説明

濾過器

【課題】分子状に溶解する被濾過物を捕捉除去する高精度濾過と、濾渣排出の自動化によるメンテナンスフリーの両立。
【解決手段】クーロン力でアシストされた濾過により、濾材目開きよりもはるかに小さな分子状溶解物質までを補足、濾別し、濾材をばらして逆洗することにより目詰まりによる濾材交換なくメンテナンスフリーが達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水あるいは液体の精製浄化用途に供される、濾過器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重層した濾材の間隙に、粒状物質を補足する濾過に、砂濾過、積層濾過、糸巻きフィルターなどがある。砂濾過は濾材が粒状で3元形状のもの、積層濾過は濾材が板状で2次元形状のもの、糸巻きフィルターは濾材が線状で1次元形状の濾過である。いずれの濾過も濾材の間隙を開いて、補足した濾渣を脱離させ洗い流す、逆洗が可能であり、この意味で濾材の目詰まりなく繰り返し使用でき、濾材交換のメンテナンスが不要な方式である。
【0003】
重層濾過方式では、確実に補足できるのは濾材間隙寸法より大きな粒子性物質であり、濾材間隙寸法より小さな径の粒子は、確率的に濾材表面に付着して補足されるのであって、確実性なく除去率も低い。粒子性固体より小さいコロイド分散する物質、あるいはさらに小さい溶解した高分子性物質に対しては、ほぼ無力である。
【0004】
一方では、濾過層が薄い板状である膜濾過がある。濾布、濾紙、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜がある。濾布、濾紙は通常10μm以上の粒子性物質の濾過に、精密濾過膜は目開きに応じて100nm〜10μm程度の粒子性物質の濾過に、限外濾過膜は10nm以下のコロイドあるいは溶解した高分子性物質の濾過に適用される。逆浸透膜は、理想的には、水あるいは溶媒のみが通過し、水分子より大きな全ての溶質分子の通過を阻止する濾過である。
【0005】
これらの膜濾過は、その目開きに応じた高度の水の精製浄化能力を有するものであるが、一方では、必ず目詰まりを起こし濾材の交換が必要なメンテナンスの必要な濾過法である。逆洗は、濾過の順方向とは逆の方向に水を流すという意味では、可能であるが、濾材をばらばらにして洗いこむことができないために、濾渣を排出して再生する意味では、極めて不十分であり、必ず目詰まりを起こす。その目詰まりの解除再生法は、高温あるいは高圧下で強酸、強アルカリあるいは強酸化剤を作用させて洗浄することになり、多くの種類の濾材がこの再生に耐えずに濾材交換となる。また、強い条件下での洗浄再生を、通常使用の濾過システム内に組み込むことはできるが、装置が複雑に高度になる上に、再生装置自体に薬剤の供給、廃液の排出などのメンテナンスを必要とし、自動運転できるメンテナンスフリー機器にはならない。従って、濾材の再生は、濾過器や濾過システムから取り外した外部で行われるのが通常であり、濾材再生のメンテナンスの必要な機器である。
【0006】
濾過形式の中には、粒子などの被濾過物の移動力と補足力を補った複合濾過がある。活性炭粒子を濾材とした濾過は、活性炭の大きな内部表面に対する吸着が補足力となっており、内部吸着面への物質移動は濃度拡散である。粒状や繊維状のイオン交換体を濾材とした濾過は、補足力がイオン交換体内部の固定乖離基と被濾過物の乖離基の間のクーロン力によるイオン吸着が補足力であり、吸着面への物質移動は濃度拡散で賄われる。このような、吸着で補足力を補った複合濾過の形式は濾材の目開きよりもはるかに小さな分子やイオンまでも濾別することができる、高精度の濾過である。しかしながら、吸着には必ず限界である飽和吸着量が存在する。飽和吸着に至った濾材は、再生しない限り濾過性能を発揮できず、再生のメンテナンスまたは濾材交換のメンテナンスが発生する。
【0007】
複合濾過の特殊な例が、特公平8−210に公開されている。この濾過器は、濾過層の両側に電極を置き、直流または交流を印加することで、粒子表面の界面電気二重層に起因するゼータ電位を中和し、本来の粒子が持つ分子間力(ファンデルワールス力)による凝
集を促進して粒子径を大きくし、比較的大きな目開きの濾材でも補足濾別できるようにしたものである。逆洗の記述はあるが、濾過の順方向とは逆の方向に水を流すという意味であり、濾材の間隙を開いて、濾材を洗いこんで濾渣を脱離させて再生する意味では、不完全であり、必ず目詰まりを起こす構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平8−210号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「水道施設設計指針」、水道施設設計指針改定委員会著、2000年3月
【非特許文献2】「浄水技術ガイドライン」、浄水技術ガイドライン作成委員会著、2000年5月
【非特許文献3】「造水技術ハンドブック」、造水技術ハンドブック編集企画委員会編、2004年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの従来技術の問題点は、逆洗ができ自動化したメンテナンスフリーの運転のできる濾過法は高精度にならず、高精度の濾過法はメンテナンスフリーにならないところにある。これに対し、本発明では、高精度の濾過とメンテナンスフリーの両立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的に対し、本発明では、交流電場の中にイオン交換樹脂濾材を置き、被濾過物の濾材表面への物質移動と、濾材表面への補足にクーロン力を用いて促進して高精度の濾過を行い、補足した被濾過物を濾渣として濾材層内に蓄積し、濾材間を開いて濾材を洗いこんで濾材の逆洗再生を行うものである。
【0012】
さらに詳細に述べると、被濾過物はイオン性の粒子、イオン性のコロイド、イオン性の高分子、イオン性の低分子ではあるがイオン吸着による濃縮により飽和溶解度を上回り溶解性に問題のあるイオン種、である。交流電場を生成するために対向する電極を設置し、電源から交流を印加する。イオン交換樹脂を電極間に積層して濾材とし、濾材間隙に被濾過物を含有する水・液体を通過させる。この間に、被濾過物イオンには、クーロン力が働き、電場に従って泳動(電気泳動)して濾材表面に到達する。被濾過物とイオン交換樹脂の電荷符号が逆の場合、被濾過物イオンは一旦イオン交換樹脂にイオン吸着して、イオン交換樹脂上に濃縮される。しかしながら、次の瞬間、電場は交番するので、脱離する(電気再生)が、直ぐには再溶解または分散しないために、イオン交換樹脂表面に留まり、濾別され水中から除去される。このように、イオン交換樹脂は、短時間の吸着、再生を繰り返しながら動作するものであって、イオンをそれ以上吸着補足できないという飽和吸着の概念は無い。
【0013】
このようにして補足された被濾過物は、イオン交換樹脂濾材の間隙に蓄積され、やがて間隙は埋まり、水が流れ難くなるので、このときには、電源を切り電場を除き、イオン交換樹脂の間隙を開き、動力を加えて洗い込み、水流と共に洗い流して濾材表面の再生を行うところの、逆洗操作を行う。
【発明の効果】
【0014】
以上概略を述べたように本発明の濾過器は、高精度の濾過とメンテナンスフリーを両立するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明1の実施の形態における濾過器の構成を示す図
【図2】本発明2の実施の形態における濾過器の構成を示す図
【図3】本発明1の実施の形態における被濾過物の除去原理を示す模式図
【図4】本発明4の実施の形態における被濾過物の除去原理を示す模式図
【図5】本発明5の実施の形態における被濾過物の除去原理を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、粒状のイオン交換樹脂を濾材とし、交番電圧を印加しながら通水して水中の粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低いイオン性の低分子性溶解物質を濾別し、逆洗して粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低い低分子性溶解物質を濾渣として排出して、高精度の濾過とメンテナンスフリーを両立する濾過器である。
【0017】
第2の発明は、第1の発明の、粒状のイオン交換樹脂を濾材とし、交番電圧を印加しながら通水して水中の粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低いイオン性の低分子性溶解物質を濾別し、逆洗して粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低い低分子性溶解物質を濾渣として排出する濾過器に、管路と水の移送手段とを加えた、高精度の濾過とメンテナンスフリーを両立する濾過器である。
【0018】
第3の発明は、第1、第2の発明のイオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂を用いる濾過器であって、特に陰イオン性の被濾過物に対し高い濾過性能が得られる。
【0019】
第4の発明は、第1、第2の発明のイオン交換樹脂に酸性陽イオン交換樹脂を用いる濾過器であって、特に陽イオン性の被濾過物に対し高い濾過性能が得られる。
【0020】
第5の発明は、第1、第2の発明のイオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂とを混床で用いる濾過器であって、陽イオン性と陰イオン性の両方の被濾過物に対し均等な濾過性能が得られる。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明1の実施の形態における濾過器の構成を表す。図中1はイオン交換樹脂を充填した濾床である。電極2、3が濾床を挟んで設置され、外部電源(図示せず)から交流電圧が印加される。被濾過物を含有する水は、入水口9からケーシング8内に流入し、濾過層内のイオン交換樹脂1の間隙で濾過作用を受け、出水口10より取り出される。
【0022】
補足された被濾過物は濾床内のイオン交換樹脂の間隙に蓄積される。終には、間隙が詰まり流量低下を起こし、あるいは蓄積しきれない被濾過物が流出する(破過する)ので、そのときには、水を出水口10から入水口9へ逆流させて、逆洗スペース7に巻き上げて洗浄する。これにより、濾床のイオン交換樹脂の間隙を開き濾材粒子をばらした状態で、洗いこみができ、補足されていた被濾過物は濾渣として脱離する。この水を入水口9から排出してイオン交換樹脂の粒子表面の濾過面が再生される。
【0023】
次に、被濾過物の除去原理について図3の模式図をもとに述べる。図に示すように、両電極間には交流を印加する。電極間に挟まれた2粒(粒子を単純化して板状の表示をしている)の塩基性陽イオン交換樹脂と、イオン交換樹脂の間隙をなす水の層には電場が形成される。この水の層には、水とともに、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。
【0024】
まず図中aでは、陰イオンに対して電場から下向きのクーロン力が働き、陽イオンに対
しては上向けクーロン力が働き電気泳動する。その中で、被濾過物である陰イオン性の粒子は、塩基性陰イオン交換樹脂の表面に至り、イオン交換基との間のクーロン力の結合であるイオン結合、イオン吸着をする。しかし、大きな陰イオン性粒子である被濾過物は、表面吸着するに留まり、イオン交換樹脂の内部に入ることができない。これに対し、低分子可溶性の陰イオンは、イオン交換樹脂の内部まで進入することができる。一方の低分子可溶性の陽イオンは、塩基性陰イオン交換樹脂との間にイオン結合をすることができず、樹脂内に進入することもできないので、水の層の中に留まる。
【0025】
次に図中bでは、電圧が交番し、新たな水とともに、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。と共に、図中aで水の層の中に留まった低分子可溶性の陽イオンは、流出して失われる。表面にイオン結合していた被濾過物の陰イオンのイオン結合は切れるが、粒子が大きいために拡散が遅く、水の流れに乗って流下しない。新たな水とともに流れ込んだ、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンは、図中aとは方向が逆の同じ動作をする。
【0026】
これを繰り返すと図中cのように、流下していかない被濾過物の陰イオンは、塩基性陰イオン交換樹脂の表面に層になって蓄積する。また、水の層の中は、可溶性陰イオンが可溶性陽イオンに対して過剰となり、液性が酸性に傾く。このために、被濾過物の陰イオンは酸乖離できずに、溶解性あるいは分散性が低下して不溶化し、さらに粒子表面に残りやすく補足され易くなる。
【0027】
以上が、本発明の基本的な補足原理である。これには、いくつかのバリエーションがある。まず、図3では、塩基性陰イオン交換樹脂と陰イオン性の粒子性物質の関係として述べたが、酸性陽イオン交換樹脂と陽イオン性の粒子性物質であっても同様であって、一般に逆イオン性の場合に濾過性能は高性能となる。また、粒子性物質という用語は、明確な固液界面を有した固体物質の意味であるが、溶解した高分子でも同様の挙動を示し補足され除去され、本発明の対象とする被濾過物である。コロイド分散した物質、会合して見かけ分子量を増した物質、も同様に扱える。
【0028】
これらに付随して、陰イオン性と陽イオン性の両方の被濾過物を単一のイオン交換樹脂の濾床で除去することは、困難である。塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂の混合設置(混床)が必要となる。ただし、陰イオン性の被濾過物と陽イオン性の両方の被濾過物が同じ水中に混合されている場合は、両者は電気的に引き合って会合粒子を作り、粒子径が大きくなっており、どちらか一方の単一のイオン交換樹脂で効率的に除去できる。また、自然界の陸水系で水道水の水源に利用される水では、粒子性から高分子性の物質としては陰イオン性ばかりで陽イオン性が極めて少なく、あっても会合を起こして取水される前に会合凝集して河川湖沼などの水底に先に沈殿している。さらに、天然物に非イオン性の粒子から高分子性の物質が無いわけではないが、通常微生物分解を受けて残らない。そのため、塩基性陰イオン交換樹脂の単一のイオン交換樹脂の濾過層で高度な浄化ができる。
【0029】
低分子のイオンの場合は、乖離溶解度の低いイオン種だけが濾過の対象になる。強酸、強アルカリといった常時乖離する強電解質イオン種は補足除去できず、弱酸、弱アルカリの弱電解質は、非乖離型が不溶性の酸やアルカリまたは不溶性塩を形成する場合のみ除去可能である。塩基性陰イオン交換樹脂では、水の層が酸性に傾き、酸性陽イオン交換樹脂では、水の層はアルカリ性に傾くので、弱酸は塩基性陰イオン交換樹脂を用いた濾過器で非乖離となって析出して濾別され、弱アルカリは酸性陽イオン交換樹脂を用いた濾過器で非乖離となって析出して濾別される。
【0030】
電気的には高電場で、高性能である。交流周波数については、一般的に直流に近い低周波数で、高性能であり、一般的な正弦波を出力する電源では難しく、直流をスイッチングした方形波の交流を用いるのが容易である。例外的に、低分子のイオン種の場合だけが、低い周波数の濾過性能が低く、10ヘルツ以上の交流であまり変化の無い、フラットな性能を示す。低分子のイオン種の場合は、イオン交換樹脂の間の水の層のpHによる不溶性析出が濾過性能に優先的に効いており、イオン交換樹脂と水の層の間で速いイオンのやり取りをする必要がある。
【0031】
交流に代えて、直流を印加した場合、濾過性能は一時的に交流を用いるよりも高い。しかしながら、粒子性物質イオンでイオン交換樹脂の表面乖離基が飽和吸着した時点で、濾過性能が急激に低下する。これを回復するにはイオン交換樹脂のイオン交換基の再生を行う必要がある。イオン交換樹脂のイオン交換基の再生には、強酸、強アルカリでの薬剤洗浄か、電気再生が一般的な方法である。薬剤供給や工程の煩雑な薬剤洗浄をさけ、メンテナンスフリーが可能な電気再生を用いるとすると、表面に飽和吸着した粒子性物質に対し、脱離方向の吸着時とは逆の電場をかけることになる。これは、直流をスイッチングして交番させた交流を印加したに等しい。従って、連続的な濾過を行うならば、交流が適切である。このように、本発明の濾過器は、速いピッチで電気吸着と電気再生とを繰り返すイオン交換カラムであって、補足イオンをイオン交換カラムの液層のデッドボリュームに蓄積するものと考えることができる。外見上、イオン交換カラムの飽和吸着に対する再生の工程はなく、一般濾過器に見られる、蓄積した濾渣の排出を行う逆洗工程があり、自動逆洗の効く濾過形式を用いることにより、メンテナンスフリーの運用ができる。
【0032】
なお、先行技術文献である特公平8−210は、粒子表面の界面電気二重層に起因するゼータ電位を中和し、本来の粒子が持つ分子間力(ファンデルワールス力)による凝集を促進して粒子径を大きくし、比較的大きな目開きの濾材でも補足濾別できるようにしたものとしており、また、交流周波数は高い方が、濾過性能が高いとしており、本発明の濾過器とは原理的に全く別物であると考えられる。
【0033】
(実施の形態2)
図2は、本発明2の実施の形態における濾過器の構成を表す。図中11は粒状のイオン交換樹脂を充填した濾床である。濾床の中に複数の電極12が設置され、電極取り出しピンを経て、両端の電極に外部電源(図示せず)から交流電圧が印加される。これにより、濾床を挟んだ電極のセットが複数、電気回路としては直列に接続され、水路としては並列に接続された状態になる。被濾過物を含有する水は、入水口14からケーシング20内に流入し、濾床内のイオン交換樹脂11の間隙で濾過作用を受け、出水口15より器体外に取り出される。
【0034】
補足された被濾過物は濾床内のイオン交換樹脂の間隙に蓄積される。終には、間隙が詰まり流量低下を起こし、あるいは蓄積しきれない被濾過物が流出する(破過する)ので、そのときには、電磁弁19により水路の切り替えを行い、水を出水口15から入水口14へ逆流させて、イオン交換樹脂をメッシュ22に叩き付けて洗浄する。これにより、濾床のイオン交換樹脂の間隙を開き濾材粒子をばらした強い洗いこみができ、補足されていた被濾過物は濾渣として脱離する。この水を入水口9から逆洗水路18をへて排出して、イオン交換樹脂の粒子表面の濾過面が再生される。
【0035】
この間の濾過原理については、実施の形態1に述べた通りであって、高精度の濾過ができる。さらに、人手を経ずに自動的な逆洗、濾材の間隙を開いての濾材の洗いこみができ、メンテナンスフリーの濾渣排出により濾材の補足面の再生が行える。
【0036】
この実施形態の濾過器は、流速を上げて強い洗いこみを行っても、濾材の流失が無く、
濾材であるイオン交換樹脂の粒子表面に強い濾渣の剥離動力を加えることができ、逆洗効率を高めることができる。
【0037】
(実施の形態3)
本発明第3の実施形態を図3の模式図をもとに述べる。第3の発明は、第1、第2の発明のイオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂を用いる濾過器であって、特に陰イオン性の被濾過物に対し高い濾過性能が得られる。その除去原理については、すでに実施の形態1の中で図3の模式図を用いて詳述したところである。
【0038】
図3に示すように、両電極間には交流を印加する。電極間に挟まれた2粒(粒子を単純化して板状の表示をしている)の塩基性陽イオン交換樹脂の濾床とイオン交換樹脂の間隙をなす水の層には電場が形成される。この水の層には、水とともに、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。
【0039】
まず図中aでは、陰イオンに対して電場から下向きのクーロン力が働き、陽イオンに対しては上向けクーロン力が働き電気泳動する。その中で、被濾過物である陰イオン性の粒子は、塩基性陰イオン交換樹脂の表面に至り、イオン交換基との間のクーロン力の結合であるイオン結合、イオン吸着をする。しかし、大きな陰イオン性粒子である被濾過物は、表面吸着するに留まり、イオン交換樹脂の内部に入ることができない。これに対し、低分子可溶性の陰イオンは、イオン交換樹脂の内部まで進入することができる。一方の低分子可溶性の陽イオンは、塩基性陰イオン交換樹脂との間にイオン結合をすることができず、樹脂粒子内に進入することもできないので、水の層の中に留まる。
【0040】
次に図中bでは、電圧が交番し、新たな水とともに、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。と共に、図中aで水の層の中に留まった低分子可溶性の陽イオンは、流出して失われる。表面にイオン結合していた被濾過物の陰イオンのイオン結合は切れるが、粒子が大きいために拡散が遅く、水の流れに乗って流下しない。新たな水とともに流れ込んだ、被濾過物である陰イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンは、図中aとは方向が逆の同じ動作をする。
【0041】
これを繰り返すと図中cのように、流下していかない被濾過物の陰イオンは、塩基性陰イオン交換樹脂の表面に層になって蓄積する。また、水の層の中は、可溶性陰イオンが可溶性陽イオンに対して過剰となり、液性が酸性に傾く。このために、被濾過物の陰イオンは酸乖離できずに、溶解性あるいは分散性が低下して不溶化し、さらに粒子表面に残りやすく補足され易くなる。
【0042】
粒子性物質という用語は、明確な固液界面を有した固体物質の意味であるが、溶解した高分子でも同様の挙動を示し補足され除去され、本発明の対象とする被濾過物である。コロイド分散した物質、会合して見かけ分子量を増した物質、も同様に扱える。
【0043】
また、自然界の陸水系で水道水の水源に利用される水では、粒子性から高分子性の物質としては陰イオン性ばかりで陽イオン性が極めて少なく、あっても会合を起こして取水される前に会合凝集して河川湖沼などの水底に先に沈殿している。さらに、天然物に非イオン性の粒子から高分子性の物質が無いわけではないが、通常微生物分解を受けて残らない。そのため、塩基性陰イオン交換樹脂の単一のイオン交換樹脂の濾過層で高度な浄化ができる。
【0044】
低分子のイオンの場合は、乖離溶解度の低い陰イオンだけが濾過の対象になる。常時乖離する強酸性のイオン種は補足除去できず、弱酸の弱電解質は、非乖離型が不溶性の酸ま
たは不溶性塩を形成する場合のみ除去可能である。塩基性陰イオン交換樹脂では、水の層が酸性に傾くので、弱酸は塩基性陰イオン交換樹脂を用いた濾過器で非乖離となって析出して濾別される。
【0045】
本発明第3の塩基性イオン交換樹脂で補足しえる物質は非常に多岐にわたる。その中で天然の水道水の原料となる水の中には、生物系の陰イオン性の粒子として、細菌類、ウイルス類、真菌類、原生動物類、藻類、原虫類などがある。無機系の陰イオン性の粒子性物質に、ケイ酸、ケイ酸塩鉱物である多くの粘土、土壌鉱物がある。可溶性の陰イオン性の有機性高分子としては、フミン酸、フルボ酸、生物体の残骸である、多糖類、タンパク、核酸、糖脂質、脂肪酸、がある。また、国地域により問題となる、陰イオン性の低分子性物質にヒ酸がある。重金属類は通常陽イオン性であるが、これらは溶解度が極めて低くフリーのイオンとしては溶解していない。フミン酸のような有機物と錯体を形成して可溶化している。このため、フミン酸を除去に伴って、化溶性の重金属も除去できる。これらは既存の水道システムに採用されている処理法である、アルミニウム塩中和凝集・濾過で除去できる水質項目はすべて塩基性イオン交換樹脂で補足しえる。
【0046】
(実施の形態4)
本発明第4の実施形態を図4の模式図をもとに述べる。第4の発明は、第1、第2の発明のイオン交換樹脂に酸性陽イオン交換樹脂を用いる濾過器であって、特に陽イオン性の被濾過物に対し高い濾過性能が得られる。
【0047】
図4に示すように、両電極間には交流を印加する。電極間に挟まれた2粒(粒子を単純化して板状の表示をしている)の酸性陽イオン交換樹脂の濾過層とイオン交換樹脂の間隙をなす水の層には電場が形成される。この水の層には、水とともに、被濾過物である陽イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。
【0048】
まず図中aでは、陽イオンに対して電場から下向きのクーロン力が働き、陰イオンに対しては上向けクーロン力が働き電気泳動する。その中で、被濾過物である陽イオン性の粒子は、酸性陽イオン交換樹脂の表面に至り、イオン交換基との間のクーロン力の結合であるイオン結合、イオン吸着をする。しかし、大きな陽イオン性粒子である被濾過物は、表面吸着するに留まり、イオン交換樹脂の内部に入ることができない。これに対し、低分子可溶性の陽イオンは、イオン交換樹脂の内部まで進入することができる。一方の低分子可溶性の陰イオンは、酸性陽イオン交換樹脂との間にイオン結合をすることができず、樹脂内に進入することもできないので、水の層の中に留まる。
【0049】
次に図中bでは、電圧が交番し、新たな水とともに、被濾過物である陽イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。と共に、図中aで水の層の中に留まった低分子可溶性陰イオンは、流出して失われる。表面にイオン結合していた被濾過物の陽イオンのイオン結合は切れるが、粒子が大きいために拡散が遅く、水の流れに乗って流下しない。新たな水とともに流れ込んだ、被濾過物である陽イオン性の粒子と低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンは、図中aとは方向が逆の同じ動作をする。
【0050】
これを繰り返すと図中cのように、流下していかない被濾過物の陰イオンは、酸性陽イオン交換樹脂の表面に層になって蓄積する。また、水の層の中は、可溶性陽イオンが可溶性陰イオンに対して過剰となり、液性がアルカリ性に傾く。このために、被濾過物の陽イオンは塩基乖離できずに、溶解性あるいは分散性が低下して不溶化し、さらに粒子表面に残りやすく補足され易くなる。
【0051】
粒子性物質という用語は、明確な固液界面を有した固体物質の意味であるが、溶解した
高分子でも同様の挙動を示し補足され除去され、本発明の対象とする被濾過物である。コロイド分散した物質、会合して見かけ分子量を増した物質、も同様に扱える。
【0052】
低分子のイオンの場合は、乖離溶解度の低い陽イオンだけが濾過の対象になる。常時乖離する強酸性のイオン種は補足除去できず、弱酸の弱電解質は、非乖離型が不溶性の酸または不溶性塩を形成する場合のみ除去可能である。酸性陽イオン交換樹脂では、水の層がアルカリ性に傾くので、弱塩基は酸性陽イオン交換樹脂を用いた濾過器で非乖離となって析出して濾別される。
【0053】
(実施の形態5)
本発明第5の実施形態を図5の模式図をもとに述べる。第5の発明は第1、第2の発明のイオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂とを混合した混床で用いる濾過器であって、陽イオン性と陰イオン性の両方の被濾過物に対し均等な濾過性能が得られる。
【0054】
図5に示すように、両電極間には交流を印加する。電極間に挟まれた塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂の2粒(粒子を単純化して板状の表示をしている)の塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂の濾床と両イオン交換樹脂の間隙をなす水の層には電場が形成される。この水の層には、水とともに、被濾過物である陽イオン性の粒子、陰イオン性の粒子と、低分子可溶性の陽イオン、低分子可溶性の陰イオンが流入してくる。
【0055】
まず図中aでは、陽イオンに対して電場から上向きのクーロン力が働き、陰イオンに対しては下向けクーロン力が働き電気泳動する。その中で、被濾過物である陽イオン性の粒子は、酸性陽イオン交換樹脂の表面に至り、イオン交換基との間のクーロン力の結合であるイオン結合、イオン吸着をする。また、被濾過物である陰イオン性の粒子は、塩基性陰イオン交換樹脂の表面に至り、イオン交換基との間のクーロン力の結合であるイオン結合、イオン吸着をする。しかし、大きな陽イオン性粒子である被濾過物、大きな陰イオン性粒子である被濾過物は、表面吸着するに留まり、イオン交換樹脂の内部に入ることができない。これに対し、低分子可溶性の陽イオンは、低分子可溶性の陰イオンはイオン交換樹脂の内部まで進入することができる。
【0056】
次に図中bでは、電圧が交番し、新たな水とともに、被濾過物である陽イオン性の粒子と陰イオン性の粒子、低分子可溶性の陽イオンと陰イオン、が流入してくる。と共に、表面にイオン結合していた被濾過物の陽イオンの陰イオンのイオン結合は切れるが、粒子が大きいために拡散が遅く、水の流れに乗って流下しない。低分子可溶性の陽イオンと陰イオンは、脱離して、水の層に戻る。新たな水と共に流れ込んだ、被濾過物である陽イオン性と陰イオン性の粒子、低分子可溶性の陽イオンと陰イオンは、図中aとは方向が逆方向に泳動するが、同イオン性の交換樹脂にはイオン吸着し進入することができない。このため、水の層の中を下流側に流下して、電圧交番時に、下流側での図aの動作により補足される。従って、本発明第5では、被濾過物のイオン性粒子の補足効率は、本発明第3、本発明第4の単一イオン交換樹脂を用いる場合に比較して、電圧の一交番あたり2分の1である。
【0057】
これを繰り返すと図中cのように、流下していかない被濾過物の陽イオンと陰イオンは、両イオン交換樹脂の表面に層になって蓄積する。ただし、水の層の中の、可溶性陽イオンと可溶性陰イオンの割合はほぼ等しく保たれ、pHは維持される。このために、pH析出は殆ど寄与しない。
【0058】
粒子性物質という用語は、明確な固液界面を有した固体物質の意味であるが、溶解した
高分子でも同様の挙動を示し補足され除去され、本発明の対象とする被濾過物である。コロイド分散した物質、会合して見かけ分子量を増した物質、も同様に扱える。
【0059】
被濾過物が低分子のイオンの場合は、pHは維持され、pH析出は殆ど起こらないので除去することができない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上水道、下水道、水リサイクル、工業用水処理、工業排水処理、水中からの有価物回収、家庭用飲用及び生活用水処理、
【符号の説明】
【0061】
1 イオン交換樹脂
2 電極
3 電極
4 電極取り出しピン
5 電極取り出しピン
6 メッシュ
7 逆洗スペース
8 ケーシング
9 入水口
10 出水口
11 イオン交換樹脂
12 電極
13 電極取り出しピン
14 入水口
15 出水口
16 ポンプ
17 水路
18 逆洗水路
19 電磁弁
20 ケーシング
21 メッシュ
22 メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のイオン交換樹脂を濾材とし、交番電圧を印加しながら通水して水中の粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低いイオン性の低分子性溶解物質を濾別し、逆洗して粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低い低分子性溶解物質を濾渣として排出する濾過器。
【請求項2】
粒状のイオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂層と、イオン交換樹脂層を挟んで設置された交番電圧を印加する電極と、イオン交換樹脂層に濾過の順方向と、逆洗の逆方向に通水する管路と水の移送手段とを備え、濾過時には、イオン交換樹脂の粒子間に粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低いイオン性の低分子性溶解物質を捕捉し、逆洗時にはイオン交換樹脂層を崩し巻き上げて粒子間に捕捉した粒子性物質、高分子性溶解物質、溶解度の低い低分子性溶解物質を濾渣として排出する請求項1記載の濾過器。
【請求項3】
イオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂を用いる請求項1または2記載の濾過器。
【請求項4】
イオン交換樹脂に酸性陽イオン交換樹脂を用いる請求項1または2記載の濾過器。
【請求項5】
イオン交換樹脂に塩基性陰イオン交換樹脂と酸性陽イオン交換樹脂とを交互重層する請求項1または2記載の濾過器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236174(P2012−236174A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108016(P2011−108016)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】