説明

炎症性腸疾患の動物モデル

本発明は、炎症性腸疾患の動物モデルに関する。このモデルは、機能的なmdr1a遺伝子産物を発現していないか、またはmdr1a遺伝子産物が阻害されている哺乳動物に基づいており、例えば塩素処理した飲料水を与えられるなど高塩素濃度に曝される場合に炎症性腸疾患を発現する。より具体的に言えば、該哺乳動物は、mdr1a欠損トランスジェニックマウスである。また本発明には、炎症性腸疾患の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法、ならびに、例えば、炎症性腸疾患を治療するための新たな化合物に対する新たな標的を同定するための方法が、含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、炎症性腸疾患の動物モデルに関する。このモデルは、機能的なmdr1a遺伝子産物を発現していないか、またはmdr1a遺伝子産物が阻害されている哺乳動物に基づいており、高塩素濃度に曝される場合に炎症性腸疾患を発現する。より具体的に言えば、該哺乳動物は、mdr1a欠損トランスジェニックマウスである。
【0002】
このモデルは、炎症性腸疾患の発病メカニズムの特徴付け、ならびに診断、療法及び療法化合物の開発を促進する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
炎症性腸疾患(IBD)は、慢性的な、再燃及び緩解する、原因不明の炎症状態であり、生涯を通じて両性の個体を苦しめる。疾患は、二つの重複する状態である、潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)によって、臨床的に特徴付けられる。IBDを有するヒトにおける臨床試験及び実験室での試験によって、遺伝的及び環境的因子が、これらの障害の病因において相互に関連した役割を果たすことが示唆された。より最近の免疫学的試験によって、IBDが、正常な腸管内細菌叢に存在する1またはそれより多くの未知の抗原に対する粘膜免疫応答の調節障害による可能性があることが示唆されている。
【0004】
炎症性腸疾患の病因は、長年の多くの研究にもかかわらず、依然として不明である。しかしながら、潜在的な疾患メカニズムへのいくらかの洞察が、種々の動物モデルから得られた。例えば、IL−2(Sadlack B.ら(1993年)Cell 75,253−261)、IL−10(Kuhn R.ら(1993年)Cell 75,263−274)及びTGF−β(Shull MM.ら(1992年)Nature 359,693−699)を含むいくつかのサイトカインをコードする遺伝子が欠損したげっ歯類は、自然発症的な腸炎を発現する。Gαi2(Rudolph Uら(1995年)Nat Genet 10,143−150)、TCRα(Mombaerts P.ら(1993年)Cell 75,274−282)及びTCRβなどの、T細胞の機能に関与するタンパク質の選択的遺伝子欠失もまた、結果として自然発症的な腸炎を生じる。これらの試験は、IBDにおいて見られる持続的な炎症が、腸管内腔の正常な構成物への免疫学的応答性の増強または異常、あるいは全体的な自己免疫の調節障害及び不均衡の結果であるとの仮説に寄与した。
【0005】
腸内菌叢もまた、腸炎の病因における重要な共同因子である可能性がある。例えば、いくつかのげっ歯類モデルにおいて、動物が無菌環境中に維持されるならば、自然発症的な大腸炎を予防することは可能である(Dianda Lら(1997年)Am J Pathol 150,91−97,Taurog JDら(1994年)J Exp Med 180,2359−2364)。他の試験は、腸炎が経口抗生物質での治療に成功することが可能なことを示した(Panwala CMら(1998年)J Immunol 161,5733−5744)。加えて、IBDを有する患者は、自身の自己常在菌叢に対して有害かつ増強された反応性を有する(MacDonald TT.(1995年)Clin Exp Immunol 102,445−447)。腸内菌叢が腸炎の病因において重要であるとの仮説に対する支持は、トレフォイル因子(Mashimo Hら(1996年)Science 274,262−265)またはN−カドヘリン(Hermiston ML及びGordon JI.(1995年)Science 270,1203−1207)の遺伝子を欠失させることによって誘導された、上皮性関門細胞機能の欠損したマウスを用いた試験から、さらに導かれた。これらのマウスもまた、胃腸管における炎症の証拠を有する。腸内菌叢に加えて、食物の構成物が、上皮細胞関門の欠損したげっ歯類において認められる炎症応答に寄与するとの仮説を立てることは、妥当であるが、これは、食物の構成物が、無傷の上皮関門を有する動物においては到達できないであろう腸管内腔の区域に到達可能であるだろうとの理由による。
【0006】
腸管上皮細胞(Croop JMら(1989年)Mol Cell Biol 9(3),1346−1350;Gottessman MM及びPastan I.(1993年)Annu Rev Biochem 62,385−427)、及びいくつかのリンパ球サブセット(Bommhardt Uら(1994年)Eur J Immunol 24,2974−2981)もまた、多剤耐性(mdr)遺伝子を発現する。mdr遺伝子は、薬物排出ポンプであるP−糖タンパク質をコードする。このポンプは多くの組織の形質膜中に局在し、そして宿主を潜在的に有害な化合物から保護するのに果たす本来の役割を有する。げっ歯類において三つのmdr1遺伝子(mdr1a、mdr1b及びmdr2)、そしてヒトにおいては二つ(mdr1及びmdr2)が、同定された。マウスにおいて、mdr1a P−糖タンパク質は血液−脳及び血液−精巣関門にも発現し、そしてmdr1b P−糖タンパク質は副腎、妊娠子宮及び卵巣に発現する(Bommhardt Uら(1994年)Eur J Immunol 24,2974−2981)。mdr1a及びmdr1b P−糖タンパク質はともに、肝臓、腎臓、脾臓及び心臓に発現する。
【0007】
1994年に、mdr1a遺伝子を標的として欠失させたマウスが作出された。このマウスは特定の薬物に対する感受性が増加したが、しかしいかなる構成的な異常も有するようには見えなかった(Schinkel AHら(1994年)Cell 77,491−502)。mdr1a−/−マウスは、化合物の吸収におけるP−糖タンパク質の関与、化合物の脳透過性、及び潜在的にP−糖タンパク質の基質である化合物の肝胆汁排泄を評価するための試験に、日常的に用いられる。興味深いことに、最近の試験によって、mdr1a−/−マウスのおよそ25%が、組織学的にヒトIBDと同様の慢性炎症を自然発症的に発現したことが報告された(Panwala CMら(1998年)J Immunol 161,5733−5744)。我々は、薬物代謝試験において用いられているmdr1a−/−マウスにおいて、同様な臨床症状及び病変を観察し、そして予備データを報告した(Banner KHら(2001年)Gastroenterology 120,A693)。具体的に言えば、臨床症状には急性体重減少及び軟「粘性」便が含まれ、組織病理学的解析によって著しく広汎性の大腸炎が示された。しかしながら、炎症性腸疾患の症状を発現している動物が非常に少なかったため、これは、この疾患に対して日常的に用いることが可能な信頼できるモデルではない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
薬物代謝試験に対してこのトランスジェニックマウス系統を用いた我々の仕事において、我々は、飲料水における細菌数を塩素の添加を介して低下させることによって、このマウス系統における炎症性腸疾患様症状の発生率を低下させることを試みた。しかしながら、驚くべきことに、我々は、塩素処理した水を飲んでいた動物の100%が、ヒトにおける炎症性腸疾患の症状と非常に似た炎症性疾患様症状を発現したことから、mdr1a−/−マウスの飲料水への塩素添加が、疾患の発生率の有意な増加をもたらすことを見いだした。このことは極めて予期せぬことであったが、しかし、本発明である、組織学的にヒト疾患に非常に似た炎症性腸疾患の、最初の信頼でき再現可能な動物モデルをもたらした。
【0009】
炎症性腸疾患を患う患者において認められるような疾患と非常に同様な特徴を示す、強固でそして信頼できる動物モデルが、この疾患について開発されたからには、疾患の病因及び進行を研究し、そして、疾患の原因を除去するにせよ、または疾患の進行を少なくとも止めるかもしくは遅らせるにせよ、または現在利用可能な治療よりも効果的に症状を治療するにせよ、疾患の治療に有益であろう化合物を開発するための新たな標的を同定するために、該モデルを用いることが可能となる。
発明の側面
本発明は、非常に高発生率の大腸炎(ヒトIBDと非常に似た症状及び組織像を伴う)が、mdr1a−/−マウスにおいて、塩素処理した飲料水を供給される場合に認められるという、驚くべき知見に基づく。この知見は、IBDの強固な動物モデルの開発をもたらし、このことは、化合物をIBDの治療、治癒または予防におけるその有効性について試験するほかに、IBDの病因に関与している可能性のある候補遺伝子を同定するのにも有用である。
【0010】
したがって、本発明の一つの側面は、哺乳動物においてIBD様症状を誘導する方法であって、ここで哺乳動物は、(i)機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない非ヒト哺乳動物であり、そして(ii)高塩素濃度に曝される。本発明の別の側面は、哺乳動物を、mdr1a遺伝子産物の阻害剤または腸管におけるmdr1a遺伝子産物の発現を阻害する化合物で処理し、そして高塩素濃度に曝す、哺乳動物においてIBD様症状を誘導する方法である。好ましくは、高塩素濃度は、塩素処理した飲料水の供給によって哺乳動物に与えられる。塩素処理した飲料水は、1ppmを超える、好ましくは3ppmを超える、最も好ましくは5ppmまたはそれを超える塩素濃度を有する。哺乳動物を高塩素濃度に曝す他の方法には、食糧供給に塩素を加えること、動物に塩素の錠剤を与えること、あるいは、塩素漂白した哺乳動物用の床敷きを用いること、動物を漂白剤に曝露すること等が含まれてもよい。好ましい側面において、哺乳動物は、機能的mdr1a遺伝子を発現していない、トランスジェニックげっ歯類であり、好ましくはトランスジェニックマウスである。本発明の好ましい側面は、50%を超える、好ましくは70%を超える、さらに好ましくは80%を超える、さらにいっそう好ましくは90%を超える、そして最も好ましくは100%の動物がIBD様症状を示す、上記のような方法である。
【0011】
該方法にて用いられる好ましい哺乳動物は、トランスジェニックmdr1a−/−ノックアウトマウスであり、さらにいっそう好ましくはトランスジェニックマウス系統FVB.129P2−Pgy3tm1N7である。しかしながら、mdr1a遺伝子産物を発現していない任意の哺乳動物を用いてもよい。これには、mdr1a遺伝子の両方の対立遺伝子またはそのプロモーターにおける自然発生的な変異を伴う哺乳動物が含まれてもよい。これにはまた、哺乳動物においてmdr1a遺伝子の発現を阻害する化合物で処理された野生型哺乳動物も含まれてよく、該化合物とは、例えば、cAMP依存性プロテインキナーゼ阻害剤、療法量以下の用量のマイトマイシンC、あるいは、選択した哺乳動物におけるmdr1aオルソログに特異的な、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、siRNA(短い干渉RNA、short interfering RNA)、または、mdr1a遺伝子もしくはmRNAの転写または翻訳に干渉する他の分子である。あるいは、機能的mdr1a遺伝子産物を発現している選択した哺乳動物は、例えば、哺乳動物においてmdr1a遺伝子産物を効果的に阻害する化合物で処理することによって、例えば、MDR阻害剤として同定された化合物(単数または複数)で処理することによって、あるいは、mdr1aに特異的な遮断抗体によって、mdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されるならば、モデルにおいて用いてもよい。MDRを阻害するための種々の化合物及びメカニズムについて、最近概説された(C.Avendano及びJ.C.Menendez(2002年)Curr.Med.Chem.9,159−193)。
【0012】
本発明の別の側面は、候補化合物を、IBDの症状の改善におけるその有効性についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) ビヒクル中の候補化合物を、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に投与すること;
(b) 候補化合物を含まないビヒクルを、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物に投与すること;及び、
(c) (a)及び(b)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状を比較すること、ここで、(b)の哺乳動物(単数または複数)と比較した、(a)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の減少は、化合物の有効性を示す;
を含む、前記方法である。
【0013】
本発明のさらなる側面は、候補化合物を、IBDの発現の予防または遅延におけるその有効性についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) ビヒクル中の候補化合物を、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(b) 候補化合物を含まないビヒクルを、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(c) (a)及び(b)の哺乳動物(単数または複数)を、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝すこと;及び、
(d) 動物におけるIBDの任意の症状の発症を比較すること、ここで、候補化合物を含まないビヒクルで治療された哺乳動物(単数または複数)と比較した、ビヒクル中の候補化合物で治療された哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の発症の遅延または予防は、化合物の有効性を示す;
を含む、前記方法である。
【0014】
本発明のさらなる別の側面は、IBDの病因に関与する可能性があり、それゆえにIBDの治療用薬物開発に対する新規の標的である可能性のある、遺伝子についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝すこと;
(b) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理していない飲料水のみを供給し、かつ他に高塩素濃度を供給しないことによって、高塩素濃度に曝さないこと;
(c) RNA調製物を、(a)及び(b)の双方の哺乳動物から得た腸より、所望の時間間隔の後に作ること;及び、
(d) RNA試料を比較すること、ここで、これらの試料において差を示すRNAは、IBDの病因に関わる可能性のある遺伝子を示す;
を含む、前記方法である。
【0015】
本発明のさらなる側面は、IBDの病因に関与する可能性のある遺伝子についてスクリーニングする方法であって、以下の工程;
(a) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝すこと;
(b) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現している第二の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理した飲料水として供給される、高塩素濃度に曝すこと;
(c) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第三の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理していない飲料水のみを供給し、かつ他に高塩素濃度を供給しないことによって、高塩素濃度に曝さないこと;
(d) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現している第四の非ヒト哺乳動物を、好ましくは塩素処理していない飲料水のみを供給し、かつ他に高塩素濃度を供給しないことによって、高塩素濃度に曝さないこと;
(e) RNA調製物を、(a)〜(d)のそれぞれの哺乳動物から得た腸より、所望の時間間隔の後に作ること;及び、
(f) RNA試料を比較すること、ここで、(a)と(c)の試料間で差を示すが、しかし(b)と(d)の試料間では同様な差を示さないRNAは、IBDの病因に関わる可能性のある遺伝子を示す;
を含む、前記方法である。
【0016】
上記のRNA試料の比較は、発現プロファイリングによって、好ましくはディファレンシャル・ディスプレイPCRまたはサブトラクティブ・ハイブリダイゼーション法によって、さらにいっそう好ましくはマイクロアレイ解析によって、実施することが可能である。
【0017】
上記の方法において用いられる好ましい哺乳動物は、トランスジェニックmdr1a−/−ノックアウトマウスであり、さらにいっそう好ましくはトランスジェニックマウス系統FVB.129P2−Pgy3tm1N7である。
【0018】
本発明の別の側面は、上記のように同定された任意の候補遺伝子のヒトホモログを同定することである。これは、哺乳動物の候補遺伝子をプローブとして用いて、適切なヒト腸管組織由来のヒトcDNAライブラリをスクリーニングした後に、陽性クローンの配列解析を行うことによって、実施することが可能であり;また、例えばNCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/GenbankOverview.html)上で利用可能なGenbank(Nucl Acids Res.30,17−20(2002年))などのデータベースを、哺乳動物の候補遺伝子の配列を用いて検索することによっても行うことが可能である。他の有用なデータベースは、同様に国際ヌクレオチド配列データベース協力の一部であるEMBL及びDDBJである。これらの方法及びデータベースは、当業者に周知である。データベースを検索するための好ましい方法は、Blast2(Altschul,S.F.ら(1997年)Nucl.Acids Res.25,3389−3402)であろうが、しかし、Fastaなどの当業者に周知の他の方法を用いることも可能である。検索に用いられる哺乳動物配列に最も類似したヒト配列は、たいていの場合は候補遺伝子のヒトホモログであろう。次いで、当業者は、候補遺伝子のヒトホモログの全長cDNAを、例えばcDNAライブラリのスクリーニングまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によってクローニングし、そして、例えばSambrookら編集(1989年)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバー研究所プレス、ニューヨーク、ニューヨーク州、米国、またはAusubelら編集(1990年)Current Protocols in Molecular Biology,ジョンワイリー・アンド・サンズ・Inc.、またはその改訂版、あるいは他の同様な一般的な教科書において記載されているような方法に従って、適切な発現系にてそれを発現させることが、可能であろう。
【0019】
本発明のさらなる側面は、組成物を調製する方法であって、以下;
(a) 以下の工程:
(i) ビヒクル中の候補化合物を、好ましくは塩素処理した飲料水を供給することによって高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に投与すること;
(ii) 候補化合物を含まないビヒクルを、好ましくは塩素処理した飲料水を供給することによって高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第二のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与すること;及び、
(iii) (i)及び(ii)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状を比較すること、ここで、(ii)の哺乳動物(単数または複数)と比較した、(i)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の減少は、化合物の有効性を示す;
を含む方法によって、IBDの症状を改善することが可能な化合物を同定すること;ならびに、
(b) 前記化合物をキャリアーと混合すること;
を含む、前記方法である。
【0020】
さらに、本発明のさらなる側面は、組成物を調製する方法であって、以下:
(a) 以下の工程:
(i) ビヒクル中の候補化合物を、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(ii) 候補化合物を含まないビヒクルを、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(iii) (i)及び(ii)の哺乳動物(単数または複数)を、好ましくは塩素処理した飲料水を供給することによって、高塩素濃度に曝すこと;及び、
(iv) 動物におけるIBDの任意の症状の発症を比較すること、ここで、候補化合物を含まないビヒクルで治療された哺乳動物(単数または複数)と比較した、ビヒクル中の候補化合物で治療された哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の発症の遅延または予防は、化合物の有効性を示す;
を含む方法によって、IBDの発現を予防または遅延することが可能な化合物を同定すること;ならびに、
(b) 前記化合物をキャリアーと混合すること;
を含む、前記方法である。
【実施例】
【0021】
実施例は、例示を目的として含まれており、かつ本発明の範囲を限定することを目的としない。参照したがしかし本明細書にて明確に記載されていない一般的な方法は、科学文献にて報告されており、そして当業者に周知である。
実施例1:IBDの動物モデルとしてのmdr1a−/−マウス
材料及び方法
動物
40例の雄性mdr1a−/−マウス(FVB.129P2−Pgy3tm1N7系統)及び、同じ遺伝的背景(FVB;FVB/NTac系統)の6例の雄性対照マウス(mdr1a+/+)(6〜8週齢)を、タコニック・ファームズ社(米国)より入手した。マウスを、加圧滅菌したバンティン・アンド・キングマン社(英国)のビー・ケイ床敷きを含有する硬い底のケージに、1例ずつ入れ、Envirodri社の、脱臭化学物質を含まない白紙でできている巣作り用の紙を、質の向上を提供するために加えた。マウスには、ラット及びマウス用第1番維持食餌(RMI(E)SQC)(スペシャル・ダイエット・サービスイズ社、ウィザム、エセックス州、英国)を、ファイザー社に到着次第、食べさせた。本試験のために、我々は、容器入りの水及びKlortab(5ppm)(アローマイト・バイオサイエンスイズ社、英国)を、水に病原菌の拡散を生じる可能性を除去するために、そして一定レベルの塩素を伴う水の供給を提供するために、用いた。水は週2回替えた。本試験は、英国の法律にしたがって実施され、そしてファイザー社の内部倫理審査過程によって承認された。
試験デザイン及び投薬
試験の開始に先立ち、すべてのマウス(mdr1a−/− 40例及びmdr1a+/+ 6例)を14日間馴化させた。パイロット試験(Banner,K.H.ら(2001年)Gastroenterology 120,A693)より、体重及び軟便スコアは、胃腸炎を最も予測するものであることが見いだされ、それゆえに、本試験においてこれらの臨床徴候をモニターした。異なる臨床徴候に対して異なる重みづけをしたスコアリングシステムを考案した(表1)。その意図は、スコアに大腸炎の重症度を反映させことであった。
【0022】
【表1】

【0023】
馴化期間の後に、軽度〜中等度(軽度の疾患(0〜3)を、体重増加なしまたは軽度の体重減少(<0.5g)かつ他の症状なしと定義し、一方、中等度の疾患(4〜10)を、前群と同様な症状であるがしかし軟便またはより大きな体重減少(>20%)を伴うものと定義した)の疾患スコアのmdr1a−/−マウスを4群に無作為化し、そしてビヒクル(水、n=8)またはデキサメタゾン(0.05mg/kg、n=9;0.3mg/kg、n=8、または2mg/kg、n=8)を1日1回7日間皮下(s.c.)投与した。6例のmdr1a+/+マウスには、ビヒクル(水)を投与した。試験期間中、0.3mg/kgデキサメタゾン治療群のマウス1例が死亡して発見され、そして2例を屠殺した(ビヒクル治療群1例、及び0.05mg/kgデキサメタゾン治療群1例)。試験終了時に、すべてのマウスを屠殺した。各マウスの結腸及び盲腸を取り出し、そして秤量した。次いで、各結腸を、一方の切片を組織学的解析用に、そして他方の切片をサイトカイン測定用に処理可能なように、縦方向に分割した(以下を参照されたい)。
サイトカイン及びタンパク質の測定
各個々の結腸試料を、氷冷クレブス液(シグマ・ケミカル・Co.、英国)3ml中で、4℃にて30秒間、3回ホモジナイズした。試料を35,000g(4℃)にて15分間遠心分離し、そして上清を除去した。次いで、IL−8及びIFN−γレベルを、ELISAキット(R&Dシステムズ社、英国)で測定した。これらのキットの検出限界は、31.2〜2000pg/mlであった。上清中のタンパク質レベルを、Bradfordによって記載された方法(Bradford,M.(1976年)Analyt.Biochem.72,248−254)を用いて、ブラッドフォード試薬(シグマ社)を利用して定量した。
組織学的解析
動物を剖検した。結腸/直腸及び盲腸を秤量し、そして結腸/直腸、盲腸、回腸、空腸、十二指腸、胃、腸間膜リンパ節、胸腺、腎臓、脾臓を採取し、そして10%緩衝ホルマリン溶液中で固定化した。結腸/直腸及び回腸を、その縦方向の切片全体を1つのスライドで評価するために、「スイスロール」技術(Moolenbeek,C.及びRuitenberg E.J.(1981年)Lab Anim 15(1):57−9)にて調製した。組織を、自動組織処理装置にて所定の手順で処理し、パラフィン中に埋め込み、4〜6μmに切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)で染色し、そして組織学的検査を行った。大腸炎は、盲検化された観察者によって、所見の程度及び粘膜変化の重症度に応じて、0(有意な所見なし)〜4(重度の増殖性及び潰瘍性炎症)(表2)に、類別された。加えて、全結腸/直腸の粘膜の高さを、標準的な相互マイクロコンピュータ支援の画像解析システムを用いて、100μm毎に評価した。
【0024】
【表2】

【0025】
大腸炎は、結腸の近位領域内で始まるように思われたが、ここがスコア1及び2において影響を受ける主な領域であったためである。変化の重症度が増加した場合(スコア3及び4)、病変は、結腸の中位及び遠位領域ならびに直腸においてより顕著であった。大腸炎は、固有層内の炎症細胞である、主にマクロファージ、リンパ球及び多核好中球の浸潤、ならびに粘膜肥厚によって、組織学的に特徴付けられた。腺窩の長さの増加、好塩基球増加及び腸上皮細胞の有糸分裂数の増加、杯細胞の減少、ならびに腸浮腫が認められた。スコア2ではほんの僅かの侵食がみられたが、一方、スコア3からは、正常構造の閉塞、表在性貫壁性潰瘍及び腺窩膿瘍がみられた。
病原体の解析
ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)、ヘリコバクター・ビリス(Helicobacter bilis)及びヘリコバクター・ローデンティウム(Helicobacter rodentium)などの多くの病原体が、げっ歯類における胃腸炎の発現に関連している。したがって、三つの別個の技術を、糞便及び結腸試料におけるすべての公知のネズミ病原菌の有無を確認するのに用いた。二名の独立した共同研究者が、PCRを用いて糞便試料を解析した。結腸試料を、Warthin Starry及びFite Faraco染色を用いた、電子顕微鏡観察及び組織学によって解析した。血清学的及び細菌学的試験もまた、FELASA推奨(FELASA作業部会の報告書(1996年)Laboratory Animals 30,193−208、及び(1994年)Laboratory Animals 28;1−12)にしたがって実施した。
統計学的解析
データを、試験を完了した29例のmdr1a−/−及び6例のmdr1a+/+マウスについて解析した。ビヒクル治療mdr1a−/−マウスとmdr1a+/+マウスとの差を、二標本t−検定(IFN−γ、馴化期間中の成長率及び最終体重に関しては等分散とみなし、そして、IL−8、結腸重量、盲腸重量、体重に対する結腸重量の割合、体重に対する盲腸重量の割合及び試験期間中の成長率に関しては不等分散とみなす)を用いて解析した。デキサメタゾン治療の影響を、処分群を考慮した分散分析(ANOVA)を用いて解析した。治療効果が有意であることが見いだされた場合には、次いで95%信頼区間を算出した。
【0026】
大腸炎重症度スコアは、0〜4のスケールに類別された順序カテゴリー指標である。この種類のデータは、一般に比例オッズモデルを用いて解析するが、しかし標本の大きさが小さいためこれは適切でなく、そしてANOVAを用いた。これは正規分散データを有するとの仮定を作るが、このことは、我々がカテゴリーデータを有しているにもかかわらず、およそ当てはまるようであった。すべての解析を、ウィンドウズ用Genstat 5 リリース4.2を用いて実施した。
結果
大腸炎の臨床徴候
成長率
馴化期間中の成長率に、mdr1a−/−マウスとmdr1a+/+マウスとの間で統計学的に有意な差はなかった(0.265g/日 vs.0.294g/日)。しかしながら、試験期間中は、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスとmdr1a+/+マウスとの間で統計学的に有意な差があった。mdr1a+/+マウスの体重は増え続けたが、一方、mdr1a−/−マウスの体重は減少した(表3)。加えて、試験終了時に、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスは、mdr1a+/+マウスよりも有意に軽かった(表3)。デキサメタゾン治療は、用いたいずれの用量においても、成長率にも最終体重にも有意な影響がなかった(表3)。
【0027】
【表3】

【0028】
臨床スコア
デキサメタゾンは、全体的な大腸炎の臨床スコアに影響しなかった(上記の表3を参照されたい)。
大腸炎の肉眼的証拠
結腸及び盲腸重量
結腸重量(691±69 vs.325±26mg)及び盲腸重量(211±12 vs.165±6mg)の有意な増加が、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスにおいて、mdr1a+/+マウスと対比して認められた。体重に対する結腸重量の割合(図1、平均±標準誤差を示す。白抜きのバーはmdr1a+/+マウスを表し、そして黒塗りのバーはmdr1a−/−マウスを表す。0mg/kg mdr1a−/−群と比較して、統計学的に有意な差(p<0.05))及び体重に対する盲腸重量の割合(図2;平均±標準誤差を示す。白抜きのバーはmdr1a+/+マウスを表し、そして黒塗りのバーはmdr1a−/−マウスを表す。0mg/kg mdr1a−/−群と比較して、統計学的に有意な差(p<0.05)。**0mg/kg mdr1a−/−群と比較して、統計学的に有意な差(p<0.01)。)もまた、mdr1a−/−マウスにおいて、mdr1a+/+マウスと対比して有意に高く、それぞれ、3.0±0.31 vs.1.2±0.08及び0.9±0.05 vs.0.6±0.02であった。デキサメタゾン(2mg/kg、皮下、1日1回7日間)は、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスと対比して、結腸絶対重量(456±48 vs.691±52mg;P<0.01)及び体重に対する結腸重量の割合(2.1±0.26 vs.3.0±0.28、P=0.017)を低下させたが、一方、低用量のデキサメタゾンでは、有意な影響がなかった(図2)。検定したすべての用量のデキサメタゾンは、盲腸絶対重量(p<0.01)及び体重に対する盲腸重量の割合(p<0.015)を、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスと比べて低下させた。
3.大腸炎の顕微鏡的証拠
サイトカインレベル
IL−8(p=0.028)及びIFN−γ(p<0.01)レベルは、ビヒクル治療mdr1a−/−マウスから得た、ホモジナイズした結腸において、mdr1a+/+マウスと対比して有意に高かった。しかしながら、デキサメタゾンでの治療は、いずれのサイトカインレベルにも、用いたいずれの用量においても影響がなかった(表4)。
【0029】
【表4】

【0030】
組織学的な類別
mdr1a+/+マウスから得た結腸は、正常なようにみえた。対照的に、mdr1a−/−マウスから得た結腸は、ヒトIBDにおいて認められるものと同様な病変によって特徴付けられた。特に、粘膜の有意な肥厚を伴う重度の自然発症的な結腸の炎症は、時折の腺窩膿瘍、腺窩の長さの増加、及び粘膜を介して筋肉(筋層)へと広がる潰瘍とともに、みられた。加えて、上皮細胞の増殖調節異常が、炎症細胞の固有層への浸潤とともに認められた。デキサメタゾンの用量が増加するにつれて、大腸炎の重症度スコアが減少する傾向にあった。治療群の平均値間に、統計学的に有意な全体的な差(p>0.10)はなかったが、しかしデキサメタゾンの最高用量(2mg/kg)では、ビヒクル群と比べて大腸炎の重症度スコアが有意に減少するとの証拠がいくらかあった(表5)。
【0031】
【表5】

【0032】
形態計測による評価
粘膜の高さの形態計測による評価は、組織学的な評価に一致した。スコア0と比較した場合、粘膜の高さの変化は、スコア1及び2(最小限〜軽度で、主に結腸の近位領域にみられた)で、ならびに、スコア3及び4(顕著〜重度で、結腸の中位及び遠位領域ならびに直腸においてより顕著(図3;凡例は、0〜4の大腸炎重症度スコアを示す(詳しくは表2を参照されたい))で、近接していた。また注目すべきは、大腸炎重症度スコアの増加に応じた結腸/直腸の長さの減少であり、これは大腸炎の古典的な所見である。
病理
ヘリコバクター属(ヘリコバクター・ビリス、ヘパティカス、及び全種)が存在しないことを、PCR、電子顕微鏡及び組織染色によって確認した。シトロバクター・ローデンティウム(citrobacter rodentium)(大腸過形成に関連する細菌)を含む他の公知の病原菌が存在しないことを、細菌学的及び血清学的解析によって確認した。要約すると、マウスには、FELASA推奨(FELASA作業部会の報告書(1996年)Laboratory Animals 30,193−208、及び(1994年)Laboratory Animals 28;1−12)において特定されるような、病原性であることが公知のウイルス、細菌及び寄生虫は存在しなかった。
実施例2:対照試験
他の点では同一の遺伝的背景である16例のmdr1a−/−マウス及び16例のmdr1a+/+マウスを、塩素処理していない飲料水で馴化させる。次いで、動物を以下の表(表6):
【0033】
【表6】

【0034】
に示すような群に分ける。
次いで、マウスを軟便及び体重増加なしに関して5週間までモニターする。
重度のIBD様症状が、第4群のみに認められる。
実施例3:IBD治療用の化合物
40例のmdr1a−/−マウスを馴化させ、次いで、5ppmの塩素処理した飲料水を2日間与える。次いで、それらを4群:
10例の動物:ビヒクルのみを投与
10例の動物:試験化合物0.05mg/kgを投与
10例の動物:試験化合物0.5mg/kgを投与
10例の動物:試験化合物5mg/kgを投与
に分ける。
【0035】
IBDの症状を、実施例1において記載した方法の一つを用いて、3〜4週間モニターする。用量相関性の有意な改善が、試験化合物で治療される動物において、ビヒクルのみを与えられる動物と比べて認められるならば、試験化合物は、IBDの治療に有望であると考えられる。
実施例4:IBDの予防
40例のmdr1a−/−マウスを2日間馴化させ、その間塩素処理していない飲料水を与える。次いで、それらを4群:
10例の動物:ビヒクルのみを投与
10例の動物:試験化合物0.05mg/kgを投与
10例の動物:試験化合物0.5mg/kgを投与
10例の動物:試験化合物5mg/kgを投与
に分ける。
【0036】
次の日に、動物に塩素処理した(5ppm)飲料水を供給する。次いで、動物を、IBD様症状の発症に関してモニターする。
症状の発症の用量相関性の有意な減少または遅延が、試験化合物で治療される動物において、ビヒクルのみを与えられる動物と比べて認められるならば、試験化合物は、IBDの予防に有望であると考えられる。
実施例5:mdr1a−/−マウス及び野生型(FVB)マウスから得た結腸における遺伝子発現の変化の比較、ならびにこれらの変化に対するデキサメタゾンの影響
本試験の目的は、野生型(FVB)マウス及びmdr1a−/−マウスから得た結腸における遺伝子発現の変化を比較し、そしてこれらの変化に対するデキサメタゾンの影響を検討することである。
【0037】
雄性FVB野生型及びmdr1a−/−マウス(9〜10週齢)に、デキサメタゾン(2mg/kg、腹腔内)またはビヒクル(水)を1日1回7日間投与した。マウスを処分し、そして結腸を組織学的評価のために取り出した。RNAを、Trizol及びRNeasyの修正プロトコールを用いて各群のドナー1例より精製し、1.9を超えるA260/A280純度で、50μg RNA/試料を超えて得た。
【0038】
手順は、アフィメトリクス社マニュアルにしたがって行った。各試料につき10μgの総RNAを、二本鎖(ds)cDNAに逆転写した。dscDNAの半分を、ビオチン化ヌクレオチドの存在下でIn Vitro転写(IVT)した。25μgのIVT産物を断片化し、そして約15μgをハイブリダイゼーションカクテル中で用い、テスト2チップに、次いでU74Aチップにハイブリダイズさせた(アフィメトリクス社マニュアルa.f.1,7307−1を参照されたい)。
【0039】
RNAの品質及びハイブリダイゼーションシグナルは、すべての試料において良好であった。マウスU74Aデータを、300に正規化した。プローブ(〜遺伝子)の総数は、12,639である。
【0040】
データの解析によって、mdr1a−/−マウスが、例えば、補体成分、MHC分子、白血球マーカー(白血球の組織への浸潤を示す)、サイトカイン、ケモカイン、インテグリン、シクロオキシゲナーゼ−2、ならびにTNFファミリー分子及びリガンドなどの炎症マーカーの亢進によって示されるような炎症の増加の明らかな証拠を示すほかに、例えば、メタロプロテイナーゼ発現の亢進によって示されるような組織破壊の証拠を示すことが、示された。また、ホスホリパーゼA2(約12x 亢進)、または誘導性一酸化窒素合成酵素(約5x 亢進)などの、IBDに対する公知の薬物の標的が、mdr1a−/−マウスにおいて明らかに亢進することも、対照動物と比較して示された。このことは、IBDに対する効果的な治療の同定を助けるであろう新たな薬物の標的を同定するための方法が適当であることを、明らかに示す。
【0041】
候補となる薬物の標的は、例えば、mdr1a−/−マウスにおいて亢進し、そしてデキサメタゾン治療によって正常レベル近くまで低下する遺伝子である。
診断、ならびに疾患状態、進行及び療法の成功の評価に有用な、候補のバイオマーカーもまた、このような実験によって同定することが可能であり;例えば、我々は、インターロイキン−1β(61倍亢進)、マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP−3;29倍亢進)またはグランザイムB(6倍亢進)などのIBDに対する公知のマーカーが、mdr1a−/−マウスにおいて、対照動物と比較して亢進することを見いだした。それゆえ、この実験において同じ制御パターンを示す他の遺伝子もまた、IBDに対する候補のバイオマーカーまたは診断ツールである。
実施例6:塩素処理した飲料水に切り替えた後の、mdr1a−/−マウスにおける遺伝子発現の、野生型マウスと比較した経時変化
IBDの病因に関与する遺伝子を同定するために、FVB野生型マウスと比較した、mdr1a−/−マウスの結腸における遺伝子発現の変化を、マウスを塩素処理した飲料水に切り替えた後に、経時的に試験する。
【0042】
雄性マウス(9〜10週齢)(野生型及びmdr1a−/−マウスで同数)を馴化させ、2日間、塩素処理していない飲料水を与える。次いで、水を、塩素処理した飲料水(5ppm)に替え、そして、塩素処理した水を飲み始める直前及び飲み始めた後の種々の時点において、各群のマウスを並行して処分し、そして結腸を組織学的評価及びRNA単離のために取り出す。適切な時点は、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間であろう。
【0043】
発現プロファイリングを、先の実施例に記載したように実施する。
IBDの病因に関与する候補である遺伝子は、mdr1a−/−マウスにおける発現は変わるがしかし野生型マウスにおいては変わらない(かまたは同程度ではない)ものである。水の供給を切り替えた後すぐに変化する遺伝子は、これらが疾患の発症に関与している可能性があり、そして、これらを阻害することで疾患の発症を予防する可能性があるため、特に興味深い。
【0044】
あるいは、疾患の進行または治療の成功を評価するのに有用な、IBDに対するバイオマーカーの候補である遺伝子もまた、本実験によって同定することが可能である。例えば、このような遺伝子は、血清中に見つけられるタンパク質をコードする可能性があり、そして有用なバイオマーカーは、mdr1a−/−マウスにおいて、野生型マウスと比較して亢進または低下する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】mdr1a−/−マウスにおける、体重に対する結腸重量の割合に及ぼすデキサメタゾンの影響(平均±標準誤差)。
【図2】mdr1a−/−マウスにおける、体重に対する盲腸重量の割合に及ぼすデキサメタゾンの影響(平均±標準誤差)。
【図3】全結腸/直腸にわたった、結腸/直腸の粘膜の高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてIBD様症状を誘導する方法であって、ここで哺乳動物は、(i)機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない非ヒト哺乳動物であり、そして(ii)高塩素濃度に曝される、前記方法。
【請求項2】
哺乳動物を、mdr1a遺伝子産物の阻害剤で処理し、そして高塩素濃度に曝す、哺乳動物においてIBD様症状を誘導する方法。
【請求項3】
高塩素濃度を、塩素処理した飲料水を供給することによって哺乳動物に投与する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
飲料水中の塩素濃度が1ppmを超える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
飲料水中の塩素濃度が3ppmを超える、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
飲料水中の塩素濃度が5ppmまたはそれを超える、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物がトランスジェニックmdr1a−/−ノックアウトマウスである、請求項1、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
IBD様症状が100%近くの哺乳動物に生じる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
候補化合物を、IBDの症状の改善におけるその有効性についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) ビヒクル中の候補化合物を、高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に投与すること;
(b) 候補化合物を含まないビヒクルを、高塩素濃度に曝された、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物に投与すること;及び、
(c) (a)及び(b)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状を比較すること、ここで、(b)の哺乳動物(単数または複数)と比較した、(a)の哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の減少は、化合物の有効性を示す;
を含む、前記方法。
【請求項10】
候補化合物を、IBDの発現の予防または遅延におけるその有効性についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) ビヒクル中の候補化合物を、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(b) 候補化合物を含まないビヒクルを、機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物に、前記哺乳動物において疾患が発症する前に投与すること;
(c) (a)及び(b)の哺乳動物(単数または複数)を、高塩素濃度に曝すこと;及び、
(d) 動物におけるIBDの任意の症状の発症を比較すること、ここで、候補化合物を含まないビヒクルで治療された哺乳動物(単数または複数)と比較した、ビヒクル中の候補化合物で治療された哺乳動物(単数または複数)におけるIBDの症状の発症の遅延または予防は、化合物の有効性を示す;
を含む、前記方法。
【請求項11】
IBDの病因に関与する可能性のある遺伝子についてスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(a) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物を、高塩素濃度に曝すこと;
(b) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第二の非ヒト哺乳動物を、高塩素濃度に曝さないこと;
(c) RNA調製物を、(a)及び(b)の双方の哺乳動物から得た腸より、所望の時間間隔の後に作ること;及び、
(d) RNA試料を比較すること、ここで、これらの試料において差を示すRNAは、IBDの病因に関わる可能性のある遺伝子を示す;
を含む、前記方法。
【請求項12】
IBDの病因に関与する可能性のある遺伝子についてスクリーニングする方法であって、以下の工程;
(a) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第一の非ヒト哺乳動物を、高塩素濃度に曝すこと;
(b) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現している第二の非ヒト哺乳動物を、塩素濃度に曝すこと;
(c) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現していない(またはmdr1a遺伝子産物が効果的に阻害されているか、またはmdr1a遺伝子産物の発現が効果的に阻害されている)第三の非ヒト哺乳動物を、高塩素濃度に曝さないこと;
(d) 機能的mdr1a遺伝子産物を発現している第四の非ヒト哺乳動物を、高塩素濃度に曝さないこと;
(e) RNA調製物を、(a)〜(d)のそれぞれの哺乳動物から得た腸より、所望の時間間隔の後に作ること;及び、
(f) RNA試料を比較すること、ここで、(a)と(c)の試料間で差を示すが、しかし(b)と(d)の試料間では同様な差を示さないRNAは、IBDの病因に関わる可能性のある遺伝子を示す;
を含む、前記方法。
【請求項13】
RNA試料を発現プロファイリングによって比較する、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
発現プロファイリングをマイクロアレイ解析によって行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
同定された遺伝子のヒトホモログを同定する工程をさらに含む、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
組成物の調製方法であって、
(a) 請求項9に記載の方法によって、IBD症状を改善することが可能な化合物を同定すること;及び、
(b) 前記化合物をキャリアーと混合すること;
を含む、前記方法。
【請求項17】
組成物の調製方法であって、
(a) 請求項10に記載の方法によって、IBDの発現を予防または遅延させることが可能な化合物を同定すること;及び、
(b) 前記化合物をキャリアーと混合すること;
を含む、前記方法。
【請求項18】
高塩素濃度を、請求項3〜6に記載の塩素処理した飲料水を介して供給する、請求項9〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物を高塩素濃度に曝さないことを、塩素処理していない飲料水のみを哺乳動物に供給し、かつ他に高塩素濃度を哺乳動物に供給しないことによって実施する、請求項11〜18のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−520192(P2006−520192A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502410(P2006−502410)
【出願日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000312
【国際公開番号】WO2004/071186
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
ウィンドウズ
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】