説明

炭水化物支持体中の安定な噴霧乾燥された組成物及び前記組成物を得る方法

【課題】炭水化物支持体を含む優れた安定性及び望ましい長い貯蔵寿命を有する組成物及び組成物を得る方法を提供する。
【解決手段】炭水化物マトリックス中に包封された少なくとも1種の活性化合物を含む、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥組成物であって、当該マトリックスが、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、40乃至80重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類、並びに10乃至30重量%のマルトデキストリン、によって特徴付けられる、組成物に関する。炭水化物マトリックス中に包封される活性化合物は、風味剤、芳香剤、医薬及び洗浄活性成分から成る群から選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分又は酸素に感受性を有する風味剤、芳香剤、又はその他のタイプの水分又は酸素に感受性を有する化合物、例えば、医薬、のような少なくとも1種の活性化合物を含む、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥された組成物に関する。さらに、本発明は、揮発性の風味剤、芳香剤、又は揮発性であり、かつ水分又は酸素に感受性を有するその他の化合物を、非晶質マトリックス中に固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風味剤の分野に関して、例えば、消費者の味覚によって認識される味を改善するために、特定の天然の、天然のものと同一の、又は人工の揮発性化合物を使用することによって消費者に、より新鮮な味を有する還元することができる飲料混合物を提供する努力がなされてきた。悪い安定性の問題をともなわずに通常風味剤を保持している液体系とは異なり、乾燥した食用飲料混合物はしばしば風味を欠くか又は劣った貯蔵安定性のために風味の悪化を有する。新鮮な味を有する還元することができる飲料は、消費者の最も重要な新鮮さの知覚を増加させるだろう。
【0003】
コーヒーアロマ、エステル、アセトアルデヒド、様々な精油、及び硫黄化合物のような化合物は、コンビニエンスフードの味の知覚を増大させるか又は向上させる。乾燥した食用混合物系は、それらの中に揮発性又は芳香性の風味剤を導入しようと試みる場合、特別の問題を提供する。例えば、そのような物質は混合物を通して及び混合物から逃げるか、又はあまり望ましくないと認識される化合物に劣化するか又は酸化するように反応する。従って、包封によって固定し、そして「粉末化された混合物」食品の内部において揮発性成分が逃げるのを防ぎ、そしてそれらの酸化を防ぐことに対する長年の要望が存在する。さらに、揮発成分の固定化方法は、容易に還元することができ、そして長期間にわたって悪い貯蔵条件下で、固定されたものを保持することができる生成物を製造しなければならない。
【0004】
食品として許可された支持体中における芳香成分の固定に固有の主要な問題は、これらの固定支持体が特有の固定特性を示すという事実である。支持体媒体は、水分に対して敏感であり得て、運び込まれた揮発性成分と反応し得て、或いは味の特徴の変化を生じ得る。クラスとしての炭水化物は、揮発性成分及び芳香成分がその中に固定された、食品として容認できる支持体を提供する。しかし、ほとんどの水溶性炭水化物支持体は吸湿性であり、長期間にわたって固定されたものを保持することに信頼性がない。上記の点を鑑みて、芳香性の又は揮発性の風味剤を包封するための、非晶質で、水分に対して安定であり、水溶性で、食品として認可された支持体に対する認識された要望が存在する。
【0005】
精油のような風味剤が酸化防止剤によって保護されない場合、酸素から風味剤を保護することが炭水化物マトリックスにはできないことによって生じる酸化のために、オフフレーバーの発生というさらなる問題にさえ遭遇する。
【0006】
欧州特許公報第0,550,067号は、芳香剤及び風味油のような油を、水に感受性を有する多孔性固体マトリックス中に包封する方法であって、(a)包封されるべき油、(b)乾燥条件下に架橋を経験する未架橋の親油的に改質された澱粉、及び(c)油が内部において不連続相として分散可能な連続水性相を用いて生成する多糖類物質ポリヒドロキシ化合物を含む水性エマルジョンを乾燥させることを含む、方法に関する。典型的にはブチル化ヒドロキシトルエンのような従来の酸化防止剤を含む油(a)は、典型的には、油とマトリックスの組み合わせの5乃至80重量%、好ましくは少なくとも65重量%、の量で乾燥された炭水化物マトリックス中に包封される。改質澱粉(b)は、原則として、置換されたジカルボン酸の非ゼラチン化澱粉酸エステルであり、そしてポリヒドロキシ化合物(c)は、グリセロール、マンニトール等のような多価アルコール、及びグルコース、フルクトース、マルトース、スクロース及びラフィノースのような単糖類、二糖類及び三糖類を含む糖である。
【0007】
米国特許第5,102,682号は、少なくとも20%の結晶性スクロース、少なくとも10%の結晶性フルクトース、1〜8%の結晶性食用酸、風味剤及び固化防止剤を含む乾燥した風味付けされた粉末食品混合物であって、全ての成分が遊離で未結合の状態で存在し、そして結晶性フルクトース化合物が150μmより小さい粒子を10重量%未満しか含まない、混合物に関する。前記米国特許第5,102,682号中に示されているように、食品混合物のフルクトース及びスクロース含有率はそれぞれ10〜60%と20〜80%の範囲内でよく、そしてフルクトースとスクロースの組み合わされた重量は通常少なくとも40%であり、そして果物の風味の付けられた飲料のようなソフトドリンク混合物については典型的には混合物の少なくとも90%であり、通常は約95%以上である。
【0008】
食品混合物中において使用するのに適する風味剤は、マルトデキストリン又はマルトデキストリンと改質された澱粉の組み合わせから成る炭水化物マトリックス中に固定された噴霧乾燥風味剤であることができる。前記米国特許第5,102,682号によれば、典型的な噴霧乾燥風味剤は、30〜60%の改質された食用澱粉及び30〜60%のマルトデキストリン及び風味剤を含む。
【0009】
欧州特許出願公報第0,426,428号は、風味剤及び甘味料のためのデリバリー系及びその製造方法に関し、この系は、チューインガム、食品等のような食料品を含む様々な製品中における用途を有する。より詳細に述べると、欧州特許公報第0,426,428号は、(a)0.1乃至40重量%の風味剤油、(b)0.5乃至30重量%の甘味料、及び(c)30乃至80重量%の薄膜形成性ポリマーコーティング成分の噴霧乾燥されたエマルジョン(全ての量はデリバリー系の総重量に基づく)から製造された風味剤デリバリー系を製造する方法に関する。
【0010】
デリバリー系中の包封されるべき適する甘味料は、アミノ酸に基づく甘味料、ジペプチド甘味料、グリチルリチン、サッカリン及びその塩、アセスルファーム塩、シクラマート、ステビオシド、タリン(talin)、スクラロース、ジヒドロカルコン化合物、及びそれらの混合物から選択される天然及び人工の高強度甘味料を含む。この文献中に開示されるように、この発明は、この文献のヒドロコロイドコーティング中に存在する場合、風味剤及び特に風味剤油と、アスパルテーム及びアセスルファームKのような特定の強力甘味料との間に、そのような甘味料が風味剤成分の苦味をマスクするような相互作用が存在するということの発見に部分的に基づいていると考えられる。さらに、成分同士の連続的な混合と乳化は、風味剤油に加えられるマスキング効果及び改善された均質性と両方の活性成分の放出と知覚の延長の両方に対して貢献すると考えられる。欧州特許第0,426,428号によれば、デリバリー系中に既に含まれているものに加えて甘味料を使用することがさらに可能である。単に添加剤として使用されるそのような追加的な甘味料は、例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、転化糖、フルクトース等から選択することができる。
【0011】
米国特許第5,124,162号は、22乃至50%、好ましくは22乃至45%の単糖類及び二糖類(ここで、単糖類及び二糖類の少なくとも50%がマルトースである)、25乃至60%、好ましくは25乃至50%のマルトデキストリン、及び10乃至40%、好ましくは10乃至35%の高分子量薄膜形成性炭水化物から成る炭水化物マトリックス中に包封された風味剤を含む、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥された固定風味剤に関する。
【0012】
香料及び芳香付けされた製品の分野に関して、水に感受性を有するマトリックス、例えば、澱粉マトリックス及びそれに包封された芳香剤又は洗浄活性(wash−active)成分に基づく生成物に対する高湿度条件の悪影響を示しているWO94/19449が参照される。このタイプの包封物は、洗濯用粉末、石鹸、及び食器洗い用粉末を含む芳香付けされるべき多くの数の製品に添加することができる。明らかに、WO94/19449において遭遇する問題は、高い相対湿度で組成物が安定であるように、水に貧溶性の油を担持する無機担体物質の粒子(b)と混合された、水又は水溶液との接触時に放出され得るように水に感受性を有するマトリックス中内部に包封された物質(a)を含む組成物によって解決される。水に感受性を有するマトリックス中に包封される物質の例は、香料、風味剤、化粧品成分又は有機金属錯体、例えば、漂白剤、漂白活性剤又は漂白触媒、である。
【0013】
従来技術を要約すると、最もよく知られている参照文献は米国特許第5,124,162号であると考えられていることが注目される。そこには、炭水化物マトリックスのその他の2成分は別にして、単糖類及び二糖類成分の少なくとも50%がマルトースである場合、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥組成物が得られると記載されている。さらに、米国特許第5,124,162号(第4欄、19〜23行)には、アラビアガム及びもち種澱粉のような特定の薄膜形成性炭水化物が、取り込まれた揮発性の風味剤を保持しない「リ−キ−」支持体を提供することが示されている。
【発明の概要】
【0014】
驚くべきことに、ここで、最もよく知られている参照文献の米国特許第5,124,162号中に記載されている上述の先入観にもかかわらず、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類、並びに10乃至30重量%のマルトデキストリンと組み合わされた、40乃至80重量%というかなり多量の高分子量薄膜形成性炭水化物を含む炭水化物マトリックスを使用することによって、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥組成物が得られることが見出された。
【0015】
従って、本発明は、炭水化物マトリックス中に包封された少なくとも1種の活性化合物を含む、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥組成物であって、当該マトリックスが、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、40乃至80重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類、並びに10乃至30重量%のマルトデキストリンによって特徴付けられる、組成物に関する。
【0016】
上述の米国特許第5,124,162号中に鑑み、本発明による噴霧乾燥組成物中の糖類成分のマルトースパーセンテージは、50%未満でよく、そしてスクロースがその中の唯一の糖類成分として使用される場合には存在しなくてもよいと記載される。
【0017】
より詳細に述べると、炭水化物マトリックスは、45乃至70重量%、好ましくは50乃至60重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物を含む。適する薄膜形成性(film forming)炭水化物は、薄膜形成性ガム、ペクチン、アルギン酸塩、粘液質物質、及びそれらの混合物である。好ましくは、薄膜形成性炭水化物は、アラビアガム、アカシアガム、トラガカントガム、カライヤ、ガッティ、寒天、アルギネート、カラギーナン、フセラン(fucellan)、オオバコ(psyllium)及びそれらの混合物から、またはゼラチン、デキストラン、キサンタン、カードラン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、低メトキシペクチン、アルギン酸プロピレングリコールエステル及びそれらの混合物から選択される。
【0018】
最も好ましくは、薄膜形成剤は、薄膜形成性ガム、ヒドロコロイド、及び親油的に(lipophilically)改質された澱粉である。ガムの例はアラビアガム及びアカシアガムである。適切に化学的に改質された澱粉は、Capsul(登録商標)及びN−Lok[ナショナル・スターチ(National Starch)]である。当然、薄膜形成性炭水化物の混合物も本発明の噴霧乾燥組成物中において使用できる。
【0019】
本発明による炭水化物マトリックスのもう1つの成分は、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、10乃至30重量%、好ましくは15〜25重量%の量で使用される、単糖類、二糖類及び三糖類である。単糖類、二糖類及び三糖類の例示的例は、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、及び果汁固体のような高含有率のそのような糖を有する物質である。好ましくは、単糖類、二糖類及び三糖類物質の少なくとも50重量%が二糖類である。なぜならば、多量の単糖類は幾分粘着性の生成物をもたらし得て、一方、多量の三糖類はより酸化しやすい生成物をもたらし得るからである。本発明の好ましい態様において、単糖類、二糖類及び三糖類物質はスクロースである。
【0020】
本発明による炭水化物マトリックスは、さらに、10乃至30重量%、好ましくは10乃至25重量%のマルトデキストリンを含有する。マルトデキストリンは、好ましくは、1乃至25の範囲内、最も好ましくは10乃至20の範囲内、のデキストロースエクイバレント(DE)を有する。上記の要件を満足する様々なマルトデキストリンが、例えば、タピオカ、とうもろこし、及びジャガイモからのマルトデキストリンを含めて、容易に商業的に入手可能である。
【0021】
炭水化物マトリックス材料は、炭水化物マトリックスに基づいて、5重量%まで、好ましくは1乃至3重量%、のグリセロールのような食用ポリオールを組み入れることによって軟化させることができる。また、0.2%までの量の消泡剤のようなその他の成分も添加することができる。
【0022】
炭水化物マトリックス中に包封される活性化合物は、風味剤、芳香剤、医薬及び洗浄活性成分から成る群から選択することができる。
【0023】
風味剤は本技術分野においてよく知られており、例えば、S. ArctanderによるPerfume and Flavor Materials of Natural Origin(米国ニュージャージー州エリザベス、1996年)、T.E. FuriaらによるCRC Fenaroli’s Handbook of Flavor Ingredients、第2版(クリーブランド、CRC Press Inc.、1975年)、及びH.B. HeathによるSource Book of Flavors(The Avi Publishing Company Inc.、コネチカット州ウエストポート、1981)中に記載されている。
【0024】
芳香付けされた物品の製造に使用できる芳香剤及びそれらの混合物は、例えば、S. Arctander(上記の)に開示されている、例えば、精油、アブソリュート、レジノイド、レジン、コンクリート等のような天然産の生成物、飽和及び不飽和化合物、脂肪族、炭素環式、及びヘテロ環式化合物を包含する、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル、酸、エステル、アセタール、ケタール、ニトリル等のような、天然の、天然と同一の、及び人工の芳香剤である。
【0025】
本発明の範囲内において使用することができる芳香剤の例は、ゲラニオール、ゲラニルアセテート、リナロール、リナリルアセテート、テトラヒドロリナロール、シトロネロール、シトロネリルアセテート、ジヒドロミルセノール、ジヒドロミルセニルアセテート、テトラヒドロミルセノール、テルピネオール、テルピニルアセテート、ノポール、ノピルアセテート、2−フェニルエタノール、2−フェニルエチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルアセテート、ベンジルサリチレート、スチラリルアセテート、ベンジルベンゾエート、アミルサリチレート、ジメチルベンジルカルビノール、トリクロロメチルフェニルカルビニルアセテート、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、イソノニルアセテート、ベチベリルアセテート、ベチベロール、α−ヘキシル−シンナムアルデヒド、2−メチル−3−(p−tert−ブチルフェニル)−プロパナール、2−メチル−3−(p−イソプロピルフェニル)−プロパナール、3−(p−tert−ブチルフェニル)−プロパナール、トリシクロデセニルアセテート、トリシクロデセニルプロピオネート、4−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセンカルバルデヒド、4−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセンカルバルデヒド、4−アセトキシ−3−ペンチル−テトラヒドロピラン、3−カルボキシメチル−2−ペンチル−シクロペンタン、2−n−ヘプチルシクロペンタノン、3−メチル−2−ペンチル−2−シクロペンタノン、n−デカナール、n−ドデカナール、デサ−9−エン−1−オール、フェノキシエチルイソブチレート、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドジエチルアセタール、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、セドリルアセテート、3−イソカンフィルシクロヘキサノール、セドリルメチルエーテル、イソロンギホラノン、オーベピンニトリル、オーベピン、ヘリオトロピン、クマリン、オイゲノール、バニリン、ジフェニルオキシド、ヒドロキシシトロネラール、ヨノン、メチルヨノン、イソメチルヨノン、イロン、シス−3−ヘキセノール及びそのエステル、インダン系ムスク芳香剤、テトラリン系ムスク芳香剤、イソクロマン系ムスク芳香剤、大環状ケトン、マクロラクトン系ムスク芳香剤、エチレンブラシレート、芳香族ヌートリムスク(aromatic nutri−musk)芳香剤である。
【0026】
本発明による芳香剤含有噴霧乾燥生成物は、芳香付けされた製品中において成功裏に使用することができる。そのような芳香付けされた製品の例は、石鹸、浴用製品、洗浄剤、食器洗い及びクリーニング剤、におい玉、ロウソク、化粧品、例えば、クリーム、軟膏、体臭防止剤スティック、及び発汗抑制剤スティックである。
【0027】
湿ったり酸化しやすい製剤及び洗浄活性成分も、本発明による炭水化物マトリックス中に包封される活性化合物として使用することができる。
【0028】
本発明の主要な用途は風味剤の分野に関連する。これに関連して、本発明による最終の噴霧乾燥生成物は、風味剤のタイプに依存して及び風味剤の総重量に基づいて、活性化合物としての5乃至40重量%、或いはさらにより好ましくは20乃至30重量%の風味剤を保護しそして保持することができる。本発明による炭水化物マトリックス中に包封される風味剤、特に芳香性又は揮発性の風味剤の例は、例えば、柑橘属油、例えば、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油のような精油、及びベーカリー及びセイボリー(savoury)風味剤のようなその他の揮発性風味剤である。上で示したその他のタイプの活性化合物も、組成物の総重量に基づいて、5〜40重量%又はそれより多く、より好ましくは20〜30重量%の量で、本発明による炭水化物マトリックス中に包封することができる。
【0029】
本発明のさらなる面は、a)40乃至80重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物(1種以上)、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類(1種以上)、及び10乃至30重量%のマルトデキストリン(1種以上)から成る炭水化物混合物を含む水性炭水化物溶液を生成する工程、b)上で定義された少なくとも1つの活性化合物を工程(a)の溶液中に組み入れる工程、及びc)100℃以下の出口温度を使用して工程(b)の水性溶液を噴霧乾燥して、内部に活性化合物が包封された安定な生成物を得る工程、を含む、水分及び酸素に対して安定な組成物を製造する方法によって具体化される。一般的に、噴霧乾燥の手順は以下のものを含む。初めに、製造したい生成物の溶液を製造する。溶液という用語は、エマルジョン又は分散体のような混合物を包含する、溶質と溶媒の混合物を意味するものとして理解される。溶液は、規則的な大きさの滴から成る微細な霧を作る噴霧器中に供給される。霧化された溶液は、通常乾燥塔又は室の上部を通して噴霧乾燥機に導入される。加熱された空気は、滴が室の上部から落ちるときに水性液体相の蒸発及び乾燥が丁寧に起こるように、室へ供給される。生成物は出口から回収される。噴霧乾燥装置の例は、Anhydro Dryers[米国、マサチューセッツ州、Attroboro Fallsのアンヒドロ・コーポレーション(Anhydro Corp.)製]又はNiro Dryer[デンマーク、コペンハーゲンのナイロ・アトマイザー・リミテッド(Niro Atomizer Ltd.)製]である。
【0030】
より詳細に述べると、温度を約10℃乃至90℃に維持し、炭水化物物質の組み合わせを水に溶解して水性溶液を生成する。高揮発性物質の場合、溶液を、その物質のほぼ沸点又はそれより低く冷却する。活性化合物、例えば、揮発性又は芳香性の風味剤をその後溶液に添加し、溶液は好ましくは10℃乃至50℃に維持されている。その後、溶液を大気圧噴霧乾燥機中で噴霧乾燥するが、噴霧乾燥機中において入口温度は典型的には約140℃乃至210℃であり、そして出口温度は典型的には70℃乃至100℃である。得られる、水分に安定な生成物は、経時的に揮発成分の優れた保持力及び許容できない酸化をともなわない延長された保存寿命を有する。酸化防止剤は、最終生成物に添加されず、或いは最終生成物の一部を構成しない。
【0031】
本発明は以下の実施例によって明らかにされ、そして噴霧乾燥生成物の貯蔵特性は図1及び2によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、■25重量%のオレンジ風味剤[オランダのクエスト・インターナショナル(Quest International)によって市販されているQL 06830]及び75重量%の炭水化物マトリックス[50重量%のCapsul(登録商標)及び50重量%のマルトデキストリン(DE20)から成る]に基づく、従来技術による生成物、及び◆25重量%のオレンジ風味剤(QL 06830)及び75重量%の炭水化物マトリックス[50重量%のCapsul(登録商標)、23重量%のマルトデキストリン(DE20)、25重量%のスクロース及び2重量%のグリセロールから成る]に基づく、本発明による生成物、の促進貯蔵寿命試験を示す。 より詳細に述べると、X軸は週単位の時間を表し、そしてY軸は、40℃及び30%の相対湿度(RH)での促進貯蔵寿命試験中に、使用されたオレンジ風味剤のリモネン成分の酸化によって噴霧乾燥生成物から生成された、重量%単位のカルボンの量を表す。
【図2】図2は、■図1に示された従来技術による生成物、及び*25重量%のオレンジ風味剤(QL 06830)及び75重量%の炭水化物マトリックス[60重量%のアカシアガム、20重量%のマルトデキストリン(DE10)、及び20重量%のスクロースから成る]に基づく、本発明による生成物、の促進貯蔵寿命試験を示す。より詳細に述べると、X軸は週単位の時間を表し、そしてY軸は、40℃及び50%の相対湿度(RH)での促進貯蔵寿命試験中に、使用されたオレンジ風味剤のリモネン成分の酸化によって噴霧乾燥生成物から生成された、重量%単位のカルボンの量を表す。
【図3】図3は、■図1に示された従来技術による生成物、及び◆25重量%のオレンジ風味剤(QL 06830)及び75重量%の炭水化物マトリックス[50重量%のCapsul(登録商標)、30重量%のマルトデキストリン(DE20)、及び20重量%のグルコースから成る]に基づく、本発明による生成物、の促進貯蔵寿命試験を示す。 より詳細に述べると、X軸は月単位の相当周囲条件貯蔵寿命(equivalent ambient shelf−life)を表し、そしてY軸は、40℃及び30%の相対湿度(RH)での促進貯蔵寿命試験中に、使用されたオレンジ風味剤のリモネン成分の酸化によって噴霧乾燥生成物から生成された、重量%単位のカルボンの量を表す。
【図4】図4は、■図1に示された従来技術による生成物、及び◆25重量%のマンダリン風味剤(DF 39467)及び75重量%の炭水化物マトリックス[60重量%のアカシアガム、20重量%のマルトデキストリン(DE10)、9重量%のマンダリンジュース固体、及び11重量%のスクロースから成る(総糖含有率:19重量%)]に基づく、本発明による生成物、の促進貯蔵寿命試験を示す。 より詳細に述べると、X軸は月単位の相当周囲条件貯蔵寿命を表し、そしてY軸は、40℃及び50%の相対湿度(RH)での促進貯蔵寿命試験中に、使用されたマンダリン風味剤のテルペン化合物の酸化によって噴霧乾燥生成物から生成された、重量%単位のp−シメンの量を表す。
【実施例】
【0033】
実施例1 以下の2つの配合物を、80℃の600gの温水中において30分間撹拌しながら以下に示す成分を溶解又は分散させることによって製造した:(a)市販製品用に使用される炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)及び50重量%(250g)のマルトデキストリン(DE20)を含む500gの炭水化物マトリックス並びに(b)本発明による炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)、23重量%(115g)のマルトデキストリン(DE20)、25重量%(125g)のスクロース、及び2重量%(10g)のグリセロールから成る500gの炭水化物マトリックス。
その後、その混合物を20℃に冷却した。撹拌しながら、酸化防止剤防腐剤を含んでいないオレンジ風味剤(QL 06830)を全乾燥固体に基づいて25重量%の量(166g)、添加し、そして製造された供給原料を、ウルトラ・チューラックス(Ultra Turrax)T50を10,000rpmで約3分間使用して均質化した。均質化された供給原料を、20,000rpmで回転ホイール噴霧器を使用するナイロモービルマイナー噴霧乾燥機(NIRO MOBIL MINOR SPRAY DRYER)中で噴霧乾燥した。入口空気温度を190℃で維持し、これにより90℃の範囲の出口温度がもたらされた。
【0034】
図1から明らかなように、本発明による生成物は、従来技術の生成物と比較して、優れた安定性及び望ましい長い貯蔵寿命を有していた。より詳細に述べると、40℃及び30%のRHでの促進貯蔵寿命試験における8週間の貯蔵時間は、室温(20℃)及び30%のRHでの約1年間の貯蔵時間に相当する。
【0035】
実施例2 以下の2つの配合物を、60℃の600gの温水中において30分間撹拌しながら以下に示す成分を溶解又は分散させることによって製造した:(a)市販製品用に使用される炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)及び50重量%(250g)のマルトデキストリン(DE20)から成る500gの炭水化物マトリックス並びに(b)本発明による炭水化物マトリックスである、60重量%(190g)のアカシアガム、20重量%(63g)のマルトデキストリン(DE10)、及び20重量%(63g)のスクロースから成る316gの炭水化物マトリックス。
その後、混合物を20℃に冷却した。撹拌しながら、酸化防止剤防腐剤を含んでいないオレンジ風味剤(QL 06830)を全乾燥固体に基づいて25重量%の量[配合物(a)では166g、そして配合物(b)では105g]で添加し、そして製造された供給原料を、ウルトラ・チューラックス T50を10,000rpmで約3分間使用して均質化した。均質化された供給原料を、20,000rpmで回転ホイール噴霧器を使用するナイロモービルマイナー噴霧乾燥機中で噴霧乾燥した。入口空気温度を190℃で維持し、これにより90℃の範囲の出口温度がもたらされた。
【0036】
図2から明らかなように、本発明による生成物は、従来技術の生成物と比較して、優れた安定性及び望ましい長い貯蔵寿命を有していた。より詳細に述べると、40℃及び50%のRHでの促進貯蔵寿命試験における8週間の貯蔵時間は、室温(20℃)及び50%のRHでの約1年間の貯蔵時間に相当する。
【0037】
実施例3 以下の2つの配合物を、80℃の600gの温水中において30分間撹拌しながら以下に示す成分を溶解又は分散させることによって製造した:(a)市販製品用に使用される炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)及び50重量%(250g)のマルトデキストリン(DE20)を含む500gの炭水化物マトリックス並びに(b)本発明による炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)、30重量%(115g)のマルトデキストリン(DE20)、20重量%(100g)のグルコースから成る500gの炭水化物マトリックス。
その後、混合物を20℃に冷却した。撹拌しながら、酸化防止剤防腐剤を含んでいないオレンジ風味剤(QL 06830)を全乾燥固体に基づいて25重量%の量(166g)、添加し、そして製造された供給原料を、ウルトラ・チューラックス T50を10,000rpmで約3分間使用して均質化した。均質化された供給原料を、20,000rpmで回転ホイール噴霧器を使用するナイロモービルマイナー噴霧乾燥機中で噴霧乾燥した。入口空気温度を190℃で維持し、これにより90℃の範囲の出口温度がもたらされた。
【0038】
図3から明らかなように、本発明による生成物は、従来技術の生成物と比較して、優れた安定性及び望ましい長い貯蔵寿命を有していた。より詳細に述べると、40℃及び30%のRHでの促進貯蔵寿命試験における8週間の貯蔵時間は、室温(20℃)及び30%のRHでの約1年間の周囲条件貯蔵寿命(ambient shelf−life)に相当する。
【0039】
実施例4 以下の2つの配合物を、80℃の600gの温水中において30分間撹拌しながら以下に示す成分を溶解又は分散させることによって製造した:(a)市販製品用に使用される炭水化物マトリックスである、50重量%(250g)のCapsul(登録商標)及び50重量%(250g)のマルトデキストリン(DE20)を含む500gの炭水化物マトリックス並びに(b)本発明による炭水化物マトリックスである、60重量%(190g)のアカシアガム、20重量%(63g)のマルトデキストリン(DE10)、9重量%(28.5g)のマンダリンジュース固体[ジュース固体(D.S.)の90〜95%は、グルコース及びフルクトースから成る糖類混合物である]、及び11重量%(34.5g)のスクロースから成る316gの炭水化物マトリックス(スクロース、及び果汁濃縮物中に存在する糖類の合計に由来する得られる糖含有率は19重量%の糖類である)。
その後、混合物を20℃に冷却した。撹拌しながら、酸化防止剤防腐剤を含んでいないマンダリン風味剤(DF 39467)を全乾燥固体に基づいて25重量%の量(166g)、添加し、そして製造された供給原料を、ウルトラ・チューラックス T50を10,000rpmで約3分間使用して均質化した。均質化された供給原料を、20,000rpmで回転ホイール噴霧器を使用するナイロモービルマイナー噴霧乾燥機中で噴霧乾燥した。入口空気温度を190℃で維持し、これにより90℃の範囲の出口温度がもたらされた。
【0040】
図4から明らかなように、本発明による生成物は、従来技術の生成物と比較して、優れた安定性及び望ましい長い貯蔵寿命を有していた。より詳細に述べると、40℃及び30%のRHでの促進貯蔵寿命試験における8週間の貯蔵時間は、室温(20℃)及び30%のRHでの約1年間の周囲条件貯蔵寿命に相当する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物マトリックス中に包封された少なくとも1種の活性化合物を含む、水分及び酸素に対して安定な噴霧乾燥組成物であって、当該マトリックスが、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、40乃至80重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類、並びに10乃至30重量%のマルトデキストリンによって特徴付けられる、噴霧乾燥組成物。
【請求項2】
薄膜形成性炭水化物が、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、45乃至70重量%、好ましくは50乃至60重量%、の量で存在することを特徴とする、請求項1の噴霧乾燥組成物。
【請求項3】
薄膜形成性炭水化物が、アラビアガム、アカシアガム、親油的に改質された澱粉、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2の噴霧乾燥組成物。
【請求項4】
単糖類、二糖類及び三糖類が、炭水化物マトリックスの総重量に基づいて、15〜25重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項5】
単糖類、二糖類及び三糖類物質の少なくとも50重量%が二糖類であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項6】
二糖類がスクロースであることを特徴とする、請求項5の噴霧乾燥組成物。
【請求項7】
単糖類、二糖類及び三糖類物質の100重量%がスクロースであることを特徴とする、請求項5又は6の噴霧乾燥組成物。
【請求項8】
マルトデキストリンが、1乃至25、好ましくは10乃至20、の範囲内のデキストロースエクイバレント(DE)を有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項9】
炭水化物マトリックス中に包封される活性成分が、風味剤、芳香剤、医薬及び洗浄活性成分から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項10】
包封される活性化合物が、柑橘属油、例えば、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油、のような精油、ベーカリー風味剤、及びセイボリー風味剤から成る群から選択される少なくとも1つの風味剤であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項11】
包封される活性化合物が、組成物の総重量に基づいて、5乃至40重量%、好ましくは20乃至30重量%、の量で存在することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物。
【請求項12】
(a)40乃至80重量%の高分子量薄膜形成性炭水化物(1種以上)、10乃至30重量%の単糖類、二糖類及び三糖類(1種以上)、及び10乃至30重量%のマルトデキストリン(1種以上)から成る炭水化物混合物を含む水性炭水化物溶液を生成する工程、(b)少なくとも1つの活性化合物を工程(a)の溶液に組み入れる工程、及び(c)100℃以下の出口空気温度を使用して工程(b)の水性溶液を噴霧乾燥して、内部に活性化合物が包封された安定な生成物を得る工程、を含む、水分及び酸素に対して安定な組成物を製造する方法。
【請求項13】
活性化合物が、風味剤、芳香剤、医薬及び洗浄活性成分から成る群から選択されることを特徴とする、請求項12の方法。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか1請求項の噴霧乾燥組成物又は請求項12又は13の方法によって製造された噴霧乾燥組成物を含む生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−255153(P2012−255153A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134947(P2012−134947)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2001−537570(P2001−537570)の分割
【原出願日】平成12年11月17日(2000.11.17)
【出願人】(391020296)ジボダン・ネーデルランド・サービシーズ・ビー・ブイ (7)
【Fターム(参考)】