説明

炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置

【課題】静翼に付着したダストを確実に除去することができ、長期間の連続運転時にも安定かつ効率のよい運転を継続できるようにする。
【解決手段】炉頂圧回収タービン10と、静翼11〜13の角度を変化させる角度可変機構15と、静翼へ水噴霧を行なう水噴霧装置と、静翼の角度を制御するコントローラと、静翼入口ガス圧力を検出する静翼入口圧力センサ21と、静翼出口ガス圧力を検出する静翼出口圧力センサ22とを備え、コントローラは、静翼入口ガス圧力と静翼出口ガス圧力との実差圧を算定し、この実差圧に基づいて水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なう。コントローラは、実差圧と静翼へダストが付着していない状態を示す第1の所定値との差値を算出し、この差値が第2の所定値を超える場合に水噴霧を行なう。コントローラは、静翼を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉プラントの排ガス路にタービンを設置して発電等に利用する炉頂圧回収タービン発電設備は、製鉄所の高炉で発生する高炉ガスの持つ圧力エネルギをタービンによって電力として回収すると共に、高炉の炉頂圧制御を行なうものであり、近年、製鉄所の省エネルギ化を図り、環境保全に貢献するための極めて重要な設備となっている。
【0003】
この炉頂圧回収タービン発電設備には湿式と乾式とがあり、湿式の炉頂圧回収タービン発電設備は、高炉から出た高炉ガスを湿式除塵装置で水洗浄した後に、発電機駆動用の炉頂圧回収タービンに導くものである。
【0004】
これに対し、乾式の炉頂圧回収タービン発電設備は、高炉ガスが乾式除塵装置により水洗浄されることなく除塵されるため、高炉ガスの温度が低下せず、回収電力が湿式に比べて25〜45%高くなり、電力の回収を効率的に行なうことができる。
【0005】
このように、現在、国内製鉄所のほとんどの高炉には、湿式又は乾式の炉頂圧回収タービン発電設備が設置されている。しかしながら、上述の湿式の炉頂圧回収タービン発電設備においては、高炉ガスが湿式除塵装置で水洗浄される結果、高炉ガスが蒸気を飽和状態まで含むと共に、湿式除塵装置で回収しきれなかったダストを随伴している。このため、図9に示すように、このダストが、通常運転時に第1段静翼101の凸面(負圧面)102上に多量に付着するという問題を発生させる。
【0006】
この第1段静翼101へのダストの付着が発生すると、第1段動翼103に流入する流れに乱れが生じ、第1段動翼103に対して強い励振力を発生させる。その結果、動翼103に繰り返し応力が発生し、第1段動翼103の疲労限界を著しく低下させるという問題を発生させる。また、ダストによって適正なガス流を形成することができず、タービン効率を低下させるという問題もある。
【0007】
この一方、炉頂圧制御を行うため、第1段静翼には角度可変機構が備えられる場合が多い。しかしながら、上述のように第1段静翼の凸面上にダストが多量に付着すると、全閉時に第1段静翼をその流路全閉角度まで閉じることができず、タービンへのガス流入を所定の流量まで減少させることができなくなるという問題を発生させる。また、全閉時に第1段静翼がこのダストの付着物に噛み込んで、翼部や角度可変機構に過大な力が働き、損傷を引き起こすという問題もある。
【0008】
このため、従来は、通常運転時等に、タービンの入口部や静翼上流部から水や水蒸気の噴霧を定期的に行って、付着しているダストを剥離させて、その除去を行なってきた(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0009】
この一方、本願出願人は、第1段静翼の内部に冷却水を循環させて第1段静翼を水冷却することにより、高炉ガス中に含まれる水分を第1段静翼の翼表面上に凝縮させて翼表面上に水滴及び又は水膜を形成し、これにより第1段静翼へのダスト付着を防止する炉頂圧回収タービンの発明を開示した(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−214033号公報
【特許文献2】特開2007−315364号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「炉頂圧タービン発電設備」、中村敏明ほか5名、川崎重工技報第155号P20〜P23、川崎重工業株式会社、2004年5月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来の炉頂圧回収タービンは、通常運転時等に、タービンの入口部や静翼上流部から定期的に水や蒸気の噴霧を行なって、付着しているダストを除去したり、あるいは、第1段静翼の内部に冷却水を循環させて第1段静翼を水冷却することにより、高炉ガス中に含まれる水分を第1段静翼の翼表面上に凝縮させて翼表面上に水滴及び又は水膜を形成し、第1段静翼へのダスト付着の防止を図ってきた。
【0013】
しかしながら、前者のタービンの入口部等に定期的に水や蒸気の噴霧を行なって、付着しているダストを除去する炉頂圧回収タービンは、タービン内を通過する高炉ガスの流れが極めて速く、しかも静翼の凸面については水滴等が充分に到達しにくいためにダストが徐々に付着していき、さらに多量のダストが付着すると、定期的な噴霧だけでは除去しきれなくなるという問題がある。これは、通常運転時には、静翼角度が必ずしも水噴霧に適した角度にはなっていないため、静翼表面上、特にその凸面上に噴霧した水滴等が充分に到達しないことが大きな要因と考えられる。
【0014】
このように、従来の通常運転時の水噴霧だけでは、第1段静翼に対するダスト付着防止に充分な効果を上げていないというのが実情であり、上述の第1段動翼に繰り返し応力を発生させて動翼の疲労限界を著しく低下させるという問題、適正なガス流を形成することができずにタービン効率を低下させるという問題、全閉時にタービンへのガスの流入を所定の流量まで減少させることができなくなるという問題、そして、第1段静翼がこのダストの付着物に噛み込んで翼部等に損傷を引き起こすという問題などが、依然として解決できないままになっている。
【0015】
また、後者の第1段静翼の内部に冷却水を循環させて、第1段静翼を水冷却する炉頂圧回収タービンは、ダスト付着防止に関しては多大な効果が期待できる一方、冷却水を循環させるための冷却水供給装置や、第1段静翼の内部に冷却水路を設けなければならず、コスト高になるという問題が懸念される。
【0016】
これと共に、乾式の炉頂圧回収タービンによる発電設備は、タービン静翼へのダスト付着が湿式ほど深刻な問題にはなっていないが、電力の回収効率のよい乾式の炉頂圧回収タービン発電設備の設置が今後ますます増加すると予想されることから、乾式の炉頂圧回収タービンへのダスト付着防止対策も併せて行なう必要性がある。
【0017】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、静翼に付着したダストを確実に除去することができ、長期間の連続運転時にも安定かつ効率のよい運転を継続することができる、炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の課題を解決するために、本発明が採用する手段は、炉頂圧回収タービン発電設備に使用されて高炉から供給される高炉ガスにより回転駆動されて、連結された発電機により発電を行なう炉頂圧回収タービンと、この炉頂圧回収タービンの静翼の角度を変化させる角度可変機構と、炉頂圧回収タービンの静翼に対して水噴霧を行なう水噴霧装置とを備えた炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービンの静翼の角度を制御するコントローラと、上記静翼の静翼入口ガス圧力を検出する静翼入口圧力センサと、上記静翼の静翼出口ガス圧力を検出する静翼出口圧力センサとをさらに備え、コントローラは、静翼入口圧力センサが検出した静翼入口ガス圧力と静翼出口圧力センサが検出した静翼出口ガス圧力との実差圧を算定し、この実差圧に基づいて水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なうことにある。
【0019】
このように、本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置は、コントローラが、静翼入口圧力センサが検出した静翼入口ガス圧力と静翼出口圧力センサが検出した静翼出口ガス圧力との実差圧を算定し、この実差圧に基づいて水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なう、すなわち、この実差圧を常時監視して静翼に対して水噴霧を行なうから、一定量以上の静翼へのダストの付着を自動的に検出すると共に、この付着したダストを確実に除去することができ、ダストの付着を常に一定の範囲内に抑えた状態で炉頂圧回収タービンを運転することができる。なお、静翼へダストが付着すると、実差圧は、ダストが付着していない場合に比べて大きくなる。
【0020】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、上記コントローラは、実差圧と炉頂圧回収タービンの運転状態により変動すると共に静翼へダストが付着していない状態を示す第1の所定値との差値を算出し、この差値が第2の所定値を超える場合に水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なうことが望ましい。
【0021】
このように、コントローラが、実差圧と炉頂圧回収タービンの運転状態により変動すると共に静翼へダストが付着していない状態を示す第1の所定値との差値を算出し、この差値が第2の所定値を超える場合に水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なうから、炉頂圧回収タービンの運転状態により変動する実差圧を極めて精度よく補正して、静翼へのダストの付着状態を確実に判定することができる。
【0022】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、上記第1の所定値は、静翼にダストが付着していないダスト未着状態で静翼入口圧力センサが検出した静翼入口ガス圧力と静翼出口圧力センサが検出した静翼出口ガス圧力との差圧であることが望ましい。
【0023】
このように、第1の所定値を、静翼にダストが付着していないダスト未着状態で静翼入口圧力センサが検出した静翼入口ガス圧力と静翼出口圧力センサが検出した静翼出口ガス圧力との差圧とすることにより、ダスト未着状態と実運転時のダスト付着状態との差を明確に把握することができる。
【0024】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、コントローラは、水噴霧装置から静翼に水噴霧を行うときに静翼を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度に移動させて水噴霧を行なうことが望ましい。
【0025】
このように、コントローラは、静翼を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度に移動させて水噴霧を行なうから、静翼の凸面についても水滴等を充分に到達させることができ、凸面のダストを確実に除去することができると共に、その除去を少ない水噴霧量で行なうことができる。
【0026】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービン発電設備は、高炉ガスを炉頂圧回収タービンを通さずに外部へバイパスさせるためのバイパス路と、このバイパス路を通過する高炉ガス流量を調節するバイパス主弁及びバイパス制御弁とを備え、コントローラは、バイパス制御弁の作動を制御すると共に、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも大きいときはバイパス制御弁を開けて、この静翼の角度を最適静翼所定角度になるように調節することが望ましい。
【0027】
このように、コントローラが、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも大きいときはバイパス制御弁を開けて静翼の角度を最適静翼所定角度になるように調節することにより、炉頂圧回収タービンの運転を最適に維持しながら、静翼の角度を最適静翼所定角度に移動させることができる。なお、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも大きいとは、主流ガスの軸線に対して静翼の迎角が最適静翼所定角度のときよりも小さくなる位置にあることをいう。
【0028】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービン発電設備は、高炉ガスを炉頂圧回収タービンに通すガス流量を調節する調速弁を備え、コントローラは、調速弁の作動を制御すると共に、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも小さいときは調速弁を絞って、この静翼の角度を最適静翼所定角度になるように調節することが望ましい。
【0029】
このように、コントローラが、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも小さいときは、調速弁を絞って静翼の角度を最適静翼所定角度になるように調節することにより、炉頂圧回収タービンの運転を最適に維持しながら、静翼の角度を最適静翼所定角度に移動させることができる。なお、静翼の角度が最適静翼所定角度よりも小さいとは、主流ガスの軸線に対して静翼の迎角が最適静翼所定角度のときよりも大きくなる位置にあることをいう。
【0030】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、コントローラは、上記差値が第2の所定値を超える場合に、上記実差圧を表示すると共に警報を発生することが望ましい。
【0031】
このように、コントローラが、上記差値が第2の所定値を超える場合に、実差圧を表示すると共に警報を発生することにより、管理者は、そのときのダスト付着状態を直ちに認識することができる。
【0032】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービン発電設備は、湿式であり、静翼は、第1段静翼であることが望ましい。湿式の炉頂圧回収タービン発電設備では、第1段静翼に著しくダストの付着が見られることから、本炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置により、第1段静翼のダスト除去を確実に行うことができる。
【0033】
上記炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービン発電設備は、乾式であり、静翼は、最終段の静翼であることが望ましい。乾式の炉頂圧回収タービン発電設備では、最終段の静翼に特にダストの付着が見られることから、本炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置により、最終段の静翼のダスト除去を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置は、炉頂圧回収タービン発電設備に使用されて高炉から供給される高炉ガスにより回転駆動されて、連結された発電機により発電を行なう炉頂圧回収タービンと、この炉頂圧回収タービンの静翼の角度を変化させる角度可変機構と、炉頂圧回収タービンの静翼に対して水噴霧を行なう水噴霧装置とを備えた炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、炉頂圧回収タービンの静翼の角度を制御するコントローラと、上記静翼の静翼入口ガス圧力を検出する静翼入口圧力センサと、上記静翼の静翼出口ガス圧力を検出する静翼出口圧力センサとをさらに備え、コントローラは、静翼入口圧力センサが検出した静翼入口ガス圧力と静翼出口圧力センサが検出した静翼出口ガス圧力との実差圧を算定し、この実差圧に基づいて水噴霧装置から静翼に水噴霧を行なうから、炉頂圧回収タービンの静翼に付着したダストを確実に除去することができ、長期間の連続運転時にも安定かつ効率のよい運転を継続することができる、という優れた効果を奏する。
【0035】
併せて、上記コントローラは、静翼を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度に移動させて水噴霧を行なうから、静翼の凸面についても水滴等を充分に到達させることができ、凸面のダストを確実に除去することができると共に、その除去を少ない水噴霧量で行なうことができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】湿式炉頂圧回収タービン発電設備を示す模試図である。
【図2】図1の炉頂圧回収タービンを示す側面図である。
【図3】図2の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置を示す図である。
【図4】図3のコントローラの制御を示すフローチャートである。
【図5】図2の炉頂圧回収タービンのタービン入口ガス圧力(又はタービン入口ガス流量)と静翼前後差圧との関係を示すグラフである。
【図6】図2の炉頂圧回収タービンのタービン入口ガス流量とタービン入口ガス圧力との関係を示すグラフである。
【図7】図2の炉頂圧回収タービンの水噴霧状態を示す模試図である。
【図8】乾式炉頂圧回収タービン発電設備の炉頂圧回収タービンを示す側面図である。
【図9】従来の湿式炉頂圧回収タービンのダスト付着状態を示す模試図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置を実施するための形態を、図1ないし図8を参照して詳細に説明する。
【0038】
図1に示すように、一例としての、高炉プラントの排ガス路にタービンを設置して発電等に利用する湿式の炉頂圧回収タービン発電設備においては、高炉1から排気された高炉ガスが、ダストキャッチャ2、湿式集塵装置3、入口塞止弁4、危急遮断弁5、高炉ガスのタービンへのガス流量を調節する調速弁6を介して、炉頂圧回収タービン10に導かれて、このタービン10を回転駆動させる。
【0039】
炉頂圧回収タービン10によって、タービン10に連結された発電機7を回転駆動させることにより、発電を行なう。炉頂圧回収タービン10の第1段静翼11、第2段静翼12、第3段静翼13は、安定かつ効率のよい運転を継続するために、ガス流に対する角度を変化させるための角度可変機構15を有する。
【0040】
高炉ガスを炉頂圧回収タービン10を通さずに外部へバイパスさせるためのバイパス路が設けられ、このバイパス路を通過する高炉ガス流量を調節するバイパス主弁8及びバイパス制御弁9が配設される。
【0041】
上記炉頂圧回収タービン発電設備において、炉頂圧回収タービン10の起動時及び停止時には、例えば、起動開始から初期設定回転数までは調速弁6による調速弁開度制御が、初期設定回転数から揃速開始直前設定回転数までの間は回転数制御がそれぞれ行われる。また、100%回転数に到達して電力網に併入された直後に負荷がかけられるが、その負荷が増加して通常運転になるまでは負荷制御が行われる。そして、通常運転時にはタービン前圧制御が行われる。
【0042】
一方、タービン10の停止時には、例えば、通常運転から負荷が低減されて解列直前までは負荷制御が、解列直後の設定回転数から初期設定回転数までの間は回転数制御がそれぞれ行われる。また、初期設定回転数から停止するまでは調速弁6による調速弁開度制御が行われる。
【0043】
タービン10の起動時には、タービン10の前圧が通常運転時の圧力に高められた状態で調速弁6を徐々に開けていき、ガスを翼列に導く。調速弁6がほぼ全開となった時点で、角度可変機構15を備えた静翼11〜13をその流路初期設定角度から徐々に開けていき、通常運転に移行する。このとき、バイパス主弁8は全閉にされている一方、バイパス制御弁9が徐々に閉じられるので、タービン10の前圧は、常に通常運転時の圧力に維持される。
【0044】
この炉頂圧回収タービン発電設備において、タービン10の起動及び停止動作を主体的に制御するものは、静翼11〜13の角度可変機構15、あるいは調速弁6であり、バイパス制御弁9は、タービン10の前圧を通常運転時の圧力に維持するために使用される。このようにして、炉頂圧回収タービンによる発電とタービン前圧制御とが行われる。
【0045】
図2に示すように、例えば、炉頂圧回収タービン10は3段タービンからなり、第1段静翼11、第1段動翼16、第2段静翼12、第2段動翼17、第3段静翼13、第3段動翼18が、ガス路の上流側からこの順に配設される。
【0046】
炉頂圧回収タービン10の入口には、第1段静翼11の静翼入口ガス圧力P1 を検出する第1段静翼入口圧力センサ21と、タービン10のタービン入口ガス温度を検出するタービン入口温度センサ23が配設されている。また、第1段静翼11の出口には、第1段静翼11の静翼出口ガス圧力P2 を検出する第1段静翼出口圧力センサ22が配設される。さらに、炉頂圧回収タービン10の出口には、タービン10のタービン出口ガス温度を検出するタービン出口温度センサ24が配設されている。
【0047】
図3に示すように、炉頂圧回収タービン10の静翼11〜13の角度を制御するコントローラ20、タービン10の静翼11〜13に対して水噴霧を行なう水噴霧装置30、後述の実差圧を表示する圧力計31、警報を発生する警報システム32が配設され、水噴霧装置30、圧力計31、警報システム32はコントローラ20に電気的にそれぞれ接続される。また、上述の第1段静翼入口圧力センサ21、第1段静翼出口圧力センサ22、タービン入口温度センサ23、タービン出口温度センサ24もコントローラ20に電気的にそれぞれ接続される。
【0048】
次に、本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置の作動について説明する。本発明の炉頂圧回収タービン10が定格運転状態に到達後、すなわち常用運転時に、静翼11〜13は高炉ガス流量の増減に対応して、通常は−15度〜+15度の範囲で変化する。
【0049】
コントローラ20は、この常用運転時に、第1段静翼入口圧力センサ21が検出した静翼入口ガス圧力P1 と、第1段静翼出口圧力センサ22が検出した静翼出口ガス圧力P2 を読み込む(ステップS2,4)。また、コントローラ20が有する静翼角度αのデータを読み込む(ステップS6)。
【0050】
コントローラ20は、第1段静翼入口圧力センサ21が検出した静翼入口ガス圧力P1 と、第1段静翼出口圧力センサ22が検出した静翼出口ガス圧力P2 との差圧である実差圧ΔPを算出する(ステップS8)。静翼へダストが付着すると、この実差圧はダストが付着していない場合に比べて大きくなる。
【0051】
コントローラ20は、静翼11にダストがまったく付着していないダスト未着状態で、第1段静翼入口圧力センサ21が検出した静翼入口ガス圧力P1 と、第1段静翼出口圧力センサ22が検出した静翼出口ガス圧力P2 との差圧である静翼前後理想差圧ΔPi (第1の所定値)に関するテーブルを備えている。この静翼前後理想差圧ΔPi は、運転状態により変動する。
【0052】
次に、コントローラ20は、静翼前後実差圧ΔPと静翼前後理想差圧ΔPi との差値である静翼前後差値Px を算出する。この静翼前後差値Px は、タービン入口ガス圧力又はタービン入口ガス流量を横軸とし、静翼前後差圧ΔPを縦軸とする、図5のグラフによって示される。なお、このタービン入口ガス流量は、上述のタービンの第1段静翼入口ガス圧力P1 、第1段静翼出口ガス圧力P2 、タービン入口温度センサ23が検出したタービン入口温度、タービン出口温度センサ24が検出したタービン出口温度を用いて、公知技術により算出することができる。
【0053】
次に、コントローラ20は、算出した静翼前後実差圧ΔPと静翼前後理想差圧ΔPi との差値である静翼前後差値Px が第2の所定値P0 を超えるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12の判定結果が否定(No)の場合には、第1段静翼11へのダスト付着が所定量未満であると判定して、再び上述のステップS2〜S12を繰り返す。
【0054】
ステップS12の判定結果が肯定(Yes)の場合には、第1段静翼11へのダスト付着が所定量以上であり、静翼11〜13に対して水噴霧洗浄が必要と判定し、静翼11〜13の角度αを水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度α0 に、例えば0°±5°の範囲の角度に移動させる(ステップS14)。
【0055】
詳細には、コントローラ20は、静翼11の角度が最適静翼所定角度α0 よりも大きいとき、つまり図7に示すように、主流ガスの軸線に対して静翼11〜13の迎角が最適静翼所定角度α0 のときよりも小さくなる位置にあるときは、上述のバイパス制御弁9を開けて、静翼11〜13の角度αを上述の最適静翼所定角度α0 になるように調節する。図6に示されるように、例えば、静翼11〜13の角度αが+10度のA点であった場合には、バイパス制御弁9を開けて、静翼11〜13の角度αを最適静翼所定角度α0 のB点へ移動させる。
【0056】
また、静翼11〜13の角度が最適静翼所定角度α0 よりも小さいとき、つまり図7に示すように、主流ガスの軸線に対して静翼11〜13の迎角が最適静翼所定角度α0 のときよりも大きくなる位置にあるときは、上述の調速弁6を絞って静翼11〜13の角度αを上述の最適静翼所定角度α0 になるように調節する。図6に示されるように、例えば、静翼11〜13の角度αが−12.5度のC点であった場合には、調速弁6を絞って、最適静翼所定角度α0 のD点へ移動させる。
【0057】
このように、コントローラ20が、静翼11〜13の角度αが最適静翼所定角度α0 よりも大きいときはバイパス制御弁9を開けて、また、静翼11〜13の角度αが最適静翼所定角度α0 よりも小さいときは調速弁6を絞って、静翼11〜13の角度αを最適静翼所定角度α0 になるようにそれぞれ調節することにより、炉頂圧回収タービンの運転を最適に維持しながら、静翼11〜13を静翼角度αが水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度α0 になるように移動させる。
【0058】
ステップS12の判定結果が否定となるまで、静翼11〜13の角度αを最適静翼所定角度α0 に維持した状態で、水噴霧運転を行なう(ステップS16)。この水噴霧は、図7に示されるように、第1段静翼11の上流側に配設された水噴霧装置30の図示しないノズルから、主流ガスに対して水噴霧洗浄に最適な水噴霧角度θで、例えば18.5度の角度で行われる。
【0059】
これと共に、コントローラ20は、上述の静翼前後実差圧ΔPを図3の圧力計31に表示すると共に、警報システム32を作動させて警報を発生させる(ステップS18)。これにより、管理者は、そのときの静翼前後実差圧ΔP、つまり第1段静翼11のダスト付着状態と、静翼11〜13の角度αが最適静翼所定角度α0 に維持された状態で水噴霧運転が行われていることを直ちに認識することができる。
【0060】
このように、本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置は、コントローラ20が、第1段静翼入口圧力センサ21が検出した静翼入口ガス圧力P1 と、第1段静翼出口圧力センサ22が検出した静翼出口ガス圧力P2 との静翼前後実差圧ΔPを算定し、さらに、この静翼前後実差圧ΔPと静翼へダストが付着していない状態を示す静翼前後理想差圧ΔPi (第1の所定値)との差値である静翼前後差値Px を算出して、この静翼前後差値Px を常に監視しているから、静翼11〜13、特に第1段静翼11へのダストの付着を自動的に、かつ確実に検出することができる。
【0061】
また、コントローラ20は、一定量以上のダストが付着していることを検出した場合には、静翼11〜13を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度α0 に移動させて水噴霧装置30から静翼11〜13に水噴霧を行なうから、静翼11〜13の凸面についても水滴等を充分に到達させることができ、この凸面を含む静翼11〜13全体のダストを確実に除去することができる。
【0062】
したがって、ダストを常に一定の範囲内に抑えた状態で炉頂圧回収タービン10の運転を行なうことができ、長期間の連続運転時にも安定かつ効率のよい運転を継続することができる。また、少ない水噴霧量で付着したダストを確実に除去することができるから、運転費用の低減のみならず、過多な水噴霧によるタービン翼やケーシングの腐食を防止することができ、保守費用の低減を図ることができる。
【0063】
また、上述のように、第1の所定値を、静翼11〜13にダストが付着していないダスト未着状態で第1段静翼入口圧力センサ21が検出した静翼入口ガス圧力P1 と第1段静翼出口圧力センサ22が検出した静翼出口ガス圧力P2 との差圧ΔPi からなるようにしたことにより、静翼11〜13へのダスト未着状態と実運転時のダスト付着状態との差を明確に把握することができる。
【0064】
図8に示すように、乾式の炉頂圧回収タービン発電設備の炉頂圧回収タービン40の場合には、最終段の静翼43にダストが付着する傾向が見受けられるため、第3段静翼(最終段静翼)43の前後圧力をそれぞれ検出するための最終段静翼入口圧力センサ45,最終段静翼出口圧力センサ46を配設する。
【0065】
2つの圧力センサ45,46がそれぞれ検出した圧力に基づいて、上記湿式の炉頂圧回収タービン発電設備のタービン10の場合と同様に静翼角度制御及び水噴霧を行なうことにより、第3段静翼43へ付着したダストを確実に除去することができ、長期間の連続運転時にも安定かつ効率のよい運転を継続することができる。その他は、湿式の炉頂圧回収タービン発電設備の炉頂圧回収タービン10の場合と同様であるから、説明を省略する。
【0066】
今後、電力の回収効率のよい乾式の炉頂圧回収タービン発電設備の設置がますます増加すると予想されるが、本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置により、この乾式の炉頂圧回収タービンへのダスト付着防止対策を確実に実施することができる。
【0067】
なお、本発明は上述の一実施の形態に制約されるものではなく、様々な形態ものが実施可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置は、必ずしも上述の湿式及び乾式の炉頂圧回収タービン発電設備のタービンに限定して利用されるものではなく、他の形式のタービンに対しても広く利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0069】
1 高炉
2 ダストキャッチャ
3 湿式集塵装置
4 入口塞止弁
5 危急遮断弁
6 調速弁
7 発電機
8 バイパス主弁
9 バイパス制御弁
10 炉頂圧回収タービン
11 第1段静翼
12 第2段静翼
13 第3段静翼
15 角度可変機構
16 第1段動翼
17 第2段動翼
18 第3段動翼
20 コントローラ
21 第1段静翼入口圧力センサ
22 第1段静翼出口圧力センサ
23 タービン入口温度センサ
24 タービン出口温度センサ
30 水噴霧装置
31 圧力計
32 警報システム
40 炉頂圧回収タービン
43 第3段静翼(最終段静翼)
45 最終段静翼入口圧力センサ
46 最終段静翼出口圧力センサ
101 第1段静翼
102 凸面
103 第1段動翼
P0 第2の所定値
P1 静翼入口ガス圧力
P2 静翼出口ガス圧力
Px 静翼前後差値
ΔP 静翼前後実差圧
ΔPi 静翼前後理想差圧(第1の所定値)
α 静翼角度
α0 最適静翼所定角度
θ 水噴霧角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉頂圧回収タービン発電設備に使用されて高炉(1)から供給される高炉ガスにより回転駆動されて連結された発電機(7)により発電を行なう炉頂圧回収タービン(10,40)と、前記炉頂圧回収タービンの静翼(11〜13,43)の角度を変化させる角度可変機構(15)と、前記炉頂圧回収タービンの前記静翼に対して水噴霧を行なう水噴霧装置(30)とを備えた炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置において、前記炉頂圧回収タービンの前記静翼の角度を制御するコントローラ(20)と、前記静翼の静翼入口ガス圧力(P1 )を検出する静翼入口圧力センサ(21)と、前記静翼の静翼出口ガス圧力(P2 )を検出する静翼出口圧力センサ(22)とをさらに備え、前記コントローラは、前記静翼入口圧力センサが検出した前記静翼入口ガス圧力と前記静翼出口圧力センサが検出した前記静翼出口ガス圧力との実差圧(ΔP)を算定し、前記実差圧に基づいて前記水噴霧装置から前記静翼に水噴霧を行なうことを特徴とする炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項2】
前記コントローラ(20)は、前記実差圧(ΔP)と前記炉頂圧回収タービン(10,40)の運転状態により変動すると共に前記静翼へダストが付着していない状態を示す第1の所定値(ΔPi )との差値(Px )を算出し、前記差値が第2の所定値(P0 )を超える場合に前記水噴霧装置から前記静翼に水噴霧を行なうことを特徴とする請求項1に記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項3】
前記第1の所定値は、前記静翼(11〜13,43)にダストが付着していないダスト未着状態で前記静翼入口圧力センサ(21)が検出した前記静翼入口ガス圧力(P1 )と前記静翼出口圧力センサ(22)が検出した前記静翼出口ガス圧力(P2 )との差圧(ΔPi )であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項4】
前記コントローラ(20)は、前記水噴霧装置(30)から前記静翼(11〜13,43)に水噴霧を行うときに前記静翼を水噴霧洗浄に最適な最適静翼所定角度(α0 )に移動させて前記水噴霧を行なうことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項5】
前記炉頂圧回収タービン発電設備は、前記高炉ガスを前記炉頂圧回収タービン(10,40)を通さずに外部へバイパスさせるためのバイパス路と、前記バイパス路を通過する高炉ガス流量を調節するバイパス主弁(8)及びパイパス制御弁(9)とを備え、前記コントローラ(20)は、前記バイパス制御弁の作動を制御すると共に前記静翼(11〜13,43)の角度が前記最適静翼所定角度(α0 )よりも大きいときは前記バイパス制御弁を開けて前記静翼の角度を前記最適静翼所定角度になるように移動させることを特徴とする請求項4に記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項6】
前記炉頂圧回収タービン発電設備は、前記高炉ガスを前記炉頂圧回収タービン(10,40)に通すガス流量を調節する調速弁(6)を備え、前記コントローラ(20)は、前記調速弁の作動を制御すると共に前記静翼(11〜13,43)の角度が前記最適静翼所定角度(α0 )よりも小さいときは前記調速弁を絞って前記静翼の角度を前記最適静翼所定角度になるように調節することを特徴とする請求項4又は5に記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項7】
前記コントローラ(20)は、前記差値(Px )が前記第2の所定値(P0 )を超える場合に前記実差圧(ΔP)を表示すると共に警報を発生することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項8】
前記炉頂圧回収タービン発電設備は、湿式であり、前記静翼は、第1段静翼(11)であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。
【請求項9】
前記炉頂圧回収タービン発電設備は、乾式であり、前記静翼は、最終段の静翼(43)であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の炉頂圧回収タービンの静翼へのダスト付着防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211526(P2012−211526A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76825(P2011−76825)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】