説明

炭含有樹脂の製造方法、炭含有樹脂、成形体、炭化成形体の製造方法及び炭化成形体

【課題】本発明は、機械強度が優れ、炭化物の含有量を高くできる炭含有樹脂の製造方法、炭含有樹脂、成形体、炭化成形体の製造方法及び炭化成形体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】バイオマスの炭化物と樹脂とを、場合によって、水を添加して溶融混練して炭含有樹脂となすことを特徴とする炭含有樹脂の製造方法、該製造方法で製造された炭含有樹脂及び該炭含有樹脂からなる成形体。バイオマスの炭化物と前記樹脂との合計100質量部に対して、前記バイオマスの炭化物が50〜95質量部含有されていることまたはバイオマスが繊維構造を有していることが好ましい。さらに、本発明の炭含有樹脂からなる成形体。さらに、前記炭含有樹脂からなる成形体を酸素の供給を制限した状態で熱処理した炭化成形体の製造方法及び該製造方法で製造された炭化成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭含有樹脂の製造方法、炭含有樹脂、成形体、炭化成形体の製造方法及び炭化成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石資源を主要な原料とする従来のプラスチック素材に替わり、バイオマス(生物資源)を主要な原料に使うバイオマス・プラスチック(バイオプラ)の利用が広まっている。また、化石資源を原料とするプラスチック材料とバイオマスとを複合化させた材料開発もされている(例えば、特許文献1参照)。しかし、性能面(機械的強度が低い等)、応用面(コストが高い)での制限があり、現在のところ限られた分野でしか利用されていない。
【0003】
近年になり、地球温暖化対策の一環として、排出二酸化炭素量を意識した素材の利用が進んでいる。例えば、リサイクル可能素材の再利用の促進、植物由来のリサイクル素材プラスチックの開発等を挙げることができる。植物性材料をプラスチックと複合化させ、材料としての性能を保ちつつ二酸化炭素排出量の増加を抑制しようという考え方もそのひとつである。これは、植物性材料から排出される二酸化炭素は、その植物性材料が吸収した二酸化炭素と等量であるという「カーボンニュートラル」という考え方に基づいた二酸化炭素削減対策ということができる。こうした観点から、ケナフの靭皮繊維とプラスチックとを複合化させた材料が自動車用内装材(例えば、特許文献2参照)、建材(例えば、特許文献3参照)に使用されている。しかし、このカーボンニュートラルの考え方は、現在より二酸化炭素量を増やさない、あるいは、少しでも増加を抑制しようとするものであり、二酸化炭素削減に寄与するものではない。
【0004】
二酸化炭素を吸収した植物は、燃えたり腐ったりすることで、その二酸化炭素を放出する。二酸化炭素は何十年かのスパンで大気と植物との間を循環することとなり、前記のごとく、その結果として二酸化炭素の削減に寄与するものではない。しかし、大気中の二酸化炭素を吸収して育った植物からなる間伐材・林地残材、端材等を炭化して燃やさずに有効利用することで、二酸化炭素を長期間地表に固定しておくことができる。このような考え方から植物の炭化を進めようとの考え方がある。植物の炭化材料は、日本では古くから利用されてきており、その典型が燃料として利用されている炭である。また、炭は気体の吸着機能があり、吸着材としても利用されてきた。全く異なるコンセプトから高機能材料として、合成繊維を炭化させたカーボン繊維もある。炭化材料を、半永久的に使用する材料として、多方面に、大量に使用できれば、二酸化炭素削減に大きく寄与することができることは明らかである。炭化材料を半永久的に、多方面、大量に使用できるようにするためには、材料としての強度、加工性、機能性が、少なくとも従来材料より劣ることなく、付加的な特徴があることが必要である。また、二酸化炭素固定化への寄与の観点からは、材料中に炭化材料が高充填率されていることが必要であり、一方、多方面に、大量に使用されるためにはその加工性が優れている必要がある。
【0005】
今までに植物を炭化し、材料として利用するために、炭化材料と樹脂との複合材料が提案されている。木炭等の木質材料の炭化物は、多孔質性ゆえの優れた吸着性能をもっているため、脱臭機能を中心に樹脂との複合材料が提案されているが、複合材料の機械強度を向上させたものはまだ提案されていない。例えば、木材チップ炭化物粉と樹脂と界面活性剤とを含む炭材含有樹脂組成物が開示されているが、木材チップ炭化物粉の含有量の上限は33%と低い(例えば、特許文献4参照)。一方、木炭を熱可塑性樹脂と複合化させる技術も開示されているが、効果として着色効果しか記載されておらず、また、その含有量も低く、機械強度の改善等の検討は全くなされていない(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−345944号公報
【特許文献2】特開2005−200470号公報
【特許文献3】特開2004−143401号公報
【特許文献4】特開平11−043611号公報
【特許文献5】特開2008−222755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、機械強度が優れ、炭化物の含有量を高くできる炭含有樹脂の製造方法、炭含有樹脂、成形体、炭化成形体の製造方法及び炭化成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
[1]バイオマスの炭化物と樹脂とを溶融混練して炭含有樹脂となすことを特徴とする炭含有樹脂の製造方法、
[2]バイオマスの炭化物と樹脂と水とを溶融混練して炭含有樹脂となすことを特徴とする炭含有樹脂の製造方法、
[3]前記バイオマスの炭化物と前記樹脂との合計100質量部に対して、前記バイオマスの炭化物が50〜95質量部含有されている上記[1]または[2]記載の炭含有樹脂の製造方法、
[4]前記バイオマスが繊維構造を有している上記[1]〜[3]のいずれか記載の炭含有樹脂の製造方法、
[5]前記樹脂が熱可塑性樹脂である上記[1]〜[4]のいずれか記載の炭含有樹脂の製造方法、
[6]上記[1]〜[5]のいずれか記載の製造方法で製造した炭含有樹脂、
[7]上記[6]記載の炭含有樹脂からなる成形体、
[8]上記[7]記載の成形体を酸素の供給を制限した状態で熱処理した炭化成形体の製造方法、
[9]上記[8]記載の製造方法で製造した炭化成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械強度が高く、炭化物の含有量を高くできる炭含有樹脂の製造方法、炭含有樹脂、成形体、炭化成形体の製造方法及び炭化成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるバイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源(植物や動物等)で、化石資源(石油・石炭等)を除いたものをいう。具体的には、植物由来のバイオマスとしては、水中の藻や水草からなる水生バイオマス、雑草や笹、農作物からなる草本バイオマス、そして、木が由来となる木質バイオマス、動物由来のバイオマスがある。
【0011】
本発明において利用できる草本バイオマスである草本とは、樹木のように大きくならず、太く堅い幹をもたない植物をいう。例えば、笹、竹、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、麦わら、葦、お茶滓、ケナフ、アサ、アマ、アバカ、ワタ、コウゾ、ミツマタ、ガンビ等を挙げることができる。また、木質バイオマスとは、一般的な広葉樹、針葉樹をいい、間伐材、林地残材、端材、おが屑、鋸屑、樹皮、建築廃材、パルプ、紙等を挙げることができる。
【0012】
動物由来のバイオマスとしては、一般的には動物の死骸や粉等をいうが、本発明において利用できる動物由来のバイオマスとしては、酢酸菌等から作られるバイオセルロース、ホヤの被嚢等を挙げることができる。
【0013】
本発明におけるバイオマスの炭化物は、前記バイオマスを炭化処理し、炭化物としたものである。酸素の供給を制限した状態で加熱すると、有機高分子化合物は、炭素比率の高い結合で構成された安定な構造へと移行する。例えば、有機高分子化合物の複合体の一種である木材を酸素の供給を制限した状態で加熱すると、まず200℃までの熱処理で高分子から低分子への変化が起こり、160〜500℃の間で構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニン等が分解してくる。さらに、500〜1800℃で炭化が起こり木炭となる。バイオマスに対する炭化処理も同様な操作で行われる。本発明で用いられるバイオマスの炭化物は、160〜500℃の温度範囲での炭化処理により得られたものが好ましく用いられる。
【0014】
炭化処理する装置としては、例えば、炭焼き窯、伏せ焼き、移動炭化炉、スクリュー炉、撹拌式流動炭化炉、黒炭窯等を使用でき、特に制限されない。また、その処理条件も何ら制限することはない。
【0015】
本発明におけるバイオマスは繊維構造を有したバイオマスであることが好ましい。繊維構造とは、炭化処理前のバイオマスのアスペクト比(繊維長/繊維径)が10以上であるものをいい、この繊維構造を有するバイオマスを炭化処理して炭化物とした後でも、そのアスペクト比は保たれ、繊維構造を有する炭化物となる。
【0016】
本発明においては、バイオマスの炭化物は、粉状で樹脂と混練される。バイオマスの炭化物は、その原料により炭化処理後の形状が粉状ではなく、塊状であることが多く、そのままでは形状が大きすぎるため、混練になじまないので、粉状に粉砕する必要がある。粉砕する手段としては、例えば、クラッシャータイプ、ミルタイプ、摩砕タイプ、カッタータイプ等の一般的な粉砕機を用いることができる。一般に炭は硬度が高いため、まず、クラッシャータイプの強力な粉砕機で粗く粉砕してから、ミルタイプ、摩砕タイプ、カッタータイプの微粉砕機で粉砕することが好ましい。また、粉状の炭化物の形状は特に限定されず、球状、楕円状、毬栗状、針状等あるいはこれらが混じり合ったものでもよい。
【0017】
本発明における樹脂としては特に制限されず、合成樹脂、天然樹脂等を適宜利用することができる。例えば、合成樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂からなるポリエチレン樹脂類、ポリプロピレン樹脂類、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。例えば、天然樹脂としては、天然ゴム、松脂(ロジン)、シェラック、琥珀、ダンマルガム、マスチック、コーパル、バルサム等を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。熱可塑性樹脂を用いることで本発明の炭含有樹脂からなる成形体のフィルムやシート等の薄物の成形処理がよりやりやすくなる。
【0019】
また、熱可塑性樹脂として、生分解性樹脂を用いることもできる。例えば、具体的には、高分子多糖類、微生物ポリエステル、脂肪族ポリエステル等が挙げられ、より具体的には、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネートカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリヒドロキシアルカノート(例えば、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)(PHV))、ラクトン樹脂、低分子量脂肪族ジカルボン酸と低分子量脂肪族ジオールから得られるポリエステル樹脂、酢酸セルロース系等の複合体、変性デンプン−変性ポリビニルアルコール複合体、その他の複合体を挙げることができる。
【0020】
本発明の炭含有樹脂には各種添加剤を適宜加えることができる。添加剤としては、相溶化剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、透明核剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤等の添加剤を、単独または2種類以上併せて使用することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0021】
本発明の炭含有樹脂は、バイオマスの炭化物と樹脂と水とを溶融混練することを特徴とする。その混練手段としては、撹拌室内に高速で回転する回転羽根を備えた高速撹拌装置を用いることが好ましい。混練中、水が水蒸気と化し高圧状態とするため撹拌室の密閉性が高い方が好ましいが、あまり密閉性が高いと、水が高温により水蒸気となり内部圧力が高まりすぎた時に爆発等の事故が起こる可能性がある。そこで、撹拌室には、内部圧力が高まりすぎた場合に圧力を調整できるメカニカルシール、ラビリンスシール等の機構を備えつけていることが好ましい。
【0022】
撹拌室に備えられている回転羽根は、駆動源であるモーターに連結した回転軸に複数配設され、回転自在な状態にあることが好ましい。回転羽根の形状は特に制限されることはなく、矩形、ナイフ形、のこぎり形等、任意の形状のものを用いて良いが、好ましくは矩形の回転羽根である。また、回転軸への回転羽根の配置数も特に制限がなく、回転羽根の回転軸への取り付け角度も特に制限されない。
【0023】
撹拌室には、温度センサー、圧力センサーを備え、回転軸にはトルクメーターを備えていることが好ましい。これらの計測装置により、より具体的に混練状態を把握することができ、処理時間を決めることができる。
【0024】
混練装置としては、例えば、具体的には、国際公開第2004/076044号パンフレットに記載の撹拌室を備えた高速撹拌装置、SUNDS社のDe−firratorを挙げることができるが、インターナルミキサー、ニーダー、ヘンシェルミキサー(登録商標)等の一般的な高速撹拌装置を独自に改造して、圧力調節機構を付加したり、トルクメーターを付加したりすればよい。
【0025】
本発明における溶融混練について説明する。本発明の溶融混練は樹脂の溶融温度以上で行われる。その際、水を加えても構わない。一緒に加えられた水は水蒸気となり撹拌室内に充満し、撹拌室内の圧力は上昇し高圧状態となる。すなわち、本発明の炭含有樹脂の製造方法では、高温高圧状態の水蒸気雰囲気内で、バイオマス炭化物と樹脂とが溶融混練されてもよい。撹拌室内を樹脂の溶融温度以上にする手段としては、外部から熱を加えてもよいが、より好ましくは、回転羽根による剪断力、打撃力によりバイオマスの炭化物と樹脂、すなわち被混合物の温度が上昇することが好ましい。好ましい温度としては120℃以上、より好ましくは140℃以上である。
【0026】
高圧状態は、撹拌室内温度が上昇し、水が水蒸気となることにより実現するが、高温の水蒸気(加熱水蒸気)で撹拌室が充満され高圧状態となっていることが好ましい。溶融混練時の高圧状態としては撹拌室内が水の飽和水蒸気圧状態にあることが好ましいが、少なくとも0.2MPa以上の圧力状態にあればよい。この水蒸気は炭化物と樹脂との相溶性を改善し、炭化物の分散性を高める、結果として本発明の成形体の強度物性を高めることができる。
【0027】
本発明において、上記記載の各種形状の回転羽根により被混練物に高剪断力を与えながら混練することが好ましく、具体的には、その回転羽根の回転で発生する剪断熱によって、撹拌室内部が高温状態となるくらいの高速度で回転している回転羽根により、高い剪断力がかかることが好ましい。装置の機構、形状、容量、羽根の枚数等により当然異なるが、具体的には、2000rpm以上の回転羽根の回転速度であることが好ましい。
【0028】
本発明の炭含有樹脂は、高温高圧の水蒸気雰囲気中で混練した後に混練装置から取り出すと、不定形のフレーク状態となっている。そのため、次の成形処理で成形機のホッパーに投入した際に成形機への入り具合が悪くなることもある。そこで、混練装置から取り出したフレーク状の本発明の木炭含有樹脂をペレット形状に成形してもよい。ペレット形状に成形する手段としては、一般的な押出機でもよいし、熱をかけずに押し固めるだけのペレッターでもよい。
【0029】
本発明の炭含有樹脂において、バイオマスの炭化物と樹脂との合計100質量部に対して、バイオマスの炭化物が50〜95質量部含有されていることが好ましい。バイオマスの炭化物の含有量がこの範囲にあると、本発明の炭含有樹脂からなる成形体の機械強度がより一層向上すると共に、機械強度の異方性がより少なくなる。
【0030】
本発明の炭含有樹脂の製造方法において、バイオマスの炭化物と樹脂との合計100質量部に対して、水を5〜30質量部加えることが好ましい。水が5質量部未満であると、混練装置への投入の際、バイオマスの炭化物が飛散する場合があり、水が30質量部を超えると、溶融混練時の水の水蒸気化に時間がかかって、製造時の作業効率が低下する場合がある。
【0031】
本発明の炭含有樹脂を成形処理して成形体となすことができる。成形方法としては、射出成形、異形押出成形、ブロー成形、T−ダイ成形、回転成形等各種成形方法を用いることができる。
【0032】
本発明の炭含有樹脂からなる成形体を酸素の供給を制限した状態で熱処理することで、本発明の炭化成形体となすことができる。前記熱処理をすることで、含有している樹脂は炭化するが、成形体を構成している炭化物がその構造を変化させ、結晶成長をするように各炭化物同士の親和性が向上して融和してくることにより、本発明の炭化成形体は、より優れた機械特性を発現することができる。
【0033】
本発明における酸素を制限した状態とは、炭化処理を行う装置内を窒素ガス等の不活性ガスで置換した状態にしてもよいし、真空ポンプ等で装置内の酸素濃度を低下させた状態でもよく、特に制限されず、装置が密閉状態に近い状況にあり、炭化処理中に外部から空気(酸素)が供給されない状態をいう。
【0034】
炭化成形体を作成する際の炭化処理の好ましい温度は、200〜1000℃であり、さらに好ましくは、200〜500℃の第1段階、次に500〜1000℃の第2段階と2種類の温度条件で2段階に渡って処理することが好ましい。炭化処理時間は、その炭化温度により変わるが、好ましくは12〜36時間、さらに好ましくは12〜24時間である。2段階に渡って炭化処理する場合は、低温で炭化処理する第1段階は24〜36時間、高温で炭化処理する第2段階は12〜24時間で処理することが好ましい。
【実施例】
【0035】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
バイオマスの炭化物として、平均粒径2mmの杉炭を用意し、バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)=45質量部/55質量部となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。なお、このバッチ式密閉型混練装置の撹拌室には圧力調節機構が付いている。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後にモーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。なお、溶融混合中の撹拌室内部は、温度が220℃であった。その後、撹拌室から本発明の炭含有樹脂を取り出した。
【0037】
(実施例2)
バイオマスの炭化物として、平均粒径2mmの杉炭を用意し、バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=45質量部/55質量部/15質量部となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。なお、このバッチ式密閉型混練装置の撹拌室には圧力調節機構が付いている。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に圧力調節機構部より水蒸気が漏れだしたが、30秒後に漏れは停止し、撹拌室内部は高圧力状態を保ったまま溶融混合が進行した。水蒸気の外部への漏れが停止してから30秒後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後にモーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。なお、溶融混合中の撹拌室内部は、温度が250℃、圧力は2.0MPaであった。その後、撹拌室から本発明の炭含有樹脂を取り出した。
【0038】
(実施例3)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=50質量部/50質量部/5質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0039】
(実施例4)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=70質量部/30質量部/10質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0040】
(実施例5)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=70質量部/30質量部/15質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0041】
(実施例6)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=70質量部/30質量部/30質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0042】
(実施例7)
樹脂を熱可塑性樹脂であるポリエチレン(東ソー(株)製、商品名:ニポロンハード(登録商標)5700)に変更した以外は実施例4と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0043】
(実施例8)
樹脂を熱硬化性樹脂であるノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子(株)製、商品名:BRP590P)に変更し、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを、前記樹脂55質量部に対して5質量部添加した以外は実施例4と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0044】
(実施例9)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂(日本ポリプロ(株)製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:ノバテック(登録商標)PP BC8)/水=80質量部/20質量部/10質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0045】
(実施例10)
回転羽根の回転数を1500rpmとし、圧力調節機構部を調節して、溶融混合時の温度が110℃、圧力が0.15MPaとなるようにした以外は実施例5と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0046】
(実施例11)
回転羽根の回転数を1800rpmとし、圧力調節機構部を調節して、溶融混合時の温度が120℃、圧力が0.20MPaとなるようにした以外は実施例5と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0047】
(実施例12)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂((株)プライムポリマー製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:プライムポリプロ(登録商標)PP BC8)/水=95質量部/5質量部/15質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0048】
(実施例13)
バイオマスの炭化物(杉炭)/樹脂((株)プライムポリマー製熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)、商品名:プライムポリプロ(登録商標)PP BC8)/水=97質量部/3質量部/15質量部となるように調製した以外は実施例2と同様にして、本発明の炭含有樹脂を得た。
【0049】
(比較例1)
バイオマスの炭化物である杉炭を、平均粒径2mmの杉粉に変更した以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0050】
(実施例14)
実施例1で作製した炭含有樹脂を用いて、押出成形機で幅100mm×厚み4mmの角材を押出し、長さ300mmに切断した。連続式還元炉を用いて水素・窒素混合雰囲気中で、450℃で12時間処理した後、そのまま900℃まで処理温度を上昇させ24時間処理し本発明の炭化成形体を得た。
【0051】
(実施例15)
実施例2で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0052】
(実施例16)
実施例3で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0053】
(実施例17)
実施例4で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0054】
(実施例18)
実施例5で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0055】
(実施例19)
実施例6で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0056】
(実施例20)
実施例7で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0057】
(実施例21)
実施例8で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0058】
(実施例22)
実施例9で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0059】
(実施例23)
実施例10で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0060】
(実施例24)
実施例11で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0061】
(実施例25)
実施例12で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0062】
(実施例26)
実施例13で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして本発明の炭化成形体を得た。
【0063】
(比較例2)
比較例1で作製した炭含有樹脂を用いた以外は実施例14と同様にして炭化成形体を作製したが、加熱後成形体は崩れた。
【0064】
(曲げ弾性率の曲げ弾性率)
実施例1〜13及び比較例1で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて押出し成形機((株)池貝製、商品名:PCM30)で板(幅100mm×厚み4mm×長さ2000mm)を押出し成形した。次に作製した板より試験片を切出した。それぞれ5個の試験片についてJIS K7171に則って測定し、その平均値をもって、曲げ弾性率と曲げ強度とし、結果を表1に与えた。いずれの場合も本発明の本発明の炭含有樹脂は、高い曲げ弾性率と曲げ強度を示した。
【0065】
(曲げ弾性率の曲げ弾性率)
実施例14〜26で作製した炭化成形体より試験片を切出した。それぞれ5個の試験片についてJIS K7171に則って測定し、その平均値をもって、曲げ弾性率と曲げ強度とし、結果を表2に与えた。いずれの場合も本発明の炭化成形体は、高い曲げ弾性率と曲げ強度を示した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば機能性建材として、シロアリ、ねずみ、微生物等木材や建材に有害な生物による腐食等の被害を受けない建材、土木・建築材料、特に湿度が高い土中、水中、室内、屋外施設等に用いることができる。また、屋外構築物等として、太陽光/熱発電、風力発電、地熱発電等の土台や骨組み部分として利用することができる。さらに交通標識等屋外標識物の構造物等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスの炭化物と樹脂とを溶融混練して炭含有樹脂となすことを特徴とする炭含有樹脂の製造方法。
【請求項2】
バイオマスの炭化物と樹脂と水とを溶融混練して炭含有樹脂となすことを特徴とする炭含有樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記バイオマスの炭化物と前記樹脂との合計100質量部に対して、前記バイオマスの炭化物が50〜95質量部含有されている請求項1または2記載の炭含有樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記バイオマスが繊維構造を有している請求項1〜3のいずれか記載の炭含有樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1〜4のいずれか記載の炭含有樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の製造方法で製造した炭含有樹脂。
【請求項7】
請求項6記載の炭含有樹脂からなる成形体。
【請求項8】
請求項7記載の成形体を酸素の供給を制限した状態で熱処理した炭化成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法で製造した炭化成形体。

【公開番号】特開2011−178877(P2011−178877A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43893(P2010−43893)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】