説明

炎症関連臓器不全の発症確率を予測する方法

本発明は、複数の内因性の代謝産物を含む被験者の定量的メタボロミクスプロファイルにより、前記被験者が臓器不全を発症する可能性があるか否かを予測するために、それを、複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の定量的参照メタボロミクスプロファイルと比較することで、ほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症関連臓器不全の発症の確率をインビトロで予測するための、信頼性が高く統計的に有意な方法に関する。さらに、本発明は、このような方法における内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の有用性に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1記載のほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症または炎症関連臓器不全の発症確率をインビトロで予測する方法に関する。
【0002】
本発明は、一般的には、臓器不全の早期発見のための臨床ツールとしての臓器不全に関するバイオマーカーおよび当該バイオマーカーを用いた治療監視および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、年間200,000名程度が臓器不全(OF)を発症していると推計され、うち60%が死亡している。臓器不全は感染症によって発症しうるが、病院内において、免疫不全のガンまたは臓器移植患者の増加を起因の一部とするより多くの症例が観測されており、危険にさらされている入院患者の数は増加している。
【0004】
病院における多臓器不全症候群(MODS)の致死率は約50%である。現在においても、MODSの主な病因は、重度の感染、大がかりな手術、外傷および重度の膵炎である(Zhang SW, Wang C, Yin CH, Wang H, Wang BE, Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2004, 16, 328-32. Multi-center clinical study on the diagnostic criteria for multiple organ dysfunction syndrome with illness severity score system(非特許文献1))。
【0005】
現在のところ、OFおよびMODSの診断は、アトランタ基準および敗血症関連臓器不全評価(SOFA)スコア等の臨床基準およびスコアならびに数種の信頼性の低いタンパク質マーカーに依存している。例えば、全身性の臓器不全を伴う重篤な急性膵炎は、急性膵炎患者の約25%が発症する。生化学的パラメータは、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)およびインターロイキン等のタンパク質マーカーに限定されている(Beger HG, Rau BM, Severe acute pancreatitis: Clinical course and management World J Gastroenterol. 2007, 13, 5043-51(非特許文献2))。急性膵炎における臓器不全の予測は、血漿インターロイキン10と血清カルシウム測定値との組み合わせにより行われていた(Early Prediction of Organ Failure by Combined Markers in Patients With Acute Pancreatitis Mentula P, Kylanpaa M-L, Kemppainen E, Br J Surg, 92, 68 - 75, 2005(非特許文献3))。外傷患者において、インターロイキン6およびインターロイキン10が、多臓器不全の予測に用いられていた(Lausevic Z, Lausevic M, Trbojevic-Stankovic J, Krstic S, Stojimirovic, Predicting multiple organ failure in patients with severe trauma B Can J Surg. 2008, 51, 97-102(非特許文献4))。
【0006】
重症敗血症にはOFも含まれており、1または複数の重要臓器が損傷を受けたときに発症する。それにより敗血症性ショックに至ることもあり、通常の治療に応答しない低血圧、重要臓器の障害および酸素欠乏を特徴とする。敗血症性ショックの患者の約半数は死亡する。
【0007】
しかし、臨床兆候が他の症状と似ているため、初期のOFの早期診断は困難である。全身性炎症反応における宿主の反応は複雑であるため、病因の理解には複雑な努力を要した(総説として、Healy, Annul. Pharmacother. 36: 648-54 (2002)(非特許文献5)を参照)。しかし、早期予測はより多くの生命を救うために重要であるが、現在用いることができる診断は、臓器不全の発症を示さない。そのため、いくつかの研究室では、診断の迅速化のために、OFマーカーの高速試験を開始している。
【0008】
救急診療や、抗生剤および対症療法等の薬物治療を除くと、臓器不全の治療は、未だに予防対策および対症的な支持療法に限定されている。
【0009】
日常的診断業務における現在の診断法は、a)臨床情報、b)後述する用語の定義において概説する基本的な生化学臨床パラメータまたは感度および特異性の低いC反応性タンパク質(CRP)もしくはプロカルシトニン(PCT)等の非特異的なバイオマーカーの使用に限定されている(Critical Care Medicine 2006; 34:1996-2003(非特許文献6)、Archives of Surgery 2007; 142:134-142(非特許文献7))。
【0010】
敗血症には、当然ながら、全身性炎症反応症候群(SIRS)および病原体による感染が含まれている。
【0011】
下記の臨床所見のうち2つ以上が見られる場合、全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症したと考えられる。
1.38℃を超えるか、36℃未満の体温
2.心拍が毎分90回を上回る
3.毎分20回を超える呼吸または32mmHg未満のPaCO2より明らかな過呼吸、および
4.12000μL-1を超えるか4000μL-1未満の血中白血球数。
【0012】
内因性の臓器不全予測用標的代謝産物の定量的メタボロミクスプロファイルは、上述の古典的な臨床実験パラメータのうち任意のものと組み合わせることができる。
【0013】
臓器不全には、感染を伴う全身性炎症応答症候群(SIRS)が含まれる。
【0014】
敗血症(通常「血流感染」と呼ばれる。)は、血液(敗血症)または身体の他の組織中における細菌(菌血症)もしくは他の感染性の生物またはそれらの毒素の存在または宿主の免疫応答を示す。敗血症に起因する臓器不全は、現在、宿主の応答および微生物および/またはそれらの毒素の体内への存在の相互作用によって発症すると考えられている。観測される宿主の応答としては、免疫、凝固、宿主の炎症反応および抗炎症反応が挙げられる。したがって、敗血症性臓器不全は、低体温または異常発熱と定義される感染に対する全身性の応答、頻脈、呼吸促迫、臨床上明白な感染病巣または血液培養陽性、1または複数の末端臓器の機能不全またはかん流障害、脳機能障害、低酸素症、血漿乳酸値の増大または原因不明の代謝性アシドーシスおよび乏尿が含まれる。
【0015】
通常、感染と関連があるが、それは、外傷、熱傷および膵炎等の非感染性の損傷と関連する場合もある。それは、成人呼吸窮迫症候群の最大の原因の1つである。
【0016】
敗血症という用語の正確な定義は、ACCP/SCCMコンセンサス会議委員会(1992年)によって導入された(Definition for sepsis and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 20(6):864-874(非特許文献8))。2001年国際臓器不全定義コンファレンスでは、敗血症の診断の精度の向上のために、上述の定義を改善しようとした(Levy M, Fink M, Mitchell P, Marshall JC, Abraham E, et al. for the International Sepsis Definitions Conference. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS(非特許文献9))。声明では、SIRSの概念は有効であるとしながらも、将来、別の疫学的データにより支持される場合には、炎症反応の同定のために、臨床基準の代わりに純粋に生化学的および/または免疫学的な基準を用いる可能性があることが示唆された。また、感染については、微生物によって引き起こされる病的過程であると定義され、臓器不全については、「感染」が立証され、あるいは疑われ、下記の要因のいくつかを示す患者であると定義されるべきであるとされた。
【0017】
1.一般的要因
・体温(深部体温が38.3℃を上回る)
・低体温(深部体温が36℃未満)
・心拍数が毎分90回を超えるか、年齢に対する標準値を2SDよりも大きく上回っている
・呼吸促迫
・精神状態の異常
・顕著な浮腫または正の水分バランス(24時間にわたって20mL/kgを上回る)
・糖尿に起因しない高血糖(血漿グルコース値が7.7mmol/Lを上回る)
【0018】
2.炎症的要因
・白血球増加−白血球数が12,000μL-1を上回っている
・白血球減少−白血球数が4,000μL-1を下回っている
・白血球数は正常だが、未熟型の割合が10%を超えている
・血漿中のC反応性タンパク質が正常値を2SDよりも大きく上回っている
・血漿中のプロカルシトニンが正常値を2SDよりも大きく上回っている
【0019】
3.血流力学的要因
・動脈低血圧(成人において、SBP90mmHg未満、MAP70mmHg未満、または40mmHgを上回るSBPの減少量)
・SvO2aが70%を上回っている
・心係数が3.5Lmin-1-2を上回っている
【0020】
4.臓器不全的要因
・動脈低酸素症(PaO2/FIO2が300未満)
・急性乏尿(少なくとも2時間にわたり、排尿量0.5mLkg-1-1未満)
・クレアチニンの増大 0.5mg/dLを上回っている
・凝固異常(INRが1.5を上回っているか、aPTTが60秒を上回っている)
・イレウス(腸雑音の消失)
・血小板減少(血小板数100μL未満)
・高ビリルビン血症(血漿全ビリルビンが4mg/dLまたは70mmol/Lを上回っている)
【0021】
5.組織のかん流に関する要因
・高乳酸血症(1mmol/Lを上回っている)
・毛細血管再充填の減少または斑紋
(WBC:白血球、SBP:収縮期血圧、MAP:平均動脈血圧、SvO2:混合静脈血酸素飽和度、INR:国際標準化比、aPTT:活性化部分トロンボプラスチン時間、頻脈(低体温症の患者の場合は観測されなくてもよい)、および臓器機能の異常を示す下記の兆候の少なくとも1つ:精神状態の異常、低酸素症、血清乳酸レベルの上昇。
【0022】
重症敗血症の定義は未変更のままであり、臓器不全を併発する敗血症を意味する。臓器不全は、多臓器不全スコア(Marshall JC, Cook DJ, Christou NV, et al. Multiple organ dysfunction score: A reliable descriptor of a complex clinical outcome. Crit Care Med 1995; 23: 1638-1652(非特許文献10))または逐次臓器不全評価(Sequential Organ Failure Assessment)(SOFA)スコア(Ferreira FL, Bota DP, Bross A, et al. Serial evaluation of the SOFA score to predict outcome in critically ill patients. JAMA 2002; 286: 1754-1758(非特許文献11))のために用いられる評価を用いて定義される。成人における敗血症性ショックとは、他の原因で説明できない持続性の動脈低血圧を特徴とする急性循環不全を意味する。低血圧は、十分な輸液負荷を行っているにもかかわらず、他に低血圧の原因がない状態で、収縮期動脈血圧が90mmHg未満、MAP70mmHg未満または収縮期血圧のベースラインからの減少が40mmHgを上回る状態と定義されている。
【0023】
臓器不全に関連する重症敗血症および敗血症性ショックの致死率は高く、それぞれ、25〜30%および40〜70%という数値が報告されている(Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699-709.(非特許文献12)。Annane D, Aegerter P, Jars-Guincestre MC, Guidet B. Current epidemiology of septic shock: the CUB-Rea Network. Am J Respir Crit Care Med 2003; 168: 165-72.(非特許文献13))。
【0024】
科学界では、他の予測法がいくつか存在するが、その一部について後述する。しかし、これらはいずれも、炎症関連臓器不全の発症確率の予測の問題に関するものではない。
【0025】
Xu et al., J. Infection (2008) 56, 471-481(非特許文献14)は、ラットにおいて実験的に発症させた敗血症の早期予測について、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸およびドコサペンタエン酸をバイオマーカーとして用い、動物の生存群、非生存群および疑似手術群を区別するメタボロミクス的アプローチについて報告している。この報文には、開示された個々のバイオマーカーに関する言及のみならず、臓器不全に関する言及がどこにもない。
【0026】
Bradford et al., Toxicology and Applied Pharmacology 232 (2008), 236-243(非特許文献15)は、マウスにおける肝障害のためのアルコール変成液体飼料モデルにおける、アミノ酸を用いたメタボロミクスプロファイリングについて報告している。しかし、炎症関連臓器不全の予測については言及されていない。
【0027】
米国出願公開第2009/0104596号(特許文献1)には、バイオマーカーのプロファイルを測定することにより、悪液質の病状を診断する方法およびキットが開示されている。関連するバイオマーカーは、エネルギー代謝に関するものとして知られているもの、すなわち、乳酸、クエン酸、ギ酸、アセト酢酸、3−ヒドロキシ酪酸および数種のアミノ酸である。いかなる種類の臓器不全についても言及されていない。
【0028】
Freund et al., Ann. Surg. (1979), 190, 571-576(非特許文献16)には、脳症の有無を区別するための、敗血症の重篤度および転帰の予測用物質としての血漿アミノ酸パターンの使用が開示されているが、脳症の程度は、敗血症の過程の重篤度の指標となると考えられている。さらに、この報文では、生存群と非生存群との区別を行っている。臓器不全の予測用物質については言及されていない。
【0029】
Munoz et al., Transplantation Proceedings (1993), 25, 1779-1782には、同所性肝移植後の肝移植片の機能の状態の指標としての血清アミノ酸について開示されている。
【0030】
さらに、国際公開第2006/071583号(特許文献2)は、SIRSの治療レジメンを決定するための方法および組成物に関するものである。多臓器不全症候群(MODS)に関する言及はあるが、この文献には、どのバイオマーカーが、炎症関連臓器不全の発症確率の予測に用いることができるかについてはもとより、どのバイオマーカーがMODSの予測に用いることができるかに関する情報は記載されていない。
【0031】
Moyer et al., The Journal of Trauma (1981), 21, 862-869(非特許文献18)には、アミノ酸パターンによる外傷性敗血症状態における死亡率の予測用物質について開示されているが、炎症関連臓器不全の発症確率の予測用物質については言及されていない。
【0032】
最後に、生理学的サンプルにおけるアミノ酸のHPLC分析については、Fekkes, D., Journal of Chromatography B (1996), 682, 3-22(非特許文献19)に記載されており、熱スプレーLC/MSによる組成物分析のためのフェニルチオカルバミルアミノ酸の同定については、Pramanik et al., Analyt. Biochem. (1989), 176, 269-277(非特許文献20)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】米国出願公開第2009/0104596号
【特許文献2】国際公開第2006/071583号
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】Zhang SW, Wang C, Yin CH, Wang H, Wang BE, Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2004, 16, 328-32. Multi-center clinical study on the diagnostic criteria for multiple organ dysfunction syndrome with illness severity score system
【非特許文献2】Beger HG, Rau BM, Severe acute pancreatitis: Clinical course and management World J Gastroenterol. 2007, 13, 5043-51
【非特許文献3】Early Prediction of Organ Failure by Combined Markers in Patients With Acute Pancreatitis Mentula P, Kylanpaa M-L, Kemppainen E, Br J Surg, 92, 68 - 75, 2005
【非特許文献4】Lausevic Z, Lausevic M, Trbojevic-Stankovic J, Krstic S, Stojimirovic, Predicting multiple organ failure in patients with severe trauma B Can J Surg. 2008, 51, 97-102
【非特許文献5】Healy, Annul. Pharmacother. 36: 648-54 (2002)
【非特許文献6】Critical Care Medicine 2006; 34:1996-2003
【非特許文献7】Archives of Surgery 2007; 142:134-142
【非特許文献8】Definition for sepsis and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 20(6):864-874
【非特許文献9】Levy M, Fink M, Mitchell P, Marshall JC, Abraham E, et al. for the International Sepsis Definitions Conference. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS
【非特許文献10】Marshall JC, Cook DJ, Christou NV, et al. Multiple organ dysfunction score: A reliable descriptor of a complex clinical outcome. Crit Care Med 1995; 23: 1638-1652
【非特許文献11】Ferreira FL, Bota DP, Bross A, et al. Serial evaluation of the SOFA score to predict outcome in critically ill patients. JAMA 2002; 286: 1754-1758
【非特許文献12】Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699-709.
【非特許文献13】Annane D, Aegerter P, Jars-Guincestre MC, Guidet B. Current epidemiology of septic shock: the CUB-Rea Network. Am J Respir Crit Care Med 2003; 168: 165-72.
【非特許文献14】Xu et al., J. Infection (2008) 56, 471-481
【非特許文献15】Bradford et al., Toxicology and Applied Pharmacology 232 (2008), 236-243
【非特許文献16】Freund et al., Ann. Surg. (1979), 190, 571-576
【非特許文献17】Munoz et al., Transplantation Proceedings (1993), 25, 1779-1782
【非特許文献18】Moyer et al., The Journal of Trauma (1981), 21, 862-869
【非特許文献19】Fekkes, D., Journal of Chromatography B (1996), 682, 3-22
【非特許文献20】Pramanik et al., Analyt. Biochem. (1989), 176, 269-277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
重症敗血症および敗血症性ショックの管理においていくつかの利点はあるが、現在用いられている定義には有用性の点で問題があり、診断が遅れることがしばしばある。臓器不全についての信頼できる診断は、未だに課題として残っている。
【0036】
発病している被験者における病原体またはこれらの病原体由来の核酸については、定量はもとより、同定についても、潜在する病原体の性質または量に関係なく、信頼でき、確証され、または診断に適しており、宿主の分子応答および免疫応答に基づく多くの科学的な証拠により支持されており、実際に被験者の臨床状態を反映している状態からはほど遠い。
【0037】
古典的な患者のスクリーニングおよび診断において、医療従事者は、ある疾患の患者の診断のため種々の診断ツールを用いてきた。これらのツールのうち、例えば、血液サンプル中の一連の単一の定型的なパラメータを測定することは、診断の研究室における通常のアプローチである。これらの単一のパラメータには、例えば、酵素活性ならびに酵素濃度および/または検出量が含まれる。
【0038】
関心の対象となっている疾患が、臨床化学によって得られる単一のパラメータまたは少数のパラメータと容易かつ一義的に相関づけることができる場合、これらのパラメータは、現代の実験医学および診断において不可欠のツールであることが立証されたことになる。しかし、一義的に帰属できる単一のパラメータやマーカーが存在しない点で共通するガンや多発性硬化症のような脱髄疾患等の病態生理学的状態において、血液または組織サンプルを用いた識別診断は、現在のところ困難または不可能である。
【0039】
血液サンプルに由来するRNAに基づく臓器不全の診断が近年開発されたが、これらのアプローチには、下記のような重大な制約がいくつか存在する。
【0040】
通常数mLの血液がサンプル量として必要なことは、臨床的に発病している被験者の連続モニタリングの上で問題となり、代わりに、発現産物を増幅することは、冗長である上に誤差を生じやすい。手続全体として多数の工程が必要となり、サンプルの調製およびRNAの単離が煩雑であり、発現およびアレイまたはPCRによる分析は、少なくとも数時間を要する上に、技術的に大変な労力を必要とする。
【0041】
したがって、現在用いられている診断方法は時間および高価な設備を必要とするが、満足な感度が得られないことも多い。しかし、用いられているこのような診断手段は、曲線下面積(AUC)の減少および/または必要とされる設備に起因する診断の遅れまたはコストの増大について大きな制約が存在する。したがって、これらの手順では、急性で迅速に進展する疾患の即時評価は不可能であり、全体的な状況は、満足できるものからほど遠く、かつ重症敗血症および臓器不全の迅速で信頼できる診断法の確立からもほど遠い。
【0042】
そのため、臓器不全および非特異的な臨床症状を示す他の健康状態に関する、早期の、迅速で信頼性が高く、理想的にはほんの少量の血液しか必要としない診断に関する差し迫った需要が存在し、臓器不全に対する迅速な治療および早期診断と共に治療監視に対する差し迫った需要が存在する。さらに、早期に信頼性の高い診断を可能にする早期の臓器不全用のバイオマーカーに対する差し迫った需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0043】
これらの需要は、請求項1に記載のインビトロで臓器不全の発症確率を予測する方法により満たされる。具体的には、本発明は、本発明における新規な技術およびこれまで知られていない診断マーカーとしての内因性の代謝産物のリストに基づいて、これらの問題に対する解決策を提供する。体液および生体組織における代謝産物濃度の違いから、種々の表現型応答との関連が導き出されるため、代謝産物はバイオマーカーの候補として好適である。
【0044】
本発明によると、生体サンプルから単一の時点において採取した複数の内因性の代謝バイオマーカー(代謝産物)の測定により、正確、迅速かつ高感度なOFの予測および診断が可能になる。これは、個体、具体的にはOF発症のリスクを負い、OFを発症しており、またはOF発症の疑いのある個体から単一の時点において複数のバイオマーカーを採取し、個体に由来するバイオマーカープロファイルを参照バイオマーカーの数値またはスコアと比較することにより達成される。参照バイオマーカーの数値は、例えば、OFに罹患している個体、またはOFの発症またはOFの進展の特定のステージに苦しんでいる個体の集団(「参照集団」)より得ることができる。個体に由来する複数のバイオマーカーの数値またはスコアが、参照集団に由来するバイオマーカーの数値またはスコアの有する適度に特徴的な特徴を備えている場合、その個体は、参照集団と同様に、OFを発症する可能性が高く、OFに罹患しており、またはOFの進展の特定のステージにあると診断される。
【0045】
したがって、本発明は、特に、個体においてOFの発症確率を予測する方法を提供する。該方法は、個体から単一の時点においてバイオマーカーのスコアを得て、個体のバイオマーカープロファイルと参照バイオマーカープロファイルとを比較することを含んでいる。バイオマーカープロファイルの比較により、好ましくは少なくとも約90%の精度で、個体におけるOFの発症を予測できる。この方法は、OFの発症前に何度でも繰り返し行うことができる。
【0046】
本発明はさらに、個体において、敗血症が、どの程度OFに向けて進行しているか(どの段階にあるか)を決定する方法を提供する。該方法は、個体から単一の時点においてバイオマーカーのスコアを得て、個体のバイオマーカープロファイルと参照バイオマーカーのスコアとを比較することを含んでいる。バイオマーカープロファイルの比較により、好ましくは少なくとも約90%の精度で、個体におけるOFの発症を予測できる。この方法は、OFの発症前に何度でも繰り返し行うことができる。
【0047】
本発明はさらに、OFを発症し、または発症の疑いのある個体において、OFを診断する方法を提供する。該方法は、個体から単一の時点においてバイオマーカーのスコアを得て、個体のバイオマーカーのスコアと参照バイオマーカーのスコアとを比較することを含んでいる。バイオマーカープロファイルの比較により、少なくとも約90%の精度で、個体におけるOFの発症を診断できる。この方法は、OFの発症前に何度でも繰り返し行うことができる。
【0048】
他の実施態様において、本発明は、特に、決定ルール(decision rule)を適用することを含む、個体におけるOFの状態を決定し、またはOFを診断する方法を提供する。決定ルールは、(i)個体から単一の時点において採取した生体サンプルより生成したバイオマーカーのスコアと、(ii)参照集団より生成したバイオマーカーのスコアとを比較する事を含んでいる。決定ルールを適用することで、個体における敗血症の状態またはOFの診断を決定できる。該方法は、個体に対して、単一の時点において、1回または別々に複数回繰り返してもよい。
【0049】
本発明はさらに、特に、個体から単一の時点において採取した生体サンプルよりバイオマーカーのスコアを得て、個体のバイオマーカーのスコアと参照バイオマーカーのスコアとを比較することを含む、個体におけるOFの状態を決定し、またはOFを診断する方法を提供する。1回のこのような比較により、個体の参照集団への帰属について分類することができる。バイオマーカーのスコアを比較することで、個体におけるOFの状態を決定し、またはOFの診断をおこなうことができる。
【0050】
さらに他の実施態様において、本発明は、特に、個体におけるOFの状態を決定し、またはOFを診断する方法を提供する。該方法は、複数のバイオマーカーまたは個体の生体サンプルより得られるこの複数のバイオマーカーの(処理済みまたは未処理の)数値から構成されるバイオマーカーのスコアと、参照集団より得られるバイオマーカーのスコアとの間で、少なくとも1つのバイオマーカーの計測可能な特徴を比較することを含んでいる。この比較に基づいて、固体は参照集団に属するか否か分類される。このようにして、比較を行うことにより、個体におけるOFの確率またはOFの診断を決定できる。ある実施態様において、バイオマーカーは、表1から3のいずれかに示したバイオマーカー群より選択される。
【0051】
本発明は、敗血症、SIRS等の診断方法と明確に区別される臓器不全の予測方法を提供する。このような方法は、被験者に由来する生体サンプルを解析し、サンプルに含まれる臓器不全予測用の、表1より選択される複数のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、複数のバイオマーカーのそれぞれのレベルを、単一の濃度値を処理するための数式を提供すること等の分類方法をサンプル中の個々のバイオマーカーの濃度に適用することにより生成された合成値/スコアと比較し、両方の群(疾患群および健康群)に分離し、またはサンプル中の複数のバイオマーカーのレベルを、臓器不全陽性または臓器不全陰性の場合の複数のバイオマーカーの参照値とを比較し、ごく早期の段階で被験者が臓器不全を発症しているか否かを決定し、適切な治療的処置を開始できるようにする工程を含んでいる。
【0052】
本発明は、上述の問題に対する解決策を提供し、全般的には、それに限定されないが、質量分析法(MS)、具体的には、MALDI、ESI、大気圧化学イオン化(APCI)および他の方法による内因性の代謝産物の定量化、MS技術、または分離方法と組み合わせた他の技術(LC−MS、GC−MS、CE−MS)を用いて代謝産物の濃度を決定、それに続く特徴選択および/または特徴を組み合わせて、少なくとも2つの分子の分子データを含むクラシファイアーの生成により生成されたメタボロミクスデータの使用に関する。
【0053】
このように、個々のマーカー、分析物、代謝産物の濃度を測定し、参照値またはデータを集計および処理して得られたスコア、クラシファイアーと比較し、病状等を示す参照値を既知の方法、臨床パラメータおよびバイオマーカーと比較して高い感度および特異性で比較する。
【0054】
当業者は、ある代謝産物の定量化のために、化学修飾した代謝産物を用いることができることを理解できる。例えば、MS技術を適用する前に、カラム材料上での分離能が向上するため、より高感度(感度が最大100倍に増大する。)かつより正確な定量化のために、アミノ酸のフェニルイソチオシアネートを用いることは十分に確立された手法である。
【0055】
さらに、ある実施態様において、本発明は、被験者からのサンプル(例えば、組織(生検体等)サンプル、血液サンプル、血清サンプル、尿サンプル。)中の、複数(例えば、2以上、3以上、5以上、10以上、その他。多項目または一覧の形式で同時に測定)の臓器不全に特異的な代謝産物の存在または欠如を検出し、臓器不全に特異的な代謝産物の存在に基づき、臓器不全の診断を行うことを含む、臓器不全および/または継続期間および/または重篤度を診断する方法を提供する。
【0056】
本発明はさらに、臓器不全に特異的な代謝産物を含む動物、組織、細胞を供試化合物と接触させる工程と、臓器不全に特異的な代謝産物のレベルを決定する工程とを含む化合物のスクリーニング方法を提供する。ある実施態様において、該方法はさらに、供試化合物または治療介入の存在下での臓器不全に特異的な代謝産物のレベルを、供試化合物が欠如した状態での臓器不全に特異的な代謝産物のレベルと比較する工程を含んでいる。ある実施態様において、細胞は、インビトロ、非ヒトほ乳類、またはエクスビボである。ある実施態様において、供試化合物は低分子または核酸(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、またはmiRNA)または酸素/キセノン、または臓器不全に特異的な代謝産物の合成または分解に関与する酵素の発現を阻害する任意の神経保護剤である。ある実施態様において、臓器不全に特異的な代謝産物群は、表2および3に示すものである。ある実施態様において、方法は高スループット法である。
【0057】
具体的には、本発明は、
ほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症関連臓器不全の発症の確率をインビトロで予測する方法であって、
a.定量的メタボローム解析により、複数の内因性の代謝産物を含む被験者の定量的メタボロミクスプロファイルを生体サンプルより検出する工程と、
b.前記被験者が臓器不全を発症する可能性があるか否かを予測するために、前記被験者のサンプルの定量的メタボロミクスプロファイルを、複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の定量的メタボロミクスプロファイルと比較する工程とを有し、
c.前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物が、分子量が1500Da未満であり、
アミノ酸、具体的には、アルギニン、アスパラギン酸、シトルリン、グルタミン酸(グルタミン酸塩)、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、プロリン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、キヌレニン、
フェニルチオカルバミルアミノ酸(PTC−アミノ酸)、具体的にはPTC−アルギニン、PTC−グルタミン、PTC−ヒスチジン、PTC−メチオニン、PTC−オルニチン、PTC−フェニルアラニン、PTC−プロリン、PTC−セリン、PTC−トリプトファン、PTC−チロシン、PTC−バリン、
ジメチルアルギニン、具体的には、N,N−ジメチル−L−アルギニン、
カルボン酸、すなわち15(S)−ヒドロキシ−5Z,8Z,11Z,13E−エイコサテトラエン酸[(5Z,8Z,11Z,13E,15S)−15−ヒドロキシイコサ−5,8,11,13−テトラエン酸]、コハク酸(コハク酸塩)、
アシル基に2以上30以下の炭素原子を有するN−アシル基を有し、0以上5以下の二重結合を有し、0以上5以下のヒドロキシ基を有するセラミド、
カルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合を有するアシルカルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合および1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、
リン脂質、具体的には、アシル基に1以上30以下の炭素原子を有するリソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン)、アシル基に3以上30以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上6以下の二重結合を有するリソホスファチジルコリン、
アシル基に合計1以上50以下の炭素原子を有するホスファチジルコリン(ジアシルホスファチジルコリン)、アシル基に合計3以上50以下の炭素原子を有し、かつアシル基に合計1以上8以下の二重結合を有するホスファチジルコリン、
スフィンゴ脂質、具体的には、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子を有するスフィンゴミエリン、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
プロスタグランジン、すなわち、6−ケト−プロスタグランジンF1α、プロスタグランジンD2、トロンボキサンB2、
プトレシン、
オキシステロール、すなわち、22−R−ヒドロキシコレステロール、24−S−ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、27−ヒドロキシコレステロール、20α−ヒドロキシコレステロール、22−S−ヒドロキシコレステロール、24,25−エポキシコレステロール,3β,5α,6β−トリヒドロキシコレステロール、7α−ヒドロキシコレステロール、7−ケトコレステロール、5β,6β−エポキシコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、4β−ヒドロキシコレステロール、デスモステロール(ビタミンD3)、7−デヒドロコレステロール、コレステノン、ラノステロール、24−デヒドロラノステロール、
胆汁酸、すなわち、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリコリトコール酸、グリコリトコール酸硫酸塩、グリコウルソデオキシコール酸、リトコール酸、タウロコール酸、タウロケノデオキシコール酸タウロデオキシコール酸、タウロリトコール酸、タウロリトコール酸硫酸塩、タウロウルソデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、
生体アミン、すなわち、ヒスタミン、セロトニン、パルミトイルエタノールアミンからなる群より選択される方法に関する。
【0058】
本発明によると、「炎症関連臓器不全」という用語は、「感染症関連臓器不全」および/または「敗血症関連臓器不全」を含んでいる。
【0059】
好ましい方法は、前記生体サンプルが、便、体液、具体的には血液、髄液、脳脊髄液、尿、腹水、精液、唾液、穿刺液、細胞内容物、組織サンプル、具体的には肝臓の生研サンプル、またはこれらの混合物であるものである。
【0060】
有利には、本発明の好ましい実施態様は、前記定量的メタボロミクスプロファイルが、質量分析(MS)法、具体的には、高スループット質量分析、好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法、電子スプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、必要に応じてMS法と組み合わされた1H−、13C−および/または31P−核磁気共鳴分光(NMR)法等のMS技術により内因性の代謝産物定量のための強度データを生成する工程と、
分離方法、具体的には液体クロマトグラフィー(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー(GC−MS)またはキャピラリー電気泳動法(CE−MS)と組み合わせたMS技術および/または方法を用いて代謝産物の濃度を決定する工程とを含む定量的メタボロミクスプロファイルの解析方法により達成されるものである。
【0061】
さらに好ましくは、前記メタボロミクスプロファイルの強度データが、一組の内因性のハウスキーパー代謝産物を用い、選択された前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の検出された強度を、内因性のハウスキーパー代謝産物の強度と関連づけることにより標準化される。
【0062】
本発明による特に好ましい方法は、前記内因性のハウスキーパー代謝産物が、生強度データの変動係数(CV)、対数強度データの標準偏差(SD)、geNormアルゴリズムの安定性指標(M)またはNormFinderアルゴリズムの安定性指標(ρ)からなる群より選択される統計的な安定性指標に基づいて、安定性を示す内因性の代謝産物からなる群より選択されるものである。
【0063】
さらに、前記定量的メタボロミクスプロファイルは、前記サンプル中に含まれる前記複数の内因性の代謝産物の個別の内因性の代謝産物の濃度、レベルまたは量、定性的および/または定量的な分子パターンおよび/または分子署名(molecular signature)からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータの測定ならびにデータベース中の得られた数値セットの使用および保存の結果を含んでいる。
【0064】
一連の参照内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物またはその誘導体は、
a)メタボロミクスプロファイルの生成のために用いられる測定法に固有の技術的誤差を減少させるために、得られた強度値を数学的に前処理してメタボロミクスプロファイルを生成し、
b)ロジスティック回帰分析、(対角)線形または二次判別分析(LDA、QDA、DLDA、DQDA)、認知、収縮重心正規化判別分析(RDA)、ランダムフォレスト(RF)、ニューラルネットワーク(NN)、ベイジアンネットワーク、隠れマルコフモデル、サポートベクターマシン(SVM)、一般化部分最小二乗法(GPLS)、対象周辺分割(partitioning around medoids:PAM)、帰納論理プログラミング(ILP)、一般加法モデル、ガウス過程、一般化最小二乗回帰、自己組織化マップ(SOM)、再起分割および回帰ツリー、K近傍分類法(K−NN)、ファジー分類法、バギング、ブースティングおよび単純ベイズからなる群より少なくとも1つの好適な分類アルゴリズムを選択し、前記選択された分類アルゴリズムを、工程a)の前記前処理されたデータに適用し、
c)分類関数を選択するために、前処理され、臓器不全を発症する確率により分類された被験者のデータを含む少なくとも1つの訓練データセットで工程b)の前記分類アルゴリズムを訓練し、前記前処理されたデータを前記確率によりマッピングし、
d)前記訓練された工程c)の分類アルゴリズムを、臓器不全の確率が未知であり、前処理された被験者のデータに適用し、被験者が臓器不全を発症する確率を予測するために、訓練された分類アルゴリズムを用いて前記データセットの前記分類ラベルを予測することにより確立される。
【0065】
より容易に、かつ/またはより高感度に検出を行うための前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物は、アミノ酸におけるフェニルイソチオシアネートのような化学修飾された誘導体を用いて検出される。
【0066】
本発明の好ましい実施態様において、前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物は、
カルニチン、アシルカルニチン(C鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、C12−DC、C14:1、C14:1−OH、C14:2、C14:2−OH、C18、C6:1、
スフィンゴミエリン(SM 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、SM C16:0、SM C17:0、SM C18:0、SM C19:0、SM C21:1、SM C21:3、SM C22:2、SM C23:0、SM C23:1、SM C23:2、SM C23:3、SM C24:0、SM C24:1、SM C24:2、SM C24:3、SM C24:4、SM C26:4、SM C3:0、SM(OH)C22:1、SM(OH)C22:2、SM(OH)C24:1、SM C26:0、SM C26:1、
ホスファチジルコリン、(ジアシルホスファチジルコリン、PC aa 鎖長:二重結合の合計数、またはPC ae)具体的には、PC aa C28:1、PC aa C38:0、PC aa C42:0、PC aa C42:1、PC ae C40:1、PC ae C40:2、PC ae C40:6、PC ae C42:2、PC ae C42:3、PC ae C42:4、PC ae C44:5、PC ae C44:6、PC aa C36:4、PC aa C38:1、PC aa C38:2、PC aa C38:4、PC aa C38:5、PC aa C38:6、PC aa C40:5、PC aa C40:6、PC aa C40:7、PC aa C40:8、PC ae C36:4、PC ae C36:5、PC ae C38:4、PC ae C38:6、
リソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン、PC a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PC a C18:2、PC a C20:4、PC a C20:3、PC a C26:0、
Phe、
オキシコレステロール、具体的には、3β,5α,6β−トリヒドロキシコレスタン、7−ケトコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、
リソホスファチジルエタノールアミン(モノアシルホスファチジルコリン、PE a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PE a C18:1、PE a C18:2、PE a C20:4、PE a C22:5、PE a C22:6、
ホスファチジルエタノールアミン、(ジアシルホスファチジルコリン、PE aa 鎖長:二重結合の合計数),具体的には、PE aa C38:0、PE aa C38:2、
セラミド、(N−鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、N−C2:0−Cer、N−C7:0−Cer、N−C9:3−Cer、N−C17:1−Cer、N−C22:1−Cer、N−C25:0−Cer、N−C27:1−Cer、N−C5:1−Cer(2H)、N−C7:1−Cer(2H)、N−C8:1−Cer(2H)、N−C11:1−Cer(2H)、N−C20:0−Cer(2H)、N−C21:0−Cer(2H)、N−C22:1−Cer(2H)、N−C25:1−Cer(2H)、N−C26:1−Cer(2H)、N−C24:0(OH)−Cer、N−C26:0(OH)−Cer、N−C6:0(OH)−Cer、N−C8:0(OH)−Cer(2H)、N−C10:0(OH)−Cer(2H)、N−C25:0(OH)−Cer(2H)、N−C26:0(OH)−Cer(2H)、N−C27:0(OH)−Cer(2H)、N−C28:0(OH)−Cer(2H)
からなる群より選択される。
【0067】
メタボロミクス解析プロファイルの生成のために、前記複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物またはその誘導体が、2以上80以下、具体的には2以上60以下、好ましくは2以上50以下、望ましくは2以上30以下、より望ましくは2以上20以下、特に望ましくは2以上10以下の内因性の代謝産物を含んでいる。
【0068】
本発明の特定の実施態様は、ほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症関連臓器不全の発症の確率をインビトロで予測するための臓器不全予測用の複数の内因性代謝産物の使用であって、前記代謝産物は、
アミノ酸、具体的には、アルギニン、アスパラギン酸、シトルリン、グルタミン酸(グルタミン酸塩)、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、プロリン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、キヌレニン、
フェニルチオカルバミルアミノ酸(PTC−アミノ酸)、具体的にはPTC−アルギニン、PTC−グルタミン、PTC−ヒスチジン、PTC−メチオニン、PTC−オルニチン、PTC−フェニルアラニン、PTC−プロリン、PTC−セリン、PTC−トリプトファン、PTC−チロシン、PTC−バリン、
ジメチルアルギニン、具体的には、N,N−ジメチル−L−アルギニン、
カルボン酸、すなわち15(S)−ヒドロキシ−5Z,8Z,11Z,13E−エイコサテトラエン酸[(5Z,8Z,11Z,13E,15S)−15−ヒドロキシイコサ−5,8,11,13−テトラエン酸]、コハク酸(コハク酸塩)、
アシル基に2以上30以下の炭素原子を有するN−アシル基を有し、0以上5以下の二重結合を有し、0以上5以下のヒドロキシ基を有するセラミド、
カルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合を有するアシルカルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合および1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、
リン脂質、具体的には、アシル基に1以上30以下の炭素原子を有するリソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン)、アシル基に3以上30以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上6以下の二重結合を有するリソホスファチジルコリン、
アシル基に合計1以上50以下の炭素原子を有するホスファチジルコリン(ジアシルホスファチジルコリン)、アシル基に合計3以上50以下の炭素原子を有し、かつアシル基に合計1以上8以下の二重結合を有するホスファチジルコリン、
スフィンゴ脂質、具体的には、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子を有するスフィンゴミエリン、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
プロスタグランジン、すなわち、6−ケト−プロスタグランジンF1α、プロスタグランジンD2、トロンボキサンB2、
プトレシン、
オキシステロール、すなわち、22−R−ヒドロキシコレステロール、24−S−ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、27−ヒドロキシコレステロール、20α−ヒドロキシコレステロール、22−S−ヒドロキシコレステロール、24,25−エポキシコレステロール,3β,5α,6β−トリヒドロキシコレステロール、7α−ヒドロキシコレステロール、7−ケトコレステロール、5β,6β−エポキシコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、4β−ヒドロキシコレステロール、デスモステロール(ビタミンD3)、7−デヒドロコレステロール、コレステノン、ラノステロール、24−デヒドロラノステロール、
胆汁酸、すなわち、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリコリトコール酸、グリコリトコール酸硫酸塩、グリコウルソデオキシコール酸、リトコール酸、タウロコール酸、タウロケノデオキシコール酸タウロデオキシコール酸、タウロリトコール酸、タウロリトコール酸硫酸塩、タウロウルソデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、
生体アミン、すなわち、ヒスタミン、セロトニン、パルミトイルエタノールアミンからなる群より選択される。
【0069】
上述の、例えば、「アミノ酸」、「胆汁酸」、「オキシステロール」等の化合物群は、本発明の枠組内で、それ自体が臓器不全予測用の標的代謝産物(OF予測用物質)として用いることができることを強調しておく。
【0070】
特に好ましい内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物は、
カルニチン、アシルカルニチン(C鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、C12−DC、C14:1、C14:1−OH、C14:2、C14:2−OH、C18、C6:1、
スフィンゴミエリン(SM 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、SM C16:0、SM C17:0、SM C18:0、SM C19:0、SM C21:1、SM C21:3、SM C22:2、SM C23:0、SM C23:1、SM C23:2、SM C23:3、SM C24:0、SM C24:1、SM C24:2、SM C24:3、SM C24:4、SM C26:4、SM C3:0、SM(OH)C22:1、SM(OH)C22:2、SM(OH)C24:1、SM C26:0、SM C26:1、
ホスファチジルコリン、(ジアシルホスファチジルコリン、PC aa 鎖長:二重結合の合計数、またはPC ae)具体的には、PC aa C28:1、PC aa C38:0、PC aa C42:0、PC aa C42:1、PC ae C40:1、PC ae C40:2、PC ae C40:6、PC ae C42:2、PC ae C42:3、PC ae C42:4、PC ae C44:5、PC ae C44:6、PC aa C36:4、PC aa C38:1、PC aa C38:2、PC aa C38:4、PC aa C38:5、PC aa C38:6、PC aa C40:5、PC aa C40:6、PC aa C40:7、PC aa C40:8、PC ae C36:4、PC ae C36:5、PC ae C38:4、PC ae C38:6、
リソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン、PC a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PC a C18:2、PC a C20:4、PC a C20:3、PC a C26:0、
Phe、
オキシコレステロール、具体的には、3β,5α,6β−トリヒドロキシコレスタン、7−ケトコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、
リソホスファチジルエタノールアミン(モノアシルホスファチジルコリン、PE a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PE a C18:1、PE a C18:2、PE a C20:4、PE a C22:5、PE a C22:6、
ホスファチジルエタノールアミン、(ジアシルホスファチジルコリン、PE aa 鎖長:二重結合の合計数),具体的には、PE aa C38:0、PE aa C38:2、
セラミド、(N−鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、N−C2:0−Cer、N−C7:0−Cer、N−C9:3−Cer、N−C17:1−Cer、N−C22:1−Cer、N−C25:0−Cer、N−C27:1−Cer、N−C5:1−Cer(2H)、N−C7:1−Cer(2H)、N−C8:1−Cer(2H)、N−C11:1−Cer(2H)、N−C20:0−Cer(2H)、N−C21:0−Cer(2H)、N−C22:1−Cer(2H)、N−C25:1−Cer(2H)、N−C26:1−Cer(2H)、N−C24:0(OH)−Cer、N−C26:0(OH)−Cer、N−C6:0(OH)−Cer、N−C8:0(OH)−Cer(2H)、N−C10:0(OH)−Cer(2H)、N−C25:0(OH)−Cer(2H)、N−C26:0(OH)−Cer(2H)、N−C27:0(OH)−Cer(2H)、N−C28:0(OH)−Cer(2H)
からなる群より選択される。
【0071】
さらに、本発明は、
a)内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物を定量的に検出するための較正用物質であって、前記代謝産物が、アミノ酸、具体的には、アルギニン、アスパラギン酸、シトルリン、グルタミン酸(グルタミン酸塩)、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、プロリン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、キヌレニン、
フェニルチオカルバミルアミノ酸(PTC−アミノ酸)、具体的にはPTC−アルギニン、PTC−グルタミン、PTC−ヒスチジン、PTC−メチオニン、PTC−オルニチン、PTC−フェニルアラニン、PTC−プロリン、PTC−セリン、PTC−トリプトファン、PTC−チロシン、PTC−バリン、
ジメチルアルギニン、具体的には、N,N−ジメチル−L−アルギニン、
カルボン酸、すなわち15(S)−ヒドロキシ−5Z,8Z,11Z,13E−エイコサテトラエン酸[(5Z,8Z,11Z,13E,15S)−15−ヒドロキシイコサ−5,8,11,13−テトラエン酸]、コハク酸(コハク酸塩)、
アシル基に2以上30以下の炭素原子を有するN−アシル基を有し、0以上5以下の二重結合を有し、0以上5以下のヒドロキシ基を有するセラミド、
カルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合を有するアシルカルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合および1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、
リン脂質、具体的には、アシル基に1以上30以下の炭素原子を有するリソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン)、アシル基に3以上30以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上6以下の二重結合を有するリソホスファチジルコリン、
アシル基に合計1以上50以下の炭素原子を有するホスファチジルコリン(ジアシルホスファチジルコリン)、アシル基に合計3以上50以下の炭素原子を有し、かつアシル基に合計1以上8以下の二重結合を有するホスファチジルコリン、
スフィンゴ脂質、具体的には、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子を有するスフィンゴミエリン、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
プロスタグランジン、すなわち、6−ケト−プロスタグランジンF1α、プロスタグランジンD2、トロンボキサンB2、
プトレシン、
オキシステロール、すなわち、22−R−ヒドロキシコレステロール、24−S−ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、27−ヒドロキシコレステロール、20α−ヒドロキシコレステロール、22−S−ヒドロキシコレステロール、24,25−エポキシコレステロール,3β,5α,6β−トリヒドロキシコレステロール、7α−ヒドロキシコレステロール、7−ケトコレステロール、5β,6β−エポキシコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、4β−ヒドロキシコレステロール、デスモステロール(ビタミンD3)、7−デヒドロコレステロール、コレステノン、ラノステロール、24−デヒドロラノステロール、
胆汁酸、すなわち、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリコリトコール酸、グリコリトコール酸硫酸塩、グリコウルソデオキシコール酸、リトコール酸、タウロコール酸、タウロケノデオキシコール酸タウロデオキシコール酸、タウロリトコール酸、タウロリトコール酸硫酸塩、タウロウルソデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、
生体アミン、すなわち、ヒスタミン、セロトニン、パルミトイルエタノールアミンからなる群より選択される較正用物質、
b)健康な患者および炎症関連臓器不全を発症した患者より得られたデータを処理したデータを含むデータベースと、
c)ステップa)の較正用物質を用いて達成される定量的メタボロミクスプロファイルを生成し、ステップb)の処理済みデータに基づく結果を分類するための分類ソフトウェアを含む、ほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症関連臓器不全の発症の確率をインビトロでの予測を行うためのキットを提供する。
【0072】
データ分類は、最も効果的かつ有効に活用するためのデータのカテゴリー化である。クラシファイアーは、通常、治療に関連するクラス、表現型、個別の生理的状態または個別の病態の有無をコードする生体測定結果の多次元ベクトルを、2項の(またはn項の)結果変数としてマッピングする確定関数(deterministic function)である。これを達成するために、ロジスティック回帰分析、(対角)線形または二次判別分析(LDA、QDA、DLDA、DQDA)、認知、収縮重心正規化判別分析(RDA)、ランダムフォレスト(RF)、ニューラルネットワーク(NN)、ベイジアンネットワーク、隠れマルコフモデル、サポートベクターマシン(SVM)、一般化部分最小二乗法(GPLS)、対象周辺分割(partitioning around medoids:PAM)、帰納論理プログラミング(ILP)、一般加法モデル、ガウス過程、一般化最小二乗回帰、自己組織化マップ(SOM)、再起分割および回帰ツリー、K近傍分類法(K−NN)、ファジー分類法、バギング、ブースティングおよび単純ベイズおよび他の多数の方法等があるがこれらに限定されない種々の分類方法を用いることができる。
【0073】
本発明の他の側面、利点および実施態様は、実施例の記載より、後述する実験項の記載より、そして図面によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】補正後のp値が0.01未満、倍率変化の絶対値が50%を上回り、かつAUCが0.80を上回る代謝産物を選択した場合における、敗血症患者と臓器不全を発症した敗血症患者との比較のための、補正後のp値(P.adj)、倍率変化および受信者動作特性曲線下面積(AUC)の間の一致を示すベン図である。
【図2】補正後のp値、倍率変化およびAUCを組み合わせて順位付けを行うランカーを用いて特徴を選択した場合における、線形カーネルを用いたサポートベクターマシン(SVM)、対角線形判別分析(DLDA)およびK=1であるK近傍分類法(KNN)について、クラシファイアーの精度を示すグラフである。
【図3】ブースト回帰木(ツリー)を用いたいわゆるラッパーにより特徴を選択した場合における、線形カーネルを用いたサポートベクターマシン(SVM)、対角線形判別分析(DLDA)およびK=1であるK近傍分類法(KNN)について、クラシファイアーの精度を示すグラフである。
【図4】補正後のp値が0.05未満、倍率変化の絶対値が50%を上回り、かつAUCが0.8を上回る代謝産物を選択した場合における、敗血症のマウスと肝不全を発症した敗血症のマウスとの比較のための、補正後のp値(P.adj)、倍率変化および受信者動作特性曲線下面積(AUC)の間の一致を示すベン図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
本発明において「臓器不全」(OF)は、任意の病的状態に関連するが、特に、感染関連臓器不全を表している。
【0076】
「重症敗血症」とは、臓器不全、低かん流異常または敗血症に誘発される低血圧症に関連する敗血症を意味する。低かん流異常には、乳酸アシドーシス、乏尿、または精神状態の急性異常が含まれるがこれらに限定されない。「敗血症性ショック」とは、敗血症によって誘発され、適量の静脈内初期輸液(fluid challenge)に反応せず、末梢の低かん流異常の兆候を伴う低血圧症を意味する。「転換患者(converter patient)」とは、患者のモニター中、典型的にはICU滞在中に、敗血症が臨床的に疑われる状態に進行するSIRS陽性の患者を意味する。「非変換患者(non-converter patient)」は、患者のモニター中、典型的にはICU滞在中に、敗血症が臨床的に疑われる状態に進行しないSIRS陽性の患者を意味する。
【0077】
OFの患者は、OFに分類される上で定義されたような臨床所見を示すが、臨床上OFに罹患しているとはみなされない。OFを発症する危険に直面している個体には、ICUに収容されており、熱傷や他の傷害等の物理的外傷にも罹患している患者が含まれる。
【0078】
本明細書で用いられる場合において、「臓器不全」(OF)は、あらゆるステージのOFを含んでおり、OFの発症および多臓器不全(MOD)、例えば末期の敗血症に関連するものが含まれるがこれらに限定されない。
【0079】
「敗血症」とは、立証された感染過程と関連するSIRS陽性の状態を意味する。敗血症の臨床的な疑いは、SIRS患者のSIRS陽性の状態が感染過程の結果であるとの疑いに起因する。
【0080】
「OFの発症」とは、OFの初期段階、すなわち、臨床兆候がOFの臨床的な疑いを十分に支持するに至る前の状態を意味する。本発明の方法は、従来の技術を用いてOFが疑われるよりも早期にOFを検出するために用いられるため、早期のOFにある患者の病状は、OFの兆候が臨床的により顕著になる時点に遡及的にしか検証されない。患者がOFに罹患する正確なメカニズムは、本発明の重要な側面ではない。本発明の方法は、OFの起源とは無関係に、バイオマーカーのスコアの変化を検出することができる。OFの発症起源とは関わりなく、本発明の方法によると、OFに罹患しており、またはOFの罹患が疑われる患者の、以前用いられていた判定基準により分類されるような状態の決定が可能になる。
【0081】
本明細書で用いられる場合において、「臓器不全に特異的な代謝産物」という用語は、敗血症に罹患した生体において、敗血症に罹患していない生体と比較して存在量が異なり、または濃度が異なる代謝産物を意味する。例えば、ある実施態様において、臓器不全に特異的な代謝産物は、敗血症に罹患した組織には存在するが、敗血症に罹患していない組織には存在しない。
【0082】
他の実施態様において、臓器不全に特異的な代謝産物は、敗血症に罹患した組織には存在しないが、敗血症に罹患していない細胞、組織、体液中には存在している。さらに別の実施態様において、臓器不全に特異的な代謝産物は、敗血症に罹患した細胞/組織において、敗血症に罹患していない細胞と比較して、異なるレベル(高レベルまたは低レベル)で存在している。例えば、臓器不全に特異的な代謝産物は、任意の異なるレベルで存在していてよいが、通常、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%増大したレベルで存在していてもよく、あるいは、通常、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%(存在しない)減少したレベルで存在していてもよい。
【0083】
臓器不全に特異的な代謝産物は、好ましくは、統計上有意に異なるレベル(例えば、変動解析、Welchのt−検定またはノンパラメトリックな変法のいずれかを用いて決定される補正後のp値が0.05を下回る)で存在している。臓器不全に特異的な代謝産物の例は、以下の、本発明の詳細な説明または実験項に記載されている。
【0084】
本明細書および特許請求の範囲において、「サンプル」という用語は、最も広義に用いられている。一方で、この用語は、標本または培養物を包含する。他方、この用語は、生体または環境サンプルを包含している。サンプルには、合成物由来の標本も含まれる。
【0085】
生体サンプルは、ヒトを含む動物、体液、固形物(糞便等も含む)または組織であってもよい。生体サンプルは、有蹄動物、クマ、魚類、齧歯類等を含むがそれらに限定されない、家畜および野生動物に属する種々の属の全てに由来するものであってもよい。生体サンプルは、上述のバイオマーカーの検出に好適な任意の生体物質を含んでいてもよく、被験者に由来する細胞物質および/または非細胞物質を含んでいてもよい。サンプルは、例えば、組織、血液、血漿、尿または脳脊髄液(CSF)の任意の好適な生体組織または液体から単離することができる。
【0086】
代謝産物の「参照レベル」とは、特定の病状、表現型またはそれらの欠如、および病状、表現型の組み合わせまたはこれらの欠如を示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「正の」参照レベルとは、特定の病状または表現型を示すレベルを意味する。代謝産物の「負の」参照レベルとは、特定の病状または表現型の欠如を示すレベルを意味する。例えば、代謝産物の「臓器不全の正の参照レベル」とは、被験者における臓器不全について陽性の診断結果を示す代謝産物のレベルを意味し、代謝産物の「臓器不全の負の参照レベル」とは、被験者における臓器不全について陰性の診断結果を示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「参照レベル」は、代謝産物の絶対的または相対的な量または濃度、代謝産物の存在または欠如、代謝産物の量または濃度の範囲、代謝産物の量または濃度の最小値および/または最大値、代謝産物の量または濃度の平均値、および/または代謝産物の量または濃度のメジアンであってよく、さらに、複数の代謝産物の「参照レベル」は、2以上の代謝産物の互いについての量または濃度の絶対値または相対値の比あるいは分類によって得られる集計値/スコアであってもよい。
【0087】
特定の病的状態、表現型またはその欠如についての代謝産物の適切な正または負の参照レベルは、1以上の適切な被験者における所望の代謝産物のレベルを測定し、内因性の参照代謝産物のレベルと比較することにより決定することができる。代謝産物のレベルおよび内因性の参照代謝産物の参照レベルを、被験者の特定集団に合わせてもよい(例えば、特定の年齢の被験者に由来するサンプル中の代謝産物レベル、および特定の年齢層における特定の病的状態、表現型またはその欠如に対する参照レベル同士の比較が可能にするために、参照レベルを年齢に適合させてもよい。)。このような代謝産物のレベルおよび参照代謝産物の参照レベルを、生体サンプル中の代謝産物レベルの測定に用いた特定の技術(例えば、LC−MS、GC−MS等)に適合させてもよく、代謝産物のレベルまたは参照代謝産物のレベルは、用いた特定の技術により異なる可能性がある。
【0088】
本明細書で用いられる場合において、「細胞」という用語は、インビトロまたはインビボのいずれにあるかを問わず、任意の真核細胞および原核細胞(例えば、大腸菌、酵母細胞等の細菌細胞、ほ乳類細胞、は虫類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞および昆虫細胞)を意味する。
【0089】
本明細書で用いられる場合において、「プロセッサ」という用語は、プログラムにしたがって一連のステップを実行する装置(ディジタルコンピュータ等)を表す。プロセッサとしては、例えば、中央演算処理装置(「CPU」)、プログラムによる制御下でデータの受信、送信、保存および/または操作を行う電子装置またはシステムが挙げられる。
【0090】
本明細書で用いられる場合において、「記憶装置」または「コンピュータメモリ」という用語は、コンピュータで読み取り可能で、ランダムアクセスメモリ、ハードディスク、磁気ディスク(フロッピーディスク(登録商標))、コンパクトディスク、DVD、磁気テープ、フラッシュメモリ等が挙げられるがこれらに限定されない任意のデータ記録装置を表す。
【0091】
「質量分析法(Mass Spectrometry)」(MS)は、標的分子を断片化し、次いで、質量/電荷比に基づいて各フラグメントの解析を行い、「分子指紋」としての役割を果たす質量スペクトルを生成することを含む、分子の測定および解析技術である。対象物の質量/電荷比の決定は、対象物によって吸収される電磁エネルギーの波長を決定する手段によって行われる。イオンの質量/電荷比の決定に通常用いられる方法には数種類があり、イオンの軌道と電磁波の相互作用を計測するものもあれば、所定の距離をイオンが移動するのに要する時間を計測するものもあり、あるいは両者を組み合わせたものもある。これらのフラグメントの質量の測定データについてデータベース検索を行い、標的分子について信頼性の高い同定結果を得ることができる。質量分析法は、化学の他の分野、特に石油化学または医薬品の品質管理でも広く用いられている。
【0092】
本明細書で用いる場合において、「代謝産物(metabolite)」という用語は、細胞、生体、組織、または体液中および上述の供給源の抽出物中に存在し、分子量が通常1500ダルトン未満の内因性の有機化合物を意味する。代謝産物の典型例としては、炭水化物、脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質およびスフィンゴリン脂質、アミノ酸、コレステロール、ステロイドホルモンおよび酸化ステロール、およびヒト代謝産物データベース(Human Metabolite database)[Wishart DS et al., HMDB: the Human Metabolome Database. Nucleic Acids Res. 2007 Jan;35(Database issue):D521-6 (http://www.hmdb.ca/ 参照)]ならびに他のデータベースおよび文献に収録されたもの等の他の化合物が挙げられる。これには、代謝または代謝過程で産生された全ての物質および代謝に関与する全ての物質が含まれる。
【0093】
本発明の範囲内で了解される「メタボロミクス」とは、質量分析法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーおよび他の分離法によるクロマトグラフィーと組み合わされた質量分析法等が挙げられるがそれらに限定されない方法により、数種類(2000種類)の代謝産物の網羅的な定量的測定を意味する。
【0094】
「分離」という用語は、複雑な混合物を、その成分タンパク質または代謝産物に分けることを意味する。通常の実験室的な分離法としては、ゲル電気泳動およびクロマトグラフィーが挙げられる。
【0095】
「キャピラリー電気泳動」という用語は、緩衝溶液を満たしたキャピラリー中で電位を印加することにより溶液中の分子を分離する自動分析技術を表す。キャピラリー電気泳動は、通常、イオンの分離に用いられており、イオンは、電位が印加された場合、イオンのサイズおよび電荷に応じて異なる速度で移動する。溶質(イオン)は、検出器を通過する際にピークとして観測され、各ピークの面積は、溶質中のイオンの濃度に比例するため、イオンの定量分析が可能になる。
【0096】
「クロマトグラフィー」という用語は、分離対象となる成分を、一方が固定され(固定相)、他方が(移動相)が一定方向に移動する2つの相間で分布させる物理的な分離方法を表す。クロマトグラフィーの出力データは、本発明による処理のために用いることができる。
【0097】
「イオン(ion)」は、原子に電子を加え、あるいは原子から電子を除去するすることにより生成される電荷を帯びた物体である。
【0098】
「質量スペクトル」は、質量分析計により生成されたデータのプロットであり、通常、x軸にm/z値、y軸に強度を含んでいる。
【0099】
「ピーク」は、質量スペクトル上で、相対的に高いy値を示す点である。
【0100】
「m/z」という用語は、イオンの質量数をその絶対電荷数で除して得られる無次元量を意味する。それは長い間「質量電荷比」と呼ばれている。
【0101】
「代謝(metabolism)」という用語は、生体の組織内で起こる化学変化を意味し、「同化作用」および「異化作用」が含まれる。同化作用は、生合成または分子の形成を意味し、異化作用は、分子の分解を意味する。
【0102】
本明細書で用いられる場合において、「術後組織(post-surgical tissue)」という用語は、外科的手技の間に被験者から除去された組織を表す。例としては、生検サンプル、切除した臓器および切除された臓器の一部が挙げられるがこれらに限定されない。
【0103】
本明細書で用いられる場合において、「検出する」、「検出」または「検知」という用語は、発見または洞察についての一般的行動、あるいは検知可能な標識を有する組成物の特異的な観測の両者を表す。
【0104】
本明細書で用いられる場合において、「治療不成功(clinical failure)」という用語は、臓器不全の治療後の負の結果を表す。
【0105】
本発明において、バイオマーカーとは、臓器不全に関連する生物学的過程、発病過程、または治療的介入に対する応答の指標として測定および評価され、または臓器不全の治療に関連する、少なくとも1つの代謝産物のデータを含む特性である。本発明で用いられる複合バイオマーカーは、少なくとも2つの低分子量の内因性の分子および代謝産物から選択することができる。
【0106】
本発明の詳細な説明
本発明は、臓器不全およびその継続期間/重篤度および治療介入の効果のマーカーに関するものである。特定の実施態様において、本発明は、臓器不全において存在量が異なる代謝産物を提供する。本発明の実施態様の開発の過程において行った実験で、存在量の異なる一連の代謝産物が同定された。表2および表3に、血漿、血清または他の体液中に存在する他の代謝産物を示す。開示されたマーカーは、診断および治療の標的として用いられる。
【0107】
臨床応用
ある実施態様において、本発明は、臓器不全に特異的な代謝産物またはそれらの誘導体、前駆体、代謝産物等に基づき、臓器不全のリスクの特定、臓器不全の段階、継続期間および重篤度が含まれるがそれらに限定されない臓器不全を診断するための方法および組成物を提供する。診断方法は後述する。
【0108】
このように、例えば、被験者が臓器不全に罹患しているかを診断する方法(または診断を補助する方法)は、(1)表1〜4より選択される臓器不全に特異的な複数の代謝産物の存在または欠如またはレベルの違いを検出する工程と、b)臓器不全に特異的な代謝産物の存在、欠如またはレベルの違いに基づいて臓器不全の診断を行う工程とを有している。臓器不全の診断を補助するためにこのような方法を用いる場合、本発明の結果は、被験者が臓器不全に罹患しているかを臨床判断する上で有用な他の方法(またはその結果)と共に用いてもよい。
【0109】
臓器不全に特異的な代謝物の存在が疑われる任意のほ乳類細胞は、本明細書の記載にしたがって試験される。非限定的な実施態様によると、サンプルは組織(例えば、生検サンプルまたは術後組織)、血液、尿またはこれらの一部(例えば、血漿、血清、尿の上澄み、尿細胞ペレット)であってもよい。
【0110】
ある実施態様において、患者のサンプルについて、臓器不全に特異的な代謝産物または臓器不全に特異的な代謝産物を含む細胞を単離または濃縮するようデザインされた前処理を行う。この目的のために、遠心分離、免疫捕捉および細胞溶解が挙げられるがこれらに限定されない、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。
【0111】
代謝産物は、単独で、または質量分析と組み合わせて用いられる(例えば、後述の実験項を参照)液相または気相クロマトグラフィー、NMR、免疫アッセイ、化学アッセイ、分光法等が挙げられるがこれらに限定されない任意の好適な方法を用いて検出することができる。ある実施態様において、クロマトグラフィーおよびNMR分析用の市販のシステムが用いられる。
【0112】
他の実施態様において、代謝産物(バイオマーカーおよびそれらの誘導体)は、磁気共鳴分光(MRS)、磁気共鳴イメージング(MRI)、CATスキャン、超音波、MSに基づく組織イメージングまたはX線検出法(例えば、エネルギー分散X線蛍光検出)等の光学イメージング技術を用いて検出される。
【0113】
サンプル中の複数の代謝産物の存在、欠如またはレベルを決定するために、任意の公知の方法を用いて生体サンプルを分析することができる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的手法、生化学または酵素反応またはアッセイ、およびこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、複数の代謝産物のレベルは、間接的に、例えば、測定をしようとするバイオマーカーのレベルと相関のある(1または複数の)化合物のレベルを測定するアッセイを用いて決定することができる。
【0114】
列挙された複数の代謝産物のレベルは、本発明の方法で決定できる。例えば、1の代謝産物、2以上の代謝産物、3以上の代謝産物、4以上の代謝産物、5以上の代謝産物、6以上の代謝産物、7以上の代謝産物、8以上の代謝産物、9以上の代謝産物、10以上の代謝産物、その他の、表2に列挙したものが挙げられるがそれらに限定されない代謝産物の一部または全部の組み合わせを含む代謝産物のレベルは、こうした方法を用いて決定できる。
【0115】
複数の代謝産物のレベルを決定することにより、臓器不全の診断および臓器不全の診断の補助等の方法の感度および特異性を向上させることができ、(臓器不全に罹患していない患者と比較して)代謝産物が臓器不全と同一または重複している可能性がある他の疾患または他の臓器不全からの区別または評価の精度を改善できる。例えば、生体サンプル中のある代謝産物のレベルの比を取ることにより、臓器不全の診断および臓器不全の診断の補助等の方法の感度および特異性を向上させることができ、(臓器不全に罹患していない患者と比較して)代謝産物が臓器不全と同一または重複している可能性がある他の疾患または他の臓器不全からの区別または評価の精度を改善できる。
【0116】
データ解析
ある実施態様において、コンピュータを用いる解析プログラムを用いて、検出アッセイにより生成された生データ(例えば、臓器不全に特異的な代謝産物の存在、欠如または量)を、臨床医用の予測データに変換する。臨床医は、任意の好適な手段を用いて予測データにアクセスできる。したがって、ある実施態様において、本発明は、代謝産物の解析に不慣れであることが多い臨床医が、生データについて理解する必要がないという他の利益をもたらす。データは、最も有用な形式で臨床医に提供される。臨床医は、被験者への看護を最適化するために、すぐに情報を用いることができる。
【0117】
本発明は、アッセイが行われる実験室、情報提供者、医療従事者および被験者へ、および彼らより、情報を受信し、処理し、送信する任意の方法を考慮している。例えば、本発明のある実施態様において、サンプル(例えば、生検または血液、尿または血清サンプル)を被験者から採取して、世界中の任意の場所(例えば、被験者が居住し、または情報が最終的に用いられる国と異なる国)に存在するプロファイル部門(例えば、医療機関の臨床実験室等)に送付し、生データを生成する。サンプルが組織または他の生体サンプルを含む場合、被験者は医療機関を訪問し、サンプルを採取し、プロファイル部門に送付してもらってもよく、あるいは被験者は自分でサンプル(例えば、血漿サンプル)を採取し、プロファイル部門に直接送付してもよい。サンプルが以前に決定された生体情報からなる場合、被験者が情報をプロファイル部門に直接送付してもよい(例えば、情報を含む情報カードをコンピュータでスキャンし、電気通信システムを用いてプロファイル部門のコンピュータに情報を送付してもよい。)。プロファイル部門によって一旦受信されると、サンプルを処理し、被験者が必要とする診断または予後情報に特化したプロファイル(代謝プロファイル)が生成される。
【0118】
プロファイルデータは、その後、治療を行う臨床医による解釈に好適な形式で準備される。例えば、生データを提供する代わりに、準備された形式では、被験者に対する診断結果またはリスク評価(例えば、臓器不全に罹患している確率)を、推奨される具体的な治療の選択肢と共に示してもよい。データは、臨床医により任意の好適な方法で表示されることができる。例えば、ある実施態様において、プロファイル部門は、臨床医が(例えば、看護現場で)印刷またはコンピュータモニター上に臨床医に対して可能なレポートを生成する。
【0119】
ある実施態様において、情報は、まず、看護現場または地域の施設で解析される。次いで、生データは中央処理施設に送付され、生データから臨床医または被験者に有用な情報に、さらに処理および/または変換される。中央処理施設は、プライバシー(全てのデータは、中央施設で、均一なセキュリティープロトコールの下で保管されている。)、スピード、およびデータ解析の均一性についての利点を提供する。中央処理施設は、被験者の治療後のデータの処分について管理することができる。例えば、電気通信システムを用いることにより、中央施設は、臨床医、被験者または研究者に情報を提供できる。
【0120】
ある実施態様において、被験者は、電気通信システムを用いてデータに直接アクセスできる。被験者は、結果に基づいてさらなる介入またはカウンセリングを選択できる。ある実施態様において、データは研究に用いられる。例えば、データを用いて、特定の病状または疾病の段階についての有用なマーカーとして、マーカーの追加または削除をさらに最適化することができる。
【0121】
サンプル中の複数の代謝産物の量またはレベルを決定後、被験者が臓器不全に罹患しているかの診断を補助するため、または診断するために、量またはレベルを、臓器不全代謝産物の正の参照レベルおよび/または臓器不全代謝産物の負の参照レベル等の臓器不全代謝産物の参照レベルと比較してもよい。臓器不全の正の参照レベルに対応する(例えば、参照レベルと等しい、参照レベルとほぼ等しい、参照レベルの最小値および/または最大値を上回り、かつ/または下回り、および/または参照レベルの範囲内のレベル)サンプル中の複数の代謝産物のレベルは、被験者における臓器不全の診断結果を示すものである。臓器不全の負の参照レベルに対応する(例えば、参照レベルと等しい、参照レベルとほぼ等しい、参照レベルの最小値および/または最大値を上回り、かつ/または下回り、および/または参照レベルの範囲内のレベル)サンプル中の複数の代謝産物のレベルは、被験者における臓器不全なしの診断結果を示すものである。さらに、サンプルにおける存在量が、臓器不全の負の参照レベルと(特に、統計的に有意なレベルで)異なる複数の代謝産物のレベルは、被験者における臓器不全の診断結果を示すものである。サンプルにおける存在量が、臓器不全の正の参照レベルと(特に、統計的に有意なレベルで)異なる複数の代謝産物のレベルは、被験者における臓器不全なしの診断結果を示すものである。
【0122】
複数の代謝産物のレベルは、生体サンプル中の複数の代謝産物のレベルを臓器不全代謝産物の正の参照レベルおよび/または臓器不全代謝産物の負の参照レベルと比較する単純比較(例えば、手作業での比較)等の種々の技術を用いて臓器不全の正の参照レベルおよび/または臓器不全の負の参照レベルと比較できる。生体サンプル中の複数の代謝産物のレベルは、1または複数の統計解析(例えば、t−検定、Welchのt−検定、Wilcoxsonの順位和検定、ランダム決定木、サポートベクターマシン、線形判別分析、K近傍分類法)を用いて、臓器不全代謝産物の正の参照レベルおよび/または臓器不全代謝産物の負の参照レベルと比較してもよい。
【0123】
本発明のある実施態様の診断方法において使用するための(例えば、適当で、必要で、または有用な)組成物は、臓器不全に特異的な代謝産物の存在または欠如を検出するための試薬を含んでいる。任意のこれらの組成物は、単独で、あるいは本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形式で提供される。キットはさらに、適当な制御剤および/または検出剤を含んでいてもよい。
【0124】
本発明の実施態様は、表1および3に記載の本発明の複数のマーカーを、単独で、または公知の他の臓器不全に特異的なマーカーと組み合わせて同時に検出する多重アッセイまたはパネルアッセイを提供する。例えば、ある実施態様において、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上のマーカーが1回のアッセイで検出される多重アッセイまたは組み合わせアッセイが提供される。ある実施態様において、アッセイは自動化されておりまたは高スループットである。
【0125】
本発明の好ましい実施態様は、前記ほ乳類被験体がヒトであり、前記生体サンプルが血液および/または血液細胞である表2および3に列挙したマーカーの臓器不全およびその継続期間/重篤度の予測/診断への使用である。
【0126】
ある実施態様において、他の臓器不全に特異的なマーカーは、多重アッセイまたはパネルアッセイに含められる。マーカーは、それらの予測値単独より、あるいは本明細書に記載の代謝マーカーとの組み合わせより選抜される。
【0127】
治療方法
ある実施態様において、本発明は、(例えば、本明細書に記載の臓器不全に特異的な代謝産物を標的とする)治療方法を提供する。ある実施態様において、治療方法は、本明細書に記載の臓器不全に特異的な代謝産物の酵素または中間経路の成分を標的としている。
【0128】
例えば、ある実施態様において、本発明は、本発明の臓器不全に特異的な代謝産物を標的とする化合物を提供する。化合物は、例えば、臓器不全に特異的な代謝産物またはその前駆体または代謝産物の合成を(例えば、代謝産物の合成に関与する酵素の発現または翻訳をブロックすることにより、代謝産物の合成に関与する酵素を(例えば、翻訳後修飾または不可逆的な阻害剤に結合させることにより)不活性化することにより、または代謝産物の合成に関与する酵素の活性を他の方法で阻害することにより)阻害することにより、臓器不全に特異的な代謝産物の標的に結合(例えば、拮抗または非拮抗阻害剤)することにより、または代謝産物の分解または排出速度を増大させることにより、臓器不全に特異的な代謝産物のレベルを減少させてもよい。
【0129】
化合物は、例えば、臓器不全に特異的な代謝産物の分解または排出を(例えば、代謝産物の分解に関与する酵素を阻害することにより)阻害することにより、臓器不全に特異的な代謝産物の前駆体のレベルを増大させることにより、または代謝産物の標的に対する親和性を増大させることにより、臓器不全に特異的な代謝産物のレベルを増大させてもよい。
【0130】
治療の対象となる病状の重篤度および応答に応じて、数日から数ヶ月に及ぶ一連の治療と共に、あるいは治療が効果を上げ、または病状の消失が達成されるまで投与が行われる。最適な投与スケジュールは、患者の体内への薬剤の蓄積量の測定結果から算出できる。投与を行う医師は、最適な用量、投与方法および反復速度を容易に決定できる。
【0131】
ある実施態様において、本発明は、(例えば、抗臓器不全剤のスクリーニングのための)薬剤のスクリーニングアッセイを提供する。本発明のスクリーニング方法は、本明細書に記載の臓器不全に特異的な代謝産物を用いている。上述のように、ある実施態様において、供試化合物は、低分子、核酸または抗体である。ある実施態様において、供試化合物は、臓器不全に特異的な代謝産物を直接標的にしている。他の実施態様において、それらは臓器不全に特異的な代謝産物の代謝経路に関与する酵素を標的としている。
【実施例】
【0132】
以下の実施例は、本発明のある好ましい実施態様および態様を示し、さらに説明するためのものであり、その範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【0133】
分析全般
サンプルの調製およびメタボローム解析は、オーストリア、インスブルックのBIOCRATES Life Sciences AGで行った。広範な、すなわち、表1に示した化合物群に含まれる内因性の中間体の同時定量には、フローインジェクション分析(FIA)−MS/MSおよびLC−MS/MSからなる、マルチパラメトリックで、高信頼性の、高感度高スループット標的メタボロミクス環境を使用した。全ての手順(サンプルの取り扱い、分析操作)は、グループと接触のない共同研究者により実施された。
【0134】
血漿のホモジナイゼーション
血漿サンプルの調製は定法により行い、−70℃で保管した。全サンプルについて1バッチで同時に解析できるようにするために、サンプルは解析を行う日に氷上で解凍(1時間)後、加速度18000G、2℃で5分間遠心分離した。自動酸化による人為的なプロスタグランジンの生成を防ぐために、全てのチューブを0.001%BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン、Sigma Aldrich(オーストリア、ウィーン))で処理した。
【0135】
肝組織サンプルは、解析前に、Cryolys の冷却モジュールを備えた Precellys(登録商標) 24 ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。通常、50mgの組織をエタノール:リン酸緩衝溶液9:1(v/v)中で30分間ホモジナイズし、10,000Gで5分間遠心分離することにより、不溶性の物質および組織分散用のビーズを除去した。
【0136】
アシルカルニチン、スフィンゴミエリン、ヘキソース、グリセロリン脂質(FIA−MS/MS)
脳のホモジネートおよび血漿中のアシルカルニチン、スフィンゴミエリンおよびグリセロリン脂質の濃度を決定するために、メーカーのプロトコールの記載にしたがって、AbsoluteIDQ kit p150 (Biocrates Life Sciences AG)を調製した。要約すると、脳のホモジネート10μLを、上側の96ウェルキットプレートのフィルターの中心に加え、窒素エバポレーター(VLM laboratories)を用いてサンプルを乾燥した。次いで、誘導体化のために、フェニルイソチオシアネートの5%溶液20μLを加えた。インキュベーション後、エバポレーターを用いてフィルター上のスポットを再度乾燥した。5mMの酢酸アンモニウムのメタノール溶液300μLを用いて代謝産物を抽出した。下側の96ウェルプレートへの遠心分離を行い、次いでMS用ランニング溶媒600μLで希釈する工程により抽出物を得た。質量分析は、電子スプレーイオン化源(ESI)を備えたAPI4000 QTrap(登録商標)タンデム質量分析装置(Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)を用い、AbsoluteIDQキットに添付された分析取得方法を用いて行った。全ての測定について、20μLのインジェクションに、続けて2度(1度はポジティブモード分析用で、もう1度はネガティブモード分析用)標準的なFIA−MS/MS法を適用した。MetIQソフトウェア(Biocrates Life Sciences AG)に組み込まれたスペクトル解析アルゴリズムを用いた定量化のために、多重反応モニタリング(MRM)検出法を用いた。内部較正法を用いて得られた148種の代謝産物の濃度値(別の方法で得られたアミノ酸以外の全てについて、メタボロミクスキットを用いて決定された)を出力し、総合的な統計解析に供した。
【0137】
アミノ酸、生体アミン(LC−MS/MS)
アミノ酸および生体アミンの定量分析には、逆相LC−MS/MSを用い、外部標準法または内部標準法により行われる個別の定量のために、クロマトグラフィーによるアイソバリックな(同一のMRMイオン対)代謝産物の分離を行った。後述するサンプルの調製手順を用いた分析には、10μLの体積のサンプル(血漿、脳のホモジネート)が必要である。96ウェル ソルビナートプレート(内部標準を加え、使用前に窒素下で乾燥させた)に置いたフィルタースポットにサンプルを加え、96深穴プレート(キャプチャープレート)上に固定した。5%フェニルイソチオシアネート誘導体化試薬20μLを加えた。インキュベーション後、水性メタノールを用いて、誘導体化したサンプルをキャプチャープレート中に抽出した。API4000 QTrap(登録商標)タンデム質量分析装置(Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)を用いて、ポジティブMRM検出モードのLC−ESI−MS/MSで、サンプル抽出物の分析を行った。分析により得られた個々の代謝産物の濃度(Analyst 1.4.2ソフトウェア、Applied Biosystems)を出力し、総合的な統計解析に供した。
【0138】
胆汁酸(LC−MS/MS)
MRMネガティブモードでの高選択性逆相LC−MS/MS法を用いて、血漿サンプル中の胆汁酸の濃度を決定した。高スループット分析に非常に好適な96ウェルプレートを用いた乾燥フィルタースポット法により、サンプルを抽出した。高精度の定量化のために、内部較正法および外部較正法を用いた。要約すると、内部標準およびフィルタースポット上に載せた20μLの体積のサンプルを水性メタノールで抽出し、同時にタンパク質を沈殿させた。API4000 QTrap(登録商標)タンデム質量分析装置(Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)を用いて、LC−ESI−MS/MSで、これらのサンプル抽出物の測定を行った。Analyst 1.4.2ソフトウェア(Applied Biosystems)で胆汁酸のデータの定量化を行い、最後に出力し、総合的な統計解析に供した。
【0139】
プロスタノイド、酸化脂肪酸(LC−MS/MS)
プロスタグランジン(PG)、トロンボキサン(TX)およびプロスタサイクリンの総称であるプロスタノイドおよび酸化脂肪酸代謝産物の分析には、血漿抽出物中のものについてはLC−ESI−MS/MS[Unterwurzacher at al. Clin Chem Lab Med 2008; 46 (11):1589-1597]により、脳のホモジネート中のものについてはオンライン固相抽出(SPE)−LC−MS/MS[Unterwurzacher et al. Rapid Commun Mass Specに投稿中]により、MRMネガティブ検出モードのAPI4000 QTrap(登録商標)タンデム質量分析装置(Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)を用いて行った。サンプルの調製方法は、両者共同様であった。要約すると、96ウェルプレート中のフィルタースポットに内部標準を混合し、血漿または組織のホモジネート20μLを加え、水性メタノールで抽出後、個々の抽出物について分析を行った。Analyst 1.4.2ソフトウェア(Applied Biosystems)でプロスタノイドおよび酸化脂肪酸のデータの定量化を行い、最後に出力し、総合的な統計解析に供した。
【0140】
オキシステロール
オキシステロールは、抽出および鹸化の後で、多重反応モード(MRM)を用いたポジティブ検出モードのHPLC−タンデム質量分析計(HPLC−API−MS/MS)により決定される。
サンプル(20μL)、較正物質および内部標準をキャプチャープレート中に取り、第1段階においてアセトニトリル200μLを加えてタンパク質を沈殿させ、遠心分離した。180μLの適当な上澄み液を、7mmのフィルタースポットを有する新しいフィルタープレート上に移し、乾燥後、0.35M KOH95%エタノール溶液で加水分解し、洗浄工程後、100μLの水性メタノールで抽出した。抽出したサンプルの一部をHPLC−MS/MSシステムに注入した。クロマトグラフィーによる分離および検出は、Zorbax Eclipse XDB C18、150×2.0mm、3.5μm HPLC-カラム、流速0.3 mL/分、次いで、API4000/QTRAP4000タンデム質量分析計を用いた電子スプレーイオン化により行った。定量のために、Applied BioystemsのAnalyst Quantitationソフトウェアを用いた。
【0141】
エネルギー代謝(有機酸)(LC−MS/MS)
エネルギー代謝中間体(解糖系、クエン酸回路、ペントースリン酸経路、尿素サイクル)の定量分析のために、高選択性ネガティブMRM検出モードの親水性相互作用液相クロマトグラフィー(HILIC)−ESI−MS/MS法を用いた。API4000 QTrap(登録商標)タンデム質量分析装置(Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)を用いて、MRM検出を行った。水性メタノールを用いて、20μLの体積のサンプル(血漿、脳のホモジネート)のタンパク質の沈殿および抽出を、96ウェルプレート中で同時に行った。高精度の定量化のために、内部標準法(内部標準に対する外部標準の比)および外部較正法を用いた。Analyst 1.4.2ソフトウェア(Applied Biosystems)でデータの定量化を行い、最後に出力し、総合的な統計解析に供した。
【0142】
【表1−1】

【0143】
【表1−2】

【0144】
【表1−3】

【0145】
【表1−4】

【0146】
【表1−5】

【0147】
【表1−6】

【0148】
【表1−7】

【0149】
【表1−8】

【0150】
【表1−9】

【0151】
【表1−10】

【0152】
【表1−11】

【0153】
【表1−12】

【0154】
表1(表1−1〜表1−12)は、解析の対象となった代謝産物、および以下の表でも用いられるそれぞれの略号の一覧であり、グリセロリン脂質については、グリセロール基中のエステル(a)またはエーテル(e)結合の存在でさらに区別してあり、2文字(aa、eaまたはee)のものについては、グリセロール骨格の1位および2位が脂肪酸残基に結合していることを示し、1文字(aまたはe)のものについては、1つの脂肪酸残基のみとの結合を示している。例えば、PC_ea_33:1は、2つの脂肪酸側鎖が33個の炭素原子を有し、それらの一方に二重結合が1つ存在するプラズマローゲンホスファチジルコリンを示している。
【0155】
詳細な実施例
1.ヒト
我々は、29名の被験者のデータを用い、データは17名の混合敗血症の患者(混合病巣を有する敗血症患者で、腹膜炎(4名)、肺炎(5名)を含む。)から採取し、非同定の病巣を有し、全身性感染(敗血症)関連臓器不全を発症した患者(12名の混合敗血症患者)からも採取した。診断結果は、診断臨床基準および感染に関する微生物学的な証拠(血液培養および病原体についてのPCR)により検証した。
【0156】
統計解析
全ての統計計算は、統計ソフトウェアR(R: A Language and Environment for Statistical Computing, R Development Core Team, R Foundation for Statistical Computing,Vienna, Austria, 2009, ISBN 3-900051-07-0)を用いて行われた。
【0157】
サンプルの少なくとも15%で検出された分析物を、さらに分析するために選抜し、521種類の個別の化合物/代謝産物のリストを得た(表1)。代謝データは、質量分析計のしきい値のため左側打ち切りされており、検出されないピーク/シグナルを生じた。代謝経路のダイナミズムの組み合わせにより、複雑なサンプル分子の相互作用および分析プロトコールの全効率、多変量アルゴリズムによる欠損したデータの置換は、ゼロ等の指定された値によるナイーブな補完よりも好ましい。したがって、失われた代謝産物の濃度は、測定値が欠損した濃度を6つの最も近接したサンプルの平均値で置換される(補完:Imputation for microarray data, Hastie T., Tibshirani R., Narasimhan B. and Chu G., R package version 1.14.0)。倍率変化(FC)の決定の例外として、全ての統計解析を、前処理、すなわち対数変換したデータについて行う。
【0158】
パッケージlimma(Limma: linear models for microarray data, Smyth G.K. In: Bioinformatics and Computational Biology Solutions using R and Bioconductor, Springer, New York, pp 397-420, R package version 2.16.5)のlmFit 関数を用いて、敗血症患者に由来するサンプルと臓器不全患者に由来するサンプルの測定値との間で、モデレート統計計算を行う。得られたp値は、BenjaminiおよびHochbergにより記載の方法(Benjamini Y. and Hochberg Y., Controlling the false discovery rate: a practical and powerful approach to multiple testing, Journal of the Royal Statistical Society Series B, 1995, 57, 289-300)を用いて補正され、いわゆるq値を得る。
【0159】
1つの分析物または複数の分析物を含むクラシファイアーの感度/特異性の性質は、受信者動作特性曲線下面積(AUC)の観点から集約される。colAUC 関数(caTools: Tools: moving window statistics, GIF, Base64, ROC AUC, etc., Tuszynski J., 2008, R package version 1.9)を用いて、計算およびROC曲線のプロットを行う。3種類の単変数統計(補正後のp値(q値)、倍率変化およびAUC)より、2工程の戦略にしたがって特徴のランク付けを行った。1)まず、3つの尺度を、Chen らによる多目的アルゴリズム(Chen J.J., Tsai C.-A., Tzeng S.-L.and Chen C.-H., Gene selection with multiple ordering criteria, BMC Bioinformatics 2007, 8:74)の入力として用い、2)単純ボルダ得点により、結合(tie)(同一のフロントに属する代謝産物)を破壊する。Rパッケージ limma (Limma: linear models for microarray data, Smyth G.K. In: Bioinformatics and Computational Biology Solutions using R and Bioconductor, Springer, New York, pp 397-420, R package version 2.16.5)に含まれるvennDiagram 関数を用いて、それぞれのランキング技術によって選択される特徴の数を表示する。図1を参照。黒(灰色)で示した代謝産物の数は、臓器不全患者のサンプルにおける濃度が、敗血症患者のサンプルにおける濃度よりも高い(低い)代謝産物のカウント数を示している。以下のしきい値を用いた。0.01を下回る補正後のp値(q値)、50%を上回る倍率変化および0.8を上回るAUC。
【0160】
単変量統計以外に、ブースト回帰ツリーにより、多変量相互作用を考慮に入れた別の順位を計算した。Breimanのランダムツリーにおける変数の重要性の尺度と同様に、特徴の相対的な重要性を、損失関数の減少に及ぼすクラスラベルの順列の効果として決定した (Friedman J.H., Greedy Function Approximation: A Gradient Boosting Maof Statistics, 2001, 29(5):1189-1232) 。gbm Rパッケージのgbm 関数(gbm: 一般化ブースト回帰モデル、Ridgeway G., 2007, R package version 1.6-3)を用いて、収縮パラメータ0.05および3ツリー分岐以内の許容ツリーを用いて、ガウシアン型損失関数を特定するツリーを用いた勾配ブースティングを行った。順位付けにおける変動を減少させるために、訓練セットに1組のセットを残すことにより平均順位を計算する際に、特徴関連スコア(feature relevance score)を示した。
【0161】
結果がモデリングの手法に依存しないことを検証するために、異なるメカニズムによる3つの分類アルゴリズム、パッケージe1071中のR関数svmを用いた線形カーネルによるサポートベクターマシン(SVM)(e1071: Misc Functions of the Department of Statistics (e1071), Dimitriadou E., Hornik k., Leisch F., Meyer D. and Weingessel A., R package version 1.5-19)、パッケージsfsmisc中のR関数dDaを用いた対角線形判別(DLDA)(sfsmisc: Utilities from Seminar fuer Statistik ETH Zurich, Maechler M., R package version 1.0-7)、およびパッケージclass中のR関数knnを用いたk=0であるK近傍法(KNN)(Modern Applied Statistics with S, Venables W.N. And Ripley B.D., Springer, New York, R package version 7.2-47)を用いて、単一のマーカーおよび複数のマーカーの性能を評価する。モデルの予測能力は、層化ブートストラップ法(B=20)を用い、反復回数10回で計算し、性能の推計値およびそれに関連する変動を計算した(FIEmspro: Flow Injection Electrospray Mass Spectrometry Processing: data processing, classification modelling and variable selection in metabolite fingerprinting, Beckmann M., Enot D. and Lin W., 2007, R package version 1.1-0) 。
【0162】
3つの分類アルゴリズムSVM、DLDAおよびKNNの精度の計算結果(例えば、図2および3参照)に基づいて、我々は、補正後のp値、倍率変化およびAUCを組み合わせたランカーについて代謝産物の上位60種を選択すると共に、ブースト回帰ツリーを用いた多変量ラッパーについて97種類の異なる分析物および代謝産物を得た。表2を参照。
【0163】
表2(表2−1〜表2−3)は、炎症関連臓器不全の発症を検出する識別力に関する個々の分析物および代謝産物の順位を示す。順位付けは、補正後のp値、倍率変化およびAUCを組み合わせたランカーおよび上述のブースト回帰ツリーに基づく多変量ラッパーを用いて行った。他の情報については図1〜3参照。
【0164】
【表2−1】

【0165】
【表2−2】

【0166】
【表2−3】

【0167】
2.マウス
我々は11頭の(BL6)マウスを用いたが、うち5頭の動物は敗血症および誘発性の肝不全であり、6頭のマウスは敗血症であった。敗血症および臓器不全は、ヒトの糞の抽出物を腹腔内注射することにより誘発させた。典型的には、20gのヒトの糞(特に処理を行わずに計量した。)を、40mLの氷冷(4℃)した滅菌リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中で、Potter ホモジナイザーまたはUltra Turrax を用いて短時間遠心分離し、大きな粒子を除去し、抽出物を凍結画分として保存した。
【0168】
抽出物の(敗血症または臓器不全のいずれかを誘発させるための)有効投与量は、(1名のヒト被験者に由来する糞の)各バッチについて事前に決定しておく必要がある。投与量に応じて、敗血症は24時間内に誘発させることができ、48時間以上経過後に動物は完全に回復し、あるいは、より多量を投与することにより、敗血症および臓器不全を誘発させることができ、例えば、0.5mLの抽出物の腹腔内投与により敗血症を誘発させることができ、1.0mLの投与により臓器不全を誘発させることができる。抽出物の腹腔内投与の24時間後に、肝臓組織の全サンプルを採取した。
【0169】
統計解析
全ての統計計算は、統計ソフトウェアR(R: A Language and Environment for Statistical Computing, R Development Core Team, R Foundation for Statistical Computing,Vienna, Austria, 2009, ISBN 3-900051-07-0)を用いて行われた。
【0170】
サンプルの少なくとも15%で検出された分析物を、さらに分析するために選抜し、218種類の個別の化合物/代謝産物のリストを得た(表1)。代謝データは、質量分析計のしきい値のため左側打ち切りされており、検出されないピーク/シグナルを生じた。代謝経路のダイナミズムの組み合わせにより、複雑なサンプル分子の相互作用および分析プロトコールの全効率、多変量アルゴリズムによる欠損したデータの置換は、ゼロ等の指定された値によるナイーブな補完よりも好ましい。したがって、失われた代謝産物の濃度は、測定値が欠損した濃度を6つの最も近接したサンプルの平均値で置換される(補完:Imputation for microarray data, Hastie T., Tibshirani R., Narasimhan B. and Chu G., R package version 1.14.0)。倍率変化(FC)の決定の例外として、全ての統計解析を、前処理、すなわち対数変換したデータについて行う。
【0171】
パッケージlimma(Limma: linear models for microarray data, Smyth G.K. In: Bioinformatics and Computational Biology Solutions using R and Bioconductor, Springer, New York, pp 397-420, R package version 2.16.5)のlmFit 関数を用いて、敗血症患者に由来するサンプルと臓器不全患者に由来するサンプルの測定値との間で、モデレート統計計算を行う。得られたp値は、BenjaminiおよびHochbergにより記載の方法(Benjamini Y. and Hochberg Y., Controlling the false discovery rate: a practical and powerful approach to multiple testing, Journal of the Royal Statistical Society Series B, 1995, 57, 289-300)を用いて補正され、いわゆるq値を得る。
【0172】
1つの分析物または複数の分析物を含むクラシファイアーの感度/特異性の性質は、受信者動作特性曲線下面積(AUC)の観点から集約される。colAUC 関数(caTools: Tools: moving window statistics, GIF, Base64, ROC AUC, etc., Tuszynski J., 2008, R package version 1.9)を用いて、計算およびROC曲線のプロットを行う。3種類の単変数統計(補正後のp値(q値)、倍率変化およびAUC)より、2工程の戦略にしたがって特徴のランク付けを行った。1)まず、3つの尺度を、Chen らによる多目的アルゴリズム(Chen J.J., Tsai C.-A., Tzeng S.-L.and Chen C.-H., Gene selection with multiple ordering criteria, BMC Bioinformatics 2007, 8:74)の入力として用い、2)単純ボルダ得点により、結合(tie)(同一のフロントに属する代謝産物)を破壊する。Rパッケージ limma (Limma: linear models for microarray data, Smyth G.K. In: Bioinformatics and Computational Biology Solutions using R and Bioconductor, Springer, New York, pp 397-420, R package version 2.16.5)に含まれるvennDiagram 関数を用いて、それぞれのランキング技術によって選択される特徴の数を表示する。図4を参照。黒(灰色)で示した代謝産物の数は、臓器不全患者のサンプルにおける濃度が、敗血症患者のサンプルにおける濃度よりも高い(低い)代謝産物のカウント数を示している。以下のしきい値を用いた。0.05を下回る補正後のp値(q値)、50%を上回る倍率変化および0.8を上回るAUC。
【0173】
サンプル数が相対的に少なかったため、我々は、過学習を避けるために多変量解析を行わなかった。
【0174】
我々は、補正後のp値、倍率変化およびAUCを組み合わせたランカーについて、上位60種の代謝産物を選択した。表3(表3−1及び表3−2)を参照。
【0175】
【表3−1】

【0176】
【表3−2】

【0177】
表3は、炎症関連臓器不全の発症を検出する識別力に関する個々の分析物および代謝産物の順位を示す。順位付けは、補正後のp値、倍率変化およびAUCを組み合わせた単変量ランカーを用いて行った。他の情報については図4参照のこと。
【0178】
これらの60種の代謝産物は、従属請求項12に記載の本発明の好ましい実施態様を構成している。
【0179】
表4(表4−1〜表4−19)は、本発明において用いられる内因性の臓器不全予測用標的代謝産物を、略称および化学名により示している。
【0180】
表4
【0181】
【表4−1】

【0182】
【表4−2】

【0183】
【表4−3】

【0184】
【表4−4】

【0185】
【表4−5】

【0186】
【表4−6】

【0187】
【表4−7】

【0188】
【表4−8】

【0189】
【表4−9】

【0190】
【表4−10】

【0191】
【表4−11】

【0192】
【表4−12】

【0193】
【表4−13】

【0194】
【表4−14】

【0195】
【表4−15】

【0196】
【表4−16】

【0197】
【表4−17】

【0198】
【表4−18】

【0199】
【表4−19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほ乳類被験体の生体サンプルより、炎症関連臓器不全の発症の確率をインビトロで予測する方法であって、
a.定量的メタボローム解析により、複数の内因性の代謝産物を含む被験者の定量的メタボロミクスプロファイルを前記生体サンプルより検出する工程と、
b.前記被験者が臓器不全を発症する可能性があるか否かを予測するために、前記被験者のサンプルの定量的メタボロミクスプロファイルを、複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の定量的参照メタボロミクスプロファイルと比較する工程とを有し、
c.前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物が、1500Da未満の分子量を有し、
アミノ酸、具体的には、アルギニン、アスパラギン酸、シトルリン、グルタミン酸(グルタミン酸塩)、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、プロリン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、キヌレニン、
フェニルチオカルバミルアミノ酸(PTC−アミノ酸)、具体的にはPTC−アルギニン、PTC−グルタミン、PTC−ヒスチジン、PTC−メチオニン、PTC−オルニチン、PTC−フェニルアラニン、PTC−プロリン、PTC−セリン、PTC−トリプトファン、PTC−チロシン、PTC−バリン、
ジメチルアルギニン、具体的には、N,N−ジメチル−L−アルギニン、
カルボン酸、すなわち15(S)−ヒドロキシ−5Z,8Z,11Z,13E−エイコサテトラエン酸[(5Z,8Z,11Z,13E,15S)−15−ヒドロキシイコサ−5,8,11,13−テトラエン酸]、コハク酸(コハク酸塩)、
アシル基に2以上30以下の炭素原子を有するN−アシル基を有し、0以上5以下の二重結合を有し、0以上5以下のヒドロキシ基を有するセラミド、
カルニチン、
アシル基に1以上20以下の炭素原子を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合を有するアシルカルニチン、アシル基に1以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、アシル基に3以上20以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上4以下の二重結合および1以上3以下のOH基を有するアシルカルニチン、
リン脂質、具体的には、アシル基に1以上30以下の炭素原子を有するリゾホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン)、アシル基に3以上30以下の炭素原子を有し、かつアシル基に1以上6以下の二重結合を有するリゾホスファチジルコリン、
アシル基に合計1以上50以下の炭素原子を有するホスファチジルコリン(ジアシルホスファチジルコリン)、アシル基に合計3以上50以下の炭素原子を有し、かつアシル基に合計1以上8以下の二重結合を有するホスファチジルコリン、
スフィンゴ脂質、具体的には、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子を有するスフィンゴミエリン、アシル鎖に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するスフィンゴミエリン、
アシル基に合計10以上30以下の炭素原子を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、アシル基に合計10以上30以下の炭素原子および1以上5以下の二重結合を有するヒドロキシスフィンゴミエリン、
プロスタグランジン、すなわち、6−ケト−プロスタグランジンF1α、プロスタグランジンD2、トロンボキサンB2、
プトレシン、
オキシステロール、すなわち、22−R−ヒドロキシコレステロール、24−S−ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、27−ヒドロキシコレステロール、20α−ヒドロキシコレステロール、22−S−ヒドロキシコレステロール、24,25−エポキシコレステロール,3β,5α,6β−トリヒドロキシコレステロール、7α−ヒドロキシコレステロール、7−ケトコレステロール、5β,6β−エポキシコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、4β−ヒドロキシコレステロール、デスモステロール(ビタミンD3)、7−デヒドロコレステロール、コレステノン、ラノステロール、24−デヒドロラノステロール、
胆汁酸、すなわち、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリコリトコール酸、グリコリトコール酸硫酸塩、グリコウルソデオキシコール酸、リトコール酸、タウロコール酸、タウロケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロリトコール酸、タウロリトコール酸硫酸塩、タウロウルソデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、
生体アミン、すなわち、ヒスタミン、セロトニン、パルミトイルエタノールアミン、
からなる群より選択される方法。
【請求項2】
前記炎症関連臓器不全が、感染症関連臓器不全および/または敗血症関連臓器不全を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生体サンプルが、便、体液、具体的には血液、髄液、脳脊髄液、尿、腹水、精液、唾液、穿刺液、細胞内容物、組織サンプル、具体的には肝臓の生研サンプル、またはこれらの混合物である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記定量的メタボロミクスプロファイルが、質量分析(MS)法、具体的にはハイスループット質量分析法、好ましくはマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法、電子スプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、必要に応じてMS法と組み合わされた1H−、13C−
および/または31P−核磁気共鳴分光(NMR)法等のMS技術により内因性の代謝産物定量のための強度データを生成する工程と、
分離方法、具体的には液体クロマトグラフィー(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー(GC−MS)またはキャピラリー電気泳動法(CE−MS)と組み合わせたMS技術および/または方法を用いて代謝産物の濃度を決定する工程とを含む定量的メタボロミクスプロファイルの解析方法により達成される請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記メタボロミクスプロファイルの強度データが、一組の内因性のハウスキーパー代謝産物を用い、選択された内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物の検出された強度を、前記内因性のハウスキーパー代謝産物の強度と関連づけることにより標準化される請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記内因性のハウスキーパー代謝産物が、生強度データの変動係数(CV)、対数強度データの標準偏差(SD)、geNormアルゴリズムの安定性指標(M)またはNormFinderアルゴリズムの安定性指標(ρ)からなる群より選択される統計的な安定性指標に基づいて、安定性を示す内因性の代謝産物からなる群より選択される請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記定量的メタボロミクスプロファイルが、前記サンプル中に含まれる前記複数の内因性の代謝産物の個別の内因性の代謝産物の濃度、レベルまたは量、定性的および/または定量的な分子パターンおよび/または分子署名(molecular signature)からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータの測定ならびにデータベース中の得られた数値セットの使用および保存の結果を含む請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
一連の参照内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物またはその誘導体が、
a)メタボロミクスプロファイルの生成のために用いられる測定法に固有の技術的誤差を減少させるために、得られた強度値を数学的に前処理してメタボロミクスプロファイルを生成し、
b)ロジスティック回帰分析、(対角)線形または二次判別分析(LDA、QDA、DLDA、DQDA)、認知、収縮重心正規化判別分析(RDA)、ランダムフォレスト(RF)、ニューラルネットワーク(NN)、ベイジアンネットワーク、隠れマルコフモデル、サポートベクターマシン(SVM)、一般化部分最小二乗法(GPLS)、対象周辺分割(PAM)、帰納論理プログラミング(ILP)、一般加法モデル、ガウス過程、一般化最小二乗回帰、自己組織化マップ(SOM)、再起分割および回帰ツリー、K近傍分類法(K−NN)、ファジー分類法、バギング、ブースティングおよび単純ベイズからなる群より少なくとも1つの好適な分類アルゴリズムを選択し、前記選択された分類アルゴリズムを、工程a)の前記前処理されたデータに適用し、
c)分類関数を選択するために、前処理され、臓器不全を発症する確率により分類された被験者のデータを含む少なくとも1つの訓練データセットで工程b)の前記分類アルゴリズムを訓練し、前記前処理されたデータを前記確率によりマッピングし、
d)前記訓練された工程c)の分類アルゴリズムを、臓器不全の確率が未知であり、前処理された被験者のデータに適用し、被験者が臓器不全を発症する確率を予測するために、訓練された分類アルゴリズムを用いて前記データセットの前記分類ラベルを予測することにより確立される請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
より容易に、かつ/またはより高感度に検出を行うための前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物が、アミノ酸におけるフェニルイソチオシアネートのような化学修飾された誘導体を用いて検出される請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物が、
カルニチン、アシルカルニチン(C鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、C12−DC、C14:1、C14:1−OH、C14:2、C14:2−OH、C18、C6:1、
スフィンゴミエリン(SM 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、SM C16:0、SM C17:0、SM C18:0、SM C19:0、SM C21:1、SM C21:3、SM C22:2、SM C23:0、SM C23:1、SM C23:2、SM C23:3、SM C24:0、SM C24:1、SM C24:2、SM C24:3、SM C24:4、SM C26:4、SM C3:0、SM(OH)C22:1、SM(OH)C22:2、SM(OH)C24:1、SM C26:0、SM C26:1、
ホスファチジルコリン、(ジアシルホスファチジルコリン、PC aa 鎖長:二重結合の合計数、またはPC ae)具体的には、PC aa C28:1、PC aa C38:0、PC aa C42:0、PC aa C42:1、PC ae C40:1、PC ae C40:2、PC ae C40:6、PC ae C42:2、PC ae C42:3、PC ae C42:4、PC ae C44:5、PC ae C44:6、PC aa C36:4、PC aa C38:1、PC aa C38:2、PC aa C38:4、PC aa C38:5、PC aa C38:6、PC aa C40:5、PC aa C40:6、PC aa C40:7、PC aa C40:8、PC ae C36:4、PC ae C36:5、PC ae C38:4、PC ae C38:6、
リソホスファチジルコリン(モノアシルホスファチジルコリン、PC a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PC a C18:2、PC a C20:4、PC a C20:3、PC a C26:0、
Phe、
オキシコレステロール、具体的には、3β,5α,6β−トリヒドロキシコレスタン、7−ケトコレステロール、5α,6α−エポキシコレステロール、
リソホスファチジルエタノールアミン(モノアシルホスファチジルコリン、PE a 鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、PE a C18:1、PE a C18:2、PE a C20:4、PE a C22:5、PE a C22:6、
ホスファチジルエタノールアミン、(ジアシルホスファチジルコリン、PE aa 鎖長:二重結合の合計数),具体的には、PE aa C38:0、PE aa C38:2、
セラミド、(N−鎖長:二重結合の合計数)、具体的には、N−C2:0−Cer、N−C7:0−Cer、N−C9:3−Cer、N−C17:1−Cer、N−C22:1−Cer、N−C25:0−Cer、N−C27:1−Cer、N−C5:1−Cer(2H)、N−C7:1−Cer(2H)、N−C8:1−Cer(2H)、N−C11:1−Cer(2H)、N−C20:0−Cer(2H)、N−C21:0−Cer(2H)、N−C22:1−Cer(2H)、N−C25:1−Cer(2H)、N−C26:1−Cer(2H)、N−C24:0(OH)−Cer、N−C26:0(OH)−Cer、N−C6:0(OH)−Cer、N−C8:0(OH)−Cer(2H)、N−C10:0(OH)−Cer(2H)、N−C25:0(OH)−Cer(2H)、N−C26:0(OH)−Cer(2H)、N−C27:0(OH)−Cer(2H)、N−C28:0(OH)−Cer(2H)
からなる群より選択される請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物またはその誘導体が、2以上80以下、具体的には2以上60以下、好ましくは2以上50以下、望ましくは2以上30以下、より望ましくは2以上20以下、特に望ましくは2以上10以下の内因性の代謝産物を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記複数の内因性の臓器不全予測用の標的代謝産物が、
プトレシン
ラノステロール
C5−DC(C6−OH)
25OHC,SM C16:1
24SOHC
C14
C4−OH(C3−DC)
C0
C5−M−DC
C6(C4:1−DC)
PC aa C38:4
GLCA
Ala
4BOHC
24DHLan
TLCA
セロトニン
ADMA
PC aa C36:1
SM C16:0
C5:1−DC
7aOHC
27OHC
Cit
lysoPC a C20:4
GCA
lysoPC a C16:0
Ile
デスモステロール
PEA
全DMA
Trp
C3:1
lysoPC a C18:0
Val
PC ae C38:0
PGF2a
SM(OH)C14:1
lysoPC a C18:2
THC
PC ae C40:4
24,25,EPC
PC ae C36:5
PGD2
Gly
5B,6B,EPC
PC ae C40:0
PC ae C36:1
C18
C16:2
PC aa C36:5
PC aa C38:5
PC aa C30:2
13S−HODE
C9
15S−HETE
SM C22:3
C5:1
lysoPC a C17:0
からなる群より選択されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−501215(P2013−501215A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522121(P2012−522121)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060745
【国際公開番号】WO2011/012553
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(511314566)バイオクレイツ ライフ サイエンシズ アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】