説明

濾過濃縮装置および濾過濃縮方法

【課題】残渣濃度を濃くでき、残渣濃度を目標残渣濃度に近づけ、安定化できる濾過濃縮装置および濾過濃縮方法を提供する。
【解決手段】容器と、前記容器内に設置した濾過膜と、濾過膜から前記容器の外に延設した濾液排出手段と、前記濾過膜の1次側と2次側に差圧を生じさせる差圧発生手段と、前記容器内に懸濁液を供給する懸濁液供給手段と、前記容器内の懸濁液を排出する懸濁液排出手段と、前記濾過膜に付着した残渣を前記濾過膜から剥離する残渣剥離手段と、剥離された前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出手段とを有する濾過濃縮装置において、前記懸濁液排出手段は懸濁液排出水位速度を可変でき、前記懸濁液排出手段の懸濁液排出水位速度を可変制御する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁液の濾過濃縮装置および濾過濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の濾過濃縮装置は、汚泥槽、前記汚泥槽内に設置した濾過板、前記濾過板に一端を取り付け、他端を前記汚泥槽の外部に引き出した濾液排出管、および前記汚泥槽の底部に未濃縮汚泥引き抜き装置を備えた濾過濃縮装置が知られている。そして、この濾過濃縮装置の運転方法として、前記濾過板上に濃縮汚泥(本願の残渣に相当)を形成した後、未濃縮汚泥を前記汚泥槽から排出し、大気中に露出した前記濃縮汚泥のみ濾過を継続する濾過濃縮方法が知られている。(特許文献1)
【特許文献1】特開平6−206098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1は、最初に外気に触れる濾過板上端部の濃縮汚泥(残渣)にクラックが発生し、そのクラックから空気が進入して濾過板の2次側の負圧が弱くなり、濃縮汚泥(残渣)の濃度が薄くなる場合があるという問題点があった。そして、外気に触れる時間の短い濾過板下端部の濃縮汚泥(残渣)は、汚泥濃度が低いままの状態であるので、濾過板表面に付着した濃縮汚泥全体の平均濃度が低くなる問題点があった。
【0004】
図6は、懸濁液排出水位速度と残渣濃度の関係を表すグラフである。残渣濃度は、剥離した残渣をよく混合した後に測定した。懸濁液排出水位速度とは、濾過膜上に汚泥が堆積した状態で、未濃縮汚泥を汚泥槽から排出する際に、未濃縮汚泥の水位が移動する速度のことである。すなわち、懸濁液排出水位速度が大きいほど、濾過膜下部の濃縮汚泥(残渣)と未濃縮汚泥の接触時間が短くなる。図6から、懸濁液排出水位速度が遅いと残渣濃度は低くなり、懸濁液排出水位速度を速くするほど残渣濃度が濃くなるが、懸濁液排出水位速度をある値以上に上げても、残渣濃度はそれ以上濃くならないことが解る。さらに、図7は、濾過膜の上部および下部の残渣濃度を個々に測定した結果である。懸濁液排出水位速度が遅いと濾過膜上部と下部で残渣濃度に差が生じる一方、懸濁液排出水位速度が速くなると濾過膜上部と下部での残渣濃度差が減少すると共に残渣濃度がより濃いことが解る。
【0005】
よって、懸濁液排出水位速度を制御して、濾過膜上の残渣濃度の偏りが生じることを防止すれば、残渣濃度を濃くできることが明らかになった。
そこで、本発明は、懸濁液排出水位速度を制御して、残渣濃度を濃くでき、残渣濃度を目標残渣濃度に近づけ、安定化できる濾過濃縮装置および濾過濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の濾過濃縮装置の特徴は、容器と、前記容器内に設置した濾過膜と、濾過膜から前記容器の外に延設した濾液排出手段と、前記濾過膜の1次側と2次側に差圧を生じさせる差圧発生手段と、前記容器内に懸濁液を供給する懸濁液供給手段と、前記容器内の懸濁液を排出する懸濁液排出手段と、前記濾過膜に付着した残渣を前記濾過膜から剥離する残渣剥離手段と、剥離された前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出手段とを有する濾過濃縮装置において、前記懸濁液排出手段は懸濁液排出水位速度を可変でき、前記懸濁液排出手段の懸濁液排出水位速度を可変制御する制御手段を備えることにある。
【0007】
請求項2に記載の濾過濃縮装置の特徴は、請求項1に記載の濾過濃縮装置において、前記残渣の濃度を計測する残渣濃度計測手段と、過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を記憶する記憶手段とを備え、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶した過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を基に、次回の懸濁液排出水位速度設定値を算出する補正手段を備え、次回の濾過バッチでは算出された懸濁液排出水位速度設定値で濾過濃縮装置を制御することにある。
【0008】
請求項3に記載の濾過濃縮方法の特徴は、容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行し、次いで、懸濁液排出水位速度補正工程を実行し、前記懸濁液排出水位速度補正工程終了後であり、かつ前記残渣排出工程を終了後、前記懸濁液供給工程に戻る事を繰り返すことにある。
【0009】
請求項4に記載の濾過濃縮方法の特徴は、容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、
前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行すると共に前記残渣剥離工程および前記残渣排出工程を終了するまでを1濾過バッチとして、その後、複数の異なった懸濁液排出水位速度で濾過バッチを実行して、各濾過バッチの懸濁液排出水位速度と残渣濃度を記憶する調査大工程を実行し、次いで、前記調査大工程で残渣濃度が最も高かった懸濁液排出水位速度条件で濾過を行う最適条件大工程を実行することにある。
【0010】
請求項5に記載の濾過濃縮方法の特徴は、請求項3または4のいずれか一項に記載の濾過濃縮方法において、前記懸濁液が浄水汚泥であって、濾過膜上端から濾過膜下端までの水面移動時間が3.5分以下となる懸濁液排出水位速度で実行することにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、懸濁液排出水位速度を制御することで、残渣濃度を濃くでき、残渣濃度を目標残渣濃度に近づけ、安定化できることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本実施例の濾過濃縮装置は、容器と、前記容器内に設置した濾過膜と、濾過膜から前記容器の外に延設した濾液排出手段と、前記濾過膜の1次側と2次側に差圧を生じさせる差圧発生手段と、前記容器内に懸濁液を供給する懸濁液供給手段と、前記容器内の懸濁液を排出する速度を可変できる懸濁液排出手段と、前記濾過膜に付着した残渣を前記濾過膜から剥離する残渣剥離手段と、剥離された前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出手段と、前記懸濁液排出手段の懸濁液排出水位速度を可変制御する制御手段とを備える。
【0013】
懸濁液排出手段が、懸濁液排出水位速度を可変する手段としては、容器から懸濁液が通流する懸濁液排出管に流量制御可能な液体ポンプを備えることとしてもよく、また、懸濁液排出管に流量制御可能な流量制御弁を備えることとしてもよく、また、弁を備えた懸濁液排出管を複数設けたものであることとしてもよい。
差圧発生手段は、容器を正圧力に耐える密閉圧力容器を用いて濾過膜の1次側を加圧することとしてもよいし、また、容器内部が大気開放された容器を用いて濾過膜の2次側を減圧することとしてもよい。規模の大きい濾過濃縮装置を製作する場合には、圧力容器を作ることが困難になりコストが高いデメリットがあるため、濾過膜の2次側を減圧することが望ましい。一方、濾過濃縮装置の規模が小さく、ポンプのメンテナンスを簡単にする場合には、濾過膜の1次側を加圧することが望ましい。
【0014】
残渣濃度計測手段は、残渣濃度を測定する手段の他、残渣濃度と相関のある指標を用いて残渣濃度の代用指標としてもよい。
さらに、前記残渣の濃度を計測する残渣濃度計測手段と、前記制御手段内に設けた過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を記憶する記憶手段とを備え、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶した過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を基に、次回の懸濁液排出水位速度設定値を算出する補正手段を備え、次回の濾過バッチでは算出された懸濁液排出水位速度設定値で濾過濃縮装置を制御することが望ましい。
【0015】
次に、濾過濃縮方法に関して説明する。懸濁液排出水位速度を最適化するために、前回の濾過バッチより残渣濃度が高くなると予想される懸濁液排出水位速度で次回の濾過バッチを行う逐次補正方法と、懸濁液排出水位速度と残渣濃度の関係を示すデータを予め取得し、その後、前記データの最適条件で、その後の懸濁液排出工程を行う事前最適化方法とがある。
【0016】
より詳細には、逐次補正方法の濾過濃縮方法は、容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、この懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した残渣を容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行し、濾過工程中から濾過工程終了前までに、容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行し、次いで、懸濁液排出水位速度補正工程を実行し、懸濁液排出水位速度補正工程終了後であり、かつ残渣排出工程を終了後、懸濁液供給工程に戻る事を繰り返す。この方法によれば、一連の濾過を終了して次の懸濁液を濾過する毎に、残渣濃度がより高くなるように懸濁液排出水位速度を補正でき、濾過する懸濁液の性状が変化した場合でも、懸濁液排出水位速度が逐次補正されるため、残渣濃度をより高くなるように制御できる。
【0017】
図4に本発明の濾過濃縮方法における懸濁液排出水位速度を逐次補正する場合の全体フロー図を示した。濾過工程は、ポンプで濾過膜の2次側に負圧を生じさせるポンプ濾過工程とする方法、サイフォン濾過工程後にポンプ濾過工程を実施する方法、濾過膜の1次側を加圧濾過工程とする方法のいずれか1つであればよい。そして、懸濁液排出工程は、ポンプ濾過工程中、サイフォン濾過後にポンプ濾過を行う工程中、および加圧濾過工程中のいずれかに実行する。
【0018】
また、懸濁液が浄水汚泥である場合、濾過膜上端から濾過膜下端までの水面移動時間が3.5分以下となる懸濁液排出水位速度で実行することが望ましい。図6の横軸を、懸濁液水面が濾過膜上端から濾過膜下端まで移動するために要した時間(懸濁液水位移動時間)に変換したグラフを図8に示す。この時、濾過膜の縦方向の長さは、1.14mであった。懸濁液水位移動時間が5.5分、4分、3.5分と短くなるほど残渣濃度が濃くなるが、3.5分以下では、それ以上残渣濃度は濃くならなかった。
【0019】
以下、浄水汚泥を懸濁液とした場合の、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる濾過濃縮装置の構成図である。この濾過濃縮装置は、容器内部が大気開放されており底部がテーパー状に細くなっている容器1と、容器1に汚泥を供給または容器1から汚泥を抜き取る懸濁液供給手段兼懸濁液排出手段101と、容器1内に設置され汚泥を濾過する濾過手段3と、濾過手段から濾液を排出する濾液排出管4と、濾液排出管4に接続した第1濾液排出手段104と、濾液排出管4に接続した残渣剥離手段105と、濾過膜3aから剥離して容器1の底に堆積した残渣を容器1外に排出する残渣排出管42と、残渣排出管42に接続した残渣排出手段102と、残渣濃度を計測する残渣濃度計測手段48と、残渣濃度計測手段48から信号を受け取り懸濁液排出手段101を制御する制御手段44とを備えている。また、濾過の吸引圧力を計測するために、濾液排出管4に圧力計17を接続することが望ましい。濾過手段3は、ナイロン製のモノフィラメントで交互に編まれた袋状の布であって、1枚当たりの濾過面積は2.6m(両面ろ過)の濾過膜(袋状態の寸法は、縦1.14m×横1.14m)を用いた。
【0021】
さらに詳細には、懸濁液供給手段兼懸濁液排出手段101は、懸濁液供給兼排出管41に懸濁液供給兼排出ポンプ2と弁8を備え、さらに、容器1の懸濁液水位を計測する水位計19を備える。なお、懸濁液供給手段と懸濁液排出手段とは、懸濁液供給兼排出ポンプ2の送液方向を反転させることで共通化している。
また、第1濾液排出手段104は、濾液排出管4の途中に水を貯留する貯留タンク5を備え、貯留タンク5に外部から水を供給する水供給管6と弁10,12、および、大気開放管43と弁14を備えている。濾過濃縮装置を使用開始する時には、液体ポンプの呼び水が必要であることや、濾過中に濾液排出管4内の濾液から遊離する気体を除去することや、図2で説明するサイフォンを形成するために、貯留タンク5が設けられている。そして、貯留タンク5より下流に弁11と液体ポンプ21を備えている。
【0022】
また、残渣剥離手段105は、濾液排出管4から分岐した気体通流管40に弁13とコンプレッサ7を備えている。
また、残渣排出手段102は、残渣排出管42に残渣検知計20と弁9と残渣排出ポンプ39を備えている。必要に応じて、容器1の底に堆積した残渣を掻き寄せる掻き寄せ機を設けても良い。
【0023】
濾過手段3は、容器1内に導入した汚泥を濾過すると残渣堆積方向が略水平方向になるように設置した袋状の濾過膜3aと、濾過膜3aを支持する濾枠3bから成っている。濾過膜3aの内側には、濾液の吸引や残渣を剥離するための空気分配管15が設けられている。この空気分配管15は、金属や塩化ビニールなどの丸型や角型パイプを水平方向に設置し、パイプの下部に鉛直下方向に小孔を複数設けている。小孔は、濾過手段3内部の濾液を吸引するためや、残渣を濾過膜3aから剥離させる加圧空気を供給するために設けられている。空気分配管15の両端は、封止されている。
【0024】
次に、濾過濃縮方法について説明する。
本発明の濾過濃縮方法は、容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行し、次いで、懸濁液排出水位速度補正工程を実行し、前記懸濁液排出水位速度補正工程終了後であり、かつ前記残渣排出工程を終了後、前記懸濁液供給工程に戻る事を繰り返す。
【0025】
また、濾過工程を実行したことによって減少した懸濁液を補うため、濾過工程中に再度、懸濁液供給工程を実施して容器1へ懸濁液を供給することがより望ましい。
より詳細には、各工程は、以下のように実行される。
まず、開始時には、弁8〜16をすべて閉じている。
懸濁液供給工程では、弁8を開き、懸濁液供給兼排出ポンプ2を作動させて、容器1に設置した濾過手段3が水没する所定水位まで懸濁液を供給する。この所定水位は、水位計19の水位Hに達したかどうかで判断される。本実施例では、水位計19を用いて水面の検知を行っているが、懸濁液供給兼排出ポンプ2の吐出体積と各タンク寸法とから演算することで、各タンクの水位を測定してもよい。しかし、長期間連続運転すると懸濁液供給兼排出ポンプ2の流量誤差が蓄積し、水位がタンクの許容高さを超える可能性があるので、水位計を用いることが望ましい。水位計19を設置する代わりに、容器1の水位Hにオーバーフロー管入口を用意し、水位Hを超えて供給される懸濁液を本装置外の懸濁液供給元に返送する構造とし、懸濁液供給兼排出ポンプ2を予め設定した時間だけ作動させることとするとより望ましい。
【0026】
次に、濾過工程を説明する。まず、弁10,11,12,14を開けて濾過膜3a2次側より下流の通路に水を入れた後、弁12,14を閉じ、液体ポンプ21を作動させて濾過を開始する。濾過工程の継続時間は、タイマーで予め設定しておく。濾過膜3aに付着する汚泥の厚さが、好ましくは10〜13mmになるまで懸濁液の供給および濾過を継続する。残渣付着厚さが10〜13mmになるまでの時間を予め調べて液体ポンプ作動設定時間とし、液体ポンプ作動経過時間がこの液体ポンプ設定時間になるまで、液体ポンプ21を作動させるのが望ましい。例えば、液体ポンプ濾過の開始当初における圧力計17の圧力値は、−80〜−90kPa程度である。
【0027】
次に、所定の時間経過後、懸濁液排出工程を実行する。懸濁液供給兼排出ポンプ2で懸濁液を逆流させて懸濁液供給元へ排出する。懸濁液排出工程を実行しながら濾過工程を継続すると、懸濁液の排出および濾過によって水位が下がり、この水位より上の濾過膜3a表面に付着した残渣は、外気に触れる状態で濾過が行われる。ここで、制御手段44は、所定の懸濁液排出水位速度になるように懸濁液供給兼排出ポンプ2を作動させる。このように、汚泥水面が濾過膜の上端から下端に移動する時間を制御することで、残渣の含水率を低減できる。懸濁液排出工程は、容器1内の懸濁液水位が水位計19の水位Lに到達した時、または、前記懸濁液排出水位速度と容器1の寸法に基づいて懸濁液排出終了時間を演算して、懸濁液供給兼排出ポンプ2が容器1から懸濁液の排出を終えたと推定される時に、懸濁液供給兼排出ポンプ2を停止し、弁8を閉じることで終了する。また、懸濁液排出工程の終了時をタイマーで設定してもよい。
【0028】
次に、濾過工程と懸濁液排出工程が共に終了している場合、残渣剥離工程を実行する。濾過工程または懸濁液排出工程のいずれかが終了していない場合は、各工程が終了するまで、次工程には進まない。
次に、残渣剥離工程では、弁13を開け、コンプレッサ7から加圧空気を挿入して、袋状の濾過膜を膨らませて変形させる。すると、濾過膜1次側表面に付着していた残渣が剥離して容器1の底に堆積する。残渣剥離工程の実行時間を予め決めておき、タイマーにより計測した時間が予定時間に到達した時に、弁13を閉じて残渣剥離工程を終了する。
【0029】
次に、残渣排出工程では、弁9を開け、残渣排出ポンプ39を作動させて残渣を排出する。残渣検知計20で残渣が残渣排出管42を通流していないことを検知した時、または、残渣排出工程の実行時間を予め決めておき、タイマーにより計測した時間が予定時間に到達した時に、残渣排出ポンプ39を停止し、弁9を閉じて残渣排出工程を終了する。残渣濃度計測工程は、残渣排出工程中に実行する。残渣濃度計測手段48を残渣排出管42に設けた場合は、残渣が残渣排出管42を通流している時に残渣濃度を計測する。
【0030】
残渣濃度計測工程の次に、懸濁液排出水位速度補正工程を実行する。
懸濁液排出水位速度補正工程のフローを図5に示す。主な内容は、直近の懸濁液排出水位速度と残渣濃度に基づいて所定の演算をして、次回の懸濁液排出水位速度設定値を求めることである。
まず、前記残渣濃度計測工程で調べた残渣濃度と目標残渣濃度を比較し、残渣濃度が目標残渣濃度以上の場合は、次回の懸濁液排出水位速度設定値を直近の懸濁液排出水位速度から予め定めた量(校正低減量)だけ減らした値に変更し、懸濁液排出水位速度補正工程を終了する。懸濁液排出水位速度を低減する仕組みを設けていることで、残渣濃度を目標残渣濃度に安定させることができ、さらに、懸濁液供給兼排出ポンプ2の消費電力も低減できる。なお、残渣濃度を高くすることのみが目的であれば、目標濃度より高い場合は排出速度を変えない態様としてもよい。
【0031】
一方、残渣濃度が目標残渣濃度より小さい場合は、次回の懸濁液排出水位速度設定値を直近の懸濁液排出水位速度から予め定めた量(校正増加量)だけ増やした値に変更する。次いで、次回の懸濁液排出水位速度設定値が、懸濁液排出水位速度上限値以上の場合、次回の懸濁液排出水位速度設定値を懸濁液排出水位速度上限値に変更し、懸濁液排出水位速度補正工程を終了する。
【0032】
次回の懸濁液排出水位速度設定値が、懸濁液排出水位速度上限値より小さい場合、さらに、次回の懸濁液排出水位速度設定値と懸濁液排出水位速度下限値を比較して、次回の懸濁液排出水位速度設定値が、懸濁液排出水位速度下限値以下の場合、次回の懸濁液排出水位速度設定値を懸濁液排出水位速度下限値に変更し、懸濁液排出水位速度補正工程を終了する。次回の懸濁液排出水位速度設定値が、懸濁液排出水位速度下限値より大きい場合、懸濁液排出水位速度補正工程を終了する。
【0033】
前記残渣排出工程と、懸濁液排出水位速度補正工程が共に終了している場合、終了指令の有無を確認し、終了指令がない場合は、前記懸濁液供給工程に戻り、上記フローを繰り返す。終了指令がある場合、図4のフローを終了する。
実施例1の態様によれば、処理対象の懸濁液の性状が変化しても、それに追従して懸濁液排出水位速度が変化するため、残渣濃度を濃くできるという効果がある。
【実施例2】
【0034】
懸濁液排出水位速度を最適化する別の態様としては、容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行すると共に前記残渣剥離工程および前記残渣排出工程を終了するまでを1濾過バッチとして、その後、複数の異なった懸濁液排出水位速度で濾過バッチを実行して、各濾過バッチの懸濁液排出水位速度と残渣濃度を記憶する調査大工程を実行し、次いで、前記調査大工程で残渣濃度が最も高かった懸濁液排出水位速度条件で濾過を行う最適条件大工程を実行してもよい。処理する懸濁液の性状が変化しない場合は、実施例1に比べて懸濁液排出水位速度条件の変動がなく、残渣濃度をより濃くできるという効果がある。
【実施例3】
【0035】
図2は、図1の濾過濃縮装置に第二濾液排出手段103を追加したものである。第二濾液排出手段103は、サイフォンを形成して濾過膜3aの2次側に負圧を生じさせて懸濁液を濾過し濾液排出管4を通って容器1外に濾液を排出するために、濾液排出管4の出口高さを濾過手段3下端より下になるようにしてある。
濃縮濾過方法としては、実施例1または2の濾過工程を第二濾液排出手段103で差圧を発生させて濾過するサイフォン濾過工程と、第一濾液排出手段104で差圧を発生させて濾過する液体ポンプ濾過工程の順に実行する。サイフォン濾過工程は、懸濁液供給工程終了後、弁11,13,14,15を閉じ、弁10,12,14を開いて貯留タンク5が所定水位になるまで水を供給し、次いで、弁12,14を閉じ、弁15を開けるとサイフォンが形成されてサイフォン濾過が実行される。サイフォン濾過終了時には、弁15を閉じる。
【0036】
図2の濾過濃縮装置を用いて、上記のように懸濁液排出水位速度を逐次補正した結果を図9に示す。制御条件は、目標残渣濃度を8.1重量%、懸濁液排出水位速度上限値を2.0m/min、懸濁液排出水位速度下限値を0.0m/min、懸濁液排出水位速度校正増加量を0.20m/min、懸濁液排出水位速度校正減少量を0.01m/minとした。容器1に懸濁液を供給後、まずサイフォン濾過工程を90分間実施し、次いで懸濁液排出工程を行いながら液体ポンプ濾過工程を17分実施した。この液体ポンプ濾過を17分とした理由は、本懸濁液を用いた場合、17分以上では残渣にクラックが発生し、それ以上濾過を行っても濃縮効果がないためである。
【0037】
濾過バッチ1回目では、懸濁液排出水位速度を0.21m/minとしたところ、残渣濃度は6.8重量%であった。その後、濾過バッチを繰り返すたびに懸濁液排出水位速度は増加するように再設定され、残渣濃度が目標残渣濃度を超えると、濾過バッチを繰り返すたびに懸濁液排出水位速度は減少するように再設定された。残渣濃度が目標残渣濃度より低下すると、懸濁液排出水位速度を増加し、残渣濃度が増加するように制御された。このように濾過バッチを繰り返すたびに懸濁液排出水位速度が更新されて、残渣濃度は目標残渣濃度に近づくとともに、懸濁液排出水位速度が過大に設定されないように制御することで、懸濁液排出手段であるポンプの消費電力を低減できる。そして、実施例1または2の濾過工程にサイフォン濾過工程を導入することで、濾過にかかる動力を低減できる効果がある。
【実施例4】
【0038】
濾過膜の1次側を加圧することで濾過膜に差圧を生じさせる濾過濃縮装置を図3に示した。
図3は、図1から第一濾液排出手段104を除き、残渣剥離手段105を第三濾液排出手段兼残渣剥離手段106に替えたものである。濾液排出管4には、弁10が備えられている。
【0039】
図3の濾過濃縮装置は、密閉した容器1を加圧することと、濾過膜2次側に空気を送り込み残渣を剥離することについて、コンプレッサを兼用するために、気体通流管40を、密閉した容器1と濾液排出管4に接続してあり、弁13で連通方向をコンプレッサ7と密閉した容器1、または、コンプレッサ7と濾液排出管4に切り替えできる。さらに、濾過膜の1次側の圧力を計測する圧力計18と、濾過膜の1次側を大気解放するための弁16、大気開放管44を備えている。
【0040】
次に、濾過濃縮方法について説明する。基本的に前記実施例1、2と同じ濾過濃縮方法を用いることができ、濾過工程、懸濁液排出工程、残渣剥離工程が相違している。以下、相違している濾過工程、懸濁液排出工程、残渣剥離工程について記載し、それ以外は、記載を省略する。
濾過工程では、弁8,9,16を閉じ、弁10を開け、弁13の連通方向をコンプレッサ7と密閉した容器1が連通するようにする(すなわち、この時、弁13では、コンプレッサ7と濾液排出管4は連通していない)。次いで、コンプレッサ7から密閉した容器1へ加圧空気を供給して、濾過膜1次側を加圧して、濾過を実行する。濾過膜の差圧は、圧力計17,18から計測することができる。
【0041】
次に、所定の時間経過後、懸濁液排出工程を実行する。懸濁液排出工程では、前述のようにコンプレッサ7から密閉した容器1へ加圧空気を供給して、濾過膜1次側を加圧しながら、懸濁液供給兼排出ポンプ2で懸濁液を逆流させて、懸濁液を懸濁液供給元へ排出する。懸濁液排出工程を実行しながら濾過工程を継続すると、懸濁液の排出および濾過によって水位が下がり、この水位より上の濾過膜3a表面に付着した残渣は、空気に触れる状態で濾過が行われる。ここで、制御手段44は、所定の懸濁液排出水位速度になるように懸濁液供給兼排出ポンプ2を作動させる。このように、汚泥水面が濾過膜の上端から下端に移動する時間を制御することで、残渣の含水率を低減できる。懸濁液排出工程は、容器1内の懸濁液水位が水位計19の水位Lに到達した時、または、前記懸濁液排出水位速度と容器1の寸法に基づいて懸濁液排出終了時間を演算して、懸濁液供給兼排出ポンプ2が容器1から懸濁液の排出を終えたと推定される時に、懸濁液供給兼排出ポンプ2を停止し、弁8を閉じることで終了する。また、懸濁液排出工程の終了時をタイマーで設定してもよい。
【0042】
濾過工程および懸濁液排出工程を共に終了し、残渣剥離工程に移行するときには、弁10を閉じ、弁13の連通方向をコンプレッサ7と濾液排出管4が連通するようにし(すなわち、この時、弁13では、コンプレッサ7と密閉した容器1は連通していない)、さらに、弁16を開いて容器1内部を大気開放させる。すると、コンプレッサ7から供給された加圧空気が袋状の濾過膜を膨らませ、濾過膜の1次側に付着していた残渣が剥離して容器1の底に堆積する。
【0043】
このように、図3の濾過濃縮装置を用いると、図1,2の濾過濃縮装置に比べて、機器を簡素化できるため、製造コストおよびメンテナンス費用を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
懸濁液を濾過する分野で利用でき、特に、上下水道の浄化処理に関わる分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】濾過膜2次側を減圧する実施例1の濾過濃縮装置の構成図
【図2】濾過膜2次側を減圧する実施例2の濾過濃縮装置の構成図
【図3】濾過膜1次側を加圧する実施例3の濾過濃縮装置の構成図
【図4】本発明の懸濁液排出水位速度を逐次補正する場合の全体フロー図
【図5】本発明の懸濁液排出水位速度補正工程のフロー図
【図6】懸濁液排出水位速度と残渣濃度の関係を表すグラフ
【図7】懸濁液排出水位速度と、濾過膜各部位の残渣濃度の関係を表すグラフ
【図8】懸濁液水位移動時間と残渣濃度の関係を表すグラフ
【図9】懸濁液排出水位速度を逐次補正した結果
【符号の説明】
【0046】
1 容器
2 懸濁液供給兼排出ポンプ
3 濾過手段
3a 濾過膜
3b 濾枠
4 濾液排出管
5 貯留タンク
6 水供給管
7 コンプレッサ
8〜16 弁
17,18 圧力計
19 水位計
20 残渣検知計
21 液体ポンプ
38 空気分配管
39 残渣排出ポンプ
40 気体通流管
41 懸濁液供給兼排出管
42 残渣排出管
43,44 大気開放管
45 制御手段
48 残渣濃度計測手段(汚泥濃度計)
101 懸濁液供給手段兼懸濁液排出手段
102 残渣排出手段
103 第二濾液排出手段
104 第一濾液排出手段
105 残渣剥離手段
106 第三濾液排出手段兼残渣剥離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、前記容器内に設置した濾過膜と、濾過膜から前記容器の外に延設した濾液排出手段と、前記濾過膜の1次側と2次側に差圧を生じさせる差圧発生手段と、前記容器内に懸濁液を供給する懸濁液供給手段と、前記容器内の懸濁液を排出する懸濁液排出手段と、前記濾過膜に付着した残渣を前記濾過膜から剥離する残渣剥離手段と、剥離された前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出手段とを有する濾過濃縮装置において、
前記懸濁液排出手段は懸濁液排出水位速度を可変でき、前記懸濁液排出手段の懸濁液排出水位速度を可変制御する制御手段を備えることを特徴とする濾過濃縮装置。
【請求項2】
前記残渣の濃度を計測する残渣濃度計測手段と、過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を記憶する記憶手段とを備え、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶した過去の懸濁液排出水位速度および残渣濃度を基に、次回の懸濁液排出水位速度設定値を算出する補正手段を備え、次回の濾過バッチでは算出された懸濁液排出水位速度設定値で濾過濃縮装置を制御することを特徴とする請求項1に記載の濾過濃縮装置。
【請求項3】
容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、
前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行し、次いで、懸濁液排出水位速度補正工程を実行し、前記懸濁液排出水位速度補正工程終了後であり、かつ前記残渣排出工程を終了後、前記懸濁液供給工程に戻る事を繰り返すことを特徴とする濾過濃縮方法。
【請求項4】
容器に懸濁液を入れる懸濁液供給工程、前記懸濁液を濾過膜で濾過する濾過工程、前記濾過膜に付着した残渣を剥離する残渣剥離工程、剥離した前記残渣を前記容器外に排出する残渣排出工程をこの順で実行する濾過濃縮方法において、
前記濾過工程中から該濾過工程終了前までに、前記容器内の懸濁液を所定の懸濁液排出水位速度で排出する懸濁液排出工程を実行開始および終了し、前記濾過工程以降に残渣濃度計測工程を実行すると共に前記残渣剥離工程および前記残渣排出工程を終了するまでを1濾過バッチとして、その後、複数の異なった懸濁液排出水位速度で濾過バッチを実行して、各濾過バッチの懸濁液排出水位速度と残渣濃度を記憶する調査大工程を実行し、次いで、前記調査大工程で残渣濃度が最も高かった懸濁液排出水位速度条件で濾過を行う最適条件大工程を実行することを特徴とする濾過濃縮方法。
【請求項5】
前記懸濁液が浄水汚泥であって、濾過膜上端から濾過膜下端までの水面移動時間が3.5分以下となる懸濁液排出水位速度で実行することを特徴とする請求項3または4のいずれか一項に記載の濾過濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−212768(P2008−212768A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49477(P2007−49477)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】