炎症の治療法としてのαBクリスタリン
本発明は、αBクリスタリン活性を提供する薬剤の有効量を対象に投与することにより炎症性疾患を治療する方法を提供し、その投与量は、既存の疾患の進行を含む、疾患の開始、進行、または再発の抑制または防止に有効である。いくつかの態様において、本発明の方法は、疾患の再発を抑制または防止するために、既往の炎症性疾患状態を持つ対象に有効量のαBクリスタリンタンパク質を投与する段階を含む。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
αBクリスタリン(αBC)は眼の水晶体に高レベルで見られる小さな熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーである。αA、β、およびγクリスタリンと共に、αBCは、必要な屈折率を作り出す脊椎動物の眼の水晶体の重要な水溶性構造タンパク質を形成している。αクリスタリンは分子シャペロンとしても関与しているとされ、折畳まれていない変性したタンパク質に結合することによって非特異的凝集を抑制し、水晶体の透明性を維持していると提唱されている。興味深いことに、αBCのヌルのマウスは正常な水晶体を持ち、これはこのクリスタリンが透明な水晶体の発生に必須ではないことを示す。眼の水晶体の他に、αBCは成体の心臓および骨格筋にも高レベルで存在し、また腎臓、肺、CNS膠、肝臓、ならびに発生中の心臓および体節に低レベルの発現が見られる。
【0002】
αBCの発現はいくつかの病理学的状態と関連している。αBCレベルの上昇は、アレキサンダー病、クロイツフェルトヤコブ病、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、および神経向性の感染などといった様々な神経疾患のCNS膠および悪性腫瘍において見られる。熱ショックおよび遷移金属も、初代星状細胞においてこのクリスタリンの発現を誘導できる。
【0003】
多発性硬化症(MS)は原因不明のCNSの自己免疫疾患で、約400000人のアメリカ人が罹患している。MSにおいては、ミエリン反応性T細胞が脳および脊髄に入り、ニューロンを取り囲むミエリン鞘の破壊を媒介し、進行性の運動機能障害および最終的には麻痺を引き起こす。現在の治療戦略には、炎症促進性Th1 T細胞の表現型の抗炎症性Th2反応への切り替え、脳炎誘発性のT細胞の脳中への溢出の防止、T細胞寛容、アネルギーまたはアポトーシスの誘導、ならびにニューロンおよび乏突起神経膠細胞などの傷害を受けたCNS細胞の修復または置き換えが含まれる。
【0004】
疾患の経過は非常に様々で予測できない。大部分の患者では、特に多発性硬化症が視神経炎から始まる場合には、寛解は数ヶ月から10年を超えて継続する。しかしながら、余命が短縮されるのは非常に重症の症例のみであるが、頻繁に発作を起こし急速に行動不能になる患者も存在する。
【0005】
治療の目標は、急性増悪の減少、増悪頻度の低下、および症状の緩和であり、患者の歩行能力を維持することは特に重要である。急性増悪はコルチコステロイドを短期間使用して治療できる。しかし、コルチコステロイドは急性の発作を減少させ進行を抑える可能性はあるが、長期的転帰への影響は示されていない。
【0006】
免疫調節療法は急性増悪の頻度を低下させ、最終的な身体障害を遅らせる。免疫調節薬には、IFN-β1bおよびIFN-β1aなどのインターフェロン(IFN)が含まれる。酢酸グラチラマーも使用できる。他の潜在的な療法には、免疫抑制剤のメトトレキセート、および白血球の血液脳関門の通過を抑制する抗α4インテグリン抗体であるナタリズマブがある。ミコフェノレートおよびシクロホスファミドなどの免疫抑制剤は、より重症の進行性MSに使用されてきたが、賛否両論がある。
【0007】
ニューロンなどの一部の細胞は、哺乳類の成体の脳に前駆細胞がほとんどなく、限定されているので、病的な免疫反応の抑制に加えて、CNSをさらなる傷害から守り、損傷を受けた細胞の修復を誘導することが重要である。
【0008】
MS患者の初期の研究では、この疾患においてはαBCが自己抗原の役割を果たしていることが示唆された。MSの脳から単離したミエリンは、乏突起神経膠細胞および星状細胞に局在化したαBCであることが分かり、MSに免疫優性であることが示され、増殖およびIFN-γの産生を誘導することによりT細胞をコントロールする、単一の画分を含んでいた。遺伝子の配列決定のできるロボット(Chabas et. al. (2001) Science 294, 1731-5(非特許文献1))を用いたMS脳の病変の大規模の転写プロファイリングでも、αBCが初期の活動性MSにおいて最も豊富に転写される遺伝子であることが分かった。αBC遺伝子におけるC249G、C650G、およびA652Gの3つの多型性も、MSに対する感受性および疾患の発現に関連することが分かった(van Veen et al. (2003) Neurology 61, 1245-9(非特許文献2))。MSにおけるαBCの自己抗原の役割の更なる証拠には、初期の活動性MS患者から得られたαBCペプチドに反応した、CD4+T細胞株の増殖ならびにIL-2、IFN-γ、およびTNFの産生の増加が含まれる(Chou et al. (2004) J Neurosci Res 75, 516-23(非特許文献3))。これらの病変においては、T細胞へのクラスII MHC拘束性提示のために、タンパク質が局所のAPCによって取り込まれることが示唆されている。
【0009】
EAEおよびMSにおけるαBCの役割は、例えば、van Stipdonk et al. (2000) J Neuroimmunol 103, 103-11(非特許文献4); van Stipdonk et al. (2000) Cell Immunol 204, 128-34(非特許文献5); Thoua et al. (2000) J Neuroimmunol. 104, 47-57(非特許文献6); およびSotgiu et al. (2003) Eur J Neurol. 10, 583-6 (2003)(非特許文献7)に考察されている。
【0010】
最近、多くの研究により、ストレス時のαBCのアポトーシスに関する役割が確立した。αBクリスタリンは、熱、浸透圧性および酸化的傷害、スタウロスポリン、TNF、オカダ酸、過酸化水素、カルシマイシン、ならびにエトポシドから細胞を守ることが示された。さらに、αBCトランスジェニックマウスは、心筋虚血および再灌流時の心筋細胞のアポトーシスおよび壊死から保護される。
【0011】
この保護は、カスパーゼ-3の活性化の阻害によると考えられる。通常は、ミトコンドリアおよび細胞死受容体の経路は、それぞれカスパーゼ8および9を活性化し、その後、収束して、細胞死を執行する下流のカスパーゼ3をタンパク質分解により活性化する。αBCはカスパーゼ3の中間体p24の自己タンパク質分解的な成熟を阻害することにより、アポトーシス経路を阻害すると考えられる。他の研究では、αBCがBaxおよびBcl-Xsと相互作用して、これらのアポトーシス誘導性調節物質のミトコンドリアへの移動を阻害し、下流のアポトーシス事象を無効にすることが示されている。最近の研究では、αクリスタリンの抗アポトーシス機能に加えて、抗炎症効果も示された。αクリスタリンでマウスを前処置しておくと、新皮質におけるGFAP、NF-κB発現を低下させることにより硝酸銀による神経炎症から保護され、細胞内カルシウムレベル、アセチルコリンエステラーゼ活性、およびグルコース枯渇が逆行し、かつ脳における一酸化窒素および過酸化脂質の産生が防止された。
【0012】
炎症におけるαBCの役割のさらなる解明は大きな関心の対象である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chabas et. al. (2001) Science 294, 1731-5
【非特許文献2】van Veen et al. (2003) Neurology 61, 1245-9
【非特許文献3】Chou et al. (2004) J Neurosci Res 75, 516-23
【非特許文献4】van Stipdonk et al. (2000) J Neuroimmunol 103, 103-11
【非特許文献5】van Stipdonk et al. (2000) Cell Immunol 204, 128-34
【非特許文献6】Thoua et al. (2000) J Neuroimmunol. 104, 47-57
【非特許文献7】Sotgiu et al. (2003) Eur J Neurol. 10, 583-6
【発明の概要】
【0014】
本発明は、多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害等、および同様な疾患などの、脱髄性自己免疫疾患である可能性のある神経炎症性疾患を含む、炎症性疾患の治療方法を提供する。他の態様では、炎症性疾患には、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびルー・ゲーリッグ病が含まれるがこれらに限定されない。本発明の方法は、αBクリスタリン活性を提供する薬剤の有効量を対象に投与する段階を含み、その投与量は、既存の疾患の進行を含む、疾患の開始、進行、または再発の抑制または防止に有効な量である。いくつかの態様では、本発明の方法は、疾患の再発を抑制または防止するために、既往の炎症性疾患状態を持つ対象に有効量のαBクリスタリンタンパク質を投与する段階を含む。
【0015】
いくつかの態様では、対象において炎症性疾患を阻害するための方法が提供され、該方法は、例えば、プロモーターに機能的に連結したαBクリスタリンをコードする核酸を提供することによって、予防に有効な量のαBクリスタリンのレベルを特異的に増強する核酸を対象に投与する段階を含む。別の態様では、対象において自己免疫疾患を阻害するための方法が提供され、該方法は、例えば、組換えによって産生されたポリペプチドなどの、治療的有効量のαBクリスタリンポリペプチドを対象に投与する段階を含む。治療薬は、例えば静脈内に全身投与するか、例えば炎症部位へ局所投与することができる。
【0016】
本発明のいくつかの方法では、対象はヒトである。いくつかの方法では、治療中に、T細胞、ニューロン、マクロファージ、血管内皮細胞、星状細胞、および小膠細胞からなる群より選択される患者細胞において、αBクリスタリンのレベルがモニターされる。いくつかの方法では、患者は進行中の炎症疾患を持ち、方法はαBクリスタリンの投与に応答した患者の症状の低下をモニターする段階もさらに含む。
【0017】
本発明のいくつかの態様では、ミエリン反応性または他の活性化T細胞、例えば、MS患者のCSFに存在するT細胞、またはRA患者の滑液に存在するT細胞は、例えば、治療がそのようなT細胞の活性化を低下させるために有効かどうかを判断するために、例えば、IL-2、IFN-γ、および/またはIL-17などのような1つまたは複数のサイトカインの発現;ならびにp38MAPKおよびERKの上方制御またはリン酸化についてモニターされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】αBC-/-マウスは、免疫細胞活性化の増加、CNS炎症、および膠細胞死を伴う、より悪化した臨床的EAEを発症した。(A) MOG 35-55による免疫後の様々な時点におけるWT(□)およびαBC-/-(■)マウスの臨床スコアの平均±s.e.m.。*はマンホイットニーU検定により決定した、WT群からの有意差(p<0.05)を示す。EAEを持つWT(□)およびαBC-/-(■)マウスから得られたリンパ節細胞および脾臓細胞の(B)増殖速度、および(C)炎症性サイトカインIFN-γ、TNF、IL-2、IL-12p40、IL-17の分泌。(D〜J) EAEを持つWT (D、G、I)およびαBC-/- (E-F、H、J)動物から42日目に採取され、切断された(D〜F)および未切断(G、H)のカスパーゼ-3の免疫染色、ならびにTUNEL染色 (I、J)されたパラフィン包埋脊髄切片。(D〜E、G〜H) 20X;(F) 40X;(I、J) 75Xの倍率。矢印は切断されたカスパーゼ-3の免疫陽性(F)およびTUNEL染色(I、J)の膠細胞を指す。
【図2】αBC-/- EAEマウスから得られたT細胞は応答亢進している。(A)同系の照射された脾臓細胞およびMOG 35-55ペプチドにより刺激されたWT(□)およびαBC-/-(■)EAEマウスから単離したCD3+ T細胞の、Th1 (IFN-γ、IL-2)、Th17 (IL-17)およびIL-10サイトカインの分泌(pg/ml)および増殖速度(cpm)。(B) 同系の照射された脾臓細胞およびMOG 35-55ペプチドにより1時間刺激されたWTおよびαBC-/- EAEマウスから得られたCD3+ T細胞におけるp-38およびホスホ-p38発現のウェスタンブロット。
【図3】αBC欠損マクロファージは機能が亢進している。(A) インビトロでLPSにより刺激されたWT(□)およびαBC-/-(■)マクロファージによるサイトカイン(IL-1β、TNF、IL-6、IL-12p40、IL-10)(pg/ml)の産生。(B) LPSによる刺激の72時間後のWTおよびαBC-/-ヌルマクロファージにおけるp38およびホスホ-p38発現のウェスタンブロット解析。
【図4】αBC-/-星状細胞は細胞死に対してより感受性であり、かつERKおよびNF-κBシグナル伝達が増加している。(A) TNF刺激の48時間後のWT(□)およびαBC-/-(■)星状細胞によるIL-6産生。(B) TNF刺激の48時間後のWTおよびαBC-/-星状細胞におけるNF-κB p50およびNF-κB p65のDNA結合活性。(C) TNF刺激の72時間後のWTおよびαBCヌル星状細胞におけるαBC、ホスホ-αBC、切断および未切断カスパーゼ-3、p-38、ホスホ-p-38、ERK、ホスホ-ERK、NF-κB p105/p50、NF-κB p65およびIκB-α分子の発現。
【図5】ミエリン抗原アレイ解析は、ヒトRRMS患者においてαBCを標的とする抗体を示す。ミエリンアレイ解析はRRMSおよびOND対照患者から得られたCSFに対して実行された。OND対照試料と比較したRRMSにおける抗体反応性の有意差を同定するために統計アルゴリズムSAMが用いられ、試料およびミエリン抗原のヒットは階層的クラスターアルゴリズムを用いて配列され、結果はヒートマップとして表示されている。RRMS患者は、αBCタンパク質およびペプチドを含め様々なミエリンエピトープに対して自己抗体の反応性が有意に亢進していた。
【図6】組換えαBCはEAEにおいて臨床的疾患および炎症を抑制する。(A) MOG 35-55および百日咳毒素による免疫後の様々な時点における、組換えαBC(■)またはPBS pH 7.0(□)で処置されたWT EAEマウスの平均臨床スコア。(B) 組換えαBC(■)またはPBS(□)処置時のEAEの25日目に採取された脾臓細胞の増殖速度(cpm)およびサイトカイン産生(pg/ml)。*はマンホイットニーU検定により決定された、WT群からの有意差(p<0.05)を示す。
【図7】αBC-/-マウスは急性および進行性EAEにおいてより重症の炎症/脱髄病変を持つ。EAEを持つWT(A、B)およびαBC-/-(C、D)から14日目(A、C)および42日目(B、D)に採取され、ルクソール・ファースト・ブルーおよびヘマトキシリン・エオシン染色されたパラフィン包埋脊髄切片。1640Xの倍率。
【図8】αBC-/-マウスは急性EAEにおいて切断されたカスパーゼ-3の発現が高い。EAEのWT(A、B)およびαBC-/-(C、D)動物から14日目に採取され、切断(B、D)および未切断カスパーゼ-3(A、C)の免疫染色されたパラフィン包埋脊髄切片。20Xの倍率。
【図9】αBCで処置されたEAEマウスは、脊髄内でTUNEL陽性細胞がより少なくなっている。PBS(A、B)および組換えαBC(C、D)で処置されたEAEを持つWTマウスから32日目に採取され、TUNEL染色されたパラフィン包埋脊髄切片。160Xの倍率。
【図10】炎症に関与する経路の模式図。
【図11】αBクリスタリンはコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて、既存の自己免疫性関節炎を治療する。DBA/1マウスに、完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてコラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。マウスが臨床的な関節炎を発生した後(平均の足の厚み約1.95 mm)、関節炎マウスを、αBC(10μgの組換えヒトαBC(US Biological、Swampscott、MA;生理食塩水で希釈))、ミオグロビン対照タンパク質(10μg)またはPBS(生理食塩水対照)による隔日処置に無作為割り付けした。既存の関節炎を持ちαBCで処置されたマウスは、ミオグロビンまたはPBS対照により処置されたマウスと比較して関節炎の重症度が統計的有意に低下していた(p< 0.05)。
【図12】αBC処置は既存のCIAにおいて滑膜炎、パンヌス、および破壊を低下させる。既存のCIAを持つマウスをαBCまたはPBSで処置し、処置後にマウスを屠殺して後足を採取し、ブラインド化した組織学的分析を行なった。評価者はブラインド下で滑膜炎(炎症)、パンヌス(滑膜の成長)、および破壊(骨侵食)の程度について後脚関節切片を評価した。αBCで処置されたCIAマウスは、滑膜炎、パンヌス、および破壊のスコアが統計的有意に低下しており(p<0.05)、αBC治療の有効性をさらに示した。
【図13】αBC処置したCIAマウス由来の脾臓細胞では、増殖および炎症性サイトカインが減少している。DBA/1マウスには完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてコラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。マウスが臨床的な関節炎を発生した後、組換えαBCによる処置またはPBSによる対照処置を開始し、2週間後に屠殺して脾臓細胞を採取し、Con Aで刺激した(X軸は用量)。増殖応答は3H-チミジンの取り込みによって測定された(A)。TNF (B)、IL-10 (C)、およびIFN-γ(D)産生はELISAで測定された。CIAマウスをαBCによりインビボで処置すると、脾臓細胞の増殖応答(A)および炎症性サイトカイン産生(B、D)が低下していた。
【図14】αBCはRA滑膜組織に高レベルで発現している。1人のRA患者および1人のOA患者の関節形成術の際に同意書を取得した後で、スタンフォード大学で承認されたのヒト被験者プロトコールにしたがって、遺残滑膜組織を採取した。滑膜組織を固定し、パラフィン包埋し、切片を作製した。αBCに特異的な抗体およびアイソタイプの一致した対照抗体による切片の免疫組織学的解析は、RA滑膜ではαBCタンパク質発現が高レベルであるがOA滑膜ではそうではないことを示した。
【図15】αBCはAβに誘導されるアポトーシスから海馬ニューロンを保護する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本方法を記述する前に、本発明は記述された特定の方法に限定されるわけではなく、当然、変動し得ることを理解する必要がある。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的でのみ使用され、限定する意図はないことも理解する必要がある。
【0020】
値の範囲が提供されている際には、文脈上明らかにそうでない場合を除き、下限の単位の10分の1までのその範囲の上限と下限の間に存在する値、およびその述べられた範囲内の他の任意の述べられた値またはその間に存在する値も、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、述べられた範囲内で特に除外された任意の区域は除き、独立したこのより小さな範囲に含まれる可能性がある。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用される単数形の「1つの(a)」、「および(and)」、および「その(the)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数も含む。
【0021】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を持つ。本明細書に記述されるものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施または検証に使用できるが、好ましい方法および材料は以下に記載される。本明細書に言及される全ての刊行物は、それに関連してその刊行物が引用された方法および/または材料を開示および記述するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0022】
本明細書に考察される刊行物は、本発明の出願日以前のその開示のためのみに提供される。本明細書では、先行発明があるためにそのような刊行物に先行する権利がないと認めると解釈することはできない。さらに、提供された刊行日は、実際の刊行日とは異なる可能性があり、これは別個に確認する必要がある可能性がある。
【0023】
αBクリスタリンの「活性」は、このタンパク質が実行する任意の酵素機能または結合機能を意味する。
【0024】
「同等の細胞」は、比較対象の別の細胞のタイプと同一のタイプの細胞を意味する。同等の細胞の例は、同じ細胞株の細胞である。
【0025】
「発現可能な核酸」は、関心対象の核酸および/または関心対象のタンパク質をコードする核酸であって、細胞中に入れると関心対象の核酸またはタンパク質の発現を可能にする、発現ベクター、プラスミド、または他の構築物である核酸を意味する。発現ベクターおよびプラスミドは当技術分野で周知である。
【0026】
疾患の開始の「阻害」は、疾患の開始の可能性を低下させるか、疾患の開始を完全に防止するかのいずれかを意味する。好ましい態様では、疾患の開始の阻害は、その開始を完全に防止することを意味する。本明細書で使用される開始とは、進行中の再発寛解型疾患を持つ患者の再発を意味する場合がある。本発明の方法は、自己免疫疾患の診断を受けた患者に特に適用される。治療は既往の状態の悪化である再発の防止または治療を目的とする。
【0027】
細胞における遺伝子発現の「阻害」は、その遺伝子が発現される程度を低下させるか、そのような発現を完全に防止するかのいずれかである。
【0028】
「核酸」はDNA、RNA、およびそのハイブリッドを含む任意の核酸分子を意味するが、これらに限定されるわけではない。核酸分子を形成する核酸塩基は、塩基A、C、G、T、およびU、ならびにその誘導体であってよい。これらの塩基の誘導体は当業者に周知であり、PCR Systems, Reagents and Consumables (Perkin Elmer Catalogue 1996-1997, Roche Molecular Systems, Inc., Branchburg, N.J., USA)に例示されている。
【0029】
「αBクリスタリン」は、GenBank寄託番号BT006770に規定され、Dubin et al. (1990) Genomics 7:594-601に記述されるmRNA配列によってコードされるヒトタンパク質、その自然に存在する全ての変異体およびホモログ、ならびに本明細書で当てはまる場合はその全ての抗原性断片を意味する。クリスタリンは脊椎動物の眼の水晶体の可溶性タンパク質の約90%を構成し、広範に発現される3つの主なクリスタリンファミリー、α、β、およびγを含む。αBクリスタリンは小さな熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーである。ヒトCRYAB遺伝子は分子量20kDの175アミノ酸のタンパク質をコードする。αクリスタリンサブユニットのαAおよびαBはそれぞれ、それ自身でまたは他方とオリゴマーを形成できる。αA(またはαB)とβB2またはγCクリスタリンとの間の相互作用も報告されているが、αA-αBの相互作用と比較して、相互作用の強度ははるかに低い。NおよびC末端領域が切断された変異体を用いた実験では、αAクリスタリンの自己相互作用にはN末端領域およびC末端領域の両方が重要であるが、αBクリスタリンの自己相互作用には主にC末端領域が重要であることが示された。
【0030】
αBクリスタリンの活性断片は、全長のαBクリスタリンと機能特性または結合特性を共有している。
【0031】
αBクリスタリンのエピトープ断片は、全長のαBクリスタリンに結合するモノクローナル抗体に結合する。
【0032】
「αBクリスタリン関連疾患」は、αBクリスタリンの発現が病因に寄与している任意の疾患を意味する。
【0033】
αBクリスタリンの過剰発現とは、正常な個体の集団における発現の平均プラス1標準偏差よりも高いレベルの発現を意味する。好ましくは、発現レベルは正常な個体の集団の平均の発現レベルの少なくとも10倍である。
【0034】
第1の核酸に関して、核酸に「特異的にハイブリダイズする」とは、第1の核酸が、他の任意の核酸に対するよりも高い親和性で、第2の核酸に対してハイブリダイズすることを意味する。
【0035】
タンパク質の発現を「特異的に阻害する」とは、(a) 他のいずれのタンパク質の発現よりも強く、または (b) 10またはそれ以下の他のタンパク質を除く全てのタンパク質の発現よりも強く、そのタンパク質の発現を阻害することを意味する。
【0036】
「対象」または「患者」はヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット、またはウサギなどの任意の動物を意味する。
【0037】
「適切な条件」とは、この用語が使用される文脈に依存した意味を持つ。すなわち、抗体に関連して用いられる場合は、この用語は抗体が対応する抗原に結合できる条件を意味する。この用語が核酸のハイブリダイゼーションに関して使用される場合は、長さが少なくとも15ヌクレオチドの核酸がそれに相補的な配列を持つ核酸にハイブリダイズできる条件を意味する。薬剤の細胞への接触に関連して使用される場合は、この用語は、そのような能力がある薬剤が、細胞に入りその意図される機能を発揮することができる条件を意味する。1つの態様では、本明細書で使用される「適切な条件」は、生理的な条件である。
【0038】
「炎症性」応答という用語は、液性(抗体が媒介)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物が媒介)応答の発現を指し、これはαBクリスタリンに向けられた成分を含む可能性がある。「免疫原」は、哺乳類へ投与されると、または自己免疫疾患に起因して、それ自身に対する免疫応答を誘導することができる。
【0039】
「裸のポリヌクレオチド」という用語は、コロイド状物質と複合体を作っていないポリヌクレオチドを指す。裸のポリヌクレオチドはプラスミドベクターにクローニングされることがある。
【0040】
「アジュバント」という用語は、抗原と共に投与されると、抗原に対する免疫応答を増強するが、単独で投与されたときには抗原に対する免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントはリンパ球の動員、Bおよび/またはT細胞の刺激、ならびにマクロファージの刺激を含むいくつかの機序によって免疫応答を増強できる。
【0041】
文脈上そうでないことが明白でない限り、本発明の全ての要素、段階、または特徴は、他の要素、段階、または特徴と組み合わせて使用できる。
【0042】
分子および細胞の生化学の一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., Harbor Laboratory Press 2001); Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons 1999); Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996); Nonviral Vectors for Gene Therapy (Wagner et al. eds., Academic Press 1999); Viral Vectors (Kaplift & Loewy eds., Academic Press 1995); Immunology Methods Manual (I. Lefkovits ed., Academic Press 1997); およびCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, John Wiley & Sons 1998)などの標準的教科書に書かれている。本開示で言及されている遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、およびClonTechなどの商業的製造供給元から販売されている。
【0043】
本発明は、本発明の実施に好ましい様式を含むと本発明者らが見出したまたは提唱した特定の態様に関して記述されている。当業者は、本開示を考慮すると、本発明の意図する範囲から離れることなく、例示された特定の態様に数多くの改変および変更を加えることが可能であると理解するだろう。例えば、コドンの冗長性に起因して、タンパク質配列に影響を与えることなく、その下にあるDNA配列に変更を加えることができる。さらに、生物学的機能等価を考慮することで、生物学的作用の種類や量に影響を与えることなく、タンパク質構造に変更を加えることができる。そのような改変は全て添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0044】
本方法は、予防または治療の目的で使用される。本明細書では「治療」という用語は、再発の防止、および既往の状態の治療の両方を指す。例えば、自己免疫疾患の予防は、再発の発生の前に物質を投与することによって達成できる可能性がある。患者の臨床的症状を安定化または改善する、進行中の疾患の治療は、特に関心対象となる。
【0045】
本発明は炎症性疾患の治療方法を提供する。対象となる炎症性疾患には、神経性炎症状態、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルー・ゲーリッグ病等、および多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害等といった脱髄疾患、ならびに関節リウマチなどの炎症性状態が含まれる。本発明の方法は、疾患の開始、進行、または再発を抑制または防止するために、αBクリスタリン活性を提供する薬剤の有効量を対象に投与する段階を含む。
【0046】
本明細書に示されるように、αBクリスタリンは炎症性サイトカインの抑制による炎症性状態の治療において、複数の機能を提供する。さらなる傷害からのCNS細胞の保護;例えば、ニューロンおよび膠細胞前駆細胞が損傷および死の標的となった時のCNS細胞の修復の誘導;T細胞およびマクロファージの増殖の抑制を含む、神経学的恩恵も得られる。
【0047】
いくつかの治療方法においては、αBCの発現を上方制御するために、αBCコード配列が、免疫細胞、神経系の細胞等でありうる細胞に導入される。または、治療的有効量のαBクリスタリンポリペプチド、またはその活性断片または誘導体を対象に投与することにより、対象の自己免疫疾患が治療される。
【0048】
本発明では、本組成物の投与は、当業者に公知の様々な方法および送達系の任意のものを使用して、達成または実施できる。投与は、例えば、静脈内、経口、インプラントを介して、経粘膜、経皮的、筋肉内、髄腔内、および皮下で実行できる。いくつかの日常的に使用される薬学的担体を用いる以下の送達系は、本組成物の投与のために想定される多くの態様の代表的なものに過ぎない。
【0049】
解析および治療される状態
本発明の組成物および方法は、神経性炎症状態、再発性自己免疫状態、および再発性神経性炎症状態を含む、様々な炎症状態と組み合わせて使用される。
【0050】
免疫組織学的および分子生物学的証拠により、脳は免疫応答を持続する能力を持ち、その結果として宿主細胞は傷害を受ける可能性があることが示されてきた。ニューロンは分裂を終了しているので、脳は免疫学的に特権を持つのではなく、特に脆弱である可能性がある。ニューロンは分裂できないため、一旦失われると、補充されない。脳における慢性炎症反応の証拠は、広範に研究されているアルツハイマー病(AD)で特に強力であるが、パーキンソン病(PD)およびALS、ならびに神経性自己免疫疾患、例えば、MS、EAE等、の脳の罹患領域においても局所性の免疫反応が起きている証拠もある。これらの反応には、局所ニューロンおよび膠細胞、ならびに特に常在食細胞(これは脳においては小膠細胞である)による炎症成分が関与している可能性がある。補体系、小膠細胞、および炎症性サイトカインは鍵となる役割を担っていると考えられる。
【0051】
炎症性の神経疾患には、多発性硬化症(MS)が含まれるが、これは寛解および繰り返す増悪を伴う、CNS機能不全の様々な症状および兆候で特徴づけられる。最も一般的な主症状は、1本もしくは複数の肢、体幹、もしくは顔の片側における感覚異常;脚もしくは手の脱力もしくはぎこちなさ;または、例えば、片眼の部分的失明および疼痛(眼球後方の視神経炎)、視界の暗さ、または暗点などの視覚障害である。他の一般的な初期症状は、眼筋麻痺により起きた複視、1本または複数の肢の一過性脱力、1本の手足のわずかなこわばりもしくは異常な易疲労感、わずかな歩行困難、膀胱制御困難、めまい、および軽度の情緒障害であり、いずれも散在性のCNSの関与を示し、往々にして疾患が認識される何ヶ月または何年も前に起きる。過剰な熱は症状および兆候を強調する可能性がある。
【0052】
進行は非常に多様で、予測がつかず、かつ大部分の患者では弛張性である。まず、特に疾患が球後視神経炎から始まる場合には、エピソードの間に何ヶ月または何年も続く寛解があることがある。しかし、患者によっては頻繁な発作を経験し、急速に能力を失うものもいる;一部の患者では経過は急速な進行をたどる(一次進行型MS、PPMS)。再発寛解型MS(RR MS)は、臨床的には、再発および寛解が何ヶ月から何年という単位にわたって起こり、発作の間には神経学的欠損の部分的または完全な回復が見られるという特徴を持つ。そのような患者では、1年間に約1回発作または再発が現れる。10年から20年にわたりRR MSの患者の約50%は二次進行型MS(SP MS)を発現するが、これは発作間の回復が不完全になり、神経学的欠損が蓄積して、その結果障害が増えるという特徴を持つ。
【0053】
診断は、臨床的、放射線(磁気共鳴(MR)スキャンにおける脳の斑)、および度合いは減るものの検査(CSF分析におけるオリゴクローナルバンド)の特徴からの推定により間接的に行われる。典型的な症例は、通常、臨床的な所見から確信を持って診断できる。最初の発作後に、診断が疑われる場合がある。後の、寛解と増悪の病歴、ならびに複数の領域に散在したCNS病変の臨床的証拠は、非常に示唆的である。
【0054】
最も感度の高い画像診断技術であるMRIを用いると斑が見られる場合がある。また、脊髄と延髄の接合部において治療可能な非脱髄性病変(例えば、クモ膜下嚢胞、大後頭孔腫瘍)が検出されることがあり、これはMSに類似した、様々な変動するスペクトルの運動および感覚の症状を時折引き起こす。ガドリニウム造影を行なうと、活動性の炎症領域と陳旧性の脳斑とを区別できる。MS病変は造影CTスキャンでも可視化できる場合がある;感度はヨードの用量を倍にしてスキャンを遅延させると向上することがある(倍量遅延造影CT)。
【0055】
MSの治療にはインターフェロンβ(アボネックス、ベタセロン(Betaseron)、Rebif)、コパキソン(Copaxone)(酢酸グラチラマー)、および抗VLA4(Tysabri、ナタリズマブ)が含まれ、これらは再発率を低下させるが、現在までのところ、疾患の進行にはわずかな影響しか示していない。MSはメチルプレドニゾロン、他のステロイド、メトトレキセート、クラドリビン、およびシクロホスファミドを含む免疫抑制剤でも治療される。抗IFNγ抗体、CTLA-4-Ig(アベタセプト)、抗-CD20(リツキサン)、および他の抗サイトカイン剤などの多くの生物製剤はMSのために臨床開発中である。
【0056】
末梢神経障害にはギラン・バレー症候群(GBS)とそのサブタイプの急性炎症性脱髄性多発神経根障害、急性運動軸索神経障害、急性運動および感覚軸索神経障害、ミラー・フィッシャー症候群、および急性汎自律神経異常症;慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)とそのサブタイプの古典的CIDP、糖尿病を伴うCIDP、CIDP/意味未確定の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)、感覚CIDP、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、多巣性後天性脱髄性感覚および運動神経障害、またはルイス・サムナー症候群、多巣性後天性感覚および運動神経障害、ならびに後天性遠位脱髄性感覚神経障害;IgM単クローン性免疫グロブリン血症とそのサブタイプのヴァルデンストレームマクログロブリン血症、ミエリン関連糖タンパク質関連免疫グロブリン血症、多発性神経障害、臓器肥大症、内分泌障害、M-タンパク質、皮膚変化症候群、混合型クリオグロブリン血症、歩行失調、遅発性多発性神経障害症候群、ならびにMGUSが含まれる。
【0057】
パーキンソン病は特発性の、緩徐進行性の変性性CNS疾患であり、動作の緩慢と低下、筋肉固縮、安静時の振戦、および姿勢不安定により特徴づけられる。診断は臨床的である。治療には、レボドパプとカルビドパ、他の薬剤、および難治性の症状の場合には手術が用いられる。パーキンソン病では、黒質、青斑核の色素性ニューロンおよび他の脳幹のドーパミン作動性細胞群が失われる。尾状核および被殻に突き出る黒質ニューロンの損失は、これらの領域におけるドーパミンを枯渇させる。
【0058】
膜攻撃複合体の全ての成分を含む補体タンパク質の存在は、PDおよび家族性PDの黒質のレヴィー小体および乏突起膠細胞上で細胞内に示されている。そのような乏突起膠細胞は補体に活性化された乏突起膠細胞と記述されている。
【0059】
特発性PDのみならず、家族性PDならびにグアム-パーキンソン痴呆症候群において、黒質および線条体では多くの反応性小膠細胞が観察される。反応性小膠細胞は、PDの6-ヒドロキシドーパミンおよびMPTP動物モデルにおける基底神経節にも観察され、そのような動物モデルでは抗炎症剤がドーパミン作動性神経毒性を阻害するという報告がいくつかある。小膠細胞は、古典的補体カスケードの産物、様々な炎症性サイトカイン、およびPDの黒質に存在することが報告されているクロモグラニンAによって活性化され得る。
【0060】
インターロイキン-1β、インターロイキン-6、およびTNFαのレベルの上昇は、PD患者の基底神経節およびCSFに見られる。TNFαおよび/またはインターロイキン-1βに免疫反応性のある膠細胞の存在も、PD患者の黒質で報告されている。
【0061】
アルツハイマー病は進行性の認知機能の低下を引き起こし、大脳皮質および皮質下の灰白質における老人斑、βアミロイド沈着、および神経原線維変化により特徴づけられる。大部分の症例は孤発性で、遅発性(>60才)であり原因不明である。しかし、5〜15%は家族性であり;これらの症例の半分は早期発症(< 60才)で、典型的には特定の遺伝子変異に関連している。典型的には、細胞外βアミロイド沈着、細胞内神経原線維変化(ペアになったらせん状フィラメント)、および老人斑が発生し、ニューロンが失われる。大脳皮質の萎縮が広く見られ、大脳によるグルコース消費が低下し、頭頂葉、側頭皮質、および前頭前皮質における灌流も低下している。
【0062】
アルツハイマー病(AD)の病的特徴の1つは、アミロイドβタンパク質(Aβ)の細胞外沈着に関連した強固な炎症性応答である。小膠細胞はADにおける炎症性応答に関与する、脳内で優勢な免疫細胞である。インターロイキン-1β、IL-6、および腫瘍壊死因子、ならびに他の神経毒性因子などの炎症性サイトカインの作用による小膠細胞の活性化は、神経変性性過程に寄与している可能性がある。疫学的研究によると、非ステロイド性抗炎症薬により治療された患者ではADのリスクが低下している可能性が示されており、これは炎症が疾患の進行に寄与している可能性を示唆する。
【0063】
筋萎縮性側索硬化症(ALS):ALS(ルー・ゲーリッグ病、シャルコー症候群)は最も一般的な運動神経疾患である。患者には、手(最も一般的)または足の痙攣、脱力、筋萎縮からなる不規則で非対称性の症状が現れる。その後まもなく、線維束性攣縮、痙性、深部腱反射の亢進、伸展性足底反射、ぎこちなさ、動作の硬直、体重減少、疲労、ならびに表情および舌の動きの制御困難が続く。他の症状には、嗄声、嚥下困難、不明瞭な発語、および液体に咽をつまらせる傾向が含まれる。疾患の後期には、不適切、不随意、かつ制御不能な、過剰な笑いまたは泣き(偽延髄麻痺感情)が起きる。死は通常は呼吸筋の機能不全による。
【0064】
実験的証拠は、小膠細胞などの非ニューロン細胞が運動ニューロンの消滅に寄与しているという、ALS神経変性モデルを支持している。疾患の進行の間に、脊髄の小膠細胞が活性化され、炎症を起こしたALS組織内にある近くの高分子および細胞に酸化的傷害を与える能力を獲得する可能性がある。小膠細胞症、NADPHオキシダーゼの上方制御、およびタンパク質のカルボニル化の証拠も、ヒトの孤発性ALS症例の検死の脊髄で観察されており、炎症を介した酸化的傷害の発生も、一般的な非家族性、孤発性のALSの病的顕著な特徴であるという結論を支持する。
【0065】
関節リウマチは、末梢関節の通常は左右対称の炎症によって特徴づけられる慢性の症候群であり、関節および関節周囲の構造の進行性の破壊に進む可能性があり、全身に症状が発現する場合としない場合がある。原因は不明である。遺伝的素因が同定されており、白人集団では、クラスII組織適合性遺伝子のHLA-DRβ1遺伝子座にあるペンタペプチドと突き止められている。環境要因も役割を果たしている可能性がある。免疫的な変化は、複数の要因により開始される可能性がある。全人口の約0.6%は罹患しており、女性が男性の2から3倍である。発病齢はいずれもあり得るが、最も多いのは25才から50才の間である。
【0066】
病因に重要である可能性のある顕著な免疫学的異常には、関節液細胞および脈管炎に見られる免疫複合体が含まれる。形質細胞はこれらの複合体に寄与する抗体を産生する。滑膜組織に浸潤するリンパ球は、主にTヘルパー細胞であり、これは炎症性サイトカインを産生できる。マクロファージおよびそのサイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)も、罹患した滑膜に豊富にある。接着分子の増加は、炎症細胞の遊出および滑膜組織における保持に寄与する。マクロファージ由来の内側を覆う細胞の増加は、いくらかのリンパ球および血管の変化とともに、疾患初期に顕著である。
【0067】
慢性的に罹患した関節では、滑膜の内側を覆う細胞の数およびサイズの増加ならびにリンパ球および形質細胞のコロニー形成のゆえに、正常なら繊細な滑膜が多くの絨毛ひだを発生し、肥厚する。内側を覆う細胞は、軟骨破壊に寄与し得るコラゲナーゼおよびストロメライシン;リンパ球の増殖を刺激するインターロイキン-1;ならびにプロスタグランジンを含む様々な物質を産生する。浸潤細胞は、最初は細静脈周囲であるが後に胚中心とリンパ濾胞を形成し、インターロイキン-2、他のサイトカイン、RF、および他の免疫グロブリンを合成する。フィブリン沈着、線維化、および壊死も存在する。肥厚性滑膜組織(パンヌス)は、軟骨、軟骨下骨、関節包、および靭帯を侵食することがある。PMNは滑膜には顕著ではないが、往々にして滑液で優勢である。
【0068】
発病は通常潜行性で、進行性に関節が関与するが、急速な場合もあり、同時に複数の関節が炎症を起こす場合もある。ほぼ全ての炎症を起こした関節における圧痛は、最も感度の高い肉体的所見である。最も特異的な肉体的所見である滑膜の肥厚は、最終的に大部分の関与する関節に起きる。小さな手関節(特に近位指節間関節および中手指節関節)、足関節(中足指節関節)、手首、肘、および足首の対象的関与が典型的であるが、最初の発現はいずれの関節にも起こり得る。
【0069】
SLE。全身性エリテマトーデス(SLE)はポリクローナルB細胞の活性化により特徴づけられる自己免疫疾患であり、結果として様々な抗タンパク質および非タンパク質自己抗体が生じる(疾患の総説についてはKotzin et al., (1996) Cell 85: 303-306を参照されたい)。これらの自己抗体は免疫複合体を形成して、複数の臓器系に沈着して組織の傷害を生じる。SLEは研究が困難な疾患であり、増悪および寛解で特徴づけられる変動する経過をたどる。例えば、一部の患者は主に皮膚の発疹および関節痛を示し、自然寛解し、薬剤はほとんど必要ない。スペクトルの逆の端には、重症で進行性の腎臓の関与(糸球体腎炎)を示し、高用量のステロイドおよびシクロフォスファミドなどの細胞毒性のある薬剤を必要とする患者が含まれる。
【0070】
SLEの進行には複数の要因が寄与する。組織適合性抗原HLA-DR2およびHLA-DR3を含むいくつかの遺伝子座が感受性に寄与している。この遺伝的素因の多遺伝子性の性質、および環境因子の寄与は、一卵性双生児で25〜60%の間という中程度の一致が見られることにより示唆される。
【0071】
自己抗体産生の起源については、多くの原因が示唆されてきた。T細胞が抗dsDNA抗体の分泌を助けるという提唱された機序には、T細胞による、ヒストンなどのDNA結合タンパク質抗原の認識、およびクラスII MHCと結合した抗DNA抗体由来ペプチドの認識が含まれる。抗体のクラスも要因となっている可能性がある。NZB/NZWマウスの遺伝性狼瘡では、陽イオン性IgG2a抗2本鎖(ds) DNA抗体は病原性である。これらのマウスにおけるIgMからIgGへの自己抗体分泌の移行は、約6か月齢で起き、T細胞はIgG産生の調節に重要な役割を果たしている可能性がある。
【0072】
疾患の発現は、免疫複合体の沈着、白血球性血栓、または血栓のために繰り返す血管損傷の結果として起きる。さらに、細胞障害性抗体は、自己免疫性溶血性貧血および血小板減少症を媒介する可能性があり、特定の細胞性抗原に対する抗体は、細胞の機能を乱す可能性がある。後者の例は、抗ニューロン抗体と神経精神病的SLEの間の関連である。
【0073】
アテローム性動脈硬化症。アテローム斑は、蓄積した細胞内および細胞外脂質、平滑筋細胞、結合組織、ならびにグリコサミノグリカンからなる。マクロファージはアテローム性動脈硬化症の発生に不可欠である。修飾または酸化されたLDLは単球にとって走化性であり、単球の内膜への移動、脂肪線条における早期の出現、ならびにマクロファージへの転換および内膜下区画でのその保持を促進する。マクロファージ表面のスカベンジャー受容体は、これらの細胞への酸化LDLの取り込みを促進し、これを脂質の多いマクロファージと泡沫細胞に移す。酸化LDLも内皮細胞に対して細胞毒性を持ち、より進行した病変でのその機能不全または損失に関与している可能性がある。
【0074】
慢性的内皮損傷の仮説は、様々な機序による内皮の損傷は、内皮の損失、内皮下層への血小板の接着、血小板の凝集、単球およびT細胞リンパ球の走化性、ならびに血小板由来および単球由来の成長因子の放出を引き起こし、これにより平滑筋細胞の中膜から内膜への移動が誘導され、そこで複製が起こり、結合組織とプロテオグリカンが合成され、線維性斑が形成されると仮定する。他の細胞、例えば、マクロファージ、内皮細胞、動脈平滑筋細胞も、平滑筋の肥厚および細胞外マトリックスの産生に寄与し得る成長因子を産生する。
【0075】
内皮の機能不全には、リポタンパク質および他の血漿成分に対する内皮の透過性の上昇、接着分子の発現、ならびに単球、マクロファージ、およびTリンパ球の接着の増加を誘導する成長因子の生産が含まれる。これらの細胞は、内皮を通過して、内皮下層に入り込むことができる。泡沫細胞も、平滑筋細胞の移動を促進し新生内膜の増殖を刺激する成長因子およびサイトカインを放出し、脂質の蓄積を継続し、かつ内皮細胞の機能不全を支持する。臨床および実験室の研究では、アテロームの開始、進行、および不安定化に炎症が主要な役割を果たしていることが示されている。
【0076】
「自己免疫」仮説は、アテローム性動脈硬化症の最初の段階に特徴的な炎症性免疫学的過程は、内因性抗原に対する液性および細胞性免疫反応によって開始されると仮定する。ヒトHsp60の発現そのものは、高血圧などのアテローム性動脈硬化症のリスク因子であることが公知のいくつかのストレス因子によって惹起された損傷に対する応答である。酸化LDLはアテローム性動脈硬化症の自己抗原の別の候補である。oxLDLに対する抗体は、アテローム性動脈硬化症の患者で検出されており、アテローム病変に見つかっている。ヒトのアテローム病変から単離したT細胞は、oxLDLに応答し、細胞性免疫応答における主要な自己抗原であることが示されている。アテローム性動脈硬化症に関連すると提唱されている第3の自己抗原は、2-グリコプロテインI(2GPI)であり、これはインビトロで抗凝固剤として作用する糖タンパク質である。2GPIはアテローム斑に見つかり、2GPIによる超免疫化または2GPI反応性T細胞の移入は、アテローム性動脈硬化症になりやすいトランスジェニックマウスにおいて、脂肪線条の形成を増強した。
【0077】
感染は、炎症および自己免疫の両方を誘導することによりアテローム性動脈硬化症の発達に寄与する可能性がある。多数の研究が、アテローム性動脈硬化症におけるウイルス(サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、A型肝炎)および細菌(クラミジア肺炎病原体(C. pneumoniae)、ヘリコバクターピロリ(H. pylori)、歯周病原体)の両方の感染因子の役割を示してきた。最近、新しい「病原体負荷」仮説が提唱されたが、これは複数の感染因子がアテローム性動脈硬化症に寄与し、感染により与えられる心血管疾患のリスクは、個体が曝露した病原体の数に関連していることを示唆する。単一の微生物では、クラミジア肺炎病原体はおそらくアテローム性動脈硬化症と最強の関連を持っている。
【0078】
これらの仮説は深いつながりがあり、相互排除的ではない。修飾されたLDLは培養内皮細胞に対して細胞毒性を持ち、内皮の損傷を誘導し、単球およびマクロファージを引きつけ、かつ平滑筋の成長を誘導する可能性がある。修飾されたLDLはマクロファージの移動性も阻害し、そのため一旦マクロファージが内皮下腔で泡沫細胞に転換するとそこで動けなくなる可能性がある。さらに、再生する内皮細胞(損傷後)は、機能的に損なわれており、血漿からのLDLの取り込みが増加している。
【0079】
アテローム性動脈硬化症は、決定的な狭窄、血栓症、動脈瘤、または塞栓が続発するまで潜伏性であるという特徴がある。最初は、症状および兆候は、例えば、運動時狭心症、間欠性跛行など、患部組織への血流が需要とともに増加することができないことを反映する。一般に、症状および兆候は、アテロームが血管内腔をゆっくりと侵害するにつれ、徐々に進行する。しかし、主要な動脈が急性閉塞を起こすと、症状および兆候は劇的である場合がある。
【0080】
現在、適切な診断戦略がないため、冠動脈疾患の患者の半分以上では、最初の臨床所見は心筋梗塞または死亡である。予防および治療の更なる進歩は、アテローム性疾患の病因の基礎である、血管壁における一次性炎症過程に注目した戦略の開発に依存する。
【0081】
治療薬
本発明の1つの態様では、αBクリスタリン活性の調節物質、例えば、αBCポリペプチド、αBCをコードする核酸、および同様なものは、関節リウマチを含む炎症性疾患、およびMSなどの脱髄性自己免疫疾患の治療に使用される。
【0082】
本発明の方法で使用され得るαBクリスタリンポリペプチドは、αBクリスタリンタンパク質またはその修飾物のアミノ酸を少なくとも約50アミノ酸、通常は少なくとも約100アミノ酸、少なくとも約150アミノ酸、少なくとも約160アミノ酸、少なくとも約170アミノ酸を含み、最高で175アミノ酸まで含む可能性があり、提供された配列に加えて、当業者に公知の融合ポリペプチドもさらに含む可能性がある。αBクリスタリン配列は、任意の哺乳類または鳥類、例えば、霊長類、特にヒト;マウス、ラットおよびハムスターを含む齧歯類;ウサギ;ウマ、ウシ、イヌ、ネコ;等でよい。特に関心対象となるのはヒトのタンパク質である。
【0083】
本発明のいくつかの態様では、αBCタンパク質、またはその機能的断片は、患者に投与される。本発明で有用なαBCポリペプチドは、誘導体、変異体、および天然に存在するαBCポリペプチドの生物学的に活性な断片、および同様なものを含む。「変異体」ポリペプチドとは、天然の配列を持つポリペプチドと100%未満の配列の同一性を持つ、以下に定義される生物学的に活性なポリペプチドを意味する。そのような変異体は、天然の配列のNもしくはC末端、またはその中に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチド;約1から40アミノ酸残基が欠失したポリペプチドであって、1つまたは複数のアミノ酸残基が置換されていても良いポリペプチド;および上記ポリペプチドの誘導体であって、アミノ酸残基が共有結合により修飾されており、得られた産物が天然に存在しないアミノ酸であるもの、を含む。通常は、生物学的活性のある変異体は、天然の配列を持つポリペプチドと少なくとも90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約99%のアミノ酸配列の同一性を持つ。
【0084】
上述のαBクリスタリンの配列は、当技術分野において公知の様々な様式で改変し、配列中に標的を定めた変更を生成することができる。配列の変更は、置換、挿入または欠失であってよい。そのような改変は、安定性、特異性等に影響を与えることによりタンパク質の性質を改変するために用いられる可能性がある。クローニングされた遺伝子のインビトロ突然変異生成の技術は公知である。変異の探査のプロトコールの例は、Gustin et al., Biotechniques 14:22 (1993); Barany, Gene 37:111-23 (1985); Colicelli et al., Mol Gen Genet 199:537-9 (1985); およびPrentki et al., Gene 29:303-13 (1984)に見出される。位置指定突然変異導入の方法は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press 1989, pp. 15.3-15.108; Weiner et al., Gene 126:35-41 (1993); Sayers et al., Biotechniques 13:592-6 (1992); Jones and Winistorfer, Biotechniques 12:528-30 (1992); Barton et al., Nucleic Acids Res 18:7349-55 (1990); Marotti and Tomich, Gene Anal Tech 6:67-70 (1989); およびZhu Anal Biochem 177:120-4 (1989)に見出される。
【0085】
ペプチドは、様々な目的のために、広範囲の他のオリゴペプチドまたはタンパク質と結合できる。本ペプチドの発現を提供することにより、様々な発現の修飾が可能になることがある。例えば、適切なコード配列を利用することにより、ファルネシル化またはプレニル化が提供できる可能性がある。ペプチドはPEG化されていても良く、ここでポリエチレンオキシ基は血流中の寿命を延長する。ペプチドは、融合タンパク質中で他のタンパク質と組み合せる、典型的にはここで2つのタンパク質は、IgGアイソタイプのFcのように通常は結合していないが結合を補完する可能性がある;リシン、アブリン、ジフテリア毒素、および同様なものなどの毒素と組み合せる;または標的細胞上の特異的な部分にターゲティングできるように特異的な結合剤と組み合せることができる。
【0086】
αBCは別のポリペプチドと融合させて付加的機能を提供する、例えば、インビボでの安定性を増加することができる。一般にそのような融合パートナーは安定な血漿タンパク質であり、例えば、融合タンパク質として存在すると、特にそのような安定な血漿タンパク質が免疫グロブリンの定常領域である場合には、αBCのインビボでの血漿中の半減期を延長する可能性がある。
【0087】
大部分の場合、安定な血漿タンパク質は通常は多量体の形で見られ、例えば、免疫グロブリンまたはリポタンパク質、ここでは同一または異なるポリペプチド鎖が通常はジスルフィド結合および/または共有結合して、集合した複数鎖のポリペプチドを形成するが、この点でαBCを含む融合タンパク質も、安定した血漿タンパク質前駆体と実質的に同一の構造を持つ多量体として産生および利用される。これらの多量体に含まれているαBCは均一であるか、または複数のαBCが含まれている可能性がある。
【0088】
安定な血漿タンパク質は典型的には約30から2,000残基を持つタンパク質であって、その天然の環境では、血液循環中で長い半減期、すなわち、約20時間以上を持つ。適当な安定な血漿タンパク質の例は、免疫グロブリン、アルブミン、リポタンパク質、アポリポタンパク質、およびトランスフェリンである。αBCは典型的には、血漿タンパク質、例えば、IgGに、血漿タンパク質またはαBCに半減期の延長を与える能力のあるその断片の、N末端で融合する。αBCの血漿半減期が約100%以上増加すれば満足できる。通常は、αBCのC末端が、免疫グロブリンの定常領域のN末端に、可変領域の代わりに融合されるが、N末端の融合タンパク質も使用できる可能性がある。
【0089】
典型的には、そのような融合タンパク質は、免疫グロブリンのH鎖の定常領域の少なくとも機能的に活性なヒンジ、CH2、およびCH3領域を保持しているが、そのようなH鎖にはIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、およびIgD、IgGクラスのタンパク質の1つまたは組み合せが含まれる可能性がある。融合タンパク質は、定常領域のFc部分のC末端、またはH鎖のCH1もしくはL鎖の対応する領域のすぐN末端にも作製できる。これは通常は、適当なDNA配列を作製して、組換え細胞培養中で発現させることにより達成できる。または、ポリペプチドは公知の方法にしたがって合成しても良い。
【0090】
融合タンパク質を作製する部位は、αBCの生物学的活性、分泌、または結合特性を最適化するために選択できる。いくつかの態様では、融合タンパク質は抗体によって認識されるαBCの免疫エピトープを含む。最適な部位は、通常の実験で決定される。
【0091】
いくつかの態様では、ハイブリッドの免疫グロブリンは、単量体、またはヘテロもしくはホモ多量体として、および特に2量体もしくは3量体として集合する。一般に、これらの集合した免疫グロブリンは公知のユニット構造を持つ。基本の4つの鎖の構造ユニットは、IgG、IgD、およびIgEが存在する形態である。4鎖ユニットは、分子量がより大きい免疫グロブリンでも繰り返される;IgMは一般に4鎖ユニットをジスルフィド結合で合わせた5量体として存在する。IgA免疫グロブリン、および時にはIgG免疫グロブリンも、血清中では多量体の形で存在する場合がある。多量体の場合には、各4つの鎖は同一でも異なっても良い。
【0092】
本方法で使用するαBクリスタリンは、真核細胞もしくは原核細胞で産生、またはインビトロで合成することができる。タンパク質が原核細胞で産生される場合は、折畳みの展開、例えば、熱変性、DTT還元等を行なうことにより加工し、当技術分野で公知の方法を用いてさらに再折畳みを行なっても良い。
【0093】
一次配列を改変しない関心対象の修飾には、ポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アシル化、アセチル化、カルボキシル化、アミド化等が含まれる。グリコシル化の修飾、例えば、合成および加工の間にポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによる、または更なる加工プロセス;例えば、哺乳類のグリコシル化もしくは脱グリコシル化酵素などのグリコシル化に影響を与える酵素にポリペプチドを曝露することによるグリコシル化の修飾も含まれる。また、リン酸化アミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホスレオニン、を含む配列も含まれる。
【0094】
タンパク質分解に対する抵抗性を改善する、または溶解性を最適化する、または治療薬としてより適切にするために、通常の分子生物学技術および合成化学を用いて修飾されたポリペプチドも、本発明に含まれる。そのようなポリペプチドのアナログには、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸、または天然に存在しない合成アミノ酸を含むポリペプチドがある。D-アミノ酸はアミノ酸残基の一部または全てを置換する可能性がある。
【0095】
本ポリペプチドは、当技術分野で公知の従来法を用いてインビトロで合成することによって調製できる。様々な合成装置が市販されており、例えば、Applied Biosystems, Inc.、Foster City、CA、Beckman等の自動合成装置がある。合成装置を使用することにより、天然に存在するアミノ酸を天然ではないアミノ酸で置き換えることができる。特定の配列および調製の様式は、利便性、経済性、必要な純度、および同様なものによって決定される。
【0096】
必要に応じて、合成または発現の際に様々な基をペプチドに導入でき、それにより他の分子または表面に連結することが可能になる。したがってチオエーテルを作製するためにシステイン、金属イオン錯体を作製するためにヒスチジン、アミドまたはエステルを形成するためにカルボキシル基、アミドを形成するためにアミノ基、および同様なものを用いることができる。
【0097】
ポリペプチドは組換え合成の従来の方法にしたがって単離および精製してもよい。発現宿主から溶解液を調製し、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、または他の精製技術を用いて溶解液を精製することができる。大部分の場合、産物の調製および精製の方法に関連する不純物と比較して、使用される組成物の重量の少なくとも20%は所望の産物であり、より一般的には重量の少なくとも約75%、好ましくは重量の少なくとも約95%、および治療の目的では通常、重量の少なくとも約99.5%である。通常は、パーセントはタンパク質の総量に基づく。
【0098】
本発明の1つの態様では、αBクリスタリンポリペプチドは基本的に、長さが少なくとも175アミノ酸で、上記のαBクリスタリンの配列を持つポリペプチド配列からなる。本明細書に記載されるポリペプチドの文脈において「基本的に〜からなる」というのは、ポリペプチドはαBクリスタリン配列から構成されるが、この配列は、ポリペプチドの基本的特性に重大な影響を与えない1つまたは複数のアミノ酸または他の残基に隣接されていてもよいことを意味する。
【0099】
本発明はαBクリスタリンポリペプチドをコードする核酸を含む。上記のαBクリスタリンポリペプチドをコードする核酸配列は、公的データベースでアクセスすることができる。更なるαBクリスタリンは、DNAライブラリーまたは生体試料を用いて、公知のαBクリスタリン配列に高度に類似したDNA配列を従来の方法でスクリーニングして同定できる。関心対象のポリヌクレオチドは基本的に、αBクリスタリンタンパク質のアミノ酸を少なくとも約50アミノ酸、通常は少なくとも約100アミノ酸、少なくとも約150アミノ酸、少なくとも約160アミノ酸、少なくとも約170アミノ酸を含み、最高で175アミノ酸まで含む可能性があるポリペプチド配列を含むポリペプチドをコードするものを含む。そのようなポリヌクレオチドは、例えば転写開始、停止、翻訳、プロモーター等の制御配列に機能的に連結していても良い。ポリヌクレオチドは融合ポリペプチド配列と結合したαBクリスタリンコード配列も含む。
【0100】
αBクリスタリンコード配列は、当技術分野で公知の方法、例えば、インビトロ合成、組換え法、により、αBクリスタリンペプチドの生産の中間体となり得るαBクリスタリンポリペプチドに対応するコード配列を提供することにより、作製できる。公知の遺伝コードを用いて、適当なコード配列が生産できる。2本鎖または1本鎖断片は、DNA配列から、従来法に従ったオリゴヌクレオチドの化学合成、制限酵素消化、PCR増幅等によって得られる。
【0101】
αBクリスタリンをコードする核酸は、線状分子として、または環状分子として提供でき、自己複製する分子(ベクター)内部で、または複製配列のない分子内で提供できる。核酸の発現は、それ自身、または当技術分野で公知の他の調節配列によって、調節される。核酸は、トランスフェリンポリカチオンを介したDNA移入、裸のまたは封入された核酸のトランスフェクション、リポソームを介したDNA移入、DNAコートラテックスビーズの細胞内輸送、プロトプラスト融合、ウイルス感染、エレクトロポレーション、電子銃、リン酸カルシウムを介したトランスフェクション、および同様なものなどの、当技術分野で利用できる様々な技術を用いて、適当な宿主細胞に導入できる。
【0102】
発現ベクターを用いて、αBクリスタリンコード配列を細胞に導入できる。そのようなベクターは、通常は、核酸配列の挿入のために、プロモーター配列の近くに好都合な制限部位を持っている。転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製できる。転写カセットは、様々なベクター、例えば、プラスミド;レンチウイルスなどのレトロウイルス;アデノウイルス;および同様なものに導入でき、ベクターは少なくとも約1日、より一般的には少なくとも約数日から数週間の間、細胞内で一時的または安定的に維持されることができる。
【0103】
核酸は、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞の融合を含む、任意の経路によって、組織または宿主に導入できる。Furth et al. (1992) Anal Biochem 205:365-368に記述されるように、筋肉内投与にはジェットインジェクションも使用できる。文献(例えば、Tang et al. (1992) Nature 356:152-154を参照されたい)に記述されるように、DNAを金の微粒子上にコーティングし、粒子ボンバードメント装置または「遺伝子銃」によって皮内に送達することができ、ここでは金の微小発射物をαBクリスタリンまたはDNAでコーティングし、その後、皮膚細胞内に衝突させる。
【0104】
併用により相加的または相乗的恩恵が提供される併用療法も提供される。コルチコステロイドおよび疾患修飾薬を含む、自己免疫疾患の抗原非特異的治療で一般的に使用される1つまたは複数の一般的クラスの薬剤から;または抗原特異的薬剤から選択された第2の物質と、αBクリスタリンを併用することができる。コルチコステロイドは作用発現時間が短いが、多くの疾患修飾薬は、臨床効果を示すまでに数週間または数ヶ月かかる。これらの薬剤には、メトトレキセート、レフルノミド(Arava(商標))、エタネルセプト(Enbrel(商標))、インフリキシマブ(Remicade(商標))、アダリムマブ(Humira(商標))、アナキンラ(Kineret(商標))、リツキシマブ(Rituxan(商標))、CTLA4-Ig(アバタセプト)、抗マラリア薬、金塩、スルファサラジン、d-ペニシラミン、シクロスポリンA、シクロホスファミドアザチオプリン;および同様なものが含まれる。
【0105】
コルチコステロイド、例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、ソルメドロール等は、抗炎症および免疫調節活性の両方を持つ。これらは全身投与または局所注射が可能である。コルチコステロイドは、疾患修飾薬がその効果を発揮するまで待つ間に、一時的な補助療法として疾患初期に有用である。コルチコステロイドは、重症の疾患の患者において、慢性的な補助療法としても有用である。
【0106】
疾患修飾抗リウマチ薬DMARDは、RAにおいて疾患の経過を改変し、X線検査上の転帰を改善することが示されている。当業者は、これらの薬は他の自己免疫疾患の治療にも使用されることを理解するだろう。
【0107】
メトトレキセート(MTX)は短い作用発現時間(4〜6週間)、良好な有効性、好ましい毒性プロファイル、投与の容易さ、および低いコストのために、往々にしてファーストラインとして使用される。MTXは5年後にも患者の大部分が継続して使用している唯一の従来型DMARDである。MTXはRAの兆候および症状の低下、ならびにX線検査上の傷害の遅延または停止に有効である。MTXの免疫抑制効果および細胞毒性効果は、部分的にはジヒドロ葉酸還元酵素の阻害によるものであるが、関節リウマチにおける抗炎症効果は、少なくとも一部はアデノシンおよびTNF経路の妨害に関連していると考えられる。作用発現時間は4〜6週間で、患者の70%は何らかの応答を示す。3〜6ヶ月の試験が示唆されている。
【0108】
抗原特異的治療法には、抗原またはエピトープ特異的治療薬の投与が含まれる。MSでは、αBクリスタリンを標的とする自己抗体(図5)はαBCの保護的免疫阻害効果をブロックし、疾患の重症度を増悪する可能性がある。その結果、1つの重要な治療アプローチは、αBクリスタリンに対する抗原特異的寛容を誘導し、αBクリスタリンに対する自己反応性T細胞および自己抗体応答を低下させることである。αBクリスタリンに対する自己抗体の低下は、(i) ミエリン鞘に対する自己免疫による傷害を低下させ、かつ (ii) この負の調節因子が病的な免疫応答および組織破壊を阻害することを可能にして、MSにおいて恩恵を提供すると考えられる。
【0109】
免疫寛容を誘導する1つの方法は、寛容化DNAワクチン(Garren et al. (2001) Immunity, 15:15-22; Robinson et al. (2003) Nature Biotechnology 21:1033-9)である。寛容化DNAワクチンは、哺乳類細胞においてコードされたcDNAの発現に必要な調節領域を含むDNAプラスミドであり、コードされたエピトープに対する免疫寛容を誘導するために、αBクリスタリンの全体または一部をコードするcDNA配列を含むように操作できる。そのようなプラスミドが免疫寛容を誘導する能力を増強するために、プラスミドベクターの免疫刺激性CpG配列(Krieg et al. (1998) Trends Microbiol. 6:23-27)の数を減らす、またはこれを完全に除去することができる。さらに、免疫阻害性GpG配列をベクターに加えることもできる(Ho et al. (2005) J. Immunology, 175:6226-34を参照されたい)。αBクリスタリンをコードする寛容化DNAプラスミドは、αBクリスタリンに対する免疫寛容を誘導するために、筋肉内に送達され、それにより抗αBクリスタリンT細胞および自己抗体応答を減少させて、ミエリン鞘の自己免疫性破壊を減少させ、かつαBクリスタリンの保護効果をブロックする自己抗体を減少させる。
【0110】
別の方法として、またはDNA寛容に加えて、自己免疫を治療するために抗原特異的寛容を誘導するために、特異的ペプチド、改変したペプチド、またはタンパク質を治療のために投与することができる。自己免疫応答によって標的とされる天然のペプチドは、抗原特異的寛容を誘導するために送達できる(Science 258:1491-4)。天然のペプチドは、免疫寛容を誘導するために静脈内に投与された(J Neurol Sci. 152:31-8)。天然のペプチドから改変されたペプチドの送達も、当技術分野で公知である。鍵を握る残基の選択的な変更による天然ペプチドの改変は(改変したペプチドリガンドまたは「APL」)、抗原特異的な自己反応性T細胞に非応答性を誘導する、またはその応答性を変更できる。別の態様では、自己免疫病の治療のために、自己免疫応答で標的となるタンパク質抗原全体を送達して、免疫寛容を回復できる(Science 263:1139)。
【0111】
薬学的組成物
活性ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、上記の様々な疾患の治療のために調合した薬学的組成物の活性成分として働き得る。活性成分は、薬学的な有効量で存在する、すなわち、投与されたときに、疾患またはそれが媒介する医学的状態を治療するために、標的タンパク質またはポリペプチドの効果を実質的に調節するのに充分な量で存在する。該組成物は、送達および有効性を増強するための、例えば、活性成分の送達および安定性を増強するための、様々な他の物質も含み得る。
【0112】
したがって、例えば、組成物は、望ましい剤形によって、薬学的に許容される、非毒性担体または希釈剤も含む可能性があり、これは動物またはヒトへの投与のための薬学的組成物を調合するために一般的に使用されるビヒクルと定義される。希釈剤は、混合物の生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、緩衝液、生理食塩水、PBS、リンゲル溶液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。また、薬学的組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫原性安定剤、賦形剤、および同様なものを含み得る。組成物は、生理的状態に近づけるために、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤、湿潤剤、ならびに界面活性剤などの、別の物質も含み得る。組成物は、抗酸化剤などといった、様々な安定化剤の任意のものも含み得る。
【0113】
薬学的組成物が活性成分としてポリペプチドを含むときは、該ポリペプチドは該ポリペプチドのインビボでの安定性を増強する、または他の様式でその薬学的特性を増強する(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する、その毒性を低下する、溶解性または取り込みを増強する)、様々な周知の化合物と複合体を形成することができる。そのような修飾または複合体形成剤の例には、硫酸塩、グルコン酸塩、クエン酸塩、およびリン酸塩が含まれる。組成物のポリペプチドは、インビボの属性を増強する分子と複合体を形成することもできる。そのような分子には、例えば、炭化水素、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)、および脂質が含まれる。
【0114】
様々なタイプの投与に適した製剤に関する更なる手引は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、17th ed. (1985)に見出され得る。薬剤送達のための方法の簡単な総説は、Langer, Science 249:1527-1533 (1990)を参照されたい。
【0115】
薬学的組成物は、予防および/または治療のために投与できる。活性成分の毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療有効性のある用量)の決定を含め、細胞培養および/または実験動物における標準的な薬学的手順に従って決定できる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、LD50/ ED50という比で表現できる。治療指数の大きい化合物が好ましい。
【0116】
細胞培養および/または動物試験から得られたデータは、ヒトへの投薬量の範囲を計算する際に使用できる。活性成分の投薬量は、典型的には、ED50を含むが毒性はほとんどまたは全くない循環濃度の範囲内にある。投薬量は、採用する剤形および利用する投与経路に依存して、この範囲内で変動し得る。
【0117】
本明細書に記述される薬学的組成物は、様々な異なる方法で投与できる。例には、薬学的に許容できる担体を含む組成物を、経口、経鼻、直腸、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、髄腔内、または頭蓋内の方法で投与することが含まれる。
【0118】
経口投与のためには、活性成分はカプセル、錠剤、および粉末などの固形の剤形、またはエリキシル、シロップ、および懸濁液などの液体の剤形で投与できる。活性成分は、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、でんぷん、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどの不活性な成分および粉末の担体と共にゼラチンカプセルに封入できる。望ましい色、味、安定性、緩衝能力、分散度または他の公知の望ましい特徴を提供するために添加できる更なる不活性成分の例は、弁柄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、および食用白インクである。同様の希釈剤を用いて、圧縮錠を作製できる。錠剤およびカプセルのいずれも、何時間にもわたる薬剤の継続的な放出を提供するために、持続性製剤として生産できる。圧縮錠は、不愉快な味を隠し、大気から錠剤を守るために糖衣錠もしくはフィルムコート錠、または胃腸管で選択的に崩壊するように腸溶剤であり得る。経口投与のための液体製剤は、患者による受容を良くするために、着色料または香味料を含むことがある。
【0119】
活性成分は、単独でまたは他の適当な成分と組み合わせて、吸入による投与のために、エアロゾル製剤にしてもよい(すなわち、「噴霧化」してもよい)。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などといった加圧された許容される噴霧剤中に入れることができる。
【0120】
直腸投与に適した製剤には、例えば、座薬基剤と共に詰められた活性成分を含む座薬が含まれる。適当な座薬基剤には、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン属炭化水素が含まれる。さらに、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン属炭化水素を含む基剤と詰められた活性成分の組み合せを含む、ゼラチン直腸用カプセルを用いることも可能である。
【0121】
例えば、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下の経路などの非経口投与に適当な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤、および製剤を意図される受容者の血液と等張にする溶質を含み得る、水性および非水性の等張無菌注射液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存料を含み得る、水性および非水性無菌懸濁液が含まれる。
【0122】
薬学的組成物を調合するために使用される成分は、好ましくは高純度であり、有害な可能性のある汚染物質は実質的に含まない(例えば、少なくともNational Food (NF)グレード、一般的に少なくとも分析グレード、およびより典型的には少なくとも医薬品グレード)。さらに、インビボでの使用が意図される組成物は、好ましくは無菌である。使用の前に所与の化合物が合成される必要がある限りにおいて、得られる産物は好ましくは、合成または精製過程で存在する可能性のある任意のエンドトキシンなどのいかなる潜在的な毒性物質も、実質的に含まない。非経口投与のための組成物も、好ましくは無菌で、実質的等張であり、GMP条件下で製造される。
【0123】
αBクリスタリン発現の調節
αBクリスタリン遺伝子、遺伝子断片、またはコードされるタンパク質もしくはタンパク質断片は、炎症性疾患の治療のための遺伝子療法に有用である。発現ベクターは、αBクリスタリンコード配列を細胞に導入するために使用できる。そのようなベクターは一般に、核酸配列の挿入に備えるために、プロモーター配列の近くに好都合な制限部位を持っている。転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製することができる。転写カセットは様々なベクター、例えば、プラスミド;レンチウイルスなどのレトロウイルス;アデノウイルス;および同様のものに導入でき、そこでベクターは細胞中で、通常は少なくとも約1日、より好ましくは少なくとも約数日から数週間の間、一時的または安定的に維持されることができる。
【0124】
遺伝子は、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞の融合を含む任意のいくつかの方法によって、組織または宿主細胞に導入できる。Furth et al. (1992) Anal Biochem 205:365-368によって記述されたように、筋肉内投与にはジェットインジェクションも使用できる。DNAを金の微粒子上にコーティングし、文献(例えば、Tang et al. (1992) Nature 356:152-154を参照されたい)に記述されるように、粒子ボンバードメント装置または「遺伝子銃」によって皮内に送達しても良く、ここでは金の微小発射物はDNAでコーティングされ、皮膚細胞に衝突される。
【0125】
治療方法
αBC組成物は、炎症性疾患の重症度を低下させるために充分な期間にわたり、1回の投与または複数回の投与で、通常は、例えば毎日、隔日、毎週、隔週、毎月等の一定期間をかけた複数回投与で投与でき、これは1、2、3、4、6、10、またはそれ以上の投与回数を含む可能性がある。
【0126】
αBC活性を提供する薬剤の治療または予防に有効な量の決定は、通常のコンピュータ法を用いて動物データに基づいて可能である。1つの態様では、治療または予防に有効な量は、約0.1 mg〜約1 gの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。別の態様では、有効な量は、約1 mg〜約100 mgの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。さらに別の態様では、有効な量は、約10 mg〜約50 mgの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。有効な投与量は、少なくとも一部は、投与経路に依存する。薬剤は、経口で、エアロゾルスプレーで;例えば、筋肉内、皮下、腹腔内、静脈内等の注射で、投与できる。いくつかの態様では、静脈内以外の投与方法が好ましい。用量は、約0.1μg/kg患者体重から;約1μg/kg;約10μg/kg;約100μg/kgまでであり得る。
【0127】
αBC組成物は薬学的に許容される賦形剤中で投与される。「薬学的に許容される」という用語は、製薬および獣医学の技術分野で使用するために許容される賦形剤であって、毒性でもそれ以外の許容されないものでもないことを指す。薬学的製剤中の本発明のαBC組成物の濃度は、大きく変動する可能性があり、すなわち、重量で約0.1%未満から、通常は約2%または少なくとも約2%から、20%から50%またはそれ以上までである可能性があり、選択された特定の投与様式にしたがって、主に液体の容積、粘性等によって選択される。
【0128】
疾患または障害の治療、処置または治療法とは、αBC組成物の投与によって、疾患の進行を遅らせる、停止させる、または逆行させることを意味する。好ましい態様では、疾患を治療することは、疾患の進行を、理想的には疾患そのものを除去する程度まで、逆行させることである。本明細書では、疾患を寛解させることと、疾患を治療することは同等である。本発明の文脈で使用される疾患または障害の予防または予防法とは、疾患もしくは障害、もしくは疾患もしくは障害の一部もしくは全ての症状の、発生もしくは発病を防止するために、または、疾患もしくは障害の発病の可能性を低下させるために、αBC組成物を投与することを指す。
【0129】
本発明は以下の実施例を参照することによりさらに良く理解されるが、本発明は後に添付された特許請求の範囲によってさらに充分に記述されているので、当業者は、詳述された情報は、本発明の例証に過ぎないことを容易に理解するだろう。
【0130】
実験
結果
本発明者らはまず、CFA中に入れたMOG 35-55により免疫されたαBCヌルマウス(αBC-/-マウス)においてEAEを調べた。これらのマウスは、特に疾患のピークおよび疾患の後期段階において、129S6野生型(WT)動物と比較して、より重症のEAEを示した(図1A)。この差は、疾患の急性期(14日目)および進行期(42日目)の両方において、αBCヌル動物の脳および脊髄において、より重症の炎症および脱髄化を伴っていた(表1、図7)。
【0131】
(表1)EAEを持つWTおよびαBC-/-マウスの脳および脊髄における炎症性浸潤物の定量
値は平均(s.e.m);*はWT対応物との有意差p<0.05を表す;n=4
【0132】
αBC-/-動物において、より悪化した疾患に寄与した可能性のある、細胞死の増加があるかどうかを決定するために、本発明者らはWTおよびαBC-/-ヌルEAEマウスから得られた脳および脊髄について、切断および未切断カスパーゼ-3の免疫染色をした。WT動物と比較すると、αBC発現を欠くマウスは、急性期(14日目)(図8)および後期(42日目)(図1G〜H)に脳、および特に脊髄の炎症性病変部に未切断カスパーゼ-3(図1G〜H)の免疫染色が増加していた。切断されたカスパーゼ-3の発現は、EAEを持つWTおよびαBC-/-マウスの両方において、42日後にのみ観察された。αBC-/-マウスでは、大きな核と豊富な細胞質を持つ細胞において染色が増加していたが、これらは白質の膠細胞と形態学的に一致しており、免疫細胞では免疫陽性の細胞はほとんどなかった(図1 E、F)。アポトーシスと切断されたカスパーゼ-3の発現とを相関させるため、後期EAEのマウスのCNS組織に対してTUNEL染色を行なった。EAEを持つWT動物の大部分のTUNEL陽性細胞は、典型的な濃密な核染色を示し(図11)、一方、αBC-/-マウスのTUNEL陽性細胞は、より数が多く、より豊富な細胞質染色を持つ陽性細胞の割合が多かったことにより、これらが膠細胞であることが示唆される(図1J)。これらの結果は、αBCがEAEの際にCNSにおける膠細胞のアポトーシスの防止に役割を果たしていることを示唆する。
【0133】
EAEはミエリンタンパク質および脂質に対する病的な免疫応答によって進行する。αBCは抗炎症性の役割を持つ可能性がある。恒常的に発現されるミエリンタンパク質に対する免疫応答も、EAEのαBC-/-マウスにおいて影響を受けるかどうかを決定するため、本発明者らは、αBC-/-マウスとWT動物の、脾臓およびリンパ節から得られたリンパ系細胞の増殖能およびサイトカイン分泌能を比較した。αBC-/- MOG免疫マウスの脾臓細胞およびリンパ節細胞は、WT動物と比較して、増殖能、およびTh1サイトカインであるIL-2、IFN-γ、TNF、IL-12p40の分泌能が有意に高かった(図1B、C)。ヌル動物のこれらの細胞も、より多くのIL-17を分泌していた(図1C)。αBC-/-とWTのいずれにおいても、これらの細胞タイプではTh2サイトカイン(IL-4およびIL-10)は検出できなかった。
【0134】
αBC-/-マウスにおいてEAEの時に応答亢進した特定の細胞タイプを決定するため、T細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)の増殖能およびサイトカイン産生を評価した。脾臓細胞およびリンパ節細胞と同様に、MOG 35-55で刺激されたαBC-/- MOG免疫マウスから得られたCD3+ T細胞は、WTと比較してより多く増殖し(cpm)、より高濃度のIL-2、IFN-γ、およびIL-17(pg/ml)を分泌した(図2A)。ヌル動物から得られたナイーブなCD3+ T細胞も、抗CD3および抗CD28と培養して刺激されると、同様な応答亢進を示した。
【0135】
APCの機能も影響を受けているかどうかを決定するために、チオグリコール酸で処置されたWTおよびαBC-/-マウスからマクロファージを単離し、LPSで刺激した。αBC-/-マウスから得られたマクロファージは、やはり炎症性サイトカインを分泌する能力が上昇しており、より多くのIL-12p40、IL-6、およびIL-1βを放出した。TNF産生には差は見られなかった。興味深いことに、これらの細胞ではIL-10の分泌も増加していた(図3A)。
【0136】
αBCの機能にはMAPキナーゼシグナル伝達経路が関与しているので、本発明者らは、EAEのαBC-/-マウスで見られる免疫細胞の応答亢進にJNK、ERK、またはp38経路が役割を果たしているかどうかを決定した。刺激されたαBC-/- CD3+ T細胞(図2B)およびマクロファージ(図3B)では、全p38およびリン酸化p38の発現が上方制御されていることが分かった。WTとαBC-/-のT細胞およびマクロファージの間ではJNKおよびERK経路の分子の発現には差は見られなかった。これらの結果は、αBC-/-動物では炎症反応が過敏であることを示し、αBCはEAEの際にT細胞およびマクロファージ細胞群の両方に対して抑制効果を持つ可能性を示唆するが、その抑制効果だけでは完全に疾患を抑えるためには不十分である可能性がある。
【0137】
星状細胞は標準的なNF-κB経路を用いて、EAEにおける炎症を調節し、EAEおよびMSの際にαBCの発現を上方制御する。本発明者らはαBC-/-マウスにおいて星状細胞の機能が変化しているかどうかを評価した。αBC-/-子マウスから単離した初代星状細胞は、TNFまたはスタウロスポリンのいずれかの刺激の後48時間で、WT星状細胞と比較して多くのIL-6を産生した(図4A)。αBCは抗アポトーシス作用があるので、本発明者らは、WT星状細胞と比較して、αBC-/-星状細胞が細胞死に至る速度が異なるかどうか評価した。αBCは、プロカスパーゼ-3に結合することによって、カスパーゼ-3の発現を下方制御することにより、細胞をアポトーシスから保護することが示されている。WTとαBC-/-マウスの両方のナイーブな星状細胞は、培養4週間後にカスパーゼ-3を発現した。しかし、αBC-/-マウスから得られたナイーブな星状細胞は、WT細胞と比較して切断されたカスパーゼ-3の発現が異なっており、WT細胞ではこのアポトーシス因子はTNF刺激後でも未切断のままだった。対照的に、TNF刺激の72時間後にはαBC-/-細胞では切断されたカスパーゼ-3の少量の増加が見られた(図4B)。さらに、TNF刺激の有無にかかわらず、ヌル動物から得られた星状細胞ではWT細胞と比較するとTUNEL染色される割合が高く(図4C)、これはαBCが通常の細胞死およびストレス損傷に対して星状細胞を保護していることを示唆する(図4C)。
【0138】
αBC-/-星状細胞において細胞死の増加を媒介しているシグナル伝達機序を決定するために、本発明者らはαBC機能に関与しているMAPキナーゼシグナル伝達経路の発現を評価した。WT動物から得られる星状細胞では、TNF刺激の72時間後にαBCの発現が増加した。これらの細胞でも、p-αBC(p59)の発現は少量増加していたが、p-αBC(Ser 45)はわずかに低下していた(図4B)。ヌルの星状細胞ではαBCは観察されなかった。p38およびERK経路は、様々な細胞においてαBCによって調節されている。αBCはERK経路の活性化を防止することにより、カスパーゼ-3の成熟を阻害し、その結果細胞死を阻害する31。本発明者らはTNF刺激の72時間後に、αBC-/-星状細胞においてp-ERKおよびERKの両方が上方制御されていることを見出した。WT星状細胞でもp-ERKの発現は増加していたが、ERK全体は変化しなかった。TNF刺激の後でヌル星状細胞においてp38も上方制御されたが、このタンパク質のリン酸化型は検出されなかった。WTおよびαBC-/-星状細胞においてJNKおよびp-JNKの発現には変化はなかった(データは示さず)。
【0139】
その後、αBCによってNF-κB経路が調節されているかどうかを評価した。αBCがヌルの星状細胞では、TNF刺激の後に、NF-κB p65およびNF-κB p105/p50の活性サブユニットの発現が上方制御されていたが、その負の調節物質IκB-αは下方制御されていた(図4B)。それに対して、TNF刺激の後でも、WT星状細胞はIκB-α阻害物質の上昇を示し、この遺伝子型ではNF-κB p50は明らかではなかった(図4B)。NF-κB DNA結合アッセイでは、WT膠細胞と比較して、TNF刺激されたαBC-/-星状細胞においてNF-κB p50およびNF-κB p65 DNA結合活性が上昇していることが確認された(図4D)。したがって、αBCはカスパーゼ-3の活性化を阻害することにより星状細胞の細胞死を防止し、脱髄疾患では星状細胞におけるNF-κBの炎症性の役割を抑制する。
【0140】
本発明者らは、全長αBCを含む様々なミエリン抗原、およびそのいくつかのペプチドエピトープに対する自己抗体を検出するために、大規模なアレイを作製した。EAEでは、PLPp139-151で免疫した後17日以内に、血清中にαBCのエピトープp16-35、p26-45、およびp116-135に対する抗体が出現する。多発性硬化症では、ミエリン抗原アレイを用いて、再発寛解型MS(RRMS)の患者の脳脊髄液中のαBCに対する抗体を分析した。天然のαBCに対する抗体ならびにαBCのp21-40およびp116-135に対する抗体が顕著に検出された(図5)。
【0141】
本発明者らの結果は、αBCは免疫細胞の機能に対する抑制効果、およびCNS膠細胞における抗アポトーシス作用の両方を持つことを示す。本発明者らおよび他の研究者が以前に示したように、EAEにおいては、エピトープスプレッディングの結果として生じるαBCに対する抗体がすでに存在しているという事実によって、MS患者のCSFから得られたαBCに対する抗体がEAEを悪化させることを示すことは複雑になる。したがって、30年近く前に重症筋無力症患者の免疫グロブリンをマウスに移すとマウスが筋無力症になることを示した実験と同様な様式で、ヒトCSFからマウスに抗体を移すことは困難である。したがって本発明者らは、進行中のEAEを持つマウスにおいて、組換えαBCそのものが疾患を消失させるかどうかを評価した。これを検討するために、EAEを持つWTマウスに、2日ごとに10μgの組換えヒトαBCを静脈投与した。αBCで処置されたマウスは、PBSを注射した動物よりも有意に軽い臨床的疾患を示した(図6A)。疾患のこの改善は、部分的には、脳および脊髄への免疫細胞の浸潤の低下(表2)、および免疫細胞の機能の抑制(図6B)によるものであった。組換えαBCで処置されたマウスから得られた脾臓細胞では、増殖、ならびにTh1(IL-2、IL-12p40、TNF、IFN-γ)およびIL-17サイトカインの産生が低下していた(図6B)。興味深いことに、高濃度のMOG刺激では、免疫抑制サイトカインIL-10の産生が増加していた(図6B)。インビトロで抗CD3/抗CD28で刺激され、組換えαBCで処置されたCD3+ T細胞では、同様な免疫細胞の機能低下が観察された。
【0142】
αBC処置がCNSの細胞死に影響を与えるかどうかを評価するために、EAEを持つ、PBSおよびαBCで処置されたマウスから得られた脳および脊髄切片に対してTUNEL染色を行なった。PBSを注射した動物と比較して、αBCで処置されたマウスでは、CNS実質組織においてTUNEL染色が少なかった(表2;図9)。さらに、クリスタリン処置をした動物のCNSでは、死にかけている膠細胞を示唆する、広がったTUNEL染色を持つ細胞数がより少なく、外部から投与した組換えαBCが膠細胞に対して保護作用を持つことが示唆された。
【0143】
(表2)PBSおよび組換えαBCで処置された、EAEを持つWTマウスの脳および脊髄における炎症性浸潤物およびTUNEL陽性細胞の定量
値は平均(s.e.m);*はWT対応物との有意差p<0.05を表す;n=3
【0144】
損傷に対する応答は、傷害を与える事象を中和するか、または修復過程を媒介するかのいずれかの役割を担う保護的機構を往々にして伴う。この概念は、MSなどの自己免疫性脱髄疾患においても当てはまり、その現行のおよび実験的な治療戦略は、主に免疫活性を低下させ、それにより炎症を抑えるというものである。MSでは、病的な炎症性応答の抑制に加えて、CNS細胞を更なる傷害から保護する、かつ/またはニューロンおよび膠細胞前駆細胞が損傷および細胞死の標的になった場合に、修復を誘導することも重要である。本発明者らの所見は、αBCは負の調節物質であり、これは免疫細胞においてp38キナーゼ経路を含むいくつかの炎症経路、およびそれに加えて膠細胞におけるカスパーゼ-3が媒介する細胞死経路の、ブレーキとして作用することを示した。注目すべきことに、MS病変に独特の遺伝子転写物の検討では、αBCが最も豊富にあった。αBCはMS患者の脳から得られたミエリンの成分のうちで、MS患者において最強のT細胞応答を引き起こした成分としても同定された。本発明者らおよび他の研究者は、αBCに対する抗体応答が、EAEを持つ動物およびMS患者から得られた血清中に見られることをすでに示しており(Robinson et al. (2003) Nat Biotechnol 21, 1033-9)、さらに今回、αBCに対する抗体応答がMS患者の脳脊髄液中に存在することも示している。
【0145】
おそらく逆説的ではあるが、αBCはp38シグナル伝達経路を介して、T細胞およびマクロファージの増殖ならびに炎症性サイトカインの産生を抑制するのみならず、EAEのCNSにおいて、膠細胞の細胞死および免疫細胞の浸潤も阻害する。αBCがカスパーゼ-3を介する細胞死から膠細胞を保護する能力は、ERKおよびNF-κB経路を介している。αBCのこれらの抗炎症および生存促進機能は、EAEを逆行させる治療特性に寄与する可能性がある。
【0146】
αBCはMSおよびEAEにおいてCNCで高度に上方制御されているが、その保護的役割が炎症反応によって圧倒されるか、αBC機能が崩壊している可能性がある。MS患者の血清(van Noort et al. (2006) Mult Scler 12, 287-93)、およびEAEのマウスの血清に存在する抗体は、αBCの機能を損なって、その保護特性に干渉する可能性がある。T細胞によるαBCの認識、および本明細書に示したMS患者の脊髄液中でのαBCに対する抗体応答の両方を含む強力な応答は、適応免疫がMS患者においてαBCの活性を抑制し、鍵となる保護的機構を損なうことができることを意味している。本発明者らは、αBCそのものの投与が進行中のEAEを改善するかどうかを理解したいと考えた。注目に値することに、αBCそのものの投与には、治療効果があった。
【0147】
MSおよびその動物モデルEAEにおける主な適応免疫応答の1つは、誘導性ストレスタンパク質αBCに対するものである。脳の炎症の負の調節因子を標的とするそのような免疫応答は、すでに危険に向かって疾走している乗り物のブレーキ系を破壊することに匹敵する。注目すべきことに、その同一のストレスタンパク質を添加すると、破壊しかけているブレーキを修復することと同様に、制御が回復する。EAEおよびMSの脳における炎症の負の調節因子であり、膠細胞のアポトーシスの強力な調節物質でもあるαBCは、MSの病態生理における決定的に重要な転換点であると考えられる。
【0148】
方法
マウス
αBCヌルマウス(αBC-/-)は、NIH National Eye Instituteで開発された。これらのマウスは、129S4/SvJaeのバックグラウンドを持つES細胞から作製され、129S6/SvEvTac X 129S4/SvJaeバックグラウンドで維持された。αBC-/-マウスは、生存可能で繁殖力があり、明らかな出生前異常を持たず、正常な水晶体の透明性を持つ。年長のマウスは、約40週齢で明らかになる姿勢の異常および進行性の筋疾患を示す。本発明者らはこれらのマウスを8〜12週の間で研究することで、臨床的な評価に対する筋疾患の影響を排除した。129S6/SvEvTac(Taconic Farms)マウスは、対照として使用された。WTおよびαBC-/-マウスのコロニーは、本発明者らの動物コロニーで維持され、Stanford University Comparative Medicineガイドラインに従って飼育された。
【0149】
EAE誘導
EAEは、完全フロインドアジュバント(4 mg/ml熱処理結核菌(Mycobacterium tuberculosis)H37Ra含有、Difco Laboratories)に乳濁(容積比1:1)させた100μgミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG p35-55)ペプチドによる皮下免疫によって、8〜12週齢のメスαBC-/-およびWT 129S6/SvEvTac動物に誘導した。マウスには免疫時、および免疫の2日後に、PBS中の50 ngの百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素(BPT)(Difco Laboratories)の静脈内注射も行なった。MOG p35-55ペプチドは、Stanford Pan Facilityによって合成され、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製された。マウス(1群当たりn=8〜10)はEAEの臨床徴候に関して毎日調べて、以下のようなスコアが付けられた:0=臨床的疾患なし、1=脱力した尾、2=後肢脱力、3=完全な後肢麻痺、4=後肢麻痺プラス前肢やや麻痺、および5=瀕死または死亡である。全ての動物のプロトコールは、Stanford UniversityのDivision of Comparative Medicineにより承認され、動物はNational Institutes of Healthのガイドラインに従って維持された。
【0150】
組織病理学
脳および脊髄をマウスから切除し、PBS中の10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。厚さ7ミクロンの切片を、炎症性浸潤物の検出のためにヘマトキシリンおよびエオシンで、および脱髄化の検出のためにルクソール・ファスト・ブルーで染色した。脳、胸髄、および腰髄の切片の炎症性病変は、動物の処置状況を知らされていない試験者によって計数された。
【0151】
星状細胞の培養
星状細胞は、2日齢のαBC-/-およびWTの子マウスの脳から得た。簡単に述べると、各遺伝子型の3匹の子マウスの大脳皮質を切除し、ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミン(Invitrogen、Carlsbad、CA)を含む改良型ダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen)中に入れた。髄膜を除去し、皮質は10%ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシンを含む1 mlの完全ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)に入れた。皮質は細かく刻み、高速で1分間撹拌し、18.5ゲージの針を通過させた。得られた混合液は、25-mm Swinnexシリンジフィルターホルダー(Millipore、Bedford、MA)を用いて、無菌の80μmおよび11μmフィルター(Millipore)を連続的に通過させて濾過した。濾過した細胞は、完全DMEMを用いて1 mlに希釈し、10 mlの完全DMEMを入れた3本の75 cm2の組織培養フラスコに入れて、37℃で維持され5%のCO2を通気したインキュベーター中に入れた。コンフルエントな星状細胞を、100 ng/mlの組換えTNF(BioSource、Camarillo、CA)または100nMスタウロスポリン(Sigma、Saint Louis、MI)により刺激し、刺激後に、ELISAおよびウェスタンブロット解析のために細胞および上清を採取した。
【0152】
免疫細胞活性化アッセイおよびサイトカインの解析
脾臓細胞およびリンパ節細胞(5 x 105細胞/ウェル)、またはCD3+ T細胞(5 x 104細胞/ウェル;負の選択で精製、R&D Systems, Minneapolis, MN)を、平底の96ウェルプレート中で、MOG p35-55ペプチド(5〜20μg/ml)を含む培地(2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシン、0.5μM 2-メルカプトエタノール、および10%ウシ胎児血清を添加したRPMI 1640)中で培養した。インビボのT細胞機能を決定するために、9日目のMOG免疫マウスの脾臓およびリンパ節からCD3+ T細胞を精製し、MOG p35-55ペプチド(5〜20μg/ml)および照射した同系脾臓細胞と1:5で培養した。
【0153】
3 mlの3%(w/v)チオグリコール酸(BD Diagnostics Systems、Sparks、MD)の腹腔内注射の3日後のαBC-/-およびWTマウスの腹腔から初代マクロファージを単離し、24ウェルのプレート中で培地(10% FCS、1 mMピルビン酸ナトリウム、100 U/mlペニシリン、および0.1 mg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM)のみと72時間培養(1 x 106細胞/ml)した後、100ng/mlのLPSで活性化した。
【0154】
増殖速度を評価するために、培養72時間後に[3H]チミジン(1μCi/ウェル)で培養物をパルスし、その18時間後に濾紙に採取した。取り込まれた[3H]チミジンの1分当たりのカウント(cpm)は、βカウンターで計数した。サイトカインは、抗マウスOPTEIA ELISAキット(BD Pharmingen、San Diego、CA)を用いて、培養細胞の上清で測定した。上清は各サイトカインの産生ピーク時に採取された(48h:IL-2、IL-12p40、IL-6、IL-1β;72h:IFN-γ、TNF4;96h:IL-17;120h:IL-4、IL-10)。
【0155】
組換えαBC処置
MOG 35-55および百日咳毒素を用いてWTマウスにEAEを誘導した。マウスの後肢が麻痺したら、平均臨床的疾患スコアのバランスをとって動物を2群に分割し、生理食塩水、pH 7.0、または生理食塩水で希釈した10μgの組換えヒトαBC(US Biological、Swampscott、MA)を隔日に静脈内注射した。EAEの際の免疫細胞機能に対するαBC治療の効果を決定するために、寛解相において脾臓細胞を単離し、MOG 35-55によりインビトロで刺激をした。
【0156】
ウェスタンブロット解析
CD3+ T細胞、マクロファージ、および星状細胞を、1% NP-40、10%グリセロール、1 mM EDTA、1 mM Na3VO4、1 mM NaF、1 mM DTT、4.5 mMピロリン酸ナトリウム、10 mMβグリセロリン酸、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル錠を含む50 mM Tris-HCl緩衝液、pH 7.4中で溶解した(Roche Diagnostics、Penzberg、ドイツ)。4℃で30分間13,000 rpmで遠心した後、上清を採取し、分光光度計を用いて280 nMの吸光度によりタンパク質含量を決定した。タンパク質溶解物(30〜50μg)は倍量の2倍の強度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)Sample Buffer(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA)に懸濁し、10または15% Tris-HCl Ready Gel(Bio-Rad Laboratories)を用いてSDS-PAGEを行なった。タンパク質をPVDFメンブレンに移し、0.05% Tween-20を含む20 mM Tris-HCl緩衝生理食塩水(TBS)、pH 7.4中の5%脱脂粉乳でブロックした。メンブレンは、以下の抗体1:500で4℃で一晩免疫ブロットした:p-αBC(Ser 45)、p-αBC(Ser 59)、αBC(StressGen BioReagents、Victoria、カナダ);アクチン(Sigma);p-p38、p38、p-ERK、ERK、p-SAPK/JNK、SAPK/JNK、カスパーゼ-3、NFκBp105/p50、NF-κBp65、IκB-α(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)。メンブレンは0.1% Tween-20を含むTBS緩衝液で15分間3回洗った。結合した抗体は、ペルオキシダーゼ結合2次抗体(Amersham、Buckinghamshire、イングランド)を用いて可視化し、その後ECLキット(Pierce、Rockford、IL)を用いて検出した。再ブロットのためには、メンブレンをまず緩衝液(62.5 mM Tris-HCl、pH 6.8、2% SDSおよび100 mMβメルカプトエタノールを添加)中で50℃で1時間ストリップした。
【0157】
免疫組織化学
10mMクエン酸ナトリウムを用いて、パラフィン包埋した矢状切片(7μm)を水和し、抗原回復のために処理した。切片は1%過酸化水素水中でインキュベートして内因性ペルオキシダーゼを失わせ、室温でPBS中の1%BSA中で1時間ブロックし、カスパーゼ-3(1:50)または切断したカスパーゼ-3(1:400)(Cell Signaling)と共に4℃で一晩インキュベートした。結合した抗体は、Vectastain ABC抗ウサギキット(Vector Laboratories、Burlingame、CA)および基質として3,5-ジアミノベンジジン(DAB)/H2O2試薬を用いて検出した。マウントする前に、切片はマイアーのヘマトキシリンで対比染色し、グレードの付いたエタノールで脱水した。TUNEL法を用いたアポトーシスの検出には、パラフィン包埋切片のための製造元の指示に従って、ApopTagペルオキシダーゼインサイチューアポトーシス検出キットを使用した(Chemicon、Temecula、CA、米国)。
【0158】
NF-κB結合アッセイ
WTおよびαBC-/-星状細胞は、100 ng/mlのTNF(BioSource、Camarillo、CA)を用いて72時間刺激し、Clontech LaboratoriesのTransfactor Extractionキットを用いて核タンパク質抽出物を単離した。NF-κB p50およびNF-κB DNA結合は、Clontech Transfactor Family Colorimetric kit-NF-κBを用いて核タンパク質15μgを用いて検出した。
【0159】
ミエリンアレイ
ミエリン抗原アレイは、以前に記述されたようにしてプリントおよびプローブした。簡単に述べると、ミエリン自己抗原候補を表すタンパク質およびペプチドを、SuperEpoxy顕微鏡スライド(TeleChem、Mountain View、CA)の表面に、整列したアレイとしてプリントした。ミエリンアレイは、再発寛解型MS(RRMS)または他の神経疾患(OND)の対象患者から得られた脳脊髄液(CSF)を1:20に希釈してプローブに用い、その後Cy-3結合抗ヒトIgG/M 2次抗体(Jackson Immunoresearch)を使用した。アレイをスキャンし、自己抗体結合の尺度として蛍光を定量した。
【0160】
統計解析
データは平均±s.e.m.として表示されている。データがパラメトリック(尖度および歪度< 2)で群内分布が均一の場合(バートレットの均一性検定)、一元配置分散分析およびシェフェの事後検定(> 2の群の場合)またはt検定(N = 2群の場合)を用いて群間差を検出した。データがノンパラメトリックの場合、クラスカル・ワリス検定および多重比較のノンパラメトリック検定(> 2の群の場合)またはマンホイットニーU検定(N = 2の場合)を用いて群間の順位が比較された。P<0.05の値が有意と見なされた。ミエリンアレイの結果は、Significance Analysis of Microarrays (SAM)を用いて解析し、抗体反応性における有意差を持つ抗原特性の同定を行なった。これらの抗原「ヒット」および患者の試料は、階層的クラスターアルゴリズムを用いて順序づけ、結果はTreeViewソフトウェアを用いてヒートマップとして表示した。
【0161】
実施例2
MAPキナーゼとして知られているマイトジェン活性化プロテインキナーゼは、炎症に鍵となる役割を果たす。p38 Map Kおよび細胞外シグナル調節キナーゼERKはいずれも、炎症反応の鍵であり、心筋梗塞、脳卒中、および末梢動脈虚血、アルツハイマー病、パーキンソン病、および筋萎縮性側索硬化症において鍵となる役割を担うことが示されている。例えば、図10に示されるように、γインターフェロンはp38 MapKおよびERKシグナル伝達によって制御されている。
【0162】
本発明者らは、脳および末梢神経のマクロファージおよびリンパ球において、αBCの欠如がp38 MapKおよびERK経路に影響を与えることを示した。αBCの投与は、中枢神経系においてこれらの経路に影響を与えることにより、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、および脳卒中などの炎症性神経疾患に影響を与える。
【0163】
図1に示すように、αBCを投与すると末梢血リンパ球において炎症性サイトカインの産生が低下する。図2に示すように、αBCの欠如はTリンパ球およびマクロファージ(図3)ならびにCNS星状細胞において、p38 mapKおよびERKを減少させる。αBCの欠損した星状細胞では、ERKシグナル伝達が欠損している(図4)。
【0164】
いくつかの疾患状態では、p38MapKおよびERKは鍵となる役割を担う。表1に示すように、αBCの欠如は炎症を減少させ、投与すると炎症の効果が逆転する。表2では、本発明者らは組換えαBCを投与することにより脳の炎症が低下することを示した。αBCはp38MAPKおよびERKのリン酸化も低下させる、図2B、3B、および4B。
【0165】
αBCの投与は、心筋梗塞、脳卒中、および動脈閉塞を含む虚血性病変の範囲と重症度を低下させる可能性がある。
【0166】
実施例3
αBクリスタリンはコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて既存の自己免疫性関節炎を治療する
MSのEAEモデルにおける研究に加え、αBCがRAの齧歯類モデルにおいて既存の自己免疫性関節炎を治療することが本明細書で示された。これらの試験では、完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてマウスにコラーゲン誘導関節炎を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。
【0167】
マウスが臨床的な関節炎を発症した後、関節炎マウスをαBC(隔日に10μg)、ミオグロビン対照タンパク質(10μg)またはPBS(生理食塩水対照)による隔日処置に無作為割り付けした。既存の関節炎を持ちαBCで処置されたマウスは、ミオグロビンまたはPBS対照により処置されたマウスと比較して、関節炎の重症度が統計的有意に低下していた(p< 0.05)(図11)。さらに、マウスを屠殺した後、関節を採取し、固定、脱灰、パラフィン包埋、切片作製、トルイジンブルー染色を行ない、試験者はブラインド下で、滑膜炎(炎症)、パンヌス(滑膜の成長)、および破壊(骨侵食)の程度について、切片のスコアを付けた。αBCで処置されたマウスは、滑膜炎(p<0.05)、パンヌス形成(p<0.05)、および破壊(p<0.05)のスコアが統計的有意に低下していた(図12)。さらに、αBC処置したCIAマウス由来の脾臓細胞では、増殖応答および炎症性サイトカイン(TNFおよびIFN-γ)産生が減少していた(図13)。RA滑膜の免疫組織学的解析では、RAのパンヌスで高レベルのαBC発現が示されたが、OA患者から得られた滑膜では有意な発現は検出されなかった(図14)。
【0168】
実施例4
αBCはAβ誘導アポトーシスから海馬ニューロンを保護する
海馬組織はE15-16子マウスから採取し、氷冷した無カルシウムおよび無マグネシウムHBSSに集め、0.05%トリプシンにより37℃で5分間トリプシン処理した。細胞を分離させ、無血清DMEM/F12中に再懸濁した。組織培養ウェル(Costar 96ウェルA/2プレート、0.16 cm2/ウェル)は25μL/ウェルのポリ-L-リジン(リン酸緩衝生理食塩水中10μg/mL;Sigma)により37℃で1時間プレコートした。吸引後、各ウェルに細胞懸濁液45μL(2000ニューロン/ウェル;12,500細胞/cm2)およびN2添加物および組換えBDNF(R&D Systems Inc.、Minneapolis、MN)を含む無血清DMEM/F12培地を5μL添加した。低細胞密度および無血清DMEMを含む培養条件は、Lindholm et al. (1996)により報告されている初代海馬培養に使用されたものと類似していた。インビトロで6〜7日(DIV)培養した海馬ニューロンは、培養培地のみ(CM)または5〜10μMの組換えヒトαBCを添加したもしくは添加しない、4μMのAβ1-42を含む培養培地に曝露させた。72時間後に、培養物を固定し、TUNELアッセイを行なった。培養物は蛍光顕微鏡を用いて写真撮影し、DAPIおよびTUNEL陽性細胞はImage Pro MDA 6.1を用いて計数した。データは、1つの実験で計数されたn=20〜40視野の平均±SEとして表現されている。状態はANOVA検定を用いてAβ1-42と比較した(*** p<0.001)。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
αBクリスタリン(αBC)は眼の水晶体に高レベルで見られる小さな熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーである。αA、β、およびγクリスタリンと共に、αBCは、必要な屈折率を作り出す脊椎動物の眼の水晶体の重要な水溶性構造タンパク質を形成している。αクリスタリンは分子シャペロンとしても関与しているとされ、折畳まれていない変性したタンパク質に結合することによって非特異的凝集を抑制し、水晶体の透明性を維持していると提唱されている。興味深いことに、αBCのヌルのマウスは正常な水晶体を持ち、これはこのクリスタリンが透明な水晶体の発生に必須ではないことを示す。眼の水晶体の他に、αBCは成体の心臓および骨格筋にも高レベルで存在し、また腎臓、肺、CNS膠、肝臓、ならびに発生中の心臓および体節に低レベルの発現が見られる。
【0002】
αBCの発現はいくつかの病理学的状態と関連している。αBCレベルの上昇は、アレキサンダー病、クロイツフェルトヤコブ病、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、および神経向性の感染などといった様々な神経疾患のCNS膠および悪性腫瘍において見られる。熱ショックおよび遷移金属も、初代星状細胞においてこのクリスタリンの発現を誘導できる。
【0003】
多発性硬化症(MS)は原因不明のCNSの自己免疫疾患で、約400000人のアメリカ人が罹患している。MSにおいては、ミエリン反応性T細胞が脳および脊髄に入り、ニューロンを取り囲むミエリン鞘の破壊を媒介し、進行性の運動機能障害および最終的には麻痺を引き起こす。現在の治療戦略には、炎症促進性Th1 T細胞の表現型の抗炎症性Th2反応への切り替え、脳炎誘発性のT細胞の脳中への溢出の防止、T細胞寛容、アネルギーまたはアポトーシスの誘導、ならびにニューロンおよび乏突起神経膠細胞などの傷害を受けたCNS細胞の修復または置き換えが含まれる。
【0004】
疾患の経過は非常に様々で予測できない。大部分の患者では、特に多発性硬化症が視神経炎から始まる場合には、寛解は数ヶ月から10年を超えて継続する。しかしながら、余命が短縮されるのは非常に重症の症例のみであるが、頻繁に発作を起こし急速に行動不能になる患者も存在する。
【0005】
治療の目標は、急性増悪の減少、増悪頻度の低下、および症状の緩和であり、患者の歩行能力を維持することは特に重要である。急性増悪はコルチコステロイドを短期間使用して治療できる。しかし、コルチコステロイドは急性の発作を減少させ進行を抑える可能性はあるが、長期的転帰への影響は示されていない。
【0006】
免疫調節療法は急性増悪の頻度を低下させ、最終的な身体障害を遅らせる。免疫調節薬には、IFN-β1bおよびIFN-β1aなどのインターフェロン(IFN)が含まれる。酢酸グラチラマーも使用できる。他の潜在的な療法には、免疫抑制剤のメトトレキセート、および白血球の血液脳関門の通過を抑制する抗α4インテグリン抗体であるナタリズマブがある。ミコフェノレートおよびシクロホスファミドなどの免疫抑制剤は、より重症の進行性MSに使用されてきたが、賛否両論がある。
【0007】
ニューロンなどの一部の細胞は、哺乳類の成体の脳に前駆細胞がほとんどなく、限定されているので、病的な免疫反応の抑制に加えて、CNSをさらなる傷害から守り、損傷を受けた細胞の修復を誘導することが重要である。
【0008】
MS患者の初期の研究では、この疾患においてはαBCが自己抗原の役割を果たしていることが示唆された。MSの脳から単離したミエリンは、乏突起神経膠細胞および星状細胞に局在化したαBCであることが分かり、MSに免疫優性であることが示され、増殖およびIFN-γの産生を誘導することによりT細胞をコントロールする、単一の画分を含んでいた。遺伝子の配列決定のできるロボット(Chabas et. al. (2001) Science 294, 1731-5(非特許文献1))を用いたMS脳の病変の大規模の転写プロファイリングでも、αBCが初期の活動性MSにおいて最も豊富に転写される遺伝子であることが分かった。αBC遺伝子におけるC249G、C650G、およびA652Gの3つの多型性も、MSに対する感受性および疾患の発現に関連することが分かった(van Veen et al. (2003) Neurology 61, 1245-9(非特許文献2))。MSにおけるαBCの自己抗原の役割の更なる証拠には、初期の活動性MS患者から得られたαBCペプチドに反応した、CD4+T細胞株の増殖ならびにIL-2、IFN-γ、およびTNFの産生の増加が含まれる(Chou et al. (2004) J Neurosci Res 75, 516-23(非特許文献3))。これらの病変においては、T細胞へのクラスII MHC拘束性提示のために、タンパク質が局所のAPCによって取り込まれることが示唆されている。
【0009】
EAEおよびMSにおけるαBCの役割は、例えば、van Stipdonk et al. (2000) J Neuroimmunol 103, 103-11(非特許文献4); van Stipdonk et al. (2000) Cell Immunol 204, 128-34(非特許文献5); Thoua et al. (2000) J Neuroimmunol. 104, 47-57(非特許文献6); およびSotgiu et al. (2003) Eur J Neurol. 10, 583-6 (2003)(非特許文献7)に考察されている。
【0010】
最近、多くの研究により、ストレス時のαBCのアポトーシスに関する役割が確立した。αBクリスタリンは、熱、浸透圧性および酸化的傷害、スタウロスポリン、TNF、オカダ酸、過酸化水素、カルシマイシン、ならびにエトポシドから細胞を守ることが示された。さらに、αBCトランスジェニックマウスは、心筋虚血および再灌流時の心筋細胞のアポトーシスおよび壊死から保護される。
【0011】
この保護は、カスパーゼ-3の活性化の阻害によると考えられる。通常は、ミトコンドリアおよび細胞死受容体の経路は、それぞれカスパーゼ8および9を活性化し、その後、収束して、細胞死を執行する下流のカスパーゼ3をタンパク質分解により活性化する。αBCはカスパーゼ3の中間体p24の自己タンパク質分解的な成熟を阻害することにより、アポトーシス経路を阻害すると考えられる。他の研究では、αBCがBaxおよびBcl-Xsと相互作用して、これらのアポトーシス誘導性調節物質のミトコンドリアへの移動を阻害し、下流のアポトーシス事象を無効にすることが示されている。最近の研究では、αクリスタリンの抗アポトーシス機能に加えて、抗炎症効果も示された。αクリスタリンでマウスを前処置しておくと、新皮質におけるGFAP、NF-κB発現を低下させることにより硝酸銀による神経炎症から保護され、細胞内カルシウムレベル、アセチルコリンエステラーゼ活性、およびグルコース枯渇が逆行し、かつ脳における一酸化窒素および過酸化脂質の産生が防止された。
【0012】
炎症におけるαBCの役割のさらなる解明は大きな関心の対象である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chabas et. al. (2001) Science 294, 1731-5
【非特許文献2】van Veen et al. (2003) Neurology 61, 1245-9
【非特許文献3】Chou et al. (2004) J Neurosci Res 75, 516-23
【非特許文献4】van Stipdonk et al. (2000) J Neuroimmunol 103, 103-11
【非特許文献5】van Stipdonk et al. (2000) Cell Immunol 204, 128-34
【非特許文献6】Thoua et al. (2000) J Neuroimmunol. 104, 47-57
【非特許文献7】Sotgiu et al. (2003) Eur J Neurol. 10, 583-6
【発明の概要】
【0014】
本発明は、多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害等、および同様な疾患などの、脱髄性自己免疫疾患である可能性のある神経炎症性疾患を含む、炎症性疾患の治療方法を提供する。他の態様では、炎症性疾患には、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびルー・ゲーリッグ病が含まれるがこれらに限定されない。本発明の方法は、αBクリスタリン活性を提供する薬剤の有効量を対象に投与する段階を含み、その投与量は、既存の疾患の進行を含む、疾患の開始、進行、または再発の抑制または防止に有効な量である。いくつかの態様では、本発明の方法は、疾患の再発を抑制または防止するために、既往の炎症性疾患状態を持つ対象に有効量のαBクリスタリンタンパク質を投与する段階を含む。
【0015】
いくつかの態様では、対象において炎症性疾患を阻害するための方法が提供され、該方法は、例えば、プロモーターに機能的に連結したαBクリスタリンをコードする核酸を提供することによって、予防に有効な量のαBクリスタリンのレベルを特異的に増強する核酸を対象に投与する段階を含む。別の態様では、対象において自己免疫疾患を阻害するための方法が提供され、該方法は、例えば、組換えによって産生されたポリペプチドなどの、治療的有効量のαBクリスタリンポリペプチドを対象に投与する段階を含む。治療薬は、例えば静脈内に全身投与するか、例えば炎症部位へ局所投与することができる。
【0016】
本発明のいくつかの方法では、対象はヒトである。いくつかの方法では、治療中に、T細胞、ニューロン、マクロファージ、血管内皮細胞、星状細胞、および小膠細胞からなる群より選択される患者細胞において、αBクリスタリンのレベルがモニターされる。いくつかの方法では、患者は進行中の炎症疾患を持ち、方法はαBクリスタリンの投与に応答した患者の症状の低下をモニターする段階もさらに含む。
【0017】
本発明のいくつかの態様では、ミエリン反応性または他の活性化T細胞、例えば、MS患者のCSFに存在するT細胞、またはRA患者の滑液に存在するT細胞は、例えば、治療がそのようなT細胞の活性化を低下させるために有効かどうかを判断するために、例えば、IL-2、IFN-γ、および/またはIL-17などのような1つまたは複数のサイトカインの発現;ならびにp38MAPKおよびERKの上方制御またはリン酸化についてモニターされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】αBC-/-マウスは、免疫細胞活性化の増加、CNS炎症、および膠細胞死を伴う、より悪化した臨床的EAEを発症した。(A) MOG 35-55による免疫後の様々な時点におけるWT(□)およびαBC-/-(■)マウスの臨床スコアの平均±s.e.m.。*はマンホイットニーU検定により決定した、WT群からの有意差(p<0.05)を示す。EAEを持つWT(□)およびαBC-/-(■)マウスから得られたリンパ節細胞および脾臓細胞の(B)増殖速度、および(C)炎症性サイトカインIFN-γ、TNF、IL-2、IL-12p40、IL-17の分泌。(D〜J) EAEを持つWT (D、G、I)およびαBC-/- (E-F、H、J)動物から42日目に採取され、切断された(D〜F)および未切断(G、H)のカスパーゼ-3の免疫染色、ならびにTUNEL染色 (I、J)されたパラフィン包埋脊髄切片。(D〜E、G〜H) 20X;(F) 40X;(I、J) 75Xの倍率。矢印は切断されたカスパーゼ-3の免疫陽性(F)およびTUNEL染色(I、J)の膠細胞を指す。
【図2】αBC-/- EAEマウスから得られたT細胞は応答亢進している。(A)同系の照射された脾臓細胞およびMOG 35-55ペプチドにより刺激されたWT(□)およびαBC-/-(■)EAEマウスから単離したCD3+ T細胞の、Th1 (IFN-γ、IL-2)、Th17 (IL-17)およびIL-10サイトカインの分泌(pg/ml)および増殖速度(cpm)。(B) 同系の照射された脾臓細胞およびMOG 35-55ペプチドにより1時間刺激されたWTおよびαBC-/- EAEマウスから得られたCD3+ T細胞におけるp-38およびホスホ-p38発現のウェスタンブロット。
【図3】αBC欠損マクロファージは機能が亢進している。(A) インビトロでLPSにより刺激されたWT(□)およびαBC-/-(■)マクロファージによるサイトカイン(IL-1β、TNF、IL-6、IL-12p40、IL-10)(pg/ml)の産生。(B) LPSによる刺激の72時間後のWTおよびαBC-/-ヌルマクロファージにおけるp38およびホスホ-p38発現のウェスタンブロット解析。
【図4】αBC-/-星状細胞は細胞死に対してより感受性であり、かつERKおよびNF-κBシグナル伝達が増加している。(A) TNF刺激の48時間後のWT(□)およびαBC-/-(■)星状細胞によるIL-6産生。(B) TNF刺激の48時間後のWTおよびαBC-/-星状細胞におけるNF-κB p50およびNF-κB p65のDNA結合活性。(C) TNF刺激の72時間後のWTおよびαBCヌル星状細胞におけるαBC、ホスホ-αBC、切断および未切断カスパーゼ-3、p-38、ホスホ-p-38、ERK、ホスホ-ERK、NF-κB p105/p50、NF-κB p65およびIκB-α分子の発現。
【図5】ミエリン抗原アレイ解析は、ヒトRRMS患者においてαBCを標的とする抗体を示す。ミエリンアレイ解析はRRMSおよびOND対照患者から得られたCSFに対して実行された。OND対照試料と比較したRRMSにおける抗体反応性の有意差を同定するために統計アルゴリズムSAMが用いられ、試料およびミエリン抗原のヒットは階層的クラスターアルゴリズムを用いて配列され、結果はヒートマップとして表示されている。RRMS患者は、αBCタンパク質およびペプチドを含め様々なミエリンエピトープに対して自己抗体の反応性が有意に亢進していた。
【図6】組換えαBCはEAEにおいて臨床的疾患および炎症を抑制する。(A) MOG 35-55および百日咳毒素による免疫後の様々な時点における、組換えαBC(■)またはPBS pH 7.0(□)で処置されたWT EAEマウスの平均臨床スコア。(B) 組換えαBC(■)またはPBS(□)処置時のEAEの25日目に採取された脾臓細胞の増殖速度(cpm)およびサイトカイン産生(pg/ml)。*はマンホイットニーU検定により決定された、WT群からの有意差(p<0.05)を示す。
【図7】αBC-/-マウスは急性および進行性EAEにおいてより重症の炎症/脱髄病変を持つ。EAEを持つWT(A、B)およびαBC-/-(C、D)から14日目(A、C)および42日目(B、D)に採取され、ルクソール・ファースト・ブルーおよびヘマトキシリン・エオシン染色されたパラフィン包埋脊髄切片。1640Xの倍率。
【図8】αBC-/-マウスは急性EAEにおいて切断されたカスパーゼ-3の発現が高い。EAEのWT(A、B)およびαBC-/-(C、D)動物から14日目に採取され、切断(B、D)および未切断カスパーゼ-3(A、C)の免疫染色されたパラフィン包埋脊髄切片。20Xの倍率。
【図9】αBCで処置されたEAEマウスは、脊髄内でTUNEL陽性細胞がより少なくなっている。PBS(A、B)および組換えαBC(C、D)で処置されたEAEを持つWTマウスから32日目に採取され、TUNEL染色されたパラフィン包埋脊髄切片。160Xの倍率。
【図10】炎症に関与する経路の模式図。
【図11】αBクリスタリンはコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて、既存の自己免疫性関節炎を治療する。DBA/1マウスに、完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてコラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。マウスが臨床的な関節炎を発生した後(平均の足の厚み約1.95 mm)、関節炎マウスを、αBC(10μgの組換えヒトαBC(US Biological、Swampscott、MA;生理食塩水で希釈))、ミオグロビン対照タンパク質(10μg)またはPBS(生理食塩水対照)による隔日処置に無作為割り付けした。既存の関節炎を持ちαBCで処置されたマウスは、ミオグロビンまたはPBS対照により処置されたマウスと比較して関節炎の重症度が統計的有意に低下していた(p< 0.05)。
【図12】αBC処置は既存のCIAにおいて滑膜炎、パンヌス、および破壊を低下させる。既存のCIAを持つマウスをαBCまたはPBSで処置し、処置後にマウスを屠殺して後足を採取し、ブラインド化した組織学的分析を行なった。評価者はブラインド下で滑膜炎(炎症)、パンヌス(滑膜の成長)、および破壊(骨侵食)の程度について後脚関節切片を評価した。αBCで処置されたCIAマウスは、滑膜炎、パンヌス、および破壊のスコアが統計的有意に低下しており(p<0.05)、αBC治療の有効性をさらに示した。
【図13】αBC処置したCIAマウス由来の脾臓細胞では、増殖および炎症性サイトカインが減少している。DBA/1マウスには完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてコラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。マウスが臨床的な関節炎を発生した後、組換えαBCによる処置またはPBSによる対照処置を開始し、2週間後に屠殺して脾臓細胞を採取し、Con Aで刺激した(X軸は用量)。増殖応答は3H-チミジンの取り込みによって測定された(A)。TNF (B)、IL-10 (C)、およびIFN-γ(D)産生はELISAで測定された。CIAマウスをαBCによりインビボで処置すると、脾臓細胞の増殖応答(A)および炎症性サイトカイン産生(B、D)が低下していた。
【図14】αBCはRA滑膜組織に高レベルで発現している。1人のRA患者および1人のOA患者の関節形成術の際に同意書を取得した後で、スタンフォード大学で承認されたのヒト被験者プロトコールにしたがって、遺残滑膜組織を採取した。滑膜組織を固定し、パラフィン包埋し、切片を作製した。αBCに特異的な抗体およびアイソタイプの一致した対照抗体による切片の免疫組織学的解析は、RA滑膜ではαBCタンパク質発現が高レベルであるがOA滑膜ではそうではないことを示した。
【図15】αBCはAβに誘導されるアポトーシスから海馬ニューロンを保護する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本方法を記述する前に、本発明は記述された特定の方法に限定されるわけではなく、当然、変動し得ることを理解する必要がある。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的でのみ使用され、限定する意図はないことも理解する必要がある。
【0020】
値の範囲が提供されている際には、文脈上明らかにそうでない場合を除き、下限の単位の10分の1までのその範囲の上限と下限の間に存在する値、およびその述べられた範囲内の他の任意の述べられた値またはその間に存在する値も、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、述べられた範囲内で特に除外された任意の区域は除き、独立したこのより小さな範囲に含まれる可能性がある。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用される単数形の「1つの(a)」、「および(and)」、および「その(the)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数も含む。
【0021】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を持つ。本明細書に記述されるものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施または検証に使用できるが、好ましい方法および材料は以下に記載される。本明細書に言及される全ての刊行物は、それに関連してその刊行物が引用された方法および/または材料を開示および記述するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0022】
本明細書に考察される刊行物は、本発明の出願日以前のその開示のためのみに提供される。本明細書では、先行発明があるためにそのような刊行物に先行する権利がないと認めると解釈することはできない。さらに、提供された刊行日は、実際の刊行日とは異なる可能性があり、これは別個に確認する必要がある可能性がある。
【0023】
αBクリスタリンの「活性」は、このタンパク質が実行する任意の酵素機能または結合機能を意味する。
【0024】
「同等の細胞」は、比較対象の別の細胞のタイプと同一のタイプの細胞を意味する。同等の細胞の例は、同じ細胞株の細胞である。
【0025】
「発現可能な核酸」は、関心対象の核酸および/または関心対象のタンパク質をコードする核酸であって、細胞中に入れると関心対象の核酸またはタンパク質の発現を可能にする、発現ベクター、プラスミド、または他の構築物である核酸を意味する。発現ベクターおよびプラスミドは当技術分野で周知である。
【0026】
疾患の開始の「阻害」は、疾患の開始の可能性を低下させるか、疾患の開始を完全に防止するかのいずれかを意味する。好ましい態様では、疾患の開始の阻害は、その開始を完全に防止することを意味する。本明細書で使用される開始とは、進行中の再発寛解型疾患を持つ患者の再発を意味する場合がある。本発明の方法は、自己免疫疾患の診断を受けた患者に特に適用される。治療は既往の状態の悪化である再発の防止または治療を目的とする。
【0027】
細胞における遺伝子発現の「阻害」は、その遺伝子が発現される程度を低下させるか、そのような発現を完全に防止するかのいずれかである。
【0028】
「核酸」はDNA、RNA、およびそのハイブリッドを含む任意の核酸分子を意味するが、これらに限定されるわけではない。核酸分子を形成する核酸塩基は、塩基A、C、G、T、およびU、ならびにその誘導体であってよい。これらの塩基の誘導体は当業者に周知であり、PCR Systems, Reagents and Consumables (Perkin Elmer Catalogue 1996-1997, Roche Molecular Systems, Inc., Branchburg, N.J., USA)に例示されている。
【0029】
「αBクリスタリン」は、GenBank寄託番号BT006770に規定され、Dubin et al. (1990) Genomics 7:594-601に記述されるmRNA配列によってコードされるヒトタンパク質、その自然に存在する全ての変異体およびホモログ、ならびに本明細書で当てはまる場合はその全ての抗原性断片を意味する。クリスタリンは脊椎動物の眼の水晶体の可溶性タンパク質の約90%を構成し、広範に発現される3つの主なクリスタリンファミリー、α、β、およびγを含む。αBクリスタリンは小さな熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーである。ヒトCRYAB遺伝子は分子量20kDの175アミノ酸のタンパク質をコードする。αクリスタリンサブユニットのαAおよびαBはそれぞれ、それ自身でまたは他方とオリゴマーを形成できる。αA(またはαB)とβB2またはγCクリスタリンとの間の相互作用も報告されているが、αA-αBの相互作用と比較して、相互作用の強度ははるかに低い。NおよびC末端領域が切断された変異体を用いた実験では、αAクリスタリンの自己相互作用にはN末端領域およびC末端領域の両方が重要であるが、αBクリスタリンの自己相互作用には主にC末端領域が重要であることが示された。
【0030】
αBクリスタリンの活性断片は、全長のαBクリスタリンと機能特性または結合特性を共有している。
【0031】
αBクリスタリンのエピトープ断片は、全長のαBクリスタリンに結合するモノクローナル抗体に結合する。
【0032】
「αBクリスタリン関連疾患」は、αBクリスタリンの発現が病因に寄与している任意の疾患を意味する。
【0033】
αBクリスタリンの過剰発現とは、正常な個体の集団における発現の平均プラス1標準偏差よりも高いレベルの発現を意味する。好ましくは、発現レベルは正常な個体の集団の平均の発現レベルの少なくとも10倍である。
【0034】
第1の核酸に関して、核酸に「特異的にハイブリダイズする」とは、第1の核酸が、他の任意の核酸に対するよりも高い親和性で、第2の核酸に対してハイブリダイズすることを意味する。
【0035】
タンパク質の発現を「特異的に阻害する」とは、(a) 他のいずれのタンパク質の発現よりも強く、または (b) 10またはそれ以下の他のタンパク質を除く全てのタンパク質の発現よりも強く、そのタンパク質の発現を阻害することを意味する。
【0036】
「対象」または「患者」はヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット、またはウサギなどの任意の動物を意味する。
【0037】
「適切な条件」とは、この用語が使用される文脈に依存した意味を持つ。すなわち、抗体に関連して用いられる場合は、この用語は抗体が対応する抗原に結合できる条件を意味する。この用語が核酸のハイブリダイゼーションに関して使用される場合は、長さが少なくとも15ヌクレオチドの核酸がそれに相補的な配列を持つ核酸にハイブリダイズできる条件を意味する。薬剤の細胞への接触に関連して使用される場合は、この用語は、そのような能力がある薬剤が、細胞に入りその意図される機能を発揮することができる条件を意味する。1つの態様では、本明細書で使用される「適切な条件」は、生理的な条件である。
【0038】
「炎症性」応答という用語は、液性(抗体が媒介)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物が媒介)応答の発現を指し、これはαBクリスタリンに向けられた成分を含む可能性がある。「免疫原」は、哺乳類へ投与されると、または自己免疫疾患に起因して、それ自身に対する免疫応答を誘導することができる。
【0039】
「裸のポリヌクレオチド」という用語は、コロイド状物質と複合体を作っていないポリヌクレオチドを指す。裸のポリヌクレオチドはプラスミドベクターにクローニングされることがある。
【0040】
「アジュバント」という用語は、抗原と共に投与されると、抗原に対する免疫応答を増強するが、単独で投与されたときには抗原に対する免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントはリンパ球の動員、Bおよび/またはT細胞の刺激、ならびにマクロファージの刺激を含むいくつかの機序によって免疫応答を増強できる。
【0041】
文脈上そうでないことが明白でない限り、本発明の全ての要素、段階、または特徴は、他の要素、段階、または特徴と組み合わせて使用できる。
【0042】
分子および細胞の生化学の一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., Harbor Laboratory Press 2001); Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons 1999); Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996); Nonviral Vectors for Gene Therapy (Wagner et al. eds., Academic Press 1999); Viral Vectors (Kaplift & Loewy eds., Academic Press 1995); Immunology Methods Manual (I. Lefkovits ed., Academic Press 1997); およびCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, John Wiley & Sons 1998)などの標準的教科書に書かれている。本開示で言及されている遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、およびClonTechなどの商業的製造供給元から販売されている。
【0043】
本発明は、本発明の実施に好ましい様式を含むと本発明者らが見出したまたは提唱した特定の態様に関して記述されている。当業者は、本開示を考慮すると、本発明の意図する範囲から離れることなく、例示された特定の態様に数多くの改変および変更を加えることが可能であると理解するだろう。例えば、コドンの冗長性に起因して、タンパク質配列に影響を与えることなく、その下にあるDNA配列に変更を加えることができる。さらに、生物学的機能等価を考慮することで、生物学的作用の種類や量に影響を与えることなく、タンパク質構造に変更を加えることができる。そのような改変は全て添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0044】
本方法は、予防または治療の目的で使用される。本明細書では「治療」という用語は、再発の防止、および既往の状態の治療の両方を指す。例えば、自己免疫疾患の予防は、再発の発生の前に物質を投与することによって達成できる可能性がある。患者の臨床的症状を安定化または改善する、進行中の疾患の治療は、特に関心対象となる。
【0045】
本発明は炎症性疾患の治療方法を提供する。対象となる炎症性疾患には、神経性炎症状態、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルー・ゲーリッグ病等、および多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害等といった脱髄疾患、ならびに関節リウマチなどの炎症性状態が含まれる。本発明の方法は、疾患の開始、進行、または再発を抑制または防止するために、αBクリスタリン活性を提供する薬剤の有効量を対象に投与する段階を含む。
【0046】
本明細書に示されるように、αBクリスタリンは炎症性サイトカインの抑制による炎症性状態の治療において、複数の機能を提供する。さらなる傷害からのCNS細胞の保護;例えば、ニューロンおよび膠細胞前駆細胞が損傷および死の標的となった時のCNS細胞の修復の誘導;T細胞およびマクロファージの増殖の抑制を含む、神経学的恩恵も得られる。
【0047】
いくつかの治療方法においては、αBCの発現を上方制御するために、αBCコード配列が、免疫細胞、神経系の細胞等でありうる細胞に導入される。または、治療的有効量のαBクリスタリンポリペプチド、またはその活性断片または誘導体を対象に投与することにより、対象の自己免疫疾患が治療される。
【0048】
本発明では、本組成物の投与は、当業者に公知の様々な方法および送達系の任意のものを使用して、達成または実施できる。投与は、例えば、静脈内、経口、インプラントを介して、経粘膜、経皮的、筋肉内、髄腔内、および皮下で実行できる。いくつかの日常的に使用される薬学的担体を用いる以下の送達系は、本組成物の投与のために想定される多くの態様の代表的なものに過ぎない。
【0049】
解析および治療される状態
本発明の組成物および方法は、神経性炎症状態、再発性自己免疫状態、および再発性神経性炎症状態を含む、様々な炎症状態と組み合わせて使用される。
【0050】
免疫組織学的および分子生物学的証拠により、脳は免疫応答を持続する能力を持ち、その結果として宿主細胞は傷害を受ける可能性があることが示されてきた。ニューロンは分裂を終了しているので、脳は免疫学的に特権を持つのではなく、特に脆弱である可能性がある。ニューロンは分裂できないため、一旦失われると、補充されない。脳における慢性炎症反応の証拠は、広範に研究されているアルツハイマー病(AD)で特に強力であるが、パーキンソン病(PD)およびALS、ならびに神経性自己免疫疾患、例えば、MS、EAE等、の脳の罹患領域においても局所性の免疫反応が起きている証拠もある。これらの反応には、局所ニューロンおよび膠細胞、ならびに特に常在食細胞(これは脳においては小膠細胞である)による炎症成分が関与している可能性がある。補体系、小膠細胞、および炎症性サイトカインは鍵となる役割を担っていると考えられる。
【0051】
炎症性の神経疾患には、多発性硬化症(MS)が含まれるが、これは寛解および繰り返す増悪を伴う、CNS機能不全の様々な症状および兆候で特徴づけられる。最も一般的な主症状は、1本もしくは複数の肢、体幹、もしくは顔の片側における感覚異常;脚もしくは手の脱力もしくはぎこちなさ;または、例えば、片眼の部分的失明および疼痛(眼球後方の視神経炎)、視界の暗さ、または暗点などの視覚障害である。他の一般的な初期症状は、眼筋麻痺により起きた複視、1本または複数の肢の一過性脱力、1本の手足のわずかなこわばりもしくは異常な易疲労感、わずかな歩行困難、膀胱制御困難、めまい、および軽度の情緒障害であり、いずれも散在性のCNSの関与を示し、往々にして疾患が認識される何ヶ月または何年も前に起きる。過剰な熱は症状および兆候を強調する可能性がある。
【0052】
進行は非常に多様で、予測がつかず、かつ大部分の患者では弛張性である。まず、特に疾患が球後視神経炎から始まる場合には、エピソードの間に何ヶ月または何年も続く寛解があることがある。しかし、患者によっては頻繁な発作を経験し、急速に能力を失うものもいる;一部の患者では経過は急速な進行をたどる(一次進行型MS、PPMS)。再発寛解型MS(RR MS)は、臨床的には、再発および寛解が何ヶ月から何年という単位にわたって起こり、発作の間には神経学的欠損の部分的または完全な回復が見られるという特徴を持つ。そのような患者では、1年間に約1回発作または再発が現れる。10年から20年にわたりRR MSの患者の約50%は二次進行型MS(SP MS)を発現するが、これは発作間の回復が不完全になり、神経学的欠損が蓄積して、その結果障害が増えるという特徴を持つ。
【0053】
診断は、臨床的、放射線(磁気共鳴(MR)スキャンにおける脳の斑)、および度合いは減るものの検査(CSF分析におけるオリゴクローナルバンド)の特徴からの推定により間接的に行われる。典型的な症例は、通常、臨床的な所見から確信を持って診断できる。最初の発作後に、診断が疑われる場合がある。後の、寛解と増悪の病歴、ならびに複数の領域に散在したCNS病変の臨床的証拠は、非常に示唆的である。
【0054】
最も感度の高い画像診断技術であるMRIを用いると斑が見られる場合がある。また、脊髄と延髄の接合部において治療可能な非脱髄性病変(例えば、クモ膜下嚢胞、大後頭孔腫瘍)が検出されることがあり、これはMSに類似した、様々な変動するスペクトルの運動および感覚の症状を時折引き起こす。ガドリニウム造影を行なうと、活動性の炎症領域と陳旧性の脳斑とを区別できる。MS病変は造影CTスキャンでも可視化できる場合がある;感度はヨードの用量を倍にしてスキャンを遅延させると向上することがある(倍量遅延造影CT)。
【0055】
MSの治療にはインターフェロンβ(アボネックス、ベタセロン(Betaseron)、Rebif)、コパキソン(Copaxone)(酢酸グラチラマー)、および抗VLA4(Tysabri、ナタリズマブ)が含まれ、これらは再発率を低下させるが、現在までのところ、疾患の進行にはわずかな影響しか示していない。MSはメチルプレドニゾロン、他のステロイド、メトトレキセート、クラドリビン、およびシクロホスファミドを含む免疫抑制剤でも治療される。抗IFNγ抗体、CTLA-4-Ig(アベタセプト)、抗-CD20(リツキサン)、および他の抗サイトカイン剤などの多くの生物製剤はMSのために臨床開発中である。
【0056】
末梢神経障害にはギラン・バレー症候群(GBS)とそのサブタイプの急性炎症性脱髄性多発神経根障害、急性運動軸索神経障害、急性運動および感覚軸索神経障害、ミラー・フィッシャー症候群、および急性汎自律神経異常症;慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)とそのサブタイプの古典的CIDP、糖尿病を伴うCIDP、CIDP/意味未確定の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)、感覚CIDP、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、多巣性後天性脱髄性感覚および運動神経障害、またはルイス・サムナー症候群、多巣性後天性感覚および運動神経障害、ならびに後天性遠位脱髄性感覚神経障害;IgM単クローン性免疫グロブリン血症とそのサブタイプのヴァルデンストレームマクログロブリン血症、ミエリン関連糖タンパク質関連免疫グロブリン血症、多発性神経障害、臓器肥大症、内分泌障害、M-タンパク質、皮膚変化症候群、混合型クリオグロブリン血症、歩行失調、遅発性多発性神経障害症候群、ならびにMGUSが含まれる。
【0057】
パーキンソン病は特発性の、緩徐進行性の変性性CNS疾患であり、動作の緩慢と低下、筋肉固縮、安静時の振戦、および姿勢不安定により特徴づけられる。診断は臨床的である。治療には、レボドパプとカルビドパ、他の薬剤、および難治性の症状の場合には手術が用いられる。パーキンソン病では、黒質、青斑核の色素性ニューロンおよび他の脳幹のドーパミン作動性細胞群が失われる。尾状核および被殻に突き出る黒質ニューロンの損失は、これらの領域におけるドーパミンを枯渇させる。
【0058】
膜攻撃複合体の全ての成分を含む補体タンパク質の存在は、PDおよび家族性PDの黒質のレヴィー小体および乏突起膠細胞上で細胞内に示されている。そのような乏突起膠細胞は補体に活性化された乏突起膠細胞と記述されている。
【0059】
特発性PDのみならず、家族性PDならびにグアム-パーキンソン痴呆症候群において、黒質および線条体では多くの反応性小膠細胞が観察される。反応性小膠細胞は、PDの6-ヒドロキシドーパミンおよびMPTP動物モデルにおける基底神経節にも観察され、そのような動物モデルでは抗炎症剤がドーパミン作動性神経毒性を阻害するという報告がいくつかある。小膠細胞は、古典的補体カスケードの産物、様々な炎症性サイトカイン、およびPDの黒質に存在することが報告されているクロモグラニンAによって活性化され得る。
【0060】
インターロイキン-1β、インターロイキン-6、およびTNFαのレベルの上昇は、PD患者の基底神経節およびCSFに見られる。TNFαおよび/またはインターロイキン-1βに免疫反応性のある膠細胞の存在も、PD患者の黒質で報告されている。
【0061】
アルツハイマー病は進行性の認知機能の低下を引き起こし、大脳皮質および皮質下の灰白質における老人斑、βアミロイド沈着、および神経原線維変化により特徴づけられる。大部分の症例は孤発性で、遅発性(>60才)であり原因不明である。しかし、5〜15%は家族性であり;これらの症例の半分は早期発症(< 60才)で、典型的には特定の遺伝子変異に関連している。典型的には、細胞外βアミロイド沈着、細胞内神経原線維変化(ペアになったらせん状フィラメント)、および老人斑が発生し、ニューロンが失われる。大脳皮質の萎縮が広く見られ、大脳によるグルコース消費が低下し、頭頂葉、側頭皮質、および前頭前皮質における灌流も低下している。
【0062】
アルツハイマー病(AD)の病的特徴の1つは、アミロイドβタンパク質(Aβ)の細胞外沈着に関連した強固な炎症性応答である。小膠細胞はADにおける炎症性応答に関与する、脳内で優勢な免疫細胞である。インターロイキン-1β、IL-6、および腫瘍壊死因子、ならびに他の神経毒性因子などの炎症性サイトカインの作用による小膠細胞の活性化は、神経変性性過程に寄与している可能性がある。疫学的研究によると、非ステロイド性抗炎症薬により治療された患者ではADのリスクが低下している可能性が示されており、これは炎症が疾患の進行に寄与している可能性を示唆する。
【0063】
筋萎縮性側索硬化症(ALS):ALS(ルー・ゲーリッグ病、シャルコー症候群)は最も一般的な運動神経疾患である。患者には、手(最も一般的)または足の痙攣、脱力、筋萎縮からなる不規則で非対称性の症状が現れる。その後まもなく、線維束性攣縮、痙性、深部腱反射の亢進、伸展性足底反射、ぎこちなさ、動作の硬直、体重減少、疲労、ならびに表情および舌の動きの制御困難が続く。他の症状には、嗄声、嚥下困難、不明瞭な発語、および液体に咽をつまらせる傾向が含まれる。疾患の後期には、不適切、不随意、かつ制御不能な、過剰な笑いまたは泣き(偽延髄麻痺感情)が起きる。死は通常は呼吸筋の機能不全による。
【0064】
実験的証拠は、小膠細胞などの非ニューロン細胞が運動ニューロンの消滅に寄与しているという、ALS神経変性モデルを支持している。疾患の進行の間に、脊髄の小膠細胞が活性化され、炎症を起こしたALS組織内にある近くの高分子および細胞に酸化的傷害を与える能力を獲得する可能性がある。小膠細胞症、NADPHオキシダーゼの上方制御、およびタンパク質のカルボニル化の証拠も、ヒトの孤発性ALS症例の検死の脊髄で観察されており、炎症を介した酸化的傷害の発生も、一般的な非家族性、孤発性のALSの病的顕著な特徴であるという結論を支持する。
【0065】
関節リウマチは、末梢関節の通常は左右対称の炎症によって特徴づけられる慢性の症候群であり、関節および関節周囲の構造の進行性の破壊に進む可能性があり、全身に症状が発現する場合としない場合がある。原因は不明である。遺伝的素因が同定されており、白人集団では、クラスII組織適合性遺伝子のHLA-DRβ1遺伝子座にあるペンタペプチドと突き止められている。環境要因も役割を果たしている可能性がある。免疫的な変化は、複数の要因により開始される可能性がある。全人口の約0.6%は罹患しており、女性が男性の2から3倍である。発病齢はいずれもあり得るが、最も多いのは25才から50才の間である。
【0066】
病因に重要である可能性のある顕著な免疫学的異常には、関節液細胞および脈管炎に見られる免疫複合体が含まれる。形質細胞はこれらの複合体に寄与する抗体を産生する。滑膜組織に浸潤するリンパ球は、主にTヘルパー細胞であり、これは炎症性サイトカインを産生できる。マクロファージおよびそのサイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)も、罹患した滑膜に豊富にある。接着分子の増加は、炎症細胞の遊出および滑膜組織における保持に寄与する。マクロファージ由来の内側を覆う細胞の増加は、いくらかのリンパ球および血管の変化とともに、疾患初期に顕著である。
【0067】
慢性的に罹患した関節では、滑膜の内側を覆う細胞の数およびサイズの増加ならびにリンパ球および形質細胞のコロニー形成のゆえに、正常なら繊細な滑膜が多くの絨毛ひだを発生し、肥厚する。内側を覆う細胞は、軟骨破壊に寄与し得るコラゲナーゼおよびストロメライシン;リンパ球の増殖を刺激するインターロイキン-1;ならびにプロスタグランジンを含む様々な物質を産生する。浸潤細胞は、最初は細静脈周囲であるが後に胚中心とリンパ濾胞を形成し、インターロイキン-2、他のサイトカイン、RF、および他の免疫グロブリンを合成する。フィブリン沈着、線維化、および壊死も存在する。肥厚性滑膜組織(パンヌス)は、軟骨、軟骨下骨、関節包、および靭帯を侵食することがある。PMNは滑膜には顕著ではないが、往々にして滑液で優勢である。
【0068】
発病は通常潜行性で、進行性に関節が関与するが、急速な場合もあり、同時に複数の関節が炎症を起こす場合もある。ほぼ全ての炎症を起こした関節における圧痛は、最も感度の高い肉体的所見である。最も特異的な肉体的所見である滑膜の肥厚は、最終的に大部分の関与する関節に起きる。小さな手関節(特に近位指節間関節および中手指節関節)、足関節(中足指節関節)、手首、肘、および足首の対象的関与が典型的であるが、最初の発現はいずれの関節にも起こり得る。
【0069】
SLE。全身性エリテマトーデス(SLE)はポリクローナルB細胞の活性化により特徴づけられる自己免疫疾患であり、結果として様々な抗タンパク質および非タンパク質自己抗体が生じる(疾患の総説についてはKotzin et al., (1996) Cell 85: 303-306を参照されたい)。これらの自己抗体は免疫複合体を形成して、複数の臓器系に沈着して組織の傷害を生じる。SLEは研究が困難な疾患であり、増悪および寛解で特徴づけられる変動する経過をたどる。例えば、一部の患者は主に皮膚の発疹および関節痛を示し、自然寛解し、薬剤はほとんど必要ない。スペクトルの逆の端には、重症で進行性の腎臓の関与(糸球体腎炎)を示し、高用量のステロイドおよびシクロフォスファミドなどの細胞毒性のある薬剤を必要とする患者が含まれる。
【0070】
SLEの進行には複数の要因が寄与する。組織適合性抗原HLA-DR2およびHLA-DR3を含むいくつかの遺伝子座が感受性に寄与している。この遺伝的素因の多遺伝子性の性質、および環境因子の寄与は、一卵性双生児で25〜60%の間という中程度の一致が見られることにより示唆される。
【0071】
自己抗体産生の起源については、多くの原因が示唆されてきた。T細胞が抗dsDNA抗体の分泌を助けるという提唱された機序には、T細胞による、ヒストンなどのDNA結合タンパク質抗原の認識、およびクラスII MHCと結合した抗DNA抗体由来ペプチドの認識が含まれる。抗体のクラスも要因となっている可能性がある。NZB/NZWマウスの遺伝性狼瘡では、陽イオン性IgG2a抗2本鎖(ds) DNA抗体は病原性である。これらのマウスにおけるIgMからIgGへの自己抗体分泌の移行は、約6か月齢で起き、T細胞はIgG産生の調節に重要な役割を果たしている可能性がある。
【0072】
疾患の発現は、免疫複合体の沈着、白血球性血栓、または血栓のために繰り返す血管損傷の結果として起きる。さらに、細胞障害性抗体は、自己免疫性溶血性貧血および血小板減少症を媒介する可能性があり、特定の細胞性抗原に対する抗体は、細胞の機能を乱す可能性がある。後者の例は、抗ニューロン抗体と神経精神病的SLEの間の関連である。
【0073】
アテローム性動脈硬化症。アテローム斑は、蓄積した細胞内および細胞外脂質、平滑筋細胞、結合組織、ならびにグリコサミノグリカンからなる。マクロファージはアテローム性動脈硬化症の発生に不可欠である。修飾または酸化されたLDLは単球にとって走化性であり、単球の内膜への移動、脂肪線条における早期の出現、ならびにマクロファージへの転換および内膜下区画でのその保持を促進する。マクロファージ表面のスカベンジャー受容体は、これらの細胞への酸化LDLの取り込みを促進し、これを脂質の多いマクロファージと泡沫細胞に移す。酸化LDLも内皮細胞に対して細胞毒性を持ち、より進行した病変でのその機能不全または損失に関与している可能性がある。
【0074】
慢性的内皮損傷の仮説は、様々な機序による内皮の損傷は、内皮の損失、内皮下層への血小板の接着、血小板の凝集、単球およびT細胞リンパ球の走化性、ならびに血小板由来および単球由来の成長因子の放出を引き起こし、これにより平滑筋細胞の中膜から内膜への移動が誘導され、そこで複製が起こり、結合組織とプロテオグリカンが合成され、線維性斑が形成されると仮定する。他の細胞、例えば、マクロファージ、内皮細胞、動脈平滑筋細胞も、平滑筋の肥厚および細胞外マトリックスの産生に寄与し得る成長因子を産生する。
【0075】
内皮の機能不全には、リポタンパク質および他の血漿成分に対する内皮の透過性の上昇、接着分子の発現、ならびに単球、マクロファージ、およびTリンパ球の接着の増加を誘導する成長因子の生産が含まれる。これらの細胞は、内皮を通過して、内皮下層に入り込むことができる。泡沫細胞も、平滑筋細胞の移動を促進し新生内膜の増殖を刺激する成長因子およびサイトカインを放出し、脂質の蓄積を継続し、かつ内皮細胞の機能不全を支持する。臨床および実験室の研究では、アテロームの開始、進行、および不安定化に炎症が主要な役割を果たしていることが示されている。
【0076】
「自己免疫」仮説は、アテローム性動脈硬化症の最初の段階に特徴的な炎症性免疫学的過程は、内因性抗原に対する液性および細胞性免疫反応によって開始されると仮定する。ヒトHsp60の発現そのものは、高血圧などのアテローム性動脈硬化症のリスク因子であることが公知のいくつかのストレス因子によって惹起された損傷に対する応答である。酸化LDLはアテローム性動脈硬化症の自己抗原の別の候補である。oxLDLに対する抗体は、アテローム性動脈硬化症の患者で検出されており、アテローム病変に見つかっている。ヒトのアテローム病変から単離したT細胞は、oxLDLに応答し、細胞性免疫応答における主要な自己抗原であることが示されている。アテローム性動脈硬化症に関連すると提唱されている第3の自己抗原は、2-グリコプロテインI(2GPI)であり、これはインビトロで抗凝固剤として作用する糖タンパク質である。2GPIはアテローム斑に見つかり、2GPIによる超免疫化または2GPI反応性T細胞の移入は、アテローム性動脈硬化症になりやすいトランスジェニックマウスにおいて、脂肪線条の形成を増強した。
【0077】
感染は、炎症および自己免疫の両方を誘導することによりアテローム性動脈硬化症の発達に寄与する可能性がある。多数の研究が、アテローム性動脈硬化症におけるウイルス(サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、A型肝炎)および細菌(クラミジア肺炎病原体(C. pneumoniae)、ヘリコバクターピロリ(H. pylori)、歯周病原体)の両方の感染因子の役割を示してきた。最近、新しい「病原体負荷」仮説が提唱されたが、これは複数の感染因子がアテローム性動脈硬化症に寄与し、感染により与えられる心血管疾患のリスクは、個体が曝露した病原体の数に関連していることを示唆する。単一の微生物では、クラミジア肺炎病原体はおそらくアテローム性動脈硬化症と最強の関連を持っている。
【0078】
これらの仮説は深いつながりがあり、相互排除的ではない。修飾されたLDLは培養内皮細胞に対して細胞毒性を持ち、内皮の損傷を誘導し、単球およびマクロファージを引きつけ、かつ平滑筋の成長を誘導する可能性がある。修飾されたLDLはマクロファージの移動性も阻害し、そのため一旦マクロファージが内皮下腔で泡沫細胞に転換するとそこで動けなくなる可能性がある。さらに、再生する内皮細胞(損傷後)は、機能的に損なわれており、血漿からのLDLの取り込みが増加している。
【0079】
アテローム性動脈硬化症は、決定的な狭窄、血栓症、動脈瘤、または塞栓が続発するまで潜伏性であるという特徴がある。最初は、症状および兆候は、例えば、運動時狭心症、間欠性跛行など、患部組織への血流が需要とともに増加することができないことを反映する。一般に、症状および兆候は、アテロームが血管内腔をゆっくりと侵害するにつれ、徐々に進行する。しかし、主要な動脈が急性閉塞を起こすと、症状および兆候は劇的である場合がある。
【0080】
現在、適切な診断戦略がないため、冠動脈疾患の患者の半分以上では、最初の臨床所見は心筋梗塞または死亡である。予防および治療の更なる進歩は、アテローム性疾患の病因の基礎である、血管壁における一次性炎症過程に注目した戦略の開発に依存する。
【0081】
治療薬
本発明の1つの態様では、αBクリスタリン活性の調節物質、例えば、αBCポリペプチド、αBCをコードする核酸、および同様なものは、関節リウマチを含む炎症性疾患、およびMSなどの脱髄性自己免疫疾患の治療に使用される。
【0082】
本発明の方法で使用され得るαBクリスタリンポリペプチドは、αBクリスタリンタンパク質またはその修飾物のアミノ酸を少なくとも約50アミノ酸、通常は少なくとも約100アミノ酸、少なくとも約150アミノ酸、少なくとも約160アミノ酸、少なくとも約170アミノ酸を含み、最高で175アミノ酸まで含む可能性があり、提供された配列に加えて、当業者に公知の融合ポリペプチドもさらに含む可能性がある。αBクリスタリン配列は、任意の哺乳類または鳥類、例えば、霊長類、特にヒト;マウス、ラットおよびハムスターを含む齧歯類;ウサギ;ウマ、ウシ、イヌ、ネコ;等でよい。特に関心対象となるのはヒトのタンパク質である。
【0083】
本発明のいくつかの態様では、αBCタンパク質、またはその機能的断片は、患者に投与される。本発明で有用なαBCポリペプチドは、誘導体、変異体、および天然に存在するαBCポリペプチドの生物学的に活性な断片、および同様なものを含む。「変異体」ポリペプチドとは、天然の配列を持つポリペプチドと100%未満の配列の同一性を持つ、以下に定義される生物学的に活性なポリペプチドを意味する。そのような変異体は、天然の配列のNもしくはC末端、またはその中に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチド;約1から40アミノ酸残基が欠失したポリペプチドであって、1つまたは複数のアミノ酸残基が置換されていても良いポリペプチド;および上記ポリペプチドの誘導体であって、アミノ酸残基が共有結合により修飾されており、得られた産物が天然に存在しないアミノ酸であるもの、を含む。通常は、生物学的活性のある変異体は、天然の配列を持つポリペプチドと少なくとも90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約99%のアミノ酸配列の同一性を持つ。
【0084】
上述のαBクリスタリンの配列は、当技術分野において公知の様々な様式で改変し、配列中に標的を定めた変更を生成することができる。配列の変更は、置換、挿入または欠失であってよい。そのような改変は、安定性、特異性等に影響を与えることによりタンパク質の性質を改変するために用いられる可能性がある。クローニングされた遺伝子のインビトロ突然変異生成の技術は公知である。変異の探査のプロトコールの例は、Gustin et al., Biotechniques 14:22 (1993); Barany, Gene 37:111-23 (1985); Colicelli et al., Mol Gen Genet 199:537-9 (1985); およびPrentki et al., Gene 29:303-13 (1984)に見出される。位置指定突然変異導入の方法は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press 1989, pp. 15.3-15.108; Weiner et al., Gene 126:35-41 (1993); Sayers et al., Biotechniques 13:592-6 (1992); Jones and Winistorfer, Biotechniques 12:528-30 (1992); Barton et al., Nucleic Acids Res 18:7349-55 (1990); Marotti and Tomich, Gene Anal Tech 6:67-70 (1989); およびZhu Anal Biochem 177:120-4 (1989)に見出される。
【0085】
ペプチドは、様々な目的のために、広範囲の他のオリゴペプチドまたはタンパク質と結合できる。本ペプチドの発現を提供することにより、様々な発現の修飾が可能になることがある。例えば、適切なコード配列を利用することにより、ファルネシル化またはプレニル化が提供できる可能性がある。ペプチドはPEG化されていても良く、ここでポリエチレンオキシ基は血流中の寿命を延長する。ペプチドは、融合タンパク質中で他のタンパク質と組み合せる、典型的にはここで2つのタンパク質は、IgGアイソタイプのFcのように通常は結合していないが結合を補完する可能性がある;リシン、アブリン、ジフテリア毒素、および同様なものなどの毒素と組み合せる;または標的細胞上の特異的な部分にターゲティングできるように特異的な結合剤と組み合せることができる。
【0086】
αBCは別のポリペプチドと融合させて付加的機能を提供する、例えば、インビボでの安定性を増加することができる。一般にそのような融合パートナーは安定な血漿タンパク質であり、例えば、融合タンパク質として存在すると、特にそのような安定な血漿タンパク質が免疫グロブリンの定常領域である場合には、αBCのインビボでの血漿中の半減期を延長する可能性がある。
【0087】
大部分の場合、安定な血漿タンパク質は通常は多量体の形で見られ、例えば、免疫グロブリンまたはリポタンパク質、ここでは同一または異なるポリペプチド鎖が通常はジスルフィド結合および/または共有結合して、集合した複数鎖のポリペプチドを形成するが、この点でαBCを含む融合タンパク質も、安定した血漿タンパク質前駆体と実質的に同一の構造を持つ多量体として産生および利用される。これらの多量体に含まれているαBCは均一であるか、または複数のαBCが含まれている可能性がある。
【0088】
安定な血漿タンパク質は典型的には約30から2,000残基を持つタンパク質であって、その天然の環境では、血液循環中で長い半減期、すなわち、約20時間以上を持つ。適当な安定な血漿タンパク質の例は、免疫グロブリン、アルブミン、リポタンパク質、アポリポタンパク質、およびトランスフェリンである。αBCは典型的には、血漿タンパク質、例えば、IgGに、血漿タンパク質またはαBCに半減期の延長を与える能力のあるその断片の、N末端で融合する。αBCの血漿半減期が約100%以上増加すれば満足できる。通常は、αBCのC末端が、免疫グロブリンの定常領域のN末端に、可変領域の代わりに融合されるが、N末端の融合タンパク質も使用できる可能性がある。
【0089】
典型的には、そのような融合タンパク質は、免疫グロブリンのH鎖の定常領域の少なくとも機能的に活性なヒンジ、CH2、およびCH3領域を保持しているが、そのようなH鎖にはIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、およびIgD、IgGクラスのタンパク質の1つまたは組み合せが含まれる可能性がある。融合タンパク質は、定常領域のFc部分のC末端、またはH鎖のCH1もしくはL鎖の対応する領域のすぐN末端にも作製できる。これは通常は、適当なDNA配列を作製して、組換え細胞培養中で発現させることにより達成できる。または、ポリペプチドは公知の方法にしたがって合成しても良い。
【0090】
融合タンパク質を作製する部位は、αBCの生物学的活性、分泌、または結合特性を最適化するために選択できる。いくつかの態様では、融合タンパク質は抗体によって認識されるαBCの免疫エピトープを含む。最適な部位は、通常の実験で決定される。
【0091】
いくつかの態様では、ハイブリッドの免疫グロブリンは、単量体、またはヘテロもしくはホモ多量体として、および特に2量体もしくは3量体として集合する。一般に、これらの集合した免疫グロブリンは公知のユニット構造を持つ。基本の4つの鎖の構造ユニットは、IgG、IgD、およびIgEが存在する形態である。4鎖ユニットは、分子量がより大きい免疫グロブリンでも繰り返される;IgMは一般に4鎖ユニットをジスルフィド結合で合わせた5量体として存在する。IgA免疫グロブリン、および時にはIgG免疫グロブリンも、血清中では多量体の形で存在する場合がある。多量体の場合には、各4つの鎖は同一でも異なっても良い。
【0092】
本方法で使用するαBクリスタリンは、真核細胞もしくは原核細胞で産生、またはインビトロで合成することができる。タンパク質が原核細胞で産生される場合は、折畳みの展開、例えば、熱変性、DTT還元等を行なうことにより加工し、当技術分野で公知の方法を用いてさらに再折畳みを行なっても良い。
【0093】
一次配列を改変しない関心対象の修飾には、ポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アシル化、アセチル化、カルボキシル化、アミド化等が含まれる。グリコシル化の修飾、例えば、合成および加工の間にポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによる、または更なる加工プロセス;例えば、哺乳類のグリコシル化もしくは脱グリコシル化酵素などのグリコシル化に影響を与える酵素にポリペプチドを曝露することによるグリコシル化の修飾も含まれる。また、リン酸化アミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホスレオニン、を含む配列も含まれる。
【0094】
タンパク質分解に対する抵抗性を改善する、または溶解性を最適化する、または治療薬としてより適切にするために、通常の分子生物学技術および合成化学を用いて修飾されたポリペプチドも、本発明に含まれる。そのようなポリペプチドのアナログには、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸、または天然に存在しない合成アミノ酸を含むポリペプチドがある。D-アミノ酸はアミノ酸残基の一部または全てを置換する可能性がある。
【0095】
本ポリペプチドは、当技術分野で公知の従来法を用いてインビトロで合成することによって調製できる。様々な合成装置が市販されており、例えば、Applied Biosystems, Inc.、Foster City、CA、Beckman等の自動合成装置がある。合成装置を使用することにより、天然に存在するアミノ酸を天然ではないアミノ酸で置き換えることができる。特定の配列および調製の様式は、利便性、経済性、必要な純度、および同様なものによって決定される。
【0096】
必要に応じて、合成または発現の際に様々な基をペプチドに導入でき、それにより他の分子または表面に連結することが可能になる。したがってチオエーテルを作製するためにシステイン、金属イオン錯体を作製するためにヒスチジン、アミドまたはエステルを形成するためにカルボキシル基、アミドを形成するためにアミノ基、および同様なものを用いることができる。
【0097】
ポリペプチドは組換え合成の従来の方法にしたがって単離および精製してもよい。発現宿主から溶解液を調製し、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、または他の精製技術を用いて溶解液を精製することができる。大部分の場合、産物の調製および精製の方法に関連する不純物と比較して、使用される組成物の重量の少なくとも20%は所望の産物であり、より一般的には重量の少なくとも約75%、好ましくは重量の少なくとも約95%、および治療の目的では通常、重量の少なくとも約99.5%である。通常は、パーセントはタンパク質の総量に基づく。
【0098】
本発明の1つの態様では、αBクリスタリンポリペプチドは基本的に、長さが少なくとも175アミノ酸で、上記のαBクリスタリンの配列を持つポリペプチド配列からなる。本明細書に記載されるポリペプチドの文脈において「基本的に〜からなる」というのは、ポリペプチドはαBクリスタリン配列から構成されるが、この配列は、ポリペプチドの基本的特性に重大な影響を与えない1つまたは複数のアミノ酸または他の残基に隣接されていてもよいことを意味する。
【0099】
本発明はαBクリスタリンポリペプチドをコードする核酸を含む。上記のαBクリスタリンポリペプチドをコードする核酸配列は、公的データベースでアクセスすることができる。更なるαBクリスタリンは、DNAライブラリーまたは生体試料を用いて、公知のαBクリスタリン配列に高度に類似したDNA配列を従来の方法でスクリーニングして同定できる。関心対象のポリヌクレオチドは基本的に、αBクリスタリンタンパク質のアミノ酸を少なくとも約50アミノ酸、通常は少なくとも約100アミノ酸、少なくとも約150アミノ酸、少なくとも約160アミノ酸、少なくとも約170アミノ酸を含み、最高で175アミノ酸まで含む可能性があるポリペプチド配列を含むポリペプチドをコードするものを含む。そのようなポリヌクレオチドは、例えば転写開始、停止、翻訳、プロモーター等の制御配列に機能的に連結していても良い。ポリヌクレオチドは融合ポリペプチド配列と結合したαBクリスタリンコード配列も含む。
【0100】
αBクリスタリンコード配列は、当技術分野で公知の方法、例えば、インビトロ合成、組換え法、により、αBクリスタリンペプチドの生産の中間体となり得るαBクリスタリンポリペプチドに対応するコード配列を提供することにより、作製できる。公知の遺伝コードを用いて、適当なコード配列が生産できる。2本鎖または1本鎖断片は、DNA配列から、従来法に従ったオリゴヌクレオチドの化学合成、制限酵素消化、PCR増幅等によって得られる。
【0101】
αBクリスタリンをコードする核酸は、線状分子として、または環状分子として提供でき、自己複製する分子(ベクター)内部で、または複製配列のない分子内で提供できる。核酸の発現は、それ自身、または当技術分野で公知の他の調節配列によって、調節される。核酸は、トランスフェリンポリカチオンを介したDNA移入、裸のまたは封入された核酸のトランスフェクション、リポソームを介したDNA移入、DNAコートラテックスビーズの細胞内輸送、プロトプラスト融合、ウイルス感染、エレクトロポレーション、電子銃、リン酸カルシウムを介したトランスフェクション、および同様なものなどの、当技術分野で利用できる様々な技術を用いて、適当な宿主細胞に導入できる。
【0102】
発現ベクターを用いて、αBクリスタリンコード配列を細胞に導入できる。そのようなベクターは、通常は、核酸配列の挿入のために、プロモーター配列の近くに好都合な制限部位を持っている。転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製できる。転写カセットは、様々なベクター、例えば、プラスミド;レンチウイルスなどのレトロウイルス;アデノウイルス;および同様なものに導入でき、ベクターは少なくとも約1日、より一般的には少なくとも約数日から数週間の間、細胞内で一時的または安定的に維持されることができる。
【0103】
核酸は、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞の融合を含む、任意の経路によって、組織または宿主に導入できる。Furth et al. (1992) Anal Biochem 205:365-368に記述されるように、筋肉内投与にはジェットインジェクションも使用できる。文献(例えば、Tang et al. (1992) Nature 356:152-154を参照されたい)に記述されるように、DNAを金の微粒子上にコーティングし、粒子ボンバードメント装置または「遺伝子銃」によって皮内に送達することができ、ここでは金の微小発射物をαBクリスタリンまたはDNAでコーティングし、その後、皮膚細胞内に衝突させる。
【0104】
併用により相加的または相乗的恩恵が提供される併用療法も提供される。コルチコステロイドおよび疾患修飾薬を含む、自己免疫疾患の抗原非特異的治療で一般的に使用される1つまたは複数の一般的クラスの薬剤から;または抗原特異的薬剤から選択された第2の物質と、αBクリスタリンを併用することができる。コルチコステロイドは作用発現時間が短いが、多くの疾患修飾薬は、臨床効果を示すまでに数週間または数ヶ月かかる。これらの薬剤には、メトトレキセート、レフルノミド(Arava(商標))、エタネルセプト(Enbrel(商標))、インフリキシマブ(Remicade(商標))、アダリムマブ(Humira(商標))、アナキンラ(Kineret(商標))、リツキシマブ(Rituxan(商標))、CTLA4-Ig(アバタセプト)、抗マラリア薬、金塩、スルファサラジン、d-ペニシラミン、シクロスポリンA、シクロホスファミドアザチオプリン;および同様なものが含まれる。
【0105】
コルチコステロイド、例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、ソルメドロール等は、抗炎症および免疫調節活性の両方を持つ。これらは全身投与または局所注射が可能である。コルチコステロイドは、疾患修飾薬がその効果を発揮するまで待つ間に、一時的な補助療法として疾患初期に有用である。コルチコステロイドは、重症の疾患の患者において、慢性的な補助療法としても有用である。
【0106】
疾患修飾抗リウマチ薬DMARDは、RAにおいて疾患の経過を改変し、X線検査上の転帰を改善することが示されている。当業者は、これらの薬は他の自己免疫疾患の治療にも使用されることを理解するだろう。
【0107】
メトトレキセート(MTX)は短い作用発現時間(4〜6週間)、良好な有効性、好ましい毒性プロファイル、投与の容易さ、および低いコストのために、往々にしてファーストラインとして使用される。MTXは5年後にも患者の大部分が継続して使用している唯一の従来型DMARDである。MTXはRAの兆候および症状の低下、ならびにX線検査上の傷害の遅延または停止に有効である。MTXの免疫抑制効果および細胞毒性効果は、部分的にはジヒドロ葉酸還元酵素の阻害によるものであるが、関節リウマチにおける抗炎症効果は、少なくとも一部はアデノシンおよびTNF経路の妨害に関連していると考えられる。作用発現時間は4〜6週間で、患者の70%は何らかの応答を示す。3〜6ヶ月の試験が示唆されている。
【0108】
抗原特異的治療法には、抗原またはエピトープ特異的治療薬の投与が含まれる。MSでは、αBクリスタリンを標的とする自己抗体(図5)はαBCの保護的免疫阻害効果をブロックし、疾患の重症度を増悪する可能性がある。その結果、1つの重要な治療アプローチは、αBクリスタリンに対する抗原特異的寛容を誘導し、αBクリスタリンに対する自己反応性T細胞および自己抗体応答を低下させることである。αBクリスタリンに対する自己抗体の低下は、(i) ミエリン鞘に対する自己免疫による傷害を低下させ、かつ (ii) この負の調節因子が病的な免疫応答および組織破壊を阻害することを可能にして、MSにおいて恩恵を提供すると考えられる。
【0109】
免疫寛容を誘導する1つの方法は、寛容化DNAワクチン(Garren et al. (2001) Immunity, 15:15-22; Robinson et al. (2003) Nature Biotechnology 21:1033-9)である。寛容化DNAワクチンは、哺乳類細胞においてコードされたcDNAの発現に必要な調節領域を含むDNAプラスミドであり、コードされたエピトープに対する免疫寛容を誘導するために、αBクリスタリンの全体または一部をコードするcDNA配列を含むように操作できる。そのようなプラスミドが免疫寛容を誘導する能力を増強するために、プラスミドベクターの免疫刺激性CpG配列(Krieg et al. (1998) Trends Microbiol. 6:23-27)の数を減らす、またはこれを完全に除去することができる。さらに、免疫阻害性GpG配列をベクターに加えることもできる(Ho et al. (2005) J. Immunology, 175:6226-34を参照されたい)。αBクリスタリンをコードする寛容化DNAプラスミドは、αBクリスタリンに対する免疫寛容を誘導するために、筋肉内に送達され、それにより抗αBクリスタリンT細胞および自己抗体応答を減少させて、ミエリン鞘の自己免疫性破壊を減少させ、かつαBクリスタリンの保護効果をブロックする自己抗体を減少させる。
【0110】
別の方法として、またはDNA寛容に加えて、自己免疫を治療するために抗原特異的寛容を誘導するために、特異的ペプチド、改変したペプチド、またはタンパク質を治療のために投与することができる。自己免疫応答によって標的とされる天然のペプチドは、抗原特異的寛容を誘導するために送達できる(Science 258:1491-4)。天然のペプチドは、免疫寛容を誘導するために静脈内に投与された(J Neurol Sci. 152:31-8)。天然のペプチドから改変されたペプチドの送達も、当技術分野で公知である。鍵を握る残基の選択的な変更による天然ペプチドの改変は(改変したペプチドリガンドまたは「APL」)、抗原特異的な自己反応性T細胞に非応答性を誘導する、またはその応答性を変更できる。別の態様では、自己免疫病の治療のために、自己免疫応答で標的となるタンパク質抗原全体を送達して、免疫寛容を回復できる(Science 263:1139)。
【0111】
薬学的組成物
活性ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、上記の様々な疾患の治療のために調合した薬学的組成物の活性成分として働き得る。活性成分は、薬学的な有効量で存在する、すなわち、投与されたときに、疾患またはそれが媒介する医学的状態を治療するために、標的タンパク質またはポリペプチドの効果を実質的に調節するのに充分な量で存在する。該組成物は、送達および有効性を増強するための、例えば、活性成分の送達および安定性を増強するための、様々な他の物質も含み得る。
【0112】
したがって、例えば、組成物は、望ましい剤形によって、薬学的に許容される、非毒性担体または希釈剤も含む可能性があり、これは動物またはヒトへの投与のための薬学的組成物を調合するために一般的に使用されるビヒクルと定義される。希釈剤は、混合物の生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、緩衝液、生理食塩水、PBS、リンゲル溶液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。また、薬学的組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫原性安定剤、賦形剤、および同様なものを含み得る。組成物は、生理的状態に近づけるために、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤、湿潤剤、ならびに界面活性剤などの、別の物質も含み得る。組成物は、抗酸化剤などといった、様々な安定化剤の任意のものも含み得る。
【0113】
薬学的組成物が活性成分としてポリペプチドを含むときは、該ポリペプチドは該ポリペプチドのインビボでの安定性を増強する、または他の様式でその薬学的特性を増強する(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する、その毒性を低下する、溶解性または取り込みを増強する)、様々な周知の化合物と複合体を形成することができる。そのような修飾または複合体形成剤の例には、硫酸塩、グルコン酸塩、クエン酸塩、およびリン酸塩が含まれる。組成物のポリペプチドは、インビボの属性を増強する分子と複合体を形成することもできる。そのような分子には、例えば、炭化水素、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)、および脂質が含まれる。
【0114】
様々なタイプの投与に適した製剤に関する更なる手引は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、17th ed. (1985)に見出され得る。薬剤送達のための方法の簡単な総説は、Langer, Science 249:1527-1533 (1990)を参照されたい。
【0115】
薬学的組成物は、予防および/または治療のために投与できる。活性成分の毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療有効性のある用量)の決定を含め、細胞培養および/または実験動物における標準的な薬学的手順に従って決定できる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、LD50/ ED50という比で表現できる。治療指数の大きい化合物が好ましい。
【0116】
細胞培養および/または動物試験から得られたデータは、ヒトへの投薬量の範囲を計算する際に使用できる。活性成分の投薬量は、典型的には、ED50を含むが毒性はほとんどまたは全くない循環濃度の範囲内にある。投薬量は、採用する剤形および利用する投与経路に依存して、この範囲内で変動し得る。
【0117】
本明細書に記述される薬学的組成物は、様々な異なる方法で投与できる。例には、薬学的に許容できる担体を含む組成物を、経口、経鼻、直腸、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、髄腔内、または頭蓋内の方法で投与することが含まれる。
【0118】
経口投与のためには、活性成分はカプセル、錠剤、および粉末などの固形の剤形、またはエリキシル、シロップ、および懸濁液などの液体の剤形で投与できる。活性成分は、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、でんぷん、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどの不活性な成分および粉末の担体と共にゼラチンカプセルに封入できる。望ましい色、味、安定性、緩衝能力、分散度または他の公知の望ましい特徴を提供するために添加できる更なる不活性成分の例は、弁柄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、および食用白インクである。同様の希釈剤を用いて、圧縮錠を作製できる。錠剤およびカプセルのいずれも、何時間にもわたる薬剤の継続的な放出を提供するために、持続性製剤として生産できる。圧縮錠は、不愉快な味を隠し、大気から錠剤を守るために糖衣錠もしくはフィルムコート錠、または胃腸管で選択的に崩壊するように腸溶剤であり得る。経口投与のための液体製剤は、患者による受容を良くするために、着色料または香味料を含むことがある。
【0119】
活性成分は、単独でまたは他の適当な成分と組み合わせて、吸入による投与のために、エアロゾル製剤にしてもよい(すなわち、「噴霧化」してもよい)。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などといった加圧された許容される噴霧剤中に入れることができる。
【0120】
直腸投与に適した製剤には、例えば、座薬基剤と共に詰められた活性成分を含む座薬が含まれる。適当な座薬基剤には、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン属炭化水素が含まれる。さらに、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン属炭化水素を含む基剤と詰められた活性成分の組み合せを含む、ゼラチン直腸用カプセルを用いることも可能である。
【0121】
例えば、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下の経路などの非経口投与に適当な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤、および製剤を意図される受容者の血液と等張にする溶質を含み得る、水性および非水性の等張無菌注射液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存料を含み得る、水性および非水性無菌懸濁液が含まれる。
【0122】
薬学的組成物を調合するために使用される成分は、好ましくは高純度であり、有害な可能性のある汚染物質は実質的に含まない(例えば、少なくともNational Food (NF)グレード、一般的に少なくとも分析グレード、およびより典型的には少なくとも医薬品グレード)。さらに、インビボでの使用が意図される組成物は、好ましくは無菌である。使用の前に所与の化合物が合成される必要がある限りにおいて、得られる産物は好ましくは、合成または精製過程で存在する可能性のある任意のエンドトキシンなどのいかなる潜在的な毒性物質も、実質的に含まない。非経口投与のための組成物も、好ましくは無菌で、実質的等張であり、GMP条件下で製造される。
【0123】
αBクリスタリン発現の調節
αBクリスタリン遺伝子、遺伝子断片、またはコードされるタンパク質もしくはタンパク質断片は、炎症性疾患の治療のための遺伝子療法に有用である。発現ベクターは、αBクリスタリンコード配列を細胞に導入するために使用できる。そのようなベクターは一般に、核酸配列の挿入に備えるために、プロモーター配列の近くに好都合な制限部位を持っている。転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製することができる。転写カセットは様々なベクター、例えば、プラスミド;レンチウイルスなどのレトロウイルス;アデノウイルス;および同様のものに導入でき、そこでベクターは細胞中で、通常は少なくとも約1日、より好ましくは少なくとも約数日から数週間の間、一時的または安定的に維持されることができる。
【0124】
遺伝子は、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞の融合を含む任意のいくつかの方法によって、組織または宿主細胞に導入できる。Furth et al. (1992) Anal Biochem 205:365-368によって記述されたように、筋肉内投与にはジェットインジェクションも使用できる。DNAを金の微粒子上にコーティングし、文献(例えば、Tang et al. (1992) Nature 356:152-154を参照されたい)に記述されるように、粒子ボンバードメント装置または「遺伝子銃」によって皮内に送達しても良く、ここでは金の微小発射物はDNAでコーティングされ、皮膚細胞に衝突される。
【0125】
治療方法
αBC組成物は、炎症性疾患の重症度を低下させるために充分な期間にわたり、1回の投与または複数回の投与で、通常は、例えば毎日、隔日、毎週、隔週、毎月等の一定期間をかけた複数回投与で投与でき、これは1、2、3、4、6、10、またはそれ以上の投与回数を含む可能性がある。
【0126】
αBC活性を提供する薬剤の治療または予防に有効な量の決定は、通常のコンピュータ法を用いて動物データに基づいて可能である。1つの態様では、治療または予防に有効な量は、約0.1 mg〜約1 gの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。別の態様では、有効な量は、約1 mg〜約100 mgの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。さらに別の態様では、有効な量は、約10 mg〜約50 mgの間の核酸またはタンパク質を適宜含む。有効な投与量は、少なくとも一部は、投与経路に依存する。薬剤は、経口で、エアロゾルスプレーで;例えば、筋肉内、皮下、腹腔内、静脈内等の注射で、投与できる。いくつかの態様では、静脈内以外の投与方法が好ましい。用量は、約0.1μg/kg患者体重から;約1μg/kg;約10μg/kg;約100μg/kgまでであり得る。
【0127】
αBC組成物は薬学的に許容される賦形剤中で投与される。「薬学的に許容される」という用語は、製薬および獣医学の技術分野で使用するために許容される賦形剤であって、毒性でもそれ以外の許容されないものでもないことを指す。薬学的製剤中の本発明のαBC組成物の濃度は、大きく変動する可能性があり、すなわち、重量で約0.1%未満から、通常は約2%または少なくとも約2%から、20%から50%またはそれ以上までである可能性があり、選択された特定の投与様式にしたがって、主に液体の容積、粘性等によって選択される。
【0128】
疾患または障害の治療、処置または治療法とは、αBC組成物の投与によって、疾患の進行を遅らせる、停止させる、または逆行させることを意味する。好ましい態様では、疾患を治療することは、疾患の進行を、理想的には疾患そのものを除去する程度まで、逆行させることである。本明細書では、疾患を寛解させることと、疾患を治療することは同等である。本発明の文脈で使用される疾患または障害の予防または予防法とは、疾患もしくは障害、もしくは疾患もしくは障害の一部もしくは全ての症状の、発生もしくは発病を防止するために、または、疾患もしくは障害の発病の可能性を低下させるために、αBC組成物を投与することを指す。
【0129】
本発明は以下の実施例を参照することによりさらに良く理解されるが、本発明は後に添付された特許請求の範囲によってさらに充分に記述されているので、当業者は、詳述された情報は、本発明の例証に過ぎないことを容易に理解するだろう。
【0130】
実験
結果
本発明者らはまず、CFA中に入れたMOG 35-55により免疫されたαBCヌルマウス(αBC-/-マウス)においてEAEを調べた。これらのマウスは、特に疾患のピークおよび疾患の後期段階において、129S6野生型(WT)動物と比較して、より重症のEAEを示した(図1A)。この差は、疾患の急性期(14日目)および進行期(42日目)の両方において、αBCヌル動物の脳および脊髄において、より重症の炎症および脱髄化を伴っていた(表1、図7)。
【0131】
(表1)EAEを持つWTおよびαBC-/-マウスの脳および脊髄における炎症性浸潤物の定量
値は平均(s.e.m);*はWT対応物との有意差p<0.05を表す;n=4
【0132】
αBC-/-動物において、より悪化した疾患に寄与した可能性のある、細胞死の増加があるかどうかを決定するために、本発明者らはWTおよびαBC-/-ヌルEAEマウスから得られた脳および脊髄について、切断および未切断カスパーゼ-3の免疫染色をした。WT動物と比較すると、αBC発現を欠くマウスは、急性期(14日目)(図8)および後期(42日目)(図1G〜H)に脳、および特に脊髄の炎症性病変部に未切断カスパーゼ-3(図1G〜H)の免疫染色が増加していた。切断されたカスパーゼ-3の発現は、EAEを持つWTおよびαBC-/-マウスの両方において、42日後にのみ観察された。αBC-/-マウスでは、大きな核と豊富な細胞質を持つ細胞において染色が増加していたが、これらは白質の膠細胞と形態学的に一致しており、免疫細胞では免疫陽性の細胞はほとんどなかった(図1 E、F)。アポトーシスと切断されたカスパーゼ-3の発現とを相関させるため、後期EAEのマウスのCNS組織に対してTUNEL染色を行なった。EAEを持つWT動物の大部分のTUNEL陽性細胞は、典型的な濃密な核染色を示し(図11)、一方、αBC-/-マウスのTUNEL陽性細胞は、より数が多く、より豊富な細胞質染色を持つ陽性細胞の割合が多かったことにより、これらが膠細胞であることが示唆される(図1J)。これらの結果は、αBCがEAEの際にCNSにおける膠細胞のアポトーシスの防止に役割を果たしていることを示唆する。
【0133】
EAEはミエリンタンパク質および脂質に対する病的な免疫応答によって進行する。αBCは抗炎症性の役割を持つ可能性がある。恒常的に発現されるミエリンタンパク質に対する免疫応答も、EAEのαBC-/-マウスにおいて影響を受けるかどうかを決定するため、本発明者らは、αBC-/-マウスとWT動物の、脾臓およびリンパ節から得られたリンパ系細胞の増殖能およびサイトカイン分泌能を比較した。αBC-/- MOG免疫マウスの脾臓細胞およびリンパ節細胞は、WT動物と比較して、増殖能、およびTh1サイトカインであるIL-2、IFN-γ、TNF、IL-12p40の分泌能が有意に高かった(図1B、C)。ヌル動物のこれらの細胞も、より多くのIL-17を分泌していた(図1C)。αBC-/-とWTのいずれにおいても、これらの細胞タイプではTh2サイトカイン(IL-4およびIL-10)は検出できなかった。
【0134】
αBC-/-マウスにおいてEAEの時に応答亢進した特定の細胞タイプを決定するため、T細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)の増殖能およびサイトカイン産生を評価した。脾臓細胞およびリンパ節細胞と同様に、MOG 35-55で刺激されたαBC-/- MOG免疫マウスから得られたCD3+ T細胞は、WTと比較してより多く増殖し(cpm)、より高濃度のIL-2、IFN-γ、およびIL-17(pg/ml)を分泌した(図2A)。ヌル動物から得られたナイーブなCD3+ T細胞も、抗CD3および抗CD28と培養して刺激されると、同様な応答亢進を示した。
【0135】
APCの機能も影響を受けているかどうかを決定するために、チオグリコール酸で処置されたWTおよびαBC-/-マウスからマクロファージを単離し、LPSで刺激した。αBC-/-マウスから得られたマクロファージは、やはり炎症性サイトカインを分泌する能力が上昇しており、より多くのIL-12p40、IL-6、およびIL-1βを放出した。TNF産生には差は見られなかった。興味深いことに、これらの細胞ではIL-10の分泌も増加していた(図3A)。
【0136】
αBCの機能にはMAPキナーゼシグナル伝達経路が関与しているので、本発明者らは、EAEのαBC-/-マウスで見られる免疫細胞の応答亢進にJNK、ERK、またはp38経路が役割を果たしているかどうかを決定した。刺激されたαBC-/- CD3+ T細胞(図2B)およびマクロファージ(図3B)では、全p38およびリン酸化p38の発現が上方制御されていることが分かった。WTとαBC-/-のT細胞およびマクロファージの間ではJNKおよびERK経路の分子の発現には差は見られなかった。これらの結果は、αBC-/-動物では炎症反応が過敏であることを示し、αBCはEAEの際にT細胞およびマクロファージ細胞群の両方に対して抑制効果を持つ可能性を示唆するが、その抑制効果だけでは完全に疾患を抑えるためには不十分である可能性がある。
【0137】
星状細胞は標準的なNF-κB経路を用いて、EAEにおける炎症を調節し、EAEおよびMSの際にαBCの発現を上方制御する。本発明者らはαBC-/-マウスにおいて星状細胞の機能が変化しているかどうかを評価した。αBC-/-子マウスから単離した初代星状細胞は、TNFまたはスタウロスポリンのいずれかの刺激の後48時間で、WT星状細胞と比較して多くのIL-6を産生した(図4A)。αBCは抗アポトーシス作用があるので、本発明者らは、WT星状細胞と比較して、αBC-/-星状細胞が細胞死に至る速度が異なるかどうか評価した。αBCは、プロカスパーゼ-3に結合することによって、カスパーゼ-3の発現を下方制御することにより、細胞をアポトーシスから保護することが示されている。WTとαBC-/-マウスの両方のナイーブな星状細胞は、培養4週間後にカスパーゼ-3を発現した。しかし、αBC-/-マウスから得られたナイーブな星状細胞は、WT細胞と比較して切断されたカスパーゼ-3の発現が異なっており、WT細胞ではこのアポトーシス因子はTNF刺激後でも未切断のままだった。対照的に、TNF刺激の72時間後にはαBC-/-細胞では切断されたカスパーゼ-3の少量の増加が見られた(図4B)。さらに、TNF刺激の有無にかかわらず、ヌル動物から得られた星状細胞ではWT細胞と比較するとTUNEL染色される割合が高く(図4C)、これはαBCが通常の細胞死およびストレス損傷に対して星状細胞を保護していることを示唆する(図4C)。
【0138】
αBC-/-星状細胞において細胞死の増加を媒介しているシグナル伝達機序を決定するために、本発明者らはαBC機能に関与しているMAPキナーゼシグナル伝達経路の発現を評価した。WT動物から得られる星状細胞では、TNF刺激の72時間後にαBCの発現が増加した。これらの細胞でも、p-αBC(p59)の発現は少量増加していたが、p-αBC(Ser 45)はわずかに低下していた(図4B)。ヌルの星状細胞ではαBCは観察されなかった。p38およびERK経路は、様々な細胞においてαBCによって調節されている。αBCはERK経路の活性化を防止することにより、カスパーゼ-3の成熟を阻害し、その結果細胞死を阻害する31。本発明者らはTNF刺激の72時間後に、αBC-/-星状細胞においてp-ERKおよびERKの両方が上方制御されていることを見出した。WT星状細胞でもp-ERKの発現は増加していたが、ERK全体は変化しなかった。TNF刺激の後でヌル星状細胞においてp38も上方制御されたが、このタンパク質のリン酸化型は検出されなかった。WTおよびαBC-/-星状細胞においてJNKおよびp-JNKの発現には変化はなかった(データは示さず)。
【0139】
その後、αBCによってNF-κB経路が調節されているかどうかを評価した。αBCがヌルの星状細胞では、TNF刺激の後に、NF-κB p65およびNF-κB p105/p50の活性サブユニットの発現が上方制御されていたが、その負の調節物質IκB-αは下方制御されていた(図4B)。それに対して、TNF刺激の後でも、WT星状細胞はIκB-α阻害物質の上昇を示し、この遺伝子型ではNF-κB p50は明らかではなかった(図4B)。NF-κB DNA結合アッセイでは、WT膠細胞と比較して、TNF刺激されたαBC-/-星状細胞においてNF-κB p50およびNF-κB p65 DNA結合活性が上昇していることが確認された(図4D)。したがって、αBCはカスパーゼ-3の活性化を阻害することにより星状細胞の細胞死を防止し、脱髄疾患では星状細胞におけるNF-κBの炎症性の役割を抑制する。
【0140】
本発明者らは、全長αBCを含む様々なミエリン抗原、およびそのいくつかのペプチドエピトープに対する自己抗体を検出するために、大規模なアレイを作製した。EAEでは、PLPp139-151で免疫した後17日以内に、血清中にαBCのエピトープp16-35、p26-45、およびp116-135に対する抗体が出現する。多発性硬化症では、ミエリン抗原アレイを用いて、再発寛解型MS(RRMS)の患者の脳脊髄液中のαBCに対する抗体を分析した。天然のαBCに対する抗体ならびにαBCのp21-40およびp116-135に対する抗体が顕著に検出された(図5)。
【0141】
本発明者らの結果は、αBCは免疫細胞の機能に対する抑制効果、およびCNS膠細胞における抗アポトーシス作用の両方を持つことを示す。本発明者らおよび他の研究者が以前に示したように、EAEにおいては、エピトープスプレッディングの結果として生じるαBCに対する抗体がすでに存在しているという事実によって、MS患者のCSFから得られたαBCに対する抗体がEAEを悪化させることを示すことは複雑になる。したがって、30年近く前に重症筋無力症患者の免疫グロブリンをマウスに移すとマウスが筋無力症になることを示した実験と同様な様式で、ヒトCSFからマウスに抗体を移すことは困難である。したがって本発明者らは、進行中のEAEを持つマウスにおいて、組換えαBCそのものが疾患を消失させるかどうかを評価した。これを検討するために、EAEを持つWTマウスに、2日ごとに10μgの組換えヒトαBCを静脈投与した。αBCで処置されたマウスは、PBSを注射した動物よりも有意に軽い臨床的疾患を示した(図6A)。疾患のこの改善は、部分的には、脳および脊髄への免疫細胞の浸潤の低下(表2)、および免疫細胞の機能の抑制(図6B)によるものであった。組換えαBCで処置されたマウスから得られた脾臓細胞では、増殖、ならびにTh1(IL-2、IL-12p40、TNF、IFN-γ)およびIL-17サイトカインの産生が低下していた(図6B)。興味深いことに、高濃度のMOG刺激では、免疫抑制サイトカインIL-10の産生が増加していた(図6B)。インビトロで抗CD3/抗CD28で刺激され、組換えαBCで処置されたCD3+ T細胞では、同様な免疫細胞の機能低下が観察された。
【0142】
αBC処置がCNSの細胞死に影響を与えるかどうかを評価するために、EAEを持つ、PBSおよびαBCで処置されたマウスから得られた脳および脊髄切片に対してTUNEL染色を行なった。PBSを注射した動物と比較して、αBCで処置されたマウスでは、CNS実質組織においてTUNEL染色が少なかった(表2;図9)。さらに、クリスタリン処置をした動物のCNSでは、死にかけている膠細胞を示唆する、広がったTUNEL染色を持つ細胞数がより少なく、外部から投与した組換えαBCが膠細胞に対して保護作用を持つことが示唆された。
【0143】
(表2)PBSおよび組換えαBCで処置された、EAEを持つWTマウスの脳および脊髄における炎症性浸潤物およびTUNEL陽性細胞の定量
値は平均(s.e.m);*はWT対応物との有意差p<0.05を表す;n=3
【0144】
損傷に対する応答は、傷害を与える事象を中和するか、または修復過程を媒介するかのいずれかの役割を担う保護的機構を往々にして伴う。この概念は、MSなどの自己免疫性脱髄疾患においても当てはまり、その現行のおよび実験的な治療戦略は、主に免疫活性を低下させ、それにより炎症を抑えるというものである。MSでは、病的な炎症性応答の抑制に加えて、CNS細胞を更なる傷害から保護する、かつ/またはニューロンおよび膠細胞前駆細胞が損傷および細胞死の標的になった場合に、修復を誘導することも重要である。本発明者らの所見は、αBCは負の調節物質であり、これは免疫細胞においてp38キナーゼ経路を含むいくつかの炎症経路、およびそれに加えて膠細胞におけるカスパーゼ-3が媒介する細胞死経路の、ブレーキとして作用することを示した。注目すべきことに、MS病変に独特の遺伝子転写物の検討では、αBCが最も豊富にあった。αBCはMS患者の脳から得られたミエリンの成分のうちで、MS患者において最強のT細胞応答を引き起こした成分としても同定された。本発明者らおよび他の研究者は、αBCに対する抗体応答が、EAEを持つ動物およびMS患者から得られた血清中に見られることをすでに示しており(Robinson et al. (2003) Nat Biotechnol 21, 1033-9)、さらに今回、αBCに対する抗体応答がMS患者の脳脊髄液中に存在することも示している。
【0145】
おそらく逆説的ではあるが、αBCはp38シグナル伝達経路を介して、T細胞およびマクロファージの増殖ならびに炎症性サイトカインの産生を抑制するのみならず、EAEのCNSにおいて、膠細胞の細胞死および免疫細胞の浸潤も阻害する。αBCがカスパーゼ-3を介する細胞死から膠細胞を保護する能力は、ERKおよびNF-κB経路を介している。αBCのこれらの抗炎症および生存促進機能は、EAEを逆行させる治療特性に寄与する可能性がある。
【0146】
αBCはMSおよびEAEにおいてCNCで高度に上方制御されているが、その保護的役割が炎症反応によって圧倒されるか、αBC機能が崩壊している可能性がある。MS患者の血清(van Noort et al. (2006) Mult Scler 12, 287-93)、およびEAEのマウスの血清に存在する抗体は、αBCの機能を損なって、その保護特性に干渉する可能性がある。T細胞によるαBCの認識、および本明細書に示したMS患者の脊髄液中でのαBCに対する抗体応答の両方を含む強力な応答は、適応免疫がMS患者においてαBCの活性を抑制し、鍵となる保護的機構を損なうことができることを意味している。本発明者らは、αBCそのものの投与が進行中のEAEを改善するかどうかを理解したいと考えた。注目に値することに、αBCそのものの投与には、治療効果があった。
【0147】
MSおよびその動物モデルEAEにおける主な適応免疫応答の1つは、誘導性ストレスタンパク質αBCに対するものである。脳の炎症の負の調節因子を標的とするそのような免疫応答は、すでに危険に向かって疾走している乗り物のブレーキ系を破壊することに匹敵する。注目すべきことに、その同一のストレスタンパク質を添加すると、破壊しかけているブレーキを修復することと同様に、制御が回復する。EAEおよびMSの脳における炎症の負の調節因子であり、膠細胞のアポトーシスの強力な調節物質でもあるαBCは、MSの病態生理における決定的に重要な転換点であると考えられる。
【0148】
方法
マウス
αBCヌルマウス(αBC-/-)は、NIH National Eye Instituteで開発された。これらのマウスは、129S4/SvJaeのバックグラウンドを持つES細胞から作製され、129S6/SvEvTac X 129S4/SvJaeバックグラウンドで維持された。αBC-/-マウスは、生存可能で繁殖力があり、明らかな出生前異常を持たず、正常な水晶体の透明性を持つ。年長のマウスは、約40週齢で明らかになる姿勢の異常および進行性の筋疾患を示す。本発明者らはこれらのマウスを8〜12週の間で研究することで、臨床的な評価に対する筋疾患の影響を排除した。129S6/SvEvTac(Taconic Farms)マウスは、対照として使用された。WTおよびαBC-/-マウスのコロニーは、本発明者らの動物コロニーで維持され、Stanford University Comparative Medicineガイドラインに従って飼育された。
【0149】
EAE誘導
EAEは、完全フロインドアジュバント(4 mg/ml熱処理結核菌(Mycobacterium tuberculosis)H37Ra含有、Difco Laboratories)に乳濁(容積比1:1)させた100μgミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG p35-55)ペプチドによる皮下免疫によって、8〜12週齢のメスαBC-/-およびWT 129S6/SvEvTac動物に誘導した。マウスには免疫時、および免疫の2日後に、PBS中の50 ngの百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素(BPT)(Difco Laboratories)の静脈内注射も行なった。MOG p35-55ペプチドは、Stanford Pan Facilityによって合成され、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製された。マウス(1群当たりn=8〜10)はEAEの臨床徴候に関して毎日調べて、以下のようなスコアが付けられた:0=臨床的疾患なし、1=脱力した尾、2=後肢脱力、3=完全な後肢麻痺、4=後肢麻痺プラス前肢やや麻痺、および5=瀕死または死亡である。全ての動物のプロトコールは、Stanford UniversityのDivision of Comparative Medicineにより承認され、動物はNational Institutes of Healthのガイドラインに従って維持された。
【0150】
組織病理学
脳および脊髄をマウスから切除し、PBS中の10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。厚さ7ミクロンの切片を、炎症性浸潤物の検出のためにヘマトキシリンおよびエオシンで、および脱髄化の検出のためにルクソール・ファスト・ブルーで染色した。脳、胸髄、および腰髄の切片の炎症性病変は、動物の処置状況を知らされていない試験者によって計数された。
【0151】
星状細胞の培養
星状細胞は、2日齢のαBC-/-およびWTの子マウスの脳から得た。簡単に述べると、各遺伝子型の3匹の子マウスの大脳皮質を切除し、ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミン(Invitrogen、Carlsbad、CA)を含む改良型ダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen)中に入れた。髄膜を除去し、皮質は10%ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシンを含む1 mlの完全ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)に入れた。皮質は細かく刻み、高速で1分間撹拌し、18.5ゲージの針を通過させた。得られた混合液は、25-mm Swinnexシリンジフィルターホルダー(Millipore、Bedford、MA)を用いて、無菌の80μmおよび11μmフィルター(Millipore)を連続的に通過させて濾過した。濾過した細胞は、完全DMEMを用いて1 mlに希釈し、10 mlの完全DMEMを入れた3本の75 cm2の組織培養フラスコに入れて、37℃で維持され5%のCO2を通気したインキュベーター中に入れた。コンフルエントな星状細胞を、100 ng/mlの組換えTNF(BioSource、Camarillo、CA)または100nMスタウロスポリン(Sigma、Saint Louis、MI)により刺激し、刺激後に、ELISAおよびウェスタンブロット解析のために細胞および上清を採取した。
【0152】
免疫細胞活性化アッセイおよびサイトカインの解析
脾臓細胞およびリンパ節細胞(5 x 105細胞/ウェル)、またはCD3+ T細胞(5 x 104細胞/ウェル;負の選択で精製、R&D Systems, Minneapolis, MN)を、平底の96ウェルプレート中で、MOG p35-55ペプチド(5〜20μg/ml)を含む培地(2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシン、0.5μM 2-メルカプトエタノール、および10%ウシ胎児血清を添加したRPMI 1640)中で培養した。インビボのT細胞機能を決定するために、9日目のMOG免疫マウスの脾臓およびリンパ節からCD3+ T細胞を精製し、MOG p35-55ペプチド(5〜20μg/ml)および照射した同系脾臓細胞と1:5で培養した。
【0153】
3 mlの3%(w/v)チオグリコール酸(BD Diagnostics Systems、Sparks、MD)の腹腔内注射の3日後のαBC-/-およびWTマウスの腹腔から初代マクロファージを単離し、24ウェルのプレート中で培地(10% FCS、1 mMピルビン酸ナトリウム、100 U/mlペニシリン、および0.1 mg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM)のみと72時間培養(1 x 106細胞/ml)した後、100ng/mlのLPSで活性化した。
【0154】
増殖速度を評価するために、培養72時間後に[3H]チミジン(1μCi/ウェル)で培養物をパルスし、その18時間後に濾紙に採取した。取り込まれた[3H]チミジンの1分当たりのカウント(cpm)は、βカウンターで計数した。サイトカインは、抗マウスOPTEIA ELISAキット(BD Pharmingen、San Diego、CA)を用いて、培養細胞の上清で測定した。上清は各サイトカインの産生ピーク時に採取された(48h:IL-2、IL-12p40、IL-6、IL-1β;72h:IFN-γ、TNF4;96h:IL-17;120h:IL-4、IL-10)。
【0155】
組換えαBC処置
MOG 35-55および百日咳毒素を用いてWTマウスにEAEを誘導した。マウスの後肢が麻痺したら、平均臨床的疾患スコアのバランスをとって動物を2群に分割し、生理食塩水、pH 7.0、または生理食塩水で希釈した10μgの組換えヒトαBC(US Biological、Swampscott、MA)を隔日に静脈内注射した。EAEの際の免疫細胞機能に対するαBC治療の効果を決定するために、寛解相において脾臓細胞を単離し、MOG 35-55によりインビトロで刺激をした。
【0156】
ウェスタンブロット解析
CD3+ T細胞、マクロファージ、および星状細胞を、1% NP-40、10%グリセロール、1 mM EDTA、1 mM Na3VO4、1 mM NaF、1 mM DTT、4.5 mMピロリン酸ナトリウム、10 mMβグリセロリン酸、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル錠を含む50 mM Tris-HCl緩衝液、pH 7.4中で溶解した(Roche Diagnostics、Penzberg、ドイツ)。4℃で30分間13,000 rpmで遠心した後、上清を採取し、分光光度計を用いて280 nMの吸光度によりタンパク質含量を決定した。タンパク質溶解物(30〜50μg)は倍量の2倍の強度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)Sample Buffer(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA)に懸濁し、10または15% Tris-HCl Ready Gel(Bio-Rad Laboratories)を用いてSDS-PAGEを行なった。タンパク質をPVDFメンブレンに移し、0.05% Tween-20を含む20 mM Tris-HCl緩衝生理食塩水(TBS)、pH 7.4中の5%脱脂粉乳でブロックした。メンブレンは、以下の抗体1:500で4℃で一晩免疫ブロットした:p-αBC(Ser 45)、p-αBC(Ser 59)、αBC(StressGen BioReagents、Victoria、カナダ);アクチン(Sigma);p-p38、p38、p-ERK、ERK、p-SAPK/JNK、SAPK/JNK、カスパーゼ-3、NFκBp105/p50、NF-κBp65、IκB-α(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)。メンブレンは0.1% Tween-20を含むTBS緩衝液で15分間3回洗った。結合した抗体は、ペルオキシダーゼ結合2次抗体(Amersham、Buckinghamshire、イングランド)を用いて可視化し、その後ECLキット(Pierce、Rockford、IL)を用いて検出した。再ブロットのためには、メンブレンをまず緩衝液(62.5 mM Tris-HCl、pH 6.8、2% SDSおよび100 mMβメルカプトエタノールを添加)中で50℃で1時間ストリップした。
【0157】
免疫組織化学
10mMクエン酸ナトリウムを用いて、パラフィン包埋した矢状切片(7μm)を水和し、抗原回復のために処理した。切片は1%過酸化水素水中でインキュベートして内因性ペルオキシダーゼを失わせ、室温でPBS中の1%BSA中で1時間ブロックし、カスパーゼ-3(1:50)または切断したカスパーゼ-3(1:400)(Cell Signaling)と共に4℃で一晩インキュベートした。結合した抗体は、Vectastain ABC抗ウサギキット(Vector Laboratories、Burlingame、CA)および基質として3,5-ジアミノベンジジン(DAB)/H2O2試薬を用いて検出した。マウントする前に、切片はマイアーのヘマトキシリンで対比染色し、グレードの付いたエタノールで脱水した。TUNEL法を用いたアポトーシスの検出には、パラフィン包埋切片のための製造元の指示に従って、ApopTagペルオキシダーゼインサイチューアポトーシス検出キットを使用した(Chemicon、Temecula、CA、米国)。
【0158】
NF-κB結合アッセイ
WTおよびαBC-/-星状細胞は、100 ng/mlのTNF(BioSource、Camarillo、CA)を用いて72時間刺激し、Clontech LaboratoriesのTransfactor Extractionキットを用いて核タンパク質抽出物を単離した。NF-κB p50およびNF-κB DNA結合は、Clontech Transfactor Family Colorimetric kit-NF-κBを用いて核タンパク質15μgを用いて検出した。
【0159】
ミエリンアレイ
ミエリン抗原アレイは、以前に記述されたようにしてプリントおよびプローブした。簡単に述べると、ミエリン自己抗原候補を表すタンパク質およびペプチドを、SuperEpoxy顕微鏡スライド(TeleChem、Mountain View、CA)の表面に、整列したアレイとしてプリントした。ミエリンアレイは、再発寛解型MS(RRMS)または他の神経疾患(OND)の対象患者から得られた脳脊髄液(CSF)を1:20に希釈してプローブに用い、その後Cy-3結合抗ヒトIgG/M 2次抗体(Jackson Immunoresearch)を使用した。アレイをスキャンし、自己抗体結合の尺度として蛍光を定量した。
【0160】
統計解析
データは平均±s.e.m.として表示されている。データがパラメトリック(尖度および歪度< 2)で群内分布が均一の場合(バートレットの均一性検定)、一元配置分散分析およびシェフェの事後検定(> 2の群の場合)またはt検定(N = 2群の場合)を用いて群間差を検出した。データがノンパラメトリックの場合、クラスカル・ワリス検定および多重比較のノンパラメトリック検定(> 2の群の場合)またはマンホイットニーU検定(N = 2の場合)を用いて群間の順位が比較された。P<0.05の値が有意と見なされた。ミエリンアレイの結果は、Significance Analysis of Microarrays (SAM)を用いて解析し、抗体反応性における有意差を持つ抗原特性の同定を行なった。これらの抗原「ヒット」および患者の試料は、階層的クラスターアルゴリズムを用いて順序づけ、結果はTreeViewソフトウェアを用いてヒートマップとして表示した。
【0161】
実施例2
MAPキナーゼとして知られているマイトジェン活性化プロテインキナーゼは、炎症に鍵となる役割を果たす。p38 Map Kおよび細胞外シグナル調節キナーゼERKはいずれも、炎症反応の鍵であり、心筋梗塞、脳卒中、および末梢動脈虚血、アルツハイマー病、パーキンソン病、および筋萎縮性側索硬化症において鍵となる役割を担うことが示されている。例えば、図10に示されるように、γインターフェロンはp38 MapKおよびERKシグナル伝達によって制御されている。
【0162】
本発明者らは、脳および末梢神経のマクロファージおよびリンパ球において、αBCの欠如がp38 MapKおよびERK経路に影響を与えることを示した。αBCの投与は、中枢神経系においてこれらの経路に影響を与えることにより、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、および脳卒中などの炎症性神経疾患に影響を与える。
【0163】
図1に示すように、αBCを投与すると末梢血リンパ球において炎症性サイトカインの産生が低下する。図2に示すように、αBCの欠如はTリンパ球およびマクロファージ(図3)ならびにCNS星状細胞において、p38 mapKおよびERKを減少させる。αBCの欠損した星状細胞では、ERKシグナル伝達が欠損している(図4)。
【0164】
いくつかの疾患状態では、p38MapKおよびERKは鍵となる役割を担う。表1に示すように、αBCの欠如は炎症を減少させ、投与すると炎症の効果が逆転する。表2では、本発明者らは組換えαBCを投与することにより脳の炎症が低下することを示した。αBCはp38MAPKおよびERKのリン酸化も低下させる、図2B、3B、および4B。
【0165】
αBCの投与は、心筋梗塞、脳卒中、および動脈閉塞を含む虚血性病変の範囲と重症度を低下させる可能性がある。
【0166】
実施例3
αBクリスタリンはコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて既存の自己免疫性関節炎を治療する
MSのEAEモデルにおける研究に加え、αBCがRAの齧歯類モデルにおいて既存の自己免疫性関節炎を治療することが本明細書で示された。これらの試験では、完全フロインドアジュバントに乳濁させたウシII型コラーゲンを用いてマウスにコラーゲン誘導関節炎を誘導し、不完全フロインドアジュバント中のウシII型コラーゲンを用いて21日後に追加免疫した。
【0167】
マウスが臨床的な関節炎を発症した後、関節炎マウスをαBC(隔日に10μg)、ミオグロビン対照タンパク質(10μg)またはPBS(生理食塩水対照)による隔日処置に無作為割り付けした。既存の関節炎を持ちαBCで処置されたマウスは、ミオグロビンまたはPBS対照により処置されたマウスと比較して、関節炎の重症度が統計的有意に低下していた(p< 0.05)(図11)。さらに、マウスを屠殺した後、関節を採取し、固定、脱灰、パラフィン包埋、切片作製、トルイジンブルー染色を行ない、試験者はブラインド下で、滑膜炎(炎症)、パンヌス(滑膜の成長)、および破壊(骨侵食)の程度について、切片のスコアを付けた。αBCで処置されたマウスは、滑膜炎(p<0.05)、パンヌス形成(p<0.05)、および破壊(p<0.05)のスコアが統計的有意に低下していた(図12)。さらに、αBC処置したCIAマウス由来の脾臓細胞では、増殖応答および炎症性サイトカイン(TNFおよびIFN-γ)産生が減少していた(図13)。RA滑膜の免疫組織学的解析では、RAのパンヌスで高レベルのαBC発現が示されたが、OA患者から得られた滑膜では有意な発現は検出されなかった(図14)。
【0168】
実施例4
αBCはAβ誘導アポトーシスから海馬ニューロンを保護する
海馬組織はE15-16子マウスから採取し、氷冷した無カルシウムおよび無マグネシウムHBSSに集め、0.05%トリプシンにより37℃で5分間トリプシン処理した。細胞を分離させ、無血清DMEM/F12中に再懸濁した。組織培養ウェル(Costar 96ウェルA/2プレート、0.16 cm2/ウェル)は25μL/ウェルのポリ-L-リジン(リン酸緩衝生理食塩水中10μg/mL;Sigma)により37℃で1時間プレコートした。吸引後、各ウェルに細胞懸濁液45μL(2000ニューロン/ウェル;12,500細胞/cm2)およびN2添加物および組換えBDNF(R&D Systems Inc.、Minneapolis、MN)を含む無血清DMEM/F12培地を5μL添加した。低細胞密度および無血清DMEMを含む培養条件は、Lindholm et al. (1996)により報告されている初代海馬培養に使用されたものと類似していた。インビトロで6〜7日(DIV)培養した海馬ニューロンは、培養培地のみ(CM)または5〜10μMの組換えヒトαBCを添加したもしくは添加しない、4μMのAβ1-42を含む培養培地に曝露させた。72時間後に、培養物を固定し、TUNELアッセイを行なった。培養物は蛍光顕微鏡を用いて写真撮影し、DAPIおよびTUNEL陽性細胞はImage Pro MDA 6.1を用いて計数した。データは、1つの実験で計数されたn=20〜40視野の平均±SEとして表現されている。状態はANOVA検定を用いてAβ1-42と比較した(*** p<0.001)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
αBクリスタリン活性を上昇させる薬剤の治療的有効量を患者に投与する段階であって、自己免疫疾患に罹患した組織における免疫細胞の活性化が該薬剤の存在下で低下する、段階
を含む、患者における炎症性疾患を阻害する方法。
【請求項2】
炎症性疾患が炎症性神経疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炎症性神経疾患が脱髄疾患である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
疾患が多発性硬化症である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
炎症性神経疾患がパーキンソン病である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
炎症性神経疾患がアルツハイマー病である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
炎症性神経疾患が筋萎縮性側索硬化症である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
炎症性疾患が、アテローム性動脈硬化症である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
炎症性疾患が関節リウマチである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
投与する段階の前に、哺乳類が自己免疫疾患を有すると診断されている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
自己免疫疾患に罹患した組織においてT細胞の活性化をモニタリングする段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
自己免疫疾患に罹患した組織における活性化T細胞において炎症促進性サイトカインの分泌をモニタリングする段階であって、分泌の減少によって、治療的有効量のαBクリスタリンが投与されたことが示される、段階
をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
p38MAPKまたはERKの発現および/またはリン酸化をモニタリングする段階であって、発現またはリン酸化の減少により、治療的有効量のαBクリスタリンが投与されたことが示される、段階
をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
薬剤がαBクリスタリンタンパク質またはその断片もしくは誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
薬剤がαBCと免疫グロブリンFcポリペプチドとの融合ポリペプチドである、請求項9記載の方法。
【請求項16】
薬剤がαBクリスタリンをコードする核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
薬剤が第2の抗原特異的薬剤または抗原非特異的薬剤とともに併用療法において投与される、請求項1記載の方法。
【請求項1】
αBクリスタリン活性を上昇させる薬剤の治療的有効量を患者に投与する段階であって、自己免疫疾患に罹患した組織における免疫細胞の活性化が該薬剤の存在下で低下する、段階
を含む、患者における炎症性疾患を阻害する方法。
【請求項2】
炎症性疾患が炎症性神経疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炎症性神経疾患が脱髄疾患である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
疾患が多発性硬化症である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
炎症性神経疾患がパーキンソン病である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
炎症性神経疾患がアルツハイマー病である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
炎症性神経疾患が筋萎縮性側索硬化症である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
炎症性疾患が、アテローム性動脈硬化症である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
炎症性疾患が関節リウマチである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
投与する段階の前に、哺乳類が自己免疫疾患を有すると診断されている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
自己免疫疾患に罹患した組織においてT細胞の活性化をモニタリングする段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
自己免疫疾患に罹患した組織における活性化T細胞において炎症促進性サイトカインの分泌をモニタリングする段階であって、分泌の減少によって、治療的有効量のαBクリスタリンが投与されたことが示される、段階
をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
p38MAPKまたはERKの発現および/またはリン酸化をモニタリングする段階であって、発現またはリン酸化の減少により、治療的有効量のαBクリスタリンが投与されたことが示される、段階
をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
薬剤がαBクリスタリンタンパク質またはその断片もしくは誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
薬剤がαBCと免疫グロブリンFcポリペプチドとの融合ポリペプチドである、請求項9記載の方法。
【請求項16】
薬剤がαBクリスタリンをコードする核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
薬剤が第2の抗原特異的薬剤または抗原非特異的薬剤とともに併用療法において投与される、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−512403(P2010−512403A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541365(P2009−541365)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/025424
【国際公開番号】WO2008/073466
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【氏名又は名称原語表記】The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University
【住所又は居所原語表記】1705 El Camino Real, Palo Alto, CA 94306−1106, USA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/025424
【国際公開番号】WO2008/073466
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【氏名又は名称原語表記】The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University
【住所又は居所原語表記】1705 El Camino Real, Palo Alto, CA 94306−1106, USA
【Fターム(参考)】
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