説明

炭化パルプを含有することを特徴とする家畜用消臭剤およびそれを用いた消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法

【課題】家畜用消臭剤、詳しくは家畜及びその糞尿由来の悪臭に効果を有する消臭剤およびそれを用いた消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法を提供する。
【解決手段】炭化パルプを含有することを特徴とする消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜用消臭剤、詳しくは家畜及びその糞尿由来の悪臭に効果を有する消臭剤およびそれを用いた消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家禽、豚、牛などの畜産経営の大規模化により、家畜由来の悪臭、特に糞尿由来の悪臭が大規模に発生している。畜産経営上、家畜に由来する悪臭の消臭は近隣住民への配慮の点から重要な課題である。また、家畜糞尿に関しては、平成12年に施行された「家畜排泄物法」により、平成16年10月にはその野積みが禁止され、屋内保管する事が義務つけられている。そのため、家畜糞尿により発生する悪臭が屋内に充満し、作業環境の悪化が進む可能性の高いことから糞尿由来の悪臭の除去が急務となっている。
また、大量発生する家畜糞尿の利用の面では、糞尿の堆肥化、有機肥料化が注目を浴びており、畜産・家禽業者だけでなく地方自治体などによる堆肥化施設の建設が行われている。しかしながら、家畜糞尿から発生する悪臭が、それらの利用上の問題になっている場合も多い。そのため、消臭、脱臭効果が高くかつ安全で安価な消臭・脱臭剤の開発が望まれている。
【0003】
これらに対して、以下のように様々な研究が行われている。
リグニンスルホン酸塩を、家畜舎、家畜 糞尿または家畜 糞尿を使用した堆肥製造過程に散布、混合することで消臭効果を達成するとともに、堆肥を製造する方法(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
バシラス属に属する水の表面張力を低下させる作用を有するリポペプタイドを産生する菌であって土壌中で植物性繊維質の存在下で嫌気的条件下において繁殖可能な菌と、バシラス属またはクロストリジウム属に属するセルラーゼ類を産生する菌であって土壌中で植物性繊維質の存在下で嫌気的条件下において繁殖可能な菌とからなる家畜糞尿消臭用細菌製剤(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
新好熱性放線菌SK530と新繊維素分解菌株SK522、あるいはその他の繊維素分解菌との共生的混合培養物を有効主成分とする(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
硫酸第1鉄を主成分とする水溶液にクエン酸またはリンゴ酸のうちのいずれか一方または両方を添加溶解したものである家畜糞尿の消臭組成物(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2004-337533
【0008】
【特許文献2】特開平08-289735
【0009】
【特許文献3】特開平08-141058
【0010】
【特許文献4】特開平06-165815
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の消臭剤は価格に比較し消臭効果が十分とはいえないこと、菌類、微生物、酵母については、動物飼育中に発生する病気の予防や治療のために抗生物質や抗菌剤を飼料中に添加せざるを得ず、このことにより消臭のために飼料中に投与された菌類、微生物、酵母類の発育を抑制阻害し、消臭効果を十分に発揮できないこともしばしばであった。このため、畜産農家は使用をためらっているのが実情である。
【0012】
一方、木炭を製造する過程で得られる木酢液が環境に優しい消臭剤として利用されているが、市販の消臭剤に比べて、消臭効果の持続性が劣っている。また、市販の一般の消臭剤自体は、悪臭成分を除去するのではなく、より強いにおいを発生させること、すなわちマスキング効果によって、悪臭のにおい感じられなくするもので、消臭の根本的な解決に至っていない。家畜糞尿のような強烈な悪臭に対しては、返って不快臭となる。
【0013】
以上から、環境にやさしく消臭能力、消臭効果の持続性などの点で、更なる改良が強く望まれている。
そこで、本発明の目的は、安価で、しかも抗生物質や抗菌剤の同時投与によっても何ら消臭効果に影響を受けることがないパルプを原料とする炭を有効成分として配合した消臭
剤およびそれを用いた消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、本課題を解決すべく鋭意検討した結果、パルプを原料とする炭が家畜糞尿、家畜舎、家畜糞尿及び家畜糞尿の堆肥化時の悪臭の発生などに優れた消臭効果を有することを見出した。すなわち、本発明は次の[1]、[2]である。
[1]パルプを原料とした炭化パルプを含有とすることを特徴とする家畜およびその糞尿由来の悪臭に効果を有する消臭剤。
[2][1]の消臭剤を使用することを特徴とする家畜糞尿の堆肥化方法。
すなわち、本発明は、パルプを原料とする炭を含有することを特徴とする消臭剤およびそれを用いた消臭方法ならびに家畜糞尿の堆肥化方法に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の消臭剤を、家畜及び家畜糞尿から発生する悪臭(アンモニア、アミン等が含まれる悪臭)に対する消臭剤として使用することで、十分な消臭効果とその持続性を得ることができる。また、本発明の消臭剤は天然由来であることから環境に優しく、より安価で効果の高い家畜糞尿用及び家畜舎用消臭剤及びそれを用いた消臭方法並びに家畜糞尿の良好な堆肥化方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に使用する炭化パルプの原料となるパルプは、木材パルプ、アバカパルプ(麻)等抄紙可能な繊維を使用することができる。また、パルプはバージンでなく、抄紙製造の副産物の廃パルプを使用することが望ましい。また、古紙または古紙から得られた繊維も使用できる。本発明では、上記の繊維を単独または2種以上組み合わせて使用できる。
本発明では上記のパルプから調製した炭化パルプを用いる。炭化パルプの製造法に制限はなく、公知の方法で製造する。たとえば、パルプを550〜1400℃で炭化焼成する。この焼成温度が低すぎたり処理時間が短く炭化が不十分であると批評面積が小さいため十分な消臭効果が得られない。逆に温度が高すぎたり処理時間が長いと炭化が進み過ぎて、炭の収率を低下させる。従って炭化焼成温度は900〜1300℃とし、数時間程度で焼き上げるのが好ましい。
【0017】
必要に応じて、炭化パルプを賦活処理する。賦活方法は、紫外線照射賦活、グロー放電賦活、ハロゲン賦活、KOH、Zn、Cl2等による薬品賦活、水蒸気賦活等、種々方法があるが、水蒸気賦活が好ましい特性を示す方法である。水蒸気賦活反応は吸熱反応であること、炭化焼成パルプとの反応速度を考慮し水蒸気賦活の温度条件は炭化焼成温度550〜900℃より高めに設定することが好ましい。また、より高度な消臭性を引き出すために例えばハロゲンガス賦活あるいは薬品賦活と水蒸気賦活を重ねて賦活する等の可能性も十分考えられる。水蒸気の単独賦活では、温度750〜1100℃、時間20〜600分が好ましい。温度が750℃以下、時間が600分以上の場合は処理時間が長すぎ、よけいなコストがかかるため実用的でなく温度が1100℃以上、時間が20分以下の場合は不均一性が生じ、消臭性能にばらつきが生じる。
【0018】
上記の炭化パルプは、200〜900m/gの比表面積を有することが望ましい。比表面積が200m/g未満では十分な消臭効果が得られず、900m/gにすると収率が下がってコスト面で不都合が生じる。
【0019】
次に、本発明の内容である、炭化パルプを用いた家畜およびその糞尿由来の悪臭の消臭方法について説明する。本発明の消臭剤の使用方法としては、公知の方法で用いればよく、例えば、家畜糞尿又は家畜舎内への直接散布・添加、又は糞尿発酵設備のチップ等を引き詰めた排気槽への直接散布・添加し、処理する方法などが挙げられる。
【0020】
堆肥製造においては、堆肥製造に用いる家畜糞に予め本発明の消臭剤を添加、また、堆肥製造時に定期的に散布する等の方法で、悪臭の発生を抑制しつつ良好な堆肥の安定的な製造が可能となる。これは、本消臭剤が堆肥製造過程で生成するアンモニアを吸収し、堆肥過程での異常なアルカリ性への移行を抑制すると共に、堆肥において重要な窒素源であるアンモニアの空気中への放出抑え、堆肥内にとどめる効果を有するためと思われる。
【0021】
本発明の実施にあたっては、本発明の消臭剤に加えて、各種の殺虫剤、殺菌剤、防黴剤、消臭物質等の添加物を任意に配合することに、より相乗的に消臭作用を高めることができる。既存の添加物としては活性炭、シリカゲル、塩素化合物(塩化アルミ等)、酸化物(亜鉛華)、エチレングリコ−ル類、ホウ素化合物、アミン系物質(ヘキサミン等)、金属イオン(銀、銅、鉄イオン等)、天然系(クロロフィル、植物抽出物、木酢液等)の併用が可能である。これらの添加物の使用量は、本発明の消臭剤の1から100重量%とする。使用量が1重量%未満では十分な添加効果が得られない。使用量が100重量%を越えてもそれ以上の効果の増強が見込めない。
【0022】
本発明の消臭剤は、鶏、豚、牛などの家畜の糞尿から発生するアンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン、スカト−ル等の悪臭成分に対して、顕著な消臭効果を有する。また、本消臭剤を家畜
糞尿に添加し、通常の堆肥化処理を行うことで、屋内でも悪臭発生の少ない堆肥化方法及び悪臭が減少しアンモニア分の多い良質な堆肥を提供することができる。
【0023】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
実験例1 炭化パルプの製造
製紙廃液から得られた廃パルプを天日乾燥して水分を8%以下にした後、炭化装置(WBC1250、株式会社ウエーブ21製)で炭化した。炭化条件は1200℃、5時間とし、比表面積は450m/gであった。
【0025】
実験例2
実験例1の炭化パルプ1tを水蒸気賦活した。水蒸気量は2kg・H2O/mm、賦活温度は850℃とした。比表面積は600m/gであった。
【実施例1】
【0026】
豚糞の消臭効果
豚糞100gを三角フラスコに入れて、実験例2で得られた炭化パルプ10gをまんべんなく混合した。消臭剤の添加前と添加後において、フラスコ内のアンモニア濃度を検知管((株)ガステック製アンモニアガス検知管)で測定した。結果を表1に示した。
【0027】
比較例1
実施例1と同条件で、実験例2で得られた炭化パルプの代わりに木炭、竹炭を添加し、実施例1と同様にアンモニア濃度(ppm)を測定した。結果を表1に併せて示した。
【0028】
【表1】

【実施例2】
【0029】
【比較例2】
【0030】
実験例1により調製した炭化パルプ100gを含水率80%の豚糞1kgに混合し開放・無通気・回行型堆肥発酵装置(実験機)に30日間対流させ、堆肥化処理を行った(実施例2)。対照として、炭化パルプを添加せず同様の処理を行った(比較例2)。これらの堆肥化において、アンモニアの最も発生する期間中期にアンモニア発生濃度を測定し、得られた堆肥についてコマツナの発芽率を観察した。結果を、表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
表1から、本発明の消臭剤の方が従来の技術よりも優れた消臭力を持つことが分かる。また、表2から、本発明の消臭剤を用いることにより、堆肥化が有意に早まることが分かる。
【産業上の利用の可能性】
【0033】
本発明は豚、牛、鶏等の家畜の飼育以外に、ペットや実験動物の糞尿の消臭剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを原料とした炭化パルプを含有とすることを特徴とする家畜およびその糞尿由来の悪臭に効果を有する消臭剤。
【請求項2】
請求項1の消臭剤を使用することを特徴とする家畜糞尿の堆肥化方法。

【公開番号】特開2007−135721(P2007−135721A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330975(P2005−330975)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(505425269)
【Fターム(参考)】