説明

炉体構造

【課題】極めて簡素な構造で、損傷が最も激しいスラグ出湯口煉瓦のみを取り替えて容易かつ短期に補修することができる経済性に富んだ炉体構造を提供する。
【解決手段】本発明の炉体構造1は、溶融スラグを排出するスラグ出湯口2を有したスラグ出湯口煉瓦3を備えた炉体構造であって、スラグ出湯口煉瓦3は、スラグ出湯口2を有した内挿煉瓦4と、内挿煉瓦4を着脱可能に嵌挿するための外郭煉瓦5とを備えている。このため、最も溶損の激しいスラグ出湯口2周りの内挿煉瓦4を取り外して新品の内挿煉瓦を差込めばよく、容易かつ短期に補修することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外郭鉄皮の内側に耐火煉瓦層を構築した炉体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外郭鉄皮の内側に耐火煉瓦層を構築した炉体構造では、損傷した耐火煉瓦を取り替えて改修することが一般に行われているが、図2の溶損ライン13に示すように、損傷が激しい部位はスラグラインSL付近の煉瓦である。その中でもスラグ出湯口部周りの煉瓦がラッパ状に損傷し、その溶損量はスラグラインSL付近の約1.5〜2倍であり最も大きい。
【0003】
一般にスラグラインSL付近の煉瓦に目地(煉瓦と煉瓦の接合部)が存在すると著しく溶損することから、スラグ出湯口部を有する煉瓦(スラグ出湯口煉瓦)はできるだけ大型の煉瓦を使用し、目地が少ない構造で設計している。それでも、スラグ出湯口煉瓦の損傷が大きく、残厚が薄く、安全使用が難しいと考えられる場合は新しい煉瓦に交換する必要がある。
【0004】
このスラグ出湯口煉瓦を交換する場合には、通常、図4に示すように、スラグ出湯口煉瓦20に隣接する内張り煉瓦21、それらの上段に配された殆ど損傷がない気相部煉瓦22をVカット状に取り崩して交換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】引用なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、スラグ出湯口煉瓦を交換する場合にVカット状に煉瓦を取り崩すことは、不経済であるばかりでなくリサイクル性にも劣るため、スラグ出湯口煉瓦のみを容易に交換可能な炉体構造が嘱望されている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、極めて簡素な構造で、損傷が最も激しいスラグ出湯口煉瓦のみを取り替えて容易かつ短期に補修することができる経済性に富んだ炉体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するものは、溶融スラグを排出するスラグ出湯口を有したスラグ出湯口煉瓦を備えた炉体構造であって、前記スラグ出湯口煉瓦は、スラグ出湯口を有した内挿煉瓦と、該内挿煉瓦を着脱可能に嵌挿するための外郭煉瓦とを備えていることを特徴とする炉体構造である。
【0009】
前記スラグ出湯口煉瓦は、前記外郭煉瓦内に前記内挿煉瓦が嵌挿された2重構造に構成されていることが好ましい。前記内挿煉瓦は、前記外郭煉瓦に嵌入した状態で炉内側が小さく炉外側が大きくなるように形成されていることが好ましい。前記内挿入煉瓦は、円錐台形状に形成されていることが好ましい。前記炉体構造は炉内が還元雰囲気の炉であって、前記スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、カーボン質またはカーボン−セラミックス質であることが好ましい。前記炉体構造は炉内が酸化雰囲気の炉であって、前記スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、アルミナ−クロム質、またはMgO−C質であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した発明によれば、最も溶損の激しいスラグ出湯口周りの内挿煉瓦を取り外して新品の内挿煉瓦を差し込めばよく、容易かつ短期に補修することができる経済性に富んだ炉体構造となる。
請求項2に記載した発明によれば、上記請求項1の効果に加え、外郭煉瓦により内挿煉瓦をより確実に保護できる。
請求項3に記載した発明によれば、耐火詰め物で閉塞してあるスラグ出湯口を解砕機で開ける際に衝撃力で内挿煉瓦が炉内側に押出されないようにすることができる。
請求項4に記載した発明によれば、角錘台形状に比して容易に作製することができると共に、外郭煉瓦内にコーナー部が形成されず、溶融炉操業時の高温下でも熱応力による亀裂が発生し難いスラグ出湯口煉瓦となる。
請求項5または6に記載した発明によれば、スラグ出湯口煉瓦が溶融スラグに対し高耐食性を示す材質で形成されているため、溶損が抑制され高寿命化が達成できると共にその上部に積載される気相部煉瓦等の損傷や脱落をより防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の炉体構造の一実施例の縦断面図である。
【図2】図1に示した炉体構造の溶損ラインを説明するための縦断面図である。
【図3】図1に示した炉体構造においてスラグ出湯口煉瓦の補修方法を説明するためのスラグ出湯口煉瓦付近の説明図であり、右側面側外郭鉄皮省略図である。
【図4】従来の炉体構造においてスラグ出湯口煉瓦の補修方法を説明するためのスラグ出湯口煉瓦付近の説明図であり、外郭鉄皮省略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、極めて簡素な構造で、損傷が激しいスラグ出湯口煉瓦のみを取り替え、容易かつ短期に補修することができる経済性に富んだ炉体構造を実現した。
【実施例1】
【0013】
本発明の炉体構造を図1ないし図3に示した一実施例を用いて説明する。
この実施例の炉体構造1は、溶融スラグを排出するスラグ出湯口2を有したスラグ出湯口煉瓦3を備えた炉体構造であって、スラグ出湯口煉瓦3は、スラグ出湯口2を有した内挿煉瓦4と、内挿煉瓦4を着脱可能に嵌挿するための外郭煉瓦5とを備えていることを特徴とする炉体構造である。以下、各構成について順次詳述する。
【0014】
この実施例の炉体構造1は灰溶融炉であり、図1に示すように、外郭鉄皮6内の底部には敷煉層7が構築され、敷煉層7の上部には炉底煉瓦8が配されている。外郭鉄皮6の内側壁には複数の裏張り煉瓦9が配されており、裏張り煉瓦9の内側に内張り煉瓦10が積層されている。また、内張り煉瓦10の上部には気相部煉瓦11が積層されている。
【0015】
内張り煉瓦10が積層された部位の一部には、図3に示すように、スラグ出湯口2を有した内挿煉瓦4と、内挿煉瓦4を着脱可能に嵌挿するための外郭煉瓦5とからなるスラグ出湯口煉瓦3が配されている。
【0016】
内挿煉瓦4は、溶損が最も激しい溶融スラグ出湯口周りを構成する煉瓦であり、中央部を溶融スラグ出湯口2が貫通しており、炉体構造1はこの溶融スラグ出湯口2を介して溶融スラグを外部に導出可能に構成されている。
【0017】
内挿煉瓦4は、図1または図3に示すように、外郭煉瓦5内に耐火モルタルを介して着脱可能に嵌挿されており、損傷が激しい場合は、この内挿煉瓦4を外郭煉瓦5から除去して新しい内挿煉瓦に差し替えて補修する。
【0018】
内挿煉瓦4は、図1に示すように、外郭煉瓦5内に嵌入した状態で炉内側が小さく炉外側が大きくなるように形成されている。このような形態にすることによって、耐火詰め物で閉塞してある溶融スラグ出湯口2を解砕機で開ける際、溶融スラグ出湯口2の外部から内部に向かって解砕機による衝撃が加わるが、その衝撃力で内挿煉瓦4が炉内側に押出されないようにすることができる。
【0019】
より具体的には、この実施例の内挿煉瓦4は、円錐台形状に形成されている。内挿煉瓦の形状としては角錐台形状や円錐形状が考えられるが、角錐台形状は製造し難く、また、外郭煉瓦5内側にコーナー部が形成されるため、溶融炉操業時の高温下(1400℃〜1650℃)で熱応力による亀裂が発生するおそれがあり、円錐台形状が好ましい。
【0020】
外郭煉瓦5は、内挿煉瓦4を着脱可能に嵌挿し保護するためのものであり、図1または図3に示すように、内挿煉瓦4の周囲に配され、内挿煉瓦4を中央部に配し、スラグ出湯口煉瓦3を内挿煉瓦4と共に2重構造に構成している。
【0021】
つぎに、本発明の炉体構造1の作用(補修方法)について説明する。
本発明は、溶損が最も激しい溶融スラグ出湯口周りを構成する内挿煉瓦4のみを交換可能な炉体構造であり、内挿煉瓦4を外郭煉瓦5内で取り壊し、新品の内挿煉瓦4を差し込んで交換する。内挿煉瓦4と外郭煉瓦5との接合面(内挿煉瓦4の外表面と外郭煉瓦5の内表面の間隙)には耐火モルタルを塗布して新品の内挿煉瓦を固着させる。なお、外郭煉瓦5の溶損が激しく、新品の内挿煉瓦4を差込んだ際に、内挿煉瓦4の炉内側と外郭煉瓦5の炉内側に段差が生じる場合は、この段差部位に耐火パッチング材を充填し、段差部位への溶融スラグの侵蝕を防止する。
【0022】
このように、本発明の炉体構造1における補修作業は、最も溶損の激しい溶融スラグ出湯口周りの内挿煉瓦4を取り外して新品の内挿煉瓦4を差し込めばよく、容易かつ短期に補修することができる。より詳しくは、溶損の大きいスラグ出湯口煉瓦3は、溶融スラグ出湯口2周りの内挿煉瓦4とその外方に配された外郭煉瓦5とを分割した2重構造に構成されており、最も溶損の大きい内挿煉瓦4を外郭煉瓦5内にて取り壊し、新品の内挿煉瓦4を差し込めば完了する。図4に示すように、溶融スラグ出湯口煉瓦20を交換するために上方からVカット状に取り壊し、殆ど損傷がない気相部煉瓦等を取り壊す必要もないため、改修の工期が短縮できリサイクル性が向上すると共に経済性に富んだ炉体構造となる。
【0023】
なお、炉体構造の炉内が還元雰囲気の炉の場合は、スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、カーボン質またはカーボン−セラミックス質であることが好ましい。これにより、スラグ出湯口煉瓦が溶融スラグに対し高耐食性を示す材質で形成されるため、スラグ出湯口煉瓦の溶損が抑制され高寿命化が達成できると共に、その上部に積載される気相部煉瓦等の損傷や脱落をより防止できる。セラミックスとしては、SiC、Al2O3、MgO、ZrO2のうちの1種類または2種類以上の組合せが好適に使用できる。
【0024】
他方、炉体構造の炉内が酸化雰囲気の炉の場合は、スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、アルミナ−クロム質、またはMgO−C質であることが好ましい。これによっても、スラグ出湯口煉瓦が溶融スラグに対し高耐食性を示す材質で形成されるため、スラグ出湯口煉瓦の溶損が抑制され高寿命化が達成できると共に、その上部に積載される気相部煉瓦等の損傷や脱落をより防止できる。
【0025】
さらに、この実施例の炉体構造1は灰溶融炉であるが、本発明の炉体構造はこれに限定されるものではなく、外郭鉄皮の内側に耐火煉瓦層を構築する各種溶融炉に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 炉体構造
2 溶融スラグ出湯口
3 スラグ出湯口煉瓦
4 内挿煉瓦
5 外郭煉瓦
6 外郭鉄皮
7 敷煉層
8 炉底煉瓦
9 裏張り煉瓦
10 内張り煉瓦
11 気相部煉瓦
12 上端開口
13 溶損ライン
SL スラグライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融スラグを排出するスラグ出湯口を有したスラグ出湯口煉瓦を備えた炉体構造であって、前記スラグ出湯口煉瓦は、スラグ出湯口を有した内挿煉瓦と、該内挿煉瓦を着脱可能に嵌挿するための外郭煉瓦とを備えていることを特徴とする炉体構造。
【請求項2】
前記スラグ出湯口煉瓦は、前記外郭煉瓦内に前記内挿煉瓦が嵌挿された2重構造に構成されている請求項1に記載の炉体構造。
【請求項3】
前記内挿煉瓦は、前記外郭煉瓦に嵌入した状態で炉内側が小さく炉外側が大きくなるように形成されている請求項1または2に記載の炉体構造。
【請求項4】
前記内挿入煉瓦は、円錐台形状に形成されている請求項3に記載の炉体構造。
【請求項5】
前記炉体構造は炉内が還元雰囲気の炉であって、前記スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、カーボン質またはカーボン−セラミックス質である請求項1ないし4のいずれかに記載の炉体構造。
【請求項6】
前記炉体構造は炉内が酸化雰囲気の炉であって、前記スラグ出湯口煉瓦の材質はSiC質、アルミナ−クロム質、またはMgO−C質である請求項1ないし4のいずれかに記載の炉体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−75169(P2011−75169A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225747(P2009−225747)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】