説明

火力発電設備の燃料切替指令出力方法

【課題】石炭とガスの燃料切替が可能な発電機に対して、BOGガスの大気放出を削減し燃料効率を向上させること。
【解決手段】解列指令を受けたとときにガス燃料型発電機の負荷降下を開始すると共に、解列指令を受けたガス燃料型発電機の現在負荷から最低運転負荷に到達するまでの時間(降下時間)を予測し、予め登録されている石炭・ガス共用型発電機の燃料切替時間との比較によって、共用型発電機に対する燃料切替通知の出力タイミングを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電設備の燃料切替時の制御方法に係り、特に石炭燃料とガス燃料を切替可能な発電機に対して、他のガス燃料発電機が解列するときに、前者の発電機に対して効果的な燃料切替指令を出力することのできる火力発電設備の燃料切替指令出力方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所の効率的な運転方法に関する提案が行われている。たとえば、特許文献1では、火力発電所全体における電力使用量を最少化する運転方法を決定し火力発電所全体としての省エネルギーを実現するため、火力発電所の所有者から火力発電所の省エネルギー請負い業務を受けた事業者は、火力発電所の現状の稼動状況を集計して現状稼動データを統計し、火力発電所を構成する各設備を駆動するファン,ポンプなどに可変速運転するためのインバータ装置を使用し、これらファン,ポンプなどの全消費電力量を最小にする運転パターンを決定して、当該決定された運転パターンに基づく実際の稼動状況を集計して実際稼動データを統計し、現状稼動データと実際稼動データとの差に基づいた省消費電力量に応じて火力発電所の所有者に料金請求処理を行うという方法並びにシステムが提案されている。
【0003】
ところで、火力発電所は、発電機を複数の燃料種別に対応可能にして効率的な燃料消費による省エネルギー化が行われている。たとえば、ある発電所においては、2号機の1段バーナは通常運転時は石炭を燃焼しているが、燃料効率を上げるためにBOG(Boil Off Gas)助燃化工事を行い、切替によって石炭とガスのどちらの燃料でも使用することができるようになっている。そして、その助燃化工事以降は、ガスを燃料とする3号機が停止中はBOGを消費するため、1段バーナを石炭からガスへ燃料を切り替える必要があった。
【特許文献1】特開2002−152969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、3号機解列時に、石炭からガスへの切替操作を実施する必要があるため、低負荷時に解列を開始するときは、従来は2号機の1段バーナが石炭からガスへの切替前に解列操作が開始され、BOGガスが大気中に放出される可能性があった。
【0005】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、石炭とガスの燃料切替が可能な発電機に対して、BOGガスの大気放出を削減し燃料効率を向上させることのできる火力発電設備の燃料切替指令出力方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる火力発電設備の燃料切替指令出力方法は、石炭燃料とガス燃料の切替可能な共用型発電機と、少なくともガス燃料を使用するガス燃料型発電機とを有する発電設備において、前記ガス燃料型発電機の停止時に前記共用型発電機への石炭からガスへの燃料切替指令を出力する火力発電設備の燃料切替指令出力方法であって、前記ガス燃料型発電機の最低運転負荷を登録するステップと、前記共用型発電機のガス燃料への切替に要する時間(切替時間)を登録するステップと、解列指令を受けたとときに前記ガス燃料型発電機の負荷降下を開始すると共に、当該解列指令を受けた前記ガス燃料型発電機の現在負荷から前記最低運転負荷に到達するまでの時間(降下時間)を予測するステップと、前記切替時間と前記降下時間を比較して、前記切替時間よりも前記降下時間の方が長い場合は、前記降下時間と前記切替時間との差分の時間を待って、前記共用型発電機へ燃料切替のタイミングを通知し、前記切替時間よりも前記降下時間の方が短い場合は、直ちに前記共用型発電機へ燃料切替のタイミングを通知するステップと、前記共用型発電機の燃料切替の完了を前記ガス燃料型発電機の最低運転負荷からの負荷降下条件に含め、当該負荷降下条件の成立によって発電機のタービン駆動からモータ駆動への切替のタイミングを通知するステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明では、解列指令を受けたガス燃料型発電機の現在負荷から最低運転負荷に到達するまでの降下時間を予測して、共用型発電機の燃料切替時間との比較によって、共用型発電機に対する燃料切替通知の出力タイミングを調整する。
【0008】
また、本発明に係わる火力発電設備の燃料切替指令出力方法では、前記負荷降下条件は、共用型発電機のガスバーナ等の装置故障を含み、当該装置故障をガス燃料型発電機のタービン駆動からモータ駆動への切替のタイミング通知の停止条件とすることを特徴とする。
【0009】
本発明ではガス燃料型発電機の最低運転負荷からの降下条件に共用型発電機の装置故障を含めることによって、ガス燃料型発電機の再立ち上げあるいは解列の遅延を可能にすると共にガス燃料の大気中への無駄な放出を削減する。
【0010】
なお、装置故障が無いときは、条件成立によって自動的に負荷降下を開始し、装置故障が存在するときは、オペレータへ通知し、オペレータの確認操作によって負荷降下を開始するようにしても良い。
【0011】
好ましくは、前記負荷降下条件は、ガスバーナ全数消化、ミルマスタ起動完了、および、前記ガス燃料型発電機への解列指令有りの各信号をAND条件で判定することによって、より確実なインターロックが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、石炭とガスの燃料切替が可能な発電機に対して、BOGガスの大気放出を削減し燃料効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態による火力発電設備の燃料切替指令の出力制御を実行する制御装置の機能ブロック図である。この制御装置1は、石炭またはガス燃料の共用型発電機である2号発電機2aを制御する2号制御卓2b、ガス燃料型発電機である3号発電機3aを制御する3号制御卓3bと繋がり運転データを入力し、また、給電所4と繋がり給電指令を入力している。なお、運転データは、制御卓2b,3b経由でなく、直接各発電機の制御装置から入力しても良い。また、制御卓は発電機ごとではなく、複数の発電機共通で設けるようにしても良い。本実施の形態ではこれらのデータや指令はオンラインで入力するようにしているが、電話等によって通知を受けたオペレータが入力するようにしても良い。
【0014】
ここで、制御装置1は、外部の装置とのインタフェースを行う入出力部5、入力したデータを用いて各発電機に対する指令を出力する演算部10、データを記憶する記憶部30で構成されている。また、演算部10は、発電機の出力などの運転データを入力する運転データ入力手段11、給電所からの発電機の解列指令を入力する解列指令入力手段12、発電機出力の降下時間を予測する降下時間予測手段13、降下時間と燃料切替の時間を比較して、その結果を出力する比較手段14、燃料共用型の発電機に対して燃料の切替指令を出力する燃料切替指令通知手段15、タービン駆動からモータ駆動への切替であるBFP切替の通知を行うBFP切替タイミング通知手段16、燃料切替の失敗など発電機の異常を通知する異常通知手段17、時間を計測するタイマ18、および解列指令を受けた発電機に対して負荷降下指令を出力する負荷降下指令出力手段19を備えている。各手段11〜19は、CPUの機能としてプログラムによって実行可能である。
【0015】
また、記憶部30には、発電機の燃料切替に要する時間(燃料切替時間)を保存する燃料切替時間データファイル31、発電機の出力降下データ(単位時間当たりの負荷降下率)を保存する出力降下データファイル32、出力の自動降下を停止してオペレータの確認入力を待つポイントであるブレークポイントとなる負荷値を保存するブレークポイントデータファイル33、BFP切替タイミングを通知するための条件を保存する負荷降下条件データファイル34、および、発電機の出力値などの運転データを保存する運転データファイル35が保存されている。
【0016】
次に、図2を用いて制御装置1の動作を説明する。図2は、制御装置1の動作の説明図であり、3号機(ガス燃料型発電機)の解列時の動作と2号機(共用型発電機)の燃料切替のタイミングを示すものである。
【0017】
まず、制御装置1は、2号発電機2aが石炭燃料によって発電をし、3号発電機3aがガス燃料によって発電をしているときに、給電所4から3号発電機3aの解列指令を受信すると、負荷降下指令出力手段19を介して3号発電機3aに対する負荷降下指令を出力すると共に、降下時間予測手段13が起動され、運転データ入力手段11によって収集した3号発電機3aの運転負荷に基づいて降下時間を予測する。この予測の仕方は、現在負荷(MW)と負荷レンジごとの降下係数(MW/分)によって最低負荷に到達するまでの時間(分)を計算する。
【0018】
次に、比較手段14は、負荷時間予測手段13の算出した予測時間と記憶部30に予め保存されている2号発電機2aの燃料切替時間とを比較して、燃料切替時間の方が予測時間よりも大きい場合は、直ちに燃料切替指令通知手段15によって2号発電機2aに対する石炭からガスへの燃料切替指令を出力する。この指令によって、2号制御卓2bの燃料切替PB(プッシュボタン)が押され、燃料切替動作が実行される。一方、予測時間の方が燃料切替時間よりも大きい場合は、タイマ18によって両者の時間差を測定し、時間到来によって燃料切替指令通知手段15を起動する。これによって、予測時間と同じタイミングで燃料の切替を達成することができる。なお、一旦途中の負荷で停止し、オペレータの確認ボタンの押下によって下降を再開するようなブレークポイントが介在する場合は、そのブレークポイントでの遅延時間を加味して、負荷降下時間を計算するのが良い。
【0019】
2号発電機2aの燃料切替が完了すると、その状態信号は運転データ入力手段11を介して、入力される。BFP切替タイミング通知手段16は、この燃料切替完了条件と、3号発電機3aの給水ポンプの切替完了信号であるBFP切替フリッカー条件と、その他の負荷降下条件をもとに条件が成立したか否かを判定し、条件が成立した場合は、3号発電機3aに対するBFP切替タイミングを通知する。3号制御卓3bは、この通知を受信すると、オペレータが3号発電機3aのBFP切替PBをONすることによって、発電機がタービン駆動からモータ駆動へ切り替わり、最低負荷状態から停止状態に向かって降下を開始する。
【0020】
図2のA部の枠内に負荷降下条件の論理図を示す。ガスバーナ全数消化、ミルマスタ起動完了、3号解列指令有りのAND条件とBFP切替フリッカーのAND条件または2号発電機の燃料切替完了条件と、BFP切替フリッカーのAND条件によってBFP切替タイミングが出力される。
【0021】
なお、上記は、BFP切替タイミングの通知を受けて、オペレータがBFP切替PBを押下することとしたが、BFP切替タイミング通知手段16の出力によって、自動的にBFP切替を実行して3号発電機を停止状態へ移行するようにしても良い。
(実施例)
【0022】
図3は、3号発電機の負荷が231MWのときに、最低負荷状態になるまでの負荷降下時間と2号発電機の燃料切替時間が等しくなるとしたときの制御装置1の処理手順を示すフローチャートである。
【0023】
給電所4から3号機解列指令を受けると、3号機を負荷降下させると共に、比較手段14によって、3号機の出力が231MW以下か否かを判定する(S101)。そして、231MW以下の場合は、次に2号1段バーナの燃料が石炭かガスかを判定し(S102)、石炭の場合は、燃料切替指令通知手段15によって2号1段バーナ燃料をガスへ切り替る処理を開始する(S103)。その後、BFP切替タイミング通知手段16によって、2号1段バーナの燃料の切替が成功したか否かを判定して(S104)、成功した場合は、3号機停止操作を実行する(S105)。一方、ステップS104で「NO」の場合は、異常通知手段17によって給電所4へ通知する(S104で「NO」。)なお、異常の内容が、たとえば2号ガス燃焼装置異常の場合は、石炭からガス燃料への切替を中止して、石炭専焼に戻す。また、給電所4へ通知後は3号解列指令の有無を確認し、3号解列指令有りの場合は解列時刻が遅れることを通知する。
【0024】
一方、ステップS101で3号機の出力が231MWよりも大きい場合は、231MW以下になるまで待つ(S101で「NO」)。また、ステップS102で「ガス」の場合は、そのままステップS105の3号機停止操作へ進む。
【0025】
以上、本実施の形態によれば、給電所から3号機の解列指令があったときに、その指令に速やかに応じると共に、2号機においては3号機の解列動作と同調して燃料の切替を行うことによって大気中へのBOGの放出を抑えつつ、燃料単価の安い石炭をできるだけ長く使用することを可能にして、資源節約および経済的な観点での最適なタイミングで常に燃料の切替を行うことができる。
【0026】
本発明は上述の実施の形態に限定されること無く、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。たとえば、上記の実施形態では、制御装置1と制御卓2b,3bとを独立した構成として説明しているが、制御装置1を制御卓2b,3bと一体として構成するようにしても良い。あるいは、制御装置1を給電所側に設置して、給電所の制御装置から直接発電機への制御指令を送信するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態による火力発電設備の燃料切替指令の出力制御を実行する制御装置の機能ブロック図である。
【図2】図1の制御装置1の動作の説明図である。
【図3】本発明の実施例による制御装置1の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 制御装置
2a 2号発電機(石炭・ガス共用型発電機)
2b 2号制御卓
3a 3号発電機(ガス燃料型発電機)
3b 3号制御卓
4 給電所
5 入出力部
6 AND回路
7 OR回路
10 演算部
11 運転データ入力手段
12 解列指令入力手段
13 降下時間予測手段
14 比較手段
15 燃料切替指令通知手段
16 BFP切替タイミング通知手段
17 異常通知手段
18 タイマ
19 負荷降下指令出力手段
30 記憶部
31 燃料切替時間データファイル
32 出力降下データファイル
33 ブレークポイントデータファイル
34 負荷降下条件データファイル
35 運転データファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭燃料とガス燃料の切替可能な共用型発電機と、少なくともガス燃料を使用するガス燃料型発電機とを有する発電設備において、前記ガス燃料型発電機の停止時に前記共用型発電機への石炭からガスへの燃料切替指令を出力する火力発電設備の燃料切替指令出力方法であって、
前記ガス燃料型発電機の最低運転負荷を登録するステップと、
前記共用型発電機のガス燃料への切替に要する時間(切替時間)を登録するステップと、解列指令を受けたとときに前記ガス燃料型発電機の負荷降下を開始すると共に、当該解列指令を受けた前記ガス燃料型発電機の現在負荷から前記最低運転負荷に到達するまでの時間(降下時間)を予測するステップと、
前記切替時間と前記降下時間を比較して、前記切替時間よりも前記降下時間の方が長い場合は、前記降下時間と前記切替時間との差分の時間を待って、前記共用型発電機へ燃料切替のタイミングを通知し、前記切替時間よりも前記降下時間の方が短い場合は、直ちに前記共用型発電機へ燃料切替のタイミングを通知するステップと、
前記共用型発電機の燃料切替の完了を前記ガス燃料型発電機の最低運転負荷からの負荷降下条件に含め、当該負荷降下条件の成立によって発電機のタービン駆動からモータ駆動への切替のタイミングを通知するステップと、
を含むことを特徴とする火力発電設備の燃料切替指令出力方法。
【請求項2】
前記負荷降下条件は、前記共用型発電機のガスバーナ等の装置故障を含み、当該装置故障をタービン駆動からモータ駆動への切替のタイミング通知の停止条件とすることを特徴とする請求項1記載の火力発電設備の燃料切替指令出力方法。
【請求項3】
前記負荷条件は、ガスバーナ全数消化、ミルマスタ起動完了、および、前記ガス燃料型発電機への解列指令有りを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の火力発電設備の燃料切替指令出力方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−36184(P2009−36184A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203680(P2007−203680)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】