説明

炊飯用油脂組成物

【課題】 本発明は、米の炊飯時あるいは炊飯後に添加することにより、ご飯粒同士の粘着を抑制してご飯のほぐれ性や艶、食感を向上させるだけでなく、非常に風味に優れたご飯が得られる炊飯用油脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 HLBが2以下の乳化剤を含まない炊飯用油脂組成物であって、炊飯用油脂組成物全体中、レシチン0.1〜3.0重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜0.6重量%を含有する炊飯用油脂組成物を作製し、それを白飯、塩飯、酢飯、炊き込みご飯などの米飯類に使用すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炊飯用油脂組成物に関し、米の炊飯時あるいは炊飯後に添加することで、ご飯のほぐれ性や艶、食感、風味を向上させることができる油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の炊飯用油脂組成物としては、ご飯粒のほぐれ性、艶、食感、風味を向上させる目的で、例えば食用油脂にレシチンを配合する方法(特許文献1)、食用油脂にポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンを配合する方法(特許文献2)など、数多くの提案がなされてきた。しかし、特許文献1では米油の使用やポリグリセリン脂肪酸エステルの使用に関する記載も示唆もない。また、特許文献2では米油の使用に関する具体的な開示が無く、コーン油の使用に較べて米油を使用するとほぐれ性や風味が良くなることに関して記載も示唆もないし、重合度が2〜6且つエステル化率が20〜70と低HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルと、HLB2以下の低HLBショ糖脂肪酸エステルの併用を好適とするため、組成物の疎水性が強くなるので炊飯用油脂組成物の米粒への分散が良くない。さらに、何れの特許文献においても、具体的に使用を開示している油脂はコーン油であり、そのため乳化剤だけでなく、コーン油の風味がご飯に出て、結果としてご飯の風味を大きく損ねてしまっているのが現状である。
【特許文献1】特開平3−175937号公報
【特許文献2】特開2002−153209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ご飯のほぐれ性や艶、食感を向上させるだけでなく、非常に風味の優れたご飯が得られる炊飯用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食用油脂、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルそれぞれについて種類を大きく絞込み、食用油脂として米油を使用し、かつ、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルとリン脂質90%以上の高純度レシチンとを組み合わせることで乳化剤の使用量を大幅に削減することができ、結果として非常に風味の優れたご飯が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明の第一は、HLBが2以下の乳化剤を含まない炊飯用油脂組成物であって、炊飯用油脂組成物全体中、レシチン0.1〜3.0重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜0.6重量%を含有する炊飯用油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、炊飯用油脂全体中、食用油脂の含有量が96.4〜99.8重量%であり、該食用油脂全体中の米油の含有量が40〜100重量%である上記記載の炊飯用油脂組成物に関する。より好ましくは、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが8〜12である上記記載の炊飯用油脂組成物、さらに好ましくは、レシチン中のリン脂質含量が90重量%以上である上記記載の炊飯用油脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、米の炊飯時あるいは炊飯後に添加することによりご飯粒同士の粘着を抑制して、ご飯のほぐれ性や艶、食感を向上させるだけでなく、非常に風味に優れたご飯が得られる炊飯用油脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の炊飯用油脂組成物は、食用油脂にレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解したものであり、加えて米粒への分散を良くするためにHLBが2以下の乳化剤を含まないことを特徴とする。また、任意成分として組成物を安定化させるためビタミンE、ローズマリー抽出物などの酸化防止剤、シリコーンオイルなどの消泡剤を使用することができる。さらには、レシチン等乳化剤の風味をマスキングしたり、炊き込みご飯などの味付けご飯の風味を向上するために、焙煎した米糠の香味を油脂に移行させた米糠風味油、玉ネギを油脂中で炊き出した玉ネギ香味油等の風味油を配合することも可能である。
【0008】
本発明の食用油脂としては、例えば米油、大豆油、ハイオレイック菜種(キャノーラ)油、コーン油、菜種油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ひまわり油、紅花(サフラワー)油、ハイオレイック紅花油等の植物油が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。風味及びほぐれ性の観点から、これらの中でも特に米油が好ましいが、それ以外の油脂を使用もしくは米油と併用するときは、ご飯の風味が損なわれる恐れがあるため注意が必要である。食用油脂の含有量は、油脂組成物全体中96.4〜99.8重量%が好ましい。また米油を使用する場合、米油の含有量は、食用油脂全体中40〜100重量%が好ましく、60〜100重量%がより好ましい。
【0009】
本発明で使用できるレシチンとは、大豆等の油糧種子または卵黄等の動物原料から得られたもので、主成分がアシルグリセリド型リン脂質の総称であり、食品添加物の領域で通常使用されているものをいうが、レシチンの中でも特にリン脂質が90重量%以上の高純度レシチンが、一般的なレシチンと比べるとご飯のほぐれ性を向上し、加えてご飯の食味を低下させないためには好適である。本発明の炊飯用油脂組成物中のレシチン含有量は、油脂組成物全体中0.1〜3.0重量%が好ましく、より好ましくはリン脂質が90重量%以上の高純度レシチンを使用し、その場合の高純度レシチン含有量は0.3〜1.5重量%が好ましい。レシチンが0.1重量%未満になると炊飯時あるいは炊飯後のご飯粒のほぐれ性が劣る場合があり、また3.0重量%を超えるとレシチン由来の異臭が強くなり、ご飯の風味が大きく低下する場合がある。
【0010】
本発明で使用できるポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合物であるポリグリセリンに脂肪酸をエステル結合させたものをいう。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBについては、8〜12の範囲が好ましく、9〜10の範囲がより好ましい。上記のようなHLBの範囲内であれば、油脂に溶解させた時に油脂全体が濁ったり、低温域で結晶化あるいは沈殿を生じることがなく、加えてレシチンとの相乗効果による油脂の界面活性低下という観点から、本発明の炊飯用油脂組成物が米粒に分散しやすくなり、結果的にほぐれ性を良くする。グリセリンの重合度としては特に限定がないが、上記範囲のようなHLBにするためには、重合度4〜10のものであることが好ましく、その中でも特に4〜6のものが好ましい。また、グリセリンと脂肪酸のエステル化率は特に限定はないが、上記範囲のようなHLBにするためには20%未満のものが好ましく、より好ましくは10〜18%の範囲である。構成脂肪酸の種類としては、特に限定はないが、上記範囲のようなHLBにするためには、ヨウ素価40以上のものが好ましい。
【0011】
本発明の炊飯用油脂組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂組成物全体中0.1〜0.6重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜0.3重量%である。ポリグリセリン脂肪酸エステルが0.1重量%未満では、レシチンとの相乗効果が期待しにくくなるため、結果としてご飯のほぐれ性が低下する場合がある。一方、0.6重量%を越えるとポリグリセリン脂肪酸エステル独特の好ましくない風味がご飯に出るようになり風味が低下する場合がある。
【0012】
本発明の炊飯用油脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、食用油脂にレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルを順次加えて50〜70℃で加熱、攪拌して乳化剤を油脂中に溶解することにより得ることができる。
【0013】
本発明の炊飯用油脂組成物は米を主体とする米飯類であれば幅広く使用可能である。具体的には、弁当商品用の通常の白飯、おにぎり用の塩飯、寿司用の酢飯、炊き込みご飯、炒飯等の炒め飯、ピラフやチキンライス等の洋風味付けご飯に使用することができる。使用方法としては、炊飯時、あるいは炊飯後のいずれの時期に添加することもできるが、白飯、塩飯、酢飯、炊き込みご飯などでは工業的には炊飯する前に滴下して炊飯することが一般的である。炊飯用油脂組成物の使用量は、米100重量部に対して0.3〜6重量部であるのが好ましく、0.5〜3重量部であるのがより好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0015】
<ご飯のほぐれ性評価>
実施例・比較例で得られたご飯(白飯)及び炊き込みご飯を目視で評価した。その際の評価基準は以下の通りであった。◎:ご飯1粒ずつがそれぞれくっつかず、ほぐれている、○:ご飯粒同士がさほどくっつかず、ほぐれている、△:ご飯粒の塊がところどころ認められる、×:ご飯全体がねばついて塊となり、ほぐれていない。
【0016】
<ご飯の食感評価>
実施例・比較例で得られた炊き込みご飯を、5人のパネラーに食べてもらい、その官能評価結果を集約した。その際の評価基準は以下の通りであった。◎:ご飯粒それぞれに粘りが有り、油脂などを添加していないご飯本来の食感が感じられる、○:ご飯粒に粘りが残っており、油脂などを添加していないご飯本来の食感に近い、Δ:ご飯粒に粘りが少なく、ご飯本来の食感を感じない、×:ご飯粒に粘りがなく、かつ、ご飯本来の食感ではなくまずい。
【0017】
<ご飯の食味評価>
実施例・比較例で得られたご飯(白飯)及び炊き込みご飯を、5人のパネラーに食べてもらい、その官能評価結果を集約した。その際の評価基準は以下の通りであった。◎:ご飯本来の味があり、異味異臭がない、○:ご飯本来の味が残っており、異味異臭をさほど感じない、△:ご飯本来の味が感じられず、異味異臭を少し感じる、×:ご飯本来の味がなく、異味異臭を感じる。
【0018】
(実施例1〜7及び比較例1〜6) 炊飯用油脂組成物の作製
表1に示した配合に従い、炊飯用油脂組成物を製造した。即ち、食用油脂にレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルを加えて60℃にて加熱溶解し、本発明の炊飯用油脂組成物を得た。
【0019】
【表1】

【0020】
(実施例8〜14及び比較例7〜13) ご飯(白飯)食味試験
生米(新潟産コシヒカリ)100重量部を洗米して20℃の水に60分間浸漬し、ざるに移して水を切った。この浸漬米に対して水106重量部と実施例1〜5、比較例1〜6の炊飯用油脂組成物0.6重量部を加えて軽く混合し、家庭用電気炊飯器にて炊飯した。なお、油脂を添加しないご飯を比較例13とした。ご飯をバットに移して荒熱をとった後、ポリ袋に入れて密封し、20℃にて24時間保存した後、ほぐれ性、食感、食味(風味)を官能評価した。官能評価結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(実施例15〜21及び比較例14〜20) 炊き込みご飯
生米(新潟産コシヒカリ)100重量部を洗米して、20℃の水に60分間浸漬し、ざるに移して水を切り、家庭用電気炊飯器に移した。次に炊飯器に、水95重量部、実施例1〜5及び比較例1〜6の炊飯用油脂組成物2重量部、細切りにした油揚げ33重量部、生しいたけ16重量部、えのき茸16重量部、薄口醤油12重量部、清酒7重量部、みりん4重量部、グルタミン酸ナトリウム0.3重量部を加えて軽く混合し、炊飯した。なお、油脂を添加せずに炊飯したものを、比較例20とした。炊飯後、軽くかきまぜ、具材を均一に分散させ、炊き込みご飯を作製し、バットに移して荒熱をとった後、ラップに包んで冷凍した。冷凍した炊き込みご飯は−20℃で1ヶ月保管した後、家庭用電子レンジで再加熱してラップから取り出し、ほぐれ性、食感、食味(風味)について官能評価を行った。官能評価結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
表2及び表3に示した結果から、本発明の炊飯用油脂組成物を白飯、炊き込みご飯に使用することにより、ご飯粒のほぐれ性が良好で、かつ、食味(風味)や食感が非常に優れた米飯類が得られる。また、使用する食用油脂は、食味(風味)の点で米油がより良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが2以下の乳化剤を含まない炊飯用油脂組成物であって、炊飯用油脂組成物全体中、レシチン0.1〜3.0重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜0.6重量%を含有する炊飯用油脂組成物。
【請求項2】
炊飯用油脂全体中、食用油脂の含有量が96.4〜99.8重量%であり、該食用油脂全体中の米油の含有量が40〜100重量%である請求項1記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが8〜12である請求項1又は2に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項4】
レシチン中のリン脂質含量が90重量%以上である請求項1〜3の何れかに記載の炊飯用油脂組成物。