙のいくつかの部分で濃縮させることもできる。
【0037】
ある実施形態において、多孔質材料の化学的特性を変更するために、多孔質材料に化学物質が付けられる。例えば、異なった化学的特性を持つサンプル成分の差異的な保持を可能にする化学物質を付けることができる。加えて、塩およびマトリックス効果を最小限に抑える化学物質を付けることもできる。他の実施形態において、スポッティング時のサンプルのpHを調整するために、酸性または塩基性の化合物が多孔質材料に加えられる。pHの調整は、血液のような、生体液の分析を改善するために特に有用でありうる。加えて、例えば、効率的なエレクトロスプレーイオン化のために、非極性の化合物を塩に転換すべく、選択された検体のオンラインの化学的誘導体化を可能にする化学物質を付けることができる。
【0038】
ある実施形態において、多孔質材料を修飾するために付けられる化学物質は、内部標準である。定量分析用の内部標準を提供するために、多孔質材料中に内部標準を組み込み、溶媒が流れる間に既知の速度でこれを放出させることができる。他の実施形態において、多孔質材料は、対象検体の質量スペクトル分析前の予備分離および予備濃縮を可能にする化学物質によって修飾される。
【0039】
スプレー液滴は、正イオンモードでは、強い照明下で可視化することができ、ナノエレクトロスプレー・イオン源(nESI:nano−electrospray ion source)から放出される液滴と同等サイズである。負イオンモードでは、電子が放出され、ベンゾキノンのような気相の電子捕獲剤を用いて、これを捕獲することができる。作用に関する特定の理論またはメカニズムに制限されることなしに、イオン化の原因は、個々の流体チャンネルにおける電界ではなく、多孔質材料の先端部における高電界であると考えられる。
【0040】
本明細書に記載される方法論は、ニオタル・スクリーニング、治療薬モニタリング、および組織生検分析を含めて、臨床応用にとって望ましい特徴を有する。手順は、簡単で迅速である。多孔質材料が、フィルタとしての第2の役割を果たし、例えば、全血分析の間に血液細胞を保持する。意義深いことに、サンプルは、多孔質材料上に保存することができ、これを分析前に多孔質材料から移動させる必要なしに、後日、保存された多孔質材料から直接に分析することができる。本発明のシステムは、研究室実験をオープンラボ環境で行うことを可能にする。
【0041】
参照による組み込み
本開示の全体にわたって、特許、特許出願、特許公報、ジャーナル、本、論文、ウェブコンテンツのような他の文献に対する参照および引用がなされる。すべてのかかる文献は、あらゆる目的に対してその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
相当物
本明細書に図示され、かつ記載されるものに加えて、本発明の様々な修正およびその多くのさらなる実施形態は、本明細書に引用される科学文献および特許文献への参照を含む本書類のすべての内容から、当業者に明らかになるであろう。本明細書の主題は、様々な実施形態およびその相当物における本発明の実施に適合しうる重要情報、例示およびガイダンスを含む。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態をさらに説明することを意図しており、本発明の範囲を制限すると解釈すべきものではない。本明細書における実施例は、本発明の質量分析プローブが、化学的および生物学的サンプルをイオン化することができ、その後の質量分析および検出を可能にすることを示す。例となるプローブは、三角紙として構築され、紙に高電位を印加することによってマイクロメートル・スケールの液滴を発生させるために、この三角紙が用いられた。検体は、これらの帯電した液滴からイオン化されて、従来型質量分析計中へ輸送された。
【0044】
以下の実施例は、広範囲のサンプルが、純粋状態と複合混合物とのいずれにおいても、本発明のプローブを用いて、周囲環境中で直接に分析できたことを示す。結果は、紙ベースのスプレーが、以下の利点を持つことを示した:スプレーは、シースガスなしで動作した、すなわち、in situ分析にほとんど付属品を必要としなかった;生物学的サンプル(乾燥血液、尿)は、分析前の数カ月間にわたって、プレカット濾紙上に保存することができた;濾紙は、多くのサンプル(血液細胞、塩およびタンパク質)のエレクトロスプレーまたはナノエレクトロスプレーに見られるマトリックス効果を最小限に抑えて、複合サンプル中の化学物質のMS信号を強化した;粉末サンプルは、紙片を用いて表面を拭き取ることによって容易に採集され、その後、直接に分析された;紙は、内部標準を含むように前処置することができ、この内部標準は、定量分析中に溶媒が流れる間に、既知の速度で放出された;紙は、マトリックス抑制サイトまたは吸収サイトを含むように、もしくはイオン交換を行なうように、または選択された検体のオンラインの化学的誘導体化を可能にするように前処置することができた。
【0045】
ほとんどの検体の検出は、ppbと低いレベル(溶液として検査されたとき)か、または低いngからpgの範囲(固体が検査されたとき)が達成され、検出時間は、1分未満であった。以下のいくつかの実施例は、乾燥血液スポットを分析するためのプロトコルを提供するが、このプロトコルは、全血サンプルのin situ分析にも用いることができる。乾燥血液スポット法が、血液スクリーニングおよび他の臨床テストのための血液サンプルの保存および輸送と両立しうることも実証される。
【0046】
本発明のデバイスは、サンプリング、予備分離、予備濃縮、およびイオン化の能力を統合した。本発明の方法およびシステムは、質量分析器におけるサンプル導入の問題を簡略化する。
【0047】
(実施例1)
MSプローブの構築
濾紙が、長さ10mmおよび幅5mmの寸法の三角形の小片にカットされ、スプレーヤとして使用された(図1)。銅クリップが紙に取り付けられ、紙が、質量分析計の注入口と向かい合って置かれた(図1)。銅クリップが3次元移動ステージ上に搭載され、正確にその位置が調節された。高電圧が銅クリップに印加され、質量検出のために検体イオンを発生させるべく質量分析計によって制御された。
【0048】
サンプル精製および予備濃縮デバイスとしての役割を果たす紙の表面に、サンプルが直接に付けられた。濾紙は、液体サンプルが、毛細管作用と電気的効果とによって駆動され、親水性ネットワーク中を移動して、紙の先端部へ輸送されることを可能にした。この輸送プロセスの間に、分離を生じることができた。紙の表面に高電圧(約4.5kV)が印加されたときに、先端部からサンプル溶液がスプレーされ、結果としてイオン化とMS検出とをもたらした。
【0049】
すべての実験は、Finnigan LTQ質量分析計(Thermo Electron,San Jose,CA)を用いて行われた。キャピラリ注入口の典型的な温度は、150℃に、一方でヘロイン検出のためには30℃に設定された。レンズ電圧は、サンプル分析用に65V、残存収率実験用に240Vに設定された。テストしたサンプル中の検体を同定するために、特に複合混合物および血液サンプルに対して、衝突誘起解離(CID:collision−induced dissociation)を用いてタンデム型質量スペクトルが収集された。
【0050】
(実施例2)
スプレー発生
スプレーは、濡れた三角紙に高電位を印加することによって生成された。1つの三角紙が、その鋭い先端部を注入口に向け、3mm以上隔ててLTQの注入口前に置かれた。三角紙を濡らすために、典型的に10μLのサンプル溶液が付けられた。この溶液は、紙を濡らすかまたは飽和させる、あるいは紙の表面上に薄い液膜層を形成することができる。電界を発生させるために、三角紙と質量注入口との間に高電位(3〜5kV)が印加され、この電界によって、三角紙の先端部において液体上に電荷蓄積が誘発された。クーロン力の増加が、液体を破壊して帯電した液滴を形成し、その後、液滴が紙の先端部から質量分析器へ飛行する間に溶媒が蒸発した。ペーパースプレーは、溶媒を除去するために、シースガス、加熱、あるいは任意の他の支援も必要としなかった。
【0051】
三角紙上に液体が蓄積されたときに、顕微鏡で検査すると、先端部にテイラーコーンが観察された。形成された液滴が、強い照明下ではっきりと視認できた。テイラーコーンと視認しうるスプレーとは、蒸発およびスプレー後に短時間で見えなくなった。しかしながら、質量信号は、より長い時間(数分)にわたって継続した。このことは、三角紙が2つの質量分析モードで機能しうることを明らかにした。第1のモードでは、液体が、紙の先端部でスプレーとして消費されうるのに比べて、より速い速度で紙の中を輸送され、結果として紙の先端部に大きなコーンが形成されて液滴が発生した。第2のモードでは、紙の中での液体の輸送が、スプレー消費に追随するほど十分に速い速度で移動することができず、液滴は視認できなかった。しかしながら、検体のイオン化が生じることは観察された。第1のモードは、ESIに類似した質量スペクを提供し、第2のモードは、APCIスペクトルの特徴のいくつかを持つスペクトルを提供した。後者の場合、三角紙は、導電性針に似た役割を果たし、高電界を発生させて、大気中で分子をイオン化する。テスト条件およびサンプルに対して、第1のモードでの質量信号は、第2のモードでの質量信号よりおよそ2桁強いことが観察された。
【0052】
(実施例3)
プローブの考察
プローブ材料
質量分析のために帯電した液滴を発生させるべく、多数の多孔質材料がテストされた。これらの材料は、鋭い先端部を持つ三角形に形作られ、その後、構築されたプローブにサンプル溶液が付けられた。本明細書におけるデータは、様々な紙のみならず、綿棒、繊維品、植物組織を含めて、任意の親水性多孔質基材を首尾よく使用できたことを示す。これらの材料の多孔質ネットワークもしくはマイクロチャンネルは、液体を保持するのに十分なスペースを提供し、かつ親水性環境が、毛細管作用による液体輸送を可能にした。疎水性の多孔質基材も、適切に選択された疎水性溶媒により首尾よく用いることができた。
【0053】
さらなる検討のために、6種類の市販紙が選択され、検体検出におけるその能力を評価すべく定性的にテストされた。濾紙およびクロマトグラフィ紙は、セルロース製であり、一方でガラス・マイクロファイバ濾紙は、ガラス・マイクロファイバから作られたものである。図19は、それらの紙上におけるコカイン検出の質量スペクトルを示す。グラスファイバ紙のスペクトル(図19E)は、バックグラウンドの強度が他の紙より2桁低く、コカイン・ピーク(m/z,304)を同定できなったことからユニークであった。
【0054】
グラスファイバ紙は、相対的に厚い(約2mm)ためにモードIIで機能しており、効率的な液滴発生を妨げていることが仮定された。この仮定は、コカイン検出用のグラスファイバ紙から剥がした薄層を用いることによって検証された。その場合、バックグラウンドの強度が増加し、コカイン・ピークが観察された。すべての濾紙が、コカイン検出に対して良好に機能した(図19A〜D)。クロマトグラフィ紙が、最もきれいなスペクトル、および相対的に高いコカイン強度を示した(図19F)。
【0055】
プローブ形状および先端部の角度
液滴を発生させることに関して、多くの異なったプローブ形状が検討された。多孔質材料の好ましい形状は、少なくとも1つの先端部を含んだ。先端部が、テイラーコーンの素早い形成を可能にすることが観察された。三角形のプローブ形状が、最も頻繁に用いられた。図25A〜Cに示されるように、先端部の鋭さ、先端部の角度(図27AおよびB)、ならびに紙基材の厚さによって、スプレー特性をもたらすことができた。複数の先端部を持つ円筒形状のデバイス(図25D)は、マルチチップ・スプレーヤとしての機能を果たすことが期待され、スプレー効率が改善されるはずであった。鋭い針により表面に穴を開けて、DBSカード上にマイクロ・スプレーヤのアレイを作製することもできる(図25E)。
【0056】
(実施例4)
質量分析計の注入口によるプローブの構成
三角紙と質量分析計の注入口との相対的位置によって、いかに質量信号が影響を受けるかを測定するために、2次元移動ステージ上に三角紙が取り付けられた。この三角紙が、y方向に連続的に8cm、x方向に各ステップに対する増分2mmで3cm動かされた(図20A)。コカイン溶液(1μg/mL、メタノール/水、1:1 v/v)が、紙の表面に連続的に供給された。全スキャンの間に、質量スペクトルが連続的に記録された。質量スペクトルから抽出された規格化データから、プロトン化されたコカイン(m/z,304)のピーク強度のコンター・プロットが作られた(図20B)。このコンター・プロットは、液滴を発生させるために、三角紙を質量分析計の注入口と直接インラインに置く必要はなかったことを示す。
【0057】
スプレーの継続時間もテストされた(図20C)。三角紙(サイズ10mm、5mm)が用意された。初めに、10μLの溶液が0.1、1および10μg/mLの異なった濃度で三角紙に付けられた。それぞれの紙に対するスプレー時間は、濃度の違いによってごく僅かに変化した。その後、1μg/mLのコカイン溶液が5μL、10μL、15μLの異なった容量で三角紙に付けられた。スプレー時間は、サンプル容量の増加に従って線形応答を示した。
【0058】
別のテストでは、溶液の蒸発を防ぐために、紙がPTFE膜でシールされ、それによってスプレー時間が約3倍に延長された。これらの結果は、たとえ5μLの溶液を用いても、ペーパースプレーがデータ収集にとって十分に長いスプレー時間を提供し、全スプレー時間の間に信号の強度が安定であることを示唆する。
【0059】
(実施例5)
分離および検出
本発明のプローブは、質量分析によるin situイオン化の前に、生体液中の化学物質を両方分離するために機能することができる、紙のような多孔質材料を含む。この実施例において、プローブ用多孔質材料は、クロマトグラフィ紙であった。図24に示されるように、2つの色素の混合物が、単一スポットとして紙に付けられた。色素は、初めにTLC(薄層クロマトグラフ:thin layer chromatograph)によって紙上で分離され、分離された色素が、本発明の方法によるMS分析を用いて、紙媒体からカットされた紙片で検査された(図24)。データは、MS分析によって個別の色素が検出されたことを示す(図24)。
【0060】
クロマトグラフィフィ紙は、かくしてサンプル採集、検体分離および検体イオン化を可能にした。これは、クロマトグラフィをMS分析と結合するという著しい簡略化を意味する。クロマトグラフフィ紙は、本発明のプローブ用として良好な材料である、なぜならかかる材料は、溶媒の移動が、毛細管作用によって駆動され、シリンジ・ポンプを必要としない利点を持つからである。別の利点は、目詰まり、従来のナノエレクトロスプレー源にとって深刻な問題が、その多重多孔質特性のために生じそうもないことである。それ故に、ミクロ多孔質のエレクトロスプレーイオン化源として、多重多孔質材料であるクロマトグラフィ紙を用いることができる。
【0061】
(実施例6)
純粋な化合物:有機薬物、アミノ酸類およびペプチド類
既に記載されたように、本発明のプローブおよび方法は、質量分析のための簡単で便利なイオン化法を提供する。三角紙に、様々な化合物がスポットされ、イオンを生成するために高電圧源が接続された。すべての実験は、Finnigan LTQ質量分析計(Thermo Electron,San Jose,CA)を用いて行われた。本明細書におけるデータは、アミノ酸、治療薬物、違法薬物およびペプチド類を含めて、様々な化学薬品を溶液相中においてイオン化できたことを示す。
【0062】
図2Aは、本発明のプローブを用いた、ヘロイン(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMSスペクトルを示す。図2Bは、ヘロイン(濃度:1ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMS/MSスペクトルを示す。
【0063】
図3Aは、本発明のプローブを用いた、カフェイン(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMSスペクトルを示す。図3Bは、カフェイン(濃度:10ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMS/MSスペクトルを示す。ピーク167は、溶媒があってカフェインのないブランク・スペクトルにも存在する。
【0064】
図4Aは、本発明のプローブを用いた、ベンゾイルエクゴニン(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMSスペクトルを示す。図4Bは、ベンゾイルエクゴニン(濃度:10ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMS/MSスペクトルを示す。
【0065】
図5Aは、本発明のプローブを用いた、セリン(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMSスペクトルを示す。図5Bは、セリン(濃度:100ppb、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMS/MSスペクトルを示す。ピーク74および83は、溶媒があってセリンのないブランク・スペクトルにも存在する。図21Aは、本発明のプローブを用いた、セリン(m/z,106)のMSスペクトルを示す。図21Aは、セリン(m/z,106)のMS/MSスペクトルも示す。
【0066】
図21Bは、本発明のプローブを用いた、メタドン(m/z,310)のMSスペクトルを示す。図21Bは、メタドン(m/z,310)のMS/MSスペクトルも示す。図21Cは、本発明のプローブを用いた、ロキシスロマイシン(m/z,837)のMSスペクトルを示す。図21Bは、ロキシスロマイシン(m/z,837)のMS/MSスペクトルも示す。
【0067】
図6Aは、本発明のプローブを用いた、ペプチドのブラジキニン2−9(濃度:10ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMSスペクトルを示す。図6Bは、ブラジキニン2−9(濃度:1ppm、容量:10μl、溶媒:MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))のMS/MSスペクトルを示す。スペクトル中の隆起は、産業界でしばしば材料に加えられる、ポリエチレングリコール(PEG)のようなポリマーに起因すると思われる。図21Dは、本発明のプローブを用いた、ブラジキニン2−9(m/z,453)のMSスペクトルを示す。図21Dは、ブラジキニン2−9(m/z,453)のMS/MSスペクトルも示す。図21Dは、さらに付加イオン[M+H](m/z,904)、[M+2H]2+(m/z,453)、[M+H+Na]2+(m/z,464)、および[M+2Na]2+(m/z,475)を示す。m/z 453のピークは、MS/MSスペクトルにより確認された二重電荷の付加イオンであった。
【0068】
図11は、同じパラメータ(約2kV、溶媒:MeOH:HO=1:1)を用いた、(A)紙の薄片および(B)PVDF膜上のペプチド分析(10ppmのブラジキニン2-9)間の違いを示すMSスペクトルである。
【0069】
本明細書におけるデータは、本発明のプローブが、純粋な化合物の検出用として、50から1000超の質量/電荷範囲にわたって良好に機能することを示す。データは、ヘロイン、コカインおよびメタドンのような違法薬物を含めて、ほとんどの化学物質に対して1ng/mLと低いところまで検出が達成されたことをさらに示す。
【0070】
(実施例7)
複合混合物
本発明の方法、デバイスおよびシステムを用いて、尿、血液、およびコーラ飲料のような複合混合物が検査された。すべての実験は、Finnigan LTQ質量分析計(Thermo Electron,San Jose,CA)を用いて行われた。
【0071】
図7Aは、全血サンプルからヘロインが、「スポット」法によって検出されたことを示すMS/MSスペクトルを示す。200ppbのヘロインを含んだ0.4μLの全血サンプルが三角紙の中心に付けられて、1mmの血液スポットを形成した。スポットが乾燥した後、10μlの溶媒(MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))が三角紙の後端に付けられた。毛細管効果に起因して、溶媒が前方へ移動して、血液スポット中の化学物質を溶解させた。最終的に、溶媒が紙の先端部に到達したときに、エレクトロスプレーが生じた。上述の「血液スポット」法の有効性を実証すべく、エレクトロスプレーのために直接に全血が紙上に加えられた。MS/MSスペクトルは、たとえ濃度が20ppmと高いときでも、10μlの全血サンプルからヘロインが検出されなかったことを示した(図7B)。
【0072】
図8Aは、未処理の尿サンプルからヘロインが、「スポット」法によって検出できることを示すMS/MSスペクトルを示す。100ppbのヘロインを含んだ0.4μlの未処理の尿サンプルが三角紙の中心に付けられて、1mmの尿スポットを形成した。スポットが乾燥した後、10μlの溶媒(MeOH/HO/HOAc(50:49:1,v/v/v))が三角紙の後端に付けられた。毛細管効果に起因して、溶媒が前方へ移動し、血液スポット中の化学物質を溶解させた。最終的に、溶媒が紙の先端部に到達したときに、エレクトロスプレーが生じた。上述の「スポット」法の有効性を実証すべく、エレクトロスプレーのために直接に未処理の尿が紙上に加えられた。MS/MSスペクトルは、濃度が100ppbのときに、10μlの未処理の尿サンプルからヘロインが検出されないことを示した(図8B)。
【0073】
図9Aは、サンプル調製なしで、コーラ飲料からカフェインが検出されたことを示すMSスペクトルである。図9Bは、コーヒー粉末からカフェインが検出されたことを示すMSスペクトルである。三角紙を用いて表面を拭き取ることによって、コーヒーバッグからコーヒー粉末が収集された。
【0074】
図22AおよびBは、それぞれ正モードおよび負モードで分析された、コカコーラ(コーラ飲料)のスペクトルを示す。正モードにおける質量スペクトルでは、MS/MSスペクトル中で同定された、この飲料中の高濃度のカフェイン(100μg/mL)に起因して、プロトン化されたカフェインのピーク、m/z 195が、支配された(図22C)。負モードにおけるMS/MSスペクトルでは、2つの高濃度化合物、安息香酸カリウムおよびアセスルファムカリウムが同定された(図22D〜E)。
【0075】
図22Fは、採尿の2時間前にコカコーラ(コーラ飲料)を飲んだヒトからの尿におけるカフェインのスペクトルを示す。尿は、同じくイオン化され易い尿素を非常に高い濃度で含む。それ故に、プロトン化された尿素[m/z,61]および尿素2量体[m/z,121]が、MSスペクトルでは支配的である。しかしながら、MS/MSスペクトルでは、プロトン化されたカフェインが同定されて、尿サンプル中で良好な信号対雑音比を示した。
【0076】
図10は、サンプル調製なしに、分析のために採られた尿のMSスペクトルを示す。図10Aは、コーヒーを消費したヒトからの尿に検出されたカフェインの質量スペクトルである。図10Bは、コーヒーを消費しなかったヒトからの尿には、カフェインが検出されなかったことを示す質量スペクトルである。
【0077】
図22Gは、拭き取られたサンプルとして採集されたヘロイン(m/z,370)のMSスペクトルを示す。50ngのヘロインを含んだ5μLの溶液が、デスクトップの1cm領域上にスポットされた。三角紙が濡らされて、デスクトップの表面を拭き取るために用いられた。その後、質量検出のために、この三角紙に高電圧源が接続された。このデータは、本発明のプローブが、質量検出用のイオン化源、ならびにサンプリング・デバイスという二重の役割を持ちうることを示す。本発明のプローブを用いて表面を拭き取ることによって、固体表面上の微量サンプルを簡単に採集することができた。ダストおよび他の妨害物も三角紙上で採集されたが、この複合マトリックスから直接にヘロインを検出することができた。
【0078】
(実施例8)
抽出なしのESIによる植物組織の直接分析
図12は、4種類の植物のスライス組織を用いた、植物組織の直接的なMSスペクトルを示す。(A)タマネギ、(B)スプリング・オニオン、ならびに2つの異なった葉(C)および(D)。
【0079】
図13は、ビタミンC分析のMS/MSスペクトルを示す(A)サンプル調製なしのタマネギの直接分析、(B)標準液を使用。
【0080】
(実施例9)
全血および他の生体液
血漿、リンパ、涙、唾液および尿のような体液は、広範囲の分子量、極性、化学的特性および濃度を持つ分子を含んだ複合混合物である。体液中の特定の化学成分のモニタリングは、臨床診断、薬物開発、法医毒性学、乱用薬物検出、および治療薬物モニタリングを含めて、多数の異なった分野において重要である。派生流体である血漿および血清を含めて、血液、ならびに尿のテストは、臨床モニタリングにおいてとりわけ重要である。
【0081】
臨床の現場では、血液からの多種多様な化学物質が日常的にモニターされる。一般的な例は、ナトリウムおよびカリウムのような電解質を、尿素、グルコース、およびクレアチンとともに測定する基礎代謝検査と、総コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL:high density lipoprotein)、低密度リポタンパク質(LDL:low density lipoprotein)およびトリグリセリド類の測定を含む、心血管疾患リスクを持つ個人を特定するための脂質検査とを含む。血液中の化学物質に対するほとんどの臨床検査は、遠心分離を用いて血液細胞から分離された血液の液体成分である、血清について実際は行われる。多くの医療診断テストは、比色分析に依存し、それ故に光学的に透明な流体が必須であることから、このステップが必要である。遠心分離後に、対象分子の検出は、多数の方法で、すなわち最も一般には、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA:enzyme−linked immunosorbent assay)またはラジオイムノアッセイ(RIA:radioimmunoassay)のようなイムノアッセイか、あるいは、選択的酵素による対象分子の酸化が、コレステロール(コレステロール酸化酵素による酸化)またはグルコース(グルコース酸化酵素による酸化)に対するテストのように、色変化を伴う反応に結び付けられる酵素アッセイによって進められる。
【0082】
薬学では、紙上の乾燥血液スポットとしての全血サンプルの保存および輸送にかなり関心がある(N.Spooner et al.Anal.Chem.,2009,81,1557)。血液中に見られる化学物質のほとんどのテストは、液状サンプルで、典型的には液状の全血から分離された血清または血漿で行われる。液状の血液または血液成分に必要とされる保存、輸送および取扱いは、いくつかの課題を提示する。いくつかのテストには液体形態の血液が不可欠であるが、他は、表面(通常は紙)上にスポットして乾燥させた血液または他の体液で行うことができる。
【0083】
本発明のプローブおよび方法は、いかなるサンプル調製も必要なしに、全血を分析することができる。サンプルは、次のように調製された。0.4μLの血液が、三角紙の中心に直接に付けられ、乾燥のために約1分間放置されて、乾燥血液スポットを形成した(図23A)。10μLのメタノール/水(1:1,v/v)が、三角紙の後端付近に付けられた。この溶液は、毛細管作用によって駆動されて紙を横切って進み、その深さ方向全体に紙を濡らした。溶液が、乾燥血液スポットと相互作用するにつれて、血液からの検体が溶液に入り、イオン化のためにプローブ先端部へ輸送された(図23A)。血液サンプル分析のプロセスは、約2分で完了した。
【0084】
様々な薬物が全血中に加えられ、上記のように、この血液が本発明のプローブに付けられた。様々な薬物の検出が以下に記載される。
【0085】
イマチニブ(GLEEVEC)、慢性骨髄性白血病の処置用としてFDAにより承認された2−フェニルアミノピリミジン誘導体は、どちらかと言えば狭い濃度範囲にわたって有効である。治療域を含む濃度のイマチニブを加えたヒト全血が、分析のために小さい三角紙に付けられた(図14A)。プロトン化されたイマチニブ、m/z 494のタンデム型質量スペクトル(MS/MS、図14B)は、特徴的な単一フラグメントイオンを示した。全血中のイマチニブの定量化は、この信号と、内部標準として加えたイマチニブ−d8の既知の濃度に対する信号とを用いて達成された。相対応答は、治療域全体を含む、広い濃度範囲にわたって線形であった(図14C)。
【0086】
全血分析のためのペーパースプレーを評価すべく、乾燥血液スポット法を用いて、アテノロール、心血管疾患に使用される□−遮断薬がテストされた。アテノロールは、所望の濃度で全血中に直接に加えられ、この血液サンプルが、上記のようにペーパースプレーに用いられた。乾燥血液スポット中の400pgのプロトン化されたアテノロール(0.4μLの全血中の1μg/mLのアテノロール)が、質量スペクトル中に示され、MS/MSスペクトルは、たとえ乾燥血液スポット中の20pgのアテノロール(0.4μLの全血中の50ug/mLのアテノロール)であっても、同定されうることを示唆した(図23B)。
【0087】
図23Cは、全血中のヘロインの質量スペクトルである。本明細書におけるデータは、乾燥血液スポット中の200pgのヘロインをタンデムマスを用いて検出できたことを示す。
【0088】
紙媒体が、フィルタとしての第二の役割を果たし、血液細胞を保持することも観察された。意義深いことに、サンプルは、分析前に紙からの移動を必要としないで、保存媒体上で直接に分析された。すべての実験は、オープンラボ環境で行われた。本方法論が、プライマリケア施設における質量分析法の利用拡大に寄与する潜在力を持つことを2つの追加的な特徴が指示した:分析用血液サンプルは、カニューレではなく、ピンプリックによって採取された;実験は、ハンドヘルド型質量分析計を用いて容易に行われた(図18および以下の実施例10)。
【0089】
(実施例10)
ハンドヘルド型質量分析計
本発明のシステムおよび方法は、ハンドヘルド型質量分析計に適合した。ハンドヘルド型質量分析計(Mini 10,パーデュー大学における特別注文)を用いて、ペーパースプレーが行われた。10μg/mLのアテノロールを加えた全血の分析。血液(0.4μL)が乾燥した後(約1分)、質量検出のためにスプレーを発生させるべく、紙にメタノール/水(1:1;10μL)が付けられた(図18)。挿入図は、たとえアテノロール量が4ngと低いときでも、タンデム型質量スペクトルを用いて、アテノロールを全血中で容易に同定できたことを示す。
【0090】
(実施例11)
アンジオテンシンI
図15は、クロマトグラフィ紙上のアンジオテンシンI溶液(Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leu(配列番号:1)、10μL、メタノール/水、1:1,v/v中に8μg/mL)のペーパースプレー質量スペクトルである(スプレー電圧,4.5kV)。挿入図は、質量範囲630〜700にわたる拡大図を示す。プロトン化されたイオン([M+2H]2+)、およびナトリウム付加イオン([M+H+Na]2+、[M+2Na]2+)が主要なイオン種である。
【0091】
(実施例12)
果物上の農薬
果物上の農薬を速やかに分析するために、紙で拭くことによるサンプル採集と、それに続く本発明のプローブによる分析とが利用された。メタノールで濡らしたクロマトグラフィ紙(3×3cm)を用いて、食料雑貨店から購入したレモンの皮上の10cm領域が拭かれた。メタノールが乾燥した後、紙の中心から三角形がカットされ、10μLのメタノール/水溶液を付けることによって、ペーパースプレーに用いられた。記録されたスペクトル(図34A〜B)は、元々レモン皮上の防カビ剤、チアベンダゾール(プロトン化された分子イオンに対してm/z 202、およびナトリウム付加イオンに対してm/z 224)が、紙上に採集されており、MSにより容易に同定できて、かつMS/MS分析を用いて確認できたことを示す。別の防カビ剤イマザリル(m/z 297)も、存在することが認められた。
【0092】
(実施例13)
腫瘍サンプル
本発明のシステムおよび方法を用いて、ヒト前立腺腫瘍組織と正常組織とが分析された。腫瘍組織および隣接正常組織の切片は、15μm厚であり、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)を用いた画像研究のために、ガラススライド上に固定された。金属針を用いて、腫瘍領域から、次に正常領域からの体積1mm×15μmの組織が、ガラススライドから除去されて、ペーパースプレー分析のために三角紙の表面上に置かれた。
【0093】
一滴のメタノール/水(1:1,v:v;10μl)が溶媒として紙に加えられ、その後、スプレーを生成するために4.5kVの正の直流電圧が印加された。ホスファチジルコリン(PC:phosphatidylcholine)およびスフィンゴミエリン(SM:sphingomyelin)のようなリン脂質が、スペクトル中で同定された(図17AおよびB)。腫瘍組織では、正常組織に比べて、m/z 798における[PC(34:1)+K]のピークは、著しくより高く、m/z 725における[SM(34:1)+Na]、m/z 756における[SM(36:0)+Na]およびm/z 804における[SM(36:4)+Na]のピークは、著しくより低かった。
【0094】
(実施例14)
治療薬物モニタリング
薬物の投与は、安全で効果的なアウトカムを達成するために、適切な投薬ガイドラインを管理することに依拠する。このガイドラインは、薬物に関する薬物動態学(PK:pharmacokinetics)および薬動力学(PD:pharmacodynamics)を調査する、臨床試験の間に確立される。臨床試験は、標準用量を確立するためにPK−PD調査を利用し、体重、体表面積などのような変数を用いた式に従って、これを確定もしくは調整することができる。しかしながら、薬物曝露、すなわち経時的に循環する薬物の量は、患者毎に異なる多数の要因によって影響される。例えば、個体の代謝率、血漿タンパク質の種類およびレベル、ならびに腎障害および/または肝障害のような既存の状態は、すべてin vivoの薬物暴露に影響を及ぼす役割を担う。さらにまた、他の医薬と組み合わせた薬物の投与も、曝露に影響を及ぼすことがありうる。結果として、最適な薬物投与レジメンを予測して処方することは、往々にして困難である。
【0095】
薬物への過剰曝露または曝露不足は、それぞれ、毒性効果または効能の低減に繋がることがある。これらの懸念に対処するために、治療薬物モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)を用いることができる。TDMとは、体内における活性薬物レベルの測定と、それに続く効能を増加させる、および/または毒性を減少させるための投薬あるいはスケジュールの調整とである。TDMは、薬物における薬物動態の変動が、治療域に比べて大きく、薬物曝露と効能および/または毒性との間に確定した関係が存在するときに示される。TDMに関する他の要件は、活性成分に対して十分に精密かつ正確なアッセイが利用できなければならないことである。イムノアッセイおよび液体クロマトグラフィ質量分析法(LC−MS:liquid chromatography mass spectrometry)が、TDMによく利用される方法である。イムノアッセイと比較して、LC−MSは、広い適用性、高感度、良好な定量化、高特異性および高スループットを含む利点を有する。ポイント・オブ・ケアの治療薬物モニタリングを提供するために、本発明のプローブを標準的な質量分析計と結合することもできる。
【0096】
乾燥血液スポット中の薬物イマチニブ(米国におけるGLEEVECおよび欧州/オーストラリアにおけるGLIVEC、慢性骨髄性白血病の処置用)が、ペーパースプレーおよびラボスケールLTQ質量分析計を用いて分析された。全血中のイマチニブの定量化は、内部標準として使用した既知濃度のイマチニブ−d8によるMS/MSスペクトルを用いて達成された(図14C)。相対応答は、治療域全体を含む広範囲の濃度にわたって線形であった(図14C)。
【0097】
(実施例15)
高スルーアウト検出
マルチチップ・デバイスが作製されて、高スループット分析に適用された(図28A)。マルチチップ・デバイスは、単一の銅ストリップにすべて接続された三角紙の一組であった(図18A)。この銅ストリップに電極が接続された。複数のサンプルが、単一の紙基材上に置かれ、マルチチップ・プローブを用いて順次分析された(図28B〜C)。それぞれの先端部に100ppmのサンプル(コカインまたはカフェイン)を含んだ0.2μLのメタノール/水が予め添着されて、乾燥された。次に、マルチチップ・デバイス全体が、移動ステージ上を一定速度で左から右へ動かされて、移動の間に、各先端部に対して後部から7μLのメタノール/水が付けられた。
【0098】
スプレー中の汚染物質を防ぐために、2つのサンプル先端部間にブランクが挿入された。図28Cは、全体スキャンに対する信号強度を示す。全強度からは、6つの先端部が6つの個別の高信号ピークを与えた。コカインでは、先端部2および先端部6がスキャンされたときに、ピークが現れたに過ぎなかった。カフェインでは、先端部4から最も高いピークが得られ、サンプルを添着した順序と一致した。
【0099】
(実施例16)
組織分析
本発明のプローブを用いた動物組織中の化学物質の直接分析が、図29Aに示されるように行われた。組織の小さい切片が除去されて、三角紙上に置かれた。メタノール/水(1:1 v:v;10μL)が溶媒として紙に加えられ、次に、MS分析のためにスプレーを生成すべく、4.5kVの正の直流電圧が印加された。ブタ副腎組織(1mm,図29B)に対して、プロトン化されたホルモン・イオンが観察された。図16は、ペーパースプレーによる動物組織中のホルモンの直接分析を示す質量スペクトルである。ブタ副腎組織の小片(1mm×1mm×1mm)が紙の表面上に置かれて、MeOH/水(1:1 v:v;10μL)が加えられ、スプレーを生成するために紙に電圧が印加された。ホルモンのエピネフリンおよびノルエピネフリンが、スペクトル中で同定された;高質量では、ホスポリピッドの信号が支配的であった。
【0100】
腫瘍領域および隣接正常領域から除去されたヒト前立腺組織(1mm×15μm,図29CおよびD)に対して、脂質のプロファイルが得られた。ホスファチジルコリン(PC)およびスフィンゴミエリン(SM)のようなリン脂質が、スペクトラム中で同定された。腫瘍組織では、正常組織と比較して、m/z 798における[PC(34:1)+K]のピークは、著しくより強く(図29C)、m/z 725における[SM(34:1)+Na]、m/z 756における[SM(36:0)+Na]、およびm/z 804における[SM(36:4)+Na]のピークは、著しくより低かった(図29D)。
【0101】
(実施例17)
オンライン誘導体化
比較的低いイオン化効率と、比較的低い混合物中濃度とを持つ標的検体の分析に対しては、十分な感度を提供するために、誘導体化がしばしば必要である。標的検体に適した試薬を含んだメタノール/水溶液のように、スプレー溶液に試薬を加えることによって、オンラインの誘導体化を実行することができる。使用される試薬が紙上で安定であれば、プローブを作製するときに、それらを多孔質材料上に加えることもできる。
【0102】
デモンストレーションとして、血清中のコレステロールを分析するために、500ngのベタインアルデヒドクロリドを含んだ5μLのメタノールが、三角紙上に加えられ、乾燥されて、誘導体化試薬が予め添着されたサンプル基材が作製された。ヒドロキシル基との反応を介したベタインアルデヒド(BA:betaine aldehyde)によるオンラインの電荷ラベリングは、組織中のコレステロールの同定には非常に有効であることが、これまでに明らかにされている(Wu et al.,Anal Chem.2009,81:7618−7624)。分析に三角紙を用いたときに、2μLのヒト血清が紙上にスポットされ、乾燥スポットが形成されて、その後、ペーパースプレーイオン化を用いて分析された。ベタインアルデヒドとメタノールとの間の反応を回避するためには、メタノール/水の代わりに、10μLのACN/CHCl(1:1 v:v)溶液が、ペーパースプレーに用いられた。
【0103】
ブランクと試薬が予め添着された三角紙とを用いた分析間の比較が、図30AおよびBに示される。誘導体化試薬なしでは、プロトン化されたイオン[Chol+H](m/z 387)、水損失[Chol+H−HO](m/z 369)、およびナトリウム付加イオン[Chol+Na](m/z 409)のような、コレステロール関連ピークは、観察されなかった(図30A)。誘導体化試薬ありでは、イオン[Chol+BA]が、m/z 488.6において観察された(図30B)。このイオンに対してMS/MS分析が行われ、特徴的なフラグメントイオン m/z 369が観察された(図30C)。
【0104】
(実施例18)
修飾されたペーパースプレー基材を用いたペプチドの予備濃縮
フォトレジスト処理を用いた、紙の表面上での化学物質の予備濃縮。これまでに記載されたように、SU−8フォトレジストを用いた処理によって、クロマトグラフィ紙が疎水性にされた(Martinez et al.,Angew Chem Int.Ed.,2007,46:1318−1320)。次に、5μlのブラジキニン2−9溶液(純HO中に100ppm)が紙の表面上に付けられた。溶液が乾燥したときに、紙が水に入れられて10秒間洗浄された。洗浄後に、三角紙が、MS注入口前に保持されて、溶媒として10μlの純粋なMeOHが付けられ、ペーパースプレーのために電圧が4.5kVに設定された。比較のために、処理されていない紙基材を用いて同じ実験が行われた。
【0105】
図31Aは、フォトレジスト処理ありの紙からのブラジキニン2−9のタンデム型MSスペクトルを示す。最も強いフラグメントイオン404の強度は、5.66E3である。図31Bは、フォトレジスト処理なしの通常のクロマトグラフィ紙からのブラジキニン2−9のタンデム型MSスペクトルを示す。最も強いフラグメントイオン404の強度は、1.41E1に過ぎない。これらのデータは、フォトレジスト処置されたクロマトグラフィ紙とペプチドとの間の親和力が、通常のクロマトグラフィ紙とペプチドとの間よりはるかに強く、それ故に、水による洗浄後に、紙の表面上により多くのペプチドが保持されうることを示す。純粋なメタノールを付けたときに、これらの保持されたペプチド類は、脱離して、MSによって検出されるであろう。疎水性の化学物質を紙の表面上で予備濃縮するために、この方法を用いることができ、同じく他の親水性材料(例えば塩)を紙の表面から除去することもできる。
【0106】
(実施例19)
極性反転
プローブに印加される電圧の極性は、質量分析器に用いられる極性と一致する必要はない。とりわけ、本発明のプローブを負電位で動作させ、しかし結果として生じる正に帯電したイオンの質量スペクトルを記録することは可能である。負イオンモードでは、ペーパースプレーにおいて大きな電子(または溶媒和電子)電流が生成される。これらの電子は、エネルギーが適切であれば、然るべき電子親和力を持つ分子によって捕捉されて、ラジカルアニオンを発生させることができる。
【0107】
代わりに、これらの電子は、検体の電子イオン化に関与して、ラジカルカチオンを発生させることもあり、あるいは、ESIが溶媒分子を伴い、かくして溶媒分子が検体との電荷交換を受けて、ラジカルカチオンをさらに発生させることもありうる。もしこのプロセスが十分なエネルギーで生じるのであれば、フラグメンテーションを生じうる前にラジカルカチオンが衝突によって不活性化されないことを条件として、特徴的なフラグメントイオンが生成されることもあろう。
【0108】
実験は、溶媒としてメタノール:水を紙に付け、本発明のプローブを−4.5kVで導通させて、ベンチトップLTP上でトルエン蒸気を用いて行われた。図32に示されるスペクトルが記録された。プロトン化された分子、m/z 93を与えるイオン/分子反応が、予想通りに大気圧で生じることが注目される。しかしながら、ラジカルカチオン、m/z 92、ならびにm/z 91および65におけるその特徴的フラグメントの存在も注目される。
【0109】
興味深いのは、トルエン蒸気源が、MS注入口の近く、すなわち、紙の先端部とMS注入口との間の放電のカソード領域に置かれたときに、「EI」フラグメントイオンが最も容易に生成されたことである。これは、「降下」領域におけるエネルギー電子による直接電子イオン化が、少なくとも部分的にこの挙動の原因でありうることを示唆する。
【0110】
(実施例20)
血液分析用カートリッジ
図33Aは、質量スペクトル分析に用いられることになる多孔質材料上への血液スポッティングの例となる事例を示す。カートリッジは、容量を含む中心のバイアルとオーバーフロー・バイアルとを持つ。容量制御用バイアルの底部を塞ぐために、プラグ、例えば、設定量の内部標準化学物質を含んだ可溶膜などが用いられる。一滴の血液が、バイアル中に置かれる(図33B)。バイアル中の血液容量は、余分な血液をオーバーフロー・バイアル中へ流すことによって制御される(図33B)。その後、バイアル中の血液が底部で膜に溶け込み、内部標準化学物質が血液中に混合される(図33B)。プラグが溶解すると、血液が紙基材へ流れて、制御された量のサンプルと内部標準とを持つ乾燥血液スポットが、最終的に形成される(図33B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧源に接続された少なくとも1つの多孔質材料であって、溶媒の流れとは分離している前記多孔質材料、を備える質量分析プローブ。
【請求項2】
前記多孔質材料は、紙またはPVDF膜である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記紙は、濾紙である、請求項2に記載のプローブ。
【請求項4】
前記濾紙は、三角形の小片として形作られる、請求項3に記載のプローブ。
【請求項5】
前記多孔質材料は、円錐形状を持つ、請求項1に記載のプローブ。
【請求項6】
前記多孔質材料は、ゲルである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項7】
前記プローブは、複数の先端部を備える、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
スプレーを発生させる前記先端部は、前記プローブの他の先端部より小さい角度を持つ、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
前記多孔質材料に付けられた溶媒をさらに備える、請求項1に記載のプローブ。
【請求項10】
前記溶媒は、前記多孔質材料中を通るサンプルの輸送を支援する、請求項9に記載のプローブ。
【請求項11】
前記溶媒は、内部標準を含む、請求項9に記載のプローブ。
【請求項12】
前記溶媒は、異なった化学的特性を持つサンプル成分の差異的な保持を可能にする、請求項9に記載のプローブ。
【請求項13】
前記溶媒は、塩およびマトリックス効果を最小限に抑える、請求項9に記載のプローブ。
【請求項14】
前記溶媒は、選択された検体のオンラインの化学的誘導体化を可能にする、請求項9に記載のプローブ。
【請求項15】
高電圧源に接続された少なくとも1つの多孔質材料であって、溶媒の流れとは分離している前記多孔質材料、を含むプローブ;および
質量分析器
を備えるサンプル材料を分析するためのシステム。
【請求項16】
前記多孔質材料は、紙またはPVDF膜である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記紙は、濾紙である、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記濾紙は、三角形の小片として形作られる、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記多孔質材料は、ゲルである、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前期多孔質材料に付けられた溶媒をさらに含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記質量分析器は、質量分析計またはハンドヘルド型質量分析計用である、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記質量分析器は、四重極子イオントラップ、直線構成イオントラップ、円筒状イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴トラップ、オービトラップ、飛行時間、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、およびセクターからなる群から選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
サンプルを少なくとも1つの多孔質材料に接触させることであって、前記多孔質材料は、溶媒の流れから隔てられた状態に保たれる、接触させること;
前記多孔質材料から排出される前記サンプル中の検体のイオンを発生させるために、前記多孔質材料に高電圧を印加すること;および
前記排出されたイオンを分析すること
を含むサンプルを分析するための方法。
【請求項24】
前記多孔質材料に溶媒を付けることをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記サンプルは、液体である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記サンプルは、固体である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記サンプルは、化学種または生物学的種である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記多孔質材料は、ゲルであり、前記サンプルは、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドである、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記溶媒は、前記多孔質材料中を通る前記サンプルの輸送を支援する、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記溶媒は、内部標準を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記溶媒は、異なった化学的特性を持つサンプル成分の差異的な保持を可能にする、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記溶媒は、塩およびマトリックス効果を最小限に抑える、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記溶媒は、選択された検体のオンラインの化学的誘導体化を可能にする、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記多孔質材料は、紙またはPVDF膜である、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
分析することは、前記サンプル中の検体の質量スペクトルを発生させるために質量分析器を提供することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
前記高電圧によって発生した電界は、前記多孔質材料中を通る前記サンプルの輸送を支援する、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
前記溶媒は、前記多孔質材料の表面を被う薄い液膜を形成する、請求項24に記載の方法。
【請求項38】
前記高電圧によって発生した電界は、前記薄い液膜中の前記検体の輸送を支援する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
サンプルをイオン化する方法であって、前記方法は、前記サンプル中の検体のイオンを発生させるために、少なくとも1つの多孔質材料に高電圧を印加することを含み、前記多孔質材料は、溶媒の流れとは分離している、方法。
【請求項40】
前記多孔質材料は、紙またはPVDF膜である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つの多孔質材料と固体材料とを備える統合基材であって、高電圧源に接続され、溶媒の流れとは分離している前記統合基材を備える、質量分析プローブ。
【請求項42】
前記固体材料は、鋭い角を備える、請求項41に記載のプローブ。
【請求項43】
前記少なくとも1つの多孔質材料は、複数の多孔質材料である、請求項41に記載のプローブ。
【請求項44】
サンプルを少なくとも1つの多孔質材料と固体先端部とを備える統合基材に接触させることであって、前記統合基材は、溶媒の流れとは隔てられた状態に保たれる、接触させること;
前記統合基材から排出される前記サンプル中の検体のイオンを発生させるために、前記統合基材に高電圧を印加すること;および
前記排出されたイオンを分析すること
を含むサンプルを分析するための方法。
【請求項45】
前記多孔質材料に溶媒を付けることをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記溶媒は、前記多孔質材料の前記表面を被う薄い液膜を形成する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも1つの多孔質材料は、複数の多孔質材料である、請求項44に記載のプローブ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図19D】
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【図19E】
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【図19F】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図21D】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図22−3】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図24−1】
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【図24−2】
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【図24−3】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図28A】
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【図28B】
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【図28C】
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【図29A】
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【図29B】
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【図29C】
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【図29D】
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【図30A】
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【図30B】
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【図30C】
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【図31A】
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【図31B】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2012−525687(P2012−525687A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508672(P2012−508672)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032881
【国際公開番号】WO2010/127059
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】