説明

炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法、並びにそれを用いた炭化水素油の水素化処理方法

【課題】チタニアコーティングアルミナ担体を用いた、水素化脱硫活性がより一層改良された炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法、並びにそれを用いた炭化水素油の水素化脱硫処理方法を提供する。
【解決手段】アルミナ水和物粒子を含むヒドロゾルに、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を、温度が10〜100℃、pHが4.5〜6.5の範囲で同時に連続的に添加するチタニアコーティング工程と、夾雑イオンを洗浄除去する洗浄工程と、成形可能な水分量まで脱水後成形する成形工程と、成形担体を乾燥する第1乾燥工程と、周期律表第6族金属化合物、同第8〜10族金属化合物、リン化合物及び糖類をそれぞれ少なくとも一種含む触媒成分水溶液を含浸させる含浸工程と、触媒を乾燥する第2乾燥工程とを含む炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、それにより製造された水素化処理触媒、それを用いた水素化脱硫処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯軽油留分をはじめとする炭化水素油などの水素化処理用触媒として有効な炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法、並びにそれを用いた炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人類は地球規模での深刻な環境破壊に直面している。なかでも石油や石炭等の化石燃料の燃焼により発生する硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)及びパティキュレートは、大気中へ放出されることによって地球環境を著しく破壊している。特に、硫黄酸化物は酸性雨の原因となり、森林や湖沼等の環境を破壊し、生態系に大きな影響を与える。
【0003】
自動車業界では、精力的に排ガス対策のための技術開発を進めており、高圧噴射とEGR(Exhaust Gas Recirculation:排出ガス再循環)の組み合わせや予混合多段噴射やNOx触媒など新技術の研究開発を押し進め、軽油中の硫黄濃度の低減は、NOxの低減に有効なEGRの適応や、パティキュレートを除去する後処理装置への影響を軽減するためのものである。
【0004】
このEGRとは排出ガスを再循環させることによりエンジン内の酸素濃度を下げ、燃焼温度を低く抑えてNOxの生成を減らす技術であり、EGRクーラーを用いたクールEGRがより効果的である。ガソリンエンジンでは既に実用化されているこの技術も、燃料中に硫黄分が多いとエンジン内で硫酸として蓄積し、シリンダーやピストンリング等のエンジン部品を磨耗させてしまうため、硫黄濃度の低減が必要となる。また、パティキュレート中のSOF(Soluble Organic Fraction:溶剤可溶分)を処理する酸化触媒やNOxの還元触媒にとっては硫黄が燃焼して生成するSOは被毒物質となり、この面からも燃料である軽油中の硫黄濃度の低減が求められる。
【0005】
パティキュレートを構成する成分は、軽油中の硫黄化合物に由来するサルフェート、スス(Carbon; 黒煙)及びSOFであり、ススとSOFはほぼ等量である。深度脱硫対応の軽油(硫黄濃度500ppm)になってからは、サルフェート分はほとんど無くなり、ススと SOFのみで構成されるが、このSOFを処理する酸化触媒やNOxの還元触媒にとっては硫黄が燃焼して生成するSOxは被毒物質となり、この面からもさらなる硫黄濃度の低減が求められている。
【0006】
このような観点から、ガソリン、灯軽油、重油などの石油留分中の硫黄分に対する規制が特に強化されており、石油留分中の硫黄を効率よく除去する優れた活性を有する水素化処理触媒の開発が望まれている。
【0007】
現在、工業的に使われている石油留分中の硫黄を除去する水素化脱硫触媒は多孔質のアルミナ担体にモリブデンあるいはタングステンとコバルトやニッケルを担持したものが一般的である。かかる水素化脱硫触媒の脱硫活性は、触媒金属の担体への担持状態に大きく影響されることが知られている。その担持状態を改善し水素化脱硫触媒の活性を向上させる方法の一つとして、多孔質チタニア担体を用いた水素化脱硫触媒が、アルミナを担体とした触媒に比べて脱硫の比活性が2倍以上になることが知られている。
【0008】
しかしながら、チタニアはアルミナに比べて比表面積が小さく、成形性も悪く、また機械的強度も小さいなどの欠点を有している。更に、アルミナに比べて原料の価格も高く経済的にも不利であるために、水素化脱硫触媒としては工業的にはほとんど用いられていない。
【0009】
これらのチタニア担体の欠点を克服するために種々の検討が行われている。例えば特許文献1には、チタニアの比表面積を大きくし、且つ、脱硫活性を大きくする方法が提案されている。この方法はpHスイング法により製造したチタンの含水酸化物のヒドロゾル又はヒドロゲル若しくはそれらの乾燥物に、粒子成長抑制剤としてアニオン、カチオンを添加し、乾燥、焼成することにより、熱安定性に優れ比表面積が大きく、触媒金属が高分散され触媒の活性も向上させながら機械的強度も大きくした高性能な水素化脱硫触媒を得ている。しかしながら、この方法においても、チタニア原料費が高価格である点及び触媒の充填密度が大きいために反応器体積当たりの触媒充填質量が多くなるという経済的に不利になる点は改善されていない。
【0010】
そこで、経済性にも優れ、水素化脱硫触媒としての性能、すなわち、高活性で機械的な強度にも優れる触媒を得るために、原料費の安いアルミナと高性能が期待できるチタニアを複合化して実現しようとする種々な検討が行われている。例えば特許文献2には、アルミニウムイオンとチタニウムイオンを共沈させることで複合化した水素化精製処理用触媒担体の製造方法の技術が開示されている。また、例えば特許文献3には、チタンのハイドロオキシカルボン酸塩及び/又はチタンの酸化物、水酸化物のゾルとハイドロオキシカルボン酸を、アルミニウムの酸化物及び/又は水酸化物に添加、混練、焼成するアルミナ・チタニア複合触媒担体の製造方法が開示されている。
【0011】
しかし、これらの技術では、アルミナを加えることによって、経済性や触媒強度の面では改善されるものの、触媒の活性面から見た場合には酸化チタンの含有量が低下して、単に酸化チタンとアルミナの混合割合での性能を示すのみとなってしまう。
【0012】
かかる欠点を克服する方法として、例えば特許文献4には、アルミナ担体に四塩化チタンガスを導入し、アルミナの表面にチタンを化学蒸着することで、見かけ上アルミナ担体の細孔表面をチタニアにする方法が開示されている。しかし、この方法はガス状の四塩化チタンを用いることから、チタニアの添加量を大きくするためには操作を繰り返す必要があり、工業生産性に難がある。更に、TiClとHOを反応させることからHClガスの発生が避けられず、製造設備の腐食や環境汚染への対応も考慮する必要がある。
【0013】
また、例えば特許文献5には、アルミナ担体にチタンを含有する溶液を含浸し、アルミナの細孔表面をチタンでコーティングする方法が開示されている。しかし、この方法もチタニアの添加量を大きくするためには、含浸操作と乾燥あるいは焼成操作を繰り返す必要があるために工業生産性に問題がある。また、アルミナ担体の細孔内にチタンを含有する溶液を含浸するためにアルミナ担体の細孔容積、比表面積等の物性低下が避けられず、水素化脱硫触媒の性能を大幅に向上させることは難しい。
【0014】
一方、例えば非特許文献1には、アルミナ水和物粒子の表面にチタン水酸化物を沈殿(コーティング)させ、その後、熟成、ろ過、洗浄、成形、焼成することでチタニア−アルミナ担体を得る方法が開示されている。しかし、当該技術の方法では熱安定性や機械的強度が良くなるものの、チタンの量が9.1重量%を越えるとチタニアの凝集体が生成し、アルミナの比表面積や細孔容積が減少してしまう欠点がある。
【0015】
本発明者等は、無機酸化物の表面に酸化チタンを担持する際に、無機酸化物及び酸化チタンの両等電点の間で酸化チタンを沈殿積層させることによって、酸化チタンが13質量%以上担持されても、無機酸化物と酸化チタンとが化学的、微視的に一体化されて、比表面積、機械的強度に優れ、且つ、水素化脱硫触媒の活性もチタニア水素化脱硫触媒と同等の触媒を製造し得る触媒製造技術を開示している(特許文献6)。
【0016】
更に、担体に触媒金属を担持する際に有機化合物を用いることで、水素化処理触媒の活性を向上させる種々の検討が行われている。
例えば特許文献7には、アルミナ担体に触媒金属、リン酸と1分子に含まれる炭素の数が2〜10の2〜3価のアルコール類、それらのエーテル類、単糖類、二糖類及び多糖類の添加物を含む触媒成分含有水溶液を含浸し200℃以下で乾燥する水素化処理触媒の製造方法が開示されている。
【0017】
また、特許文献8には、アルミナヒドロゲルにチタン化合物を含む水溶液を担持し焼成した担体に触媒金属を担持する水素化処理触媒の製造方法が開示されている。この特許文献の[発明の明細の説明]の中で、触媒成分含有水溶液に水溶性有機化合物を添加することが好ましい旨記載されている。そして当該文献の中で、その水溶性有機化合物として、分子量100以上で水酸基及び/またはエーテル結合を有するジオール類、アルコール類、エーテル基含有水溶性高分子、糖類、多糖類などを挙げている。
これら二つの特許文献は共に、触媒活性に特に有効な有機化合物は示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−28485号公報
【特許文献2】特開平5−96161号公報
【特許文献3】特開平5−184921号公報
【特許文献4】特開平6−106061号公報
【特許文献5】特開2001−276626号公報
【特許文献6】特開2004−33819号公報
【特許文献7】特開平6−226108号公報
【特許文献8】特開2002−85975
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol. 346 445-450 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、チタニアコーティングアルミナ担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒であって、水素化脱硫活性がより一層改良された水素化処理触媒の製造方法、及び該製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒、並びにそれを用いた炭化水素油の水素化脱硫処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記本発明の目的は、アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物を特定なコーティング条件で均一にコーティングし物性を改善したチタニアコーティングアルミナ担体に、触媒成分である周期律表第6族金属化合物、第8〜10族金属化合物、リン化合物と特定の糖類とを含浸させて乾燥した炭化水素油の水素化処理触媒を用いることにより、達成し得ることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0022】
<1> アルミナ水和物粒子を含むヒドロゾルに、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を、温度が10〜100℃、pHが4.5〜6.5の範囲で、同時に連続的に添加し、pHを一定に保持しながらアルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングしてチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を得るチタニアコーティング工程と、
得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子と共存する夾雑イオンを洗浄除去する洗浄工程と、
洗浄されたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を、成形可能な水分量まで脱水後成形する成形工程と、
成形されたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子成形体を乾燥してチタニアコーティングアルミナ担体を得る第1乾燥工程と、
得られたチタニアコーティングアルミナ担体を、周期律表第6族金属化合物、同第8〜10族金属化合物及びリン化合物の各触媒成分をそれぞれ少なくとも一種と糖類とを含む触媒成分含有水溶液(以下、単に「触媒成分含有水溶液」と言う場合がある)を含浸させる含浸工程と、
触媒成分含有水溶液を含浸させたチタニアコーティングアルミナ担体を乾燥する第2乾燥工程と、
を含むことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0023】
<2> 含浸工程において用いる糖類が、エリスリトール、アラビノース、キシロース、キシリトール、リボース、フルクトース、ソルボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、ソルビトール、マンニトール、転化糖、ズルシトール、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖である<1>に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0024】
<3> 含浸工程において用いる糖類が、エリスリトール、キシロース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、転化糖、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖である<1>に記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【0025】
<4> 前記アルミナ水和物粒子の結晶系が、ベーマイト、擬ベーマイト及び/またはアルミナゲルである<1>〜<3>のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【0026】
<5> 前記アルミナ水和物粒子を500℃にて3時間焼成した後の細孔シャープネス度が、60%以上である<1>〜<4>のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【0027】
<6> チタニアコーティング工程の温度条件が、15〜90℃の範囲である<1>〜<5>のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【0028】
<7> チタニアコーティング工程の操作を下記(a)pH及び(b)コーティング時間の条件で行う<1>〜<6>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
(a)pH:下記式(1)で求められるpHを中心にpH変動幅が±0.5以内
pH=6.0−0.03×T ・・・式(1)
式(1)中、Tはチタニアコーティングアルミナ水和物粒子全体(酸化物基準)に対するチタニアの割合(質量%)を表す。
(b)コーティング時間:5分〜5時間の範囲
【0029】
<8> アルミナ水和物粒子にコーティングされるチタン水酸化物の量が、酸化物基準の合計量に対して5〜40質量%の範囲である<1>〜<7>のいずれかに記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【0030】
<9> 含浸工程における熟成時間が、10分〜24時間の範囲である<1>〜<8>のいずれかに記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【0031】
<10> 含浸工程において用いる周期律表第6族金属がモリブデンであり、同周期律表第8〜10族金属がコバルト及び/またはニッケルである<1>〜<9>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0032】
<11> 含浸工程において用いる糖類の添加量が、担体及び触媒成分の酸化物基準の合計量に対して、1〜20質量%の範囲である<1>〜<10>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0033】
<12> <1>〜<11>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造されたことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
【0034】
<13> 周期律表第6族金属化合物及び第8〜10族金属化合物と共に、リン化合物及び糖類を担持してなる<12>に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0035】
<14> チタニアコーティングアルミナ担体のチタニアの結晶格子面の繰り返し長さが、50Å以下であることを特徴とする<12>または<13>に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0036】
<15> チタニアコーティングアルミナ担体の細孔シャープネス度が、60%以上であることを特徴とする<12>〜<14>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0037】
<16> チタニアコーティングアルミナ担体の細孔容積が、0.36〜1.10ml/gであることを特徴とする<12>〜<15>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0038】
<17> チタニアコーティングアルミナ担体の比表面積が、200m/g以上であることを特徴とする<12>〜<16>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0039】
<18> 触媒の充填密度(Compact Bulk Density,CBD)が、0.5〜1.1g/mlであることを特徴とする<12>〜<17>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0040】
<19> <1>〜<11>のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒を使用することを特徴とする炭化水素油の水素化脱硫処理方法。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、特定のコーティング条件で均一にコーティングし物性を改善したチタニアコーティングアルミナ担体を用いた炭化水素油の水素化処理触媒であって、水素化脱硫活性が従来の触媒よりも一層改良された水素化処理触媒の製造方法、及び該製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒、並びにそれを用いた炭化水素油の水素化脱硫処理方法を提供することができ、炭化水素油、特に軽油の水素化脱硫処理に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明における担体生成工程の条件により調製されたチタニアコーティングアルミナ担体AT−2のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】アルミナ担体AS−2とそのチタニアコーティングアルミナ担体AT−2の微分細孔分布を示すグラフである。
【図3】チタン水酸化物/アルミナ水和物のゲルを混合して調製したチタニア・アルミナ混合担体AT−14のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】本発明における担体生成工程の条件範囲外により調製されたチタニアコーティングアルミナ担体AT−13のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明について詳細に説明する。
A:炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法
本発明の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、チタニアコーティング工程、洗浄工程、成形工程、第1乾燥工程、含浸工程及び第2乾燥工程からなる。以下、工程順に説明する。
【0044】
[チタニアコーティング工程]
本発明において、チタニアコーティング工程とは、アルミナ水和物粒子を含むヒドロゾルに、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を、温度が10〜100℃、pHが4.5〜6.5の範囲で、同時に連続的に添加し、pHを一定に保持しながらアルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングしてチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を得る工程である。
【0045】
本工程において用いる原料の1つであるヒドロゾル中のアルミナ水和物粒子の結晶系としては、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナゲルなどを挙げることができ、いずれも使用することが可能で、またこれらを混合して用いても構わない。
【0046】
前記アルミナ水和物粒子としては、これを500℃にて3時間焼成した後の細孔容積が0.36〜1.10ml/gであることが好ましい。細孔容積が0.36ml/g未満であると、触媒金属を担持した際の充填密度が高く(例えば1.1g/ml超)なってしまい、既存の水素化脱硫設備に充填することが充填重量の点で困難になる。一方、細孔容積が1.10ml/gを超えると、触媒金属を担持した場合においても触媒粒子圧壊強度(SCS,Side Crushing Strength)が低く(例えば、直径1mmφ基準で0.6kg/mm未満)なってしまい、実用強度を保つことができなくなる懸念がある。
【0047】
前記アルミナ水和物粒子としては、これを500℃にて3時間焼成した後の細孔シャープネス度が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
ここで「細孔シャープネス度」とは、細孔径の均一性を規定する数値である。すなわち、細孔シャープネス度が100%に近づくほど触媒や担体の細孔径が均一で揃っていることを意味する。すなわち、細孔容積の50%における細孔径(メディアン径)を求め、次にメディアン径の対数値の±5%の細孔径範囲内に存在する部分細孔容積(PVM)を求め、その部分細孔容積(PVM)と細孔容積(PVT)から、以下の式により細孔シャープネス度を求めるものである。
細孔シャープネス度(%)=(PVM/PVT)×100
【0048】
細孔シャープネス度は、水銀圧入法により測定された累積細孔分布曲線から上式により計算することができる。
【0049】
用いるアルミナ水和物粒子の調製方法については、特に制限はないが、pHスイング法で合成されたものであることが好ましい。pHスイング法で合成されたものとすることで、均質な形状のアルミナ水和物粒子を得ることができ、細孔シャープネス度が60%以上のアルミナを得ることができる。
【0050】
なお、pHスイング法によるアルミナ水和物粒子の合成については、特公昭56−120508号公報、特公昭57−44605号公報等に詳細に記載されている。
【0051】
このpHスイング法で製造したアルミナ水和物粒子のヒドロゾル中には、原料のアルミナ化合物に由来する夾雑イオンが存在するが、続くチタン水酸化物のコーティング操作(本発明におけるチタニアコーティング工程の操作)の前に、夾雑イオンを洗浄除去してもよいし、しなくてもよい。
【0052】
チタニアコーティング工程においては、上記アルミナ水和物粒子に、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を用いて、アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子を均一にコーティングし、アルミナ水和物粒子表面に担持させることでチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を得る。
【0053】
上記「チタンを含む酸性化合物」(以下、単に「チタン化合物」という場合がある。)としては、硫酸チタン、硫酸チタニル、塩化チタン、過酸化チタン、シュウ酸チタン、酢酸チタンなどが好ましい。
【0054】
アルミナ水和物粒子へのチタン化合物水溶液の添加方法としては、特定の温度・pH条件下、アルミナ水和物粒子が分散したヒドロゾル中に、チタン化合物水溶液とアルカリ性化合物を含む水溶液とを同時に連続的に添加することで行う。
【0055】
この時の温度条件としては、10〜100℃の範囲である。例えば、アルミナ水和物粒子を製造し、そのまま続けてチタン化合物水溶液を添加する場合には、アルミナ水和物粒子の製造温度条件によるが、概略50〜100℃の範囲になり、アルミナ水和物粒子を製造し、貯蔵して、温度が下がった場合は概略室温〜50℃の範囲になる。ただし、当該温度条件としては、15〜80℃の範囲であることが好ましい。
【0056】
一方、この時のpH条件としては、4.5〜6.5であり、一定に保持しながらチタン化合物水溶液とアルカリ性化合物を含む水溶液とを同時に連続的に添加する。なお、大容量のコーティング反応器を用いる場合、pHを完全に一定に保持することは困難であるため、ここでいう「一定に保持」とは、目標のpH値になるべく近付けるように制御する行為を指すものとし、好ましくは、目標のpH値に対して±0.5の範囲内に収まるように制御することをいう。
【0057】
pH条件の原理について説明する。
アルミナ水和物粒子にチタン水酸化物粒子がコーティングされると、そのコーティング量に応じて、チタン水酸化物がコーティングされたアルミナ水和物粒子の等電点が変化する。下記表1は、チタン水酸化物のコーティング量別の等電点測定結果である。
【0058】
【表1】

【0059】
上記表1において、チタン水酸化物のコーティング量は、アルミナ水和物粒子との酸化物基準の合計に対する質量割合(%)で示されており、チタン水酸化物粒子100%及びアルミナ水和物粒子100%は、それぞれの粒子のみの場合を示すものである。以下の説明において「チタン水酸化物のコーティング量」といった場合には、同様に、チタン水酸化物及びアルミナ水和物粒子の酸化物基準の合計に対する質量割合(%)を意味する。
【0060】
なお、等電点は電気泳動光散乱法により、測定装置として大塚電子製のHLS−8000型装置を用いて測定した。等電点の求め方は、測定したpHとゼーター電位の関係から、ゼーター電位が0となるpHを求めて、これを等電点とした。
【0061】
アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングする場合のpHの範囲は、原理的には100%チタン水酸化物粒子の等電点であるpH=4.2を超え、それぞれのチタン水酸化物粒子の濃度(チタン水酸化物のコーティング量)に相当する等電点未満の値でよい。例えばチタン水酸化物粒子の濃度が10%の場合はpH=9.2未満になる(表1参照)。
【0062】
しかし、アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物を均一に、且つ、強固にコーティングする場合のpHの範囲は、本願発明で規定するように4.5〜6.5の範囲が好ましい。これは、pHを4.5以上にすることで、チタン水酸化物粒子のゼーター電位が−5.0mV以下(絶対値が5.0mV以上)にあり、pHを6.5以下にすることで、チタニアコーティングアルミナ水和物粒子のゼーター電位が20mV以上(絶対値が20mV以上)になり、常にチタン水酸化物はマイナス、チタニアコーティングアルミナ水和物粒子はプラスに帯電して、互いに強固に結合することができるからである。すなわち、本願発明で規定するpHの範囲にすることで、アルミナ水和物粒子表面にチタン水酸化物がプラス・マイナスの関係で互いに引き合い、効率的に強固にコーティングされる。
【0063】
チタニアコーティング工程の操作においては、下記(a)pH及びコーティング時間の条件で行うことが、さらに好ましい。
(a)pH:下記式(1)で求められるpHを中心にpH変動幅が±0.5以内
pH=6.0−0.03×T ・・・式(1)
式(1)中、Tはチタン水酸化物のコーティング量を表す。
(b)コーティング時間:5分〜5時間の範囲
【0064】
上記pH条件でチタニアコーティング工程の操作を行うことで、チタン水酸化物粒子及びチタニアコーティングアルミナ水和物粒子のゼーター電位の絶対値の合計が最大値近傍に有効に保持されることになり、アルミナ水和物粒子表面にチタン水酸化物がより強固にコーティングされる。
【0065】
式(1)は、チタン水酸化物粒子及びチタニアコーティングアルミナ水和物粒子のゼーター電位とpHの関係を実測し、両ゼーター電位が有効に正負に隔たる条件を、チタン水酸化物のコーティング量を変数として導き出した関係式である。
【0066】
一方、チタン水酸化物のコーティング時間が5分未満であると、大容量のコーティング反応器を用いる場合にpHを所定の値に、完全に一定に保持することが困難となり、結果としてチタン水酸化物をアルミナ水酸化物粒子に均一に且つ強固にコーティングすることが困難となり、5時間を超えると、チタニアコーティングアルミナ水和物の製造効率が大幅に低下することから、それぞれ好ましくない。
【0067】
本発明で規定する条件でアルミナ水和物粒子表面にコーティングされたチタン水酸化物は、X線回折による分析結果で、チタン水和物であるアナターゼの結晶構造を示さないところに特徴がある。その解析結果は、第1乾燥工程において、当該工程を経て得られるチタニアコーティングアルミナ担体による解析結果として説明する。
【0068】
本発明において、アルミナ水和物粒子の表面にコーティングされるチタンの水酸化物粒子のコーティング量としては、好ましくは5〜40質量%の範囲であり、10〜35質量%の範囲にすることがより好ましい。コーティング量が5質量%未満だと、チタン水酸化物添加の効果が十分発揮されない場合があり、コーティング量が40質量%を超えるとチタン水酸化物同士の凝集が生じ、アルミナ水酸化物粒子表面に均一にコーティングされない場合があり、それぞれ好ましくない。
【0069】
[洗浄工程]
アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングしてチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を得た後の反応液には、例えば陽イオンとしてナトリウムイオンやアンモニアイオン、あるいは陰イオンとして硫酸イオンや塩素イオンなどの夾雑イオンが一般に含まれる。したがって、本洗浄工程で、得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を洗浄する。洗浄により、これら夾雑イオンを除去または低減することができる。洗浄は、オリバーフィルターや加圧ろ過器等を用いて水で洗い流す洗浄・ろ過操作により行う。
【0070】
[成形工程]
洗浄工程の操作で得られた、チタニアコーティングアルミナ水和物粒子は成形可能な水分量になるまで脱水される。脱水は、加圧ろ過、真空ろ過あるいは遠心ろ過等の操作により行うことが一般的であるが、乾燥してもよい。更にこれらを組み合わせても構わない。
【0071】
脱水後、円柱状、クローバー状、円筒状、球状など使用目的に適した形状に成形して、チタニアコーティングアルミナ水和物粒子成形体を得る。
【0072】
[第1乾燥工程]
第1乾燥工程は、成形工程で得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子成形体を乾燥あるいは乾燥後続けて焼成する操作によって安定化させる工程である。乾燥あるいは乾燥後焼成する温度は100〜600℃の範囲が好ましく、より好ましくは120〜500℃の範囲である。100℃未満の温度で処理した場合、乾燥に多大な時間がかかり実用的でなくなる。また、600℃を越えるとアナターゼの結晶形が観測されるようになり、チタン水酸化物のコーティングが不均一になる。
【0073】
なお、乾燥のみの操作の場合と乾燥後焼成まで行う操作とでは実質的に加熱温度が異なるのみなので、本発明においては「乾燥」に「焼成」の概念を含めるものとする(第2乾燥工程においても同様である。)。
本工程において、乾燥時間としては0.5〜24時間の範囲から適宜選択することが好ましい。
本工程の操作を為すことで、チタニアコーティングアルミナ担体が得られる。
【0074】
以上までの工程の操作で、チタン水酸化物をコーティングしてチタニアコーティングアルミナ担体を得た場合の特徴として、ベースとなるアルミナ水和物粒子の比表面積よりもチタン水酸化物を担持したアルミナ粒子の比表面積の方が大きくなる傾向がある。更に、全細孔容積が増えても、比表面積が減少しない特徴も兼ね備えている。本発明では、これらの特徴を最大限活かすことによって、触媒の充填密度を適切に(例えば、1.1g/ml以下)保ちながら、非常に高活性な水素化脱硫触媒を調製することを可能にしている。
【0075】
既述の通り、本発明におけるチタニアコーティング工程の条件でアルミナ水和物の表面にコーティングされたチタン水酸化物は、X線回折による分析結果で、チタン水和物であるアナターゼの結晶構造を示さないところに特徴がある。
【0076】
一般のX線回折装置によりアナターゼのメインピーク2θ=26.5゜が検出される場合には、チタン水和物の凝集体が存在していることを示しており、コーティングが最適に行われたとはいえない。しかしながら、このピークが検出されない場合には、アルミナ水和物粒子の表面にチタン水酸化物が強固に且つ均一にコーティングされていると考えられ、更に、チタン水酸化物の結晶格子面の繰り返し長さが、50Å以下になっていることが示唆される。
【0077】
図1に、本発明におけるチタニアコーティング工程の条件により生成されたチタニアコーティングアルミナのXRD測定結果(X線回折パターン)の一例を示す。これは、具体的には、後述する実施例で用いたチタニアコーティングアルミナAT−2の測定結果である。
【0078】
一方、本発明で規定する条件から外れてコーティングされた場合のチタン水酸化物については、X線回折による分析結果で、チタン水和物であるアナターゼの結晶構造を示す蓋然性が高く、また強固なコーティングにならない蓋然性が高い。例えば、pHを8.0に保持して、チタン水酸化物を酸化物基準で30質量%コーティングした場合、チタン水酸化物及びチタニアコーティングアルミナ水和物粒子の電荷が共にマイナスになるので、互いに反発し合い強固なコーティングが行われない。
【0079】
この状態のXRDパターンを図4に示す。これは、具体的には、後述するチタニアコーティングアルミナ担体AT−13の測定結果である。
【0080】
[含浸工程]
含浸工程においては、第1乾燥工程で得られたチタニアコーティングアルミナ担体に、触媒金属化合物として周期律表第6族金属化合物及び同第8〜10族金属化合物をそれぞれ少なくとも一種、並びに、リン化合物を少なくとも一種を含む触媒成分と、糖類の少なくとも一種とを含む水溶液を含浸させる工程である。
【0081】
触媒成分含有水溶液を含浸させた後、活性金属をチタニアコーティングアルミナ担体に均一に且つ安定化させるために必要に応じて熟成する。なお、「熟成」とは、触媒成分含有水溶液を含浸させた後、その状態で静置しておくことをいう。本発明において、この熟成の操作も「含浸工程」の操作の1つに含めることとする。該熟成の時間としては、10分〜24時間の範囲にすることが好ましい。
【0082】
周期律表第6族金属としては、モリブデン、タングステンが挙げられ、特にモリブデンが好ましい。好ましいモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウムが挙げられる。これら周期律表第6族金属化合物の担持量は、触媒(担体+周期律表第6及び8〜10族金属化合物+リン化合物の酸化物基準の合計量、以下同様)に対して、好ましくは10〜40質量%、更に好ましくは15〜35質量%の範囲である。
【0083】
周期律表第8〜10族の金属としては、コバルト及びニッケルが挙げられる。好ましいニッケル化合物としては、硝酸ニッケル,塩基性炭酸ニッケル等が挙げられ、好ましいコバルト化合物としては、硝酸コバルト,塩基性炭酸コバルト等が挙げられる。これらのコバルト化合物及びニッケル化合物を単独で用いてもよいし、共に用いてもよい。これら活性金属化合物の担持量(添加量)は、触媒に対して好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜8質量%範囲である。
【0084】
リン化合物としては、五酸化リン、正リン酸等が挙げられる。リン化合物の担持量(添加量)は、触媒に対して1〜10質量%、好ましくは2〜8質量%の範囲である。
【0085】
糖類としては単糖類のトリオース類(グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、グリセリン)、テトロース類(エリトロース、トレオース、エリトルロース、エリスリトール等)、ペントース類(リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、キシリトール、リキソース、デオキシリボース等)、ヘキソース類(プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、ガラクチトール、グルコサミン、ガラクトサミン、イノシトール、転化糖等)、ヘプトース類(セドヘプツロース等)、二糖類のスクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、ツラノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、コージビオース、ラミナリビオース、メリビオース、ニゲロース、ソフォロース、三糖類のラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、四糖類のアカルボース、スタキオース、オリゴ糖類のフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、多糖類のグリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、フルクタン、グアーガム、N−アセチルグルコサミン、異性化糖等が挙げられる。
【0086】
本発明に好ましい糖類は、エリスリトール、アラビノース、キシロース、キシリトール、リボース、フルクトース、ソルボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、ソルビトール、マンニトール、転化糖、ズルシトール、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースである。これらは単独でも二種類以上を混合して使用することもできる。
【0087】
更に、本発明に特に好ましい糖類は、エリスリトール、キシロース、キシリトール、ヘキソース類であるソルビトール、マンニトール、転化糖、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースである。
【0088】
糖類の添加量は、触媒に対して、外割り1〜20質量%の範囲が好ましく、5〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0089】
[第2乾燥工程]
次に、触媒成分及び糖類をチタニアコーティングアルミナ担体に安定化させるために、含浸工程で触媒成分含有水溶液を含浸させたチタニアコーティングアルミナ担体を乾燥する。当該乾燥温度としては、100〜500℃の範囲が好ましい。乾燥後そのまま加熱を続ける、すなわち焼成することもできる。乾燥時間としては、0.5〜24時間の範囲である。
以上の工程の操作を行うことにより、高い触媒活性を示す炭化水素油の水素化処理触媒を製造することができる。
【0090】
B:炭化水素油の水素化処理触媒
本発明の炭化水素油の水素化処理触媒(以下、「本発明の水素化処理触媒」あるいは単に「本発明の触媒」という場合がある。)は、上記のように、本発明の製造方法により製造された物である。これにより、本発明の触媒は、周期律表第6族金属化合物及び第8〜10族金属化合物と共にリン化合物及び糖類を担持した物になる。
【0091】
本発明の製造方法により製造されることで、本発明の触媒は、細孔シャープネス度が高く、細孔容積や比表面積が大きく、触媒の充填密度が適切なものとなる。具体的には、以下に示す好ましい各物性を具備した水素化処理触媒を得ることができる。
【0092】
本発明の触媒に含まれるチタニアコーティングアルミナ担体の細孔シャープネス度としては、60%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましい。細孔シャープネス度が60%以上であると、反応物質の大きさに合わせて反応に最適な細孔が多くあるということで、触媒の活性が大きくなるという点で好ましい。
【0093】
本発明の触媒に含まれるチタニアコーティングアルミナ担体の細孔容積としては、0.36〜1.10ml/gであることが好ましい。細孔容積が0.35ml/g以上であると、触媒成分含有水溶液の含浸が容易であり、また、触媒の充填密度(CBD)を1.1g/ml以下にすることが容易である点で好ましい。一方、細孔容積が1.10ml/gを超えると、触媒粒子圧壊強度(SCS,Side Crushing Strength)が低くなってしまい、実用強度を保つことができなくなる懸念がある。
【0094】
本発明の触媒に含まれるチタニアコーティングアルミナ担体の比表面積としては、200m/g以上であることが好ましい。比表面積が200m/g以上であることによって高活性な水素化精製触媒が実現可能となる。
本明細書において比表面積は、BETの三点法により測定した。測定機器としては、マウンテック社製Macsorb Model−1201を使用した。
【0095】
本発明の触媒の充填密度(CBD,Compact Bulk Density)としては、0.5〜1.1g/mlの範囲であることが好ましく、0.5〜1.0g/mlの範囲であることがより好ましい。充填密度(CBD)が0.5g/ml未満であると触媒の触媒粒子圧壊強度(SCS)が低く(例えば、0.6kg/mm以下)なり、触媒の実用強度以下になる恐れがある。また、1.1g/mlを超えると既存の脱硫設備に充填することが難しくなるので、それぞれ好ましくない。
【0096】
本発明において充填密度(CBD)は、以下のようにして測定した。まず、篩を用いて30〜80(mesh)の間で分取した触媒を120℃にて3時間乾燥後、約30(g)採取し、化学天秤で精秤して、内径21mm、容量50mlのガラス製メスシリンダーに充填する。そして、バイブレーターを用いて良くタッピングして、嵩が最小になった時の容積を測定する。充填密度(CBD)は、触媒を精秤して求めた質量を、嵩が最小になった時の容積値で除して求める。
【0097】
C:炭化水素油の水素化脱硫処理方法
本発明の炭化水素油の水素化処理方法(以下、単に「本発明の水素化処理方法」という場合がある。)は、既述の本発明の製造方法により製造された本発明の触媒を使用することを特徴とする。
【0098】
本発明の触媒を用いて水素化脱硫処理を行う場合、触媒金属の活性化のための予備硫化を行うことが望ましい。予備硫化剤として、硫化水素、二硫化炭素、チオフェン、ジメチルジスルフィド又はそれらを含む炭化水素油等を用いて行う。
【0099】
予備脱硫の後に、水素化脱硫処理を行う。水素化脱硫条件としては、原料油の種類や目的により異なるが、一般的には、反応温度を300〜400℃の範囲、水素分圧を1〜10MPaの範囲とすることが好ましい。
【0100】
水素化脱硫処理における反応形式は、特に限定されず、固定床、移動床、沸騰床、懸濁床等が挙げられ、何れを採用しても構わない。固定床を採用した場合の反応条件としては、液空間速度(LHSV)を0.5〜5hr−1の範囲、水素/原料油容積比を50〜500Nm/klの範囲とすることが好ましい。
【0101】
本発明で処理できる炭化水素油は、具体的にはガソリン、灯油,軽質軽油、重質軽油、分解軽油等から常圧残油,減圧残油,オイルサンド油,タールサンド油などであるが、本発明の触媒は、軽油留分の硫黄分を10ppm以下にする水素化脱硫処理に特に有効である。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
[測定方法]
各種物性や触媒性能等の測定は、既述のものの他、以下の手順及び条件で行った。
【0103】
(細孔分布及び細孔容積の測定)
触媒や担体の細孔分布及び細孔容積は、島津製作所製オートポアIV9520形を使用し、測定圧力414MPa迄加圧する水銀圧入法により測定した。
【0104】
(X線回折)
担体のX線回折は、各試料を粉末にしてから、X線回折装置(装置名:PHilips社製、XPERT SYSTEM/APD−1700)を用いて測定した。なお、この時のX線回折装置の測定条件は、以下の通りとした。
・エックス線源:Cu Kα
・エックス線管電圧(kV):40
・エックス線管電流(mA):30
・測定角度(゜):5〜80
・ スリット幅(mm):0.2
・ Rec. Slit Fixed(mm):0.2
【0105】
(軽油の水素化脱硫試験)
水素化処理触媒の脱硫活性を測定するための軽油の水素化脱硫試験は、以下のようにして行った。
【0106】
高圧の固定床流通式反応装置を用い、触媒を15ml充填し、反応圧力:5MPa、反応温度:340℃、液空間速度1.5h−1、及び水素/原料容積比:250Nl/lの条件で実施した。試験に供した水素化処理触媒は、予め、全てジメチルジスルフィドを添加し、硫黄濃度を2.5%(質量基準)に調整した軽油を用いて、硫化処理(予備硫化)を施したものを用いた。水素化脱硫試験に供した中東系直留軽油の性状は、比重(15/4℃):0.850、硫黄分:1.37質量%、窒素分:101ppm、蒸留性状は初留温度232℃、50%留出温度295℃及び90%留出温度348℃である。
【0107】
水素化処理触媒の脱硫活性は、脱硫反応を1.2次反応として脱硫反応速度定数を求め、反応時間100〜144時間の間の脱硫反応速度定数の平均値を計算し、後述する水素化処理触媒ASC−2の脱硫反応速度定数の平均値を100とした場合の「相対脱硫活性」で表した。
【0108】
{担体製造の実施例}
<原料液の調製>
塩化アルミニウム六水和物970gに水1030gの割合で加えたA液、28%アンモニア水1000gに水1000gの割合で加えたB液、Ti濃度が16.6質量%、Cl濃度が32.3質量%である四塩化チタン溶液198gに水を加えて1.8リットルとしたC液、及び14%アンモニア水231gに水を加えて1.8リットルとしたD液、Ti濃度が16.7質量%、Cl濃度が32.6質量%である四塩化チタン溶液1520gに塩酸733gと水13gを加えE液をそれぞれ以下に説明する操作に必要な全量調製した。
【0109】
<アルミナ担体AS−1〜AS−5の製造>
[アルミナ水和物粒子の調製]
(a)19リットルのホーロー容器に水を14リットル入れ、攪拌しながら80℃に加熱した。当該ホーロー容器にA液を850g加え5分間保持した。この時の液(以下、「合成溶液」という。)のpHは2.5であった。次に、このホーロー容器に、合成溶液のpHが7.5になる量のB液を加え、5分間保持した(pHスイング回数1回目)。
【0110】
(b)その後、A液を850g加え合成溶液のpHを3.0として5分間保持し、再び合成溶液のpHが7.5になる量のB液を加え、5分間保持した(pHスイング回数2回目)。
【0111】
(c)そして、共雑物である塩素イオンとアンモニウムイオンを洗浄除去し、pHスイングが2回となるアルミナ水和物粒子AG−1を得た。
また、単にpHスイング当たりのA液の添加量を567gとして、上記と同様にして(pHスイング回数2回目)までの操作(操作(a)及び(b))を行った後、A液の添加量を567gとして、操作(b)をもう1回繰り返し、pHスイング回数が3回となるアルミナ水和物粒子AG−2を得た。
【0112】
更に、単位pHスイング当たりのA液の添加量を425g、340g及び283gとして、pHスイング回数がそれぞれ4回、5回及び6回となるアルミナ水和物粒子AG−3、AG−4及びAG−5を得た。
【0113】
得られたアルミナ水和物粒子AG−1、AG−2、AG−3、AG−4及びAG−5について、ろ過することで成形可能な水分率に調整し、押出し成型により直径1.2mmの円柱状に成型後、120℃で16時間乾燥し、更に500℃で3時間焼成を行い、アルミナ担体AS−1〜AS−5を得た。得られたアルミナ担体について比表面積と細孔分布の測定を行った。結果を下記表2にまとめて示す。
【0114】
【表2】

【0115】
<チタニアコーティングアルミナ担体AT−1〜AT−5の製造>
[チタニアコーティング工程]
アルミナ水和物粒子AG−1を酸化物基準で122g採取し、水を加えながらミキサーで良く撹拌し、8リットルの分散液とした。この分散液を60℃に保ちながら、C液を加えpHを5.0に調整し、続いてC液及びD液各1.8リットルを約2時間かけて同時に且つ、連続的にpHを5.0±0.1の範囲に保つように添加し、チタニアコーティングアルミナ水和物粒子を製造した。得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子におけるチタニアのコーティング量は31%である。
【0116】
なお、既述の式(1)に上記チタニアのコーティング量を代入すると、
pH=6.0−0.03×31=5.07
なので、式(1)で求められる最適なpH条件は5.07±0.5であり、本例のチタニアコーティング工程のpH条件5.0±0.1はこれを満たしている。
【0117】
[洗浄工程〜第1乾燥工程]
得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子と共存するアンモニアイオン及び塩素イオンを水で洗浄・除去し、ろ過することで成形可能な水分率に調整し、押出し成型により直径1.2mmの円柱状に成型(成形工程)後、120℃で16時間乾燥し、更に500℃で3時間焼成を行い(第1乾燥工程)、チタニアコーティングアルミナ担体AT−1を得た。
【0118】
用いたアルミナ水和物粒子AG−1をアルミナ水和物粒子AG−2、AG−3、AG−4及びAG−5に代えたことを除き、上記チタニアコーティングアルミナ担体AG−1の場合と同様の方法で、チタン水酸化物をコーティングし、成形し、乾燥し、更に焼成を行い、チタニアコーティングアルミナ担体AT−2、AT−3、AT−4、AT−5をそれぞれ得た。得られたそれぞれのチタニアコーティングアルミナ担体について、比表面積と細孔分布の測定を行った。結果を下記表3にまとめて示す。
【0119】
【表3】

【0120】
チタニアコーティングアルミナ担体AT−1〜AT−5は、表3に示されるように細孔容積が0.47〜0.85ml/gであり、アルミナ担体と同等以上になっている。加えて、チタニアコーティングアルミナ担体AT−1〜AT−5の比表面積は、およそ340〜400m/gであり、アルミナ100%のアルミナ担体と比較しておよそ50m/gの増大が認められた。更に、表4に示すチタニア100%のチタニア担体TS−1に比べて比表面積、細孔容積ともに大きく改善されている。
【0121】
本発明の製造方法の第1乾燥工程までの操作で調製したチタニアコーティングアルミナ担体AT−1〜AT−5について、既述の方法によりX線回折を行った。その結果、酸化物基準で31質量%のチタニアを含有するにも拘らず、X線回折パターンにはチタニアのアナターゼ結晶は検出されなかった。図1に、チタニアコーティングアルミナ担体AT−2のX線回折パターンを代表して示す。
【0122】
また、図2にアルミナ担体AS−2及びチタニアコーティングアルミナ担体AT−2の微分細孔容積分布図を示す。図2より、チタニアを31質量%コーティングしたにも関わらず、細孔分布はほぼ同じである。これはアルミナ粒子の上にチタンが均一にコーティングされていることを示しており、これも本発明の特徴である。
【0123】
<チタニア担体TS−1の製造〜参考>
35リットルのホーロー容器に水を22リットル入れ、攪拌しながら60℃に加熱した。このホーロー容器にE液を567g加え5分間保持した。次に、このホーロー容器に、14%アンモニア水を710g加え、5分間保持した(pHスイング回数1回目)。その後、pHスイング回数1回目と同様の操作でE液とアンモニア水を加え、5分間保持した(pHスイング回数2回目)。続いて、チタン水和物粒子と共存する塩素イオンとアンモニウムイオンを洗浄除去しチタニア水和物粒子TG−1とし、これを用いてチタニアコーティングアルミナ担体AT−2と同様の成形工程及び第1乾燥工程の操作を行って、チタニア担体TS−1を得た。得られたチタニア担体TS−1について、比表面積と細孔容積の測定を行った。結果を下記表4に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
<チタニア・アルミナ混合担体AT−14の製造〜参考>
チタニア水和物粒子TG−1とアルミナ水和物粒子AG−2とを混合し、水分量を調整してAT−2と同様の成形工程と第1乾燥工程を経て、チタニア31質量%、アルミナ69質量%のチタニア・アルミナ混合担体AT−14を得た。得られたチタニア・アルミナ混合担体AT−14について、比表面積及び細孔分布の物性測定とX線回折を行った。物性の測定結果を下記表5に、X線回折パターンを図3にそれぞれ示す。
【0126】
【表5】

【0127】
<チタニアコーティングアルミナ担体AT−6〜AT−9の製造>
前記チタニアコーティングアルミナ担体AT−2の製造工程において、アルミナ水和物粒子の分散液に、C液とB液を同時に且つ、連続的に添加するチタニアコーティング工程のpHを、「5.0±0.1」から下記表6に示す値になるようにしたことを除いて、チタニアコーティングアルミナ担体AT−2の製造工程と同じ条件で製造してチタニアコーティングアルミナ担体AT−6〜AT−9を得た。得られたチタニアコーティングアルミナ担体AT−6〜AT−9について、比表面積と細孔分布の測定を行った。結果を下記表6に示す。
【0128】
【表6】

【0129】
<チタニアコーティングアルミナ担体AT−10〜AT−13の製造>
前記チタニアコーティングアルミナ担体AT−2の製造工程において、チタン水酸化物のコーティング量を下記表7に示す値になるように、B液とC液の添加量を調整して同時に且つ、連続的に添加したことを除いて、チタニアコーティングアルミナ担体AT−2の製造工程と同じ条件で製造してチタニアコーティングアルミナ担体AT−10〜AT−13を得た。得られたチタニアコーティングアルミナ担体AT−10〜AT−13について、比表面積と細孔分布の測定を行った。結果を下記表7に示す。また、本発明の製造方法から外れる条件で製造したチタニアコーティングアルミナ担体AT−13のX線回折パターンを図4に示す。
【0130】
【表7】

【0131】
<水素化処理触媒製造の実施例>
(触媒成分含有水溶液の調製)
酸化モリブデン90.2g、CoO換算で20.2g相当の炭酸コバルト及び85%リン酸13.1gを水に添加して、撹拌しながら加温して溶解し、全量を500gにした触媒成分含有水溶液MS−1を得た。
【0132】
触媒成分含有水溶液MS−1の88.0gに、更にソルビトール3.6gを溶解させて触媒成分含有水溶液MS−2を得た。
上記触媒成分含有水溶液MS−2の調製において、ソルビトール3.6gに代えて、下記表8に示す各糖類及び添加量にしたことを除き、触媒成分含有水溶液MS−2と同様にして触媒成分含有水溶液MS−3〜MS−22を得た。
【0133】
【表8】

【0134】
<比較例1〜6>
(水素化処理触媒の製造)
前記第1乾燥工程までの操作で得られたアルミナ担体AS−2の50gに、触媒成分含有水溶液MS−1を74.3g含浸させ、更に120℃で16時間乾燥することで、水素化処理触媒ASC−2を得た。
【0135】
上記水素化処理触媒ASC−2の製造において、アルミナ担体AS−2に代えて、前記第1乾燥工程までの操作で得られたチタニアコーティングアルミナ担体AT−2及びAT−6〜AT−9を用いたこと以外は、水素化処理触媒ASC−2の製造と同様にして、水素化処理触媒ATC−2及びATC−6〜ATC−9を得た。
【0136】
(物性及び触媒物性の測定)
得られた水素化処理触媒ASC−2とATC−2及びATC−6〜ATC−9について、比表面積、細孔容積、細孔シャープネス度及び相対脱硫活性(軽油の水素化脱硫試験)を既述の方法で測定した。結果を下記表9に示す。
【0137】
【表9】

【0138】
チタニアコーティングアルミナ担体を炭化水素油の水素化処理触媒として用いるために、モリブデン、コバルト及びリン等の化合物を含浸法で担持させる場合、脱硫活性を発現するそれらの化合物はアルミナ表面よりも高い水素化脱硫活性を発現するチタニア表面に担持されることとなる。したがって、チタニアコーティングアルミナ担体を用いた水素化脱硫触媒はアルミナ担体を用いた触媒よりも高脱硫活性を発現させることが可能となる。
【0139】
だたし、担体の製造工程で、アルミナスラリーにチタニアを含む酸性化合物とアルカリ性化合物を添加時に、アルミナスラリーのpHが4.5〜6.5の範囲から外れた場合には、チタニアのアルミナへのコーティングには不均一性が増すことから、部分的にアルミナの露出部が生ずるものと考えられる。したがって、前記pH範囲を外れるチタニアコーティングアルミナ担体を用いた水素化処理触媒ATC−6(比較例2)、ATC−8(比較例5)及びATC−9(比較例6)は、当該担体におけるアルミナへのチタニアのコーティングが不良になっているものと考えられ、表9に示されるように脱硫活性の低下が認められる。
【0140】
<実施例1〜5>
(水素化処理触媒の製造)
前記第1乾燥工程までの操作で得られたチタニアコーティングアルミナ担体AT−10〜AT−13及びAT−2のそれぞれ50gに、触媒成分含有水溶液MS−2を74.3g含浸させ、更に120℃で16時間乾燥することで、水素化処理触媒ATC−10〜ATC−13及びATC−14を得た。
【0141】
(物性及び触媒物性の測定)
得られた水素化処理触媒ATC−10〜ATC−13及びATC−14について、比表面積、細孔容積、細孔シャープネス度、充填密度及び相対脱硫活性(軽油の水素化脱硫試験)を既述の方法で測定した。結果を下記表10に示す。
【0142】
【表10】

【0143】
<実施例6〜26>
チタニアコーティングアルミナ担体AT−2の50gに、下記表11に示すように触媒成分含有水溶液MS−3〜MS−23をそれぞれ含浸させ、120℃で16時間乾燥することで、水素化処理触媒ATC−15〜ATC−35を得た。
【0144】
得られた水素化処理触媒ATC−15〜ATC−35について脱硫活性(軽油の水素化脱硫試験)を既述の方法で測定した。結果を下記表11にまとめて示す。
【0145】
【表11】

【0146】
前記チタニアコーティングアルミナ担体に、モリブデン、コバルト及びリン等を担持させて水素化処理触媒を得ようとした場合、更に糖類であるソルビトール、アラビノース、キシロース、キシリトール、リボース、フルクトース、ソルボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、マンニトール、ズルシトール、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノース、エリスリトール、転化糖を担持させた各実施例の水素化処理触媒は、極めて高い脱硫活性が発現される。これらの糖類を含んだ触媒は、糖類を含まないASC−2触媒と比較して約3〜4倍脱硫活性を向上させ得ることが確認できた。
【0147】
<実施例27〜28>
既述の触媒成分含有水溶液MS−2の調製において、ソルビトール3.6gに代えて、下記表12に示す各糖類及び量にしたことを除き、触媒成分含有水溶液MS−2と同様にして触媒成分含有水溶液MS−24〜MS−25を得た。
【0148】
【表12】

【0149】
実施例1において、触媒成分含有水溶液MS−2に代えて触媒成分含有水溶液MS−21〜24を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例27〜28の水素化処理触媒ATC−36〜37を得た。
【0150】
得られた水素化処理触媒ATC−36〜37について、軽油の水素化脱硫試験を実施し既述の方法で相対脱硫活性を測定した。その結果を下記表13に示す。
【0151】
【表13】

【0152】
<比較例7>
既述の触媒成分含有水溶液MS−2の調製において、ソルビトール3.6gに代えて、澱粉7.1gにしたことを除き、触媒成分含有水溶液MS−2と同様にして触媒成分含有水溶液MS−26を得た。
【0153】
実施例1において、触媒成分含有水溶液MS−2に代えて触媒成分含有水溶液MS−26を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の水素化処理触媒ATC−38を得るべく操作した。しかし、MS−26をチタニアコーティングアルミナ担体AT−1に含浸する場合においては、触媒成分含有水溶液が担体に浸透しなかったために、これを含浸した水素化処理触媒ATC−38を製造することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ水和物粒子を含むヒドロゾルに、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を、温度が10〜100℃、pHが4.5〜6.5の範囲で、同時に連続的に添加し、pHを一定に保持しながらアルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングしてチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を得るチタニアコーティング工程と、
得られたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子と共存する夾雑イオンを洗浄除去する洗浄工程と、
洗浄されたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子を、成形可能な水分量まで脱水後成形する成形工程と、
成形されたチタニアコーティングアルミナ水和物粒子成形体を乾燥してチタニアコーティングアルミナ担体を得る第1乾燥工程と、
得られたチタニアコーティングアルミナ担体を、周期律表第6族金属化合物、同第8〜10族金属化合物及びリン化合物の各触媒成分をそれぞれ少なくとも一種と糖類とを含む触媒成分含有水溶液を含浸させる含浸工程と、
触媒成分含有水溶液を含浸させたチタニアコーティングアルミナ担体を乾燥する第2乾燥工程と、
を含むことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項2】
含浸工程において用いる糖類が、エリスリトール、アラビノース、キシロース、キシリトール、リボース、フルクトース、ソルボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、ソルビトール、マンニトール、転化糖、ズルシトール、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖である請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項3】
含浸工程において用いる糖類が、エリスリトール、キシロース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、転化糖、マルトース、トレハロース、マルチトール、異性化糖、ラフィノースからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖である請求項1に記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【請求項4】
前記アルミナ水和物粒子の結晶系が、ベーマイト、擬ベーマイト及び/またはアルミナゲルである請求項1〜3のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アルミナ水和物粒子を500℃にて3時間焼成した後の細孔シャープネス度が、60%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項6】
チタニアコーティング工程の温度条件が、15〜90℃の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項7】
チタニアコーティング工程の操作を下記(a)pH及び(b)コーティング時間の条件で行う請求項1〜6のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
(a)pH:下記式(1)で求められるpHを中心にpH変動幅が±0.5以内
pH=6.0−0.03×T ・・・式(1)
式(1)中、Tはチタニアコーティングアルミナ水和物粒子全体(酸化物基準)に対するチタニアの割合(質量%)を表す。
(b)コーティング時間:5分〜5時間の範囲
【請求項8】
アルミナ水和物粒子にコーティングされるチタン水酸化物の量が、酸化物基準の合計量に対して5〜40質量%の範囲である請求項1〜7のいずれかに記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【請求項9】
含浸工程における熟成時間が、10分〜24時間の範囲である請求項1〜8のいずれかに記載の炭化水素油水素化処理触媒の製造方法。
【請求項10】
含浸工程において用いる周期律表第6族金属がモリブデンであり、同周期律表第8〜10族金属がコバルト及び/またはニッケルである請求項1〜9のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項11】
含浸工程において用いる糖類の添加量が、担体及び触媒成分の酸化物基準の合計量に対して、1〜20質量%の範囲である請求項1〜10のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造されたことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項13】
周期律表第6族金属化合物及び第8〜10族金属化合物と共に、リン化合物及び糖類を担持してなる請求項12に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項14】
チタニアコーティングアルミナ担体のチタニアの結晶格子面の繰り返し長さが、50Å以下であることを特徴とする請求項12または13に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項15】
チタニアコーティングアルミナ担体の細孔シャープネス度が、60%以上であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項16】
チタニアコーティングアルミナ担体の細孔容積が、0.36〜1.10ml/gであることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項17】
チタニアコーティングアルミナ担体の比表面積が、200m/g以上であることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項18】
触媒の充填密度(Compact Bulk Density,CBD)が、0.5〜1.1g/mlであることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒を使用することを特徴とする炭化水素油の水素化脱硫処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−206695(P2011−206695A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77348(P2010−77348)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】