説明

炭化水素材料及びその製造方法

本発明は、入手容易で安価な多糖類を主成分とした原料を熱処理することにより得られる、電極単位体積当たりのイオン吸着能(比容量)の高い炭化水素材料を提供する。具体的には、多糖類原料を熱反応助剤と共に不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより得られる下記の特性を有する炭化水素材料:(a)水素/炭素(原子比)が0.05〜0.5、(b)BET法による比表面積値が600〜2000m/g、(c)BJH法によるメソ孔容積が0.02〜1.2ml/g、(d)MP法による全細孔容積が0.3〜1.25ml/g(e)該炭化水素材料を用いて得られる電極のかさ密度が0.60g/ml以上を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電気伝導性を有する炭化水素材料に関する。
【背景技術】
高分子材料は、成形性、軽量性および量産性等において優れた特性を有している。特にエレクトロニクス産業を代表とする多くの産業分野においては、これらの特性に加えて、電気的に半導性あるいは伝導性を有する有機高分子系材料が求められている。
特に、電気伝導度が半導体あるいは伝導体領域にある有機高分子系半導体だけでなく、シリコン、ゲルマニウムなどのように、n型あるいはp型半導体としての性質を有し、それらのp−n接合などを利用したダイオードや太陽電池などへの応用が可能である有機高分子系半導体が求められている。n型あるいはp型半導体としての性質を持つ有機高分子系材料としては、ポリアセチレン、ポリフェニレンなどが知られている。
例えば、合成金属(化学増刊87、1980年発行、15−28頁)には、アセチレンを重合して直接フィルム状のポリアセチレンを得た後、これに電子供与性ドーピング剤あるいは電子受容性ドーピング剤をドーピングすることにより大幅に電気伝導度を増加させたp型あるいはn型の半導体を得る手法が開示されている。しかしながら、ポリアセチレンは酸素によって酸化されやすいので実用性に極めて乏しい。
また、ポリフェニレンは、ポリアセチレンとは異なり、比較的酸化安定性には優れている。しかしながら、ポリフェニレンはフェニレン骨格が線状に単結合を形成しており炭素原子間の共役系が小さいため、ドーピング剤をドーピングすることによって達成される電子伝導度に限界があると考えられる。また、ドーピング剤による不純物制御にも限界があると考えられている。
そこで、半導体ないし伝導体の電気伝導性、優れた物理的性質を有し、かつ優れた酸化安定性を有する電気伝導性有機高分子材料が開発された(特公平6−43545号公報)。この材料は、多環芳香族系炭化水素材料(低温処理炭素材料、あるいはポリアセン系有機半導体と一般に呼ばれている)であり、現在、半導体材料として製造され広く応用されている。ポリアセン系有機半導体は、耐酸化性、耐薬品性、耐熱性等の安定性に優れ、反応条件を選択することにより幅広い導電率が得られ、多くの導電性高分子(ポリアニリン、ポリピロール等)では困難であったp型(負イオン)、n型(陽イオン)の両ドーピングが可能である、などの多くの利点を有している。
ポリアセン系有機半導体は、1次元グラファイトの切端が3次元網目状に発達してできた分子レベルの隙間を有した高次構造を持つ。このため、活性炭に比べてイオン吸着能が強く、迅速に大量のドーパントを蓄えることができる。また、ドーパントの出し入れに際しても材料の体積変化が少なく非常に安定であるため、電気二重層キャパシタ材料としても注目を集めている。また、この材料は、重金属を全く含まないので、環境にやさしい安全な高信頼性材料である。
しかし、上記公知のポリアセン系有機半導体は、電気二重層キャパシタ用電極材料とした場合には、電極の単位体積当りのイオン吸着能が不十分であるという問題点があり、さらに、原料にフェノール樹脂を使用しているために、原料コストが高価になってしまうという問題点があった。
そのため、電極の単位体積当り及び単位重量当たりのイオン吸着能が高く、かつ安価な原料で製造が容易な炭化水素材料が希求されている。
ところで、近年、ピッチを主成分とする材料を、不活性雰囲気下で熱処理することにより活性多環芳香族系炭化水素材料を製造し、該材料を電極用材料として用いることにより単位重量当たり及び単位体積当たりの容量の高いキャパシタ用電極が製造できることが報告されている(特開2001−266640号公報及び特開2001−274044号公報)。
しかし、これらの報告例に記載の材料は、原料の入手の容易さやコスト面、及び単位体積当たりの容量の点から、さらに改善の余地がある。
【発明の開示】
本発明は、安価な多糖類を主成分とした原料を熱処理することにより得られる、電極の単位体積当たりの容量(F/cc)[=電極単位重量当たりの容量(F/g)×電極かさ密度(g/cc)](以下、「単位体積当りの比容量」とも呼ぶ)が高い炭化水素材料、並びにその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記炭化水素材料を用いた電極やキャパシタを提供することをも目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の多糖類原料を特定条件下で処理することにより、特定の物性を有する炭化水素材料を製造し得ることを見出し、さらに研究を重ねることにより本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の炭化水素材料及びその製造方法を提供する。
項1.多糖類原料を、熱反応助剤と共に不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより得られる、下記の特性を有する炭化水素材料:
(a)水素/炭素(原子比)が0.05〜0.5、
(b)BET法による比表面積値が600〜2000m/g、
(c)BJH法によるメソ孔容積が0.02〜1.2ml/g、
(d)MP法による全細孔容積が0.3〜1.25ml/g、
(e)該炭化水素材料を用いて得られる電極のかさ密度が0.60g/ml以上。
項2.多糖類原料が、酸素濃度25〜50%の多糖類原料である項1に記載の炭化水素材料。
項3.酸素濃度25〜50%の多糖類原料が、多糖類原料の酸素架橋反応又は脱酸素化反応により調製される項2に記載の炭化水素材料。
項4.多糖類原料が、セルロース系原料及び/又は澱粉質原料である項1〜3のいずれかに記載の炭化水素材料。
項5.セルロース系原料が、ヤシ殻、木粉及び果実殻からなる群から選ばれる少なくとも1つである項4に記載の炭化水素材料。
項6.澱粉質原料が、穀物及び穀物の穂軸からなる群から選ばれる少なくとも1つである項4に記載の炭化水素材料。
項7.熱反応助剤が、塩化亜鉛である項1に記載の炭化水素材料。
項8.下記の工程からなる炭化水素材料の製造方法:
(a)多糖類原料を酸素架橋反応又は脱酸素化反応に付することより、酸素濃度25〜50%の多糖類原料を調製する工程、及び
(b)酸素濃度25〜50%の多糖類原料を、熱反応助剤と共に不活性ガス雰囲気下で熱処理する工程。
項9.熱反応助剤の使用量が、多糖類原料の重量に対して0.3〜2.0倍程度である項8に記載の製造方法。
項10.項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料を含有する電極。
項11.項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料、カーボンブラック及びバインダーを混合した後、その混合物を成形することを特徴とする電極の製造方法。
項12.項11に記載の製造方法により製造される電極。
項13.項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料を含有する電極を備えたキャパシタ。
発明の詳細な記述
I.炭化水素材料の製造方法
本発明の炭化水素材料は、多糖類原料を不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより製造することができる。多糖類原料としては、単糖類がグルコシド結合によりつながった化合物を主成分とする原料をいう。主なものとして、セルロース系原料、澱粉質原料、グリコーゲンなどが挙げられる。
セルロース系原料とは、β−グルコースが直鎖状に縮合した化合物(セルロース)を主成分とする原料である。セルロース系原料には、セルロースが20%以上、さらに30%以上、特に50%以上含有していてもよい。セルロース系原料には、セルロース以外の成分としてリグニンなどの他の成分を含んでいてもよい。具体的なセルロース系原料としては、例えば、ヤシ殻、木粉、果実(例、胡桃、桃、梅等)殻などが挙げられ、好ましくは、ヤシ殻、木粉である。
澱粉質原料とは、α−グルコースの重合体(アミロース、アミロペクチンなど)を主成分とする原料である。具体的な澱粉質原料としては、例えば、穀物(例、米、麦、トウモロコシ等)、穀物穂軸などが挙げられる。
これらは、単独で使用してよく、あるいは2種以上の混合物を使用してもよい。
本発明の炭化水素材料が所望の特性を有するためには、酸素原子及び水素原子を多く含有しているものが好ましい。多糖類原料としては、酸素濃度が25〜50%程度、特に30〜50%程度の多糖類原料が好ましい。ここで、酸素濃度とは、元素分析により測定した、多糖類原料中の酸素原子の重量%(重量含有率)をいう。
本発明で用い得る多糖類原料は、上記で例示したもの(ヤシ殻等)を用いることもできるが、あらかじめセルロース系原料等に酸素架橋反応又は脱酸素化反応を行って、酸素濃度を25〜50%程度の内の最適酸素濃度に調製した多糖類原料を使用することが好ましい。
本発明の炭化水素材料は、例えば、以下のような過程を経て製造される。
(1)多糖類原料の酸素架橋反応又は脱酸素化反応
多糖類原料を酸素架橋反応又は脱酸素化反応に付する方法としては、例えば、多糖類原料を加熱する方法、多糖類原料と硝酸、硫酸などの酸性液体とを接触させる方法等の各種の方法が挙げられる。用いる多糖類原料は、酸素架橋又は脱酸素化がされやすい大きい表面積をもつ粉末状のものが好ましい。
多糖類原料を加熱する方法の場合、加熱温度は、例えば、100〜350℃程度であればよく、好ましくは150〜300℃程度であればよい。圧力は、通常、常圧程度であればよい。時間は、例えば、1〜30時間程度でよい。より具体的には、例えば、多糖類原料の粉末を室温から150〜300℃程度まで0.5〜10時間程度かけて昇温し、同温度で1〜20時間程度保持した後、室温まで冷却すればよい。
もとの多糖類原料の酸素濃度が高い場合は、通常、酸素の含有量が酸素0〜10体積%程度の気体中で加熱処理し脱酸素反応に付して、多糖類原料の酸素濃度を低下させる。また、もとの多糖類原料の酸素濃度が低い場合は、通常、酸素の含有量が酸素5〜30体積%程度の気体中で加熱処理し酸素架橋反応に付して、多糖類原料の酸素濃度を上昇させる。なお、酸素架橋反応又は脱酸素化反応は、気体中の酸素濃度や加熱温度・時間に依存するため、上記の範囲内で適宜適切な条件を選択して行う。
多糖類原料と硝酸、硫酸などの酸性液体とを接触させる方法は、公知の方法を用いて行えばよい。
酸素架橋反応又は脱酸素化処理後の多糖類原料の酸素濃度は、好ましくは25〜50%であり、より好ましくは30〜48%である。酸素濃度が25%未満では、本発明の炭化水素材料において所望の性能が得られ難い。また、最適な酸素濃度は、多糖類原料の種類、熱反応助剤量等により異なるため、上記の範囲から適宜選択できる。
(2)多糖類原料の調製
上記のようにして得られる多糖類原料(好ましくは、酸素濃度が25%〜50%である多糖類原料)は、そのまま(3)の熱処理工程に供することもできるが、得られる炭化水素材料の比表面積を大きくするため、多糖類原料に熱反応助剤を加え均一に混合してから熱処理工程に供するのが好ましい。
熱反応助剤としては、例えば、塩化亜鉛、燐酸、塩化カルシウム、水酸化ナトリウム等の無機塩が挙げられ、このうちから選ばれる少なくとも1つを選択することができる。中でも塩化亜鉛を用いることが好ましい。熱反応助剤の配合量は、多糖類原料の種類、無機塩の種類等によって異なるが、通常、多糖類原料100重量部に対して、30〜200重量部程度であり、好ましくは50〜180重量部程度である。
多糖類原料と熱反応助剤の混合の方法としては、両者が均一に混合される方法であればよく、例えば、プラネタリーミキサー、ニーダー等を用いる方法が挙げられる。
なお、上記ので得られた多糖類原料と熱反応助剤との混合物からなる原材料(この混合物を「原料混合物」という。以下同じ)の取り扱いを容易にするために、原料混合物をフィルム状、板状、チップ状などの所定形状に成形しても良い。
成形を行う場合には、必要に応じ、成形性を改善するための成形助剤をさらに混合することができる。成形助剤としては、特に限定はなく、公知の成形助剤を用いることができる。
原料混合物をそのままプレス成形する場合には、例えば、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等の結着性を有する成形助剤を使用することができる。セルロースを成形助剤として使用する場合の添加量は、原料混合物の主成分である多糖類原料100重量部に対して、通常5〜50重量部程度であり、より好ましくは10〜40重量部程度である。
また、加熱成形を行う場合は、例えば、フェノール樹脂(例えば、レゾール、ノボラック等)などの熱硬化性樹脂を成形助剤として使用することもできる。上記熱硬化性樹脂を成形助剤として使用する場合の添加量は、原料混合物の主成分である多糖類原料100重量部に対して、通常5〜50重量部程度であり、より好ましくは10〜40重量部程度である。また、熱硬化性樹脂を成形助剤に用いる場合には、50〜250℃程度(より好ましくは100〜200℃程度)の温度で1〜120分程度(より好ましくは5〜60分程度)加熱することにより、硬化成形することも可能である。
(3)熱処理工程
上記で得られた原料混合物又はその成形物を熱処理することにより、本発明の炭化水素材料を得ることができる。
原料混合物又はその成形物の熱処理は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行われる。高温で熱処理するため、酸素等の助燃性気体や可燃性気体が混入していると成形物が燃焼してしまうからである。熱処理の圧力は、特に限定はないが、通常、常圧程度であればよい。熱処理の温度は、原料混合物の組成、他の熱処理条件(昇温速度、熱処理時間等)に応じて適宜決定されるが、通常500〜700℃程度の範囲内であればよく、520〜700℃程度が好ましい。特に、適切なH/C比を得るため、ピーク温度を550〜700℃にすることがより好ましい。また、昇温速度は、例えば、通常10〜250℃/時間程度であり、20〜200℃/時間程度にすることが好ましい。
(4)洗浄・乾燥工程
上記で得られた熱反応処理物を洗浄剤で洗浄して、熱反応物中に含まれている無機塩を除去する。洗浄剤としては、無機塩を除去し得る限り、特に限定されないが、例えば、水、希塩酸等が挙げられる。希塩酸を使用する場合には、最終的に水によりさらに洗浄して、塩酸を除去することが好ましい。
次いで、洗浄物を乾燥することにより、本発明の炭化水素材料が得られる。乾燥方法としては、特に限定はなく、公知の乾燥方法を用いればよい。
II.炭化水素材料
上記のようにして製造される本発明の炭化水素材料は、下記の特性を備えている。
本発明の炭化水素材料の水素/炭素(原子比)(以下「H/C比」と呼ぶ)は、通常0.05〜0.5程度であり、より好ましくは0.1〜0.3程度であり、特に好ましくは0.15〜0.3程度である。H/C比が高すぎる場合には所定の電気伝導度が得られないため、充分な単位重量当たりのイオン吸着能が発揮されない。一方、H/C比が低すぎる場合には、炭素化が進行しすぎて通常の活性炭となり、やはり充分な単位重量当たりのイオン吸着能が得られない。
また、H/C比が上記の範囲にある条件下において、本発明の炭化水素材料のBET法による比表面積値は、通常600〜2000m/gであり、好ましくは800〜1800m/gの範囲にある。比表面積値が大きすぎる場合には、かさ密度が低下して単位体積当たりのイオン吸着量(比容量)が低下する傾向にある。本発明の一つの特徴は、上述のH/C比と比表面積とが同時に特定の数値を充足することにある。
また、本発明の炭化水素材料のBJH法によるメソ孔容積は、0.02〜1.2ml/g程度であり、好ましく0.02〜1.0ml/gであり、最も好ましく0.02〜0.2ml/gである。メソ孔容積が小さすぎる場合、細孔ができておらず、単位重量当たりのイオン吸着能が低下し、大きすぎる場合は、単位重量当たりのイオン吸着能は大きいものの、密度が低下し、単位体積当たりのイオン吸着量が低下するために好ましくない。
なお、BJH法とは、Barrett,Joyner,Halendaによって提唱された、メソ孔の分布を求める方法である(E.P.Barrett、L.G.Joyner and P.P.Halenda、J,Am.Chem.Soc.,73、373、(1951))。
さらに、本発明の炭化水素材料のMP法による全細孔容積は、0.3〜1.25ml/g程度であり、好ましくは0.3〜1.0ml/g程度であり、さらに好ましくは0.3〜0.7ml/g程度である。この値が低すぎる場合には、イオン吸着サイトとなるマイクロ孔が少なくなるので、充分な単位体積当たりのイオン吸着量が得られない。
なお、MP法とは、「t−プロット法」(B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4,319(1965))を用いて、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法であり、M.Mikhail,Brunauer,Bodorにより考案された方法である(R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968))。
III.炭化水素材料を用いた電極
上記で得られる本発明の炭化水素材料は、電極単位体積当たりのイオン吸着能が大きいため、キャパシタなどにおける電極製造用材料として有用である。
(1)電極
本発明の炭化水素材料を電極用材料として用いて電極を製造することができる
例えば、炭化水素材料を粉砕し、その粉砕物、カーボンブラック及びバインダーを混合した後、その混合物を成形することにより電極を製造することができる。
炭化水素材料の粉砕方法は、特に限定はなく、公知の方法を用いればよい。例えば、ボールミル、ジェットミル等を用いた粉砕方法等が挙げられる。粉砕品の平均粒子径は、2〜20μm程度、好ましくは3〜10μm程度である。カーボンブラックの使用量は、例えば、粉砕物100重量部に対し0.5〜30重量部程度、好ましくは1〜20重量部程度でよい。バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)等が挙げられ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。バインダーは、成形性を容易にするため、粉末状のものが好ましい。バインダーの使用量は、例えば、粉砕物100重量部に対し1〜30重量部程度でよい。
粉砕物、カーボンブラック及びバインダーを混合方法は、特に限定はなく公知の混合方法を用いればよいが、例えば、通常のミキサー、ニーダー等を用いる方法が挙げられる。
得られる混合物の成形方法は、例えば、プレス成形、押し出し成形等が挙げられる。特に、プレス成形が好ましい。電極の厚さは、その電極の用途に応じて適宜選択することができる。
(2)キャパシタ
上記(1)で得られる電極を用いてキャパシタを製造することができる。例えば、上記(1)で得られる電極を乾燥し、正極及び負極とした後、セパレータ、電解液を加えてキャパシタを製造することができる。
電極の形状は、使用目的に応じ適宜選択することができるが、シート状のものが好ましい。電極の乾燥は、十分に水分を除去できればよく、通常70〜280℃程度で、10時間程度乾燥すればよい。乾燥後の電極を正極及び負極とする。乾燥後の電極を正極及び負極とする。
集電体としては、例えば、ステンレスメッシュ、アルミニウム等が挙げられるが、中でもステンレスメッシュのものが好ましい。集電体の厚さは、例えば、0.02〜0.5mm程度であればよい。
セパレータの構成は、特に限定されるものではないが、単層又は複層のセパレータを用いることができする。また、セパレータの材質も、特に限定されるものではないが、例えば、電解コンデンサー紙、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、クラフト紙、ガラス、セルロース系材料等が挙げられ、電池の耐熱性、安全性設計に応じ適宜決定される。中でも、電解コンデンサー紙が好ましい。また、セパレータは十分に乾燥したものが好ましい。
電解液としては、例えば、公知のアンモニウム塩を含む非水系電解質を使用することができる。具体的には、トリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(EtMeNBF)、テトラエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(EtNBF)等のアンモニウム塩を、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、蟻酸メチル、或いはこれら2種以上の混合溶媒等の有機溶媒に溶解したもの等が例示される。また、電解液の濃度は特に限定されるものではないが、一般的に0.5mol/lから2mol/lが実用的である。該電解液は当然のことながら、水分が100ppm以下のものを用いることが好ましい。
上記の電極、セパレータ、電解液を、例えば、ドライボックス中で組み立てることによりキャパシタを得ることができる。
かくして得られる本発明のキャパシタは、電極の単位体積当たりのイオン吸着量(比容量)が大きい点に特徴を有しており、例えば、25F/cc以上、好ましくは25〜40F/cc程度、特に好ましくは26〜35F/cc程度である。電極の単位重量当たりのイオン吸着量(比容量)は、例えば、30F/g以上、好ましくは、34〜50F/g程度である。なお、電極のかさ密度は、0.60g/cc以上、好ましくは0.65g/cc以上であり、高いかさ密度を有している。具体的な比容量の測定方法は、実施例1に記載の方法に従う。
さらに本発明の炭化水素材料は、水処理用吸着材、排煙用吸着材、脱臭用吸着剤などとしても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをさらに明確にするが、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
まず、主原料であるヤシ殻の脱酸素化処理を行った。すなわち、ヤシ殻(酸素濃度40.0%)の粉末を磁製の皿に入れ、小型円筒炉を用いて混合ガス(酸素5体積%、窒素95体積%)中で熱処理した。熱処理は、ヤシ殻粉末を室温から250℃まで2時間かけて昇温し、同温度に7時間保持した後、室温まで冷却し、円筒炉から取り出した。脱酸素化処理したヤシ殻の元素分析を行い、酸素濃度を求めた(測定装置:パーキンエルマー社製元素分析装置“PE2400シリーズII、CHNS/O”)。
酸素濃度は、34.6%であった。
脱酸素化処理したヤシ殻に熱反応助剤の塩化亜鉛を加え混合した。混合比率は、脱酸素化処理したヤシ殻100重量部に対し、塩化亜鉛50重量部とした。これらに適量の水を加え、混合することにより、水性スラリー(固形分85重量%+水分15重量%)を得た。
上記水性スラリーを黒鉛製の皿にいれ、小型円筒炉を用いて熱処理を行った。熱処理は窒素雰囲気下で、120℃/時間の昇温速度で600℃まで昇温を行い、同温度で1時間保持し、炉中で自然冷却した後、炉から取り出した。
熱処理物を希塩酸で洗浄した後、pH値が約7となるまで蒸留水により洗浄した。この洗浄後の熱処理物を乾燥することにより、本発明の炭化水素材料を得た。
得られた炭化水素材料の元素分析を行ない、H/C比を求めた(測定装置:パーキンエルマー社製元素分析装置“PE2400シリーズII、CHNS/O”)。
また、窒素を吸着質とし等温線の測定を行い(測定装置:ユアサアイオニクス社製“NOVA1200”)、得られた等温線からBET法により比表面積値を求めた。
全細孔容積は、相対圧力P/P≒1(P:吸着平衡圧、P:飽和蒸気圧(77k、N))付近で吸着した窒素ガスの全量からMP法により求めた。
メソ孔容積は、BJH法により計算した。
上記測定および計算による結果を、後記表1に示す。
次いで、上記の炭化水素材料を粉砕し、この粉末100重量部に対し、カーボンブラック10重量部と、バインダーとしてのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末8重量部を混合した後、プレス成形することにより、厚さ0.5mmの電極を得た。
上記で得られたシート状電極を1.5cm×1.5cmにカットし、150℃で2時間乾燥した。得られた電極を正極および負極とし、集電体として厚さ0.2mmのステンレスメッシュを用い、セパレータとして充分に乾燥した電解コンデンサー紙を用い、電解液として、濃度1.5mol/lのトリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(EtMeNBF)/プロピレンカーボネート(PC)溶液を用いて、ドライボックス中でキャパシタを組み立てた。
次いで、得られたキャパシタを用いて単位体積当たりのイオン吸着量(比容量)を求めた。比容量は、キャパシタの単位体積当りの電気容量(F/cc)として測定した。すなわち、キャパシタの最大充電電流を50mAに規制し、2.5Vで1時間充電した後、1mAの定電流にてキャパシタ電圧が0Vになるまで放電した。放電曲線の傾きから電気容量(F)を求め、正極/負極の全体積と電気容量とから電極の体積当たりの比容量(F/cc)を求めた。また、該体積当たりの比容量(F/cc)を電極かさ密度(g/cc)で除して、電極の重量当たりの比容量(F/g)を求めた。結果を表1に併せて示す。なお、電極かさ密度は(g/cc)、電極重量(g)を電極体積(cc)で除して求めることができる。
【実施例2】
実施例1と同様のヤシ殻を用いたが、脱酸素化処理は行わなかった。ヤシ殻の酸素濃度は、40.0%であった。上記ヤシ殻100重量部に対し、熱反応助剤の塩化亜鉛150重量部とした以外は、実施例1と同様にして、本発明の炭化水素材料を得た。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
【実施例3】
木粉を酸素架橋又は脱酸素化処理することなく用い、熱処理温度を550℃にすること以外は実施例1と同様の処理をして、本発明の炭化水素材料を得た。なお、木粉の酸素濃度は38.0%であった。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
【実施例4】
木粉(酸素濃度38.0%)を実施例1と同様の条件で磁製の皿に入れ、小型円筒炉を用い空気中で熱処理した。酸素濃度は45%であった。酸素架橋処理した木粉100重量部に対し、熱反応助剤の塩化亜鉛70重量部を水と共に混合し、スラリーを得た。熱処理は窒素雰囲気下で750℃まで昇温を行い、同温度で1時間保持し、炉中で自然冷却した後、炉から取り出した。その後の条件は実施例1と同様とした。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
【実施例5】
実施例2と同様に、ヤシ殻を用いた。上記ヤシ殻100重量部に対し、熱反応助剤の塩化亜鉛100重量部とし、小型円筒炉を用いての熱処理は、窒素雰囲気下で30℃/時間の昇温速度で550℃まで昇温を行った以外は、実施例2と同様にして、本発明の炭化水素材料を得た。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
比較例1
ヤシ殻(酸素濃度40.0%)粉を実施例1と同様の条件で磁製の皿に入れ、小型円筒炉を用い窒素中で熱処理した。酸素濃度は24.0%であった。脱酸素処理したヤシ殻粉100重量部に対し、熱反応助剤の塩化亜鉛150重量部を水と共に混合し、スラリーを得た。熱処理は実施例1と同様に窒素雰囲気下600℃で行い、その他の条件は実施例1と同様にして、炭化水素材料を得た。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
比較例2
特開2001−274044号公報の実施例1に記載の方法で、活性多環芳香族系炭化水素を得た。得られた炭化水素材料の比表面積は1640m/gであった。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。
比較例3
特開2001−274044号公報の実施例2に記載の方法で、活性多環芳香族系炭化水素を得た。得られた炭化水素材料の比表面積は1810m/gであった。
得られた炭化水素材料を用いて、実施例1と同様の手法により、電極を作成し、キャパシタを組み立て、充放電を行った。得られた結果を表1に示す。

表1に示す結果から、本発明の炭化水素材料は、比較例のいずれに対しても単位体積当たりの比容量(F/cc)が大きく、これをキャパシタ電極として用いた場合、高容量化、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
本発明の炭化水素材料は、入手容易で安価な多糖類を原料に用いて、比較的低い温度での熱処理によって製造することができるため、原料コスト、ランニングコストなどを低減することができ、工業的価値は非常に大きい。
また、本発明の炭化水素材料は、高い単位体積当たりのイオン吸着能を有しているため、キャパシタ等の電極用材料として用いることができ、また、キャパシタの高容量化、製造コストの低減化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類原料を、熱反応助剤と共に不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより得られる、下記の特性を有する炭化水素材料:
(a)水素/炭素(原子比)が0.05〜0.5、
(b)BET法による比表面積値が600〜2000m/g、
(c)BJH法によるメソ孔容積が0.02〜1.2ml/g、
(d)MP法による全細孔容積が0.3〜1.25ml/g、
(e)該炭化水素材料を用いて得られる電極のかさ密度が0.60g/ml以上。
【請求項2】
多糖類原料が、酸素濃度25〜50%の多糖類原料である請求項1に記載の炭化水素材料。
【請求項3】
酸素濃度25〜50%の多糖類原料が、多糖類原料の酸素架橋反応又は脱酸素化反応により調製される請求項2に記載の炭化水素材料。
【請求項4】
多糖類原料が、セルロース系原料及び/又は澱粉質原料である請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素材料。
【請求項5】
セルロース系原料が、ヤシ殻、木粉及び果実殻からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載の炭化水素材料。
【請求項6】
澱粉質原料が、穀物及び穀物の穂軸からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載の炭化水素材料。
【請求項7】
熱反応助剤が、塩化亜鉛である請求項1に記載の炭化水素材料。
【請求項8】
下記の工程からなる炭化水素材料の製造方法:
(a)多糖類原料を酸素架橋反応又は脱酸素化反応に付することより、酸素濃度25〜50%の多糖類原料を調製する工程、及び
(b)酸素濃度25〜50%の多糖類原料を、熱反応助剤と共に不活性ガス雰囲気下で熱処理する工程。
【請求項9】
熱反応助剤の使用量が、多糖類原料の重量に対して0.3〜2.0倍程度である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料を含有する電極。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料、カーボンブラック及びバインダーを混合した後、その混合物を成形することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により製造される電極。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の炭化水素材料を含有する電極を備えたキャパシタ。

【国際公開番号】WO2005/019105
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513355(P2005−513355)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012219
【国際出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】