説明

火災報知器取付具及びそれによって取付けられた火災報知器ならびに火災報知システム

【課題】建物の結露による水滴が原因の火報器の誤報を回避する構造の火報器の取付具ならびにそれを使用した火災報知システムを実現する。
【解決手段】建造物の躯体天井2に火報器1を設置する取付具5は、躯体天井の火報器の取付用穴である埋め込みボックス201から、少なくとも火報器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火報器を下面に取付けし、建造物の躯体天井から隔離する板状部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災報知器取付具に係り、熱感知や煙感知等により火災を検知する火災報知器ならびに火災報知システムの信頼性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に火災報知器あるいは火災報知用感知器(以下、まとめて火報器と称す。)、特に製造工場やプラントあるいはプラントに類似する工場等に設置する火報器は、一般家庭等の火報器とは異なり、建物内部の区画ごとに、躯体天井のコンクリート等に直接設置される場合が多い。また、その規模は、1建物に数百個もの火報器を設置する例も珍しくない。
【0003】
その際、各火報器による火災感知の信頼性は非常に重要なものとなる。たとえば、核燃料再処理施設は、原子炉から取出した使用済み燃料を機械的及び化学的に処理してプルトニウムとウランを回収する施設であり、使用済み燃料の貯蔵、せん断、溶解、分離等の主要施設である分離精製工場、放射性廃棄物を処理する廃棄物処理場等、約40施設から構成されている。これらの施設は、防火対象物として一般の建築物と同様に消防法令の適用を受け(非特許文献1)、用途及び規模に対応した自動火災報知設備が設置され、現在、これらの施設には約5,000個の火報器が設置されている。
【0004】
これらの火報器1は、図5のa)に示すように、建物の天井2に設けられた埋め込みボックス201に直付けする構造であり、筐体101内のベース板102に取付けられた集積回路基板103、ライン線端子104、共通線端子105を内装し、更に、防虫網106、確認灯107を備える。そして、前記ライン線端子104と共通線端子105には、建物2の埋め込み配管202を使用して配線された信号ケーブル301,302が接続される。
【0005】
しかし、建物の天井2や埋め込みボックス201の天面の結露による水滴等に対する防滴対策が取られていないことから、図5のb)に示すように、結露の水滴4による溜まり水401がライン線端子104と共通線端子105間を導通させ、あるいは、図5のc)に示すように、溜まり水401の一部が端子用穴108,109から流れ落ちて集積回路基板103に付着することにより溜まり水402を形成して集積回路を誤動作させるといった現象による不具合を生じていた。
【0006】
数値的には、過去8年間の誤報のうち、ゆうに50%超がこの結露が原因の誤報であった。この誤報のため、誤報発生に対する原因究明等を行って対策を講じる必要が生じ、多大な作業工数を要していた。
【0007】
一方、一般的な火報器については、特許文献1に示すように、これらの結露に対する対策を講じたものは見当たらず、比較的に環境の整った、いわゆる結露が発生しない環境での設置、使用を前提としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−293081号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】財団法人 日本消防設備安全センター “消防設備士講習用テキスト”(2005年第14版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記したような従来技術による問題点を解決するために、建物に直付けされた火報器において、建物からの結露による水滴が原因の火報器の誤報を回避する構造の火災報知器取付具を提案し、誤報を軽減することができる火報器ならびにそれを使用した火災報知システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、建造物の躯体天井に火報器を設置する取付具であって、建造物の躯体天井と火報器の間に介在し、建造物から発生する湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止する機構の火報器の取付具を提供するものである。具体的には、前記取付具は、その下面に火報器を取付けて保持する板状部材であり、望ましくは、板状部材には、その外周縁部に下方に向けて折り曲げた水切り用庇部を形成する。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明に付加して、建造物からの湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止する構成が、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴から、少なくとも火報器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火報器を内部に収容し、建造物の躯体天井から隔離する板状部材とするものである。
【0013】
第3の発明は、建造物からの湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止する構成の、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴から、少なくとも火報器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火報器を内部に収容し、建造物の躯体天井から隔離する板状部材を有する火報器の取付具によって、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴に取付けられた火報器である。
【0014】
第4の発明は、前記第3の発明に付加して、火報器と、火報器からの信号を発信する発信機と、該発信機から発信される火災報知あるいは火災報知用感知信号を受信する受信機と、該受信機が受信した信号を中継する中継器と、該中継器からの信号を、火災報知あるいは火災報知用感知情報として表示、伝達する表示機、表示灯ならびに報知用音響装置とで構成した火災報知システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明を実施することにより、次の効果を得ることができる。
【0016】
1)取付具は、建物の結露に起因する水滴から火報器を防護することにより、火報器の誤報を半減することができ、火災報知器ならびに火災報知システムの信頼性を向上させることができる。
【0017】
2)火報器の誤報の半減化に伴い、誤報発生の原因究明の作業工数を大幅に低減することができる。
【0018】
3)特に、梅雨時の湿気による誤報の多発を抑制することができる。
【0019】
4)本発明の取付具を採用することにより、火報器設置対象の建物の天面に対する設置条件を大幅に緩和することができる。
【0020】
5)さらには、従来の直付けの場合、狭い空間への設置に起因する配線の挟み込みが原因の導通による誤報についても、本発明の取付具を採用することで、配線の挟み込みを防止し、導通による誤報を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の火報器の取付具と、この取付具によって取付けた火報器の一実施例を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の取付具によって火報器を取付けた一実施例の断面図である。
【図3】本発明の取付具の実施例を示す正面図、下面図、側面図である。
【図4】本発明の火報器の取付具と、この取付具によって取付けた火報器を使用した火災報知システムの一実施例を示すブロック図である。
【図5】火報器の従来技術の取付け構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、建造物の躯体天井に火報器を設置するための取付具であり、建造物の躯体天井と火報器の間に介在し、建造物から発生する湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止するように構成するものである。具体的には、前記取付具は、その下面に火報器を取付けて保持する板状部材であり、望ましくは、板状部材はその外周縁部に下方に向けて折り曲げた水切り用庇部を備える。
【0023】
建造物からの湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止する構成は、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴から、少なくとも火報器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火報器を内部に収容し、建造物の躯体天井から隔離する板状部材である。
【0024】
また、建造物からの湿気や水滴が火報器に浸入するのを防止する構成である、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴から、少なくとも火報器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火報器を内部に収容し、建造物の躯体天井から隔離する板状部材を有する火報器の取付具によって、建造物の躯体天井の火報器の取付用穴に取付けられた火報器である。
【0025】
さらに、前記建造物の躯体天井の火報器の取付用穴に取付けられた火報器を端末装置として使用し、火報器と、火報器からの信号を発信する発信機と、該発信機から発信される火災報知あるいは火災報知用感知信号を受信する受信機と、該受信機が受信した信号を中継する中継器と、該中継器からの信号を、火災報知あるいは火災報知用感知情報として表示、伝達する表示機、表示灯ならびに報知用音響装置とで構成した火災報知システムである。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例1として、火報器の取付具ならびにこの取付具によって取付けられた火報器について、図1〜図3を参照して説明する。
【0027】
図1は、結露しにくい板状部材で構成した取付具5と、この取付具5によって取付けた火報器1の外観斜視図である。
【0028】
火報器1は、取付具5の下面板部501の下面にねじ等(図示省略)によって固定して保持し、取付具5の上面板部502をねじ等(図示省略)によって、建造物の躯体天井2に固定するようにして取付ける。取付具5の下面板部501と上面板部502の間は、立上げ部503によって所定の段差を形成するように連結する。そして、信号ケーブル301,302は、一束にまとめて貫通孔504,505,506(詳細は図3 a)参照)を通して火報器1に接続する。
【0029】
板状部材によって構成する取付具5において、少なくとも下面板部501の面積は、その下面に取付けて保持する火報器1の全体を覆うことによって上から流れ(滴り)落ちる水滴を受け止めて火報器1に浸入するのを防止して防滴機能を発揮することができる大きさとする。そして、下面板部501の外周縁部及び上面板部502の外周縁部には、下方に向けて折り曲げた水切り用庇部507を形成することにより、取付具5の上面に付着した水滴の下面への回り込みを防止する。
【0030】
図2は、その詳細な断面形状を示しており、図3は、取付具5の形状を示している。
【0031】
図2のa)は、図1に示した火報器1の取付け状態における断面図であり、取付具5の上面板部502は、その上面を躯体天井2に設けられた取付用穴である埋め込みボックス201に当ててねじ等(図示省略)によって固定し、火報器1は、下面板部501の下面にねじ等(図示省略)によって固定して保持する。上面板部502と下面板部501との間には、防滴効果を高めるために、所定間隔を形成するための立上げ部503を設けている。このようにして、火報器1は、結露等により発生する水滴の落下位置、いわゆる埋め込みボックス201の位置から、少なくとも火報器1の最大径分を横にずらして位置させることができる構成とする。
【0032】
防滴に対し重要な要素を占める配線に関しては、この実施例1では、躯体天井2に配設された埋め込み配管202からの信号ケーブル301,302の束を、上面板部502に設けられた貫通孔504(図3 a)参照)を通して下方に引出し、立上げ部503の貫通孔505(図3 a)参照)に通して、さらに下面板部501に設けた貫通孔506(図3 a)参照)を通して火報器1に接続するように配線する。
【0033】
結露等の水滴が信号ケーブ301,302の束を伝って火報器1に浸入するのを防止するために、上面板部502と立上げ部503との間の信号ケーブル301,302には、水滴の伝わりを防止するためのケーブル折り返し部303を設ける。
【0034】
そして、信号ケーブル301,302の束を通すために上面板部502,立上げ部503,下面板部501に形成した貫通孔504,505,506には防滴用のシール材(図示省略)を嵌着して防水する。
【実施例2】
【0035】
図2のb)と図3のb)を参照して実施例2を説明する。実施例1と共通する構成については、重複する説明を省略する。
【0036】
この実施例2は、板状部材をコ字状に折り曲げた形状にして下面板部501と上面板部502を上下2段に重なるように形成すると共に下面板部501と上面板部502の間に立上げ部503から仕切り板部508を突出させた取付具5である。
【0037】
この実施例2において、取付具5の上面板部502を埋め込みボックス201に取付けると、下面板部501に取付けた火報器1は、埋め込みボックス201の直下に位置するようになることから、躯体天井2から火報器1に向けて流下する水滴が増えるが、仕切り板部508による防滴機能が付加されていることから、水滴が火報器1に浸入するのを防止することができる。
【0038】
水滴が信号ケーブル301,302の束を伝って火報器1に浸入するのを防止するためのケーブル折り返し部303は、下面板部501及び仕切り板部508の外側に位置するように形成する。
【0039】
実施例1,2の取付具5には、付着した水滴を火報器1に降りかけないように確実に下方へ落とすことができるように、上面板部501と下面板部502の外周縁部に下方に向けて折り曲げた水切り用庇部507を設けているが、周囲の温度変化ならびに湿度変化の程度によっては、水切り用庇部507のない平坦な上面板部502と下面板部501とすることができる。
【0040】
これらの実施例1,2の取付具5によれば、次ぎの効果を得ることができる。
【0041】
1)火報器1の取付け位置を、埋め込みボックス201から横へずらすことにより、水滴の影響を防止できる。
【0042】
2)信号ケーブル301,302の途中にケーブル折り返し部303を設けたことにより、水滴が信号ケーブルを伝って流下して火報器1に浸入するのを防止できる。
【0043】
3)躯体天井2から立上げ部503の寸法分の間隔を持った位置に下面板部501を設けたことにより、直接的な温度の伝達による結露、いわゆる、火報器下面での結露を防止することができる。
【実施例3】
【0044】
次に、実施例1,2で説明した取付具5によって取付けた火報器1を使用した比較的小規模な火災警報システムの実施例3を図4を参照して説明する。
【0045】
実施例1,2の取付具5を使用して取付ける火報器1は、光電・イオン式スポット型煙感知器、定温式スポット型熱感知器、差動式スポット型熱感知器、差動式分布型熱感知器(空気管式)等を環境条件によって選択することができる。
【0046】
これらの火報器1で感知して出力される火災検出信号を受信機6で受信し、その信号を中継器7を経由して表示機等の表示手段8に伝達して所定の場所に表示する。
【0047】
さらに、火災を感知した場所においては、火報器1から出力される火災検出信号によって表示灯9ならびに地区音響装置10を制御して周囲に報知する構成である。
【0048】
発信機11は、この発信機11の上位の火災報知システムに対して火災検出信号の伝達を行い、上位の火災報知システムへの連携とシステムの大規模化に対応する構成である
【符号の説明】
【0049】
1…火災報知器あるいは火災感知器(火報器)、2…躯体天井、201…埋め込みボックス、301,302…信号ケーブル、303…ケーブル折り返し部、5…取付具、501…下面板部、502…上面板部、503…立上げ部、504〜506…貫通孔、507…水切り用庇部、508…仕切り板部、6…受信機、7…中継器、8…表示手段、9…表示灯、10…地区音響装置、11…発信機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の躯体天井に火災報知器あるいは火災報知用感知器を載置する取付具であって、建造物の躯体天井と火災報知器あるいは火災報知用感知器の間に介在し、建造物から発生する湿気や水滴が、火災報知器あるいは火災報知用感知器に浸入するのを防止する構成を有することを特徴とする火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付具。
【請求項2】
請求項1において、建造物からの湿気や水滴が火災報知器に浸入するのを防止する構成は、建造物の躯体天井の火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付用穴から、少なくとも火災報知器あるいは火災報知用感知器の最大径以上を横にずらし、かつ、天面から所定間隔を保持する板状部材、あるいは、火災報知器あるいは火災報知用感知器を下面に取付けし、建造物の躯体天井から隔離する板状部材であることを特徴とする火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付具。
【請求項3】
請求項1〜3の1項に記載した火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付具によって、建造物の躯体天井の火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付用穴に取付けられたことを特徴とする火災報知器。
【請求項4】
請求項1〜3の1項に記載した火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付具によって、建造物の躯体天井の火災報知器あるいは火災報知用感知器の取付用穴に取付けられたことを特徴とする火災報知用感知器。
【請求項5】
請求項3または4に記載した火災報知器あるいは火災報知用感知器と、火災報知器あるいは火災報知用感知器からの信号を発信する発信機と、この発信機から発信される火災検出信号を受信する受信機と、この受信機が受信した信号を中継する中継器と、この中継器からの信号を火災報知あるいは火災報知用感知情報として表示、伝達する表示機、表示灯ならびに報知用音響装置とを備えたことを特徴とする火災報知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−34165(P2011−34165A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177341(P2009−177341)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】