説明

濾過による塩水中に含まれる有機物の除去

【課題】アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、塩水中の有機物を除去する手段の提供。
【解決手段】アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、アルカリ塩水中に含まれる有機物を機能を有する膜を用いて低減または除去する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜を用いた、アルカリ塩電気分解における原料となる、アルカリ塩水溶液の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に確立された、食塩や塩化カリウムに代表されるアルカリ塩の電気分解法の内、イオン交換膜法は、塩素とアルカリを効率的に生産し、アスベストや水銀を用いないので環境負荷も低い優れた方法である。このような、イオン交換膜法アルカリ塩電解に用いられる塩水は、イオン交換膜の性能を長期間安定化させるために高度に精製されており、重金属などの不純物は塩水の精製工程でほぼ完全に除去されている。
【0003】
イオン交換膜法に用いる塩水は一般的に次の様に精製される。まず電解槽から排出された希薄塩水を脱塩素した後、水を加え、それに原料塩をほぼ飽和濃度に近くなるまで溶解する。次に炭酸ナトリウム、苛性ソーダ、塩化カルシウム、塩化バリウム、炭酸バリウムなどあるいはこれらの内のいくつかを添加し、原料塩水に含まれるカルシウムイオン、マグネシウムイオンや他の重金属イオン及び硫酸イオンと反応させて沈殿を形成させる。更に、シックナーにおいての沈降を補助する目的で、高分子沈降剤をアルカリ塩水溶液に添加することがある。シックナーで沈降を行い、その上澄みを得る。その後濾過装置でシックナー上澄みに含まれる沈殿を除去し、その後キレート樹脂により塩水に微量溶解している重金属を吸着除去する。その後、そのまま電解に供給しても良いし、脱炭酸などの目的でPHを調整してから、電解に供給してもよい。電解によって、希薄となった塩水は、再び脱塩素工程に送られ、リサイクルされる。
アルカリ塩の電気分解に用いるイオン交換膜は、電解に供せられるアルカリ塩水溶液に含まれる、これらのような不純物によって、その性能が影響を受ける為、これを防止し、イオン交換膜の性能を長期間維持する為、アルカリ塩水溶液中に含まれる不純物を除去することについて、以前よりいくつかの工夫がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には電解用塩水に含まれるヨウ素およびまたはシリカイオンを、塩水と水酸化ジルコニウムを酸性下接触処理して、吸着除去する方法が示されている。また、特許文献2には、塩水中に含まれる、ヨウ素イオンを、活性塩素を用い酸化しヨウ素とした後、塩基性ハロゲン化陰イオン交換樹脂で除去する方法が述べられている。
しかし、これらの方法では、電解に供するアルカリ塩水溶液中に含まれるいくつかの有害なイオンを除去することは出来るが、有機物を除去することについては、述べられていない。しかし、実際には、電解に供するアルカリ塩水溶液中には有機物が含まれていることがある。有機物は除去が難しく、有機物あるいは塩素化された有機物が電解槽及びその周辺に大量に蓄積するとイオン交換膜の性能低下や、電解槽でのノズル詰まりなどの悪影響を及ぼす場合があった。
【特許文献1】特開2000−144472
【特許文献2】特開平7−237919
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルカリ塩水溶液中に含まれる有機物を、電解槽に供する前に除去することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、アルカリ塩水中に含まれる有機物を機能を有する膜を用いて低減または除去する工程を含む方法、アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、沈殿を形成する反応槽の後、シックナーの後、通常の濾過フィルターの後、イオン交換塔の後、の何れかあるいは複数の工程の後に、機能を有する膜を用いた精製工程を設けられることを特徴とする方法、前記機能を有する膜が限外濾過膜、精密濾過膜、またはナノフィルターの何れか或いはそのコンビネーションであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アルカリ塩電解に供するアルカリ塩水溶液中に含まれ、電解において堆積して閉塞などの問題を起こしたり,イオン交換膜法においては時に膜性能の低下を引き起こす原因となる有機物を、除去出来るようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
塩水に含まれる有機物の由来は、原料塩、工業用水、或いはアルカリ塩水溶液に添加する沈降剤等があるが、これらの内、高分子量である沈降剤は、通常沈降槽において沈殿を沈降させる為に添加され、ここで消費される。しかし、発明者等の検討によると、沈降剤が完全に消費されず、残った沈降剤は、その後除去されること無く、電解槽に到達し、イオン交換膜の性能を低下させたり、電解槽のノズルに詰まったりという問題を起こす原因となっていることが判った。ここでいう、沈降剤は、アルカリ塩電解の塩水精製工程において通常使用されるもので、ポリアクリル酸やポリアクリル酸アミド等が知られている。 これらの分子量は、数十万から数千万の範囲である。また、それ以外にも、フミン酸などが知られている。
電解に供するアルカリ塩水溶液に含まれる有機物は、すぐに性能低下や詰まり等の不具合を起こすこともあるが、ある時間蓄積することにより問題を顕在化することもある。したがって、単純に有機物濃度を規定することはできないが、電解に供するアルカリ塩水溶液中で、1ppm以下にすることが好ましく、更には、0.1ppm以下にすることがより好ましい。
【0009】
除去する為の条件は、通常の電解に供するアルカリ塩水溶液の条件で構わないが、望ましくは、pHを3以下とすることにより、有機物を取りやすくすることが出来る。また、塩水温度は通常の70℃以下で40℃以上あればよい。
有機物を除去する工程は、沈殿を形成する反応槽の後、シックナーの後、通常の濾過フィルターの後、イオン交換塔の後、の何れかあるいは複数の工程の後でよいが、望ましくは、イオン交換塔の後である。
本願で言う機能を有する膜の種類は、ナノフィルター、限外濾過膜、精密濾過膜があるが、電解前の塩水中で有機物は、溶存していることが多く、従って、これを効果的に取り除くには、ここで上げた微多孔膜、特にナノフィルターや限外濾過膜が有効である。例えば、分画分子量が100万の限外濾過膜を用い、イオン交換樹脂塔を出た塩水で、有機物をTOC分析による結果1ppm含む塩水の濾過を行うことにより、塩水中の有機物が50%以上除去された。更に、分画分子量が30万の限外濾過膜を用い、濾過を行うと、塩水中の有機物が80%以上除去された。
【0010】
これらのことから、分画分子量を小さくすればより完全に、塩水から有機物を除去できると思われるが、一方で、目詰まりが早く起き、実用的でなくなる。よって、2種類以上の膜を組み合わせて濾過を行うことにより、より効率的に有機物を除去することが出来ることが示唆される。
イオン交換樹脂塔を出た塩水の有機物濃度を、TOCで0.2ppmに調整し、電解を行うと、電解後の希薄塩水中に含まれる有機物と塩素化有機物の合計濃度は、TOCで0.2ppmであった。
【0011】
実際の電解工程においては、たまに、塩水中の有機物が10ppm前後でコントロールされている場合があるが、この場合、電解工程において膜性能の低下や有機物による詰まりが顕著に発生するので、好ましくない。通常塩水中の有機物は1ppm前後にコントロールされていることが多いが、その場合でも、長期間の運転により電解工程において、膜性能の低下や有機物の詰まり等の問題が顕在化し、しばしば運転を中断させる要因となるので、これも望ましくない。従って、長期的な膜性能低下や電解槽周りでの詰まりを、有機物濃度で規制するには、1ppm以下好ましく、更に好ましくは0.1ppm以下とすることである。
実際の塩水中に含まれる有機物は、高分子成分だけでなく、中分子、低分子量成分も含まれている。濾過膜の選定により、これらのものを除去できるが、実用的な濾過の場合、第1段で、高分子量成分を除去し、2段目以降で、中低分子量成分を除くことが望ましい。
【0012】
この方法による有機物の除去は、有機物の弊害の一つに電解槽周りでの詰まりが上げられることから、イオン交換膜法のみならず、イオン交換膜を用いない隔膜法や水銀法においても、有効であることは言うまでも無い。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
[実施例1]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb, TOC=1ppm)を用意する。分画分子量100万の膜を用い限外濾過を行ったのち、TOCを測定した。結果、TOC=0.5ppmであった。
【0014】
[実施例2]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb, TOC=1ppm)を用意する。分画分子量30万の膜を用い限外濾過を行ったのち、TOCを測定した。結果、TOC=0.2ppmであった。
【0015】
[実施例3]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb)を用い、実施例2と同様の処理をして、小型セルで電解を行った。電解後の希薄塩水のTOCを分析したところ、0.2ppmであった。
【0016】
[比較例1]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb)を用い、TOC=1ppmに調整しながら、小型セルで電解を行った。電解後の希薄塩水のTOCを分析したところ、1ppmであった。
【0017】
[比較例2]
比較例1の電解後の希薄塩水を用意し、分画分子量30万の膜を用い限外濾過を行ったのち、TOCを測定した。結果、TOC=0.2ppmであった。
【0018】
[実施例4]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb, TOC=1ppm)を用意する。これに塩酸を加え、pHを3に調整し、分画分子量100万の膜を用い限外濾過を行ったのち、TOCを測定した。結果、TOC=0.3ppmであった。
【0019】
[実施例5]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb, TOC=1ppm)を用意する。分画分子量100万の膜を用い限外濾過を行ったのち、分画分子量30万の膜を用い限外濾過を行い、TOCを測定した。結果、TOC=0.2ppmであった。
【0020】
[実施例6]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb)を用い、TOC=0.2ppmに調整しながら、パイロット電解槽で電解を行った。1年間通電したが、ノズルに有機物の付着も無く、良好な状態であった。
【0021】
[比較例3]
イオン交換樹脂を通したNaCl溶液(NaCl濃度=305gpl, pH=10.5, Ca+Mg=10ppb)を用い、TOC=50ppmに調整しながら、パイロット電解槽で電解を行った。半年間通電したが、ノズルに有機物が多量に付着し、運転に支障が出た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の方法は、食塩、塩化カリウム電解によるクロルアルカリ工業の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の従来技術の一つを示す塩水フロー図
【図2】本発明の機能を有する膜を用いた精製工程を設けた塩水フロー図の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、アルカリ塩水中に含まれる有機物を機能を有する膜を用いて低減または除去する工程を含む方法。
【請求項2】
アルカリ塩電解に用いられる前処理方法において、沈殿を形成する反応槽の後、シックナーの後、通常の濾過フィルターの後、イオン交換塔の後、の何れかあるいは複数の工程の後に、機能を有する膜を用いた精製工程を設けられることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記機能を有する膜が限外濾過膜、精密濾過膜、またはナノフィルターの何れか或いはそのコンビネーションであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−16267(P2006−16267A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197263(P2004−197263)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】