説明

炭化水素液から超微細固体を回収する方法

超微細な粒子状固体材料を固体材料及び炭化水素液の懸濁液又はスラリーから分離回収する方法であって、炭化水素液の重質留分を有効量の沈殿因子又は凝集因子によって沈殿又は凝集させて、沈殿した重質留分が粒子状固体材料を取り囲むようにすることによって分離回収する方法。方法は、さらに、沈殿した重質留分をコークス化すること、及びコークス化生成物を超微細サイズに粉砕することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微細な水素化分解触媒固体を、当該固体を含む石油炭化水素液状スラリーから分離する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
触媒は精製及び化学処理産業において、長年の間、広く用いられてきた。現在、水素処理触媒及び水素化分解触媒(hydrotreating and hydrocracking catalysis)を含めた水素化処理触媒(hydroprocesing catalysis)が世界中の施設で広く用いられている。これらの水素化処理触媒は、典型的には、原油を精製品に変換する従来の(非触媒性の熱的な)方法と比べて、高い収率、より速い反応時間、及び改善された製品特性を実現する。
【0003】
今日工業的用途に典型的に使用されている水素化処理触媒は、「担持」触媒として分類される。これらの触媒担体は、一般にはSAPO又はゼオライトなどのモレキュラーシーブであり、しばしば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、クレイ、又はこれらのうちいくつかのハイブリッドなどの材料から構成されている。より高価な材料が実際の触媒活性の大半に寄与しており、担体に含浸されている。これらの触媒材料としては、典型的には、ニッケル、モリブデン、及びコバルトなどの金属が挙げられる。場合によっては、白金、パラジウム、及びタングステンを用いることがある。
【0004】
最近、新世代の水素化処理触媒が出現した。これらの触媒は担持材料を必要としない。これらの触媒は、代わりに、硫化モリブデン又は硫化ニッケルなどのミクロンサイズの非担持触媒粒子を含む。これらの触媒は、増加した表面積などの因子及び本明細書では議論しない他の要因により、従来の担持触媒に比べて何倍もより高い活性を有する。従来の担持触媒と比べて、性能は、変換操作の間に大幅に改善される。これらの高活性な非担持触媒が現在使用されている1つの領域は、減圧残油水素化分解(vacuum residuum hydrocacking)である。残油水素化分解業で利用されている方法において、これらの非担持触媒は、しばしば、大量の金属(具体的にはバナジウム)及びコークス沈着に悩まされ、新たに作った触媒の必要性を増大させる。
【0005】
担持及び非担持触媒の両者の1つの欠点は費用がかかることである。典型的には、高価な貴金属触媒の置換費用は、精製プラント又は化学プラントにおける主な作業支出項目である。したがって、有価金属を再利用することができるように、使用済み触媒、具体的には使用済み水素化処理触媒を再生するための市場が出現した。種々な金属の現在の高価格がこの必要性をさらに駆り立てた。いくつかの使用済み触媒再生業者が現在世界中の種々な場所で事業を行っている。しかし、あいにく、これらの焙焼(又は高温冶金)をベースにした再生機は、金属を担持触媒から回収するように設計されている。
【0006】
この新世代の非担持触媒で用いられる有価金属、具体的にはモリブデン及びニッケルが高濃度であることから、油不含の使用済み触媒の原料に頼る、触媒回収において最大効率の経済的な非担持触媒金属回収方法の必要性が確認された。同時係属特許出願第11/192,522号では、使用済みの非担持触媒から金属を除去する新規の方法が開示されている。この方法では、使用済みの非担持触媒が浸出反応に供される。バナジウムを沈殿物として除去しながら、モリブデン及びニッケルを含む溶液を、これらの金属を除去するためのさらなる抽出ステップに供する。この方法では、金属回収及び触媒再生のための出発物質として油を含まない回収触媒を提供することが重要である。本発明は、この要求を取り扱っており、使用済み触媒から金属を回収するための予備ステップとして、すべての炭化水素液材料を使用済み水素化分解触媒から除去するための新規且つ経済的な方法を提供する。したがって、本発明は、概して、超微細な粒子状固体材料を当該固体材料及び炭化水素液の懸濁液から分離回収する新規方法であって、(i)炭化水素液の重質留分を沈殿又は凝集させて、沈殿した重質留分が粒子状固体材料を取り囲むようにすること、(ii)重質留分を軽質留分から遠心分離によって分離すること、(iii)沈殿した複合物をコークス化して本質的にすべての液体炭化水素材料を固体材料から除去して、金属回収及び触媒再生プロセスに適切な乾燥固体材料を提供することを含む方法を対象とする。
【0007】
微細な触媒固体を水素化転化プロセスから得られる炭化水素液から分離するための種々な方法が当該技術分野で知られている。例えば、Kitamuraらの米国特許第5,008,001号には、触媒固体を重質油から分離する方法が開示されており、一実施形態において、油及び触媒のスラリーを遠心分離すること、並びに、得られた触媒ケーキを、残存する重質油のコークス化を防止又は最小化するように制限した温度及び/又は保持時間で加熱乾燥することからなる。別の例において、Beardenらの米国特許第6,511,937号には、脱アスファルト化油及び溶媒アスファルト化ロック(solvent deasphalted rock)をスラリー水素化処理システムから回収し、脱アスファルト化ロックを約1200゜Fの非常に高い温度で焼成して灰触媒前駆体(ash catalyst precursor)を生成し、スラリー水素化処理システムに戻して再利用される方法が開示されている。さらに別の例において、Spenaらの米国特許第6,974,824号には、触媒及び残存炭化水素を含むスラリーから触媒を回収するシステム並びに方法であって、好ましくはコークス化を防止するように設計された加熱器においてスラリーを加熱して炭化水素を蒸発させることにより回収するシステム並びに方法が開示されている。最後の例において、Martiniの米国特許第4,732,664号には、微細に分割された固体粒子を水素化処理液から分離する方法であって、アスファルテンを水素化処理液から沈殿させることにより、固体粒子の凝集を促進するプロセス、及び凝集した粒子を液体から遠心分離によって除去するプロセスを含む方法が開示されている。遠心分離機のアンダーフローから得られる固体生成物の乾燥は、残存する炭化水素液を除去するための方法として記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、触媒粒子をその炭化水素液スラリーから分離する上記で開示の方法を改良することであり、本発明を以下にさらに詳細に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、概して、超微細な粒子状固体材料を当該固体材料及び炭化水素液の懸濁液から分離回収する方法であって、炭化水素液の重質留分を有効量の沈殿剤又は凝集剤によって沈殿又は凝集させて、沈殿した重質留分が粒子状固体材料を取り囲むようにすることによって分離回収する方法を対象とする。次いで、取り囲まれた粒子状固体材料を残存する炭化水素液の軽質留分及び沈殿因子から分離し、高温で乾燥してコークスを形成し、コークス化された重質留分から粒子状固体材料を分離して新しい触媒合成のための有価金属(valuable metals)を回収するさらなる処理に備える。
【0010】
より具体的には、限定されないが、本発明は、使用済み又は部分的に使用済みのミクロン又はサブミクロンサイズの触媒を含む超微細な粒子状固体材料を、水素化処理又は水素化分解反応器からブリードスラリーとして取り出される炭化水素系油から分離するために有用な方法を対象とする。本発明の方法は、触媒から金属を回収する方法に対しての予備ステップであり、液体炭化水素による汚染がないコークス化触媒固体を提供するという点において従来の油/固体分離方法に対し有利であり、有価金属を回収して新鮮な触媒を合成する方法の効能を改善する。
【0011】
したがって、本発明は、固体材料を炭化水素液から分離する方法であって:
a)炭化水素液及び固体材料を含むブリードスラリーを得るステップ;
b)ブリードスラリーを冷却するステップ;
c)ブリードスラリーを凝集剤と混合して、炭化水素液、第1溶媒、及び固体材料含有凝集物を含む第1混合物を形成するステップ;
d)第1遠心分離機において第1混合物を分離して、低濃度の凝集物を含む第2混合物、及び高濃度の凝集物を含む第3混合物を形成するステップ;
e)少なくとも1つの第2遠心分離機において第2混合物を分離して、第1溶媒及び炭化水素液を含む第4混合物並びに高濃度の凝集物を含む第5混合物を形成するステップ;
f)供給槽において第3混合物及び第5混合物を合わせて、高濃度の凝集物、低濃度の第1溶媒及び低濃度の炭化水素液を含む最終混合物を形成するステップ;
g)最終混合物を乾燥装置において乾燥して、第1溶媒、炭化水素液の軽質留分及び混入量(entrained amount)の固体材料を含む炭化水素蒸気混合物、並びに固体材料及び炭化水素液の重質留分を含むコークス化材料を形成するステップ;
h)炭化水素蒸気混合物を乾燥装置から回収して、同伴量の固体材料、溶媒及び炭化水素液の軽質留分を、1つ又は複数のコンデンサ及び1つ又は複数の油回収カラムによって分離するステップ;
i)コークス化材料を乾燥装置から回収するステップ;
を含む方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本明細書に開示する、超微細な粒子状固体材料を炭化水素液から分離する方法を実施するためのシステムの好ましい実施形態の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
金属回収及び触媒再生/合成に対しての準備ステップとして、完全に使用済みの触媒又は活性触媒と使用済み触媒との混合物であってよい触媒固体を、水素化分解反応器から流出されるスラリーから経済的に回収することができる新規方法を見出した。特許請求の範囲の方法は、重質炭化水素分を触媒固体と一緒に溶媒などの凝集剤(flocculating agent)(凝集剤(flocculant)とも称する)を用いてブリードスラリーから沈殿させ、触媒固体を取り囲む重質炭化水素凝集物(凝集物とも称する)を形成するステップ、沈殿した重質炭化水素/触媒固体凝集物を炭化水素液から分離するステップ、並びに重質炭化水素/触媒固体複合体をコークス化条件下で乾燥し、炭化水素液不含であって金属回収及び触媒再生操作ために容易に調製され得る固体材料を提供するステップを含む。
【0014】
図1を参照すると、炭化水素液及び使用済み触媒を含むブリードスラリーがライン10によって熱交換器20に、次いでライン15によって少なくとも1つの混合槽30、31に供給され、ここで、ブリードスラリーが、混合槽30に供給される凝集因子、例えば、アスファルテン沈殿に適切な溶媒と混合される。新たな溶媒がライン11を介して混合槽30に供給され、再利用される溶媒がライン201を介して混合槽30に供給される。適切なアスファルテン沈殿溶媒として、限定されないが、ナフサ、重質ナフサ、軽質ナフサ、ヘキサン、ヘプタン、及びShelSol(商標)100シリーズの溶媒などの市販の溶媒が挙げられる。ブリードスラリーは、5%〜40%の触媒固体、好ましくは15%〜30%の触媒固体、最も好ましくは20%〜30%の触媒固体の範囲の質量濃度の触媒固体を含む。触媒固体の大部分が使用済み触媒であり、小部分が活性化触媒であろうが、好ましくはブリードスラリー中のすべての触媒が使用済み触媒であろう。さらに、ブリードスラリーにおいて回収されるすべての触媒固体が非担持触媒である。ブリードスラリーに含まれる触媒固体の粒径は、100μm以下、好ましくは約40μm〜80μm、最も好ましくは0.01μm〜40μmであろう。ブリードスラリーが少なくとも2.5重量%のアスファルテンを含むことは本発明の重要な態様である。この量未満のアスファルテンを含む任意のブリードスラリーは、任意のアスファルテンリッチな添加物、例えば減圧残油(vacuum residuum)、重質原油(heavy crude oil)、難溶性重質留分(refractory heavy distillates)、流動式接触分解(FCC)法からのデカンテッド油、及び潤滑油と混合することができる。ブリードスラリーは、スラリーを約65℃に冷却するのに十分な時間の間、冷却装置20に保持される。次いで冷却されたブリードスラリーはライン15を介して1つ又は複数の混合槽30、31に供給され、選択されたアスファルテン沈殿溶媒と、約3:1〜1:3、好ましくは2:1〜1:2、最も好ましくは1:1の溶媒対スラリーの質量比で少なくとも20分間混合される。使用のための最も効率的な溶媒対質量比は当業者によって容易に決定することができ、例えば、スラリーのアスファルテン含有量、使用される粒子状溶媒及び所望される固体回収率を含めた種々な要因によるであろう。ブリードスラリー/溶媒混合物の温度は、実質的なアスファルテン沈殿を促進するのに十分な時間の間、約65℃に維持されるが、その温度は約55℃〜約75℃の範囲であってよい。混合物の温度は、ライン70、ライン71、冷却装置50、加熱装置40、及びライン60を含む温度維持ループで混合物を循環させることによって維持される。混合物の十分なアスファルテン沈殿を促進するのに必要な時間は、混合物のアスファルテン含有量、選択される溶媒及び混合物の温度によって変動するであろうが、通常は、15分〜1時間、好ましくは約15分〜30分、最も好ましくは少なくとも約20分の範囲内であろう。
【0015】
混合物中のアスファルテンの大部分又はすべての沈殿が完了すると、混合物はライン72を介して約2000〜3500G(ここで、Gは重力加速度=9.8m/secである)、好ましくは約2500G〜3000Gで操作される第1段階の遠心分離機75に供給されて2つの相:相1(本明細書では用語「オーバーフロー」といい、炭化水素液及び遠心分離機に供給される元の固体の10重量%〜30重量%を含む)及び相2(本明細書では用語「アンダーフロー」といい、主として(遠心分離機に供給される固体の全体量の約70重量%〜90重量%の)触媒固体を取り囲む沈殿したアスファルテン及び約40重量%の炭化水素液及び溶媒を含む)に分離される。オーバーフロー相は、ライン80を介して加熱された混合槽110に供給され、固体含有量が約5%を超える場合には混合槽において追加の溶媒によって希釈され、次いでライン111を介して典型的には約9000Gで操作される第2遠心分離機120に供給される。第2遠心分離機からのオーバーフローはライン121によって常套の溶媒回収コンデンサ130及び油回収コンデンサ160に供給される。固体回収段階で回収されるいくらかの固体はライン131及びポンプ191によって供給されて、ライン201を介して初めのブリードスラリー混合槽30、31に戻るか、又は場合によってはライン202を介して第2段階の混合槽110に戻る。回収された溶媒はライン201を介して混合槽30へ再循環される。第2遠心分離機からのアンダーフローはライン122を介して供給され、供給槽100において第1段階の遠心分離機からのアンダーフローと合わされる。
【0016】
第1段階の遠心分離機からのアンダーフローはライン90を介して供給槽100に供給され、第2段階の遠心分離機120からのアンダーフローと合わされる。第1段階の遠心分離機75及び第2段階の遠心分離機120からの組合アンダーフローは供給槽100で混合されて組合スラリー混合物を形成し、次いでライン210を介して乾燥装置220に供給される。乾燥装置220は当業者に公知の任意の装置であってよく、炭化水素液/固体スラリーに含まれる炭化水素液を蒸発させて炭化水素液に含まれる任意の重質炭化水素分をコークス化するのに適切であればよい。そのような乾燥装置は、好ましくは、間接燃焼窯、間接燃焼回転窯、間接燃焼乾燥機、間接燃焼回転乾燥機、真空乾燥機、フレキシコーカー、又はこれらと実質的に同じ機能を有する任意の乾燥装置である。本発明の目的に最も好ましい乾燥装置は、間接燃焼回転窯である。合せたスラリー混合物は乾燥装置220において約350℃〜約550℃の間の適切な焼成温度に加熱され、この温度はコークス化固体材料及び炭化水素ガス流を生成するのに十分な滞留時間の間維持される。乾燥装置内の雰囲気は不活性であり、好ましくは酸素不含の窒素雰囲気であるが、任意の他の不活性な非酸化雰囲気又は真空下であってもよい。乾燥装置からの気体は回収されてライン221を介して油回収コンデンサ160に供給される。窯からの気体に混入される(entrained)いくらかの固体が油回収コンデンサ160で回収されて、ライン200及び201を介して又は場合によりライン202を介して、ブリードスラリー混合槽30、31又は混合槽110へ再循環される。コークス化固体材料は適切な手段222、例えば、オーガー(auger)、スクリュコンベヤ、ロックホッパ(lockhopper)、又は重力流によって水急冷槽又は噴霧槽230に供給され、コークス化粒子状物の塊に熱的に衝撃を与えて崩壊させ、水性コークス化固体スラリーを形成するのに十分な温度まで材料を冷却する。水急冷槽からの熱蒸気は熱交換器235を通ってライン231を介して供給されてさらに気体処理される。水性コークス化固体スラリーはライン240を介して粉砕ミル、好ましくは縦型粉砕ミル又は摩耗ミル290に供給され、そこで、例えば同時係属出願第11/192,522号に開示されるさらなる金属回収プロセスに備えて、約10μm〜60μm、好ましくは約10μm〜40μm、最も好ましくは約15μm〜20μmの間のサイズまで小さくされる。コークス化触媒を急冷及び粉砕するプロセスにおいて、アンモニアの添加などの予備金属回収ステップを実施して金属浸出及びpH制御を促進してよい。場合により、コークス化固体材料の水性スラリーが必要でないとき、コークス化固体材料は、結果として乾燥コークス化固体生成物を得る外的な冷却システムにおいて固体によって冷却されてよい。
【0017】
超微細な触媒材料を炭化水素液から分離する上記の方法は、触媒材料の回収及び再利用の利益を享受するであろう任意のスラリー水素化処理システムとの関連で有用である。特に、この方法は、以下の米国特許(各々の開示は参照により本明細書に組み込まれる)第4,557,821号;第4,710,486号;第4,762,812号;第4,824,821号;第4,857,496号;第4,970,190号;第5,094,991号;第5,162,282号;第5,164,075号;第5,178,749号;第5,294,329号;第5,298,152号及び第5,484,755号に開示されているスラリー水素化処理システム及び触媒との関連で有用である。以下の実施例は、使用済み触媒固体を、これを含む炭化水素液スラリーから除去する一方法を説明するが、本発明の方法が実施され得る多くの手段及び方法を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0018】
本発明を実証するために、種々な炭化水素性流体の実験室でのベンチスケール試験を実施して、ヘプタン又はナフサなどの凝集剤に晒したとき、アスファルテンの成功裏な沈殿又は凝集(凝集物)を生じさせるのに望ましいアスファルテンの最小含有量を決定した。これらの試験は、アスファルテン含有量の最小閾値が2.5重量%であることが炭化水素性流体に懸濁するミクロンサイズの粒子状物、例えばスラリー触媒の成功裏な凝集に好ましいことを示した。また、アルファルテン含有量が不十分な油に本実施例におけるように減圧残油などのアスファルテンリッチな材料又は他のアスファルテン含有重質油を添加することによって、アルファルテン含有量が不十分な油をアスファルテンリッチにすることができることも見出した。したがって、約20重量%の触媒固体を含み、且つ少なくとも2.5重量%(熱ヘプタンアスファルテン試験(Hot Heptane Asphaltene Test)(Test Code 10810)によって測定)のオイルスラリーのアスファルテン含有量を有する炭化水素性油スラリーを、アスファルテン沈殿を促進することが公知の溶媒凝集剤と1:1の質量比で20分間、加熱された混合槽において混合した。2つの異なる溶媒:ヘプタン溶媒及び35%のパラフィン系化合物を含む重質ナフサ溶媒を用いて試験を実施した。混合物の温度を30分間65℃に維持してアスファルテン沈殿に適当な時間を確保した。この方法は、アスファルテン及び触媒固体を含むアスファルテン凝集物の沈殿を成功裏にもたらした。沈殿したアスファルテンと一緒に固体材料が凝集していることを確認するために、凝集物のサンプルを採取して顕微鏡検査を行い、検査は触媒固体が沈殿したアスファルテン凝集物に取り囲まれていることを示した。
【0019】
次のステップにおいて、油、溶媒、及び凝集剤の混合物を、2500Gから3500G(ここで、Gは重力加速度=9.8m/secである)で操作する第1段階の水平型デカント遠心分離機で遠心分離した。遠心分離機において、沈殿したアスファルテン及びいくらかの液体に取り囲まれた触媒から成る固体を、遠心分離したアンダーフローにおけるペーストとして窯供給槽に排出し、一方で大部分の液体を遠心分離したオーバーフローにおいて排出した。オーバーフロー液体からのサンプルの容量分析は、遠心分離機に投入された元の固体含有量(触媒及び沈殿したアスファルテン)の10から15%がオーバーフロー液体に残存することを示した。これらのオーバーフロー液体を別個の第2の加熱された槽に集め、65℃の温度に維持し、固体含有量が約5%の重量濃度を超えているときには追加の凝集剤溶媒で希釈した。オーバーフロー液体のサンプルを得て試験し、固体濃度を測定した。第2の加熱された槽で所望の程度のアスファルテン沈殿/凝集を達成するのに十分な時間(少なくとも30分)保持した後、第2段階の遠心分離機(本実施例においては約9000Gで操作する縦型機械)にオーバーフロー液体を排出し、約10重量%から20重量%の固体材料濃度を有するアンダーフロースラリー及び約2重量%未満の固体材料を含むオーバーフロー炭化水素性液体混合物を生成した。
【0020】
次いで、第2段階の遠心分離機からのオーバーフロー液体を常套の実験室方法によって処理し、溶媒、油、及び残存する固体成分を分離した。工業的実施においては、本発明の本態様での溶媒、油、及び固体の回収が、当該分野で公知の常套のコンデンサ及びストリッピング手段によるであろうことが予想される。
【0021】
実際の工業的実施では、図1に示すように、第2段階の遠心分離機からのアンダーフロースラリーを第1段階の遠心分離機からのアンダーフロースラリーと窯供給槽において混合するであろう。しかしながら、本実施例では、本発明の有用性を確立するのに重要でないという理由から、第1段階のアンダーフロースラリー及び第2段階のアンダーフロースラリーを合わせるステップを削除した。したがって、第1段階の遠心分離機からのスラリー混合物のみを乾燥装置(本実施例では間接燃焼回転窯)に投入し、次いで、窯において酸素不含雰囲気中、窒素雰囲気(nitrogen blanket)下で約350℃から550℃の間の温度にて約45分の最小滞留時間焼成して乾燥した。この高温方法は、コークス化固体材料及び炭化水素蒸気流の形成をもたらす、アスファルテンの分画を引き起こした。
【0022】
焼成方法では、いくらかの溶媒、炭化水素液の軽質留分及び分画したアスファルテンの軽質分(light ends)が蒸発して触媒から分離し、微細な粉末に粉砕された同伴固体材料も含む蒸気混合物を形成する。この溶媒、軽質炭化水素分及び粉砕された同伴固体の蒸気混合物を窯から溶媒及び固体回収用コンデンサの常套システムに通す。
【0023】
分画したアスファルテンの残存部及び炭化水素液の重質留分は焼成されてコークスに熱的に変換され、本実施例において、コークス化触媒を生成する超微細な固体材料を取り囲む。
【0024】
コークス化触媒を約350℃の温度で窯から除去し、本実施例においては、貯蔵ドラムに堆積して金属回収方法のためのさらなる処理及び準備のために保存する前に、外的に水で冷やされた回転冷却器を通した。実際の工業的実施においては、コークス化触媒を窯から除去し、次いで直ちに水急冷槽内に排出してコークス化固体材料の塊を壊し水性スラリーを作製するであろうことが予想される。次いで、水性スラリーを縦型粉砕機に移し、固体分約50重量%に希釈し、最終サイズ約16μmに粉砕するであろう。本実施例において窯から除去されたコークス化材料は非常に微細であり、浸出目的で最終サイズ約16μmに粉砕されるのに限定的な力を必要とした。コークス化材料の粉砕をセラミック粉砕ボールの存在下、摩耗粉砕ミルにおいて実施し、ミル内に水を添加して約40から55%の範囲のコークス化固体重量濃度を得た。コークス化固体材料対セラミック粉砕ボールの質量比は約1:1であった。本実施例において、最終生成物は、水、触媒及び約16μmの粒径を有するコークスのスラリーであった。さらに、粉砕処理の間に実施された、有効量のアンモニアの添加を含む部分的な浸出試験は、この段階での金属回収の開始が実現可能であり得ることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状固体材料を炭化水素液から分離する方法であって、
a)該炭化水素液及び該固体材料を含むブリードスラリーを得るステップと、
b)該ブリードスラリーを冷却するステップと、
c)該ブリードスラリーを凝集剤(flocculant)に混合して、該炭化水素液、第1溶媒、及び固体材料含有凝集物(a flocculent containing the solid material)を含む第1混合物を形成するステップと、
d)第1遠心分離機において該第1混合物を分離して、低濃度の該凝集物を含む第2混合物、及び高濃度の該凝集物を含む第3混合物を形成するステップと、
e)少なくとも1つの第2遠心分離機において該第2混合物を分離して、該第1溶媒及び該炭化水素液を含む第4混合物並びに高濃度の該凝集物を含む第5混合物を形成するステップと、
f)供給槽において該第3混合物及び該第5混合物を合わせて、高濃度の該凝集物、低濃度の該第1溶媒及び低濃度の該炭化水素液を含む最終混合物を形成するステップと、
g)該最終混合物を乾燥装置において乾燥して、該溶媒、該炭化水素液の軽質留分及び混入量(entrained amounts)の該固体材料を含む炭化水素蒸気混合物、並びに該固体材料及び該炭化水素液の重質留分を含むコークス化材料を形成するステップと、
h)該炭化水素蒸気混合物を該乾燥装置から回収して、混入量の該固体材料、該溶媒及び該炭化水素液の軽質留分を、1つ又は複数のコンデンサ及び1つ又は複数の油回収カラムによって分離するステップと、
i)該コークス化材料を該乾燥装置から回収するステップと、
を含む方法
【請求項2】
前記固体材料が触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、大量の使用済み触媒及び小量の活性触媒を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1溶媒がアスファルテン凝集剤であり、ナフサ、重質ナフサ、軽質ナフサ、ヘキサン及びヘプタンから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1溶媒が、アスファルテンの沈殿を促進するように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップc)が、さらに、ブリードスラリーを1つ又は複数の混合槽に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数の混合槽が、ブリードスラリーの温度を制御する手段に接続されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1遠心分離機が水平型デカント遠心分離機であり、第2遠心分離機が縦型遠心分離機である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)の前記凝集物がアスファルテンである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)が、さらに、前記ブリードスラリー及び前記第1溶媒を、前記凝集物を形成させるのに十分な時間の間混合することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記時間が約15分から1時間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記時間が約30分から1時間である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記時間が約30分である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ステップc)の前記第1混合物が、約3:1から約1:3の溶媒対ブリードスラリーの質量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)の前記第1混合物が、約2:1から約1:2の溶媒対ブリードスラリーの質量比を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ブリードスラリー対溶媒の質量比が約1:1である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1混合物を約60℃から70℃の間の温度に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第1混合物を約65℃の温度に維持する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ステップg)の前記乾燥装置が、間接燃焼窯、及び間接燃焼回転窯、間接燃焼乾燥機、間接燃焼回転乾燥機、真空乾燥機、及び重質油熱分解装置(flexicoker)から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
さらに、ステップh)からの前記固体材料をステップa)における前記ブリードスラリーに添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ステップi)が、さらに、前記コークス化固体材料を水急冷槽において急冷して、コークス化固体材料の水性スラリーを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
さらに、前記コークス化材料の前記水性スラリーを適切な粉砕機において粉砕し、前記コークス化固体材料の粒子サイズを約10から60μmの間に減少させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記コークス化固体材料の粒子サイズを約15から40μmの間に減少させる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記コークス化固体材料の粒子サイズを約15から20μmに減少させる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ステップg)が、さらに、前記最終混合物を、不活性雰囲気及び真空下雰囲気から成る群から選択される雰囲気において焼成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記不活性雰囲気が窒素雰囲気である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
さらに、前記最終混合物を窯において約350℃から550℃の間の温度で焼成することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ブリードスラリーが少なくとも2.5重量%のアスファルテンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
ステップc)が、さらに、前記ブリードスラリーの前記アスファルテン含有量を少なくとも2.5重量%に増加させるのに十分な量で重質炭化水素液を前記ブリードスラリーに添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記重質炭化水素液が、減圧残油(vacuum residuum)、重質原油(heavy crude oil)、難溶性重質留分(refractory heavy distillates)、FCCデカンテッド油、及び潤滑油から成る群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記触媒が、第VIB族金属硫化物スラリー触媒、及び第VIII族金属によって活性が高められた第VIB族金属硫化物スラリー触媒から成る群から選択されるスラリー触媒である、請求項2に記載の方法。
【請求項32】
ステップa)が、さらに、前記ブリードスラリーを反応器から得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記反応器が、水素化分解反応器、水素化処理反応器、沸騰床反応器、気泡塔反応器、及びスラリー反応器から成る群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
さらに、有効量の金属浸出化学物質をコークス化固体材料の水性スラリーに添加すること、及びそこでの温度を約98℃に維持することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
前記金属浸出化学物質がアンモニアである、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−514557(P2010−514557A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544168(P2009−544168)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/087518
【国際公開番号】WO2008/082911
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】