説明

炭化水素の製造方法およびそれに用いるメタンの酸化カップリング用触媒

【課題】効率よくメタンの酸化カップリング反応を行わせて、炭素数が2以上の炭化水素を高い収率で、しかも経済的に製造することが可能な炭化水素の製造方法および該方法に用いられるメタンの酸化カップリング反応触媒を提供する。
【解決手段】バリウムとチタンとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒を用い、メタンを酸素の存在下で触媒と接触させ、酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造する。
また、反応温度を700℃〜800℃の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の製造方法およびそれに用いる触媒に関し、詳しくは、メタンから炭素数2以上の炭化水素の製造方法およびそれに用いるメタンの酸化カップリング用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンは、天然ガス中に豊富に存在し、また、石炭の分解ガスである一酸化炭素や二酸化炭素の水素化反応、石油留分などの炭化水素の水素化分解や接触分解プロセスの副生物などとしても多量に発生する。
しかしながら、メタンは、他の炭化水素と比較して反応性が低いことから、工業用原料として利用しにくい面があり、多くがそのまま燃料として利用されているのが実状である。
【0003】
ところが、近年の石油資源の見地から、メタンを単に燃料として利用するのではなく、より有用な炭化水素に変えて有効利用しようとする動きが活発化するに至っている。
【0004】
こうしたメタンの有効利用のための技術として、メタンを1000℃以上の高温下で脱水素カップリングしてアセチレンやエチレンなどに転化する技術が実用化されている。
この方法は大きな熱エネルギーを必要とし、コストがかかることから、近年、メタンの酸化カップリング反応、すなわちメタンを酸素の存在下で触媒に接触せしめて比較的低い温度でエチレンやエタンなどの炭素数2以上の炭化水素を製造する技術が提案され、注目されるに至っている。
【0005】
そして、このメタンの酸化カップリング反応に関する技術として、例えば、メタンを酸素の存在下で触媒と接触させて炭素数2以上の炭化水素を製造するにあたり、該触媒として、酸化カルシウム担体に酸化リチウム及び酸化錫を担持してなる触媒を使用して炭化水素を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
この方法は、それまでのメタンの酸化カップリング反応に関する技術に比べて、エチレン、エタンなどの炭素数2以上の炭化水素への選択率が高く、触媒の寿命も長いという特徴を有している。
【0006】
しかしながら、この特許文献1の方法の場合、エチレン、エタンなどの炭素数2以上の炭化水素への選択率は、それまでの技術に比べて高いとはいえ、約15%であり、さらに選択率を高めることが可能な技術が求められているのが実情である。
【特許文献1】特開平5−70372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、効率よくメタンの酸化カップリング反応を行わせて、炭素数が2以上の炭化水素を高い収率で、しかも経済的に製造することが可能な炭化水素の製造方法、および、メタンの酸化カップリングに対する活性及び選択性が高く、かつ経済性に優れたメタンの酸化カップリング反応触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の炭化水素の製造方法は、
バリウムとチタンとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒を用い、
メタンを酸素の存在下で前記触媒と接触させ、酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造すること
を特徴としている。
【0009】
また、本発明の炭化水素の製造方法においては、反応温度を700℃〜800℃の範囲とすることが望ましい。
【0010】
また、本発明のメタンの酸化カップリング反応触媒は、メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒であって、バリウムとチタンとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭化水素の製造方法は、バリウム(Ba)とチタン(Ti)とを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒を用い、メタンを酸素の存在下でこの触媒と接触させて酸化カップリング反応を起こさせるようにしているので、メタンから炭素数2以上の炭化水素を効率よく製造することが可能になる。
なお、本発明によれば、メタンの酸化カップリング反応における、エチレンなどの炭素数2以上の炭化水素の選択率を20%程度以上にまで向上させることが可能になる。
【0012】
ここで「選択率」とは、例えば、メタンが反応して、エチレンなどの炭素数2の化合物が生成する場合に、反応したメタンの物質量の1/2に対する、炭素数2の炭化水素の物質量であり、選択率が100%とは反応した全てのメタンがエチレンなどの炭素数2の炭化水素になることを意味する。
なお、本発明は、メタンの酸化カップリング反応およびそれに付随する反応により、炭素数2を超える炭化水素が生成する場合を含むものであって、そのような構成を除外するものではない。
【0013】
また、本発明の炭化水素の製造方法において用いられる一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒は、700℃以上の高温下で炭酸ガスを吸収する炭酸ガス吸収能を備えている。したがって、メタンの酸化カップリング反応に付随する副反応により生成する炭酸ガスを吸収して、エチレンやエタンなどの濃度を高めることが可能になる。
【0014】
また、本発明の炭化水素の製造方法においては、反応温度を700℃〜800℃の範囲とすることにより、エチレンなどの炭素数2以上の炭化水素の選択率をより確実に向上させることが可能で、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0015】
また、本発明のメタンの酸化カップリング反応触媒は、BaとTiとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とするものであり、この触媒を、酸素の存在下でメタンと接触させることにより、エチレンなどの炭素数2以上の炭化水素の選択率を大幅に向上させることが可能になる。
本発明のメタンの酸化カップリング反応触媒は、市場において入手しやすい一般的な原料、例えば、炭酸バリウムなどのBa化合物やTiO2などのTi化合物から合成しうるものであり、コストの面からも有利である。
【0016】
また、本発明のメタンの酸化カップリング反応触媒、すなわち、「BaとTiとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒」は、触媒中の全Baと全Tiのモル比が上記一般式の通りの化学量論比のモル比(Ba/Ti=2.0)となる場合に限らず、BaCO3やTiO2あるいはBaTiO3などを副成分として含んで触媒中の全Baと全Tiのモル比(Ba/Ti)が2から外れるような場合も含む広い概念である。これは、全Baと全Tiのモル比(Ba/Ti)が2から外れるような場合においても、Ba/Ti=2.0である一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物が主たる成分として含まれることになり、メタンの酸化カップリング反応触媒としての機能を果たすことによる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
[触媒の製造]
BaとTiのモル比が2/1となるように、BaCO3とTiO2を秤量し、さらに水を加えて、ボールミルで2時間混合を行った。
それから、混合物を120℃で10時間乾燥した後、バインダを加え、直径が2〜5mmの球状に造粒を行った。
【0019】
得られた粒状物を、500℃で2時間脱脂した後、1000℃〜1200℃の所定の温度(この実施例では1100℃)で焼成を行い、Ba2TiO4を主成分とするメタンの酸化カップリング反応触媒を得た。
【0020】
[メタンの酸化カップリング反応実験]
(実施例1)
上述のようにして作製したメタンのカップリング反応触媒を用いて、以下の方法で、メタンから炭化水素を製造する実験を行った。
実験は、図1に模式的に示すような試験装置を用いて行い、炭素数が2の炭化水素(この実施例ではエチレン+エタン)の選択率などの特性を調べた。
【0021】
図1の試験装置は、メタンを含む原料ガスが供給される、内径22mm、長さ300mmのステンレス製の反応管1と、反応管1の外周側に配設され、反応管1の内部を加熱する電熱ヒータ2とを備えており、反応管1の内部を所定の反応温度にまで加熱し、かつ、所定の温度で維持することができるように構成されている。
【0022】
そして、この試験装置の反応管1に、上述のメタンの酸化カップリング反応触媒3を44g(約20mL)充填し、20NL/hの割合で窒素ガスを流通させ、電熱ヒータ2により、窒素ガス入口温度を750℃に制御した。なお、「20NL/h」とは、0℃、1気圧のときに20リットルとなる量のガスを1時間で流通させるガス流通速度を意味する。
【0023】
そして、流通させた窒素ガスの温度が安定した後に、前記窒素ガスに代えて、メタンと酸素と窒素とを、容量比で、メタン/酸素/窒素=5/2.5/92.5で含有する原料ガス(混合ガス)を、20NL/hの速度で流通させ、メタンの酸化カップリング反応を行った。
【0024】
そして、反応により生成したガス(反応ガス)を、ガス分析装置(島津製作所製ガスクロマトグラフ)を用いて分析し、組成を調べた。
その結果から、(1)エチレン選択率、(2)エタン選択率及び、(3)炭素数2の炭化水素選択率(エチレン+エタンの選択率)を評価した。
【0025】
(実施例2)
反応管1の温度を700℃とした以外は、上記実施例1の場合と同じ方法、同じ条件により、メタンの酸化カップリング反応を行った。
【0026】
(実施例3)
反応管1の温度を800℃とした以外は、上記実施例1の場合と同じ方法、同じ条件により、メタンの酸化カップリング反応を行った。
【0027】
(比較例)
反応管1内に触媒を充填せずに、実施例1の場合と同じ方法、同じ条件で、上記実施例1の場合と同じ混合ガスを流通させ、反応管1を通過したガス(反応ガス)の分析を行った。
【0028】
[評価]
上記実施例1,2,3,および比較例のメタンの酸化カップリング反応の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、比較例では、反応ガス中にエチレン、エタンが全く検出されず、生成ガスは炭酸ガスや水蒸気のみであることが確認された。
【0031】
これに対し、本発明の実施例1〜3の場合、エチレン選択率についてみると、最も選択率の低い実施例3(反応温度800℃)でも19.8%、実施例2(反応温度700℃)では22.9%、実施例1(反応温度750℃)では25.3%と高い選択率が得られることが確認された。
また、エタン選択率についてみると、最も選択率の低い実施例2(反応温度700℃)では4.5%、実施例1(反応温度750℃)では25.0%、実施例3(反応温度800℃)では31.3%の選択率が得られることが確認された。
さらに、エチレンとエタンを合わせた、炭素数2の炭化水素の選択率についてみると、最も低い実施例2(反応温度700℃)でも27.4%と高く、実施例1(反応温度750℃)では50.3%、実施例(反応温度800℃)3では51.1%と極めて高い選択率が得られることが確認された。
【0032】
なお、エチレン選択率は、反応したメタンの物質量の1/2に対する、生成したエチレンの物質量であり、また、エタン選択率は、反応したメタンの物質量の1/2に対する、生成したエタンの物質量である。
また、炭素数2の炭化水素の選択率は、エチレン選択率と、エタン選択率の合計値である。
【0033】
上記比較例の場合、生成ガスが、炭酸ガスや水蒸気のみであることから、以下の反応が起こっているものと推測される。
CH4 十 2O2 → CO2 十 2H2
【0034】
これに対して、上記実施例1,2,3のように、本発明の触媒、すなわち、一般式Ba2TiO4で表される物質を主成分とする触媒を用いた場合には、以下に示すような、メタンの酸化カップリング反応が起こっていることがわかる。
2CH4 + O2 → CH2=CH2 + 2H2
【0035】
また、同時にエタンの生成も確認されているが、このエタンの生成は、以下の反応によるものと推定される。
2CH4 + 1/2O2 → CH3−CH3 + H2
【0036】
また、実施例1〜3に示すように、反応温度700〜800℃の範囲において20%程度からそれ以上の高いエチレン選択率が得られることが確認されているが、700℃ではエタンの選択率が大きく低下するために、全体としての炭素数2の炭化水素の選択率を向上させる見地からは、750〜800℃の範囲で反応を行わせることが望ましい。
【0037】
なお、上記実施例では、メタンから炭素数2の炭化水素が生成する場合を例にとって説明しているが、本願発明は、炭素数が2を超える炭化水素が生成する場合を排除するものではない。
【0038】
また、本発明は、その他の点においても上記の各実施例に限定されるものではなく、触媒の原料、原料から触媒を合成する方法や条件、メタンを酸素の存在下で触媒と接触させる際の具体的な条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明よれば、メタンの酸化カップリング反応を効率よく行わせて、炭素数が2以上の炭化水素を高い収率で、しかも経済的に製造することが可能なる。
したがって、本発明は、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造する技術分野、および、メタンの酸化カップリング反応触媒の分野に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例にかかる、メタンの酸化カップリング反応触媒を用いた炭化水素の製造方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1 反応管
2 ヒータ
3 メタンの酸化カップリング反応触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウムとチタンとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とする触媒を用い、
メタンを酸素の存在下で前記触媒と接触させ、酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造すること
を特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項2】
反応温度が700℃〜800℃の範囲であることを特徴とする、請求項1記載の炭化水素の製造方法。
【請求項3】
メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒であって、
バリウムとチタンとを含み、一般式Ba2TiO4で表される複合酸化物を主たる成分とすること
を特徴とするメタンの酸化カップリング反応触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2008−303184(P2008−303184A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152601(P2007−152601)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】