説明

火災検知器

【課題】汚損試験を行う機能を有していても、火災の検知の遅れとならないような火災検知器を得る。
【解決手段】火災検知器1は、火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部3と、火災検出部3の検出値を入力して該検出値または該検出値の変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災であると判定する火災判定部5と、火災検出部3と火災判定部5が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部7とを備えた火災検知器において、試験部7の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部9を有し、火災予兆確認部9は、火災検出部3の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部11と、火災予兆判定部11が火災の予兆無しと判定した場合に試験部7の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には試験部7による試験を行わないように試験部7を制御する試験制御部13とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎を観測して得られる輻射エネルギーを検出することにより、炎を検知して火災の発生を判定する火災検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用や鉄道用等のトンネル内には、トンネル内で発生した火災を検知するための火災検知器がトンネル内の壁面に所定間隔、例えば、25m間隔で配置されている。
このような火災検知器の一般的な構造を概説する。
火災検知器は、本体ケースと、該本体ケースに取り付けられた上部カバーと、該上部カバーの略中央部においてトンネル内部方向に突出するように組み付けられたドーム状の透光性の受光ガラスと、該受光ガラスの内部に収納され、火炎から放射される輻射光を検出する受光素子(検知センサ)と、受光素子により検出された信号を増幅する増幅回路や火災判断を行う信号処理回路等が搭載された回路基板、受光ガラスの周辺に配置され、受光ガラスの汚れ状態等を検知するための試験光を投光するチェックランプ(試験光源)が収納されたドーム状のグローブと、を有して構成されている。
【0003】
火災検知器に設けられているドーム状の受光ガラスは、一つの火災検知器が広範囲を監視区域にしている関係から、トンネル内に大きく突出せざるを得ない構造を有している。
トンネル内には、車両から排出される煤煙や粉塵、土砂、凍結防止剤等の化学物質等、汚れの原因となる様々な物質(以下、「汚れ原因物質」という)が浮遊しているため、例えば、これらの物質が気流に乗って飛来し、ドーム状の受光ガラスの気流上流側に直接衝突して汚れとして付着する。受光ガラスの汚れは、内部に収納された受光素子の受光量を減少させて、検知感度を低下させることになるため、火災検知器の性能を維持するためには、頻繁に清掃作業を行わなければならない。
【0004】
清掃作業の時期を知るための機能を備えた火災検知器として、ドーム状の受光ガラスの周辺に、受光ガラスの汚れ状態を検知するための試験光を発するチェックランプを配置して、定期的に受光ガラスの汚れ状態(汚損度)を検出することにより、上記清掃作業の時期を診断し、報知する機能を備えたものがある(特許文献1の背景技術参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−146947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
火災検知器において、受光ガラスの汚損度を検出するための試験(汚損試験)は必要であるが、汚損試験中に仮に火災が発生したような場合には、火災の検知ができないという問題がある。これは汚損試験の試験間隔が短いような場合には特に問題となる。
【0007】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、汚損試験を行う機能を有していても、火災の検知の遅れとならないような火災検知器を得ることを目的としている。
【0008】
(1)本発明に係る火災検知器は、火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部と、該火災検出部の検出値を入力して該検出値または該検出値の変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災であると判定する火災判定部と、前記火災検出部と前記火災判定部が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部とを備えた火災検知器において、
前記試験部の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部を有し、該火災予兆確認部は、前記火災検出部の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部と、該火災予兆判定部が火災の予兆無しと判定した場合に前記試験部の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には前記試験部による試験を行わないように前記試験部を制御する試験制御部とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記火災予兆判定部は、火災現象に基づく物理量の変化率が予め定めた値を超えたときに火災の予兆ありと判定することを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記火災予兆判定部は、火災現象に基づく物理量またはその物理量の変化率のいずれかが所定の値を超えたときに火災の予兆ありと判定することを特徴とするものである。
【0011】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記火災予兆判定部は、火災予兆判定を行う閾値が前記火災判定の閾値よりも低く設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
(5)また、本発明に係る火災検知器は、火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部と、該火災検出部の検出値を入力して該検出値または該検出値の変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災であると判定する火災判定部と、前記火災検出部と前記火災判定部が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部とを備えた火災検知器において、
前記試験部の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部を有し、該火災予兆確認部は、火災現象に基づく物理量であって前記火災検出部が検出する物理量とは異種の物理量を検出する火災予兆検出部と、該火災予兆検出部の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部と、該火災予兆判定部が火災の予兆無しと判定した場合に前記試験部の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には前記試験部による試験を行わないように前記試験部を制御する試験制御部とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、火災検出部と火災判定部が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部を備えた火災検知器において、前記試験部の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部を有し、該火災予兆確認部は、前記火災検出部の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部と、該火災予兆判定部が火災の予兆無しと判定した場合に前記試験部の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には前記試験部による試験を行わないように前記試験部を制御する試験制御部とを備えたことにより、試験実施の前に火災予兆を判定し、火災予兆があった場合には試験実施を行わないようにしたので、試験実施によって火災検知遅れが生ずることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る火災検知器の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る火災検知器の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態に係る火災検知器1は、火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部3と、火災検出部3の検出値を入力して該検出値が予め設定した火災判定閾値を超えると火災と判定する火災判定部5と、火災検出部3と火災判定部5が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部7とを備えた火災検知器1において、試験部7の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部9を備えたものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<火災検出部>
火災検出部3は、火災によって起こる現象を火災監視データとして検知する。火災検出部3の具体例としては、炎が発生する赤外線の波長とゆらぎを検知することで火災を検出するものが挙げられる。
【0017】
<火災判定部>
火災判定部5は、火災検出部3の検出値を入力して該検出値またはその変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災と判定する。
火災判定部5が火災と判定すると、火災信号を防災受信盤10に送信する。火災信号を受信した防災受信盤10は、例えばブザーを鳴動させるなどして火災発生を伝える。
【0018】
<試験部>
試験部7は、火災検出部3と火災判定部5が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔(周期)で行う。具体的には、タイマーによって定めた所定の周期で試験用光源8を発光させ、その発光を火災検出部3が入力して火災判定部5が火災を判定できるかどうかの試験を行う。
試験部7の一部を防災受信盤10に設け、防災受信盤10からの指令によって機能試験を行うようにしてもよい。
試験の周期は例えば、100秒以内で行い、具体的には例えば30秒毎に行う。
試験によって火災判定部5が試験火災であると判定すると火災検知器が正常であるという信号を防災受信盤10に発信し、試験火災信号を受信した防災受信盤10で例えばブザーを鳴動させるなどして、火災発生を伝える。また、盤面に正常であることを表示する等してもよい。
試験火災信号が受信されない場合には、火災検知器の故障や汚損が考えられ、火災検知器異常等の表示を行う。
試験の実行に要する時間は、例えば1台当たり15秒程度である。
【0019】
<火災予兆確認部>
火災予兆確認部9は、試験部7の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う。この機能を実行するため、火災予兆確認部9は、火災検出部3の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部11と、火災予兆判定部11の判定により火災の予兆無しの場合に前記試験部7の試験を開始し、予兆有りの場合には前記試験部7による試験を行わないように試験部7を制御する試験制御部13とを備えている。
【0020】
火災予兆判定部11による判定は、火災判定部5と同様に火災検出部3の検出信号に基づいて行われる。火災予兆判定部11において、火災予兆ありと判定する閾値は火災と判定される閾値よりも低く設定する。例えば、電圧レベルや冗長回数などの判定レベルを通常の火災判定条件の50%程度に下げた条件とする。
なお、火災予兆判定部11による判定を、火災検出部3の検出信号の変化率に基づいて火災予兆の有無を判定するようにしてもよい。この場合におい、火災判定部5の火災判定を火災検出部3の検出値の変化率で行う場合には、火災予兆判定部11による火災予兆ありと判定する閾値は火災と判定される閾値よりも低く設定する。
【0021】
また、火災予兆判定部11における予兆判定は、直前またはそれ以前のある時点の火災監視データと、一番最近の火災監視データを用いてそれらの変化率を基準にして行うようにしてもよい。
この場合、変化率が閾値より大きい場合には予兆ありと判定し、変化率が閾値よりも低い場合には予兆なしと判定する。
【0022】
また、上記の2つの予兆判定、すなわち火災と判定される物理量と同種の物理量によって行う予兆判定とそれとは異種の物理量(例えば温度)によって行う予兆判定とを組み合わせて、いずれか一方の予兆判定における検出値が閾値を超えたときに予兆ありと判定するようにしてもよい。
【0023】
上記のように構成された本実施の形態の火災検知器1の動作を図2のフローチャートに基づいて説明する。
火災判定部5が火災検出部3の検出データに基づいて火災監視データを収集する(S1)。火災判定部5が収集した火災検出部3の検出データに基づいて火災の有無を判定する(S3)。このとき火災ありと判定された場合には、火災判定部5が火災信号を防災受信盤10に送信する(S5)。
S3の判定において火災無しと判定された場合には、試験部7が試験実施のタイミングかどうかを判定する(S7)。試験実施タイミングでない場合には、火災判定部5が再び火災の監視を行う(S1)。
【0024】
他方、S7の判断において、試験実施タイミングであると判定された場合には、火災予兆確認部9が火災予兆判定を行う。火災予兆判定の結果、火災予兆なしと判定されると、試験制御部13が試験部7に対して機能試験の実行を指示する。試験部7は試験制御部13から試験実行の指示を受けると試験を実行し、その結果を防災受信盤10に送信する(S11)。試験に要する時間Cは、例えば15秒程度である。
S9の予兆判定の結果、火災予兆ありと判定された場合には、試験制御部13は試験部7に対して機能試験を行わないように指示する。そして、試験が行われないと、火災判定部5が通常の火災の監視を行う(S1)。
【0025】
以上のように、本実施の形態においては、試験実施の前に火災予兆を判定し、火災予兆があった場合には試験実施を行わないで通常の火災監視を優先するようにしたので、試験実施によって火災検知遅れが生ずることがない。
【0026】
なお、上記の実施の形態においては、火災予兆判定部11による判定を火災判定部5と同様に火災検出部3の検出信号に基づいて行うため、火災予兆判定部11において火災予兆を判定するための火災現象に基づく物理量は火災検出部3が火災判定を行う物理量と同種のものとなる。
しかし、火災予兆判定部11に火災予兆を行うために、火災検出部3とは別の火災現象に基づく物理量(例えば、温度)を検出するための火災予兆検出部を設け、火災予兆判定部11がこの火災予兆検出部の検出信号に基づいて火災予兆判定を行うようにしてもよい。
例えば、可燃物が木材などように炎が出る前にくすぶったりするようなことが想定される場合において、火災検出部3が、炎が発する赤外線の波長を検知するものであったときに、火災予兆検出部として火災検出部3とは異種の物理量、例えば対象物の表面温度を高速で測定できるようなものが有効である。
【0027】
上記のフローチャートで説明した動作における各動作の時間を参考に示すと、試験が行われない場合の火災監視周期(A)は5秒、試験を行う周期(B)は30秒、試験実行に要する時間(C)は15秒である。
【0028】
なお、火災予兆判定部11によって火災予兆ありと判定された後、火災判定部によって火災ありの判定がされず、再び火災予兆判定部11によって火災予兆ありと判定されたような場合には、火災予兆判定部11から防災受信盤10に警報を発信するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 火災検知器
3 火災検出部
5 火災判定部
7 試験部
8 試験用光源
9 火災予兆確認部
10 防災受信盤
11 火災予兆判定部
13 試験制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部と、該火災検出部の検出値を入力して該検出値または該検出値の変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災であると判定する火災判定部と、前記火災検出部と前記火災判定部が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部とを備えた火災検知器において、 前記試験部の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部を有し、該火災予兆確認部は、前記火災検出部の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部と、該火災予兆判定部が火災の予兆無しと判定した場合に前記試験部の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には前記試験部による試験を行わないように前記試験部を制御する試験制御部とを備えたことを特徴とする火災検知器。
【請求項2】
前記火災予兆判定部は、火災現象に基づく物理量の変化率が予め定めた値を超えたときに火災の予兆ありと判定することを特徴とする請求項1記載の火災検知器。
【請求項3】
前記火災予兆判定部は、火災現象に基づく物理量またはその物理量の変化率のいずれかが所定の値を超えたときに火災の予兆ありと判定することを特徴とする請求項1記載の火災検知器。
【請求項4】
前記火災予兆判定部は、火災予兆判定を行う閾値が前記火災判定の閾値よりも低く設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の火災検知器。
【請求項5】
火災現象に基づく物理量を検出する火災検出部と、該火災検出部の検出値を入力して該検出値または該検出値の変化率が予め設定した火災判定閾値を超えると火災であると判定する火災判定部と、前記火災検出部と前記火災判定部が正常か否かの機能試験を予め定めた所定間隔で行う試験部とを備えた火災検知器において、 前記試験部の前記機能試験の前に火災予兆の有無の確認を行う火災予兆確認部を有し、該火災予兆確認部は、火災現象に基づく物理量であって前記火災検出部が検出する物理量とは異種の物理量を検出する火災予兆検出部と、該火災予兆検出部の検出信号に基づいて火災予兆の有無を判定する火災予兆判定部と、該火災予兆判定部が火災の予兆無しと判定した場合に前記試験部の試験を開始し、火災の予兆有りと判定した場合には前記試験部による試験を行わないように前記試験部を制御する試験制御部とを備えたことを特徴とする火災検知器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−215946(P2012−215946A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79066(P2011−79066)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】