炎症性腸疾患の診断方法
本明細書では、ヒトの腸内ミクロビオームに少なくとも1つの遺伝子が不存在であるという判定に基づく新規の炎症性腸疾患診断方法が記載されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炎症性腸疾患は、胃腸管の異なるレベルにおける持続的な粘膜炎症を特徴とする原因不明の慢性障害である。潰瘍性大腸炎およびクローン病が、炎症性腸疾患の2つの主要なタイプである。潰瘍性大腸炎は、結腸に限定された連続的な粘膜炎症をひき起こし、一方、クローン病は、胃腸管全体を通してあらゆるところに不連続的な貫壁性炎症をひき起こすが、回腸終端部に影響を及ぼすことが最も多い。最も一般的な腸内病変は、粘膜潰瘍形成、腸壁膨張、および腸内腔狭窄からなる。これらの慢性炎症性病変は、下痢、便意切迫、腹痛、および発熱、ならびに出血、腸閉塞、敗血症、および栄養失調を含む、さまざまな重症度の合併症などの症候をひき起こす場合がある。
【背景技術】
【0002】
疫学的研究により、1950年以降前世紀の間に西欧および北米におけるこのような疾病の発症率が確実に増大していることが実証された。南欧および日本では、発症率の上昇は、20年遅れて到来したが、今日では発症率は北欧や北米と同じように高い。最近のデータは、東欧諸国ならびに東南アジアにおける発症率の増加を示唆している。発症率の変化は、食習慣の変化ならびに公衆衛生の改善および工業化などの環境の変化を含むライフスタイルの西欧化に関係していると思われる。今日、複合有病率(潰瘍性大腸炎とクローン病)の数字は、先進諸国の人口の0.5%に至るまでが炎症性腸疾患に侵されていることを示唆している。
【0003】
炎症性腸疾患は多くの場合若齢で発症し、生涯を通じた健康障害をひき起こす潜在性を有することから、炎症性腸疾患が社会に及ぼす影響は過度に高い。現在のところ、炎症性腸疾患に対する治療法または根絶療法は全く存在しない。典型的に、潰瘍性大腸炎およびクローン病の両方とも、無制御の慢性的な粘膜炎症の発作と、その後の、寛解期中に起こる再形成プロセスとを伴う、起伏状の活性を示す。初期治療アプローチは通常、炎症性活性の発作を軽減し、寛解状態にある場合には将来の再発を防止するための薬物療法である。患者は、5−ASA(例えばメサラジン)、ステロイド(例えばプレドニゾロン)、および免疫抑制剤(例えばアザチオプリン)を含むさまざまな薬物により治療することができる。さらに、標準的な薬物治療が機能しない場合には、患者は、新しい生物学的薬物、例えばモノクローナル抗体(例えば抗TNF−α抗体インフリキシマブ)の投与を受ける場合もある。その全体的な効能にも関わらず、このような薬物には大きな負担が伴う可能性がある。これらの薬物は高価であるばかりでなく、副作用が一般的であり、免疫抑制剤ではその発生率は28%、ステロイドに至っては50%にのぼる。一部の患者は、全身感染症または新生組織形成などの重度の副作用を示す場合があり、したがって、現行の療法には密な監視が求められる。さらに、潰瘍性大腸炎患者のおよそ30%、そしてクローン病患者の50%が、その生涯のいずれかの時点で外科手術を必要とすることになる。
【0004】
利用可能な薬物療法は、このような疾病の根絶または根治を達成することができず、これは主として潰瘍性大腸炎とクローン病の精確な病因がなおも解明されていないという事実に起因している。しかしながら、過去数年間で、粘膜炎症性病変を導く病態生理学的機序は少なくとも一部分が明らかにされている。炎症性腸疾患において見られる炎症が、腸内微生物叢と粘膜免疫系との間の伝達異常によりひき起こされることの、有力な証拠が存在している。病原体に対する粘膜免疫系のヘルパーTリンパ球(Th)の防衛反応は、病原体の除去を目的とした炎症プロセスを伴うが、同時にこれらのプロセスは、宿主組織にも損傷を与える。正常な状況下では、一部の片利共生的腸内微生物は、腸内リンパ濾泡内の調節性Tリンパ球(Treg)の誘発のために主要な役割を果たすと思われる。調節性Tリンパ球は、非病原性として認識される微生物抗原に応答して炎症を誘発しないことから、「免疫寛容」と呼ばれる現象の中心的存在である。調節性Tリンパ球により媒介される免疫寛容は、宿主が炎症を通して応答することなく腸内部または他の体表面上の無害の抗原の巨大な負担を寛容し得るようにする、不可欠なホメオスタシス機構である。一連の証拠により、遺伝的感受性を有する個体において、内腔細菌に対するThリンパ球媒介型免疫が、腸内病変を生成しかつ/または病変の消散を妨害する炎症性プロセスの駆動における重要な事象であることが示唆される。腸内微生物叢と粘膜免疫コンパートメントとの相互作用不良は、慢性腸炎を導く異常をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の研究から、炎症性腸疾患を患う対象と健康な対照の間では糞便微生物叢の組成が異なるということがわかっている。報告された差異は可変的であり、さまざまな研究の間でつねに一貫性があるわけではない。したがって、炎症性腸疾患患者と健康な人を区別するために、公開されている差異を使用することは不可能である。しかしながら、以上で説明した通り、常在腸内微生物は、一定の状況下で、炎症性腸疾患、特にクローン病の発症および維持における決定因子である。したがって、炎症性腸疾患の一貫性ある診断を可能にする新規で信頼性の高い方法に対するニーズがなおも存在する。
【0006】
大部分の腸内片利共生生物は、培養不可能である。この制限を克服するために、ゲノム戦略が開発されてきた(HamadyおよびKnight、Genome Res、19:1141−ll52、2009)。これらの戦略は、微生物叢のゲノム中に含まれる遺伝子の集合体としてミクロビオームを定義づけすることを可能にした(Turnbaughら、Nature、449:804−8010、2007;HamadyおよびKnight、Genome Res.、19:1141−1152、2009)。ヒトの腸内微生物叢の系統発生学上の核を構成する全ての個体が共有する少数の種の存在が、実証されている(Tapら、Environ Microbiol.、11(10):2574−2584、2009)。近年、メタゲノム解析は、576.7ギガベースの配列に対応するヒトの腸の330万の非冗長性微生物遺伝子の広範なカタログを同定するに至った(Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、異なる個体におけるヒト糞便由来のDNA断片の単離および配列決定に基づく方法を使用した。腸由来の微生物遺伝子の広範なカタログが現在入手可能であることから(Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821)、特定の個体群(例えば、炎症性腸疾患を患う患者群)における特定の配列のコピー数および頻度を計算することができる。こうして特定の遺伝子の存在および不存在と特定の病状の存在または不存在との間のあらゆる相関関係を同定することが可能である。さらに、個体内の特定の遺伝子のコピー数を決定することが可能である。
【0008】
クローン病および潰瘍性大腸炎は、集合的に炎症性腸疾患と呼ばれる、消化管の慢性免疫炎症状態である。本発明者らは、クローン病または潰瘍性大腸炎を患う患者の一群と健康な人の対照群との間で著しく異なっている遺伝子を同定することができた。これらの遺伝子は表1(クローン病)および表2(潰瘍性大腸炎)に列挙されている。前記遺伝子は、患者の場合よりも健康な個体の場合の方が多い。この所見は、微生物遺伝子の総数が両方の個体群において異ならないため、統計学的に有意である。したがって、炎症性腸疾患を患う個体においては特定のヒト腸内微生物遺伝子の喪失が存在する。
【0009】
本発明の第1の態様は、少なくとも1つの遺伝子が個体の腸内ミクロビオームにおいて不存在であるか否かを判定するステップを含む、炎症性腸疾患の診断方法である。「個体の腸内ミクロビオーム」とは、本明細書において、前記個体の微生物叢を構成する全ての遺伝子のことである。したがって、「個体の腸内ミクロビオーム」という用語は、前記個体の腸内に存在する全ての細菌の全ての遺伝子に対応する。
【0010】
遺伝子は、ミクロビオーム中のそのコピー数が一定の閾値よりも低い場合、不存在である。本発明によると、「閾値」とは、問題の遺伝子のコピー数が個体のミクロビオーム中のコピー数の高低に対応している試料の判別を可能にする値を意味することが意図されている。詳細には、コピー数が閾値以下である場合には、ミクロビオーム中のこの遺伝子のコピー数は低いとみなされ、一方コピー数が閾値を超える場合には、ミクロビオーム中のこの遺伝子のコピー数は高いとみなされる。低いコピー数とは、遺伝子がミクロビオームに不存在であることを意味し、一方、高いコピー数は、遺伝子がミクロビオーム中に存在することを意味する。各々の遺伝子で、そして遺伝子のコピー数の測定に用いられる方法に応じて、最適な閾値は変動する場合がある。しかしながら、当業者であれば、コピー数(高低)がこの特定の遺伝子について公知である複数の個体のミクロビオームの解析に基づいて、かつ対照遺伝子のコピー数との比較に基づいて、それを容易に判定できる。
【0011】
本発明の方法はこうして、当業者が個体の腸内ミクロビオーム由来の遺伝子の存在または不存在のみに基づいて病状を診断することを可能にする。特定の遺伝子のコピー数とこの遺伝子を担持する細菌細胞数との間には直接的相関関係が存在する。本発明の方法はこうして、当業者がミクロビオームの解析によって腸内毒素症、すなわち微生物の平衡失調を検出することを可能にする。腸内の種は、大部分が培養不能であるため、その全てが同定されているわけではなく、また同定は困難である。さらに、所与の個体の腸内に発見される大部分の種は希有であり、そのため、それらの検出は困難になっている(HamadyおよびKnight、Genome Res.、19:1141−1152、2009)。本発明のこの第1の態様において、前記遺伝子が帰属する細菌種の事前の同定は全く必要とされない。したがって、本発明の診断方法は、公知の腸内細菌種の個体群における変化を判定することに制限されず、分類学的にまだ特徴づけされていない細菌をも包含する。
【0012】
前記個体の腸内微生物DNAの試料を得るための方法はいくつか存在する(Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008)。例えば、結腸鏡検査によって得られる粘膜標本または生検材料を調製することが可能である。しかしながら、結腸鏡検査は、研究毎に収集手順が明確に定義されていない侵襲的処置である。同様にして、外科的処置を通して生検材料を得ることもまた可能である。しかしながら、結腸鏡検査よりもさらに増して、外科的処置は侵襲的処置であり、微生物個体群に対するその影響は未知である。好適であるのは、糞便分析であり、これは当該技術分野において高い信頼性で使用されてきた手順である(Bullockら、Curr Issues Intest Microbiol.;5(2):59−64、2004;Manichanhら、Gut、55:205−211、2006;Bakirら、Int J Syst Evol Microbiol、56(5):931−935、2006;Manichanhら、Nucl.Acids Res.、36(16):5180−5188、2008;Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008)。この手順の一例は、実験例の方法の節で記載されている。糞便は、1グラム(湿重量)あたり約1011個の細菌細胞を含み、細菌細胞は糞塊の約50%を構成する。糞便の微生物叢は、遠位大腸の微生物学を主に代表するものである。したがって、個体の糞便由来の微生物DNAを大量に単離し解析することが可能である。「微生物DNA」とは、本明細書において、ヒトの腸の常在細菌集団のいずれかに由来するDNAとして理解される。「微生物DNA」という用語は、コード配列と非コード配列の両方を包含する。詳細には、それは、完全な遺伝子に限定されず、コード配列のフラグメントをも含む。したがって、糞便の分析は非侵襲的な手順であり、患者毎に、直接比較可能で一貫性のある結果を提供する。
【0013】
したがって、好ましい実施形態においては、本発明の方法は、前記個体の糞便に由来する微生物DNAを得るステップを含む。さらに好ましい実施形態においては、前記個体由来の糞便が収集され、DNAが抽出され、個体の腸内ミクロビオームにおける少なくとも1つの遺伝子の存在または不存在が判定される。遺伝子の存在または不存在は、当業者にとって公知のあらゆる方法によって判定されてよい。例えば、前記個体のミクロビオーム全体の配列を決定し、前記遺伝子の存在または不存在を、バイオインフォマティクス方法を用いて検索してよい。このような戦略の一例は、実験例の方法の節で記載されている。代替的には、問題の遺伝子を、特異的プローブでのハイブリダイゼーション、例えばサザンハイブリダイゼーションによってミクロビオーム中で探してもよい。この特定の実施形態においてはサザンハイブリダイゼーションが完璧に適してはいるものの、それでもマイクロアレイを使用する方がさらに便利でかつ高感度であるということは、当業者には直ちに明らかである。さらに別の実施形態において、問題の遺伝子の存在は、増幅、詳細には定量的PCR(qPCR)によって検出されてよい。これらの技術(サザン、マイクロアレイ、qPCRなど)は現在、当業者が日常的に使用しているものであり、したがってここで詳述する必要はない。
【0014】
別の好ましい実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらなる好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病である。別のさらなる実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。
【0015】
さらに別の好ましい実施形態において、個体の腸内ミクロビオームでの不存在または存在が判定される遺伝子は、表1および2に列挙されている遺伝子の群から選択される。さらに好ましい実施形態において、遺伝子は表1に列挙されている遺伝子の群から選択される。別のさらに好ましい実施形態において、遺伝子は表2に列挙されている遺伝子の群から選択される。当業者であれば、テストされる遺伝子の数が多くなればなるほど結果の信頼度は高くなるということを難なく理解するものである。別のさらに好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表1に列挙される遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表1の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表1の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を決定するステップを含む。別のさらに好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表2に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは、表2の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表2の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を決定するステップを含む。
【0016】
微生物叢内に見出される多数の細菌種が同定されていないものの、大部分の細菌がBacteroides属、Clostridium属、Fusobacterium属、Eubacterium属、Ruminococcus属、Peptococcus属、Peptostreptococcus属およびBifidobacterium属に属することがわかっている。EscherichiaおよびLactobacillusなどの他の属は、より少ない程度で存在する。これらの属に帰属する個別の種の中には同定されているものもあり、これらの種の遺伝子の一部は公知である。330万個の非冗長微生物遺伝子の同定を導いた広範なメタゲノム研究から、大部分の新しい配列の割当ても同様に可能になった。所与の種に属する遺伝子は、前記種の他の全ての遺伝子と同じ頻度で一個体内に存在する。こうして、本発明の方法を通して同定された遺伝子の各々について、前記遺伝子の存在または不存在と、さまざまな個体内で特定の細菌種に属することが公知である一組の遺伝子の存在または不存在との間に相関関係が存在するか否かを判定することが可能である。このような相関関係は、未知の遺伝子が前記特定の細菌種に属することを示す。したがって、本発明者らは、一部の細菌種が炎症性腸疾患の表現型と連関し、一方、他の細菌種は健康な表現型と連関するということを示した。炎症性腸疾患の表現型は、前記種の線形的な組合せによって予測され得る。すなわち、一個体の腸内に炎症性腸疾患の表現型と連関する細菌種が多く存在すればするほど、また前記個体の腸内に健康な表現型と連関する種が少なければ少ないほど、前記個体が炎症性疾患を患う確率が高くなる。例えば、一人の人間の腸内のFaecalibacterium prausnitziiおよびRoseburia inulinivoransの不存在、ならびにClostridium boltae、Clostridium ramosumおよびRuminococcus gnavusの存在は、この人がクローン病を患っていることを示す。同様にして、一個体の腸内のAkkermansia muciniphilaの不存在、ならびにBacteroides capillosusおよびClostridium leptumの存在は、この人間が潰瘍性大腸炎を患っていることを示す。
【0017】
当業者にとっては、本発明の遺伝子を、例えば炎症性腸疾患を患う患者の治療中に、バイオマーカーとして使用できるということは明白である。したがって、別の実施形態においては、本発明は、炎症性腸疾患治療の有効性をモニタリングするための方法を含む。治療が炎症性腸疾患に有効である場合、当初観察された腸内毒素症は徐々に消失する。前記個体が病気である場合、この個体の腸には一部の特異的遺伝子(例えば疾患がクローン病である場合は表1の遺伝子、または個体が潰瘍性大腸炎を患っている場合は表2の遺伝子)が不存在であるが、これらの遺伝子は治療中に再度出現する。したがって、この実施形態において、本発明の方法は、前記患者のミクロビオームに少なくとも1つの遺伝子が不存在であるか否かをまず判定するステップと、治療を施すステップと、前記少なくとも1つの遺伝子が患者のミクロビオーム中に存在するか否かを判定するステップとを含んでいる。好ましい一実施形態において、本発明の方法は、治療の前と後に前記個体の糞便から微生物DNAを得るステップをも含んでいる。さらに好ましい実施形態においては、前記個体由来の糞便は、治療の前と後に収集され、DNAが抽出され、個体の腸内ミクロビオームにおける少なくとも1つの遺伝子の存在または不存在が判定される。
【0018】
別の好ましい実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらに好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病であり、別のさらに好ましい実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。
【0019】
さらに別の好ましい実施形態において、個体の腸内ミクロビオームでの不存在または存在が判定される遺伝子は、表1および2に列挙されている遺伝子の群から選択される。さらに好ましい実施形態において、遺伝子は表1に列挙されている遺伝子の群から選択される。別のさらに好ましい実施形態において、遺伝子は表2に列挙されている遺伝子の群から選択される。本発明の方法の特定の実施形態において、表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、治療前の前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である。したがって、好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表1に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表1に列挙されている遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表1の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を判定するステップを含む。別の好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表2に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表2の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表2の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を判定するステップを含む。
【0020】
本発明は同様に、炎症性腸疾患を患う患者の体内には不存在であり健康な人の体内には存在する全ての遺伝子を含む、本発明の方法の実施に専用のキットをも含んでいる。詳細には、本発明は、炎症性腸疾患を患う患者の体内には不存在であり健康な人の体内には存在する全ての遺伝子に結合するプローブを含む、本発明に係る方法の実施に専用のマイクロアレイに関する。好ましい実施形態において、前記マイクロアレイは、核酸マイクロアレイである。本発明によると、「核マイクロアレイ」は、マイクロチップ、スライドガラスまたはミクロスフェアサイズのビーズであり得る基材に付着された異なる核酸プローブで構成されている。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖類、シリカもしくはシリカベースの材料、炭素、金属、無機ガラス、またはニトロセルロースで構成されていてよい。プローブは、核酸、例えばcDNA(「cDNAマイクロアレイ」)またはオリゴヌクレオチド(「オリゴヌクレオチドマイクロアレイ」、なおオリゴヌクレオチドの長さは約25〜約60塩基対以下である)であり得る。核酸技術の代替として、定量的PCRも使用してよく、したがって試験すべき遺伝子に特異的な増幅プライマーも本発明に係る方法を実施するために非常に有用である。したがって、本発明はさらに、上述の通りの専用マイクロアレイ、または炎症性腸疾患を患う患者の体内では不存在であり健康な人の体内には存在する遺伝子に特異的な増幅プライマーを含む、患者の炎症性腸疾患を診断するためのキットに関する。これらのキットは、当業者が前記遺伝子の10%、25%、50%または75%を検出することを可能にし得るが、前記遺伝子の90%、95%、97.5%、またはさらには99%の検出を可能にする場合に最も有用である。したがって、本発明に係るマイクロアレイは、前記遺伝子の少なくとも10%、25%、50%または75%、好ましくは90%、95%、97.5%そしてさらに一層好ましくは少なくとも99%に結合するプローブを含む。同様にして、定量的PCR用のキットは、前記遺伝子の少なくとも10%、25%、50%または75%、好ましくは90%、95%、97.5%そしてさらに一層好ましくは少なくとも99%の増幅を可能にするプライマーを含むものである。
【0021】
好ましい実施形態において、炎症性腸疾患は、クローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらに好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病であり、別のさらに好ましい実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。別の実施形態において、クローン病を患う患者の体内に不存在であり健康な人の体内には存在する遺伝子は、表1に列挙されている遺伝子であり、さらに別の実施形態において、これらの遺伝子は表2に列挙されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】CD関連遺伝子とUC関連遺伝子の包括的解析。A)健康な個体の体内にはより多くのCD関連遺伝子が存在する。CD関連遺伝子に応じた一個体あたりの遺伝子の数のプロットは、患者に比べて健康な個体において遺伝子が多いことを示している。B)健康な個体の体内にはより多くのUC関連遺伝子が存在する。UC関連遺伝子の関数としての一個体あたりの遺伝子の数のプロットは、患者に比べて健康な個体において遺伝子が多いことを示している。
【図2】A)5つの種の線形的な組合せが、規定されたレベル(遺伝子の少なくとも50%)でそれらを有するコホートの部分について、クローン病の表現型を充分に判別している。B)3つの種が潰瘍性大腸炎について判別している。
【0023】
方法
ヒト糞便試料の収集。スペイン人の個体は、健康な対照または、臨床的寛解期の慢性炎症性腸疾患(クローン病または潰瘍性大腸炎)を患う患者であった。患者および健康な対照には、凍結させた排泄物試料の提供を求めた。新鮮な排泄物試料を自宅で採取し、試料を自宅の冷凍庫に保管することによって直ちに凍結させた。凍結した試料を、断熱発泡スチロールのコンテナを用いて病院まで運び、その後、分析まで−80℃で保管した。
【0024】
DNA抽出。各糞便試料の凍結したアリコート(200mg)を、250μlのチオシアン酸グアニジン、0.1Mのトリス(pH7.5)および40μlの10%N−ラウロイルサルコシン中に懸濁させた。その後、以前に記述された通りに(Manichanhら、Gut、55:205−211、2006)、DNA抽出を行った。DNA濃度およびその分子サイズを、ナノドロップ(Thermo Scientific)およびアガロースゲル電気泳動によって推定した。
【0025】
DNAライブラリーの構築および配列決定。DNAライブラリーを、メーカーの指示(Illumina)にしたがって調製した。クラスタ生成、鋳型ハイブリダイゼーション、等温増幅、線形化、遮断および変性、ならびに配列決定用プライマーのハイブリダイゼーションを実施するために、他の箇所で記載されたものと同じワークフローを使用した。蛍光原画像を処理し配列を呼び出すために、塩基呼び出しパイプライン(IlluminaPipeline−0.3バージョン)を使用した。実験再現性の検証のために、最初の15の試料の各々について1つのライブラリー(クローンインサートサイズ200bp)を構築し、そして残りの109の試料の各々について、異なるクローンインサートサイズ(135bpおよび400bp)を有する2つのライブラリーを構築した。新規な配列の生成と配列決定深度との間の最適なリターンを推定するため、本発明者らは、Short Oligonucleotide Alignment Program(SOAP)(Liら、Bioinformatics、25:1966−1967、2009)、および95%の配列同一性というマッチ要件を用いて、試料MH0006およびMH0012から得られたIllumina GAリードを、同じ2つの試料(それぞれ156.9および154.7Mb)から生成された合計311.7Mbの468,335Sangerリードに対してアラインした。約4GbのIllumina配列で、Sangerリードの94%および89%(それぞれMH0006およびMH0012について)がカバーされた。それぞれMH0006およびMH0012について12.6および16.6Gbまでのさらなる広範な配列決定は、約95%までの中程度のカバー率の増加しかもたらさなかった。Sangerリードの90%超が、非常に高く均一なレベルまで、Illumina配列によってカバーされ、これは、IlluminaGA配列にはほとんどまたは全く偏りが存在しないことを示す。予期した通り、Illumina配列の大部分(それぞれM0006およびM0012について57%と74%)は新規のものであり、Sangerリード上にマッピングできなかった。この割合は、4および12〜16Gbの配列決定レベルで類似しており、これにより、新規のものの大部分が4Gbですでに捕捉されていることが裏付けられた。
【0026】
本発明者らは、残りの122の試料について、3540万〜9760万のリードを生成し、平均は6250万リードであった。15個の試料の最初のバッチの配列決定リード長は44bpであり、第2のバッチは75bpであった。
【0027】
使用された公開データ。GenBankに寄託されていた配列決定済みの細菌ゲノム(合計806ゲノム)を、2009年1月10日にNCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からダウンロードした。公知のヒト腸内細菌ゲノム配列を、HMPデータベース(http://www.hmpdacc−resources.org/cgi−bin/hmp_catalog/main.cgi)、GenBank(67ゲノム)、St Louisのワシントン大学(85ゲノム、2009年4月バージョン、http://genome.wustl.edu/pub/organism/Microbes/Human_Gut_Microbiome/)からダウンロードし、MetaHITプロジェクト(17ゲノム、2009年9月バージョン、http://www.sanger.ac.uk/pathogens/metahit/)によって配列決定した。このプロジェクトで使用された他の腸内メタゲノムデータには、以下のものが含まれる:(1)登録番号SRA002775でNCBIからダウンロードされた、米国人個体から配列決定されたヒト腸メタゲノムデータ(Zhangら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、106:2365−2370、2009);(2)EMBL(http://www.bork.embl.de)でP.Borkのグループからダウンロードされた、日本人個体に由来するヒト腸内メタゲノムデータ(Kurokawaら、DNA Res.14:169−181、2007)。本研究において本発明者らが構築した統合NRデータベースは、NCBI−NRデータベース(2009年4月バージョン)および公知のヒト腸内細菌ゲノムに由来する全ての遺伝子を含んでいた。
【0028】
IlluminaGAショートリードのデノボアセンブリ。各DNA試料の高品質ショートリードを、SOAPデノボアセンブラ(Li.& Zhu、Genome Res.、20(2):265−272、2010)によりアセンブルした。要するに、本発明者らはまず17merの頻度にしたがってアセンブリから存在度の低い配列をフィルタリングした。5未満の深度の17merを、アセンブリの前にスクリーニングしたが、これは、これらの低頻度配列がアセンブルされる可能性がきわめて低く、一方、それらを除去することで所要メモリーが著しく削減され、アセンブリは通常のスーパーコンピュータ(我々の研究機関では512GBメモリー)で実現可能なものとなると考えられるからである。次に、配列を1つずつ処理し、Bruijinグラフデータフォーマットを用いて、配列間のオーバーラップ情報を記憶した。単一のリードにより裏付けされたオーバーラップパスは信頼性が低く、除去された。配列決定のエラーまたは微生物株間の遺伝的ばらつきを原因とする短い低深度チップおよびバブルは、それぞれトリムおよびマージされた。リードパスを用いて、極小さい反復を解決した。最終的に、反復境界において連結を破断し、明確な連結をもつ連続配列をコンティグとして出力した。メタゲノム特殊モデルを選択し、パラメータ「−K21」および「−K23」をそれぞれ44bpと75bpのリードについて使用して、求められる最小の配列オーバーラップを示した。独立して各試料についてデノボアセンブリを行った後、アセンブルされていない全てのリードを共にマージし、それらについてアセンブリを実施して、データの使用を最大限にし、各リードセット内での頻度は低いものの全ての試料のデータを合わせることによるアセンブリには充分な配列深度を有する微生物ゲノムをアセンブルした。
【0029】
Sangerリードを用いたIlluminaコンティグの検証。BLASTN(WUBLAST2.0)を用いて、試料MH0006およびMH0012に由来するSangerリード(それぞれ156.9Mbおよび154.7Mb)を、同じ試料に由来するIlluminaコンティグ(長さが75bp超で同一性が95%超の単一の最良ヒット)に対してマッピングした。アライメントの片端においてアラインされていなまま残された少なくとも50個の塩基を両方の配列が有しているコリアリニティの崩壊について、各アライメントをスキャンした。このような崩壊は各々、コリアリニティが崩壊している場所におけるIlluminaコンティグ内のアセンブリエラーとみなされた。互いから30bp以内のエラーは、マージされた。エラーの両側の60bpについてのコンティグ構造と一致するSangerリードが存在する場合、エラーは廃棄された。比較のため、本発明者らは、MH0006由来の454Titaniumリード(550Mbのリード)のNewbler2アセンブリに対してこれを反復した。本発明者らは、Illuminaアセンブリについてコンティグの1Mbあたり14.12個のエラーを推定し、これは、454アセンブリのもの(1Mbあたり20.73)に匹敵している。少なくとも1つのSangerリードをマッピングするIlluminaコンティグの98.7%は、マッピングされた領域の99.55%にわたりコリニアであったが、これは、このような454のコンティグの97.86%が、マッピングされた領域の99.48%にわたりコリニアであることに匹敵する。
【0030】
ヒト腸内ミクロビオームのカバー率の評価。最初の35bpの領域内の多くとも2つのミスマッチおよびリード配列全体にわたる90%の同一性を許容することにより、SOAPを用いて、アセンブルされたコンティグおよび公知の細菌ゲノムに対して、IlluminaGAリードをアラインした。1×10−8、100bp超のアラインメント長、および最低90%の同一性カットオフでBLASTNを用いて、同じ基準に対して、Roche/454およびSanger配列決定リードをアラインした。SOAPにより、MH0006およびMH0012のGAリード、同じ試料からのSangerリードに対してアラインした場合、二つのミスマッチが許容され、同一性はリード配列全体にわたり95%に設定された。
【0031】
非冗長遺伝子セットの遺伝子予測および構築。所与の配列のGC含有量により推定されたジコドン頻度を使用し、かつ匿名ゲノム配列に基づきORFの全範囲を予測する、Meta Gene(Noguchiら、Nucleic Acids Res.、34、5623−5630、2006)を用いて、124の試料各々のコンティグから、ならびにマージされたアセンブリのコンティグから、ORFを見出す。その後、予測されたORFをBLAT(Kentら、Genome Res.、12:656−664、2002)を用いて互いにアラインした。95%超の同一性、およびより短い遺伝子の90%にわたりカバーされたアライン長を有する遺伝子対を、グループにまとめた。次に遺伝子を共有するグループをマージし、マージされたグループの各々の中の最長のORFを用いてそのグループの代表とし、グループの他のメンバーを冗長性とみなした。したがって、本発明者らは、冗長性を排除することにより、予測された遺伝子の全てから非冗長性遺伝子セットを組織した。最後に、100bp未満の長さを有するORFがフィルタリングされた。NCBI遺伝子コードを用いてORFをタンパク質配列に翻訳した(Leyら、Nature Rev.Microbiol、.6:776−788、2008)。
【0032】
遺伝子の同定。存在度の低い遺伝子を同定することと同定のエラー率を削減することとの間のバランスを保つため、本発明者らは、個別のミクロビオーム中の遺伝子を同定するために必要とされるリードカバー率について設定された閾値の影響を調査した。同定に必要とされるリードの数が2から6に増加した時点で、遺伝子数は約2分の1に減少し、その後はゆっくりと変化した。それでも、希少な遺伝子を解析に含み入れるために、本発明者らは、2回のリードの閾値を選択した。
【0033】
遺伝子の分類学的割当て。予測された遺伝子の分類学的割当ては、統合NRデータベースに対するBLASTPアライメントを用いて実施された。1×10−5より大きいe値でBLASTPアライメントのヒットをフィルタリングし、各々の遺伝子について、e値≦10×トップヒットのe値により定義づけされた有意なマッチを、分類学的グループを区別するために保持した。その後、MEGAN(Husonら、Genome Res.、17:377−386、2007)で実行された最近共通祖先(LCA)ベースのアルゴリズムにより、各遺伝子の分類学的レベルを判定した。LCAベースのアルゴリズムは、割当てられた分類群の分類学的レベルが遺伝子の保存レベルを反映するような形で、遺伝子を分類群に割当てる。例えば、遺伝子が数多くの種に保存されていた場合、それは、種ではなくむしろLCAに割当てられた。
【0034】
遺伝子の機能的分類。BLASTPを用いて、e値≦1×10−5で、eggNOGデータベース(Jensenら、Nucleic Acids Res.、36:D250−D254、2008)とKEGGデータベース(Kanehisaら、Nucleic Acids Res.、32:D277−D280、2004)内で予測された遺伝子のタンパク質配列を検索した。最低のe値を有するNOGホモログまたはKEGGホモログに応じて、遺伝子に注釈付けした。eggNOGデータベースは、COGおよびKOGデータベースの統合である。COGで注釈付けされた遺伝子は、25のCOGカテゴリーに分類され、KEGGにより注釈付けされた遺伝子は、KEGGパスウェイ内に割当てられた。
【0035】
最小腸内細菌ゲノムの決定。eggNOGクラスタに割当てられた非冗長遺伝子の数は、遺伝子の長さとクラスタコピー数で正規化された。クラスタを、正規化された遺伝子数によりランキングし、不可欠のBacillus subtilis遺伝子をコードするクラスタを含んでいた範囲を決定し、100個のクラスタの連続的グループ内のこれらのクラスタの割合を計算した。遺伝子クラスタの範囲の解析には、iPath画像以外に、KEGGの使用ならびにパスウェイの完全性およびそれらがコードするタンパク質機構の手動の確認を用いた。
【0036】
全機能的補体と最小メタゲノムの決定。本発明者らは、n個の個体(n=52〜124、1ビンあたり100の複製)のランダムな組合せ中に存在するオルソロググループおよび/または遺伝子ファミリーの合計数および共有数を計算した。この解析は、遺伝子クラスタの次の3つのグループについて実施された:(1)公知のeggNOGオルソロググループ(すなわち、[Uu]ncharacteri[sz]ed、[Uu]nknown、[Pp]redictedまたは[Pp]utativeという用語が存在するものを除く、機能的注釈付けを伴うグループ);(2)全てのeggNOGオルソロググループ;(3)以上の2つのカテゴリーに割当てされなかった残りの遺伝子から構築された遺伝子ファミリーを加えた、全てのオルソロググループ。ファミリーは、1.1の拡大要因と60というビットスコアカットオフでMCL(van Dongen、Ph.D.Thesis、Univ.Utrecht、2000)を用いて、総当りBLASTPの結果からクラスタ化された。
【0037】
希薄化解析。メモリーによる制限のため100個の無作為にピックアップした試料について、EstimateSを用いて、全遺伝子豊富度の推定を行った。CV値は0.5超であったことから、Chao2豊富度推定量(従来のもの)およびICE豊富度推定量を計算し、2つのうちの大きい方の推定値(ICE)を使用した。この試料サイズについての推定値は、3,621,646個の遺伝子(ICE)であり、一方Sobs(Mao Tau)は3,090,575個の遺伝子、つまり85.3%であった。ICEの推定量曲線は、完全には飽和せず、このことは、最終的な決定的推定値を達成するためには、追加の試料を加える必要があることを示していた。
【0038】
共通の細菌核。非常に類似した株の影響を除去し、コホートの個体中の公知の微生物種の存在を評価するために、本発明者らは基準セットとして650の配列決定された細菌ゲノムおよび古細菌ゲノムを使用した。このセットは、932個の公的に入手可能なゲノムで構成され、これらのゲノムは、90%の同一性カットオフと少なくとも80%の長さにわたる類似性とを用いて、類似性によってグループ分けされた。各グループから最大のゲノムのみが使用された。124の個体に由来するIlluminaリードを、種プロファイリング解析のためにセットにマッピングし、同じ種に由来するゲノム(サイズを20%超異なるようにすることによる)を、手作業での検査によって、かつ配列が入手可能である場合には16Sベースのクラスタ化を用いることによって、キュレートした。
【0039】
個体間の微生物ゲノムの相対的存在度。本発明者らは、Illuminaリードを一意的にマッピングすることによりゲノムカバー率を計算し、それを1Gbの配列に正規化して、異なる個体における異なる配列決定レベルについて矯正した。カバー率を、各個体についての非冗長細菌ゲノムセットの全ての種にわたって合計し、この合計に対するそれぞれの種の割合を計算した。
【0040】
種の共存ネットワーク。少なくとも1つの個体内で1%以上のIlluminaリードによるゲノムカバー率を有していた155の種について、本発明者らは、124の個体のコホート全体を通した配列決定深度(存在度)間のペアワイズ種間ピアソン相関を計算した。結果として得た11,175の種間相関から、グラフ内のノードサイズとして各々の種の平均ゲノムカバー率を表示するCytoscape(Shannonら、Genome Res.13:2498−2504、2003)を用いて、グラフの形で、−0.4未満または0.4超(n=342)の相関を視覚化した。
【0041】
結果
使用されたコホートおよび方法の要約説明。コホートのサイズは、クローン病については患者8名と健康な対照13名であり、潰瘍性大腸炎については患者12名と健康な対照12名であった。各々の疾患について、遺伝子330万個の遺伝子カタログ全体を、2つのグループ間で有意に異なっているものについて、順位和検索によって検索した。遺伝子サイズ(より大きな遺伝子はより大きい標的であり、より多く見られる)および異なる個体についての配列決定範囲の差によって、遺伝子頻度を正規化した。有意に異なる遺伝子の数は、閾値およびグループ分割により影響される。手短かに言うと、p<3×10−4で3802の「CD(クローン病)関連遺伝子」が発見され、P<10−3で4841の「UC(潰瘍性大腸炎)関連遺伝子」が発見された。
【0042】
BMI遺伝子の包括的解析。個体別に、有意に異なる遺伝子、すなわちCD関連遺伝子(図1A)またはUC関連遺伝子(図1B)のいずれかをプロットした。健康な個体におけるCD関連遺伝子数の中央値は3038であり、クローン病患者においてはわずか643であった。遺伝子数の中央値は、2つのグループ間で非常に有意に異なっている(p<2×10−13、片側t検定)。同様にして、UC関連遺伝子数の中央値は、健康な個体において3402であり、潰瘍性大腸炎を患う患者においては1212であった。差異は統計学的に異なるものである(P<6.7×10−5、片側t検定)。
【0043】
全ての遺伝子およびCD関連遺伝子またはUC関連遺伝子の分布比較。ミクロビオームの全ての遺伝子およびCD関連遺伝子またはUC関連遺伝子の分布を比較した。CD関連遺伝子またはUC関連遺伝子に比べて、2つのグループの間で全遺伝子の数および頻度の差ははるかに小さいものである。CD関連遺伝子の分布は、全遺伝子分布を単純には反映していない。同様に、UC関連遺伝子の分布も、遺伝子分布の一般的傾向を単純には反映していない。したがって、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者における遺伝子の喪失は、有意である。
【0044】
CD関連種およびUC関連種。330万のカタログ中の遺伝子に帰属する分類学的割当てを用いて、CD関連遺伝子およびUC関連遺伝子を種に割当てた(Qinら、Nature、2010、in press、doi:10.1038/nature08821)。CD関連遺伝子の68%、ただし全遺伝子のわずか32.8%だけが、firmicutes由来であることが発見された。一方で、bacteroidetesの頻度は、CD関連遺伝子について22%、ミクロビオームの全遺伝子については18.4%であった。同様にして、UC関連遺伝子の70%がfirmicutes由来であり、わずか15%がbacteroidetes由来であった。したがって、炎症性腸疾患、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎はfirmicutesにおける変化と連関される。種は、まず、CD関連遺伝子およびUC関連遺伝子のうちでそれらの種に割当てられた遺伝子の数によって同定された。その後、同じ種に由来する他の遺伝子をカタログから引き出し、異なる個体内で各々の種についての50の代表的な遺伝子の存在を査定した(これは、種を同定するために現在行われている単一の16S遺伝子の使用と比較して全く遜色がなかった)。種は、マーカー遺伝子の少なくとも半分が一個体中に発見された場合に、存在するものとみなされた。健康な人と患者との間の分布の有意性は、カイ二乗検定を用いて、全コホート分布(クローン病については13対8、潰瘍性大腸炎については12対12)と比較することによって推定された。クローン病についてはFaecalibacterium prausnitziiおよびRoseburia inulinivoransが、健康な個体群と連関された(それぞれ、p=2.4×10−2およびp=9.3×10−3)。すなわちこれらは、患者には不存在である傾向にあった。一方で、Clostridium boltae、Clostridium ramosumおよびRuminococcus gnavusが患者コホートと連関された(p=4×10−3、p=1.8×10−3およびp=6.4×10−3)。種の同定に基づいて、これら5つの種の線形組合せが、クローン病表現型を完全に予測することが実証された(図2A)。健康な個体および患者は、それぞれ青色および赤色の点として示されている。種の存在(縦座標)は、遺伝子の合計、すなわち(クローン病と逆連関された)「優良な種」の遺伝子から(クローン病と連関された)「不良種」の遺伝子を差し引いたものに対応する。個体は、種の存在によってランキングされる(横座標)。個体は、「優良種」遺伝子が上回っている場合、ランクの最上部にあり、健康である傾向をもち、一方、「不良種」が上回っている場合、その個体は右側にあり、病気を患う傾向をもつ。潰瘍性大腸炎については、Akkermansia muciniphilaが健康な表現型と連関され、一方Bacteriodes capillosusおよびClostridium leptumが患者個体群と連関された。図2Bに示されている通り、3つの種の線形組合せが、潰瘍性大腸炎表現型を予測している。
【0045】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
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【表490】
【表491】
【表492】
【表493】
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【表579】
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【表596】
【表597】
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【表599】
【表600】
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【表611】
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【表614】
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【表616】
【表617】
【表618】
【表619】
【表620】
【表621】
【表622】
【表623】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821
【非特許文献2】Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【技術分野】
【0001】
炎症性腸疾患は、胃腸管の異なるレベルにおける持続的な粘膜炎症を特徴とする原因不明の慢性障害である。潰瘍性大腸炎およびクローン病が、炎症性腸疾患の2つの主要なタイプである。潰瘍性大腸炎は、結腸に限定された連続的な粘膜炎症をひき起こし、一方、クローン病は、胃腸管全体を通してあらゆるところに不連続的な貫壁性炎症をひき起こすが、回腸終端部に影響を及ぼすことが最も多い。最も一般的な腸内病変は、粘膜潰瘍形成、腸壁膨張、および腸内腔狭窄からなる。これらの慢性炎症性病変は、下痢、便意切迫、腹痛、および発熱、ならびに出血、腸閉塞、敗血症、および栄養失調を含む、さまざまな重症度の合併症などの症候をひき起こす場合がある。
【背景技術】
【0002】
疫学的研究により、1950年以降前世紀の間に西欧および北米におけるこのような疾病の発症率が確実に増大していることが実証された。南欧および日本では、発症率の上昇は、20年遅れて到来したが、今日では発症率は北欧や北米と同じように高い。最近のデータは、東欧諸国ならびに東南アジアにおける発症率の増加を示唆している。発症率の変化は、食習慣の変化ならびに公衆衛生の改善および工業化などの環境の変化を含むライフスタイルの西欧化に関係していると思われる。今日、複合有病率(潰瘍性大腸炎とクローン病)の数字は、先進諸国の人口の0.5%に至るまでが炎症性腸疾患に侵されていることを示唆している。
【0003】
炎症性腸疾患は多くの場合若齢で発症し、生涯を通じた健康障害をひき起こす潜在性を有することから、炎症性腸疾患が社会に及ぼす影響は過度に高い。現在のところ、炎症性腸疾患に対する治療法または根絶療法は全く存在しない。典型的に、潰瘍性大腸炎およびクローン病の両方とも、無制御の慢性的な粘膜炎症の発作と、その後の、寛解期中に起こる再形成プロセスとを伴う、起伏状の活性を示す。初期治療アプローチは通常、炎症性活性の発作を軽減し、寛解状態にある場合には将来の再発を防止するための薬物療法である。患者は、5−ASA(例えばメサラジン)、ステロイド(例えばプレドニゾロン)、および免疫抑制剤(例えばアザチオプリン)を含むさまざまな薬物により治療することができる。さらに、標準的な薬物治療が機能しない場合には、患者は、新しい生物学的薬物、例えばモノクローナル抗体(例えば抗TNF−α抗体インフリキシマブ)の投与を受ける場合もある。その全体的な効能にも関わらず、このような薬物には大きな負担が伴う可能性がある。これらの薬物は高価であるばかりでなく、副作用が一般的であり、免疫抑制剤ではその発生率は28%、ステロイドに至っては50%にのぼる。一部の患者は、全身感染症または新生組織形成などの重度の副作用を示す場合があり、したがって、現行の療法には密な監視が求められる。さらに、潰瘍性大腸炎患者のおよそ30%、そしてクローン病患者の50%が、その生涯のいずれかの時点で外科手術を必要とすることになる。
【0004】
利用可能な薬物療法は、このような疾病の根絶または根治を達成することができず、これは主として潰瘍性大腸炎とクローン病の精確な病因がなおも解明されていないという事実に起因している。しかしながら、過去数年間で、粘膜炎症性病変を導く病態生理学的機序は少なくとも一部分が明らかにされている。炎症性腸疾患において見られる炎症が、腸内微生物叢と粘膜免疫系との間の伝達異常によりひき起こされることの、有力な証拠が存在している。病原体に対する粘膜免疫系のヘルパーTリンパ球(Th)の防衛反応は、病原体の除去を目的とした炎症プロセスを伴うが、同時にこれらのプロセスは、宿主組織にも損傷を与える。正常な状況下では、一部の片利共生的腸内微生物は、腸内リンパ濾泡内の調節性Tリンパ球(Treg)の誘発のために主要な役割を果たすと思われる。調節性Tリンパ球は、非病原性として認識される微生物抗原に応答して炎症を誘発しないことから、「免疫寛容」と呼ばれる現象の中心的存在である。調節性Tリンパ球により媒介される免疫寛容は、宿主が炎症を通して応答することなく腸内部または他の体表面上の無害の抗原の巨大な負担を寛容し得るようにする、不可欠なホメオスタシス機構である。一連の証拠により、遺伝的感受性を有する個体において、内腔細菌に対するThリンパ球媒介型免疫が、腸内病変を生成しかつ/または病変の消散を妨害する炎症性プロセスの駆動における重要な事象であることが示唆される。腸内微生物叢と粘膜免疫コンパートメントとの相互作用不良は、慢性腸炎を導く異常をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の研究から、炎症性腸疾患を患う対象と健康な対照の間では糞便微生物叢の組成が異なるということがわかっている。報告された差異は可変的であり、さまざまな研究の間でつねに一貫性があるわけではない。したがって、炎症性腸疾患患者と健康な人を区別するために、公開されている差異を使用することは不可能である。しかしながら、以上で説明した通り、常在腸内微生物は、一定の状況下で、炎症性腸疾患、特にクローン病の発症および維持における決定因子である。したがって、炎症性腸疾患の一貫性ある診断を可能にする新規で信頼性の高い方法に対するニーズがなおも存在する。
【0006】
大部分の腸内片利共生生物は、培養不可能である。この制限を克服するために、ゲノム戦略が開発されてきた(HamadyおよびKnight、Genome Res、19:1141−ll52、2009)。これらの戦略は、微生物叢のゲノム中に含まれる遺伝子の集合体としてミクロビオームを定義づけすることを可能にした(Turnbaughら、Nature、449:804−8010、2007;HamadyおよびKnight、Genome Res.、19:1141−1152、2009)。ヒトの腸内微生物叢の系統発生学上の核を構成する全ての個体が共有する少数の種の存在が、実証されている(Tapら、Environ Microbiol.、11(10):2574−2584、2009)。近年、メタゲノム解析は、576.7ギガベースの配列に対応するヒトの腸の330万の非冗長性微生物遺伝子の広範なカタログを同定するに至った(Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、異なる個体におけるヒト糞便由来のDNA断片の単離および配列決定に基づく方法を使用した。腸由来の微生物遺伝子の広範なカタログが現在入手可能であることから(Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821)、特定の個体群(例えば、炎症性腸疾患を患う患者群)における特定の配列のコピー数および頻度を計算することができる。こうして特定の遺伝子の存在および不存在と特定の病状の存在または不存在との間のあらゆる相関関係を同定することが可能である。さらに、個体内の特定の遺伝子のコピー数を決定することが可能である。
【0008】
クローン病および潰瘍性大腸炎は、集合的に炎症性腸疾患と呼ばれる、消化管の慢性免疫炎症状態である。本発明者らは、クローン病または潰瘍性大腸炎を患う患者の一群と健康な人の対照群との間で著しく異なっている遺伝子を同定することができた。これらの遺伝子は表1(クローン病)および表2(潰瘍性大腸炎)に列挙されている。前記遺伝子は、患者の場合よりも健康な個体の場合の方が多い。この所見は、微生物遺伝子の総数が両方の個体群において異ならないため、統計学的に有意である。したがって、炎症性腸疾患を患う個体においては特定のヒト腸内微生物遺伝子の喪失が存在する。
【0009】
本発明の第1の態様は、少なくとも1つの遺伝子が個体の腸内ミクロビオームにおいて不存在であるか否かを判定するステップを含む、炎症性腸疾患の診断方法である。「個体の腸内ミクロビオーム」とは、本明細書において、前記個体の微生物叢を構成する全ての遺伝子のことである。したがって、「個体の腸内ミクロビオーム」という用語は、前記個体の腸内に存在する全ての細菌の全ての遺伝子に対応する。
【0010】
遺伝子は、ミクロビオーム中のそのコピー数が一定の閾値よりも低い場合、不存在である。本発明によると、「閾値」とは、問題の遺伝子のコピー数が個体のミクロビオーム中のコピー数の高低に対応している試料の判別を可能にする値を意味することが意図されている。詳細には、コピー数が閾値以下である場合には、ミクロビオーム中のこの遺伝子のコピー数は低いとみなされ、一方コピー数が閾値を超える場合には、ミクロビオーム中のこの遺伝子のコピー数は高いとみなされる。低いコピー数とは、遺伝子がミクロビオームに不存在であることを意味し、一方、高いコピー数は、遺伝子がミクロビオーム中に存在することを意味する。各々の遺伝子で、そして遺伝子のコピー数の測定に用いられる方法に応じて、最適な閾値は変動する場合がある。しかしながら、当業者であれば、コピー数(高低)がこの特定の遺伝子について公知である複数の個体のミクロビオームの解析に基づいて、かつ対照遺伝子のコピー数との比較に基づいて、それを容易に判定できる。
【0011】
本発明の方法はこうして、当業者が個体の腸内ミクロビオーム由来の遺伝子の存在または不存在のみに基づいて病状を診断することを可能にする。特定の遺伝子のコピー数とこの遺伝子を担持する細菌細胞数との間には直接的相関関係が存在する。本発明の方法はこうして、当業者がミクロビオームの解析によって腸内毒素症、すなわち微生物の平衡失調を検出することを可能にする。腸内の種は、大部分が培養不能であるため、その全てが同定されているわけではなく、また同定は困難である。さらに、所与の個体の腸内に発見される大部分の種は希有であり、そのため、それらの検出は困難になっている(HamadyおよびKnight、Genome Res.、19:1141−1152、2009)。本発明のこの第1の態様において、前記遺伝子が帰属する細菌種の事前の同定は全く必要とされない。したがって、本発明の診断方法は、公知の腸内細菌種の個体群における変化を判定することに制限されず、分類学的にまだ特徴づけされていない細菌をも包含する。
【0012】
前記個体の腸内微生物DNAの試料を得るための方法はいくつか存在する(Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008)。例えば、結腸鏡検査によって得られる粘膜標本または生検材料を調製することが可能である。しかしながら、結腸鏡検査は、研究毎に収集手順が明確に定義されていない侵襲的処置である。同様にして、外科的処置を通して生検材料を得ることもまた可能である。しかしながら、結腸鏡検査よりもさらに増して、外科的処置は侵襲的処置であり、微生物個体群に対するその影響は未知である。好適であるのは、糞便分析であり、これは当該技術分野において高い信頼性で使用されてきた手順である(Bullockら、Curr Issues Intest Microbiol.;5(2):59−64、2004;Manichanhら、Gut、55:205−211、2006;Bakirら、Int J Syst Evol Microbiol、56(5):931−935、2006;Manichanhら、Nucl.Acids Res.、36(16):5180−5188、2008;Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008)。この手順の一例は、実験例の方法の節で記載されている。糞便は、1グラム(湿重量)あたり約1011個の細菌細胞を含み、細菌細胞は糞塊の約50%を構成する。糞便の微生物叢は、遠位大腸の微生物学を主に代表するものである。したがって、個体の糞便由来の微生物DNAを大量に単離し解析することが可能である。「微生物DNA」とは、本明細書において、ヒトの腸の常在細菌集団のいずれかに由来するDNAとして理解される。「微生物DNA」という用語は、コード配列と非コード配列の両方を包含する。詳細には、それは、完全な遺伝子に限定されず、コード配列のフラグメントをも含む。したがって、糞便の分析は非侵襲的な手順であり、患者毎に、直接比較可能で一貫性のある結果を提供する。
【0013】
したがって、好ましい実施形態においては、本発明の方法は、前記個体の糞便に由来する微生物DNAを得るステップを含む。さらに好ましい実施形態においては、前記個体由来の糞便が収集され、DNAが抽出され、個体の腸内ミクロビオームにおける少なくとも1つの遺伝子の存在または不存在が判定される。遺伝子の存在または不存在は、当業者にとって公知のあらゆる方法によって判定されてよい。例えば、前記個体のミクロビオーム全体の配列を決定し、前記遺伝子の存在または不存在を、バイオインフォマティクス方法を用いて検索してよい。このような戦略の一例は、実験例の方法の節で記載されている。代替的には、問題の遺伝子を、特異的プローブでのハイブリダイゼーション、例えばサザンハイブリダイゼーションによってミクロビオーム中で探してもよい。この特定の実施形態においてはサザンハイブリダイゼーションが完璧に適してはいるものの、それでもマイクロアレイを使用する方がさらに便利でかつ高感度であるということは、当業者には直ちに明らかである。さらに別の実施形態において、問題の遺伝子の存在は、増幅、詳細には定量的PCR(qPCR)によって検出されてよい。これらの技術(サザン、マイクロアレイ、qPCRなど)は現在、当業者が日常的に使用しているものであり、したがってここで詳述する必要はない。
【0014】
別の好ましい実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらなる好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病である。別のさらなる実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。
【0015】
さらに別の好ましい実施形態において、個体の腸内ミクロビオームでの不存在または存在が判定される遺伝子は、表1および2に列挙されている遺伝子の群から選択される。さらに好ましい実施形態において、遺伝子は表1に列挙されている遺伝子の群から選択される。別のさらに好ましい実施形態において、遺伝子は表2に列挙されている遺伝子の群から選択される。当業者であれば、テストされる遺伝子の数が多くなればなるほど結果の信頼度は高くなるということを難なく理解するものである。別のさらに好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表1に列挙される遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表1の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表1の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を決定するステップを含む。別のさらに好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表2に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは、表2の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表2の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を決定するステップを含む。
【0016】
微生物叢内に見出される多数の細菌種が同定されていないものの、大部分の細菌がBacteroides属、Clostridium属、Fusobacterium属、Eubacterium属、Ruminococcus属、Peptococcus属、Peptostreptococcus属およびBifidobacterium属に属することがわかっている。EscherichiaおよびLactobacillusなどの他の属は、より少ない程度で存在する。これらの属に帰属する個別の種の中には同定されているものもあり、これらの種の遺伝子の一部は公知である。330万個の非冗長微生物遺伝子の同定を導いた広範なメタゲノム研究から、大部分の新しい配列の割当ても同様に可能になった。所与の種に属する遺伝子は、前記種の他の全ての遺伝子と同じ頻度で一個体内に存在する。こうして、本発明の方法を通して同定された遺伝子の各々について、前記遺伝子の存在または不存在と、さまざまな個体内で特定の細菌種に属することが公知である一組の遺伝子の存在または不存在との間に相関関係が存在するか否かを判定することが可能である。このような相関関係は、未知の遺伝子が前記特定の細菌種に属することを示す。したがって、本発明者らは、一部の細菌種が炎症性腸疾患の表現型と連関し、一方、他の細菌種は健康な表現型と連関するということを示した。炎症性腸疾患の表現型は、前記種の線形的な組合せによって予測され得る。すなわち、一個体の腸内に炎症性腸疾患の表現型と連関する細菌種が多く存在すればするほど、また前記個体の腸内に健康な表現型と連関する種が少なければ少ないほど、前記個体が炎症性疾患を患う確率が高くなる。例えば、一人の人間の腸内のFaecalibacterium prausnitziiおよびRoseburia inulinivoransの不存在、ならびにClostridium boltae、Clostridium ramosumおよびRuminococcus gnavusの存在は、この人がクローン病を患っていることを示す。同様にして、一個体の腸内のAkkermansia muciniphilaの不存在、ならびにBacteroides capillosusおよびClostridium leptumの存在は、この人間が潰瘍性大腸炎を患っていることを示す。
【0017】
当業者にとっては、本発明の遺伝子を、例えば炎症性腸疾患を患う患者の治療中に、バイオマーカーとして使用できるということは明白である。したがって、別の実施形態においては、本発明は、炎症性腸疾患治療の有効性をモニタリングするための方法を含む。治療が炎症性腸疾患に有効である場合、当初観察された腸内毒素症は徐々に消失する。前記個体が病気である場合、この個体の腸には一部の特異的遺伝子(例えば疾患がクローン病である場合は表1の遺伝子、または個体が潰瘍性大腸炎を患っている場合は表2の遺伝子)が不存在であるが、これらの遺伝子は治療中に再度出現する。したがって、この実施形態において、本発明の方法は、前記患者のミクロビオームに少なくとも1つの遺伝子が不存在であるか否かをまず判定するステップと、治療を施すステップと、前記少なくとも1つの遺伝子が患者のミクロビオーム中に存在するか否かを判定するステップとを含んでいる。好ましい一実施形態において、本発明の方法は、治療の前と後に前記個体の糞便から微生物DNAを得るステップをも含んでいる。さらに好ましい実施形態においては、前記個体由来の糞便は、治療の前と後に収集され、DNAが抽出され、個体の腸内ミクロビオームにおける少なくとも1つの遺伝子の存在または不存在が判定される。
【0018】
別の好ましい実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらに好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病であり、別のさらに好ましい実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。
【0019】
さらに別の好ましい実施形態において、個体の腸内ミクロビオームでの不存在または存在が判定される遺伝子は、表1および2に列挙されている遺伝子の群から選択される。さらに好ましい実施形態において、遺伝子は表1に列挙されている遺伝子の群から選択される。別のさらに好ましい実施形態において、遺伝子は表2に列挙されている遺伝子の群から選択される。本発明の方法の特定の実施形態において、表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、治療前の前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である。したがって、好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表1に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表1に列挙されている遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表1の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を判定するステップを含む。別の好ましい実施形態によると、本発明の方法は、表2に列挙されている遺伝子の少なくとも50%、より好ましくは表2の遺伝子の少なくとも75%、さらに一層好ましくは表2の遺伝子の少なくとも90%の存在または不存在を判定するステップを含む。
【0020】
本発明は同様に、炎症性腸疾患を患う患者の体内には不存在であり健康な人の体内には存在する全ての遺伝子を含む、本発明の方法の実施に専用のキットをも含んでいる。詳細には、本発明は、炎症性腸疾患を患う患者の体内には不存在であり健康な人の体内には存在する全ての遺伝子に結合するプローブを含む、本発明に係る方法の実施に専用のマイクロアレイに関する。好ましい実施形態において、前記マイクロアレイは、核酸マイクロアレイである。本発明によると、「核マイクロアレイ」は、マイクロチップ、スライドガラスまたはミクロスフェアサイズのビーズであり得る基材に付着された異なる核酸プローブで構成されている。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖類、シリカもしくはシリカベースの材料、炭素、金属、無機ガラス、またはニトロセルロースで構成されていてよい。プローブは、核酸、例えばcDNA(「cDNAマイクロアレイ」)またはオリゴヌクレオチド(「オリゴヌクレオチドマイクロアレイ」、なおオリゴヌクレオチドの長さは約25〜約60塩基対以下である)であり得る。核酸技術の代替として、定量的PCRも使用してよく、したがって試験すべき遺伝子に特異的な増幅プライマーも本発明に係る方法を実施するために非常に有用である。したがって、本発明はさらに、上述の通りの専用マイクロアレイ、または炎症性腸疾患を患う患者の体内では不存在であり健康な人の体内には存在する遺伝子に特異的な増幅プライマーを含む、患者の炎症性腸疾患を診断するためのキットに関する。これらのキットは、当業者が前記遺伝子の10%、25%、50%または75%を検出することを可能にし得るが、前記遺伝子の90%、95%、97.5%、またはさらには99%の検出を可能にする場合に最も有用である。したがって、本発明に係るマイクロアレイは、前記遺伝子の少なくとも10%、25%、50%または75%、好ましくは90%、95%、97.5%そしてさらに一層好ましくは少なくとも99%に結合するプローブを含む。同様にして、定量的PCR用のキットは、前記遺伝子の少なくとも10%、25%、50%または75%、好ましくは90%、95%、97.5%そしてさらに一層好ましくは少なくとも99%の増幅を可能にするプライマーを含むものである。
【0021】
好ましい実施形態において、炎症性腸疾患は、クローン病および潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。さらに好ましい実施形態において、前記疾患はクローン病であり、別のさらに好ましい実施形態において、前記疾患は潰瘍性大腸炎である。別の実施形態において、クローン病を患う患者の体内に不存在であり健康な人の体内には存在する遺伝子は、表1に列挙されている遺伝子であり、さらに別の実施形態において、これらの遺伝子は表2に列挙されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】CD関連遺伝子とUC関連遺伝子の包括的解析。A)健康な個体の体内にはより多くのCD関連遺伝子が存在する。CD関連遺伝子に応じた一個体あたりの遺伝子の数のプロットは、患者に比べて健康な個体において遺伝子が多いことを示している。B)健康な個体の体内にはより多くのUC関連遺伝子が存在する。UC関連遺伝子の関数としての一個体あたりの遺伝子の数のプロットは、患者に比べて健康な個体において遺伝子が多いことを示している。
【図2】A)5つの種の線形的な組合せが、規定されたレベル(遺伝子の少なくとも50%)でそれらを有するコホートの部分について、クローン病の表現型を充分に判別している。B)3つの種が潰瘍性大腸炎について判別している。
【0023】
方法
ヒト糞便試料の収集。スペイン人の個体は、健康な対照または、臨床的寛解期の慢性炎症性腸疾患(クローン病または潰瘍性大腸炎)を患う患者であった。患者および健康な対照には、凍結させた排泄物試料の提供を求めた。新鮮な排泄物試料を自宅で採取し、試料を自宅の冷凍庫に保管することによって直ちに凍結させた。凍結した試料を、断熱発泡スチロールのコンテナを用いて病院まで運び、その後、分析まで−80℃で保管した。
【0024】
DNA抽出。各糞便試料の凍結したアリコート(200mg)を、250μlのチオシアン酸グアニジン、0.1Mのトリス(pH7.5)および40μlの10%N−ラウロイルサルコシン中に懸濁させた。その後、以前に記述された通りに(Manichanhら、Gut、55:205−211、2006)、DNA抽出を行った。DNA濃度およびその分子サイズを、ナノドロップ(Thermo Scientific)およびアガロースゲル電気泳動によって推定した。
【0025】
DNAライブラリーの構築および配列決定。DNAライブラリーを、メーカーの指示(Illumina)にしたがって調製した。クラスタ生成、鋳型ハイブリダイゼーション、等温増幅、線形化、遮断および変性、ならびに配列決定用プライマーのハイブリダイゼーションを実施するために、他の箇所で記載されたものと同じワークフローを使用した。蛍光原画像を処理し配列を呼び出すために、塩基呼び出しパイプライン(IlluminaPipeline−0.3バージョン)を使用した。実験再現性の検証のために、最初の15の試料の各々について1つのライブラリー(クローンインサートサイズ200bp)を構築し、そして残りの109の試料の各々について、異なるクローンインサートサイズ(135bpおよび400bp)を有する2つのライブラリーを構築した。新規な配列の生成と配列決定深度との間の最適なリターンを推定するため、本発明者らは、Short Oligonucleotide Alignment Program(SOAP)(Liら、Bioinformatics、25:1966−1967、2009)、および95%の配列同一性というマッチ要件を用いて、試料MH0006およびMH0012から得られたIllumina GAリードを、同じ2つの試料(それぞれ156.9および154.7Mb)から生成された合計311.7Mbの468,335Sangerリードに対してアラインした。約4GbのIllumina配列で、Sangerリードの94%および89%(それぞれMH0006およびMH0012について)がカバーされた。それぞれMH0006およびMH0012について12.6および16.6Gbまでのさらなる広範な配列決定は、約95%までの中程度のカバー率の増加しかもたらさなかった。Sangerリードの90%超が、非常に高く均一なレベルまで、Illumina配列によってカバーされ、これは、IlluminaGA配列にはほとんどまたは全く偏りが存在しないことを示す。予期した通り、Illumina配列の大部分(それぞれM0006およびM0012について57%と74%)は新規のものであり、Sangerリード上にマッピングできなかった。この割合は、4および12〜16Gbの配列決定レベルで類似しており、これにより、新規のものの大部分が4Gbですでに捕捉されていることが裏付けられた。
【0026】
本発明者らは、残りの122の試料について、3540万〜9760万のリードを生成し、平均は6250万リードであった。15個の試料の最初のバッチの配列決定リード長は44bpであり、第2のバッチは75bpであった。
【0027】
使用された公開データ。GenBankに寄託されていた配列決定済みの細菌ゲノム(合計806ゲノム)を、2009年1月10日にNCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からダウンロードした。公知のヒト腸内細菌ゲノム配列を、HMPデータベース(http://www.hmpdacc−resources.org/cgi−bin/hmp_catalog/main.cgi)、GenBank(67ゲノム)、St Louisのワシントン大学(85ゲノム、2009年4月バージョン、http://genome.wustl.edu/pub/organism/Microbes/Human_Gut_Microbiome/)からダウンロードし、MetaHITプロジェクト(17ゲノム、2009年9月バージョン、http://www.sanger.ac.uk/pathogens/metahit/)によって配列決定した。このプロジェクトで使用された他の腸内メタゲノムデータには、以下のものが含まれる:(1)登録番号SRA002775でNCBIからダウンロードされた、米国人個体から配列決定されたヒト腸メタゲノムデータ(Zhangら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、106:2365−2370、2009);(2)EMBL(http://www.bork.embl.de)でP.Borkのグループからダウンロードされた、日本人個体に由来するヒト腸内メタゲノムデータ(Kurokawaら、DNA Res.14:169−181、2007)。本研究において本発明者らが構築した統合NRデータベースは、NCBI−NRデータベース(2009年4月バージョン)および公知のヒト腸内細菌ゲノムに由来する全ての遺伝子を含んでいた。
【0028】
IlluminaGAショートリードのデノボアセンブリ。各DNA試料の高品質ショートリードを、SOAPデノボアセンブラ(Li.& Zhu、Genome Res.、20(2):265−272、2010)によりアセンブルした。要するに、本発明者らはまず17merの頻度にしたがってアセンブリから存在度の低い配列をフィルタリングした。5未満の深度の17merを、アセンブリの前にスクリーニングしたが、これは、これらの低頻度配列がアセンブルされる可能性がきわめて低く、一方、それらを除去することで所要メモリーが著しく削減され、アセンブリは通常のスーパーコンピュータ(我々の研究機関では512GBメモリー)で実現可能なものとなると考えられるからである。次に、配列を1つずつ処理し、Bruijinグラフデータフォーマットを用いて、配列間のオーバーラップ情報を記憶した。単一のリードにより裏付けされたオーバーラップパスは信頼性が低く、除去された。配列決定のエラーまたは微生物株間の遺伝的ばらつきを原因とする短い低深度チップおよびバブルは、それぞれトリムおよびマージされた。リードパスを用いて、極小さい反復を解決した。最終的に、反復境界において連結を破断し、明確な連結をもつ連続配列をコンティグとして出力した。メタゲノム特殊モデルを選択し、パラメータ「−K21」および「−K23」をそれぞれ44bpと75bpのリードについて使用して、求められる最小の配列オーバーラップを示した。独立して各試料についてデノボアセンブリを行った後、アセンブルされていない全てのリードを共にマージし、それらについてアセンブリを実施して、データの使用を最大限にし、各リードセット内での頻度は低いものの全ての試料のデータを合わせることによるアセンブリには充分な配列深度を有する微生物ゲノムをアセンブルした。
【0029】
Sangerリードを用いたIlluminaコンティグの検証。BLASTN(WUBLAST2.0)を用いて、試料MH0006およびMH0012に由来するSangerリード(それぞれ156.9Mbおよび154.7Mb)を、同じ試料に由来するIlluminaコンティグ(長さが75bp超で同一性が95%超の単一の最良ヒット)に対してマッピングした。アライメントの片端においてアラインされていなまま残された少なくとも50個の塩基を両方の配列が有しているコリアリニティの崩壊について、各アライメントをスキャンした。このような崩壊は各々、コリアリニティが崩壊している場所におけるIlluminaコンティグ内のアセンブリエラーとみなされた。互いから30bp以内のエラーは、マージされた。エラーの両側の60bpについてのコンティグ構造と一致するSangerリードが存在する場合、エラーは廃棄された。比較のため、本発明者らは、MH0006由来の454Titaniumリード(550Mbのリード)のNewbler2アセンブリに対してこれを反復した。本発明者らは、Illuminaアセンブリについてコンティグの1Mbあたり14.12個のエラーを推定し、これは、454アセンブリのもの(1Mbあたり20.73)に匹敵している。少なくとも1つのSangerリードをマッピングするIlluminaコンティグの98.7%は、マッピングされた領域の99.55%にわたりコリニアであったが、これは、このような454のコンティグの97.86%が、マッピングされた領域の99.48%にわたりコリニアであることに匹敵する。
【0030】
ヒト腸内ミクロビオームのカバー率の評価。最初の35bpの領域内の多くとも2つのミスマッチおよびリード配列全体にわたる90%の同一性を許容することにより、SOAPを用いて、アセンブルされたコンティグおよび公知の細菌ゲノムに対して、IlluminaGAリードをアラインした。1×10−8、100bp超のアラインメント長、および最低90%の同一性カットオフでBLASTNを用いて、同じ基準に対して、Roche/454およびSanger配列決定リードをアラインした。SOAPにより、MH0006およびMH0012のGAリード、同じ試料からのSangerリードに対してアラインした場合、二つのミスマッチが許容され、同一性はリード配列全体にわたり95%に設定された。
【0031】
非冗長遺伝子セットの遺伝子予測および構築。所与の配列のGC含有量により推定されたジコドン頻度を使用し、かつ匿名ゲノム配列に基づきORFの全範囲を予測する、Meta Gene(Noguchiら、Nucleic Acids Res.、34、5623−5630、2006)を用いて、124の試料各々のコンティグから、ならびにマージされたアセンブリのコンティグから、ORFを見出す。その後、予測されたORFをBLAT(Kentら、Genome Res.、12:656−664、2002)を用いて互いにアラインした。95%超の同一性、およびより短い遺伝子の90%にわたりカバーされたアライン長を有する遺伝子対を、グループにまとめた。次に遺伝子を共有するグループをマージし、マージされたグループの各々の中の最長のORFを用いてそのグループの代表とし、グループの他のメンバーを冗長性とみなした。したがって、本発明者らは、冗長性を排除することにより、予測された遺伝子の全てから非冗長性遺伝子セットを組織した。最後に、100bp未満の長さを有するORFがフィルタリングされた。NCBI遺伝子コードを用いてORFをタンパク質配列に翻訳した(Leyら、Nature Rev.Microbiol、.6:776−788、2008)。
【0032】
遺伝子の同定。存在度の低い遺伝子を同定することと同定のエラー率を削減することとの間のバランスを保つため、本発明者らは、個別のミクロビオーム中の遺伝子を同定するために必要とされるリードカバー率について設定された閾値の影響を調査した。同定に必要とされるリードの数が2から6に増加した時点で、遺伝子数は約2分の1に減少し、その後はゆっくりと変化した。それでも、希少な遺伝子を解析に含み入れるために、本発明者らは、2回のリードの閾値を選択した。
【0033】
遺伝子の分類学的割当て。予測された遺伝子の分類学的割当ては、統合NRデータベースに対するBLASTPアライメントを用いて実施された。1×10−5より大きいe値でBLASTPアライメントのヒットをフィルタリングし、各々の遺伝子について、e値≦10×トップヒットのe値により定義づけされた有意なマッチを、分類学的グループを区別するために保持した。その後、MEGAN(Husonら、Genome Res.、17:377−386、2007)で実行された最近共通祖先(LCA)ベースのアルゴリズムにより、各遺伝子の分類学的レベルを判定した。LCAベースのアルゴリズムは、割当てられた分類群の分類学的レベルが遺伝子の保存レベルを反映するような形で、遺伝子を分類群に割当てる。例えば、遺伝子が数多くの種に保存されていた場合、それは、種ではなくむしろLCAに割当てられた。
【0034】
遺伝子の機能的分類。BLASTPを用いて、e値≦1×10−5で、eggNOGデータベース(Jensenら、Nucleic Acids Res.、36:D250−D254、2008)とKEGGデータベース(Kanehisaら、Nucleic Acids Res.、32:D277−D280、2004)内で予測された遺伝子のタンパク質配列を検索した。最低のe値を有するNOGホモログまたはKEGGホモログに応じて、遺伝子に注釈付けした。eggNOGデータベースは、COGおよびKOGデータベースの統合である。COGで注釈付けされた遺伝子は、25のCOGカテゴリーに分類され、KEGGにより注釈付けされた遺伝子は、KEGGパスウェイ内に割当てられた。
【0035】
最小腸内細菌ゲノムの決定。eggNOGクラスタに割当てられた非冗長遺伝子の数は、遺伝子の長さとクラスタコピー数で正規化された。クラスタを、正規化された遺伝子数によりランキングし、不可欠のBacillus subtilis遺伝子をコードするクラスタを含んでいた範囲を決定し、100個のクラスタの連続的グループ内のこれらのクラスタの割合を計算した。遺伝子クラスタの範囲の解析には、iPath画像以外に、KEGGの使用ならびにパスウェイの完全性およびそれらがコードするタンパク質機構の手動の確認を用いた。
【0036】
全機能的補体と最小メタゲノムの決定。本発明者らは、n個の個体(n=52〜124、1ビンあたり100の複製)のランダムな組合せ中に存在するオルソロググループおよび/または遺伝子ファミリーの合計数および共有数を計算した。この解析は、遺伝子クラスタの次の3つのグループについて実施された:(1)公知のeggNOGオルソロググループ(すなわち、[Uu]ncharacteri[sz]ed、[Uu]nknown、[Pp]redictedまたは[Pp]utativeという用語が存在するものを除く、機能的注釈付けを伴うグループ);(2)全てのeggNOGオルソロググループ;(3)以上の2つのカテゴリーに割当てされなかった残りの遺伝子から構築された遺伝子ファミリーを加えた、全てのオルソロググループ。ファミリーは、1.1の拡大要因と60というビットスコアカットオフでMCL(van Dongen、Ph.D.Thesis、Univ.Utrecht、2000)を用いて、総当りBLASTPの結果からクラスタ化された。
【0037】
希薄化解析。メモリーによる制限のため100個の無作為にピックアップした試料について、EstimateSを用いて、全遺伝子豊富度の推定を行った。CV値は0.5超であったことから、Chao2豊富度推定量(従来のもの)およびICE豊富度推定量を計算し、2つのうちの大きい方の推定値(ICE)を使用した。この試料サイズについての推定値は、3,621,646個の遺伝子(ICE)であり、一方Sobs(Mao Tau)は3,090,575個の遺伝子、つまり85.3%であった。ICEの推定量曲線は、完全には飽和せず、このことは、最終的な決定的推定値を達成するためには、追加の試料を加える必要があることを示していた。
【0038】
共通の細菌核。非常に類似した株の影響を除去し、コホートの個体中の公知の微生物種の存在を評価するために、本発明者らは基準セットとして650の配列決定された細菌ゲノムおよび古細菌ゲノムを使用した。このセットは、932個の公的に入手可能なゲノムで構成され、これらのゲノムは、90%の同一性カットオフと少なくとも80%の長さにわたる類似性とを用いて、類似性によってグループ分けされた。各グループから最大のゲノムのみが使用された。124の個体に由来するIlluminaリードを、種プロファイリング解析のためにセットにマッピングし、同じ種に由来するゲノム(サイズを20%超異なるようにすることによる)を、手作業での検査によって、かつ配列が入手可能である場合には16Sベースのクラスタ化を用いることによって、キュレートした。
【0039】
個体間の微生物ゲノムの相対的存在度。本発明者らは、Illuminaリードを一意的にマッピングすることによりゲノムカバー率を計算し、それを1Gbの配列に正規化して、異なる個体における異なる配列決定レベルについて矯正した。カバー率を、各個体についての非冗長細菌ゲノムセットの全ての種にわたって合計し、この合計に対するそれぞれの種の割合を計算した。
【0040】
種の共存ネットワーク。少なくとも1つの個体内で1%以上のIlluminaリードによるゲノムカバー率を有していた155の種について、本発明者らは、124の個体のコホート全体を通した配列決定深度(存在度)間のペアワイズ種間ピアソン相関を計算した。結果として得た11,175の種間相関から、グラフ内のノードサイズとして各々の種の平均ゲノムカバー率を表示するCytoscape(Shannonら、Genome Res.13:2498−2504、2003)を用いて、グラフの形で、−0.4未満または0.4超(n=342)の相関を視覚化した。
【0041】
結果
使用されたコホートおよび方法の要約説明。コホートのサイズは、クローン病については患者8名と健康な対照13名であり、潰瘍性大腸炎については患者12名と健康な対照12名であった。各々の疾患について、遺伝子330万個の遺伝子カタログ全体を、2つのグループ間で有意に異なっているものについて、順位和検索によって検索した。遺伝子サイズ(より大きな遺伝子はより大きい標的であり、より多く見られる)および異なる個体についての配列決定範囲の差によって、遺伝子頻度を正規化した。有意に異なる遺伝子の数は、閾値およびグループ分割により影響される。手短かに言うと、p<3×10−4で3802の「CD(クローン病)関連遺伝子」が発見され、P<10−3で4841の「UC(潰瘍性大腸炎)関連遺伝子」が発見された。
【0042】
BMI遺伝子の包括的解析。個体別に、有意に異なる遺伝子、すなわちCD関連遺伝子(図1A)またはUC関連遺伝子(図1B)のいずれかをプロットした。健康な個体におけるCD関連遺伝子数の中央値は3038であり、クローン病患者においてはわずか643であった。遺伝子数の中央値は、2つのグループ間で非常に有意に異なっている(p<2×10−13、片側t検定)。同様にして、UC関連遺伝子数の中央値は、健康な個体において3402であり、潰瘍性大腸炎を患う患者においては1212であった。差異は統計学的に異なるものである(P<6.7×10−5、片側t検定)。
【0043】
全ての遺伝子およびCD関連遺伝子またはUC関連遺伝子の分布比較。ミクロビオームの全ての遺伝子およびCD関連遺伝子またはUC関連遺伝子の分布を比較した。CD関連遺伝子またはUC関連遺伝子に比べて、2つのグループの間で全遺伝子の数および頻度の差ははるかに小さいものである。CD関連遺伝子の分布は、全遺伝子分布を単純には反映していない。同様に、UC関連遺伝子の分布も、遺伝子分布の一般的傾向を単純には反映していない。したがって、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者における遺伝子の喪失は、有意である。
【0044】
CD関連種およびUC関連種。330万のカタログ中の遺伝子に帰属する分類学的割当てを用いて、CD関連遺伝子およびUC関連遺伝子を種に割当てた(Qinら、Nature、2010、in press、doi:10.1038/nature08821)。CD関連遺伝子の68%、ただし全遺伝子のわずか32.8%だけが、firmicutes由来であることが発見された。一方で、bacteroidetesの頻度は、CD関連遺伝子について22%、ミクロビオームの全遺伝子については18.4%であった。同様にして、UC関連遺伝子の70%がfirmicutes由来であり、わずか15%がbacteroidetes由来であった。したがって、炎症性腸疾患、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎はfirmicutesにおける変化と連関される。種は、まず、CD関連遺伝子およびUC関連遺伝子のうちでそれらの種に割当てられた遺伝子の数によって同定された。その後、同じ種に由来する他の遺伝子をカタログから引き出し、異なる個体内で各々の種についての50の代表的な遺伝子の存在を査定した(これは、種を同定するために現在行われている単一の16S遺伝子の使用と比較して全く遜色がなかった)。種は、マーカー遺伝子の少なくとも半分が一個体中に発見された場合に、存在するものとみなされた。健康な人と患者との間の分布の有意性は、カイ二乗検定を用いて、全コホート分布(クローン病については13対8、潰瘍性大腸炎については12対12)と比較することによって推定された。クローン病についてはFaecalibacterium prausnitziiおよびRoseburia inulinivoransが、健康な個体群と連関された(それぞれ、p=2.4×10−2およびp=9.3×10−3)。すなわちこれらは、患者には不存在である傾向にあった。一方で、Clostridium boltae、Clostridium ramosumおよびRuminococcus gnavusが患者コホートと連関された(p=4×10−3、p=1.8×10−3およびp=6.4×10−3)。種の同定に基づいて、これら5つの種の線形組合せが、クローン病表現型を完全に予測することが実証された(図2A)。健康な個体および患者は、それぞれ青色および赤色の点として示されている。種の存在(縦座標)は、遺伝子の合計、すなわち(クローン病と逆連関された)「優良な種」の遺伝子から(クローン病と連関された)「不良種」の遺伝子を差し引いたものに対応する。個体は、種の存在によってランキングされる(横座標)。個体は、「優良種」遺伝子が上回っている場合、ランクの最上部にあり、健康である傾向をもち、一方、「不良種」が上回っている場合、その個体は右側にあり、病気を患う傾向をもつ。潰瘍性大腸炎については、Akkermansia muciniphilaが健康な表現型と連関され、一方Bacteriodes capillosusおよびClostridium leptumが患者個体群と連関された。図2Bに示されている通り、3つの種の線形組合せが、潰瘍性大腸炎表現型を予測している。
【0045】
【表1】
【表2】
【表3】
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【表5】
【表6】
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【表620】
【表621】
【表622】
【表623】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】Qinら、Nature、2010、doi:10.1038/nature08821
【非特許文献2】Sokolら、Inflamm.Bowel Dis.、14(6):858−867、2008
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患を診断する方法において、表1および/または表2に由来する少なくとも1つの遺伝子が個体の腸内ミクロビオームに不存在であるか否かを判定するステップを含む方法。
【請求項2】
炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記個体の糞便から微生物DNAを得るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
炎症性腸疾患の治療の有効性をモニタリングする方法において、前記患者のミクロビオームに少なくとも1つの遺伝子が不存在であるか否かを最初に判定するステップと、治療を施すステップと、前記少なくとも1つの遺伝子が患者のミクロビオーム中に存在するか否かを判定するステップとを含む方法。
【請求項6】
炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、治療前に前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記個体の糞便から微生物DNAを得る少なくとも1つのステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、97.5%または99%に対しハイブリダイズするプローブを含むマイクロアレイ。
【請求項10】
請求項9に記載のマイクロアレイまたは、表1および/もしくは表2の遺伝子の少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、97.5%もしくは99%に特異的な増幅プライマーを含む、炎症性腸疾患の診断用キット。
【請求項1】
炎症性腸疾患を診断する方法において、表1および/または表2に由来する少なくとも1つの遺伝子が個体の腸内ミクロビオームに不存在であるか否かを判定するステップを含む方法。
【請求項2】
炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記個体の糞便から微生物DNAを得るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
炎症性腸疾患の治療の有効性をモニタリングする方法において、前記患者のミクロビオームに少なくとも1つの遺伝子が不存在であるか否かを最初に判定するステップと、治療を施すステップと、前記少なくとも1つの遺伝子が患者のミクロビオーム中に存在するか否かを判定するステップとを含む方法。
【請求項6】
炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも50%、75%または90%が、治療前に前記個体の腸内ミクロビオームに不存在である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記個体の糞便から微生物DNAを得る少なくとも1つのステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
表1および/または表2の遺伝子の少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、97.5%または99%に対しハイブリダイズするプローブを含むマイクロアレイ。
【請求項10】
請求項9に記載のマイクロアレイまたは、表1および/もしくは表2の遺伝子の少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、97.5%もしくは99%に特異的な増幅プライマーを含む、炎症性腸疾患の診断用キット。
【公表番号】特表2013−520972(P2013−520972A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555404(P2012−555404)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053039
【国際公開番号】WO2011/107481
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053039
【国際公開番号】WO2011/107481
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】
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