説明

濾水性向上方法

【課題】紙及び板紙の製紙工程において、ワイヤーでの歩留率を向上し、尚且つ、濾水性、搾水性の改善及び生産性の向上を図る濾水性向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】抄紙前の製紙原料において、ビニル系単量体或いはビニル系単量体混合物を乳化重合することにより得た電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を適用することにより、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙の製紙工程において、電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を添加することにより、濾水性、搾水性の改善及び生産性の向上ができる濾水性向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の製造において、特にライナーや中芯原紙等の板紙の抄紙工程では、抄紙速度向上による生産効率改善の観点からワイヤーパートでの濾水性向上、ドライヤーパートでの乾燥性向上が強く要望されている。近年では省資源や省エネルギーの観点から古紙の配合比率が高まっており、循環して蓄積される夾雑物や微細繊維分の製紙原料中の割合が増加している。そのため、ワイヤー上での濾水性、プレスパートでの搾水性を改善させるため、より効果的な濾水性向上処方が要望されている。従来から使用されている濾水性向上処方としては、ポリエチレンイミンを用いる処方が挙げられるが、添加量が多く必要なため添加コストが掛かることや、用水が発泡する等の欠点があった。そのためポリエチレンイミンの改良発明やポリエチレンイミンを用いた処方(特許文献1)が提案されているが大幅な濾水性・搾水性改善には到達していない。 又、ポリアクリルアミド系カチオン性ポリマーが用いられる場合もあるが、ワイヤーでの製紙原料の歩留率改善が主用途の直鎖状の高分子量なタイプが多いため、歩留率は改善するが、ポリマーが形成したフロック中に過多に水分を取り込み、濾水・搾水性が低下する場合がある。そこで、濾水・搾水性を高めるためにポリマーのカチオン密度と分子量を調整する必要があるが、抄造紙料の性状に合わせて歩留と濾水効果の両方を満足させることは困難な状況にある。アクリルアミド系ポリマーに分岐構造を持たせ濾水性が向上する処方も種々提案されているが(特許文献2)、これらは主に紙力増強剤としての作用が主なため、分子量が不足であり、特に古紙を含有した微細繊維分が多い抄紙原料については大幅な濾水性改善は得られず、更にプレスパートやドライヤーパートでの搾水性改善については殆ど言及されていない。又、これまでに提案された濾水性処方に関して架橋度と搾水性について記載された先行文献は見当たらない。
【特許文献1】特開2001−295193号公報
【特許文献2】特開2000−239326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、板紙の製紙工程において、ワイヤーでの歩留率を向上し、尚且つ、濾水性、搾水性の改善及び生産性の向上を図る濾水性向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、抄紙前の製紙原料において、ビニル系単量体或いはビニル系単量体混合物を乳化重合することにより得た電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を使用することにより、ワイヤー上での製紙原料の歩留率向上、濾水性・搾水性改善及び生産性の向上を図ることが可能であることを発見し本発明に達した。
【発明の効果】
【0005】
本発明は抄紙工程において、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物を乳化重合することにより得た電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を使用する。ビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体が下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜100モル%、下記一般式(3)で表される単量体0〜35モル%、共重合可能な非イオン性水溶性単量体0〜90モル%、及び架橋性単量体からなる単量体混合物を重合したものである。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。

【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす
【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0006】
本発明の特徴は、板紙の濾水性向上方法において、従来の濾水性向上剤に比べて高い歩留率を維持し、濾水性・搾水性改善できる薬剤を発見したことにある。この薬剤を添加することにより高い歩留を維持し、ワイヤーでの濾水性向上或いはプレスパートでの搾水性向上効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体は、原料として使用する単量体、カチオン単量体、即ち一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体を10〜100モル%、必要に応じてアニオン性単量体、即ち一般式(3)で表される単量体を0〜35モル%、共重合可能な非イオン性水溶性単量体を0〜90モル%からなる単量体混合物と架橋性単量体の水溶液を重合することによって製造することができる。特に好ましい形態としては、油中水型エマルジョンであり、これは前記単量体水溶液を界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、適宜転相剤を添加し製造されたものである。
【0008】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を製造する際使用するイオン性単量体のうち、カチオン性単量体、即ち一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体は10〜100モル%であり、好ましくは15〜90モル%の範囲である。
【0009】
本発明で使用するビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を製造する際使用するイオン性単量体のうち、カチオン性単量体は以下の様な例がある。すなわち、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミン等が挙げられ、四級アンモニウム基含単量体の例は、前記三級アミノ含有単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物等である。
【0010】
前記水溶性両性重合体を製造する際には、上記ビニル系カチオン性単量体の他、ビニル系アニオン性単量体を併用する。その例としてはビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸或いは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸或いはp−カルボキシスチレン酸等が挙げられる。
【0011】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を製造する際使用する非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する架橋性単量体の具体例としてはN,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミドなどのビニル系メチロール化合物、アクロレインなどのビニル系アルデヒド化合物あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらの中でもN,N’−メチレンビスアクリルアミドの使用が好ましい。
【0013】
本発明で使用する架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体は、電荷内包率15%以上、90%以下である。電荷内包率の定義は、特許第4167969号でも規定されているが、即ち、下記定義1で示される。
定義1)カチオン性の架橋性水溶性高分子および、両性でかつカチオン性単量体とアニオン単量体の共重合率の差が正である架橋性水溶性高分子の場合
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した架橋性水溶性高分子水溶液をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量。βは酢酸にてpH4.0に調整した架橋性水溶性高分子水溶液にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を電荷の中和を行なう十分な量加え、その後ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量からブランク値を差し引いた滴定量(ブランク値:架橋性水溶性高分子水溶液無添加時にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量)。
定義2)両性でかつカチオン性単量体とアニオン単量体の共重合率の差が負である架橋性水溶性高分子の場合
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整した架橋性水溶性高分子水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量。βはアンモニアにてpH10.0に調整した架橋性水溶性高分子水溶液にポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を電荷の中和を行なう十分な量加え、その後ビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量からブランク値を差し引いた滴定量(ブランク値:架橋性水溶性高分子0.01%水溶液無添加時にポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量)。
【0014】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体は、前記電荷内包率が15%以上、90%以下の範囲内であり、好ましくは35〜90%の範囲内である。
【0015】
電荷内包率の測定法については、カチオン性の架橋性水溶性高分子及び、両性で且つカチオン性単量体とアニオン性単量体の共重合率の差が正である架橋性水溶性高分子では、以下の様に計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した架橋性水溶性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(MutekPCD−03、MutekPCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000Nポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。βは酢酸にてpH4.0に調整した架橋性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400Nポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を電荷の中和を行なうに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、この滴定量をブランク値から差し引いた値とする。ブランク値とは酢酸にてpH4.0に調整した前記サンプルと同濃度のポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。
【0016】
両性で且つカチオン性単量体とアニオン性単量体の共重合率の差が負である架橋性水溶性高分子では、以下の様に計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整した架橋性水溶性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(MutekPCD−03、MutekPCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。βはアンモニアにてpH10.0に調整した架橋性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を電荷の中和を行なうに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000Nポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、この滴定量をブランク値から差し引いた値とする。ブランク値とはアンモニアにてpH10.0に調整した前記サンプルと同濃度のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000Nポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。
【0017】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体は、イオン性単量体及び非イオン性単量体と架橋性単量体からなる単量体混合物を共重合することによって製造することができる。重合はこれら単量体を混合した水溶液を調製した後、通常の重合法によって行なうことができる。
【0018】
重合法としては、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合などによって重合した後、水溶液、分散液、エマルジョン或いは粉末等任意の製品形態にすることができる。好ましい形態としては、濃度を高められ、溶解時間も短い油中水型エマルジョン重合品である。
【0019】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、イオン性単量体及び非イオン性単量体と架橋性単量体からなる単量体混合物を水、少なくとも水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合することにより合成する方法である。
【0020】
また、分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類或いは灯油、軽油、中油等の鉱油、或いはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度等の特性を有する炭化水素系合成油、或いはこれらの混合物が挙げられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20重量%〜50重量%の範囲であり、好ましくは20重量%〜35重量%の範囲である。
【0021】
油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する界面活性剤の例としては、HLB3〜11のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%の範囲である。
【0022】
重合後は、転相剤と呼ばれる親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中の水溶性高分子が溶解しやすくする処理を行ない、水で希釈しそれぞれの用途に用いる。親水性界面活性剤の例としては、カチオン性界面活性剤やHLB9〜15のノ二オン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルコールエーテル系等である。
【0023】
重合条件は通常、使用する単量体や共重合モル%によって適宜決めていき、温度としては0〜100℃の範囲で行なう。特に油中水型エマルジョン重合法を適用する場合は、20〜80℃、好ましくは20〜60℃の範囲で行なう。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性或いは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、過酸化物系、レドックス系何れでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、4、4’−アゾビス−(4−メトキシ−2、4−ジメチル)バレロニトリル等が挙げられる。
【0024】
水溶性アゾ開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。またレドックス系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0025】
単量体の重合濃度は20〜50重量%の範囲であり、好ましくは25〜40重量%の範囲であり、単量体の組成、重合法、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。これらの単量体を重合して得られるビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体の分子量は、300万〜3000万の範囲であり、好ましくは300万〜2000万の範囲である。
【0026】
本発明における濾水性向上処方として、本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体だけでなく、他の薬品を併用して添加することができる。即ち、アニオン性や両性ポリマー、ベントナイト或いはコロイダルシリカの無機物を適宜添加することができる。タイミングとしては、同時添加、或いは本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体の添加後に添加する。又、濾水性向上処方以外の薬品、例えば、填料、紙力剤、サイズ剤、凝結剤、硫酸バンドと同時に添加することができる。
【0027】
本発明のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体の添加場所としては、特に制限はないが、抄紙マシンのワイヤーパートに近いファンポンプやスクリーンの前後が好ましい。
【0028】
本発明で使用する電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体は、電荷内包率が15%未満の水溶性重合体に較べて、所謂、架橋が進行した状態であり、その架橋構造により製紙原料中に含有されるパルプ繊維や填料分、特に微細繊維分の表面に結合する部位が多くなり吸着が促進され、更に水中のポリマー分子が密度の詰まった状態であるため、形成フロック中の水分が遊離しやすくなり、高い濾水効果、搾水効果が得られると考えられる。電荷内包率が90%より高いと架橋が進みすぎ添加量の増大や歩留効果、濾水・搾水性が低下し、不利である。
【0029】
電荷内包率15%以上、90%以下であると本発明の効果を発揮するが、微細繊維分の割合が極めて高い抄造原料等、抄造原料の性状によっては電荷内包率が15%に近いとビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体のフロック形成能力や搾水性等の凝集性能では対応できず高い効果が得られない場合がある。そのため、あらゆる抄造原料に対応するには電荷内包率35%以上が好ましい。
【0030】
対象紙料としてはあらゆる紙料に対して適用できるが、特に最小限の添加率で濾水性、搾水性の向上、生産効率の改善が求められる板紙においてその効果がより発揮される。
【0031】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン127.5gにソルビタンモノオレート7.5g及びポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート5.0gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水17.4g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)101.3g、50重量%アクリルアミド(AAMと略記)237.9g、メチレンビスアクリルアミド0.2%水溶液3.0g、イソプロピルアルコール0.4g(対単量体0.2重量%)を各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/AAM=20/80(モル%)である。
【0033】
得られたエマルジョン単量体溶液の温度を45±2℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸メチル)0.1g(対単量体0.05重量%)を加え、重合反応を開始させた。45±2℃で1.5時間重合させのち70℃に加温し、1時間保温することで反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンデシルエーテル10.0g(対液2.0重量%)を添加混合した。B型粘度計により製品粘度を測定すると、370mPa・sであった。コロイド滴定法と前記計算式により電荷内包率を求めると36.5%であり、試作−1とする。更に合成例1と同様の操作によりDMQ/AAM=20/80(モル%)電荷内包率55.5%(試作−2)、DMQ/AAM=40/60(モル%)電荷内包率46.5%(試作−3)、DMQ/AAM=40/60(モル%)電荷内包率72.8%(試作−4)、DMQ/DMC/AAC/AAM=20/10/5/65(モル%)電荷内包率54.6%(試作−5)、DMQ/DMC/AAC/AAM=20/10/5/65(モル%)電荷内包率80.6%(試作−6)である架橋性水溶性高分子を合成した。結果を表1に示す。
【0034】
(比較合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン127.5gにソルビタンモノオレート7.5g及びポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート5.0gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水80.1g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)78.6g、50重量%アクリルアミド(AAMと略記)200.9g、イソプロピルアルコール0.4g(対単量体0.2重量%)を各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/AAM=20/80(モル%)である。
【0035】
得られたエマルジョンを単量体溶液の温度を40〜43℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(和光純薬製V−601)0.07g(対単量体0.035重量%)を加え、重合反応を開始させた。42±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル5.0g(対液1重量%)を添加混合した。その後、B型粘度計により製品粘度を測定すると、450mPa・sであった。前記計算式により電荷内包率を求めると12.9%であり、試作−7とする。
結果を表1に示す。更に比較合成例1と同様の操作によりDMQ/AAM=40/60(モル%)、電荷内包率93.6% である架橋性水溶性高分子を合成した(試作−8)。
【0036】
(表1)

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
DMC:メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド
【実施例1】
【0037】
ブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留率の測定試験を行なった。200メッシュワイヤー使用。使用原料は、固形分濃度0.52質量%で、古紙持ち込みAsh分として23.9%対固形分濃度含んだ板紙ライナー原料を用いた。製紙原料の物性値は、pH7.2、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社製PCD−03型を使用したカチオン要求量は、0.003meq/L、125Pスクリーン(200メッシュ相当)を通過した微細繊維分割合43.9%対固形分濃度である。合成例の試作−1〜6を対紙料固形分に対して200ppm添加、攪拌回転数1000rpmで30秒間攪拌後、濾液を30秒間採取し、ADVANTEC、No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を測定後、濾紙を525℃で2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。結果を表2に示す。
【0038】
(比較例1)実施例1と同様な製紙原料を用いて、合成例の試作−7、試作−8及びポリエチレンイミン(BASF社製、ポリミンSK)を対紙料固形分に対して200ppm添加し、攪拌回転数1000rpmで30秒間攪拌後、濾液を30秒間採取し、ADVANTEC、No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を測定後、濾紙を525℃で2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
(表2)

【0040】
実施例1の試作−1〜6を添加した場合、比較例1の試作−8及びポリエチレンイミンを添加した場合よりも高い歩留効果を示した。試作−8の電荷内包率が本発明の範囲外のため、製紙原料への吸着が不良であり歩留効果が低下したことが要因と推察される。 試作−7は実施例と同程度の歩留効果を示すが、電荷内包率が低く、所謂、強い直鎖性であり、長い分子鎖での架橋吸着作用により粗大なフロックを形成し過多に水分を取り込んでいると考えられる。 又、ポリエチレンイミンは分子量が低く、実施例と同添加率では歩留効果は著しい低下を示した。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同紙料を用いて動的濾水性試験機DDA(Dynamic Drainage Analyzer、マツボー社製)による濾水性及びシート含水率の測定試験を行なった。製紙原料を底部に315メッシュワイヤーの付いたDDA攪拌槽に投入。試作−1〜6を対紙料固形分に対して200ppm添加、攪拌回転数500rpmで30秒間攪拌後、300mBarの減圧下で、紙料を吸引し、ワイヤー上にシートを形成した時点の濾水時間、形成したシートの含水率を測定した。濾水時間はワイヤー上での水切れ性の指標としたもので濾水時間が短い程、良いことを示している。一方、シートの含水率は搾水性の指標となる。その結果を表3に示す。
【0042】
(比較例2)実施例1と同紙料を用いて同試験条件で動的濾水性試験機DDAによる濾水性及び形成シートの含水率の測定試験を行なった。試作−7、試作−8及びポリエチレンイミン(BASF社製、ポリミンSK)を対紙料固形分に対して200ppm添加時の濾水時間、形成したシートの含水率を測定した。その結果を表3に示す。
【0043】
(表3)

【0044】
本発明の試作−1〜6を用いた実施例2は、比較例2−2及び2−3に比べて、濾水時間が短縮しており、濾水性が良いことが確認できる。又、シート含水率も低く搾水性も改善されている。比較例2−1では濾水時間は実施例2と同程度を示すが、水分を過多に取り込んだためシート含水率は実施例より高くなり、搾水性の低下や乾燥効率の低下を招く結果となった。
【0045】
以上、本発明により、高い歩留効果を示し、尚且つ、濾水性・搾水性が良好であることが確認できた。これは、抄紙工程において、ワイヤー上での製紙原料の高い歩留率を維持し、尚且つ、濾水性・搾水性向上によるワイヤーパートでの抄速向上、プレスパートでの搾水性向上、ドライヤーパートでの乾燥効率改善に寄与し、生産性を向上するという課題を解決する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙前の製紙原料において、電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体を添加することを特徴とする濾水性向上方法。
【請求項2】
前記電荷内包率15%以上、90%以下のビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体が下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜100モル%、下記一般式(3)で表される単量体0〜35モル%、共重合可能な非イオン性水溶性単量体0〜90モル%、及び架橋性単量体からなる単量体混合物を重合したものであることを特徴とする請求項1に記載の濾水性向上方法。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす
【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項3】
前記ビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体の電荷内包率が35〜90%の範囲内であることを特徴とする請求項1或いは2に記載の濾水性向上方法。
【請求項4】
前記ビニル重合系架橋性水溶性カチオン性或いは両性重合体の形態が、前記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜100モル%、前記一般式(3)で表される単量体0〜35モル%、及び共重合可能な非イオン性水溶性単量体0〜90モル%、及び架橋性単量体からなる単量体混合物水溶液を界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、適宜転相剤を添加し製造された油中水型エマルジョンであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の濾水性向上方法。
【請求項5】
前記製紙原料が古紙を主体とする板紙用製紙原料であることを特徴とする請求項1に記載の濾水性向上方法。

【公開番号】特開2011−12354(P2011−12354A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155418(P2009−155418)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】