説明

火災検知器の試験器

【課題】本発明は外観が同一又は類似する火災検知器が混在し、それぞれが異なる特性を有する場合であっても、設定の切換等を行うことなく試験を行うことができる火災検知器の試験器を得る。
【解決手段】本発明に係る火災検知器の試験器1は、検知可能な点滅周波数帯域が一部重なる複数種類の火災検知器の動作試験を、模擬火災光となる発光部3を発光させて行う火災検知器の試験器であって、発光部3を発光制御する発光制御部5を有し、発光制御部5は、前記複数種類の火災検知器のいずれの火災検知器においても火災と判定できる点滅周波数と発光強度で発光部3を発光制御することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬光源を用いて火災検知器の動作試験を行う火災検知器の試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内に設置される火災検知器は、全て同一機種とは限らず、異なる機種が設置される場合がある。このような場合、機種ごとに特性(検知可能な点滅周波数帯域や増幅率等)が異なっており、火災検知器の動作試験を行うための試験器も、機種ごとに複数用意する必要があった。
【0003】
このような問題を解決する従来例として、光源の発光強度、点滅周波数等の設定を切り替えることにより、1台で複数機種の火災検知器の動作試験を行うことができる火災検知の試験器がある。このような火災試験器の一例として、特許文献1に開示されるような「試験光源を点滅制御することにより、疑似火炎光を生成して発光する炎検知装置用の動作試験器において、前記試験光源から発せられる光エネルギーの強度の時間的変化を可変的に設定制御する試験光源発光制御手段を備えたことを特徴とする炎検知装置の動作試験器」(特許文献1の請求項1参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−197557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トンネル内に設置された火災検知器の1つが故障した場合、その火災検知器そのものを後継機種である新機種の火災検知器と交換して設置する場合がある。この場合、旧機種と新機種では、特性が異なるため、旧機種と新機種のそれぞれに対応した試験器を準備する必要がある。
このような場合、例えば特許文献1に開示されたような複数機種に対応して切換が可能になった試験器を用いることで、1台の試験器での試験を行うことができる。
しかしながら、特許文献1に開示されたような設定切換によっては対応できない場合がある。
【0006】
交換対象となった機種の後続機種である新機種の火災検知器は、意匠的な理由から旧機種の火災検知器と同一または類似のデザインを採用する場合がほとんどである。また、火災検知器収納箱に収納され、外からは受光ガラスの部分しか見えないこともある。
そのため、同一デザインの場合や、火災検知器収納箱に収納されている場合には外観からは旧機種か新機種かを判別することができない。また、火災検知器を設置した位置が高所である場合や、照明の関係で見えにくい場合、類似した外観の場合であっても、ほとんど区別することができない。
このように、外観が同一又は類似した火災検知が混在して設置されている場合において、動作試験を行うときに外観から区別ができないと特許文献1に記載のように外観を認識して設定を切り替えるタイプのものでは対応できない。
【0007】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、外観が同一又は類似する火災検知器が混在し、それぞれが異なる特性を有する場合であっても、設定の切換等を行うことなく試験を行うことができる火災検知器の試験器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
火災検知器は、前述のとおり機種ごとに特性が異なっている。図4に2種類((機種Aの火災検知器(以下、単に「機種A」という)、機種Bの火災検知器(以下、単に「機種B」という)))の火災検知器の特性を説明する説明図を示す。図4においては、縦軸が増幅率を示し、横軸が各火災検知器に入射する光の点滅周波数を示している。
【0009】
機種Aは点滅周波数faを中心周波数としたバンドパスフィルタを用いたものである。機種Aはfaからfaまでの間の点滅周波数を検知可能であり、この間を図4中に点滅周波数帯域Raで示している。機種Aは点滅周波数帯域Raに含まれる点滅周波数fの光が入射されると、その光の発光強度EIに比例して電気信号を発生させ、その電気信号を所定の増幅率で増幅して、火災判定に用いるような電圧を得ている。この増幅率は、点滅周波数fの関数であるからAa(f)と表される。
なお、以下の説明において、電気信号を所定の増幅率で増幅させたものを「増幅電圧L」と表記し、機種Aの増幅電圧Lは添字aをつけて「増幅電圧La」と表記する。
例えば、機種Aは点滅周波数faの光を検知すると、検知することで発生した電気信号をAa(fa)倍に増幅し、増幅電圧Laを得るものである。
【0010】
機種Bは点滅周波数fbを中心周波数としたバンドパスフィルタを用いたものである。機種Bはfbからfbまでの間の点滅周波数を検知可能であり、この間を図4中に点滅周波数帯域Rbで示している。また、機種Bの増幅率はAb(f)で表される。機種Bは、例えば、点滅周波数fbの光を検知すると、検知することで発生した電気信号をAb(fb)倍に増幅し、増幅電圧Lbを得るものである。
【0011】
機種A、B共に、火災と判定するために必要な増幅電圧La、Lbの閾値Tが予め設定されており、増幅電圧La、Lbが閾値Tを超えたときに火災と判定する。
閾値Tは機種A、Bで同じ値でもよいし、異なっていてもよい。なお、以下の説明では、閾値Tは機種A、Bで同じ値とする。
【0012】
図4に示すように、機種Aの増幅率曲線Aa(f)および機種Bの増幅率曲線Ab(f)は共に、頂部が平らな山状の形状をしており、該頂部以外の点滅周波数帯域では、該頂部の点滅周波数帯域より増幅率が低く設定されている。このような増幅率が低く設定されている点滅周波数帯域は、火災検知器は発光強度EIを強くしなければ火災と判定できないため、従来の火災検知器の試験器では、この点滅周波数帯域は用いられてこなかった。
【0013】
一方、図4に示すように、機種A、Bの検知可能な点滅周波数帯域は、増幅率が低く設定されている部分の一部の箇所(図4の領域R)で重なっている。
点滅周波数帯域が重なる領域Rのような増幅率が低く設定されている部分でも、発光強度EIを強くすれば、火災検知器は火災と判定することが可能である。そこで、発明者は、この点滅周波数帯域が重なる領域Rにおいて、発光強度EIを強くした光源を用いれば、異なる機種A、Bにおいても単一の光源で試験可能であるとの知見を得、この知見に基づいて本発明を完成したものである。具体的には以下のような構成からなるものである。
【0014】
(1)本発明に係る火災検知器の試験器は、検知可能な点滅周波数帯域が一部重なる複数種類の火災検知器の動作試験を、模擬火災光となる発光部を発光させて行う火災検知器の試験器であって、前記発光部を発光制御する発光制御部を有し、該発光制御部は、前記複数種類の火災検知器のいずれの火災検知器においても火災と判定できる点滅周波数と発光強度で前記発光部を発光制御することを特徴とするものである。
【0015】
(2)また、前記(1)に記載のものにおいて、発光制御部は、各火災検知器において増幅される電圧が同値となる点滅周波数と発光強度で発光部を発光制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る火災検知器の試験器は、検知可能な点滅周波数帯域が一部重なる複数種類の火災検知器の動作試験を、模擬火災光となる発光部を発光させて行う火災検知器の試験器であって、前記発光部を発光制御する発光制御部を有し、該発光制御部は、前記複数種類の火災検知器のいずれの火災検知器においても火災と判定できる点滅周波数と発光強度で前記発光部を発光制御するようにしたので、外観が同一又は類似する火災検知器が混在し、それぞれの特性が完全に一致しない場合であっても、設定の切換等を行うことなく試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る火災検知器の試験器の構成を概説するブロック図である。
【図2】試験対象の火災検知器の機種ごとの特性と使用可能な周波数帯域との関係を説明する図である。
【図3】試験対象の火災検知器の機種ごとの特性とより好ましい使用可能な周波数帯域との関係を説明する図である。
【図4】試験対象の火災検知器の機種ごとの特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の実施の形態においては、前記の2種類(機種A、機種B)の動作試験を行うことができる火災検知の試験器1(以下、単に「試験器1」という)を例に挙げて、図1乃至図3に基づいて説明する。
試験器1は、検知可能な点滅周波数帯域が一部重なる複数種類の火災検知器の動作試験を、模擬火災光となる発光部3を発光させて行う火災検知器の試験器1であって、発光部3を発光制御する発光制御部5を有し、発光制御部5は、前記複数種類の火災検知器のいずれの火災検知器においても火災と判定できる点滅周波数と発光強度で発光部3を発光制御することを特徴とするものである(図1を参照)。
以下、試験器1の各構成を詳細に説明する。
【0019】
<試験器>
試験器1は、図1に示すように、模擬火災光となる発光部3と、発光部3を発光制御する発光制御部5を備えている。また、試験器1は電源部7と、発光部3、発光制御部5に電源の供給を入切する電源スイッチ9を備えている。
【0020】
発光制御部5は、発光部3を所定の点滅周波数fと発光強度EIで発光させるように制御する。発光制御部5には、そのための点滅周波数fと発光強度EIの値が予め決定されて設定されている。
発光制御部5に設定する点滅周波数fと発光強度EIを決定するには、点滅周波数帯域が重なる領域Rに含まれる任意の点滅周波数fを選び、増幅電圧LaおよびLbが閾値Tを超えるように、発光強度EIを決定すればよい。
【0021】
例えば、設定する点滅周波数を、図2に示すように点滅周波数をfとし、発光強度をEIとした場合、機種Aの増幅電圧Laは式(1)で表される。
La=EI×Aa(f) ・・・(1)
一方、機種Bの増幅電圧Lbは式(2)で表される。
Lb=EI×Ab(f) ・・・(2)
発光強度EIの値は、増幅電圧LaおよびLbが閾値Tを超えるような強さに決定すればよい。本例では、増幅率Ab(f)が増幅率Aa(f)より小さいので、発光強度EIは、Lbが閾値Tを超えるような値とする。
【0022】
閾値Tを超えるための必要最低限の発光強度EIの強さは、上述のように増幅率がいずれか低い方の機種に合わせて決定される。しかし、増幅率が大きい方の機種にとっては、不必要に強い値であり、発光に用いられるエネルギーの無駄となる。
そのため、より好ましくは、機種Aと機種Bの増幅率が等しくなるような点滅周波数fcを選択すればよい。点滅周波数fcは、図3に示すように、機種Aの増幅率曲線Aa(f)および機種Bの増幅率曲線Ab(f)が交わる点における点滅周波数である。この点滅周波数fcの増幅率はAa(fc)でありAb(fc)と等しい。なお、このときの増幅電圧をLc(=La=Lb)、発光強度をEIcとするとLcは式(3)で表される。
Lc=EIc×Aa(fc) ・・・(3)
【0023】
なお、点滅周波数fと発光強度EIを決定するに際して、基本的に増幅電圧LaおよびLbが閾値Tを超えるようなものであればどのような値でもよい。ただし、火災検知器内の増幅回路には、電圧の増幅に制限があり、入力値が大きくなりすぎると、入力値と出力値が比例しなくなる場合がある(以下、これを「飽和」という)。このような場合、増幅率を下げるなどして入力値と出力値が比例するように調整されるが、かかる調整を行うと火災判定が遅くなってしまう場合がある。そのため、増幅電圧LaおよびLbは、閾値Tを超え、かつ、火災検知器内の増幅回路が飽和を起こさないような値とする方がよい。
従って、点滅周波数fと発光強度EIは、増幅電圧LaおよびLbが閾値Tを超え、かつ、火災検知器内部の増幅回路が飽和を起こさないように決定するのが好ましい。
【0024】
次に、機種Aと機種Bが混在して設置されている設置現場において火災検知器の試験を行う場合について、上記のように構成された本実施の形態の試験器1の動作を説明する。
まず、電源スイッチ9を入にし、発光部3と発光制御部5に電源部7からの電源を供給する。発光制御部5は設定に基づき、所定の点滅周波数fと発光強度EIで発光部3を発光制御する。火災検知器に試験器1を当てて、試験対象が機種Aであった場合、増幅電圧Laは式(1)で表される値となる。増幅電圧Laは閾値Tを超えるものであるため、火災検知器は試験器1の光を火災と判定する。
試験対象が機種Bであった場合も同様であり、増幅電圧Lbは式(2)で表される値となり、その値は閾値Tを超えるものであるため、火災検知器は試験器1の光を火災と判定する。
【0025】
以上のように、本実施の形態の試験器1を用いれば、外観が同一又は類似する火災検知器が混在し、それぞれの特性が完全に一致しない場合であっても、設定の切換等を行うことなく試験を行うことができる。
【0026】
なお、上記実施の形態では、試験対象の機種は2種類であったが、3種類以上の場合にも本発明は適用できる。例えば試験対象の機種が3種類であった場合、各機種の増幅電圧Lが閾値T(もしくはそれぞれの機種の閾値Tが異なる場合は、それぞれの閾値T)を超えるように、点滅周波数fと発光強度EIを決定すればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 試験器
3 発光部
5 発光制御部
7 電源部
9 電源スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知可能な点滅周波数帯域が一部重なる複数種類の火災検知器の動作試験を、模擬火災光となる発光部を発光させて行う火災検知器の試験器であって、
前記発光部を発光制御する発光制御部を有し、該発光制御部は、前記複数種類の火災検知器のいずれの火災検知器においても火災と判定できる点滅周波数と発光強度で前記発光部を発光制御することを特徴とする火災検知器の試験器。
【請求項2】
発光制御部は、各火災検知器において増幅される電圧が同値となる点滅周波数と発光強度で発光部を発光制御することを特徴とする請求項1記載の火災検知器の試験器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−105369(P2013−105369A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249582(P2011−249582)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】