説明

濾過精度可変型フィルタ

【課題】濾過精度を調節可能な濾過精度可変型フィルタを提供する。
【解決手段】円筒状をなす剛性を有するケーシング1の内周に、可撓壁としてゴム等からなる円筒状の内筒8が設けられており、この内筒8内に円柱状をなす収縮変形可能な濾材9が装填されている。内筒8は、端部8a,8bのみがケーシング1に固定され、周面はケーシング1に接合されておらず、両者の境界が加圧チャンバ10となっている。加圧チャンバ10内に作動流体を導入しない状態では、濾材9は円筒形に拡張しており、低い濾過精度となる。加圧チャンバ10内に切換弁14を介してポンプ13から作動流体を導入すると、濾材9が内筒8とともに糸巻き形に収縮変形し、その密度が高くなるので、濾過精度が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体(主に液体)の濾過のために種々の産業用途等に用いられるフィルタ、特に濾過精度の調節が可能な濾過精度可変型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
工場等において種々の流体の濾過のために用いられる産業用のフィルタは、例えば特許文献1や特許文献2に見られるように、一般に円筒状の体積濾過型フィルタとして構成され、その外周側から内周側へ、あるいは内周側から外周側へ流体を通流させる構成となっている。その濾材としては、繊維やパルプを所定形状に成形したもの、糸状の材料を巻回した糸巻き型のもの、ウレタン等の樹脂発泡体、など、フィルタの用途に応じて種々の形式のものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−8994号公報
【特許文献2】実開昭58−137406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の濾材の濾過精度は、フィルタの用途とりわけ除去すべき粒子ないし異物の大きさに応じて適切に選定されることになるが、いずれにせよ各々の濾過精度は固定的に定まっており、その調節はできない。従って、例えばある工程において濾過精度の変更が必要となったような場合に、現場での濾過精度の調節ができないことは勿論のこと、一般に工程毎に必要な濾過精度が種々異なるので、濾過精度の異なる多数のフィルタを用意する必要がある。
【0005】
また、流体を逆方向に流すことでフィルタの目詰まりを解消するいわゆる逆洗の手法が知られているが、逆洗時にも同じ濾過精度であると、効率的な逆洗は行えない。
【0006】
そこで、この発明は、濾過精度の調節が容易に可能な新規な濾過精度可変型フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る濾過精度可変型フィルタは、流体入口および流体出口を有するケーシングと、このケーシング内に設けられた復元性を有する収縮変形可能な濾材と、この濾材の流体流れ方向に沿った側面の少なくとも一部を構成する可撓性を有する可撓壁と、この可撓壁を上記流体流れ方向と交差する方向に押圧して上記濾材を収縮変形させる加圧手段と、を備えて構成されている。
【0008】
一つの具体的な態様では、上記可撓壁が上記濾材の外周を囲む筒状をなし、上記加圧手段がこの筒状の可撓壁を少なくとも2方向から内側へ加圧する。
【0009】
この場合、加圧手段としては、筒状の可撓壁を内側へ加圧する機械的な加圧機構あるいは流体を介した加圧機構などを用いることができる。例えば、上記ケーシングの内壁面と上記の筒状をなす可撓壁との間に加圧チャンバが形成されており、この加圧チャンバ内に流体を供給することで、可撓壁ひいては濾材を圧縮することができる。
【0010】
また、他の一つの態様では、上記濾材が円筒状に構成されており、上記可撓壁が該濾材の中心孔内に位置する有底円筒形をなす。そして、加圧手段として、この可撓壁内側に画成された加圧チャンバ内に流体を供給することで、該可撓壁がバルーン状に膨らみ、円筒状の濾材が内周側から外周側へ向かって加圧される。
【0011】
上記のように可撓性を有する可撓壁を介して流体流れ方向と交差する方向に濾材を加圧して収縮変形させると、濾材の密度が高くなり、より小さな粒子ないし異物がより高い割合で捕捉されることとなり、いわゆる濾過精度が高くなる。また、一旦濾過精度を高めた後も、加圧を解除すれば、収縮していた濾材は復元し、濾過精度は低くなる。加圧による濾材の収縮変形の程度によって濾過精度は連続的に変化し得る。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、フィルタの濾過精度を容易に調節することができ、工場等の現場での濾過精度の要求の変更に容易に対応できるとともに、基本的に同一の構成でもって濾過精度が種々異なるフィルタを提供することが可能となる。
【0013】
また逆洗を行うような態様で使用する場合に、濾過を行う際の濾過精度よりも逆洗時の濾過精度を低くして効率よく逆洗を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る濾過精度可変型フィルタの第1実施例を示す断面図。
【図2】この第1実施例の濾過精度を高めた状態を示す断面図。
【図3】濾過精度可変型フィルタの第2実施例を示す断面図。
【図4】この第2実施例の横断面図。
【図5】この第2実施例の濾過精度を高めた状態を示す断面図。
【図6】同じく濾過精度を高めた状態での横断面図。
【図7】濾過精度可変型フィルタの第3実施例を示す断面図。
【図8】この第3実施例の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、この発明に係る濾過精度可変型フィルタの第1実施例を示している。このフィルタは、種々の工場等において種々の液体の濾過に用いられるものであって、ケーシング1は、円筒状の外筒2と、その両端にそれぞれ固定された端板3,4と、から構成されている。これらのケーシング1を構成する各部は、硬質合成樹脂、例えばポリプロピレン、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂からそれぞれ成形されており、図下側の端板3の中心部には流体入口5が、図上側の端板4の中心部には流体出口6が、それぞれ形成されている。なお、これらの流体入口5および流体出口6は、外筒2の内径に対応して拡がっていく円錐形の空間部分に連通している。
【0017】
上記ケーシング1の内周には、可撓壁として同じく円筒状をなす内筒8が設けられており、この内筒8内に円柱状をなす濾材9が装填されている。上記内筒8は、可撓性ないし弾性を有する材料、例えばシリコーンゴムやフッ素ゴム等のゴム材料からなり、軸方向の各々の端部8a,8bが、ケーシング1の外筒2と端板3,4との間に挟持固定されている。また内筒8の外周面は、外筒2の内周面に接した状態となるが、両者は接合されておらず、両者の境界が加圧チャンバ10となっている。
【0018】
上記濾材9は、加圧することで収縮変形し、かつ加圧を解除すれば復元する復元性を有するものであれば、どのような材質ないし形式の濾材であってもよい。代表的なものとしては、適宜な繊維を集積して円柱形に成形したもの、あるいは発泡ウレタン等の発泡樹脂材料が用いられ得る。なお、実際の復元時には後述するように流体圧が復元方向に作用するので、自然に100パーセント復元し得るだけの復元性は必ずしも必要ではない。この円柱状の濾材9の外周面は、上記内筒8の内周面に、接着剤あるいは溶着等の手段によって接合されており、両者の境界面に沿った流体の流れ(短絡)が防止されている。
【0019】
上記外筒2には、上記加圧チャンバ10に連通する1つあるいは複数の連通口11が半径方向に貫通形成されている。この連通口11の位置は特に限定されるものではないが、例えば外筒2の軸方向長さの中間部に配置されている。そして、この連通口11には、作動流体通路12が接続されており、切換弁14を介してポンプ13に連通している。上記切換弁14は、上記連通口11と上記ポンプ13との間を開閉するとともに、上記連通口11をドレン通路15に連通可能な構成となっている。つまり、連通口11をポンプ13側もしくはドレン通路15側にそれぞれ連通させる2つの位置と、連通口11を閉状態に保つ中立位置と、を備えている。上記ポンプ13によって送り込まれる作動流体としては、気体であってもよいが、一般的には非圧縮性の液体が好ましく、水、オイル等、適宜な液体が用いられる。なお、外筒2に連通口11を複数個設け、一部を作動流体導入口とし、残部を作動流体排出口として構成してもよい。
【0020】
上記のような構成においては、加圧チャンバ10内に作動流体を導入していない状態では、図1に示すように、濾材9がケーシング1内で最大限に拡張しており、矢印Lのように流体入口5から流体出口6へ向かって流れる液体に対する濾過精度は、最も低い状態となる。
【0021】
これに対し、図2は、ポンプ13によって切換弁14を介して加圧チャンバ10内に作動流体を加圧供給した状態を示しており、加圧チャンバ10内に導入された作動流体によって濾材9が内筒8とともに全周で半径方向内側へ加圧される。これにより、両端部8a,8bが固定された内筒8およびその内側の濾材9は、軸方向の中間部が細くなったいわゆる糸巻き形に収縮変形する。つまり、矢印Lで示す液体の流れ方向と概ね直交する方向に沿って濾材9が押圧されて収縮変形し、その断面の縮小に伴って密度が高くなるので、濾過精度が高くなる。このような濾過精度の変化は、濾材9の縮小の程度に応じたものとなるので、加圧チャンバ10内に導入する作動流体の量によって濾過精度を連続的に調節することが可能である。
【0022】
また、上記のように糸巻き形に変形することで、流体入口5に近い部分での局部的な濾過精度はあまり変化せず、軸方向の中間部における局部的な濾過精度が高くなるので、濾過精度に勾配が生じる。このように流体流れ方向に沿って濾過精度が徐々に高くなる濾過精度の勾配は、目詰まりを抑制してフィルタ(濾材9)の長寿化を図る上で有利である。なお、このような作用の上では、軸方向における濾過精度が最も高くなる位置(つまり断面が最も小となる位置)がなるべく下流側であることが有利であるので、図2に示す糸巻き形の変形が上下非対称に生じるようにして、軸方向の中央よりも下流側の位置で断面が最も小となるように構成してもよい。これは、例えば内筒8の肉厚を予め不均一に設定して、加圧チャンバ10の圧力上昇に対し非対称の変形が生じるようにする、などによって実現可能である。
【0023】
また、図2のように収縮変形した状態から加圧チャンバ10内の作動流体を切換弁14を介して排出すれば、再び図1の状態に濾材9が復元し、濾過精度が低くなる。このとき、濾材9は、それ自身の復元力でもって復元しようとするほか、流体入口5から液体が導入されることで内部の圧力が上昇するため、内筒8が半径方向外側へ付勢されて、確実かつ速やかに復元する。
【0024】
このように上記実施例では、加圧チャンバ10内への作動流体の導入の調節によってフィルタとしての濾過精度を可変設定することができ、例えば、ある工程において濾過精度の変更が必要になったような場合に、フィルタを脱着することなく容易に濾過精度を調節することが可能となる。また、濾過精度の異なる多種のフィルタを準備する必要もなくなる。
【0025】
また、逆洗を行うような態様で使用する場合には、通常の濾過時に濾材9を図2のようにある程度収縮変形させた状態でもって所定の濾過精度として用い、かつ逆洗時に図1のように濾材9を拡張させることで相対的に濾過精度を下げることができ、効率よく逆洗を行うことが可能となる。
【0026】
なお、上記実施例では、フィルタの使用中にポンプ13や切換弁14が接続された状態のままであるものとして説明したが、この発明はこれに限らず、図2のように加圧チャンバ10内に適宜な量の作動流体を充填して濾過精度を所望の値に調節した後に、外筒2の連通口11をプラグ等によって封止し、作動流体通路12から取り外した状態でフィルタを使用するように構成することもできる。
【0027】
次に図3〜図6は、この発明の第2実施例を示している。この第2実施例は、上記第1実施例と類似した基本構成を有し、その内筒8および濾材9を液圧ではなく機械的に押圧するものである。
【0028】
すなわち、このフィルタは、円筒状の外筒2および端板3,4からなるケーシング1と、このケーシング1に両端部8a,8bが固定されたゴム材料等からなる円筒状の内筒8と、この内筒8内に装填された収縮変形可能な濾材9と、を有しているが、上記外筒2は、互いに対向する2箇所が開口し、ここに一対の加圧部材21,22が配置されている。これらの加圧部材21,22は、例えばケーシング1と同様の硬質合成樹脂成形品からなり、図4に示すようにそれぞれ矩形をなし、かつ内筒8を両側から挟むように互いに対向して配置されている。そして、これらの加圧部材21,22は、図示せぬ適宜なアクチュエータに連係しており、内筒8の半径方向に沿って互いに対称に前後進し、図5,6に示すように、必要に応じて内筒8中央部を2方向から加圧することができるようになっている。
【0029】
この第2実施例の場合、加圧時に、加圧方向に沿った断面で見ると図5のような糸巻き形となり、かつ中央部の横断面形状としては図6のような偏平形状となるが、やはり流れ方向の中央部で断面が縮小することで密度が高くなり、濾過精度が高くなる。なお、前述した濾過精度の勾配を考慮して、加圧部材21,22を設ける位置を軸方向の中央部ではなく流体出口6寄りに片寄った位置としてもよい。
【0030】
また図示例では、内筒8およびその中の濾材9が円筒形ないし円柱形をなしているが、上記加圧部材21,22に対応して、内筒8およびその中の濾材9を断面矩形の角筒形ないし角柱形としてもよい。
【0031】
次に、図7および図8は、この発明の第3実施例を示している。この第3実施例においては、外筒32と端板33,34とからなる円筒状のケーシング31内に、円筒状をなす濾材39が装填されている。この濾材39の形状に対応して、図下側の端板33には、周方向に並んで配列された複数個の流体入口35が設けられているが、図上側の端板34は、中心に単一の流体出口36を有している。従って、各流体入口35から流入した液体は、矢印Lで示すように、濾材39内を軸方向に流れ、かつドーム形状をなす端板34内部で合流して中心の流体出口36へと流れる。なお、ケーシング31や濾材39の材質としては、前述した第1実施例と同様であり、濾材39の外周面は外筒32の内周面に接着剤や溶着等の手段によって接合されている。
【0032】
この実施例では、可撓壁となる円筒形の内筒38が上記の円筒状の濾材39の中心孔に嵌合しており、この内筒38の外周面と上記濾材39の内周面とが、やはり接着剤や溶着等の手段によって互いに接合されている。上記内筒38は、前述した実施例と同様に、可撓性ないし弾性を有する材料、例えばシリコーンゴムやフッ素ゴム等のゴム材料から構成されているが、下流側の端部38aが丸いドーム形に封止されたいわゆる有底円筒形をなし、かつ上流側の端部38bは端板33の中心の円柱形の突起部33aに固定されている。これにより、内筒38内部の空間が加圧チャンバ40を構成している。
【0033】
上記突起部33aには、軸方向に沿った連通口41が貫通形成されており、内筒38内部の加圧チャンバ40に連通している。この連通口41には、図示していないが、前述した第1実施例と同様に、作動流体を加圧して導入するためのポンプ13が切換弁14を介して接続される。
【0034】
このような第3実施例においては、加圧チャンバ40内に作動流体を導入していない状態では、円筒状に形成された濾材39が図7のように初期の形状を保っている。従って、比較的低い濾過精度となる。そして、内筒38内部の加圧チャンバ40にポンプ13によって作動流体を導入すると、内筒38が図8に示すようにバルーン状に膨らみ、濾材39を内側から半径方向外側へ押圧する。これにより、濾材39の断面が縮小し、第1,第2実施例と同様に濾過精度が高くなる。
【0035】
なお、この第3実施例においても、作動流体を導入して適宜な濾過精度に調節した後に連通口41をプラグ等で封止して、フィルタ単独で用いることが可能である。
【0036】
以上、この発明のいくつかの実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されることなく、種々の変更が可能である。上記各実施例では、濾過される流体として液体を対象としているが、気体の濾過についても、本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0037】
1,31…ケーシング
2,32…外筒
8,38…内筒
9,39…濾材
10,40…加圧チャンバ
11,41…連通口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体入口および流体出口を有するケーシングと、
このケーシング内に設けられた復元性を有する収縮変形可能な濾材と、
この濾材の流体流れ方向に沿った側面の少なくとも一部を構成する可撓性を有する可撓壁と、
この可撓壁を上記流体流れ方向と交差する方向に押圧して上記濾材を収縮変形させる加圧手段と、
を備えてなる濾過精度可変型フィルタ。
【請求項2】
上記可撓壁が上記濾材の外周を囲む筒状をなし、上記加圧手段がこの筒状の可撓壁を少なくとも2方向から内側へ加圧することを特徴とする請求項1に記載の濾過精度可変型フィルタ。
【請求項3】
上記加圧手段として、上記ケーシングの内壁面と上記の筒状をなす可撓壁との間に加圧チャンバが形成されており、この加圧チャンバ内に流体を供給することを特徴とする請求項2に記載の濾過精度可変型フィルタ。
【請求項4】
上記濾材が円筒状に構成されているとともに、上記可撓壁が該濾材の中心孔内に位置する有底円筒形をなし、上記加圧手段として、この可撓壁内側に画成された加圧チャンバ内に流体を供給してバルーン状に膨らませることを特徴とする請求項1に記載の濾過精度可変型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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