説明

炭化水素流の脱硫用の触媒の製造方法

この発明は、a)熱分解可能な銅源と熱分解可能なモリブデン源と固形の亜鉛源を含んだ水性の懸濁液を製造し;b)熱分解可能な銅源と熱分解可能なモリブデン源が分解され、従って懸濁液が亜鉛、銅、およびモリブデン化合物を含んだ沈殿物を含有するような温度まで前記懸濁液を加熱し;c)ステップ(b)によって得られた懸濁液を冷却し;d)沈殿物を懸濁液から分離し;e)前記沈殿物を乾燥させる、各ステップからなる炭化水素流の脱硫用の触媒製造方法に関する。本発明はさらに、前記の方法によって製造された触媒と、その触媒の炭化水素の脱硫への適用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
この発明は、炭化水素流の脱硫用の触媒の製造方法、その方法によって製造することができる炭化水素流の脱硫用の触媒、ならびにその炭化水素流の脱硫用の触媒の適用方法に関する。
【0002】
殆どの触媒は、特に遷移金属を含む場合に、有機硫黄化合物によって有毒化されそれによってその活性度を喪失する。例えばメタンあるいはその他の炭化水素の改質等の多くの炭化水素変換プロセス、例えばメタノール合成用あるいは燃料電池内におけるメタノールもしくはその他の炭化水素からのエネルギー生成用の合成ガスの製造において、炭化水素流内の硫黄含有率をppb領域まで低減することが必要である。
【0003】
炭化水素流からの有機硫黄化合物の分離は、一般的に別々の反応炉内で実施される2つのステップからなる。第1の反応炉内において有機硫黄化合物が硫化水素に還元される。そのため炭化水素流を、例えばガス状の水素等の適宜な還元剤を付加しながら例えば通常コバルト、モリブデン、あるいはニッケルを含んだ触媒を介して誘導する。その際例えばチオフェン等のガス内に含まれている硫黄を含有した化合物が硫化水素を発生しながら還元される。
【0004】
還元後ガス流が第2の反応炉内に誘導され、その中でガス中に元々含まれていた、あるいは有機硫黄化合物の還元に際して発生した硫化水素が適宜な吸着剤上で吸着される。そのため通常炭化水素流は固形の吸着剤の吸着床、例えば酸化亜鉛からなる吸着床を通過する。
【0005】
欧州特許出願公開第1192981号A1明細書には炭化水素流の脱硫のための作用物質が記載されており、それにおいては例えば硝酸塩等の銅あるいは亜鉛化合物の混合物から例えば炭酸ナトリウム等のアルカリ性化合物の溶液を使用して沈殿物が沈殿する。その沈殿物が分離、洗浄、乾燥および焼結される。その焼結された生成物は成形体に加工されその後その成形体が鉄および/またはニッケル化合物の溶液内で浸漬され、その後成形体は再度焼結される。焼結された成形体の鉄および/またはニッケル含有率は1ないし10重量%となることが好適である。
【0006】
米国特許第4613724号明細書には炭化水素流から硫化カルボニル(COS)を分離する方法が提案されており、それにおいて炭化水素流は酸化亜鉛ならびに、酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、およびその混合物からなる一群の中から選択された促進剤を含んだ吸着剤を介して誘導される。加えて酸化カルシウムを促進剤として含むことも可能である。吸着剤材料中の促進剤の含有率は最高でも15重量%とすることが好適である。吸着剤の比表面積は20ないし100m/gであることが好適である。吸着剤材料の粒子大は2mm未満、特に0.5ないし1.5mmとすることが好適である。吸着剤材料は85ないし95重量%の酸化亜鉛、3ないし10重量%の酸化アルミニウムあるいは珪酸アルミニウム、ならびに0ないし5重量%の酸化カルシウムを含むことが好適である。
【0007】
米国特許第5348928号明細書には、水素化する成分として、酸化モリブデンとして計算して4ないし10重量%のモリブデン化合物と酸化コバルトとして計算して0.5ないし3重量%のコバルト化合物を含んだ、炭化水素流の脱硫用の触媒が記載されている。この触媒はさらに、いずれも酸化物として計算して0.5ないし50重量%のマグネシウム化合物ならびに0.3ないし10重量%のナトリウム化合物を含んだ担体を有している。触媒の比表面積は268m/g未満にはならず、また平均細孔直径は300Å(オングストローム)超にはならない。この触媒は、例えば担体を活性金属成分の塩の水性溶液中で浸漬することによって製造することができる。
【0008】
米国特許第5800798号明細書には燃料電池の燃料ガスの製造方法が記載されており、それにおいては5ppm未満の硫黄含有率を有する炭化水素流が吸着剤を介して誘導される。その吸着剤は、銅対ニッケルの比率が80:20ないし20:80である銅−ニッケル合金と、Al、ZnO、およびMgOからなる一群の中から選択される担体材料を含んでいる。この吸着剤中の銅およびニッケルの総含有率は、金属として計算して40ないし70重量%となる。燃料ガスを精製するために、洗浄された炭化水素流を水蒸気改質に誘導される。この硫黄吸着剤は10ないし400m/gの領域の比表面積と0.1ないし1.5ml/gの細孔容積を備えている。この吸着剤は、11ないし22重量%の比率の銅と、21ないし30重量%の比率のニッケルと、46ないし50重量%の比率の酸化亜鉛と、10ないし11重量%の比率の酸化アルミニウムを含むことが好適であり、比表面積は95ないし98m/gとなる。
【0009】
米国特許第5302470号明細書には、燃料電池を含んだエネルギー生成システムが記載されている。炭化水素からなる燃料ガスは水蒸気改質によって生成される。脱硫のために銅および亜鉛を含んだ触媒を介して炭化水素流を誘導し、それによって硫黄含有率が5ppb未満の数値に低下する。その触媒は、銅化合物、亜鉛化合物、ならびに必要に応じてアルミニウム化合物の共沈によって製造される。
【0010】
独国特許出願公開第10352104号A1明細書には、炭化水素を含んだガスから硫黄化合物を除去する方法が記載されており、それにおいては活性炭を除いて、銅、銀、亜鉛、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケルあるいはそれらの混合物を含んだ触媒が、−50ないし150℃、特に0ないし80℃の温度、ならびに0.1ないし10バール、特に0.8ないし4.5バールの圧力で使用される。実施例において製造された触媒は沈殿プロセスあるいは浸漬プロセスによって得られる。触媒の製造に際して適宜な金属塩の硝酸化合物が付加され、炭酸ナトリウムの添加によってpH値を上げることによって溶解性の金属塩が沈殿する。沈殿物を分離し、ナトリウムイオンが検出されなくなるまで水で洗浄し、その後焼結によって適宜な混合酸化物に変換する。この方式によって以下の金属イオンの組合せを有する混合酸化物が生成される:Cu/Zn/Al,Cu/Zn/Zr,Cu/Zn/Al/Zr,Cu/Zn/Al/Zr/La,Cu/Zn/Al/Zr/Mg,Cu/Zn/Al/Zr/Ni,Cu/Zn/Al/Zr/Si。触媒の製造に際して酸化アルミニウム帯状体が浸漬によって適宜な金属塩の水性溶液によって処理される。浸漬の後に触媒が乾燥および焼結される。
【0011】
独国特許出願公開第10340251号A1明細書にも、炭化水素を含んだガスから硫黄化合物を除去する方法が記載されており、それにおいては銅およびモリブデンを含んだ触媒が同時に−50ないし150℃の温度および0.1ないし1バールの圧力で使用される。それら両方の触媒は、前後して配列して特に銅を含んだ触媒はモリブデンを含んだ触媒の前に配置するか、あるいは両方の触媒の混合物として使用することができる。後者は特に小型の設備における使用において好適である。混合物としての使用に際して、銅あるいはモリブデンを含んだ触媒をまず分離して製造し、その後混合する。
【0012】
独国特許第1121757号明細書には、硫黄を含んだ炭化水素の水素化脱硫のための担体触媒が記載されており、これは水素化成分としてモリブデンの酸化物あるいは硫化物ならびに鉄族金属の酸化物あるいは硫化物を含んでいる。鉄族金属の金属としてはコバルトおよびニッケルが使用される。
【0013】
独国特許出願公開第10260028号A1明細書にも炭化水素を含んだガスから硫黄化合物を除去する方法が記載されており、それにおいて銅およびモリブデンを含んだ触媒が同時に−50ないし150℃の温度および0.1ないし1バールの圧力で使用される。好適な触媒として実施例中に、Cu/Zn/Al−,Cu/Zn/Zr−,Cu/Zn/Al/Zr−,Cu/Zn/Al/Zr/La−,Cu/Zn/Al/Zr/Mg−,Cu/Zn/Al/Zr/Ni−,Cu/Zn/Al/Zr/Si−,ならびにAl/Mo/Cu/Ba−触媒が記載されている。
【0014】
欧州特許出願公開第1192981号A1明細書には脱硫剤の製造方法が記載されており、それにおいては銅および亜鉛化合物の水性溶液がアルカリを使用して沈殿物に変換される。その沈殿物を焼結して焼結された沈殿物から成形体が製造される。その成形体に鉄および/またはニッケルを含んだ化合物が浸漬され、その浸漬された成形体が再度焼結される。この触媒を活性化するために水素流内で還元される。
【0015】
欧州特許第0600406号B2明細書には炭化水素の脱硫方法が記載されており、それにおいて炭化水素流が非飽和の炭化水素を含んでいて0.01ないし4容積%の炭化水素ガスによって転化される。炭化水素流は、1:0.3ないし1:10の銅/亜鉛分子比を有するとともに共沈方法によって製造された銅/亜鉛脱硫剤を介して誘導される。この銅−亜鉛脱硫剤は、まず適宜な金属塩の水性溶液を生成しその後アルカリ、例えば炭酸ナトリウムを転化することによって沈殿物を形成することによって製造することができる。実施例の1つによれば、硝酸銅、硝酸亜鉛、およびアンモニウムパラモリブデン酸塩の水性溶液から炭酸ナトリウム溶液を使用して沈殿物が形成される。水による洗浄、乾燥ならびに焼結の後に酸化銅−酸化亜鉛−酸化モリブデン混合物が得られ、それを水素化脱硫に使用することができる。
【0016】
欧州特許第0427869号B1明細書には、少なくとも1つの銅/亜鉛脱硫反応炉を有する脱硫ユニットを備えた燃料電池発電システムが記載されている。実施例中において銅/亜鉛/アルミニウム混合酸化物が脱硫剤として使用されている。
【0017】
英国特許第1011001号明細書には有機化合物の脱硫のための触媒が記載されており、それにおいて触媒は六価モリブデンならびに酸素を含んだ微細に配分された酸化亜鉛およびその化合物からなる担体を含んでいる。好適な実施例によればこの触媒は酸化銅等の作用物質を含むことができる。この触媒を製造するために、水の存在下において酸化亜鉛が、この酸化亜鉛と反応して炭酸亜鉛となる化合物で転化される。この混合物を、微細に分配された酸化亜鉛を得るために、成形、乾燥、ならびに焼結する。酸化亜鉛の製造前、製造中、あるいは製造後に、六価のモリブデンならびに酸素を含んだ化合物が添加される。そのため、例えば酸化亜鉛をアンモニウムモリブデン酸塩の水性溶液によって浸漬することができる。充分な量のモリブデン酸塩を担体中に含有させるために浸漬を場合によって複数回繰り返す必要も有り得る。別の実施例によれば、酸化亜鉛、水、および炭酸アンモニウムの混合物を混錬し、その化合物に所要の量のモリブデン酸亜鉛あるいはモリブデン酸、さらに必要に応じて炭酸銅を添加する。実施例中には、銅/亜鉛/モリブデン−触媒の製造が記載されており、その際酸化亜鉛、アンモニウム炭酸水素塩、および水が混錬される。この混合物にモリブデン酸および塩基性炭酸銅が付加される。その化合物を成形体に成形し、乾燥させ、さらに300ないし350℃で焼結する。この方法において銅およびモリブデン塩は乾燥した成形体を焼結して初めて酸化物の状態に変換される。
【0018】
可能な限り高いレベルの炭化水素の脱硫を可能にするために、炭化水素流の脱硫に際して使用される水素化触媒が例えばチオフェン等の硫黄を含んだ有機化合物に対して高い水素化活性度を有する必要がある。この硫黄吸着剤はまず一方で硫黄含有率を可能な限り低いレベルに低下させることを可能にするために硫黄に対する高い親和性を有する必要があり、他方で吸着剤の寿命を長期化、すなわち新しい吸着剤への交換間隔を可能な限り長くするために高い硫黄吸収容量を備える必要がある。さらに、水素化触媒はその寿命にわたって可能な限り低い水素化活性度の低下を示すものであることが必要である。
【0019】
水素添加脱硫に際しての脱硫レベルは、脱硫するガス流の硫黄含有率、プロセスを実施する温度、ならびに触媒の活性度に依存するものとなる。水素添加脱硫のための典型的な触媒は、コバルトまたはニッケル等の作用物質によって転移されたモリブデンあるいはタングステンによって酸化アルミニウム等の担体を浸漬することによって製造される。水素添加脱硫用の一般的な触媒は例えば、酸化アルミニウム上にコバルトおよびモリブデン酸塩を混合したもの、酸化アルミニウム上にニッケルを混合したもの、あるいはニッケルを作用物質として転移され酸化アルミニウム上に担持されたコバルトおよびモリブデン酸塩の混合物である。
【0020】
従って本発明の目的は、炭化水素の低コストな脱硫を可能にするものであるとともに、水素化触媒が高い有機硫黄化合物の還元能力を有し、吸着剤は硫黄に対する高い親和性ならびに高い吸収容量を有するものとなり、従って炭化水素流中の硫黄含有率のppb領域までの低減を可能にすることができる、炭化水素流中の脱硫用の触媒製造方法を提供することである。
【0021】
前記の課題は本発明に従って請求項1の特徴によって解決される。従属請求項の対象は本発明に係る方法の好適な実施形態である。
【0022】
本発明に係る炭化水素流の脱硫用の触媒製造方法は:
a) 熱分解可能な銅源と、
熱分解可能なモリブデン源と、
固形の亜鉛源、
を含んだ水性の懸濁液を製造し;
b) 熱分解可能な銅源と熱分解可能なモリブデン源が分解され、従って懸濁液が亜鉛、銅、およびモリブデン化合物を含んだ沈殿物を含有するような温度まで水性の懸濁液を加熱し;
c) ステップ(b)によって得られた懸濁液を冷却し;
d) 熱分解によって得られた沈殿物を懸濁液から分離し;
e) 前記沈殿物を乾燥させる;
各ステップを含んでいる。
【0023】
本発明に係る方法においては、触媒活性度を有する金属銅および金属モリブデンが熱分解可能な銅源ならびに熱分解可能なモリブデン源の熱分解によって担体材料として機能する固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛上に沈澱される。その際銅源とモリブデン源が沈殿物を形成し、これは固形の亜鉛源に隣接してあるいはその上で分離されたものとなる。従って、乾燥後ならびに必要に応じてその後に行われる焼結ステップ後に極めて大きな表面積を有する固形物が得られる。触媒の活性化後に極めて小さな銅クリスタライトが発生する。従って極めて活性な触媒が生成される。
【0024】
本発明に係る方法によればまず熱分解可能な銅化合物および熱分解可能なモリブデン化合物が製造され、その中に固形の亜鉛化合物、特に酸化亜鉛が付加される。
【0025】
ここで熱分解可能な銅化合物あるいは熱分解可能なモリブデン化合物は、加熱に際して酸化銅あるいは酸化モリブデンに変換される化合物であると理解される。このことは、熱分解可能な銅化合物あるいは熱分解可能なモリブデン化合物が、例えば炭酸イオン、炭酸水素塩イオン、あるいはアンモニウムイオン等の加熱に際して分離することが可能な陰イオンあるいは陽イオンを含むことによって達成することが好適である。特に好適には、熱分解可能な銅化合物あるいは熱分解可能なモリブデン化合物は、水蒸気によって銅源あるいはモリブデン源の水性溶液から放出され得る陰イオンおよび陽イオンを含む化合物である理解される。その種の陰イオンあるいは陽イオンは、例えばアンモニウムイオンまたは炭酸塩あるいは炭酸水素塩とすることができる。熱分解に際して、焼結ステップにおいて酸化銅あるいは酸化モリブデンに変換され得る、例えば塩基酸化物、ヒドロキソカーボネート、その他の少量の定義された化合物が発生する。
【0026】
必要に応じて実施される追加的な焼結ステップ後に酸化銅に変換され得る好適な銅化合物は、例えば炭酸銅、銅ヒドロキソカーボネート、水酸化銅、硝酸銅、あるいは銅ホルメート、銅オキサレート、あるいは銅タルトレート等の有機酸塩である。
【0027】
熱分解可能な銅化合物は、熱分解に際して例えば塩化物イオン等の触媒の製造を妨害する、特にその活性度を低下させる物質が発生しないようなものを選択することが好適である。熱分解可能な銅化合物は、好適には不活性ガスあるいは例えば水蒸気の導入によって水性の懸濁液から放出され得るガス状あるいは水溶性の化合物が熱分解に際して発生するように選択することが好適である。熱分解可能な銅化合物としては銅テトラミン複合体が用いられ、特に銅テトラミンカーボネートCu(NHCOが好適である。
【0028】
必要に応じて実施される追加的な焼結ステップ後に酸化モリブデンに変換され得る好適なモリブデン化合物は、例えばアンモニウムモリブデン酸塩、モリブデン酸、あるいは有機酸のモリブデン酸塩等の揮発性の陽イオンを有するモリブデン酸塩である。
【0029】
熱分解可能なモリブデン化合物も、例えば加熱あるいは不活性ガスの導入によって溶媒から放出され得る、ガス状あるいは水溶性の化合物が熱分解に際して分離されるように選択することが好適である。熱分解可能なモリブデン化合物として、例えば(NHMo24*4HO等のアンモニウムモリブデン酸塩を使用することが好適である。
【0030】
焼結ステップにおいて直接酸化亜鉛に変換され得る好適な亜鉛化合物は、例えば炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛ヒドロキソカーボネート、あるいは例えば亜鉛ホルメート、酢酸亜鉛、あるいは亜鉛オキサレート等の有機酸の亜鉛塩である。それらの化合物は単独あるいは亜鉛化合物の混合物として使用することができる。また酸化亜鉛を直接使用することもでき、通常それが特に好適である。
【0031】
酸化亜鉛としては、例えば約5m/gの領域の比較的小さな比表面積を有する酸化亜鉛が使用される。しかしながら、既に比較的大きな比表面積を有する酸化亜鉛を使用することもできる。その種の酸化亜鉛は例えばアルカリ水酸化物および/またはアルカリ炭酸塩の添加によって水溶性の亜鉛塩にすることができ、ここで沈殿物は直接分離および乾燥の後に焼結するか、あるいは本発明に係る触媒の製造後とすることができる。この種の酸化亜鉛は、20m/g超、特に50m/g超の比表面積を有することが好適である。一方酸化亜鉛は、水中における水酸化亜鉛と炭酸亜鉛の混合によって得られる沈殿物を焼結することによって得ることもできる。
【0032】
懸濁液の製造のために水が溶媒として使用される。水の他にさらに、必要に応じて例えばグリコール、アルコール、ジメチルホルムアミド、あるいはジメチルスルホキシド等の別の有極性の溶媒を使用することができる。好適には水のみが溶媒として使用される。
【0033】
懸濁液を製造するために溶媒内に添加する成分の順序には全く制限は無い。まず固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛を水中に付加し、続いて熱分解可能な銅源ならびに熱分解可能なモリブデン源を水性懸濁液中に付加することができる。しかしながら、先ず熱分解可能な銅源ならびに熱分解可能なモリブデン源を少なくとも部分的に水中に溶解し、その後初めて固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛を付加することも可能である。また、先ず銅源またはモリブデン源を一部あるいは全部水中に溶解しその後固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛を溶液中に付加し、続いてモリブデン源あるいは銅源の残量を混合物に付加することもできる。
【0034】
懸濁液の成分は室温において溶媒、特に水中に付加することができる。しかしながら、溶解プロセスを加速させるために水性の懸濁液を加熱することもでき、その際温度は熱分解可能な銅源および熱分解可能なモリブデン源の分解は未だ生じないように選択することが好適である。水性の懸濁液は15ないし60℃、特に20ないし50℃の範囲の温度で製造することが好適である。水性の懸濁液は攪拌することが好適である。そのため一般的な攪拌器を使用することができる。
【0035】
水性の懸濁液中における熱分解可能な銅源の濃度は0.01ないし0.2モル/Lの範囲、好適には0.015ないし0.1モル/Lの範囲、特に好適には0.02ないし0.075モル/Lの範囲の中から選択される。
【0036】
他方、水性の懸濁液中における熱分解可能なモリブデン源の濃度も0.01ないし0.2モル/Lの範囲、好適には0.015ないし0.1モル/Lの範囲、特に好適には0.02ないし0.075モル/Lの範囲の中から選択される。
【0037】
水性の懸濁液中における固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛の含有率は300g/L未満の範囲で選択することが好適であり、これはそうでなければ混合物の粘性が大きく上昇するためである。溶媒の量を過度に増加させないために、固形の亜鉛化合物の含有率を50g/L超、特に100ないし200g/Lの範囲に選択することが好適である。
【0038】
特に好適には、水性の懸濁液の固形成分含有率は60重量%未満、特に50重量%未満となる。水性の懸濁液の固形成分含有率は5ないし30重量%、特に10ないし20重量%に選択することが極めて好適である。
【0039】
水性の懸濁液はその後、熱分解可能な銅源ならびに熱分解可能なモリブデン源が分解されて亜鉛、銅、およびモリブデン化合物を含んだ沈殿物が形成されるような温度に加熱される。水性の懸濁液は熱分解可能な銅源あるいはモリブデン源の分解前に既に固形の亜鉛源、特に酸化亜鉛を含有している。熱分解に際して、前記固形の亜鉛源上に付着することが可能な銅あるいはモリブデンを含有する沈殿物が追加的に形成される。適した温度は使用される銅あるいはモリブデン化合物に依存する。例えば水性の懸濁液を沸点まで加熱することも好適である。80℃超、特に90ないし120℃の範囲の温度を選択することが好適である。
【0040】
熱分解は、水性の懸濁液を例えば加熱することによって銅源あるいはモリブデン源の陽イオンあるいは陰イオンが水性の懸濁液から放出され、従って適宜な化合物が蒸留水あるいは溶媒と共に水性の懸濁液から除去されるような方式で実施されることが好適である。化合物の除去は例えば不活性ガスあるいは水蒸気の導入によって実施することもでき、それによって除去すべき陰イオンあるいは陽イオンを含んだ適宜な化合物が混合物から放出される。
【0041】
水性の懸濁液を銅源あるいはモリブデン源の分解が実施される温度に加熱する前に、先ず温度を室温より高いが分解が開始される温度よりも低い温度に維持することもできる。それに適した温度は40ないし80℃、特に50ないし70℃の範囲となる。水性の懸濁液がその温度に維持される時間間隔は2時間超、特に10ないし48時間に選択することが好適である。その時間の間、固形亜鉛源上で解放および剥脱プロセスが行われ、それによって触媒の表面に好適な影響がもたらされる。
【0042】
銅源あるいはモリブデン源の熱分解後に得られた懸濁液は、好適に10ないし30℃、特に15ないし25℃の温度、特に好適には室温に冷却される。この冷却は、懸濁液を冷媒あるいは冷却装置を使用して冷却することによって能動的に実施することができる。しかしながら、殆どの場合懸濁液を放置すれば充分である。
【0043】
銅源ならびにモリブデン源の熱分解後に懸濁液を熟成させることができる。この熟成は少なくとも1時間、特に少なくとも10時間とすることができる。それより長い熟成時間をおいても触媒特性に大きな変化は観察されない。熟成は遅くとも100時間後、特に遅くとも40時間後には終了することが好適である。
【0044】
その後沈殿物が懸濁液から取り出される。そのため例えば濾過あるいは遠心分離等の一般的な方法が使用される。しかしながら、固形物が残留するように溶媒を蒸留することも可能である。
【0045】
続いてその沈殿物を乾燥させ、また必要に応じて微細な粉末を形成するために粉砕することができる。この乾燥および粉砕は一般的な装置内で実施することができる。粉砕後の平均粒子大D50は100μm未満、特に0.1ないし10μm未満、特に好適には0.2ないし5μm未満となる。
【0046】
この触媒をその後焼結することができる。その粉末は一般的な方法で成形体、例えば任意の形状の錠剤あるいは押出物に加工することができ、ここでこの焼結は粉末に対して実施することも、あるいはより好適には成形体に対して実施することも可能である。
【0047】
熱分解可能な銅源、熱分解可能なモリブデン源、ならびに固形の亜鉛源を含有している水性の懸濁液のpH値は、沈殿物の形成前あるいは熱分解の前に9より大きな値、特に約9.5に調節される。例えばアルカリ水酸化物等の強力な塩基を使用することによってpH値を10.5超に上昇させることもできる。
【0048】
そのためステップ(a)で製造された水性の懸濁液内に炭酸水素アンモニウムあるいは炭酸アンモニウムを添加することが好適である。炭酸水素アンモニウムは固形、溶解液、あるいはアンモニアと二酸化炭素の導入によって混合物内に付加することができる。混合物内の炭酸水素アンモニウムの濃度は0.1ないし2モル/L、特に0.2ないし0.8モル/Lの範囲とすることが好適である。
【0049】
この混合物のpH値はアンモニアの添加によって調節される。このアンモニアはガス、あるいはより好適には水性の溶液として導入することができる。
【0050】
必要に応じてさらに二酸化炭素あるいは二酸化炭素によって置換されたアンモニア水あるいは水酸化炭素アンモニウムを混合物内に付加することができる。混合物内のアンモニアと二酸化炭素の比率は1:1ないし2:1、特に1.2:1ないし1.5:1の範囲となる。
【0051】
アルカリ性のpH値および水酸化炭酸アンモニウムの存在によって亜鉛源、特に酸化亜鉛の解放あるいは剥脱プロセスが推進され、従って乾燥および焼結後に高い比表面積を有する酸化亜鉛が生成される。
【0052】
熱分解のために水性の懸濁液が少なくとも90℃、特に約100℃の温度に加熱される。この加熱は常気圧下で実施することが好適である。この加熱のために一般的な装置、特に加熱パイプあるいは加熱ジャケット等を使用することができる。
【0053】
極めて好適な実施形態によれば、熱分解のために水蒸気が水性の懸濁液を介して誘導される。ここでこの水蒸気の導入は一般的な装置によって実施される。例えば反応容器内に環状の誘導路を設けることができ、それが水蒸気を混合物中に放出する開口部を備えている。その水蒸気によって同時に、熱分解に際して場合によって自由化されるアンモニアあるいは炭酸アンモニウムがその分解物の形式で混合物から放出される。
【0054】
好適な実施形態によれば、ステップ(b)において水性懸濁液中のアンモニウム含有率が少なくとも1000ppmの数値に低減される。このことは、例えばアンモニウム含有率が所要の数値に低下するまで懸濁液を介して水蒸気を誘導することによって実施することができる。しかしながら、水の一部を蒸留することも可能であり、その際アンモニアあるいは炭酸アンモニウムは蒸留によって排除される。
【0055】
本発明に係る方法の好適な実施形態によれば、熱分解可能な銅源、熱分解可能なモリブデン源、ならびに固形の亜鉛源からなる水性の懸濁物は沈殿物の形成前に微細に粉砕される。この粉砕によって常に新しい破断面が形成され、それによって固形の成分の活性化が実施される。この粉砕は水性の懸濁液の製造中に既に開始され、ここで粉砕は沈殿物の生成の終了まであるいは熱分解の終了まで継続することができる。また粉砕は1つの製造工程中のみ、すなわち水性の懸濁液の製造中あるいは沈殿物の製造中のみに実施することができる。沈殿物の製造中、すなわち銅源あるいはモリブデン源の熱分解中に、生成された懸濁液が反応容器から排出され粉砕器に付加されるような方式で粉砕を実施することができる。粉砕工程の後に懸濁液が再び反応容器に還流する。
【0056】
この粉砕は例えば懸濁液の熟成中に実施することもでき、その際懸濁液は前述したように40ないし70℃の範囲の温度に保持することができる。この粉砕は、必要に応じて熱分解の前に実施される熟成ステップ中、あるいは熱分解の後に実施される熟成ステップ中のいずれにおいて行うことも可能である。
【0057】
この粉砕は、懸濁液中の粒子の平均粒子大D50が100μm未満、特に5μm未満、特に好適には1μm未満になるまで実施される。この平均粒子大D50値とは、50%の粒子がそのD50値よりも大きな直径を有し50%の粒子がそのD50値よりも小さな直径を有するような数値であると理解される。このD50値は例えばレーザ粒度分析によって判定することができる(DIN13320−1)。
【0058】
混合物の粉砕は少なくとも1つ、好適には少なくとも5つ、特に好適には少なくとも10個のサイクルを有する。ここで1つのサイクルとは懸濁液の全量が使用される粉砕器を1回完全に通過する粉砕工程であると理解される。
【0059】
懸濁液の粉砕は任意の適宜な粉砕装置内で実施することができる。懸濁液の粉砕は(環状間隙型)攪拌粉砕器内で実施することが好適である。好適な攪拌粉砕器は、例えばD−79395 ノイエンブルグ市のフリマコルマ社製の攪拌粉砕器MS32である。
【0060】
好適な実施形態によれば、前述したように熱分解によって得られた沈殿物が少なくとも2時間熟成される。好適にはこの沈殿物は、12時間超、特に24時間超のより長い時間間隔で熟成される。この熟成によって亜鉛源、特に酸化亜鉛の追加的な活性化が達成される。例えば、両性の酸化亜鉛を水酸化亜鉛あるいは炭酸亜鉛として溶解され、ならびに再分離することができる。それによって全体として亜鉛源の活性の比表面積を拡大することができる。
【0061】
熟成は15ないし70℃の領域、特に室温中で実施することが好適である。
【0062】
特に熱分解可能な銅源および熱分解可能なモリブデン源の熱分解に際して焼結によって適宜な銅、モリブデン、および亜鉛の酸化物に変換され得る生成物のみが生じる場合、好適な実施形態において溶媒の除去ならびに沈殿物の乾燥は、沈殿物の分離および沈殿物の乾燥が噴霧乾燥によっても実施し得るような方式で行うこともできる。この方式によって、例えば直接触媒成形体に加工し得るような微細な粉末が得られる。
【0063】
ここでこの噴霧乾燥は、熱分解によって得られた懸濁液から直接行うことができる。溶媒の一部を例えばデカンテーション、濾過、あるいは蒸留等の別の方式で除去し、残留した懸濁液を噴霧乾燥によって微細な粉末に加工することも可能である。懸濁液の固形物含有率は噴霧乾燥の前に10ないし30%(w/w)、特に20ないし25%となることが好適である。この噴霧乾燥は一般的な装置内において、また一般的な条件を保持して実施することができる。
【0064】
銅化合物およびモリブデン化合物の熱分解に際して得られた沈殿物は、銅、モリブデン、および亜鉛の陽イオンに加えて、大抵の場合元々付加された化合物の陰イオン、例えば炭酸塩陰イオン等を含んでいる。加えて、剥脱した化合物は大抵の場合さらに少なくとも部分的にヒドロキソ化合物として存在する。従って好適な実施形態によれば、沈殿物あるいはステップ(e)において得られた粉末がさらに焼結される。
【0065】
この焼結は、200℃超、特に250℃超、特に好適には310ないし550℃の範囲の温度、かつ少なくとも1時間、特に少なくとも2時間、特に好適には2.5ないし8時間の持続時間で実施される。
【0066】
本発明に係る方法によって得られた触媒は水素化触媒ならびに硫黄吸着剤の両方の機能を果たすものとなる。充分に長い触媒の寿命を保証するために、完成した触媒中の酸化亜鉛の比率を比較的高く選択することが好適である。それに従って、酸化亜鉛として計算した亜鉛源の比率が、いずれも酸化物として計算した銅源、モリブデン源、ならびに亜鉛源の総量に対して少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%となる。
【0067】
銅源、モリブデン源、および亜鉛源の量は、いずれも触媒の重量(600℃で強熱減量無として)に比較してまた金属の酸化物として計算して、0.1ないし20重量%、特に0.5ないし10重量%、特に好適には0.8ないし5重量%の範囲の銅含有率と、0.1ないし20重量%、特に0.5ないし10重量%、特に好適には0.8ないし5重量%の範囲のモリブデン含有率と、60ないし99.8重量%、特に80ないし99重量%、特に好適には90ないし98重量%の範囲の亜鉛含有率を触媒が有するように選択される。
【0068】
本発明に係る方法によって得られた触媒は炭化水素の脱硫に際して極めて良好な特性を有するものとなる。これは硫黄を含んだ有機化合物の還元と発生した硫化水素の吸着を同時に可能にする。硫黄は直近の酸化亜鉛によって水素化活性な金属に結合される。水素化触媒活性度によってモリブデンが少なくとも部分的に硫化物の形式で存在する。この触媒が硫黄を含んだ有機化合物を有していない炭化水素流中で長期間にわたって作用した場合、モリブデン化合物の硫黄が欠乏し従って不活性化される。しかしながら、本発明に係る方法によって得られた触媒においては硫黄が酸化亜鉛によって結合されて保持されるため硫黄が利用可能となり、従って硫黄を含んだ有機化合物を有する炭化水素流が再び誘導された場合に触媒が直ぐに再び活性化される。
【0069】
従って本発明の別の対象は、触媒の重量(600℃で燃焼した粉末に対して)に比較して、0.1ないし20重量%、特に0.5ないし10重量%、特に好適には0.8ないし5重量%の範囲のCuO含有率と、60ないし99.8重量%、特に80ないし99重量%、特に好適には90ないし98重量%の範囲のZnOと、0.1ないし20重量%、特に0.5ないし10重量%、特に好適には0.8ないし5重量%の範囲のMoO含有率を有する、炭化水素流の脱硫用の触媒に関する。
【0070】
この触媒は、BET法で測定して、少なくとも30m/g、特に少なくとも40m/g、特に好適には少なくとも50m/gの比表面積を有する。触媒の比表面積は500m/g未満、特に100m/g未満であることが好適である。比表面積を測定するための適宜な方法は後に記述する。
【0071】
触媒の総細孔容積は120mm/g超、特に150mm/g超、特に好適には180mm/g超となる。この細孔容積は例えば水銀注入によって測定することができる。
【0072】
本発明に係る触媒はさらに独特な細孔半径分布によって特徴づけられる。3.7ないし7nmの細孔半径領域において触媒は、Hg−注入によって測定して、少なくとも20mm/g、特に少なくとも40mm/g、特に好適には30ないし60mm/gの範囲の細孔容積を有する。7ないし40nmの細孔半径領域において触媒は、100mm/g超、特に120mm/g超、特に好適には130mm/g超の細孔容積を有する。この細孔半径の領域において細孔容積は500mm/g、特に250mm/gの値を超過しないことが好適である。40ないし875nmの範囲の中間大の輸送空隙(transport pore)の分は少なくとも1mm/g、特に少なくとも2mm/gとなることが好適であり、また最高でも100mm/g、特に最高でも50mm/g、特に好適には最高でも20mm/gの値を超過しないものとなる。すなわち本発明に係る触媒は極めて高い比率で小径の細孔を有することを特徴とする。
【0073】
好適な実施形態によれば、触媒は0.5ないし50μm、特に1ないし10μmの範囲の平均直径D50を有する略球形の粒子から形成される。狭い粒子の寸法分布は特に、前述した実施形態に従って熱分解可能な銅化合物と熱分解可能なモリブデン化合物と固形の亜鉛化合物とからなる懸濁液を熱分解の前に微細に粉砕しその懸濁液を熱分解の後に噴霧乾燥によって乾燥させた場合に達成される。
【0074】
本発明の別の対象は、前述した触媒の炭化水素流の脱硫への適用方法である。この脱硫は、炭化水素流に特に水素ガス等の少量の還元剤を添加しながら触媒床を介して誘導することによって、一般的な方式で実施される。
【0075】
この脱硫は一般的な条件下で実施される。還元は、例えば260ないし550℃の温度範囲、0.3ないし4bargの水素粒子圧、および0.1ないし20の範囲のLHSV(液空間速度)において実施することができる。触媒は例えば錠剤型、あるいは顆粒状の成形体の形式で形成することができる。成形体あるいは顆粒の直径は3ないし10mmの範囲に選択することが好適である。
【0076】
本発明に係る触媒は、500ppm未満、特に400ppm未満の硫黄含有率を有する炭化水素流の脱硫に特に適している。この種の炭化水素流は例えば天然ガスあるいは同伴ガスによって形成されている。
【0077】
本発明は添付図面を参照しながら以下に詳細に記述する実施例の説明によって明らかにされる。
【0078】
図1には本発明に係る触媒の製造経過が概略的に示されている。第1のステップにおいて熱分解可能な銅源1ならびに熱分解可能なモリブデン源2が炭酸水素アンモニウム3の水性溶液中に溶解され、また固形の亜鉛源4が溶液中に添加され、それによってそれらの成分の水性の懸濁液5が得られる。pH値およびNH/CO比を調節するために、水性の懸濁液に水性のアンモニア溶液6またはNH/COあるいはNHCO等のその他の適宜な塩基を添加することができる。原材料を混合するために、水性の懸濁液5を25ないし50℃の範囲内の温度に加熱することができる。好適な一実施形態によれば、水性の懸濁液5に例えば環状空隙型攪拌器内での集中粉砕が実施される。粉砕中の懸濁液の温度は約10℃ないし50℃の範囲となる。原料成分の混合中および集中粉砕中に、既に少量のアンモニアおよび二酸化炭素が水性の懸濁液から脱出することが可能である。次のステップ8において熱分解可能な銅源ならびに熱分解可能なモリブデン源が分解され、そのため高温の水蒸気9が水性の懸濁液中に誘導される。その際水性の懸濁液の温度は、局部的に約50ないし103℃の値に上昇する。高温の水蒸気の導入は懸濁液のアンモニウム含有率が1000ppm未満の濃度に降下するまで継続される。熱分解可能な原料成分の分解に際して二酸化炭素ならびにアンモニアが水性の懸濁液から放出される。熱分解の終了後に懸濁液が略室温まで冷却される(10)。その後熟成を行うことができる。懸濁液の放置に際して沈殿物が沈下し、それによって上部の透明な溶液をデカンテーションすることができる(11)。残留した懸濁物が噴霧乾燥12によって乾燥させられ、それによって得られた粉末が例えばグラファイト等の成形剤13を付加しながら成形体に成形される。その成形体がその後さらに焼結される(14)。
【0079】
判定方法:
物理的なパラメータの判定のために以下の方法が使用される:
【0080】
表面積/細孔容積:
表面積はDIN66131に従ってマイクロメリティクス社製のASAP2010型全自動窒素ポロシメータ上で判定される。
【0081】
細孔容積(水銀多孔度測定)
細孔容積ならびに最高半径分布はDIN66133に従って判定される。
【0082】
強熱減量:
強熱減量はDIN ISO803/806に従って判定される。
【0083】
かさ密度:
かさ密度はDIN ISO903によって判定される。
【0084】
例1:
528gの炭酸水素アンモニウム溶液(8.3%のCO、12.4%のNH)および427gのCu(NHCO溶液(Cu含有量:40g)に対して2637gのZnOならびに158gの(NHMo24×4HOを付加し、その混合物を撹拌しながら30分間25℃から50℃へ加熱した。続いてその混合物をさらに60分間50℃で攪拌した。銅ならびにモリブデン化合物を分解するためにその後90分間水蒸気を混合物内に誘導し、その際混合物の温度を50℃から103℃に加熱した。その後蒸気供給が停止され、得られた懸濁液を14時間で103℃から35℃に冷却した。上部の透明な液体をデカンテーションした。デカンテーションされた溶液は0.06重量%のNHならびに0.5ppmの銅を含んでいた。残留した懸濁液を逆方向流の噴霧乾燥によって乾燥させた。加熱空気の初期温度は330℃ないし350℃であった。乾燥器の出力側の温度は110℃ないし120℃であった。乾燥器の排気内においては、アンモニアと二酸化炭素の痕跡のみが確認されただけであった。得られた粉末を潤滑剤としての2%のグラファイトと混合し、その後錠剤プレス機上で錠剤型に成形した。続いてその錠剤をさらに焼結した。そのため錠剤を2℃/分の温度上昇率で380℃まで加熱し、その温度をさらに2時間保持した。
【0085】
得られた触媒の物理的なデータは表1に記載した。
【0086】
例2:
例1を繰り返したが、ここで懸濁液は熱分解の前に240分間50℃に保持した。
【0087】
【表1】

【0088】
例1および例2において得られた触媒はその物理的特性においてのみ相異しているものではない。例2においては低い細孔容積が測定された。その低下は、懸濁液のより長い熟成時間に起因するものであり、それによって比表面積が縮小する。
【0089】
例3:
例1を繰り返したが、ここで分解の後に得られた懸濁液を1週間室温で熟成させた。
【0090】
例4:
例1を繰り返したが、ここで分解の後に得られた懸濁液を24時間室温で熟成させた。
【0091】
例5:
例1を繰り返したが、ここで分解前に混合物を環状間隙型粉砕器(ドイツ国、79395 ノイエンブルグ市のフリマコルマ社製のFRYMA MS−32)によって粉砕した。混合物は、10%の固形物含有率を有していた。粉砕空間を2.4LのZrO球体で充填した。粉砕空隙は7mmの幅を有していた。粉砕器の回転数は645回転/分であった。混合物は3L/分の推進速度でポンピングした。粉砕のために懸濁液が1回環状間隙を介して誘導された。噴霧乾燥の前に懸濁液を24時間室温で熟成した。
【0092】
例6:
例5を繰り返したが、ここで分解の前に懸濁液を5回環状間隙型粉砕器によって粉砕した。そのため全懸濁液が5回環状間隙型粉砕器を介して誘導された。分解の後に懸濁液を72時間室温で熟成した。
【0093】
例3ないし例6によって製造された触媒の物理的なデータは表2に記載されている。
【0094】
【表2】

【0095】
例3における長い熟成時間のため比表面積が47から34m/gに低下し、細孔容積は210から170mm/gに低下した。
【0096】
例5および例6における粉砕のため比表面積は粉砕されていない試料と比べて著しく低下した。さらに、細孔容積は3.7ないし7nmの領域に増加した。
【0097】
図2には、例6において得られた触媒の電子顕微鏡写真が示されている。粒子が略球形状であることが確認される。
【0098】
図3には例5において得られた触媒の粒子大分布が示されている。D50値は2.36μmである。
【0099】
例7:
硫黄の吸収容量を測定するため、いずれも10mlの検査すべき触媒(スプリットフォーム、直径1.2mm)を計量し、続いて加熱可能な管形状反応器(直径:20mm、長さ:600mm)に充填した。管形状反応器の出力側はガスクロマトグラフィ(Agilent6890 GC)に結合され、これは反応生成物を分析するためのFIDおよびSCDを備えている(FID:炎イオン化検出器;SCD:硫黄感応性化学ルミネセンス検出器;方法:ASTM−5504)。
【0100】
検査される触媒を活性化するために、まず100ppmの硫黄と2%の水素ガスで置換したメタンガス流内で48時間活性化する。この活性化は350℃の温度ならびに3000h−1のガス荷重(VGAS/VKat・h)において実施される。
【0101】
硫黄吸収容量を計測するために、活性化された触媒を350℃の温度、7.9バールの圧力、ならびに6000h−1のガス荷重で、20ppmのエチルメルカプタンと20ppmのジメチル硫化物および2%水素ガスを含んだメタンガス流内に曝した。反応器の出力側において反応ガスの硫黄濃度が測定された。50ppbの硫黄の数値に到達すると同時に検査が終了され、触媒試料をメタンガス流内で室温まで冷却し再度計量した。重量差から硫黄吸収量が計算された。比較のためにズードケミー社内部で使用されている規準(表1参照)の硫黄吸収量も測定された。判定された硫黄吸収量が表3に示されている。
【0102】
【表3】

【0103】
例8:
活性度を測定するために、いずれも10mlの検査される触媒を例7と同様に反応器内に充填して活性化した。
【0104】
活性度を検査するために、ジメチル硫化物の状態の硫黄15ppmを添加したメタンガス流に触媒を曝した。メタンガス流はさらに2%の水素を含んでいた。圧力は7.9バールに調節した。ガス荷重は6000h−1であった。温度は400ないし200℃の範囲で変化させた。どの温度においてジメチル硫化物が依然として水素化され吸収されているか、すなわち、どの温度から排気ガス内に硫黄が検出されるかが判定された。検査の結果は表4に記載されている。
【0105】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に係る触媒の製造方法の経過を示すフローチャートである。
【図2】成形および焼結の前に噴霧乾燥された触媒の電子顕微鏡撮影図である。
【図3】粒子寸法分布のレーザ粒度分析を示した説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 熱分解可能な銅源と、
熱分解可能なモリブデン源と、
固形の亜鉛源、
を含んだ水性の懸濁液を製造し;
b) 熱分解可能な銅源と熱分解可能なモリブデン源が分解され、従って懸濁液が亜鉛、銅、およびモリブデン化合物を含んだ沈殿物を含有するような温度まで前記懸濁液を加熱し;
c) ステップ(b)によって得られた懸濁液を冷却し;
d) 沈殿物を懸濁液から分離し;
e) 前記沈殿物を乾燥させる;
各ステップからなる、炭化水素流の脱硫用の触媒製造方法。
【請求項2】
酸化亜鉛として計算した亜鉛源の比率が、いずれもその酸化物の状態として計算した熱分解可能な銅源、熱分解可能なモリブデン源、ならびに亜鉛源の総量に対して少なくとも80重量%となる請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱分解可能な銅源、熱分解可能なモリブデン源、ならびに固形の亜鉛源を含んだ水性の懸濁液が40重量%未満の固形物含有率を有してなる請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
熱分解可能な銅源および/または熱分解可能なモリブデン源が溶解された状態で水性の懸濁液中に存在してなる請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
固形の亜鉛源が酸化亜鉛または熱によって酸化亜鉛に分解可能な亜鉛化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
熱分解可能な銅源が銅テトラミン複合体である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
熱分解可能なモリブデン源がモリブデン酸アンモニウムである請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
水性の懸濁液のpH値は9より大きな値、特に9.5より大きな値に調節される請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
水性の懸濁液が炭酸アンモニウムあるいは炭酸水素アンモニウムを含む請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
混合物のpH値はアンモニアの添加によって調節される請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
熱分解のために水性の懸濁液が少なくとも90℃、特に少なくとも100℃の温度に加熱される請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
加熱のために水蒸気が水性の懸濁液を介して誘導される請求項11記載の方法。
【請求項13】
水性の懸濁液のアンモニウム含有率が1000ppm未満の数値まで低下するまで前記水性の懸濁液を介して水蒸気が誘導される請求項12記載の方法。
【請求項14】
水性の懸濁物は沈殿物の形成前に微細に粉砕される請求項1ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
粉砕は、水性の懸濁液中の粒子の平均粒子大D50が100μm未満、特に10μm未満、特に好適には2μm未満になるように実施される請求項14記載の方法。
【請求項16】
水性の懸濁液の粉砕は少なくとも1サイクル、好適には少なくとも5サイクル、特に好適には少なくとも10サイクルからなる請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
水性の懸濁液の粉砕は環状間隙型攪拌粉砕器内で実施してなる請求項14ないし16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
沈殿物は水性の懸濁液からの分離前に少なくとも12時間熟成される請求項1ないし17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
熟成は15ないし70℃の領域の温度、特に室温中で実施してなる請求項18記載の方法。
【請求項20】
沈殿物の分離および乾燥を噴霧乾燥によって実施してなる請求項1ないし19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
沈殿物を乾燥後に焼結してなる請求項1ないし20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
焼結は、200℃超、特に250℃超、特に好適には310ないし550℃の範囲の温度、かつ少なくとも1時間、特に少なくとも2時間、特に好適には2.5ないし8時間の持続時間で実施してなる請求項21記載の方法。
【請求項23】
混合物中の銅源、モリブデン源、および亜鉛源の量は、いずれも触媒の重量(900℃で強熱減量)に比較してまた金属の酸化物として計算して、0.1ないし20重量%の範囲の銅含有率と、0.1ないし20重量%の範囲のモリブデン含有率と、60ないし99.8重量%の範囲の亜鉛含有率を触媒が有するように選択してなる請求項1ないし22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
触媒の重量(900℃強熱減量)に比較して、0.1ないし20重量%の範囲のCuO含有率と、60ないし99.8重量%の範囲のZnOと、0.1ないし20重量%の範囲のMoO含有率を有し、BET法で測定して少なくとも30m/gの比表面積を備えてなる炭化水素流の脱硫用の触媒。
【請求項25】
BET法で測定して少なくとも40m/g、特に少なくとも50m/gの比表面積を有する請求項24記載の触媒。
【請求項26】
3.7ないし7nmの細孔半径領域において、Hg−注入によって測定して、少なくとも20mm/g、特に少なくとも40mm/g、特に好適には30ないし60mm/gの範囲の細孔容積を触媒が有する請求項24または25記載の触媒。
【請求項27】
触媒が0.5ないし50μmの範囲の平均直径を有する略球形の粒子から形成される請求項24ないし26のいずれかに記載の触媒。
【請求項28】
炭化水素流を脱硫するためのものである請求項24ないし27のいずれかに記載の触媒の適用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−528266(P2008−528266A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552594(P2007−552594)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000816
【国際公開番号】WO2006/082018
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(591056237)ジュート−ヒェミー アクチェンゲゼルシャフト (33)
【氏名又は名称原語表記】Sued−Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Lenbachplatz 6, D−80333 Muenchen,Germany
【Fターム(参考)】