説明

炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法

【課題】炭化水素に対して感度が大きく、選択性が高く、小型化が可能で、耐熱性及び耐久性が高い炭化水素濃度測定用センサ素子、炭化水素濃度測定装置、および炭化水素濃度測定方法を提供する。
【解決手段】イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板12と、固体電解質基板12上に設けられたZnO含有複酸化物からなる検知極18と、固体電解質基板12上に設けられたPt参照極15と、固体電解質基板12の温度調節をする温度調節部と、を含む炭化水素濃度計測用センサ素子11である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検ガス中の炭化水素以外のガスに対してほとんど応答を示さず、炭化水素にはほぼ炭素数に応じて応答する炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法に関する。本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法は、例えば内燃機関の排ガス中の炭化水素濃度を測定するために用いられ、特に、炭素数が2以上の炭化水素ガス濃度を測定する炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法として使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の燃焼装置から排出される有害ガスは、燃料の改良や触媒等の後処理装置の開発により、その濃度は大幅に低減しているが、未だ人体や環境に大きな影響を及ぼしている。その中でも自動車排ガス中や産業プロセス中から発生する炭化水素は、光化学スモッグやグリーンハウス効果の原因となる典型的な大気汚染物質とされている。この炭化水素を系外に排出するのを最小限に制御するために小型で安価な高性能炭化水素センサの開発が必須とされている。また、自動車排ガス制御・監視用に使用される、より高性能な車載式故障診断システム(OBDシステム)の開発が進められている。
【0003】
このような炭化水素センサの候補として、固体電解質を主構成材料とした電気化学式センサが広く研究されており、これまでに半導体型センサや電流検出型センサ、複素インピーダンス応答型センサ、混成電位型センサがいくつか報告されている。その中の多くは、炭化水素の中でもプロピレンやメタンなどを単独で検知することを報告している。
【0004】
例えば、金属酸化物半導体に対する被測定ガス中の可燃ガス成分の吸着に基づく電気抵抗の変化を検出して、この電気抵抗変化により、可燃ガス成分の濃度を測定する金属酸化物半導体型ガスセンサも、各種検討されているが、このタイプのガスセンサにあっても、その測定値が、酸素や湿度により影響を受けたり、炭化水素以外の可燃ガス成分の影響を受け、炭化水素のみを選択的に検出し得るものではなかった。
【0005】
通常、自動車排ガス中や産業プロセス中から発生する有害ガスは、ある炭化水素のみで構成されていることは少なく、様々な炭素数をもった炭化水素で構成されていることが多い。このため、複数の炭化水素が共存するガスの濃度を検知することが必要となる。検知極にある種の酸化物を用いた素子が炭化水素以外のガスに対してほとんど応答を示さず、炭化水素にはほぼ炭素数に応じて応答する炭化水素濃度測定用センサ素子が必要とされていた。
【0006】
また、米国特許第4158166号明細書には、酸素イオン伝導性固体電解質と一対の電極とを含んで構成される電気化学的酸素ポンプセルを用いて、被測定ガス中の可燃ガス成分を燃焼せしめ、その際の該ポンプセルに流れる電流を検出して、可燃ガス成分濃度を測定するセンサが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4158166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の可燃ガス成分測定センサは、酸素の存在に大きく影響されるものであって、そこで対象とされる可燃性ガス雰囲気が、可燃物又は燃料成分が酸素よりも多い雰囲気を意味するものであるとされているように、酸素が可燃ガス成分と同程度の量か多く被測定ガス中に存在すると、可燃ガス成分は、ポンプセルのポンピングによる酸素供給がなくても、被測定ガス中の酸素と酸化反応を惹起し、このため、ポンプ電流値が大きく変化し、可燃ガス成分の正確な測定が困難であった。
【0009】
また、炭化水素濃度測定用センサ素子は、自動車排ガス触媒のオンボード監視システムにおいて必要とされてきている。この場合、高速応答、小型、安価であることが求められ、さらに、厳しい環境下で高温でも作動する性能が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、炭素数が2以上の炭化水素ガスに対して感度が大きく、選択性が高く、小型化が可能な炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法を提供することを目的とする。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法が提供される。
【0012】
[1]イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板と、前記固体電解質基板上に設けられたZnO含有複酸化物からなる検知極と、前記固体電解質基板上に設けられたPt参照極と、前記固体電解質基板の温度調節をする温度調節部と、を含み、CHには実質的に応答しないことを特徴とする、炭素数が2以上の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【0013】
[2]前記ZnO含有複酸化物がZnCrである前記[1]に記載の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【0014】
[3]前記固体電解質が安定化剤としてイットリアを3〜15mol%添加したジルコニア固体電解質である前記[1]または[2]に記載の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【0015】
[4]イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板と、前記固体電解質基板上に設けられたZnO含有複酸化物からなる検知極と、前記固体電解質基板上に設けられたPt参照極と、前記固体電解質基板の温度調節をする温度調節部と、を含むセンサ素子を用い、前記検知極及び前記Pt参照極が設けられた区画に被検ガスを導入し、前記温度調節部を用いて前記固体電解質基板の温度を550〜650℃の範囲となるように制御し、前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差を測定し、前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差と、あらかじめ蓄積された前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差から得られた検量線データと、を比較することにより前記被検ガス中の炭化水素濃度を測定する炭化水素濃度の測定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭化水素ガスに対して感度が大きく、選択性が高く、小型化が可能な炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の表側の概観図である。
【図1B】本発明の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の裏側の概観図である。
【図2A】図1に示す本発明の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の模式的なX−X’断面図である。
【図2B】図1に示す本発明の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の模式的なY−Y’断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の模式的側面図である。
【図4】図3に示す本発明の他の実施の形態の炭化水素濃度測定用センサ素子の模式的断面図である。
【図5】各実施例および各比較例の炭化水素ガス測定用センサ素子における複数のガスに対する選択性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における複数のガスに対する起電力応答曲線を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子におけるCの濃度変化に対する応答特性を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における種々の濃度のCに対する応答特性を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における複数のガスに対する温度による応答特性を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子におけるCに対する酸素濃度による応答特性を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子におけるCに対する水蒸気濃度による応答特性を示すグラフである。
【図12】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子におけるCに対する二酸化炭素濃度による応答特性を示すグラフである。
【図13】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における種々の炭素数に対する応答特性を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における炭化水素の炭素数に対する応答特性を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態の炭化水素ガス測定用センサ素子における種々の炭化水素のトータル炭素水素濃度に対する応答特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子の基本的な構成の一例を図1A、1Bおよび図2A、2Bに示す。図2Aは図1Aの炭化水素濃度測定用センサ素子11のX−X’断面図を示す。図2Bは図1Aの炭化水素濃度測定用センサ素子11のY−Y’断面図を示す。本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11は、図1A、1Bおよび図2A、2Bに示すように、イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板12と、固体電解質基板12上に設けられたZnO含有複酸化物13からなる検知極18と、固体電解質基板12上に設けられたPt参照極15(参照極19)と、固体電解質基板の温度調節をする温度調節部43と、を含むように構成される。
【0020】
また、本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11においては、図2Aに示すように、検知極18は、Pt検知極リード17により電気的に接続したZnO含有複酸化物13と、を含むように構成することが好ましい。
【0021】
本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11においては、検知極18を構成するZnO含有複酸化物13は、ZnCrであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11においては、固体電解質基板12は安定化剤としてイットリアを3〜15mol%添加したジルコニアからなることが好ましい。
【0023】
また、本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11においては、固体電解質基板12の形状は問わず、その表面に検知極18と、参照極19とが形成され、検知極18と、参照極19とを被検ガス(排ガス)に曝して用いられることが好ましい。
【0024】
また、本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11を用いて炭化水素濃度測定装置(図示しない)を構成することができる。この場合、被検ガスを素子部分に導入する検知区画(図示しない)と、その検知区画に設けられた上述の本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子11と、検知極18とPt参照極19との電極間の起電力差と、あらかじめ蓄積された検量線データとを比較することにより被検ガス中の炭化水素濃度を測定する演算部と、を含む炭化水素濃度測定装置を構成することができる。
【0025】
上述した本発明の炭化水素濃度センサ素子11を用いて炭化水素濃度を測定する方法においては、炭化水素濃度センサ素子11が設けられた区画(検知区画)に被検ガスを導入し、温度調節部43を用いて固体電解質基板12の温度を550〜650℃の範囲となるように制御し、検知極18とPt参照極19との電極間の起電力差を測定し、検知極18とPt参照極19との電極間の起電力差と、あらかじめ蓄積された検知極18とPt参照極19との電極間の起電力差から得られた検量線データとを比較することにより被検ガス中の炭化水素濃度を測定することができる。
【0026】
本発明の炭化水素ガスセンサ素子について推定されるメカニズムを以下に記す。(1)参照極(Pt参照極)中ではCO、H、CH以外の炭化水素ガスも酸化し、3相界面では平衡電位を示す。CHは3相界面においても反応せず、電位に影響しない。
【0027】
(2)従って、CO、H、CH以外の炭化水素の燃焼に対して十分高い酸素濃度ならば、参照極ではほぼ元の酸素濃度に対応する電位を示す。
【0028】
(3)検知極(ZnO含有複酸化物の層)ではCO、Hは酸化するが、その他の炭化水素ガスは酸化しない。その3相界面では酸素濃度に対応する電位と炭化水素の燃焼との混成電位を示す(推定)。
【0029】
(4)従って、CO、H、CH以外の炭化水素の燃焼に対して十分高い酸素濃度ならば、参照極ではほぼ元の酸素濃度に対応する電位と、CH以外の炭化水素ガスの燃焼との混成電位を示す(推定)。
【0030】
(5)検知極および参照極の電位差はCH以外の炭化水素ガスの濃度に従う。
【0031】
(6)後述する実験結果から、酸素濃度に依存しない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
本発明の炭化水素濃度測定用センサ素子の基本的な構成として平板状のセンサ素子の一例を図1A、1Bおよび図2A、2Bに示す。図2Aは図1の炭化水素濃度測定用センサ素子11のX−X’断面図を示す。図2Bは図1の炭化水素濃度測定用センサ素子11のY−Y’断面図を示す。本発明の実施形態の炭化水素濃度測定用センサ素子11は、安定化剤としてイットリアを8mol%添加したジルコニアからなり、寸法が縦50mm×横10mm×厚さ5mmである固体電解質基板12の上に、ZnO含有複酸化物13で構成される検知極18とPt参照極15(参照極19)を設け、固体電解質基板12内部に温度調節をするための温度調節部43を形成した。温度調節部43は、図1Bに示すように、ヒーター46およびヒーターリード45とで構成した。
【0034】
具体的にはヒーター46を埋め込んだ固体電解質基板12の表面に、Ptペーストを検知極リード17、参照極リード41及び参照極19、として塗布し、さらに検知極18用のZnO複酸化物粉末を塗布し、温度1100℃大気圧下で2時間焼成して得られた。
【0035】
本発明の実施の形態として上述の平板状の炭化水素濃度測定用センサ素子11の構成の他、円筒状の固体電解質を用いて以下に示す実施例1の構成の炭化水素濃度測定用センサ素子31について説明する。また、実施例1、実施例2の炭化水素濃度測定用センサ素子31、および以下に示す各比較例のセンサ素子を用いて具体的な特性について実験を行った。
【0036】
(実施例1)
本発明の実施例1の炭化水素濃度測定用センサ素子31を模式的に図3および図4に示す。図4は図3の炭化水素濃度測定用センサ素子31の模式的断面図である。本発明の実施形態の炭化水素濃度測定用センサ素子31は、固体電解質基板32として市販のYSZ管(8mol%、Ydoped、NKT製、内径5mm、外径8mm、長さ300mm)を使用し、固体電解質基板32の外側表面にZnCrペースト(検知極38)とPtペースト(参照極39)を帯状に塗布した。その後、管状炉を用いて、大気雰囲気下、1100℃で2時間焼成することにより、それぞれの検知極38(SE)、参照極39(RE)を形成して炭化水素ガス測定用センサ素子31とした。参照極リード41、検知極リード44にはPt線を用いた。
【0037】
(実施例2)
検知極をZnMoOとした以外は実施例1と同じ構成で実施例2の炭化水素濃度測定用センサ素子を作成し、実施例1と同じ条件で測定を行った。
【0038】
(比較例1)
検知極をZnFeとした以外は実施例1と同じ構成で比較例1の炭化水素濃度測定用センサ素子を作成し、実施例1と同じ条件で測定を行った。
【0039】
(比較例2)
検知極をZnWOとした以外は実施例1と同じ構成で比較例2の炭化水素濃度測定用センサ素子を作成し、実施例1と同じ条件で測定を行った。
【0040】
(比較例3)
検知極をZnOとした以外は実施例1と同じ構成で比較例3の炭化水素濃度測定用センサ素子を作成し、実施例1と同じ条件で測定を行った。
【0041】
実施例1、2および比較例1〜3のセンサ素子を、センサ素子に埋め込んだヒーターに代わる外部加熱のため電気炉が備え付けられたセンサ特性評価装置(SSH−7、桜木理化学機械株式会社)に設置し、サンプルガスを流入させたときの検知極、参照極間の電位差をエレクトロメーター(R8240、アドバンテスト製)で測定した。ガス流速は100cm/minとし、主に加湿合成空気雰囲気下(+5vol.%HO)で行った。
【0042】
図5に、600℃における種々のガス(100ppm、乾燥空気希釈)に対する感度を測定し、比較して示した。この場合、感度比は、100ppmCに対する起電力差を基準(100%)として示している。図5より、ZnMoOまたはZnCrを検知極に用いた素子が、Cに対して比較的良好な選択性を示すことがわかる。ただし、ZnMoOを用いた素子の90%応答は5分以上とかなり遅く、排ガス用センサとして用いるには更なる改良の余地がある。そこで、選択性と応答速度ともに良好であった実施例1のZnCrを、Cに対する最適な検知極材料として選んだ。
【0043】
以下に実施例1の構成の炭化水素濃度測定用センサ素子31について、更に詳細な検討を重ねるべく、様々な特性について実験を行った結果をグラフを交えて記述する。
【0044】
実施例1の炭化水素濃度測定用素子31について、O:21vol.%、HO:5vol.%共存下で、作動温度:500〜700℃まで50℃毎に種々の被検ガス(C、CH4、NO、NH、NO、CO、各濃度:100ppm)に対する応答感度を確認し、結果を図9に示す。その結果、選択性、応答感度の両方を考慮すると、作動温度500℃での結果が最適だが、そのときの回復速度が約60秒と遅い。また700℃以上では十分な感度が得られなかった。このため、500℃よりも応答・回復速度が早く、選択性、応答感度も満足な結果が得られる作動温度550℃を最適温度とする。
【0045】
図6には、550℃において加湿合成空気から種々の被検ガス(100ppm)に切り替えた時の起電力応答曲線のグラフを示す。これより、NOには若干の応答を示しているが、自動車排ガス中に存在する可能性がある他の種々のガス(CO、NO、NH、CH)にはほとんど応答せず、Cだけに大きく応答し、しかも90%応答時間も10秒程度と短いことがわかる。また、NOに対する感度もCの約1/6と小さいため、本素子はCに対して高感度、選択的かつ速い応答を示すといえる。
【0046】
また、同作動条件下で、種々の濃度のCに対する応答を測定したところ、図7に示すように速い応答速度を示し、図8に示すように10〜400ppmの範囲においてΔemfはC濃度の対数にほぼ比例することがわかった。
【0047】
図10は、実施例1の炭化水素濃度測定用素子31を用いて、5vol.%HO共存下、作動温度:550℃において、酸素濃度を2〜21vol.%の範囲で変化させ、その際の濃度100ppmのCに対する起電力差Δemf=[Cのemf値]−[ベース(Air)のemf値]を測定した結果を示すグラフである。その結果、酸素濃度によらず起電力差Δemfの値が変化しないため、広い酸素濃度範囲で使用できることがわかる。
【0048】
図11は、実施例1の炭化水素濃度測定用素子31を用いて、作動温度:550℃、21vol.%Oでの水蒸気濃度を1.35vol.%〜10.80vol.%の範囲で変化させたときのベースのemf値と100ppmCのemf値の測定を行った結果を示すグラフである。どちらともにほとんど変化しなかった。この結果から排ガス中の水蒸気濃度に対する応答特性の変動がほとんどないことがわかった。
【0049】
図12は、実施例1の炭化水素濃度測定用素子31を用いて、21vol.%O、5vol.%HO共存下、作動温度:550℃において、CO濃度を20vol.%まで5vol.%ずつ変化させ、その際の起電力値を測定した結果を示すグラフである。その結果、Airの起電力値と100ppmCの起電力値ともにほとんど変化しなかった。この結果から排ガス中の二酸化炭素濃度に対する応答特性の変動がほとんどないことがわかった。
【0050】
図13は、実施例1の炭化水素濃度測定用素子31を用いて、C以外の炭化水素、8種類に対しても応答感度の測定を行った結果を示すグラフである。その結果、炭素数が大きくなればなるほど、応答感度が大きくなる傾向を示した。また、一般に不飽和炭化水素のほうが大きな感度が得られるといわれるが、同じ炭素数の中で飽和、不飽和炭化水素といった結合の違いにもほとんど影響がなかった。さらに、図14に示すように測定した炭素数2〜4の範囲で、炭素数と応答感度に良好な直線関係が得られた。ここで、CHが直線に乗っていない理由として、検知極の複酸化物と固体電解質(YSZ)の界面での電気化学反応がほとんど起こっていないために応答が検出されないのではと推測している。
【0051】
図15は、実施例1の炭化水素濃度測定用素子31を用いて、21vol.%O、5vol.%HO共存下、作動温度:550℃において、1−C、C、Cの3種類の炭化水素ガスを1:1:1、2:1:1、1:2:1、1:1:2の濃度比となるように調製し、混合ガスをセンサ素子に流入させた際の検知極、参照極間の電位差をエレクトロメーターにより測定した結果を示すグラフである。得られた起電力値(Δemf)をトータル炭化水素濃度(ppmC)に対してプロットした結果、比較的良好な直線性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、炭化水素に対して感度が大きく、選択性が高く、小型化が可能で、耐熱性及び耐久性が高い炭化水素濃度測定用センサ素子、および炭化水素濃度測定方法を提供する。
【符号の説明】
【0053】
11:炭化水素濃度測定用センサ素子、12:固定電解質基板、13:ZnO含有複酸化物、15:Pt参照極、17:Pt検知極リード、18:検知極、19:参照極、31:炭化水素濃度測定用センサ素子、32:固定電解質基板、38:検知極、39:参照極、41:参照極リード、43:温度調節部、44:検知極リード、45:ヒーターリード線、46:ヒーター、51:センサ素子表面、52:センサ素子裏面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板と、
前記固体電解質基板上に設けられたZnO含有複酸化物からなる検知極と、
前記固体電解質基板上に設けられたPt参照極と、
前記固体電解質基板の温度調節をする温度調節部と、を含み、
CHには実質的に応答しないことを特徴とする、
炭素数が2以上の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【請求項2】
前記ZnO含有複酸化物がZnCrである請求項1に記載の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【請求項3】
前記固体電解質が安定化剤としてイットリアを3〜15mol%添加したジルコニア固体電解質である請求項1または2に記載の炭化水素濃度測定用センサ素子。
【請求項4】
イオン伝導性固体電解質からなる固体電解質基板と、
前記固体電解質基板上に設けられたZnO含有複酸化物からなる検知極と、
前記固体電解質基板上に設けられたPt参照極と、
前記固体電解質基板の温度調節をする温度調節部と、を含むセンサ素子を用い、
前記検知極及び前記Pt参照極が設けられた区画に被検ガスを導入し、
前記温度調節部を用いて前記固体電解質基板の温度を550〜650℃の範囲となるように制御し、
前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差を測定し、
前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差と、あらかじめ蓄積された前記検知極と前記Pt参照極との電極間の起電力差から得られた検量線データと、を比較することにより前記被検ガス中の炭化水素濃度を測定する炭化水素濃度の測定方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−68632(P2013−68632A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−270482(P2012−270482)
【出願日】平成24年12月11日(2012.12.11)
【分割の表示】特願2008−88030(P2008−88030)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】