説明

火山防災地図システム

【課題】火山噴火に伴う対象施設における降灰量の予測を行い、事業継続計画(BCP)を策定する上での有用情報を示す火山防災地図システムを提供する。
【解決手段】火山災害によってもたらされる予測降灰量を表示画面上に表示する火山防災地図システムにおいて、火山災害をもたらす想定火山を指定する想定火山指定手段1と、想定火山によって影響を受ける想定施設を指定する想定施設指定手段2と、想定火山と想定施設とが含まれた地図情報を記憶する地図情報記憶手段3と、想定火山による降灰量の分布状況を予測する降灰量分布状況予測手段4と、該降灰量分布状況予測手段4によって予測された想定火山ごとの予測分布状況を記憶する基準降灰量分布状況記憶手段5とを有し、該想定火山と、該想定施設と、該地図情報と、該降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示することができる表示手段7と、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火山噴火を模擬することによって、対象とする施設における降灰量の予測を行い、事業継続計画(BCP)を策定する上での有用な参考材料を提供することができる火山防災地図システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等の災害などによる事業への影響を少なくするために事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を策定することが注目されている。また、民間企業において防災投資をする上で限られた経営資源を有効に活用するために、費用対効果を適切に評価することが重要となるが、このような費用対効果を適切に評価するための一助として用いられるシステムが種々提案されている。このようなシステムのうち地震による損失の評価を行うためのものとして、地震リスク診断システムが提案されている。例えば、特許文献1(特開2005−310146号公報)には、地盤およびその地盤上に立てられた建物ならびにその建物に収容された収容設備から構成される施設の損傷によって発生する営業損失を得るための地震リスク診断システムであって、診断対象の施設に対し、地盤、建物および各収容設備を構成要素とし、該施設に対する複数の損傷モードを各構成要素の損傷の有無の組み合わせにより定めたイベントツリーにおいて、損傷有りに対し、該構成要素が所定の最大地動加速度で損傷を受ける確率を設定し、損傷無しに対し、該構成要素が所定の最大地動加速度で損傷を受けない確率を設定する確率設定手段と、損傷モード毎に各構成要素に設定された確率を掛け合わせ、所定の最大地動加速度で、各損傷モードに至る確率を算出する算出手段と、損傷モードに至ったときの損害額と該損傷モードに至る確率との積を、損害額の期待値として損傷モード毎ごとに算出し、算出した損傷モード毎の損害額の期待値を合計することにより、所定の最大地動加速度における診断対象の施設の営業的な地震リスクを算出する営業リスク算出手段とを備えることを特徴とする地震リスク診断システムが記載されている。
【特許文献1】特開2005−310146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、日本列島は海洋プレートの沈み込み帯に位置し、地震と共に火山活動も活発である。気象庁によれば、我が国には108の活火山があり、過去にわたり様々な人的・物的災害をもたらしてきた。火山災害に対する防災措置としては、これまで観測・警報体制やハザードマップの整備、噴火下で行う緊急除石工事技術などが開発されてきた。これらの技術は、基本的には官主導の防災技術であり、人命も含めた公共財の保全を主目的としたものである。
【0004】
上記のように民間企業における事業継続計画(BCP)策定の動きが加速されつつあり、自然災害を想定した事前対策が求められる傾向にある。しかしながら、特許文献1にもみられるように地震災害についてはBCP対応用の様々なシステムが提案されているものの、火山災害を念頭に置いたBCP策定のためのシステムの提案は未だになされていない、という問題があった。
【0005】
火山活動は多様であり、一つの噴火現象によって様々な災害が生じ得る。例えば、溶岩流や火砕流などの直撃を受ける場合は被害は甚大であり基本的に避難をせざるを得ないが、二次災害である泥流は地表水系と対象施設の位置関係から、ある程度影響を想定することができる。
【0006】
一方、数センチ以上の厚さに達する降灰や火山性ガスなどは、緊急の避難対象にならなくとも事業活動に影響を及ぼしたり、気象条件によっては思わぬ遠方から飛来し被害をもたらしたりすることもある。このように火山災害への対策を検討する際には、様々な災害内容と対象施設との位置関係を複合的に評価すると共に、過去の被害データおよびシミュレーション技術を用いた予測結果も同時に利用できる技術やシステムが必要と考えられる。しかしながら、現状においては、このようなシステムが提供されていないというのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、火山災害によってもたらされる予測降灰量を表示画面上に表示する火山防災地図システムにおいて、火山災害をもたらす想定火山を指定する想定火山指定手段と、想定火山によって影響を受ける想定施設を指定する想定施設指定手段と、少なくとも想定火山と想定施設とが含まれた地図情報を記憶する地図情報記憶手段と、想定火山によってもたらさせる降灰量の分布状況を予測する降灰量分布状況予測手段と、該降灰量分布状況予測手段によって予測された想定火山ごとの予測分布状況を記憶する基準降灰量分布状況記憶手段と、少なくとも該想定火山指定手段によって指定された想定火山と、該想定施設指定手段によって指定された想定施設と、該地図情報記憶手段に記憶される地図情報と、該基準降灰量分布状況記憶手段によって記憶された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示することができる表示手段と、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の火山防災地図システムにおいて、該表示手段が、該想定火山指定手段によって指定された想定火山と、該想定施設指定手段によって指定された想定施設と、該地図情報記憶手段に記憶される地図情報と、該降灰量分布状況予測手段によって予測された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の火山防災地図システムにおいて、火山名称情報、位置情報、噴火活動履歴情報、噴火特性情報などから構成される想定火山情報を記憶する想定火山情報記憶手段と、施設名称情報・位置座標情報、施設種別情報、施工時期情報などから構成される想定施設情報を記憶する想定施設情報記憶手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の火山防災地図システムにおいて、該降灰量分布状況予測手段は、想定火山の噴出時間、噴出量、噴出高度、噴出物の粒子組成・密度を設定する噴火特性設定手段と、想定火山の噴火時における気象状況を設定する気象状況設定手段と、該気象状況設定手段の設定に基づいて風向き、風速の状況を解析する気象状況解析手段と、該噴火特性設定手段による設定と該気象状況解析手段による解析に基づいて想定火山による噴出物の移動拡散を解析する移動拡散解析手段とからなることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の火山防災地図システムにおいて、ワールドワイドウエッブ上で提供される火山関連情報を取得する火山関連情報取得手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の火山防災地図システムによれば、対象とする施設における、事業活動に影響を及ぼす可能性の高い、想定火山の噴火に伴う降灰による影響をシミュレーション技術によって明示することができるので、事業継続計画(BCP)を策定する上で有用な参考材料を提供することができるようになる。
【0013】
また、本発明の火山防災地図システムによれば、対象とする想定施設が影響を受ける可能性がある火山災害のワールドワイドウエッブ上の情報を複合的に表示させる機能を有するものであり、対象施設近傍で現在発生している火山活動や、将来的に発生しうる火山活動内容の情報を複合的に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。まず、本発明の基本的な考え方について説明する。本発明の火山防災地図システムは、火山災害をもたらすと考えられる想定火山に係るデータベースと、このような想定火山によって、影響を受けると考えられる想定施設に係るデータベースと、を有するものである。想定火山に係るデータベースは、我が国における活火山の位置・過去の噴火履歴・これまで発生した火山災害記録などに基づいている。また、想定施設に係るデータベースは、施設情報・その他公共施設・インフラ施設情報などを記録したものである。これらのデータベースは、いずれも地理情報システム(GIS:Geographic Information System)と関連付けがなされている。地理情報システムとは、コンピュータ上において、地図情報とこの地図情報と関連させたさまざまな付加情報とを作成・保存・利用・管理することを可能とするシステムである。
【0015】
また、本発明の火山防災地図システムは、データベース中の想定火山の噴火によってもたらされる降灰量の分布状況を予測するシステムも有しており、先ほどの地理情報システム上にこの分布状況を重ね合わせて表示することができるようにしている。なお、降灰量の分布状況を予測するためには、降灰をもたらす噴火の噴出時間、噴出量、噴出高度、噴出物の粒子組成・密度とからなる噴火特性データに係る初期条件を与え、噴火による火山灰の移動拡散解析と気象(風向き・風速)解析を組み合わせて行う。これらの解析処理は、コンピュータシステムにとって負荷が高いものであるので、降灰量の分布状況予測のコンピュータシステムは比較的処理能力の高いものでも処理時間を要することとなる。
【0016】
以上のような負荷の高い解析処理を、地理情報システム上に重ね合わせ表示するたび行うのでは、効率が悪いので、本発明の火山防災地図システムでは、標準的な噴火を模擬したときの降灰量の分布状況をデータとして準備しておくようにする。例えば、年間を通した平均的な気象条件下で、過去と同規模の噴火が発生した場合の、降灰量の分布状況を予測した基準降灰量分布状況を想定火山ごとにあらかじめ計算しておき、さらにこれをデータベース化しておき、瞬時に地理情報システム上に重ね合わせて表示することできるようにする。
【0017】
また、本発明の火山防災地図システムでは、ワールドワイドウエッブで公開されている各種火山情報へのリンク機能を設定することにより、対象とする想定施設が影響を受ける可能性がある火山災害の情報を複合的に表示させる機能を有するものである。
【0018】
以下、より詳細に本発明の火山防災地図システムについて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムのブロック構成の概要を示す図である。図1において、100は火山防災地図システム、1は想定火山指定手段、2は想定施設指定手段、3は地図情報記憶手段、4は降灰量分布状況予測手段、5は基準降灰量分布状況記憶手段、6は情報処理手段、7は表示手段、8は想定火山情報記憶手段、9は想定施設情報記憶手段、10は噴火特性設定手段、11は気象状況設定手段、12は気象状況解析手段、13は移動拡散解析手段、14は火山関連情報取得手段をそれぞれ示している。
【0019】
本発明の火山防災地図システム100は、火山災害によってもたらされる、対象想定施設における予測降灰量を表示画面上に表示するシステムであり、基本的にはコンピュータシステムと、このコンピュータシステム上で稼働するプログラムによって構成されるものである。また、火山防災地図システム100は、噴火を想定する想定火山による降灰をシミュレーション技術によってシミュレートし、これを表示画面上に表示するものである。
【0020】
想定火山指定手段1は、火山防災地図システム100でシミュレーションによる表示を行うための、噴火を想定する想定火山を指定するためのものである。また、想定施設指定手段2は、指定された想定火山によって影響を受ける想定施設を指定するためのものである。
【0021】
地図情報記憶手段3は、少なくとも想定火山と想定施設とが含まれた地図情報を記憶するものである。このような地図情報記憶手段3としては、上記した地理情報システム(GIS)を用いることができる。
【0022】
降灰量分布状況予測手段4は、想定火山によってもたらさせる降灰量の分布状況を予測するものであり、比較的処理能力の高いコンピュータシステムを用いるのが適当である。また、基準降灰量分布状況記憶手段5は、降灰量分布状況予測手段4によって予測された想定火山ごとの予測分布状況を記憶する。このような基準降灰量分布状況記憶手段5を設けることによって、標準的な噴火を模擬したときの降灰量の分布状況をデータとして記憶しておき、予測のための解析時間を要することなく、利用できるようにする。
【0023】
情報処理手段6は、その他の全ての各手段(想定火山指定手段1、想定施設指定手段2、地図情報記憶手段3、降灰量分布状況予測手段4、基準降灰量分布状況記憶手段5、表示手段7、想定火山情報記憶手段8、想定施設情報記憶手段9、噴火特性設定手段10、気象状況設定手段11、気象状況解析手段12、移動拡散解析手段13、火山関連情報取得手段14)と協働して処理動作を行う情報処理機構である。
【0024】
表示手段7は、表示画面などのユーザーインターフェイス機器であり、汎用的に利用されるものである。ただ、本発明の火山防災地図システム100の表示手段7としては、少なくとも想定火山指定手段1によって指定された想定火山と、想定施設指定手段2によって指定された想定施設と、地図情報記憶手段3に記憶される地図情報と、基準降灰量分布状況記憶手段5によって記憶された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示するものである。また、本発明の火山防災地図システム100の表示手段7としては、想定火山指定手段1によって指定された想定火山と、想定施設指定手段によって指定された想定施設2と、地図情報記憶手段3に記憶される地図情報と、降灰量分布状況予測手段4によって予測された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示するものである。
【0025】
想定火山情報記憶手段8は、火山名称情報、位置情報、噴火活動履歴情報、噴火特性情報などから構成される想定火山情報を記憶するデータベースである。
【0026】
また、想定施設情報記憶手段9は、施設名称情報・位置座標情報、施設種別情報、施工時期情報などから構成される想定施設情報を記憶するデータベースである。
【0027】
想定火山の降灰量の分布状況を予測する降灰量分布状況予測手段4は、主として噴火特性設定手段10、気象状況設定手段11、気象状況解析手段12、移動拡散解析手段13によって構成されている。
【0028】
噴火特性設定手段10は、想定火山の噴出時間、噴出量、噴出高度、噴出物の粒子組成・密度を設定するものであり、いわば想定する噴火の初期条件を設定する。
【0029】
気象状況設定手段11は、想定火山の噴火時における気象状況を設定する構成である。このような気象状況設定手段11による設定に基づいて、気象状況解析手段12は、風向き、風速の状況を解析する。そして、移動拡散解析手段13は、噴火特性設定手段10によって設定された初期条件と、気象状況解析手段11による解析に基づいて想定火山による噴出物(火山灰)の移動拡散を解析する。
【0030】
また、火山関連情報取得手段14は通信回線に接続されて、ワールドワイドウエッブ上で官庁機関が発信している火山関連情報を取得する。本発明の火山防災地図システム100では、官庁機関が発信している火山情報を表示手段7上で同時に表示することにより、想定施設近傍で現在発生している火山活動や、将来的に発生しうる火山活動内容の情報を複合的に把握することができる。
【0031】
次に、本発明の火山防災地図システムをシステム構築するときの具体例について説明する。図2は本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの具体的なシステム構成の概要を示す図である。図2において、100は火山防災地図システム、101はローカルエリアネットワーク、102は高速演算コンピュータ、103はサーバコンピュータ、104、104’、104’’はクライアント用パーソナルコンピュータ、105はワールドワイドウエッブをそれぞれ示している。なお、図2に示すシステム構成は本発明を実現するための一例であり、本発明の火山防災地図システムがこのようなシステム構成に限定されるものではない。
【0032】
ローカルエリアネットワーク101には、10BASE−T、100BASE−TX、或いは、1000BASE−Tといったイーサーネットを用いた有線LANや、IEEE802.11a、IEEE802.11b、IEEE802.11gなどによる無線LANなどを適宜用いることができる。このようなローカルエリアネットワーク101を用いることにより、前述において説明した各手段を実現するためのリソースを分散することが可能となる。
【0033】
高速演算コンピュータ102は、例えば通常のパーソナルコンピュータよりは演算処理能力の高いコンピュータシステムを表している。例えば、このような高速演算コンピュータ102には、降灰量分布状況予測手段4として役割を持たせることが適当である。
【0034】
サーバコンピュータ103は、先に説明した各手段のうち、特に記憶手段に係る構成として用いるとよい。また、クライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’は、先に説明した各手段のうち、指定手段や表示手段として利用することが適当である。例えば、指定手段としてのクライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’による指定によって、記憶手段としてのサーバコンピュータ103からの情報を、ローカルエリアネットワーク101を介して獲得して、表示手段としてのクライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’に表示させる。クライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’は、ここでは3台の場合を示しているが、もちろん任意の台数のものを用いることができる。
【0035】
なお、高速演算コンピュータ102、サーバコンピュータ103、クライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’には、いずれも周知のものを用いることができる。
【0036】
ワールドワイドウエッブ105は、インターネット上の情報発信機能であり、火山関連情報取得手段14は、このワールドワイドウエッブ105から官庁機関が発信している火山関連情報を取得する。ブラウザを搭載したクライアント用パーソナルコンピュータ104、104’、104’’は、火山関連情報取得手段14としての役割を担うことができる。
【0037】
なお、以上のようシステム構成とすれば、例えば企業内LANとワールドワイドウエッブに接続可能なクライアント用パーソナルコンピュータに本システムを搭載することにより、複数の企業内ユーザーが火山防災に対する情報を入手できるようになる。これにより、対象施設に関する情報やBCP対応の検討など幅広いサービスの共有が可能になる。
【0038】
以上のようにシステム構築された本発明の火山防災地図システムにおけるユーザーインターフェイスについて次に説明する。図3は本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの想定火山指定手段1のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。図3は表示手段7上に表示される想定火山指定手段1を示している。また、図3は不図示のマウスなどのポインティングデバイスによって変位するカーソルPによって、想定火山を選択指定している様子を示している。想定火山指定手段1上において、表示される候補となる火山名は、想定火山情報記憶手段8に記憶されているものが表示される仕組みとなっている。ユーザーは、これら候補となる火山名から想定火山を選択指定する。
【0039】
図4本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの想定施設指定手段2のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。図4は表示手段7上に表示される想定施設指定手段2を示している。また、図3は不図示のマウスなどのポインティングデバイスによって変位するカーソルPによって、想定施設を選択指定している様子を示している。想定施設指定手段2上において、表示される候補となる施設名は、想定施設情報記憶手段9に記憶されているものが表示される仕組みとなっている。ユーザーは、これら候補となる施設名から想定施設を選択指定する。
【0040】
図5本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの表示手段7のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。図5に示すように、表示手段7は少なくとも想定火山指定手段1によって指定された想定火山と、想定施設指定手段2によって指定された想定施設と、地図情報記憶手段3に記憶される地図情報と、基準降灰量分布状況記憶手段5によって記憶された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示するものである。
【0041】
表示手段7は、想定火山指定手段1によって指定された想定火山と、想定施設指定手段によって指定された想定施設2と、地図情報記憶手段3に記憶される地図情報と、降灰量分布状況予測手段4によって予測された降灰量の分布状況とを重ね合わせての表示も行う。
【0042】
以上のように、本発明の火山防災地図システムにおける表示によれば、対象とする施設における、事業活動に影響を及ぼす可能性の高い、想定火山の噴火に伴う降灰による影響をシミュレーション技術によって明示することができるので、事業継続計画(BCP)を策定する上で有用な参考材料を提供することができるようになる。
【0043】
また、本発明では、対象施設とこれまで生じた火山災害の範囲や降灰分布予測結果(分布範囲・降灰量等)を地図上で直接重ねて表示することができ、その施設に対する潜在的な影響をより視覚的にイメージすることができる。
【0044】
図6は本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの火山関連情報取得手段14のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。図6は、火山関連情報取得手段14が取得する情報の候補のうちから、ポインティングデバイスによって変位するカーソルPによって、火山情報を選択している様子を示している。このように本発明では、各活火山に対して官公庁がワールドワイドウエッブで配信している火山情報や、独立行政法人・大学などの研究機関がワールドワイドウエッブで公開・再配信を許可している研究成果へのURL(Uniform Resource Locator)情報が記録されている。
【0045】
また、以上のような本発明の火山防災地図システムによれば、対象とする想定施設が影響を受ける可能性がある火山災害のワールドワイドウエッブ上の情報を複合的に表示させる機能を有するものであり、対象施設近傍で現在発生している火山活動や、将来的に発生しうる火山活動内容の情報を複合的に把握することができる。
【0046】
次に、本発明の火山防災地図システム100を実現するためのシミュレーションに係る要素技術について説明する。本発明の火山防災地図システム100の降灰量分布状況予測手段4が用いる降灰分布予測は、火山灰の移動拡散解析(移動拡散解析手段13による)と気象(風向き・風速)解析(気象状況解析手段12による)を組み合わせて行う。移動拡散解析手段13による移動拡散解析では、例えば既存の数値解析手法であるラグランジュ型粒子拡散モデルを用いる。また、数値解析の入力パラメータ(初期条件)としては、噴火特性設定手段10によって、降灰をもたらす噴火の噴出時間、噴出量、噴出高度、噴出物の粒子組成・密度からなる噴火特性データが設定され、利用される。出力結果は、降灰の分布範囲・分布範囲内の場所ごとの降灰量・粒度組成である
風向き・風速状況は、気象庁が公開しているGPVデータを用い、既存の数値気象モデルであるメソ気象モデル(MM5)を用いて中規模スケール(1000km程度から数10km四方)における状況を模擬し、火山灰移動拡散の与条件とする。気象条件は日時や場所によって様々に変化するため、本発明の火山防災地図システム100においては、各火山の過去の降灰現象の中から代表的なものを再現した結果と、年間で最も多く発生する風向き・風速における予測結果をあらかじめ表示しユーザーに事前情報を提供する。そして、ユーザーからの希望により特定の日時(例えば、年間最大風速の日)・場所の風況に基づいた予測結果が必要になる場合は、別途個別に高速演算用コンピュータにて解析を行い、結果をデータベースに再度搭載して表示させることが可能である。
【0047】
以下、実際のシミュレーションについて参照する。2004年9月23日 19時44分の浅間山の噴火の降灰予測を移動拡散解析手段13を使用してシミュレーションを行った。
噴火特性設定手段10で設定した火山噴火データについて示す。
1.粒度分布: 図9参照
2.密度: 2600kg/m3(一定)
3.噴出時刻: 2004/09/23 19:44
4.継続時間: ゼロ
5.噴出高度: 3610m(ガンマ分布)
6.総粒子数: 116,000個
次に、気象状況設定手段11によって設定した条件を示す。このようにして設定された条件によって、気象状況解析手段12(MM5)で解析が行われる。
1.解析領域: (27km×36mesh)×(27km×36mesh)
2.最小メッシュ幅: 約1km
3.時間刻み: 約2sec(出力は60sec)
4.参照データ: 気象庁GPVデータ(解像度約10km)
5.解析期間: 2004/09/22〜2004/09/24の三日間
6.出力データ: U,V,W,T,P
次に、移動拡散解析手段13のためのパラメータを示す。
1.解析領域: 24km×35km(線形補間)
2.時間刻み: 約2sec(線形補間)で40分間
3.終端速度: 空気密度と抗力係数の関数
4.拡散係数: 水平150m2/sec、鉛直15m2/sec
以上のようなパラメーターの設定によるシミュレーション結果について示す。図7(A)は上空2310mでの、また図7(B)は上空3610mでの気象状況解析手段12によるシミュレーション結果を示す図である。
【0048】
また、図8は移動拡散解析手段13によるシミュレーション結果を示す図である。なお、本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの移動拡散解析手段13による解析では、大気中の水分による噴出物粒子の凝集による効果も考慮されており、より高精度なシミュレーション結果を提供するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムのブロック構成の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの具体的なシステム構成の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの想定火山指定手段のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの想定施設指定手段のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの表示手段のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る火山防災地図システムの火山関連情報取得手段のグラフィカルユーザーインターフェイス画面例を示す図である。
【図7】気象状況解析手段12によるシミュレーション結果を示す図である。
【図8】移動拡散解析手段13によるシミュレーション結果を示す図である。
【図9】粒度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1・・・想定火山指定手段、2・・・想定施設指定手段、3・・・地図情報記憶手段、4・・・降灰量分布状況予測手段、5・・・基準降灰量分布状況記憶手段、6・・・情報処理手段、7・・・表示手段、8・・・想定火山情報記憶手段、9・・・想定施設情報記憶手段、10・・・噴火特性設定手段、11・・・気象状況設定手段、12・・・気象状況解析手段、13・・・移動拡散解析手段、14・・・火山関連情報取得手段、100・・・火山防災地図システム、101・・・ローカルエリアネットワーク、102・・・高速演算コンピュータ、103・・・サーバコンピュータ、104、104’、104’’・・・クライアント用パーソナルコンピュータ、105・・・ワールドワイドウエッブ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火山災害によってもたらされる予測降灰量を表示画面上に表示する火山防災地図システムにおいて、
火山災害をもたらす想定火山を指定する想定火山指定手段と、
想定火山によって影響を受ける想定施設を指定する想定施設指定手段と、
少なくとも想定火山と想定施設とが含まれた地図情報を記憶する地図情報記憶手段と、
想定火山によってもたらさせる降灰量の分布状況を予測する降灰量分布状況予測手段と、
該降灰量分布状況予測手段によって予測された想定火山ごとの予測分布状況を記憶する基準降灰量分布状況記憶手段と、
少なくとも該想定火山指定手段によって指定された想定火山と、該想定施設指定手段によって指定された想定施設と、該地図情報記憶手段に記憶される地図情報と、該基準降灰量分布状況記憶手段によって記憶された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示することができる表示手段と、を具備することを特徴とする火山防災地図システム。
【請求項2】
該表示手段が、該想定火山指定手段によって指定された想定火山と、該想定施設指定手段によって指定された想定施設と、該地図情報記憶手段に記憶される地図情報と、該降灰量分布状況予測手段によって予測された降灰量の分布状況とを重ね合わせて表示することを特徴とする請求項1に記載の火山防災地図システム。
【請求項3】
火山名称情報、位置情報、噴火活動履歴情報、噴火特性情報などから構成される想定火山情報を記憶する想定火山情報記憶手段と、施設名称情報・位置座標情報、施設種別情報、施工時期情報などから構成される想定施設情報を記憶する想定施設情報記憶手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の火山防災地図システム。
【請求項4】
該降灰量分布状況予測手段は、想定火山の噴出時間、噴出量、噴出高度、噴出物の粒子組成・密度を設定する噴火特性設定手段と、
想定火山の噴火時における気象状況を設定する気象状況設定手段と、
該気象状況設定手段の設定に基づいて風向き、風速の状況を解析する気象状況解析手段と、
該噴火特性設定手段による設定と該気象状況解析手段による解析に基づいて想定火山による噴出物の移動拡散を解析する移動拡散解析手段とからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の火山防災地図システム。
【請求項5】
ワールドワイドウエッブ上で提供される火山関連情報を取得する火山関連情報取得手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の火山防災地図システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−20659(P2009−20659A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182035(P2007−182035)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】