説明

炭化水素油の水素化脱硫触媒

【課題】高い水素化脱硫性能を示すと共に、長寿命である炭化水素油の水素化脱硫触媒を提供する。
【解決手段】複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された周期表第6A族金属の硫化物と、周期表第8族金属の硫化物と、炭素質とからなる触媒成分を含み、透過電子顕微鏡写真から得られる周期表第6A族金属の硫化物の(002)面の平均面長が5nm以下、かつ、周期表第6A族金属の硫化物の平均積層数が3層以下である炭化水素の水素化脱硫触媒において、前記担体が、アンモニア吸着熱量測定において、(1)アンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量が0.32mmol/g以下であり、かつ、(2)アンモニア吸着熱70kJ/mol以上の酸量に対するアンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量の割合が、60%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命の長い炭化水素油の水素化脱硫触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境規制の高まりの一環として、ディーゼルエンジン車の排ガス規制が強化されている。ここで、排ガス中の粒子状物質(Particulate Matter。PM)を低減させる一つの方法として、排ガス微粒子除去装置(Diesel Particulate Filter。DPF)が有効と
されている。しかし、DPFに用いられている貴金属触媒は硫黄被毒を受けるため、ディーゼル油中の硫黄量の大幅な低減が必要である。
【0003】
また、石油精製において、残油需要の減退により流動接触分解(FCC)やコーカー等の分解処理の重要度が増し、そこで得られる分解軽油をサルファーフリー化(硫黄濃度を10ppm以下とすること)する必要性が増大しており、その要求に応えられる水素化脱硫触媒への期待がますます高まっている。
【0004】
そこで、周期表第8族金属、モリブデン、リン、及び、硫黄を含有する触媒であって、該触媒中のMoS2の構造を広域X線吸収端微細構造解析法により測定した結果、モリブ
デンの配位数〔N(Mo)〕が3.5以上、硫黄の配位数〔N(S)〕が5.8以上で、かつ、透過電子顕微鏡写真(TEM)から得られるMoS2の(002)面の平均面長が
5nm以下、MoS2の平均積層数が3層以下である炭化水素の水素化処理触媒が開発さ
れている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献1に記載された水素化処理触媒は、モリブデンが高分散状態で担体上に担持されており、MoS2の結晶化度及び硫化度が高く、結晶層数、結晶サイズが小さ
いため、水素化脱硫性能が優れており、重質油の高度脱硫精製及び軽油留分等の超深度脱硫レベルの水素化脱硫触媒として極めて好適である。
【0006】
通常、炭化水素を水素化処理触媒(特に、水素化脱硫触媒)により水素化脱硫反応を行う場合、図3に示すように水素化(HYD)ルート、直接脱硫(DDS)ルート、異性化(Isomerization)ルートの3つの経路を通ることが知られており、従来の水素化処理触媒では水素化ルートが最も通りやすい経路であると考えられている。しかしながら、特許文献1記載の水素化処理触媒は、従来の水素化処理触媒と比較して、DDSルートを経由する脱硫反応が強いことが判っている(例えば、非特許文献1参照)。これによって、特許文献1記載の水素化処理触媒は、水素化における水素添加量が少なくて済むので経済的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−262063号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】YOSHIMURA et.al., ”Catalysts for ultra deep hydrodesulfurization and/or aromatics saturation of middle distillates”, 17th Annual Saudi Arabia−Japan Symposium, Catalysts in Petroleum Refining & Peterochemicals,11−12 November 2007,p50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の水素化処理触媒は、高い水素化脱硫性能を示すものの、担体との相互作用が弱いことから、長期間の水素化処理により第8族金属硫化物や硫化モリブデンの結晶が凝集し、活性点の分散性が低下して、触媒が劣化することがあり、触媒寿命が短くなる虞があった。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、高い水素化脱硫性能を示すと共に、長寿命である炭化水素油の水素化脱硫触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討した結果、担体と触媒成分との相互作用を高くすれば、触媒寿命が長くなるとを考えた。そしてかかる相互作用を、固体酸の酸度に着目し、担体表面の酸度が高すぎると、コーキングによる活性劣化、反応生成物の過分解による液収率低下、活性点の変化による活性自体の低下等が起こる虞があると考えた。
【0012】
そして、かかる酸強度の尺度として、アンモニア吸着熱測定に着目し、このアンモニア吸着熱をファクターとして、担体の酸度を特定の範囲以下に調整することによって、担体と触媒成分との相互作用が高く、その結果、触媒が劣化することがなく、触媒寿命を長くできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記目的に沿う本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒は、複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された周期表第6A族金属の硫化物と、周期表第8族金属の硫化物と、炭素質とからなる触媒成分を含み、透過電子顕微鏡写真から得られる周期表第6A族金属の硫化物の(002)面の平均面長が5nm以下、かつ、周期表第6A族金属の硫化物の平均積層数が3層以下である炭化水素の水素化脱硫触媒において、前記担体が、アンモニア吸着熱量測定において、(1)アンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量が0.32mmol/g以下であり、かつ、(2)アンモニア吸着熱70kJ/mol以上の酸量に対するアンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量の割合が、60%以下である。
【0014】
本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒において、周期表第6A族金属の少なくとも1種と、周期表第8族金属の少なくとも1種と、糖誘導体とを含む含浸溶液を、複合酸化物からなる担体に含浸させた後、乾燥し、更に硫化することにより得られることが好ましい。
【0015】
本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒において、前記周期表第6A族金属がモリブデンであり、前記周期表第8族金属がコバルトであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒において、前記含浸溶液はリン化合物を含んでもよい。
【0017】
本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒において、前記担体は、アルミナと、シリカ、チタニア、リン酸化物、ボリア、ジルコニア、セリア、マグネシアより選ばれる1種以上の酸化物とからなる複合酸化物であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る炭化水素油の水素化脱硫触媒において、前記担体は、アルミナを調合した後、若しくは、アルミナ調合時に、該アルミナに他の酸化物のゾルを添加し、さらに、捏
和、成型して得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水素化脱硫触媒は、使用する担体に複合酸化物を用い、かつ、使用する担体の酸量が所定の範囲内であるので、活性金属が高分散を維持でき、高活性のまま、長寿命となる。特に、活性金属をコバルト及びモリブデンとした場合には、直接脱硫ルートの割合が増加するので、活性点の脱硫活性能が非常に高く、通常脱硫困難な化合物まで容易に反応を進めることができると共に、水素添加量が少なくてすむため、経済的である。それにより、本発明の水素化脱硫触媒は、接触分解軽油、熱分解軽油等の分解油を混合した油を原料油に混合して処理しても、活性が下がり難くなり、高活性で長寿命となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)本発明の一実施例に係る炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真、(b)本発明の比較例に係る第1の炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真、(c)本発明の比較例に係る第2の炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真である。
【図2】(a)本発明の一実施例に係る加速劣化試験後の炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真、(b)本発明の第1の比較例に係る加速劣化試験後の炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真、(c)本発明の第2の比較例に係る加速劣化試験後の炭化水素の水素化脱硫触媒の電子顕微鏡写真である。
【図3】水素化処理ルートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の炭化水素油の水素化脱硫触媒において、2種以上の酸化物で構成される複合酸化物からなる担体に、特定の触媒成分が担持されてなる。
【0022】
触媒成分は、周期表第6A族金属の少なくとも1種と、周期表第8族金属の少なくとも1種とからなり、これらの触媒成分は、金属、イオン、塩、酸化物、水酸化物などとして担持されるが、一部ないし全部が硫化物となっている。
【0023】
本発明では、周期表第6A族金属の少なくとも1種と、周期表第8族金属の少なくとも1種と、糖誘導体とを含む担持溶液(含浸溶液)が担体に含浸されて使用される。
[周期表第6A族金属について]
周期表第6A族金属としては、クロム、モリブデン、タングステン等が1種又は複数種で用いられる。担持溶液に導入する化合物の形態としては、たとえば酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン等の金属酸化物の他に、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩等の金属塩を使用することができるが、不要成分の触媒中への残留や後の焼成処理工程での排出ガスを考慮すると金属酸化物又は有機酸塩を用いるのが特に好ましい。周期表第6A族金属は、最終的な触媒中では、硫化物として存在する。このような周期表第6A族金属の硫化物は、層状結晶構造を持ち、各層は第6A族金属の層の両面を硫黄で挟んだ構造となり積層している。
【0024】
周期表第6A族金属の合計含有量は、触媒重量に対し、酸化物として5〜35質量%、特には10〜30質量%が好ましい。5質量%以下ではモリブデンやタングステン硫化物層の積層化がほとんど行われないため十分な脱硫活性が得られず、また35質量%を超えると担体表面における金属が飽和(被覆)して、活性な硫化物層のエッジ部分の露出量がむしろ減少するため、これ以上の触媒活性向上が得られない。
【0025】
また、MoS2等の周期表第6A族金属の硫化物の(002)面の平均面長が5nmよ
り大きいと、活性金属の分散性が悪くなるため、脱硫活性が低くなる。MoS2などの周
期表第6A族金属の硫化物の平均積層が2〜3層より大きいと、結晶の安定性が低く、触
媒の寿命が短くなる。
【0026】
本発明では、周期表第6A族金属がモリブデンであると、脱硫活性が高いので好ましい。
【0027】
なお、第8族金属、第6A族金属は、触媒中では硫化物として担持されるが、一部が酸化物(過酸化物も含む)、水酸化物、金属ないしイオン状態で担持されていても良い。
[周期表第8族金属について]
周期表第8族金属としては、鉄、コバルト、ニッケル等が1種又は複数種で用いられる。担持溶液に導入する化合物の形態としては、たとえば硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、有機酸塩等の金属塩を使用することができるが、不要成分の触媒中への残留や後の乾燥処理工程での排出ガスを考慮すると金属酸化物、水酸化物又は有機酸塩を用いるのが特に好ましい。
【0028】
周期表第8族金属は、最終的な触媒中では、硫化物又は複合硫化物として存在する。
【0029】
周期表第8族金属の合計含有量は、触媒重量に対し、酸化物として0.5〜12質量%、特には1〜10質量%が好ましく、周期表第6A族金属に対する含有量が金属モル比で25〜75モル%であることが特に好ましい。
[リン化合物について]
触媒成分として、必要に応じてリン化合物を含んでいても良い。
【0030】
リン化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸を用いることができるが、後述の有機酸との安定な錯体形成の面からリン酸二水素アンモニウムの利用が特に好ましい。リンの量は触媒重量に対し、金属基準で0.5〜10質量%、特には1〜5質量%が特に好ましく、周期表第6A族金属に対する含有量が金属モル比で30〜200モル%であることが特に好ましい。リン化合物は、最終的な触媒中では、リン酸化物として存在する。
[糖誘導体について]
本発明においては、これらの金属成分を均一に安定に溶解させるために、金属成分に容易に配位して安定な複合錯体を形成する、多座配位子である糖誘導体を用いる。
【0031】
本発明でいう、糖誘導体とは、糖類を酸化、還元、エステル化等の官能基化した化合物をさし、化合物中に配位子として作用するカルボキシル基を1個以上、かつアルコール基(アルコール性水酸基)を3個以上含有するものを意味する。
【0032】
このような糖誘導体としては、たとえばグルコン酸やマンノン酸等のアルドン酸類(カルボキシル基が1個、アルコール基が5個)や糖酸、マンノ糖酸、粘液酸等の糖酸類(カルボキシル基が2個、アルコール基が4個)及びグルクウロン酸、ガラクトウロン酸等のウロン酸類(カルボキシル基が1個、アルコール基が4個)等分子内に多価アルコールとカルボキシル基をともに有する構造のもの等を挙げることができる。
【0033】
糖誘導体は単独でも2種以上併用してもよい。このような特定の多座配位子を用いることにより安定かつ高い均一性を有する担持溶液を得ることができる。
【0034】
本発明に用いる担持溶液中の糖誘導体の濃度は、使用する金属化合物の種類やそれらの使用量により異なるので一概に規定できないが、糖誘導体の量が周期表第8族金属量に対しモル比で30〜200モル%、特には50〜150モル%が好ましい。
[含浸溶液について]
本発明の水素化処理触媒用の含浸溶液は、水素化処理触媒の活性金属成分である周期表
第6A族金属化合物、周期表第8族金属化合物、及び、糖誘導体を含有する水溶液である。一般に水素化処理触媒の活性金属成分は、周期表第6A族金属及び周期表第8族金属が用いられているが、特にモリブデン化合物を使用した水素化処理触媒は脱硫活性が高いので多く用いられている。
【0035】
該水素化処理触媒用の含浸溶液は、周期表第6A族金属の化合物、周期表第8族金属の化合物、及び、リン化合物等の水素化処理触媒に通常使用される活性金属成分を含有する。また、各金属成分量も通常の水素化処理触媒の活性金属成分組成範囲で含有することができる。本発明の水素化処理触媒用の含浸溶液は、とくに周期表第6A族金属としてモリブデン(Mo)、周期表第8族金属としてコバルト(Co)及び/又はニッケル(Ni)を含有することが好ましい。
【0036】
前述の水素化処理触媒用の含浸溶液は、例えば三酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモン等通常水素化処理触媒用の含浸溶液の調製に使用される周期表第6A族金属の化合物を、グルコン酸などの糖誘導体を錯化剤(キレート剤)として用いて溶解して調製される。このとき、さらに、金属成分として、前記モリブデン化合物に加えて、硝酸コバルト、硫酸コバルト等のコバルト化合物や、塩基性炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル化合物などの周期表第8属金属の化合物を使用する。さらに好ましい具体例としては水に所定量の三酸化モリブデン、塩基性炭酸ニッケルを加えて加温撹拌した後、グルコン酸水溶液を加えさらに加温撹拌して調製する手段を挙げることができる。なお、該含浸溶液の調製方法は前記方法に限定されるものではない。
[担体について]
担体としては、通常の水素化処理触媒に使用される担体が使用可能であり、アルミナと、シリカ、チタニア、リン、ボリア、ジルコニア、セリア、マグネシアより選ばれる1種以上の酸化物とからなる複合酸化物が好ましい。複合物としては、アルミナ−シリカ、アルミナ−チタニア、アルミナ−ボリア、アルミナ−リン、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア−ジルコニア、チタニア−マグネシア、アルミナ−シリカ−チタニア、アルミナ−シリカ−ボリア、アルミナ−リン−ボリア、アルミナ−チタニア−ボリア、アルミナ−シリカ−リン、アルミナ−チタニア−リン−ボリア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−セリア、アルミナ−マグネシアから選ばれる1又は2種以上の複合酸化物である。なお、担体が1種類の酸化物で構成された水素化脱硫触媒では、活性金属と担体との相互作用が弱いことから、長期間の水素化処理により周期表第6A族金属の硫化物や周期表第8族金属の硫化物の結晶が凝集し、活性点の分散性が低下して、触媒の劣化が早まる傾向にある。
【0037】
アルミナを含む複合酸化物からなる担体は、アルミナを調合した後、若しくはアルミナ調合時に、該アルミナに他の酸化物のゾルを添加し、さらに、捏和、成型して得ることができる。
【0038】
担体の形状としては、粉末状、円柱状、球状、葉状、ハニカム状等、使用目的や使用条件に応じて適宜選択することができる。
【0039】
担体の比表面積、細孔容積、及び、平均細孔半径は特に制限されないが、比表面積は10〜600m2/gが好ましく、特に好ましくは50〜500m2/gのものが用いられる。担体の比表面積が10m2/g未満のものは、他の金属成分の分散性に乏しく、好適な
脱硫性能が得られず、600m2/gを超えるものは、孔径の微小化を伴い反応物の拡散
性が劣るために好ましくない。細孔容積は0.2cc/g以上が好ましく、特に0.3〜1.0cc/gのものが好ましい。細孔半径は処理の対象とする油種により好ましいものを選択することができる。例えば軽油留分の水素化脱硫処理では、平均細孔直径が60〜120Åにあるものが好ましい。
【0040】
本発明にかかる水素化脱硫触媒において、担体は、アンモニア吸着熱量測定において、(1)アンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量が0.32mmol/g以下であり、かつ、(2)アンモニア吸着熱70kJ/mol以上の酸量に対するアンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量の割合が、60%以下である。酸量がこの範囲を外れると、コーキングによる活性劣化、反応生成物の過分解による液収率低下、活性点の変化による活性自体の低下等が起こる虞がある。
【0041】
本願明細書では、吸着熱が70kJ/mol以上の酸量を全酸量とし、吸着熱が90kJ/mol以上の酸量を強酸量とする。このような、酸量は、担体を構成する金属酸化物の固体酸量を意味し、強酸量とは、固体酸中の比較的強い酸点の量を意味する。
【0042】
このような酸量の関係にあるものは、触媒成分との相互作用を高く、その結果、担持される触媒成分の凝集を抑制できため、触媒寿命を長くできる。酸量の調整は、例えば、担体の元素の種類や調製時の混合比を変えることで行うことができる。
【0043】
本発明で使用する担体は、特に、アルミナと、該アルミナを除くシリカ、チタニア、リン、ボリア、ジルコニア、セリア、マグネシアより選ばれる1種以上の酸化物とからなる複合酸化物を含有する担体は、担体の比表面積や細孔容積が大きいので好ましい。
[水素化脱硫触媒について]
本発明に係る水素化脱硫触媒は、上記含浸溶液を前記担体に含浸することによって所定の金属成分を導入した後、乾燥し、硫化することによって製造することができる。
【0044】
この場合、担持溶液と担体を含浸する操作は、担持溶液と担体を接触させる方法であれば操作の方式及び条件を問わない。例えば、公知の含浸方法、たとえば含浸法、湿式吸着法、湿式混練法、スプレー法、塗布法、浸漬法等、あるいはこれらの組み合わせ法等が利用できる。
【0045】
硫化は通常、水素存在下に、加熱しながら硫化水素などの硫化剤と金属成分が担持された担体とを加熱しながら、接触させればよい。
【0046】
本発明で得られる水素化脱硫触媒は、そのまま所定の触媒又は触媒成分の一部として利用することができるが、必要に応じて成形、粉砕等の処理を施すこともできる。また必要に応じて、種々の還元処理などの処理を行ってから用いることもできる。
【0047】
本発明に係る水素化脱硫触媒の形状は特に限定されるものではなく、前記担体にて例示したような粉末状、円柱状、球状、葉状、ハニカム状等、使用目的や使用条件に応じて適宜選択することができるが、固定床反応装置では円柱状、球状、葉状、ハニカム状といった定形で用いられるのが好ましい。
【0048】
本発明の触媒が適用される水素化脱硫処理の対象油は、特に制限されるものではないが、直留軽油、脱硫処理後軽油、水素化処理軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、減圧蒸留軽油等の、沸点範囲が150〜450℃、含有硫黄分が2質量%以下の軽油留分が最も適している。
【0049】
本発明で得られる水素化脱硫触媒は、特に、軽油留分の超深度脱硫、具体的には5%留出温度が200℃以上、95%留出温度が400℃以下の軽油留分を硫黄分50ppm以下、好ましくは硫黄分10ppm以下に水素化脱硫する触媒としては好ましく用いられる
【実施例】
【0050】
[実施例1:水素化脱硫触媒A]
《担体の調製》
1LビーカーにAl23濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液90.9gを入れ、イオン交換水を添加して400gとし、更にこの溶液に26質量%のグルコン酸ナトリウム溶液2.2gを加え、攪拌しながら60℃に加温し、Al23濃度換算で5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液を得た。別途、500mlの容器にAl23濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液138.6gを入れ、60℃の温水を添加して、2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液400gを得た。
【0051】
次に、前記アルミン酸ナトリウム水溶液中に、前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度(40ml/分)で添加し、10分でpHが7.1となるようにした。得られた懸濁スラリーを攪拌しながら60℃で1時間熟成した。懸濁スラリーはAl23濃度換算で10質量%であった。
【0052】
熟成後の懸濁スラリーを脱水し、60℃の温水1.5Lで洗浄して得たケーキ状スラリー得た。このケーキ状スラリーにSiO2濃度として20質量%のシリカゾル〔触媒化成
工業(株)製:cataloid SI−550〕4.6gを加えた後、Al23濃度換
算で10質量%になるようにイオン交換水を添加した。次いで、これを攪拌しながら95℃で10時間熟成した。熟成終了後のスラリーをスチームジャケット付の双腕式ニーダーで練りながら加温し、所定の水分量(45質量%)まで濃縮した後、加熱を停止し、更に30分間捏和した。得られた捏和物を押し出し成形機で1.8mmの円柱状に成形した後、110℃で乾燥させた。乾燥したペレットを電気炉中で550℃の温度で3時間焼成し、SiO2濃度として3質量%、Al23濃度として97質量%のシリカ−アルミナから
なる担体Aを得た。担体Aの水銀圧入法による平均細孔直径(PD)は、1000nm(100Å)であった。
《担体の酸強度評価:アンモニア吸着法》
担体Aの酸量を東京理工社製の熱測定法表面解析装置 MMC−511SVを用いて行った。以下、詳しく説明する。
【0053】
担体Aを粒径が300〜710μmとなるように粉砕した試料1gを、400℃、かつ、1×10-4Torrの条件下で4時間保持した後、30℃に冷却し、アンモニアガスを吸着させ、その際に発生する吸着熱を測定し、その吸着熱からアンモニア吸着量を算出し、その結果から全酸量及び強酸量を計算した。この場合、吸着熱が70kJ/mol以上の酸量を全酸量とし、吸着熱が90kJ/mol以上の酸量を強酸量とした。
【0054】
担体Aは、全酸量が0.48mmol/gであり、強酸量が0.27mmol/gであり、強酸量/全酸量の割合が56%であった。
《含浸溶液の調製》
300mlビーカーに水250ml、三酸化モリブデン(周期表第6A族金属の一例)
17gを加え、95℃で10時間攪拌しながら加熱した。更に、塩基性炭酸コバルト(周期表第8族金属の一例)7gを加え、95℃で5時間攪拌した。この混合溶液を75℃まで冷却し、更に50質量%のグルコン酸水溶液27gを加え、75℃で10時間攪拌した後、リン酸2水素アンモニウムを4g加えて溶解させた。得られた溶液を44mlまで濃縮して含浸溶液Aを得た。
《触媒の調製》
担体Aに、含浸溶液Aを含浸法により担持させた後、110℃で2時間乾燥し、更に、5%硫化水素/95%水素気流中、360℃で3時間硫化し、触媒Aを得た。
《触媒の解析》
触媒Aのモリブデン硫化物(MoS2)の結晶を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy。TEM)により数視野撮影し、200万倍のTEM写真を得た。図1
(a)に触媒AのTEM写真を示す。このTEM写真から200個のMoS2結晶物の(
002)面の面長と積層数を測定し、平均面長と平均積層数を算出した。触媒AのMoS2結晶物の(002)面の平均面長は3.8nmであり、平均積層数は1.6層であった

[比較例1:水素化脱硫触媒B]
比較例1は、実施例1において、担体として、Al23濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液142.9gと、Al23濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液90.9gとから共沈法によりアルミナゲルを調合し、脱水、洗浄して得られたアルミナからなる担体Bを用いたことが、実施例1と異なっている。ここで、担体Bは、全酸量が0.41mmol/gであり、強酸量が0.24mmol/gであり、強酸量/全酸量の割合が59%であった。また、触媒BのMoS2結晶物の(002)面の平均面長
は4.3nmであり、平均積層数は1.8層であった。図1(b)に触媒BのTEM写真を示す。
[比較例2:水素化脱硫触媒C]
比較例2は、Al23濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液142.9gと、Al23濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液90.9gと、SiO2
度換算で24%の水ガラス4.2gとから共沈法によりアルミナシリカゲルを調合し、脱水、洗浄して得られたシリカ−アルミナからなる担体Cを用いたことが、実施例1と異なっている。ここで、担体Cは、全酸量が0.56mmol/gであり、強酸量が0.34mmol/gであり、強酸量/全酸量の割合が61%であった。また、触媒CのMoS2
結晶物の(002)面の平均面長は3.9nmであり、平均積層数は1.6層であった。図1(c)に触媒CのTEM写真を示す。
[試験例1:芳香族炭化水素油の水素化脱硫試験]
触媒A〜Cを用いて硫黄及び窒素化合物を含む芳香族炭化水素油の水素化脱硫活性を高圧固定床流通式マイクロリアクター装置により評価した。
【0055】
高圧固定床流通式マイクロリアクター装置において、各触媒を、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(硫黄として1000ppm含む)/n−ブチルアミン(窒素として20ppm含む)/テトラリン(30%)/n−ドデカン(Balance)の組成の硫黄及び窒素化合物を含む芳香族炭化水素油(原料油)と、反応温度320℃、反応圧力4.0MPa、重量空間速度16h-1、水素/原料油比500Nm3/m3の条件で接触させて水素化処理を行った。
【0056】
反応開始から30時間後及び50時間後の生成油を採取し、以下の分析を行った。各触媒の硫黄転化率(脱硫活性)は硫黄の元素分析により測定した。テトラリンの転化率はガスクロマトグラムにより分析した。直接脱硫ルートと水素化ルートの選択率は、4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの反応生成物であるジメチルビフェニル、ジメチルシクロヘキシル、ジメチルビシクロヘキサン、及び、ヒドロジメチルジベンゾチオフェンを、ガスクロマトグラムにより測定し、ジメチルビフェニルを直接脱硫ルート生成物、その他を水素化ルート生成物として各選択率を算出した。表1にその結果を示す。
【0057】
これにより、触媒Aは、触媒Cに比べ高い脱硫性能を示しており、しかも4,6−ジメチルジベンゾチオフェンの直接脱硫ルートでの反応選択性が高いことが解った。一方、触媒Bは、30時間後の脱硫性能は触媒Aと同等であったが、50時間後の脱硫性能が触媒Aよりもかなり低くなっており、触媒活性の安定性が低いことが解った。
【0058】
【表1】

【0059】
[試験例2:加速劣化試験]
触媒A〜Cを用いて触媒の寿命を間接的に見る加速劣化試験として、高温での硫化処理を行い、活性金属の凝集テストを行った。
【0060】
各触媒を5%硫化水素/95%水素気流中、420℃で18時間硫化処理を行った。硫化した触媒は、室温まで冷却後、TEMにて活性金属の凝集状態を確認した。図2(a)〜(c)に加速劣化試験後の触媒A〜CのTEM写真をそれぞれ示す。
【0061】
これにより、触媒Aは加速劣化試験後も硫化モリブデンや硫化コバルトによる凝集が見られず、活性金属が高分散され初期の状態を維持していることが解った。一方、触媒Bは、数10nm大の硫化コバルトの凝集体が確認され、また硫化モリブデンの積層化や凝集が進んでいることが確認され、活性金属が凝集し触媒の安定性が大幅に低下していることが解った。一方、触媒Cは、触媒Aと同じく硫化モリブデンや硫化コバルトによる凝集がほとんど見られず、活性金属が高分散されていることが解った。
【0062】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の炭化水素油の水素化脱硫触媒を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された周期表第6A族金属の硫化物と、周期表第8族金属の硫化物と、炭素質とからなる触媒成分を含み、透過電子顕微鏡写真から得られる周期表第6A族金属の硫化物の(002)面の平均面長が5nm以下、かつ、周期表第6A族金属の硫化物の平均積層数が3層以下である炭化水素の水素化脱硫触媒において、
前記担体が、アンモニア吸着熱量測定において、(1)アンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量が0.32mmol/g以下であり、かつ、(2)アンモニア吸着熱70kJ/mol以上の酸量に対するアンモニア吸着熱90kJ/mol以上の酸量の割合が、60%以下であることを特徴とする炭化水素油の水素化脱硫触媒。
【請求項2】
周期表第6A族金属の少なくとも1種と、周期表第8族金属の少なくとも1種と、糖誘導体とを含む含浸溶液を、複合酸化物からなる担体に含浸させた後、乾燥し、更に硫化することにより得られたことを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の水素化脱硫触媒。
【請求項3】
前記周期表第6A族金属がモリブデンであり、前記周期表第8族金属がコバルトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素油の水素化脱硫触媒。
【請求項4】
前記含浸溶液はリン化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素油の水素化脱硫触媒。
【請求項5】
前記担体は、アルミナと、シリカ、チタニア、リン酸化物、ボリア、ジルコニア、セリア、マグネシアより選ばれる1種以上の酸化物とからなる複合酸化物である請求項1〜4のいずれかに記載の炭化水素油の水素化脱硫触媒。
【請求項6】
前記担体は、アルミナを調合した後、若しくは、アルミナ調合時に、該アルミナに他の酸化物のゾルを添加し、さらに、捏和、成型して得られたものであることを特徴とする請求項5記載の炭化水素油の水素化脱硫触媒。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−88044(P2011−88044A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241874(P2009−241874)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】