説明

炊飯器

【課題】精白米が劣化米であっても、精白米に適量の糠を残して、良食味の炊飯米を実現でき、一般家庭でも使用できる炊飯器を提供する。
【解決手段】炊飯器は、炊飯釜内に水と共に入れられた精白米を攪拌する攪拌翼,撹拌モータ104と、内釜を加熱する加熱部と、加熱部および攪拌モータ104を制御する制御装置131とを備える。制御装置131は、精白米の劣化の程度を見積もる劣化レベル見積工程と、劣化レベル見積工程で見積もった精白米の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する攪拌時間導出工程と、攪拌時間、精白米を攪拌部で攪拌する第1攪拌工程と、炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、炊飯釜内の水が浄化された後、第1攪拌工程を経た精白米を炊飯釜内の水に浸す浸し工程とを、炊飯釜を加熱部で加熱する加熱工程を開始する前に順次行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯前に精白米を洗うことは常識として広く一般に認識されているが、炊飯前の米を洗う作業は面倒であるので、これを自動化するための技術が開発されている。
【0003】
特許文献1(実開昭62−182132号公報)に開示された技術では、炊飯器の内釜に冠着する蓋体に電動機で駆動される撹拌羽根を取り付け、撹拌羽根を回転させることによって米を洗っている。
【0004】
また、特許文献2(特開平2−213312号公報)には、炊飯釜自体を回転させて洗米を行う方法が記載されている。
【0005】
一方、従来、美味しい炊飯米を得るために様々な炊飯器が市販されているが、精米後の各家庭での米の保存状態によって同じ炊飯器を使用しても炊き上がりが異なってしまう。すなわち、精米直後の米は美味しく炊けるが、精米後室温で保存した米は、精白米表面の脂質層が徐々に酸化するため、炊飯時に吸水不足となり、美味しく炊けないことが度々あった。特に、梅雨から夏にかけては室温の上昇と共に脂質層の酸化スピードは速まり、新米が出てくる直前の8月から9月の米から美味しい炊飯米を得ることはできなかった。
【0006】
上記炊飯米の美味しさを改善する技術としては、特許文献3(特開2009−201439号公報)や特許文献4(特開2000−139374号公報)に開示されている。
【0007】
上記特許文献3では、炊飯の際、長期保存で劣化した無洗米にコラーゲンペプチドを添加することで食感の改善を行っている。
【0008】
上記特許文献4では、米を洗う洗米工程と、この洗米工程を経て水切りされた米を浸漬する浸漬工程と、この浸漬工程を経て水切りされた米を加水する加水工程との全てにおいて、有隔膜電解にて生成された電解生成水(酸性水およびアルカリ性水)を使用することで、古米の改質効果を得ている。
【0009】
このような炊飯米の食味の低下は、上記特許文献1,2において全く記載されていない。また、上記炊飯米の食味を改善する方法も、上記特許文献1,2において全く記載されていない。
【0010】
また、上記特許文献3のように、コラーゲンペプチドを劣化米に添加することによって、劣化米による炊飯米の食味の改善を行う場合、コストがかかってしまう。また、上記コラーゲンペプチドの添加が忘れられる可能性がある。したがって、上記コラーゲンペプチドの添加はあまり実用的ではない。
【0011】
また、上記特許文献4では、電解生成水の用意が可能な場合のみ、古米の改質効果が得られるものである。したがって、上記改質効果を奏する炊飯器は一般家庭に広く普及させることは難しい。
【0012】
ところで、精白米の胚乳の表面は糊粉層(外側)と亜糊粉層(内側)で覆われていている。この糊粉層および亜糊粉層は総称して糠と呼ばれ、この糠には栄養や旨みが詰まっていることが知られている。
【0013】
また、精白米は精米直後から糊粉層から徐々に酸化し始め、精白米の表面が酸化層で覆われた状態、いわゆる劣化米となり、そのために炊飯米の食味が低下していくことも知られている。
【0014】
本発明者は、劣化米でも精白米の表面を削ることで、低食味の原因となっている酸化している部分を取り除き、かつ、旨みと栄養(例えば糊粉層の一部と亜糊粉層の全部)を残して、炊飯米の食味を向上させることができる炊飯器の開発を行った。
【0015】
ところが、上記糠の糊粉層の部分は、収穫後から時間が経つにつれて削り難くなり、一様に同じ条件で糊粉層を削る運転を行うと、例えば新米の場合は糊粉層を削りすぎたり、収穫から1年が経過した劣化米の場合は糊粉層の削りが足りなかったりという問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】実開昭62−182132号公報
【特許文献2】特開平2−213312号公報
【特許文献3】特開2009−201439号公報
【特許文献4】特開2000−139374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明の課題は、精白米が劣化米であっても、精白米に適量の糠を残して、良食味の炊飯米を実現でき、一般家庭でも使用できる炊飯器を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明の炊飯器は、
炊飯釜と、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた精白米を攪拌する攪拌部と、
上記炊飯釜を加熱する加熱部と、
上記攪拌部および上記加熱部を制御するシーケンス制御部と
を備え、
上記シーケンス制御部は、
上記精白米の劣化の程度を見積もる劣化レベル見積工程と、
上記劣化レベル見積工程で見積もった上記精白米の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する攪拌時間導出工程と、
上記攪拌時間、上記精白米を上記攪拌部で攪拌する第1攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、上記第1攪拌工程を経た精白米を上記炊飯釜内の水に浸す浸し工程と
を、上記炊飯釜を上記加熱部で加熱する加熱工程を開始する前に順次行うことを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、上記攪拌時間導出工程では、劣化レベル見積工程で見積もった精白米の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する。そして、上記第1攪拌工程では、攪拌時間導出工程で導出した攪拌時間、精白米を攪拌部で攪拌する。これにより、上記精白米同士が互いに擦り合って、精白米の表面の糠を削ることができる。このとき、上記攪拌時間は精白米の劣化の程度に合った時間であるので、精白米が劣化米であっても、精白米に適量の糠を残せ、その結果、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊くことができる。すなわち、良食味の炊飯米を実現できる。
【0020】
仮に、上記第1攪拌工程において、上記攪拌時間よりも長く精白米を攪拌したなら、精白米の糠を過度に削ってしまう一方、上記攪拌時間よりも長く精白米を攪拌したなら、精白米の糠の削りが不足してしまう可能性が高くなる。
【0021】
また、本発明では、上記特許文献3のコラーゲンペプチドの添加や、上記特許文献4の電解生成水を使用しなくても、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊けるので、実用的で、一般家庭に普及させることができる。
【0022】
一実施形態の炊飯器では、
上記シーケンス制御部は、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、かつ、上記浸し工程前に、予め設定された時間、上記精白米を上記攪拌部で攪拌する第2攪拌工程
を行う。
【0023】
上記実施形態によれば、上記第2攪拌工程において、炊飯釜内の精白米を攪拌部で攪拌することにより、第1攪拌工程で削り残した糠を削ることできる。その結果、上記第2攪拌工程後の浸し工程において、精白米の吸水を促進できる。
【0024】
また、上記第2攪拌工程において、第1攪拌工程で削り残した糠を削っても、精白米から分離した糠は炊飯釜内に残る。したがって、上記精白米から分離した糠が炊飯釜内に残った状態で、炊飯釜を加熱部で加熱することにより、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊くことができる。
【0025】
一実施形態の炊飯器では、
上記炊飯釜内に入れるべき精白米の精米年月日をユーザが入力するための精米年月日入力部を備え、
上記劣化レベル見積工程では、上記精米年月日入力部で入力された精米年月日に基づいて、上記炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もる。
【0026】
上記実施形態によれば、通常、米袋には精米年月日が記入されているので、ユーザは、炊飯釜内に入れるべき精白米の精米年月日を精米年月日入力部で入力することができる。そして、上記劣化レベル見積工程では、上記精米年月日入力部で入力された精米年月日に基づいて、炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もるので、この見積もりの精度を高めることができる。
【0027】
また、上記精米年月日はユーザによって入力されるので、精米年月日を検出するためのセンサを搭載しなくてもよく、製造コストの増大を抑制できる。
【0028】
一実施形態の炊飯器では、
上記炊飯釜内に入れるべき精白米に係る籾の収穫日から経過した日数を得るための複数の選択肢のうちの1つをユーザが選択するための選択部を備え、
上記劣化レベル見積工程では、上記選択部で選択された上記選択肢に基づいて、上記炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もる。
【0029】
上記実施形態によれば、ユーザは、複数の選択肢のうちの1つを選択部で選択することができる。この複数の選択肢は、それぞれ、籾の収穫日から経過した日数を得るためのものである。そして、上記劣化レベル見積工程では、上記選択部で選択された選択肢に基づいて、炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もるので、この見積の精度を高めることができる。
【0030】
また、上記籾の収穫日から経過した日数に対応する複数の選択肢は、ユーザによって選択されるので、その籾の収穫日から経過した日数を検出するためのセンサを搭載しなくてもよく、製造コストの増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炊飯器によれば、シーケンス制御部は、精白米の劣化の程度を見積もる劣化レベル見積工程と、劣化レベル見積工程で見積もった精白米の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する攪拌時間導出工程と、攪拌時間、精白米を攪拌部で攪拌する第1攪拌工程と、炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、炊飯釜内の水が浄化された後、予め設定された時間、炊飯釜内の水および精白米を攪拌部で攪拌する第2攪拌工程と、炊飯釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、炊飯釜内の水を精白米に吸水させる浸し工程とを、炊飯釜を加熱部で加熱する加熱工程を開始する前に順次行うので、精白米が劣化米であっても、精白米に適量の糠を残して、良食味の炊飯米を実現できる。
【0032】
また、本発明では、上記特許文献2のコラーゲンペプチドの添加や、上記特許文献3の電解生成水を使用しなくても、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊けるので、一般家庭に普及させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の一実施形態の炊飯器の模式断面図である。
【図2】図2は上記炊飯器の制御ブロック図である。
【図3】図3は上記炊飯器による炊飯を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は上記炊飯のための各工程と内釜内温度との関係を示す図である。
【図5】図5は上記実施形態の劣化レベル見積工程および攪拌時間導出工程を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6は本発明の変形例の劣化レベル見積工程および攪拌時間導出工程を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は本発明の変形例の炊飯器の制御ブロック図である。
【図8】図8は収穫時から経過した月数が異なる精白米の糠残存量の違いを説明するためのグラフである。
【図9】図9は精米日から経過した日数が異なる精白米の糠残存量の違いを説明するためのグラフである。
【図10】図10は本発明の変形例の炊飯器の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の一実施形態の炊飯器100を鉛直面で切った断面を模式的に示す。
【0035】
上記炊飯器100は、炊飯器本体101と、炊飯器本体101に収納される内釜102と、炊飯器本体101の上部に開閉自在に取り付けられ、内釜102を覆うように閉じることが可能な蓋112と、炊飯器本体101に収納された内釜102を加熱する加熱部103と、内釜102外に配置された攪拌モータ104と、内釜102内に回転自在に配置され、内釜102内の精白米111および水道水113を攪拌する攪拌翼105とを備える。なお、内釜102は本発明の炊飯釜の一例で、攪拌モータ105は本発明の回転駆動部の一例で、攪拌翼105は本発明の攪拌部の一例で、水道水113は本発明の水の一例である。
【0036】
上記炊飯器本体101は外ケース119および内ケース120を有している。この内ケース120は、耐熱性と電気絶縁性を有する材料で形成されている。また、内ケース120は断熱部材121を介して外ケース119に支持されている。そして、内ケース120には温度センサ110が取り付けられている。
【0037】
上記温度センサ110は、加熱部103を貫通して内釜102の底部に接触する検知部110aを有し、この検知部110aで内釜102の温度を検出する。また、温度センサ110が検出した内釜102の温度に基づいて、内釜102内の水道水113の温度を間接的に検出できるようになっている。
【0038】
上記内釜102は、例えば、アルミニウムなどの高熱伝導部材で形成され、内面に被加熱物の付着を防ぐためのフッ素樹脂をコーティングしている。
【0039】
上記撹拌モータ104は外ケース119の底部上に配置されている。この撹拌モータ104の回転軸104aにはロータ106が取り付けられている。また、回転軸104aおよびロータ106はカバー122で覆われている。なお、撹拌モータ104およびロータ106は本発明の攪拌部の一例である。
【0040】
上記ロータ106の外周部には、複数の駆動側磁石である複数のロータ側磁石107を周方向に等間隔に配置している。また、ロータ106は、内釜102の底部で内側に突出した円筒形状の凸部102aの下方に予め定められた隙間を隔てるように配置されている。なお、ロータ側磁石107は本発明の攪拌部の一例である。
【0041】
上記撹拌翼105は内釜102の凸部102aに回転自在に嵌合し、この凸部102aが撹拌翼105の支持台となっている。この撹拌翼105において凸部102a側とは反対側の表面、つまり、撹拌翼105において精白米111に接触する表面は、凹凸面となっている。また、撹拌翼105は、環状のヨーク109と、このヨーク109の内側に周方向に等間隔に配列され、複数の被駆動側磁石である複数の攪拌翼側磁石108とを有する。また、撹拌翼105は、中央上部に磁石114を有し、この磁石114はロータ側磁石107と引き合って撹拌翼105を内釜102の凸部102aに保持する役割を果たす。
【0042】
上記攪拌翼側磁石108は、ロータ側磁石107に径方向において重なるように配置され、ロータ側磁石107と磁気カップリングしている。これにより、撹拌モータ104の回転軸104aの回転に伴って、ロータ側磁石107が回転すると、ロータ側磁石107と磁気カップリングしている攪拌翼側磁石108も回転する結果、撹拌翼105が回転する。
【0043】
上記加熱部103は、絶縁体かつ断熱材である取付部材123,124を介して内ケース120に取り付けられ、この取付部材123,124を介して内ケース120に支持されている。この加熱部103は抵抗加熱ヒータと誘導コイルの少なくとも一方を有している。加熱部103が誘導コイルを有している場合は、内釜102の外面に加熱効率を向上させる例えばステンレス等の磁性体を貼り付ける。
【0044】
図2は上記炊飯器100の制御ブロック図である。
【0045】
上記炊飯器100は、マイクロコンピュータ、入出力回路、タイマおよびメモリなどからなる制御装置131を備える。この制御装置131は、操作パネル132からの操作信号,温度センサ110からの検出信号,モータ電流検出部136からの検出信号などに基づいて、表示部133,攪拌モータ104,加熱部103の加熱回路135などを制御する。この操作パネル132および表示部133は、炊飯器本体101の前面側に設けられている。操作パネル132の複数の操作ボタン(後述の精米年月日入力ボタン144のみ図示)の操作に応じて、表示部133の液晶ディスプレイが調理メニューや調理状況などが表示するようになっている。また、制御装置131は、外ケース119と内ケース120との間の空間に配置されている。また、上記空間には電源部(図示せず)も配置しており、この電源部が加熱回路135を含んでいる。なお、制御装置131は本発明のシーケンス制御部の一例である。
【0046】
また、上記制御装置131は、精白米111の劣化の程度を見積もる劣化レベル見積部142と、この劣化レベル見積部142で見積もった精白米111の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する攪拌時間導出部143と、この攪拌時間、内釜102内の水道水113に浸漬した精白米111を攪拌翼105で攪拌して、精白米111を洗米する洗米制御部137と、内釜102内の水道水113に浸漬した精白米111を攪拌翼105で攪拌して、精白米111の表面の糠を切削する糠切削制御部138と、糠切削制御部138によって表面の糠が切削された精白米111を水道水113に浸す低温浸し制御部139と、糠切削制御部138によって切削された糠が内釜102内に残った状態で、加熱部103で内釜102を加熱する加熱制御部140と、加熱制御部140によって得られた炊飯米を蒸らす蒸らし制御部141と、現在の年月日を認識するカレンダー機能部145とを有している。この劣化レベル見積部142、攪拌時間導出部143、洗米制御部137、糠切削制御部138、低温浸し制御部139、加熱制御部140および蒸らし制御部141はソフトウェアで構成されている。また、洗米運転部137および糠切削制御部138による精白米111の攪拌は、加熱制御部140による内釜102の加熱の前に行われる。
【0047】
また、上記操作パネル132には、ユーザが精白米の精米年月日を入力するための精米年月日入力ボタン144が設けられている。なお、精米年月日入力ボタン144は精米年月日入力部の一例である。
【0048】
以下、上記構成の炊飯器100による炊飯について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。なお、本説明において使用する測定値はすべて実験で得られた値ではあるが、この値は本発明の値の一例である。
【0049】
まず、ユーザは、内釜102に所望量の精白米111と洗米用の水道水113とを入れて、炊飯器本体101に内釜102を収納した後、操作パネル132の精米年月日入力ボタン144を使って、内釜102内の精白米111の精米年月日を入力する。そして、ユーザが操作パネルの操作で「洗米モード」を選択すると、制御装置131の劣化レベル見積部142が、ユーザによって入力された精米年月日に基づいて、内釜102内の精白米111の劣化の程度を見積もる(ステップS101)。なお、精白米111の劣化の程度は、糠において酸化している部分の量と、糠において変性した部分の量とに比例する。例えば、精白米111の糠において酸化または変性している部分の量が大きくなると、精白米111の劣化の程度が高い。すなわち、精白米111の劣化の程度が高いとは、精白米111の劣化が進んでいることを意味する。
【0050】
次に、上記制御装置131の攪拌時間導出部143が、劣化レベル見積部142によって見積もられた劣化の程度に合った攪拌時間を導出する(ステップS102)。
【0051】
次に、上記制御装置131の洗米運転部137が、内釜102内の精白米111を攪拌翼105で攪拌する(ステップS103)。このステップS103の第1攪拌工程は、従来の手による洗米に代わるものであり、かつ、精白米111の表面の糠を適度に残すための洗米である。具体的には、上記第1攪拌工程では、攪拌時間導出部143によって導出された攪拌時間、攪拌翼105が例えば400rpmで連続回転する。また、上記第1攪拌工程中、加熱部103はON状態にならない。なお、上記第1攪拌工程が終わってから、後述のステップS105の第2攪拌工程が始まるまでは、制御装置131による制御は停止する。
【0052】
次に、ユーザが、一旦、内釜102を炊飯器本体101から取り出し、第1攪拌工程で使用した洗米用の水道水113を捨てて、新たに炊飯用の水道水113を内釜102に注いだ後、再び、炊飯器本体101に内釜102を収納する(ステップS104)。
【0053】
次に、ユーザが操作パネル132の操作で「炊飯モード」を選択すると、制御装置131の糠切削制御部138が、予め設定された時間、内釜102内の精白米111を攪拌翼105で攪拌する(ステップS105)。このステップS105の第2攪拌工程は、第1攪拌工程で精白米111の表面に残した糠の一部が切削されるように行われる。具体的には、上記第2攪拌工程では、攪拌翼105が例えば400rpmで例えば5分間連続回転する。また、上記第2攪拌工程中も、加熱部103はON状態にならない。
【0054】
次に、上記制御装置131の低温浸し制御部139は、加熱部103のOFFの状態を保持したまま、第1,第2攪拌工程で表面の糠が切削された精白米111を炊飯用の水道水113に例えば12.5分間浸す(ステップS106)。なお、ステップS106の低温浸し工程は本発明の浸し工程の一例である。
【0055】
次に、上記制御装置131の加熱制御部140,蒸らし制御部141による加熱部103のON/OFF制御によって、精白米111を炊いて蒸らす(ステップS107,S108)。このステップS107,S108の加熱工程,蒸らし工程において、加熱工程の初期だけ、内釜102の内部の温度を均一化するために、攪拌翼105を間欠的に回転させ、加熱工程の初期以外では、攪拌翼105を回転させない。
【0056】
このように、上記第1攪拌工程は、ユーザが手で精白米111を研ぐという動作に換わるものである。したがって、ユーザは手で精白米111を研ぐ作業を省ける。また、ユーザは、特に水が冷たい冬や、爪にネイルアートを施しているときには、水に手を入れなくても良いという利点がある。
【0057】
また、上記精白米111に第1攪拌工程を行うことにより、精白米111同士が互いに擦り合って、精白米111の表面の糠が削られる。この第1攪拌工程では、攪拌時間導出部143によって導出された攪拌時間、精白米111を攪拌するので、精白米111がたとえ劣化米であっても、精白米111の表面の糠のうち、酸化または変性した部分を削って、精白米111の表面に適量の糠を残せる。
【0058】
また、上記第2攪拌工程によって精白米111の表面から糠がさらに削られるので、第2攪拌工程後の浸し工程において、精白米の吸水を促進できる。
【0059】
また、上記第2攪拌工程において精白米111の表面から削られた糠は内釜102内に残り、この状態で炊飯が行われるので、糠の栄養や旨みを炊飯米に残すことができる。
【0060】
図4は、上記第1攪拌工程以降の各工程と内釜内温度との関係を示す図である。また、図4の内釜内温度は内釜102内の水道水113の温度に相当する。また、図4の上部には、攪拌モータ104のON/OFFのタイミングを示している。
【0061】
上記第1攪拌工程時、加熱部103はOFFの状態に保持され、内釜内温度は室温と同じである。この第1攪拌工程は、ユーザが操作パネル132の操作で「洗米モード」を選択することに応じて、自動的に行われる(自動洗米モード)。
【0062】
上記第1攪拌工程後、ユーザが内釜102の水替えを行う。この水替え中も、加熱部103はOFFの状態に保持される。
【0063】
上記第2攪拌工程から蒸らし工程までは、ユーザが操作パネル132の操作で「炊飯モード」を選択するとことに応じて、自動的に順次行われる(自動炊飯モード)。より詳しくは、上記第2攪拌工程時、加熱部103はOFFの状態に保持され、内釜内温度は室温と同じである。上記第2攪拌工程が終わると、攪拌モータ104がOFFされて、低温浸し工程が12.5分間行われる。そして、上記低温浸し工程後、加熱部103で内釜102を加熱する加熱工程が開始される。この加熱工程が開始してから予め設定された時間は、攪拌モータ104を間欠的にONして、内釜102内の水道水113の温度の均一化を助ける。なお、上記加熱工程が開始して、内釜内温度が60℃に達すると、この状態を設定された時間保持した後、内釜内温度を100℃に上げてから蒸らし工程に移る。
【0064】
図5は、上記劣化レベル見積工程および攪拌時間導出工程をより詳しく説明するためのフローチャートである。
【0065】
まず、ユーザが、操作パネル132の精米年月日入力ボタン144を使って、精白米111の精米年月日を入力する(ステップS201)。
【0066】
次に、上記劣化レベル見積部142が、ユーザによって入力された精米年月日から現在日まで経過した日数をカウントする(ステップS202)。なお、上記現在日は、カレンダー機能部145で認識される現在の年月日であり、かつ、精米年月日入力ボタン144が操作された日である。
【0067】
次に、上記劣化レベル見積部142が、上記日数に基づいて、内釜102内の精白米111の劣化の程度(糠の酸化量,変性量)を見積もる(ステップS203)。例えば、上記精米年月日から現在日まで経過した日数が7日以内であれば、精白米111の劣化の程度は「低」と見積もる一方、精米年月日から現在日まで経過した日数が1ヶ月以上であれば、精白米111の劣化の程度は「高」と見積もる。
【0068】
最後に、上記攪拌時間導出部143が、劣化レベル見積部142によって見積もられた劣化の程度に対応する攪拌モータ104の駆動時間を導出する(ステップS204)。この駆動時間は、精白米111の劣化の程度が「低」と見積もられていると比較的短時間になる一方、精白米111の劣化の程度が「高」と見積もられていると比較的長時間になる。なお、上記駆動時間を導出するため、例えば、精白米111の劣化の程度と攪拌モータ104の駆動時間との関係を示すテーブルを制御装置131のメモリに予め記憶させておいてもよい。
【0069】
図6は、上記劣化レベル見積工程および攪拌時間導出工程の変形例を説明するためのフローチャートである。
【0070】
まず、ユーザが、内釜102内に入れる精白米111として新米を入手すると、操作パネル132で「新米入手」を入力する(ステップS301)。これにより、制御装置131が、新米である精白米を入手した時点を記憶する。
【0071】
次に、ユーザが操作パネル32から「現在の時期」を選択する(ステップS302)。ここで、「現在の時期」には、「1月〜3月」、「4月〜6月」、「7月〜9月」、「10月〜12月」がある。例えば、選択時が1月なら「1月〜3月」、5月なら「4月〜6月」、9月なら「7月〜9月」、11月なら「10月〜12月」を選択することになる。
【0072】
次に、上記ステップS301で「新米入手」を入力した時点と、ステップS302で選択した「現在の時期」とに基づいて、内釜102内に入れるべき精白米111に係る籾の収穫日から経過した日数をカウントして、さらに、この日数に基づいて、内釜102内の精白米111の劣化の程度(糠の酸化量,変性量)を見積もる(ステップS303)。例えば、ステップS303において選択した「現在の時期」が「10月〜12月」である場合、この「現在の時期」を選択した年が、ステップS301で「新米入手」を入力した年と同じであれば、精白米111の劣化の程度は「低」と見積もる。また、その場合、上記「現在の時期」を選択した年が、ステップS301で「新米入手」を入力した年の翌年であれば、精白米111の劣化の程度は「高」と見積もる。
【0073】
最後に、上記ステップS303において見積もられた劣化の程度に対応する攪拌モータ104の駆動時間を導出する(ステップS304)。この駆動時間は、精白米111の劣化の程度が「低」と見積もられていると比較的短時間になる一方、精白米111の劣化の程度が「高」と見積もられていると比較的長時間になる。なお、上記駆動時間を導出するため、例えば、精白米111の劣化の程度と攪拌モータ104の駆動時間との関係を示すテーブルを後述の制御装置231のメモリに予め記憶させておいてもよい。また、上記メモリには、新米と籾の収穫日との関係を示すデータを記憶させておいてもよい。
【0074】
図7は、図6のフローチャートの各工程を行う制御装置231を備えた炊飯器の制御ブロック図である。また、図7において、図2に示した構成部と同一構成部は、図2における構成部と同一参照番号を付して説明を省略する。
【0075】
上記制御装置231は、ステップS303を行う劣化レベル見積部242と、ステップS304を行う攪拌時間導出部243とを備えている点が図2の制御装置131と異なる。なお、制御装置231は本発明のシーケンス制御部の一例である。
【0076】
また、上記制御装置231に操作信号を送る操作パネル232には、ステップS301において「新米入手」を入力するための新米入手入力ボタン201と、ステップS302において「1月〜3月」を選択するための第1選択ボタン202と、ステップS302において「4月〜6月」を選択するための第2選択ボタン203と、ステップS302において「7月〜9月」を選択するための第3選択ボタン204と、ステップS302において「10月〜12月」を選択するための第4選択ボタン205とを設けている。なお、第1選択ボタン202、第2選択ボタン203、第3選択ボタン204および第4選択ボタン205は、本発明の選択部の一例である。
【0077】
以下、図8,図9を用いて、本発明者が行った実験について説明する。
【0078】
図8は、収穫時から経過した月数が異なる精白米の糠残存量の違いを説明するためのグラフである。なお、図8中の洗米運転駆動時間とは、攪拌モータ104が駆動している時間に相当する。
【0079】
上記炊飯器100によって、収穫直後(収穫してから例えば1ヶ月未満)の精白米、収穫してから6ヶ月経っている精白米、収穫後から12ヶ月経っている精白米を攪拌したとの条件で、その攪拌後の各精白米の糠残存量を求めた。この糠残存量は、糠に多く含まれるミネラルであるマグネシウムを測定することで求められるものとする。また、マグネシウムの定量は、誘導プラズマ発光分析法(健帛社 新食品分析ハンドブック P162)で行われるものとする。その結果、上記洗米運転駆動時間が同じ場合、収穫直後の精白米の方が糠残存量が低く、収穫されて時間が経つにつれて糠残存量が高くなっていくことが分かった。すなわち、収穫されて時間が経つと、米表面は削り難くなることが示された。
【0080】
ここで、例えば、収穫直後の精白米に洗米運転を1分間行ったときの糠残存量を適切な糠残存量とする。そうすると、収穫後、数ヶ月が経過した精白米について、適切な糠残存量にするための必要な洗米運転時間は、図8中の★印で示すようになる。すなわち、収穫後6ヶ月の米では3分間、収穫後12ヶ月の米では10分間の洗米運転が必要である。
【0081】
図9は、精米日から経過した日数が異なる精白米の糠残存量の違いを説明するためのグラフである。なお、図9中の洗米運転駆動時間とは、攪拌モータ104が駆動している時間に相当する。
【0082】
上記炊飯器100によって、精米直後(精米した時から例えば1日未満)の精白米、精米時から1ヶ月相当の日数が経っている精白米を攪拌したとの条件で、その攪拌後の各精白米の糠残存量を求めた。その結果、洗米運転駆動時間が同じ場合、精米して日数が経っていない精白米に比べて、精米して日数が経った精白米の方が糠の残存量が高くなることが分かった。
【0083】
ここで、例えば、精米直後の精白米に洗米運転を1分間行ったときの糠残存量を適切な糠残存量とする。そうすると、図9中の★印で示すように、精米時から1ヶ月相当の日数が経っている精白米については、5分間行うのが適切となる。
【0084】
上記実施形態では、第1攪拌工程と第2攪拌工程の間に、ユーザが内釜102の水替えを行っていたが、第1攪拌工程と第2攪拌工程の間に、ユーザが内釜102の水替えを行わないようにしてもよい。例えば、図10に示すように、内釜102内に吸着材(活性炭、吸着フィルタまたは吸着性セラミック材)150を入れた状態で第1攪拌工程を行うことにより、米111から分離した糠を吸着材に吸着させることができる。したがって、ユーザが内釜102の水替えを行わなくても、内釜102内の水道水113の清浄度を高くできる。なお、吸着材150は、第1攪拌工程が終わってから第2攪拌工程が始まる前に内釜102から取り出してもよいし、取り出さなくてもよい。
【0085】
上記実施形態では、第1攪拌工程と第2攪拌工程との両方を行っていたが、第1攪拌工程のみ行うようにしてもよい。
【0086】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、図7の操作パネル232の換わりに、精白米の元である籾の収穫日から経過した日数に対応する2つ、3つまたは5以上の選択肢のうちの1つを選択するための選択部が設けられた操作パネルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0087】
100…炊飯器
101…炊飯器本体
102…内釜
102a…凸部
103…加熱部
104…撹拌モータ
104a…回転軸
105…撹拌翼
106…ロータ
107…ロータ側磁石
108…撹拌翼側磁石
109…ヨーク
110…温度センサ
110a…検知部
111…精白米
112…蓋
113…水道水
114…磁石
119…外ケース
120…内ケース
121…断熱部材
122…カバー
123,124…取付部材
131,231…制御装置
132…操作パネル
133…表示部
135…加熱回路
136…モータ電流検出部
137…洗米制御部
138…糠切削制御部
139…低温浸し制御部
140…加熱制御部
141…蒸らし制御部
142,242…劣化レベル見積部
143,243…攪拌時間導出部
144…精米年月日入力ボタン
145…カレンダー機能部
150…吸着材
201…新米入手入力ボタン
202…第1選択ボタン
203…第2選択ボタン
204…第3選択ボタン
205…第4選択ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯釜と、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた精白米を攪拌する攪拌部と、
上記炊飯釜を加熱する加熱部と、
上記攪拌部および上記加熱部を制御するシーケンス制御部と
を備え、
上記シーケンス制御部は、
上記精白米の劣化の程度を見積もる劣化レベル見積工程と、
上記劣化レベル見積工程で見積もった上記精白米の劣化の程度に基づいて、この劣化の程度に合った攪拌時間を導出する攪拌時間導出工程と、
上記攪拌時間、上記精白米を上記攪拌部で攪拌する第1攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、上記第1攪拌工程を経た精白米を上記炊飯釜内の水に浸す浸し工程と
を、上記炊飯釜を上記加熱部で加熱する加熱工程を開始する前に順次行うことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
請求項1に記載の炊飯器において、
上記シーケンス制御部は、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、かつ、上記浸し工程前に、予め設定された時間、上記精白米を上記攪拌部で攪拌する第2攪拌工程
を行うことを特徴とする炊飯器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炊飯器において、
上記炊飯釜内に入れるべき精白米の精米年月日をユーザが入力するための精米年月日入力部を備え、
上記劣化レベル見積工程では、上記精米年月日入力部で入力された精米年月日に基づいて、上記炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もることを特徴とする炊飯器。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の炊飯器において、
上記炊飯釜内に入れるべき精白米に係る籾の収穫日から経過した日数を得るための複数の選択肢のうちの1つをユーザが選択するための選択部を備え、
上記劣化レベル見積工程では、上記選択部で選択された上記選択肢に基づいて、上記炊飯釜内の精白米の劣化の程度を見積もることを特徴とする炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−170584(P2012−170584A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34761(P2011−34761)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】