説明

災害用ゴム水嚢

【課題】内部に水を充填した際に、ゴム袋体の膨出を抑えて形状を保持し易くして、安定性を向上させることができる災害用ゴム水嚢を提供する。
【解決手段】注水部7および排水部8を設けたゴム袋体2の少なくとも対向する2つの面3a、3bに補強層6を埋設し、ゴム袋体2の内部に水を充填した際に、補強層6が面3a、3bをほぼ平坦に維持してゴム袋体2の膨出を抑えるようにして、ゴム水嚢1の安定性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害用ゴム水嚢に関し、さらに詳しくは、内部に水を充填した際に、ゴム袋体の膨出を抑えて形状を保持し易くして、安定性を向上させることができる災害用ゴム水嚢に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大雨や洪水等の災害の際に水の進入を遮断するために使用する土嚢の代わりに、袋体の内部に水を充填して使用する水嚢が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このような水嚢は、水道等からホースを通じて袋体の内部に容易に水を充填することができるので、土嚢に比べて準備に労力を要しないという利点がある。
【0003】
しかしながら、ゴム袋体などの柔軟な袋体を用いた場合は、内部に水が充填されると袋体が膨出して形状が安定せず、安定性に欠けるという問題があった。そのため、水嚢は土嚢に比して、安定して設置するには不利であり、ずれたり崩れたりしないように注意深く設置する必要あるため、設置に時間を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−163514号公報
【特許文献2】特開2008−63925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、内部に水を充填した際に、ゴム袋体の膨出を抑えて形状を保持し易くして、安定性を向上させることができる災害用ゴム水嚢を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の災害用ゴム水嚢は、ゴム袋体と、このゴム袋体に設けられた注水部および排水部とを備えた災害用ゴム水嚢において、ゴム袋体の少なくとも対向する2つの面に補強層を埋設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の災害用水嚢によれば、ゴム袋体の少なくとも対向する2つの面に補強層を埋設することにより、ゴム袋体の内部に水を充填した際に、埋設された補強層がゴム袋体の膨出を抑えるので、ゴム袋体の形状を保持するには有利になる。それ故、水を充填したゴム水嚢を必要な場所に安定して設置することが可能になる。
【0008】
ここで、前記補強層を埋設した対向する2つの面どうしを連結する面に補強層を埋設して、補強層をゴム袋体に環状に埋設した仕様にすることもできる。この仕様によれば、ゴム袋体に水を充填した際に、環状に埋設された補強層がゴム袋体の膨出を抑えるので、ゴム袋体の形状を保持するには一段と有利になる。それ故、更に安定してゴム水嚢を設置することができる。
【0009】
ゴム袋体を平坦にした際に屈曲して折り畳まれる折り畳み面の剛性を、折り畳まれない非折り畳み面の剛性よりも低く設定した仕様にすることもできる。この仕様によれば、ゴム袋体を折り畳み易くなるので、ゴム袋体の内部に充填した水を排出させる作業の軽労化を図ることができる。また、ゴム袋体をより平坦にし易くなるので、ゴム水嚢の搬送や保管には便利になる。
【0010】
前記注水部と排水部の少なくとも一方をゴム袋体の表面に突設し、突設した注水部または排水部に嵌合する形状の凹部をゴム袋体に設けた仕様にすることもできる。この仕様によれば、ゴム水嚢を複数設置する際に、突設した注水部または排水部を、隣接して設置するゴム水嚢の凹部に嵌合させることにより、互いを一体化させることができる。そのため、ゴム水嚢がずれたり崩れたりし難くなる。ゴム袋体の表面に突設した注水部または排水部を利用するので、特別な突部を設ける必要もない。
【0011】
前記ゴム袋体の両端に把持部を設けた仕様にすることもできる。この仕様では、把持部を持つことにより、ゴム水嚢を搬送し易くなる。
【0012】
前記ゴム袋体の容積は、5000cm3〜40000cm3にするのが好ましい。この仕様によれば、ゴム袋体の内部に水を充填した場合であっても、一人または二人の人力でゴム水嚢を移動させることができるので、取り扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の災害用ゴム水嚢を例示する斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】補強層の配置の変形例を示すゴム水嚢の断面図である。
【図4】図2のゴム水嚢を折り畳んだ状態を例示する断面図である。
【図5】図2のゴム水嚢を複数積み上げた状態を例示する断面図である。
【図6】別の実施形態のゴム水嚢を複数積み上げた状態を例示する断面図である。
【図7】さらに別の実施形態のゴム水嚢を例示する斜視図である。
【図8】図7のゴム水嚢を複数連結した状態を例示する断面図である。
【図9】さらに別の実施形態のゴム水嚢を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の災害用ゴム水嚢を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1、図2に例示するように本発明の災害用ゴム水嚢1(以下、ゴム水嚢1という)は、ゴム袋体2と、ゴム袋体2に設けられた注水部7および排水部8とを備えている。この実施形態では、内部に水が充填された際のゴム袋体2の形状は直方体状であり、その上面3aに注水部7、下面3bに排水部8が設けられている。ゴム袋体2は、立方体状や多角柱状などの種々の形状にすることができる。
【0016】
ゴム袋体2を形成するゴム種としては、例えば、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびEPDMゴムおよびそれらのブレンドゴム等を例示できる。その他に、ニトリル・ブタジエンゴム等の他のゴムおよび塩化ビニル樹脂やウレタン樹脂などの合成樹脂も目的に応じて使用することができる。それぞれの面3a〜3fのゴム厚は、例えば、1mm〜10mm程度である。
【0017】
注水部7は硬質樹脂等で形成されていて、一部がゴム袋体2(上面3a)に埋設されて、蓋部7aは上面3aの表面から突出している。ゴム袋体2の内部に水を充填する際には、蓋部7aを外して開口し、水道ホースや消防ホース等の水供給ホースを開口に挿入して水を充填する。
【0018】
尚、注水部7にワンタッチカプラー等のホース継手を設置すると水道圧等により、早急の注水が可能となるので更に好ましい。
【0019】
排水部8は硬質樹脂等で形成されていて、ゴム袋体2の下面3bの表面から窪んだ凹部4になっている。排水部8は、上面3aの表面から突出した注水部7(蓋部7a)に嵌合する形状になっている。ゴム袋体2の内部に充填された水を排出する際には、蓋部8aを外して開口する。尚、注水部7、排水部8の構造は、実施形態に例示したものに限定されず、他の構造を採用することもできる。
【0020】
ゴム袋体2を構成する面3a〜3fのうち、対向する2つの面3a、3bのみに、補強層6が埋設されている。補強層6には、例えば平織の帆布、すだれ織コードなど種々の繊維補強層が用いられる。ゴム袋体2に補強層6がまったく埋設されていない場合は、それぞれの面3a〜3fが充填された水の圧力によって不規則に膨出するので、ゴム袋体2の形状が安定しない。そこで、ゴム袋体2の形状を安定させようとすれば、それぞれの面3a〜3fのゴム厚を過剰に厚くする必要がある。
【0021】
一方、本願発明のように、ゴム袋体2の対向する2つの面3a、3bに補強層6を埋設すると、ゴム袋体2の内部に水を充填した際に、埋設された補強層6が、その面3a、3bの膨出を抑え、これに伴って他の面3c〜3fの膨出もある程度抑制される。そのため、ゴム袋体2のゴム厚を過剰に厚くすることなく、形状を保持するには有利になる。補強層6が埋設された面3a、3bは、平坦状を維持し易くなるので、これらの面3a、3bを上下面にすれば、水を充填したゴム水嚢1を必要な場所に安定して設置することが可能になる。災害時には、多数のゴム水嚢1を並べて積み上げるので、それぞれのゴム水嚢1を安定して設置できれば、積み上げたゴム水嚢1が崩れ難くなる。また、ゴム水嚢1が崩れないように過度に注意を払って設置作業をする必要がなくなるので、設置作業の迅速化にも寄与する。
【0022】
図2のゴム水嚢1では、補強層6が埋設された面3a、3bが平坦状に保持されているので、補強層6が埋設されていない面3c、3d、3e、3fを下面にしてもある程度安定して設置することができる。
【0023】
補強層6は、少なくとも対向する2面に埋設されていればよく、図3に例示するように、補強層6を埋設した対向する2つの面3a、3bどうしを連結する面3e、3fに補強層6を埋設し、他方の面3c、3dには補強層6を埋設しないようにして、補強層6をゴム袋体2に環状に埋設した仕様にすることもできる。或いは、袋体2を構成するすべての面3a〜3fに補強層6を埋設することもできる。
【0024】
図3に例示するように、補強層6をゴム袋体2に環状に埋設すると、ゴム袋体2に水を充填した際に、環状に埋設された補強層6がゴム袋体2の膨出を抑える。そのため、ゴム袋体2の形状を保持するには一段と有利になり、更に安定してゴム水嚢1を設置することができる。ただし、補強層6を埋設する面が多くなるとゴム水嚢1の重量が重くなったり、ゴム袋体2を折り畳み難くなるという弊害が生じることもある。
【0025】
図3のゴム水嚢1でも、補強層6が埋設されていない面3c、3dを下面にしてもある程度安定して設置することができる。
【0026】
ゴム袋体2の内部に水が充填されてなく空の状態では、ゴム水嚢1は、図4に例示するように、面3c、3d、3e、3fを屈曲させて平坦に折り畳むことができる。屈曲して折り畳まれる面3c、3d、3e、3fは、できるだけ剛性(面の曲げ易さ)を低くするのが好ましい。これにより、ゴム袋体2を折り畳み易くなり、ゴム袋体2の内部に充填した水を排出させる作業の軽労化を図ることができる。また、ゴム袋体2をより平坦にし易くなるので、ゴム水嚢1の搬送や保管には便利になる。
【0027】
一方、折り畳まれない非折り畳み面3a、3bは、剛性が低いと袋体2の内部に水が充填された場合に、膨出し易くなるので、ある程度、剛性が高くするのがよい。それ故、ゴム袋体2を平坦にした際に屈曲して折り畳まれる折り畳み面3c、3d、3e、3fの剛性を、折り畳まれない非折り畳み面3a、3bの剛性よりも低く設定することが好ましい。
【0028】
それぞれの面3a〜3fのゴム種、ゴム厚が同じであれば、補強層6が埋設された面は、埋設されていない面よりも剛性が高くなる。そこで、補強層6の埋設の有無によって剛性の高低を調整することができる。或いは、埋設する補強層6の硬さや層数によって剛性の高低を調整することができる。もちろん、それぞれの面3a〜3fのゴム種、ゴム厚の少なくとも一方を異ならせることで剛性の高低を調整することもできる。
【0029】
注水部7および排水部8は、任意の位置に設けることができるが、蓋7a、8aの開閉時などに注水部7、排水部8を設けた面3a、3bには負荷が生じることがあるので、補強層6が埋設された面に設けることが好ましい。実施形態では、注水部7と排水部8とを別々に設けているが、両者を共通化して1つの注排水部にすることもできる。
【0030】
図5に例示するにように、ゴム水嚢1を積み上げる際には、積み上げるゴム水嚢1の排水部8を、下方に位置するゴム水嚢1の注水部7(蓋部7a)に嵌合させる。これにより、互いのゴム水嚢1を連結させて一体化させることができる。そのため、ゴム水嚢1がずれたり崩れたりし難くなる。ゴム袋体2の表面に突設した注水部8と、凹部にした排水部8とを利用するので、特別な突部を設ける必要もない。
【0031】
図6に例示するように、注水部7と排水部8をそれぞれ上面3a、下面3bにおいて、オフセットして配置することもできる。この実施形態によれば、積み上げるゴム水嚢1が、下方に位置する2つのゴム水嚢1に跨って設置されるので、複数のゴム水嚢1を積み上げて設置されるゴム水嚢1の一群の安定性を向上させることができる。
【0032】
注水部7と排水部8とを嵌合させる構造だけでなく、注水部7と排水部8の少なくとも一方をゴム袋体2の表面に突設し、突設した注水部7または排水部8に嵌合する形状の凹部をゴム袋体2に設ければよい。例えば、ゴム袋体2の表面に注水部7を突設し、この注水部7に嵌合する形状の凹部をゴム袋体2のいずれかの位置に設けた構造にすることもできる。
【0033】
図7に例示するように、ゴム袋体2の両端に把持部5を設けることもできる。この実施形態では、上面3aの両端に、把持部5として手を入り込ませることができる穴が形成されている。把持部5を持つことにより、ゴム水嚢1を搬送し易くなる。
【0034】
この実施形態では、上面3aに把持部5の穴に嵌合する形状に形成された係合部9が設けられている。そのため、図8に例示するように、複数のゴム水嚢1を並べる際に、左右に隣り合うゴム水嚢1の一方のゴム水嚢1の把持部5を、他方のゴム水嚢1の係合部9に嵌合させることにより、互いのゴム水嚢1を連結することができる。それ故、並んで設置されるゴム水嚢1の一群の安定性を向上させることができる。
【0035】
図9に例示する実施形態では、ゴム袋体2の両端に把持部5が設けられるとともに、上面3aに突設された注水部7がオフセットされて配置されている。そして、注水部7が把持部5の穴に嵌合する形状になっている。それ故、複数のゴム水嚢1を並べる際に、左右に隣り合う一方のゴム水嚢1の把持部5を、他方のゴム水嚢1の注水部7に嵌合させることにより、互いのゴム水嚢1を連結することができる。それ故、並んで設置されるゴム水嚢1の一群の安定性を向上させることができる。排水部8をゴム袋体2の表面に突出させて、把持部5の穴に嵌合させるようにすることもできる。
【0036】
ゴム水嚢1は、ゴム袋体2の内部が空の状態で所定位置に配置し、その後、内部に水を充填して設置することも、予めゴム袋体2の内部に水を充填してから所定位置に設置することもできる。また、本願発明のゴム水嚢1だけを並べたり、積み重ねるだけでなく、通常の土嚢を適宜配置して、土嚢とゴム水嚢1と組み合わせて設置することもできる。
【0037】
ゴム袋体2の容積は例えば、5000cm3〜40000cm3程度にするのが好ましい。この容積であれば、ゴム袋体2の内部に水を充填した場合であっても、一人または二人の人力でゴム水嚢1を移動させることができるので、取り扱いが容易になる。一人の人力で移動させるようにするには、ゴム袋体2の容積を5000cm3〜20000cm3程度にするとよい。
【符号の説明】
【0038】
1 災害用ゴム水嚢
2 ゴム袋体
3a、3b、3c、3d、3e、3f ゴム袋体の面
4 凹部
5 把持部
6 補強層
7 注水部
7a 蓋
8 排水部
8a 蓋
9 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム袋体と、このゴム袋体に設けられた注水部および排水部とを備えた災害用ゴム水嚢において、ゴム袋体の少なくとも対向する2つの面に補強層を埋設したことを特徴とする災害用ゴム水嚢。
【請求項2】
前記補強層を埋設した対向する2つの面どうしを連結する面に補強層を埋設して、補強層をゴム袋体に環状に埋設した請求項1に記載の災害用ゴム水嚢。
【請求項3】
ゴム袋体を平坦にした際に屈曲して折り畳まれる折り畳み面の剛性を、折り畳まれない非折り畳み面の剛性よりも低く設定した請求項1または2に記載の災害用ゴム水嚢。
【請求項4】
前記注水部と排水部の少なくとも一方をゴム袋体の表面に突設し、突設した注水部または排水部に嵌合する形状の凹部をゴム袋体に設けた請求項1〜3のいずれに記載の災害用ゴム水嚢。
【請求項5】
前記ゴム袋体の両端に把持部を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の災害用ゴム水嚢。
【請求項6】
前記ゴム袋体の容積が5000cm3〜40000cm3である請求項1〜5のいずれかに記載の災害用ゴム水嚢。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−144861(P2012−144861A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2274(P2011−2274)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】