説明

濡れ性の制御方法

【課題】本発明の目的は、表面の濡れ性を撥水性から親水性に制御する方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る濡れ性の制御方法は、水接触角がθ1である被蒸着面を有する基材を用意する工程1と、被蒸着面に、水接触角θ2が被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面を有する薄膜を形成する工程2と、撥水性表面に、水を含有する処理液を接触させて、水接触角θ3が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化させる工程3と、を有し、薄膜は、構成元素として珪素(Si)、炭素(C)、酸素(O)及び水素(H)を含有し、撥水性表面を、フーリエ変換近赤外分光光度計(FT‐IR)を用いて、高感度反射法(RAS法)で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に形成した薄膜の表面における水に対する濡れ性を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜を形成する技術として、プラズマ化学蒸着(CVD)法がある(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1には、有機珪素化合物を原料として、プラスチック製容器の内表面に、無機酸化物を主体とするガスバリア性薄膜を積層する方法が開示されている。しかし、プラズマCVD法によって薄膜を形成する方法は、薄膜形成時にプラズマが膜表面及び基板に損傷を与え、膜の緻密さが損なわれやすく、ガスバリア性の向上又は薄膜の密着性確保の障害となりうる。また、原料ガスをプラズマで分解してイオン化し、プラスチック容器の表面に電界で加速させたイオンを衝突させて薄膜を形成するため、必ず高周波電源及び高周波電力整合装置を必要とし、装置のコストが高額にならざるを得ないという問題を有する。
【0003】
この問題を解決するために、本出願人は、発熱させた発熱体に原料ガスを接触させて分解し、生成した化学種を直接又は気相中で反応過程を経た後に、基材上に薄膜として堆積させる方法、すなわち、発熱体CVD法、Cat‐CVD法又はホットワイヤーCVD法と呼ばれるCVD法(以降、本明細書では、発熱体CVD法という。)を用いて、プラスチック容器の表面にガスバリア性薄膜を形成する技術を開示している(例えば、特許文献2又は3を参照。)。特許文献2では、原料ガスとして非自然発火性原料とオゾンとの混合ガスを用いることで、酸化物薄膜としてAlOx薄膜又はSiOx薄膜を形成する技術を開示している。特許文献3では、原料ガスとして複数のガスを組み合わせることで、例えば、水素含有SiNx薄膜、水素含有DLC薄膜、水素含有SiOx薄膜又は水素含有SiCxNy薄膜を形成することができる発熱体CVD法に関する技術を提案している。
【0004】
ガスバリア性薄膜を形成する方法として、他に、熱可塑性樹脂からなる基材の表面に発熱体CVD法によって、原料ガスとして、窒素含有ガスとシラン系ガスとを用いて、SiN(窒化珪素)又はSiON(酸化窒化珪素)薄膜を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献4を参照。)。また、ガスバリア性薄膜ではないが、発熱体CVD法を用いて薄膜を形成する方法として、例えば、800〜2000℃に加熱した発熱体に原料ガスを接触させて発生させた化学種を、150〜400℃に加熱した基板上に熱CVD法によって薄膜を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献5を参照。)。特許文献5には、複数のガスを混合したガスを用いて、薄膜を堆積する方法が開示されている。
【0005】
ところで、本出願人は、ビール、発泡酒、炭酸飲料などの発泡飲料用の容器又は器具において、その注ぎ口の内壁面の水に対する濡れ性を良好にすることで、泡量、泡立ちともに良好とすることができることを見出した(例えば、特許文献6を参照。)。プラズマCVD法で薄膜を形成すると、薄膜を未形成の基材の表面よりも親水性が高まることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−200043号公報
【特許文献2】特開2008−127053号公報
【特許文献3】WO2006/126677号公報
【特許文献4】特開2008−208404号公報
【特許文献5】特開昭63−40314号公報
【特許文献6】特開2008−105684号公報
【特許文献7】特開平08−53116号公報
【特許文献8】特開2007−217738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、基材の表面について、その使用環境又は用途に応じて、水に対する濡れ性を撥水性から親水性に変化させることを求められることがある。例えば、特許文献6に記載した発明によれば、発泡飲料の泡をクリーミー、かつ、長時間持続させるには、容器又は器具の内表面は親水性表面が適しているが、容器又は器具に発泡飲料を充填する前の内面洗浄工程においては、洗浄液の除去が容易である点で、撥水性表面の方が適している。このような撥水性から親水性に表面性質を変化させることが適している用途は産業界に広く存在する。しかし、従来、表面性質が親水性から撥水性に変化する事例に比べ、容易に達成する手段が知られていなかった。特に発泡飲料容器のような安価、かつ、高速処理が求められる事例について顕著であった。
【0008】
本発明の目的は、表面の濡れ性を撥水性から親水性に制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る濡れ性の制御方法は、水接触角がθ1である被蒸着面を有する基材を用意する工程1と、前記被蒸着面に、水接触角θ2が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面を有する薄膜を形成する工程2と、前記撥水性表面に、水を含有する処理液を接触させて、水接触角θ3が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化させる工程3と、を有し、前記薄膜は、構成元素として珪素(Si)、炭素(C)、酸素(O)及び水素(H)を含有し、前記撥水性表面を、フーリエ変換近赤外分光光度計(FT‐IR)を用いて、高感度反射法(RAS法)で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記薄膜は、発熱体CVD法で形成されることが好ましい。
【0011】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記θ1が、21°以下である形態を包含する。
【0012】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記工程3において、前記処理液を接触させる時間が、6時間以上であることが好ましい。親水性をより高めることができる。
【0013】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記被蒸着面が、少なくとも、プラスチック容器の内表面であり、前記処理液は、前記プラスチック容器に充填する内容物である形態を包含する。内容物を充填する前の内面洗浄工程において、洗浄液の除去を容易とし、かつ、内容物を注ぎ出すときは、泡量、泡持ちを良好とすることができる。
【0014】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記被蒸着面が、液体濾過用フィルタの一次側濾過面であり、前記工程3は、前記液体濾過用フィルタを濾過器に装着して、前記液体濾過用フィルタのポア中又は前記液体濾過用フィルタと前記濾過器との隙間に残存する空気を抜く濾過準備工程である形態を包含する。濾過経路中の残存空気を脱気しやすくすることができ、濾過機能を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る濡れ性の制御方法では、前記被蒸着面が、建材の外表面であり、前記工程3は、前記建材を外壁に施工して、外気環境に曝す工程である形態を包含する。施工中は汚れとなる付着物をつきにくくし、かつ、施工後は汚れとなる付着物を洗い流しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、表面の濡れ性を撥水性から親水性に制御する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】成膜装置の一形態を示す概略図である。
【図2】水接触角の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1において、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。
【図4】実施例1において、工程3を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。
【図5】実施例2において、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。
【図6】比較例1において、工程2´を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0019】
第一実施形態に係る濡れ性の制御方法は、水接触角がθ1である被蒸着面を有する基材を用意する工程1と、被蒸着面に、水接触角θ2が被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面を有する薄膜を形成する工程2と、撥水性表面に、水を含有する処理液を接触させて、水接触角θ3が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化させる工程3と、を有し、薄膜は、構成元素として珪素(Si)、炭素(C)、酸素(O)及び水素(H)を含有し、撥水性表面を、フーリエ変換近赤外分光光度計(FT‐IR)を用いて、高感度反射法(RAS法)で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きい。
【0020】
次に、各工程について、基材がプラスチックからなり、被蒸着面としてプラスチック容器の内表面の濡れ性を制御する方法を例にとって説明する。
【0021】
(工程1)
工程1では、水接触角がθ1である被蒸着面を有する基材を用意する。
【0022】
基材となるプラスチックは、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができるが、生産性の点で、単層であることが好ましい。また、樹脂の種類は、PET又はCOC(環状オレフィンコポリマー)であることがより好ましい。
【0023】
プラスチック容器としては、蓋、栓若しくはシールして使用する容器、又はそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは、内容物に応じて適宜設定することができる。プラスチック容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有するプラスチック容器と剛性を有さないシート材によって形成されたプラスチック容器とを含む。本発明は、容器の製造方法に制限されない。また、容器は、リターナブル容器又はワンウェイ容器のどちらであってもよい。
【0024】
基材の厚さは、目的及び用途に応じて適宜設定することができ、特に制限はないが、例えば、プラスチック容器が飲料用ボトルである場合、ボトルの肉厚は、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、100〜350μmである。
【0025】
被蒸着面は、少なくとも、プラスチック容器の内表面のうち、注ぎ口の内表面であることが好ましい。より好ましくは、プラスチック容器の内表面の全面である。なお、被蒸着面を、プラスチック容器の内表面及び外表面の両方としてもよい。
【0026】
第一実施形態に係る濡れ性の制御方法では、被蒸着面の水接触角θ1が、21°以下である形態を包含する。被蒸着面の水接触角θ1が21°以下を示す基材としては、例えば、PETである。第一実施形態では、被蒸着面の撥水性が低くても、次に説明する工程2において、被蒸着面上に薄膜を形成することで、撥水性の高い表面を形成することができる。
【0027】
(工程2)
工程2では、被蒸着面に薄膜を形成する。
【0028】
薄膜は、構成元素として、Si、C、O及びHを含有する。Si、C、Oに関してはラザフォード後方散乱分析(以降、RBS分析という。)を、Hに関しては弾性反跳粒子検出分析(以降、ERDA分析という。)を用いて元素分析を実施した。RBS分析による薄膜のSi含有率は、20〜38atomic%(原子%、at%)であることが好ましい。より好ましくは、22〜36atomic%である。RBS分析による薄膜のC含有率は、15〜25atomic%であることが好ましい。より好ましくは、18〜22atomic%である。RBS分析による薄膜のO含有率は、12〜26atomic%であることが好ましい。より好ましくは、15〜21atomic%である。ERDA分析による薄膜のH含有率は、21〜46atomic%であることが好ましい。より好ましくは、25〜42atomic%である。水素含有量を例えば35atomic%以上46atomic%以下と大きくすることで、例えば、基材がプラスチックからなる場合に、プラスチック基材の変形に追従することが容易となる。逆に水素含有量を例えば21atomic%以上35atomic%未満と小さく抑えるとガスバリア性が向上する傾向にある。なお、薄膜は、Si,C,O及びH以外に、その他の元素を含んでもよい。その他の元素は、例えば、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)などの発熱体由来の金属元素、N(窒素)である。
【0029】
薄膜は、水接触角θ2が被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面を有する。プラスチック容器の内表面を撥水性表面とすることで、充填前の容器の洗浄工程において洗浄液の除去が容易となる。
【0030】
撥水性表面は、FT‐IRを用いて、RAS法で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きい。ここで、波数2000〜2300cm−1におけるピークから想定される表面に存在する結合状態は、Si−H結合であり、波数3200〜3500cm−1におけるピークから想定される表面に存在する結合状態は、Si−OH結合である。水接触角θ2が被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面となるメカニズムは、薄膜の表面が特異的にSi−H結合を有し、このSi−H結合が疎水性を示すことによると考えられる。
【0031】
薄膜の膜厚は、5nm以上であることが好ましい。より好ましくは、10nm以上である。5nm未満では、撥水性が不十分となる場合がある。また、薄膜の膜厚の上限値は、200nmとすることが好ましい。より好ましくは、100nmである。薄膜の膜厚が、200nmを超えると、内部応力によってクラックが生じやすくなる。
【0032】
第一実施形態に係る濡れ性の制御方法では、薄膜は、発熱体CVD法で形成されることが好ましい。発熱体CVD法は、真空チャンバ内で通電加熱によって発熱した発熱体に原料ガスを接触させて分解し、生成した化学種を直接又は気相中で反応過程を経た後に、基材上に薄膜として堆積させる方法である。発熱体は、その軟化温度によって異なるが、一般に、200〜2200℃に発熱させるが、基材と発熱体との間隔をあけることで、基材の温度を常温から200℃程度の低温に保つことが可能で、プラスチックのように熱に弱い基材にダメージを与えることなく、薄膜を形成することができる。また、プラズマCVDなど他の化学蒸着法又は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着(PVD)法と比べて、装置が単純で、装置自体のコストを抑えることができる。発熱体CVD法では、化学種の堆積によって薄膜が形成されるため、湿式法と比較して、かさ密度の高い緻密な膜が得られる。発熱体CVD法によって薄膜を形成することで、薄膜の表面を、FT‐IRを用いて、RAS法で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きい撥水性表面とすることができる。
【0033】
次に、発熱体CVD法で薄膜を形成する方法を説明する。図1は、成膜装置の一形態を示す概略図である。図1に示す装置は、特許文献3の図1に示す成膜装置であり、被蒸着面としてプラスチック容器11の内表面に薄膜を形成する装置である。
【0034】
(成膜装置への基材の装着)
まず、ベント(不図示)を開いて真空チャンバ6内を大気開放する。反応室12には、上部チャンバ15を外した状態で、下部チャンバ13の上部開口部から基材としてのプラスチック容器11が差し込まれて、収容される。この後、位置決めされた上部チャンバ15が降下し、上部チャンバ15につけられた原料ガス供給管23とそれに固定された発熱体18がプラスチック容器の口部21からプラスチック容器11内に挿入される。そして、上部チャンバ15が下部チャンバ13にOリング14を介して当接することで、反応室12が密閉空間とされる。このとき、下部チャンバ13の内壁面とプラスチック容器11の外壁面との間隔は、ほぼ均一に保たれており、かつ、プラスチック容器11の内壁面と発熱体18との間の間隔も、ほぼ均一に保たれている。
【0035】
(圧力調整工程)
次いでベント(不図示)を閉じたのち、排気ポンプ(不図示)を作動させ、真空バルブ8を開とすることにより、反応室12内の空気が排気される。このとき、プラスチック容器11の内部空間のみならずプラスチック容器11の外壁面と下部チャンバ13の内壁面との間の空間も排気されて、真空にされる。すなわち、反応室12全体が排気される。そして反応室12内が必要な圧力、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。1.0Pa未満では、排気時間がかかる場合がある。また、100Paを超えると、プラスチック容器11内に不純物が多くなる場合がある。大気圧から、1.4〜50Paに到達するように減圧すると、適度な真空圧とともに、大気、装置及び容器に由来する適度な残留水蒸気圧を得ることができ、簡易に薄膜を形成できる。
【0036】
(成膜工程‐発熱体への通電)
次に発熱体18を、例えば通電することで発熱させる。発熱体18は、C,W,Ta,Ti,Hf,V,Cr,Mo,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Ptの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料で構成されることが好ましい。発熱体18の発熱温度は、1550〜2400℃であることが好ましい。より好ましくは、1700〜2200℃である。
【0037】
(成膜工程‐原料ガスの導入)
この後、ガス流量調整器24aで原料ガス33として有機珪素系化合物を所定流量供給する。このとき、更にガス流量調整器24bで酸化ガスを所定流量供給することが好ましい。さらに、必要に応じてキャリアガスをガス流量調整器24cで流量制御しながら、バルブ25dの手前で原料ガス33に混合する。すると、原料ガス33は、ガス流量調整器24aで流量制御された状態で、又はキャリアガスによって流量が制御された状態で、所定の圧力に減圧されたプラスチック容器11内において、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17xから発熱した発熱体18に向けて吹き出される。このように発熱体18を昇温完了後、原料ガス33の吹き付けを開始することが好ましい。成膜初期から、発熱体18によって十分に活性化された化学種34を生成させることができる。
【0038】
有機珪素系化合物は、例えば、モノメチルシラン(CHSiH)、ジメチルシラン((CHSiH)、トリメチルシラン((CHSiH)、ビニルシラン(CHCHSiH)、エテニル(メトキシ)シラン(CHCHSiH(OCH))、ジメトキシビニルシラン(CHCHSiH(OCH)、ジシラブタン(HSiCSiH)、ジシリルアセチレン(HSiCSiH)、2‐アミノエチルシラン(HSiCNH)、トリエトキシシラン((CO)SiH)、ジビニルシラン((C)SiH)である。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。この中で、ビニルシラン、ジシラブタン、ジビニルシランがより好ましい。
【0039】
酸化ガスは、例えば、酸素(O)、オゾン(O)、水蒸気(HO)、二酸化炭素(CO)である。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。この中で、二酸化炭素がより好ましい。適量の有機珪素系化合物と一緒に酸化ガスを供給することで、有機珪素系化合物を単独で用いて成膜する場合よりも薄膜表面の撥水性を更に高めることができる。また、薄膜を実質無色とすることができる場合がある。
【0040】
キャリアガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスである。
【0041】
(成膜工程‐成膜)
原料ガス33又は原料ガス33及び酸化ガスが発熱体18と接触すると構成元素として、Si、C、O及びHを含有する化学種34が生成される。この化学種34が、プラスチック容器11の内壁に到達することで、構成元素として少なくともSi、C、O及びHを含有する薄膜を堆積することになる。成膜工程において発熱体18を発熱させて原料ガスを発熱体18に吹き付ける時間(以降、成膜時間ということもある。)は、1.0〜20秒であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜8.5秒である。成膜時の真空チャンバ内の圧力は、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。
【0042】
成膜によって、基板表面全体はSi−H結合を多く含む構造で被覆される。このSi−H結合の疎水性に起因して、薄膜表面は、その水接触角θ2が被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面となると推測される。
【0043】
(成膜の終了)
薄膜が所定の厚さに達したところで、原料ガス33、酸化ガス及びキャリアガスの供給を止め、反応室12内を再度排気した後、図示していないリークガスを導入して、反応室12を大気圧にする。この後、上部チャンバ15を開けてプラスチック容器11を取り出す。
【0044】
本発明者らが実験したところによると、水接触角θ1が20.5°(任意の2箇所を測定した平均値)であるPET基材の被蒸着面に、原料ガス33としてビニルシランを用いて薄膜を形成すると、薄膜の表面の水接触角θ2(任意の2箇所を測定した平均値)は21.5°であった。また、原料ガス33としてビニルシランを用い、酸化ガスとして二酸化炭素を用いて形成した薄膜の表面は、水接触角θ2(任意の2箇所を測定した平均値)が24.0°であった。いずれも、薄膜の表面の水接触角θ2が、薄膜を形成する前の基材の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面であることを確認した。さらに、撥水性表面を、FT‐IRを用いて、RAS法で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きいことを確認した。
【0045】
また、原料ガス33としてビニルシランを用いて形成した薄膜は、数1で求めるバリア性改良率(Barrier Improvement Factor,以降、BIFという。)が10以上であり、原料ガス33としてビニルシランを用い、酸化ガスとして二酸化炭素を用いて形成した薄膜は、BIFが9以上であり、いずれも高いガスバリア性を有することを確認した。
(数1)BIF=[薄膜未形成の基材の酸素透過度]/[薄膜を備える基材の酸素透過度]
【0046】
薄膜をプラスチック容器11の内表面に形成する方法について説明してきたが、薄膜をプラスチック容器11の外表面に形成するには、例えば、特許文献3の図3に示す成膜装置を用いて行うことができる。また、成膜装置は、図1に示す装置に限定されず、例えば、特許文献2又は3に示すように種々の変形をすることができる。
【0047】
(工程3)
工程3では、撥水性表面に、水を含有する処理液を接触させて、水接触角θ3が被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化させる。
【0048】
処理液は、水を含有する限り特に制限はないが、プラスチック容器に充填する内容物であることが好ましい。処理液として内容物を用いることで、工程3が充填工程及び保管・流通工程において同時に進行するため、総工程時間を短縮することができる。内容物としては、例えば、水、茶飲料、清涼飲料、果汁飲料、炭酸水、炭酸飲料、ビール若しくは発泡酒などの発泡飲料である。この中で、発泡飲料であることが好ましい。プラスチック容器の内表面を親水性とすることで、発泡飲料を注ぎ出すとき、泡量及び泡持ちを良好とすることができる。
【0049】
第一実施形態に係る濡れ性の制御方法では、工程3において、処理液を接触させる時間が、6時間以上であることが好ましい。より好ましくは24時間以上である。処理液を接触させる時間が、6時間未満では親水性への変化が不十分である場合がある。なお、撥水性表面を親水性表面に変化させるのに要する時間は、処理液の温度で調整することができる。例えば、撥水性表面を親水性表面に変化させるのに要する時間は、処理液の温度が40〜80℃では6〜12時間であり、処理液の温度が20〜30℃では24〜72時間である。
【0050】
撥水性表面が、水を含有する処理液と接触することで、水接触角θ3が被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化するメカニズムは、Si−CH結合又はSi−O−Si結合などの疎水性結合がSi−OH結合に変化して、表面において疎水基であるSi−H結合よりも親水基であるSi−OH結合の影響が大きくなったことによるものと考える。
【0051】
第一実施形態に係る濡れ性の制御方法は、発泡飲料用のプラスチック容器の内表面に適用することで、飲料の充填前は、内表面が撥水性を示して容器の洗浄のための洗浄液の液切れを良好とし、かつ、飲料を充填後は、保管又は流通過程において内表面が撥水性から親水性に変化して、飲用時には内表面が親水性を示して泡立ちを良好とすることができる。
【0052】
ここまで、第一実施形態としてプラスチック容器の内表面の濡れ性を制御する方法について説明してきたが、本発明はこの形態に限定されず、汚れなどの付着物が付着しにくい撥水性の状態から汚れなどの付着物を洗い流しやすい親水性の状態へ基材の表面状態が変化することを利用して、各分野に適用可能である。次に、適用例を第二実施形態及び第三実施形態として示す。なお、第二実施形態及び第三実施形態は、基本的な工程を第一実施形態と同じくするため、ここでは、共通する点についての説明を省略し、相違する点について説明する。
【0053】
第二実施形態に係る濡れ性の制御方法では、被蒸着面が、液体濾過用フィルタの一次側濾過面であり、工程3は、液体濾過用フィルタを濾過器に装着して、液体濾過用フィルタのポア中又は液体濾過用フィルタと濾過器との隙間に残存する空気を抜く濾過準備工程である形態を包含する。
【0054】
液体濾過用フィルタは、例えば、飲料の製造過程における最終濾過に用いるフィルタである。液体濾過用フィルタの材質は、例えば、紙、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス繊維、金属である。これらは、単独で使用するか、又は混合物若しくは積層体として組み合わせて使用してもよい。液体濾過用フィルタの形状としては、例えば、シートフィルタ、スタックドディスク型、プリーツ型などのカートリッジフィルタを包含する。本発明は、液体濾過用フィルタの材質及び形状に制限されない。
【0055】
被蒸着面は、一次側濾過面であるか、又は一次側濾過面及び二次側濾過面の両面としてもよい。ここで、一次側濾過面は、濾過前の液体(被濾過液)が接触する側の表面であり、二次側濾過面は、一次側濾過面の反対側の表面である。
【0056】
第二実施形態では、処理液は、水を含有する限り特に制限されないが、例えば、水、被濾過液又は洗浄液である。
【0057】
第二実施形態に係る濡れ性の制御方法は、液体濾過用フィルタの一次側濾過面に適用することで、濾過前は表面が撥水性を示してフィルタを汚れにくくして保管性を良好とし、濾過準備工程において一次側濾過面が撥水性から親水性に変化して、濾過中は親水性を示してフィルタの濾過機能を十分に発揮することができる。
【0058】
第三実施形態に係る濡れ性の制御方法では、被蒸着面が、建材の外表面であり、工程3は、建材を外壁に施工して、外気環境に曝す工程である形態を包含する。
【0059】
建材は、例えば、外壁材である。建材の材質は、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、陶磁器、ガラス、木、石、セメント、コンクリートである。これらは、単独で使用するか、又は混合物若しくは積層体として組み合わせて使用してもよい。
【0060】
第三実施形態では、処理液は、例えば、雨、雪又は空気中の湿気による結露である。
【0061】
第三実施形態に係る濡れ性の制御方法では、建材の外表面に適用して外壁に施工することで、施工中は表面が撥水性を示して汚れをつきにくくして作業性を向上し、施工後は外気環境に曝すことで、雨、雪又は空気中の湿気による結露などによって外表面が撥水性から親水性に変化して、汚れを洗い流しやすくすることができる。
【実施例】
【0062】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0063】
(実施例1)
基材として、被蒸着面として水接触角θ1が20.5°である内表面を有する500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)を用意し(工程1)、その内表面に、図1に示す成膜装置を用いて薄膜を形成した(工程2)。水接触角θ1の測定方法は、後述する薄膜表面の水接触角の測定と同様である。工程2は、次のとおり行った。まず、ペットボトルを真空チャンバ6内に収容し、1.0Paに到達するまで減圧した。次いで、発熱体18として、φ0.5mm、長さ44cmのモリブデンワイヤーを2本用い、発熱体18に直流電流を24V印加し、2000℃に発熱させた。その後、ガス流量調整器24aから原料ガスとしてビニルシランを、流量が50sccmとなるように供給し、ペットボトルの内表面に薄膜を堆積させた。膜厚は、20nmであった。なお、膜厚は、触針式段差計(型式:α‐ステップ、ケーエルエーテン社製)を用いて測定した値である。ここで、ガス流量調整器24a〜24cからガス供給口16の配管は、アルミナ製の1/4インチ配管で構成した。成膜時の圧力を5.0Paとした。また、成膜時間は、6秒間とした。このようにして薄膜を形成したペットボトルに処理液として水500ml(液温23℃)を充填し、雰囲気温度23℃、雰囲気湿度50%RHで1週間保管した(工程3)。
【0064】
(実施例2)
基材として、実施例1の工程1で用意したペットボトルと同様のものを用意し(工程1)、その内表面に、図1に示す成膜装置を用いて薄膜を形成した(工程2)。工程2は、次のとおり行った。実施例1において、発熱体18として、φ0.5mm、長さ44cmのタンタルワイヤーを2本用い、発熱体18に直流電流を25V印加し、2000℃に発熱させた。その後、原料ガス供給と同時に、ガス流量調整器24bから酸化ガスとして二酸化炭素を、流量が30sccmとなるように供給した以外は、実施例1と同様にペットボトルの内表面に薄膜を堆積させた。膜厚は、20nmであった。このようにして薄膜を形成したペットボトルについて、実施例1の工程3と同様の作業を行った。
【0065】
(比較例1)
基材として、実施例1の工程1で用意したペットボトルと同様のものを用意し(工程1)、その内表面に、特許文献7の図1に示したプラズマCVD法による製造装置を用いて13.56MHzの高周波電圧を印加させてプラズマを発生させることにより、ガスバリア性DLC薄膜を形成した(工程2´)。膜厚は、20nmであった。このようにして薄膜を形成したペットボトルについて、実施例1の工程3と同様の作業を行った。
【0066】
(比較例2)
基材として、実施例1の工程1で用意したペットボトルと同様のものを用意し(工程1)、その内表面に、特許文献8の図1に示したプラズマCVD法による製造装置を用いて2.45GHzのマイクロ波電圧を印加させてプラズマを発生させることにより、ガスバリア性のあるSiOx薄膜と酸素含有SiC薄膜との二層構造を有する薄膜を形成した(工程2´)。膜厚は、SiOx薄膜が18nm、酸素含有SiC薄膜が2nmであり、合計20nmであった。このようにして薄膜を形成したペットボトルについて、実施例1の工程3と同様の作業を行った。
【0067】
(比較例3)
基材として、実施例1の工程1で用意したペットボトルと同様のものを用意し(工程1)、その内表面に、特許文献8の図1に示したプラズマCVD法による製造装置を用いて2.45GHzのマイクロ波電圧を印加させてプラズマを発生させることにより、ガスバリア性のあるSiOx薄膜を形成した(工程2´)。膜厚は,20nmであった。このようにして薄膜を形成したペットボトルについて、実施例1の工程3と同様の作業を行った。
【0068】
評価項目及び評価方法は次のとおりである。
【0069】
(RBS分析およびERDA分析による薄膜の元素比率)
実施例及び比較例において、工程2又は工程2´を経たペットボトルについて、薄膜を高分解能RBS装置及び高分解能ERDA分析(ともにHRBS500、神戸製鋼所社製)を用いて元素比率を分析した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(薄膜表面の水接触角の測定)
実施例及び比較例において、工程1で用意したペットボトル、工程2若しくは工程2´又は工程3を経たペットボトルについて、それぞれ薄膜表面の水接触角を測定した。水接触角の測定には、ペットボトルの底面から60mmの位置を20mm×20mmで切り出した試験片を用いた。この試験片の薄膜の表面上に、水滴(3μl)を滴下して、FACE接触角計(CA−D型、協和界面科学社製)を用いて、雰囲気温度23℃、雰囲気湿度50%RHで接触角を測定した。この試験片のそれぞれについて、任意の2箇所の水接触角を測定し、平均値を求めた。ここで、工程2を経たペットボトルの薄膜表面の水接触角をθ2、工程2´を経たペットボトルの薄膜表面の水接触角をθ2´及び工程3を経たペットボトルの薄膜表面の水接触角をθ3とした。それぞれの水接触角の値を表2に示す。さらに、水接触角の変化を図2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
(FT‐IR)
実施例1、2及び比較例1において、工程2又は工程2´を経たペットボトルについて、フーリエ変換赤外分析装置(FT‐IR‐400Plus、600Plus、VIR‐9000、日本分光社製)を用いてRAS法で、薄膜表面を分析した。また、実施例1においては、工程3を経たペットボトルの薄膜表面についても同様に分析した。測定条件は、分解能を4cm−1、積算回数を128回とした。図3は、実施例1において、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。図4は、実施例1において、工程3を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。図5は、実施例2において、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。図6は、比較例1において、工程2´を経たペットボトルの薄膜の表面をFT‐IR(RAS法)で測定したスペクトルである。
【0074】
表1及び図2より、薄膜未形成のプラスチックボトルの水接触角θ1が20.5°であったのに対し、実施例1及び実施例2では、工程2を経たペットボトルの薄膜の水接触角θ2は、それぞれ21.5°、24.0°であった。実施例1及び実施例2は、薄膜を形成することで、水接触角θ2が、被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面が形成されたことが確認できた。さらに、工程3を経たペットボトルでは、薄膜表面の水接触角θ3は、実施例1では9.5°、実施例2では9.5°に変化した。実施例1及び実施例2は、薄膜を処理液に接触させることで、撥水性の薄膜の表面が親水性に変化することが確認できた。
【0075】
図3及び図5からわかるように、実施例1及び実施例2は、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面を、FT‐IRを用いて、RAS法で測定すると、波数(Wavenumber)2000〜2300cm−1におけるピークの強度(吸光度(Absorbance、ABS)のピーク強度)が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きかった。このことから、実施例1及び実施例2では薄膜の表面に特異的にSi−H結合が存在するため、撥水性表面となったと考えられる。図3及び図4からわかるように、実施例1において、工程2を経たペットボトルの薄膜表面と比較して、工程3を経たペットボトルの薄膜表面では、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも小さくなった。このことから、実施例1では、薄膜の表面が処理液に接触することで、薄膜の表面において波数755cm−1付近に由来するSi−CH伸縮結合、波数1055cm−1付近に由来するSi−O−Si伸縮振動又は波数1410cm−1付近に由来するSi−CH逆対称変角振動などの疎水性結合がSi−OH結合に変化して、表面において疎水基であるSi−H結合よりも親水基であるSi−OH結合の影響が大きくなったことに起因して、撥水性表面から親水性表面に変化したと考えられる。なお、実施例2についても同様の傾向が見られた。
【0076】
これに対して、比較例1〜3の薄膜はいずれも、工程2´を経たペットボトルの薄膜の水接触角θ2´が、薄膜未形成のプラスチックボトルの水接触角θ1より小さかった。比較例1〜3の薄膜はいずれも、薄膜を形成することで、被蒸着面の水接触角θ1よりも水接触角θ2´が小さい親水性表面となったことが確認できた。さらに、工程3において、処理液に接触後の水接触角θ3は、処理液接触前の水接触角θ2´とほとんど同じであった。
【0077】
図6からわかるように、比較例1では、工程2を経たペットボトルの薄膜の表面を、FT‐IRを用いて、RAS法で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも小さかった。このことから、比較例1〜比較例3では、薄膜の表面にSi−OH結合が多く存在するため親水性表面となったと考えられる。このことは、比較例1〜比較例3はプラズマCVD法で薄膜を形成したため、成膜時にSi−H結合が形成されないか、又は成膜直後に環境の空気と接触して表面が酸化し、親水化したためと考えられる。
【0078】
(BIF)
参考評価として、ペットボトルのBIFを測定した。BIFは、数1において、実施例又は比較例において、工程2を経たペットボトルの酸素透過度の値を「薄膜を備える基材の酸素透過度」とし、工程1で用意したペットボトルの酸素透過度を「薄膜未形成の基材の酸素透過度」として算出した。また、実施例1については、工程2の後、工程3に替えて、清涼飲料水(キリンレモン(登録商標)、キリンビバレッジ社製)500mlを充填し、雰囲気温度23℃、雰囲気湿度50%RHで2ヶ月間放置後、清涼飲料水を取り除き、BIFを測定した。酸素透過度は、酸素透過度測定装置(型式:Oxtran 2/20、Modern Control社製)を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から24時間コンディショニングし、測定開始から72時間経過後の値とした。なお、参考例1のペットボトルの酸素透過度は、0.0350cc/容器/日であった。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示すように、実施例及び比較例において、工程2又は工程2´で薄膜を形成したペットボトルはいずれもBIFが7以上でガスバリア性を有していた。また、実施例1では、清涼飲料水を充填後、2ヶ月経過してもBIFの低下が見られなかった。
【符号の説明】
【0081】
6 真空チャンバ
8 真空バルブ
11 プラスチック容器
12 反応室
13 下部チャンバ
14 Oリング
15 上部チャンバ
16 ガス供給口
17 原料ガス流路
17x ガス吹き出し孔
18 発熱体
19 配線
20 ヒータ電源
21 プラスチック容器の口部
22 排気管
23 原料ガス供給管
24a,24b,24c 流量調整器
25d バルブ
26a,26b 接続部
27 冷却水流路
28 真空チャンバの内面
29 冷却手段
30 透明体からなるチャンバ
33 原料ガス
34 化学種

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水接触角がθ1である被蒸着面を有する基材を用意する工程1と、
前記被蒸着面に、水接触角θ2が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも大きい撥水性表面を有する薄膜を形成する工程2と、
前記撥水性表面に、水を含有する処理液を接触させて、水接触角θ3が前記被蒸着面の水接触角θ1よりも小さい親水性表面に変化させる工程3と、を有し、
前記薄膜は、珪素(Si)、炭素(C)、酸素(O)及び水素(H)を構成元素の主成分として含有し、
前記撥水性表面を、フーリエ変換近赤外分光光度計(FT‐IR)を用いて、高感度反射法(RAS法)で測定すると、波数2000〜2300cm−1におけるピークの強度が、波数3200〜3500cm−1におけるピークの強度よりも大きいことを特徴とする濡れ性の制御方法。
【請求項2】
前記薄膜は、発熱体CVD法で形成されることを特徴とする請求項1に記載の濡れ性の制御方法。
【請求項3】
前記θ1が、21°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の濡れ性の制御方法。
【請求項4】
前記工程3において、前記処理液を接触させる時間が、6時間以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の濡れ性の制御方法。
【請求項5】
前記被蒸着面が、少なくとも、プラスチック容器の内表面であり、
前記処理液は、前記プラスチック容器に充填する内容物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の濡れ性の制御方法。
【請求項6】
前記被蒸着面が、液体濾過用フィルタの一次側濾過面であり、
前記工程3は、前記液体濾過用フィルタを濾過器に装着して、前記液体濾過用フィルタのポア中又は前記液体濾過用フィルタと前記濾過器との隙間に残存する空気を抜く濾過準備工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の濡れ性の制御方法。
【請求項7】
前記被蒸着面が、建材の外表面であり、
前記工程3は、前記建材を外壁に施工して、外気環境に曝す工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の濡れ性の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44021(P2013−44021A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182688(P2011−182688)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】