説明

炉心溶融物の保持装置

【課題】所定の時間、炉心溶融物を保持することが可能な新規な構成の炉心溶融物の保持装置を提供する。
【解決手段】実施形態の炉心溶融物の保持装置は、原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、前記保持装置は、酸化物セラミックスを含み、少なくとも水平方向に所定の空隙を有するようにして敷設された複数のブロックからなる耐熱層を具える。また、前記複数のブロックにおける隣接したブロック同士の、前記空隙に相当する接合部の表面に形成された、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウム、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む被覆材を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、炉心溶融物の保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、冷却水の供給停止及び/又は配管の破断によって、原子炉圧力容器内へ冷却水が供給されなくなると、原子炉水位が低下して炉心が露出し、この炉心の冷却が不十分になる可能性がある。このような場合を想定して、水位低下の信号により自動的に原子炉は非常停止され、非常用炉心冷却装置(ECCS)による冷却材の注入によって炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。
【0003】
しかしながら、上記冷却材の投入にはある程度の時間を要し、極めて低い確率ではあるが、上記非常用炉心冷却装置が作動せず、さらに、その他の炉心への注水装置も利用できない事態も想定され得る。このような場合、原子炉圧力容器内の水位は低下したままであって、露出した炉心は十分な冷却が行われなくなることにより、原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱によって燃料棒温度が上昇し、最終的には炉心溶融に至ることが考えられる。
【0004】
このような事態に至った場合、高温の炉心溶融物(コリウム)が原子炉圧力容器下部に溶け落ち、さらに原子炉圧力容器の下部を溶融貫通して、格納容器内の床上に落下するに至る。炉心溶融物は格納容器床に張られたコンクリートを加熱し、接触面が高温状態になるとコンクリートと反応し、二酸化炭素、水素等の非凝縮性ガスを大量に発生させるとともにコンクリートを溶融浸食する。
【0005】
発生した非凝縮性ガスは、サプレッションプールで冷却することによって、その圧力をある程度低下させることはできるが、発生するガスの量が多いとサプレッションプールによってもその圧力を十分に低下させることができない。この結果、格納容器内の圧力を高め、原子炉格納容器を破損させる可能性があり、また、コンクリートの溶融浸食により格納容器バウンダリを破損させたりする可能性がある。すなわち、炉心溶融物とコンクリートとの反応が生じ、この反応が所定の時間に亘って継続すると格納容器破損に至り、格納容器内の放射性物質が外部環境へ放出させる恐れがある。
【0006】
このような観点から、炉心溶融物とコンクリートとの反応を抑制するために、炉心溶融物を冷却し、炉心溶融物底部のコンクリートとの接触面の温度を浸食温度以下(一般的なコンクリートで1500K以下)に冷却するか、炉心溶融物とコンクリートとが直接接触しないようにする必要がある。後者の手段の代表として、炉心溶融物保持装置(コアキャッチャー)と呼ばれるものが存在する。この炉心溶融物保持装置は、落下した炉心溶融物を耐熱材で受け止めるとともに、注水手段と組み合わせて炉心溶融物の冷却を図る設備である。
【0007】
しかしながら、注水手段から冷却水が供給されるまでには、約10分程度の時間を要する場合があり、この間、炉心溶融物は炉心溶融物保持装置のみによって保持しなければならない。したがって、炉心溶融物保持装置には極めて高い耐熱性が要求される。
【0008】
従来、カルシウム酸化物とケイ素酸化物とを主成分とするコンクリートを用いて炉心溶融物保持装置を構成したり(特許文献1)、高融点材料のタイルを用いて炉心溶融物保持装置を構成したり(特許文献2)などの試みがなされている。炉心溶融物を保持する際には、炉心溶融物保持装置の温度が室温から2000℃まで急激に温度上昇することになるため、その際に発生する熱応力による破損の問題や、ジェット状に噴出した炉心溶融物が耐熱材の表面に局所的に衝突して溶融侵食を引き起こす、いわゆるジェットインピンジメントの問題など、多様な損傷要因が複合的に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−5795号公報
【特許文献2】特開平6−300880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、所定の時間、炉心溶融物を保持することが可能な新規な構成の炉心溶融物の保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の炉心溶融物の保持装置は、原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、前記保持装置は、酸化物セラミックスを含み、少なくとも水平方向に所定の空隙を有するようにして敷設された複数のブロックからなる耐熱層を具える。また、前記複数のブロックにおける隣接したブロック同士の、前記空隙に相当する接合部の表面に形成された、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウム、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む被覆材を具える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態における水冷型原子炉の炉心溶融物保持装置の概略構成を拡大して示す断面図である。
【図2】図1に示す炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図3】図2に示す炉心溶融物保持装置の上平面図である。
【図4】第2の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図5】第3の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図6】図5に示す炉心溶融物保持装置の上平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら実施形態を詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、水冷型原子炉の炉心溶融物保持装置の概略構成を拡大して示す断面図である。また、図2は、図1に示す炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図であり、図3は、図2に示す炉心溶融物保持装置の上平面図である。なお、図2に示す断面図は、図3に示す上平面図のI−I線に沿って切った場合の断面図に相当する。
【0015】
図1に示すように、炉心溶融物保持装置10は、格納容器19の床部材191及び格納容器19の下側の隅部の全周に亘って斜面を前面にして当接された断面直角三角柱状の治具195と協働して、床部材191と治具195との間に冷却水路199を形成するような、お椀型の金属部材11と、この金属部材11上に順次に形成された耐熱層12及び複数の被覆材13とを有している。
【0016】
図2に示すように、耐熱層12は、酸化物セラミックスを含む複数のブロックが垂直方向及び水平方向に敷設されてなる。具体的には、上方から下方に向けて、酸化物セラミックスを含む複数の第1のブロック121Aからなる第1のブロック層121、同じく酸化物セラミックスを含む複数の第2のブロック122Aからなる第2のブロック層122、及び同じく酸化物セラミックスを含む複数の第3のブロック123Aからなる第3のブロック層123が、順次に形成されてなるようにして構成されている。
【0017】
なお、耐熱層12を構成する第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123Aは、上述したように酸化物セラミックスから構成する。これは、酸化物セラミックスが一般に高い耐熱性を示すとともに耐腐食性をも示し、このような材料から耐熱層12を構成し、この耐熱層12を炉心溶融物保持装置10の一部とすることにより、炉心溶融物保持装置10の本来的な作用効果を充分に奏することができるためである。すなわち、炉心溶融物の高い温度に抗してこの炉心溶融物を所定時間保持することができ、炉心溶融物の溶融侵食に抗してこの炉心溶融物を所定時間保持することができる。
【0018】
上記酸化物セラミックスとしては、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、イットリウム酸化物、ネオジウム酸化物、リン酸塩系酸化物などを例示することができる。但し、炉心溶融物との反応性の低さや、融点、入手性などを総合的に判断すると、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物のいずれかを主成分とする材料が好適である。なお、ムライト(3Al・2SiO)、ジルコン(ZrO・SiO)などの、これら酸化物を主成分とする複合酸化物系を利用することも可能である。
【0019】
また、本実施形態では、耐熱層12は、複数のブロック(第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123A)が垂直方向及び水平方向に敷設されることによって、3層のブロック層(第1のブロック層121〜第3のブロック層123)から構成されるようになっている。したがって、1層目のブロック層(第1のブロック層121)が炉心溶融物による溶解あるいは腐食によって侵食されたような場合においても、当該炉心溶融物は、2層目(第2のブロック層122)及び3層目(第3のブロック層123)によって所定時間保持することができる。この結果、炉心溶融物保持装置10は、たとえ1層目のブロック層が侵食された場合においても、炉心溶融物を所定時間保持することができ、その機能を充分に発揮することができる。
【0020】
さらに、本実施形態では、各ブロック層(第1のブロック層121〜第3のブロック層123)は複数のブロック(第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123A)から構成されている。したがって、各層を構成する複数のブロックそれぞれの大きさは必要に応じて狭小化(最大で10cm程度のオーダー)することができるので、炉心溶融物が充分に溶融せずに、半固体の状態で炉心溶融物保持装置10に衝突した際においても、その衝撃に起因した各層を構成するブロックの破損を防止することができる。この結果、耐熱層12、すなわち炉心溶融物保持装置10は、炉心溶融物をより確実に所定時間充分に保持することが可能となる。
【0021】
なお、本実施形態では、上述したように、耐熱層12を構成するブロック層を3層としているが、必要に応じて任意の層とすることができる。また、上述したように、耐熱層12をブロックで構成したことによる作用効果が充分に奏される状態においては、ブロックの厚さを充分に厚くして耐熱性及び耐腐食性を確保することができれば、耐熱層12を構成するブロック層を単層とすることもできる。
【0022】
また、本実施形態では、耐熱層12において、第1のブロック層121を構成する複数の第1のブロック121Aの、隣接するブロック121A間には空隙121Hが形成され、第2のブロック層122を構成する複数の第2のブロック122Aの、隣接するブロック122A間には空隙122Hが形成されている。また、第3のブロック層123を構成する複数の第3のブロック123Aの、隣接するブロック123A間には空隙123Hが形成されている。これは、耐熱層12に対して炉心溶融物が落下した際において、この炉心溶融物の熱によって耐熱層12を構成する各ブロックが熱的に膨張する場合を考慮して設けたものである。
【0023】
すなわち、第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123Aからなる耐熱層12に対して炉心溶融物が落下し、これを保持した場合において、各ブロック121A,122A,123Aは炉心溶融物からの熱的な影響を受けて互いに膨張するようになる。したがって、これらブロック121A,122A,123A間に空隙121H〜123Hが存在しないようにしてブロック121A、122A及び123Aを敷設すると、隣接したブロック121A,122A,123A同士が互いの熱膨張によって互いに押圧するようになり、ブロックの破損やブロックの剥離などが生じる。この結果、耐熱層12に欠陥が生じてしまい、炉心溶融物保持装置10はその本来の機能を充分に奏することが出来なくなってしまう場合がある。
【0024】
これに対して、本実施形態のように、ブロック121A,122A,123A間に空隙121H〜123Hを形成するようにしてブロック121A、122A及び123Aを敷設することにより、隣接したブロック121A,122A,123A同士が互いの熱膨張によって互いに押圧することがないので、ブロックの破損やブロックの剥離などが生じることがない。この結果、耐熱層12に欠陥が生じることなく、炉心溶融物保持装置10はその本来の機能をより確実に奏することが出来るようになる。
【0025】
なお、ブロック121A,122A,123A間の空隙121H〜123Hの大きさは特に限定されるものではないが、通常は数ミリのオーダーである。
【0026】
また、本実施形態の炉心溶融物保持部材10においては、図2及び図3から明らかなように、最表層に位置する第1のブロック層121の、第1のブロック121A間の空隙121H、すなわち第1のブロック121A間の接合部の表面に複数の被覆材13を設けている。なお、本実施形態では、第1のブロック121Aの敷設状態(配列状態)に依存して、複数の被覆材13は、それぞれが互いに直交して格子状となっている。
【0027】
上述のように被覆材13を設けたのは、第1のブロック121Aの熱膨張を考慮して空隙121Hを形成すると、第1のブロック121A同士の熱膨張に起因した第1のブロック121Aの破損及び剥離は防止できるものの、耐熱層12、すなわち最表層に位置する第1のブロック層121に落下してきた炉心溶融物が空隙121Hを介して浸透し、下方に位置する第2のブロック層122に容易に至り、さらには第1のブロック層121及び第2のブロック層122の空隙、及び第2のブロック層122を構成する第2のブロック122A間に形成した空隙122Hを介して浸透し、下方に位置する第3のブロック層133に容易に至るようになって、耐熱層12を比較的容易に溶解及び腐食してしまうのを防止するためである。
【0028】
つまり、最表層に位置する第1のブロック層121の空隙121H,すなわち第1のブロック121A間の接合部表面に被覆材13を設けることにより、炉心溶融物が耐熱層12、すなわち第1のブロック層121上に落下してきた場合においても、当該炉心溶融物の空隙121Hへの浸透を防止し、上述した耐熱層12の溶解及び腐食を防止することができる。
【0029】
なお、第1のブロック層121と第2のブロック層122との間に空隙が生じるのは、炉心溶融物の比重(約9)に比較して、第1のブロック層121及び第2のブロック層122を構成する第1のブロック121A及び第2のブロック122A,すなわちこれらブロックを構成する酸化物セラミックスの比重が低いことに起因する(例えばアルミナの比重は約4であり、ジルコニアの比重は約6である)。
【0030】
複数の被覆材13は、炉心溶融物が耐熱層12、すなわち最表層に位置する第1のブロック層121に落下してきた際に、当該炉心溶融物と接触するものであるため、炉心溶融物の熱によっても溶解しないような耐熱性の高い、高融点の金属から構成する必要がある。具体的には、タングステン(融点:3422℃)、モリブデン(融点:2623℃)、タンタル(融点:3017℃)、ニオブ(融点:2477℃)、レニウム(融点:3100℃)、ハフニウム(融点:2222℃)、ジルコニウム(融点:1852℃)及びチタン(融点:1812℃)からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成し、特には、融点が2000℃以上であって、耐食性に優れるタングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成することが好ましい。
【0031】
一方、炉心溶融物は、UO及びZrOなどの一般式で表される酸化物と、ZrとFeなどの金属成分との混合物であって、上述したタングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブ等の金属は、炉心溶融物の比重に比してその比重が同等か大きい(炉心溶融物の比重:約9、タングステンの比重:19.25、モリブデンの比重:10.28、タンタルの比重:16.65、ニオブの比重:8.57)。
【0032】
したがって、これらの金属から被覆材13を形成した場合に、耐熱層12、すなわち第1のブロック層121に落下してきた炉心溶融物の浮力によって被覆材13が浮遊するのを防止することができ、上述したような、炉心溶融物が第2のブロック層122から第3のブロック層123に侵食による、耐熱層12の溶解及び腐食を防止することができる。結果として、本実施形態における炉心溶融物保持装置10の本来的な作用効果を奏しめることができるようになる。
【0033】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態の炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。なお、炉心溶融物保持装置及び図4に示す層構成の上平面図は、それぞれ図1及び図3と同様であるので、本実施形態では記載を省略する。なお、図1〜3に示す構成要素と類似あるいは同一の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0034】
本実施形態の炉心溶融物保持装置においては、その耐熱層12を構成する第1のブロック層121の空隙121H,第2のブロック層122の空隙122H及び第3のブロック層123の空隙123Hに対して目地材15が充填されている。さらに、第1のブロック層121及び第2のブロック層122間、第2のブロック層122及び第3のブロック層123間、さらには第3のブロック層123及び金属部材11間にも目地材15が充填されている。これによって、各ブロック層(121,122,123)における構成ブロック(121A,122A,123A)間の配置固定、並びに各ブロック層(121,122,123)の配置固定を確実に行うことができるようになる。
【0035】
なお、目地材15は、例えばアルミナを含む粘土及びバインダー等から構成することができるので、各ブロック層(121,122,123)における空隙121H,122H,123Hを目地材15で埋設した場合においても、空隙121H,122H,123Hと同様の作用効果を保持することができる。
【0036】
すなわち、第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123Aからなる耐熱層12に対して炉心溶融物が落下し、これを保持した場合において、各ブロック121A,122A,123Aが炉心溶融物からの熱的な影響を受けて互いに膨張した場合においても、目地材15を介して隣接したブロック121A,122A,123A同士の互いの熱膨張が吸収され、互いに押圧することがないので、ブロックの破損やブロックの剥離などを生じることがない。この結果、耐熱層12に欠陥が生じることなく、炉心溶融物保持装置10はその本来の機能をより確実に奏することが出来るようになる。
【0037】
なお、本実施形態においても、図4から明らかなように、最表層に位置する第1のブロック層121の、第1のブロック121A間の空隙121H(に充填した目地材15)上、すなわち第1のブロック121A間の接合部の表面に複数の被覆材13を設けている。
【0038】
上述のように被覆材13を設けたのは、第1のブロック121Aの空隙121Hに目地材15を充填した場合においても、耐熱層12、すなわち最表層に位置する第1のブロック層121に落下してきた炉心溶融物が空隙121Hに充填した目地材15を溶解して浸透し、下方に位置する第2のブロック層122に容易に至り、さらには第1のブロック層121及び第2のブロック層122の空隙、及び第2のブロック層122を構成する第2のブロック122A間に形成した空隙122Hに充填した目地材15を溶解して浸透し、下方に位置する第3のブロック層133に容易に至るようになって、耐熱層12を比較的容易に溶解及び腐食してしまうのを防止するためである。
【0039】
すなわち、最表層に位置する第1のブロック層121の空隙121H,すなわち第1のブロック121A間の接合物表面に複数の被覆材13を設けることにより、炉心溶融物が耐熱層12、すなわち第1のブロック層121上に落下してきた場合においても、当該炉心溶融物の目地材15が充填された空隙121Hへの浸透を防止し、上述した耐熱層12の溶解及び腐食を防止することができる。
【0040】
なお、上述したように、第1のブロック層121と第2のブロック層122との間に空隙が生じるのは、炉心溶融物の比重(約9)に比較して、第1のブロック層121及び第2のブロック層122を構成する第1のブロック121A及び第2のブロック122A,すなわちこれらブロックを構成する酸化物セラミックスの比重が低いことに起因する(例えばアルミナの比重は約4であり、ジルコニアの比重は約6である)。
【0041】
複数の被覆材13は、炉心溶融物の熱によっても溶解しないような耐熱性の高い、高融点の金属から構成する必要があり、具体的には、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウム、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成し、特には、第1の実施形態の場合と同様に、融点が2000℃以上であって、耐食性に優れ、比重が炉心溶融物と同等以上のタングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成することが好ましい。
【0042】
なお、その他の特徴及び作用効果については、第1の実施形態に示す炉心溶融物保持装置と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
(第3の実施形態)
図5は、本実施形態の炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図であり、図6は、図5に示す層構成の平面である。なお、図5に示す断面図は、図6に示す平面図のII−II線に沿って切った場合の断面図に相当する。また、炉心溶融物保持装置は、図1と同様であるので、本実施形態では記載を省略する。さらに、図1〜4に示す構成要素と類似あるいは同一の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0044】
本実施形態の炉心溶融物保持装置においては、その耐熱層12を構成する第1のブロック層121上に設けた複数の被覆材13を互いにロッド17によって接合している。そして、ロッド17は、第1のブロック層121〜第3のブロック層123を貫通して金属部材11中に挿入固定している。したがって、耐熱層12、すなわち最表層に位置する第1のブロック層121上に炉心溶融物が落下してきた場合においても、その衝突による衝撃で被覆材13が第1のブロック層121に形成された空隙121H、すなわち接合部の表面からずれるのを抑制することができる。したがって、被覆材13の作用効果をより確実に奏することができるようになる。
【0045】
具体的には、被覆材13を設けることにより、第1のブロック121A,第2のブロック122A及び第3のブロック123Aからなる耐熱層12に対して炉心溶融物が落下し、これを保持した場合において、耐熱層12、すなわち最表層に位置する第1のブロック層121に落下してきた炉心溶融物が空隙121Hを浸透し、下方に位置する第2のブロック層122に容易に至り、さらには第1のブロック層121及び第2のブロック層122の空隙、及び第2のブロック層122を構成する第2のブロック122A間に形成した空隙122Hを介して浸透し、下方に位置する第3のブロック層133に容易に至るようになって、耐熱層12を比較的容易に溶解及び腐食してしまうのを防止することができる。
【0046】
すなわち、最表層に位置する第1のブロック層121の空隙121H,すなわち第1のブロック121A間の接合物表面に複数の被覆材13を設けることにより、炉心溶融物が耐熱層12、すなわち第1のブロック層121上に落下してきた場合においても、当該炉心溶融物の空隙121Hへの浸透をより確実に防止し、上述した耐熱層12の溶解及び腐食をより確実に防止することができる。
【0047】
なお、上述したように、第1のブロック層121と第2のブロック層122との間に空隙が生じるのは、炉心溶融物の比重(約9)に比較して、第1のブロック層121及び第2のブロック層122を構成する第1のブロック121A及び第2のブロック122A,すなわちこれらブロックを構成する酸化物セラミックスの比重が低いことに起因する(例えばアルミナの比重は約4であり、ジルコニアの比重は約6である)。
【0048】
また、複数の被覆材13は、上述したように、炉心溶融物の熱によっても溶解しないような耐熱性の高い、高融点の金属から構成する必要があり、具体的には、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウム、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成し、特には、第1の実施形態の場合と同様に、融点が2000℃以上であって、耐食性に優れ、比重が炉心溶融物と同等以上のタングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成することが好ましい。
【0049】
ロッド17は、タングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属、あるいはこれらの合金から構成することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、複数の被覆材13を固定するのにロッドを用いたが、任意の接合部材を用いて固定することができる。また、このような接合部材を用いる代わりに、真空中での電子ビーム溶接などの溶接やリベット等を用いた締結構造によって複数の被覆材13を互いに固定して一体化することにより、炉心溶融物と接しなかった被覆材13が浮力を受けないので、炉心溶融物の衝突による衝撃で被覆材13が表面からずれることを抑制することができる。リベットという接合部材の特性上、延性に優れたタンタルあるいはその合金から構成することが好ましい。
【0051】
さらに、本実施形態では、ロッド17を炉心溶融物保持部材10の金属部材11に対して挿入固定することにより、複数の被覆材13を固定するようにしたが、原子炉格納容器の一部に高融点金属製のリベットやピンを用いて接合することによって、複数の被覆材13を固定するようにすることもできる。
【0052】
また、本実施形態においても、第2の実施形態と同様に、耐熱層12を構成する第1のブロック層121の空隙121H等に目地材15を充填することができる。
【0053】
以上説明した実施の形態によれば、最表面に位置する第1のブロック層の第1ブロック121A間の接合物表面に被覆材13を設けることにより、炉心溶融物が耐熱層12に落下してきた場合においても、第1ブロック121A間に炉心溶融物が浸透することをより確実に防止し、上述した耐熱層12の溶解及び腐食をより確実に防止することができる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
10 炉心溶融物保持装置
11 金属部材
12 耐熱層
121 第1のブロック層
122 第2のブロック層
123 第3のブロック層
121A 第1のブロック
122A 第2のブロック
123A 第3のブロック
121H,122H,123H 空隙
13 被覆材
15 目地材
17 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、
前記保持装置は、酸化物セラミックスを含み、少なくとも水平方向に所定の空隙を有するようにして敷設された複数のブロックからなる耐熱層と、前記複数のブロックにおける隣接したブロック同士の、前記空隙に相当する接合部の表面に形成された、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウム、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む被覆材とを具えることを特徴とする、炉心溶融物の保持装置。
【請求項2】
前記ブロックは、前記水平方向に加えて垂直方向にも敷設されて複数のブロック層を構成し、前記被覆材は、最表層に位置するブロック層における隣接したブロック同士の、前記空隙に相当する接合部の表面に形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項3】
前記耐熱層を構成する前記ブロックは、アルミニウム酸化物セラミックス、ケイ素酸化物セラミックス、チタン酸化物セラミックス、ジルコニウム酸化物セラミックス、ハフニウム酸化物セラミックス、イットリウム酸化物セラミックス、ネオジウム酸化物セラミックス、及びリン酸塩系酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つの酸化物セラミックスを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項4】
前記被覆材は、タングステン、モリブデン、タンタル、及びニオブからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む接合部材によって、互いに接合されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項5】
前記被覆材は、原子炉格納容器の一部に接合されていることを特徴とする、請求項4に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項6】
前記被覆材は、互いに接合されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の炉心溶融物の保持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−137431(P2012−137431A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291137(P2010−291137)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】