説明

炊飯方法及び炊飯器のプログラム

【課題】炊飯に利用されるエネルギー資源を節約しつつ、遜色ないご飯を炊ける炊飯方法及び炊飯器のプログラムを提供する。
【解決手段】被炊飯物を昇温加熱し、米に水を吸水する吸水工程(S401)と、昇温加熱した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する炊き上げ工程(S402)と、沸騰状態の到達を確認する沸騰確認工程(S403)と、沸騰状態の到達を確認した被炊飯物を降温加熱し、沸騰状態よりも低い温度で維持する沸騰手前温度の維持工程(S404)と、低い温度で維持した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱するとともに、この沸騰状態で維持する追い炊き工程(S405)と、沸騰状態で維持した被炊飯物の蒸らし工程(S406)とから構成され、吸水工程及び炊き上げ工程を計15分から計20分までの範囲で実行し、次いで、沸騰確認工程を10秒以内で実行した後、沸騰手前温度の維持工程を8分間実行し、続いて、追い炊き工程を1分20秒間実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米及び水を含んだ被炊飯物を炊く炊飯方法及び炊飯器のプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の炊飯方法には「初めチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いても蓋取るな」という火加減のコツが昔から言い伝えられている。
詳しくは「初めチョロチョロ」とは吸水工程が該当し、被炊飯物(例えば20℃の水に浸された米)の温度を60℃程度に上昇させ、釜に収容された米に水を十分に吸収させる。そのため、吸水工程の火力は弱火に設定される。
【0003】
次に「中パッパ」とは本炊きに相当し、この本炊きを炊き上げ工程、沸騰維持工程、及び追い炊き工程で構成した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
具体的には、まず、炊き上げ工程の火力は強火に設定されており、被炊飯物の温度を100℃に上昇させ、米のでん粉のアルファー化(糊化)の開始や、そのアルファー化の進行を図る。
【0004】
続いて、上記特許文献1の沸騰維持工程は、被炊飯物の温度を、不純物を含まない水だけの場合の沸騰点(100℃)よりも高温に昇温させ、その後、当該沸騰点で維持させ、でん粉のアルファー化を促進させる工程である。この沸騰維持工程の火力については、釜内部の沸騰状態を維持できる火力、換言すれば、この釜内部で生じた蒸気が外部に向けて勢いよく噴き出し続けている強い火力であると想定される。
【0005】
次いで、追い炊き工程に入り、釜内部の余分な水分を除去する。上記特許文献1の追い炊き工程の火力は、沸騰維持工程よりも加熱量をアップするように設定している。つまり、被炊飯物の温度を、不純物を含まない水だけの場合の沸騰点(100℃)よりも高温(例えば130℃)に昇温できる強い火力であると考えられる。
【0006】
さらに「赤子泣いても蓋取るな」とは蒸らし工程が該当し、この蒸らし工程では消火して被炊飯物の温度を100℃未満に降温させる。これにより、米の芯まででん粉のアルファー化を進行させる。その後、保温工程に移行すると、釜や蓋が適宜加熱され、釜内部や蓋に付着した水蒸気を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4611415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術では、エネルギー資源の節約が困難になるという問題がある。
具体的には、上述した沸騰維持工程の火力は、「沸騰維持」の名称からも明白の如く、釜内部で生じた蒸気が外部に向けて勢いよく噴き出し続けている強い火力である。
【0009】
すなわち、水(不純物を含まない純粋な水)は沸騰点(100℃)を超えない点を鑑みれば、例え、釜内部の水は米などが溶出した不純物を含むために、釜内の温度は100℃を超えることが可能であったとしても、この釜内の温度を100℃以上に昇温させ続けるかのような連続した強い火力は不要である。
また、釜内部の沸騰状態を長時間に亘って維持すると、米の変質を招くという懸念もある。
【0010】
このように、上記従来の技術は、火加減に関する昔からの言い伝えを遵守しているものの、炊飯に用いられる石油や天然ガスなどのエネルギー資源を節約する点については格別の配慮がなされていない。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、炊飯に利用されるエネルギー資源を節約しつつ、遜色ないご飯を炊ける炊飯方法及び炊飯器のプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための第1の発明は、米及び水を含む被炊飯物を炊く炊飯方法であって、被炊飯物を昇温加熱し、米に水を吸水する吸水工程と、昇温加熱した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する炊き上げ工程と、沸騰状態の到達を確認する沸騰確認工程と、沸騰状態の到達を確認した被炊飯物を降温加熱し、沸騰状態よりも低い温度で維持する沸騰手前温度の維持工程と、低い温度で維持した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱するとともに、この沸騰状態で維持する追い炊き工程と、沸騰状態で維持した被炊飯物の蒸らし工程とから構成されている。
【0012】
そして、吸水工程及び炊き上げ工程を計15分から計20分までの範囲で実行し、次いで、沸騰確認工程を10秒以内で実行した後、沸騰手前温度の維持工程を8分間実行し、続いて、追い炊き工程を1分20秒間実行することを特徴とする。
本発明は、沸騰維持のために費やすエネルギー資源を積極的に省くことに着目したものである。
【0013】
本発明の省エネ炊きによれば、米と水とを含む被炊飯物は、吸水工程、炊き上げ工程、沸騰確認工程、沸騰手前温度の維持工程、追い炊き工程、蒸らし工程を順番に経て炊飯される。
より詳しくは、被炊飯物は、吸水工程から追い炊き工程に至るまで加熱されており、まず、吸水工程では、被炊飯物の昇温加熱を開始する。次に、炊き上げ工程では、既に昇温加熱の始まっている被炊飯物が沸騰するまで、さらに昇温加熱される。
【0014】
これら吸水工程及び炊き上げ工程には計15分から計20分までの範囲で実行されており、米への速やか、かつ、十分な吸水を図るとともに、でん粉のアルファー化の開始・進行を達成できる。
続いて、沸騰確認工程にて被炊飯物の沸騰状態の到達を短時間で確認したら、沸騰手前温度の維持工程に移行する。
【0015】
この沸騰手前温度の維持工程では、沸騰状態に到達した被炊飯物が降温加熱される。具体的には、被炊飯物は、この沸騰状態よりも低い温度で8分間維持されている。これにより、でん粉のアルファー化の促進を達成しつつ、省エネルギー化を図る。
そして、追い炊き工程では、沸騰手前温度で維持した被炊飯物が沸騰するまで、再び昇温加熱される。詳しくは、被炊飯物は、この昇温加熱が1分20秒間の短時間で実行されており、沸騰状態を維持でき、でん粉のさらなるアルファー化を図る。
【0016】
その後、蒸らし工程に移行し、米の芯に至るまででん粉のアルファー化を進行させる。
このように、本発明の省エネ炊きによれば、沸騰維持が1分20秒で足りる。換言すれば、沸騰確認工程から追い炊き工程までの時間は、この沸騰確認工程の10秒や沸騰手前温度の維持工程の8分を加えても計9分30秒で済む。
【0017】
よって、従来に比して、炊飯に利用される例えば石油や天然ガスなどのエネルギー資源を節約しつつ、でん粉のアルファー化も図り、また、変質し得るとの懸念もなく安心して食べられるご飯を炊くことが可能になる。
しかも、仮に、吸水工程及び炊き上げ工程に最長で計20分費やしたとしても、計29分30秒で蒸らし工程に移行することができるので、炊飯作業の手間も省くことができる。
【0018】
次に、第2の発明は、米及び水を含む被炊飯物を炊く炊飯器のプログラムであって、プログラムは、炊飯器のコンピュータに備えられており、被炊飯物を昇温加熱し、米に水を吸水する吸水工程、及び、昇温加熱した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する炊き上げ工程を、計15分から計20分までの範囲で実行する手順と、沸騰状態の到達を確認する沸騰確認工程を、10秒以内で実行する手順と、沸騰状態の到達を確認した被炊飯物を降温加熱し、沸騰状態よりも低い温度で維持する沸騰手前温度の維持工程を、8分間実行する手順と、低い温度で維持した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱するとともに、この沸騰状態で維持する追い炊き工程を、1分20秒間実行する手順と、沸騰状態で維持した被炊飯物の蒸らし工程を実行する手順とを実行させることを特徴とする。
【0019】
第2の発明によれば、上述した第1の発明の作用に加えてさらに、当該プログラムを実行する炊飯器には、例えば釜、炊飯器本体や蓋体を新たに開発・設計する際に、高い耐熱性を有した材料や構造が不要になる。大きな火力が長時間に亘って作用しなくて済むからである。この結果、炊飯器の低廉化や小型軽量化にも寄与する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、沸騰を確認したら沸騰手前温度の維持工程を8分間だけ設け、その後に1分20秒間のみの追い炊き工程を設けているため、でん粉のアルファー化の促進を図りつつ、省エネルギー化も達成する炊飯方法及び炊飯器のプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施例の炊飯方法やプログラムが適用される炊飯器の全体斜視図である。
【図2】図1の炊飯器の断面図である。
【図3】図1の炊飯器の制御ブロック図である。
【図4】図3の記憶部に格納された炊飯プログラムによる動作フローチャートである。
【図5】図3の記憶部に格納された炊飯プログラムによるタイミングチャートである。
【図6】図1の炊飯器の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本実施例の炊飯方法やプログラムが適用される電気炊飯器1が示されている。この電気炊飯器1は、金属製の釜60を収納する炊飯器本体2と、これら炊飯器本体2や釜60を上方から覆う蓋体40とから構成され、商用電力で駆動して米及び水を含む被炊飯物の炊飯や保温を行う。
【0023】
この図1は、蓋体40が炊飯器本体2に対して開いた状態を右斜め上方から見ており、このため、蓋体40の裏側の他、釜60のうち所定のコーティングを施した円形底面の一部分や目盛付きの筒状側面の一部分が見えている。また、炊飯器本体2については、利用者に対峙する前面や右側面などが見えており、この右側面の右方には、商用電源のコンセントに接続される電源プラグ12が描かれている。
【0024】
一方、図2は、蓋体40が炊飯器本体2に対して閉じた状態を示し、図1で述べた炊飯器本体2の右側面から見た断面図である。
これら図1や図2を用いて電気炊飯器1の構造を説明すると、まず、炊飯器本体2は、図2に示されるように、外ケース4と内ケース16とから構成されている。
【0025】
本実施例の外ケース4は、その外観が直方体状に形成された樹脂製のハウジング6や、このハウジング6の上端に配置された樹脂製の肩部8を有する。
また、ハウジング6は操作パネル10を備えている。この操作パネル10は、図1で述べた炊飯器本体2の前面に設置され、表示画面や利用者の操作に供される各種のキースイッチを有する。
【0026】
当該図1では、キースイッチは表示画面の周囲に複数個配置され、これらキースイッチには、例えばご飯の硬さや米の種類等を選択する「メニュー」、炊飯開始を選択する「炊飯」、保温開始を選択する「保温」、時計や予約時間を設定する「時分」がある。利用者がキースイッチで選択・設定した各内容は表示画面に表示される。
【0027】
電源プラグ12は、炊飯器本体2の背面、つまり、操作パネル10を有した炊飯器本体2の前面とは反対側の面から引き出されている(図2)。
これら炊飯器本体2の前面と背面とは、図1で述べた炊飯器本体2の右側面とその反対側の左側面とでそれぞれ連なっており、ハンドル14は、その両端がこれら炊飯器本体2の右側面及び左側面に回転自在に支持される。
【0028】
内ケース16は、肩部8の内側にて下方に向けて窪んで形成され、釜60を設置できる金属製の底面18や側面20を有する(図2)。
底面18は、釜60の円形底面の外側(図2の下側)にて円形状に形成されており、炊飯用ヒーター22を有している。炊飯用ヒーター22は中空円板状に形成され、釜60の円形底面に図2で見て下側から接触する。
【0029】
この炊飯用ヒーター22の中空部分には温度センサー24が設置される。温度センサー24は、釜60の円形底面に図2で見て下側から接触し、釜60の内部の温度を計測することができる。
一方、側面20は、釜60の筒状側面の外側(図2の右側や左側)にて筒状に形成され、釜60の筒状側面に図2の断面図で見た右側や左側から接触する円筒状の保温用ヒーター26を有する。
【0030】
なお、本実施例の炊飯器本体2は、図2に示される如く、外ケース4と内ケース16とが一体の中実状で構成されているが、これら外ケース4と内ケース16との間に空洞を有した中空状にて構成されていても良い。
これに対し、蓋体40はその外観が直方体状に形成され、外部に露出する樹脂製の外カバー42や、図1で述べた蓋体40の裏側、つまり、当該蓋体40を閉じた際に肩部8に対峙する内カバー44を有する。
【0031】
内カバー44の中央位置には、金属製の放熱板46が設けられる。この放熱板46は、図1にも示されるように、中空円板状に形成され、その外周縁にはパッキンが取り付けられている。当該パッキンは蓋体40を閉じた際に釜60の上端に接触する。これにより、閉じた姿勢の蓋体40は釜60を下方に向けて押圧できる。
【0032】
また、この釜60の上端から見て、放熱板46の裏側には中空円板状の保温用ヒーター50が設置されている(図2)。
さらに、蓋体40の中央部分には、蒸気孔52が外カバー42と内カバー44とを貫通して穿設される。蒸気孔52は、放熱板46や保温用ヒーター50の中空部分を連なっており、閉じた姿勢の蓋体40の外部と釜60の内部とを連通可能に構成される。そして、この蒸気孔52の適宜位置には、蒸気孔52を開閉可能な開閉弁54が設置される。
【0033】
再び図1に戻り、本実施例の蓋体40はヒンジ56を介して炊飯器本体2を開閉することができ、このヒンジ56は図1で述べた炊飯器本体2の背面側に設けられている。
一方、閉じた姿勢の蓋体40はロック機構58で維持される。このロック機構58は、図1で述べた炊飯器本体2の前面側に設けられる。
【0034】
そして、この蓋体40で炊飯器本体2を閉じ、ハンドル14を図1で述べた炊飯器本体2の背面側から蓋体40の上方に向けて立ち上げると、利用者はハンドル14を掴んで電気炊飯器1を持ち上げることができ、別の場所に移動可能になる。
なお、本実施例の蓋体40もまた、外カバー42と内カバー44とが一体の中実状で構成されているが(図2)、これら外カバー42と内カバー44との間に空洞を有した中空状で構成されていても良い。
【0035】
ここで、炊飯器本体2に設置された上述の炊飯用ヒーター22、保温用ヒーター26や温度センサー24、並びに、蓋体40に設置された上述の保温用ヒーター50や開閉弁54等は、制御基板(コンピュータ)30に電気的に接続されている。
本実施例の制御基板30は、操作パネル10の近傍にて外ケース4と内ケース16との間に埋設される。
【0036】
具体的には、図3に示されるように、この制御基板30は加熱制御部32、記憶部34、及び、加熱時間や保温時間を計測するタイマー36を備えており、この記憶部34は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等を有し、炊飯に伴う各種の設定データやプログラムを格納している。
【0037】
そして、利用者による操作パネル10の操作内容に基づいて記憶部34のプログラムが適宜読み出されており、加熱制御部32は、温度センサー24の検出結果及びタイマー36の計測結果から炊飯用ヒーター22、保温用ヒーター26、保温用ヒーター50や開閉弁54などのオン・オフ作動を当該プログラムに沿って実行する。
【0038】
より詳しくは、図4には、加熱制御部32による動作フローチャートが示されている。以下、上記の如く構成された電気炊飯器1の本発明に係る作用について説明する。
上記「炊飯」キースイッチの押し下げに伴い、図4のステップS401では、加熱制御部32が炊飯用ヒーター22の火力を弱火に設定し(吸水工程)、その駆動信号を炊飯用ヒーター22に出力する。
【0039】
すなわち、図5のタイミングチャートに示されるように、被炊飯物(例えば20℃の水に浸された米)の温度は60℃程度に上昇し、釜60の米に水を十分に吸収させる。
次いで、図4のステップS402に進み、加熱制御部32は炊飯用ヒーター22の火力を強火に設定し(炊き上げ工程)、その駆動信号を炊飯用ヒーター22に出力する。
【0040】
このため、図5のタイミングチャートに示される如く、被炊飯物の温度は、吸水工程に費やした加熱時間よりも短い時間にて、1気圧下で100℃(不純物を含まない水の沸騰点、厳密には99.974℃)に上昇する。
ここで、米のでん粉のアルファー化(糊化)は、約65℃(1気圧下)で開始され、約90℃〜約95℃(1気圧下)で完全にアルファー化すると云われている。
【0041】
すなわち、この炊き上げ工程はこれらの温度に該当し、でん粉のアルファー化の開始や、そのアルファー化の進行が図られる。より詳しくは、釜60の水と炊飯用ヒーター22からの熱とがβ型のでん粉(生のでん粉)分子間に隙間を形成し始め、水がこの隙間に入り込むと、でん粉分子間の結合が破壊され、でん粉分子が自由な状態になってα型のでん粉になる。
【0042】
釜60の温度は温度センサー24で、これら吸水工程及び炊き上げ工程に費やした加熱時間はタイマー36でそれぞれ計測されており、本実施例の加熱制御部32は、吸水工程の開始から炊き上げ工程の完了までを計20分間実行し、図4のステップS403に進む。
当該20分間を導出した理由は、この20分を超えると、後述の蒸らし工程に入るまでの大幅な時間の短縮化を図れないためである。
【0043】
続いて、図4のステップS403では、加熱制御部32が温度センサー24の検出結果及びタイマー36の計測結果から、炊き上げ工程による第1回目の100℃(1気圧下)の状態を10秒間費やして確認する(沸騰確認工程)。そして、加熱制御部32は、この沸騰状態の到達を確認したら直ちにステップS404に進む。
【0044】
具体的には、この第1回目の沸騰状態の到達について釜60で観察すると、仮に開閉弁54が蒸気孔52を開いていた場合には、釜60の内部で生じた蒸気が外部にフワッと出現することからも分かる。
当該10秒間を導出した理由は、沸騰状態の確認には10秒あれば十分であるし、また、この10秒よりも長くすると、強火に用いるエネルギー資源が多量に必要になるからである。
【0045】
そして、図4のステップS404にて、加熱制御部32は炊飯用ヒーター22の火力を弱火に設定し(沸騰手前温度の維持工程)、その駆動信号を炊飯用ヒーター22に出力する。
すなわち、図5のタイミングチャートに示されるように、沸騰確認工程で第1回目の100℃(1気圧下)の到達が確認された被炊飯物は、弱火で加熱されつつも沸騰点よりも低い沸騰手前温度、具体的には90〜95℃(1気圧下)に下がる。
【0046】
ここで、本実施例の沸騰手前温度の維持工程は、薪を利用した炊飯方法で云えば熾火(赤くなった炭火)による弱火或いは極弱火の火力に相当する。
より詳しくは、沸騰手前温度は沸騰に至らない温度であるが、でん粉を完全にアルファー化できる温度である。この沸騰手前温度を維持した状態について釜60で観察すると、仮に開閉弁54が蒸気孔52を開いていた場合には、釜60の内部で生じた蒸気が外部に出現するものの、従来の沸騰維持工程のようには勢いよく噴出しない状態であることからも分かる。
【0047】
加熱制御部32は、温度センサー24による釜60の温度の検出結果や、タイマー36による沸騰手前温度の維持工程に費やした加熱時間の計測結果に基づき、この沸騰手前温度の維持工程を8分間実行した後、図4のステップS405に進む。
当該8分間を導出した理由は、この8分に満たないと、でん粉のアルファー化の促進を図れず、少ないエネルギー資源でご飯を美味しく炊くことが困難になるからである。
【0048】
一方、この沸騰手前温度の維持工程が8分よりも長くなると、釜60の温度が90〜95℃(1気圧下)よりも大きく下がり、これでは、薪を利用した炊飯方法で云えば熾が徐々に灰になり、次の追い炊き工程で沸騰状態にするために長時間要してしまい、強火に用いるエネルギー資源が多量に必要になるからである。さらに、当該8分を超えると、後述の蒸らし工程に入るまでの大幅な時間の短縮化を図れないためである。
【0049】
次いで、図4のステップS405では、加熱制御部32は炊飯用ヒーター22の火力を強火に設定し(追い炊き工程)、その駆動信号を炊飯用ヒーター22に出力する。
このため、図5のタイミングチャートに示される如く、被炊飯物の温度は、沸騰手前温度から第2回目の100℃(1気圧)に速やかに上昇し、釜60の余分な水分が除去される。
【0050】
加熱制御部32は、温度センサー24による釜60の温度の検出結果や、タイマー36による追い炊き工程に費やした加熱時間の計測結果に基づき、この追い炊き工程を1分20秒間実行し、この沸騰状態の到達を確認したら直ちにステップS406に進む。
当該1分20秒間を導出した理由は、この1分20秒に満たないと、沸騰状態を確保できないからである。一方、この1分20秒よりも長くなると、次の蒸らし工程に入るまでの大幅な時間の短縮化を図れないためである。
【0051】
なお、この第2回目の沸騰状態の到達について釜60で観察すれば、上記第1回目の沸騰状態の到達と同様に、釜60の内部で生じた蒸気が外部にフワッと出現することからも分かる。
その後、図4のステップS406では、加熱制御部32が炊飯用ヒーター22の火力を消火に設定し(蒸らし工程)、その駆動信号を炊飯用ヒーター22に出力する。でん粉のアルファー化は、この蒸らし工程で完了し、米の芯まで進む。
【0052】
そして、加熱制御部32は、温度センサー24による釜60の温度の検出結果や、タイマー36による蒸らし工程に費やした時間の計測結果に基づいてステップS407に進んで保温工程に入る。
この保温工程では、加熱制御部32は、炊飯用ヒーター22を消火させる一方、オン作動させる信号を保温用ヒーター26,50にそれぞれ出力し、釜60や蓋体40を加熱する。
【0053】
これにより、釜60の内部や放熱板46等に付着した水蒸気が除去され、炊飯によって変化したα型のでん粉が温度の低下や時間の経過に伴ってβ型のでん粉に戻る現象を防止している。
なお、本実施例では、被炊飯物を炊くにあたり、釜60に入れる水の量を従前の8割程度に減らしている。
【0054】
詳しくは、仮に、これまで米と水とを同量、例えば米1合に対して水180mlを釜60に入れていた場合を想定すると、本実施例の水の量は約144mlに設定する。本実施例の省エネ炊きでは、釜60の水は沸騰手前温度の維持工程にて蒸発し難く、従前の水の量のままでは、目標とするご飯の硬さよりも軟らかくなり得るからである。
【0055】
ところで、本実施例の沸騰手前温度の維持工程では、炊飯用ヒーター22の火力を弱火に設定し、加熱しつつも沸騰状態からの降温を図っている。しかし、必ずしもこの例に限定されるものではなく、加熱制御部32は、炊飯用ヒーター22を消火させ、保温用ヒーター26,50のみをオン作動させても良い。この場合にも上述した熾火による弱火などに相当する火力を実現可能だからである。
【0056】
以上のように、本実施例の省エネ炊きによれば、米と水とを含む被炊飯物は、吸水工程、炊き上げ工程、沸騰確認工程、沸騰手前温度の維持工程、追い炊き工程、蒸らし工程、保温工程を順番に経て炊飯される。
より詳しくは、被炊飯物は、吸水工程から追い炊き工程に至るまで加熱されており、まず、吸水工程では、被炊飯物が炊飯用ヒーター22の弱火で60℃に昇温加熱される。
【0057】
次に、炊き上げ工程では、既に昇温加熱の始まっている被炊飯物が炊飯用ヒーター22の強火で沸騰(第1回目の100℃(1気圧下))するまで、さらに昇温加熱される。
これら吸水工程及び炊き上げ工程には計20分間実行されており、米への速やか、かつ、十分な吸水を図るとともに、でん粉のアルファー化の開始・進行を達成できる。
【0058】
続いて、沸騰確認工程にて被炊飯物の沸騰状態の到達を短時間で確認したら、沸騰手前温度の維持工程に移行する。
この沸騰手前温度の維持工程では、沸騰状態に到達した被炊飯物が、炊飯用ヒーター22の弱火(或いは、保温用ヒーター26,50のみのオン作動)で90〜95℃(1気圧下)に降温加熱される。具体的には、被炊飯物は、この沸騰状態よりも低い温度で8分間維持される。これにより、でん粉のアルファー化の促進を達成しつつ、省エネルギー化を図る。
【0059】
そして、追い炊き工程では、沸騰手前温度で維持した被炊飯物が炊飯用ヒーター22の強火で沸騰(第2回目の100℃(1気圧下))するまで、再び昇温加熱される。詳しくは、被炊飯物は、この昇温加熱が1分20秒間の短時間で実行されており、沸騰状態を維持でき、釜60の余分な水分を除去し、でん粉のさらなるアルファー化を図る。
【0060】
その後、炊飯用ヒーター22の消火で蒸らし工程に移行し、米の芯に至るまででん粉のアルファー化を進行させる。
このように、本実施例の省エネ炊きによれば、沸騰維持のために設定される炊飯用ヒーター22の強火が非常に短時間で足りるため、炊飯に利用される例えば石油などのエネルギー資源を節約可能になる。
【0061】
この点について詳述すると、図6は、計3台の電気炊飯器(比較例1、比較例2、本実施例の電気炊飯器1)による実験結果を示しており、吸水工程の開始から追い炊き工程の完了、つまり、蒸らし工程に入るまでの加熱時間を、特に比較例1,2については外部へ噴出した蒸気の状態から計測し、さらに、炊飯後の被加熱物を食して味の判定も行ったものである。
【0062】
まず、比較例1の電気炊飯器では、「炊飯」キースイッチの押し下げから沸騰して蒸気が最初に噴き出るまでの加熱時間を吸水工程及び炊き上げ工程とし、次いで、この最初の蒸気の噴出から「保温」キースイッチが点灯する(同時に「炊飯」キースイッチは消灯する)までの時間を沸騰維持工程及び追い炊き工程として計測すると、吸水工程及び炊き上げ工程が約28分、沸騰維持工程及び追い炊き工程が約19分であり、蒸らし工程に入るまでに約47分間費やしていた。
【0063】
次に、比較例2の電気炊飯器では、上記比較例1と同様に計測すると、吸水工程及び炊き上げ工程が約29分、沸騰維持工程及び追い炊き工程が約20分であり、蒸らし工程に入るまでに約49分間費やしていた。
これらのように、比較例1,2では、長時間の吸水・炊き上げ後に、当該長時間に比してやや短時間の沸騰状態が維持されていた。
【0064】
これに対し、本実施例の電気炊飯器1では、長時間の吸水・炊き上げ後に、当該長時間に比して非常に短時間の沸騰状態が維持される。
具体的には、まず、本実施例では、吸水工程及び炊き上げ工程が約20分であった。そして、上記の沸騰維持及び追い炊き工程に相当する強火の火力、つまり、第1回目の沸騰があった後における炊飯用ヒーター22の強火は、第2回目の沸騰に関する約1分20秒間の炊飯用ヒーター22の強火だけであり、比較例1よりも約17分40秒、比較例2よりも約18分40秒も短い。
【0065】
換言すれば、本実施例の沸騰確認工程から追い炊き工程までの時間は、この沸騰確認工程の10秒や沸騰手前温度の維持工程の8分に上述の追炊1分20秒を加えても計9分30秒で済む。
よって、比較例1,2のような約20分余りも強火の継続によって沸騰させていた場合に比して、炊飯に利用される例えば石油などのエネルギー資源を節約できることが分かる。
【0066】
しかも、本実施例では、吸水工程及び炊き上げ工程に計20分費やしたとしても、図6に示される如く、計29分30秒で蒸らし工程に移行することができるので、比較例1よりも約17分30秒、比較例2よりも約19分30秒も短くなり、炊飯作業の手間も省けることも分かる。
さらに、本実施例の被加熱物を食してみたところ、比較例1,2と遜色ないご飯であり、また、変質し得るとの懸念もなく安心して食べることができた。
【0067】
さらにまた、本実施例の電気炊飯器1には、大きな火力が長時間に亘って作用しなくて済むため、釜60、炊飯器本体2や蓋体40を新たに開発・設計する際に、高い耐熱性を有した材料や構造が不要になる。したがって、本実施例の炊飯方法やプログラムは、電気炊飯器1の低廉化や小型軽量化にも寄与する。
本発明は、上記実施例に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
【0068】
例えば、上述の実施例では、吸水工程及び炊き上げ工程に最適な加熱時間として20分間を設定したが、さらなる実験結果によれば、吸水工程及び炊き上げ工程は計15分間でも良い。
但し、この15分に満たない場合には、米への吸水が不十分になり、その解消には、長時間の沸騰維持工程などが必要になってしまう。したがって、当該15分にもまた、上述の如く各工程について特定した種々の時間と同様に、臨界的意義が存在する。
【0069】
なお、従前の電気炊飯器に対するプログラム変更を沸騰後だけの最小限に抑えたい場合には、吸水工程及び炊き上げ工程は、比較例1,2と同様に約30分費やすことも可能である。
つまり、この場合には、蒸らし工程に入るまでの大幅な時間の短縮化を達成できないが、第2回目の沸騰に必要な炊飯用ヒーター22の強火は約1分20秒間で足りる点は同じであり、炊飯に利用されるエネルギー資源の節約を達成できる。
【0070】
また、上述の実施例では電気炊飯器1に具現化した例で説明しているが、本発明は必ずしもこの例に限定されるものではない。すなわち、本発明は、例えば天然ガスを利用して炊飯するガス炊飯器や、薪を利用して炊飯する炊飯器にも当然に適用可能である。
そして、これらいずれも場合にも上記と同様に、炊飯に利用されるエネルギー資源を節約しつつ、遜色ないご飯を炊けるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0071】
1 電気炊飯器
2 炊飯器本体
22 炊飯用ヒーター
24 温度センサー
30 制御基板(コンピュータ)
32 加熱制御部
34 記憶部
36 タイマー
40 蓋体
60 釜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米及び水を含む被炊飯物を炊く炊飯方法であって、
前記被炊飯物を昇温加熱し、米に水を吸水する吸水工程と、
前記昇温加熱した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する炊き上げ工程と、
前記沸騰状態の到達を確認する沸騰確認工程と、
前記沸騰状態の到達を確認した被炊飯物を降温加熱し、前記沸騰状態よりも低い温度で維持する沸騰手前温度の維持工程と、
前記低い温度で維持した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱するとともに、この沸騰状態で維持する追い炊き工程と、
前記沸騰状態で維持した被炊飯物の蒸らし工程とから構成されており、
前記吸水工程及び前記炊き上げ工程を計15分から計20分までの範囲で実行し、次いで、前記沸騰確認工程を10秒以内で実行した後、前記沸騰手前温度の維持工程を8分間実行し、続いて、前記追い炊き工程を1分20秒間実行することを特徴とする炊飯方法。
【請求項2】
米及び水を含む被炊飯物を炊く炊飯器のプログラムであって、
前記プログラムは、前記炊飯器のコンピュータに備えられており、
前記被炊飯物を昇温加熱し、米に水を吸水する吸水工程、及び、前記昇温加熱した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する炊き上げ工程を、計15分から計20分までの範囲で実行する手順と、
前記沸騰状態の到達を確認する沸騰確認工程を、10秒以内で実行する手順と、
前記沸騰状態の到達を確認した被炊飯物を降温加熱し、前記沸騰状態よりも低い温度で維持する沸騰手前温度の維持工程を、8分間実行する手順と、
前記低い温度で維持した被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱するとともに、この沸騰状態で維持する追い炊き工程を、1分20秒間実行する手順と、
前記沸騰状態で維持した被炊飯物の蒸らし工程を実行する手順と
を実行させることを特徴とする炊飯器のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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