説明

炎症性腸疾患治療剤

【課題】炎症性腸疾患の治療、改善に用いることのできる安全性に優れた改善剤を提供すること。
【解決手段】魚類や軟体動物から抽出されるヒアルロン酸に対して結合活性を有するプロテオグリカンであって、GPCによる重量平均分子量は、それぞれ魚類が70万から200万ダルトン、軟体動物が30万から200万ダルトンである該プロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする炎症性腸疾患改善剤より、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸結合活性を有したプロテオグリカンの炎症性腸疾患の改善効果を目的とした治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我国の食生活は、高タンパク、高脂肪の欧米型に激変し、一方、精神的ストレスが増加した社会生活に変貌してきているが、それらを背景として腸の病気が急増している。なかでも、潰瘍性大腸炎やクーロン病等の炎症性腸疾患は、元々欧米に多い病気であるが、わが国でも、両疾患とも毎年10%程度の割合で増加し、その患者数は、現在合計約20万人と激増している。
【0003】
これら潰瘍病性大腸炎やクーロン病の原因については、細菌による感染説、免疫異常説などが有力視されているが未だ解明されていない。これらの疾患の治療には、現在、薬物療法として、サリチル酸製剤やステロイド薬や免疫抑制薬を使用している。
しかしながら、これらの薬剤には副作用があり、副作用に注意をしながら慎重に使用しなければいけないという問題があった。また、症状の増悪に精神的ストレスが大きく、抗不安薬や精神安定剤などを処方して不安を取り除くことも必要であった。
【0004】
また、薬剤を経直腸投与剤として、座剤、注腸剤で治療する試みも行われている(例えば特許文献1)。しかしながら、根本的な治療ができておらず、未だ不十分な状態が続いている。
【特許文献1】特開2005−089306
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような炎症性疾患の治療、改善に用いることができる極めて安全性の高い、副作用の心配なく使用できる治療剤または健康食品として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、GPCで測定した重量平均分子量(MW)が70万ダルトンから200万ダルトンの魚類の軟組織から抽出されるプロテオグリカンであって、該プロテオグリカンはヒアルロン酸に対する結合活性を有しているプロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする炎症性腸疾患治療剤に関する。当該炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎、クーロン病等が含まれる。
【0007】
更に、本発明は、請求項2記載の通り魚類が鮭であることを特徴とする炎症性腸疾患治療剤に関する。
【0008】
また、更に、本発明は、GPCで測定した重量平均分子量(MW)が30万ダルトンから200万ダルトンの軟体動物の軟組織から抽出されるプロテオグリカンであって、該プロテオグリカンにはヒアルロン酸に対する結合活性を有しているプロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする炎症性腸疾患治療剤に関する。
【0009】
また、更に、本発明は、請求項4記載の通り軟体動物がイカであることを特徴とする炎症性腸疾患治療剤に関する。
【0010】
プロテオグリカンとは、タンパク質と多糖の結合したものであり、コアタンパク質にグルコサミングルカン鎖が共有結合された複合体の総称である。
このプロテオグリカンはヒアルロン酸やコラーゲンと共に、生体の皮膚、軟骨、血管等に広く分布し、特に軟骨を構成する重要成分であり、生命維持に大きな役割を果たしている。
【0011】
近年、鮭等の軟骨から安価に大量抽出する技術が確立されたが、例えば、酢酸で精製する方法はその工程でプロテオグリカンの一部分解が起こり、また、ヒアルロン酸と結合活性を有する部位を持つプロテオグリカンは得られていなかった。
【0012】
そこで、例えば、特許第4219974号により、希アルカリ溶液で抽出することにより、本発明のヒアルロン酸と結合活性を有する部位を持ったプロテオグリカンを製造することができる。
【0013】
本発明のヒアルロン酸に対する結合活性を有するプロテオグリカンの好ましい分子量の範囲はGPCによる重量平均分子量で、魚類の場合は、70万ダルトンから200万ダルトン、軟体動物の場合は30万ダルトンから200万ダルトンである。重量平均分子量が魚類の場合は70万ガルトン以下、軟体動物の場合は30万ダルトン以下では、それぞれのプロテオグリカンのヒアルロン酸に対する結合活性部位が欠落したものとなる。
また、両者とも200万ダルトン以上のものは、製造により高純度のものを得るのが難しく好ましくない。
【0014】
本発明のヒアルロン酸に対する結合活性を有するプロテオグリカンが保水性、血色改善効果はあることが知られているが、炎症性腸疾患治療の効果の作用については不明である。
(1)プロテオグリカンのヒアルロン酸と結合活性を有する部位は、リンクプロテインと呼ばれるタンパク質と推定されるが、この部位は、特異構造を持っており、生体のヒアルロン酸と一層強く結合して、巨大会合体を形成する。
(2)該プロテオグリカンは、魚類から抽出精製した重量平均分子量が70万から200万ダルトン、及び軟体動物から抽出した重量平均分子量が30万から200万ダルトンの分子量を持っており、これらの分子量サイズを持つことにより免疫細胞に応答しやすいこと。
(3)また、免疫、炎症に関与しているサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質であって、細胞に情報伝達をする役割を果たしている)が抱き込まれている可能性がある。
これらに作用によって、免疫バランスを正常化させ潰瘍性大腸炎やクーロン病などの炎症性腸疾患治療に効果を発現しているものと推定される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、魚類から抽出精製した重量平均分子量が70万から200万ダルトン、及び軟体動物から抽出した重量平均分子量が30万から200万ダルトンのヒアルロン酸と結合活性を有するプロテオグリカンは、潰瘍性大大腸炎やクーロン病などの炎症性腸疾患治療という新規医薬用途に提供できる。
【0016】
従来の治療薬のような、副作用もなく、極めて安全性が高く、炎症性腸疾患の患者はむろん、健常者でも健康食品として摂取可能である。
【0017】
また、軽症から中程度の患者用として副作用の少ない炎症性腸疾患治療薬5−アミノサリチル酸等の治療薬との併用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に使用されるプロテオグリカンに関する参考例1のELISA法による測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の有効成分のヒアルロン酸と結合活性を有するプロテオグリカンは、魚類や軟体動物の軟組織、具体的には、鮭、サメ、エイ、イカ、タコ等の軟組織を公知の方法により精製されて製造されても良い。例えば、特許第4219974号記載の希アルカリを用いる方法で製造することができる。
【0020】
本発明において、プロテオグリカンの製造に利用される上記生物の軟組織とは、魚類の場合、例えば、鮭の頭部の鼻軟骨、軟体動物の場合、例えばイカの顎軟骨や表皮、肝臓などの内臓外皮があげられる。
【0021】
本発明の分子量の測定は高速液体クロマトグラフィーのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)モードで測定した。
【0022】
また、本発明のプロテオグリカンのヒアルロン酸との結合活性の有無については、ELISA法を用いた。ELISA法は、特定タンパク質の検出に用いられる免疫科学的方法であり、感度が良く特異性が高い。動物に異種タンパクが進入すると、そのタンパク質と特異的に結合するタンパク質である「抗原抗体複合体」が出来る。その抗原抗体複合体に対して測定しやすい酵素を共有結合で付けた第二の抗体を結合させ、その酵素を定量することで、目的のタンパク量を測定する原理を用いる。
【0023】
治療剤として本発明の有効成分であるヒアルロン酸と結合活性を有するプロテオグリカンを使用する場合は、顆粒、カプセル、錠剤または水溶液として製剤化することができる。例えば、錠剤にする場合は、添加剤として例えば、でんぷん、ブドウ糖、乳糖、果糖、炭酸マグネシウム、メチルセルロース、CMC、アラビアゴム、ポリエチレングリコール等を用いる公知方法で経口摂取可能な形にすることが出来る。
【0024】
また、サプリメント等の健康食品の形態とすることも可能で、薬理効果のある機能食品として摂取しても良い。
【0025】
本発明の有効成分であるヒアルロン酸と結合活性を有するプロテオグリカンを炎症性腸疾患の改善剤として使用する場合、投与量は、投与する患者の症状、年齢、性別、体重等により異なり、経口投与では、本発明の有効成分であるヒアルロン酸と結合活性を有するプロテオグリカンを好ましくは1〜300mg/日程度である。
【参考例1】
【0026】
特許第4219974号記載の方法より鮭の鼻軟骨から抽出したプロテオグリカンをGPCにより重量平均分子量を測定した結果、120万ダルトンであった。
【0027】
このプロテオグリカン(PG)の所定濃度の溶液を調整し、ELISA法試験により、ヒアルロン酸に対する結合活性を評価した。各種PG溶液を調整後、ELISAプレートの表面にヒアルロン酸を固定し、これに上記の調整液を添加し1時間反応させた後、洗浄した。ついで、抗コンドロイチン硫酸抗体液を添加し、更に1時間反応させた後、再洗浄した。次いで、HRP標識2次抗体溶液を添加し、更に1時間反応させた後洗浄した。発色基質溶液を添加し、30分反応させた後、反応停止し、吸光度を測定した。その結果、図1に示すように、本発明のプロテオグリカン(PG)には、ヒアルロン酸に対する結合活性を示す発色基質溶液の発色が見られた。一方、従来の公知技術(特開2002−69097)により鮭の軟骨より酢酸で抽出精製されたプロテオグリカンは、同じくELIS法試験により、ヒアルロン酸に対する結合活性を測定したところ、活性を示さない結果となった。
【実施例1】
【0028】
参考例1で示す鮭の鼻軟骨から調整したプロテオグリカン(GPCによる重量平均分子量120万ダルトン)の粉末を70mg秤量し、ゼラチン製のカプセルに充填し、カプセル剤をつくった。
【実施例2】
【0029】
参考例1と同様な製法で作製した鮭の鼻軟骨から調整したヒアルロン酸に対する結合活性を有するプロテオグリカン(GPCによる重量平均120万ダルトン)の粉末100mgと乳糖、バインダーを混合して、該プロテオグリカン含有の0.5g/個の錠剤をつくった。
【実施例3】
【0030】
スルメイカの顎軟骨を原料として参考例1と同様な方法で調整したヒアルロン酸に対する結合活性を有するプロテオグリカン(GPCによる重量平均分子量30万ダルトン)の粉末100mgをヒドロキシプロピルメチルセルロース製のカプセルに充填し、カプセル剤をつくった。
【試験例1】
【0031】
15歳の女性、クーロン病で、罹病期間2年。治療薬として、ペンタサ(登録商標:5−アミノサリチル酸製剤)とガスター(登録商標:活性ビタミン注射剤)、ラックビー(登録商標:整腸剤)、酸化マグネシウム(下剤)、ラキソベロン(登録商標:下剤)を併用して治療していたが、肛門の周囲膿症の手術をしたり、膿を抜く手術したが病状完治せず。本発明の参考例1に示すプロテオグリカンのカプセル剤をプロテオグリカンの有効成分70mg/回で、2回/日投与で、1年間服用継続した。本発明のプロテオグリカン服用中は一度も膿症の手術は無くなり、整腸剤の併用のみで、病状現われなくなった。食欲も旺盛になり体重が回復した。本発明のプロテオグリカン投与による副作用は全く無かった。
【試験例2】
【0032】
31歳の女性、潰瘍性大腸炎で、罹病期間6年。治療薬として、ペンタサ(登録商標:5−アミノサリチル酸製剤)とイムラン(登録商標:免疫抑制剤)、プレドニン(登録商標:副腎皮質ステロイド剤)を併用して治療していた。時々血便もあった。実施例1と同じく本発明の参考例1に示す製法で調整したヒアルロン酸に対する結合活性を有する120万ダルトンのプロテオグリカン含有の錠剤を、プロテオグリカン有効成分100mg/回、2回/日投与、ペンタサのみ併用で1年7ヶ月服用継続した。食事制限して一時体重が53kgにまで減少していたが、正常値(65kg)まで回復した。試験例1と同様に本発明のプロテオグリカン投与による副作用は全く無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPCで測定した重量平均分子量(MW)が70万ダルトンから200万ダルトンの魚類の軟組織から抽出されるプロテオグリカンであって、該プロテオグリカンはヒアルロン酸に対する結合活性を有しているプロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする炎症性腸疾患治療剤。
【請求項2】
魚類が鮭であることを特徴とする請求項1の炎症性腸疾患治療剤。
【請求項3】
GPCで測定した重量平均分子量(MW)が30万ダルトンから200万ダルトンの軟体動物の軟組織から抽出されるプロテオグリカンであって、該プロテオグリカンはヒアルロン酸に対する結合活性を有しているプロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする炎症性腸疾患治療剤。
【請求項4】
軟体動物がイカであることを特徴とする請求項3の炎症性腸疾患治療剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−219449(P2011−219449A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102651(P2010−102651)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(598040020)
【Fターム(参考)】