説明

瀉下剤

【課題】Rheum 属に由来する瀉下剤の有効成分の安定供給に貢献する。
【解決手段】本発明に係る瀉下剤は、Rheum 属の地上部から抽出されたアントラキノン類を有効成分として含有する。これにて、一本のRheum 属の地下部から地上部までの全体を、無駄なく有効利用することができるので、一本のRheum 属からより多くの有効成分を抽出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内で便秘改善作用を発揮する瀉下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る瀉下剤では、Rheum 属から抽出されたアントラキノン類を有効成分として含有するが、Rheum 属がアントラキノン類を含有すること、およびアントラキノン類に便秘改善作用(瀉下作用)があることなどは、例えば、特許文献1、2などに記載されており公知である。
【0003】
特許文献1には、大腸刺激性下剤として、Rheum 属植物である大黄が挙げられている。また、瀉下成分として、大黄から抽出したアントラキノン系瀉下剤が挙げられている。
【0004】
特許文献2は、大黄を含有する漢方処方の生薬末混合物及び/又はエキス粉末を含む下剤に関するものであり、アントラキノン系の瀉下剤の具体例として、大黄を有効成分とする生薬系下剤が挙げられている。
【0005】
一般的に大黄は根茎類生薬として知られている。つまり、この種のRheum 属では、その地下部、すなわち根茎部分のみが、生薬成分として利用されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−310960号公報
【特許文献2】特開2005−179316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大黄の根茎は汎用生薬の一つであるにも拘らず、その95%以上が外国に依存する状況にある。この種の植物資源に関しては、資源ナショナリズムに代表される権利の問題もあり、他国への持ち出しが徐々に難しくなっている。このため、国内での栽培化の要請が近年急速に高まっている。
【0008】
国内における大黄の栽培例としては、東京大学の柴田承二教授による、R.tanguticumの栽培が最初である。現在、北海道で栽培されている信州大黄は、先のR.tanguticumの原種を材料にして、1953年以降、R.palmatumとR.coreanumとの交配を繰り返して、10数年の時間を費やして発見されたものである。その他、富山医薬大薬用植物園による立山弥陀ヶ原や、利賀村糸田島における栽培報告もあるが、生産栽培のレベルには達していない。
【0009】
このように、一口に栽培化といっても、生産栽培に至るまでには、栽培的種の選抜、育種、栽培適地の選択、育種法の検討など、多くの検討と時間を要するものであり、簡単では無い。また、外国における大黄の大部分が野生品に由来している事実や、先の資源ナショナリズムの台頭に鑑みても、今後の外国からの供給量の増加は到底期待できない。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、Rheum 属に由来する瀉下剤に係る有効成分の安定供給を図るとともに、植物資源であるRheum 属の有効活用を図り、結果として、Rheum 属の保護に貢献し得る、新規な瀉下剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、従前においては、Rheum 属の地下部、すなわち根茎部分のみが生薬成分として利用に供されていること、および地上部についての薬用については、何らの検討もなされておらず、多くの場合、地上部は廃棄処分となっていることに着目して鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、Rheum 属の地上部から抽出されたアントラキノン類を有効成分とすることを特徴とする瀉下剤である。
【0013】
本発明におけるRheum の具体例としては、例えば、R.undulatum 、R.officinale、R.palmatum、R.tanguticumなどを挙げることができる。
【0014】
本発明におけるアントラキノン類とは、以下の化学式で示される一般式を有するものである。
【化2】

【0015】
アントラキノン類の具体例としては、emodin、Aloe-emodin 、Chrysophanol、Aloe-emodin-1-O-β-D-glucopyranoside、Chrysophanol-1-O- β-D-glucopyranoside、Chrysophanol-8-O- β-D-glucopyranoside、Chrysophanol-8-O- β-D-(G-galloyl)-glucopyranosideなどを挙げることができる。
【0016】
これらアントラキノン類のうち、尤も有効な成分は、下記の化学式3で示されるエモジン(emodin)であると考える。
【化3】

【発明の効果】
【0017】
本発明においては、従来より生薬成分として認められているRheum 属の地下部である根茎部に替えて、地上部からアントラキノン類を抽出し、これを瀉下剤の有効成分とした。かかるRheum 属の地上部は、生薬成分についての研究が殆どなされておらず、多くは廃棄処分されている。したがって、本発明のように、Rheum 属の地上部からアントラキノン類を抽出し、これを瀉下剤の有効成分として利用すれば、一本のRheum 属の地下部から地上部までの全体を、無駄なく有効利用することができるので、一本のRheum 属から、より多くの有効成分を抽出することが可能となる。
このことは、外国からの輸入量の増加が望み難く、しかも国内栽培が困難な状況にあるRheum 属に由来するアントラキノン類の安定供給に貢献できることを意味し、結果として、植物資源の保護に貢献できる。
【0018】
アントラキノン類には種々の誘導体があるが、本発明では、エモジンが瀉下剤の有効成分であると考える。かかるエモジンの瀉下作用を裏付ける文献としては、例えば、「Effect of emodin on small intestinal peristalsis of mice and relevant mechanism :World journal of Gastroenterlogy:2005年11月20日発行」を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実験例を挙げて本発明を詳細に説明する。
乾燥した和大黄(Rheum undulatum )の葉柄5gを粉砕し、80%メタノール50mlにて室温下で一晩抽出した。ろ過した後、残渣に再び80%メタノール50mlを加え、ortexミキサーで1分間混合した。得られた混合液をろ過した。ろ液を合わせて減圧濃縮し抽出エキスとした。
抽出エキスを80%メタノールで10mlまでメスアップし、0.45μmフィルターでろ過して、HPLC分析用試料液とした。
【0020】
図1にHPLCの分析結果を示す。分析条件は以下のごとくである。
Column:Capcellpack C18AG-120A(5μm,4.6mm i.d.×250mm,Shiseido)
Solvent :MeCN/H2 O(0.1% formic acid)gradient of 15% MeCN to 25% MeCN in 15 min to 70% MeCN in another 35 min, then to 100% MeCN in 10 min.
Flow rate :0.9ml/min.
Column temp :40℃
Detector:Shimadzu photodiode array SPDM-6A system(Shimadzu),UV:275nm.
【0021】
図1のHPLCパターン分析結果より、Rheum undulatum には、瀉下剤の有効成分となり得る、エモジンが含まれていることが分かる。具体的には、図1のピーク1はcinnamic acid (ケイ皮酸)を、ピーク2はemodin(エモジン)を示しており、ピーク2のピーク位置より、Rheum undulatum にはエモジンが含まれることを確認することができた。かかるエモジンが瀉下作用を有することは、先に挙げた「Effect of emodin on small intestinal peristalsis of mice and relevant mechanism :World journal of Gastroenterlogy:2005年11月20日発行」等より明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】大黄の抽出エキスに対するHPLCの分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rheum 属の地上部から抽出されたアントラキノン類を有効成分とすることを特徴とする瀉下剤。
【請求項2】
前記アントラキノン類が、下記の化学式で示されるエモジンである請求項1記載の瀉下剤。
【化1】


【図1】
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【公開番号】特開2008−214211(P2008−214211A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51059(P2007−51059)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(590004615)株式会社栃本天海堂 (2)
【出願人】(504300066)株式会社 ハリマ漢方製薬 (6)
【Fターム(参考)】