説明

濾過材およびその濾過材を用いた水処理装置ならびにその濾過材の製造方法

【課題】捕捉できる異物の大きさに幅を持たせて濾過性能を向上させることのできる濾過材およびその濾過材を用いた水処理装置ならびにその濾過材の製造方法を得る。
【解決手段】多数の気孔2が相互に連通するように形成されて流体の通過を許容する濾過材1であって、気孔2の孔径dを、通過する流体の上流側から下流側に向かって徐々に小さくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過材およびその濾過材を用いた水処理装置ならびにその濾過材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理装置として、スポンジフィルター(濾過材)をプレフィルターとして用い、水中の大きな異物を捕捉できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−10303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フィルターとして利用されるスポンジは、全体に亘ってほぼ均一な気泡径となる気孔を相互に連通させた三次元の網目構造に形成されるのが一般的である。
【0005】
そのため、水(流体)がスポンジフィルターに流入した際に流入側の気孔で捕捉できない異物は、そのまま流出側の気孔から漏出していた。
【0006】
すなわち、従来のスポンジフィルターでは、捕捉される異物の大きさが限られていた。
【0007】
そこで、本発明は、捕捉できる異物の大きさに幅を持たせて濾過性能を向上させることのできる濾過材およびその濾過材を用いた水処理装置ならびにその濾過材の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明にあっては、多数の気孔が相互に連通するように形成されて流体の通過を許容する濾過材であって、前記気孔の孔径を、通過する流体の上流側から下流側に向かって徐々に小さくしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明にあっては、請求項1に記載の濾過材を用いてフィルターユニットを構成し、当該フィルターユニットを水の浄化経路に配置したことを特徴とする水処理装置である。
【0010】
請求項3の発明にあっては、濾過材の製造方法であって、溶融した熱可塑性樹脂と、粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第1の混合溶液を作る混合工程と、成形用型に前記第1の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記熱可塑性樹脂を前記成形用型内で冷却させて固化させる成形工程と、冷却後に前記熱可塑性樹脂を脱型し、前記孔形成粒子の除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、洗浄により前記熱可塑性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明にあっては、濾過材の製造方法であって、第1溶媒に溶解させた第1溶媒溶解性樹脂と、当該第1溶媒溶解性樹脂を架橋する架橋剤と、第1溶媒に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第2の混合溶液を作る混合工程と、成形用型に前記第2の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記成形用型内において前記第1溶媒溶解性樹脂に架橋反応を起こさせる架橋工程と、架橋反応後に前記第1溶媒溶解性樹脂を脱型し、前記孔形成粒子を溶解させる除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、洗浄により前記第1溶媒溶解性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明にあっては、濾過材の製造方法であって、第2溶媒に溶解させた第2溶媒溶解性樹脂と、第2溶媒に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第3の混合溶液を作る混合工程と、成形用型に前記第3の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記第2溶媒溶解性樹脂を凍結乾燥する凍結乾燥工程と、凍結乾燥した前記第2溶媒溶解性樹脂を脱型し、当該第2溶媒溶解性樹脂を架橋する架橋剤を溶解させた第3溶媒の溶液中に浸漬させて架橋反応を起こさせる架橋工程と、架橋反応を終えた前記第2溶媒溶解性樹脂を、前記孔形成粒子を溶解させる除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、洗浄により前記第2溶媒溶解性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、相互に連通するように形成された多数の気孔の孔径が、上流側から下流側に向かって徐々に小さくなっているため、上流側の気孔では捕捉できなかった異物を下流側の気孔で捕捉できるようになる。このように、請求項1の発明によれば、捕捉できる異物の大きさに幅を持たせることができ、濾過材の濾過性能を向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、多数の気孔の孔径が上流側から下流側に向かって徐々に小さくなる濾過材を用いてフィルターユニットを形成し、当該フィルターユニットを水の浄化経路に配置することで水処理装置を構成した。そのため、大きさに幅のある異物をフィルターユニットの濾過材によって捕捉できるようになり、水の浄化性能を向上させることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、混合工程で作った熱可塑性樹脂の第1の混合溶液に含まれた粒子径の異なる孔形成粒子を、遠心力付加工程によって粒径順に配列させることができる。その後、冷却工程によって熱可塑性樹脂を固化させるとともに、洗浄工程にて孔形成粒子を除去し、乾燥工程にて乾燥させることで、孔径を徐々に変化させた濾過材を容易に形成することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、混合工程で第1溶媒溶解性樹脂に架橋剤を混合して作った第2の混合溶液に含まれた粒子径の異なる孔形成粒子を、遠心力付加工程によって粒径順に配列させることができる。その後、架橋工程によって第1溶媒溶解性樹脂に架橋反応を起こさせ、洗浄工程にて架橋させた第1溶媒溶解性樹脂から孔形成粒子を除去し、乾燥工程にて乾燥させることで、孔径を徐々に変化させた濾過材を容易に形成することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、混合工程で作った第3の混合溶液に含まれた粒子径の異なる孔形成粒子を、遠心力付加工程によって粒径順に配列させることができる。その後、凍結乾燥工程にて第2溶媒溶解性樹脂を凍結乾燥し、架橋工程にて凍結乾燥状態にある第2溶媒溶解性樹脂を第3溶媒の溶液中に浸漬させて架橋反応を起こさせる。その後、洗浄工程にて孔形成粒子を除去し、乾燥工程にて乾燥させることで、孔径を徐々に変化させた濾過材を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる濾過材を模式的に示す図であって、(a)は濾過材全体の断面斜視図、(b)は(a)中のA部を拡大した断面図である。
【図2】図2は、図1に示す濾過材の変形例を模式的に示す断面斜視図である。
【図3】図3は、図1に示す濾過材を用いた水処理装置を模式的に示す説明図である。
【図4】図4は、図3に示す水処理装置に組み込まれるフィルターユニットを模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、図1に示す濾過材の第1の製造工程を(a)から(e)に順を追って模式的に示す斜視図である。
【図6】図6は、図1に示す濾過材の第2の製造工程を(a)から(e)に順を追って模式的に示す斜視図である。
【図7】図7は、図1に示す濾過材の第2の製造工程を(a)から(f)に順を追って模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
本実施形態にかかるフィルター(濾過材)1は、図1および図2に示すように、多数の気孔2(図2参照)が相互に連通するように、ほぼ全体に亘って形成されており、連通した気孔2によって流体(たとえば、水)の通過が許容されている。そして、通過する流体に混入された異物を気孔2によって除去するようになっている。
【0021】
本実施形態では、フィルター1は、図1に示すように、中心軸に沿って流体を導出する中心通路3を形成した所定厚みTの円筒状に形成されており、流体は、円筒状のフィルター1の外周から流入して肉厚内部を通過したのち中心通路3へと流出し、当該中心通路3を伝って外方に送給されるようになっている。
【0022】
さらに、本実施形態では、気孔2は、図2に示すように、当該気孔2の孔径dが、通過する流体の上流側から下流側、すなわち、円筒状のフィルター1の外周から内周に向かって徐々に小さくなるように形成されている。そして、それら多数の気孔2が相互に連通したオープンセル構造をしている。すなわち、本実施形態にかかるフィルター1は、円筒状のフィルター1の外周から内周に向かって孔径dが徐々に小さくなる気孔2を相互に連通させた三次元の網目構造に形成されている。なお、気孔2の孔径dが徐々に小さくなるように配列する方法については後述する。
【0023】
本実施形態にかかるフィルター1を用いて水(流体)を濾過する場合、濾過しようとする水は、フィルター1の外周面からフィルター1の内部に導入され、フィルター1内部のオープンセル構造を構成する三次元網目構造の分岐および集合する連通孔2cを通過して中心側へと移動して中心通路3へと至る。なお、連通孔2cは、連通する気孔2の孔径dが大きければ大きくなり、連通する気孔2の孔径dが小さければ小さくなる。
【0024】
このとき、流体中に混入している異物のうち、気孔2や連通孔2cよりも大きい異物が捕捉される。本実施形態では、気孔2の孔径dは、通過する流体の上流側から下流側に向かって徐々に小さくなっており、これに伴いオープンセル構造を成す連通孔2cも上流側から下流側に向かって徐々に小さくなるため、流体が通過する過程で、粒径の大きい異物だけでなく粒径が小さい異物も捕捉される。なお、異物を捕捉した気孔2や連通孔2cは閉塞されるが、連通孔2cはフィルター1の内部全域に亘って分岐および集合を繰り返しているため、閉塞箇所を迂回する別の気孔2や連通孔2cを介して流体が流れるため、フィルター1による濾過は継続的に行われる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態にかかるフィルター(濾過材)1は、相互に連通するように形成された多数の気孔2の孔径dが上流側から下流側に向かって徐々に小さくなっている。そのため、上流側の気孔2(連通孔2cを含む)を通過した粒径の小さい異物を、下流側の気孔2で捕捉できるようになる。すなわち、捕捉できる異物の大きさに幅を持たせることができるようになり、フィルター1の濾過性能を向上させることができる。また、本実施形態では、フィルター1の内部に形成された気孔2を広い範囲に亘って有効に利用することができるため、多量の異物を捕捉できるようになり、この点からも濾過性能をさらに向上させることができる。さらに、気孔2の孔径dを上流側から下流側に向けて徐々に小さくすることで、最小孔径の気孔(下流側の気孔2の孔径)2が全体に亘ってほぼ均一に分布しているフィルターと比較して、通水抵抗を減少させることができる。したがって、本実施形態にかかるフィルター1によれば、濾過速度の低下を抑制しつつ濾過性能を向上させることができるようになるという利点もある。
【0026】
ところで、本実施形態のフィルター1は、円筒状に形成して外周から内周の中心通路3に向かって流体を通過させる場合を説明したが、これとは逆に、中心通路3から外周に向かって流体が通過するように構成することもできる。この場合、気孔2の孔径dは、フィルター1の内周から外周に向かって徐々に小さくなる。
【0027】
また、本実施形態のフィルター1をスポンジ状に形成した場合は、構成する材料によっては柔軟性が高くなりすぎて、変形しやすくなってしまう場合がある。そこで、フィルターとして効率良く利用するため、図2に示すように、中心通路3の内周にメッシュ状の補強筒4を取り付けるようにしてもよい。こうすれば、フィルター1の変形が抑制され濾過性能を高めることができる。
【0028】
さらに、上記補強筒4に限ることなく、円筒状フィルター1の内周面側または外周面側に多孔質の硬質の円筒(図示せず)を配置することにより、フィルター1の変形抑制効果をより一層高めることも可能である。
【0029】
次に、上述したフィルター1を用いた水処理装置10について説明する。
【0030】
この水処理装置10は、図2に示すフィルター1を用いてフィルターユニット11を構成し、当該フィルターユニット11を水の浄化経路としての浄化主通路12に配置することにより構成されている。
【0031】
フィルターユニット11は、スポンジ状のフィルター1を収納するハウジング11aを有しており、このハウジング11aは、両端がエンドプレート11b、11cで閉塞された円筒形を成している。そして、ハウジング11aの内側にフィルター1が同軸上に配置されている。フィルター1の両端は遮蔽板1a、1bで閉止されるとともに、中心通路3の内周には、多孔質材で形成されて補強部材を兼ねる集水管1cが取り付けられている。
【0032】
水流入側(図4中下方)のエンドプレート11bの中心部には、吸水管11dが接続されており、給水口11eが形成されている。また、水流出側(図4中上方)のエンドプレート11cの中心部には、吐出管11fが接続されており、吐出口11gが形成されている。
【0033】
給水口11eのハウジング11a内側には、吸水管11dから導入した水を外周方向に案内する給水口カバー11hが設けられている。そして、この給水口カバー11hの突出端部を一方の遮蔽板1aの凹部1dに嵌合させることで、フィルター1の給水側の位置決めがなされている。
【0034】
また、他方の遮蔽板1bの中心部には集水管1cに連通する中心口1eが形成されている。そして、この中心口1eに吐出管11fの延長部11iを嵌合させることで、フィルター1の吐出側の位置決めがなされている。さらに、延長部11iと中心口1eとの間は、シール材1fによって密封されている。
【0035】
このように、フィルター1全体をハウジング11aに固定することで、ハウジング11a内でフィルター1が移動したり変形したりするのを抑制している。
【0036】
そして、給水口11eからフィルターユニット11内に流入した水は、フィルター1の外周とハウジング11aの内周との間に廻り込んだのち、フィルター1の外周から内周へと通過し、濾過された水が集水管1cに集められ、吐出口11gから吐出される。
【0037】
なお、フィルターユニット11は、上述した構造に限ることなく、たとえば、給水口11eおよび吐出口11gをエンドプレート11b、11cに分配して設けずに、同一のプレート11bまたは11cやハウジング11aの側面に設けてもよい。この場合、ハウジング11a内部の空気を排出するために、吐出口11gをハウジング11aの上面近傍に設けるのが好適である。
【0038】
水処理装置10の浄化主通路12は、図3に示すように、図示せぬ水道配管などに給水弁13を介して接続されており、その浄化主通路12には、上流側(給水弁13の配置側)から下流側に向かって順に、フィルターユニット11、活性炭フィルターユニット14および膜フィルターユニット15が直列に配置されている。そして、フィルターユニット11と活性炭フィルターユニット14との間に、昇圧ポンプ16が配置されるとともに、その下流側に逆止弁17が配置されている。そして、膜フィルターユニット15の下流側に圧力センサ18が配置されている。
【0039】
フィルターユニット11は、上述したようにスポンジ状のフィルター1によって水に混入した異物を捕捉して除去するものであり、このフィルターユニット11を比較的大きめの異物を捕捉して除去するプレフィルターとして用いている。
【0040】
活性炭フィルターユニット14は、活性炭フィルターが収納されており、水に溶解した成分、特に異味や異臭、あるいは、トリハロメタンをはじめとしたハロゲン化炭素を除去するものである。また、活性炭フィルターの内部に重金属を除去するための重金属除去剤を混入し、当該重金属除去剤に鉛などの有害重金属を吸着させて除去できるようにしてもよい。また、活性炭フィルターで水中の残留塩素を分解除去することで、下流側に細菌が繁殖し易くなるが、これを防止するために、活性炭フィルターユニット14に銀などの抗菌性を有する金属を含む抗菌剤を混合するようにしてもよい。
【0041】
膜フィルターユニット15は、NF膜、RO膜などの逆浸透膜やUF膜、MF膜などの濾過膜が用いられており、この膜フィルターユニット15には、濃縮水を排出する排出管15aが設けられている。そして、膜フィルターユニット15を透過または通過した水は、浄化主通路12の下流側末端から外部に吐出される。この浄化主通路12の下流側末端は、蛇口等に接続されており、この蛇口等を介して処理水が供給されるようになっている。
【0042】
逆止弁17は、昇圧ポンプ16が停止した場合、または給水弁13が閉じたとき、さらには上水配管の水圧が所定圧以下に低下した場合に、活性炭フィルターユニット14を含む下流側からの残圧によって水が逆流するのを防止するものである。この逆止弁17を設けることで、フィルターユニット11内に滞留したり堆積したりしていた異物が、図示せぬ水道配管などに逆流してしまうのが防止される。
【0043】
なお、膜フィルターユニット15下流側の浄化主通路12内が所定圧以上に昇圧した場合に、圧力センサ18から昇圧ポンプ16や給水弁13を制御する図示せぬ制御ユニットに信号を送り、昇圧ポンプ16を停止するとともに、給水弁13を閉じるように構成してもよい。こうすれば、浄化主通路12の内部の異常な昇圧による水漏れや破損を防止できるようになる。
【0044】
さらに、浄化主通路12等に水質センサを設け、水質異常時に給水を停止するように構成することも可能である。
【0045】
また、水処理装置10を筺体に収納固定して、当該筺体を処理水使用箇所近傍に設置できるように構成し、使用者の利便性向上を図るようにしてもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態にかかる水処理装置10によれば、フィルター1を用いたフィルターユニット11を浄化主通路12に配置したため、フィルターユニット11に設けたフィルター1によって大きさに幅のある多量の異物を捕捉できるようになる。その結果、浄化主通路12を通過する水の浄化性能を向上させることができる。このフィルターユニット11を用いることで、孔径の異なる複数のフィルターを用いる必要がなくなり、水処理装置10の小型化を図ることができる。
【0047】
次に、フィルター1の製造方法を説明する。
【0048】
上述したフィルター1は、図5の(a)〜(e)に示す工程(第1の製造工程)を経て製造することができる。
【0049】
まず、溶融した熱可塑性樹脂R1と粒子径の異なる孔形成粒子Pとを攪拌装置Sで混合して第1の混合溶液B1を作る(混合工程)。
【0050】
具体的には、熱可塑性樹脂R1を溶融温度異常に加熱して液状とし、この液状樹脂R1に樹脂の加熱温度で溶融あるいは破壊しない所定の粒子径分布幅を有する孔形成粒子Pを混合させる。なお、熱可塑性樹脂R1としては、たとえば、一般に使用されるビニル系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂など幅広い樹脂を用いることが可能である。また、孔形成粒子Pは、炭酸カルシウムなどの無機系粒子が適当である。このとき、液状樹脂とほぼ同一密度のものを用いれば、より短時間で均一な混合が可能となる。
【0051】
また、混合工程では、孔形成粒子Pを液状の熱可塑性樹脂R1内に均一に分散させることを目的としているため、均一な層流よりも乱流で混合させるほうが好ましい。
【0052】
なお、液状の熱可塑性樹脂R1と孔形成粒子Pとの体積比は、1:(1〜15)、好ましくは、1:(5〜10)である。
【0053】
次に、成形用型Mに第1の混合溶液B1を流し込み、その成形用型Mを回転させることで、遠心力の作用方向(径方向)に孔形成粒子Pを粒径順に配列させる(遠心力付加工程)。
【0054】
具体的には、混合工程にて均一に混合された液状の熱可塑性樹脂R1と孔形成粒子Pとの第1の混合溶液B1を、ほぼ円筒形の成形用型Mに充填し、それを密封した状態で中心軸Mcを中心に回転させる。このとき、孔形成粒子Pに作用する遠心力により粒径が大きい孔形成粒子Pは、中心軸Mcから遠ざかる方向に移動して成形用型Mの外周側に多く集まり、粒径が小さい孔形成粒子Pは内周側に多く集まる。そのときの回転数および回転時間は、使用する孔形成粒子Pと液状の熱可塑性樹脂R1の密度により調節することができる。また、使用する孔形成粒子Pの粒径分布を予め調節しておけば、遠心力で配置される孔形成粒子Pの大きさの分布を所望の状態とすることができる。
【0055】
たとえば、孔形成粒子Pの粒径分布を分散の大きい1つのモード径を有する粒子を用いれば、最内周から最外周まで緩やかな粒径変化の分布とすることができる。また、モード径が著しく異なり、粒径分布が重複しない範囲にある2種類の同一材質の孔形成粒子を混合して、同様の遠心力付加工程を経ると、内周側から外周側に向かって拡大する孔径が、途中から急に拡大する孔径ギャップ層を設けることができる。このような孔径分布のフィルターを、粗大な異物が多い流体を濾過する際に用いるとより効果的に濾過することができる。なお、粒径が小さい孔形成粒子Pの比重を粒径が大きい孔形成粒子Pよりも大きくすれば、粒径が大きい孔形成粒子Pを内周側に、粒径が小さい孔形成粒子Pを外周側に多く集めることができる。
【0056】
そして、孔形成粒子Pを粒径順に配列させた状態で、成形用型M内で熱可塑性樹脂R1を冷却させて固化させる(成形工程)。具体的には、第1の混合溶液B1を成形用型Mに充填した状態で、その成形用型Mを、熱可塑性樹脂R1が十分に固化するまで冷却する。
【0057】
そして、冷却後に熱可塑性樹脂R1を脱型した後、孔形成粒子Pの除去溶媒Eで洗浄する(洗浄工程)。具体的には、樹脂に対しては微溶解性または不溶解性の除去溶媒Eで孔形成粒子Pのみを溶解して除去する。
【0058】
最後に、洗浄により熱可塑性樹脂に付着した除去溶媒Eを除去する(乾燥工程)ことで、図1に示すフィルター1が製造される。
【0059】
以上述べた第1の製造工程でフィルター1を製造する際は、フィルター1の素材である樹脂が熱可塑性であること、孔形成粒子Pが目的のフィルター孔径を満足する粒度分布であること、孔形成粒子Pの溶解性が高く、かつ、樹脂の溶解性が非常に低い溶媒を使用することが望ましい。また、孔形成粒子Pの比重を樹脂の比重に近くするのが好ましい。
【0060】
この第1の製造工程によれば、混合工程で作った熱可塑性樹脂R1の第1の混合溶液B1に含まれた粒子径の異なる孔形成粒子Pを、遠心力付加工程によって粒径順に配列させることができる。その後、冷却工程によって熱可塑性樹脂R1を固化させるとともに、洗浄工程にて孔形成粒子Pを除去し、乾燥工程にて乾燥させることで、孔径を徐々に変化させたフィルター1を容易に形成することができる。これにより、フィルター1の生産性を高めて安価なフィルター1を提供することができるようになる。
【0061】
また、上述したフィルター1は、図6(a)〜(e)に示す工程(第2の製造工程)を経て製造することもできる。
【0062】
まず、第1溶媒D1に溶解させた第1溶媒溶解性樹脂R2と、その第1溶媒溶解性樹脂R2を架橋する架橋剤Cと、第1溶媒D1に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子Pと、を混合して第2の混合溶液B2を作る(混合工程)。具体的には、第1溶媒溶解性樹脂R2に水溶性樹脂を用いて第1溶媒D1は水とするとともに、架橋剤Cに水溶性架橋剤を用い、水溶性樹脂を高濃度で水に溶解し、そこに水溶性架橋剤を同時に混入させる。このときの架橋剤と樹脂の比率で最終のフィルター1の架橋密度が決定される。この比率は、目的に応じて適宜に設定される。
【0063】
そして、上記水溶液に水不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子Pを混合して第2の混合溶液B2を作る。水不溶性の孔形成粒子Pは、たとえば、ワックスなどの飽和炭化水素を界面活性剤などでエマルジョン状態にしたものでもよく、液状のエマルジョンでもよい。また、水に溶解しない溶媒に溶解可能な水不溶性樹脂粒でもよい。
【0064】
次に、成形用型Mに第2の混合溶液B2を流し込んでその成形用型Mを回転し、遠心力の作用方向に孔形成粒子Pを粒径順に配列させ(遠心力付加工程)、孔形成粒子Pを粒径順に配列させた状態で成形用型M内において第1溶媒溶解性樹脂R2に架橋反応を起こさせる(架橋工程)。すなわち、成形用型Mに入れた第2の混合溶液B2を回転して孔形成粒子Pに遠心力を作用させると、水中に分散した孔形成粒子Pは、遠心力により外周から内周に向かって粒子径の大きさに応じた分散状態となる。この状態で加熱して架橋剤Cにより樹脂鎖間の架橋反応を起こさせ、樹脂の構造を安定なものに変化させて固化させる。
【0065】
そして、架橋反応後に第1溶媒溶解性樹脂R2を脱型した後、孔形成粒子Pを溶解させる除去溶媒Eで洗浄する(洗浄工程)。具体的には、成形用型Mから取出して、孔形成粒子Pのみを溶解させる除去溶媒Eで洗浄する。このとき、同時に残留する架橋剤Cも洗浄できることが好ましいが、残留の虞がある場合は、後で別に架橋剤洗浄工程を設けてもよい。
【0066】
最後に、洗浄により第1溶媒溶解性樹脂R2に付着した除去溶媒Eを除去する(乾燥工程)ことにより、フィルター1を製造する。
【0067】
このように、第2の製造工程によっても、上記第1の製造工程と同様に、気孔2の孔径を徐々に変化させたフィルター1を容易に形成することができるとともに、フィルター1の生産性を高めて安価な製品を提供することができる。
【0068】
さらに、第2の製造工程では、基材となる樹脂が水溶性であるものを架橋することでフィルター1を得ている。したがって、第2の製造工程で製造されたフィルター1は、素材自体が親水性であるため、水用のフィルター1としては有用である。すなわち、第2の製造工程で製造されたフィルター1を水用のフィルターとして用いれば、親水化材などをコーティングする必要がなくなる。このように、第2の製造工程によれば、透水性が高く、かつ、目的の孔径の多孔質材とすることができるため、異物捕捉性能の高いフィルター1を得ることができる。
【0069】
また、上述したフィルター1は、図7(a)〜(f)に示す工程(第3の製造工程)を経て製造することもできる。
【0070】
まず、第2溶媒D2に溶解させた第2溶媒溶解性樹脂R3と、第2溶媒D2に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子Pと、を混合して第3の混合溶液B3を作る(混合工程)。
【0071】
次に、成形用型Mに第3の混合溶液B3を流し込んでその成形用型Mを回転し、遠心力の作用方向に孔形成粒子Pを粒径順に配列させる(遠心力付加工程)。
【0072】
そして、孔形成粒子Pを粒径順に配列させた状態で第2溶媒溶解性樹脂R3を凍結乾燥し(凍結乾燥工程)、凍結乾燥した第2溶媒溶解性樹脂R3を脱型した後、その第2溶媒溶解性樹脂R3を架橋する架橋剤Cを溶解させた第3溶媒D3の溶液中に浸漬して架橋反応を起こさせる(架橋工程)。
【0073】
そして、架橋反応を終えた第2溶媒溶解性樹脂R3を、孔形成粒子Pを溶解させる除去溶媒Eで洗浄し(洗浄工程)、洗浄により第2溶媒溶解性樹脂R3に付着した除去溶媒Eを除去する(乾燥工程)ことで、フィルター1を製造する。
【0074】
このように、第3の製造工程によっても、上記第1の製造工程と同様に、気孔2の孔径を徐々に変化させたフィルター1を容易に形成することができるとともに、フィルター1の生産性を高めて安価な製品を提供することができる。
【0075】
さらに、第3の製造工程によれば、遠心力により外周から内周に向かって孔形成粒子Pが粒径の大きさの順に配列された状態にある第3の混合溶液B3を凍結乾燥させている。したがって、形状そのままで内部の水が気化して徐々に抜けていくため、フィルター1の気孔2の孔径が徐々に変化した状態のまま架橋剤Cの溶液中で架橋反応させることができ、より緻密な架橋構造を得ることができる。
【0076】
また、第3の製造工程によれば、架橋反応直前に架橋剤を添加できるため、架橋剤Cの反応性が高い状態で架橋させることができる。したがって、溶媒の樹脂からの蒸発時の収縮などの変化を起こし難くなり、溶媒D2と孔形成粒子Pを含んだ状態のフィルター構成樹脂(第2溶媒溶解性樹脂R3)が粒子径分布の配列を乱すのを抑制することができるため、目的とする孔径をより正確に構成させることができる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0078】
例えば、濾過材は、円筒状に限ることなく、平板状やブロック状など、任意の形状とすることができる。なお、平板状やブロック状の濾過材を製造する際には、上述の円筒状の濾過剤を切断することで製造することが可能である。また、粒径ごとに比重の異なる孔形成粒子を用い、それぞれの孔形成粒子の沈降速度の相違を利用して、気孔の粒径が上流側から下流側に向かって徐々に小さくなる平板状やブロック状の濾過材を製造するようにしてもよい。
【0079】
また、水処理装置は、少なくともフィルターユニットが浄化主通路に配置されていればよい。
【符号の説明】
【0080】
1 フィルター(濾過材)
2 気孔
10 水処理装置
11 フィルターユニット
12 浄化主通路(浄化経路)
d 孔径
R1 熱可塑性樹脂
R2 第1溶媒溶解性樹脂
R3 第2溶媒溶解性樹脂
P 孔形成粒子
B1 第1の混合溶液
B2 第2の混合溶液
B3 第3の混合溶液
M 成形用型
E 除去溶媒
D1 第1溶媒
D2 第2溶媒
D3 第3溶媒
C 架橋剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の気孔が相互に連通するように形成されて流体の通過を許容する濾過材であって、前記気孔の孔径を、通過する流体の上流側から下流側に向かって徐々に小さくしたことを特徴とする濾過材。
【請求項2】
請求項1に記載の濾過材を用いてフィルターユニットを構成し、当該フィルターユニットを水の浄化経路に配置したことを特徴とする水処理装置。
【請求項3】
溶融した熱可塑性樹脂と、粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第1の混合溶液を作る混合工程と、
成形用型に前記第1の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、
前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記熱可塑性樹脂を前記成形用型内で冷却させて固化させる成形工程と、
冷却後に前記熱可塑性樹脂を脱型し、前記孔形成粒子の除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、
洗浄により前記熱可塑性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする濾過材の製造方法。
【請求項4】
第1溶媒に溶解させた第1溶媒溶解性樹脂と、当該第1溶媒溶解性樹脂を架橋する架橋剤と、第1溶媒に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第2の混合溶液を作る混合工程と、
成形用型に前記第2の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、
前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記成形用型内において前記第1溶媒溶解性樹脂に架橋反応を起こさせる架橋工程と、
架橋反応後に前記第1溶媒溶解性樹脂を脱型し、前記孔形成粒子を溶解させる除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、
洗浄により前記第1溶媒溶解性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする濾過材の製造方法。
【請求項5】
第2溶媒に溶解させた第2溶媒溶解性樹脂と、第2溶媒に不溶性の粒子径の異なる孔形成粒子と、を混合して第3の混合溶液を作る混合工程と、
成形用型に前記第3の混合溶液を流し込み、当該成形用型を回転させることで、遠心力の作用方向に前記孔形成粒子を粒径順に配列させる遠心力付加工程と、
前記孔形成粒子を粒径順に配列させた状態で、前記第2溶媒溶解性樹脂を凍結乾燥する凍結乾燥工程と、
凍結乾燥した前記第2溶媒溶解性樹脂を脱型し、当該第2溶媒溶解性樹脂を架橋する架橋剤を溶解させた第3溶媒の溶液中に浸漬させて架橋反応を起こさせる架橋工程と、
架橋反応を終えた前記第2溶媒溶解性樹脂を、前記孔形成粒子を溶解させる除去溶媒で洗浄する洗浄工程と、
洗浄により前記第2溶媒溶解性樹脂に付着した前記除去溶媒を除去する乾燥工程と、を備えることを特徴とする濾過材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152490(P2011−152490A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13946(P2010−13946)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】