説明

炎症性有痛性疾患の治療のための獣医薬におけるメロキシカムの使用

本発明は、炎症性有痛性疾患の治療、特に軽度又は中程度の乳房炎症例の治療のための鎮痛効力を有する獣医薬組成物を調製するための、メロキシカム又は有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩と、1種以上のビヒクルとを含有する製剤の使用に関する。本治療は、軽度又は中程度の乳房炎症例、特にその慢性状態における炎症性の痛みと関連した過敏状態の効率的な長期持続性軽減をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、獣医薬での、特に軽度及び中程度のウシ乳房炎症例における有痛状態の治療のためのメロキシカムの新規な用途に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
乳房炎は乳牛の最も重要な病気の1つであり、世界の酪農業に対する損失の重大な原因である。米国国立乳房炎議会(National Mastitis Council)(NMC)は、酪農業に対する年間の損失は18億〜20億USドル、或いはウシ1頭当たり185〜200USドルに達すると見積もっている。処分される牛乳による損失だけで10億USドルに達すると考えられる。すべての乳牛の50%までが乳房炎に冒されていると考えられる。かなりの経済的損失に加え、乳房炎はウシの快適な生活に影響を及ぼす。
乳房炎は乳腺の炎症であり、生産減少又は淘汰率(culling rate)増加によって酪農業に重大な損失をもたらす。乳房炎を引き起こす病原は、乳房と関連する伝染性病原(すなわちスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、及びストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae))と、ウシの環境に存在する環境病原(大腸菌及びストレプトコッカス・アガラクティエ以外の連鎖球菌、及び凝固酵素-ネガティブ連鎖球菌)に分類することができる。
【0003】
感染は、急性乳房炎症例では病気の重症な徴候により臨床的に明白であり、或いは慢性的な臨床的又は無症状性乳房炎症例では、軽度から中程度までの全身の徴候及び/又は軽度から明白な局所的炎症徴候と関連する。全身の臨床徴候は、直腸温度の上昇(高熱まで)及びウシの全身の健康状態の激しい悪化(食物摂取が無いか又は減少、全身の状態の障害)を意味する。局所的な臨床徴候には、患部クォーターの典型的な炎症反応(赤い、腫れた、温かい及び痛い)と関連する、肉眼で見た牛乳の品質の変化が含まれる。急性乳房炎と慢性乳房炎の両方が牛乳生産減少につながる。さらに、重症の局所的炎症徴候のある急性乳房炎症例では、この疾患が動物の性能と幸福に影響を及ぼすことがよく認識されている。
牛乳生産損失にとって最も重要なことは、慢性的かつ不可逆的な組織損傷に起因する慢性乳房炎である。通常、牛乳中に存在する体細胞性細胞の数を測定することによって乳牛の乳房感染の程度を評価する。
食物生産動物の良い快適な生活を保証するには、痛みとストレスの認識、軽減及び制御が中心となる。ウシの乳房炎及び跛行のような状態が非常に流行っており、快適な生活の重大な関心事である。炎症は痛覚情報処理の変化を誘発し、これが動物にとって重篤な結果をもたらしうる。
異痛(無害な刺激の不快としての知覚)及び痛覚過敏(無害な刺激に対する誇大反応)が炎症性痛みの通例の共通因子である。この過敏状態の持続期間は臨床徴候の炎症性刺激と消散より長く持続することがあり、快適な生活に非常に密接に関係する。
急性跛行を伴うウシの研究は、痛覚過敏がこの疾患の臨床的消散より長く持続することを実証し(Whay HR, Waterman AE, Webster AJ, O'Brien JK., 1998,“乳牛における後肢跛行と関連する痛覚過敏の持続期間に及ぼす傷害タイプの影響”(“The influence of lesion type on the duration of hyperalgesia associated with hind limblameness in dairy cattle”.) Vet J. 1998 Jul; 156(1), P 23-29)、急性乳房炎の乳牛の予備研究は、異常な痛み処理が40日までの間存在することを示した(Fitzpatrick and Nolan,未公開考察)。乳房炎は、おそらく痛みを誘発する炎症性疾患であり;実際、臨床的及び無症状乳房炎のウシの症例からの牛乳中で、痛覚過敏の媒介物であるブラディキニンが検出された(Eshraghi HR, Zeitlin IJ, Fitzpatrick JL, Ternent H, Logue D,1999, “ウシ乳房炎におけるブラディキニンの放出”(“The release of bradykinin in bovine mastitis”.) Life Sci; 64(18). P.1675-1687)。
【0004】
乳房の感染の治療及び予防のため一般的に抗生物質が使用され、種々の製品が入手可能である。抗生物質は通常乳房内注射で投与されるが、感染がひどい症例では、抗生物質をさらに非経口投与しうる。乳房内製剤は、使い捨ての単回使用シリンジ又はチューブで供給される。
さらに、炎症は正常な痛み情報処理の変化を誘発し、これが動物にとって重大な結果をもたらし、痛覚過敏、すなわち無害な刺激に対する誇大反応として評価されうる。局所的炎症状態を低減するため(腫脹、発赤、発熱、痛み及び機能損失の低減を含む抗炎症)、乳房内で抗生物質と併用する際に、ステロイド性抗炎症薬(SAID)がよく定着している。さらに、SAIDは、非経口及び/又は乳房内抗生物質療法と併用して全身投与することができる。
【0005】
最近、乳房炎治療、特に急性臨床的乳房炎症例におけるNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)の価値が非常に重要になってきた。SAIDに比べて免疫抑制効果を持たず、かつ炎症の低減(抗炎症性)、痛みの低減(鎮痛性)、体温の低下(解熱性)及び内毒素関連臨床徴候の減少に有効であることが判ったからである。
現在、急性乳房炎症例で使用するためEU内の数カ国でウシ用に市販され、かつ許可されている数種のNSAID、すなわちフルニキシンメグルミン(flunixin meglumine)(Finadyne(登録商標)Injection, Schering-Plough Animal Health)、ケプロフェン(ketoprofen)(Ketofen(登録商標) 10%, Merial)、メロキシカム(Metacam(登録商標),Boehringer Ingelheim)及びトルフェンアミド酸(tolfenamid acid)(Tolfedine(登録商標),Vetoquinol)がある。すべての製品が非経口投与のために許可されており;いくつかの国では、“急性臨床的乳房炎の抗生物質に対する補助療法として”の効能のために乳牛に使用するために許可されている。
NSAIDは、疾患の急性発生における痛みの軽減についてよく認識されているが、食物生産動物のため疾患の慢性状態におけるNSAIDの価値は評価されていない。先行技術で現在までに知られているNSAIDは、軽度及び中程度の乳房炎症例に存在する有痛状態の治療のためには許可されていない。例えば、NSAIDフルニキシンメグルミン(Finadyne(登録商標)Injection, Schering-Plough Animal Health)は、乳牛に乳房炎内投与した場合、長期持続性鎮痛活性を達成しなかった(Fitzpatrick et al, 1998,“乳房炎の痛みと炎症の認識及び制御”(“Recognizing and controlling pain and inflammation in mastitis”), Proc. British Mastitis Conference, P. 34-44)。
現在、病気の簡単な全身の徴候としてわずかに高い直腸温度、明白から軽度までの局所的炎症徴候、すなわち乳腺のわずかな腫脹、牛乳中の血塊及び/又は体細胞性細胞数の増加による牛乳の品質の変化がある中程度から軽度までの乳房炎症例の治療用のNSAIDは市販されていない。
さらに、公知のNSAIDメロキシカム(Metacam(登録商標))の医薬用途又は特性に向けた公知の先行技術は、異なる局面に関する。
とりわけ、EP-A-0 002 482は、活性物質のメグルミン塩、塩化ナトリウム及び水から成るメロキシカムの2.0%注射液を示している。
EP-A-0 945 134は、メロキシカムとその塩、すなわちナトリウム塩、アンモニウム塩及びメグルミン塩の水溶液中におけるpH依存性溶解度特性を開示している。
WO 99/59634 A1は、0.5%のメロキシカムを含有する点眼液について述べている。
さらに、イヌ、若い雌ウシ及び子ウシのような小動物において、市販の0.5%メロキシカム溶液を用いて、例えば呼吸器疾患及び炎症を治療する。
WO 03/049733は、35〜100mg/mlの溶解メロキシカム塩と、動物の呼吸器疾患及び炎症の治療に適した1種以上の添加剤とを含む無針注入用の高濃縮の安定したメロキシカム溶液について述べている。
最後に、WO 01/97813 A2は、有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩と、1種以上の賦形剤とを含み、溶解メロキシカム塩の含量が10mg/mlより多いことを特徴とする非経口投与又は経口投与用の、シクロデキストリンのないメロキシカム水溶液について述べている。
WO 03/049733及びWO 01/97813 A2に記載されているメロキシカム製剤は、大型家畜の痛みを治療し、さらに炎症、発熱及び呼吸器の苦情を治療するために医薬組成物で使用されるだろうが、このような痛みを軽減するための効力は、明らかに急性乳房炎症例に限定されている。さらに、当時、動物が乳房炎症例で痛みを感じているか、又は医薬組成物が動物の痛みを軽減するための効力を有するか決定できなかった。最近、乳牛の乳房炎における痛みの認識と評価の可能性が見出された。従って、今や動物が痛みを感じるかを決定するために新規の改良方法が利用可能である(“乳牛の臨床的乳房炎における痛み評価に関する研究の予備結果(“Preliminary results of a study on pain assessment in clinical mastitis in dairy cows”), M. H. Milne, A. M. Nolan, P. J. Cripps and J. L. Fitzpatrick, Proceedings of the British Mastitis Conference (2003) Garstang, p. 117-119)。
食物生産動物における有痛状態、すなわち炎症性慢性疼痛の評価のための前記方法は、機械的装置システムを用いて開発かつ有効なものとされた。この方法は、軽度及び中程度の乳房炎症例を患う乳牛で確立され、かつ有効なものとされた。驚くべきことに、軽度から中程度の乳房炎症例を患うウシは有痛状態に苦しんでおり、動物の快適な生活という局面では、この状態を予防及び治療する必要がある。
従って、本発明の目的は、炎症性有痛性疾患、特に軽度及び中程度の乳房炎症例、特に疾患の慢性状態の治療用医薬組成物を提供することである。また、本組成物は、治療を抗生物質に対する添加剤として全身又は局所的に施すことを可能にするだろう。
【0006】
〔発明の詳細〕
驚くべきことに、動物の有痛状態の治療のためにメロキシカム製剤を使用しうることが分かった。従って、本発明は、メロキシカム又は有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩と、1種以上のビヒクルとを含み、かつ任意に1種以上の適切な添加剤を含んでよい製剤の、乳房の局所的(慢性的)炎症性疼痛に関連する知覚過敏状態/炎症性痛覚過敏を軽減するため、特に痛みを軽減するため、炎症性有痛性疾患、特に軽度及び/又は中程度の乳房炎症例、特にその慢性状態の治療ための鎮痛効力のある獣医薬組成物を調製するための使用を提供する。
現在まで、特に急性乳房炎症例ではなく軽度及び中程度の乳房炎症例に適用するためには、本発明のメロキシカム含有製剤の使用について開示されていない。しかし、乳房炎症例の約70%が慢性的である。
痛みの認識、軽減及び制御が動物の良い快適な生活を保証するために重要であることが分かった。従って、既に述べたように、中程度又は軽度の乳房炎と関連する痛みを評価するために乳牛を調査した。食物生産動物の痛みの測定のために新しく確立された方法に向けた上記調査に基づき、臨床的実地調査を用いて、軽度及び中程度の乳房炎のウシにおける有痛性慢性状態に加え、メロキシカムの作用の鎮痛効力及び長い持続期間について調査した。前記臨床的実地調査では、乳房内抗生物質療法に対する添加剤として1回だけメロキシカムを投与し、動物が3日後及び6日後に再びメロキシカムによる治療を受けた第2群と比較した。第3群は抗生物質単独療法を受けた。
驚くべきことに、メロキシカムの単回投与の鎮痛効力は、メロキシカムの複数回投与に匹敵する結果を示した。従って、軽度から中程度までの乳房炎症例を患うウシを含む臨床的実地調査は、痛み評価のために新しく確立され、かつ有効なものとされた方法によるメロキシカムの鎮痛効力を確認し、かつこの結果は、メロキシカムによる単回治療が長期持続性鎮痛効力を達成することを示した。反対に、抗生物質単独療法は動物の有痛状態を緩和せず、メロキシカム治療群に対して有意な差異を示した。
鎮痛効果が非常に速く生じ、かつ単回投与は数日間にわたって長期持続性効果を有することが観察され、この病気の動物の幸福に多大な改善をもたらした。
これらの研究は、メロキシカムを用いてまずこの適用区内で行った。いくつかの先行文献がメロキシカム製剤による傷みの治療について、実現可能性又は再現性のない教示に言及しているが、今開発された方法は、最初に、該効果を決定かつ評価することを可能にした。
【0007】
非経口投与される他の許可されているNSAIDは、鎮痛効力が弱いため、及び/又は作用の短い持続時間(12時間未満)のため、慢性的な軽度及び中程度の乳房炎症例ではおそらく使用しえない。
後者の非経口投与される他の許可されているNSAIDは、短い時間間隔でさらなる再治療を必要とし、食物生産動物で使用するにはおそらく魅力的でない。薬物使用の薬剤経済的利益が容認されないだろう。対照的に、メロキシカムは、ウシにおけるその活性の長く続く持続期間による無比の利益を提供する。本発明のメロキシカム製剤を軽度及び中程度の乳房炎症例のウシに使用すると、局所的な炎症徴候の低減(牛乳中の体細胞性細胞数の減少を含む)、臨床的な改善のみならず、炎症媒介物の濃度の減少と長期持続性痛み軽減をもたらし、動物の快適な生活に貢献する。
本発明の構成において、表現“軽度及び中程度の乳房炎症例”は、重症な乳房炎と異なるグレードの乳房炎に相当する。軽度及び中程度の乳房炎疾患は、急性乳房炎と比べて疾患の軽減経過を示し、かつ乳房炎感染は急性乳房炎症例よりもひどくない病気の徴候で臨床的に明白であるか、或いはむしろ実際には明白な臨床徴候が全くないか又はほとんどない無症状であるという意味に解釈すべきである。このような無症状の乳房炎を治療しなければ、やがて急性乳房炎より穏やかな臨床状況を有する慢性乳房炎が発生するだろう。
【0008】
大まかに言えば、軽度な乳房炎のウシ及び正常なウシに比べて中程度の乳房炎のウシでは平均心拍数、呼吸数及び直腸温度が高い。上記研究により(先行研究:“乳牛の臨床的乳房炎における痛み評価に関する研究の予備結果(“Preliminary results of a study on pain assessment in clinical mastitis in dairy cows”)”, M. H. Milne(同書)、及び本発明の臨床的実地調査)、乳房炎をさらに、牛乳の外観に変化がある、すなわち体細胞性細胞数が増え、フレーク又は血塊があるか無いが、乳房は正常な場合を‘軽度’と、牛乳の外観に変化があり、乳房は熱く、腫れ又は触ると痛いが、ウシは‘調子が悪く’ない、及び/又は全身的な抗生物質療法を必要としない場合を‘中程度’と分類する。痛みの評価に関する研究の推敲された方法により、平均心拍数、呼吸数及び直腸温度に関連する乳房炎疾患症候の境界症例を中程度又は軽度な乳房炎のどちらかに割り当てることもできる(英国乳房炎議会(British Mastitis Conference)で提案された上記論文のポスター(2003))。このような定義も本発明に適用するものとする。
従って、本発明の臨床的研究の結果は、メロキシカムが乳牛の軽度又は中程度の乳房炎の鎮痛療法で有益であり、メロキシカムによる治療は有意な効果を有し、かつメロキシカムによる単回治療が長期持続性鎮痛効力を達成することを示す。
【0009】
本発明の製剤は10〜30mg/ml、好ましくは12〜25mg/ml、さらに好ましくは16〜23mg/ml、特に好ましくは18〜22mg/ml、特に20mg/mlの濃度でメロキシカム又はメロキシカム塩を含有しうる。溶解メロキシカム塩の含量が35mg/ml未満である場合、特に好ましい。
本発明で使用するメロキシカム含有製剤は、メロキシカム又はメロキシカム塩に加え、1種以上のビヒクルを含み、かつ任意に1種以上の添加剤を含んでよい。ビヒクルに応じて、他の添加剤が選択される。ビヒクルは水及び/又は油から選択され、その結果、水系又は油系となり;中間の系も可能である。本発明では、用語“水系”又は“油系”は、ビヒクルの主要部が水由来であるか又は油由来であると解釈するものとする。用語“ビヒクル”は、本質的に活性物質、すなわちメロキシカム又はその塩、及び存在する場合は添加剤を、製剤を形成するように分散させる媒体又は担体であると解釈するものとする。
本発明で使用する製剤は、液体系(例えば水溶液)、ヒドロゲル、エマルジョン(例えばマイクロエマルジョン、水中油エマルジョン若しくは油中水エマルジョン)、又は懸濁液などでよい。本発明の構成では、表現“溶液”は、真の溶液及び中間状態のみならず分散系をも含むものと解釈すべきである。製剤は、さらにクリーム又は軟膏のような半固体又は半液体系、或いはスプレーのような気体系でもよい。
水系を選択する場合、好ましくはメロキシカムを塩の形態で使用する。本発明で使用するメロキシカム塩は、メグルミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩でよく、好ましくはメロキシカムメグルミン塩を挙げることができる。
メグルミン濃度は、12.5〜16.5mg/ml、好ましくは13〜16mg/ml、さらに好ましくは13.5〜15.5mg/ml、最も好ましくは14〜15mg/ml、特に約14mg/mlでよい。それに従って、可能なナトリウム、カリウム及びアンモニウムの濃度を計算する。
メグルミンとメロキシカムを9:8〜12:8のモル比、好ましくは11:8のモル比、特に約10:8のモル比で使用することができる。
薬物許可法下で認可され、また先行技術で知られるいずれの添加剤も使用しうるが、添加剤の例として緩衝液、可溶化剤、ゲル化剤、粘度増強剤、保存剤、油、抗酸化剤、乳化剤、泡形成剤、等張剤、噴霧ガス及び/又は増粘剤が挙げられる。他の好適な添加剤は、例えばクエン酸、レシチン、グルコン酸、酒石酸、リン酸及びEDTA又はそのアルカリ金属塩、好ましくは酒石酸及びEDTA又はそのアルカリ金属塩、特に二ナトリウムEDTAである。
水性媒体中では、小濃度の可溶化剤、保存剤、至適pH範囲を達成するための緩衝物質及び任意的な他の添加剤から成る群より添加剤を選択すると有利である。この系は、例えば任意に粘性水溶液又はヒドロゲルをもたらす適切なゲル化剤及び/又は粘度増強剤を含みうる。好適な系は、無菌の粘性水溶液若しくはヒドロゲル、無菌エマルジョン(例えば、水中油)、又は無菌の油性懸濁液でよい。
油系を選択する場合、添加剤は好ましくは1種以上の油、1種以上の抗酸化剤及び任意的な1種以上の増粘剤から選択される。他の添加剤も存在しうることは当然の事である。
本製剤に存在する添加剤について以下に詳述する。
【0010】
可溶化剤として、獣医学部門に好適ないずれの既知の可溶化剤も使用でき、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばポロキサマー188)、グルコフロール、アルギニン、リジン、ヒマシ油、プロピレングリコール、ソルケタール(solketal)、ポリソルベート、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ポリビニルピロリドン、レシチン、コレステロール、12-ヒドロキシステアリン酸-PEG660-エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ポリオキシ-40-硬化ヒマシ油、ポリオキシル-10-オレイル-エーテル、ポリオキシル-20-セトステアリルエーテル及びポリオキシル-40-ステアレート又はソルビトール、マンニトール及びキシリトールの混合物、好ましくはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、グリコフロール、ポリビニルピロリドン、レシチン、コレステロール、12-ヒドロキシ-ステアリン酸-PEG660-エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ポリオキシ-40-硬化ヒマシ油、ポリオキシル-10-オレイル-エーテル、ポリオキシル-20-セトステアリルエーテル及びポリオキシル-40-ステアレートである。特に好ましくはポリエチレングリコール、グルコフロール及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-コポリマー、特にポリエチレングリコール(例えば Macrogol 300)及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばPoloxamer 188)である。
可溶化剤の濃度は20〜200mg/ml、好ましくは30〜150mg/ml、さらに好ましくは40〜130mg/ml、最も好ましくは50〜120mg/ml、特に70〜100mg/mlの範囲でよい。
【0011】
医薬品分野で使うために知られているいずれの保存剤も使用でき、例えば、エタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、硝酸フェニル水銀、メチル-、エチル-、プロピル-若しくはブチル-p-ヒドロキシベンゾエート、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール又は塩化ベンザルコニウムを使用しうる。好ましくは、エタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール及びメチル-、エチル-、プロピル-若しくはブチル-p-ヒドロキシベンゾエート、特に好ましくはエタノール、安息香酸とそのナトリウム若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、特にエタノールである。
保存剤エタノールの濃度は100〜200mg/ml、好ましくは120〜180mg/mlの範囲、さらに好ましくは約150mg/mlでよい。
保存剤安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、フェノール、m-クレゾール及びp-クロロ-m-クレゾールの濃度は0.5〜50mg/ml、好ましくは1〜10mg/ml、さらに好ましくは3〜5mg/mlの範囲でよい。
保存剤塩化ベンザルコニウム、硝酸フェニル水銀及びメチル-、エチル-、プロピル-若しくはブチル-p-ヒドロキシベンゾエートの濃度は0.01〜4mg/ml、好ましくは0.02〜3mg/ml、さらに好ましくは0.1〜0.5mg/mlの範囲でよい。
【0012】
本発明の水性媒体を含有する製剤がアルカリ性範囲のpH値を有することが有利だろう。従って、pH値を約8〜約10、好ましくは約8.5〜約9の範囲、さらに好ましくは約8.7〜約8.9の範囲、特に約8.8のpHに調整することができる。しかし、酸性範囲のpH値も使用可能であるが、アルカリ性のpH範囲が特に好ましい。アルカリ性領域になるほど、メロキシカム含有製剤が好ましく真の水溶液になる傾向があり、酸性領域になるほど、メロキシカム含有製剤が懸濁液になる傾向がある。
従って、約8〜約10のpH値を達成するために使用する緩衝系は、例えば、グリシン、グリシンとHClの混合物、グリシンと水酸化ナトリウム溶液の混合物、及びそのナトリウム塩とカリウム塩、フタル酸水素カリウムと塩酸の混合物、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウム溶液の混合物又はグルタミン酸とグルタメートの混合物でよい。特に、グリシン、グリシンとHClの混合物及びグリシン/水酸化ナトリウム溶液の混合物、特にグリシンが好ましい。
緩衝物質の濃度は、4〜50mg/ml、好ましくは5〜20mg/ml、さらに好ましくは8〜10mg/mlでよい。
上述した他の添加剤、すなわちEDTA、クエン酸、レシチン、グルコン酸、酒石酸及びリン酸又はその塩の濃度は0.2〜3mg/ml、好ましくは0.3〜2.5mg/ml、さらに好ましくは0.5〜2mg/ml、最も好ましくは0.6〜1.5mg/ml、特に0.7〜1.0mg/mlの範囲でよい。
【0013】
本発明の1つの好ましい製剤は、メロキシカムのメグルミン塩又はナトリウム塩に加え、可溶性剤としてポリエチレングリコール、グリコフロール及び/又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、特にポリエチレングリコール(例えばMacrogol 300)及び/又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばPoloxamer 188)、保存剤としてエタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩又はソルビン酸とそのナトリウム若しくはカリウム塩、特にエタノール、緩衝液としてグリシン、グリシン/HClの混合物若しくはグリシン/水酸化ナトリウム溶液の混合物、好ましくはグリシン、及び任意的なさらなる添加剤として二ナトリウムEDTAを含む。
本発明の製剤において、メロキシカムと他の添加剤、特に二ナトリウムEDTAは、25:1〜15:1、好ましくは24:1〜16:1、好ましくは23:1〜17:1、さらに好ましくは22:1〜18:1、最も好ましくは21:1〜19:1、特に約20:1の質量比で存在しうる。
【0014】
油系において、医薬品の調製のため先行技術で知られるいずれの活性物質も適切な油性成分であり、例えば、植物油、特に綿実油、落花生油、トウモロコシ油、ナタネ油、ゴマ油及び大豆油、又は適度な鎖長のトリグリセリド、例えば分別ヤシ油、又はミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル又は鉱油若しくはオレイン酸エチル又はこれらの混合物が挙げられる。好ましい油は、トウモロコシ種油、ゴマ油、及びピーナツ油のような植物油から選択される。
使用する抗酸化剤は、先行技術から既知のいずれの抗酸化剤でもよく、好ましくはセサモール(sesamol)、α-トコフェロール(ビタミンE)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)又はブチルヒドロキシアニソール(BELA)でよい。
例えばモノステアリン酸アルミニウム、硬化ヒマシ油、カルボキシメチルセルロース又はその塩のような増粘剤の使用も好適でありうる。
所望により、乳化剤が存在してよい。先行技術から既知の乳化剤とは別に使用される好ましい乳化剤として、ヒマシ油のポリオキシエチレン誘導体又はポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
選択される投与形態が泡形成剤を必要とする場合、薬物許可法下で認可されるいずれのものでもよく、かつ先行技術から既知であり、好ましくは種々の脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリソルベート)である。
使用しうる好適な噴霧ガスは、医薬品分野での使用が許可されているもの及び先行技術から既知のすべてのものであり、例えば、CO2、N2O、N2、プロパン/ブタン混合物、イソブタン、クロロペンタフルオロエタン(CClF2-CF3)、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)である。
医薬品用途で既知かつ容認されるすべての常用される添加剤が通常の量で本発明の製剤に存在しうるのは当然の事である。
以下、獣医薬組成物の調製用の水系製剤を実施例として示す。しかし、これら実施例は単に例示として意図したものであり、本発明を限定するものとみなすべきでない。
【0015】
〔実施例〕
以下の実施例1〜3では、水系又は油系中にメロキシカム又はメロキシカム塩を含有する乳房内使用(Ph. Eur.の要求に準拠)のために本発明の製剤を調製した。これら製剤を下表1〜3に示す。
実施例1:
本発明の製剤1を注入器用液の形態で調製した。

表1

【0016】
実施例2:
本発明の製剤2を注入器用液の形態で調製した。






表2

【0017】
実施例3:
本発明の製剤3を油性懸濁液の形態で調製した。

表3

【0018】
以下の実施例4〜8では、メロキシカム又はメロキシカム塩を含有する経口又は非経口用に本発明の製剤を調製した。これら製剤を下表4〜8に示す。

表4

【0019】
方法:
20gのメロキシカムを500mLのメグルミン水溶液(14g/500mL)に90℃で溶かす。上記レシピに従って他の賦形剤を逐次加える。次に、1M塩酸及び1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを8.8とする。この溶液に水を加えて体積を1リットルにする。
【0020】
表5

【0021】
方法:
20gのメロキシカムを500mLのメグルミン水溶液(12.5g/500mL)に90℃で溶かす。上記レシピに従って他の賦形剤を逐次加える。次に、1M塩酸又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを8.8とする。この溶液に水を加えて体積を1リットルにする。
【0022】
表6

【0023】
方法:
25gのメロキシカムを500mLのメグルミン水溶液(17.5g/500mL)に90℃で溶かす。上記レシピに従って他の賦形剤を逐次加える。次に、1M塩酸又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを8.8とする。この溶液に水を加えて体積を1リットルにする。









【0024】
表7

方法:
15gのメロキシカムを500mLのメグルミン水溶液(10.5g/500mL)に90℃で溶かす。上記レシピに従って他の賦形剤を逐次加える。次に、1M塩酸又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを8.8とする。この溶液に水を加えて体積を1リットルにする。
【0025】
表8

方法:
20gのメロキシカムを500mLのメグルミン水溶液(14g/500mL)に90℃で溶かす。上記レシピに従って他の賦形剤を逐次加える。次に、1M塩酸又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを8.8とする。この溶液に水を加えて体積を1リットルにする。
【0026】
本発明で使用する製剤は、特に軽度及び中程度の乳房炎症例を治療するための鎮痛効果を有する獣医薬組成物を調製するために好適である。本製剤は、動物、特に労働動物又は家畜の治療に適する。全身及び/又は局所投与される抗生物質療法と共に本治療を施すことができる。体重が750kgまでの家畜の治療に好適なメロキシカム製剤で大型家畜を治療できる。特に非経口投与の場合、医薬組成物を粒子のない溶液の形態で使用することが好ましい。
1回の単用量で十分なので、本発明の製剤の薬用量は、体重1kg当たり0.2〜1.0mg、好ましくは体重1kg当たり0.3〜0.8mg/ml、さらに好ましくは体重1kg当たり0.4〜0.7mg/ml、特に好ましくは体重1kg当たり0.4〜0.6mg/ml、特に体重1kg当たり約0.5mg/mlの活性物質に相当すべきである。
文献公知の製剤の調製方法を用いて本発明の製剤を調製することができる。例えば、メロキシカム/メロキシカム塩製剤に適切な添加剤を添加することができる。
本発明のメロキシカム含有製剤は、クリーム、軟膏、ローション、ゲル、油中水若しくは水中油エマルジョン、エアロゾルフォーム、又は例えば水、エタノール若しくはその混合物を基礎とした溶液若しくは懸濁液の形態で投与することができる。特に好ましくは、いずれかの種類の注入器用製剤及び注射用製剤、例えば、皮内若しくは皮下の無針注入用製剤又は乳房内注射若しくは既製シリンジ用鈍針による注入器用製剤、或いは静脈内又は筋肉内注射のような非経口投与のための注射用製剤が好ましい。この種の医薬品形態の調製は、それ自体先行技術から周知である。
市販されている注射用液のような既知又は許可されているメロキシカム製剤を使用しうる。ウシ内におけるメロキシカムの作用の長い持続時間のため、好ましくは単一の治療が長期持続性鎮痛効力を与え、動物の快適な生活に貢献する。従って、単一ショット又は単一用量のような単一治療が、過敏状態/炎症性痛覚過敏、すなわち軽度及び中程度の乳房炎症例に関連する有痛状態の長期持続性軽減を与える。本獣医薬組成物の単一投与は、好ましくは炎症性有痛性疾患の治療、特に患部クォーターの局所的な炎症徴候の低減、すなわち腫脹、発赤、発熱、痛みの減少及び正常機能(体細胞性細胞数の減少と相まった正常な牛乳生産)を回復させるのに十分であり、一用量の製剤による治療が、上述した局所的な炎症徴候を減らし、かつ痛みの刺激に反応する正常な行動を速く、効率的かつ長期持続的に回復させると解釈すべきである。
【0027】
活性物質含有製剤に課される要求として、とりわけ、投与すべき体積又は量が少ないこと、重量関連投与量の可能性及び治療単位毎の作動プロセス数の最大可能フレキシビリティーが挙げられる。従って、例えば、作動毎に50μlという注入体積は技術的に実現可能である。この目的のため、DE 100 10123 A1に記載されているように、無菌溶液を無菌条件下で無菌カートリッジに移してから、これを計量システムに挿入することができる。
本発明で使用する製剤により、動物の飼い主自身が動物に無菌製剤を投与することができる。本発明の製剤は、好ましくは非経口又は乳房内経路での投与用に調製される。従って、腸管外経路を通じて本製剤を全身投与することができ(すなわち動物の血液内に活性物質が存在する)、或いは乳房内経路を通じて局所的に本製剤を投与してもよい(すなわち活性物質を患部(乳房)の上又は中に直接適用する。)
好ましくは、それ自体当業者に既知の注射用製剤を利用する。注射用製剤、好ましくは上述した水系から選択される。
好ましくは、注入器用製剤も使用する。注入器は、製剤を乳房内に、すなわち乳頭管を通じて乳房中に注入させる手段を含み、該製剤はケーシング、レザバー、薬びん(phiole)、シリンジ又はチューブなどの中に存在し、前記注入器は使い捨てで、かつ単回使用のために提供され、適切な開口、チャンネル又は鈍針のような供給システムを含む。この形態の乳房内投与は、活性が高まると共に標的器官内で良い分布を達成することができる。注入器用製剤は、好ましくは上述した油系又は水系から選択される。
本製剤の通常の貯蔵寿命は、開封後、周囲温度で約数週間又はそれ以上である。封止した最初の包装状態の製剤の貯蔵寿命は1カ月まで又は数ヶ月以上でありうる。最終滅菌プロセスに供した場合、本製剤はさらに安定であることが分かった。
【0028】
本発明の利点は、以下のように多方面にわたる。
食物生産動物における有痛状態の評価の新しい方法は、軽度から中程度の乳房炎症例を患うウシの治療を可能にした。前記方法に基づいた臨床的実地調査はメロキシカムの鎮痛効力を示し、メロキシカム製剤による単一治療が長期持続性鎮痛効力を達成することを示唆する結果を確証する。鎮痛効果が非常に速く生じることが観察される。単一投与が数日間に及ぶ長期持続性効果を有し、病気の動物の快適な生活を大きく改善することとなり、痛みの強力かつ迅速な軽減が観察される。
従って、本メロキシカム製剤を軽度及び中程度の乳房炎症例の治療のために使用することができる。この治療は、軽度及び中程度の乳房炎症例、特に慢性状態における炎症性の痛みと関連する過敏状態の効率的な長期持続性軽減をもたらす。
非経口投与のみ可能な他の既知NSAIDは、その弱い鎮痛効力のため、又は作用の12時間未満という短い持続時間のため、(慢性的な)軽度及び中程度の乳房炎症例では使用できない。
後述する実験による知見は、本発明のメロキシカム製剤の使用によって哺乳動物の軽度又は中程度の乳房炎の痛みをうまく治療できることの明白な証拠を提供する。
以下、種々の他の態様に従う実施例によって本発明を説明する。当業者には本明細書から本発明が明白になるだろう。しかしながら、実施例及び説明は、単なる例示を意図したものであり、本発明を限定するものとみなすべきでないことを明白に指摘する。
【0029】
〔実施例〕
実施例1は、ウシの過敏症を測定する機械装置の方法バリデーションについて述べる。この研究を行って、軽度及び中程度の臨床的な乳房炎の乳牛の痛みを評価する際の一連の臨床パラメーター及び実験室パラメーターの使用を評価する。
実施例2は、軽度及び中程度の乳房炎症例のウシにおける2%メロキシカムの長期持続性鎮痛効力及び抗炎症効力を示すために行った実地調査について述べる。
【0030】
実施例1:
−方法バリデーション−
乳牛の炎症性痛覚過敏の調節における末梢炎症媒介物の特徴づけにより、軽度及び中程度の臨床的乳房炎の乳牛の痛みを評価した。
乳牛を臨床的に検査し、かつ診断の日に、細菌学的培養及び品質分析のために牛乳サンプルを収集した。
変化したウシの姿勢の代理指標として飛節(hock)間の距離を測定した。Nolanらによって開示された方法の改良法を用い、各後肢について物理的刺激に対する反応閾を測定した(Nolan, A., Livingston, A., Morris, R. and Waterman, A., 1987, “Techniques for comparison of thermal and mechanical nociceptive stimuli in the sheep”, J. Pharmacol. Methods, 17, P. 39-49)。
Kruskal-Wallis及びワンウェイANOVA試験を用いて、軽度及び中程度の症例の乳房炎のウシと正常なウシのパラメーターを比較した。
全部で、臨床的乳房炎の117頭の授乳ウシ(n=61は軽度;n=56は中程度)と45頭の正常なウシを調べた。細菌学的結果は、中程度の症例の28%から大腸菌が単離され、39%からストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)が単離され;軽度な症例では、大腸菌及びストレプトコッカス・ウベリスは、それぞれ16%及び18%の症例に及ぶことを示した。飛節-飛節距離及び物理的閾差は、乳房炎(軽度及び中程度の両症例)のウシより正常なウシで低かった(p<0.001)。中程度の乳房炎のウシの心拍数、呼吸数及び直腸温度は、軽度な乳房炎のウシ、及び正常な動物より高かった(p<0.001)。正常な動物の牛乳の個々のクォーターの体細胞性細胞数(IQSCC)とタンパク質含量は、乳房炎のウシより低く(軽度及び中程度の両症例;p<0.001)、牛乳のラクトース含量は、正常な動物で乳房炎の症例に比べて高かった(軽度及び中程度の両方;p<0.001)。
これら結果は、軽度及び中程度の乳房炎のウシが物理的な過敏症を示す(該炎症性疾患の結果として痛み処理が変化したことを示す)ことを示唆している。これら結果は、技術を用いて軽度及び中程度の乳房炎症例のウシにおける痛みを間接的にモニターできることを示している。さらに、鎮痛治療に対する反応を定量的に評価することができる。
【0031】
実施例2:
−臨床的実地調査−
臨床的乳房炎の乳牛の過敏症に及ぼすメロキシカム(Metacam(登録商標))の効果についての予備結果
食物生産動物の良い快適な生活を保証する上では、痛みとストレスの認識、軽減及び制御が中心となる。臨床的な軽度又は中程度の乳房炎の100頭の乳牛について調査して、臨床的乳房炎と関連する痛みを評価した。乳房内抗生薬物で日常的な獣医学プラクティスに従って乳房炎治療を施した。コルチコステロイドの無い製剤、セフキノーム(cefquinome)(Cephaguard LC Intramammary, Intervet UK Limited, Milton Keynes)を選択し、これを各症例の乳房炎について3回の治療で12時間毎に注入した。臨床的乳房炎のウシを以下の3群の1つにランダムに割り当てた。
・群1:抗生物質のみ
群2:抗生物質と一用量のメロキシカム(Metacam(登録商標), Boehringer-Ingelheim);
群3:抗生物質と、三用量のメロキシカム(診断の日、すなわち日0、及び日3及び日6に)
・健康な動物をコントロールとして補充した。
すべてのウシを45日間にわたって6〜8回臨床的に検査した。各後肢について、物理的刺激に対する反応閾を測定した。Mintab Statistical Software (Minitab Inc.)の一般的線形モデル及びMLwiNのマルチレベルモデリング(データ評価用マルチレベル因子解析)を用いて時間効果及び治療効果を考察した。
治療は閾反応に有意な効果を及ぼし、抗生物質のみを受けたウシ(群1)は、一用量のメロキシカムを受けたウシ(群2)又は三用量のメロキシカムを受けたウシ(群3)に比べて大きな差異を示した(P<0.001)。一用量のメロキシカムを受けたウシと三用量のメロキシカムを受けたウシでは有意な差異がなかった。
診断の日に比べて日45のみで、乳房炎の軽度な症例のウシの閾反応に及ぼす時間の有意な効果があった(P<0.05)。
要するに、軽度及び中程度の両重症度の乳房炎の動物には物理的痛覚過敏が存在する。一用量又は三用量のメロキシカムによる治療は、物理的刺激に対する正常な反応を回復させることが分かった。
これら結果は、メロキシカムが乳牛の軽度及び中程度の臨床的乳房炎の鎮痛療法で有益であることを示している。メロキシカム治療は痛みの刺激に対する正常な行動反応を回復させる。
〔結論〕
メロキシカムの2%注射用液による単一治療は、軽度及び中程度の慢性乳房炎を患う授乳牛における長期持続性効力を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性有痛性疾患の治療のための鎮痛効力を有する獣医薬組成物を調製するための、メロキシカム又は有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩と、1種以上のビヒクルとを含有する製剤の使用。
【請求項2】
前記炎症性有痛性疾患が軽度又は中程度の乳房炎であることを特徴とする請求項1記載の製剤の使用。
【請求項3】
前記メロキシカム又はメロキシカム塩の含量が10〜30mg/mlの濃度であることを特徴とする請求項1又は2記載の製剤の使用。
【請求項4】
前記炎症性有痛性疾患の治療には前記獣医薬組成物の単一投与で十分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項5】
体重1kg当たり0.2〜1.0mgの活性物質という薬用量範囲に相当する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項6】
前記ビヒクルが水及び/又は油から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項7】
1種以上の適切な添加剤が存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項8】
製剤が、メロキシカム塩と、水と、任意的に緩衝液、可溶化剤、保存剤から成る群より選択される1種以上の添加剤と、任意的に増粘剤とを含むか又は本質的に前記成分から成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項9】
製剤が、メロキシカム、メグルミン、水、ポリエチレングリコール、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、エタノール、グリシン、並びに任意的に水酸化ナトリウム又は塩酸及び二ナトリウムEDTAを含むか又は本質的に前記成分から成ることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項10】
製剤が、メロキシカム、1種以上の油、任意的に1種以上の抗酸化剤及び任意的に1種以上の増粘剤を含むか又は本質的に前記成分から成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項11】
非経口又は乳房内経路による投与用に前記獣医薬組成物を調製することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の製剤の使用。

【公表番号】特表2008−503509(P2008−503509A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517132(P2007−517132)
【出願日】平成17年6月11日(2005.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006276
【国際公開番号】WO2006/000306
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(504225895)ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (34)
【Fターム(参考)】