説明

灰洗浄排水の処理方法及び処理システム

【課題】灰洗浄排水中のスケール成分を低減させ、洗浄槽内部や配管にスケール成分が付着することを防止するようにした灰洗浄排水の処理方法及び処理システムを提供する。
【解決手段】灰20を洗浄水により水洗処理する洗浄槽11、12を備え、該洗浄槽にて発生する灰洗浄排水からスケール成分を除去する灰洗浄排水の処理システムにおいて、前記灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定するカルシウム濃度測定手段32と、測定されたカルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定される炭酸供給開始濃度以上となったら灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給し、前記カルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定される炭酸供給終了濃度以下となったら炭酸塩又はCOガスの供給を停止する炭酸供給手段30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灰の水洗処理により発生する灰洗浄排水中のスケール成分を低減することができる灰洗浄排水の処理方法及び処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、都市ごみや下水汚泥等の一般廃棄物又は各種工場から排出される産業廃棄物は、減容化及び無害化のために焼却により処理されている。一般に、焼却炉から排出される灰の処理方法としては、埋め立て処理、溶融スラグ化、建築資材への再資源化などが挙げられる。この中でも灰を高温で溶融し、スラグ化して有効利用する方法は多く用いられているが、溶融設備は大型で且つ高額であり、またライフサイクルコストが高いなどの問題があった。
そこで、灰をセメント原料、人工骨材、植栽用土、路床材、路盤材、焼成タイルなどの製品に加工して再資源化することが有用と考えられる。
【0003】
灰を再資源化する際に、灰中には塩素分が数%程度含まれているため、例えばセメント原料として焼却灰を用いる場合塩素分がセメントの劣化原因となることから、灰を脱塩することが必須となる。そこで灰の脱塩を目的として、灰を水洗処理することが行われている。図9に従来の灰処理システムの一例を示す。まず、大径物除去装置50にて灰20中の大径物を除去し、さらに金属除去装置51にて金属片等の金属異物を除去した後、第1洗浄槽52、第2洗浄槽53にて灰を洗浄水と混合して水洗することにより塩素を低減する。このようなシステムでは、水洗処理により大部分の塩素は除去可能であるが、高品質の再資源化原料として付加価値を与えるためには、単に水洗するのみでは塩素低減は不十分であった。そこで、pH調整槽54にてpH調整剤を投入し、洗浄水のpHを酸性若しくはpH6〜10程度に調整したり、第1洗浄槽52と第2洗浄槽53とを直列に配置し、洗浄回数を複数回に増加することにより対応している。
【0004】
また、特許文献1(特開2005−288328号公報)には、灰を水洗処理する第1洗浄槽及び第2洗浄槽において二酸化炭素ガスを導入して灰を洗浄し、灰に含まれる難溶性のフリーデル氏塩を二酸化炭素ガスにより分解させ、脱塩を促進させるようにした構成が開示されている。
さらに、特許文献2(特開2006−326462号公報)には、灰を水洗する洗浄水に炭酸塩を添加した水溶液を用い、脱塩を促進させるようにした構成が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−288328号公報
【特許文献2】特開2006−326462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、灰の再資源化に際して、上記した水洗処理により塩素濃度を低減させることは可能であるが、水洗処理によりスケール成分が析出して洗浄槽内部や配管等の設備内部に付着し、システムの安定運転を阻害することがある。
これは、灰の水洗処理により発生する灰洗浄排水中に溶解性物質が多く含まれ、その中にスケール成分が含まれるためと考えられる。
【0007】
そこで、本発明者らは、灰洗浄排水中に含まれる溶解性物質の成分を測定する実験を行った。実験は、2槽の洗浄槽を直列に配置した実験装置を用い、室温にて固液比(液体/固体)10となるように焼却主灰と洗浄水を投入し、さらに洗浄槽内に硫酸を添加してpH10に調整して焼却主灰の水洗処理を行い、ここから排出される灰洗浄排水を蛍光X線法により分析し、灰洗浄排水の成分を測定した。この結果、灰洗浄排水中のTDS(溶解性蒸発残留物質)の濃度は10000mg/l(排水中1重量%)となることが確認された。このTDSを蛍光X線法により分析すると、図8に示すように、カルシウム、シリカ、ナトリウム、カリウム、塩素などの元素が主であることがわかった。
【0008】
TDSのうち、特にカルシウム成分はスケールとして析出してしまい、洗浄槽内部や配管に付着し、例えば配管が閉塞したり、洗浄槽の撹拌機に付着し運転に支障をきたすなどの不具合が生じることがある。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、灰洗浄排水中のスケール成分を低減させ、洗浄槽内部や配管にスケール成分が付着することを防止するようにした灰洗浄排水の処理方法及び処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、洗浄槽に投入された灰を水洗処理し、発生した灰洗浄排水からスケール成分を除去する灰洗浄排水の処理方法において、
前記灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定し、前記カルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定された炭酸供給開始濃度以上となったら前記灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給して前記灰洗浄排水中のカルシウム成分を炭酸塩化し沈殿させ、前記カルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定された炭酸供給終了濃度以下となったら前記炭酸塩又はCOガスの供給を停止することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給することにより、灰洗浄排水中に溶解しているカルシウム成分が炭酸塩化し、沈殿が形成される。これにより灰洗浄排水中のカルシウム硬度、TDS濃度が低減される。この結果、スケール付着性の指標となるランゲリア指数もプラス(スケール付着傾向)からゼロ近傍に推移し、設備内へのスケール付着を防止し、洗浄槽の撹拌機にスケールが付着して停止したり、配管に付着して閉塞するなどの不具合の発生を回避できる。
さらにまた、炭酸塩又はCOガスの供給により沈殿した生成物を回収して水洗処理灰とともに再資源化することが好ましく、これにより灰の回収効率を向上させることができる。
【0011】
また、本実施形態では、灰洗浄排水中のカルシウム濃度を測定し、カルシウムが析出する濃度に基づき設定される炭酸供給開始濃度から炭酸供給終了濃度までの間のみに炭酸塩又はCOガスを供給する構成としているため、炭酸塩又はCOガスを無駄に供給することがなくなりコスト低減が図れる。また、炭酸塩又はCOガスを過剰に供給することによる再資源化原料の品質低下を防止できる。
ここで、前記炭酸供給開始濃度は、カルシウム成分が析出すると推定される濃度から所定濃度だけ差し引いた濃度とする。この所定濃度は、灰洗浄排水の成分変動や測定誤差等によりカルシウム成分が析出する濃度が変動することを見込んで設定される。前記炭酸供給終了濃度は炭酸供給開始濃度より低い値に設定し、例えば、炭酸供給開始濃度の1/3〜1/2の濃度とする。
【0012】
また、前記洗浄槽が直列に複数設けられ、最も上流側に位置する洗浄槽内の灰洗浄排水のカルシウム濃度を測定し、該カルシウム濃度に基づいて前記炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を前記最も上流側に位置する洗浄槽に供給することを特徴とする。
このように、洗浄槽のうち最も上流側に位置してカルシウムが析出し易い最上流洗浄槽に炭酸塩又はCOガスを供給する構成とすることにより、スケール成分の除去効果を高くすることができる。
【0013】
さらに、前記洗浄槽から引き抜いた前記灰洗浄排水を、循環配管を介してpH調整槽に送給し、該pH調整槽にて前記灰洗浄排水にpH調整剤を投入してpH調整した後、循環配管を介して前記灰洗浄排水を前記洗浄槽に返送するようにし、
前記灰洗浄排水中のカルシウム濃度に基づいて前記炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を前記循環配管に供給することを特徴とする。
このように、洗浄槽とpH調整槽の間の循環配管に炭酸塩又はCOガスを供給する構成とすることにより、循環配管にスケール成分が付着して配管が閉塞することを確実に防止できる。
【0014】
また、灰を水洗処理する洗浄槽を備え、該洗浄槽にて発生する灰洗浄排水からスケール成分を除去する灰洗浄排水の処理システムにおいて、
前記灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定するカルシウム濃度測定手段と、
前記カルシウム濃度測定手段にて測定されたカルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定された炭酸供給開始濃度以上となったら前記灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給して前記灰洗浄排水中のカルシウム成分を炭酸塩化し沈殿させ、前記カルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定された炭酸供給終了濃度以下となったら前記炭酸塩又はCOガスの供給を停止する炭酸供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
さらに、前記洗浄槽が直列に複数設けられ、最も上流側に位置する洗浄槽に、前記カルシウム濃度測定手段と前記炭酸供給手段とが設けられることを特徴とする。
さらにまた、前記洗浄槽から引き抜かれた灰洗浄排水が循環配管を介して供給され、該灰洗浄排水にpH調整剤を投入してpH調整を行うpH調整槽を備え、該pH調整した灰洗浄排水が前記循環配管を介して前記洗浄槽に返送される構成を有し、
前記循環配管に前記炭酸供給手段が設けられることを特徴とする。尚、この構成において前記カルシウム濃度測定手段は、洗浄槽又は循環配管の何れかに設けられる。
【0016】
また、前記COガスは、焼却炉から排出される焼却排ガスであることが好適である。
このように、焼却炉の排ガスを用いることにより、排ガス中のCOが灰洗浄排水中のカルシウム成分と反応して沈殿するため、焼却排ガスのCOを固定化することができ、地球温暖化の主たる原因となる二酸化炭素の排出を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のごとく本発明によれば、灰洗浄排水中に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給することにより、灰洗浄排水中に溶解しているカルシウム成分を炭酸塩化し、沈殿させて除去することができる。これにより洗浄槽内や配管にスケールが付着することを防止し、システムの安定運転が可能となる。また、本発明では、灰洗浄排水中のカルシウム濃度を測定し、カルシウムが析出する濃度に基づき設定される炭酸供給開始濃度から炭酸供給終了濃度までの間のみ炭酸塩を供給する構成としているため、炭酸塩又はCOガスを無駄に供給することなくコスト低減が図れる。また、炭酸塩又はCOガスを過剰に添加することによる再資源化原料の品質低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施形態に係る処理システムにおいて、処理対象である灰は、焼却主灰、飛灰、溶融飛灰、及び埋立地から掘り出された焼却残渣を含むが、好ましくは、焼却炉の炉底から排出される焼却主灰とする。
本実施形態に係る処理システムは、灰中に含まれる塩素分を除去するための水洗処理を行うシステムにおいて、灰洗浄排水中に溶解したスケール成分、特にカルシウム成分を低減して、洗浄槽内部や配管等にスケールが付着することを防止する構成を備えたものである。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る処理システムのブロック図である。
図1に示すように、かかる処理システムは、大径物除去装置10や金属除去装置11等の前処理設備と、前処理後の灰20を洗浄水により2段階洗浄する第1洗浄槽12と第2洗浄槽13と、を備える。
前記前処理設備は、ふるい等により灰中の大径物を除去する大径物除去装置10と、磁選や比重差分離等により灰中の金属類を除去する金属除去装置11とを直列に配置した構成を例示しているが、これに限定されるものではなく、灰の再資源化に不要となる異物を除去する装置であればどのような構成であってもよい。
【0020】
前記第1洗浄槽12は、灰を水洗するための洗浄水を供給する洗浄水供給手段(不図示)を備えるとともに、必要に応じて撹拌手段を備えている。また第1洗浄槽12にはpH調整槽14が併設されており、該pH調整槽14は、硫酸等のpH調整剤を供給することにより、灰と洗浄水が混合された処理水のpH調整を行うようになっている。第1洗浄槽12内の処理水(灰洗浄排水)が一部引き抜かれ、循環配管23aを介してpH調整槽14に送られ、該pH調整槽14内にてpH調整剤の添加によりpH調整された処理水は循環配管23bを介して第1洗浄槽12に戻される。このとき、処理水のpHは、pH10〜pH12、好適にはpH10〜pH11とすることが好ましい。尚、本実施形態では洗浄槽12、13により灰を2段洗浄する構成としたが、洗浄槽を一段とした構成、或いは洗浄槽を3段以上設置した構成としてもよい。
第1洗浄槽12にて水洗処理した後の灰21は、灰洗浄排水22と分離されて第2洗浄槽13に送られる。
【0021】
前記第2洗浄槽13は、灰を水洗するための洗浄水を供給する洗浄水供給手段(不図示)を備えるとともに、必要に応じて撹拌手段を備えている。該第2洗浄槽13にて水洗処理した後の処理灰24は、灰洗浄排水25と分離されてセメント原料等として再資源化設備に送られる。
一方、第1洗浄槽12及び第2洗浄槽13から排出される灰洗浄排水22、25は、後段の排水処理設備に送られるが、第2洗浄槽13から排出される灰洗浄排水26は比較的不純物が少ないため、第1洗浄槽12に返送して再利用してもよい。
【0022】
さらに本実施形態では、スケール成分を低減する構成として、第1洗浄槽12に炭酸塩を添加する炭酸塩添加手段30と、第1洗浄槽12内のカルシウム濃度を測定するカルシウム濃度計測手段32と、該測定されたカルシウム濃度に基づいて炭酸塩の添加量を制御する制御装置35と、を備えている。
前記炭酸塩添加手段30で添加する炭酸塩は、例えば炭酸ナトリウムが用いられる。この場合、炭酸ナトリウムは水溶液の状態でも固体の状態でもよい。また、好適には炭酸塩添加手段30は、炭酸塩の添加量を調整するバルブ31が設けられ、制御装置35にてその開度が制御される。
【0023】
このような構成を備えた処理システムにおいて、焼却設備から受け入れられた灰20は、大径物除去装置10にて大径物を除去され、さらに金属除去装置11にて金属類を除去された後、第1洗浄槽12に投入され、洗浄水と混合撹拌されて灰に含有される塩素分が除去される。このとき、灰と洗浄水が混合した処理水はpH調整槽14との間で循環させ、pH調整される。灰20を洗浄水により水洗処理している間、カルシウム濃度測定手段32にて灰洗浄排水中のカルシウム濃度を測定する。測定されたカルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定される炭酸供給開始濃度以上となったら、炭酸塩添加手段30により第1洗浄槽12内に炭酸塩を添加する。炭酸塩として炭酸ナトリウムを添加した場合、以下の反応により灰洗浄排水中のカルシウム成分が沈殿する。
Ca+NaCO → CaCO(沈殿)+2Na(余剰)
また、pH調整目的で添加している硫酸も、以下の反応によりカルシウム成分の沈殿に寄与する。
SO2−+NaCO → NaSO(沈殿)+CO(余剰)
【0024】
沈殿した生成物は、灰とともに再資源化原料として利用してもいいし、後段で灰から分離してもよい。各反応で余剰となったNaやCOは、さらに排水中に存在しているCaやSOと反応して沈殿を生成する。これにより、カルシウムや硫黄などのスケール成分となる元素を除去できる。
炭酸塩を添加している間にも灰洗浄排水中のカルシウム濃度をカルシウム濃度測定手段32にて常時測定し、測定されたカルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定される炭酸供給終了濃度以下となったら炭酸塩の添加を停止する。
【0025】
前記炭酸供給開始濃度は、カルシウム成分が析出すると推定される濃度から所定濃度だけ差し引いた濃度とする。この所定濃度は、灰洗浄排水の成分変動や測定誤差等によりカルシウム成分が析出する濃度が変動することを見込んで設定される。前記炭酸供給終了濃度は炭酸供給開始濃度より低い値に設定し、例えば、炭酸供給開始濃度の1/3〜1/2の濃度とする。
【0026】
一例として、炭酸供給開始濃度及び炭酸供給終了濃度は以下のように設定される。
想定される実機の運転水温(約30℃)での硫酸カルシウム溶解度は2090mg/L(出展:理化学辞典)である。このとき、硫酸カルシウム水溶液中のカルシウム濃度(飽和)は約600mg/Lとなる。即ち、Ca(カルシウム)濃度が600mg/LになるとCaSO(硫酸カルシウム)が析出する恐れがある。Caが析出した時の化合物形態には、CaSO、CaCO(炭酸カルシウム)、CaCl(塩化カルシウム)等の様々な形態があるが、この中で最も析出が懸念されるのがCaSOと考えられる。これは、例えばCaClの溶解度は74.5g/100mg(20℃)であり溶解度が高いため析出し難いと考えられ、CaCOの溶解度は0.0013g/100mg(20℃)であり溶解度は低いが、炭酸ナトリウムを添加する位置で析出する場所を制御可能と考えられるため、よってスケール成分の原因として最も影響が大きいと考えられる化合物がCaSOであると推定される。そこで、CaSOの飽和水溶液中に含まれるCa濃度に基づいて炭酸供給開始濃度及び炭酸供給終了濃度を設定することが好ましい。尚、硫酸根はpH調整の際に硫酸を用いることにより灰洗浄排水中に常に存在し、灰から溶出するCaと反応してCaSOとなりスケールとして析出するものである。
【0027】
図6(a)は、炭酸ナトリウムを添加しない場合の灰洗浄排水中のCa濃度を示すグラフである。同図に示すように、水洗処理時間が増加するに従ってCa濃度が増加する。これは、灰中のCaの溶解速度はNaやKに比較すると遅く、そのため水洗処理時間が長くなるにつれて灰洗浄排水中のCa濃度が増加する傾向にあるためである。そして、上記した理由によりカルシウム濃度が600mg/L以上になると硫酸カルシウムが析出する恐れがある。
一方、図6(b)は炭酸ナトリウムをバッチ的に添加した時の灰洗浄排水中のCa濃度を示すグラフ、(c)は炭酸ナトリウムを連続的に添加した時の灰洗浄排水中のCa濃度を示すグラフである。排水中のCa濃度が飽和になる前の濃度を炭酸供給開始濃度Cとする。このとき、炭酸供給開始濃度Cは、Caの飽和濃度以下である必要があるが、一例として300mg/Lと設定する。炭酸供給開始濃度Cは、Caの飽和濃度の1/2〜2/3に設定することが好ましい。これは、炭酸供給開始濃度CをCaの飽和濃度の1/2未満とすると試薬添加によるコストが嵩み、Caの飽和濃度の2/3より大とするとCaの析出リスクが高くなるためである。
【0028】
図6(b)に示すように、炭酸ナトリウムの一回添加によりCa濃度は一旦低減するが、灰からCaが溶出し続けているため、徐々にCa濃度は上昇していく。
これに対して図6(c)に示すように、排水中のCa濃度が炭酸供給開始濃度Cになった時点で炭酸ナトリウムの添加を行い、Ca濃度がこれを維持するように炭酸ナトリウムの添加を連続的に続けると、灰からCaが溶出し続けても、連続添加される炭酸ナトリウムによりCa濃度の上昇を防げられる。
そして、Ca濃度が、炭酸供給開始濃度Cより低く設定される炭酸供給終了濃度C以下となったら炭酸ナトリウムの添加を終了する。炭酸供給終了濃度Cは、例えば炭酸供給開始濃度Cの1/3〜1/2程度の濃度とすることが好ましい。
【0029】
ここで、カルシウム濃度測定手段32が電気伝導度計である場合は、以下のようにして炭酸ナトリウムを添加する。
一般に、電気伝導度(μS/cm)×0.7≒TDS(溶解性蒸発残留物質)として知られている。また、灰洗浄排水中のTDS中に含まれるCaは約10%程度であることから、電気伝導度(μS/cm)×0.7×0.1で得られた値をCa濃度として代用する。例えば、電気伝導度が8600μS/cmである場合には、カルシウム濃度が602mg/Lと算出される。この場合、既に硫酸カルシウムの飽和濃度を超過していることから炭酸ナトリウムを添加する。このようにして、CaSOの飽和濃度の半分である300mg/Lを維持するように炭酸ナトリウムの添加を行う。尚、電気伝導度とTDSの関係を、電気伝導度(μS/cm)×0.7≒TDSとしているが、これは溶解しているイオンの種類などによって異なってくるため、処理対象である灰の成分によって適宜設定することが好ましい。また、灰洗浄排水中のCa濃度を約10%程度としたが、これも同様に、処理対象である灰の成分によって適宜設定することが好ましい。また、カルシウムイオンメータでCa濃度を測定する場合においても上記と同様に炭酸供給開始濃度Cと炭酸供給終了濃度Cを設定し、炭酸塩の供給/停止を行う。
【0030】
第1洗浄槽12で水洗処理した後の灰21は、灰洗浄排水22と分離されて第2洗浄槽13に送られる。第2洗浄槽13では、新たに供給される洗浄水と灰21とを混合撹拌して水洗処理し、処理灰24は再資源化設備へ、灰洗浄排水25は排水処理設備に送られる。
尚、本実施形態では、第1洗浄槽12に炭酸塩を添加する構成につき示したが、これに替えてCOガスを供給する構成としてもよい。
また、本実施形態では、水洗処理をしている間に灰洗浄排水のCa濃度を測定し、これに応じて炭酸塩を添加する構成としたが、洗浄槽がバッチ式の場合、灰を排出して灰洗浄排水のみとなった洗浄槽内に炭酸塩を添加する構成としてもよい。
【0031】
本実施形態によれば、灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスを供給することにより、灰洗浄排水中に溶解しているカルシウム成分が炭酸塩化し、沈殿が形成される。これにより灰洗浄排水中のカルシウム硬度、TDS濃度が低減される。この結果、スケール付着性の指標となるランゲリア指数もプラス(スケール付着傾向)からゼロ近傍に推移し、設備内へのスケール付着を防止し、洗浄槽の撹拌機にスケールが付着して停止したり、配管に付着して閉塞するなどの不具合の発生を回避できる。
図7に炭酸ナトリウムを添加した場合と添加しない場合のカルシウム濃度を比較した図を示す。図7(a)は灰中のカルシウム濃度の変化を示すグラフで、(b)は灰洗浄排水中のカルシウム濃度の変化を示すグラフである。これらのグラフにも明らかなように、炭酸ナトリウムを添加した灰又は灰洗浄排水は、添加しない場合に比べてカルシウム濃度が極めて低くなる。従って、炭酸ナトリウムを添加することにより、カルシウム濃度を低減することができ、スケール成分の付着を防止可能であることが明らかである。
【0032】
また、本実施形態では、灰洗浄排水中のカルシウム濃度を測定し、カルシウムが析出する濃度に基づき設定される炭酸供給開始濃度から炭酸供給終了濃度までの間のみ炭酸塩又はCOガスを供給する構成としているため、炭酸塩を無駄に供給することなくコスト低減が図れる。また、炭酸塩又はCOガスを過剰に添加することによる再資源化原料の品質低下を防止できる。
さらに、炭酸塩又はCOガスの添加により沈殿した生成物を回収して水洗処理灰とともに再資源化することが好ましく、これにより灰の回収効率を向上させることができる。
さらにまた、本第1実施形態では、洗浄槽のうち最も上流側に位置してカルシウムが析出し易い最上流洗浄槽に炭酸塩又はCOガスを供給する構成とすることにより、スケール成分の除去効果を高くすることができる。
【0033】
(第2実施形態)
図2は本発明の第2実施形態に係る処理システムのブロック図である。尚、以下の第2実施形態乃至第5実施形態において、上記した第1実施形態と同様の構成については、その詳細な説明を省略する。
図2に示す第2実施形態では、第1洗浄槽12において、炭酸塩添加手段30とともにCO吹き込み手段33を設けた構成としている。CO吹き込み手段33は、第1洗浄槽12の底部に設けた散気管ノズル(不図示)からCOガスを吹き込み、槽内をバブリングしながらCOを供給する手段である。COガスの散気管ノズルは、第1洗浄槽12の底面に均等に複数設けられていることが好ましく、これにより槽内の撹拌効果を有する。CO吹き込み手段33は、バルブ34によりCOガスの供給量が調整され、好適には制御装置35によりバルブ34の開度が制御され、COガスの供給量が調整されるようになっている。
【0034】
本第2実施形態によれば、COガスの供給により灰洗浄排水中のカルシウム成分を沈殿させ、スケール成分が設備内部に付着することを防止する。このCO吹き込み手段33を炭酸塩添加手段30と併用しているため、スケール成分の除去効果がより一層高くなる。また、COガスにより槽内をバブリングしているため、灰と洗浄水の撹拌効果が向上する。また、洗浄槽に撹拌機を設けない構成とすることもできる。
【0035】
さらに、本実施形態の処理システムが焼却炉に併設されている場合、好適にはCOガスとして焼却炉から排出される焼却排ガスを用いる。焼却排ガスを用いることにより、排ガス中のCOが灰洗浄排水中のカルシウム成分と反応して沈殿するため、焼却排ガスのCOを固定化することができ、地球温暖化の主たる原因となる二酸化炭素の排出を抑制することが可能となる。
【0036】
(第3実施形態)
図3は本発明の第3実施形態に係る処理システムのブロック図である。
図3に示す第3実施形態では、第1洗浄槽12からpH調整槽14に接続される循環配管23aにカルシウム濃度測定手段32が設けられるとともに、炭酸塩添加手段30が、該循環配管23aに炭酸塩を添加するように構成されている。
第1洗浄槽12に投入された灰20は、洗浄水と混合撹拌され、灰洗浄排水の一部は循環配管23aを通ってpH調整槽14に送られる。このとき、カルシウム濃度測定手段32により灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定し、該カルシウム濃度が炭酸供給開始濃度以上である場合には炭酸塩添加手段30により炭酸塩を添加する。そして、カルシウム濃度測定手段32にて測定されるカルシウム濃度が、炭酸供給終了濃度以下となったら炭酸塩の添加を停止する。尚、図3には炭酸塩添加手段30のみを記載してあるが、COガス供給手段で代替してもよいし、これらを両方設けた構成としてもよい。
【0037】
本第3実施形態によれば、スケール成分が設備内部に付着することを防止可能であるとともに、第1洗浄槽12からpH調整槽14へ接続される循環配管23a上に炭酸塩又はCOガスを添加する構成としているため、循環配管23a、23bにスケール成分が付着して閉塞することを確実に防止できる。
【0038】
(第4実施形態)
図4は本発明の第4実施形態に係る処理システムのブロック図である。
図4に示す第4実施形態では、pH調整槽14から第1洗浄槽12に接続される循環配管23bにカルシウム濃度測定手段32が設けられるとともに、炭酸塩添加手段30が、該循環配管23bに炭酸塩を添加するように構成されている。
第1洗浄槽12に投入された灰20は、洗浄水と混合撹拌され、灰洗浄排水の一部は循環配管23aを通ってpH調整槽14に送られる。pH調整槽14でpH調整剤が添加された灰洗浄排水は、循環配管23bを通って第1洗浄槽12に返送される。このとき、カルシウム濃度測定手段32により灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定し、該カルシウム濃度が炭酸供給開始濃度以上である場合には炭酸塩添加手段30により炭酸塩を添加する。そして、カルシウム濃度測定手段32にて測定されるカルシウム濃度が、炭酸供給終了濃度以下となったら炭酸塩の添加を停止する。尚、図4には炭酸塩添加手段30のみを記載してあるが、COガス供給手段で代替してもよいし、これらを両方設けた構成としてもよい。
【0039】
本第4実施形態によれば、スケール成分が設備内部に付着することを防止可能であるとともに、pH調整槽14から第1洗浄槽12へ接続される循環配管23b上に炭酸塩又はCOガスを添加する構成としているため、循環配管23b、23aにスケール成分が付着して閉塞することを確実に防止できる。
【0040】
(第5実施形態)
図5は本発明の第5実施形態に係る処理システムのブロック図である。
図5に示す第5実施形態では、第2洗浄槽13にカルシウム濃度測定手段32が設けられるとともに、炭酸塩添加手段30が、該第2洗浄槽13に炭酸塩を添加するように構成されている。
第1洗浄槽12で水洗処理された灰21は、灰洗浄排水22と分離されて第2洗浄槽13に投入され、該第2洗浄槽13にて新たに洗浄水が供給されて水洗処理される。このとき、カルシウム濃度測定手段32により第2洗浄槽13中の灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定し、該カルシウム濃度が炭酸供給開始濃度以上である場合には炭酸塩添加手段30により炭酸塩を添加する。そして、カルシウム濃度測定手段32にて測定されるカルシウム濃度が、炭酸供給終了濃度以下となったら炭酸塩の添加を停止する。尚、図5には炭酸塩添加手段30のみを記載してあるが、COガス供給手段で代替してもよいし、これらを両方設けた構成としてもよい。
第2洗浄槽12で水洗処理された処理灰24は灰洗浄排水25と分離して再資源化設備に送られる。一方、灰洗浄排水25の少なくとも一部は、第1洗浄槽12に返送される。返送される灰洗浄排水26には炭酸塩が含まれるため、第1洗浄槽12にてもスケール成分の沈殿除去が行われる。
【0041】
本第5実施形態によれば、スケール成分が設備内部に付着することを防止可能であるとともに、第2洗浄槽13に炭酸塩を添加する構成としているため、第2洗浄槽13でもスケール成分が付着することを確実に防止できるとともに、返送される灰洗浄排水26中に炭酸塩が含まれるため、第1洗浄槽12のスケール成分の付着防止も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明では、灰の水洗処理において設備内にスケール成分が付着することを防止でき安定運転が可能であるため、いかなる形態の灰水洗処理設備にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図6】炭酸ナトリウムの添加タイミングを説明する図で、(a)灰洗浄排水中のカルシウム濃度を示すグラフ、(b)炭酸ナトリウムをバッチ的に添加した時の灰洗浄排水中のカルシウム濃度を示すグラフ、(c)炭酸ナトリウムを連続的に添加した時の灰洗浄排水中のカルシウム濃度を示すグラフである。
【図7】炭酸ナトリウムを添加した場合と添加しない場合のカルシウム濃度を比較した図で、(a)灰中のカルシウム濃度の変化を示すグラフ、(b)灰洗浄排水中のカルシウム濃度の変化を示すグラフである。
【図8】水洗処理後の灰洗浄排水の組成を示すグラフである。
【図9】従来の灰処理システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0044】
10 大径物除去装置
11 金属除去装置
12 第1洗浄槽
13 第2洗浄槽
14 pH調整槽
20 灰
23a、23b 循環配管
30 炭酸塩添加手段
31、34 バルブ
32 カルシウム濃度測定手段
33 CO吹き込み手段
35 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽に投入された灰を水洗処理し、発生した灰洗浄排水からスケール成分を除去する灰洗浄排水の処理方法において、
前記灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定し、前記カルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定された炭酸供給開始濃度以上となったら前記灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給して前記灰洗浄排水中のカルシウム成分を炭酸塩化し沈殿させ、前記カルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定された炭酸供給終了濃度以下となったら前記炭酸塩又はCOガスの供給を停止することを特徴とする灰洗浄排水の処理方法。
【請求項2】
前記洗浄槽が直列に複数設けられ、最も上流側に位置する洗浄槽内の灰洗浄排水のカルシウム濃度を測定し、該カルシウム濃度に基づいて前記炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を前記最も上流側に位置する洗浄槽に供給することを特徴とする請求項1記載の灰洗浄排水の処理方法。
【請求項3】
前記洗浄槽から引き抜いた前記灰洗浄排水を、循環配管を介してpH調整槽に送給し、該pH調整槽にて前記灰洗浄排水にpH調整剤を投入してpH調整した後、循環配管を介して前記灰洗浄排水を前記洗浄槽に返送するようにし、
前記灰洗浄排水中のカルシウム濃度に基づいて前記炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を前記循環配管に供給することを特徴とする請求項1記載の灰洗浄排水の処理方法。
【請求項4】
前記カルシウム濃度は、前記灰洗浄排水の電気伝導度により測定されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の灰洗浄排水の処理方法。
【請求項5】
灰を水洗処理する洗浄槽を備え、該洗浄槽にて発生する灰洗浄排水からスケール成分を除去する灰洗浄排水の処理システムにおいて、
前記灰洗浄排水に含まれるカルシウム濃度を測定するカルシウム濃度測定手段と、
前記カルシウム濃度測定手段にて測定されたカルシウム濃度が、カルシウムが析出する濃度に基づき設定された炭酸供給開始濃度以上となったら前記灰洗浄排水に炭酸塩又はCOガスの少なくとも何れか一方を供給して前記灰洗浄排水中のカルシウム成分を炭酸塩化し沈殿させ、前記カルシウム濃度が、前記炭酸供給開始濃度より低く設定された炭酸供給終了濃度以下となったら前記炭酸塩又はCOガスの供給を停止する炭酸供給手段と、を備えることを特徴とする灰洗浄排水の処理システム。
【請求項6】
前記洗浄槽が直列に複数設けられ、最も上流側に位置する洗浄槽に、前記カルシウム濃度測定手段と前記炭酸供給手段とが設けられることを特徴とする請求項5記載の灰洗浄排水の処理システム。
【請求項7】
前記洗浄槽から引き抜かれた灰洗浄排水が循環配管を介して供給され、該灰洗浄排水にpH調整剤を投入してpH調整を行うpH調整槽を備え、該pH調整した灰洗浄排水が前記循環配管を介して前記洗浄槽に返送される構成を有し、
前記循環配管に前記炭酸供給手段が設けられることを特徴とする請求項5記載の灰洗浄排水の処理システム。
【請求項8】
前記COガスが、焼却炉から排出される焼却排ガスであることを特徴とする請求項5記載の灰洗浄排水の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−137141(P2010−137141A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314311(P2008−314311)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】