説明

濡れにくい面

−30〜6000μmの長さ、1:10〜1:20の直径対長さの比を有し、その少なくとも一方の表面にて面に結合するフィラメントを有し;
−但し、面上における2つの隣接するフィラメントの間の距離は、そのような距離のフィラメントの長さに対する比が1:3〜1:10となるものであり;
−フィラメントが104〜1010N/m2の弾性を有し;
−フィラメントと水の間の接触角が100°より大きくなるようにフィラメントの面は疎水性である
面を有する物体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濡れにくい面(unwettable surface)、それを調製する方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
WO96/04123は、疎水化物質の高度を有する物体の自浄式の面に関する。そのような面に沈着した汚染は流水によって除去することができる。
【0003】
そのような面は、面が、たとえば、空気からの汚染と接している応用分野で関心が持たれ、水、たとえば、雨との時折の接触によって清浄することができる。検討で見出されるように、そのような面は130°を超える水との接触角を有する。球形形状を採用する液滴は、面を濡らすことはできない。
【0004】
US2005/0061221は、固形面と液体との間の相対的動きにおける摩擦抵抗を低下させる課題を記載している。その目的で階層的フラクタル構造を記載している。例は記載されていない。
【0005】
WO2005/005679は、ナノ繊維、ナノ繊維を含む構造及びその使用に関する。
【0006】
それにもかかわらず、水に濡れにくい、すなわち、水と接触した後、濡れない面に対する要望が依然として存在する。そのような面は、水と面との間の摩擦抵抗を減らすことができ、たとえば、断熱又は生物付着の回避のような技術的観点から望ましいほかの特性を有することができる。
【0007】
本発明の目的はそのような面を提供することである。
【0008】
本目的は、以下の特徴を持つ面(surface)を有する物体によって達成される:
−30〜6000μmの長さ、1:10〜1:20の直径対長さの比を有し、その少なくとも一方の表面(front face)にて該面に結合するフィラメント;
−但し、面上における2つの隣接するフィラメントの間の距離は、そのような距離のフィラメントの長さに対する比が1:3〜1:10となるものであり;
−フィラメントが104〜1010N/m2の弾性を有し;
−フィラメントと水の間の接触角が100°より大きくなるようにフィラメントの面は疎水性である。
本発明によれば、面を有する物体が提供される。
【0009】
本出願の目的の範囲内のフィラメントは、必要とされる特性を有する任意の材料で出来た細長い構造体である。織物分野では、非常に大きな長さを有する突き出た毛、突き出た繊維及びフィラメントは区別される。しかしながら、本出願の目的の範囲内で、用語「フィラメント」は、末端を有するいかなる種類の構造体についても使用される。その長さ及び直径は、クレームにおけるさらなる定義から知ることができる。本出願については、単語「フィラメント」は、織物分野で使用されるとき、用語「繊維」又は「毛」と相互交換可能である。本出願の目的の範囲内でのフィラメントは、2以上の点にて面に結合する長い構造体でもある。この場合、2つの接触点の間の領域が本出願の目的の範囲内でフィラメントの長さを定義する。
【0010】
織物産業で理解されるようなフィラメントは、すなわち、その長さが糸巻きの巻上げ能力によってのみ限定される長い繊維から成る構造体が、本出願の本文では言及され、用語「織物フィラメント」が使用される。そのような織物フィラメントは何メートルもの長さを有する。
【0011】
本発明に係る面では、その直径より長い長さを有するフィラメントがある。直径と長さの比(直径:長さ)は、1:10〜1:20、好ましくは1:12〜1:18である。好適な長さは、30〜6000μm、好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは50〜200μm、たとえば、1000〜3000μmの範囲内である。
【0012】
構造体が幾つかの接触点で面に結合するならば、2つの接触点の間に適当な間隔が存在すれば、すなわち、2つの接触点の間の構造体の長さが測定されれば、それらは相当する長さを有するフィラメントを形成し;この長さがフィラメントの長さとして定義される。
【0013】
フィラメントは、フィラメントの各端部に位置する2つの表面を有する。
【0014】
実施態様の1つでは、正確に一方の表面が面に結合する。別の実施態様では、フィラメントが面の上でループを形成するように両方の表面が結合する。一方の表面で結合する両方のフィラメント及び2つの表面で結合するフィラメントが発生する混合形態も可能である。
【0015】
たとえば、走査電子顕微鏡によってフィラメントの直径を測定することができる。
【0016】
繊維が繊維の長さを超えて変化する直径を有すれば、フィラメントの中間(長さの50%)の直径を使用する。
【0017】
フィラメントは相互の間隔で面上にあり、但し、隣接するフィラメントの間隔と長さの比(間隔:長さ)は、1:3〜1:10であり、すなわち、6000μmの長さを有するフィラメントについては、隣接するフィラメントは、2000〜600μmの範囲内での間隔である。
【0018】
実施態様の1つでは、該比はまた、1:3〜1:30の範囲内であってもよい。
【0019】
フィラメントの弾性は、本発明に係る面にとって重要である。弾性率によって測定されるような弾性は、104〜1010N/m2の範囲内である。弾性によってフィラメントの長手弾性伸長が可能になる。好ましい範囲は、106〜108N/m2である。好ましくは、曲げ弾性率もこの範囲内である。
【0020】
さらに、フィラメントの面は、フィラメントと水との間の接触角が100°を超えるように疎水性でなければならない。たとえば、Suter et al., Journal of Arachnology, 32:11-21, 2004に記載されるような倒立顕微鏡及び超音波噴霧によってこれを測定することができる。好ましくは、接触角は110°より大きい。
【0021】
別の実施態様では、疎水性は顕微鏡によっても測定することができる。本発明に係る物質は好ましくは、140°を超える顕微鏡的な接触角を有する。
【0022】
驚くべきことに、本発明にかかるそのような面は、水によって置き換えられないような方法で空気を捕捉することができるので、面は濡れにくい。特に、フィラメントの弾性は、流れの中であってさえ空気を保持することができるので重要である。水の動きは、フィラメントによって弾性的に吸収される。
【0023】
実施態様の1つでは、フィラメント自体が、20ナノメータ〜10μmの高さを持つ高度を有する構造を有する。好ましくは、高度はフィラメントの直径の10%より小さい。
【0024】
本発明の好ましい実施態様は、水と接触した際、濡れない。「濡れない」は、深さ15cmの水に48時間、面を完全に沈めた場合、物体を表面に出した際、巨視的試験にて面の少なくとも97%が乾燥して見えることを意味する。
【0025】
本発明はまた、そのような物体を調製する方法にも関するものであり、
−それが、30〜6000μmの長さ、1:10〜1:20の直径対長さの比を有し、その少なくとも一方の表面にて該面に結合するフィラメントを有し、
−但し、面上における2つの隣接するフィラメントの間の距離は、そのような距離のフィラメントの長さに対する比が1:3〜1:10となるものであり;
−フィラメントが104〜1010N/m2の弾性を有し;
−フィラメントと水の間の接触角が100°より大きくなるようにフィラメントの面は疎水性であるような方法でフィラメントを伴うに面を調製する工程を含む。
【0026】
そのような面の調製については、織物又は織物製造の方法が特に好適である。
【0027】
好適な面は、熱硬化工程で収縮する織物フィラメント(「収縮フィラメント」)を熱硬化工程では長さが変化しない又は変化しにくい織物フィラメントと組み合わせる織物によって得ることができる。収縮可能な織物フィラメントを熱硬化工程で伸長する織物フィラメントと組み合わせることも可能である。本明細書では、「熱硬化工程」は、150℃で5分間の処理を意味する。織物分野では、熱硬化のそのほかの条件も採用してもよい。
【0028】
それから調製された織物が、あまりすべきではないが、収縮する糸に接触する一方で、長さが変化しない又は変化しにくい糸は面上でループ又は湾曲を形成する。
【0029】
事前に伸張させたスパンデックスフィラメントを使用することも可能であり、但し、同時加工された合成繊維(短繊維、又はマルチフィラメント又はモノフィラメント)におけるループ又は湾曲の形成は、弛緩する際、達成される。
【0030】
続いて硬化のために熱処理される機械的に渦巻きにした糸(たとえば、加工糸、バルク糸、高バルク糸)を、任意選択で糸混合工程と組み合わせて使用することも可能である。
【0031】
また、好適なのは、撚糸(ループ糸)、シェニール糸又はシェニールループ糸、コアヤーン、異なった材料の糸から作製された撚った糸、熱硬化工程で鞘が伸長挙動を有するバイオコンポーネント糸、又は芯が鞘よりも高い収縮性能を有し、芯と鞘の間に空気捕捉に利用できる中空空間を形成するバイオコンポーネント糸である。
【0032】
原則として、織り布、編んだ布、不織布、組ひも、フロック加工された面は、特に、二重編み布、たとえば、隙間のある織り布及び隙間のある編んだ布を含めて好適である。
【0033】
織り布又は編んだ布を基にしたテリー織りの布によってループを達成することも可能である。熱硬化工程の後、ループを切断して片面で結合したフィラメントを得てもよい。
【0034】
さらに好適な材料は、パイル生地、たとえば、滑らかなデザイン(ベルベット)又はうねりのあるデザイン(より糸)におけるベルベット又はフランテン又は縦糸又は横糸、編んだ布を基にした模倣のフランテン及び生皮、房状の布である。すでに糸ループを有する基本繊維上に突き出た繊維を実現することもできる。
【0035】
また、たとえば、スクリーンプリンティングのようなプリンティング法によるフロック加工法によって先ず、接着剤を適用してもよく、次いでフロック繊維をそれに適用する。起毛処理によって基本繊維からループを引っ張り出してもよい。
【0036】
本発明の実施態様の1つでは、隙間のある織物が採用される。これらには、2つの層間の空間も含まれる。空間は空気を供給するのに利用することができる。特に、中間の空間から上層を介して空気が存在して、新しい空気のクッションを提供することが可能である。層間でやや高めた圧によってこれを支えればよい。
【0037】
普通、相当する素材の疎水性は十分ではないので、続いて疎水化を達成しなければならない。この目的に好適な素材には、織物分野においてそれによって疎水性コーティングを達成することができる材料、たとえば、フルオロカーボンに基づくもの、蝋状物質、シリコーン系物質などが挙げられる。
【0038】
本発明に係る物体を、たとえば、乾いたままである水着を調製するのに使用してもよい。競泳のための水着の分野では、これはさらに、流れ抵抗の低下に寄与すればよい。水着のデザインによる隙間のある織物の2つの層間で圧力の上昇を達成することも可能である。
【0039】
素材はさらに、潜水服及びサーファー及びウインドサーファーの水着を調製するのに好適であり;特に、探究者と共に、とにかく利用可能な圧縮空気を使用して、隙間のある織物の2つの層間で高い圧を得ればよい。
【0040】
衣類分野に加えて、本発明に係る素材は、流れ抵抗を低下させるためのチューブの被覆加工にも好適である。また、船の船体でそのような面を採用することも可能である。特に、空気層を新しくするための対策と共に、流れ抵抗を低下させることができる。
【0041】
そのような構造体を調製する別の可能性は、いわゆる微細複製工程である。そのような工程では、適当な特性を有する素材の面がキャスティング化合物によってネガに変換される。次いでこのネガの形態を使用して液体プラスチック材、たとえば、合成樹脂ラッカーによって相当する面を調製してもよい。
【0042】
特に好ましい実施態様では、さらに大きな表面積を持つ面を得ることができるように、幾つかの形態が使用される。
【0043】
ネガの形態をロールに組み立てる方法は特に好適である。このように、硬化性のプラスチック組成物をロールの間隙に通すことによって連続的に調製を達成してもよい。形成後直ちに、照射、たとえば、紫外線照射によって合成樹脂組成物を硬化し、次いで形態で定義されたように面の構造体を保つ。
【0044】
以下の実施例によって本発明をさらに説明する。
【0045】
実施例1
伸張可能な成分と収縮可能な成分で構成されたポリエステル繊維から成るマルチフィラメントを平織りで織った。その後、熱処理を行い、ループを形成した。その後、繊維のコーティングを行った。コーティングは、Al23又はSiO2に基づくナノ粒子と組み合わせたフルオロカーボン含有化合物から成った。
【0046】
これら成分の水性製剤を用いて、その中に織物を浸した。過剰の材料は圧搾マングルによって除いた。約150℃での乾燥工程がこれに続いた。コーティング剤の濃度によって、0.1〜3.0重量%の単位面積当たりの塗布重量を達成した。乾燥後、相当する織物は、水(深さ15cm)に48時間沈めた際、事実上濡れないままであることを示した。物体を引き上げた際、材料上での濡れは巨視的に認められなかった。
【0047】
実施例2
微細複製工程
二成分シリコーンキャスティング化合物(たとえば、President Light Body, Coltene, Switzerland)を水生シダ(Salvinia natans)又はボタンウキクサ(Pistia stratiotes)の表面に塗布する。硬化後、柔軟でゴムのようなネガを剥離する。ネガを四角形に切断し、この工程を数回繰り返す。その後、さらに大きな表面積を達成するような形態でネガを連続して置く。継ぎ目のない変わり目を達成するために、前面からネガに軽い圧を適用する。キャスティングのためにこうして調製されたネガ形態にアクリル系ラッカーを注ぐ。疎水性の高いポリマーを使用するのであれば、複製のさらなる疎水化は必要ないが、さもなければ、その後、たとえば、展開防止剤F2/50FK60(Dr. Tilwich, Horb, Germany)によって、後で疎水化しなければならない。
【0048】
実施例3
実施例2で得られたような幾つかのネガ形態をロールに組み立てた。UV硬化性のラッカーをその幅全体にわたって供給し、こうして調製されたロールによって構造化した。ロールとフィルムを接触させた直後、UVランプによってラッカーの硬化を達成した。このように、本発明に係る面構造体を有するシートを得た。
【0049】
実施例4
フォトリソグラフィ/エッチング複合工程
PDMS(ポリジメチルシロキサン)で構成される面の調製
シリコーンの面(たとえば、PDMS)では、マスクアライナーによって3〜10μmの相互間隔にてポジのリフトオフフォトレジストに孔が開けられる。金をスパッタリングした後、フォトレジストを剥離し、残った金のプレートレットがマスクとして機能する。後者が、後に続いて行われるプラズマエッチング(反応性イオンエッチング)から下にあるシリコーン層を保護し、それによってシリコーンからフィラメントがエッチングされる。疎水性が十分でない場合、たとえば、展開防止剤F2/50FK60(Dr. Tilwich Horb, Germany)によるその後の疎水化が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】面のフィラメントを説明する図である。
【図2】構造体を伴ったフィラメントの拡大IIを示す。フィラメントそのものはフィラメント様の構造を有する。
【図3】構造体を伴ったフィラメントの拡大IIIを示す。フィラメントはその表面に粒子を有する。
【図4】構造体を伴ったフィラメントの拡大IVを示す。フィラメントは、非溝領域を高度として残すように機能する溝を有する。
【図5】収縮可能な織物フィラメントと伸張可能な織物フィラメントで出来た織物の走査電子顕微鏡像を示す。顕微鏡像における1cmは120μmに相当する。
【図6】面上で幾つかの接触点を持つ織物フィラメントを示す。本発明に係るフィラメントの長さは、2つの接触点間の織物フィラメントの長さとして定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面を有する物体であって、
−30〜6000μmの長さ、1:10〜1:20の直径対長さの比を有し、その少なくとも一方の表面にて該面に結合するフィラメントを有し;
−但し、面上における2つの隣接するフィラメントの間の距離は、そのような距離のフィラメントの長さに対する比が1:3〜1:10となるものであり;
−フィラメントが104〜1010N/m2の弾性を有し;
−フィラメントと水の間の接触角が100°より大きくなるようにフィラメントの面は疎水性である
前記物体。
【請求項2】
前記フィラメントには、20ナノメータ〜10μmの高さを持つ高度を含む構造体が設けられることを特徴とする請求項1に記載の物体。
【請求項3】
前記物体は、水と少なくとも48時間接触した際、濡れないままであることを特徴とする請求項1又は2に記載の物体。
【請求項4】
前記フィラメントはその両方の表面で該面に結合されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の物体。
【請求項5】
面を有する前記物体が織物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の物体。
【請求項6】
前記織物が、収縮可能な織物フィラメント及び非収縮可能な織物フィラメント又は伸張可能な織物フィラメントから成ることを特徴とする請求項5に記載の物体。
【請求項7】
前記物体が高分子シートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の物体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の物体を調製する方法であって、
−30〜6000μmの長さ、1:10〜1:20の直径対長さの比を有し、その少なくとも一方の表面にて該面に結合するフィラメントを有し;
−但し、面上における2つの隣接するフィラメントの間の距離は、そのような距離のフィラメントの長さに対する比が1:3〜1:10となるものであり;
−フィラメントが104〜1010N/m2の弾性を有し;
−フィラメントと水の間の接触角が100°より大きくなるようにフィラメントの面は疎水性であるような方法でフィラメントを伴う面を調製する工程を含む方法。
【請求項9】
前記調製には、収縮可能な織物フィラメント及び非収縮可能な織物フィラメント又は伸張可能な織物フィラメントが採用されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
微細複製工程が採用されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記物体の非濡れ性を達成するための請求項1〜7のいずれかに記載の物体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−528455(P2009−528455A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556783(P2008−556783)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051938
【国際公開番号】WO2007/099141
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506266528)ライニッシェ フリードリッヒ ヴィルヘルムス ウニヴェルジテート ボン (4)
【出願人】(508263914)
【Fターム(参考)】