説明

濾過膜モジュールの濾過水量調整方法

【課題】 既に使用に供されている濾過膜モジュールと更新された濾過膜モジュールを混在運転する場合に、更新された濾過膜モジュールの濾過水量を許容濾過水量以下に調整できる水量調整方法の提供。
【解決手段】 濾過膜モジュールが複数本配設されてなる膜濾過装置において、該モジュールの一部を更新して運転するに際し、濾過水出口ノズルから濾過水集合配管までの間にオリフィスを挿入し、濾過水量を許容濾過水量以下に調整することを特徴とする濾過水量調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濾過膜モジュールの濾過水量の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濾過膜モジュールは寿命を迎えた時点、あるいは寿命実績や予想寿命をもとに寿命になる前で一斉に更新されるのが一般的であるが、濾過膜モジュールの欠陥や誤操作、誤動作等で一部の濾過膜モジュールにリークやケース破損が起きたり、濾過水量が減少した場合等においては、使用に供された濾過膜モジュールの一部のみを更新し運転を継続する。このような場合、濾過膜モジュールが最少単位の1本からなる場合を除き、既に使用に供されたモジュールと更新したモジュールとが混在する中で運転されることになる。既に使用に供されたモジュールと更新したモジュールの本数比や既に使用に供されたモジュールの濾過能力低下の度合いにもよるが、更新したモジュールの濾過水量が過大となり、濾過膜モジュール破損の危険が生じる。特に中空糸型モジュールは多数本の中空糸膜を結束しケースに収納後、ケースとの間及び中空糸膜間を接着剤で固定し、接着端部を切断することにより両端を開口させてモジュール化される。
【0003】
しかしながら、構造的に接着界面の強度が弱いという側面があり、原水を循環する場合等のショックに対する注意が必要であるばかりでなく、濾過水が濾過水出口ノズルに導出される際の水流により膜に対して垂直方向の力が働き、水流即ち水量によっては膜の破損が起き易くなるので上限濾過圧力や上限使用温度等とともに許容される最大濾過水量がモジュール種毎に規定されている。
【0004】
ところで医薬用水の製造に用いられる場合は原水が清澄な水であるため、濾過水量が本来濾過膜モジュールの有する透水性能と同等であり、濾過圧力(膜間差圧)を高く設定した場合には濾過圧力に比例して濾過水量が増加するので、許容される最大濾過水量を越えないようにする必要がある。また、濾過水量は温度にも依存するので、原水が加温され温度が高い場合にも同様の配慮が必要である。
【0005】
濾過水量を調整する方法として特開昭60−129106号公報(特許文献1)では濾過水取り出し配管に定流量弁を設置し、濾過水量を一定に保つ方法が開示されている。しかしながら医薬用水製造に用いられる膜濾過装置にあっては、濾過水側にデッドスペースができないよう単純な配管構造にすることが求められる。また、各々の濾過膜モジュールの濾過水出口配管への弁の設置はもちろんのこと、全体流量を監視する流量計や各々の濾過膜モジュールの濾過水量を測定する個別の流量計等を設置しないのが常であり、通常、原水供給流量計と原水出口流量計の流量の差をもって濾過膜モジュール全体の濾過水量が把握される。したがって、濾過膜モジュールの個別の濾過水量管理は成り行きとなっているのが現状である。
【0006】
そこで、更新した濾過膜モジュールの濾過水量を許容される最大濾過水量以下に管理するには、モジュールの透水性能から計算される濾過圧力以下で運転する方法や、濾過圧力を濾過膜モジュールの最大使用圧力に設定し、同様の計算により濾過水側に背圧をかけて濾過水量を調整する方法等も採り得るが、これらの方法では既に使用に供され濾過水量が低下しているモジュールの濾過水量をさらに減じることになり効率が悪い。こうした事情から既に使用に供された濾過膜モジュールの濾過水量を維持しつつ、更新した濾過膜モジュールの濾過水量を許容範囲以下に管理するための調整方法が望まれている。
【特許文献1】特開昭60−129106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、既に使用に供されている濾過膜モジュールと更新された濾過膜モジュールが混在する膜濾過装置を運転する場合に、更新された濾過膜モジュールの濾過水量が許容濾過水量以上にならないように簡単に調整可能な濾過水量調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
1.濾過膜モジュールが複数本配設されてなる膜濾過装置において、該モジュールの一部を更新して運転するに際し、濾過水出口ノズルから濾過水集合配管までの間にオリフィスを挿入し、濾過水量を許容濾過水量以下に調整することを特徴とする濾過水量調整方法。
2.濾過膜モジュールが中空糸型モジュールであることを特徴とする1.に記載の濾過水量調整方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の濾過水量調整方法に依れば、既に使用に供されているモジュールと更新されたモジュールが混在する場合でも、既に使用に供されているモジュールの濾過水量を減少させることなく、更新されたモジュールの濾過水量を許容濾過水量以下に調整することができ、更新した濾過膜モジュールのリークの予防等に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の濾過水量を調整するためのオリフィスの穴径は計算で求めることも可能であるが、事前に濾過膜モジュールを用いて濾過圧力及びオリフィスの穴径と濾過水量の関係を実測しておくことが好ましい。また、既に使用に供されたモジュールのその時点での濾過性能、引き続き使用する本数と更新するモジュールの透水性能、及び更新本数とから所定の濾過水量を得るための予想濾過圧力を算出し、この濾過圧力で運転した場合でも更新した濾過膜モジュールの濾過水量が許容濾過水量以下に抑えられる穴の径を選定することが好ましい。なお、オリフィスは着脱可能であり濾過水量の経時低下が大きい場合等には状況に応じて途中で穴径の違うものに変更することができる。
【0011】
次にオリフィスの設置位置は濾過膜モジュールの濾過水出口ノズルから濾過水集合配管までの間であればどこでも良く、横方向の配管中でも縦方向の配管中であっても良い。また、設置方法としてはサニタリー配管接続部(フェルール部)等に円形の薄板を挿入しパッキン等でシールする方法、パッキンそのものをオリフィス化する方法、全面パッキンを穴加工してオリフィスとする方法等は、デッドスペースができる心配がないので好ましく、材質としてはテフロン(登録商標)やフッ素ゴム、シリコンゴム等が好ましい。
【0012】
オリフィスの穴の位置は、横向きの配管中に挿入する場合、濾過膜モジュールの薬液洗浄後の水洗時等における液溜まりを防ぐため、配管流路の中心ではなく可能な限り配管流路の下部に位置するよう偏芯させて端部に設けることが好ましい(図2)。また、オリフィスの穴は複数であってもよく、複数個設ける場合は穴数に応じて穴径を小さくし、穴の断面積の総和が同じになるようにすればよい。穴を複数設ける場合の穴の位置は偏芯させて端部に設ける一方、少なくとも対面に1ケ所設けることが好ましい(図3)。このようにして横方向の配管の管路の最下部または最上部に位置するように挿入すれば、液溜まりが解消されるだけでなくエアーが抜けるのでエアー溜まりがなくなり好ましい。縦方向の配管中に挿入する場合は液溜まり、エアー溜まりとも穴の位置には関係しないので特に配慮する必要はない。
【0013】
オリフィスは濾過膜モジュールの濾過水出口の数に対応して設置することが好ましい。医薬用水製造に用いられる濾過膜モジュールの場合は濾過水側配管の単純化、取り付け易さの観点から一方のノズルにのみ使用されることが好ましい。
なお、濾過水側配管にオリフィスを設置した後は普段同様、まず装置全体を熱水や薬剤により殺菌を行ってから使用するのが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
旭化成ケミカルズ(株)製、商品名、マイクローザUFモジュールSIP−3023(最大許容濾過水量2m/hr)が4本配設されてなる膜濾過装置に水温25〜28℃に調節したイオン交換水を通水し、供給水量と循環出口水量の差、即ち濾過水量が常に6m/hrとなるよう、循環差圧(入口圧力と出口圧力の差圧)を一定に保ちながら濾過圧力を調整し6ケ月間運転した。なお、初めの濾過圧力は入口圧力0.11MPa、出口圧力0.08MPaであり、6ケ月後の濾過圧力は入口圧力0.21MPa、出口圧力は0.18MPaであった。6ケ月経過した時点でモジュール1本を更新し、図4に示す事前の実験で得られた結果をもとに、濾過水出口ノズル部に8mmΦの穴を配したシリコン製パッキン型オリフィスを挿入し、さらに6ケ月間運転を継続した。この時の初めの濾過圧力は入口圧力0.19MPa、出口圧力は0.16MPaであり、更新したモジュールの成り行き濾過水量は推定3.2m/hrであるが、これを前記オリフィスにより推定1.9m/hrに調整した。3ケ月後の濾過圧力は0.29MPa、出口圧力は0.26MPaであった。全運転期間中、適宜エアー加圧によるインラインリーク検査を実施し、濾過膜モジュールのリークの有無を確認したがモジュール更新後の運転においても異常は認められなかった。
【0015】
(比較例1)
6ケ月経過した後に更新したモジュールの濾過水量を調整するためのオリフィスを設置しなかった以外は実施例と同様の運転を行い、更新した濾過膜モジュールのリークの有無を確認したところ、1ケ月経過した時点で2ケ所リークが見られた。リークは濾過水出口ノズル近傍で中空糸膜に亀裂が生じることで発現していた。なお、モジュール更新後の始めの濾過圧力は入口圧力0.19MPa、出口圧力は0.16MPaであり更新したモジュールの成り行き濾過水量は推定3.2m/hrであり、1ケ月経過時点の濾過圧力は入口圧0.22MPa、出口圧力0.19MPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は医薬用水の製造等において既に使用に供されたモジュールと更新したモジュールが混在する場合の更新した濾過膜モジュールのリーク防止に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明で用いるオリフィスの一例を示す断面図である。
【図3】本発明で用いるオリフィスの別例を示す断面図である。
【図4】オリフィスの穴径に関する事前の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
1 原水供給配管
2 液面計
3 原水タンク
4 循環ポンプ
5 供給流量計
6 入口圧力調整弁
7 入口圧力計
8 濾過膜モジュール
9 オリフィス
10 濾過水配管
11 出口圧力計
12 出口圧力調整弁
13 出口流量計
14 ブロー水配管
15 濾過膜モジュール濾過水出口ノズル
16 濾過水集合配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過膜モジュールが複数本配設されてなる膜濾過装置において、該モジュールの一部を更新して運転するに際し、濾過水出口ノズルから濾過水集合配管までの間にオリフィスを挿入し、濾過水量を許容濾過水量以下に調整することを特徴とする濾過水量調整方法。
【請求項2】
濾過膜モジュールが中空糸型モジュールであることを特徴とする請求項1に記載の濾過水量調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82026(P2006−82026A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270149(P2004−270149)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】