説明

火花点火式4サイクルリーンバーンエンジン

【課題】高圧縮比の火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンにおいて、冷却損失を低減する。
【解決手段】制御器100は、幾何学的圧縮比εが18≦ε≦40に設定されたエンジン本体(リーンバーンエンジン1)の運転状態が低負荷領域にあるときには、空気過剰率λを2.5以上に、又は、G/Fを35以上に設定しかつ、吸気弁21の閉弁時期を、圧縮行程の中期以降となるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、火花点火式ガソリンエンジンの理論熱効率を高めるべく、その圧縮比を高めると共に、混合気をリーンにしたエンジンが記載されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、冷却損失を低減させて熱効率を向上させる観点から、燃焼室を区画形成する面を、多数の気泡を含んだ断熱材によって構成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−217627号公報
【特許文献2】特開2009−243355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、火花点火式エンジンの理論サイクルであるオットーサイクルにおいては、圧縮比を高めれば高めるほど、また、ガスの比熱比を高めれば高めるほど、理論熱効率が高くなる。このため、前記特許文献1に記載されているような高圧縮比と混合気のリーン化との組み合わせは、熱効率(図示熱効率)の向上に、ある程度は有利になるものの、この場合、圧縮比18程度で図示熱効率が最大になり、それ以上に圧縮比を高めても、図示熱効率は高くならない(逆に、圧縮比を高めれば高めるほど、図示熱効率が低くなる)。これは、混合気がリーンであるため比較的大量の空気がシリンダ内に導入される一方で、そのシリンダ内の大量の空気が、高圧縮比化に伴い大きく圧縮されて燃焼圧力及び燃焼温度が大幅に高くなってしまうためである。つまり、高い燃焼圧力及び燃焼温度によってシリンダの壁面等を通じた熱の放出量が増え、冷却損失が大幅に増大する結果、図示熱効率が低くなってしまうのである。従って、高圧縮比と混合気のリーン化とを組み合わせたエンジンでは、冷却損失を如何にして低減させるかが、熱効率を向上する上で重要になる。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、幾何学的圧縮比が高く設定された火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンにおいて、冷却損失を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、冷却損失は、燃焼室の区画壁に接触する燃焼ガスとその区画壁との温度差に比例することから、圧縮端温度及び圧縮端圧力を低下させ、それによって、燃焼ガス温度を低下させることに着目した。そのために、幾何学的圧縮比εを18≦ε≦40とした高圧縮比エンジンでかつ、その運転状態が低負荷領域にあるときに空気過剰率λを2.5以上、又は、G/Fを35以上とするリーン運転を行う前提で、いわゆる吸気弁の遅閉じを行うことで有効圧縮比を下げることにした。
【0008】
具体的に、ここに開示する火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンは、幾何学的圧縮比εが18≦ε≦40に設定されかつ、吸気、圧縮、膨張及び排気行程からなる燃焼サイクルを実行するよう構成されたエンジン本体と、前記エンジン本体の気筒内に燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記エンジン本体に設けられた吸気弁の、少なくとも閉弁時期の変更を含む動作態様を変更する吸気動作変更手段と、前記エンジン本体の運転状態に応じて、前記燃料噴射弁を通じた前記燃焼室内へ燃料噴射、及び、前記吸気動作変更手段による前記吸気弁の動作態様を制御する制御器と、を備える。
【0009】
そして、前記制御器は、前記エンジンの運転状態が低負荷領域にあるときには、空気過剰率λを2.5以上に、又は、前記気筒内の全ガス重量Gと前記気筒内に供給される燃料の重量Fとの関係G/Fを35以上に設定しかつ、前記吸気弁の閉弁時期を、前記圧縮行程の中期以降となるように設定する。
【0010】
ここで、「低負荷領域」とは、エンジンの運転領域を低負荷領域及び高負荷領域の2つに分けたときの低負荷領域に相当するとしてもよい。また、「圧縮行程の中期以降」とは、圧縮行程を、前期、中期及び後期の3つの期間に区分したときの中期及び後期を意味し、吸気下死点後、60°CA以降に相当する。
【0011】
幾何学的圧縮比εが18≦ε≦40の高圧縮比エンジンは理論熱効率の向上に有利になると共に、その運転状態が低負荷領域にあるときに、空気過剰率λを、2.5以上に、又は、G/Fを35以上に設定するリーン化は、ガスの比熱比が高くなることで理論熱効率の向上にさらに有利になる。一方で、前述の通り、高圧縮比化と混合気のリーン化との組み合わせは、冷却損失の増大により図示熱効率が低下する場合がある。
【0012】
これに対し、前記の構成は、吸気弁の閉弁時期を圧縮行程の中期以降となるように設定する、いわゆる吸気弁の遅閉じを行うことで有効圧縮比を低下させる。このことは、気筒内の圧縮端温度及び圧縮端圧力を低下させるため、燃焼ガスの温度がその分、低下する。その結果、燃焼ガス温と燃焼室の壁温との差温に比例する冷却損失の低減に有利になる。また、有効圧縮比の低下により圧縮比<膨張比になると共に、幾何学的圧縮比が高いことで高い膨張比が確保されるため、燃焼ガスのエネルギを機械仕事に効率よく変換可能になり、排気損失の低減にも有利になる。従って、前記構成のリーンバーンエンジンは、図示熱効率が大幅に高まる。ここで、吸気弁の遅閉じによる有効圧縮比の低下は、吸気弁を吸気行程中に閉弁する、いわゆる吸気弁の早閉じと比較して、気筒内の温度を低く保つ上で有利であり、冷却損失の低減に有効である。
【0013】
前記吸気動作変更手段は、前記吸気弁の開弁時期の変化に対して閉弁時期の変化を大きく変更することによって、その開弁期間を変更する手段であり、前記制御器は、前記吸気弁の閉弁時期を前記圧縮行程の中期以降となるように設定しつつ、前記吸気弁の開弁期間を、0.4mmリフト時点で規定した排気弁の開弁時期に対して、排気上死点を間に挟んでオーバーラップするように設定する、としてもよい。
【0014】
排気上死点を間に挟んで吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とをオーバーラップすることは、気筒内の既燃ガスの掃気性を高め、気筒内の温度低下に有利になる。従って、圧縮端温度が低下して冷却損失の低減に有利になる。
【0015】
火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンは、前記吸気弁及び前記排気弁のオーバーラップ期間内において、当該気筒に連通する排気ポートの圧力を低下させることにより、前記気筒内の掃気を促進する掃気手段をさらに備えてもよい。
【0016】
掃気手段によって気筒内の既燃ガスの掃気が促進されるから、気筒内の温度低下にさらに有利になり、冷却損失の低減に、より一層、有利になる。ここで、掃気手段としては、例えば、高速の排気流速に伴うエゼクタ効果によって、排気ポート内を負圧にする動圧掃気システムを採用してもよい。また、排気脈動によって排気ポート内に負圧波を作用させる、いわゆる4−2−1タイプの排気システムを採用してもよい。
【0017】
前記エンジン本体における吸気側の通路には、前記気筒内に導入する吸気を冷却する冷却手段が設けられている、としてもよい。気筒内に導入する吸気を冷却することは、圧縮端温度の低下に有効であり、冷却損失の低減に有利になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、前記の火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンは、吸気弁の遅閉じを行うことで有効圧縮比を低下させるため、燃焼ガスの温度が低下して冷却損失の低減に有利になると共に、高い膨張比を確保して排気損失の低減にも有利になる。その結果、高圧縮比のリーンバーンエンジンにおいて、図示熱効率が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンの構成を概略的に示す断面図である。
【図2】エンジンの構成を概略的に示す平面図である。
【図3】吸気弁及び排気弁のリフトカーブの一例を示す図である。
【図4】排気系の概略側面図である。
【図5】図2のV−V断面図である。
【図6】第1〜第4気筒の吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを説明するための図である。
【図7】エンジンの制御に係る構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、火花点火式直噴エンジン(以下、単にエンジンとも言う)の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1、2及び7に示すように、エンジン・システムは、エンジン1、エンジン1に付随する様々なアクチュエーター、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエーターを制御するエンジン制御器100を有する。
【0021】
エンジン1は、火花点火式内燃機関であって、複数の、図例では第1〜第4の4つのシリンダ(気筒)11を有する。尚、以下において第1〜第4のシリンダを区別する場合は、それぞれ11a、11b、11c、11dの符号を付し、第1〜第4のシリンダを総称する場合は符号11を付す。エンジン1は、吸気、圧縮、膨張及び排気行程からなる燃焼サイクルを実行する4サイクルエンジンである。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部にシリンダ11が形成されている。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、冷却水が流れるウォータージャケット121、131が形成されている。これらのウォータージャケット121、131についての詳細は後述する。
【0022】
ピストン15は、各シリンダ11内に摺動自在に嵌挿されており、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。この実施形態では、ピストン15の冠面に凹部が形成されている。
【0023】
図2に示すように、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室17の上面を区画する天井面)に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の天井面に開口することで燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、シリンダ11内に導入される新気が流れる吸気通路の一部である吸気マニホールド41に接続されている。吸気通路における図示省略の上流側には、吸気流量を調整するスロットル弁20(図7参照)が介設しており、スロットル弁20は、エンジン制御器100からの制御信号を受けてその開度が調整される。
【0024】
一方、排気ポート19は、各シリンダ11からの既燃ガス(排気ガス)が流れる排気通路の一部である排気マニホールド50に接続されている。排気通路の下流側には、触媒装置80が接続されている。図4は、図2の一部の側面図である。なお、この図4では、構成がより明確になるよう、後述する外側管58を切断して、この外側管58の内側が露出した状態で示している。この図4及び図2に示すように、排気マニホールド50は、上流側から順に、3つの独立排気通路52と、略円筒状の集合部56と、略円筒状の連結部57とを備えている。
【0025】
各独立排気通路52は、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。具体的には、シリンダ11のうち第1シリンダ11aの排気ポート19と第4シリンダ11dの排気ポート19とは、それぞれ個別に独立排気通路52a、52dに接続されている。一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2シリンダ11bと第3シリンダ11cの排気ポート19は、これら各シリンダ11b,11cから同時に排気が排出されることがないため、構造を簡素化する観点から、1つの独立排気通路52bに接続されている。より詳細には、この第2シリンダ11bと第3シリンダ11cの排気ポート19に接続されている独立排気通路52bは、その上流側において2つの通路に分離しており、その一方に第2シリンダ11bの排気ポート19が接続され、他方に第3シリンダ11cの排気ポート19が接続されている。この例では、第2シリンダ11b及び第3シリンダ11cの排気ポート19に対応する独立排気通路52は、これらシリンダ11b,11cの中央部分すなわちエンジン本体1の略中央部分と対向して直線的に延びており、他のシリンダ11a,11dの排気ポート19に対応する独立排気通路52は、対応する各排気ポート19と対向する位置から第2シリンダ11b及び第3シリンダ11cに対応する独立排気通路52bに向かって湾曲して延びている。
【0026】
これら独立排気通路52は、互いに独立しており、第2シリンダ11bあるいは第3シリンダ11cから排出された排気と、第1シリンダ11aから排出された排気と、第4シリンダ11dから排出された排気とは、互いに独立して各独立排気通路52内を通って下流側に排出される。各独立排気通路52を通過したガスは集合部56に流入する。
【0027】
各独立排気通路52及び集合部56は、各独立排気通路52から高速で排気が噴出されてこの排気が高速で集合部56内に流入するのに伴い、この高速の排気の周囲に発生した負圧作用すなわちエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52及びこの独立排気通路52と連通する排気ポート19内に負圧が生成されこの排気ポート19内のガスが下流側に吸い出されるような形状を有している。
【0028】
具体的には、各独立排気通路52は、排気が各独立排気通路52から高速で集合部56内に噴出されるよう、下流に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。この例では、図5に示すように、各独立排気通路52は、略楕円形断面を有する上流側部分から下流に向かうに従ってその断面積が縮小されており、その下流端では上流側部分の楕円形断面積の略1/3となる扇形となっている。そして、これら独立排気通路52は、扇形をなす各下流端が、互いに隣接して全体として略円形断面を形成するように集合して集合部56に接続されている。
【0029】
そして、集合部56は、各独立排気通路52から排出された排気が高い速度を維持したまま下流側に流れるよう、下流側ほどその流路面積が小さくなる形状を有している。この例では、排気の速度をより高めるべく集合部56の下流端の流路面積は、各独立排気通路52の下流端の流路面積の合計よりも小さく設定されている。
【0030】
ここで、独立排気通路52の下流端の断面積は、この断面積と同じ面積を有する真円の直径をa(図4参照)とし、集合部56の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をD(図4参照)とした場合に、a/Dがa/D≧0.5の範囲に設定されていれば集合部56を排気が十分に高い速度で通過して高いエゼクタ効果が得られることが分かっている。そこで、この例では、独立排気通路52等を、前記構成に加えてa/D≧0.5を満足するように構成している。なお、独立排気通路52から集合部56への排気の流入速度をより高めるべく、独立排気通路52の下流端に流路面積が小さくされた部分すなわち絞り部分が設けられている場合には、この絞り部分の流路面積の直径をaとして、連結部57がa/D≧0.5となるような形状とされるのが好ましい。
【0031】
また、この例では、集合部56や連結部57で圧力の不均一が生じ、これにより下流側へのガスの吸出し力が低下するのを抑制するべく、集合部56の上流側部分の内側面を独立排気通路52の下流端からガスの流れ方向と直交する方向に離間させている。具体的には、集合部56の上流側部分56aは、各独立排気通路52の下流端で形成される円筒部分よりも内径が大きく上下流方向に流路面積がほぼ一定とされている。そして、集合部56の下流側部分56bが、下流に向かうに従って流路面積が縮小する形状とされている。
【0032】
連結部57は、その上流側部分を構成し、上下流方向に流路面積がほぼ一定のストレート部57aと、その下流側部分を構成し、略円錐台状であって下流に向かうに従って流路面積が拡大するディフューザー部57bとからなる。
【0033】
このように構成された集合部56及びディフューザー部57bでは、排気の放熱量が小さく抑えられ、温度が高く維持された排気が下流側に排出される。
【0034】
具体的には、前述のように、集合部56、詳細には、集合部56の下流側部分56bの流路面積は、下流側ほど小さくなっている。また、連結部57のストレート部57aの流路面積はほぼ一定とされている。そのため、独立排気通路52から排出された排気はこの集合部56とストレート部57aとを高速で通過する。このとき排気の圧力・温度は低下するため、この集合部56及びストレート部57aにおいて、排気の外部への放熱量は小さく抑えられる。そして、このストレート部57aを通過した排気は、下流に向かうに従って流路面積が拡大するディフューザー部57bに流入することで、その圧力・温度が回復され、高い温度を維持したまま下流側に排出される。
【0035】
さらに、この例では、集合部56と連結部57とが、中空の外側管58内に挿入されており、集合部56の上流端から連結部57の下流端までの部分は二重管構造となっている。そのため、これら集合部56及び連結部57の通過時において、排気の外部への放熱はより一層抑制され、より高い温度の排気が下流側に排出される。
【0036】
触媒装置80は、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。この触媒装置80は、触媒本体(触媒)84とこの触媒本体84を収容するケーシング82とを備えている。ケーシング82は排気の流れ方向と平行に延びる略円筒状を有している。触媒本体84は、排気中の有害成分を浄化するためのものであり、理論空燃比の雰囲気下で三元触媒機能を有する。この触媒本体84は、例えば、三元触媒を含有する。
【0037】
触媒本体84は、ケーシング82の上下流方向の中央部分に収容されており、このケーシング82の上流端81には所定の空間が形成されている。ディフューザー部57bの下流端はこのケーシング82の上流端81に接続されており、ディフューザー部57bから排出された排気はこのケーシング82の上流端81に流入した後、触媒本体84側へ進行する。図示は省略するが、排気側の既燃ガスを吸気側に還流させるためのEGR通路は、このケーシング82の上流端81に接続されており、ディフューザー部57bから排出された排気の一部は、EGRバルブの開閉動作に応じてEGR通路内に流入する。
【0038】
ここで、以上のように構成された排気系では、独立排気通路52から集合部56及び連結部57に高速で排気が噴出、流入し、これに伴いエゼクタ効果によって他の独立排気通路52内に負圧が生成される。そのため、後述するように、低負荷領域において、所定のシリンダ(排気行程シリンダ)11の排気弁22の開弁時に、排気順序がこの排気行程シリンダ11の1つ前に設定された他の独立排気通路52に連通するシリンダ(吸気行程シリンダ)11の吸気弁21と排気弁22とを互いに開弁させてこれら弁21,22の開弁期間をオーバーラップさせることで、排気行程シリンダ11から排出された排気により生成された負圧を吸気行程シリンダ11に作用させて吸気行程シリンダ11の掃気を促進することができる。
【0039】
図1に示すように、吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。また、吸気弁駆動機構は、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable Valve Lift))23を備えている。CVVLは、図示は省略するが、吸気弁21の駆動用カムを、吸気カムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによってカムの揺動量(吸気弁21を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えた公知の構成を採用することが可能である。こうした構成のCVVL23によって、図3にリフトカーブを例示するように、吸気弁21のリフト量が大きくなることに伴い、開弁時期がほとんど変更されない一方で、閉弁時期が遅角側に変更されるようになって開弁期間が長くなる。尚、吸気弁駆動機構は、CVVLと共に、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)をさらに含んで構成されていてもよい。
【0040】
これに対し、排気弁駆動機構は、少なくともVVT24を含んで構成されている。これにより、図3に矢印で示すように、排気弁22の開弁期間を一定にした状態で、その開閉タイミングが変更されるようになる。
【0041】
点火プラグ31は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ31は、この例では、シリンダ11の中心軸に対し、排気側に傾斜した状態で取り付けられており、その先端部(電極)は燃焼室17の天井部に臨んでいる。尚、点火プラグ31の配置はこれに限定されるものではない。点火システム32は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ31が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。一例として、点火システム32はプラズマ発生回路を備え、点火プラグはプラズマ点火式のプラグとしてもよい。
【0042】
燃料噴射弁33は、この実施形態ではシリンダ11の中心軸に沿って配置され、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取り付けられている。燃料噴射弁33の先端は、燃焼室17の天井部の中心に臨んでいる。燃料噴射弁33は、この例では、外開弁タイプのピエゾ式インジェクタである。こうしたインジェクタは、ペネトレーションが比較的低い一方で、燃料の微粒化に優れている。
【0043】
燃料供給システム34は、燃料噴射弁33に燃料を供給する燃料供給系と、燃料噴射弁33を駆動する電気回路と、を備えている。電気回路は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて燃料噴射弁33を作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を、燃焼室17内に噴射させる。ここで、このリーンバーンエンジン1の燃料は、この実施形態ではガソリンであるが、これに限定されるものではなく、例えばガソリン含有の各種の液化燃料としてもよい。
【0044】
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
【0045】
エンジン制御器100は、図7に示すように、少なくとも、エアフローセンサ71からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ72からのクランク角パルス信号、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ73からのアクセル開度信号、車速センサ74からの車速信号をそれぞれ受ける。エンジン制御器100は、これらの入力信号に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメーターを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、吸気弁リフト量信号、排気弁位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル弁20(スロットル弁20を動かすスロットルアクチュエーター)、燃料供給システム34、点火システム32、吸気CVVL23、及び、排気VVT24等に出力する。
【0046】
このリーンバーンエンジン1の特徴的な点は、エンジンの図示熱効率を高めて、燃費性能を従来に比べて大幅に向上させる観点から、エンジン1の幾何学的圧縮比εを18以上40以下の超高圧縮比に設定すると共に、少なくとも部分負荷の運転領域においては空気過剰率λを2.5以上8以下(又は、G/Fを35以上120以下)に設定して、混合気をリーン化することに対し、燃焼室17の断熱構造を、さらに組み合わせる点にある。
【0047】
ここで、このエンジン1は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。
【0048】
また、燃焼室17は、図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されており、これらの各面に、後述する構成を有する断熱層61,62,63,64,65が設けられることによって、燃焼室17が断熱化されている。尚、以下において、これらの断熱層61〜65を総称する場合は、断熱層に符号「6」を付す場合がある。断熱層6は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、図例では、シリンダ壁面の断熱層61は、ピストン15が上死点に位置した状態で、そのピストンリング14よりも上側の位置に設けられており、これにより断熱層61上をピストンリング14が摺動しない構成としている。但し、シリンダ壁面の断熱層61はこの構成に限らず、断熱層61を下向きに延長することによって、ピストン15のストロークの全域、又は、その一部に断熱層61を設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井面側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。尚、図1に図示する各断熱層61〜65の厚みは実際の厚みを示すものではなく単なる例示であると共に、各面における断熱層の厚みの大小関係を示すものでもない。
【0049】
このリーンバーンエンジン1では、前述の通り幾何学的圧縮比εを18≦ε≦40に設定している。理論サイクルであるオットーサイクルにおける理論熱効率ηthは、ηth=1−(1/ε)κ−1であり、圧縮比εを高くすればするほど、理論熱効率ηthは高くなる。また、ガスの比熱比κを高めれば高めるほど、言い換えると、空気過剰率λを高めれば高めるほど、理論熱効率ηthは高くなる。
【0050】
しかしながら、エンジン(正確には、燃焼室の断熱構造を有しないエンジン)の図示熱効率は、所定の幾何学的圧縮比ε(例えば18程度)でピークになり、幾何学的圧縮比εをそれ以上に高めても図示熱効率は高くならず、逆に、図示熱効率は低下することになる。これは、燃料量及び吸気量を一定のままで幾何学的圧縮比を高くした場合、圧縮比が高くなればなるほど、燃焼圧力及び燃焼温度が高くなることに起因している。つまり、燃焼室17を区画する面を通じて熱が放出することに伴う冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定され、燃焼ガスの圧力及び温度が高くなるほど熱伝達率は高くなるから、燃焼圧力及び燃焼温度が高くなることは、その分、冷却損失を増大させることになる。その結果、リーンバーンエンジンは、幾何学的圧縮比が高くなればなるほど、図示熱効率が低下してしまうのである。このように、混合気をリーン化しつつ、幾何学的圧縮比を高めることによってエンジンの図示熱効率を高めようとしても、冷却損失が増大することにより、理論熱効率よりも大幅に低い図示熱効率で頭打ちなってしまう。
【0051】
これに対し、このリーンバーンエンジン1では、高い幾何学的圧縮比εにおいて図示熱効率が高まるように、燃焼室17の断熱構造を組み合わせている。つまり、燃焼室17の断熱化により冷却損失を低減させ、それによって図示熱効率を高める。
【0052】
一方で、燃焼室17を断熱化して冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このリーンバーンエンジン1では、前述したように、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、このリーンバーンエンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
【0053】
ここで、空気過剰率λについて検討する。空気過剰率λが2.5よりも低くなると燃焼室17内の最高燃焼温度が高くなって、燃焼室17からRawNOxが排出され得る。前述したように、このリーンバーンエンジン1は、冷却損失と共に排気損失の低減をも図っているため、排気温度が比較的低く触媒の活性化には不利である。そのため、燃焼室17からのRawNOxの排出を回避乃至抑制することが望ましく、そのためには、空気過剰率λを2.5以上に設定することが好ましい。言い換えると、燃焼室17内の最高燃焼温度が所定温度(例えば、RawNOxが生成し得る温度としての1800K(ケルビン))以下となる範囲で、空気過剰率λを設定することが望ましい。エンジン制御器100は、例えばエンジン1の部分負荷における運転領域内で、負荷の上昇に伴い(言い換えると、燃料噴射量の増量により空気過剰率λが下がることに伴い)、最高燃焼温度が所定温度を超えるようなときには、空気過剰率λを上げてエンジン1を運転することが望ましい。
【0054】
一方、本願発明者らの検討によると、空気過剰率λ=8で図示熱効率がピークになることから、空気過剰率λの範囲としては、2.5≦λ≦8が好ましい。尚、エンジン1の運転領域を、低負荷領域及び高負荷領域の2つの領域に区分した場合において、全負荷を含む高負荷の運転領域においては、トルク優先により、空気過剰率λをさらに下げて例えばλ=1又はλ≦1としてもよい。また、エンジン1の運転状態が、低負荷領域でかつ、低回転領域(エンジン1の運転領域を、低回転領域及び高回転領域の2つの領域に区分した場合の低回転領域)にあるときには特に、空気過剰率λを、4≦λ≦8に設定してもよい。これにより、低回転低負荷領域において燃焼温度が低下し、後述のように、冷却損失の低減に有利になる。尚、この場合、排気還流は行わないことが好ましい。
【0055】
尚、混合気のリーン化は、スロットル弁20を開き側に設定することになるから、ガス交換損失(ポンピングロス)の低減による図示熱効率の向上にも寄与し得る。
【0056】
次に、燃焼室17の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室17の断熱構造は、前述したように、燃焼室17を区画する各区画面に設けた断熱層61〜65によって構成されるが、これらの断熱層61〜65は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、シリンダ11の壁面に設けた断熱層61については、シリンダブロック12が母材であり、ピストン15の冠面に設けた断熱層62についてはピストン15が母材であり、シリンダヘッド13の天井面に設けた断熱層63については、シリンダヘッド13が母材であり、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面に設けた断熱層64,65については、吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ母材である。従って、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄となり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等となる。但し、前述したように、このリーンバーンエンジン1は排気損失を低減していることから、排気ガス温度が大幅に低下しているため、特に排気弁22については耐熱鋼でなくても、従来は使用することができなかった、又は、使用することが困難であった材料(例えばアルミニウム合金等)を使用することも可能である。
【0057】
また、断熱層6は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室17内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室17を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
【0058】
一方で、冷却損失は、前述の通り、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、前述したように、燃焼室17の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。
【0059】
そこで、前記の断熱層6は熱容量を小さくし、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。
【0060】
また、断熱層6の熱容量を小さくすることは、排気損失の低減にも有利になる。つまり、仮に断熱層の熱容量が大きいときは、燃焼室17内の温度が低下したときでも、区画面の温度が下がらない一方で、燃焼室17が断熱構造を有しているため、燃焼室17内の温度を高温のままに維持してしまう。このことは、結果として排気損失を増大させることになり、エンジン1の熱効率の向上を阻害する。
【0061】
これに対し、断熱層6の熱容量を小さくすることは、燃焼室17内の温度が低下したときに、それに追従して区画面の温度が低下する。従って、燃焼室17内の温度を高温に維持してしまうことを回避し得るから、前述した、温度追従性に伴う冷却損失の抑制のほか、排気損失の抑制にも有利になり得る。
【0062】
断熱層6の例示として、この断熱層6は、シリンダ11の壁面、ピストン15の冠面、シリンダヘッド13の天井面、並びに、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面、つまり、燃焼室17を区画する区画面に、例えばプラズマ溶射により形成した、ジルコニア(ZrO)、又は、部分安定化ジルコニア(PSZ)の皮膜によって構成してもよい。ジルコニア又は部分安定化ジルコニアは、熱伝導率が比較的低くかつ、容積比熱も比較的小さいため、母材によりも熱伝導率が低くかつ、容積比熱が母材と同じか、それよりも小さい断熱層6が構成される。
【0063】
ここで、このリーンバーンエンジン1では、その温間時に、全負荷を含む高負荷の運転領域において空気過剰率をλ=1にする場合は、点火プラグ31の駆動によって燃焼室17内の混合気に点火する火花点火モードとし、空気過剰率λを2.5〜8(又はG/Fを35〜120)に設定するような、それ以外の運転領域(言い換えると中負荷乃至低負荷の運転領域)では、燃焼室17内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火モードとすればよい。尚、エンジン1の運転領域の全域で圧縮着火モードとしてもよい。
【0064】
この高圧縮比のリーンバーンエンジン1では、前述の通り、エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときには、空気過剰率λを2.5以上(又は、G/Fを35以上)に設定する。そして、この混合気のリーン化を行う低負荷の運転状態において冷却損失をさらに低減して、熱効率を高める観点から、このリーンバーンエンジン1では、吸気弁21の遅閉じを行うことで有効圧縮比を下げる。具体的には、図3に例示するように、吸気弁21のリフト量を大きくすることによって、吸気弁21の閉弁時期を、圧縮上死点の中期以降に設定する。ここでいう中期以降とは、圧縮行程を前期、中期、後期に3分割したときの、中期又は後期に相当する。従って、吸気弁21の閉弁時期は、吸気下死点後60°CA以降に設定され、例えば110°CA程度に設定される。このような吸気弁21の遅閉じより有効圧縮比が低下するため、シリンダ11内での圧縮端温度及び圧縮端圧力は低減する。このことは、燃焼ガス温度を低下させて燃焼室17の区画壁との温度差をさらに小さくするから、冷却損失のさらなる低減に有利になる。つまり、リーンバーンエンジン1の図示熱効率がさらに高まる。
【0065】
また、吸気弁21の遅閉じに加えて、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間は、図3に例示するように、排気上死点を間に挟んでオーバーラップしており(T_O/L)、このことにより、シリンダ11内の既燃ガスの掃気性が高まり、シリンダ11内の温度低下、ひいては冷却損失の低減に有利になる。さらに、その吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップに、前述した動圧掃気が組みあわされるため、掃気性はさらに高まる。すなわち、エンジン1が低負荷領域にあるときには、図6に示すように、吸気弁21及び排気弁22の目標バルブタイミングが、排気弁22の開弁期間と吸気弁21の開弁期間とが吸気上死点(TDC)を挟んでオーバーラップし、かつ、排気弁22が他のシリンダ11のオーバーラップ期間T_O/L中に開弁を開始するように調整される。詳細には、第1シリンダ11aの吸気弁21と排気弁22とがオーバーラップしている期間中に第3シリンダ11cの排気弁22が開弁し、第3シリンダ11cの吸気弁21と排気弁22とがオーバーラップしている期間中に第4シリンダ11dの排気弁22が開弁し、第4シリンダ11dの吸気弁21と排気弁22とがオーバーラップしている期間中に第2シリンダ11bの排気弁22が開弁し、第2シリンダ11bの吸気弁21と排気弁22とがオーバーラップしている期間中に第1シリンダ11aの排気弁22が開弁するよう調整される。
【0066】
このように、所定のシリンダ(排気行程シリンダ)11の排気弁22の開弁時に、排気順序がこの排気行程シリンダ11の1つ前に設定された他の独立排気通路52に連通するシリンダ(吸気行程シリンダ)11の吸気弁21と排気弁22とがオーバーラップされることで、排気行程シリンダ11の排気弁22が開弁してこの排気行程シリンダ11から独立排気通路52を通って集合部56に排気が高速で排出されるのに伴って、オーバーラップ期間中の吸気行程シリンダ11の独立排気通路52ひいては排気ポート19内にエゼクタ効果により負圧が生成され、掃気が促進される。すなわち、シリンダ11内の既燃ガス量の多くが独立排気通路52側に排出されるため、シリンダ11内の温度が低下する。特に、排気弁22の開弁開始直後はシリンダ11から非常に高速で排気(所謂ブローダウンガス)が排出され、これに伴い高い負圧が生成される。こうして、冷却損失の低減が図られる。尚、本エンジン1において、吸気弁21及び排気弁22の開弁時期、閉弁時期とはそれぞれ、正確な図示は省略するが、各弁21,22のリフトカーブにおいてリフトが急峻立ち上がるあるいは立ち下がる時期であり、例えば0.4mmリフトの時期をいう。
【0067】
さらに、このリーンバーンエンジン1は、冷却損失の低減を目的として、シリンダ11内に導入される吸気の温度低減を図るための、幾つかの構成を有している。
【0068】
具体的には、図1に示すように、吸気マニホールド41は樹脂製であり、これにより遮熱性を高め、吸気マニホールド41を通過する吸気が受熱してその温度が高くなってしまうことを抑制している。また、シリンダブロック12とシリンダヘッド13との間には、遮熱ガスケット66を介設することによって、相対的に温度の高いシリンダブロック12から、吸気ポート18が形成されたシリンダヘッド13への熱の移動を抑制し、シリンダヘッド13側の温度上昇を抑制している。このことは、吸気ポート18を通過する吸気の受熱を抑制する上で有利になる。
【0069】
さらに、シリンダヘッド13における、吸気弁21の傘部上面からバルブステムにかけての部分、言い換えると、吸気弁21において吸気ポート18内に露出している部分には、樹脂系の断熱材(遮熱材)67が取り付けられており、吸気弁21から吸気への熱の伝達を抑制している。また、吸気弁21及び排気弁22におけるバルブスプリングの座面にも同様の樹脂系断熱材(遮熱材)68,68が取り付けられており、これらの遮熱材68もまた、吸気ポート18内を通過する吸気の受熱を抑制する。
【0070】
加えて、シリンダヘッド13において、特に吸気ポート18の近傍に設けられたウォータージャケット131内を流れる冷却水の循環回路は、シリンダブロック12内のウォータージャケット121内を流れる冷却水の循環回路とは別に構成されており、シリンダヘッド13側の冷却水循環回路は、冷却水を相対的に低い温度、例えばエンジンの冷間時の冷却水温度と同程度の15℃程度の温度)に維持するように構成されている一方、シリンダブロック12側の冷却水循環回路は、冷却水を相対的に高い温度、例えばエンジン温間時において従来同様の例えば80℃程度の温度となるように構成されている。これにより、吸気ポート18を通過する際に、吸気の受熱を抑制、又は、吸気の冷却を行って、シリンダ11内に導入される吸気の温度を低くすることが可能になり、冷却手段として機能し得る。一方、シリンダブロック13等を含む、エンジン1の他の部位においては、温度の適正化が図られる。
【0071】
また、排気ポート19には、例えばセラミックス系の断熱材191が、ポート壁面を構成するように配設されており、高温の既燃ガスの熱がシリンダヘッド13側に伝わることを防止している。同様に、排気マニホールド50は、その内部に中空部を有する二重管構造となっており、これにより断熱性を高めて、既燃ガスの熱が、シリンダヘッド12側へ伝達することを抑制している。このことは、前述したように、シリンダヘッド12の温度を比較的低く抑えて、吸気ポート18内を通過する際の吸気の受熱を抑制する上で有効である。
【0072】
尚、前記の構成では、排気系に動圧掃気システムを採用して、シリンダ11内の既燃ガスの掃気性を高めているが、このシステムに代えて、図示は省略するが、排気系に4−2−1排気システムを採用することによって、シリンダ11内の既燃ガスの掃気性を高めてもよい。
【0073】
また、シリンダ11内に導入する吸気温度を低下する上で、車室用空調装置によって冷却された空気を吸気に利用するようにしてもよい。これもまた、冷却手段として機能し得る。
【0074】
さらに、ここに開示する技術は、前述したような、燃焼室17の断熱構造を有する高圧縮比のリーンバーンエンジン1への適用に限定されるものではなく、例えば燃焼室17の断熱構造を省略してもよい。この場合でも、吸気弁21の遅閉じによる有効圧縮比の低下によって冷却損失が低減すると共に、高膨張比によって排気損失が低減するから、エンジンの図示熱効率は向上する。
【符号の説明】
【0075】
1 リーンバーンエンジン(エンジン本体)
11 シリンダ(気筒)
17 燃焼室
100 エンジン制御器
131 ウォータージャケット(冷却手段)
21 吸気弁
22 排気弁
23 CVVL(吸気動作変更手段)
33 燃料噴射弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾何学的圧縮比εが18≦ε≦40に設定されかつ、吸気、圧縮、膨張及び排気行程からなる燃焼サイクルを実行するよう構成されたエンジン本体と、
前記エンジン本体の気筒内に燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、
前記エンジン本体に設けられた吸気弁の、少なくとも閉弁時期の変更を含む動作態様を変更する吸気動作変更手段と、
前記エンジン本体の運転状態に応じて、前記燃料噴射弁を通じた前記燃焼室内へ燃料噴射、及び、前記吸気動作変更手段による前記吸気弁の動作態様を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記エンジンの運転状態が低負荷領域にあるときには、
空気過剰率λを2.5以上に、又は、前記気筒内の全ガス重量Gと前記気筒内に供給される燃料の重量Fとの関係G/Fを35以上に設定しかつ、
前記吸気弁の閉弁時期を、前記圧縮行程の中期以降となるように設定する火花点火式4サイクルリーンバーンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンにおいて、
前記吸気動作変更手段は、前記吸気弁の開弁時期の変化に対して閉弁時期の変化を大きく変更することによって、その開弁期間を変更する手段であり、
前記制御器は、前記吸気弁の閉弁時期を前記圧縮行程の中期以降となるように設定しつつ、前記吸気弁の開弁期間を、0.4mmリフト時点で規定した排気弁の開弁時期に対して、排気上死点を間に挟んでオーバーラップするように設定する火花点火式4サイクルリーンバーンエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載の火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンにおいて、
前記吸気弁及び前記排気弁のオーバーラップ期間内において、当該気筒に連通する排気ポートの圧力を低下させることにより、前記気筒内の掃気を促進する掃気手段をさらに備えた火花点火式4サイクルリーンバーンエンジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の火花点火式4サイクルリーンバーンエンジンにおいて、
前記エンジン本体における吸気側の通路には、前記気筒内に導入する吸気を冷却する冷却手段が設けられている火花点火式4サイクルリーンバーンエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−53607(P2013−53607A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194270(P2011−194270)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】