説明

炎症反応を急激に軽減させる食品組成物

本発明は、炎症反応を即座に軽減させる組成物を製造するための、脂質画分及び/又はタンパク質画分の使用に関する。前記脂質及び/又はタンパク質は、胃腸管を通じて副交感神経系を中枢部又は末梢部から刺激し、これにより、遠心性迷走神経によるニコチン性受容体の刺激を介して炎症反応の急激な軽減がもたらされる。前記脂質画分は、6〜50重量%のリン脂質を含有していることが好ましく、前記タンパク質画分は、インタクトなホエー又はカゼイン又は大豆タンパク質加水分解物を含んでいることが好ましい。また、迷走神経による刺激を最適化するために、グルタミン酸1ナトリウムやベタインなどの成分が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、手術、外傷、傷害、火傷、及び増悪を伴う主要な慢性病における、急性炎症反応及び既存の慢性炎症の増悪を緩和又は予防する方法並びに組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の体は、炎症反応をもってストレス因子に反応する場合がある。ストレス因子の発生源は、感染性の場合もあれば、非感染性の場合もある。ストレス因子の例としては、局所的に組織に侵入した微生物(ウイルス性、細菌性、真菌性、若しくは寄生性)、非内因性タンパク質又はペプチド関連物質、手術を含む身体的外傷、重篤な失血、体外循環、又は広範な軟部組織の損傷、及び多発性骨折、虚血/再灌流イベント、又は火傷による細胞若しくは組織への損傷、化学療法、放射線又は中毒が挙げられる。炎症反応の発生中は、多くの因子が影響を及ぼしている。急性期タンパク質、インターロイキン、プロスタグランジン及びロイコトリエンを含む炎症性メディエータは、適切な宿主防御反応を発生させるため、特に、ストレス因子を迅速かつ効果的に中和するため、創傷を迅速に治癒させるため、虚血/再灌流プロセス又は化学療法若しくは放射線療法で生じる組織損傷を予防するため、及び組織機能の速やかな修復を実現するために、体内における多数の協調的反応(例えば、患部組織への血流、修復プロセス及び不要な外因性成分との闘い、内因性細胞のアポトーシス)に寄与している。
【0003】
手術を受ける患者の多くは、起こりうる嘔吐及び胃内容物の吸引を予防するために、手術前に絶食させられる。また、患者は、手術又は外傷直後の時期に適切な食事を取るという点において、深刻な問題にぶつかることが多い。多くの入院患者が合併症に苦しんでいることが、統計によって示されている。そうした合併症は、創傷治癒の遅延、腫脹及び痛み、ストレス組織の機能回復不良、局所感染、並びに免疫機能不全など多岐にわたり、栄養摂取量の低下により悪化する敗血症や多臓器不全などの全身性合併症に至る例さえある。
【0004】
本発明の目的は、そのようなストレス因子にこれまで暴露されてきた又は今後暴露される患者で、これらのストレス因子の結果として合併症を起こす危険のある又はすでに合併症を経験している患者に対して栄養支持を提供することにある。栄養支持の提供は実用的であり、特に、ストレス因子存在時及びその後の治癒プロセス並びにそれ以降における、(過度に)強力な又は無調節な炎症反応の発生を、迅速な作用機序により予防する。すでに炎症反応が発生している場合は、炎症反応のさらなる増大を予防する。
【0005】
したがって、本発明により解決される課題は、特に慢性炎症性疾患の増悪、又は手術、放射線療法、化学療法などの主要な医学的処置、又は急性感染、虚血性作用、火傷などに付随する短期炎症作用を迅速に回避することが可能な医薬品、好ましくは栄養組成物を提供することであった。炎症性腸疾患などのいくつかの慢性炎症性疾患、及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの慢性呼吸器系疾患では、比較的短期間に疾患の症状が悪化する時期を患者が経験する場合がある。このプロセスを疾患の増悪という。多くの場合患者は、ある程度の期間の後、任意により医療行為の後、こうした増悪期から回復する。
【0006】
WO01/89526号(North Shore社)は、マクロファージをアセチルコリン、ニコチン、ムスカリンなどのコリン作動薬で処置することを特徴とする、原炎症性サイトカイン又は炎症性サイトカインカスケードにより生じる炎症を低減させる方法について記載している。中央神経系から末梢組織へと電気パルスを分配する迷走神経の遠心性部位の刺激が、治療機構として示唆されている。治療対象となる状態としては、各種炎症性疾患、及び、特に内毒素性ショックが挙げられる。
【0007】
WO03/009704号(Nutricia社)は、大手術、重病、細菌による炎症性腸疾患などに付随する場合がある敗血症を治療するための、リン脂質、トリグリセリド及びコレステロールを3〜90:3〜80:1の割合で含有する脂質組成物の使用について開示している。
【0008】
WO04/068969号(Nutricia社)は、同様に、敗血症及びそれに付随する状態を治療するための、リン脂質及びトリグリセリドを1を超える割合で含有し、コレステロールを含有しない脂質組成物の使用及び調製方法について開示している。
【0009】
EP−B1041896号(Nutricia社)は、慢性炎症性疾患、脂質代謝障害及び免疫機能低下を治療するための、γ−リノレン酸、ステアリドン酸及びエイコサペンタエン酸(2:1:2)並びにリン脂質を含む脂肪組成物について開示している。
【0010】
EP0189160号(Abbot Laboratories社)は、調乳により提供される総エネルギー量の45〜60%(=en%)の脂肪、0〜30en%の炭水化物、8〜25en%のタンパク質、及び微粉化カルシウム塩を含む栄養調乳であって、脂肪画分が2.5〜50重量%の乳化剤を含んでいてもよい栄養調乳について開示している。上記タンパク質はカゼイン塩でもよく、上記乳化剤はレシチン及びモノグリセリド又はジグリセリドでもよい。この調乳は、呼吸機能不全を改善するとされている。この文書は、体内における乳化剤の生理学的役割について、及びストレス因子により生じた炎症反応を急激に弱めるという点での完成品の有効性については、言及していない。
【0011】
EP1090636号(INRA社)は、敗血症又は炎症性ショックの治療に使用する、35en%超の脂質を含む組成物について開示している。脂質画分は、25〜70重量%のMCT油を含んでいる。MCTを除く15重量%未満の不飽和脂肪酸とn−6/n−3の比率は、約2〜7:1である。
【0012】
US5,434,183号(Pharmacia社)は、ω−3脂肪酸を少なくとも30%(w/w)の量で含有する海洋物及び/又は合成物由来のリン脂質を含む医薬組成物を開示している。かかる組成物は、関節リウマチ又は敗血症に罹患している患者のような、抗炎症作用及び/又は免疫抑制作用を必要とする患者の治療に有用であるとされている。組成物は、従来の担体又は希釈剤を含んでいてもよく、乳剤であってもよく、油分、脂肪酸のモノグリセリド、等張性を調節する成分、抗酸化剤、及びアミノ酸や炭水化物など安定性を調節する成分、さらには生理活性成分を含んでいてもよい。
【特許文献1】WO01/89526号
【特許文献2】WO03/009704号
【特許文献3】WO04/068969号
【特許文献4】EP−B1041896号
【特許文献5】EP0189160号
【特許文献6】EP1090636号
【特許文献7】US5,434,183号
【発明の開示】
【0013】
本発明は、急性炎症状態及び慢性炎症性疾患の増悪の予防方法及び治療方法を提供するものである。そのような状態に必要なのは、医療処置によって得られる即効性であり、そうした医療処置の効果は、炎症反応の軽減をその本質とする。即時型反応とは、炎症反応の軽減が30分以内、好ましくは15分以内に始まり、医療処置を止めた後、数時間、特に1〜3時間に渡って持続するものを意味する。
【0014】
本発明の方法によると、タンパク質画分及び/又は脂質画分を含む栄養組成物が投与され、かかる画分は、――おそらく腸内有効成分の放出の誘導及び該有効成分の神経細胞受容体との結合を通じて――、遠心性迷走神経の活性が刺激されるように神経細胞を活性化することが可能であり、その結果として、炎症細胞に対する炎症カスケードがニコチン受容体を介して抑制されることになる。
【0015】
実際、特定の脂質画分及び/又はタンパク質画分を含有する栄養組成物が迅速に交感神経系を(中枢部から又は末梢部から)刺激し、遠心性迷走神経によるマクロファージ上のニコチン受容体の刺激を介して炎症反応の急激な軽減に貢献することが、本発明者らによりわかっている。遠心性迷走神経は、迷走神経のうち、インパルスを中枢神経系から末梢へと輸送する部分であり、求心性迷走神経は、インパルスを末梢から中枢神経系へと輸送する。迷走神経切離術は、ラットにおいて、出血性ショック誘導性循環腫瘍壊死因子(TNF)−α、インターロイキン(IL)−6、内毒素及びHRPの腸透過性に対する、特定の脂質画分及び/又はタンパク質画分の抑制効果を鈍らせた。また、特定の脂質画分及び/又はタンパク質画分での処置にもかかわらず、CCK受容体のアンタゴニスト及びニコチン受容体の抑制は、ラットにおいて出血性ショックによって生じた原炎症反応を増大させ、腸関門機能を悪化させた。
【0016】
本発明はまた、後述する脂質画分及び/又はタンパク質画分を含み、任意に他の成分を含んでいてもよい、炎症反応の即時軽減を誘導する医薬組成物又は栄養組成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
脂質画分
本発明にしたがって使用することが可能な脂質画分は、全脂質画分の少なくとも6重量%、最大でも50重量%以下のリン脂質を含むことが好ましい。リン脂質含有量は、好ましくは脂質画分の8〜50重量%であり、特に10〜35重量%、最も好ましくは12〜30重量%である。かかるリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)など、及びそれらのリゾ類似体などのようなジアシル(リン脂質)及びモノアシル(リゾリン脂質)誘導体を含む、少なくとも1つの長鎖(≧C16)脂肪酸アシル残基を有するホスホグリセロール誘導体を含んでいてもよい。存在するPE及びPCは、好ましくは脂質画分の少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも6重量%であり、及び/又は、リン脂質の少なくとも30重量%であり、特に、PC/PEの比率は、10:1〜1:1、より具体的には5:1〜1.2:1である。PSの量は全リン脂質の10重量%未満であること、特に2重量%未満であることが好ましい。リン脂質中の脂肪酸の性質が、観察された作用にとって不可欠なものであるとは考えられない。一般的には、リン脂質中の脂肪酸は90重量%未満、好ましくは80重量%未満のリノ−ル酸を含み、ω−3ポリ不飽和脂肪酸、具体的には、エイコサペンタエン(ティムノドン)酸、ドコサヘキサエン(サーボン(cervonic))酸の量は30重量%未満であり、好ましくは2〜26重量%である。
【0018】
リン脂質以外に、脂質画分はグリセリド画分を含んでいおり、これがモノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドを含有している場合がある。迅速な消化を促進するため、グリセリド画分の一部は脂肪酸のモノグリセリド及び/又はジグリセリドからなっていることが好ましい。モノグリセリド及びジグリセリドはまた、組成物のカロリー量を過度に引き上げることがなく、比較的大量の脂質を投与する際に役立つことがわかっている。モノグリセリド及びジグリセリドの合計量は、脂質画分の2〜50重量%であることが好ましく、4〜20重量%であることがより好ましい。個別に見ると、ジグリセリドは脂質画分の1〜40重量%を占めることが好ましく、2〜20重量%を占めることがより好ましい。モノグリセリドについては0〜30重量%、より好ましくは1〜15重量%である。脂質画分の残りの部分は、トリグリセリドからなっていてもよい。具体的には、脂質画分のトリグリセリド含有量は20〜90重量%であってもよく、特に30〜60重量%であってもよい。
【0019】
脂質画分の脂肪酸組成物は、その大半、例えば75重量%超が、炭素原子16〜18個の鎖長を有する脂肪酸からなることが好ましい。C18の含有量は、好ましくは45〜95重量%、より好ましくは55〜95重量%、最も好ましくは70〜94重量%である。C18脂肪酸のなかでも、10〜50重量%、特に15〜50重量%が、ポリ不飽和脂肪酸、特にリノール酸及びα−リノレン酸からなることが好ましい。それらの安定性の低さ(異臭)に鑑みると、γ−リノレン酸(ω−6オクタデカトリエン酸、GLA)及びステアリドン酸(ω−3オクタデカテトラエン酸、SA)の量は、比較的低いものとなる。すなわち、GLAとSAを合わせて、上記脂肪酸組成物の6重量%未満であること、特に2重量%未満であることが好ましい。
【0020】
脂肪酸残基の残りは、炭素原子8、10又は12個の鎖長を有し、好ましくは量が0〜20重量%、より好ましくは0〜6重量%、特に3重量%未満の中鎖脂肪酸、及びミリスチン酸(C14:0)によって形成されてもよい。飽和脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸の量は、一般的には1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは16〜22重量%である。20以上の鎖長を有する長鎖脂肪酸の量は、0〜12重量%、特に1〜6重量%である。長鎖脂肪酸が存在する場合、長鎖脂肪酸は、ティムノドン酸(ω−3エイコサペンタエン酸、EPA)、クルパノドン酸(ω−3ドコサペンタエン酸)及びサーボン酸(ω−3ドコサヘキサエン酸、DHA)を含んでいてもよい。ただし、それらの安定性に限りがあることに鑑みて、それらの含有量を多くしすぎてはいけない。EPA、GLA、及びSAの合計量に対するEPAの含有量は、50重量%超であることが好ましく、同じくEPA、GLA、及びSAの合計量に対するSAの含有量は、15重量%未満であることが好ましく、10重量%未満であることが好ましく、6重量%未満であることがより好ましい。コレステロールは、脂質画分の0.5重量%を超える量では含まれてはならないことが好ましく、存在しないことが好ましい。
【0021】
脂質画分は、本発明にしたがって用いられる組成物の唯一のエネルギー担体であってもよいが、炭水化物及び/又はタンパク質も、好ましくは少なくともタンパク質も組成物中に含有されていることが好ましい。組成物全体のエネルギー貢献に対する脂質画分のエネルギー貢献は、好ましくは42〜90en%であり、より好ましくは44〜75en%であり、最も好ましくは45〜60en%である。したがって、本発明は、副交感神経系の迷走神経求心性(vagal afferents)を刺激するため、及び/又は迷走神経遠心性(vagal efferents)によるニコチン受容体の刺激を介して炎症反応を急激に軽減させる保健用食品を調製するための、タンパク質、炭水化物、及び脂質を含有する食品組成物であって、組成物のエネルギー含有量の42〜90%、具体的には45〜60%を脂肪が占めている組成物の使用にも関する。
【0022】
タンパク質画分
本発明にしたがって使用されるタンパク質画分は、乳タンパク質及び大豆タンパク質から選択されることが好ましい。乳タンパク質はインタクトなタンパク質であることが好ましい。乳タンパク質はカゼイン単独若しくはホエータンパク質単独であってもよく、又はそれらの混合物であってもよい。混合物中の、ホエータンパク質に対するカゼインの重量比は、例えば、6:1〜1:6であってもよい。タンパク質画分の少なくとも18重量%、特に40〜100重量%、具体的には55〜90重量%は、ホエータンパク質からなることが好ましい。好ましい実施形態においては、ホエータンパク質は比較的高い割合のα−ラクトアルブミン、好ましくは少なくとも10重量%、特に20〜90重量%、より好ましくは36〜70重量%のα−ラクトアルブミンを含んでいる。ホエータンパク質中の、β−グロブリンに対するα−ラクトアルブミンの重量比は、1〜100:1、好ましくは5〜20:1、より好ましくは6〜16:1の範囲内である。当該技術で周知の方法を用いることによって、例えば、脂質及びカゼイン画分の分離によって、及び、クロマトグラフィー方法を用いて異なるホエータンパク質を分離することによって、α−ラクトアルブミンの含有量を増やすことができる。純粋なα−ラクトアルブミン及びα−ラクトアルブミン強化ホエー抽出物は、市販されている。タンパク質画分中のα−ラクトアルブミン含有量は、少なくとも5重量%であることが好ましく、10〜60重量%であることがより好ましい。
【0023】
或いは、少なくとも40重量%又はタンパク質画分の大部分若しくはすべてが、大豆タンパク質加水分解物で形成されていてもよい。ペプシン、トリプシン、キモトリプシン若しくは他の市販プロテアーゼ又はそれらの混合物で、大豆タンパク質を加水分解することができる。少なくともペプシン処理を施して大豆タンパク質を加水分解しておくことが、より好ましい。加水分解の程度については、加水分解物の少なくとも50重量%が10kDa未満の分子量を有するような程度、又は、少なくとも50重量%が、アミノ酸が90個未満のペプチドからなるような程度が好ましい。製品中におけるこうした特定のタンパク質の存在は、ストレス因子に対する宿主反応に影響を及ぼす迷走神経の作用に対する、脂質画分の作用の持続時間を増大させ、それとともに脂質量又は脂質強化製品の投与頻度を減少させることがわかっている。
【0024】
タンパク質画分中に、乳タンパク質及び/又は大豆タンパク質加水分解物に加えて特定のアミノ酸が存在し、有利に働く場合がある。好ましいアミノ酸として、グルタミン酸、グルタミン、フェニルアラニン、及びトリプトファンが挙げられる。これらのアミノ酸はそのままの形態、すなわち、単離されたアミノ酸として存在していてもよいが、これらのアミノ酸の豊富な源であることが周知の特定のタンパク質から選択される比較的小さなペプチドとして存在することが好ましい。一般的な鎖長は2〜90、好ましくは2〜40、より好ましくは2〜20である。適切なグルタミン酸源の例として、グルタミン酸1ナトリウム、グルタミン酸1カリウム若しくはグルタミン酸マグネシウム若しくはグルタミン酸カルシウム又はそれらの混合物が挙げられる。タンパク質100g当たり0.2g超のグルタミン酸源を添加することにより、及び、タンパク質100g当たり、塩又はペプチド物質として好ましくは0.5〜3gを添加することにより、製品中のグルタミン酸量の増加が可能である。こうした添加により、一般的には、グルタミン酸含有量はタンパク質の16重量%超、好ましくは17〜20重量%となる。トリプトファンの量は一般的にはタンパク質の1.6重量%超であり、好ましくは1.7〜3.5重量%、最も好ましくは1.9〜2.8重量%である。タンパク質の0.2重量%超、好ましくは0.5〜3重量%のフェニルアラニン源を添加することにより、フェニルアラニン量の増加が可能であり、結果として、フェニルアラニン量は一般的にタンパク質の5.7〜8重量%となる。
【0025】
タンパク質画分は有効量のインタクトな未変性IgYイムノグロブリンを含まないことが好ましい。一般的にIgYの濃度は日用量当たり200μg未満、若しくは製品1リットル当たり200μg未満、又はタンパク質100g当たり200μg未満であり、好ましくは日用量当たり若しくは製品1リットル当たり100μg未満、又はタンパク質100g当たり100μg未満である。一方、グリコマクロペプチドとして10〜50重量%、好ましくは20〜46重量%のインタクトなホエータンパク質を含んでいると有益である。したがって、かかるホエータンパク質はスイートホエー由来であることが好ましい。
【0026】
タンパク質画分は本発明にしたがって使用される組成物の唯一のエネルギー担体であってもよいが、炭水化物又は脂質も、好ましくは少なくとも脂質も組成物中に含有されていることが好ましい。組成物全体に対するタンパク質画分のエネルギー貢献は、6〜50en%であることが好ましく、10〜40en%又は15〜40en%又は17〜35en%であることがより好ましく、20〜30en%であること、又は代替として10〜25en%であることが最も好ましい。
【0027】
他の成分
本発明の栄養組成物は可消化炭水化物画分をさらに含むことができる。かかる炭水化物画分は、組成物の0(可消化炭水化物が皆無)から最高50エネルギー%まで、好ましくは4〜40%又は10〜40en%、最も好ましくは20〜36en%を成している。炭水化物は、マルトデキストリン、グルコースシロップ、加水分解澱粉、可溶性澱粉、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、並びにスクロース及びラクトースなどの二糖類を含んでいてもよい。最終製品の浸透価が400mOsmol/l未満、具体的には250〜380mOsmol/lの範囲内であれば、特定の混合物が好ましいということはない。ラクトース不耐症患者への使用が予定される場合には、製品中にラクトースが含まれない。脂質に対する炭水化物の比率は、エネルギー換算で、好ましくは1:0.81〜1:5、より好ましくは1:1.0〜1:4である。製品中のタンパク質、脂質及び炭水化物の量に関するこうした要件の結果、タンパク質:脂質:炭水化物のカロリー量の相対的寄与率は、0.45〜2:0.8〜5:1、好ましくは0.6〜1.8:0.9〜4.5:1、より好ましくは1〜1.6:1〜4:1となる。
【0028】
本発明の組成物はさらに、ビタミンやミネラルといった他の栄養成分を、例えばビタミン、ミネラルなどの推奨用量の0.2〜1.0倍の量で含有していてもよい。その官能特性のため、コリンよりもベタインを含有するほうが好ましい。ベタイン源としては、本発明にしたがって必要とされる量のベタインを放出できるものであれば、どのような食品用原材料も用いることができる。例としては、無水物又は水和物の形態の合成ベタイン内塩、その塩、例えば、HCl塩と、なんらかの水和物の形態の、カルボン酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、硫酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの他の酸や、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの酸性アミノ酸との混合物が挙げられる。また、植物又は動物性材料の抽出物、例えば甜菜の抽出物、及びベタインとグアニジノ酢酸との混合物も使用可能である。しかし、ベタインの内塩又はクエン酸やリンゴ酸などの有機酸若しくはアミノ酸を備えた塩のいずれかを用いるのが好ましい。特に、アスパラギン酸の塩及びベタインが好ましい。個別に見ると、ベタインの量は、乾燥重量換算で0.2〜20重量%が好ましく、0.4〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%が最も好ましい。組み合わせた場合は、ベタイン/コリンの重量比は少なくとも1以上が好ましく、1.5〜9がより好ましい。
【0029】
組成物中に存在すると有利に働く他の原材料に、カルニチン及びイノシトールがある。適切なカルニチン源としては、D型又はL型の食品用原材料又はその組み合わせがある。カルニチン源は、プロピオニルカルニチン、アセチルカルニチン、イソブチリル若しくはイソバレロイルカルニチン、又はイソプロピル若しくはイソバレリルカルニチンなどのアルカノイルカルニチン類であることが好ましい。適切な量は、製品1リットル当たり0.1〜2gである。イノシトールは、食品用品質のミオイノシトールであってもよい。適切な量は、製品1リットル当たり10〜1000mgである。
【0030】
組成物が食物繊維(消化されにくい又は消化されない炭水化物)を含有することも好ましい。好ましい量は、全乾燥重量の0.5〜5重量%である。かかる食物繊維は、イヌリン、ガラクトオリゴ糖、アラビノオリゴ糖及びキシロオリゴ糖などをはじめとするオリゴフルクトースなどのオリゴ糖並びにそれらの組み合わせや、ガラクタンガム、(ガラクト/グルコ)マンナンガム、キシログルカンガム、ベータグルカン、ペクチンなどの可溶性非澱粉性多糖類や、セルロース、ヘミセルロース、及び難消化性澱粉などの不溶性多糖類を含んでいてもよい。具体的には、例えば0.5〜4重量%の水溶性繊維原材料が望ましい。乳酸菌、特にLactobacillus rhamnosus、ビフィズス菌種、及びプロピオン菌科など、プレバイオティクスとプロバイオティクスとを組み合わせて、免疫系への作用を増大させると有益である。製品の形態が液体の場合は、服用直前にプロバイオティクスをかかる液体製品に添加するか、服用時の食事の際にプロバイオティクスを別途投与するのが好ましい。製品が、含水率4重量%未満、好ましくは2重量%未満の乾燥品の場合、プロバイオティクス原材料は、原材料1g当たり10〜1010個の生菌又は死菌を含む、又は原材料1g当たり少なくとも0.5gの菌体断片を含む、フリーズドライ材料からなるものであってもよい。
【0031】
組成物は、さらに炭酸塩画分を含んでいてもよい。適切な原材料としては、炭酸塩及び/又は重炭酸塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム及び/又は亜鉛塩が挙げられる。液体製品の最終pH、及び最終製品の鉱物組成によって、溶液中の相対量が決定する。製品の消化を刺激するため、製品製造中に添加する炭酸塩画分の量は、調乳の乾燥質量の0.1〜2重量%であることが好ましい。溶液中の製品の最終pHは、4〜8、好ましくは5〜7である。さらに、組成物がドライマター換算で1〜10重量%のカカオマスを含んでいることが好ましく、1.5〜6重量%のカカオマスを含んでいることがより好ましい。この結果、マクロ原材料の量が増大する。というのは、カカオの適切な原材料により、18〜22重量%のタンパク質、20〜30重量%の脂質、8〜12重量%の可消化炭水化物、及び20〜34重量%の繊維が提供されるからである。内包される物質によって調製物の風味が向上し、その作用が増大する。
【0032】
組成物を人間に対して使用する場合、経口投与に適した液体組成物(飲料)であることが好ましい。患者の完全栄養用の組成物のエネルギー密度は、0.75〜1.75kcal/ml(3.14〜7.32kJ/ml)であってもよく、好ましくは、0.96〜1.44kcal/ml(4.0〜6.0kJ/ml)であってもよい。例えば、100mlの液体組成物は、5〜10gのタンパク質、4〜10gの脂質、4〜14gの可消化炭水化物及び60〜5000mg(好ましくは70〜3500mg、より好ましくは100〜2500、さらには200〜2000mg)のベタイン(又はコリン)を含有していてもよい。組成物は、液体栄養物で従来から使用されているような微量元素、ビタミン、ミネラルを含んでいてもよい。本発明の効果を実現するために、カプセル化や塩の微粉化などの特殊な手段が必要となることはない。
【0033】
本発明の組成物は、サプリメント及び完全調乳とすることが可能であり、経口使用を意図するものであって、飲用又は経管栄養法により投与することができる。製品が医薬目的で使用されるサプリメントである場合は、少量で使用される。したがって、より濃縮されることになる。一般的には、1ミリリットル当たり1〜4kcal、好ましくは、1.4〜3kcal/mlで提供される。栄養補助製品は、本発明のタンパク質及び脂質画分以外に、特定の患者に有益な栄養成分を含んでいてもよい。これらは薬剤であってもよいが、特定のミネラル、微量元素、ビタミン及び炭酸塩画分の欠乏症を治療するための、目的の栄養素であってもよい。
【0034】
動物用栄養物に用いられる場合、製品は液体、スラリー、又は乾燥製品の形態を取り、後者の場合は顆粒状又はペレット状であることが好ましい。動物用栄養物の調製に用いられる原材料は、人間用栄養物の調製に用いられるものとは異なるものの、当該技術分野では周知であり、大豆、乳製品、魚粉、羽毛粉、血粉、卵、純粋アミノ酸、骨粉、リン酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ミネラル、ビタミン、微量元素、トウモロコシ、豆類や、小麦、大麦、ライ小麦、燕麦(フレーク)などの穀物、菜種粉、ルピナス、トウモロコシ胚芽、ヒマワリ、甜菜果肉、モラセス、カカオマス、ゼラチン化澱粉、ジャガイモなど、又はそれらの画分などが挙げられる。一般的な子ブタ用の栄養物には、100gドライマター1.3〜1.9MJ、16〜22gの粗タンパク質(そのうち少なくとも6.5重量%はリジン)、0.5〜5gの粗繊維が含まれるが、本発明によると、記載された原材料を混合することにより、請求項に記されたように、タンパク質、脂質、可消化炭水化物の相対組成及び他の特徴が遵守される。子ブタ用の液体調乳は、一般的に100ml当たり、4.8〜5.8gの粗タンパク質、4.8〜5.5gの脂質以外のラクトース、0.6〜1.0gの灰分、及びビタミンを含み、その他の成分を任意に含んでいる。子ブタ用栄養物中の脂質画分は、一般的に、脂肪酸含有量の45〜85重量%、好ましくは55〜75重量%の鎖長18の脂肪酸を含み、特定の事例では、子ブタ用栄養物は、50〜80重量%、好ましくは55〜75重量%のオレイン酸を含む。この場合、長鎖ポリ不飽和脂肪酸の量は、25重量%未満、好ましくは5〜18重量%である。
【0035】
組成物の使用
手術、放射線療法、化学療法、急性(細菌)感染、潰瘍形成、外傷、傷害、重篤な失血、輸血、虚血イベント、心不全、火傷若しくは免疫状態における機能低下などのうち1以上のストレス因子により生じた急性炎症状態における炎症反応、又は、慢性炎症性疾患の増悪期の炎症反応を軽減させるために、本発明の方法及び組成物を使用することができる。
【0036】
本発明の方法において、治療又は予防される状態は、特に、虫垂炎、腹膜炎、膵臓炎、潰瘍性、偽膜性、急性及び虚血性大腸炎、憩室炎、喉頭蓋炎、アルツハイマー病、胆管炎、胆嚢炎、クローン病、腸炎、アレルギー、免疫複合体病、臓器虚血、再灌流傷害、臓器壊死、花粉症、敗血症(sepsis)、敗血症(septicaemia)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性腎不全(ARF)、(多)臓器不全、全身性炎症反応症候群(SIRS)、代償性抗炎症性反応性症候群(CARS)、壊死性腸炎(NEC)、糖尿病性足部壊疽、内毒素性ショック、悪液質、超高熱、好酸球性肉芽腫、肉芽腫症、サルコイドーシス、感染流産、精巣上体炎、膣炎、前立腺炎、尿道炎、鼻炎、嚢胞性線維症、肺炎、肺胞炎、喉頭炎、胸膜炎、静脈洞炎、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス感染、ヘルペス感染、HIV感染、B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、播種性菌血症、デング熱、カンジダ症、マラリア、フィラリア症、アメーバ症、包虫嚢胞、火傷、皮膚炎、皮膚筋炎、日焼け、蕁麻疹、いぼ、膨疹、弁膜炎、血管炎、心内膜炎、動脈炎、アテローム性動脈硬化症、血栓性静脈炎、心膜炎、心筋炎、心筋虚血、結節性動脈周囲炎、リウマチ熱、セリアック病、鬱血性心不全、髄膜炎、脳炎、多発性硬化症、脳梗塞、脳塞栓、ギラン・バレー症候群、神経炎、神経痛、脊髄損傷、麻痺、ブドウ膜炎、関節炎、関節痛、骨髄炎、筋膜炎、パジェット病、痛風、歯周病、関節リウマチ、滑膜炎、重症筋無力症、甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、ベーチェット症候群、同種移植の拒絶反応、移植片対宿主病、I型糖尿病、強直性脊椎炎、II型糖尿病、強直性脊椎炎、ベルガー病、及びホジキン病からなる群から選択される疾患又は障害に付随する可能性がある。
【0037】
そうした状態は特に、虫垂炎、消化性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腹膜炎、膵臓炎、潰瘍性、偽膜性、急性及び虚血性大腸炎、肝炎、クローン病、アレルギー、アナフィラキシーショック、臓器虚血、再灌流傷害、臓器壊死、花粉症、敗血症(sepsis)、敗血症(septicaemia)、内毒素性ショック、悪液質、感染流産、播種性菌血症、火傷、ARF、SIRS、CARS、ARDS、(多)臓器不全、NEC、セリアック病、鬱血性心不全、脳梗塞、脳塞栓、脊髄損傷、麻痺、リウマチ、関節リウマチ、同種移植の拒絶反応及び/又は移植片対宿主病に付随する。
【0038】
医療処置を行うことが可能な他の状態としては、すでに重篤な状態にある患者又は重篤な状態に陥る恐れのある患者のように、病院の集中治療室に入っている状態が挙げられる。後者の範疇の例としては、胃腸管の手術、長時間に及ぶ手術、又は膵臓や肝臓といった重要な臓器の手術など、合併症を起こす危険が比較的高い手術を受ける患者が挙げられるが、栄養失調の患者、絶食状態にある患者、低コレステロール症患者、又は嚢胞性線維症患者の手術も挙げられる。具体的には、製品を手術前に投与することができる。すなわち、手術の1日前〜5分前、特に8時間前〜30分前、又は4時間前〜15分前、特に90分前〜15分前に投与が可能である。しかし、栄養的処置が有利に働くような状況に患者の状態が悪化又は変化する事例では、任意に投与することも可能である。そのような事例として、切開、移植、輸血、予定されていたアレルゲン、汚染物質又は吸入した刺激物への暴露といった、体内への他の物理的処置が挙げられる。特に、本発明の方法は、手術により、又は胆石、腎臓結石若しくは急性腹腔汚染による閉塞といったその他のストレス因子により発生する初期炎症シグナルの結果として起こりうる、イレウス、すなわち、疝痛、嘔吐、及び便秘を引き起こす腸閉塞のような、消化管の運動性低下の予防に有用である。
【0039】
本発明の方法及び使用は、急性炎症性イベントの危険又は慢性炎症性疾患の増悪の危険がある人間に、特に有効である。後者の危険は、栄養摂取が不十分な状態に置かれていた人間、すなわち、栄養的処置の時点で合併症の危険が高まっていて回復が思わしくない、栄養失調の患者、絶食中の患者、又は異化状態の患者において、顕著に増大する。患者が栄養失調であることを証明するための基準は医学文献に記載されており、除脂肪体重の確認、最近の食物摂取量の確認、及び血漿中の関連パラメータの測定が挙げられる。
【0040】
クローン病、COPD、又は喘息などの慢性炎症性疾患の増悪を示すシグナル、例えば、クローン病の場合は腹痛若しくは下痢の増大、又はCOPDの場合は痰の増加若しくは変化などのシグナルが現れた場合、増悪開始から5分以内〜1日以内若しくは数日以内に本発明の方法を用いることが好ましく、又は、例えば医療処置、アレルゲン、刺激物などといったストレス因子への暴露が予想される場合は、予想されるシグナルの反復的出現の5分前まで〜1日前までに本発明の方法を用いることが好ましい。42〜90%の脂肪、又は本発明の脂肪及び/又はタンパク質画分を含有する食品組成物を、増悪の最初の兆候の後にすばやく投与すると、炎症反応に対して食品が即座に作用を及ぼす結果、疾患の悪化予防に役立つ。
【0041】
本発明によると、先に開示した組成物は、ブタ、ウシ(子ウシ)、イヌ、ネコのような単胃若しくは多胃哺乳動物における急性炎症反応、特に、離乳後に、及び、ブタの場合は輸送及び屠殺過程その他のストレスの多いイベントの間に頻繁に観察される炎症反応の緩和及び/又は予防に非常に有用であることがわかっている。ストレスの多いイベントが計画されている、又は起こると予測されている時間の数時間前〜直前に、例えば、24時間前〜5分前、特に4時間前〜15分前に製品を投与することが好ましい。
[実施例]
【実施例1】
【0042】
以下の組成物の経管栄養法
【0043】
【表1】

【実施例2】
【0044】
手術前に使用する液体で、1ml当たりの熱量は1.2kcal、100ml当たりの成分は以下の通りである:6.3gのタンパク質(80重量%のインタクトなカゼイン、20重量%のインタクトなホエータンパク質、0.2gのグルタミン酸1ナトリウム)、8.0gの脂質(キャノーラ油、25重量%のリン脂質、魚油、乳脂肪)、4.8gの可消化炭水化物(グルコースシロップ、マルトデキストリン、スクロース)、0.9gのベタイン、2gの灰分(重炭酸ナトリウム、塩化カリウム、マグネシウム及びカルシウム塩)。
【実施例3】
【0045】
慢性炎症性疾患(クローン病、COPD)の増悪を予防するために使用する液体で、100ml当たりの熱量は120kcal、成分は以下の通りである:5.9gのタンパク質(80重量%の乳タンパク質+20重量%のα−ラクトアルブミン強化ホエー)、6.8gの脂質(30重量%の卵リン脂質)、8.0gの可消化炭水化物、3gの食物繊維(ガラクトオリゴ糖、燕麦ふすま、小麦ふすま)、微量材料(80mgのNa、135mgのK、125mgのCl、57mgのCa、57mgのP、20mgのMg、1.0mgのFe、1.0mgのZn、0.15mgのCu、0.3mgのMn、0.1mgのF、5μgのMo、4.3μgのSe、3.3μgのCr、10μgのI、67μgのREビタミンA、0.5μgのビタミンD、0.81mgのα−TE、4μgのビタミンK、0.1mgのビタミンB1、0.11のビタミンB2、2.6mgのNEナイアシン、0.4mgのパントテン酸、0.13mgのビタミンB6、13μgの葉酸、0.2μgのビタミンB12、10μgのビオチン、5mgのビタミンC、20mgのコリン、0.2gのベタイン)及び2gのカカオマス。
【実施例4】
【0046】
ICU患者用液体調乳で、100ml当たりの熱量は120kcal、成分は以下の通りである:臨床栄養学の栄養ガイドラインに準拠した、6.8gのタンパク質(30重量%の単離した大豆タンパク質加水分解物+70重量%の乳タンパク質)、6.6gの脂質(5en%のリノール酸、3en%のα−リノレン酸、20重量%のリン脂質)、9.5gの可消化炭水化物、0.2gのベタイン、0.2gの食物繊維、有機酸、ミネラル、微量元素、及びビタミン。成分中、炭酸塩が塩として使用され、炭酸塩含有量は乾燥質量の0.2重量%となっている。
【実施例5】
【0047】
材料及び手法
以前に記載されている(Luyer et al., Ann. Surg. 239:257-264, 2004; Luyer et al. Shock 21:65-71, 2004)非致死型出血性ショックモデルを用いて、ラットに麻酔をかけ、大腿動脈を切開してカニューレを挿入した。50分間に渡り、平均動脈圧(MAP)及び心拍数を継続的に記録した。ショック時(t=0)に、体重100g当たり2.1mlの血液を1ml/分の速度で採取した(全血液量の34〜40%)。出血性ショック誘導の45分前に、迷走神経切離術又は偽迷走神経切離術をラットに施した。迷走神経切離術を施した動物に対して腹部頸部切開を行い、両方の迷走神経幹を露出させた。4−0絹縫合糸を用いて迷走神経の両端を結紮し、分割した。偽手術を施した動物においては、両方の迷走神経幹を露出させたが、迷走神経の結紮及び分割は行わなかった。
【0048】
実験前に、18匹のラットには絶食させ、18匹には低脂肪食(6.9en%のタンパク質、75.4en%の炭水化物、16.7en%の脂肪)を給餌し、18匹には本発明の高脂肪食(6.9en%のタンパク質、40.9en%の炭水化物、52.2en%の脂肪)を給餌した。低脂肪食と高脂肪食とは等カロリーであった。経口での強制飼養により、出血性ショックの18時間前に3mlを与え、出血の2時間45分前に0.75mlを与えた。絶食させたラット及び高脂肪食給餌ラットに、迷走神経切離術又は偽迷走神経切離術を施した。
【0049】
CCKの役割を調べるため、高脂肪食給餌動物6匹にCCK−A(500μg/kg)及びCCK−B(500μg/kg)受容体アンタゴニストを、6匹にコントロールのビヒクルを、ショック誘導の25分前に静脈注射した。ラット(ラット3匹)から単離した腹腔マクロファージへの刺激、並びにショックを与えなかったラット(3)へのCCK−A及びCCK−B受容体アンタゴニストの注射により、両CCK受容体アンタゴニストの潜在的原炎症性を調べた。偽迷走神経切離術を施した高脂肪食給餌ラットにおいては、観察された効果がコリン作動性抗炎症経路の刺激に特異的なものであるかどうかを確認するため、ショック誘導25分前のクロルイソンダミンの静脈投与(ラット6匹)によって、末梢ニコチン性受容体をブロックした。クロルイソンダミンの投与に付随するMAPの低下(100mmHgから65mmHgへ)を説明するため、絶食させ、偽迷走神経切離術を施し、クロルイソンダミンで処置したラット6匹をコントロールとして含めた。出血性ショックの90分後に、血液を採取及び腸透過性を確認するための小腸切片の回収を行った。遠心分離により血漿を分離し、直ちに凍結して、分析時まで保管した。
【0050】
結果
低脂肪食を与えたコントロール及び絶食させたコントロールと比較して、高脂肪栄養は、偽迷走神経切離術を施したラットにおいて出血性ショックにより誘導されたTNF−α及びIL−6を強力に減少させることがわかった。偽迷走神経切離術を施したラットと比較したところ、高脂肪に誘導された、出血性ショック後のTNF−α(205±11に対して5±1pg/ml[偽手術])及びIL−6(80±5に対して19±9pg/ml[偽手術])の減少は、迷走神経切離術によって、無くなっていた。
【0051】
循環している内毒素量及び回腸切片のHRP透過性の減少並びに高脂肪による遠隔臓器への細菌転移、並びに迷走神経切離術によってそれらが以前の状態へ復帰することに基づいて、経腸高脂肪栄養物の保護作用の基礎となっているのは、副交感神経性制御機構であるとの結論に達した。
【0052】
CCK受容体アンタゴニストで処置したラットにおける循環トリグリセリド量は、コントロールラットと比較して同程度であり、このことは、急性期における脂質吸収が影響を受けなかったことを示している。
【0053】
CCK−A及びCCK−B受容体アンタゴニストの投与により、出血性ショック後の血漿中のTNF−α(251±30pg/ml)及びIL−6(87±14pg/ml)は、コントロール(それぞれ、10及び9pg/ml)と比べて増大した。また、CCK受容体アンタゴニストで処置したラットにおいては、血漿中の内毒素が増え、HRP透過性が増大する一方で、遠隔臓器への細菌転移が多くなった。腹腔マクロファージへの刺激が、受容体で処置したラットにおけるTNF−α放出の引き金となることはなく、出血性ショックを起こさせなかったラットにおけるアンタゴニストの注射がTNF−αの放出を導くことも、細菌転移又はHRPの漏出増大を引き起こすこともなかったため、高脂肪経腸栄養物は、CCK受容体の活性化を通じて原炎症反応を抑制し、腸バリアの完全性が失われるのを予防するとの結論に達した。
【0054】
高脂肪経腸栄養物は、絶食ラットと比較して、偽迷走神経切離術を施したショック動物における出血性ショック後の循環コルチコレステロンを増大させた。しかし、偽迷走神経切離術を施したコントロールと比較しての迷走神経切離術も、CCK受容体アンタゴニストの投与も、高脂肪処置を受けたラットにおけるコルチコレステロン量に有意に影響を与えることはなかった。これは、迷走神経切離術がコルチコレステロン量に影響を与えないことを確認するものである。コルチコレステロンの増大は、経口による強制飼養のストレスによって引き起こされる場合がある。
【0055】
クロルイソンダミンの投与により、ショック誘導前及びショック誘導直後にさらなる低血圧又は心拍数の変化が引き起こされることはなかった。ビヒクルで処置したコントロールと比較して、50分間の観察中にMAPは有意に低下したが、これによってショック誘導性炎症反応及び腸バリアの完全性喪失に影響が出ることはなかった。循環TNF−αに対する高脂肪経腸栄養物の抑制効果は、クロルイソンダミンにより無効となった。クロルイソンダミンで処置した高脂肪ラットにおけるTNF−α及びIL−6の量は、クロルイソンダミンで処置した絶食ラットにおける量と同等であった。クロルイソンダミンの投与を介した、高脂肪ラットにおけるニコチン性受容体の抑制は、コントロールの高脂肪ラットと比較して、遠隔臓器への細菌転移の増加、回腸切片におけるHRP透過性の増大、血漿中の内毒素量の増加につながった。
【0056】
これらの知見は、高脂肪経腸栄養物が、遠心性迷走神経繊維を介してのニコチン性受容体の刺激により、炎症を抑制することを示している。
【0057】
こうした結果は、高脂肪経腸栄養物が求心性迷走神経を介してCCK受容体を中枢部又は末梢部から刺激し、それによって、遠心性迷走神経及びニコチン性受容体を介して炎症反応の抑制がもたらされることを示している。これにより、栄養物と免疫応答との間の相互作用に関する機能的な新機序が提供される。また、これは重要な意味合いをもつものである。腸内における一時的な大量の食餌性抗原、生体毒素、及び破壊的な内因性リゾチームに対する望ましくない反応は予防され、腸バリア機能は保たれ、ホメオスタシスは維持される。
【0058】
これらの知見に基づき、本発明の脂肪栄養物は、TNF−αが顕著で腸バリア機能が損なわれているという炎症反応を特徴とする、敗血症及び炎症性腸疾患などの各種炎症性障害に治療的効果を示すものといえる。外傷又は傷害後の、迅速な医療処置を要する致死的となりうる炎症反応については、これは特に重要である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質画分が8〜50重量%のリン脂質を含有していることを特徴とする、炎症反応を即座に軽減させる組成物を製造するためのタンパク質画分及び脂質画分の使用。
【請求項2】
タンパク質画分又は脂質画分が、胃腸管を通じて副交感神経系の求心性迷走神経を中枢部又は末梢部から刺激し、これにより、遠心性迷走神経によるニコチン性受容体の刺激を介して炎症反応の急激な軽減がもたらされることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
脂質画分が、10〜35重量%、好ましくは12〜30重量%のリン脂質を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
脂質画分が、2〜50重量%のモノグリセリド及びジグリセリドを含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の使用。
【請求項5】
タンパク質画分が、インタクトなカゼイン及び/又はインタクトなホエータンパク質及び/又は大豆タンパク質加水分解物を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の使用。
【請求項6】
組成物が、全乾燥組成物の0.2〜25重量%にあたる量のベタインを含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の使用。
【請求項7】
脂質画分が、組成物の42〜90en%を構成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の使用。
【請求項8】
手術、放射線療法、化学療法、急性(細菌)感染、潰瘍形成、細菌転移、外傷、傷害、アレルゲン、虚血イベント、心不全、火傷における、慢性炎症性疾患の増悪の軽減若しくは急性炎症反応の抑制、又はCARS、SIRS、ARF、敗血症、及び(多)臓器不全の発症予防を目的とする、請求項1〜7のいずれか記載の使用。
【請求項9】
組成物が、増悪開始の5分後〜24時間後に投与されることを特徴とする請求項8記載の使用。
【請求項10】
組成物が、手術、移植、輸血、放射線療法、化学療法、又は予定されたアレルゲン暴露の24時間前〜5分前に投与されることを特徴とする請求項8記載の使用。
【請求項11】
慢性炎症性疾患の増悪開始の5分後〜24時間後、又は、手術、移植、輸血、放射線療法、化学療法、若しくは予定されたアレルゲン暴露の5分前〜24時間前に投与される栄養剤を製造するための、42〜90en%の脂質、6〜50en%のタンパク質及び0〜50en%の炭水化物を含有する栄養組成物の使用。
【請求項12】
哺乳動物における急性炎症反応の緩和又は予防を目的とする請求項1〜11のいずれか記載の使用。
【請求項13】
10〜50en%のタンパク質画分、40〜90en%の脂質画分を含有する栄養組成物であって、前記タンパク質画分が、カゼイン、ホエータンパク質及び大豆タンパク質加水分解物のうち1つ以上を少なくとも90重量%含有し、前記脂質画分が、8〜50重量%のリン脂質を含有していることを特徴とする栄養組成物。
【請求項14】
脂質画分が、10〜35重量%、好ましくは12〜30重量%のリン脂質を含有していることを特徴とする請求項12記載の組成物。
【請求項15】
胃腸管を通じて副交感神経系を中枢部又は末梢部から刺激することが可能なタンパク質画分及び/又は脂質画分を、即時型炎症反応を起こしている又はその危険がある哺乳動物に有効量投与し、これにより、遠心性迷走神経によるニコチン性受容体の刺激を介して炎症反応の軽減がもたらされることを特徴とする急性炎症反応を急激に軽減させる方法。

【公表番号】特表2008−519831(P2008−519831A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541121(P2007−541121)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/NL2005/050040
【国際公開番号】WO2006/052134
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】