説明

濾過膜の目詰まり速度の予測方法、及び濾過システム

【課題】海水、排水、バラスト水等のゼリー状の濁質成分を含む被処理水の膜濾過において、被処理水に関する測定を行い、その測定値に基づいて膜の目詰まりが生じる処理量又は運転時間の予測を可能にする膜目詰まり速度の予測方法、及びその予測方法を行うことができる濾過システムを提供する。
【解決手段】膜濾過において、海水等の被処理水中の糖量を測定し、その測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出することを特徴とする濾過膜の目詰まり速度の予測方法、特に糖量の測定が、濃縮した被処理水の液体クロマトグラフィーによる方法、及びその予測方法を行うことができる濾過システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水等の膜濾過おいて、被処理水に関する測定値に基づいて濾過膜の洗浄が必要となる時期の予測を可能にする濾過膜の目詰まり速度の予測方法、及びその予測方法を行うことができる濾過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化や排水処理等においては、海水、排水、バラスト水等の被処理水中に含まれる濁質成分を除去するため、中空糸やメンブレンなどの濾過膜を用いた膜濾過が広く行われている。膜濾過の運転中には、濁質成分により濾過膜の孔が目詰まりし、経時的に処理流量の低下や濾過圧の増大が生じる。
【0003】
特に、海水中にはプランクトンや微生物が細胞外に分泌するTEP(transparent exopolymer particles:透明細胞外高分子粒子)と呼ばれるゼリー状の粘着性物質が1〜数ppm程度含まれ、これが濾過膜の表面や孔内に粘着して広がり孔を目詰まり(ファウリング)させ、処理流量の低下(濾過圧の増大)を生じさせる場合も多い。そこで、運転中の所定の時期に、孔の目詰まりを解消し処理流量や濾過圧を回復するために、濾過膜の洗浄が必要である。
【0004】
濾過膜の洗浄の方法としては、洗浄水を被処理水の流れとは逆方向に流す通水逆洗等を挙げることができる。又、薬液を注入して膜を洗浄する方法(薬液洗浄)や、濾過膜を手もみして洗浄する方法、濾過時の液体の流れとは逆方向に気体を濾過膜に通して洗浄する方法(エアー逆洗)、膜に超音波を印加して洗浄する方法(超音波洗浄)等の物理的洗浄等も採用される。洗浄効率をさらに高めるためにこれらを組合せた洗浄方法も知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、「中空糸膜利用の濾過器モジュールに機械的な振動を与えつつ、該濾過器モジュールに逆洗水を流してモジュール内の水を揺動し、濾過面に付着した堆積物を剥離させ、系外に流出させるに際し、逆洗水の給排水を適宜切り換えて、モジュール内の水位を中空糸束に沿って変化させることを特徴とする濾過器モジュールの再生方法」(請求項1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−332357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
濾過膜の洗浄の時期は、運転中に処理流量や濾過圧の測定を行い、処理流量低下又は濾過圧の増大が所定の値を超えた段階で行うように管理することもできる。しかし、処理流量の低下又は濾過圧の増大が所定の値となる処理量(処理流量の積算値)又は運転時間が予測できれば、その予測される処理量となる時期又は運転時間に、自動的に洗浄を行う方法も考えられる。この方法によれば、運転中での洗浄の管理をより容易にすることができる。
【0008】
しかし、処理流量の低下又は濾過圧の増大が所定の値となる(すなわち被処理水中の濁質による膜の目詰まりが生じる)処理量又は運転時間は、被処理水中の濁質の量により変動する。そして、被処理水特に海水中の膜を目詰まりさせる濁質の量は、地域や季節によって大きく異なる。そこで、被処理水中の濁質の量を測定する方法が望まれるが、その濁質の量を正確に測定する方法は見出されていなかった。その結果、被処理水に関する測定により膜の目詰まりが生じる処理量又は運転時間を予測することは困難であるとの問題があった。
【0009】
本発明は、海水、排水、バラスト水等のゼリー状の濁質成分を含む被処理水の膜濾過において、被処理水に関する測定を行い、その測定値に基づいて膜の目詰まりが生じる処理量又は運転時間の予測を可能にする、膜目詰まり速度の予測方法、及びその予測方法を行うことができる濾過システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、被処理水中の糖量を測定する方法を開発し、この方法により測定された糖量と、濾過膜の目詰まりが生じる処理量又は運転時間との間に強い相関があることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、膜濾過において、被処理水中の糖量を測定し、その測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出することを特徴とする濾過膜の目詰まり速度の予測方法である。
【0012】
ここで、濾過膜の目詰まり速度とは、膜濾過の運転開始後又は濾過膜の洗浄後、次の洗浄が必要となるまでの間における処理流量の積算値又は運転時間の逆数を言う。具体的には、膜濾過の運転開始後又は濾過膜の洗浄後、再度、処理流束の低下又は濾過圧の増大が所定の値を超えるまでの処理流量の積算値又は運転時間の逆数を意味する。なお、膜の目詰まり速度は、本来は、処理流量の積算値の逆数で表わされるが、次の洗浄までの間の処理流束の変動に大きな差異がない場合は、次の洗浄が必要となるまでの時間は常に一定であるので、その時間の逆数で表わすこともできる。
【0013】
本発明の方法は、濾過膜の目詰まり速度を、被処理水中の糖量の測定値から算出することを特徴とする。本発明者の検討により、被処理水中の糖量の測定値と濾過膜の目詰まり速度は強い相関があることが見出された。すなわち、被処理水中の糖量の測定値が大きいほど濾過膜の目詰まり速度が大きい(目詰まりするまでの時間等が短い)。従って、本発明の方法により、濾過膜の目詰まり速度、すなわち次の洗浄が必要となる時期が予測可能となる。
【0014】
海水、排水、バラスト水中の濁質には、TEP以外にもプランクトン、砂などの無機濁質、たんぱく質などの有機濁質などがある。中でもTEPは、重量測定やTOC測定などでは検出困難な極微量でも、膨潤し膜面を覆うことで急速な目詰まりを引き起こすと考えられていた。そこで、被処理水中のTEP除去が望まれていたが、TEP量を測定することができなかったためTEP除去の研究が非常に難しかった。本発明者は、TEPは大部分が糖類であると言われている点に着目し、糖分析を行うことでTEP量の予測が可能になり、そして、目詰まりの原因が主にTEPである場合(例えば、目詰まりの原因が主にTEPである濾過膜を使用する場合)は、被処理水中の糖量の測定値に基づき目詰まり速度を予測することができると考え検討した。その結果、被処理水中の糖量の測定値と濾過膜の目詰まり速度は強い相関があることを見出したのである。
【0015】
請求項2に記載の発明は、被処理水が海水であることを特徴とする請求項1に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法である。
【0016】
本発明の方法は、海水、排水、バラスト水等のようなTEP等のゼリー状の濁質成分を含む被処理水の膜濾過において好適に適用されるが、濾過膜の目詰まりの原因が主にTEPにあると言われている海水の膜濾過において特に有効であり好適に適用される。ここで海水とは、海から直接採取する水のみではなく、バラスト水等の海水をそのまま利用した水も含む意味である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、糖量の測定が、濃縮した被処理水の液体クロマトグラフィーによることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法である。
【0018】
糖量の測定方法としては、被処理水を濃縮し、得られた濃縮サンプルを液体クロマトグラフィー、特にイオンクロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムの糖のピーク強度に基づいて定量する方法を挙げることができる。被処理水の濃縮は、被処理水中の水分の留去や被処理水を凍結乾燥した後の残渣を、少量の純水で再溶解する方法等により行うことができる。
【0019】
イオンクロマトグラフィーによる場合は、液体クロマトグラフィーでの定量に供せられる前に、被処理水中の多糖類を単糖類に変えるための加水分解が行われる。又、他の前処理として、被処理水中の濁質を除去するために濾過や遠心分離、被処理水中に溶解しているイオンを除去するためのイオン交換樹脂による処理等が行われる場合もある。
【0020】
陰イオン交換樹脂を用いたイオンクロマトグラフィーの場合は、移動相としては、水酸化ナトリウム溶液等を挙げることができる。検出器としては、示唆屈折計等も挙げることができるが、イオンクロマトグラフィーによる場合は、電気化学検出器が好ましく用いられる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、糖量の測定が、イオンクロマトグラフィーによる、ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースの量の測定であることを特徴とする請求項3に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法である。
【0022】
本発明者は、これまで分析した海水では、その中に含まれる糖(多糖類)は、ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースから形成されていることを見出した。この場合、イオンクロマトグラフィー分析において液体クロマトグラフィーでの定量に供せられる前に行われる加水分解により、海水中に含まれる糖は、ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースに変化する。そこで、前記加水分解を行いイオンクロマトグラフィーにより測定したこれらの糖の量の合計を、本発明の方法における糖量の測定値とすることができることを見出し請求項4に記載の発明を完成したのである。
【0023】
請求項5に記載の発明は、被処理水の膜濾過装置、被処理水中の糖量の測定手段、前記測定手段による糖量の測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出する目詰まり速度予測手段、及び濾過膜洗浄手段を有することを特徴とする濾過システムである。
【0024】
この発明を構成する被処理水の膜濾過装置としては、海水淡水化や排水処理等において、海水、排水、バラスト水等の被処理水中に含まれる濁質成分を除去するために使用されている従来の膜濾過装置と同様なものを挙げることができ、例えば、中空糸やメンブレンなどの濾過膜を用いた膜濾過装置を挙げることができる。又、濾過膜洗浄手段も、前記のような従来の膜濾過装置に設けられているものを使用することができる。
【0025】
被処理水中の糖量の測定手段及び目詰まり速度予測手段は、それぞれ、糖量の測定方法及び目詰まり速度の予測方法を実施する手段である。これらの手段は、請求項1〜4に関して説明した糖量の測定方法及び目詰まり速度の予測を行うことができる手段であればよく、特に限定されない。又、複数工程からなる方法を実行するシステムも、この手段に含まれる。例えば、海水をサンプリングする工程、サンプリングした海水を前処理する工程、イオンクロマトグラフィーの測定を行う工程、及びイオンクロマトグラフィーの測定値をデータ処理し、ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースの量の合計を算出する工程からなる糖量の測定システムも被処理水中の糖量の測定手段である。
【0026】
請求項5に記載の濾過システムは、被処理水中の、糖量の測定や目詰まり速度の予測(すなわち本発明の方法)を実施し、その予測結果に基づいて、濾過膜の洗浄の時期を判断し、濾過膜洗浄手段により洗浄を行う。従って、目詰まりによる流束の大きな低下を防ぎ、安定的に濾過を行うことができる。なお、「予測結果に基づいて、濾過膜の洗浄の時期を判断」とは、膜濾過実施中、必ずしも常に糖量の測定や目詰まり速度の予測をすることを意味しない。濾過膜の開始時において、糖量の測定や目詰まり速度の予測を行い、そのデータを濾過システムに設置することができる管理手段に入力し、最初の予測後は、糖量の測定や目詰まり速度の予測を行わず、前記データのみに基づいて濾過膜の洗浄の時期の判断を行う場合も含む意味である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の濾過膜の目詰まり速度の予測方法によれば、被処理水中の糖量の測定値に基づき、膜濾過の運転開始後又は濾過膜の洗浄後、濁質による濾過膜の目詰まりが生じ次の膜の洗浄が必要となるまでの間の処理流量の積算値又は運転時間を予測することができ、従って次の洗浄が必要となる時期を予測できるので、膜濾過の運転の管理が容易になる。又、本発明の濾過システムによれば、濾過の洗浄が必要となる時期を高い精度で予測できるので、目詰まりによる流束の大きな低下を防ぎ、安定的に濾過を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用される膜濾過装置の内部構造を示す模式図である。
【図2】実施例の膜濾過における「流束/初期流束」の時間変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態へ変更することができる。
【0030】
本発明が適用される膜濾過は、濾過膜を備えるモジュールを使用した膜濾過装置により行うことができる。この膜濾過装置は、モジュールとともに濾過膜の洗浄手段を有する。図1は、本発明が適用される膜濾過装置の一例の内部構造を模式的に示す図である。図1の膜濾過装置は、筒状のケースの中心部にモジュールを備え、このモジュール内に濾過膜としての中空糸膜が複数束ねられた中空糸束(図示されていない)が収容されている。なお、濾過膜の形態は中空糸膜に限定されずメンブレン等の形態も挙げることができるが、より広い膜面積により処理量を増大させるためには中空糸膜が好ましい。
【0031】
図1の膜濾過装置は、さらに、濾過膜の洗浄手段として3本のシャワー装置を備え、又図示されていないが、被処理水を供給する手段及び被処理水の流れとは逆の方向から洗浄水を供給する手段を備えている。各シャワー装置は、複数(図中では4つ)のノズルを有し、このノズルから、モジュールすなわち中空糸束の表面にシャワーが吹きつけられ膜の洗浄が行われる。
【0032】
従って、図1の膜濾過装置は、本発明の濾過システムにおける被処理水の膜濾過装置、及び濾過膜洗浄手段を有している。本発明の濾過システムはさらに被処理水中の糖量の測定手段、前記測定手段による糖量の測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出する目詰まり速度予測手段を有する。
【0033】
海水等の膜濾過を行う場合、海水等の被処理水は筒状のケースとモジュール間に供給され、中空糸膜を通ってモジュール内(中空糸内)から処理液として装置外に排出される。中空糸膜を通る際にTEP等の濁質成分の除去が行われる。この際に、濁質成分による中空糸膜の目詰まりが生じ、処理流量が低下し濾過圧(差圧)が増大する。
【0034】
そこで、処理流量(又は濾過圧)を回復するために、中空糸膜の洗浄が行われるが、本発明の方法によれば、被処理水中の糖量の測定値に基づき、次の中空糸膜の洗浄が必要となる時期を予測することができる。中空糸膜の洗浄により、処理流量の回復、差圧の低下が達成され、その後前記と同様にして被処理水の通液が再開される。
【0035】
TEPのようなゼリー状の濁質成分を含む被処理水の膜濾過では、疎水性の材質からなり、比較的大きい孔径を有する疎水性濾過膜を用いた場合、目詰まりが小さい傾向が見られる。比較的大きい孔径、具体的には1μm程度又はより大きい孔径を有する疎水性濾過膜は、ゼリー状の濁質成分がその表面に粘着しにくく、目詰まりしにくいためと考えられる。又、TEPは1〜200μm程度の粒径の変形するゼリー状の粒子であるため、これを含む被処理水の膜濾過では、ゼリー状の濁質成分が膜表面や孔内に粘着して広がり孔をファウリング(目詰まり)させやすいが、比較的大きい孔径を有する疎水性濾過膜は、膜内部にTEPを引き込んで分離するためと考えられる。又、その結果、膜表面で濁質カットをする膜では十分に除去できないTEPを効率よく除去することができる。
【0036】
ここで疎水性濾過膜とは、より具体的には、疎水性の高分子材料からなり、親水化加工(疎水性の高分子中への親水基の導入等)が施されていない膜であって、濾過膜として使用できるように均一な径の孔を有する膜を言う。疎水性濾過膜を構成する疎水性の高分子材料としては、フッ素樹脂やポリオレフィンを挙げることができる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を挙げることができ、ポリオレフィンとしては、ポリエチレンや他のポリ−α−オレフィンを挙げることができる。これらの中でも、フッ素樹脂又はポリエチレンからなる膜が、耐薬品性や機械的強度に優れているので、本発明において疎水性濾過膜として好適に用いられる。
【実施例】
【0037】
膜濾過1
海水(清水海水)について、目開き2μmの金網で濾過した後、以下に示す仕様であって図1で表わすことができる構造の膜濾過装置を用いての膜濾過を行った(2段濾過)。そのときの「流束/初期流束」の時間変化を図2に示す。
【0038】
[仕様]
モジュールの直径:40mm
モジュール中の中空糸膜:10本
モジュールの長さ:40cm
中空糸膜:住友電工ファインポリマー社製ポアフロン(PTFE)、
径:2.3mm、孔径:0.1μm(MF膜)
【0039】
膜濾過2
目開き2μmの金網での濾過の代わりに、以下に示す仕様であって図1で表わすことができる構造の膜濾過装置を用いての膜濾過を行った以外は、膜濾過1と同様にして2段濾過を行った。そのときの「流束/初期流束」の時間変化を図2に示す。
【0040】
[仕様]
モジュールの直径:40mm
モジュール中の中空糸膜:10本
モジュールの長さ:40cm
中空糸膜:住友電工ファインポリマー社製ポアフロン(PTFE)、
径:2.3mm、孔径:2μm
【0041】
膜濾過3
孔径2μmの中空糸膜の代わりに、住友電工ファインポリマー社製の親水ポアフロン
(親水基を、膜を構成する高分子表面に導入したポアフロン)からなる中空糸膜(径:2.3mm、孔径:2μm)を用いた以外は、膜濾過2と同様にして2段濾過を行った。そのときの「流束/初期流束」の時間変化を図2に示す。
【0042】
膜濾過4
目開き2μmの金網での濾過を行わなかった以外は、膜濾過1と同様にして濾過を行った。そのときの「流束/初期流束」の時間変化を図2に示す。
【0043】
膜濾過1〜4での2段目のMF膜による膜濾過に供せられた処理水(膜濾過1〜3では、1段目の濾過後の処理水、膜濾過4では海水。以下「試料」と言う。)中の糖量を以下に示す分析試験方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
(分析試験方法)
1.試料の濃縮
膜濾過1〜4のそれぞれの試料100mLを凍結乾燥した後、純水を用いて洗い込み正確に10mLとし濃縮試料を得た。
【0045】
2.糖分析
(1)試料溶液の調整
1.にて調整した濃縮試料1mLと4mol/Lトリフルオロ酢酸1mLを混合し、減圧封管後、100℃で3時間加熱し、加水分解(多糖類→単糖類)を行った。
【0046】
室温まで放冷後、遠心エバポレーターにて溶媒を留去した。残渣に水1mLを正確に加えて、分散、溶解を促進するため超音波を照射した。得られた溶液を、イオン交換樹脂(AG4−X4)入りフィルターユニット(孔径:0.45μm)に入れ、1分間遠心分離(10,000rpm)を行い試料溶液とした。
【0047】
以下、膜濾過1での試料を「金網透過水」、膜濾過2での試料を「疎水性膜透過水」、膜濾過3での試料を「親水性膜透過水」、膜濾過3での試料を「海水」と表わす。
【0048】
(2)標準溶液の調製
ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースのそれぞれ約10mgに水を加えて正確に50mLとした。この溶液5mLを正確にとり、水を加えて正確に50mLとし、標準原液とした。標準原液を水で正確に希釈し、標準溶液1(各約0.2μg/mL)、標準溶液2(各約1μg/mL)、標準溶液3(各約5μg/mL)を調製した。
【0049】
(3)糖の定量
それぞれの試料溶液、標準溶液1〜3、及び試料溶液と標準溶液1〜3のそれぞれを混合した溶液について、以下に示す測定条件にてイオンクロマトグラフィーの分析を行い、各試料溶液中の糖の同定及び定量を実施した。その定量結果を、表1に示す。
【0050】
(測定条件)
糖分析計:日本ダイオネクス社製 ICS−3000
検出器:電気化学検出器
カラム:CarboPac PA10(4mmI.D.×250mm)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相A:10mmol/L 水酸化ナトリウム溶液
移動層B:200mmol/L 水酸化ナトリウム溶液
注入量:25μL、流量:1mL
・グラジエント条件:移動相Aを40分→移動相Bを10分→移動相Aを10分
【0051】
【表1】

【0052】
表1中の「合計」とは、ラムノース量、ガラクトース量、グルコース量、マンノース量の測定値の合計量である。又、「糖の除去率」とは、この合計量についての、「海水」に対する減少率を表わす。表1から明らかなように、疎水性膜透過水は、親水性膜透過水や金網透過水に比べて、糖量測定値(合計量)が小さく、糖の除去率が大きい(疎水性膜により糖がよく除去されている)ことが示されている。
【0053】
又、図2より、疎水性濾過膜により一段目の濾過を行った膜濾過2(疎水性膜透過水の濾過)では、親水性濾過膜により一段目の濾過を行った膜濾過3(親水性膜透過水の濾過)や金網により一段目の濾過を行った膜濾過1(金網透過水の濾過)に比べて、運転中の流束の低下が小さいこと、従って、濾過膜の目詰まり速度が小さく、洗浄頻度が小さくてよいことが示されている。すなわち、表1の結果及び図2の結果より、糖の含有量(糖量)と濾過膜の目詰まり速度は大きな相関があり、糖量の測定により、濾過膜の目詰まり速度が予測できることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜濾過において、被処理水中の糖量を測定し、その測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出することを特徴とする濾過膜の目詰まり速度の予測方法。
【請求項2】
被処理水が海水であることを特徴とする請求項1に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法。
【請求項3】
糖量の測定が、濃縮した被処理水の液体クロマトグラフィーによることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法。
【請求項4】
糖量の測定が、イオンクロマトグラフィーによる、ラムノース、ガラクトース、グルコース及びマンノースの量の測定であることを特徴とする請求項3に記載の濾過膜の目詰まり速度の予測方法。
【請求項5】
被処理水の膜濾過装置、被処理水中の糖量の測定手段、前記測定手段による糖量の測定値から濾過膜の目詰まり速度を算出する目詰まり速度予測手段、及び濾過膜洗浄手段を有することを特徴とする濾過システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−250180(P2012−250180A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124984(P2011−124984)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】