説明

炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器

【課題】炉心溶融物を確実に冷却するとともに,水蒸気爆発によるリスクを回避可能な炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器を提供する。
【解決手段】原子炉格納容器の床下の空間に炉心溶融物を落下させる炉心溶融物落下流路に原子炉格納容器の床材の融点よりも低い温度で溶融する物質を充填した原子炉格納容器床と、前記原子炉格納容器の床下の空間を仕切る集合体と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水型原子炉では、何らかの原因により原子炉圧力容器内への給水の停止や原子炉圧力容器の接続配管に破断が生じ、原子炉圧力容器内の冷却材が喪失する場合でも、多重に設置された非常用炉心冷却系によって冷却材が自動的に原子炉圧力容器内補給され、炉心燃料が損傷することなく十分に冷却され,炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。
【0003】
ところで、このような軽水型原子炉においても、確率的には極めて希な事象ではあるが、上記のように多重に設けられた安全設備の複数が故障し、炉心燃料が損傷・溶融するような重大事故も想定しうる。
【0004】
このような事態に至った場合、炉心溶融物(溶融コリウム)は原子炉圧力容器内の下部に移動して下部プレナムに堆積し、この状態が長時間持続されると、原子炉圧力容器下鏡部が溶融貫通され、溶融コリウムは格納容器に流出し、格納容器床上に堆積する。格納容器床上に堆積した溶融コリウムは、格納容器床を構成するライナーやコンクリートを溶融浸食し、格納容器バウンダリを破損させる可能性がある。また,溶融コリウムとコンクリートとの化学反応によって生成される二酸化炭素や水素等の不凝縮性ガスが格納容器内を加圧し、格納容器バウンダリを破損させる可能性がある。
【0005】
これらの影響を緩和する手段として、溶融コリウムの堆積した格納容器領域に冷却水を導くことによって溶融コリウムを冷却し、格納容器コンクリートとの反応を抑制する方策が従来より提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
あるいは,沸騰水型原子炉において採用されている圧力抑制型格納容器プラントでは、溶融コリウムを圧力抑制室のプール水に導き、水中で溶融コリウムを分散させることにより、溶融コリウムを効率的に冷却する提案もある(例えば特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平5-134076号公報
【特許文献2】特開平6-130169号公報
【特許文献3】特開2005-195595公報
【特許文献4】特開2006-47089公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3では、格納容器床上に堆積した溶融コリウムをプール水によって上方から冷却するとともに、溶融コリウムを保持する部材の下部に流路を設けて冷却水を導き、当該コリウム保持部材を伝熱面として堆積コリウムの底面から除熱するものであるが、その伝熱量はコリウム保持部材の熱伝導によって律則されるため、伝熱面の健全性を確保しつつ、堆積コリウム下面からの除熱量をある一定量以上を確保し、堆積コリウムを確実に冷却可能とすることは困難であった。
【0008】
また、特許文献4では、溶融コリウムが効率的に冷却可能な粒子状デブリに変化するものの、大量の水が存在しているため、大規模な水蒸気爆発が発生しやすいという課題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、炉心溶融物を確実に冷却するとともに,水蒸気爆発によるリスクを回避可能な炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器は、原子炉格納容器の床下の空間に溶融物を落下させる溶融物落下流路に原子炉格納容器の床材の融点よりも低い温度で溶融する物質を充填した原子炉格納容器床と、前記原子炉格納容器の床下の空間を仕切る集合体とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炉心溶融物を確実に冷却するとともに,水蒸気爆発によるリスクを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は本発明における炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器の第1の実施形態を示す図である。
【0014】
第1の実施形態は、原子炉圧力容器1下方の格納容器床2下の空間に、図2に示すような鉛直方向に格子状に仕切られた集合体3を敷設し、集合体3の各空間には予め冷却水がプール水4として保持されている。集合体3には、冷却水と気体とが各格子間で連通可能な孔3aが設けられている。さらに、格納容器床2には、床材融点よりも低い温度で溶融する物質を充填した溶融物落下流路5が設けられている。また、集合体3を設置した格納容器床下空間の上部に一端が開放され、もう一端が格納容器上方に開放され、全体がペデスタル側壁6に埋設された排気管7が設置されている。なお、集合体3の形状は、格子状に限らず冷却水を仕切れる形状であればよい。また、炉心溶融物が堆積する領域の格納容器床およびペデスタル側壁の部分は、溶融物による熱的損傷を防止するため、従来のコンクリートではなく、耐熱性材料で構成しても良い。
【0015】
炉心燃料が損傷・溶融するような重大事故が発生し、溶融コリウムが原子炉圧力容器1の底部を溶融貫通し、格納容器床2上に堆積した場合、冷却水供給ライン8から注水が実施され、堆積した溶融コリウムの上にプール水が形成され、コリウム上面から冷却が行われ、溶融コリウムは上面から凝固していく。この時、堆積コリウム上面からの除熱速度が不十分な場合には堆積コリウム下面は高温のままに維持され、その結果、溶融物落下流路5に充填された低融点物質が溶けて、格納容器床2下の空間への流路が形成され、コリウムの凝固していない溶融部分はこの溶融物落下流路5を流下して、集合体3内のプール水4に導かれる。プール水4の中に落下した溶融コリウムは水中で分散され、冷却が容易な粒子状デブリとして堆積する。また、集合体3には連通孔3aを設けているため、溶融コリウムの落下が局所的に生じても、溶融コリウムが落下していない集合体3内の冷却水が供給されるため、落下コリウムへの冷却水が瞬時に枯渇することはない。流下してくる溶融コリウムと冷却水との相互作用は集合体3内に限定されているため、大規模な水蒸気爆発が生じる虞はなく、また、溶融コリウムの冷却に伴って発生する水蒸気は、排気管7を通して格納容器空間に放出されるため、集合体3が設置された空間が過度に加圧されることはない。
【0016】
本実施の形態により、水蒸気爆発のリスクを回避しつつ、炉心溶融物が冷却可能な粒子状デブリとして堆積するため、複雑な構造を用いることなく、冷却水を補給することだけで長期間に渡るコリウム冷却が可能となる。
【0017】
(第2の実施形態)
図3は本発明における炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器の第2の実施形態を示す図である。
【0018】
第2の実施形態は、格納容器床2下の集合体3を設置した格納容器床2下の空間の下部に冷却水を供給する冷却水供給配管9と、格納容器床2下の空間に蓄水する冷却水を格納容器床2上の空間にオーバーフローさせる連絡配管10とがペデスタル側壁6に埋設されている。
【0019】
炉心燃料が損傷・溶融するような重大事故時に、溶融コリウムが原子炉圧力容器1の底部を溶融貫通し、格納容器床2上に堆積した場合、冷却水供給配管9から格納容器床2下の空間に注水が実施され、集合体3内が冷却水で満たされた後、連絡配管10を介して冷却水は格納容器床2上の空間にオーバーフローし、格納容器床2上に堆積した溶融コリウムの上に水プールが形成され、第1の実施形態と同様な状況になる。すなわち、堆積コリウム上面からの除熱速度が不十分な場合には堆積コリウム下面は高温のままに維持され、その結果、溶融物落下流路5に充填された低融点物質が溶けて、格納容器床2下の空間への流路が形成され、コリウムの凝固していない溶融部分はこの溶融物落下流路5を流下して、集合体3内のプール水4に導かれる。プール水4の中に落下した溶融コリウムは水中で分散され、冷却が容易な粒子状デブリとして堆積する。また、集合体3には連通孔3aを設けているため、溶融コリウムの落下が局所的に生じても、溶融コリウムが落下していない集合体3内の冷却水が供給されるため、落下コリウムへの冷却水が瞬時に枯渇することはない。流下してくる溶融コリウムと冷却水との相互作用は集合体3内に限定されているため、大規模な水蒸気爆発が生じる虞はなく、また、溶融コリウムの冷却に伴って発生する水蒸気は、排気管7を通して格納容器空間に放出されるため、集合体3が設置された空間が過度に加圧されることはない。
【0020】
本実施の形態により、水蒸気爆発のリスクを回避しつつ、炉心溶融物が冷却可能な粒子状デブリとして堆積するため、複雑な構造を用いることなく、冷却水を補給することだけで長期間に渡るコリウム冷却が可能となる。
【0021】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器の第1の実施形態を示す図。
【図2】本発明における格子状の集合体の一例を示す図。
【図3】本発明における炉心溶融物冷却装置および原子炉格納容器の第2の実施形態を示す図。
【符号の説明】
【0023】
1… 原子炉圧力容器
2… 格納容器床
3… 炉心溶融物保持集合体
3a… 炉心溶融物保持集合体の連通孔
4… 冷却水プール
5… 溶融物落下流路
6… ペデスタル側壁
7… 排気管
8… 冷却水供給管
9… 冷却水供給管
10… 連通配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の床下の空間に炉心溶融物を落下させる炉心溶融物落下流路に原子炉格納容器の床材の融点よりも低い温度で溶融する物質を充填した原子炉格納容器床と、
前記原子炉格納容器の床下の空間を仕切る集合体と、
を備えたことを特徴とする炉心溶融物冷却装置。
【請求項2】
前記原子炉格納容器の床下の空間に冷却水を保持したことを特徴とする請求項1記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項3】
前記集合体は、鉛直方向に格子状に仕切られたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項4】
前記集合体は、隣接する格子間を前記冷却水および気体が連通可能な孔を有し、各格子は半分より高い位置に少なくとも一つの孔と、半分より低い位置に少なくとも一つの孔とを備えたことを特徴とする請求項3記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項5】
前記炉心溶融物落下流路を前記集合体の各格子空間位置に対応して設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項6】
前記原子炉格納容器の床下の空間に一端が開放され,もう一端が前記原子炉格納容器内に開放された排気管を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項7】
前記原子炉格納容器の床下の空間に冷却水を供給する冷却水供給配管を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項8】
前記原子炉格納容器の床下の空間から前記原子炉格納容器内に冷却水をオーバーフローさせる連絡配管を有することを特徴とする請求項6の炉心溶融物冷却装置。
【請求項9】
原子炉格納容器の床下の空間に炉心溶融物を落下させる炉心溶融物落下流路に原子炉格納容器の床材の融点よりも低い温度で溶融する物質を充填した原子炉格納容器床と、
前記原子炉格納容器の床下の空間を仕切る集合体と、
を備えたことを特徴とする原子炉格納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−52951(P2009−52951A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218259(P2007−218259)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】