説明

火花点火式内燃機関の制御装置

【課題】燃焼室内での混合気の燃焼が不十分であった場合に未燃燃料が気筒外に排出される問題を緩和ないし解消する。
【解決手段】点火コイルを介して点火プラグに高電圧を印加し、点火プラグに生じる火花放電により燃焼室内の混合気に着火して燃焼させる膨張行程において、燃焼状態の悪化を検知した場合に、同膨張行程の終期に訪れる排気バルブの開弁タイミングの前に燃焼室内にマイクロ波電界を発生させて、燃焼室内でプラズマを生成、成長させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火式内燃機関に実装されている点火装置では、イグナイタが消弧した際に点火コイルに発生する高電圧を点火プラグの中心電極に印加することで、点火プラグの中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起、点火する。
【0003】
近時では、気筒の燃焼室内にある混合気に確実に着火させ、安定した火炎を得ることができるようにするために、電界発生回路、換言すればマグネトロンが出力するマイクロ波若しくは高周波発振器が出力する高周波を燃焼室内に放射する「アクティブ着火」法が試みられている(例えば、下記特許文献を参照)。アクティブ着火法によれば、中心電極と接地電極との間の空間にマイクロ波若しくは高周波電界が形成され、この電界中で発生したプラズマが成長して、火炎伝搬燃焼の始まりとなる大きな火炎核を生成することができる。
【0004】
ところで、燃焼の途中で火炎が弱まる等して混合気の燃焼が不十分であった場合、未燃焼の燃料成分を含んだガスが気筒から排気通路へと排出され、また排気浄化用の三元触媒に到達することとなる。さすれば、排気通路の高温部分で燃料成分が自着火(アフターファイア)したり、触媒内で燃料成分が酸化反応し触媒を過剰に昇温させて触媒の溶損を招いたりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−159477号公報
【特許文献2】特開2011−064162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃焼室内での混合気の燃焼が不十分であった場合に未燃燃料が気筒外に排出される問題を緩和ないし解消することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、点火コイルを介して点火プラグに高電圧を印加し、点火プラグに生じる火花放電により燃焼室内の混合気に着火して燃焼させるものにおいて、燃焼状態の悪化を検知した場合に、燃焼状態の悪化を検知したサイクル(4ストローク機関における吸気−圧縮−膨張−排気の一周期)での膨張行程における排気バルブの開弁タイミングの前に燃焼室内にマイクロ波若しくは高周波電界を発生させることを特徴とする火花点火式内燃機関の制御装置を構成した。
【0008】
つまり、膨張行程の中盤以降に火炎が弱まる等して燃焼が不安定化したときに、燃焼室内に電磁波を放射してプラズマを生成し、同一の膨張行程の中で再度燃焼を促進するようにしたのである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃焼室内での混合気の燃焼が不安定となったとしても、プラズマ生成により火炎を増強して燃料を十分に燃焼させることができる。従って、未燃燃料が気筒外に排出される問題が緩和ないし解消される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び電界発生装置の概略構成を示す図。
【図2】同実施形態における火花点火装置の回路図。
【図3】同実施形態における正常燃焼時及び不安定燃焼時のそれぞれの筒内圧、イオン電流の推移及びマイクロ波発生フラグを示すタイミング図。
【図4】本発明の変形例としての電界発生装置の概略構成を示す図。
【図5】同変形例における電界発生装置の具体的構成を説明する図。
【図6】同変形例における電界発生装置の要素であるHブリッジの回路図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ10と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGRガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0012】
気筒1の燃焼室の天井部には、点火プラグ13を取り付けてある。図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ13は、点火コイル12にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル12は、半導体スイッチング素子であるイグナイタ11とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0013】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ11が受けると、まずイグナイタ11が点弧して点火コイル12の一次側に電流が流れ、その直後の点火タイミングでイグナイタ11が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側に高電圧が発生する。そして、一次側と二次側とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側にさらに高い誘導電圧が発生する。この高い誘導電圧が点火プラグ13の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で火花放電する。
【0014】
また、本実施形態では、電界発生装置の一であるマイクロ波発生装置を付設している。マイクロ波発生装置は、バッテリを電源とするマグネトロン14及びこれを制御する制御回路15を備えてなる。マイクロ波発生装置は、導波管や同軸ケーブル等を介して点火プラグ13に電気的に接続しており、マグネトロン14が出力するマイクロ波を点火プラグ13に印加し、その中心電極から気筒1の燃焼室内に放射することが可能である。
【0015】
マグネトロン14によるマイクロ波は、火花放電開始と略同時、火花放電開始直前または火花放電開始直後に印加する。マグネトロン14によるマイクロ波と、点火コイル12による高誘導電圧とを重畳して点火プラグ13の中心電極に印加することもできる。
【0016】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0017】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0018】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0019】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0020】
ECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0021】
入力インタフェースには、車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するアクセル開度センサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温を検出する温度センサから出力される吸気温信号d、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気圧(または、過給圧)を検出する圧力センサから出力される吸気圧信号e、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム信号g、燃焼室内でのプラズマの生成及び混合気の燃焼に伴って生じるイオン電流を検出する検出回路から出力されるイオン電流信号h等が入力される。エンジン回転センサは、10°CA(クランク角度)毎にパルス信号bを発する。カム角センサは、720°CAを気筒数で割った角度、三気筒エンジンであれば240°CA毎にパルス信号gを発する。本実施形態におけるイオン電流検出回路は、点火プラグ13に流れるイオン電流を点火コイル12の二次側の回路にて(例えば、点火コイル12の二次側巻線、またはマイクロ波発生装置を点火プラグ13に接続する接続端に発生する二次的な電圧として)測定する。
【0022】
出力インタフェースからは、イグナイタ11に対して点火信号i、マグネトロン14の制御回路15に対してマイクロ波発生指令信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l、EGRバルブ22に対して開度操作信号m、インジェクタ10に対して燃料噴射信号n等を出力する。
【0023】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、点火の際に燃焼室内にマイクロ波電界を発生させるか否か、EGR量(または、EGR率)及びEGRバルブ22の開度といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能であるので説明を割愛する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、nを出力インタフェースを介して印加する。
【0024】
しかして、本実施形態では、点火プラグ13に生じる火花放電により気筒1の燃焼室内の混合気に着火(着火自体は圧縮行程の終期ないし膨張行程の初期になされる)して燃焼させる膨張行程において、当該膨張行程の中盤以降、燃焼状態の悪化を検知した場合に、同じ膨張行程中に燃焼室内にマイクロ波電界を発生させ、以て燃焼を再促進するようにしている。
【0025】
気筒1の燃焼室内で燃焼状態が悪化すると、正常燃焼時と比較して発生するイオン電流の値がより小さくなり、イオン電流の流れる時間もより短くなる。図3に、膨張行程における気筒内の圧力及びイオン電流の推移を示している。図3中、破線は正常燃焼時の推移、実線は不安定燃焼時の推移である。
【0026】
ECU0は、膨張行程中に点火プラグ13を介して検出されるイオン電流の電流値、及び/または、イオン電流の検出時間を判定閾値と比較する。イオン電流値が判定閾値を下回る、及び/または、イオン電流の検出時間が判定閾値より短いならば、燃焼状態が悪化したと判断する。そして、排気バルブ16を開弁するタイミングが未だ訪れていないことを条件として、マイクロ波発生装置から点火プラグ13にマイクロ波を印加して、中心電極から燃焼室内にマイクロ波を放射する制御を実施する。この制御により、燃焼室内にプラズマが生成され、火炎が再び増強されて混合気を十分に燃焼させることができる。
【0027】
本実施形態によれば、点火コイル12を介して点火プラグ13に高電圧を印加し、点火プラグ13に生じる火花放電により燃焼室内の混合気に着火して燃焼させる膨張行程において、燃焼状態の悪化を検知した場合に、同膨張行程の終期に訪れる排気バルブ16の開弁タイミングの前に燃焼室内にマイクロ波電界を発生させる内燃機関の制御装置0を構成したため、膨張行程の中盤以降に火炎が弱まる等して燃焼が不安定化したときに、燃焼室内に電磁波を放射してプラズマを生成し、プラズマを成長させて、同一の膨張行程の中で再度燃焼を促進することが可能となる。従って、排気通路4に排出される未燃燃料成分を可及的に減少させることができるので、排気通路4でのアフターファイアや触媒41の溶損を未然に防ぐことにつながる。
【0028】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、膨張行程中に点火プラグ13に流れるイオン電流を参照して燃焼状態が悪化したか否かを判断していたが、筒内圧を計測する圧力センサを各気筒1に設けているならば、図3に示しているように、筒内圧を参照し、筒内圧の高低に応じて燃焼状態が悪化したか否かを判断することが可能である。要するに、燃焼状態の悪化を検知する手法は一意ではない。
【0029】
燃焼室内でプラズマを生成する目的で燃焼室内に電界を発生させる電界発生装置もまた、マイクロ波発生装置には限定されない。マイクロ波発生装置以外の電界発生装置として、高周波の交流電圧を印加する交流電圧発生回路や、高周波の脈流電圧を印加する脈流電圧発生回路等を挙げることができる。脈流電圧発生回路を採用する場合、周期的に電圧が変化する直流電圧を発生させるものであればよく、その波形も任意であってよい。脈流電圧は、基準電圧(0Vであることがある)から一定周期で一定電圧まで変動するパルス電圧、交流電圧を半波整流した電圧、交流電圧に直流バイアスを加味した電圧等をおしなべて含む。電界発生装置が発振する高周波電圧は、周波数が200kHz〜1000kHz程度、振幅が3kVp−p〜10kVp−p程度であることが好ましい。
【0030】
図4ないし図6に示すように、高周波を発生させる電界発生装置は、バッテリを電源とし、低圧直流を高圧交流に変換する回路を含む。具体的には、約12Vのバッテリ6電圧を300V〜500Vに昇圧するDC−DCコンバータ61と、DC−DCコンバータ61が出力する直流を交流に変換するHブリッジ回路62と、Hブリッジ回路62が出力する交流をさらに高い電圧に昇圧する昇圧トランス63とを要素とする。
【0031】
電界発生装置の出力端には、第一ダイオード64及び第二ダイオード65を介設することが好ましい。第一ダイオード64は、カソードが昇圧トランス63の二次側巻線の信号ラインに接続し、アノードが点火コイル12との結節点であるミキサ66に接続している。第二ダイオード65は、アノードが昇圧トランス63の二次側巻線のグランドラインに接続し、カソードが接地している。これら第一ダイオード64及び第二ダイオード65は、点火タイミングにおいて点火コイル12の二次側から流れ込む負の高圧パルス電流を遮る役割を担う。
【0032】
電界発生装置が発振する高周波電圧は、通常、火花放電開始と略同時、火花放電開始直前または火花放電開始直後に、点火プラグ13の中心電極に印加する。これにより、点火プラグ13の中心電極と接地電極との間の空間に、高周波電界が形成される。そして、高周波電界中で火花放電を行うことによりプラズマが発生し、このプラズマが火炎伝搬燃焼の始まりとなる大きなラジカルプラズマ火炎核を生成する。
【0033】
上記は、火花放電による電子の流れ及び火花放電によって生じたイオンやラジカルが、電界の影響を受け振動、蛇行することで行路長が長くなり、周囲の水分子や窒素分子と衝突する回数が飛躍的に増加することによるものである。イオンやラジカルの衝突を受けた水分子や窒素分子は、OHラジカルやNラジカルになるとともに、イオンやラジカルの衝突を受けた周囲の気体も電離した状態、即ちプラズマ状態となることで、飛躍的に混合気への着火領域が大きくなり、火炎核も大きくなるのである。この結果、火花放電のみによる二次元的な着火から三次元的な着火に増幅され、燃焼が燃焼室内に急速に伝播、高い燃焼速度で拡大することとなる。
【0034】
その上で、点火プラグ13に生じる火花放電により気筒1の燃焼室内の混合気に着火して燃焼させる膨張行程において、制御装置たるECU0が、当該膨張行程の中盤以降、燃焼状態の悪化を検知した場合に、膨張行程の終了前に、即ち排気バルブ16の開弁までに燃焼室内に高周波電界を発生させる処理を実行するのである。これにより、膨張行程の中途で火炎が弱まる等して燃焼が不安定化したとしても、同じ膨張行程の中で再度燃焼を促進することが可能となり、気筒1外に漏出する未燃燃料の量を大きく低減できる。
【0035】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両等に搭載される火花点火式内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
12…点火コイル
13…点火プラグ
14、15…電界発生装置
61、62、63…電界発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火コイルを介して点火プラグに高電圧を印加し、点火プラグに生じる火花放電により燃焼室内の混合気に着火して燃焼させるものにおいて、燃焼状態の悪化を検知した場合に、燃焼状態の悪化を検知したサイクルでの膨張行程における排気バルブの開弁タイミングの前に燃焼室内にマイクロ波若しくは高周波電界を発生させることを特徴とする火花点火式内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate