説明

炎症性疾患および自己免疫疾患の治療および予防

本発明は、自己免疫性の疾患、例えば、関節炎または炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患などを治療および/または予防のための熱ショックタンパク質のフラグメントの使用に関する。好ましくはHSP70ファミリーに属する細菌性および/または哺乳類の熱ショックタンパク質が使用される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は炎症性疾患、特に、クローン病、肉芽腫性大腸炎(Granulomatous Colitis)、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎(リンパ球性大腸炎(Lymphocyte Colitis))、コラーゲン蓄積大腸炎(膠原性大腸炎(Collagenous Colitis))およびセリアック病を含む炎症性腸疾患(IBD)、並びにアレルギー性の疾患もしくは症状、例えばアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、薬物アレルギーおよび喘息の治療および/または予防に関する。本発明は更に、関節炎の疾病(特に慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および/または若年性関節炎)、およびアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症或いは重症筋無力症のような他の自己免疫疾患の治療および/または予防に関する。特に、ヒトMHCクラスII抽出の熱ショックタンパク質70メンバーの断片およびそれらの拡張配列(例えばより長い断片および/またはペプチドパネル)の、IBDおよび関節炎ならびに他の自己免疫性もしくは炎症性疾患の治療または予防のための組成物を調製するための使用が、IBD、関節炎および他の自己免疫炎症性疾患の治療および/または予防的治療のための方法として提供される。また、特定のHPS70タンパク質由来のペプチドがここに提供される。更に、炎症性または己免疫疾患の治療および/または予防に適した熱ショックタンパク質70(HPS70)メンバーのペプチドを同定および選択するための方法が提供される。
【発明の背景】
【0002】
熱ショックタンパク質(HPS)は、何れも蔓延している慢性の退行性自己免疫疾患である1型糖尿病および慢性関節リウマチからの保護のために重要であることが示されている。
この重要性は次の発見に基づいていた:
1.HPSペプチドは、実験的自己免疫性関節炎および実験的自己免疫性糖尿病の両者において、炎症性の損傷を防止または阻止するための治療薬として使用することができる。このペプチド治療(第1相臨床試験中の)は、特異的自己免疫T細胞のサイトカイン・プロフィールにおいて、前炎症性のTh−1反応から抗炎症性のTh−2反応への変化によって特徴付けられる。
2.HPSのエピトープは、免疫系(T細胞およびB細胞の抗原受容体)の適応性アームによって認識される。
【0003】
3.HPSのエピトープは、両疾病における調節性T細胞の標的である。
【0004】
I型糖尿病および関節炎のモデルにおいて、HPSを用いた免疫感作は病気を予防および抑制することが分っている。ここでの可能なメカニズムは、粘膜寛容のメカニズムにより腸の中で寛容化された微生物(共生動物)におけるHPS反応性T細胞の増殖である。このHPS反応性T細胞の増殖は、HPS投与の経口ルートおよび経腸ルートの両方で可能であった。増殖したT細胞は、炎症を起こした(ストレスを受けた)組織で過剰発現された相同性自己−HPSに対して交差反応性である。この寛容性T細胞の交差反応性は、炎症部位での調節性サイトカインの産生を導く。I型糖尿病および関節炎については、ヒトにおける第一相臨床試験により、HPS60およびHPS40からのHPS由来ペプチドは、疾病関連T細胞特異的なサイトカインパターンを、より多くの調節性サイトカイン産生へと切り替える能力を有することが示されている。
WO95/25744は、自己免疫疾患を含む炎症性疾患、例えば糖尿病、関節炎の疾病、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症、或いは腫瘍または移植拒絶反応による炎症反応を予防または治療するために、哺乳類配列類似性を有するマイコバクテリア熱ショックタンパク質(HPS65)の一部の使用を記載している。この文献は、HPS65由来エピトープ(HPS60ファミリーのメンバー)についてのデータを示しているに過ぎない。
【0005】
US6,007,821は、自己免疫疾患の治療のための、全長ヒト熱ショックタンパク質HPS90およびHPS70の使用について記述している。インスリン依存性糖尿病(IDDM)を治療するために、gp96(HPS90メンバー)を使用することについてのデータだけが提供されている。その効果はIDDMおよび自己免疫の反応(即ち、自己抗原に対する異常な免疫反応)の発症後にだけ見られ、完全長のヒトgp96を用いた治療によって反転されると言われている。US6,007,821の治療的処置において使用される熱ショックタンパク質は、好ましくは、治療される患者から、即ち、自己免疫疾患を発症している患者から得られる(即ち、それらは自家タンパク質である)。非全長のHPS70もしくはHPS90タンパク質の使用についての表記はない。また、HPS70ペプチドは、単に全長HPS70タンパク質と複合化されるペプチドに関連して言及されているに過ぎない。予防的治療は、この文献には含まれていない。過誤により、潰瘍性大腸炎が自己免疫疾患として言及されている。
【0006】
キングストン等(Kingston et al. (1996, Clin. Exp. Immunology 103: 77))は、アジュバント関節炎の発症を低減するために、全長組換えマイコバクテリウムHPS70タンパク質が使用できることを記述している。
【0007】
田中等(Tanaka et al. (1999, J. Immunology 163, 5560-5565))は、マイコバクテリウムHPS70のペプチド234−252がアジュバント関節炎の進行を抑制し、IL−10産生を誘引することを記載している。エピトープ特異的なT細胞株もまた防護効果を有している。別のペプチド(アミノ酸84−103)は有効でなく、アジュバント関節炎の発症を抑制しない。田中等は、マイコバクテリウムのペプチドに特異的なT細胞株が、予備的試験において、保存されたネズミ・ペプチド(それは19アミノ酸長のバクテリアペプチドとは8アミノ酸において異なるペプチド)に応答したので、マイコバクテリウムペプチド234−252のネズミ相同体はまた、関節炎に対して保護するためにも適している可能性があることを示唆している。
【0008】
ヴァン・イーデン(Van Eden (2000, Cell Stress and Chaperones 5: 452-457))は、関節炎免疫における自己熱ショックタンパク質の保護能力についての概説を提供している。
【0009】
ウェントリング等(Wendling et al. (2000, J. Immunology 164: 2711-2717))は、組換えマイコバクテリウムHPS70(全長)に特異的なT細胞株の増殖を引き起こす能力について、マイコバクテリウムHPS70の重畳する合成15量体ペプチドのパネルを試験した。このアプローチを使用して、4つのペプチドが同定された(アミノ酸111−125、131−145、397−411および490−504)。これら4つのうち、ペプチド111−125は、ペプチド111−125ラット相同体(従って自己HPS70)に対するT細胞交差反応を誘導した。しかし、このマイコバクテリウムペプチドを用いた非経腸的予備免疫感作は、関節炎発症に対して保護しなかった。他方、経鼻投与は関節炎の有意な低減をもたらした。
【0010】
デンジェル、スコアー等(Dengjel, Schoor et al. (2005, PNAS USA 102: 7922-2927))は、ヒトB細胞が、栄養素剥奪条件の下で培養されたときには、HPS70ファミリーメンバーの断片が主要組織適合複合体クラスII(MHCクラスII)分子中にロードされること、また、これは主に細胞内タンパク質について生じ、細胞外タンパク質については生じないことを示す実験を記載している。この論文は、疾病抑制性免疫調節の誘導のための斯かるHPS断片の使用については何も記述していない。
クロッツァーおよびブルム(Crotzer and Blum (2005, PNAS USA 102: 7779-7780))は、MHCクラスIIのHPS70アップロードの分子生物学および細胞生物学の基礎について記述し、細胞ストレスが自己貪食のメカニズムを導くこと、および特に、HPS70ファミリーメンバーの断片が、シャペロンに媒介された自己貪食のメカニズム(CMA)によってMHCクラスII分子にロードされることの証拠を概説している。この論文には、疾病を抑制する免疫調節の可能な誘導に関する言及はない。
【0011】
パルダン等(Paludan et al. (2005, Science 307: 593-595))は、MHCクラスII自己貪食後のリソソームの処理が、寿命の長い内因性抗原のMHCIIの制限された調査に寄付することを記載している。追加された補充の資料(補足の表1)には、HSC70とHPS70が、3つの最も頻繁な細胞質ゾル/核MHCクラスIIの天然リガンド供給源のうちの2つであることが記載されている。
【0012】
水島、山本ら (Mizushima, Yamamoto et al. (2004, Mol. Biol. Cell 15: 1101-1111))は、自己貪食が、胸腺上皮細胞においては構成的に活発であり、栄養欠乏または他の細胞ストレス誘導事象を伴わずに生じること、また斯かる胸腺自己貪食は新生児においてより活発だったことを記載している。これから、自己貪食がT細胞レパートリーの発生に寄与すると推論することができる。
【0013】
フツチ、ベン等 (Hutszti, Bene et al. (2004, Inflamm. Res. 53: 551-555))は、マイコバクテリウムHPS65に対する低レベルの抗体が、IBD患者に見出されるという所見を支持することを目的とした実験を記述している。
【0014】
エルサギール等(Elsaghier et al. (1992, Clin. Exp. Immunology 89: 305-309))は、クローン病、潰瘍性大腸炎および肺の非結核性マイコバクテリア症の患者における、マイコバクテリウム・ヒト熱ショックタンパク質に対する抗体レベルの測定について記述している。彼等は、IBD患者におけるマイコバクテリアでの感作を意味するにはデータが十分ではないと結論した。従って、他のバクテリアタンパク質は感作に関与するかもしれない。
【0015】
WO03/072598は、自己免疫疾患、特に1型糖尿病の診断および治療におけるHPS70ペプチドの使用について記述している。試験された糖尿病患者のうち、大部分は、エイコサペプチド1−20(p1)および391−410(p27)ならびにHPS70の511−530(p35)に対する増殖反応を示した。免疫の介在における使用に適したペプチドの開示はない。
【0016】
WO2007/054658は、免疫反応の制御において使用するための、一定のCD40LおよびマイコバクテリウムHPS70配列の使用を示す。HPS70配列は、エイコサペプチド407−426、457−476および477−496である 。
【0017】
IBDおよび関節炎、および/または他の免疫疾患の治療および/または予防に適した他のペプチドおよび組成物についての必要性が未だ残っている。適切な量でヒトに投与したときに、関節炎および/または他の自己免疫疾患、或いはそれらの徴候を治療または予防するペプチドを同定または選択するために使用できる方法についての必要性もまた残っている。
【0018】
炎症性腸疾患(IBD)の原因は、腸内細菌叢の存在に依存することが知られており、共生的生物に対する不適切な過剰反応性と看做される(Bouma and Strober 2003, Nature Rev. Immunol. 3: 521-533)。クローン病患者(糞の流れはない)病巣の外科的に切除された回腸において、病変が消失するのが見られた。腸の内容物の注入は再発性クローン病を引き起こす(D’Haens et al. 1998, Gastroenterology 114:262-267)。更に、無菌条件下においては、腸内細菌叢が再構成されなければ、実験的IBD疾病は誘導されない可能性がある(Chandran et al. 2003, Surgeon 1:125-136, Strober et al. 2002, Ann. Rev. Immunol. 20: 495-549)。従って、おそらく、バクテリア抗原は疾病の誘導を導くトリガーである。クローン病のようなIBDでは、原因的に関連する自己抗原が存在することは知られておらず、それが自己免疫疾患とは対照的である。従って、IBDは、慢性関節リウマチがそうであるように自己免疫疾患ではないと考えられる。
【0019】
IBDのモデルは、疾病の誘導における嫌気細菌(クロストリディウム、バクテロイデス)の主要な役割を立証する証拠を生じた(Verdu et al. 2000, Clin. Exp. Immunol. 120(1):46-50)を参照されたい)。嫌気性および好気性のグラム陽性菌およびグラム陰性菌の粗製超音波処理物が、DSSで誘導された大腸炎において経口で投与され、嫌気性細菌の超音波処理物のみが実験的腸炎の重篤度を低減することが見出された。
【発明の概要】
【0020】
本発明者は、1以上のHPS70由来のペプチドが、関節炎および/または他の自己免疫疾患、並びに炎症性腸疾患および他の炎症性疾患を治療および/または防止するために使用できることを見出した。従って、本発明はペプチド類およびその混合物、例えばこれらペプチドの1以上を含んでなる組成物、並びにHSP70特異的な調節性T細胞を活性化できる保護的HSP70を同定するための方法に関する。また、HPS70ペプチド特異的なT細胞株およびハイブリドーマが提供され、これらは研究目的のため、および処置および治療において斯かる特異的な調節性T細胞を使用するために、HPS70ペプチド特異的な調節性T細胞の供給源としてインビトロまたはインビボで使用することができる。
【0021】
全長マイコバクテリアHSP70タンパク質でマウスを免疫感作し、エピトープマッピング解析を行い、マイコバクテリアHSP70由来のペプチドの存在においてT細胞反応の増殖を試験した後(123の重畳するHSP70ペプチドを用いたスクリーニングにおいて;Wendling et al. 2000, J. Immunol. 164: 2711-2717参照)、13の15量体マイコバクテリウムHPS70タンパク質が同定された。これらはマイコバクテリウムHPS70でプライミングされたT細胞によって認識され、従って、HPS特異的な調節性T細胞の活性化に関与しているものの候補と考えられた。マウスを免疫化する際に、13のペプチド(マウス相同体HPS70ペプチドに対するそれらの相同性に基づいてプールに分割された)の貯蔵戦略を使用して、彼等は、保存されたバクテリアペプチドのうちの二つ(「B1」および「C1」と称する)がT細胞を誘導し、このT細胞はマウス相同体HPS70ペプチド(それぞれ「mB1」および「mC1a」,「mC1b」)と交差反応した。即ち、バクテリアペプチドでプライミングされたT細胞は、マウスの相同性「自己」HPS70ペプチド(即ち、マウス相同体ペプチド)と交差反応した。
【0022】
マウスにおいて関節炎を誘導する前に、全長マイコバクテリアHSP70タンパク質またはマイコバクテリアペプチドおよび/またはマウスHSP70ペプチド(例えばアミノ酸VLRIVNEPTAAALAY(配列番号3)を有し且つ「C1」と称するマイコバクテリアペプチド、およびアミノ酸配列VLRVINEPTAAALAY(配列番号4)を有し且つ「mC1a」と称するマウス相同体HSP70ペプチドの混合物;またはこれらペプチドの何れか;或いはアミノ酸配列DEVVAVGAALQAGVL(配列番号1)を有し且つペプチド「B1」と称するマイコバクテリアペプチド)を投与するその後の実験において、バクテリアおよび哺乳類相同体のHSP70ペプチドの混合物での鼻内前処理、またはこれらペプチドの何れかでの個別的処置、またはマイコバクテリアペプチドB1での処置は、関節炎の進行および症状の重篤度を顕著に低減でき、関節炎を治療および/または予防するために保存されたHSP70が使用できることを示した。
【0023】
従って、バクテリアHPS70由来のペプチドは、特異的な保護T細胞の増殖および増大を引き起こすことができ、これらは「自己」HPS70エピトープ(自己HPS70ペプチド)、例えば関節炎の関節または関節炎の炎症領域によって局部的に誘発されるHPS70タンパク質から誘導されるものと交差反応する。抗原特異的なT細胞増殖に加えて、IFNガンマ産生およびIL10産生の両方が当該ペプチドおよびペプチド混合物によって著しく刺激され、IFNガンマおよび/またはIL10の産生が防護効果において役割を果たし得ることが示された。
【0024】
更に、全長マイコバクテリウムのHPS70タンパク質、或いはマイコバクテリウムHPS70ペプチドおよび/またはマウスHPS70ペプチド(C1とmC1a)を、マウスの大腸炎を引き起こす前に投与することが大腸炎の進行および症状の重症度を顕著に低減し、全長HPS70タンパク質および/または保存されたHPS70ペプチドが、大腸炎のような炎症性腸疾患を治療および/または予防するために使用できることを示した。従って、バクテリアHPS70タンパク質またはペプチドは、特定の保護T細胞の増殖および増大を引き起こすことができ、これは「自己」HPS70エピトープ(自己HPS70ペプチド)、例えばIBDによって局部的に誘発されるHPS70タンパク質由来のものと交差反応する。
【0025】
次のペプチドおよび/またはそれらの混合物(およびこれらを含み、またはこれらからなる組成物)は、HPS70特異的なT細胞反応を引き起こし、また関節炎、特に慢性関節リウマチおよび/または乾癬性関節炎、および/または若年性関節炎、および/または他の自己免疫疾患(限定されるものではないが、例えば1型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症或いはこれら何れかの徴候)を治療および/または予防する方法において、並びに炎症性疾患、特にクローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎およびセリアック病のようなIBDを治療および/または予防する方法において有用であることが見出された:
1)配列番号1: 「B1」と命名され且つアミノ酸配列DEVVAVGAALQAGVLを有するマイコバクテリウムHPS70ペプチド、およびその変種(例えば、このペプチドに対して少なくとも70%の配列同一性を含むもの)、並びに該ペプチドまたは変種を含む更に長いペプチド。配列番号1の変種は、例えば配列番号2および配列番号83−93の関連部分の中に描かれており、これは「mB1」と命名され且つアミノ酸配列DEAVAIGAAIQGGVLを有するマウスHSP70相同体ペプチドを示す。
【0026】
2)配列番号3: 「C1」と命名され且つアミノ酸配列VLRIVNEPTAAALAYを有するマイコバクテリウムHPS70ペプチド、およびその変種(例えば、このペプチドに対して少なくとも70%の配列同一性を含むもの)、並びに該ペプチドまたは該変種を含む更に長いペプチド。配列番号3の変種は、例えば次の二つの配列の中、および配列番号83−93の関連部分の中に描かれている:配列番号4--これは「mC1a」と命名され、且つアミノ酸配列VLRVINEPTAAALAYを有するHPS70相同体ペプチドを描いている;および配列番号5--これは「mC1b」と命名され、且つアミノ酸配列VLRIINEPTAAAIAYを有するHPS70相同体ペプチドを描いている。
【0027】
驚くべきことに、発明者がエピトープマッピング実験において同定したペプチドmC1bと同じアミノ酸配列を有するペプチド(実施例を参照)が、文献において、自己貪食を増大するストレス(栄養欠乏)状態に保たれたヒトB細胞株由来のヒトMHCクラスII分子から溶出されたと記載されており(Dengjel et al. 2005, PNAS 102: 7922-7927、表1、ヒトペプチドVLRIINEPTAAAIAY参照)、また重畳するペプチドがヒトMHクラスIIの中に存在することが他人によって記載されている(実施例参照)。
【0028】
文学に記述された 2005年、PNA 102: 7922-7927、テーブル1、人間のペプチドVLRI
従って発明者等は、理論に拘泥することなく、MHCクラスII分子から溶出された他のHPS70由来ペプチド(またはそれらのバクテリアの相同体)は、関節炎(特に慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および/または若年性関節炎)および/または他の自己免疫疾患(限定されるものではないが、例えばアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症或いはこれら何れかの徴候)、並びにクローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎および/またはセリアック病のような1つ以上のIBDを治療および/または予防するために適している。従って、本発明に従って有用である更なるペプチド群が提供される:
3)HSP70タンパク質は、処理すべき主題細胞上のMHCクラスIIに結合するペプチドを誘導し、該ペプチドは主題の同族「自己」HPS70ペプチドと交差反応するT細胞を誘発した。
【0029】
MHCクラスII分子上に存在する(結合する)HPS70から誘導された(即ち、MHCクラスIIの裂け目に収容され、且つそこから溶出され得る)ペプチドについて文献をスクリーニングしたところ、約30のペプチドが同定され(実施例および配列番号17−47参照)、それら全部が自己免疫疾患およびIBDの治療または予防に適したものとしてここに包含される。従って、本発明の一実施形態においては、哺乳、特にヒトMHCクラスII分子に結合できる1以上のHSP70から誘導されたペプチド(およびこれらを含有しまたはこれらからなる組成物)を含んでなる組成物が、HSP70特異的調節性T細胞の活性化のために、従って関節炎、特にリウマチ関節炎および/または乾癬性関節炎、および/または若年性関節炎、および/または他の自己免疫疾患(限定されないが、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症或いはこれら何れかの徴候)、並びにIBDの治療および/または予防のためにここに提供される。
【0030】
更にまた、HPS70ファミリーメンバーの1以上のMHCクラスII溶出ペプチドを、関節炎および/または他の自己免疫疾患、例えば、限定されるものではないがアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症或いはこれらの徴候を治療または予防するため(の薬剤を調製するため)に使用する方法が提供される。更に、これら溶出されたペプチドを含む1つ以上のより長いHPS70ペプチドを使用する方法が、ここに提供される。もう一つの実施形態においては、全長HPS70タンパク質または複合体化されたHPS70由来ペプチドの使用は、ここでは除外される(例えばUS6,007,821に記述されたHPS70ペプチド複合体)。従って、ここに使用されるペプチドは、遊離の複合体化されていないペプチドであり、他のタンパク質またはペプチドに結合されない。このペプチドの使用は、それらを合成的に作ることができるという利点を有しており、従って該方法は安価であり、また天然または組換えの供給源からの精製されたタンパク質の汚染を回避することができる。更に、特異性、安定性および均質性が高い。同様に、1以上のHPS70ペプチドを含んでなる医薬のサプリメント組成物、栄養サプリメント組成物または食物サプリメント組成物が提供され、これらは関節炎および/または他の自己免疫疾患に対して哺乳動物(特に人間)を免疫化または予備免疫化するために、および/または徴候発症後の関節炎および/または他の自己免疫疾患の治療のために使用することができる。
【0031】
更にまた、1以上のMHCクラスIIから溶出されたHPS70ファミリーメンバーのペプチドを、1以上のIBDの治療または予防のために使用する方法が提供される。別の実施形態では、1以上の炎症性腸疾患(IBD)の治療または予防のため(そのための医薬を調製するため)に、全長HPS70タンパク質を使用する方法がここに提供される。同様に、上記で言及した医薬のサプリメント組成物、栄養もしくは食品のサプリメント組成物は、IBDに対して、哺乳動物(特にヒト)を免疫化または予備免疫化するため、および/または徴候の発症後にIBDを治療するために使用することができる。
【0032】
更なる実施形態においては、関節炎および/または他の自己免疫疾患を治療および/または予防するのに適したHPS70由来のペプチドを同定する方法が提供され、該方法は:
a)好ましくはバクテリアHSP70もしくは哺乳類HSP70タンパク質から、1以上のHPS70由来ペプチドを提供すること;
b)任意に、HPS70由来ペプチドがMHCクラスII分子に結合でき、即ち、MHCクラスIIの裂け目に結合でき、または該MHCクラスII分子から溶出させることができるかどうかを決定すること;
c)任意に、交差反応アッセイにおいて、哺乳動物(特にヒトもしくは動物のモデルまたは細胞株)の相同性自己ペプチドと交差反応するペプチド特異的T細胞を誘発するペプチドの能力を試験し、且つ該交差反応性を示すペプチドを選択すること;
d)1以上のペプチドを含むか、または該ペプチドからなる組成物を、インビボでの保護活性を決定し、また被検動物およびコントロール動物の間で疾病の発症および/または徴候を比較し、それによって前記1以上のペプチドが前記疾患の治療および/または予防に適していることを確認するために、関節炎(例えばアジュバント関節炎、プロテオグリカンに誘導された関節炎)の動物モデルにおいて、および/または別の自己免疫疾患の動物モデルにおいて、または炎症性疾患のための動物モデルにおいて投与すること;および
e)ヒトまたは動物における関節炎および/または別の自己免疫疾患および/またはIBDを治療および/または予防するための医薬の調製のために、および患者、特にヒトまたは飼育動物、例えば家畜およびコンパニオン動物(例えばイヌ)においての関節炎および/または別の自己免疫疾患および/またはIBDを治療および/または予防する方法において、前記1以上のペプチドを使用すること
を含んでいる。
【0033】
従って、一実施形態において、該ペプチドはHPS70タンパク質に由来し、またマウスのような動物モデルにおいて、実験的に誘発された関節炎および/または別の自己免疫疾患に対して保護するT細胞エピトープを含んでいる(工程d参照)。別の実施形態において、該ペプチドは全長HPS70タンパク質の一部、全長HPS70タンパク質のペプチドのパネル、または2以上のHPS70の混合物を含むか、またはこれらからなっており、またマウスに投与されたときには、実験的な関節炎および/または別の自己免疫疾患および/または炎症性疾患に対して保護する(工程d参照)。
【0034】
更に、ヒトまたは動物の患者において、関節炎および/または1以上の他の自己免疫疾患および/または1以上の炎症性疾患を治療または予防する方法が提供され、該方法は、それを必要とする患者に対して、治療または予防的に有効な量の1つ以上のHPS70由来ペプチド(或いはその変種、またはより短いペプチドを含むより長いペプチド)を投与することを含んでいる(工程(e))。
【0035】
一般的定義
「関節炎」は、ここにでは慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および若年性慢性関節炎から選ばれた炎症性の自己免疫疾患を意味する。
【0036】
「自己免疫疾患」は、関節炎、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)、アテローム性動脈硬化症、重症筋無力症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症等の疾病を意味し、ここでは免疫反応を開始および維持する原疾患は、患者の自動抗原(自己に対する抗原;即ち、正常な細胞成分の抗原)に対して向けられる。そのような自己抗原に特異的である自己抗体およびT細胞が産生される。特に、本発明によって治療または予防される自己免疫疾患は、炎症性T細胞、即ち、MHCクラスII制限CD4T細胞によって誘発される疾病である。これらの疾病にはアテローム性動脈硬化症、関節炎、重症筋無力症、多発性硬化症などが含まれる。これらの疾患は、糖尿病のような細胞傷害性リンパ球(MHCクラスI制限CD8T細胞)によって引き起こされる自己免疫疾患とは異なるものと看做すことができる。
【0037】
「非自己免疫疾患」は、ここでは、免疫反応を開始および維持する原疾患が患者の自己抗原(自己に対する抗原)には向けられず、非自己抗原(異種抗原)に対して向けられる疾患を意味する。例えば、IBD(炎症性腸疾患)は非自己免疫疾患である。この事例/後の事例において、自己免疫反応は炎症を開始および/または維持する原因ではない。クローン病の場合、疾患の非自己免疫的性質が、外科的に構築されたブラインドループにおいて実証され、ここでは糞便の除去がその病気の解決に導く一方、糞便の再注入が病気再発を導いた(Rutgeerts et al. 1991, Lancet 338:771-774)。
【0038】
「炎症性疾患」とは、組織もしくは細胞の傷害または細胞機能障害が、血漿の液性メディエータまたはリンパ球(白血球)の形態での免疫系の活動によって生じる何らかの疾病を意味する。これには炎症性腸疾患(IBD)および他の炎症性疾患が含まれる。他のそのような炎症性疾患には、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、薬物アレルギーおよび喘息のような、アレルギー性の疾患または症状が含まれる。
【0039】
「IBD」とは、ここでは下記の疾病を含むか、または該疾病からなる炎症性腸疾患、胃腸管の慢性炎症を意味する:クローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎およびセリアック病。
【0040】
「患者」とは、ここでは哺乳動物、特にヒトおよび/または飼育動物、特に家畜(ウシ、ウマ、ブタ等)、またはコンパニオン動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)を意味する。「モデル動物」の用語は、通常は非ヒト動物、特にマウス、ラット、ウサギのような非ヒト以外哺乳動物を意味する。
【0041】
「抗原」(または免疫原)の用語は、適応的免疫反応を誘発することができる物質、即ち、該抗原が特異的に免疫反応する抗原認識分子(特に抗原特異的または交差反応性のT細胞)を産生できる物質への言及を含んでいる。抗原内の特定の免疫反応部位は「エピトープ」(または抗原決定基)として知られている。ここでは、関節炎および/または1以上の他の自己免疫疾患を予防および/または治療できる、バクテリアおよび/または哺乳類HSPタンパク質の1以上のエピトープからなり、または該エピトープを含んでなるタンパク質断片(ペプチド)が提供される。これらのエピトープもまた「保護エピトープ」と呼ばれる。
【0042】
「T細胞エピトープ」とは、T細胞レセプターによって認識されるエピトープを指す。エピトープの結合に際して、免疫反応は患者にマウントされる。
【0043】
「腸内に」とは、患者の意朝刊に直接送達すること(例えば経口で、または管、カテーテルまたは小孔を介して)を意味する。「鼻内へ」とは、鼻を介しての投与を意味する。
【0044】
「パーセンテージ」または「平均」とは、他に特定されず、または別の基礎を意味することが明らかでない限り、一般には重量での平均パーセンテージを意味する。
【0045】
「配列同一性」および「配列類似性」とは、グローバルな整列化アルゴリズム或いはローカルな整列化アルゴリズムを使用して、2つのアミノ酸配列または2つのヌクレオチド配列の整列化によって決定することができる。配列は、(例えばデフォルトパラメーターを使用するプログラムのGAPまたはBESTFITを使用して最適に整列されたとき)それらが少なくとも一定の最小パーセンテージの配列同一性を共有するときには、「本質的に同一の」、「本質的に類似した」配列、或いは「変種」と言われる。GAPは、ニーデルマンおよびブンシュ(Needleman and Wunsch)のグローバル整列化を使用して二つの配列をそれらの前兆に亘って整列化させ、一致の数を最大限にし、且つギャップの数を最小限にする。それは同じ長さの配列を整列化させるために最も適している。一般に、GAPデフォルトパラメーターが使用され、ギャップ形成ペナルティーは拡張ペナルティーよりも高い(例えば、ギャップ開始ペナルティー=10、およびギャップ拡張ペナルティー=0.5)。ヌクレオチドについて、使用されるデフォルトスコアリングマトリックスはnwsgapdnaであり、またタンパク質については、デフォルトスコアリングマトリックスはBlosum62である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)である。パーセンテージ配列同一性のための配列整列化およびスコアは、アメリカ合衆国カリホルニア州92121−3752サンディエゴ市スクラントン通り9685のアクセルリーズ社から入手可能なGCGウィスコンシン・パッケージ(バージョン10.3)のようなコンピュータ・プログラムを使用して決定されてよい。また、EmbossWinバージョン2.10.0は、上記のギャップに関する同じパラメーターと共に、プログラム「ニードル」(これはGAPに相当する)を用いて使用することができる。異なる長さの配列については、好ましくは、スミス・ウォーターマン・アルゴリズムのようなローカルな整列アルゴリズム、例えばEmbossWinバージョン2.10.0のプログラム「ウォーター」により提供されるようなものが、例えばデフォルトパラメーター(10.0のギャップ開始ペナルティーおよび0.5のギャップ拡張ペナルティー)或いはBLASTまたはFASTAのようなプログラムを用いて使用される。
【0046】
「タンパク質」、「ポリペプチド」または「ペプチド」の用語は、互換的に使用され、特定の作用様式、サイズ、3次元構造または起源に関係なく、アミノ酸鎖からなる分子を指称する。従って、タンパク質の「断片」または部分、或いは天然タンパク質の断片を含んでなるペプチドもまた、やはり「タンパク質」または「ペプチド」と称されてよい。「単離されたタンパク質」は、もはやその天然環境中にはないタンパク質、例えばインビトロ、または組換えバクテリア宿主細胞中にあるタンパク質を意味する。
【0047】
内容に応じて、「相同体」或いは「相同性の」の用語は、共通の祖先の配列からの子孫である配列を意味する。所望であれば、該用語はorthologsおよびparalogsを参照することにより特定することができる;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/Orthology.htmlを参照されたい。Orthologsは、一般に異なる種において同じ関数を保持する。対照的に、Paralogsは異なる(おそらくは関連した)関数を発生させる。従って、HSP70ファミリーのバクテリア熱ショックタンパク質または哺乳動物熱ショックタンパク質は、異なる種のバクテリアまたは異なる種の哺乳動物のHSP70タンパク質(例えばマウスおよびヒトのHSP70タンパク質)であるから、ここでは相同体と称される。バクテリアHSP70由来ペプチドの「哺乳類相同体」は、従って、例えばローカル整列化アルゴリズム(例えばSmith Waterman)を使用して一対ずつ整列化させたときに、アミノ酸配列において少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%以上バクテリアペプチドに対して同一であろう。
【0048】
「相同性の」、「異種の」の用語もまた、核酸またはアミノ酸配列と、その宿主細胞または微生物との関係を指称するために、特に遺伝子組換え細胞/微生物の関連において使用されてもよい。従って、相同性の配列は宿主において天然に見出されるのに対して、異種起源の配列は宿主細胞中に天然には存在しない。
【0049】
「ストリンジェントなハイブリダイズ条件」は、与えられたヌクレオチド配列と本質的に同一であるヌクレオチド配列を同定するために使用することができる。ストリンジェントな条件は配列に依存し、また異なる環境においては異なるであろう。一般に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度およびpHにおいて、特定の配列についての融点(Tm)よりも約5℃だけ低くなるように選択される。Tmは、その温度において、標的配列の50%が完全一致のプローブにハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度およびpHの下で)である。典型的には、塩濃度がpH7において約0.02モルであり、且つ温度が少なくとも60℃であるストリンジェントな条件が選択さる。塩濃度を低下させること、および/または温度を増大させることは、ストリンジェンシーを増大させる。RNA−DNAハイブリダイゼーション(例えば100ntのプローブを使用するノーザンブロット)のためのストリンジェントな条件は、例えば63°Cの0.2×SSCにおいて20分間の少なくとも1回の洗浄を含んでいる条件、またはこれと等価な条件である。DNA−DNAハイブリダイゼーション(例えば100ntのプローブを使用するサザンブロット)のためのストリンジェントな条件は、例えば、少なくとも50℃の温度、通常は約55℃の温度の0.2×SSC中で20分間の少なくとも1回(通常は2回)の洗浄を含む条件、またはこれと等価な条件である。更に、サムブルック等(1989, Molecular Cloning: a laboratory manual. 2nd ed. N.Y., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989. 1659 p. ISBN 0-87969-309-6)、並びにサムブルックおよびラッセル(2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY)を参照されたい。
【0050】
この文献およびその特許請求の範囲において、動詞である「含んでなる」およびその共役形は、この語に続く項目は含まれるが、特に言及されない項目も排除されないことを意味するような非限定的意味で使用される。更に、不定冠詞である「1つの」による或る要素への言及は、1つ且つ1つだけの要素が存在することを文脈が明瞭に要求しない限り、1以上の要素が存在する可能性を除外するものではない。従って、不定冠詞「1つの」は、通常は「少なくとも1つ」を意味し、例えば「1つの細胞」は、細胞培養、組織、生物個体の形態における幾つかの細胞をも指称するものである。更に、ここで「配列」に言及するとき、一般には、一定の配列のサブユニット(例えばアミノ酸)をもった実際の物理的分子が意味される。
【0051】
詳細な説明
本発明は、関節炎、特に慢性関節リウマチおよび/または乾癬性関節炎および/または若年性関節炎および/または他の自己免疫疾患、例えば、限定されるものではないがアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症、またはこれらの何れかの徴候を治療および/または予防するための、MHCクラスII分子から溶出した、および/またはこれに結合できる1以上の熱ショックタンパク質70(HPS70)の使用に関する。本発明は更に、そのような1以上のペプチドを含むか、または該ペプチドからなる組成物に関する。本発明は更に、炎症性疾患、特にIBD、なかでもクローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎およびセリアック病からなる群から選ばれる様々な形態の大腸炎を治療および/または予防するための、HPS70由来のペプチドおよび/または1以上の全長HPS70タンパク質の使用に関する。
【0052】
<発明に従う使用のためのペプチドおよびタンパク質>
熱ショックタンパク質は普遍的なタンパク質であり、それは原核生物および真核細胞の重要なハウスキーピング機能を実行する。それらは、タンパク質の折畳みにおいて、またストレス条件からの細胞の救済において、シャペロンとしての重要な役割を果たす。それらはモノマーの分子量に基づいて異なるファミリーに分類される。斯くして、ファミリーHPS70のタンパク質は約70kDaの分子量を有する。主なファミリーは、HPS10、40、60、70、90および100である。多くの哺乳類HPSファミリーのメンバーは、高度に保存された微生物相同体を有している。
【0053】
発明者等は、哺乳動物の炎症性疾患および/または自己免疫疾患を治療するために、マイコバクテリウムHPS70および哺乳類HPS70タンパク質のペプチド断片を使用できることを見出した。彼らは、同定されたマウス・ペプチドのうちの1つ(mC1bと命名された)のヒト相同体が、MHCクラスII分子上に存在するものとして、デンジェル(Dengjel)らの論文(PNAS 2005, supra)の一部に記載されたことを知った。この論文では、細胞質ゾルタンパク質、特に細胞ストレスの条件の下では、自己貪食によって抗原提示のMHCクラスII経路へとルーティングされることが示され、議論されている。自己貪食では、シャペロン媒介性の貪食(CMA)が1つのメカニズムである三つの異なるメカニズムが働いている。CMAにおいて、HSC70は、MHCクラスII提示のために細胞質ゾルタンパク質をリゾソームへと転送する機能においてランプ-2を支援する輸送体分子である。CMAのこのメカニズムにより、HSC70(HPS70ファミリーのタンパク質)断片は、MHCクラスIIをロードするコンパートメントと優先的に交差しており、MHCクラスIIの結合性の裂け目の中に捕捉される。デングジェル(Dengjel)等の論文において、HPS70ペプチドは、MHCクラスIIから検索される細胞質ゾルのペプチドレパートリーを支配し、また自己貪食(栄養素飢餓)を増大する条件下でアップレギュレートされることが分かる。この論文の何処にも、HPS特異的CD4+T細胞認識についてこれが意味し得るものの如何なる解釈もないが、同様のペプチド(ここではmC1aおよびC1と称する)が、例えば関節炎またはIBDのような自己免疫疾患の治療予防に適していることを見出しているので、発明者等は、MHCクラスII分子に結合でき、また相同性「自己」HSP70ペプチドと交差反応するHSP70由来ペプチドは、哺乳類、特にヒトにおいて関節炎および/または自己免疫疾患および/またはIBDを治療および/または予防するために使用できると結論した。「治療」の用語は、ここでは適切な量の1以上のHPS70由来ペプチドの投与の後に、疾病の徴候または進行の何らかの縮小或いは緩和を意味し、その際に、投与は関節炎またはIBDが診断された後に1回以上行われる。この用語は、患者の完全な治癒と同様に、治療される患者における疾病の徴候/および進行の減少(非治療患者に対して)を包含する。「予防」の用語は、未だ関節炎またはIBDと診察されていないが、例えば疾病を発症するリスクを有するかもしれない患者への、本発明による化合物または組成物の予防的投与を意味する。
【0054】
発明者等はまた、水島らの論文(Molecular Biology of the Cell, 2004, Vol. 15: 1101-1111)によっても案内された。そこには、胸腺の胸腺上皮細胞において、自己貪食が高い基礎レベルで起こることが示されている。より若い哺乳動物、および遅い段階の胎児は、胸腺中で更に高い自己貪食活性を呈する(ibid(同じ論文))。発明者等は、胸腺上皮細胞がT細胞レパートリーの正の選択に関与していると推論した。これは、T細胞レパートリーの正の選択が組織される場所および時点で、HPS70がMHCクラスIIの中にアップロードされるようになる可能性を開くであろう。換言すれば、このことから、発明者等は胸腺選択されたHSP70由来ペプチドが、おそらく、HSP70ペプチドについての特異性を備えた調節性T細胞のT細胞レパートリー形成に導くであろうと推論した。
【0055】
本発明者等は、これらの情報断片を彼等自身の実験データ(実施例参照)と組合せて、ストレスおよび栄養素欠乏のような増大した自己貪食条件に曝された細胞株において、MHCクラスII分子の結合性亀裂中のHPS70ファミリーメンバー由来のペプチドは、調節性T細胞反応を引き起こす質を有しており、関節炎(特に慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および/または若年性関節炎)および/または他の自己免疫疾患、例えば、限定されるものではないが1型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症、或いはこれらまたはIBDの何れかの徴候の治療および/または予防に適していると結論した。
発明者等は、C1(配列番号3)と命名されたマイコバクテリウムHPS70由来のペプチド、およびその交差反応性哺乳類(マウス)相同体(mC1aと命名されたHSP70相同体ペプチド、配列番号4)を、別々にまたは一緒に混合して、Balb/cマウスでのプロテオグリカンに誘発された関節炎モデルにおいて、調節性T細胞反応を誘発するそれらの能力について試験した。この実験により、両ペプチドを単独で(または両者の混合物として)鼻内投与することは、疾患の誘発に先立って投与されると関節炎を抑制することが示された。同様の結果が、ペプチ「B1」についても見られた。
【0056】
更に、彼等はまた、Balb/cマウスのTNBSに誘発された大腸炎モデルにおいて調節性T細胞反応(相同性マウスHPS70ペプチドに対する)を誘発させる能力について、C1を試験した。実験は、TNBS皮膚感作性の後で且つ直腸のTNBS投与による疾患の誘発の前に投与されたときに、このペプチド(ペプチド混合物)の鼻内投与は、TNBS誘発された大腸炎疾患を抑制することを示した(実施例参照)。
【0057】
発明者等はまた、実験的IBDモデルにおいて、完全なマイコバクテリウムHPS70分子を試験した。この場合、配列番号55のマイコバクテリウムHPS70が試験された。この目的のために、TNBS誘発されたIBDおよびDSS誘発されたIBDのモデルの両方を使用した。両モデルにおいて、全長マイコバクテリアHSP70タンパク質は、経口および/または鼻内で投与されたときに疾患の発症を阻害した。
従って、本発明者等は、大腸炎の齧歯類TNBSおよびDSSモデルにおいて、HSP70由来ペプチドおよび/または完全HSPタンパク質の鼻内および/または経口での投与は、高度に疾患抑制的であることを見出した(実施例参照)。予防効果および治療効果の両方が観察された。
【0058】
従って、一実施形態において、保護エピトープ、または保護エピトープからなるか、もしくはこれを含んでなるタンパク質断片(ペプチド)が、これらの1以上を含んでなる組成物として提供される。特に、一実施形態においては、1以上のHSP70ペプチドまたは斯かるペプチドを含んでなるより長いペプチドが、関節炎および/または他の自己免疫疾患および/またはIBDの治療および/または予防のための組成物(医薬またはワクチン)の調製のために提供される。また、HPS70ペプチドのパネルが提供され、該パネルは、一緒になって全長HSPタンパク質をカバーする重畳するペプチドを含んでいる。斯かるパネルのサブ部分または全部もまた、本発明に従う組成物を調製するために使用されてよい。
【0059】
「HPS70タンパク質」の用語は、ここでは全長タンパク質、例えばヒト、動物(例えば哺乳類)、バクテリア、酵母、植物または他の起源で、且つHSP70ファミリーのタンパク質に属するものとして分類されている全長HSP70タンパク質を意味する。この用語はまた、斯かるタンパク質の変種、例えば天然のタンパク質に対して1以上のアミノ酸の欠失、置換または付加を有するタンパク質を含む。変種は、好ましくはグローバルな整列化アルゴリズムを使用して全長に亘って整列化したときに、天然のタンパク質(即ち天然に、生物において見られるHSP70タンパク質)に対して、少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%または99%以上のアミノ酸同一性を含んでよい。HPS70タンパク質の例には、配列番号55の中で描かれたマイコバクテリウムHPS70タンパク質およびその変種、配列番号48−54の中で描かれたヒトHPS70タンパク質およびその変種、例えば配列番号55およびまたは48−54に対する上記%のアミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質が含まれる。他の起源由来のHPS70タンパク質は当技術において周知であり、またそれらのアミノ酸配列は、例えば http://www.expasy.orgを通して容易に入手可能である。その例には(UniProtKB/-Swiss-Prot entriesを用いて)次のものが含まれる:ウシHPS70タンパク質8(P19120;HPS7C_BOVIN);マウスHPSタンパク質5(P20029;GRP78_MOUSE);ラットHPSタンパク質9(P48721;GRP75_RAT);ニワトリ(P08106;HPS70_CHICK);ミバエ(キイロショウジョウバエ)(HPS72_DROME);シロイヌナズナ(P22953、HPS71_ARATH;P22954、HPS72_ARATH;O95719、HPS73_ARATH;BIP2_ARATH);タバコ属タバコ(Q40511_TOBAC;Q67BD0_TOBAC;Q67BD1_TOBAC;Q67BD2_TOBAC;Q03685、BIP5_TOBAC);酵母SSQ1(Q05931、HPS7Q_YEAST)、SSB2(P40150、HPS76_YEAST)、SSA3(P09435、HPS73_YEAST)およびSSA4(P22202、HPS74_YEAST);乳酸桿菌属アシドフィリス(Q84BU4、DNAK_LACAC);マイコプラズマ・マイコイド(Q6MT06;DNAK_MYCMS);およびマイコバクテリウム・レプラエ(DNAK_MYCLE、P19993)、M.アビウム(A0QLZ6、DNAK_MYCA1)、M.パラチューバキュロシス(Q00488、DNAK_MYCPA)、およびM.ギルブム(DNAK_MYCGI、A4T112);等。
【0060】
「HPS70由来ペプチド」または「HPS70ペプチド」または「HPS70断片」の用語は、ここでは、上記で述べたHSP70タンパク質および/またはタンパク質変種の断片、例えば、上記で定義したHSP70タンパク質または変種の少なくとも少なくとも5、6、7、8、9、10、好ましくは少なくとも11、12、13、14、15、最適には少なくとも16、17、18、19、20、25、30、40、50、60または70以上連の連続するアミノ酸を含んでなり、またはこれらアミノ酸からなる断片を意味する。従って、ローカル整列化アルゴリズムを使用して全長HSP70タンパク質または変種(上記で定義したもの)と整列化させたときに、前記少なくとも5、6、7、8、9、10、11等のペプチドの連続するアミノ酸は、前記の全長タンパク質または変種と100%と一致するであろう。HPS70由来のペプチドは更に、例えば一端もしくは両端に、またはアミノ酸の間に挿入された追加のアミノ酸を含んでもよい。これらの更なるアミノ酸は、天然のHPS70アミノ酸配列に対して必ずしも相補的である必要がない。長さ可変性は、異なる長さの意変種がMHCクラスII分子に結合できるという事実を反映する。本発明によるHPS70由来ペプチドの非限定的な例は、配列番号1−5に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のアミノ酸の挿入もしくは付加、置換もしくは欠失を含んでなり、且つ未だインビボで保護的であるペプチドのように、配列番号1−5またはその変種からなり、またはこれらを含んでいる。他の好ましいペプチドは、配列番号17−47またはその変種からなり、またはこれを含んでなるペプチド、例えば配列番号17−47に対して1、2、3、4、5またはそれ以上のアミノ酸の挿入もしくは付加、置換もしくは欠失を含んでなり、且つ未だインビボで保護的であるペプチドである。特に好ましいペプチドは、配列番号56−132のもの、即ち、斯かる部分と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するその同一部分または等価物である。明らかに、本発明によるHPS70ペプチドは、関節炎を治療および/または予防においてに生体内で機能的であり、また、機能性は以下で更に説明する王にして試験または決定することができる。一実施形態において、該ペプチドは、HSPタンパク質または変種の30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10以下の連続的アミノ酸を含んでなり、またはこれらからなっている。好ましくは、本発明に使用されるペプチドは、少なくとも10、11、12、13または14のアミノ酸、19,18,17または16以下の連続的アミノ酸を有している。最も好ましくは、当該ペプチドは少なくとも11〜30、より好ましくは少なくとも12アミノ酸、25未満のアミノ酸、最も好ましくは15から19未満のアミノ酸を有している。
【0061】
HPS70ペプチドの「パネル」は、1以上のアミノ酸(好ましくは少なくとも3つ、5、8、9、10、11アミノ酸による)がオーバーラップする少なくとも2、3、4、5等、少なくとも50、100、120、130,150,200、300以上のペプチドまでのコレクションを意味し、その結果、HPS70タンパク質の全体が該コレクションによってカバーされる。即ち、オーバーラップ領域の整列化は、全体のHSP70タンパク質またはタンパク質変種を再構成することができるであろう。例えば、10アミノ酸がオーバーラップする15量体のペプチドのパネルは、123のペプチドのパネルをもたらす。該ペプチドのパネルは、異なるペプチド長および/またはオーバーラップで、より小さく、またはより大きくなるであろう。サブパネルは、全体のHSP70タンパク質未満、例えば最大でも80%、60%、50%、30%、20%またはそれ以下をカバーするであろう。
【0062】
原則として、如何なるHPS70タンパク質断片、例えば微生物(例えばマイコバクテリウム等のようなバクテリア)または哺乳類(例えばラット、マウス、ヒト等)を起源とする如何なるHPS70タンパク質断片が使用されてもよい。上記で述べたように、種々様々の生物のHPS70タンパク質がクローン化および配列決定されており、またタンパク質および/またはペプチドは、当該技術で周知の方法を使用して、例えば組換えDNA技術によって製造され、化学的に合成され、または天然の供給源から精製することができる。HPS70由来のペプチドは、如何なる起源の、例えばバクテリア、酵母、植物、合成、人工、哺乳類(ラット、マウス、ウシ等)、またはヒトを起源とするHPS70タンパク質の断片であってよい。全長HPS70タンパク質(または例えば全長タンパク質をカバーするペプチドのパネル)を使用する場合、特に潰瘍性大腸炎の治療および/または予防に使用されるときには、全長タンパク質はヒト起源でないのは1つの実施形態である。従って、この実施形態は、潰瘍性大腸炎の治療または予防のために、ヒト以外の全長HPS70タンパク質の使用を含む。
【0063】
好ましくは、HPS70タンパク質パネルおよび/またはHPS70ペプチドは、インビボで機能的なエピトープを含んでなり、または該エピトープからなっている。即ち、それらは適切な濃度および適切な経路(例えば鼻内)によって投与されたときに、関節炎および/または他の自己免疫疾患を予防または治療する。斯かるペプチドは、好ましくは(a)患者(例えばヒト)のMHCクラスII分子を結合でき、任意に(b)それらは患者(例えばヒトまたは動物)またはマウスのような哺乳類モデル動物の相同性「自己」HSP70ペプチドと交差反応性である調節性T細胞(CD4+細胞)を活性化することができ、また(c)動物またはヒトの患者に投与された時に、該ペプチドは、関節炎および/または1以上の他の自己免疫疾患、これらの何れかの徴候重篤度および/または発症(進行)を治療および/または予防することができる。当該ペプチドの上記能力は、詳細に別記するようにして試験することができるが、基本的には、能力a)は、この能力を有することが記載された化学文献からの同定ペプチドによって、および/またはインビトロまたはインビボでのMHCクラスII結合アッセイによって決定することができ;能力b)は、インビボでのプライミングによって試験することができ、また能力c)は、例えば動物モデルを使用することによって、および/またはヒト臨床治験において試験することができる。動物モデルにおいては、ヒト化されたMHCトランスジェニック動物もまた使用することができる。
【0064】
従って、一実施形態において、特定のアミノ酸配列を有するペプチドは、それ自体として、例えば配列番号1−5および10、配列番号17−47および/または56−132のうちの1つの複数の分子、または他の個々のHPS70由来ペプチド類を含んでなり、またはこれらペプチド類からなる組成物として使用される。
【0065】
もう一つの実施形態では、2以上の異なるHPS70由来ペプチドの混合物が提供される。これらの異なるペプチドは、同じHPS70タンパク質(例えばバクテリアのHPS70、例えば配列番号55のようなマイコバクテリウムHPS70由来のもの)であってよく、或いは異なる種の相同体由来のように異なるHPS70タンパク質由来のものであってよく、例えば1つのペプチドはマウスまたはヒトHPS70由来のものであり、また1つのペプチドはバクテリアHPS70由来のものである。「異なる」とは、当該ペプチドのアミノ酸配列が少なくとも1つのアミノ酸で異なることを意味する(他のペプチド対する付加、置換または欠失による)。
【0066】
更に、1以上のHPS70ペプチドおよび/またはHPS70パネルの混合が使用されてもよい。好ましい実施形態において、関節炎および/または他の自己免疫疾患の治療および/または予防のための組成物は、少なくとも1つの微生物HPS70ペプチドおよび少なくとも1つの哺乳類HPS70ペプチドを含み、またはこれらペプチドからなり、それによって該バクテリアペプチドおよび該哺乳類ペプチドは好ましくは相互に相同体である。即ち、それらはアミノ酸配列において非常に類似しており(それらは上に定義されるような「変種」である)、交差反応性である。例えば、好ましい組成物は、配列番号3(バクテリアの「C1」)のペプチド、および1以上のマウス相同体(配列番号4および/または5、または他種由来のような他の変種、配列番号47−54および56−132参照)を含んでいる。
【0067】
「熱ショックタンパク質」に言及する場合、該タンパク質は自然界ではバクテリア細胞、酵母細胞、植物細胞または哺乳類細胞において生じるが、種々の手段によって製造または単離されてよいことが理解される。例えば、それは組換えDNA技術によって製造されてよい。その際、タンパク質(またはタンパク質断片)をコード化するヌクレオチド配列が宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするために使用され、次いで、該細胞はタンパク質またはタンパク質断片を産生する。HPSをコード化する核酸配列(cDNA、RNAおよびゲノムDNA)は、当該技術において入手可能であり、または化学合成によって作製されてよい。また、タンパク質またはタンパク質断片(ペプチド)の組換えの生産のための方法はルーチンのものである。同様に、核酸ハイブリダイゼーション技術(例えばストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を使用する)が、HPSをコード化する遺伝子を分離するために使用されてもよい。或いは、タンパク質またはタンパク質断片は、天然の供給源(例えば哺乳類細胞、バクテリアまたは植物)から精製または部分的に生成されてよく、或いは化学的に合成されてもよい。例えば、ペプチドは、アミノ酸が成長鎖に連続して加えられる有名なメリフィールド固相法方法によって合成することができる。Merrifield (1963), J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2156;および Atherton et al., “Solid Phase Peptide Synthesis,” IRL Press, London, (1989)を参照されたい。自動的なペプチドシンセサイザーは、カリホルニア州フォスターシティー所在のアプライドバイオシステムズ社等の多数のサプライヤーから商業的に入手可能である。
【0068】
最も広い意味において、患者のMHCクラスII分子に結合する能力を持った何れかのHPS70ペプチド配列が提供される。この能力は、当該技術において既知の様々な方法を使用して試験することができる。例えば、完全なオーバーラップするセット、例えば全体のHPS70タンパク質をカバーする15量体ペプチドの組は、MHCクラスII結合アッセイにおいて試験することができる。ペプチド電気泳動移動度試験(Peptide electrophoretic mobility shift assay, Mittelman A. et al., Degenerate binding of tyrosinase peptides to MHC II Ad/Ed molecules. J. Exp. Ther. Oncol. (2007) 6:231-9.)を参照されたい。また、ジューステン等により記載された競合ベースの結合アッセイ(Joosten, I. et al. (1994). Direct binding of autoimmune disease related T cell epitopes to purified Lewis rat MHC class II molecules. Int. Immunol. 6:751.)も参照されたい。更にUS2004/224009を参照されたい。好ましくは、このような方法は、1以上のペプチドがMHCクラスII分子に結合できるかどうかを試験するために使用される。
「断片」とは、ここでは、何れかのHSP70タンパク質の少なくとも6または7、より好ましくは少なくとも8または9、より好ましくは10、11、12、13、14、15、必要に応じて16、17、18またはそれ以上の連続的アミノ酸を含んでなるペプチドを意味する。既述した通り、MHCクラスIIに結合するペプチドは変化する長さを有し、複数の長さ変種が同じMHCクラスII分子に結合できるので、これは特に適切である。一実施形態において、断片の長さは、40、30、好ましくは25、20、19、18、17、16または15アミノ酸以下である。
【0069】
本発明によるHPS70断片(また混合物)は、好ましくは「機能的」である。即ち、それらは、インビボで投与されたときに、関節炎および/または1以上の他の自己免疫疾患および/またはIBDを治療および/または予防する能力を持った1以上のペプチド配列からなるか、または該配列を含んでいる。従って、結局、関節炎、および/または他の自己免疫疾患のインビボ動物モデルが、実施例に記述され、また当該技術において知られているような機能性を試験するために使用されるべきである。
【0070】
当該ペプチドは、好ましくは患者のMHCクラスII分子に結合することができる(上記参照)。MHCクラスII分子に結合できる全てのHPS70由来ペプチドが保護T細胞反応を誘発できるわけではないが、潜在的に機能的なHPS70由来ペプチド(T細胞エピトープ)の前選択は、MHCに結合した配列の約50%がT細胞エピトープとして免疫のレパートリーにより利用されるであろうことを知って、MHCクラスII分子の裂け目に存在するHPS70配列を選択することにより行うことができる。MHCクラスII結合能力に基づいたこの前選択に続いて、機能性は、該ペプチドがT細胞(これはインビトロ感作アッセイでそれらを分析することにより、相同性の「自己」ペプチドと交差反応性である)を誘発する能力を試験することによって(インビトロのヒトT細胞感作アッセイを用いるような;例えば次の文献を参照されたい:page 3239 RH Column “Cellular Assay” and page 3243 LH column in Halder T, et al., Isolation of novel HLA-DR restricted potential tumor-associated antigens from the melanoma cell line FM3., Cancer Res., 1997, 57:3238-44))、および/または動物モデルでインビボ機能性を試験することによって更に試験することができ、ここでの試験動物は潜在的に保護的なペプチドを投与され、該動物において自己免疫疾患を顕著に低減または予防する(適切なコントロールと比較して)ペプチドが選択される。
【0071】
交差反応性、即ち、相同性の自己タンパク質と交差反応するT細胞を誘発する選択されたペプチドの能力を試験するために、次の方法を使用することができる(実施例も参照されたい):T細胞は、定義された(例えば微生物の)HSP70エピトープを用いてインビトロで活性化されたT細胞は、その後、組換え型タンパク質として、或いはストレスを加えられた細胞もしくは組織から精製されたものとして、またはストレスを加えられた抗原提示細胞上の高レベルのMHCペプチド複合体として、或いは合成的に調製された相同性の自己ペプチド(マウスモデルにおいて、マウスHPS)を用いて再度刺激することができる。活性化(上記参照)の如何なるサインも、被検(例えば微生物)エピトープの自己タンパク質/ペプチドとの交差反応性の指標として採用することができる。最初の試験は自己タンパク質/ペプチドの配列に基づいた合成ペプチドで行なうことができるが、タンパク質/ペプチド自体との交差反応性のための最終的な立証は、単離された形態または細胞上に発現した形態での何れかで、好ましくは、隠されたエピトープを除外するために、自己HSPペプチドを過剰発現および提示しているストレスを加えられた抗原提示細胞を用いたT細胞活性化試験において得られる。
【0072】
最も適切な断片を決定する容易な方法は、全長バクテリアHSPタンパク質または哺乳類/ヒトHPタンパク質のオーバーラップするペプチド(5量体、6量体、7量体または10量体;即ち、短い連続的アミノ酸)を生成させ、またこれらのオーバーラップするペプチドを、例えば実施例に記載したように、関節炎のような自己免疫疾患の齧歯類モデルにおいて投与することにより、それらの防護効果についてスクリーニングすることである。
一実施形態においては、上記で定義されように、完全なHSP70タンパク質をカバーするペプチドのパネル、またはサブパネルが使用される。例えば、マイコバクテリウムHPS70(配列番号:55)は、長さが625アミノ酸からなっている。その断片またはその変種を使用することができる。もう一つの好ましい実施形態においては、配列番号55の少なくとも約6、7または8以上の連続するアミノ酸を含むか、またはこれらアミノ酸からなる断片、或いはそれらの変種、例えば配列番号1−5またはそれらの変種が使用される。また、完全な好ましくはヒト以外のHPS70もまた、例えば潰瘍性大腸炎の予防または治療のために使用されてよい。
【0073】
本発明による更に別の実施形態において、本発明による使用のためのHPSタンパク質の断片(或いはパネル)は、該タンパク質の起源とは無関係に、またそれが天然に存在するかどうかとは無関係に、配列番号55または48−54のうちの任意の1つに対して、少なくとも35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、または更に多くの(100%)アミノ酸配列同一性(該タンパク質の全長に亘って)を有するタンパク質(配列番号55または48−54の「変種」とも呼ばれる)から誘導された、全ての機能的断片を含んでいる。
これらの実施形態において、ここでは天然に存在するHSPタンパク質の変種が使用されるので、当該タンパク質がバクテリアまたは哺乳動物(例えばヒト)中に天然に存在することは必要とされない。当然、そのような変種はバクテリアまたは哺乳動物において天然に存在してもよい。これらの変種(またそれの断片)は、部位特異的突然変異誘発、デノボ化学合成、1以上のヌクレオチドの欠失、置換または付加を含む核酸配列の組換え発現、遺伝子シャッフリング技術等のような、当該技術において既知の方法によって生成されてよい。例えば、上記で説明したようなDNA塩基配列への小さな修正は、ルーチンに行うことができる。即ち、PCRを媒介とした突然変異誘発によるものである(Ho et al., 1989, Gene 77, 51-59., White et al., 1989, Trends in Genet. 5, 185-189)。DNA塩基配列に対する更に顕著な修飾は、利用可能な技術を使用した望ましいコード化領域のデノボDNA合成によってルーチンに行うことができる。
【0074】
バクテリアHPS70の好ましい断片(配列番号55の中に描かれたもの)は、次のアミノ酸からなるか、またはこれらアミノ酸を含んでいる:
−配列番号55のアミノ酸141−155(これは配列番号3にも描かれている)、およびその変種;
−配列番号55のアミノ酸342−356(これは配列番号1にも描かれている)、およびその変種;
−配列番号17−47(哺乳類HPS70断片)のバクテリア相同体、またはその変種;斯かるバクテリア配列の例は配列番号56−132に挙げられている;
−配列番号55の少なくとも6、7、8、9、10、好ましくは少なくとも11、12、13、14、15、任意に少なくとも16、17、18、20、30、40または50以上の連続するアミノ酸の何れかの断片、またはその変種。最も好ましいのは、HPS70タンパク質において高度に保存された断片である;
「変種」とは、少なくとも70或いは少なくとも80%の配列相同性がある相同体を含んでいる;変種はまた、配列番号3または1の配列を有するペプチドを含んでおり、ここで、1以上、好ましくは5以下、より好ましくは1,2または3のアミン酸が、それぞれ配列番号56−71または配列番号83−93の対応するアミノ酸と交換されている。
例えばマウス、ラット、ウサギ、ウシ、ヒト等の供給源に由来する哺乳類相同体HPS70タンパク質(例えば、ヒトHSP70については配列番号48−54に描かれている)の好ましい断片は、以下のアミノ酸からなり、またはこれらアミノ酸を含んでいる:
−配列番号1の哺乳類の相同体:例えば配列番号2(マウス相同体);または配列番号48のアミノ酸366−380(ヒト相同体HPSa1a)、または配列番号49のアミノ酸368−382(ヒト相同体HPSa1l);配列番号50のアミノ酸369−383(ヒト相同体HPSa2);配列番号51のアミノ酸391−405(ヒト相同体HPSa5);配列番号52のアミノ酸368−382(ヒト相同体HPSa6);配列番号53のアミノ酸366−380(ヒト相同体HPSa8);配列番号54のアミノ酸414−428(ヒト相同体HPSa9)、或いは配列番号1に対して少なくとも70%のアミノ酸同一性を含む配列(上記で定義した通り)のような、他の哺乳類HPS70タンパク質の相同体または変種:
−配列番号3の哺乳類相同体:例えば配列番号4または5(マウス相同体);または配列番号48のアミノ酸168−183(ヒト相同体HPSa1a)、または配列番号49のアミノ酸171−185(ヒト相同体HPSa1l);配列番号50のアミノ酸170−184(ヒト相同体HPSa2);配列番号51のアミノ酸195−209(ヒト相同体HPSa5);配列番号52のアミノ酸171−185(ヒト相同体HPSa6);配列番号53のアミノ酸169−183(ヒト相同体HPSa8);配列番号54のアミノ酸216−230(ヒト相同体HPSa9)、或いは配列番号3に対して少なくとも70%のアミノ酸同一性を含む配列(上記で定義した通り)のような、他の哺乳類HPS70タンパク質の相同体または変種。
【0075】
−アミノ酸、或いは配列番号48−54の何れか1つにおける、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、30、40、50またはそれ以上の連続的アミノ酸の他の断片、またはその変種(例えば他の哺乳動物由来の相同体)。最も好ましいのは、HPS70タンパク質類の間で高度に保存された断片である。
【0076】
−配列番号17−47および56−132、またはそれらの変種、例えば他の哺乳類の種または他の哺乳類HPS70タンパク質由来のその相同体。
【0077】
「変種」とは、少なくとも70或いは少なくとも80%の配列相同性を有sる相同体を含んでいる;変種はまた、配列番号4または5、または2の配列を有するペプチドを含んでおり、ここで、1以上、好ましくは5以下、より好ましくは1,2または3のアミン酸が、それぞれ配列番号56−72または配列番号83−94の対応するアミノ酸と交換されている。
【0078】
一実施形態においては、1つだけの断片が使用されるのが好ましいのに対して、もう一つの実施形態では、異なるアミノ酸配列のタンパク質断片の混合物が使用されてよい。また、全体のHPS70パネルまたはサブパネルは、HPS70タンパク質の1以上の断片と混合または組み合わされてよい。或いは、異なるHPS70タンパク質の断片が混合されてよい。例えば、バクテリア由来のHPS70ペプチドは、1以上の特定の哺乳類のHPS70由来ペプチドと混合および/または組み合わされてよく、或いは一緒に投与されてよい。従って、そのバクテリアおよび哺乳類の機能的断片もまた混合されてよい。同じく、同一もしくは異なるHPS70タンパク質のHPS70由来断片の混合物は、混合されてよい。2以上のタンパク質および/または断片が、投与後においてだけ、一人の患者の中においてインビボで組み合わされるように、混合物は、2以上のタンパク質および/またはペプチドを含んでなる単一の組成物、或いは同時に投与される(一緒に、または一方は他方の後に直ぐに)別々の組成物(キットと称する)の両方を包含してもよい。
【0079】
混合物またはキットはまた、HSP70ペプチドのキット、または斯かるパネルの一部(サブパネル)を包含してよい。例として、一緒になって全長HSP70タンパク質の少なくとも一部または全部再構成できる各々が少なくとも3、4、5、またはそれ以上のオーバーラップするペプチド、例えば長さが10、12、15、16またはそれ以上アミノ酸は、1つの組成物において一緒に使用することができ、またはそれらがインビボで組み合わされるように同時投与することができる。HPS70タンパク質の一部だけがパネルに包含される場合、オーバーラップするペプチドは、全長HPS70タンパク質の少なくとも10、20、または25%、好ましくは少なくとも30、40または50%を構成するのが好ましい。また、好ましくは、該ペプチドはオーバーラップして1つまたは二つのコンティグのみを形成するに過ぎない。従って、それらは全長タンパク質の2つの領域からか、例えば配列番号55のアミノ酸150を含み且つ配列番号55のアミノ酸350を含む領域からのものであってよい。
【0080】
更に本発明のもう一つの実施形態においては、保護エピトープからなるか、またはこれらエピトープを含んでなる保護エピトープまたはタンパク質断片が提供され、それにより、哺乳類、例えばマウスもしくはヒトHSP70由来のペプチドは、ヒトまたは動物、例えば家畜もしくはコンパニオン動物の関節炎および/または他の自己免疫疾患の治療および/または予防のための組成物(医薬)を調製するために使用される。「ヒト熱衝撃70タンパク質」とは、配列番号48−54に描かれたもののような、ヒトにおいて自然に生じるタンパク質を意味する。非ヒト哺乳類の熱衝撃70タンパク質は、ヒトタンパク質に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%またはそれ以上の同一性を含んだ、ヒトタンパク質の変種である(定義を他の個所での定義を参照されたい)。記述の全体にわたって、バクテリアHPS70由来の断片のために記述された実施形態は、哺乳類、特にマウスおよびヒトのHPS70由来断片に等しく適用され、その逆も当てはまる。
【0081】
従って、一実施形態において、全長ヒトHPS70タンパク質(または変種もしくはペプチドのパネル)は、ヒト(または動物の)患者を治療するために、特にクローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎およびセリアック病から選ばれた1以上のIBDを治療または予防するために使用されてよい。別の実施形態では、ヒト以外のHPS70タンパク質がこの目的のために好まれるので、全長ヒトHPS70は、好ましくは、IBD潰瘍性大腸炎を治療または予防するためにヒト患者において使用されない。異なる実施形態において、非ヒト哺乳類HPS70タンパク質(例えばマウス、ラット、ウシ等)のような、好ましくは全長の非ヒトHPS70(或いは該ペプチドの変種またはパネル)は、ヒトまたは動物の患者を治療するために使用されてよい。
【0082】
別の実施形態では、バクテリアHPS70由来のペプチドだけが使用される。即ち、哺乳類ペプチドは当該方法および組成物において使用されない。もう一つの実施形態では、哺乳類HPS70由来のペプチドだけが使用される。即ち、バクテリアのペプチドは当該方法および組成物において使用されない。
【0083】
更なる実施形態において、当該方法および組成物は、1以上のIBDの治療または予防の使用に関係し、ここでのIBDは非自己免疫疾患である; 一実施系地あにおいて、IBDは潰瘍性大腸炎ではない。
【0084】
言及したように、使用される断片は好ましくは「機能的である」。即ち、それらは1以上の保護エピトープからなるか、または該エピトープを含み、患者に投与されたときには交差反応性T細胞の産生を有ハスすることができ、特に、関節炎または関節炎に伴う1以上の徴候を低減もしくは予防することができる。従って、断片の機能性を試験するために、上記で述べたように、または実施例で述べたように、交差反応性T細胞の活性化が測定されてよく、および/または自己免疫疾患の動物モデルにおいて、例えば説明したように関節炎または他の自己免疫疾患のモデルにおいてインビボでの機能性が評価されてよい。
【0085】
本発明はまた、上記で述べたペプチドの免疫学的性質を示すが、1以上の化学就職を含んだペプチド類似体を含んでなる、ペプチド類似体またはタンパク質断片に関することが理解される。斯かるペプチド類似体はまた、ペプチド擬似体とも称され、例えば上記で述べたペプチドのアミノ酸残基に対応する単位からなることができ、ここでは本質的に同じ側鎖基が存在するが、骨格はCH=CH、CO−OおよびCO−CH、またはCHのような別の基によるアミド基(CO−NH)の置換のような修飾を含んでいる。他の修飾、例えば同様の性質または非天然のアミノ酸によるアミノ酸の置換も想定される。この点において、「類似の」とは、概ね同じサイズ、電荷および極性を有することを意味する;従って、脂肪族アミノ酸のアラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシンおよびメチオニンは類似と看做すことができる;同様に、塩基性ないし中性の極性アミノ酸、例えばリジン、アルギニン、オルニチン、シトルリン、アスパラギンおよびグルタミンは、本発明の意目的にとっては類似である。同じことが、アスパラギン、アスパラギン酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、セリン、ホモセリンおよびトレオニンのような産生ないし中性の極性アミノ酸にも当てはまる。
【0086】
上記で述べたペプチドは、そういうものとして使用されてもよく、或いはそれらの抗原性または免疫原性を増強する配列に結合されてもよい。そのような配列は、トキソイドまたは免疫グロブリンの部分を含んでいてよい。該ペプチドもまたMHC分子を備えた複合体として使用されてよく、および/またはリポソームに組込まれてもよい。ペプチドはまた、免疫刺激のためのベクターとしての他の分子または全細胞に共有結合で連結されてもよい。該ペプチドは、モノマー、二量体または多量体の形態をしていてもよい。
【0087】
本発明はまた、上記で述べたタンパク質またはペプチドを使用した免疫刺激により活性化された斯かるT細胞から、T細胞受容体またはその一部を発現する自己T細胞または他の細胞を提供する。
【0088】
本発明はまた、上記述べたペプチドに向けられる抗体、特にモノクローナル抗体に関する。該抗体は、既知の方法を、例えばハイブリドーマ技術を使用して製造することができる。該抗体は、受動ワクチンとして、または診断ツールとして使用されてよい。
【0089】
<HSP70エピトープおよびペプチドを同定する方法>
更なる実施形態においては、関節炎関節炎(特に慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および/または若年性関節炎)および/または他の自己免疫疾患、例えば限定されるものではないがアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症またはこれら何れかの徴候を治療および/または予防するのに適した、HPS70由来のペプチドを同定する方法が提供され、該方法は:
好ましくはバクテリアHSP70もしくは哺乳類HSP70タンパク質から、1以上のHPS70由来ペプチド(「被検」ペプチド)を提供すること;
a)任意に、HPS70由来ペプチドがMHCクラスII分子に結合でき、即ち、MHCクラスIIの裂け目に結合でき、または該MHCクラスII分子から溶出させることができるかどうかを決定すること;
b)任意に、交差反応アッセイにおいて、哺乳動物(特にヒトもしくは動物のモデルまたは細胞株)の相同性自己ペプチドと交差反応するペプチド特異的T細胞を誘発する「被検」ペプチドの能力を試験し、且つ該交差反応性を示すペプチドを選択すること;
c)任意に、1以上の「被検」ペプチドを含むか、または該ペプチドからなる組成物を、インビボでの保護活性を決定し、また治療された動物およびコントロール動物の間で疾病の発症および/または徴候を比較し、それによって前記1以上のペプチドが自己免疫疾患またはIBD(および/またはその徴候)の治療および/または予防に適していることを確認するために、自己免疫疾患またはIBDの動物モデルにおいて投与すること;および
d)ヒトまたは動物における自己免疫疾患またはIBDを治療および/または予防するための医薬の調製のために、および患者、特にヒトまたは動物、例えば家畜およびコンパニオン動物において自己免疫疾患を治療および/または予防する方法において、前記1以上の「被検」ペプチドを使用すること
を含んでいる。
【0090】
工程(a)では、バクテリアまたは哺乳類のHPS70タンパク質(ヒトHPS70タンパク質を含む)の如何なる断片が使用されてよい。多くのHPS70アミノ酸配列が利用可能であり、また、断片からなるかまたは該断片を含むペプチドは、標準のペプチド合成方法を使用して合成することができる。好ましくは、例えば異なるバクテリア起源および/または哺乳類起源からのHPS70タンパク質が整列化され、保存されたアミノ酸領域が選択される。該ペプチドは以下では「被検」ペプチドと称する。
【0091】
工程(b)では、好ましくは、「被検」ペプチドがヒトMHCクラスII分子に結合できるかどうかを決定する。結合する能力は、種々の方法を使用して、例えばMHCクラスII−ペプチド結合アッセイを使用して分析することができる。
【0092】
工程(a)および(b)はまた交換することもできる。その結果、最初に、MHCクラスII分子に結合する被検ペプチドが、例えば文献解析によって同定され、次いで、工程(c)、(d)および(e)で使用される更なる被検ペプチドが合成される。工程(b)は任意なので、それは省略することができる。
【0093】
任意の工程(c)は、相同性の自己アミノ酸を含んでなる相同性自己ペプチドまたはタンパク質と交差反応する調節性T細胞を、活性化できるかどうかの分析を含んでいる。これは、相同性自己ペプチドまたはタンパク質を提供することによって(例えば工程(a)の「被検」ペプチドを生物または細胞株の本来のHSP70と整列させることによって)、次いで、該「自己」ペプチドまたはタンパク質を、「被検」ペプチドでプライムされたT細胞に投与することが、増殖、活性化マーカーの呈示およびサイトカイン産生のような、T細胞活性化反応に導くかどうかを試験することによって行うことができる。これは、例えばインビボ(動物モデル)で、並びにインビトロで行うことができる(インビトロT細胞感作アッセイを使用して:Halder T. et al, Isolation of novel HLA-DR restricted potential tumor-associated antigens from the melanoma cell line FM3., Cancer Res., 1997, 57: 3238-44参照)。交差反応性を示す被検ペプチドは更なる使用のために選択される一方、交差反応性を示さないペプチドは廃棄される。
【0094】
工程(d)では、自己免疫疾患の動物もモデル(例えば関節炎モデル)、或いはIBD(例えばTNBSで誘発された大腸炎)の動物モデルは、1以上の時点(疾病誘導の前、または疾病誘導の後)での1以上の量のペプチド投与が疾患の重症度および進行に何らかの効果を有するかどうかを決定するために、適切なコントロールと一緒に使用される。様々な自己免疫疾患の斯かる動物モデルは当該技術において入手可能である。例えば、実施例に記載したプロテオグリカンで誘発された関節炎モデルを参照されたい。他の関節炎モデルには、II型コラーゲンに誘発された関節炎、プロテオグリカンに誘発関節炎、プリスタンに誘発された関節炎および連鎖球菌の細胞壁に誘発された関節炎(Ref: PH Wooley, Animal models of rheumatoid arthritis, Curr. Opin. Rheumatol. 1991 Nr. 3(3): 407-20.)が含まれる。他のIBDモデルには、例えば化学的に誘発された免疫学的、遺伝的、自発的なモデルが含まれる(Pizarro T.T., et al., Mouse models for the study of Crohn's disease. Trends Mol. Med. 2003 9(5):218-22. Review参照)。動物モデルはまた、有効濃度、並びに最適な投与モードおよび投与計画は如何なるものであるかを決定するためにも使用することができる。
【0095】
ヒトMHCクラスII遺伝子を形質転換されトランスジェニック齧歯類、例えばマウスを使用することにより、1以上のHSP70由来ペプチドの機能性および/または有効量を試験することも可能である。例えば次の文献を参照されたい:Koehm S. et al., HLA-DRB1 alleles control allergic bronchopulmonary aspergillosis-like pulmonary responses in humanized transgenic mice, J. Allergy Clin. Immunol. 2007, June 8th e-publication ahead of print; Chen Z., et al.., Humanized transgenic mice expressing HLA DR4-DQ3 haplotype: reconstitution of phenotype and HLA-restricted T-cell responses, Tissue Antigens 2006 No. 68(3): 210-9; Brintnell W. et al., The influence of MHC class II molecules containing the rheumatoid arthritis shared epitope on the immune response to aggrecan G1 and its peptides, Scand. J. Immunol. 2007 Nr. 65(5): 444-52; and Mangalam A. et al., Role of MHC class II expressing CD4+ T cells in proteolipid protein (91-110)-induced EAE in HLA-DR3 transgenic mice, Eur. J. Immunol. 2006 Nr. 36(12): 3356-70。
【0096】
工程(e)では、工程(d)において疾病の徴候もしくは進行を治療および/または予防することに関してプラスの効果を示したペプチドまたはペプチド混物が、臨床試験または動物試験のため、並びに商業的使用のための組成物を製造するために使用される。
【0097】
該方法はまた、全長HPS70タンパク質をカバーするペプチドのパネル、またはサブパネル、或いはペプチドの混合物のために使用されてもよい。上記方法において、工程(c)は任意に、全長HPS70タンパク質を用いて、従ってインビトロ感作アッセイに続いて、精製されたHSP70またはストレスを受けた抗原提示細胞との、またはヒトHSP70由来ペプチドとの交差反応性を測定することによって行うことができる。それはまた、動物モデルにおいて行うこともできる。次いで、調節活性の誘導のために、交差反応性T細胞反応を分析することができる(例えばサイトカイン様IL−10産生、同時培養アッセイにおけるHSP特異的T細胞の抑制活性)。
【0098】
<発明による組成物および用途>
本発明のタンパク質および/またはペプチドは、これらを含む医薬組成物を製造するために使用される。該医薬組成物は、関節炎、特に慢性関節リウマチおよび/または乾癬性関節炎および/または若年性関節炎を治療および/または予防するために、および/または他の自己免疫疾患、例えば限定するものではないがアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症、またはこれらの何れか1以上(好ましくは全部)の徴候を治療および/または予防するため、或いはIBD(特にクローン病、肉芽腫性大腸炎、潰瘍性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎および/またはセリアック病)、またはその1以上(好ましくは全部)の徴候を治療および/または予防するため、或いは他の炎症性疾患、特にアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、薬物アレルギーおよび喘息、またはこれらの1以上の徴候を治療または予防するために、哺乳動物、特にヒトおよび/または動物、特に家畜またはコンパニオン動物に投与するために有用である。
使用されるタンパク質またはペプチドの量は、該組成物が治療のためか、または予防のためかに応じて、また投与形態および投与頻度に応じて変化してよい。適切な処方は、レミングトンの製薬の科学(Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa., 18th ed. (1990))において、またはレミングトンの文献(Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 2005, Lippincott Williams & Wilkins, US; 21st Rev Ed edition)において見出される。
【0099】
一実施形態において、本発明の免疫原生ペプチド(またはこれらを含む組成物)は、予防的(防止)に、或いは自己免疫疾患或いは炎症性疾患に既に罹患している個人に対して投与される(治療)。該組成物は、有効な免疫反応を誘発するのに十分な量で被験者(例えば患者)に投与される。これを達成するために十分な量は、「治療的有効投与量」または「免疫原的有効投与量」として定義される。この使用のために有効な量は、例えば、ペプチド組成、投与方法、治療すべき疾病の段階および重篤度、患者の体重および一般的健康状態、並びに処方する内科医の判断に依存するであろう。しかし一般には、患者の体重1キログラム(kg)当たり約0.1μg〜約150μg、または体重1kg当たり約1μg〜約200μg、更に普通には投与1回当たりで体重1kg当たり約1μg〜約50μgの範囲である。この投与量は週に一度投与されてよく、或いは一日おきに一度、或いは毎日、或いは1日当たり数回でも投与されてよい。投与量単位は短期間(例えば数周間から数カ月)に亘って投与されてよく、或いはより長い期間(数か月から数年)に亘って投与されてよい。
【0100】
該組成物は種々の投与量単位で、例えば7μg、7.5μg、8μg、9μg、10μg、20μg、30μg、40μg、50μg、100μg、200μg、1000μg、2500μg、5000μgまたはそれ以上の各HSP70由来ペプチド(また任意に、HSP70のパネルまたはサブパネル)を含んでなる投与量で製造されてよい。
【0101】
好ましくは、該医薬組成物は粘膜に投与され、最も好ましくは経口でまたは鼻内に投与される。しかしながら、別の実施形態では、経皮、吸入および非経腸的のような他の投与形態が含まれる。特に好ましいのは経口および鼻内処方である。
【0102】
本発明によるタンパク質および/またはペプチドは、許容可能なキャリア、好ましくは水性キャリアに溶解または懸濁されてよい。様々な水性キャリアが使用されてよく、例えば、水、バッファーされた水、0.4%の食塩水、0.3%のグリシン、ヒアルロン酸等である。これらの組成物は従来の周知の滅菌技術によって滅菌されてよく、或いは滅菌濾過されてよい。得られた彗星応益は、そのまま使用するために包装されてよく、或いは凍結乾燥されてよい。該凍結乾燥された製剤は、投与の前に滅菌溶液と組み合わされる。
当該組成物は、生理学的条件に近似させるために必要とされる医薬的に許容可能な助剤物質、例えば干渉罪、張力調節剤、湿潤剤等、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、およびオレイン酸トリエタノールアミンを含有してよい。
【0103】
固体組成物については、例えば、医薬等級のマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルローズ、グルコース、蔗糖、炭酸マグネシウムなどを含んだ従来の無毒な固体キャリアが使用されてよい。経口投与について、薬学的に許容可能な無毒な組成物は、先に列記したキャリアのような通常使用される何れかの賦形剤、および約0.1〜5%または10%、より好ましくは、0.1〜2%の(好ましくは各)有効成分を組込むことにより形成される。上記で述べたように、該組成物は、当該ペプチドに対して免疫反応を誘発することを意図している。従って、免疫反応を最大限にするために適した組成物および投与方法が好ましい。例えば、ペプチドは、キャリアに結合されて、または活性ペプチド単位のホモポリマーもしくはヘテロポリまとして、ヒトを含む宿主に導入されてよい。或いは、ペプチドの「カクテル」を使用することができる。2以上のペプチドの混合物は、増大した免疫反応の利点を有する。
【0104】
当該組成物(特に経口投薬形態)は、更に1以上のプロテアーゼ阻害剤を含んでよい。プロテアーゼ阻害剤は4つのクラスに分類される:即ち、セリンプロテアーゼ阻害剤(トリプシン阻害剤を含む)、システイン・プロテアーゼ阻害剤、アスパラギン酸プロテアーゼ抑制剤、およびメタロプロテイナーゼ阻害剤である。適切なプロテアーゼ阻害剤は、当該技術において入手可能である(例えばシグマ・オルドリッチ社から)。好ましい抑制剤は、植物由来のトリプシン阻害剤(大豆トリプシン阻害剤、リマ豆トリプシン阻害剤、トウモロコシ・トリプシン阻害剤等)、または動物由来のトリプシン阻害剤(ニワトリもしくは七面鳥の卵白由来およびウシ膵臓由来のトリプシン阻害剤)のようなトリプシン阻害剤である。
【0105】
当該組成物はまた、助剤を含んでいてよい。多くの助剤が当業者に周知である。適切な助剤には、不完全フロイントアジュバント、ミョウバン、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(および−MDPと呼ばれたCGP 11637)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−Lアラニン−2−(1’,2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PEおよびRIBIと呼ばれるCGP1935A)、並びにバクテリアから抽出された三つの成分である2%スクアレン/ツイーン80エマルジョン中のモノホスホリルリピドA、二ミコール酸トレハロースおよび細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を含有するRIBIが含まれる。
【0106】
医薬製剤中の本発明の免疫原ペプチドの濃度は、広範囲で、即ち、約0.1重量%未満(例えば0.01%のwt/vol)から 約2重量%まで、変化することができ、また選択された特定の投与モードに従って、主に隆替ノン容量、粘性等によって選択されるであろう。
【0107】
種々のタイプの投与に適した処方に関する更なるガイダンスは、レミングトンの製薬の科学(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mace Publishing Company, Philadelphia, PA, 18th ed. (1990, supra).)の中に見出すことができる。ドラッグデリバリーのための方法の簡単な検討のためには、ランガーの論文(Langer, Science 249:1527-1533 (1990))を参照されたい。これら参照文献は両方とも、それらの全体が本明細書の一部として援用される。
【0108】
経皮的な送達システムは、パッチ、ゲル、テープおよびクリームを含んでおり、溶解剤、浸透エンハンサー(例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコールおよびアミノ酸)、親水性のポリマー(例えばポリかる簿フィルおよびポリビニルピロリジン)、接着剤および粘着剤(例えばポリイソブチ連、シリコーン基接着剤、アクリレートおよびポリブテン)のような賦形剤を含むことができる。経粘膜送達システムには、パッチ、錠剤、坐薬、ペッサリー、ゲルおよびクリームが含まれ、また溶解剤およびエンハンサー(例えばプロピレングリコール、胆汁酸塩およびアミノ酸)のような賦形剤、並びに他の担体(例えば ポリエチレングリコール、脂肪酸エステルおよび誘導体、並びにヒドロキシプロピルメチルセルローズおよびヒアルロン酸のような親水性のポリマー)を含有することができる。注射可能な送達システムには、溶液、懸濁液、ゲル、ミクロスフェアおよびポリマー注射物が含まれ、可溶性変更剤(例えばエタノール、プロピレングリコール、および蔗糖)およびポリマー(例えばポリカプリルラクトン、およびPLGA)のような賦形剤を含有することができる。移植可能なシステムには棒およびディスクが含まれ、またPLGAおよびポリカプリルラクトンのような賦形剤を含有することができる。
【0109】
発明の製薬の構成の処理のために使用することができる他の送達システムには、スプレーおよびパウダーのような鼻腔内送達システム、舌下の送達システム、および吸入による送達システムが含まれる。吸入による投与については、本発明の医薬組成物は、適切な推進薬、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスの使用と共に、気圧調節されたパック或いはネブライザーから、エアゾルスプレー提示の形態で便利に送達される。気圧調節されたエアゾルの場合、投薬ユニットは、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定されてよい。吸入器または通気器で使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、本発明のペプチド粉末混合物、並びにラクトースまたは澱粉のような適切な粉末基剤を含んで処方されてよい。本発明の医薬組成物は更に、たとえば米国特許第6,358,530号に記載されているように、吸入による投与のために処方されてよい。更に、微粒子銃のような他の予防接種または投与の方法が使用されてもよい。その際に、エピトープ、即ち、本発明によるペプチドおよび/またはタンパク質エピトープをコード化するDNAまたはRNAは金粒子上にコーティングされ、これらは患者の組織に衝突させるために(例えばvan Drunen et al. Methods Mol Med. 2006;127:91-105; Gaffal et al. Eur. J. Cell. Biol. 2006, Available online 22 August 2006参照)、またはリポソーム送達のために使用される。従って、一実施形態では、本発明によるタンパク質および/またはペプチドをコード化するDNAまたはRNA(例えば該DNAまたはRNAを含んでなるプラスミド)、並びにこれらを含有する組成物が提供される。
【0110】
もう一つの側面において、本発明は、本発明のペプチドまたはタンパク質を含有する医薬組成物を製造する方法に関する。当該方法は、少なくとも、本発明のペプチドまたはタンパク質を医薬的に許容可能なキャリアおよび上記で述べた助剤のような更なる成分と混合する工程を含んでいる。微粒子銃応用において使用するために、本発明による1以上のペプチドおよび/またはタンパク質でコーティングされた金粒子もまた提供される。
【0111】
更に、ヒト患者における関節炎(特に慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および/または若年性関節炎)、および/または他の自己免疫疾患、例えばアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、重症筋無力症またはこれレア何れかの1以上の(好ましくは全部)の徴候を治療または予防するための方法であって、それを必要としている人に対して、上記で述べた治療的または予防的に有効な量の1以上のペプチドを投与することを含んでなる方法が提供される。好ましい実施形態において、投与は粘膜的におこなわれ、好ましくは規則的な間隔を置いて経口および/または経鼻で行われる。
なお、ここに記載された治療的および予防的(防御的)処置は、疾患の完全な消滅または完全な予防に限定されることなく、一実施形態においては、関節炎について実施例で記載したように、コントロール群に比較したときに、1以上の関節炎症の徴候および/または1以上の他の自己免疫疾患の徴候の重篤度における治療された患者群での顕著な低減をも意味することが注目される。例えば関節炎および/または他の自己免疫疾患および/またはIBDに付随した1以上の徴候について、体重減少(臨床状態)、結腸短縮および/または組織形態学的な変化等は、治療群において顕著に低減される可能性がある。顕著な低減とは統計的に有意であるべきものであり、また当業者はこれがその症例であることを容易に決定することができる。例えば、対照群と比較して、1以上の徴候において少なくとも約1%、2%、5%、10%、20%またはそれ以上の減少は有意であり得る。
【0112】
関節炎の症状は、動物においては、足の発赤および腫れ、または体重の減少を含んでいる。ヒトにおいては、一般に、健康テクノロジーアセスメント2002に記述された関節炎反応基準、第6巻第21号第83頁に記載された許容される疾病活動基準/許容される反応基準が評価されてよい。そこには、例えば「柔らかい関節カウント」、「主張関節カウント」、「痛みの患者評価」、および疾病症状および重篤度を評価する他の基準が含まれている。他の自己免疫疾患については、徴候と発病度を評価する同様の標準基準が当該技術において利用可能である。
【0113】
ここで記載される治療学的および予防的(保護的)治療は、疾患の完全な消滅または完全な予防に限定されるものではないが、1つの態様においては、また治療される対象群における1または1以上のIBD症状の幾つかを対照群と比較して例において記載するように有意に減少することもいうことを述べておく。例えば、IBDに関連する1または1以上の症状、例えば、体重減少(臨床的な状態)、大腸の短縮化、および/または組織形態学的変化などは、当該治療群において有意に減少してよい。有意な減少は、統計学的に有意であるべきあり、当該業者は容易にこれが当該症例であるか否かを判定することが可能である。例えば、少なくとも約1%、2%、5%、10%、20%または20%以上の1または1以上の症状における減少は、対照群と比較して有意であってよい。
【0114】
以下の表1は、哺乳類HSP70−由来ペプチドが結合/溶出(bound / eluted)されたMHCクラスIIの文献調査の結果を示す。当該ペプチドは、ヒトまたは他の動物における関節炎またはIBDの治療または予防のために有用である。本発明に従って使用されるべき当該ペプチドは、好ましくは当該表の配列と同一の少なくとも70%のアミノ酸を有する。また、他の種、特に細菌の種からの相同なペプチドも有利に使用できる。
【表1】

【表1−2】

【表1−3】

【0115】
本発明に従うペプチドの選択のために適切なHSP70配列を表2に収載する。当該配列は、表1からの中度または高度の保存を有するペプチドに基づく。源種は以下のように示す:「mamm」はヒトを含む哺乳類を意味し、「Yeast」はサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae (SSA3およびSSB2タンパク質))を意味し、「Mycob」はM.ツベルクロシス(M. tuberculosis (レプラエ(leprae)およびギルブム(gilvum)が対応する領域において同一である)を含むマイコバクテリウム(Mycobacterium)を意味する。他の種および他のHSP70タンパク質からの対応する配列はこれらの他の種またはタンパク質の入手可能な配列との比較により容易に同定できる。好ましいペプチドは、表2の配列からの少なくとも12、より好ましくは少なくとも13、最も好ましくは少なくとも14または15、多くは19までの、より好ましくは多くは18までの、最も好ましくは多くは17または16までのアミノ酸を有する。表2の特異的な配列に加えて、これらのペプチドは本発明により包含され、ここで、1、2、3または4までのアミノ酸が高度に保存されたアミノ酸により、または同じグループのペプチドからの対応するアミノ酸、56-72, 73-82, 83-94, 95-105, 106-119 または 120-132により交換される。例えば、配列番号72に基づくペプチド、ここにおいて2番目のロイシンは、メチオニンにより置換(配列番号57)、アラニンにより置換(配列番号62)、グルタミン酸により置換(配列番号66、69または71)またはリジンにより置換(配列番号80)されるか、または3番目のロイシンがイソロイシンにより置換(配列番号56)されるペプチドも本発明に包含される。高度に保存されたアミノ酸のセットは、例えば、V、L、IおよびM;RおよびK;DおよびE;NおよびQ;DおよびN;EおよびQ;SおよびT;GおよびA;F、WおよびYなどである。最も好ましくは、表2の配列の最初の2アミノ酸および/または最後の2または3を欠失しているペプチドである。特に好ましくは、上記したとおりの多くは3、より好ましくは2または1の高度に保存された置換若しくは交換を有する、または同一の(部分)配列を有するマイコバクテリアペプチドである。C1に基づくマイコバクテリアペプチドにおいて、好ましくは、少なくとも1の位置145でのV(V−145)およびL−153が保存されており;同様に少なくともV−344、G−354およびV−355が保存されており;B2については、少なくともE−31、T−35およびV−39(またはI若しくはT)が保存されている。
【表2−1】

【表2−2】

【0116】
配列
配列番号1:マイコバクテリアHSP70ペプチド「B1」
配列番号2:マウスHSP70相同ペプチド「mB1」
配列番号3:マイコバクテリアHSP70ペプチド「C1」
配列番号4および5:マウスHSP70相同ペプチド「mC1a」および「mC1b」
配列番号6−16:例において使用されたマイコバクテリアHSP70ペプチド
配列番号17−47: list of MHCクラスIIが提供する哺乳類HSP70ペプチド
配列番号48−54:ヒトHSP70ペプチド
配列番号55:マイコバクテリアHSP70タンパク質
配列番号56−132:保存されたHSP70領域の好ましい配列。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】例1のT細胞増殖(HSP70エピトープマッピング)
【図2】例1のサイトカイン産生(HSP70エピトープマッピング)
【図3】a)およびb)マウスのDSS大腸炎実験スケジュール
【図4】DSS大腸炎(例3)における全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;、図4(大腸の長さ−経口群);図5(体重変化−経口群)、図6(臨床的状態−経口群)および図7(組織学的程度)。
【図5】DSS大腸炎(例3)における全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;、図4(大腸の長さ−経口群);図5(体重変化−経口群)、図6(臨床的状態−経口群)および図7(組織学的程度)。
【図6】DSS大腸炎(例3)における全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;、図4(大腸の長さ−経口群);図5(体重変化−経口群)、図6(臨床的状態−経口群)および図7(組織学的程度−経口群)。
【図7】DSS大腸炎(例3)における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;、図4(大腸の長さ−経口群);図5(体重変化−経口群)、図6(臨床的状態−経口群)および図7(組織学的程度)。
【図8】DSS大腸炎(図4)における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;図8(大腸の長さ−経口群);図9(体重変化−経口群)、図10(臨床的状態−経口群)および図11(組織学的程度−経口群)。
【図9】DSS大腸炎(図4)における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;図8(大腸の長さ−経口群);図9(体重変化−経口群)、図10(臨床的状態−経口群)および図11(組織学的程度−経口群)。
【図10】DSS大腸炎(図4)における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;図8(大腸の長さ−経口群);図9(体重変化−経口群)、図10(臨床的状態−経口群)および図11(組織学的程度−経口群)。
【図11】DSS大腸炎(図4)における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果;図8(大腸の長さ−経口群);図9(体重変化−経口群)、図10(臨床的状態−経口群)および図11(組織学的程度−経口群)。
【図12】マウスDSS大腸炎実験スケジュール
【図13】例5の疾病発症
【図14】例5の最大体重減少
【図15】例5の大腸の長さのデータ
【図16】例5の遠位大腸サンプルからのIL10放出
【図17】マウスTNBS大腸炎実験スケジュール
【図18a】例6の体重減少における影響
【図18b】例6の体重減少における影響
【図19】流入領域リンパ節細胞によるIL10産生における効果(CLN):(CD3/CD28再刺激)
【図20a】A)、B)およびC)実験スケジュール(3A:完全長マイコバクテリアHSP70の投与スケジュール)(3B:ペプチドおよびペプチド混合物の投与のスケジュール)(3C:ペプチド混合物の投与のスケジュール)
【図20b】A)、B)およびC)実験スケジュール(3A:完全長マイコバクテリアHSP70の投与スケジュール)(3B:ペプチドおよびペプチド混合物の投与のスケジュール)(3C:ペプチド混合物の投与のスケジュール)
【図20c】A)、B)およびC)実験スケジュール(3A:完全長マイコバクテリアHSP70の投与スケジュール)(3B:ペプチドおよびペプチド混合物の投与のスケジュール)(3C:ペプチド混合物の投与のスケジュール)
【図21】完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の投与後の関節炎スコア * p<0.05(マン−ウィットニーUテスト(Mann-Whitney U test))
【図22】ペプチドC1およびmC1aの混合物(「C1混合物」と命名された)の投与後の関節炎スコア
【図23】ペプチド「B1」の投与後の関節炎スコア
【図24】抗原特異的T細胞増殖アッセイ結果。マウスの屠殺後、脾臓細胞を単離し、抗原で72時間に亘りインビトロで再刺激をし、18時間、3Hとインキュベートした。刺激インデックス(CPM抗原/CPM培地で刺激された細胞)を計算し、インビボ処理群当たりで示した。CPM=放射性トリチウムの1分間当たりのカウント。
【図25】抗原特異的なIFNガンマ産生。抗原特異的な増殖に加えてIFN−γ産生をELISAにより測定した。インビトロで再刺激された脾臓細胞の上清を培養の72時間後に採取した。
【図26】抗原特異的なIL−10の産生。抗原特異的な増殖に加えて、IL−10の産生をELISAにより測定した。インビトロで再刺激された脾臓細胞の上清を培養の72時間後に採取した。
【図27】ペプチドC1およびmCaの混合物(「C1混合物」と命名された)の投与後の関節炎スコア。
【図28】実験スケジュール。
【図29a】ペプチドC1またはmC1aによる処理後の関節炎スコア; p<0.05 (Mann-Whitney U test)** p<0.01 (Mann-Whitney U test)。
【図29b】ペプチドC1またはmC1aによる処理後の関節炎スコア; p<0.05 (Mann-Whitney U test)** p<0.01 (Mann-Whitney U test)。
【図30a】ヒト細胞におけるペプチド特異的応答(例12)。(A)健康なドナーの血液から単離されたPBMCのペプチド特異的増殖は96時間のインキュベーション後の[H]取り込みを測定することにより決定した。mC1bはPBMCの増殖の増大を誘導した。結果は平均刺激インデックス(CPM抗原/CPMバックグラウンド)として表した。(B)1のJIA患者において、ペプチド特異的なIL−10、TNFαおよびIFNγの産生を、材料および方法において記載される通りのペプチドの存在における8日間培養後、SFMCにおける細胞内染色およびFACS分析により処理した。最後の6時間の間、新鮮な培地、ペプチドおよびAPCを添加した。データはCD3CD4個体群からの陽性細胞の%として表す。
【図30b】ヒト細胞におけるペプチド特異的応答(例12)。(A)健康なドナーの血液から単離されたPBMCのペプチド特異的増殖は96時間のインキュベーション後の[H]取り込みを測定することにより決定した。mC1bはPBMCの増殖の増大を誘導した。結果は平均刺激インデックス(CPM抗原/CPMバックグラウンド)として表した。(B)1のJIA患者において、ペプチド特異的なIL−10、TNFαおよびIFNγの産生を、材料および方法において記載される通りのペプチドの存在における8日間培養後、SFMCにおける細胞内染色およびFACS分析により処理した。最後の6時間の間、新鮮な培地、ペプチドおよびAPCを添加した。データはCD3CD4個体群からの陽性細胞の%として表す。
【0118】
以下の非限定的な例が、本発明の抗原性タンパク質およびペプチドの保護的且つ治療学的使用を述べる。例において他の状態で述べられない限り、全ての分子技術は以下の文献に記載されるような標準的なプロトコールに従って実行される;Sambrook and Russell (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, in Volumes 1 and 2 of Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols, USA and in Volumes I and II of Brown (1998) Molecular Biology LabFax, Second Edition, Academic Press (UK)。
【0119】

例1 自己HSP70と交差反応するT細胞を含むHSP70特異的T細胞により認識される細菌性HSP70ペプチドのマッピング
HSP免疫化マウスからのHSP70特異的調節T細胞(HSP70-specific regulatory T cells)は、調節T細胞(Tregs)の制限された供給源である。その上、HSP特異性は、免疫化に依存し、可変性であろう。代替的な供給源を達成し、より正確に定義されたHSP特異的な調節T細胞の個体群を達成するために、我々はHSP70エピトープマッピングを開始した。
【0120】
マイコバクテリアHSP70全体(配列番号55(PBS中にアジュバントとしてのジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)の10mg/mLの200μL中に全量100μgを腹腔内および皮下投与))で免疫化されたBalb/cマウスからの脾臓細胞を、以前に記載された手順(Wendling et al. (2000) J. Immunol. 164: 2711-2717)に従ってタンパク質全体を網羅する15merペプチドが重複している123の完全なセットに対するT細胞の反応について分析した。
【0121】
この方法において、我々はHsp70特異的T細胞によりいっそう強く、またはいっそう弱く認識され、恐らくHsp特異的調節T細胞の活性化に関連する13のHsp70ペプチドを同定した。
【0122】
より正確に当該エピトープを定義するために、我々は当該13のペプチドを、細菌性と相同マウスHsp70との間の配列同一性の程度に基づいて、3つのプールに分類し(プールA:非保存ペプチド、プールB:当該マウス相同物と同一な少なくとも約80%のアミノ酸を含む保存ペプチド、およびプールC:当該マウス相同物と同一な86%よりも多くのアミノ酸を含む高保存ペプチド、以下を参照されたい)、10〜12週齢のBalb/cマウスを2週間の間隔で2回に亘り(腹腔内または皮下の)前記ペプチドプールにより免疫化した。2回目の免疫化の10日後、準備刺激された脾臓と流入領域リンパ節細胞を、当該13の全ての個々のペプチドで再刺激し、その後、我々はT細胞増殖(トリチウム取り込み)、IFNγ、IL10、IL4およびIL5産生(サイトカイン産生)を測定した。
【0123】
我々は、明確な反応を誘導した(図1を参照されたい)(当該13のペプチドからの)3つのペプチドを同定した:3つのペプチドは増大した増殖性のT細胞反応とIFNγ(ペプチドA1、B1、C1)を誘導し、2つのペプチドは増大したIL−10産生(ペプチドA1、C1)を誘導した。当該ペプチドの何れも検出可能なIL4またはIL5を誘導しなかった。
【0124】
交差反応を対応するマウス相同ペプチドを用いて測定した。ペプチドB1およびC1は、(増殖とサイトカイン産生の両方に関して)それらの対応するマウス相同ペプチドに対する交差反応性T細胞反応を誘導したことが分かった(マウス相同ペプチドmB1、mC1a、mC1bに対する反応を参照されたい)。
【0125】
T細胞エピトープを含む当該ペプチドを使用してペプチド特異的T細胞株およびハイブリドーマを生成する。これらのT細胞株はインビトロおよびインビトロの両方においてHsp特異的調節T細胞源として使用される。更に、当該株とハイブリドーマの活性化を使用して、Hspペプチド特異的T細胞活性化における抗原提示細胞のHspマニピュレーションの効果が試験される。ペプチドC1およびmC1aがTNBS大腸炎研究において試験された。
【表A】

【0126】
結果を図1および2に示し、以下に要約する:
【表3】

【0127】
マイコバクテリアペプチド:
A1=マイコバクテリアhsp70ペプチド (KPFQSVIADTGISVS)−配列番号6
B1=マイコバクテリアhsp70ペプチド(DEVVAVGAALQAGVL)−配列番号: 1
C1=マイコバクテリアhsp70(VLRIVNEPTAAALAY)−配列番号3
マウス相同物:
mB1=マウスGrp75ペプチド(hspa9a) (DEAVAIGAAIQGGVL)−配列番号2
mC1a=マウスGrp75(hspa9a)ペプチド(VLRVINEPTAAALAY)−配列番号4
mC1b=マウスhsp70(hspa1a/hspa8)ペプチド(VLRIINEPTAAAIAY)−配列番号5。
【0128】
結論
上は、保存されたHSP70ペプチド、例えば、B1およびC1およびそれらの哺乳類相同物がT細胞反応を誘導すること、および哺乳類(マウス)において細菌性ペプチドの準備刺激を受けたT細胞が自己HSP70ペプチド/タンパク質と交差反応することを示す。また、サイトカイン産生(IFNγおよびIL−10産生)は、対応するマウス相同ペプチドによっても誘導される。
【0129】
例2 大腸炎のDSSモデルおよびTNBSモデル
大腸炎のDSSモデル
少なくとも部分的に上皮のバリア機能における変化に関連する大腸炎のモデルは、物理的薬剤、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)により誘導された大腸炎である。このモデルは、頻繁に使用され、潜在的な治療薬の効能を試験されているが、これはそれが飲料水中でのDSSの投与を介して容易に誘導され、およびDSSは定義された発症を伴う一貫した程度の大腸炎を誘導することによる。この形態の大腸炎における炎症の機序は、少なくとも最初は、非リンパ球細胞、例えば、マクロファージなどの活性化と炎症誘発性のサイトカインの放出である。上皮のバリア機能における変化は、初期(明白な炎症の発症の数日前)に見ることができ、従って、マクロファージ活性化のための段階を齎すのかもしれない。
【0130】
DSS大腸炎の急性段階において、T細胞反応は分極されたTh1反応からなるが、より後の時期およびより慢性な炎症の段階においては、混合性のTh1/Th2反応が生じる。何れかの場合において、DSSは多量のTNFαおよびIL−6の分泌を誘導し、これが当該疾患における組織損障の主な原因である。使用されるプロトコールは以下の文献に準じた:Verdu EF et al, Clin. Exp. Immunol. 2000, 120:46-50。
【0131】
大腸炎のTNBSモデル
大腸炎のTNBSモデルは複数の方法において実施できる。IBDにおける適応性の免疫応答の役割を研究するための最良且つ最も代表的な変形の1つがここで使用されるものであり、これは皮膚の感作、続くTNBSの結腸内滴注によるプロトコールである(Te Velde AA. et al., Inflamm. Bowel Dis. 2006, 12:995-999)。我々のプロトコールは以下の文献に記載のプロトコールを変更(局所の状態への適応)したものであった(Arita M et al. Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 2005, 102:7671-6)。
【0132】
例3 BALB/cマウスにおけるDSS大腸炎における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の投与の抑制効果(プラハ試験−第一の部分)
これは1つの実験の第一の部分である。動物の数を制限するために、当該実験は2つの部分に分割された。各部分において、各群当たり5匹のマウスである。
【0133】
プロトコール
15匹の通常の雌性Balb/c雌性マウス(7〜9週齢)を無作為に4群(各5匹)に分けた。経口処理の効能を評価するために、抗原(完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質)を0.15Mの炭酸水素ナトリウムの50μLに溶解された1mgのダイズトリプシンインヒビター(SBTI、シグマ)と共に胃管栄養法により1週間間隔で4回投与した。1週間後、マウスに飲料水中で3%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を7日間まで連続して与えた。大腸炎を35日目にクリニカルアクティビティスコア(臨床学的活性スコア)により、大腸の長さにより、および組織学的スコアにより評価した。
【0134】
実験スケジュールについては図3を参照されたい(スケジュールA)。
【0135】
A1群 (PBS+DSS):
−処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(コントロール群)
B1群 (HSP60+DSS):
−処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(1:1)中のHSP60を30μg/マウス
C1群 (HSP70+DSS):
処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(1:1)中のHSP70を30μg/マウス。
【0136】
結果
結果を以下の表および図4(大腸の長さ)、図5(体重変化)、図6(臨床的状態)および図7(組織学的程度)に示す。
【0137】
大腸の長さ
【表B】

【表C】

【0138】
体重変化
【表D】

【表E】

【表F】

【表G】

【表H】

【0139】
組織学的程度(Histological grade)
【表I】

【表J】

【0140】
結論
上の結果は、経口で、予防的に(疾患誘導に先駆けて)投与されたとき、完全長HSP70タンパク質が大腸炎における抑制的効果を有することを示す。
【0141】
例4 BALB/cマウスにおけるDSS大腸炎に対する完全長マイコバクテリアHSP70の抑制効果(プラハ試験−第二の部分)
これらの結果は、当該実験(第一の部分のための例3を参照)の第二の部分のみに向かう。この部分は各群当たり5匹のマウスである。
【0142】
プロトコール
15匹の通常の雌性balb/c雌性マウス(7〜9週齢)を無作為に4群(各5マウス)に分けた。経口による処理の効能を評価するために、抗原(完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質)を0.15Mの炭酸水素ナトリウムの50μLに溶解された1mgのダイズトリプシンインヒビター(SBTI、シグマ)と共に胃管栄養法により1週間間隔で4週間投与した。1週間後、マウスに8日まで連続して飲料水中で3%のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を与えた。大腸炎を36日目にクリニカルアクティビティスコアにより、大腸の長さおよび組織学的スコアにより評価した。
【0143】
実験スケジュールについては図3、スケジュールBを参照されたい。
【0144】

A2群 (PBS+DSS):
−処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(コントロール群)
B2群 (HSP60+DSS):
−処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(1:1)中のHSP60を30μg/マウス
C2群 (HSP70+DSS):
処理:胃内に100μLの滅菌PBS/SBTI(1:1)中のHSP70を30μg/マウス。
【0145】
結果
結果は図8(大腸の長さ)、図9(体重変化)、図10(臨床的状態)および図11(組織学的程度)に示す。
【0146】
大腸の長さ
HSP70は、経口で投与した場合、PBSに対して大腸短縮化を防止する。
【表k】

【表L】

【0147】
体重変化
【表M】

【表N】

【0148】
組織学的程度
【表O】

【表P】

【0149】
結論
マイコバクテリアHSP70タンパク質の投与は、PBSに比較して大腸炎の症状を有意に沈静化する(大腸の長さ、体重変化および組織学的スコアについてそれぞれp=0.0057、0.0387および0.0831)。結果は実験の第一部分において得られた結果と同様である(例3を参照されたい)。
【0150】
例および4の両方を共に
経口処理されたBALB/cマウスにおける急性デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎の評価。値は平均±標準偏差として表す。
【表Q】

【0151】
例5 BALB/cマウスにおけるDSS大腸炎の誘導に対する完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質の抑制効果(ユトレヒト試験(Utrecht study))
図12は試験構成を示す。ベヒクルはPBSを指す。
【0152】
処理:
A群:100μLのPBS(コントロール)
B群:PBS中の30μgのマイコバクテリアHSP70タンパク質[配列番号55]。
【0153】
この試験は実験の開始時に7週齢の雌性BALB/cマウスで行った。マウス群(N=10)を4回(7、9、11、14日目)に亘り100μLのPBS中で30μgのHSP70(Mt hsp70; バッチ031205; 2.1 エンドトキシン単位/mg)またはベヒクル(100μLのPBS)で、経口胃管栄養法を介して投与した。胃管栄養法の10分前に動物に0.15Mの炭酸水素ナトリウム、pH8.0中で2mgのダイズトリプシンインヒビター(SBTI)を与えた。大腸炎を3%のDSSを追加した飲料水を7日間投与することにより誘導した。
【0154】
疾患の発症は、以下の表において説明される体重および便の軟度、結果の臨床的状態に続く。
【0155】
解剖時に、大腸の長さを記録した。
【0156】
大腸を長手方向に切断し、部分に分けて測定した:
− ホルマリン固定パラフィン切片における組織像
− ホモジネートにおけるMPO活性(好中球浸潤を指示する)
− 末端の大腸サンプルからのエクスビボサイトカイン放出(TNFα、IL10)。
【0157】
総合スコアを各パラメータのスコアを加算して3で割ることにより算出した。
【0158】
図13は疾患進行を示す。HSP70タンパク質での前処理は疾患の重症度の低下に帰着した。疾患の発症は上に記載された通りに計算されたクリニカルスコアに基づく。
【0159】
クリニカルスコアの測定
【表R】

【0160】
図14は体重減少を示す。HSP70処理は大腸炎誘導のために有意な体重減少の減少を導いた。最大体重減少は36日目に測定した。
【0161】
図15は大腸の長さを示す。大腸の長さは、HSP70タンパク質の前処理において減少の程度がより小さい。大腸の炎症は典型的に大腸の長さを減少する。
【0162】
図16はHSP70処理がIL10(インターロイキン10)放出を増加することを示す。末端の大腸サンプルを24時間に亘りインキュベートし、特異的ELISAを使用して上清中のIL10含有量を測定した。健康なBALB/cマウスにおける末端サンプルIL10放出は腸1g当たり450±328pgである。
【表S】

【0163】
例6 BALB/cマウスのTNBS大腸炎における完全長マイコバクテリアHSP70タンパク質またはマイコバクテリアおよびマウスHSP70相同物の抑制効果
目的:HSP70タンパク質またはペプチドの前処理がTNBS誘導大腸炎の減衰を導くか否かを試験すること。
【0164】
試験概要
雌性BALB/cマウス(Charles River-Germany)、実験開始時に10〜12週齢、を全長HSP70[配列番号55]またはHSP70ペプチド(配列番号3で示されるマイコバクテリアHSP70由来ペプチド「C1」および配列番号4のマウス相同物ペプチド「mC1a」)で胃内または鼻腔内の何れかで疾患誘導に先駆けて処理した。マウスは4週間の期間において4x30μgのHSP70を胃内に受けた。HSP70投与の10分前にダイズトリプシンインヒビター(SPTI)を投与することにより胃内容物を中性化した。
【0165】
鼻腔内処理は、4x30μgのHSP70または4x(33μgのペプチドmC1a(=マウスGrp75(hspa9)ペプチド261−240、VLRVINEPTAAALAY)と混合された67μgのペプチドC1(マイコバクテリウム tub. HSP70 ペプチド141−155、VLRIVNEPTAAALAY)で1週間の期間に亘り行った。
【0166】
次に、マウスを剪毛した腹部に100μLの50%エタノール中の1mgのTNBSを2日連続して塗布し、続いて6日間後に100μLの40%エタノール中の1mgのTNBSを直腸投与することにより感作した。マウスは3日後に解剖し、大腸の炎症を大腸の長さ、重さおよび形態に基づいて測定した。更に、大腸および流入領域リンパ節(CLN)におけるサイトカイン産生を測定した。
【0167】
処理群(n=10):
A 経口PBS、感作TNBS、チャレンジ(challenge)TNBS(コントロール群)
B 経口(完全長)HSP70、感作TNBS、チャレンジTNBS(経口群)
C 鼻腔内(完全長)HSP70、感作TNBS、チャレンジTNBS(鼻腔内群)
D 鼻腔内ペプチド、感作TNBS、チャレンジTNBS(ペプチド群、C1およびmC1a)。
【0168】
実験構成を図17に示す。
結果
体重における結果を図18に、IL10産生については図19に示す。
【0169】
結論
上の結果は、完全長HSP70タンパク質(経口または鼻腔内投与の何れも)並びにHSP70ペプチドの組み合わせ(鼻腔内投与)が予防的に(疾患誘導に先駆けて)TNBS誘導大腸炎における抑制効果を有することを示す。経口投与された完全長HSP70の抑制効果は尾側のリンパ節における上昇されたIL−10応答に関連する。
【0170】
例7 プロテオグリカン誘導性関節炎モデル
プロテオグリカン誘導性関節モデル(PGIA)は、リウマチ関節炎のマウスモデルであり、T細胞依存性であり、抗体媒介性モデルであると記述される。当該モデルにおいて、関節炎は合成アジュバントジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)中のヒトプロテオグリカン(hPG)の2回の注射により誘導される(Hanyecz A. et al., Achievement of a synergistic adjuvant effect on arthritis induction by activation of innate immunity and forcing the immune response toward the Th1 phenotype. Arthritis Rheum. 2004 50(5):1665-76を参照されたい)。
【0171】
完全なフロイントのアジュバント(complete Freund’s adjuvant;CFA)の代わりに、関節炎が合成アジュバントによる免疫化によって誘導されるので、CFAにおいて存在する微生物のHspの存在により誘導される免疫応答を干渉する役割が除外できる。ヒトとマウスの(自己)PGの間での交差反応性応答のために、慢性で再発性の関節炎が進展する。疾患の発生後、1足当たり1〜4のスケールで関節炎の重症度を厚さ、赤味および関節の変形の臨床評価によりスコアリングする。
【0172】
例8 プロテオグリカン誘導性関節炎におけるマイコバクテリア完全長HSP70タンパク質の抑制効果
プロトコール
チャールスリバー(Charles River)から繁殖を退いた得た10匹の雌性Balb/cマウスを無作為に2群に分けた。PGIAにおけるマイコバクテリアHSP70(配列番号55)による鼻腔内処理の効果を評価するために、10μLのPBS中の30μgのHsp70を疾患誘導前の−7、−5および−3日に投与した。PGIAは200μLのPBS中の400μgのhPGおよび2mgのDDAによる2回のi.p.注射により誘導した。その後、発生した関節炎のスコアを例7に記載される通りに臨床評価により評価した。
【0173】
実験スケジュールを図20Aに示す。
【0174】
A群:(PBS):
10μLのPBSによる鼻腔内処理(3x)
B群(Hsp70):
10μLのPBS中の30μgのHsp70による鼻腔内処理(3x)。
【0175】
結果を図21に示す。
【0176】
結果により、完全長HSP70が関節炎の進展を抑制できることを示す先の試験が確認された。
【0177】
例9 プロテオグリカン誘導性関節炎におけるHSP70由来ペプチドの抑制効果(第一の実験)
プロトコール
チャールスリバーから得た繁殖を退いた15匹の雌性Balb/cマウスを3群に無作為に分けた(1群当たり5匹のマウス)。PGIAにおいて、Hsp70由来ペプチド「B1」(配列番号1)およびC1(配列番号3)とmC1a(配列番号4)との混合物(ここでは「C1mix」と称する)による鼻腔内処理の効果を評価するために、10μLのPBS中の100μgのペプチドを疾患誘導前の−7、−5および−3日目に投与した。オボアルブミンペプチド323−339(pOva)をコントロールペプチドとして使用した。PGIAは200μLのPBS中の400μgのhPGおよび2mgのDDAの2回のi.p.注射により誘導した。その後、発生した関節炎スコアを臨床評価により評価した。
【0178】
実験スケジュールは図20Bに示す。
【0179】
A群:(pOva)
10μLのPBS中の100μgのpOvaによる鼻腔内処理(3x)
B群(B1):
10μLのPBS中の100μgのB1による鼻腔内処理(3x)
C群(C1):
10μLのPBS中の100μgのC1mixの混合物による鼻腔内処理(3x)。
【0180】
関節炎スコアリングの結果を図22、23に示す。
【0181】
マウスの屠殺の後、脾臓細胞を単離し、インビトロで72時間に亘り抗原で再刺激し、続いて18時間の3Hでのインキュベートにより再刺激した。刺激インデックス(CPM抗原/CPM培地刺激細胞)を算出し、インビボ処理群当たりで示した(図24を参照されたい)。
【0182】
抗原特異的増殖に加えて、IFNガンマおよびIL10産生をELISAにより測定した。インビトロで再刺激された脾臓細胞の上清を培養の72時間後に採取した(図25および26を参照されたい)。
【0183】
結果は、C1mix並びにB1ペプチドの両方での処理が疾患重症度の低下に帰着することを示す。当該ペプチドの鼻腔内投与はまた、これらのペプチドに対して、ペプチド特異的であり、且つ交差反応性のT細胞応答(増殖、IFNガンマおよびIL10産生)を誘導した。
【0184】
例10 プロテオグリカン誘導性関節炎におけるHSP70由来ペプチドの抑制効果(第二の実験)
チャールスリバーから得た繁殖を退いた12匹の雌性Balb/cマウスを無作為に2群に分けた(1群当たり6匹)。PGIAにおけるHsp70由来mC1aによる鼻腔内処理の効果を評価するために、10μLのPBS中の100μgのペプチドを疾患の誘導前の−14、−11、−7および−4日目に投与した。オボアルブミンペプチド(pOva)をコントロールペプチドとして使用した。PGIAは、200μLのPBS中の400μgのhPGおよび2mgのDDAによる2回のi.p.注射により誘導した。次に、発生した関節炎スコアを臨床評価により評価した。
【0185】
実験スケジュールは図20Cに示す。
【0186】
A群:(pOva)
10μLのPBS中の100μgのpOvaによる鼻腔内処理(4x)
B群(mC1a):
10μLのPBS中の100μgのmC1aによる鼻腔内処理(4x)。
【0187】
結果を図27に示す。
【0188】
結果は、ペプチドmC1aの投与が疾患活性を抑制したことを示す。
【0189】
例11 プロテオグリカン誘導性関節炎(PGIA)におけるHSP70由来ペプチドの抑制効果
チャールスリバーから得た繁殖を退いた18匹の雌性Balb/cマウスを無作為に3群に分けた(1群当たり6匹)。PGIAにおけるHsp70由来ペプチドC1とそのマウス相同物mC1aによる鼻腔内処理(i.n.)の効果を評価するために、10μLのPBS中の100μgのペプチドを疾患誘導前の−7、−5および−3日目に投与した(図28を参照されたい)。オボアルブミンペプチド(pOva)をコントロールペプチドとして使用した。PGIAは200μLのPBS中の300μのhPGおよび2mgのDDAによる2回のi.p.注射により誘導した。次に発生した関節炎スコアを臨床評価により評価した。
【0190】
A群:(pOva):10μLのPBS中の100μgのpOvaで鼻腔内処理
B群(C1):10μLのPBS中の100μgのC1で鼻腔内処理
C群(mC1a):10μLのPBS中の100μgのmC1aで鼻腔内処理。
【0191】
結果を図29に示す。結果は個々の当該ペプチドC1およびmC1aの鼻腔内投与が疾患活性の有意な減少を引き起こしたことを示す。
【0192】
例12 ヒトPBMCおよびSFMCにおけるペプチド特異的応答
ペプチド特異的応答を健康なコントロールの血液またはJIAおよびRA患者の関節液から得た単核細胞において検討した。当該患者は、ユトレヒト大学病院(the University Medical Center Utrecht (Utrecht, The Netherlands))のリウマチ学&臨床免疫学および小児科部の外来患者クリニックに来院していた。RA患者はRAのためのリウマチ学米国大学基準の診断基準を満たした(ref)。細胞は、へパリン処理された血液または関節液のフィコール(Pharmacia, Uppsala, Sweden)密度傾斜遠心により単離され、2mmol/Lのグルタミン、100U/mLのペニシリンおよびストレプトマイシン(Gibco BRL, Gaithersburg, MD USA)および10%のAB陽性熱非働化ヒト血清(Sanquin Blood Bank, Utrecht, the Netherlands)を追加されたRPMI1640中で、96ウェル丸底プレート(Nunc, Roskilde, Denmark)において1ウェル当たり200μL中の2*10細胞個で培養した。培養物を、96時間、37℃で100%の相対湿度の5%COにおいて20μg/mLでペプチドによりトリプリケートで刺激した。PBMCのペプチド特異的増殖を測定するために、少なくとも16時間、1μC1(37kBq)[H]チミジンを各ウェルに添加して取り込みを測定した。データは、ペプチドなしで培養された細胞の平均CPMにより割った、ペプチドと培養された細胞の平均CPMとして算出した刺激インデックスとして表す。
【0193】
SFMCのペプチド特異的応答を、細胞内染色とFACS解析により測定した。従って、細胞をPBMCのために記載されたペプチドの存在において培養した。96時間後、100μLの培地を新鮮な培地で置き換え、40IU/mLのIL−2を添加した。8日後、細胞をスパンダウン(spun down)し、培地を吸引し、同じドナーの新鮮な照射されたAPCを含む200μLの新しい培地添加した(3500radでの7.5*10照射)。6時間に亘り、細胞を当該ペプチド並びに共刺激性のmAbsCD28およびCD49(各0.5μg/mL)の追加のあり、またはなしで37℃で培養した。少なくとも4時間において、ゴルジストップ(Golgistop (BD Biosciences))を添加した。採取された細胞を洗浄し、先に(ref)記載された通りに、抗CD3−ペリジニン−クロロフィル−タンパク質複合体(PerCP)、抗CD4アロフィコシアニン(APC)および抗CD69フルオレッセインイソチオシアネート(FITC)で表面染色し、続いてサイトフィックス/サイトパーム溶液(Cytofix/cytoperm solution (BD Biosciences))で固定し、続いてIL−10、IFNγまたはTNFαの何れかに対するmAbsに複合されたフィコエリスリン(phycoerythrin (PE))において細胞内染色を行った。全ての抗体はベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)から入手した。データはCD3CD4個体群の陽性細胞の%として表す。
【0194】
結果 ヒトPBMCおよびSFMCにおける(m)C1ペプチド特異的応答
ヒトHSP特異的T細胞において、応答は疾患の良性形成と関連すると報告されている。更にHsp60を認識するCD4T細胞は、炎症性の関節において示されている。Hsp特異的T細胞の炎症部位への遊走がそれらの適切な機能のために恐らく重要である。C1領域では、mC1aおよびmC1bペプチドはヒトペプチドと完全に同一である。この理由から、ヒトにおける(m)C1特異的T細胞応答が調査された。最初に、PBMCを健康なコントロールから単離し、ペプチド特異的増殖が[H]チミジン取り込みにより測定された。mC1bペプチドでの刺激は、ヒトHLAにおいて提示され且つヒトT細胞により認識されることが可能であることが示されているA5コントロールペプチドに比較して有意に増殖を増大した。次に、(m)C1ペプチドが炎症状態下で関節において局所的に認識されるか否かを試験するために、関節液の単核細胞(SFMC)を単離し、材料および方法において記載した通りに当該ペプチドで刺激した。8日目にペプチドを含む新しい培地と新鮮な照射されたAPCを更なる6時間の刺激のために添加し、次に、細胞内染色とFACS解析によりIL−10、IFNγおよびTNFαのペプチド誘導性産生を分析した。mC1bによる健康なコントロールの刺激において得られた増殖データと一致して、mC1bは、CD3CD4個体群におけるIL−10、IFNγおよびTNFαの産生並びにCD69の表面発現を増大した。また、C1ペプチドによる刺激はCD69およびサイトカイン発現を増大した。コントロールとの対比において、予期した通りA5はペプチド特異的応答を誘導しなかった。要約すると、これによりC1および特にmC1bペプチドが、健康なコントロールおよび炎症性の関節の両方において、ヒトT細胞により認識されることが示され、それによって当該ペプチドのヒトにおける使用の可能性が支持される。
【0195】
結果を図30に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱ショックファミリー70タンパク質(HSP70タンパク質)に由来するペプチドであって、配列番号3−5、1−2、10および17−47または細菌性、植物、酵母またはその動物性相同体の1と同一な少なくとも70%の配列を有するアミノ酸配列フラグメントを含むペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドであって、そのアミノ酸配列が配列番号56−132の少なくとも12の連続したアミノ酸と同一な少なくとも70%の配列を有するペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のペプチドであって、前記配列の同一性が少なくとも80%であるペプチド。
【請求項4】
11〜30アミノ酸、好ましくは12〜25未満のアミノ酸、最も好ましくは15〜19未満のアミノ酸の長さである請求項1〜3の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号24−30および56−72の何れか1からの少なくとも12、好ましくは少なくとも15の連続したアミノ酸を含む請求項3に記載のペプチド。
【請求項6】
配列番号3−5のアミノ酸配列の1、または配列番号57、59−62、65−69の対応する15アミノ酸配列の1または配列番号3のアミノ酸を含み、3つまでのアミノ酸が配列番号56−71の対応するアミノ酸により交換されている請求項1〜5の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のペプチドであって、前記HSP70が細菌性、好ましくはマイコバクテリアHSP70であるペプチド。
【請求項8】
先行する請求項の何れか1項に記載の少なくとも1の哺乳類のHSP70ペプチドと、請求項1〜7の何れか1項に記載の少なくとも1の細菌性HSP70ペプチドを含む組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、当該哺乳類のペプチドおよび細菌性のペプチドが少なくとも70%のアミノ酸配列の同一性を有する組成物。
【請求項10】
炎症性腸疾患(IBD)の治療および/または予防において使用するための請求項1〜7の何れか1項に記載のペプチド、または請求項8若しくは9に記載の組成物であって、当該IBDがクローン病、肉芽腫性大腸炎、リンパ細胞大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎、潰瘍性大腸炎およびセリアック病から選択されるペプチドまたは組成物。
【請求項11】
哺乳類における自己免疫疾患の治療および/または予防において使用するための請求項1〜7の何れか1項に記載のペプチドまたは請求項8若しくは9に記載の組成物であって、前記自己免疫疾患が関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症および重症筋無力症からなる群より選択されるペプチドまたは組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のペプチドまたは組成物であって、当該自己免疫疾患が関節リウマチ、乾癬性関節炎および若年性関節炎(juvenile arthritis)からなる群より選択されるペプチドまたは組成物。
【請求項13】
請求項1〜5の何れか1項に記載のペプチドまたは請求項6若しくは7に記載の組成物を含むIBDまたは自己免疫疾患の治療または予防のための薬学的組成物。
【請求項14】
炎症性疾患または自己免疫疾患の治療および/または予防的治療および/または予防のために適切なHSP70タンパク質のフラグメントを同定する方法であって、以下の工程を含む方法;
(a)1または1以上のHSP70由来のペプチド、好ましくは細菌、植物、酵母および/または哺乳類のHSP70タンパク質からのペプチドを用意すること;および
(b)当該HSP70由来のペプチド(単数または複数)がMHCクラスII分子に結合できるか否かを任意に決定すること;
(c)交差反応性試験法において哺乳類の相同的な自己ペプチドと交差反応性であるペプチド特異的なT細胞を誘導する当該ペプチド(単数または複数)の能力を任意に試験し、交差反応性を示すペプチドを選択すること;および
(d)1または1以上の当該ペプチドを含むか、または1または1以上の当該ペプチドからなる組成物をIBDまたは自己免疫疾患の動物モデルに投与して、インビボの保護活性を決定し、処理動物と対照動物との間で疾患の進展および/または症状を比較すること;および
(e)工程(d)においてインビボ活性を示す1または1以上の当該ペプチドをヒトまたは飼い慣らされた動物、例えば、家畜若しくはペット(companion animals)におけるIBDまたは自己免疫疾患を治療および/または予防するための医薬を製造するために使用すること。
【請求項15】
配列番号55と同一な少なくとも50%のアミノ酸配列を含み、炎症性腸疾患(IBD)の治療および/または予防のための完全長熱ショックファミリー70タンパク質(HSP70タンパク質)および/またはそのフラグメント。
【請求項16】
請求項15に記載のタンパク質であって、当該IBDが潰瘍性大腸炎であり、当該完全長HSP70タンパク質が非ヒトHSP70タンパク質であるタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18a】
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【図18b】
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【図19】
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【図20a】
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【図20b】
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【図20c】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29a】
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【図29b】
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【図30a】
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【図30b】
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【公表番号】特表2010−532785(P2010−532785A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515990(P2010−515990)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050458
【国際公開番号】WO2009/008719
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(510007182)ウニベルジテイト・ウトレヒト・ホールディング・ビー.ブイ. (1)
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Utrecht Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Alexander Numan building, room 00.36, Yalelaan 40, 3584 CM Utrecht, The Netherlands
【Fターム(参考)】